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第10回 記述情報(ヒヤリ・ハット事例)の分析について

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第10回 記述情報(ヒヤリ・ハット事例)の分析について


「医療事故防止のためのヒヤリ・ハット事例等の事例の分析に関する研究」研究班

記述情報の収集の概要

1) 収集期間
平成15年11月26日より平成16年2月24日まで

2) 施設数(カッコ内は前回の実績)
参加登録施設  245施設 (250)
報告施設数 80施設 ( 69)

3) 収集件数

区分 件数(カッコ内は前回の実績)
総収集件数 1,891件 (1,644)
空白、重複件数 12件 ( 93)
有効件数 1,879件 (1,551)


分析の概要

1) 今年度の検討方法について
 記述情報事例の検討を始めて3年となり、今後はより専門的な視点から「ヒヤリ・ハット」を起こす状況を改善すべく方策を考えていくために、次のように方法を変更した。
(1) テーマ別の分析
 分析対象事例の選択および分析について、より専門的な視点から具体的な方策の提案を行うため、これまで報告された記述情報の傾向を加味して、「転倒、転落、抑制」「チューブ・カテーテル類」「注射/点滴、輸血」「内服薬/外用薬、麻薬」「検査」「器械操作」「食事・栄養」の7テーマに分け、1回につき1〜2テーマについて集中的に検討を進めていくこととした。分析にあたっては、既存のマニュアル・基準等を元に問題点を指摘し、改善の方策について具体的に示すこととした。
(2) 事例の選択方法
 従来の大きな枠組みに加え、毎回のテーマを設定し、分析すべき事例を絞り込み、分析対象事例候補として選定し、その中から分析対象事例を決定することとした。
 分析対象候補事例の選定にあたっては、医療安全の観点から様々な指針や手順等が出されているにもかかわらず、それらを実践しないままエラーを生じている事例については、これらの提案を実施することでエラーの防止が可能と考えられるために、基本的には除外することにした。
 また、極端に情報量が少ない事例についても的確な分析ができないことから、除外することとした。

2) 分析対象事例の選定の考え方
 事例の選定に当たっては、前述の選定方法の前提として、従来通り以下の基準も踏襲した。
(1)  ヒヤリ・ハット事例の具体的内容や発生した要因、改善策がすべて記載されており、事例の理解に必要な情報が含まれていること。  
(2)  次のいずれかに該当する事例であること。
 ・ 致死的な事故につながる可能性がある事例(重大性)
 ・ 種々の要因が重なり生じている事例(複雑性)
 ・ 専門家からのコメントとして有効な改善策・参考になる情報が提示できる事例(教訓性)
 ・ 他施設でも活用できる有効な改善策が提示されている事例(汎用性)
(3)  個人が特定しうるような事例は除く。

3) 分析の方法
 テーマ毎に分類した記述情報について、前回までの集計結果も参考にしながら、その傾向や要因について分析を行い、改善策について検討を行った。
また、前述の方法で選定した事例に、まず、タイトルやキーワードを付し、さらに、専門家からのコメントとして、事例内容の記入のしかたや記入の際に留意すべき点などを「記入方法に関するコメント」を付した上で、報告事例に対する有効かつ具体的な改善策の例や現場での取り組み事例、参考情報などを「改善策に関するコメント」として述べた。

