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予防接種ガイドライン

予防接種ガイドライン等検討委員会
財団法人 予防接種リサーチセンター
(1994年9月 作製)
(1996年 改編)
(1998年 改編)
(2003年11月 改訂版)
(2005年 改編)

 目次

第1 予防接種の意義

第2 法律による予防接種
  1 定期接種(一類)
  2 定期接種(二類)
  3 臨時接種
  4 結核予防法

第3 任意の予防接種

第4 予防接種の実施
  1 総論
  2 予診について
  3 予診票の各項目の目的
  4 一般的注意
  5 予診票の紙色について

第5 ワクチンの特徴及び接種上の注意点
  1 ジフテリア・百日せき・破傷風混合(DPT)ワクチン
  2 ジフテリア・破傷風混合(DT)トキソイド
  3 ジフテリアトキソイド
  4 破傷風トキソイド
  5 ポリオワクチン
  6 麻しんワクチン
  7 風しんワクチン
  8 日本脳炎ワクチン
  9 BCG
  10 インフルエンザワクチン
  11 おたふくかぜワクチン
  12 HBワクチン
  13 水痘ワクチン
  14 肺炎球菌ワクチン
  15 A型肝炎ワクチン
  16 狂犬病ワクチン

第6 予防接種の接種間隔
  1 違う種類のワクチンを接種する場合の間隔
  2 疾病罹患後の間隔

第7 予防接種不適当者及び予防接種要注意者
  1 接種を受けることが適当でない者(接種不適当者)
  2 接種の判断を行うに際し,注意を要する者(接種要注意者)

第8 副反応(健康被害)と対策
  1 予防接種後の反応
  2 副反応対策

参考1 疾病の概要と予防接種の効果
  1 ジフテリア
  2 百日せき
  3 破傷風
  4 ポリオ
  5 麻しん
  6 風しん
  7 日本脳炎
  8 結核
参考2 予防接種後副反応報告書・報告基準


第1 予防接種の意義



 予防接種はこれまで,天然痘の根絶をはじめ,ポリオの流行防止等,多くの疾病の流行の防止に大きな成果をあげ,感染症による患者の発生や死亡者の大幅な減少をもたらすなど我が国の感染症対策上極めて重要な役割を果たしてきた。
 感染症が著しくまん延し,大きな被害を与えていた時代が過ぎ去り,今日ではその流行が急速に減少し,予防接種によって獲得した免疫が感染症の流行を抑制していることが忘れられてしまいがちとなっている。
 しかし,予防接種により国民全体の免疫水準を維持するためには,予防接種の接種機会を安定的に確保するとともに,社会全体として一定の接種率を確保することが重要である。


第2 法律による予防接種



 予防接種法及び結核予防法による定期の予防接種は市町村長が行うこととされており,予防接種法に基づく一類疾病及び結核予防法に基づく結核の予防接種の対象者は予防接種を受けるよう努めなければならないこととされている。予防接種法に基づく二類疾病の予防接種の対象者については努力義務が課されていない。
 また,予防接種法に基づく臨時の予防接種は,都道府県知事が行い,又は市町村長に行うよう指示することができることとなっており,当該予防接種の対象者は予防接種を受けるよう努めなければならない。

1 定期の予防接種(一類疾病)

対象疾病
(ワクチン)
接種
対象者 標準的な接種期間1) 回数 間隔 接種 方法 備考
ジフテリア
百日せき
破傷風
沈降精製DPTチン2)
1期初回 生後3月から生後90月に至るまでの間にある者
 生後3月に達した時から生後12月に達するまでの期間 3回 3週間から8週間まで 各0.5ml 皮下3)
第1期で接種間隔があいた場合は,すべてのやり直しはせず規定の回数を接種する
1期追加 生後3月から生後90月に至るまでの間にある者(1期初回接種(3回)終了後,6月以上の間隔をおく)
 I期初回接種(3回)終了後12月に達した時から生後18月に達するまでの期間 1回   0.5ml
DTトキソイド
2期 11歳以上13歳未満の者
11歳に達した時から12歳に達するまでの期間 1回   0.1ml
ポリオ 生後3月から生後90月に至るまでの間にある者 生後3月に達した時から生後18月に達するまでの期間 2回 6週間
以上
各0.05ml 経口
下痢がある場合は延 期する
服用後30分以内に吐き出した場合は再 服用させる
通常,春と秋に実施 することが望ましい
麻しん 生後12月から生後90月に至るまでの間にある者 生後12月に達した時から生後15月に達するまでの期間 1回   0.5ml 皮下
麻しんの予防接種は、標準的な接種年齢のうち,できるだけ早期 に行うことが望ましい。
流行時には生後12カ月未満の者に対しても任 意接種として行うことができる。この場合定期接 種を標準的な接種年齢の間に行う4)ことが望まし い。
注5)
風しん 生後12月から生後90月に至るまでの間にある者 生後12月に達した時から生後36月に達するまでの期間 1回   0.5ml 皮下
風しんの予防接種は,麻しん接種の後に行 うことが望ましい。
注5)
日本脳炎
1期初回 生後6月から生後90月に至るまでの間にある者
3歳に達した時から4歳に達するまでの期間 2回 1〜4週 0.5ml
(3歳以
上)

0.25ml
(3歳未 満)
皮下
第1期で接種間隔があいた場合は,「第5ワクチンの特徴及び接種上の注意点」8 日本脳炎の(2)接種上の注意を 参照のこと。
1期追加生後6月から生後90月に至るまでの間にある者(1期初回終了後概ね1年おく)
4歳に達した時から5歳に達するまでの期間 1回  
2期 9歳以上13歳未満の者
9歳に達した時から10歳に達するまでの期間 1回
3期 14歳以上16歳未満の者
14歳に達した時から15歳に達するまでの期間 1回
 1) 標準的な接種期間とは,定期の予防接種実施要領(厚生労働省健康局長通知)の規定により,市町村に対する技術的助言として定められている。
 2) ジフテリア,百日せき,破傷風の予防接種の第1期は,原則として,沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチンを使用する。
 3) DPT混合ワクチンの接種部位は上腕伸側で,かつ同一接種部位に反復して接種することはできるだけ避け,左右の腕を交代で接種する(ワクチンはアルミニウム塩に吸着されているので注射局所のアルミニウム塩の吸収が遅く,硬結が1〜2月も残存することがある。)。
 4) 生後12カ月未満の者が任意接種を受けた場合,母親からの移行免疫の影響で予防接種による免疫が付与されない可能性を考えて定期接種を行う。
 5) 接種前3カ月以内に輸血またはガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は,本罪の効果が得られないおそれがあるので,3カ月以上過ぎるまで接種を延期すること。また,ガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は,本剤の効果等の治療において200mg/kg以上投与を受けた者は,6カ月以上(麻しん感染の危険性が低い場合は11カ月以上)過ぎるまで接種を延期すること。


2 定期の予防接種(二類疾病)

対象疾病(ワクチン) 接種

インフルエンザ
対象者 回数 接種量 方法
65歳以上の者
60歳以上65歳未満の者であって,心臓,じん臓又は呼 吸器の機能に自己の身辺の日常生活行動が極度に制限される程度の障害を有する者及びヒト免疫不全ウイル スにより免疫の機能に日常の生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者
毎年度1回 0.5ml 皮下


3 臨時の予防接種

 都道府県知事は,一類疾病及び二類疾病のうち痘そうのまん延予防上緊急の必要があると認めるときは,その対象者及びその期日又は期間を指定して,臨時に予防接種を行い,又は市町村に行うよう指示することができる。

4 結核予防法

種類 接種
BCG 定期 回数 接種量 方法
生後6月未満(地理的条件、交通事情、災害の発生その他特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては、1歳未満)1) 1回 規定のスポイトで滴下 経皮
 1) 接種部位は,上腕外側のほぼ中央部とし、肩峰に近い部位はケロイド発生率が高いので避けなければならない。


第3 任意の予防接種



 任意の予防接種は,被接種者及び医師の責任と判断によって行われるものであり,行政が勧奨するものではない。 以下は,ワクチンに関する一般的な情報提供である。

種類 接種
対象年齢 回数 間隔 接種量 方法 備考
インフルエンザ 2類の対象者を除く全年齢 1回又は2回 1〜4週
(3〜4週が望ましい)
1歳未満0.1ml
1〜5歳 0.2ml
6〜12歳0.3ml
13歳以上0.5ml
皮下  
おたふくかぜ 1歳以上の未罹患者 1回   0.5ml 皮下
副反応は少ないが,ときに接種 2〜3週間後に一過性の耳下腺腫脹や発熱が見られることもある。また,まれに髄膜炎の報告も ある。
注4)
水痘1) 1歳以上の未罹患者 1回   0.5ml 皮下
ときに水痘に罹患し軽く発疹が 出ることがある
注4)
B型肝炎 (1)HBe抗原陽性の母親から生まれたHBe抗原陰性の乳児 2)

(2)ハイリスク者
 医療従事者,腎透析を受けている者,海外長期滞在者など
3回

3回
通常生後
2,3,5カ月

1カ月間隔2回,その後5〜6カ月後に1回
各0.25ml


各0.5ml
(10歳未満の小児は0.25ml)
皮下

皮下
(1)では出生直後(できるだけ早く、遅くとも48時間以内)と生後2カ月にHB免疫グロブリンを通常 1ml筋注3)。ただし,Hbe抗原陰 性の母親から生まれた児の場合は2回目のHB免疫グロブリンを省略してもよい。
必要に応じて追加接種を行う。
肺炎球菌 (1)免疫正常者,高齢者,2歳以上の慢性心・肺・肝・腎疾患患者,糖尿病者
(2)2歳以上の免疫不全者
1回   各0.5ml 皮下
接種時期はいつでもよい。
脾臓摘出を受けた者は健康保険適応。
A型肝炎 16歳以上 初回
2回

追加
1回
2〜4週


初回接種後6カ月〜2年
各0.5ml 皮下
又は
筋肉
小児への適応はない。
狂犬病 全年齢 暴露
3回



暴露
6回
4週間間隔で2回
6〜12カ月後1回

1回目を0日として以降3,7,14,30,90日
各1.0ml




各1.0ml
皮下



皮下
小児も大人も同量接種
暴露後免疫を受け、6カ月以内 の再咬傷の場合はワクチン接種 は不要。6 カ月以上の場合は, 初めて咬まれた場合と同じ6回接種する。
 1) 接種対象は主として悪性腫瘍やネフローゼなどの免疫不全状態で,水痘が重症化するおそれのあるものが中心である。また,希望により健康児にも接種を行う。
 2) 母親がHBs抗原陽性の場合は,健康保険適応。
 3) 新生児に対する筋注の部位は,大腿前外側(上前腸骨棘と膝蓋骨を結ぶ線の中点付近で,これより内側<脛側>には片寄らない)に行う。(日本小児科学会誌 90:415,1986)。
 4) 接種前3カ月以内に輸血またはガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は、本罪の効果が得られないおそれがあるので、3カ月以上過ぎるまで接種を延期すること。また、ガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は、本剤の効果等の治療において200mg/kg以上投与を受けた者は、6カ月以上(麻しん感染の危険性が低い場合は11カ月以上)過ぎるまで接種を延期すること。


