基安労発第0618001号
平成19年6月18日

都道府県労働局労働基準部
        労働衛生主務課長 殿

厚生労働省労働基準局
安全衛生部労働衛生課長
( 公 印 省 略 )


酸素欠乏症等の災害防止の徹底について

今般、酸素欠乏症又は硫化水素中毒(以下「酸素欠乏症等」という。)の災害発生状況について分析した結果を別添1のとおり、また、平成18年に発生した酸素欠乏症等の発生事例を別添2のとおり、それぞれ取りまとめたところである。

平成18年に発生した酸素欠乏症等の災害の特徴としては、3人もの労働者が二次災害によって死亡したこと、窒素ガス等無酸素気体を使用する事業場において当該ガスによって酸素が置換され酸素欠乏空気が発生したことによる災害が全体の過半数を占めること等があげられる。

これら災害を防止するには、酸素欠乏症等防止規則に定めるところにより、救助しようとする者に空気呼吸器等を確実に使用させる等二次災害防止対策を徹底すること、各種無酸素気体の性質及び当該気体による酸素欠乏の危険性等について教育を徹底すること等、必要な酸素欠乏症等防止対策を講じることが重要であるので、全国労働衛生週間をはじめ、あらゆる機会を捉えて関係事業者に対し、これら対策の徹底を図るよう指導されたい。


別添1

酸素欠乏症等災害発生状況の分析

1 酸素欠乏症等災害の発生状況の推移 (昭和62年〜平成18年)(表1、図1〜3)

休業4日以上の酸素欠乏症又は硫化水素中毒(以下「酸素欠乏症等」という。)による災害の発生件数は減少傾向が伺えていたところ、平成18年において前年比40%増と再び増加に転じ、減少傾向が定着しない状況にある。

また、酸素欠乏症等による死亡者が平成18年は11名と、平成15年以降最悪の数となっている。これを酸素欠乏症と硫化水素中毒の別でみると、酸素欠乏症による死亡者が9名(前年比5名増)、硫化水素中毒による死亡者が2名(前年比2名増)であり、特に酸素欠乏症による死亡者数は、最近10年で平成12年の10人に次ぐものであった。

なお、平成18年において、死亡者11名のうち救助しようとした者が被災するいわゆる二次災害による死亡者は3名(前年比3名増)であった。

表1 休業4日以上の酸素欠乏症等発生状況(昭和62年〜平成18年)

62 63 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
酸素欠乏症 被災者数 17 22 26 23 30 20 17 22 23 22 25 28 9 21 15 10 5 11 9 12 367
死亡者数 10 9 9 10 16 12 8 8 14 10 8 9 3 10 7 7 3 2 4 9 168
発生件数 14 14 14 16 20 13 13 16 14 13 15 17 7 17 12 7 5 10 8 11 256
硫化水素
中毒
被災者数 13 7 6 10 2 11 8 12 8 13 5 7 13 7 7 18 2 4 3 3 159
死亡者数 2 3 2 1 1 2 7 2 1 4 0 2 6 6 1 15 0 3 0 2 60
発生件数 7 3 4 5 2 6 3 6 4 8 3 5 6 3 5 7 2 2 2 3 86
合  計 被災者数 30 29 32 33 32 31 25 34 31 35 30 35 22 28 22 28 7 15 12 15 526
死亡者数 12 12 11 11 17 14 15 10 15 14 8 11 9 16 8 22 3 5 4 11 228
発生件数 21 17 18 21 22 19 16 22 18 21 18 22 13 20 17 14 7 12 10 14 342
備考  被災者数は死亡者数を含む。

2 酸素欠乏症等災害の発生原因(平成9年〜18年)(図4)

最近10年間における酸素欠乏症等による災害発生件数147件について、その発生原因について見ると、酸素濃度等の測定の未実施が原因の一つとなっているものが93件、換気の未実施が78件、空気呼吸器等の未使用が62件と他の原因に比べて突出している。

3 酸素欠乏症等災害の管理面での問題点(平成9年〜18年)(図5)

最近10年間における酸素欠乏症等による災害発生件数147件について、管理面の問題点について見ると、作業主任者未選任が原因の一つとなっているものが65件、特別教育未実施が62件、作業標準不徹底が54件、安全衛生教育不十分が51件となっている。