4)  事例のタイトルおよびキーワードの設定
 これまでと同様、各事例にタイトル及びキーワードを付した。キーワードは以下のリストから選択した。

■発生場所
大項目 分類項目
外来部門 (1) 外来部門一般
入院部門 (2) 入院部門一般
(3) 救急部門
(4) 集中治療室
(5) 手術部門
(6) 放射線部門
(7) 臨床検査部門
(8) 薬剤部門
(9) 輸血部門
(10) 栄養部門
(11) 内視鏡部門
(12) 透析部門
事務部門 (13) 事務部門一般
その他 (14) その他
   ■手技・処置など
大項目 分類項目
日常生活
の援助
(1) 食事と栄養
(2) 排泄
(3) 清潔
(4) 移送・移動・体位変換
(5) 転倒・転落
(6) 感染防止
(7) 環境調整
医学的
処置・
管理
(8) 検査・採血
(9) 処方
(10) 調剤
(11) 与薬(内服・外用)
(12) 与薬(注射・点滴)
(13) 麻薬
(14) 輸血
(15) 処置
(16) 吸入・吸引
(17) 機器一般
(18) 人工呼吸器
(19) 酸素吸入
(20) 内視鏡
(21) チューブ・カテーテル類
(22) 救急処置
(23) リハビリテーション
情報と
組織
(24) 情報・記録
(25) 組織
その他 (26) その他

3 分析結果及び考察

収集された記述情報事例の概要

1) 全体の概要

 3ヶ月間の報告期間で収集された件数は1,891件で、有効な報告は1,879件である。
 前回に比べて報告件数は250件ほど増加している。
 報告事例の記述情報の内容は、充実した内容の事例が増加しており、ヒヤリ・ハット事例報告への組織的な定着・浸透が伺える。
 発生件数割合の高いカテゴリーは、以下のとおりである。与薬や転倒・転落、チューブ・カテーテル類に関する事例は依然として発生割合が高い。
 今回から新たにカテゴリー化した検査や食事に関連するヒヤリ・ハットは何れも1割ほどの率を占めており、今後対策の検討が必要な事例であることが推察される。

与薬(点滴・注射、輸血)に関する事例 415 (29.0%)
与薬(内服・外用、麻薬)に関する事例 215 (15.0%)
転倒・転落、抑制に関する事例 217 (15.2%)
チューブ・カテーテル類に関する事例 202 (14.1%)
検査に関する事例 147 (10.3%)
食事、栄養に関する事例 135 ( 9.4%)
器機および器機操作に関する事例 101 ( 7.1%)
(%)は、上記の表内での割合   
これらのうち、医薬品・医療用具・諸物品等情報として報告された記述情報は、41件であった。

 小児、産科病棟等からの報告も見られるようになり、成人、高齢者の事例のみでなく、新生児が対象となった予測が難しい事例報告も含まれている。

2) 今回のテーマに関する事例について
 今回の記述情報分析に取り上げたテーマは「注射/点滴・輸血」である。
 まず、「点滴/注射・輸血」を取り上げた理由は、本部会でも毎回報告しているにもかかわらず、事故に関する報道が後を絶たないこと、今回の報告件数でも約3割と多いこと、エラー発生が発生した場合、身体侵襲が大きく重大な結果を招く恐れがあること等からである。

 事例の選定にあたって、まず、報告された事例の記述情報の全体像を把握するために、「点滴/注射等の業務のプロセス」を“医師の指示から患者に施行及び施行後の観察”に至るまでの、段階を区分して、これに基づいて分析対象事例を分類・整理した。その中から、先の観点に沿って選定した事例の記述情報について、注射/点滴等の班メンバーが分担してコメントを作成し、班代表者会議で再検討の上修正を加えた。

 注射/点滴等に関する記述情報の全体像
 点滴等の静脈注射を中心とする注射行為は、内服と比較して、薬剤を急速に体内に投与するため、誤りが発生した場合、その影響が速やかかつ強く生じる性質がある。したがって、注射、特に点滴等の静脈注射における各種誤りを防止することは、医療安全上重要な課題となっている。
 他方、注射行為は、指示の発生から、実施及び実施後の観察までの間に多くの職種が関与する、複雑な業務プロセスとなっており、発生する誤りの種類も多様であり、どのような誤りの防止策が有効であるかは、特定するのが困難な状況である。