第4 予防接種の実施



1 総論
(1) 個別接種
 予防接種は原則として,個別接種により実施することとする。
 ポリオについては,地域内の接種がほぼ1月の期間内で完了すること。
 個別接種を実施する医師は,予防接種の対象者が他の患者から感染を受けないように十分配慮しなければならない。
(2) 集団接種
 やむを得ず集団接種で実施する場合には,個別接種の場合と同様に十分な予診を行えるよう,会場,担当医師数及び予診方法を設定する。また,接種を受ける対象者のプライバシーが守られるよう,カーテン,ついたて等で仕切りをするか個室を使用する。接種会場での執務者は医師2名(A,B),看護師、保健師等の補助者2名以上,事務従事者若干名で構成される。
 医師Aを中心とするチームは予診票の確認,診察を実施し接種の可否を判定する。医師Bを中心とするチームは保護者の意思を確認の上,接種する。
 この際,個々の予防接種が時間的余裕をもって行われるよう計画を作成すること。

2 予診について
 予防接種を希望する者がその効果及び副反応並びに必要性を理解しているか,予防接種不適当者又は予防接種要注意者に該当しないか,当日の体調がよいか等判断するためには予診票の活用が不可欠である。
 予診の際には,保護者又は本人が,あらかじめ配布した「予防接種と子どもの健康」や市町村が配布した予防接種の説明書を読んだか否か確認するとともに,予防接種後の通常起こり得る反応及びまれに生じる重い副反応並びに予防接種健康被害救済制度について十分に説明し,保護者又は本人が予防接種の効果及び副反応並びに必要性を理解し明示の同意があるかどうかを確認する。理解していない場合には,あらかじめ説明書を用意しておき接種施設で読んでもらい、又は医師が再度説明を行うなどし、予防接種について,保護者又は本人が理解したことを必ず確認すること。
 問診事項は安全に当該予防接種が接種可能であるかを判定する重要な資料である。保護者の協力を得て十分に把握する。右側の医師記入欄には追加問診によって知り得た必要事項を記載する。
 対象者の接種前診察(視診及び聴診)は全員に実施する。健康被害は大部分は不可避的に生ずるものであるため,これによってすべての健康被害の発生を予見できるものではないが,医師としては,予診を尽くし,最大限の努力をして,接種を受ける者の体調を確認することが求められる。
 保護者の理解,問診及び診察において,問題点があれば,安全のためその日は接種を中止し,最良と思われるタイミングを発見するよう,保護者と医師で話し合い,接種機会の確保が図られるよう努力することが必要である。保護者又は本人の予防接種実施に関する明示の同意が無ければ,接種を行うことはできないので注意すること。

3 予診票の各項目の目的
 予診票の各項目のチェック方法については以下のとおりであるが,詳細については,本ガイドラインの該当箇所を参照にされたい。
(1) 体温
 体温は医療機関(施設)に設置した体温計で測定し,37.5℃(腋窩温又はこれに相当するもの)以上を指す者は明らかな発熱者として接種を見合わせる。
(2) 説明書の事前確認
 保護者が当日受ける予防接種の効果及び副反応並びに必要性を理解しているかを確認するためのものである。「はい」の場合でも内容の理解ができているかを確認していただきたい。「いいえ」の場合には,接種施設内で読んでいただくこと。
(3) 発育歴
 未熟児としての出生,分娩異常による障害発生の可能性,その後の発育状態について健診での指摘があるかどうかを知るものである。紛れ込み事故を最小限にくいとめるためにも「あった」又は「ある」の場合には,その内容を聞き参考にする。
(4) 今日の体の具合
 どのように具合が悪いかを記入する。病気の種類により,医師の判断で接種を見合わせるか否かを判断する。
(5) 最近1カ月以内の病気
 小児期は麻しん,風しん,水痘,おたふくかぜ等の急性疾患にかかりやすく免疫学的に回復不十分であることも考えられる。罹患した疾病の種類によって,免疫能の低下や続発疾患の可能性が考えられる場合には治癒後2〜4週間を一応の目安として間隔をあける(第6 予防接種の接種間隔,2 疾病罹患後の間隔 を参照)。
(6) 家族や遊び仲間の病気
 身近な人から感染し潜伏期間にあるかどうかを調査し,ワクチンの副反応と誤らないようにするためのもので,疾病の種類によって接種時期を設定する。
(7) 1カ月以内の予防接種
 予防接種の種類を確認し,以前に受けた予防接種が生ワクチンであった場合には27日以上,不活化ワクチン又はトキソイドの場合には6日以上の間隔をあける。
(8) 生まれてから今までにかかった病気
 病気の種類を知り,接種についての対応を決めるものである。継続して治療を受けている場合には,原則としてその疾患の主治医から当該予防接種の実施に対する意見書又は診断書をもらってくるように指導する必要がある。病状が安定しており,主治医が接種可能と判断していれば,接種医の判断で接種を行う。病気の内容によっては予防接種に関する専門医又は予防接種センターを紹介する。 BCGについては、今までに結核にかかったことがあるか確認する。結核既感染者は予防接種不適当者であるため、BCG接種を行わない。
(9) 結核患者との接触歴(BCG接種の場合)
 生後、家族や親族等に結核患者が発生し、その患者には本人が接触した場合には、結核既感染の可能性があるので慎重に対応する。まず、患者発生に際して健診を受けたか否かを尋ねる。それに対して「受診し、異常がなかった」と申告した者には接種が可能である。「受診していない」と申告した者については、市町村は適切な医療機関で精密検査を受けるよう指導する、精密検査を受け、かつその結果異常がない場合に限って、次の機会にBCG接種を受けることができる。
(10) ひきつけ(けいれん)
 けいれんの原因診断がついている場合には,上記(8)と同様にその疾患の主治医と相談のうえ,予防接種の実施について検討する。
(11) 薬や食品による蕁麻疹や体調の変化
 ワクチンに含まれる成分と関係ないものは心配ない。「はい」の場合には医師記入欄に具体的内容を記載する。
(12) 子どもの先天性免疫不全
 免疫不全は生ワクチンによる副反応発症のおそれがあり,また遺伝性の場合も少なくないので,本人及び近親者につき,過去の指摘の有無を記載させる。
(13) 予防接種による副反応
 以前に予防接種による副反応の既往があれば,ワクチン名を知ることにより添加物を含め実施しようとするワクチンとの共通性のチェックも必要である。
(14) 家族に予防接種を受けて具合の悪くなった者がいるか
 体質が似ていることが多いので,その状況を知り注意する。
(15) 過去の輸血,ガンマグロブリンの投与(第2 法律による予防接種,1 定期接種(1)の表の脚注5)を参照)
 過去の輸血又はガンマグロブリンの投与等は,ポリオとBCGを除く生ワクチンの効果を減衰させる可能性があるため,注意を要する。
(16) 医師記入欄
 医師は予診票をチェックし,必要に応じて追加質問し,さらに診療した上で,接種の可否に関する診断をし,保護者に説明する。サインは医師の直筆で行う。ゴム印等で記名した場合は医師の押印を行う。
(17) 使用ワクチン名、接種量、実施場所等の欄
 万一副反応が出た場合等に備え,ワクチン名とロットNo.(これでワクチンメーカー名は確認できる。)を明らかにする。接種量は年齢や問診の結果で変更されることがあるので記入する。実施場所,医師名等の欄はゴム印でよい。

4 一般的注意
(1) 不活化ワクチン接種後1週間,生ワクチン接種後4週間は副反応の出現に注意し,観察しておく必要がある

(2) 予防接種当日の入浴は差し支えない。
 生活環境の整備によって,入浴時に接種部位又は全身性の感染を受ける可能性は極めて低くなっており,即時型アレルギーが予想される注射後1時間を経過すれば,入浴は差し支えないと考えられる。また,BCGについても接種後は十分乾燥させ,1時間以上経過すれば,菌の生着に問題はない。
 むしろ,生ワクチンの場合は接種後8〜12日前後に生ずる発熱等の副反応が発生した時に避けるべきである。

(3) 過激な運動,深酒は,それ自体で体調の変化をきたす恐れがあるので,ワクチン接種後24時間及び生ワクチンによる副反応が出現した時は治癒するまで避けるべきである。

(4) 予防接種の接種季節に関する規定については,廃止されているがこれは,病気の流行の地域差と各地域の感染症サーベイランスのデータを活用して適切な時期に予防接種を行える配慮がなされたものである。
 各地域の気温,病気の流行状況をみて,副反応と区別をすることが紛らわしい疾患(例えば無菌性髄膜炎)の流行がある時には,季節に関係なく見合わせたり,必要に応じて注意を喚起し,主治医(接種医)の裁量により接種を検討すべきである。

(5) 抜歯,扁摘手術,ヘルニア手術等,緊急性のない場合には,予防接種後1カ月間は,紛れ込み事故を考慮に入れ,原則として避けることが望ましい。しかし,緊急性の高い手術,周囲に流行する病気の状況によっては必ずしもこの限りではない。

5 予診票の紙色について
 WHOが推奨するワクチンのラベル色と統一し,予診票の紙色については,以下のようにする。(なお,ポリオ,風しん及び日本脳炎についてWHOは特に規定していない)
  (1) BCG 青色  (5) ポリオ  白色  (9) インフルエンザ 水色
  (2) DPT 黄色  (6) 麻しん  オレンジ色
  (3) DT 若草色  (7) 風しん  桃色
  (4) 破傷風 緑色  (8) 日本脳炎 藤色
 なお,色のサンプルについては,紀州の色上質紙(薄口)を参照されたい。


第5 ワクチンの特徴及び接種上の注意点



1 ジフテリア・百日せき・破傷風混合(DPT)ワクチン
(1) 特徴
 ジフテリア菌及び破傷風菌の産生する毒素を精製無毒化したジフテリアトキソイド及び破傷風トキソイドを含む液と,百日せき菌から分離・精製した感染防御抗原を含む液にアルミニウム塩を加え,不溶化した不活化ワクチンである。

(2) 接種上の注意点
 第1期初回接種を確実に行い,基礎免疫を作っておくことが大切である。スケジュールどおり受けていない場合でも,はじめからやり直すことはせず,規定の回数を超えないように接種する。例えば,第1期初回接種の1回目と2回目の間隔が8週間を超えた場合でも,2回目と3回目を3〜8週間隔で接種すれば,第1期初回接種を終了したものと考えてよい。第1期追加接種は,第1期初回接種後12〜18月の間に行うことが望ましいが,18月以上経過した場合には,速やかに追加接種を行うことが望ましい。
 なお,感染症サーベイランスのデータでは,2歳未満の百日せき患者が約半数を占めているので,DPTワクチンの接種はなるべく早期に実施することが望ましい。DPTワクチンの第1期初回接種を行う時は,接種部位を左右交互に行い,また,なるべく皮下深く接種することが局所の硬結を予防する上でも大切である。


2 ジフテリア・破傷風混合(DT)トキソイド
(1) 特徴
 ジフテリアトキソイド及び破傷風トキソイドを混合した不活化ワクチンである。百日せき既罹患者及び第2期の定期接種に使用する。沈降DTトキソイドと液状DTトキソイドの2種があるが,現在市販されているものは沈降DTのみである。どちらの場合にも0.1mlを皮下注射する。
 例外的に第1期接種にDTトキソイドを使用する場合は,沈降DTを4〜6週間隔で各々0.5mlずつ2回皮下注射するのが一般的である。

(2) 接種上の注意点
 第1期の基礎免疫が不十分な場合は,専門医又は予防接種センターに相談する。


3 ジフテリアトキソイド
(1) 特徴
 ジフテリアトキソイドを含むワクチンである。成人用には,高度に精製したトキソイドにアルミニウム塩を加えた成人型沈降ジフテリアトキソイドがある。


