厚生労働科学研究費補助金(食品の安全性高度化推進研究事業)
分担研究報告書


(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
(2−1) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査

分担研究者 天倉吉章 国立医薬品食品衛生研究所

研究要旨
 魚介類,畜肉及びそれらの加工品等112試料について,PCDDs7種,PCDFs10種及びCo-PCBs12種の計29種のダイオキシン類濃度を調査した.また,魚介類15試料について,筋肉,内臓または皮の部位別分析を行った.
 その結果,鮮魚(52試料)から,平均1.129pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.今回調査した試料の中で比較的濃度が高かった魚種は,あなご,さば,さめ,すずき,たちうお,はまち,ぶり,めかじきであり,比較的濃度が低かったのは,あゆ,いさき,むきがれい,メルルーサであった.塩干物(14試料)からは平均0.697pgTEQ/g,魚介類缶詰(6試料)からは平均0.524pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.生鮮魚から検出されたダイオキシン類の51.8〜88.2%(平均71.2%),塩干物及び缶詰から検出されたダイオキシン類51.0〜95.7%(平均73.3%)はCo-PCBsであった.
 畜肉,その加工品及び鶏卵(16試料)では,ダイオキシン類は魚介類に比べて低く,0.100pgTEQ/g以上検出された試料はなかった.小松菜,春菊,カステラ及びラード(9試料)も0.100pgTEQ/g以下であった.バターと牛脂からは,0.164〜0.963pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.ペットボトル入り緑茶(3試料)からは検出されなかった.
 魚介類の部位によるダイオキシン類濃度の差を調査した結果,湿重量あたりのダイオキシン類濃度は,筋肉部に比べ内臓及び皮で高かったが,脂質重量あたりの濃度で比較すると,濃度差は3倍以下であった.

研究協力者
(財)日本食品分析センター
 丹野憲二,野村孝一,柳 俊彦,河野洋一
国立医薬品食品衛生研究所
 佐々木久美子,堤 智昭

A. 研究目的
 ヒトは主に食品を介してダイオキシン類に暴露されている.本研究では食品のダイオキシン類汚染実態を把握し,個人別暴露量を正確に評価するために,特にダイオキシン類濃度が高い魚介類を中心に,畜肉,卵,野菜及びそれらの加工品について,ダイオキシン類含有量を調査した.
 また,魚介類からのダイオキシン類摂取を低減するための情報を得るために,魚介類の部位別分析を行った.

B. 研究方法
1. 試料
 実態調査対象の個別食品は,国内産食品(92試料)及び輸入食品(20試料)を,東京,千葉,大阪及び北海道で平成16年度に購入した.
 部位別分析を行った魚介類(15試料)は東京で購入し,「筋肉部−内臓」,「筋肉部−皮」を採取して使用した.スルメイカ以外は複数の個体からサンプリングしたものを混合して1試料とした.

2. 試験項目及び検出限界
 WHOが毒性等価係数(TEF)を定めた下記のPCDDs7種,PCDFs10種及びCo-PCBs12種の計29種を分析対象とした.
 ( )内の数字は検出限界(pg/g)を示す.

PCDDs
2,3,7,8-TCDD,1,2,3,7,8-PeCDD(0.01)
1,2,3,4,7,8-HxCDD,1,2,3,6,7,8-HxCDD,1,2,3,7,8,9-HxCDD,1,2,3,4,6,7,8-HpCDD(0.02)
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDD(0.05)
PCDFs
2,3,7,8-TCDF,1,2,3,7,8-PeCDF,2,3,4,7,8-PeCDF(0.01)
1,2,3,4,7,8-HxCDF,1,2,3,6,7,8-HxCDF,1,2,3,7,8,9-HxCDF,2,3,4,6,7,8-HxCDF,1,2,3,4,6,7,8-HpCDF,1,2,3,4,7,8,9-HpCDF(0.02)
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDF(0.05)
Co-PCBs
3,3',4,4'-TCB(#77),3,4,4',5-TCB(#81),3,3',4,4',5-PeCB(#126),3,3',4,4',5,5'-HxCB(#169)(0.1)
2,3,3',4,4'-PeCB(#105),2,3,4,4',5-PeCB(#114),2,3',4,4',5-PeCB(#118),2',3,4,4',5-PeCB(#123),2,3,3',4,4',5-HxCB(#156),2,3,3',4,4',5'-HxCB(#157),2,3',4,4',5,5'-HxCB(#167),2,3,3',4,4',5,5'-HpCB(#189)(1)

3. 試験方法
 ダイオキシン類は「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(厚生労働省,平成11年10月)に従って分析した.
 脂肪含量は下記の方法で測定した:試料を無水硫酸ナトリウムと混ぜ,ジエチルエーテル/n-ヘキサン(1:2)で3回抽出し,抽出液を水で2回洗った後,無水硫酸ナトリウムで脱水し,溶媒を除去して得た残留物を脂質とした.または,試料に珪藻土を加え,乾燥後,乳鉢ですりつぶし,ジエチルエーテルでソックスレー抽出を16時間以上行い,溶媒を除去して得た残留物を脂質とした.