 そこで、今回の分析では、収集された記述情報を、まず“点滴/注射等の業務プロセス”の時間軸に沿って区分した。そのうえで人的要素の大きいいわゆるヒューマンエラーと機器・材料の問題、あるいは手順自体に内在する問題などに分類をして、その傾向を探った。ヒューマンエラーについては、エラーの連鎖のうち根本的なエラーを考察し、それをMistake, Lapse, Slipに分類した。
 Mistakeとは、知識や経験の不足のために意図自体が誤っている形の誤りをいう。例えば、「ある規格の薬剤の1mlに含まれる薬剤の量を誤解していた」というのは、この例になる。Lapseは、意図は正しいがその行為を行うにあたっての記憶の誤りによって生じる誤りである。例えば、「何かをすることを忘れた」、あるいは「Aをする予定であったがBだと思い込んでいた」などの状況が該当する。Slipは、意図も、そしてその行為にともなう記憶も正しいが、それでも見誤りやいつもの行動に引きずられて、意図とは異なる行動をするものをいう。
 以上のような、業務プロセスとヒューマンエラーの2つの視点で、整理した事例の一部が表1である。

 対象となる薬剤により、誤ったときの影響の強さが異なる。そのため、誤ったときに影響の強い薬剤をここでは要注意薬(英語ではHigh Alert Medicationsと表現するのが一般的)と呼ぶことにした。この分析班ではHigh Alert Medicationsとして、JCAHO(Joint Commissions on Accreditation of Healthcare Organization)がSentinel Event Alert No.11で挙げた、インシュリン、麻薬および鎮静剤、高濃度カリウム注射薬、静脈注射用抗凝固剤(ヘパリン)、0.9%を超える濃度の塩化ナトリウム溶液に、カテコールアミン類、静脈注射用抗不整脈薬、抗腫瘍薬を加えたものを、要注意薬と考えることとし、各事例が要注意薬によるものであるかについても、表に示した。

事例の具体的内容 事例が発生した
背景・要因
実施した、もしくは
考えられる改善策
イ:インスリン
ロ:類似薬剤
ハ:危機的
業務プロセス
(I〜V)
ミステイク Slip Lapse 高危険
注射薬サクシゾン100mg2本払い出したが、1本がデカドロンバイアルだったと病棟から連絡が入った。薬剤保管用のサクシゾンの引き出しを確認したところ、1本デカドロンバイアルが入っていた。 ・病棟から未使用で返却された際の入れ間違い。 ・調剤時のみでなく、薬剤を元に戻す際の薬剤の確認・薬剤を取り出すときは、棚や引き出しの薬剤名のみの確認ではなく、現物について確認していくことを徹底していく。 III      
子宮全摘術患者の硬膜外カテーテルに接続する硬膜外注射を医師が準備した。その作成された薬剤を見たら、本来0.5%のところ2%マーカインが準備されていた。医師へ報告し間違いに気付いた。医師は手術室薬剤棚の0.5%マーカインのところから取り出したとのことで、使用された薬剤を補充した際に、誤って0.5%の薬剤棚に2%が補充されていたことが判明する。 ・医師が薬剤棚から取り出した時の薬剤の確認不足(棚に入っているのが正しいという思いこみ)・薬剤補充の際、薬剤が誤って入れられた。 ・薬剤を取りだし使用するまでの薬剤確認3回の原則厳守・使用後薬剤の補充時、確実に所定場所にいれる。 III      
朝食前にインシュリンを注射しなくてはいけなかったが、忘れてしまい実施しなかった。 インシュリンは注射箋を記載しないで指示表を見て行うシステムであった。実施者のサインも記載していなかった。 実施者の責任を明確にするためにインシュリン注射実施表を作り実施後にサインをすることにした。 IV    
他病棟から転棟してきた糖尿病のインシュリン治療している患者にインシュリンの注射時間を聞くと食前にしていたからと言われたので転棟先の看護師に問い合わせた後に患者の元へ行くと既に食事を食べていたため食前の注射が出来なかった。 看護師の知識不足と判断不足 新採用者への教育(連絡・報告・相談体制の周知徹底) IV      
DOBをシリンジポンプで11:30から開始した。45分後カフカアラームが鳴り他の看護婦が訪室すると三活方向が閉塞になっていた。 ・スワンガンツカテーテルを入れ替えた後、レントゲンの確認をするまでDOBをセットした状態でおいていた。その後指示が出てDOBを開始した時三活までの確認が不十分であった。 ・点滴開始時はラインを手元まで確認する・開始後10分以内に訪室し確認する IV    
AVRの術後、S−Gカテーテルからイノバン、ドブトレックス、ミリスロールが投与されていた。KCL補正の指示を受け、S−G、白ラインから投与を開始した。その時、白ラインであること、フィルターより患者側であることは確認したが、カテコラミンより患者側であることを確認しなかった。また自分がカテコラミンより後ろ側のコネクタ‐に接続したことにきづかなかった。勤務交代時、他の看護師に申し送る際に接続場所が誤っていることの指摘を受ける。KCL投与の際、流量のダブルチェックはしたが、ラインへの接続は一人で行い、その場を離れていた。 「正しい投与経路」の確認ができていなかった。 カテコラミンが投与されているラインの側管から点滴を追加する時は、カテコラミンヘの影響を考え、点滴ルートを確認する。接続を終了して点滴を開始する際に流量、投与経路に誤りはないか再度確認する。 IV    
DOBを更新後患者からトイレに行きたいので酸素ボンベの酸素の補充を依頼され、酸素を入れることに気をとられシリンジポンプの開始電源のスイッチを入れ忘れた。すぐに患者自身からナースコールがあり発見される。患者には異常はなかった。 指差し確認のルールが守られていなかった 点滴更新時、後の確認手順を徹底する。重要な薬剤注入時はすぐにその場を離れない V    
洗面台を使用中、「点滴がはずれた」とナースコールあり。訪室すると末梢静脈ラインをぴっぱり三方活栓の接続部がはずれて逆血していた。ミリスロール、ヘパリン点滴中の不安定狭心症の患者であった。 ・三方活栓の接続、使用に問題があった(使用しない三活がついたままであった)・患者の行動にあった環境が整えられていなかった(洗面台の位置などを考慮した部屋の配置、ルート管理) ・不要な三方活栓は除去する・動きやすいベッド配置・活動による三活のゆるみなど考えた予防策(テープや輪ゴムの使用) V      