4 破傷風トキソイド
(1) 特徴
 破傷風トキソイドを含むワクチンである。沈降破傷風トキソイドの基礎免疫(3〜8週間隔で各々0.5mlずつ2回皮下接種する。6〜18カ月後にさらに1回0.5ml接種)が行われていれば,その後の外傷時に追加接種(0.5ml)を行うと十分な免疫効果が得られる。


5 ポリオワクチン
(1) 特徴
 ポリオウイルスには,I型,II型,III型の3種類があり,この3種類の弱毒ウイルスを,適切な比率で混合した生ワクチンである。経口服用する。1回の服用では3種のウイルスが必ずしも同じように増殖するとは限らないので,2回の服用が行われることになっており,2回目の服用では1回目の服用で増殖せず免疫の成立しなかった型のウイルスのみが増殖し免疫を獲得する。なお,ポリオは腸管内増殖をするので,他の目的でガンマグロブリンの注射を受けた直後でも,免疫の成立に支障はない。

(2) 接種上の注意点
 6週間以上の間隔をあけ2回投与するが,2回の間隔が長期間離れていても2回服用していれば,免疫の獲得には特に差異はない。ポリオワクチンは免疫獲得を十分に行うため,2回の服用を厳守する。
 投与されたウイルスは腸管の中で増殖し,数週間にわたって大便中に排泄され,まわりの人に感染する可能性がある。このため,原則として個別接種により行うこととし,この場合においては,地域内の接種を1月の期間内で完了すること。
 下痢症患者に対しては投与をせず,下痢が治癒してからのち投与する。投与直後(30分以内)に嘔吐等によりワクチンを吐き出したと思われる場合には,再投与する。
 生ポリオワクチンは室温で融解後よく振って混和させ,融解後速やかに使用する。なお,ポリオワクチンの接種者からポリオワクチンの接種を受けていない等のポリオの抗体を保有してない者に2次感染を起こすことがあるので,保護者に注意を呼びかけるとともに,被害救済事業について情報提供すること。


6 麻しんワクチン
(1) 特徴
 弱毒化した麻しんウイルスを凍結乾燥した生ワクチンであり,添付の溶解液(局方蒸留水)で溶解し使用する。高温や紫外線に弱い生ワクチン株を使用しているので保管に注意する(5℃以下の冷蔵庫又は冷凍庫に保管)。

(2) 接種上の注意点
 潜伏期に接種してしまった場合には,野生株による発症がみられる場合があるが,ワクチンのために重症化することはない。
 ガンマグロブリンの注射を受けた者は 第2 法律による予防接種,1 定期接種(1)の表の脚注5)を参照する。自然麻しん患者と接触した者はその後72時間以内に麻しんワクチン接種を行えば,発症を阻止できる可能性がある。


7 風しんワクチン
(1) 特徴
 弱毒化した風しんウイルスを凍結乾燥した生ワクチンであり,添付の溶解液(局方蒸留水)で溶解し使用する。高温や紫外線に弱い生ワクチン株を使用しているので,保管に注意する(5℃以下の冷蔵庫又は冷凍庫に保管)。

(2) 接種上の注意点
 風しんの既往の記憶はあてにならないことが多く,流行時に罹患した人以外はワクチン接種をすることが望ましい。抗体陽性の人にワクチン接種をしたとしても特別な副反応は起こらず,抗体価の低い人においては追加免疫効果がある。
 妊娠の可能性のある年代の女性に接種する場合は,胎児への感染を防止するため妊娠していないことを確かめ,ワクチン接種後最低2カ月間の避妊が必要である。ガンマグロブリン投与後のワクチン接種に関しては 第2 法律による予防接種,1 定期接種(1)の表の脚注5)を参照する。


8 日本脳炎ワクチン
(1) 特徴
 日本脳炎ウイルス(北京株)をマウス脳内に接種し,増殖したウイルスを精製し,ホルマリンで不活化した後,更に精製したワクチンである。

(2) 接種上の注意点
 初めて受けるときは,基礎免疫(初回接種は1〜4週間隔で2回,概ね1年後に1回)をつけることが重要である。追加免疫を4〜5年間隔で行う。
 日本脳炎の第1期(基礎免疫)が規定どおり接種できなかった場合は以下の要領により接種を行う。
 (1) 第1期初回接種1回だけで1年経過した場合
 2回接種するか,1回接種して翌年に1回接種する。
 (2) 第1期初回接種1回のみで数年経過した場合
 2回接種し,翌年1回接種する。(この場合、1回は任意接種となる)
 (3) 第1期初回接種2回完了後2年以上経過した場合
 1回接種する。


9 BCGワクチン
(1) 特徴
 牛型結核菌を継代培養して弱毒化した菌で,開発者の名をとり,カルメット・ゲラン菌(BCG)と呼んでいる。これを凍結乾燥させた生ワクチンで,添付の溶解液(局方生理食塩液)を用いて溶解し,管針法にて接種する。菌の不活性化を防ぐため光の直射を避け早く使用する。

(2) 接種上の注意点
 BCG接種は上腕外側のほぼ中央部に接種する。中央部より肩峰に近い部位はケロイド発生率が高いので避けなければならない。接種部位を酒精綿で拭き,アルコールが蒸発乾燥した後にワクチンを滴下する。ワクチンを幅1.5cm,長さ3cm程度に管針のツバ又は円筒外側面で延ばした後,管針を垂直に上腕骨に向かって強く押し,2押し目は1押し目の管針筒の輪状痕に接するように押す。接種後,皮膚面のワクチンを管針の横又はツバで2〜3回なすりつける。数個の針痕からは軽い出血が見られるのが普通である。局所は自然に乾燥するまで待つ。直射日光は避けなければならない。
 予診で結核罹患歴・化学予防歴のあることが判明した者には、接種を行わない。患者との接触歴がある者については、感染していないことが確認された場合にのみ接種を行うことができる(12頁(9),(10)参照)。また接種後10日までに接種部位に明らかな発赤・腫脹、針痕部位の化膿など(コッホ現象)が見られた場合には結核に感染している可能性が高いので、すみやかに接種医療機関で精密検査を受けるよう、指導する必要がある。


10 インフルエンザワクチン
(1) 特徴
 インフルエンザHAワクチンは,高度に精製されたウイルス粒子にエーテルを加えてウイルス粒子を分解し,HA成分を採取し,ホルマリンで不活化したワクチンである。インフルエンザワクチンに含まれるウイルス株はインフルエンザの流行状況を考え毎年決定される。

(2) 接種上の注意点
 インフルエンザウイルスの増殖にはふ化鶏卵を用いるので,卵アレルギーが明確なもの(食べるとひどい蕁麻疹,発しんが出たり,口腔内がしびれる者)に対しての接種には注意が必要である。鶏卵,鶏肉にアナフィラキシーがあるものは,接種を受けることができない。
 なお、予防接種法によるインフルエンザ予防接種を行う場合には、別途「インフルエンザ予防接種ガイドライン」を参照すること。


11 おたふくかぜワクチン
(1) 特徴
 ムンプスウイルスを弱毒化したあと凍結乾燥した生ワクチンであり,添付の溶解液(局方蒸留水)で溶解後使用する。高温に弱い生ワクチン株を使用しているので保管に注意する(5℃以下の冷蔵庫又は冷凍庫)。

(2) 接種上の注意点
 おたふくかぜ流行中の接種は差し支えない。おたふくかぜワクチンにより時に無菌性髄膜炎を発症することがあるが,自然のおたふくかぜに罹患した場合に比較して頻度は少ない。ガンマグロブリン投与後のワクチン接種に関しては 第2 法律による予防接種,1 定期接種(1)の表の脚注5)を参照する。


12 HBワクチン
(1) 特徴
 組換えDNA技術を応用して産生されたB型肝炎ワクチンである。

(2) 接種上の注意点
 母子感染の防止あるいは医療従事者等のハイリスク者の感染防止を目的に使用する。ワクチン接種後,HBs抗体の測定により免疫を獲得したことを確認しておくことが望ましい。人により免疫反応が低いもの(low responder)や抗体反応をみないもの(non responder)が存在する。必要に応じ追加接種をする。母親がHBs抗原陽性の場合は,健康保険適応となっている。


13 水痘ワクチン
(1) 特徴
 弱毒化した水痘帯状疱疹ウイルスを凍結乾燥した生ワクチンであり,添付の溶解液(局方蒸留水)で溶解し使用する。高温や紫外線に弱い生ワクチン株を使用しているため,保管に注意する(5℃以下の冷蔵庫または冷凍庫)。自然水痘に罹患すると重篤化しやすい人を主たる対象として開発されてきたワクチンであるが,健康児への接種も差し支えない。

(2) 接種上の注意点
 自然水痘罹患者と接触後3日以内にワクチン接種を行えば予防は可能であり,もし発症したとしても軽症で終わることが多い。接種を受けた者のうち,12〜15%は,後に水痘罹患をみることがあるが症状は軽い。ガンマグロブリン投与後のワクチン接種に関しては,4頁脚注5)を参照する。


14 肺炎球菌ワクチン
(1) 特徴
 80種類以上ある肺炎球菌の中で感染する頻度の高い23種類の肺炎球菌を型別に培養し,殺菌後各々の型から抽出精製された莢(きょう)膜多糖体(ポリサッカライド)を混合したワクチンである。
 莢(きょう)膜多糖体とキャリアー蛋白とを結合させた結合型肺炎球菌ワクチンではない。

(2) 接種上の注意点
 23種類の肺炎球菌は高齢者の肺炎球菌感染症の80%を占めており,1回の接種で接種された型による肺炎球菌感染症を5年以上予防する効果が期待できる。ペニシリン耐性肺炎球菌感染に対しても予防効果がある(2歳未満の者に接種しても期待する抗体反応は得られにくい)。


15 A型肝炎ワクチン
(1) 特徴
 A型肝炎ウイルス(KRM003株)を培養細胞(GL37)で増殖させ,それを精製,不活化,凍結乾燥したワクチンである。アジュバントやチメロサールは含まない。

(2) 接種上の注意点
 急速な免疫獲得を期待する場合は,初回接種として2週間間隔で2回接種する。長期間の免疫維持を期待する場合は,初回接種後6ヵ月以降で追加接種を行う。通常十分な抗体上昇が得られるので,接種後の抗体検査は不要である。


16 狂犬病ワクチン
(1) 特徴
 狂犬病ウイルスを凍結乾燥した不活化ワクチンで,添付の溶解液(局方注射用水)で溶解し使用する。チメロサールなどの防腐剤が含まれていないため,溶解後直ちに使用し,残液を保存して再使用してはならない。

(2) 接種上の注意点
 暴露前免疫は,1回量1.0mlを4週間間隔で2回皮下接種し,さらに6〜12カ月後1.0ml追加する。暴露後免疫は,1回量1.0ml,0日を第1回目として,以後3日,7日,14日,30日及び90日の計6回皮下接種する。
 子どもの場合にもおとなと同量接種する。
 以前に暴露後免疫を受けた者は,6カ月以内の再咬傷の場合はワクチン接種の必要はない。暴露前免疫を受けた後6カ月以上たって咬傷を受けた人は,初めて咬まれた場合と同様に接種を行う。
 ブタ皮膚由来のゼラチンを含むため,ゼラチン含有製剤またはゼラチン含有食品に対して,ショック,アナフィラキシー様症状(蕁麻疹,呼吸困難,口唇浮腫,喉頭浮腫など)等の過敏症の既往歴のあるものは,接種要注意者に該当する。