4. 分析結果の表記
 測定結果は湿重量あたりの毒性等量(pgTEQ/g)で示した.検出限界以下の異性体濃度はゼロとして計算した.部位別分析を行った試料については脂肪重量あたりの毒性等量も併記した.

C. 研究結果及び考察
 各食品の調査結果を表1に示した.
1. 魚介類の調査結果
 生鮮魚類(あなご〜メルルーサ)52試料のダイオキシン類濃度は平均1.129pgTEQ/gであった.
 1魚種につき2または4試料を分析したが,何れの試料においても比較的濃度が高かったのは,あなご,さば,さめ,すずき,たちうお,はまち,ぶり,めかじきの8魚種(16試料)であり,それらの平均値は2.704pgTEQ/gであった.一方濃度が低かったのは,あゆ,いさき,むきがれい,メルルーサの4魚種(8試料)で,それらの平均値は,0.107pgTEQ/gであった.
 国産品と輸入品を比較すると,うなぎ(愛知県,浜名湖/台湾)では差がなかったが,かに(北海道/アラスカ,ロシア)とえび(北海道,熊本/インドネシア,ミャンマー)では,国産品は輸入品の10倍以上ダイオキシン類濃度が高かった.
 塩干物(あじ開き〜ほっけ開き:14試料)のダイオキシン類濃度の平均値は0.697pgTEQ/gであった.厚生労働科学研究「ダイオキシンの汚染実態の把握及び摂取低減化に関する研究」1)によると,平成13,14,15年度の調査(それぞれ12,16,15試料)の平均値は,それぞれ1.502,0.910,0.872pgTEQ/gであった.13年度は塩さけの1試料が6.09pgTEQ/gの高濃度であったため平均値が高かったが,それを除くと各年度の平均値に大きな差は認められなかった.
 缶詰6試料のダイオキシン類平均値は0.524pgTEQ/gであった.
 生鮮魚から検出されたダイオキシン類の51.8〜88.2%(平均71.2%),塩干物及び缶詰から検出されたダイオキシン類の51.0〜95.7%(平均73.3%)はCo-PCBsであったが,えびでは,4試料中3試料でCo-PCBsの比率がPCDD/Fsより低かった.日本では食品に対してダイオキシン類の基準は設定されていないが,EUではPCDD/Fsに4pgTEQ/gの基準を設けている.魚介類から検出されたダイオキシン類は主にCo-PCBsであり,PCDD/Fsは最高でも1.476pgTEQ/gであったため,EUの基準を超えたものはなかった.

2. 畜肉,卵及び畜肉加工品の調査結果
 牛肉,鶏肉,豚肉,マトン及びラム(以上何れも輸入品),サラミ,ベーコン及び鶏卵(以上何れも国産品)各2試料を調査したが,ダイオキシン類濃度は魚介類に比べて低く,0.100pgTEQ/g以上検出された試料はなかった.

3. その他の食品の調査結果
 カステラ3試料から0.003〜0.014pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.
 バター,牛脂,ラード(何れも国産品)各2試料を調査した結果,ラードは低濃度であったが,バターと牛脂からは,0.164〜0.963pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.
 小松菜,春菊各2試料を調査した中で濃度が最も高かったのは,春菊の0.083pgTEQ/gであり,そのうちの0.082pgTEQ/gはPCDD/Fsであった.他の3試料もCo-PCBsは0.001pgTEQ/g未満であったが,PCDD/Fsが0.001〜0.015pgTEQ/g検出され,Co-PCBsよりPCDD/Fsの比率が高かった.
 昨年度調査した茶葉からは,0.053〜0.104pgTEQ/gのダイオキシン類が検出されたが1),ペットボトル入りの緑茶からダイオキシン類は検出されなかった.