3) 分析結果
 この結果、注射・点滴に関する記述情報に関しては、業務プロセスの各段階で以下のような主要な傾向を示ししていた。これに対策を加えて解説する。

業務プロセス I (医師の指示)
 このプロセスでは、Mistakeが多く、医師の指示の出し方が適切でない事例が見られた。また、指示の出し方や指示の受け方、また、その指示を解釈するにあたって必要な、略語や用語の使い方など医療機関としての「業務ルール」が不明確であった。そのため、インシュリンの過剰与薬など重大なエラーが生じている。
 従って、医師の指示の出し方や、これを的確に受けられるように業務のルールを定めること、これについて医療従事者への十分な教育をおこなうこと、医薬品や疾病とその治療に関する知識水準の向上を図ることが重要だと考えられる。

Mistake 医薬品の規格の理解不足、手順の教育、理解の不足、指示の内容の誤解
規格の誤解、指示の不伝達
Slip 指示の読み違い

業務プロセス II (指示受けから指示の引継ぎ)
 このプロセスでは、Lapseが多くみられた。Lapseを防止するためには、記憶に依存せず記録に基づく行為をするように職員を教育し、業務手順を設計する必要がある。つまり、口頭による指示はできるだけ避けることし、文書による指示を受ける場合でも、注射の指示書(もしくは指示の電子情報)を確認しながら指示を受けること、またこれを次に引き継ぐ場合でも、必ず指示書や電子情報を一緒に引き継ぐシステムを構築し、これを徹底するように教育・訓練する必要がある。