第6 予防接種の接種間隔



1 違う種類のワクチンを接種する場合の間隔
 あらかじめ混合されていない2種以上のワクチンを接種する場合は,不活化ワクチン及びトキソイド接種の場合は,1週間経てばワクチンによる反応がなくなるため1週間以上をあけて,生ワクチン接種の場合は,ウイルスの干渉を防止するため4週間以上間隔をあけて次のワクチンを接種する。
 ただし,あらかじめ混合されていない2種以上のワクチンについて,医師が必要と認めた場合には,同時に接種を行うことができる。
 なお,同じ種類のワクチンを何回か接種する場合はそれぞれ定められた期間を守ること。


表 1 予防接種の接種間隔

生ワクチン
 ポリオ,麻しん,風しん,BCG,おたふくかぜ,水痘
↓ 4週間以上あける
不活化ワクチン
生ワクチン

 (生ワクチンを接種した日から、次の接種を行う日までの間隔は27日間以上置く。)


不活化ワクチン
 DPT,DT,ジフテリア,破傷風,日本脳炎,インフルエンザ,B型肝炎,肺炎球菌,A型肝炎,狂犬病
↓ 1週間以上あける
不活化ワクチン
生ワクチン

 (不活化ワクチンを接種した日から、次の接種を行う日までの間隔は6日間以上置く。)


2 疾病罹患後の間隔

 麻しん,風しん,水痘及びおたふくかぜ等に罹患した場合には,全身状態の改善を待って接種する。標準的には,個体の免疫状態の回復を考え麻しんに関しては治癒後4週間程度,その他(風しん,水痘及びおたふくかぜ等)の疾病については治癒後2〜4週間程度の間隔をあけて接種する。その他のウイルス性疾患(突発性発疹,手足口病,伝染性紅斑など)に関しては,治癒後1〜2週間の間隔をあけて接種する。しかし,いずれの場合も一般状態を主治医が判断し,対象疾病に対する予防接種のその時点での重要性を考慮し決定する。また,これらの疾患の患者と接触し,潜伏期間内にあることが明らかな場合には,患児の状況を考慮して接種を決める。


第7 予防接種不適当者及び予防接種要注意者



 予防接種不適当者とは,予防接種を受けることが適当でない者を指し,これらの者には接種を行ってはならない。
 予防接種要注意者とは,予防接種の判断を行うに際して注意を要する者を指し,この場合,接種を受ける者の健康状態及び体質を勘案し,注意して接種しなければならない。
 予防接種不適当者及び予防接種要注意者は,予診を行うことにより把握する。

1 予防接種を受けることが適当でない者(予防接種不適当者)

(1) 予防接種実施規則第6条に規定する接種不適当者は以下のとおり。
 (1) 明らかな発熱を呈している者
 (2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
 (3) 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって,アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
 (4) 急性灰白髄炎(ポリオ),麻しん及び風しんに係る予防接種の対象者にあっては,妊娠していることが明らかな者
 (5) その他,予防接種を行うことが不適当な状態にある者

 なお、個々のワクチンに関するものは、表2、表3を参照のこと

(2) 各項目の考え方
 (1) 明らかな発熱を呈している者
 明らかな発熱とは,通常37.5℃以上を指す。検温は,接種を行う医療機関(施設)で行い,接種前の対象者の健康状態を把握することが必要である。

 (2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
 重篤な急性疾患に罹患している場合には,病気の進行状況が不明であり,このような状態において予防接種を行うことはできない。接種を受けることができない者は,「重篤な」急性疾患にかかっている者であるので,急性疾患であっても,軽症と判断できる場合には接種を行うことができる。

 (3) 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって,アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
 百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン,ジフテリア破傷風混合ワクチン,ポリオワクチン,日本脳炎ワクチン等,繰り返し接種を予定している予防接種により,アナフィラキシーを呈した場合には,同じワクチンの接種を行わない。また,鶏卵,鶏肉,カナマイシン,エリスロマイシン,ゼラチン等でアナフィラキシーショックを起こした既往歴のある者は,これを含有するワクチンの接種は行わない(ワクチン使用説明書参照)。
 この規定は,予防接種の接種液の成分により,アナフィラキシーを呈した場合には,接種を行ってはならないことを規定したものである。一般的なアレルギーについては,予防接種要注意者の項を参考にされたい。

 (4) 急性灰白髄炎(ポリオ),麻しん及び風しんに係る予防接種の対象者にあっては,妊娠していることが明らかな者
 一般に生ワクチンは,胎児への影響を考慮して,全妊娠期間を通じて接種は行わない。風しんでは接種後2カ月間は避妊が求められている。麻しん及び風しんでは,接種を受けた者から周囲の感受性者にワクチンウイルスが感染することはないと考えられるので,妊婦のいる家庭の小児に接種しても心配はない。
 なお,不活化ワクチン,トキソイドの接種が胎児に影響を与える確証はないため,これらは予防接種を受けることが適当でない者の範囲には含められていない。

 (5) その他,予防接種を行うことが不適当な状態にある者
 (1)〜(4)までに掲げる者以外の予防接種を行うことが不適当な状態にある者について,個別ケース毎に接種医により判断されることとなる。


2 予防接種の判断を行うに際し,注意を要する者(予防接種要注意者)

(1) 予防接種要注意者は以下のとおり(個々のワクチンに関するものは表2、表3を参照のこと)

 (1) 心臓血管系疾患,腎臓疾患,肝臓疾患,血液疾患及び発育障害等の基礎疾患を有することが明らかな者
 (2) 前回の予防接種で2日以内に発熱のみられた者,又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
 (3) 過去にけいれんの既往のある者
 (4) 過去に免疫不全の診断がなされている者
 (5) 接種しようとする接種液の成分に対して,アレルギーを呈する恐れのある者
 (6) BCGについては,過去に結核患者との長期の接触がある者その他の結核感染の疑いのある者


(2) 各項目の考え方

 以下は行政として接種を勧奨しているものではなく、情報提供である。

 (1) 心臓血管系,腎臓疾患,肝臓疾患,血液疾患及び発育障害等の基礎疾患を有することが明らかな者

 心臓血管系疾患を有する者
 日本小児循環器学会の見解(平成15年5月)によれば,原則的には,積極的に予防接種を行うべきである。ただし,次に述べる状況,病態においては,接種前,接種後に十分な観察を行い,注意を払う。
 1. 重篤な心不全がある者
 2. 低酸素発作を有する者
痛みによって発作が誘発されないように注意すること。
 3. 現在,心筋炎,心膜炎,川崎病,心内膜炎,リウマチ熱に罹患している者
 4. 川崎病罹患後は,「予診票の各項目の目的」の項(14)を参照
 5. 無脾症候群:肺炎球菌ワクチンの適応である
 6. 慢性の心疾患を有する小児では,インフルエンザによるリスクが高い故,インフルエンザワクチンの接種が望ましい。

 腎臓疾患を有する者
 日本小児腎臓病学会の見解(平成15年4月)によれば,接種をしてはならない者は,以下のとおりとされている。
 (1) 急性腎不全の者
 (2) 急性期,増悪期の者
 (3) プレドニゾロン投与量が2mg/kg/日以上の者
 (4) その他,医師が不適当と認めた者
以下の者に接種した場合には接種後抗体価モニターと必要に応じた追加接種が必要である。
 (1) 副腎皮質ホルモン剤(プレドニン)投与量が2mg/kg/日以下
 (2) 免疫抑制剤使用中又は中止後6カ月以内の者

 悪性腫瘍の患者
 日本小児血液学会の見解(平成15年3月)によれば,原則として,完全寛解期に入って,細胞性免疫能が回復した時点で接種を行う。維持療法中でも必要性の高い麻しん,水痘等については,積極的に免疫能チェックを実施し,タイミングをみて接種を行う。

 HIV感染者
 日本小児感染症学会の見解(平成15年5月)によれば,HIV感染者及びエイズ患者に対しては,ポリオ及びBCGの予防接種を行ってはならないが,DPT,日本脳炎,インフルエンザの予防接種を行うことはできる。麻しん,風しんについても,状況に応じて接種を行う。

 重症心身障害児(者)
 厚生労働科学研究事業のハイリスク児・者に対する接種基準と副反応に関する研究班2003年の見解による予防接種基準は以下のとおりとされている。
 重症心身障害児(者)は,発育障害,けいれんなどがあるため予防接種を受けていない例が多い。しかし,デイケアや施設入所などの際に感染症に罹患する機会が多く,また,感染症に罹患した際に重症化が予測されるため,予防接種を積極的に行うことが望ましい。
 予防接種を行うにあたり,主治医(接種医)は保護者に対して,個々の予防接種の必要性,副反応,有用性について十分な説明を行い,同意を得ることが必要である。さらに発熱,けいれん,状態の変化などが起きた場合の十分な指導をしておく。
 原則として主治医又は予防接種担当医が個別に接種する。
1. 発育障害が明らかであっても,全身状態が落ち着いており,接種の有用性が大であれば,現行の予防接種は接種して差し支えない。
2. 接種対象年齢を過ぎていても,接種の有用性が大であれば,接種して差し支えない。
3. てんかん発作が認められても,その発作状況が安定していることが確認されていれば,主治医(接種医)の判断で接種して差し支えない((3)のイ てんかんの既往のある者の項参照)。
4. 乳幼児期の障害児で,原疾患が特定されていない例では,接種後,けいれんの出現や症状の増悪を認めた場合,予防接種との因果関係をめぐって,混乱を生じる可能性があるので,事前に保護者への十分な説明と明示の同意が必要である。

 低出生体重児
 日本未熟児新生児学会の見解(平成15年6月)によれば,出生時からの合併症がないことを確認の上,以下の要領で接種を行う。
予防接種の原則は一般乳児と同様に適用する。
ワクチンの接種開始は,出生後日齢,歴月齢を適用する。

 その他基礎疾患がある者
 上記(ア〜カ)以外の基礎疾患のある者及び臓器・骨髄移植患者においては,以下の事項を基本条件としてその疾患の主治医と接種医が可能と認めれば接種する。
基礎疾患の診断がついていること
抗体産生能に異常が考えられないこと
基礎疾患が疾病として安定期にあること

 (2) 前回の予防接種で2日以内に発熱のみられた者,又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
 このような場合には,再接種後に再度症状が現れることがあるため,注意を要する。軽度の発熱の場合には,接種を行うことができるが,高熱や全身性発疹の場合には,対象者の年齢,疾病の流行状況等を勘案して,接種の可否を決める。