4. 魚介類におけるダイオキシン類の部位別濃度
 魚介類はその種類と食習慣によっては,筋肉部だけではなく,皮,内臓まで食する.そこで,魚介類の部位によるダイオキシン類濃度の差を調査し,結果を図1に示した.
 あんこう,こい,いわし,さんま,ホタルイカ及びスルメイカの筋肉部と内臓のダイオキシン類濃度は,湿重量あたりの濃度で比較すると,あんこうでは約330倍,スルメイカでは50〜65倍,内臓の濃度が高かったが,さんま,ホタルイカ及び煮干しではその差は1〜2倍であった.また,さけ,かれい,たら及びぶりの筋肉部と皮とを比較すると,1.5〜5倍皮の濃度が高かった.一方,脂質重量あたりの濃度で比較すると,あんこう及びスルメイカの筋肉部と内臓の濃度差は最大でも3倍に過ぎず,こい,いわし,ホタルイカ,煮干しなど他の魚においても筋肉部と内臓または皮との濃度比は何れも2倍以下であった.これらの結果から,ダイオキシン類は魚体内の脂質中にほぼ均一な濃度で存在しおり,部位による濃度の差は脂質含量に起因していると考えられる.従って,ダイオキシン類の摂取量を減らすためには,魚介類の内臓を多食しないこと及び加熱調理によって可食部の脂質を減らすことが有効と考えられる.

D. 結論
 魚介類,畜肉,それらの加工品,野菜等の各種食品112試料について,ダイオキシン類濃度を調査した結果,最も濃度が高かったのは生鮮魚類(52試料:平均1.129pgTEQ/g)であり,次いで,塩干物(14試料:平均0.697pgTEQ/g),魚介類缶詰(6試料:平均0.524pgTEQ/g)であった.
 畜肉,その加工品及び鶏卵(16試料)には,ダイオキシン類が0.100pgTEQ/g以上検出された試料はなかった.小松菜,春菊,カステラ及びラード(9試料)も0.100pgTEQ/g以下であった.バターと牛脂からは,0.164〜0.963pgTEQ/gのダイオキシン類が検出された.ペットボトル入り緑茶からは検出されなかった.
 魚介類の部位別分析では,湿重量あたりのダイオキシン類濃度は,筋肉部に比べ内臓,皮で高かったが,脂質重量あたりの濃度で比較すると,最大でもその差は約3倍であった.

【参考文献】
1)  厚生労働科学研究「ダイオキシンの汚染実態の把握及び摂取低減化に関する研究」平成13年度研究報告書,14年度研究報告書及び15年度研究報告書

E. 研究業績
1. 論文発表
 なし

2. 学会発表
 なし


表1  平成16年度 食品中のダイオキシン類の濃度(pgTEQ/g)