Lapse: 記憶に頼って行った行為が、実際の指示と異なっていた。

業務プロセス III (注射の準備:薬品の混合やセットアップなど)
 このプロセスでは、Slipが多くみられる。したがって、このプロセスでは各種の類似物を取り違えないように、作業環境を整え指示書なども間違いなく正しい情報が伝わるような工夫が必要である。Slip自体は、本人が発生を予防しようと心がけても有効に防止することは困難であるため、行為を行った後「振り返り」(行った結果が、自分の意図したものであったかどうかを振り返る)が有効である。その際に確実な振り返りが可能なように、業務のプロセスが終了するまで、空アンプルを捨てないなど、自分の行為の結果が確認できるよう、業務プロセスを設計する必要がある。特にリスクが高い(発生頻度が高いと予想されるかあるいは影響が大きいと考えられる場合)は、クロスチェックの活用を考慮する。
 また、薬剤を混合してしまった場合、エラーの発見は難しいことや危険な薬剤に関しては(化学療法や抗不整脈剤など)業務プロセスの、この段階まで薬剤師が関与することが望ましい。全ての薬剤について準備段階まで薬剤師の関与があれば、薬剤事故の多くを防止できる可能性がある。slip事故は多重の課題を時間切迫の中で行う場合に生じ易く、薬剤に関する重大な事故が発生している状況を考えると、これについて専門的な知識を持った薬剤師が集中して、この業務を行うようなシステムにすることで、slip事故の多くを防止可能と考えられる。
 このプロセスでは、指示書を参照しながら準備を進めることが業務プロセス上必要不可欠なため、Lapseの頻度は高くない。

Slip 取り違え(類似名称医薬品、類似薬効医薬品、類似外観医薬品)
ツインバックを確実に開通していなかった。
Lapse 一部医薬品を未混合のまま投与

業務プロセス IV (実施 施注)
 このプロセスでは、Lapseが中心となる。実施にあたって、指示書を参照する業務設計をしていない医療機関では、実施は記憶に依存して行われることになり、このためLapseが生じることになる。したがって、実施にあたっても記憶に依存するのではなく、指示書と照らして正しいことを確かめつつ実施する様、各医療機関が組織として決定し、そのような業務プロセスを設計する必要がある。紙媒体の場合、指示票を最終段階まで持参することや、電子媒体の場合にも、ベッドサイドで確認できることが必須である。
 また、頻繁に生じる三方活栓の開放忘れ、クレンメの開放忘れに関しては、要注意薬品の場合は、特にチェックリストを活用して確実にチェックする習慣を身につけるなどして、Lapseの発生頻度を下げるようにする。また、これらの行為が習慣化するよう教育・訓練が必要である。
 今回の記述情報としては見られていないが、この段階における、重大な事故はslipによるものがあり、内服薬の血管内への誤注入事故などが過去に発生している。与薬の業務プロセスの最終段階でのslipは重大な結果を招く恐れがあるため、患者の電子認証システムや機器の機能として誤りを検出できる機能のついているものの導入など、ITを活用した安全対策が必要である。

Lapse  検査忘れ、投与忘れ、三方活栓開放忘れ、クレンメ開放忘れ、抗生剤のテスト忘れ、薬品名の誤記憶
Mistake  教育監督の不適切
Slip  投与速度の誤り、与薬ルートの誤り

業務プロセス V (実施後の観察および管理)
 このプロセスでは、種々の誤りが生じるが、特に患者の状態評価、提供されている医療サービスについての考察が不足したために観察計画が不十分となり、その結果問題が生じる事例がある。注射/点滴等の実施によって、患者の状態にどのような変化や反応が生じる可能性があるか、また、その場合どのような対処を行うべきか等、、患者の状態の評価や介入計画を標準化(標準治療計画やクリニカルパスなど)し、それに基づき適切な観察計画を誰もが実施できるようになることが望ましい。