 (3) 過去にけいれんの既往のある者

 熱性けいれんの既往のある者
 日本小児神経学会の見解(平成15年5月)によれば、熱性けいれんをもつ小児への予防接種基準は以下のとおりとされている(「脳と発達」2002,34,166〜169の解説,Q&A1〜12を参照)。
1. 予防接種の実施の際の基本的事項
 現行の予防接種はすべて行って差し支えない。ただし,接種する場合には次のことを行う必要がある。
保護者に対し,個々の予防接種の有用性,副反応(発熱の時期やその頻度他),などについての十分な説明と同意に加え,具体的な発熱時の対策(けいれん予防を中心に)や,万一けいれんが出現した時の対策を指導する。
2. 接種基準
1) 熱性けいれんと診断された場合は,最終発作から2〜3カ月の観察期間をおけば1.の条件のもとで接種可能である。
2) ただし,接種を受ける小児の状況とワクチンの種別により,主治医の判断でその期間の変更は(短縮も)可能である。
3) 長時間けいれん(15分以上発作が持続)の既往例は,小児科専門医ないし小児神経専門医が診察しその指示のもとで施行する。
3. けいれん予防策
 発熱の予測される予防接種では,発熱の出現しやすい時期に発熱を認めたらジアゼパム坐剤を予防的に投与する。ただし予防投与の必要性や下記用法,用量は,主治医(接種医)の判断によって,患者ごとに変更しうる。発熱率の比較的高いのは麻しんで,時期は接種後1〜12日(特に7〜10日),ついでDPTでその時期は1〜6日(特に1〜2日)である(接種日を0日とする)。
 坐薬:ジアゼパム坐剤(製品:ダイアップ坐剤4mg,6mg,10mg)
 用量:0.4〜0.5mg/kg/回(最大10mg/回)
 用法:37.5℃以上の発熱を目安に,速やかに直腸内に挿入する。初回投与後8時間経過後もなお発熱が持続する時は,同量を追加投与してもよい。通常,2回以内の投与で終了とする。状況判断で,3回目投与を行ってもよいが,3回目は初回投与から24時間経過後とする。
(注)1. 坐剤がない場合はジアゼパム経口剤(製品:セルシン,ホリゾン;散,錠,シロップ)でもよい。投与量は同量で,薬物動態は坐剤とほぼ同じである。
2. 解熱剤の併用:ジアゼパム坐剤と解熱剤の坐剤を併用する場合にはジアゼパム坐剤投与後少なくとも30分以上間隔をあける(解熱剤の坐剤の成分がジアゼパムの吸収を阻害する可能性があるため)。経口投与をする解熱剤は同時に併用してもよい。
3. ジアゼパム投与で,眠気,ふらつき,極くまれに興奮などがみられることがある。
4. 予防投与の必要性や用法,用量は,主治医(接種医)の判断によって変更してよい。

 てんかんの既往のある者
 厚生労働科学研究事業のハイリスク児・者に対する接種基準と副反応に関する研究班2003年の見解による予防接種基準は以下のとおりとされている。
 てんかんをもつ小児は,さまざまな感染症疾患に自然罹患することにより,発熱などによるけいれん発作再燃や発作重積症などのリスクをもっている場合が多い。
 また,けいれん発作などがあるために予防接種の機会を逸することが多く,児が集団生活を行う上で支障をきたすことがある。
 この基準はてんかんをもつ小児を感染症から防御して,良好な日常生活を送るため,安全に予防接種が受けられることを配慮したものである。
1. コントロールが良好なてんかんをもつ小児では,最終発作から2〜3カ月程度経過し,体調が安定していれば現行のすべてのワクチンを接種しても差し支えない。
2. 1. 以外のてんかんをもつ小児においてもその発作状況がよく確認されており,病状と体調が安定していれば主治医(接種医)が適切と判断した時期にすべての予防接種をしても差し支えない。
3. 発熱によってけいれん発作が誘発されやすいてんかん児(重症ミオクロニーてんかんなど)では,副反応による発熱が生じた場合の発作予防策(ジアゼパム坐剤,経口剤など)と万一発作時の対策を指導しておく。
4. ACTH療法後の予防接種は6カ月以上あけて接種する(下記注を参照)。
5. ガンマグロブリン大量療法(総投与量が約1g/kg以上)後の生ワクチン(風疹,麻疹,を参照)。ただし,接種効果に影響がないワクチン(ポリオ,BCG,DPT,インフルエンザなど)はこの限りでない。
6. なお,いずれの場合も事前に保護者への十分な説明と明示の同意が必要である。
(注) ACTH後の免疫抑制状態における生ワクチン接種による罹患と抗体獲得不全のリスクは,ACTH投与量,投与方法で差があるので主治医(接種医)の判断でこの時期は変更可能である。



表 2 予防接種不適当者及び予防接種要注意者(2005年4月)

ワクチン 予防接種不適当者 予防接種要注意者 接種可能
すべてのワクチン
(DPT,DT,ポリオ,麻しん,風しん,日本脳炎,BCG,インフルエンザ,おたふくかぜ,水痘,B型肝炎,肺炎球菌,A型肝炎,狂犬病)
(1)明らかな発熱を呈している者
(1)心臓血管系,腎疾患,肝臓疾患,血液疾患及び発達障害などの基礎疾患を有することが明らかな者
(1)前回接腫での軽度〜中等度の局所反応
(2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
(2)前回の予防接種で2日以内に発熱のみられた者又は全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
(2)抗菌薬治療中(ただし,予防接種不適当者に該当しない場合)
(3)当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって,アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
(3)過去にけいれんの既往のある者
(3)母親又は家族の妊娠
(4)急性灰白髄炎(ポリオ),麻しん及び風しんに係る予防接種の対象者にあっては,妊娠していることが明らかな者
(4)過去に免疫不全の診断がなされている者
(4)本人又は家族の特異的アレルギーの既往
(5)その他,予防接種を行うことが不適当な状態にある者
(5)接種しようとする接種液の成分に対してアレルギーを呈する恐れのある者
(5)副反応の家族歴
   
(6)当該感染症の流行中又は潜伏期間
DPT,DT
(1)〜(5) (1)〜(5)
接種間隔が規定を超えた者
チメロサールでアレルギーを呈する恐れのある者
ポリオ
(1)〜(5)のほか,下痢患者 (1)〜(5)
ガンマグロブリン投与患者
麻しん
(1)〜(5) (1)〜(5)
明らかな鶏卵・鶏肉によるアナフィラキシーの既往のない卵アレルギー児
ガンマグロブリ投与後の接種に関しては「第2法律による予防接種」の「1定期接種」の脚注5)を参照
明らかなカナマイシン,エリスロマイシンによるアナフィラキシーの既往のない薬剤アレルギー
治療及び化学予防中の活動性結核
風しん
(1)〜(5) (1)〜(5)
妊婦のいる家庭内の対象児
ガンマグロブリ投与後の接種に関ては「第2法律による予防接種」の「1定期接種」の脚注5)を参照
日本脳炎
(1)〜(5) (1)〜(5)
接種間隔が規定を超えた者
チメロサールでアレルギーを呈するれのある者
ガンマグロブリン投与患者
・BCG (1)〜(5)のほか,外傷などによるケロイドの認められる者及び結核の既往のある者 (1)〜(5)
(6)
ガンマグロブリン投与患者
副腎皮質ステロイド外用剤使用でも接種局所に塗布していない者


表 3 予防接種不適当者及び予防接種要注意者(2003年6月)

ワクチン 予防接種不適当者 予防接種要注意者 接種可能
インフルエンザ
(1)〜(5) (1)〜(5)
明らかな鶏卵・鶏肉によるアナフィラキシーの既往のない卵アレルギー児
ガンマグロブリン投与患者
おたふくかぜ
(1)〜(5) (1)〜(5)
ガンマグロブリン投与後の接種に関しては「第2法律による予防接種」の「1定期接種」の脚注5)を参照
水痘
(1)〜(5) (1)〜(5)のほか,明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
ガンマグロブリン投与後の接種に関しては「第2法律による予防接種」の「1定期接種」の脚注5)を参照
B型肝炎
(1)〜(5) (1)〜(5)のほか,妊娠又は妊娠している可能性のある婦人
ガンマグロブリン投与患者
肺炎球菌
(1)〜(5)のほか,既接種者及び2歳未満の者 (1)〜(5)のほか,妊娠又は妊娠している可能性のある婦人
ガンマグロブリン投与患者
A型肝炎
(1)〜(5) (1)〜(5)
ガンマグロブリン投与患者
狂犬病
(1)〜(5) (1)〜(5)のほか,ゼラチン含有製剤又はゼラチン含有食品に対してショック,アナフィラキシー様症状(蕁麻疹,呼吸困難,口唇浮腫など)などの過敏症の既往歴のある者
ガンマグロブリン投与患者


 (4) 過去に免疫不全の診断がなされている者
 日本小児感染症学会の見解(平成15年5月)による予防接種基準は以下のとおりとされている。

 免疫不全をきたすおそれのある疾病を有する者
 白血病や悪性リンパ腫等に対しては,生ワクチンはワクチンウイルスの感染を起こしたり,感染が持続する可能性があるので,接種は避けたほうがよいが,予防接種の対象疾患の罹患のおそれが大きいときはむしろ予防接種が勧められる。

 免疫不全をきたすおそれのある治療を受けている患者
 放射線治療を受けている患者,長期又は大量の副腎皮質ステロイド剤,抗腫瘍剤等を使用中の患者及びこれらの治療中止後6カ月以内の者には,予防接種を行わない。

 先天性免疫不全症が判明している患者
 T細胞機能不全をきたす免疫不全患者には,生ワクチン接種を行ってはならない。無ガンマグロブリン血症におけるポリオワクチン,慢性肉芽腫症におけるBCGワクチンは,これらの持続感染をきたすことがある。ただし,これらの疾患はすでに診断が下されている場合を除いては,これを接種時に除外することは実際上は不可能である。

 (5) 接種しようとする接種液の成分に対して,アレルギーを呈するおそれのある者
 日本小児アレルギー学会の見解(平成15年5月)による予防接種基準は以下のとおりとされている。
 気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,アレルギー体質などといわれているだけでは,予防接種不適当者にはならない。
 ワクチン成分に対してアレルギーを有すると考えられる者(卵白RAST陽性,又は卵摂取後の蕁麻疹の既往など)が予防接種要注意者に該当する。ワクチン成分でアレルギーと関連した報告があるのは,卵関連成分,ゼラチン,チメロサール及び抗生物質である。同じワクチンでもメーカーにより成分が異なるため,必ずワクチン添付文書でその内容を確認する。
 現行の麻しん及びおたふくかぜワクチンは,ニワトリ胎児線維芽細胞を用いた組織培養由来で,卵白と交差反応を示す蛋白は,ほとんど含まれていない。このため,米国では,重度の卵アレルギーを有する小児でも,麻しん及びおたふくかぜワクチン(MMRワクチンを含む。)接種児にアナフィラキシー反応のリスクは低く,事前の皮膚テストなしに接種できるとしている(Report of the Committee on Infectious Disease,American Academy of Pediatrics:Red Book 2000)。
 わが国では,1994年以降,生ワクチン接種後のアナフィラキシー反応が急増した。その原因が安定剤として添加されていたゼラチンの増量であることが解明され,ワクチンからゼラチンが除去された。その結果,生ワクチン接種後のアナフィラキシー反応は,ほとんど報告されなくなり,卵アレルギー児でも安全に接種できている。ただ,卵摂取後のアナフィラキシーの既往のある児で接種医が接種後のアナフィラキシー反応を懸念している場合,事前に接種ワクチンによる皮膚テストを行う方法以外に,現状では即時型副反応を予測できる有用な方法は見当たらない。いくつか行われている皮膚テストの一つの方法を以下の図1に示す。
 現行のインフルエンザワクチン及び黄熱ワクチンは,微量ではあるが卵蛋白が含まれている。このため,重度の卵白アレルギー児(RASTスコア5〜6,卵摂取後のアナフィラキシーなど)では,事前に接種ワクチンによる皮膚テストを行うことが推奨されている。卵に対する軽度または局所的なアレルギー反応のみの場合は,皮膚テストは必ずしも必要ではない。


図 1 ワクチン液による皮内反応を行う場合
(BCGワクチンには適用しない)
図

判定基準
陰性:膨疹8mm以下 発赤19mm以下又は膨疹,発赤が対照と変わらない
陽性:膨疹9mm〜14mm 発赤20〜39mm
強陽性:膨疹15mm以上 発赤40mm以上
厚生労働省予防接種研究班(ハイリスク児)
日本小児アレルギー学会誌17:103-114,2003