食品 産地 ダイオキシン類 (pgTEQ/g)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
魚介類
(鮮魚)
あなご 国産 0.576 1.601 2.177
あなご 国産 0.536 1.274 1.810
あゆ 国産 0.027 0.093 0.120
あゆ 国産 0.036 0.120 0.156
いさき 国産 0.011 0.029 0.040
いさき 国産 0.049 0.098 0.146
うなぎ 国産 0.255 0.383 0.638
うなぎ 国産 0.134 0.167 0.301
うなぎ 輸入 0.235 0.388 0.623
うなぎ 輸入 0.137 0.296 0.433
かつお 国産 0.128 0.569 0.696
かつお 国産 0.044 0.179 0.223
きびなご 国産 0.125 0.263 0.388
きびなご 国産 0.134 0.270 0.403
ぎんだら 国産 0.093 0.346 0.439
ぎんだら 国産 0.344 0.691 1.035
さば 国産 0.588 1.027 1.615
さば 国産 0.522 2.174 2.696
さめ 国産 0.406 0.928 1.333
さめ 国産 0.704 1.490 2.194
さんま 国産 0.049 0.205 0.254
さんま 国産 0.076 0.241 0.317
さんま 国産 0.048 0.212 0.260
さんま 国産 0.064 0.224 0.287
すずき 国産 0.803 2.542 3.345
すずき 国産 1.476 2.759 4.235
すじこ(生) 国産 0.095 0.314 0.409
すじこ(生) 国産 0.038 0.125 0.163
たちうお 国産 1.104 4.059 5.163
たちうお 国産 0.942 1.796 2.738
にしん 国産 0.221 0.284 0.505
にしん 国産 0.343 0.460 0.804
はまち 国産 0.558 2.482 3.040
はまち 国産 0.457 1.654 2.111
ぶり 国産 0.484 1.552 2.036
ぶり 国産 0.795 2.174 2.969
ほっけ 国産 0.165 0.199 0.363
ほっけ 国産 0.119 0.257 0.376
まいわし 国産 0.183 0.351 0.534
まいわし 国産 0.274 0.293 0.566
まあじ 国産 0.173 0.230 0.403
まあじ 国産 0.093 0.168 0.261
まぐろ 国産 0.790 1.167 1.957
まぐろ 国産 0.075 0.223 0.298
むきがれい 国産 0.032 0.178 0.210
むきがれい 国産 0.002 0.015 0.017
メカジキ 国産 1.016 2.015 3.031
メカジキ 国産 0.413 2.366 2.778
めばる 国産 0.292 0.446 0.738
めばる 国産 0.188 0.738 0.926
メルルーサ 国産 0.010 0.051 0.061
メルルーサ 国産 0.032 0.077 0.108
かに 国産 0.104 0.188 0.292
かに 国産 0.324 0.490 0.814
かに 輸入 0.003 0.013 0.016
かに 輸入 0.003 0.003 0.006
えび 国産 0.125 0.208 0.333
えび 国産 0.181 0.067 0.248
えび 輸入 0.027 <0.001 0.027
えび 輸入 0.020 <0.001 0.020
魚介類
加工品
あじ開き 国産 0.085 0.132 0.217
あじ開き 国産 0.065 0.129 0.194
塩さけ 国産 0.078 0.191 0.268
塩さけ 国産 0.046 0.124 0.170
塩さけ 輸入加工品 0.144 0.288 0.432
塩さけ 輸入加工品 0.063 0.114 0.177
塩さば 国産 1.130 1.177 2.308
塩さば 国産 0.496 0.636 1.131
塩さば 輸入加工品 0.332 1.241 1.572
塩さば 輸入加工品 0.120 0.443 0.563
しらす干し 国産 0.044 0.088 0.131
しらす干し 国産 0.075 0.114 0.189
ほっけ開き 国産 0.426 0.964 1.390
ほっけ開き 国産 0.296 0.714 1.010
いわし味付缶詰 国産 0.014 0.105 0.119
いわし味付缶詰 国産 0.011 0.210 0.221
さば水煮缶詰 国産 0.317 1.100 1.417
さば水煮缶詰 国産 0.290 1.055 1.345
まぐろ缶詰 国産 0.001 0.022 0.023
まぐろ缶詰 国産 0.001 0.020 0.021
畜産食品 牛肉 輸入 0.007 0.002 0.009
牛肉 輸入 0.008 0.011 0.019
鶏肉 輸入 0.001 0.001 0.002
鶏肉 輸入 0.003 <0.001 0.003
豚肉 輸入 0.021 0.022 0.043
豚肉 輸入 <0.001 <0.001 0.001
羊肉(マトン) 輸入 <0.001 0.020 0.020
羊肉(マトン) 輸入 <0.001 <0.001 <0.001
子羊(ラム) 輸入 <0.001 0.001 0.001
子羊(ラム) 輸入 <0.001 <0.001 <0.001
サラミ 国産 0.031 0.004 0.035
サラミ 国産 0.020 0.018 0.038
ベーコン 国産 <0.001 0.006 0.006
ベーコン 国産 <0.001 0.007 0.007
鶏卵 国産 0.026 0.025 0.051
鶏卵 国産 0.013 0.025 0.038
菓子 カステラ 国産 <0.001 0.003 0.003
カステラ 国産 0.001 0.013 0.014
カステラ 国産 0.001 0.013 0.014
油脂 バター 国産 0.108 0.056 0.164
バター 国産 0.452 0.056 0.508
牛脂 国産 0.336 0.123 0.459
牛脂 国産 0.664 0.299 0.963
ラード 国産 0.009 <0.001 0.009
ラード 国産 0.009 <0.001 0.009
野菜 小松菜 国産 0.015 <0.001 0.015
小松菜 国産 0.002 <0.001 0.002
春菊 国産 0.001 <0.001 0.001
春菊 国産 0.082 <0.001 0.083
嗜好飲料 緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001
緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001
緑茶 国産 <0.001 <0.001 <0.001


図1.魚介類中のダイオキシン類の部位別分析結果

図1. 魚介類中のダイオキシン類の部位別分析結果
水色(筋肉部,身) :筋肉部,身 網掛け(内臓) :内臓 黒(皮) :皮



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(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
(2-2) 天然及び養殖マグロ中の部位別ダイオキシン類含有調査