Mistake  観察計画(患者の状態評価、提供されている医療サービスに基づく)が不適切
Lapse  観察の失念、輸液ポンプ電源投入忘れ

4) まとめ
 注射/点滴等に関する、業務プロセスの全体わたって、看護師間のダブルチェックなどの確認体制は確立されているものの要注意薬品(High Alert Medications)を扱っているにもかかわらず、これに関する情報の欠如や重要性の認識がなく、各段階でMistake Lapse Slipなど、各種のヒューマンエラーが生じている。
 このようなエラーが生じる背景として、重要な薬品についての取り扱いや職種間の業務分担、業務のプロセスの標準化など組織的な取り組みの遅れがあるのではないかと推察される。そのために、これらの注射薬を取り扱う職員への教育や安全に施行するための専門職員(がん化学療法認定看護師や薬剤師)の配置をするなどの環境整備も検討される必要がある。
 特に薬剤に関する重大事故が後を絶たない現状では、医師、看護師とともに薬剤師がさらに積極的に注射薬施用に関与し、薬剤師による注射薬調製を含めた異職種間での協力体制を構築することが必要ではないかと考えられる。
 また「注射/点滴・輸血」に関する記述情報分析について、今回の業務プロセスに沿った分析と同時に環境要因などの分析も必要との指摘があった。医療職以外のヒューマンファクター分析の専門家である検討班メンバーからは、現在の記述情報の報告範囲では、情報内容が限られており、医療事故対策を考える上で重要な課題である組織要因などを検討するために、情報の収集に関しても今後検討が必要との指摘があった。



記述情報検討班 名簿

(五十音順・敬称略)

秋山 剛 NTT東日本関東病院医療安全管理室

伊藤 恵子 名古屋大学医学部附属病院リスクマネージャー

稲村 美代子 独立行政法人 国立病院機構 関門医療センター 医療安全管理者

井上 彰啓 大津市民病院医療安全推進室 参事

内田 宏美 鳥取大学医学部保健学科 教授

梅沢 昭子 東北大学医学部附属病院医療安全管理室

大井 利夫 上都賀厚生連上都賀総合病院 名誉院長

兼児 敏浩 三重大学医学部附属病院医療安全管理室

釜 英介 東京都立松沢病院 リスクマネージャー

河野 龍太郎 東京電力株式会社 技術開発本部
 技術開発研究所ヒューマンファクターグループ 主席研究員

川村 博文 広島県立保健福祉大学

北沢 直美 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士後期課程

木村 眞子 札幌社会保険病院 看護科長

黒山 政一 北里大学東病院 薬剤部

桑原 安江 京都大学医学部附属病院副看護部長総括リスクマネージャー

小沼 利光 済生会向島病院 臨床検査科長

小橋 元 北海道大学医学部予防医学老年保健医学分野

坂口 美佐 九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻専門職大学院

坂田 修一 NTT東日本関東病院 薬剤部主任

佐々木 久美子 日本看護協会会員サービス部医療・看護安全対策室長

佐相 邦英 財団法人電力中央研究所社会経済研究所
 ヒューマンファクター研究センター

佐藤 景ニ 静岡市立静岡病院臨床工学科 技師長

佐藤 ミヨ子 東京大学医学部附属病院 栄養管理室長

重森 雅嘉 財団法人鉄道総合技術研究所人間科学研究部

嶋森 好子 京都大学医学部附属病院 看護部長・院長補佐

清水 秀行 帝京大学医学部附属市原病院 薬剤部

鈴木 正彦 山梨大学医学部附属病院 薬剤部

力石 陽子 日本赤十字社事業局看護部 看護教育課

長瀬 啓介 京都大学医学部

西海 真理 国立成育医療センター看護部 臨床教員(小児専門看護師)

新田 章子 順天堂東京江東高齢者医療センター

畠中 泰司 横浜市立大学医学部附属病院リハビリテーション課 課長補佐

番場 和夫 水戸済生会総合病院 薬剤部

古田 典子 聖母病助産師

増田 一孝 滋賀医科大学医学部附属病院 放射線部技師長

宮本 敦史 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座

杢代 馨香 元武蔵野赤十字病院看護師

柳川 達生 練馬総合病院 副院長

山内 豊明 名古屋大学医学部 保健学科教授

由井 尚美 全国社会保険協会連合会 看護部部長

綿引 哲夫 横浜市民病院MEセンター

 
【川村班】事例の整理ととりまとめ

川村 佐和子 東京都立保健科学大学 看護学科教授

酒井 美絵子 東京都立保健科学大学 看護学科助教授

横井 郁子 東京都立保健科学大学 看護学科助教授

 
 主任研究者 全体討議に参加
 班代表者 同上
 班副代表者 同上


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