第8 副反応(健康被害)と対策



1 予防接種後の反応
 予防接種後,一定の期間の間に種々の身体的反応や疾病がみられることがある。予防接種後に異常副反応を疑う症状がみられた場合,これを健康被害と呼んでいる。健康被害の起きる要因としては,予防接種そのものによる副反応の場合のほか,偶発的に発症又は発見された疾病が混入することがある(紛れ込み事例)。ただし,実際には原因を明らかにすることが困難な場合が多い。
 副反応を起こさないためには,接種前既存疾患を発見しておくことが重要である。このため接種前の体温測定,予診や予診票による健康状態のチェックが行われている。しかし,ワクチンの改良が進んだ今日でも,また予診を十分に行っていても,予防接種による予知できない重篤な副反応や後遺症は起こりうるので,予防接種に携わる者は副反応とその対策に関する知識を持つことが必要である。

(1) ワクチンによる副反応

  不活化ワクチンによる場合
 局所反応として注射部位の発赤,硬結,疼痛等がみられる。全身反応としては,アナフィラキシーショック,蕁麻疹等のアレルギー反応,発熱及びそれに伴う熱性けいれん,脳症等があげられる。不活化ワクチンによる全身反応は注射直後から24時間以内,おそくとも48時間以内に発現する。

  生ワクチンによる場合
 接種後24時間以内に発熱等が起きることは極めてまれである。副反応としては,弱毒したウイルスによる感染症状を呈する。例えば麻しんワクチンによる発熱又は麻しん様発しんを認めたり,ポリオワクチンによる脊髄前角症状を呈する場合である。

(2) 他の病気との関係
 予防接種後に,ある疾患が偶然発見されたり,発病することがある。このような偶発的な疾患は,予防接種そのものによる副反応との鑑別が困難なことが多いが,鑑別を効果的に行うためには,接種時に接種を受ける者の状態を,予診票を利用し,さらに,問診又は診察によって確認しておくことが大切である。

(3) 各ワクチンによる副反応

  沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
 DPTワクチン接種後の副反応は,局所の反応が最も多い。初回接種1回目では接種後7日目までに約14.0%,その後接種回数を増すと局所反応は増加し,追加接種後7日までに約41.5%に発赤・腫脹,硬結の局所反応が見られる。局所反応は数日で自然に治まるが,硬結は縮小しながらも数カ月持続することがある。肘を越えて腕全体が腫脹することは,副反応報告書に基づけば年間約90例見られる。接種後の37.5℃以上38.5℃未満の発熱は,接種後1〜2日目に発現のピークがあり,発現率は接種当日が0.2〜0.3%,1日目0.6〜1.7%,2日目0.4〜0.5%であった。同様に,38.5℃以上の発熱も接種後1〜2日目に発現のピークがあり,発現率は接種当日が0.2〜0.3%,1日目0.5〜0.9%,2日目0.6〜0.7%であった(予防接種後健康状況調査集計報告書平成8〜13年累計。以下「健康状況調査報告」という)。

  ポリオワクチン
 450万人に接種して1人の頻度で,接種から4〜35日(平均15日)に,弛緩性麻痺(vaccine associated paralytic polio:VAPP)を生じる。また,排泄されたワクチンウイルスの感染によって発症したポリオ(contact case)の存在も知られ,その割合は約550万人に1人である(ワクチン最前線pp.113〜126,1989)。また,原因不明であるが,ポリオワクチン接種後2日以内に4〜5%のものに下痢がみられる(健康状況調査報告)。

  麻しんワクチン
 現行のワクチンの中では発熱率の比較的高いワクチンである。ウイルスが体内で増殖する期間の後(接種後5〜14日後)に5.3%に37.5℃以上38.4℃未満,8.1%に38.5℃以上の発熱,5.9%に麻しん様の発疹が認められる(健康状況調査報告)。
 発熱の持続期間は通常1〜2日で,発疹は少数の紅斑や丘疹から自然麻しんに近い場合もある。また,発熱に伴う熱性けいれん(約300人に1人)をきたすことがあり,その他,脳炎・脳症(100〜150万人に1人以下),亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の発症(100万人に0.5〜1.0人)が知られている。
 ワクチン添加物により接種直後(30分以内)に接種部位の発赤・腫脹,じんましん,クインケ浮腫,アナフィラキシーショック等のアレルギー症状を呈することがあり,また,接種後1日以内に全身,四肢等の一部に発疹(アルザス型アレルギー反応)を生じることがある。

  風しんワクチン
 小児の接種では,接種後5〜14日に1.9%に37.5℃以上38.4℃未満,2.6%に38.5℃以上の発熱,発疹が1.3%,リンパ節腫脹が0.6%認められる(健康状況調査報告)。成人女性に接種した場合,1〜2週間後に関節炎が認められることがあるが,数日から1週間で治癒する。重篤な副反応の報告はほとんどないが,約100万人に1人の血小板減少性紫斑病がみられる。ワクチン接種後1〜2週間に接種を受けた者の咽頭よりワクチンウイルスの排泄が認められることがあるが,周囲の風しん感受性者に感染することはない。

  日本脳炎ワクチン
 37.5℃以上の発熱は接種後2日以内に約1.6%に見られる。発疹の頻度は約0.3%以下である。接種局所の腫脹・発赤及び疼痛が接種後2日以内に約11%見られる(健康状況調査報告)。マウス脳を原材料として使用するので脱髄性疾患の発生が心配されたが,現在のワクチンは高度に精製されているので,脳成分の混入はほとんど無視しうる。また,日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を起こしたとの報告が極めてまれに報告されているが,ワクチンとの因果関係は明らかではない。

  BCGワクチン
 BCG接種後10日頃から個々の針痕部位に小さな発赤や膨隆が生じる。その後同部位が化膿することもある。このような変化は接種後1カ月頃で最も強い。やがて個々の針痕部位には痂皮が生じ,3カ月頃までには落屑して小さな瘢痕を残すのみとなる。 結核既感染者に接種していた場合には、接種後1〜10日以内に接種局所に発赤・腫脹、さらには針痕部位に化膿が生じること(コッホ現象)がある。
 ときに局所の反応が強く複数の針痕が融合したり,湿潤やびらん面を形成するようなこともある(健康状況調査報告によれば1.6%)。このような時にも局所の清潔を保てば早晩治癒する。このような局所の変化が3カ月を過ぎても治癒しない,あるいはいったん瘢痕化したのちに再度炎症反応を示すことがまれにある。このような強い局所の反応のあった例の一部はのちにケロイドとなることがある。
 接種後1カ月前後から接種側の腋窩リンパ節が腫大することがある(同0.7%)。多くは1個のみであるが,ときに複数個又は腋窩以外の部位(鎖骨上窩,側頚部など)にでることもある。数カ月の経過で徐々に縮小していく。ごくまれに腫大したリンパ節が化膿性変化を来たし,皮膚に穿孔し,排膿することがある(接種例の0.02%)。
 その他の副反応としては皮膚結核様反応(接種局所周辺のループス様変化,全身に散布する多型滲出紅斑など,ヨーロッパ諸国の観察によれば100万対1〜2例),骨炎(骨膜炎,骨髄炎など,同0.4例),さらにまれに全身性BCG炎(全身播種)が報告されている。

  インフルエンザワクチン
 発赤・腫脹,疼痛などの局所反応,発熱,悪寒,頭痛,全身倦怠感などの全身症状があらわれる場合がある。これらの症状は,通常2〜3日中に消失する。現行ワクチンにおける副反応の発生頻度は,他のワクチンに比しても多くはない。
 インフルエンザウイルスの培養には発育鶏卵が使用されているが,鶏卵成分は精製段階で除去されている。しかし,卵アレルギーがある場合,インフルエンザワクチンにより即時型アレルギーが誘発される危険性は否定できない。
 まれに急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を引き起こすことがある。接種後数日から2週間以内に,発熱,頭痛,けいれん,運動障害,意識障害などが現れた場合はADEMの可能性がある(インフルエンザワクチンの添付文書による)。現行ワクチンとGuillain-Barre症候群の因果関係は証明されていない。

  おたふくかぜワクチン
 接種後2〜3週に一過性の耳下腺腫脹や発熱が2〜3%,接種後2〜4週に無菌性髄膜炎が数千人に1人程度認められる。

  HBワクチン
 これまで局所反応の他には,ほとんど副反応の報告はない。

  水痘ワクチン
 健康小児,成人ではほとんど認められない。ハイリスク者では,接種後14〜30日に発熱を伴った丘疹,水疱性発疹が出ることがあり(急性白血病患者では約20%),水疱を生じた者から周囲の感受性者に感染を起こす可能性はあるものの,その率は極めて低い。接種後のハイリスク者に帯状疱疹が生じることがあるが,その発生率は自然水痘に感染した患者よりも低い。

  肺炎球菌ワクチン
 注射局所の発赤,腫脹,疼痛が見られる程度であり,全身反応は極めてまれである。

  A型肝炎ワクチン
 成人における副反応は接種者の6%に認められる。主なものは,全身倦怠感(2.8%),局所の疼痛(1.6%),局所の発赤(1%),発熱(0.6%),頭痛(0.5%)である。小児における副反応出現率は1.8%で,その内訳は発熱(0.6%),局所の発赤(0.6%),全身倦怠感(0.4%),頭痛(0.4%)である。いずれも軽微で,重篤なものはない(新医薬品承認審査概要(SBA)No.4)。

  狂犬病ワクチン
 約10%に一過性に接種局所の発赤,腫脹,疼痛などが認められるが,全身反応は極めてまれである。


2 副反応対策

(1) 通常見られる反応に対する対策

  局所発赤・腫脹,硬結
 一般に発赤・腫脹は3〜4日で消失するが,熱感,発赤のひどいときには局所の冷湿布を行う。硬結は次第に小さくなるが1カ月後でもなお残る場合もある。これについては放置してよい。前回の接種で局所反応が出現した場合,次回からの接種はなるべく皮下深く接種する。

  発熱
 発熱の対策は一般的処置として冷却,アセトアミノフェン等の解熱剤を投与する。他の原因による発熱も考えられるので観察が重要である。

  発疹
 麻しんワクチンでは,ワクチン接種後5〜14日後に5.9%に麻しん様の発疹がみられ,時には発熱も伴うが通常放置にて改善する。

(2) 通常見られない副反応に対する対策

  DPTワクチン接種後の上腕全体に及ぶ腫脹
 接種部位を中心に上腕全体,ときには前腕にまで及ぶ高度の発赤・腫脹が2〜3日後をピークとしてみられることがあるが,局所の保存的な加療(冷湿布,ステロイドホルモン剤や抗ヒスタミン剤の塗布等)で消退する。これまでの例では後遺症はない。接種液に対するアレルギー,過敏症が考えられるため,以後の接種については保留し専門医又は予防接種センターに相談する。

  ポリオワクチン投与後の麻痺
 ワクチン接種後4〜35日間に発症する麻痺性ポリオで,発熱,かぜ症状の後に上下肢等の弛緩性麻痺が見られることがあるが,この場合には専門の医療機関で検査及び治療を受ける。