分担研究者 天倉吉章 国立医薬品食品衛生研究所

研究要旨
 天然及び養殖のマグロ9試料について部位別のダイオキシン類含有量調査を行った。分析にはHRGC/HRMS法及びCALUXアッセイを用いた。その結果、ダイオキシン類濃度はHRGC/HRMS法では0.28〜24(平均6.0)pgTEQ/g、CALUXアッセイでは0.51〜11(平均4.1)pgCALUX-TEQ/gであり、両者による分析値にはr =0.944のよい相関性が認められ、CALUXアッセイがダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かった。
 各部位におけるダイオキシン類濃度には顕著な違いが見られ、中トロは、赤身より2.5倍高濃度、大トロは、赤身より5倍高濃度であったが、脂質重量ベースで含有量を表した場合は部位による濃度の差は非常に小さくなった。
 検出されたダイオキシン類の大半はCo-PCBsであり、PCDDs/Fsは少なかった。ダイオキシン類の同族体及び異性体組成にはマグロの部位による差はほとんど認められなかった。

協力研究者
豊田正武  実践女子大学生活科学部
中村昌文  株式会社日吉
田形 肇  (財)日本冷凍食品検査協会

A. 研究目的
 1999年から実施されている水産庁の調査1)によると、脂の多いマグロ類やブリなどの大型魚類や、東京湾、大阪湾などの大都市周辺で採れた魚介類のダイオキシン類濃度が高いことが報告されている。さらに、昨年度調査した寿司ネタコンポジット試料由来のダイオキシン類摂取量の推定の中でも日本のTDIである4pgTEQ/kgbw/dayを超えた寿司ネタ試料のほとんどは、マグロを含む寿司ネタコンポジット試料であった。2)
 そこで本研究では、天然及び養殖マグロについて部位別のダイオキシン類含有量の調査を、HRGC/HRMS法及びCALUXアッセイを用いた簡易法3)で検討した。

B. 研究方法
1. 試料
 2004年5〜10月に東京の卸売り市場で購入した、輪切りしたマグロ9試料を用いた。各マグロ試料は赤身、中トロ、大トロに分け、各試料毎にフードプロセッサーにかけて均一にしたものを個々の試料とし、分析に供するまで−80℃で冷凍保管した。
 表1に今回使用したマグロの種類を示す。

2. 分析法
 HRGC/HRMS法及びCALUXアッセイは既報の方法に従った。

C. 研究結果及び考察
1. HRGC/HRMSによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度
 表2に27試料の湿重量当たりの総ダイオキシン類濃度(TEQ換算)を示した。その範囲と平均は0.28〜24pgTEQ/g及び6.0pgTEQ/gであった。総ダイオキシン類中のPCDDs/FsとCo-PCBsの濃度範囲と平均値は、それぞれ0.03〜3.2pgTEQ/g(平均0.79pgTEQ/g)及び0.24〜21pgTEQ/g(平均5.2pgTEQ/g)であった。TEQにおける各異性体の占める割合では、Co-PCBs異性体である3,3’,4,4’,5-PeCB(#126)がもっとも多く、62.0〜74.7%(平均68.7%)と半分以上を占めた。

2. CALUXアッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度
 CALUXアッセイでは、分析値の変動係数(C.V.)がPCDDs/Fsでは、5.1〜38.9%(平均;16.0%)Co-PCBsでは、1.9〜32.9%(平均;17.6%)と若干ばらつきが認められるため、同一試料について3連で分析しその平均値を用いることとした。
 表2に示すように27試料の総ダイオキシン類濃度(CALUX-TEQ換算)の範囲と平均は0.51〜11pgCALUX-TEQ/g及び4.1pgCALUX-TEQ/gであった。総ダイオキシン類内のPCDDs/FsとCo-PCBsの濃度範囲と平均値は、それぞれ0.26〜7.0pgCALUX-TEQ/g(平均2.5pgCALUX-TEQ/g)及び0.21〜5.2pgCALUX-TEQ/g(平均1.5pgCALUX-TEQ/g)であった。

3. HRGC/HRMSとCALUXアッセイによるダイオキシン類濃度の相関
 マグロ27試料についてHRGC/HRMS法とCALUXアッセイとで求めたダイオキシン類濃度の相関係数はPCDDs/Fsについてはr=0.930、Co-PCBsについてはr =0.952であり、総ダイオキシンではr =0.944となった(図1)。このことからCALUX AssayとHRGC/HRMS法とは良い相関であることが分かり、CALUXアッセイは、マグロ試料のダイオキシン類濃度のスクリーニング法として有用であることが分かる。