  BCGワクチン
(1) 接種後早期の強い局所反応(コッホ現象)
 この場合には局所を清潔に保つだけで通常は2〜3週間で治癒するので治療は不要である。ただし、結核感染・発病について精査をするため、ただちに適切な医療機関を受診させる必要がある。もし結核感染・発病が確認されれば、結核の治療や化学予防などが必要となる。
(2) BCG接種局所の強い反応
 接種後3カ月以内に複数の針痕が融合したり,湿潤やびらんが生じた場合は局所の清潔を保てばよい。このような変化が3カ月後まで遷延する,あるいはいったん瘢痕化したのちに再燃するような場合には一般抗生剤が奏功することが多い。ケロイドについては皮膚科受診を勧める。
(3) BCG接種後の腋窩リンパ節腫大
 リンパ節腫大については特別の措置は不要である。また,その化膿性の変化についても局所の清潔だけでよい。

  おたふくかぜワクチン接種後の耳下腺腫脹,無菌性髄膜炎
 接種後2〜3週に耳下腺腫脹がみられることがあるが,一側性の場合が多く両側性でも程度は軽く一過性で消退する。無菌性髄膜炎の場合は入院加療を行う。

(3) 予防接種後に起こりうる重篤な副反応

 嘔吐,蕁麻疹,自律神経性ショック,アナフィラキシーショック,けいれん等がある。その処置は,一般の救急治療に準じて行うので救急医療品セット,気道確保に必要な器具一式,酸素吸入用具等の準備が必要であり,最低限の物は接種施設に備えて置くことが必要である(表4)。

表 4 救急対策備品例
1 アンビューバック(レサシバッグ)
2 ディスポーザブル注射器
3 駆血帯
4 エピネフリン(商品名ボスミン:1ml中1mg)
5 抗ヒスタミン剤
6 ハイドロコーチゾン(商品名ソルコーテフ,サクシゾン,ハイドロコーチゾン,コートリル)
7 ジアゼパム坐薬(商品名ダイアップ:1個中4mg,6mg,10mg)又は抱水クロラール坐薬(商品名エスクレ:1個中250mg,500mg)
8 ジアゼパム静注(商品名セルシン:2ml中10mg)
9 アミノフィリン(商品名ネオフィリン:10ml中250mg)
10 グルコン酸カルシウム(商品名カルチコール:5ml中Ca 2mEq)
11 炭酸水素ナトリウム(商品名メイロン84:20ml中Na 20mEq)
12 5%ブドウ糖液(20ml)


(4) 緊急対策

  アナフィラキシーショック
 抗原抗体反応,補体系の活性化,ケミカルメディエーターの放出等により表5に示す症状が短時間内に現れる急性の全身アレルギー反応である。気道閉塞と循環虚脱を主徴とする。
 気道の確保,酸素投与,補助呼吸,できれば静脈路確保
 0.1%エピネフリン皮下注 0.01ml/kg
 ハイドロコーチゾン皮下注(可能なら静注)5〜10mg/kg
 抗ヒスタミン剤(例 アタラックスPをゆっくり静注1mg/kg)
 応急処置を施した後,救急車で搬送


表 5 アナフィラキシーショックの症状

皮膚かゆみ,むくみ,蕁麻疹,冷汗,蒼白,潮紅
呼吸器系胸内苦悶,胸痛,喘鳴,痙咳,呼吸困難,肺水腫,血痰
心臓血管系脈拍微弱,頻脈,低血圧,不整脈,心停止
神経系不安,意識障害(混迷,傾眠,昏睡)
その他結膜充血,流涙,嘔気,嘔吐,腹痛,失禁等
(注) アナフィラキシーショックは通常30分以内に起こることが多いので,この間接種施設で接種を受けた者の状況を観察するか,又は被接種者が直ちに医師と連絡をとれるようにしておくことが望ましい。

  けいれん
 数分以内であれば,襟元を楽にして静かに寝かせ,けいれんの型,持続時間等を観察する。短時間でけいれんが止まらない場合は,以下の処置を行い,直ちに専門病院へ搬送する。
 ジアゼパム坐薬          0.4〜0.5mg/kg
 人工呼吸と静脈路確保が可能な場所であれば
 ジアゼパム静注          0.3mg/kg(呼吸停止に注意)

  心停止
 気道確保,頭部後屈,人工呼吸,心臓マッサージ,エピネフリン皮下注,救急車による搬送

  自律神経性ショック
 頭部を低く,仰臥位で安静,長引けば酸素吸入

  蕁麻疹
 抗ヒスタミン剤投与。重症例ではハイドロコーチゾンの静注又は皮下注

  嘔吐
 体位をかえ誤嚥を防ぐ


(5) 健康被害発生時の対応

 予防接種による健康被害又はその疑いのある患者を診察した場合,医師は次の事項に注意する。
 患者又は家族から詳しく問診し,病歴に確実に記載しておく。
 主要症状について確実に把握し,詳細に記載しておく。また,接種局所の変化(発赤・腫脹,化膿等)の有無及び程度について必ず観察し,記載をする。
 予防接種法及び結核予防法に基づく予防接種による副反応発生時は,直ちに「予防接種後副反応報告書」(別添)を用い,市町村長へ報告する。夜間の対応については,事前に市町村と調整する。
 なお、健康被害者の個人情報の取扱いには十分配慮すること。
 また、予防接種法及び結核予防法によるよらないに関わらず、医薬品による重篤な副作用については、別途、薬事法上の届出の必要がある。

(6) 予防接種健康被害調査委員会
 予防接種法及び結核予防法に基づく予防接種による健康被害発生に際し,市町村には予防接種健康被害調査委員会が設置され,同委員会において,当該事例の疾病の状況及び診療内容に関する資料収集,必要と考えられる場合の特殊な検査又は剖検の実施についての助言が行われる。

(7) 救済措置の内容
 予防接種法及び結核予防法に基づく予防接種による健康被害救済に関する請求について、当該予防接種と因果関係がある旨,厚生労働大臣が認定した場合,市町村長は健康被害に対する給付を行う。給付内容の種類は以下のとおり。

 (1) 一類疾病

 医療費
 予防接種による健康被害について要した医療費の自己負担について給付する。
 医療手当
 予防接種による健康被害について医療を受けた場合,月を単位として支給される。
 障害児養育年金
 予防接種により障害の状態となり,一定の障害を有する18歳未満の者を養育する者に対して給付する。
 障害年金
 予防接種により障害の状態となり,一定の障害を有する18歳以上の者に対して給付する。
 死亡一時金
 予防接種を受けたことにより死亡した場合に給付する。
 葬祭料
 葬祭を行った者に対して給付する。
 介護加算
 障害児養育年金,障害年金受給者のうち,在宅の1,2級の者に介護加算を行う。

 (2) 二類疾病

 医療費
 予防接種による健康被害について要した医療費の自己負担について給付する。ただし,その医療は,病院又は診療所に入院を要すると認められる程度の医療とする。
 医療手当
 予防接種による健康被害について医療を受けた場合,月を単位として支給される。
 障害児養育年金
 予防接種により障害の状態となり,一定の障害を有する18歳未満の者を養育する者に対して給付する。
 現行制度上は,二類疾病に係る障害児養育年金の適用はない。
 障害年金
 予防接種により障害の状態となり,一定の障害を有する18歳以上の者に対して給付する。
 遺族年金
 予防接種を受けたことにより死亡した者が,生計維持者の場合,その遺族に対して給付する。
 ただし,支給は10年間を限度とする。
 遺族一時金
 予防接種を受けたことにより死亡した者が,生計維持者でない場合,その遺族に対して給付する。
 葬祭料
 葬祭を行った者に対して給付する。

(8) 予防接種法及び結核予防法以外の予防接種健康被害救済制度

 任意接種により健康被害が生じた場合には,医薬品医療機器総合機構法に基づき手続を行う。手続は,健康被害を受けた者又は家族が必要な書類を揃え,独立行政法人 医薬品医療機器総合機構救済制度相談窓口(〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞ケ関ビル 電話03-3506-9411)に請求する。


(参考1)疾病の概要と予防接種の効果

1 ジフテリア

(1) 疾病の概要

 ジフテリアはジフテリア菌の感染によって起こる急性感染症で,菌が侵入した局所の偽膜病変とジフテリア毒素によって生ずる病変に大別される。咽頭ジフテリアは,発熱,嘔吐,頭痛及び咳嗽等を主症状とし扁桃に偽膜をみる。重症例では偽膜部の壊死を起こし悪臭を放つ。咽頭ジフテリアの特徴は嗄声,犬吠様咳嗽である。鼻ジフテリアは鼻炎とともに鼻汁に血液が混じ鼻孔周囲にびらん,血痂をみる。毒素による症状には心筋炎,神経麻痺がある。心筋炎は心筋,伝導系及び血管運動神経がジフテリア毒素により侵され,多くは発病2〜3週後に発症し突然心筋障害で死亡することがある。神経麻痺にはジフテリア毒素が末梢神経に作用するために起こる。軟口蓋,眼筋,呼吸筋及び四肢筋等の麻痺が起こる。

(2) 予防接種の効果

 従来までの予防接種によりジフテリア患者が著明に減少していることから,その効果は明らかである。また,厚生労働省感染症流行予測調査報告によると,1981年に導入された現行のDPTワクチン接種後のジフテリア免疫は1983年以前の調査成績と比較して同等又はそれ以上である。この調査の長年にわたる報告の結果は,わが国におけるジフテリア免疫が全面的に予防接種に依存しており,予防接種スケジュール及びワクチンの変更がそのまま免疫状態に反映されてきたことを示している。日本ではジフテリア菌の分離は近年まれであるが,ジフテリアの保菌者が存在する可能性があること,ロシア等の流行を考えると,海外からジフテリア菌が持ち込まれる危険性もあることなどから,今後もなお一定レベルの免疫の維持が必要である。前述した接種方法で行うと,血清中の抗毒素は0.03u・ml以上に保たれ,約10年間は持続する。

2 百日せき

(1) 疾病の概要

 百日せきの病態には3つの段階がある。カタル期には感冒様症状が約1〜2週ほど続き,次に痙咳期という典型的な症状が認められる。連続性の激しい咳嗽が発作性に起こり,息を吸う間がないため,静脈圧の亢進によって顔面の紅潮,眼瞼浮腫,顔面の点状出血及び眼球結膜の出血等が現れる。咳発作の後に急に息を吸うので吸気性の笛音が聞かれる。咳嗽発作の無いときは全く正常の状態であることが他の気道疾患と異なる。乳児期には無呼吸発作のためチアノーゼ,けいれんを起こすことがある。また,脳症を起こし,重い後遺症を起こすことがある。この激しい咳発作の回数は次第に減少してくるが,多くは2カ月程残る。回復期に入ると発作回数は減少するが,この間感冒などに罹患すると典型的発作が時としてみられる。2〜3週間で治癒する。

(2) 予防接種の効果

 現行の無細胞性百日せきワクチンの効果は,1970年代後半に再流行した百日せきがこのワクチンの導入後漸減し,1990年代に入ってからは,1970年代前半の患者数に近く,流行が阻止されたことから明らかである。また,百日せきワクチン導入後の家族内感染防止効果をみると家族内で百日せきが発生したときに,百日せきワクチンを接種していたものは非接種者に対し,約90%以上の発症防止効果があったことが確認されている。ワクチン接種後にはこれに含有される感染防御抗原(PT:百日せき毒素,FHA:繊維状赤血球凝集素)に対する一定の抗体が産生され,発症予防効果を得る。厚生労働省感染症流行予測調査報告によれば,これら両抗体保有状況とワクチン接種歴がほぼ一致するとされ,血清学的にもワクチン接種の効果が証明されている。しかしながら発症阻止に必要な抗体レベルはいまだ不明で,わが国で製造されている5製品のワクチンの組成も一定していない。

3 破傷風

(1) 疾病の概要

 破傷風菌は嫌気性,芽胞形成グラム陽性桿菌である。これは土壌の中に広く分布しており,外傷,火傷及び挫創部からヒトの体内に侵入する。侵入部で菌は増殖し毒素を産生し中枢神経を侵す。潜伏期は約4〜12日であるが,これが短いほど予後が悪い。咬筋のけいれんによる開口不能,顔面筋のけいれんによる痙笑に始まり数日以内に躯幹筋の強直性けいれんを起こし後弓反張を呈する。日光,騒音のような刺激で全身性強直をきたし,次第に激しさと頻度を増し死に至ることがある。

(2) 予防接種の効果

 トキソイドによる免疫効果は著明で,初回接種,追加接種で0.1u・ml以上の血中抗毒素量が得られる。追加接種後の抗毒素産生能は10年以上続くといわれるが,抗毒素量を防御レベル以上に保つために11〜12歳で追加接種を受ける必要がある。

4 ポリオ

(1) 疾病の概要

 ポリオウイルスの宿主はヒトだけであり,他の動物への感染はない。また媒介生物も存在しない。したがって感染はヒトからヒトへの伝播のみであり,糞便中に排泄されたウイルスが経口又は咽頭から生体に侵入する。このウイルスの感染症のほとんどは症状を呈しない不顕性感染に終わり,終生免疫を獲得する。5〜10%に夏かぜ症候群と呼ばれる軽症の上気道炎又は胃腸炎症状を呈し,夏期に流行する。感染者の1,000〜2,000人に1人に麻痺を生じ,一部のものは永久麻痺を残す。感染から発症までの潜伏期間は4〜35日(平均15日)である。
 腸管粘膜細胞で増殖したウイルスが,流血中に侵入し,中枢神経系臓器を標的にして,ここで再増殖する。脊髄前角細胞は,このウイルスの主な標的であり,ここの炎症の結果同側上下肢に弛緩性麻痺を生ずる。ときに上向性に病変が広がり,横隔膜神経麻痺や延髄麻痺を生じて呼吸不全を起こし,死の転帰をとることもある。

(2) 予防接種の効果

 ワクチンに含まれる3型のウイルス株がすべて十分増殖すれば,接種後4〜6週間で終生免疫が得られる。1回の接種で3型すべてのウイルスが増殖しないことがあるので,抗体を獲得できなかった型のウイルスに対する免疫を賦与するために複数回接種する。ワクチン接種による予防効果に関しては,わが国をはじめ,多くの地域で野生株によるポリオ根絶に成功したことで確認されている。

5 麻しん

(1) 疾病の概要

 麻しんウイルスによる全身感染症である。ウイルスは空気感染(飛沫核感染)する。上気道の局所リンパ節での増殖後,一次ウイルス血症,二次ウイルス血症を来す。ウイルスはリンパ球で増殖する。血中抗体ができ始めた時,アレルギー反応として,紅斑を生じる。抗体ができると,ウイルスは速やかに血中から排除される。ウイルスは,カタル期のはじめから発疹出現後6日程度まで,咽頭に証明される。
 ウイルス感染約10日後,中等度発熱及びカタル症状が始まり,コプリック斑(頬粘膜に形成された巨細胞)が出現,2〜3日発熱が続いてから,高熱とともに発疹が出現する。発疹は,3〜4日で色素沈着を残して消退する。
 麻疹ウイルス感染により,免疫機能低下を来すため,易感染性となり,肺炎(二次感染),中耳炎を合併する。かつては,結核の増悪が知られていた。脳炎の合併率は,約1000人に2人(2001年度大阪感染症流行予測調査会報告書)である。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の発症は,1970〜1978年に麻しんに罹患した症例について調査した1993年の報告では100万人に21人(48,000人に1人)である。

(2) 予防接種の効果

 麻しんワクチンの効果は非常に高く,各社の接種試験成績によれば,麻しんワクチン接種により,被接種者の95%以上が免疫を獲得する。ワクチンによる免疫はこれまでのところ長期にわたり持続すると考えられているが,ワクチン接種を受けたものの中で,その後に麻しんに罹患する者が数%ある。この中には,ワクチンの効果がなかった場合(primary vaccine failure)とワクチンによって獲得された免疫が持続しなかった場合(secondary vaccine failure)とが含まれている。最近のわが国での流行では,そのほとんどはワクチン未接種の発症であるが,ワクチン接種者の中での発症もみられる。

6 風しん

(1) 疾病の概要

 風しんは,急性ウイルス発疹症である。潜伏期は2〜3週間,癒合傾向の少ない紅色斑丘疹,発熱,頚部リンパ節腫脹などを主徴とする。眼球結膜の軽度の充血や口蓋粘膜の出血斑,肝機能障害なども見られる。年長児や成人では関節炎の頻度が高い。予後は一般に良好であるが,血小板減少性紫斑病が3,000人,脳炎が6,000人に1人,まれに溶血性貧血も見られる。妊娠初期の妊婦が風しんウイルスに初感染すると,胎児に感染して先天性風しん症候群児(難聴,先天性心疾患,白内障,網膜症等)が出生する。
 最近,大規模な流行の発生はないが,散発的な地域流行は続いており,その中で先天性風しん症候群の発生も報告されている。

(2) 予防接種の効果

 風しんワクチンは,各社とも接種を受けた者の95%以上に風しんHI抗体の陽転が見られる。HI抗体価の上昇は自然罹患より低いが,20年近く抗体が持続し,自然感染による発症を防御しうる。風しん患者と接触した後,ワクチンを接種しても確実に予防できるとは限らないが,接種自体はかまわない。

7 日本脳炎

(1) 疾病の概要

 日本脳炎は潜伏期7〜10日,突然の高熱,頭痛,嘔吐,意識障害及びけいれん等を主徴とするウイルス性の急性脳炎である。かつては死亡率,後遺症を残す率がそれぞれ約30%といわれ,現在では死亡率15%程度と考えられているが,なお神経学的後遺症を残す例が多い。感染者1,000〜5,000人に1人が脳炎を発症すると考えられている。脳炎以外に不全型無菌性髄膜炎,夏かぜ様疾患も見られる。
 最近は年10人程度が西日本地区で高齢者を中心に発症しているが,若年者の発症もみられている。かつて好発年齢であった幼児,学童は,予防接種対象年齢にあたっており,現在はほとんど発症がみられなくなった。
 食用として毎年多数出生,飼育されているブタが日本脳炎ウイルスの増殖動物とされている。豚間の流行は毎年6月頃より始まり,関東以南では多くの県で10月までに80%以上の感染率を示し,日本脳炎ウイルスの存在が示されている。ブタからヒトへの感染はコガタアカイエカを介する。ヒトは終末宿主であり,ヒトからヒトへのウイルスの伝播はない。自然界における宿主や日本への伝播経路などについてはなお不明な点が多い。日本脳炎は,東南アジア及び東アジアに広く分布し,患者が多発している。

(2) 予防接種の効果

 初回接種2回と次年度の追加接種1回の計3回の接種をもって基礎免疫の完了と考える。抗体産生は良好である。台湾やタイでの大規模な野外接種試験では日本脳炎ワクチン2回接種群は80%以上の有効率を示し,非接種群に比して自然感染に対する優れた防御能を示した。

8 結核

(1) 疾病の概要

 結核は菌陽性肺結核患者が咳をした時などに飛散する菌で空気感染(飛沫核感染)する。感染すると肺には初感染原発巣が形成され,まもなく肺門リンパ節にも病巣を作る。80%程度はこの段階で病巣に石灰が沈着して治癒するが,結核菌が血行性,リンパ行性,あるいは管内性に全身どの臓器にも拡がることがあり,肺結核,結核性髄膜炎,粟粒結核,胸膜炎,骨・関節結核,腎結核等を起こしうる。肺結核が最も多く,結核患者の約80%を占める。発病は感染後1年以内のことが多いが,病巣内に閉じ込められた結核菌は長く生存できるので10年,20年後に発病することもある。わが国では今でも毎年3万人以上の人が発病している。発病者の約半数は60歳以上の高齢者であるが,小児,若年者の結核もみられ,最近では減り方が鈍っている。結核の化学療法の進歩はめざましく,ほとんどの例を薬で治すことができるが,今でも6カ月以上の治療が必要である。

(2) 予防接種の効果

 BCG接種による結核発病予防効果については,最近活発に検討が行われた。その結果は次のように要約できる。(1)BCG接種は適切に行われれば結核の発病を,接種をしなかった場合の4分の1くらいに抑える。(2)BCG接種は,結核性髄膜炎や粟粒結核など小児の重篤な結核の発病予防には特に効果は確実である。(3)BCGワクチンは一度接種すれば,その効果は10年〜15年程度持続する。


(参考2)

予防接種後副反応報告書
 この報告書は、予防接種の接種後、別添報告基準に該当する者を診断したときに、必要事項を記載の上、直ちにその者の居住地を管轄する市町村長に提出すること。ただし、※欄については、経過観察後の報告(第2報)でも差し支えないこと
<記載上の注意> 1 用紙の大きさはA列4番にすること。
 2 アラビア数字のある場合は、該当する数字を○で囲むこと。
 3 報告内容は、別添の報告基準を参照のこと。


予防接種後副反応報告書
報告基準


予防接種 臨床症状 接種後症状
発生までの時間
ジフテリア
百日せき
破傷風
日本脳炎
(1)アナフィラキシー
(2)脳炎、脳症
(3)その他の中枢神経症状
(4)上記症状に伴う後遺症
(5)局所の異常腫脹(肘を越える)
(6)全身の発疹又は39.0℃以上の発熱
(7)その他、通常の接種ではみられない異常反応
24時間
7日
7日

7日
2日
麻しん
風疹
(1)アナフィラキシー
(2)脳炎、脳症
(3)その他けいれんを含む中枢神経症状
(4)上記症状に伴う後遺症
(5)その他、通常の接種ではみられない異常反応
24時間
21日
21日

ポリオ (1)急性灰白髄炎(麻痺)
   免疫不全のない者
   免疫不全のある者
   ワクチン服用者との接触者
(2)上記症状に伴う後遺症
(3)その他、通常の接種ではみられない異常反応

35日
1年


BCG (1)腋窩リンパ節腫脹(直径1cm以上)
(2)接種局所の膿瘍
(3)骨炎、骨膜炎
(4)皮膚結核(狼瘡等)
(5)全身播種性BCG感染症
(6)その他、通常の接種ではみられない異常反応
2ヵ月
1ヵ月
6ヵ月
6ヵ月
6ヵ月

注1 表中にないものでも下記の趣旨に合致すると判断したものは報告すること
(1)死亡したもの
(2)臨床症状の重篤なもの
(3)後遺症を残す可能性のあるもの
注2 接種から症状の発生までの時間を特定しない項目(*)についての考え方
(1)後遺症は、急性期になんらかの症状を呈したものの後遺症を意味しており、数ヶ月後、数年後に初めて症状がでた場合をいうものではない。
(2)その他、通常の接種ではみられない異常反応とは、予防接種と医学的に関連あるか、又は時間的に密接な関連性があると判断されるもの。
(3)ポリオ生ワクチン服用者との接触者における急性灰白髄炎(麻痺)は、接種歴が明らかでない者でもポリオワクチンウイルス株が分離された場合は対象に含める。
注3 本基準は予防接種後に一定の症状が現れた者の報告基準であり、予防接種との因果関係や予防接種健康被害救済と直接結びつくものではない。


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