4. 部位別のダイオキシン類濃度と含有量
 湿重量ベースでは、各部位における総ダイオキシン濃度には顕著な違いが見られ、9個体の平均値は、赤身 1.92pgTEQ/g、中トロ5.38pgTEQ/g、大トロ10.7pgTEQ/gとなり、大トロが最も高く、中トロ、赤身の順となった。中トロは、赤身より2.5倍高濃度、大トロは、赤身より5倍高濃度であった。脂質重量ベースでTEQ含有量を表した場合は部位による濃度の差は小さくなった(図2)。つまりは、部位によるダイオキシン類濃度の差は脂肪含量の差によるもので説明がつく。
 各部位ともCo-PCBs濃度が総TEQ濃度中で支配的であり、部位における組成の大きな違いは認められなかった。
 個体別に見ると、ミナミマグロよりクロマグロの方が高いダイオキシン類含有量を示した。
 天然物、蓄養物それぞれに関して個体によって違いが大きく見られるのは、様々な環境、得られる餌によるものだと思われる。

5. 部位別の同族体・異性体組成
 マグロ27試料について、部位ごとのHRGC/HRMSによる実測濃度ベースのPCDD/Fs同族体及びCo-PCBs異性体組成を図3に示した。それぞれの試料において各部位では類似した組成をしており、部位によるダイオキシン類組成の違いは認められなかった。
 各マグロ試料でのPCDDs/Fs組成については、試料間で差が認められ、産地、生育条件によって様々で局地的な影響により左右されていると思われる。一方、Co-PCBs異性体組成は、すべての試料・部位で総じて#105、#118が大きな割合を占めた。これらの組成は過去に使用されたPCB製品(KC-400及び500)の組成に類似しており、世界的な汚染の影響が及んでいると思われる。

参考文献
1. 水産庁平成11年度〜平成14年度魚介類中のダイオキシン類の実態調査について
「平成11年度〜平成14年度分総括報告」
2. Tagata, H., Kawakami, H., Nagasaki, T., Nakamura, M., Yabushita, H., Murata, H., Amakura, Y., Tsutsumi, T., Sasaki, K., Nishida, K., Toyoda, M., (2004) Organohalogen Compounds 66, 2586-2590
3. Tsutsumi, T., Amakura, Y., Nakamura, M., Brown, D.J., Clark, G.C., Sasaki, K., Toyoda, M., Maitani, T,(2003) Analyst,128, 486-492


表1  マグロ試料の内訳
  種類 生育条件 産地
No.1 ミナミマグロ 蓄養 オーストラリア
No.2 ミナミマグロ 蓄養 オーストラリア
No.3 ミナミマグロ 蓄養 オーストラリア
No.4 クロマグロ 天然 日本
No.5 クロマグロ 天然 日本(太平洋)
No.6 クロマグロ 天然 日本(日本海)
No.7 クロマグロ 蓄養 メキシコ
No.8 クロマグロ 蓄養 マルタ
No.9 クロマグロ 蓄養 トルコ


表2  HRGC/HRMS法及びCALUXアッセイによるマグロ試料中の部位別ダイオキシン類濃度の比較(湿重量ベース)

表2 HRGC/HRMS法及びCALUXアッセイによるマグロ試料中の部位別ダイオキシン類濃度の比較(湿重量ベース)


Total PCDDs/Fs
図1 HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の相関図

Total PCBs
図1 HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の相関図
Total DXNs
図1 HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の相関図

図1  HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の相関図


Dioxin(Total-DXNs) 湿重量ベース
図2 HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の比較


Dioxin(Total-DXNs) 脂質重量ベース
図2 HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の比較

図2  HRGC/HRMS及びCALUX アッセイによるマグロ試料中のダイオキシン類濃度の比較


ミナミマグロ(蓄養) PCDD/DFs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ


ミナミマグロ(蓄養) Co-PCBs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ


クロマグロ(天然) PCDD/Fs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ


クロマグロ(天然) Co-PCBs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ


クロマグロ(蓄養) PCDDs/Fs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ


クロマグロ(蓄養) Co-PCBs
図3 HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
青(赤身) 赤身
赤(中トロ) 中トロ
白(大トロ) 大トロ

図3  HRGC/HRMSによるマグロ試料/部位別の同族体組成の比較
 図の縦軸は組成(%)

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