平成18年においても、酸素欠乏症等災害件数14件中12件に作業主任者未選任、特別教育未実施、作業標準不徹底、安全衛生教育不十分のいずれかの問題点が認められた。

その原因の多くは酸素欠乏危険作業であることの意識が希薄であったことによるものと考えられる。

4 酸素欠乏症等災害の発生形態別発生状況(平成9年〜18年)(図6、7)

(1)最近10年間における酸素欠乏症による災害発生件数109件について、酸素欠乏空気の発生形態について見ると、無酸素気体に置換されたことによるものが66件と最も多く、次いで、有機物の腐敗、微生物の呼吸等による空気中酸素の消費によるものが18件、タンクその他の素材の酸化によるものが14件となっている。

(2)平成18年においても、発生した災害の多くは無酸素気体に置換されたことによるものであるが、木材の呼吸作用やタンクその他の素材の酸化が酸素欠乏空気の発生形態である災害も認められ、このような発生形態にも日頃から注意する必要がある。
 また、平成18年において、気中の空気が窒素ガス等無酸素気体に置換されたことによる災害の多くは製造業で発生している。

(3)無酸素気体による置換について、その無酸素気体の種類別に見ると、窒素が28件と最も多く、次いで、二酸化炭素が12件、プロパンが10件となっている。

(4)最近10年間における硫化水素中毒による発生件数38件について、硫化水素の発生形態を見ると、し尿、汚水等からの発生が30件と大半を占めている。

5 酸素欠乏症等災害の月別災害発生件数(平成9年〜18年)(図8)

最近10年間における酸素欠乏症等による月別災害発生件数について見ると、酸素欠乏症は特定の月に多く発生する等の傾向は認められないが、硫化水素中毒は夏季に多く発生する傾向がみられる。平成18年においても、硫化水素中毒災害の発生はいずれも8月であり、夏季は特に硫化水素中毒に対する注意を要する時期といえる。

6 酸素欠乏症等の業種別発生状況(平成9年〜18年)(図9〜10)

最近10年間における酸素欠乏症等による災害発生件数147件について、業種別について見ると、製造業で53件と最も多く、次いで建設業で39件、清掃業で21件となっている。製造業では、食料品製造業及び化学工業における災害が比較的多いものの、酸素欠乏症は様々な業種で発生していることがわかる。また、建設業では酸素欠乏症による災害が、清掃業では硫化水素中毒による災害が多く発生している。

主要業種における酸素欠乏症等による災害を発生場所別に見ると、マンホール、ピット、タンク等狭く、通風が不十分な場所で多く発生している。

7 まとめ

酸素欠乏症等は、酸素濃度等の測定、十分な換気の実施、空気呼吸器等の使用等の措置を適正に実施すれば発生を防ぐことができるものであるにもかかわらず、後を絶たない。

平成18年は、二次災害による死亡者も3名を数え、多くの関係事業場において、酸素欠乏症等防止対策の基本がおろそかにされていることが懸念される。

作業者の災害防止はもちろんのこと、二次災害を未然に防ぐには、空気呼吸器等を備え付け、かつこれを確実に使用させる等の法令に定める酸素欠乏症等防止対策を徹底させることが重要であり、また当然のことである。

加えて、平成18年における災害発生状況に鑑みて、事業者に対して下記事項を特に指導する必要がある。

(1) 酸素欠乏危険場所、酸素欠乏空気の発生メカニズム等を酸素欠乏危険作業に直接従事する者だけでなく、間接的に関わる者も含め、十分な安全衛生教育を実施すること。また、事業者自らも至る所に酸素欠乏危険場所は存在しうるものであることを認識し、積極的にリスクの洗い出しに努めること。

(2) 製造工程等で取り扱われるガスについては、窒素等、当該気体によって酸素が置換され酸素欠乏空気を発生させるものがあるが、酸化防止や爆発・火災防止等の利便性やそれ自体の無毒性ばかりが注目されがちであり、各種無酸素気体の性質及び当該気体による酸素欠乏の危険性等について教育を徹底すること。

(3) 一人作業時に発生した災害が認められるところであり、監視人の配備等異常を早期に把握するために必要な措置を講じること。

(4) 酸素欠乏危険場所であるにもかかわらず、有機溶剤用防毒マスクを着用して作業を行ったため、被災した災害が認められる。防毒マスク及び防じんマスクは、酸素欠乏症等の防止には全く効力のないものであり、酸素欠乏危険作業の際には絶対に用いてはならないものであることを認識すること。


別添2

平成18年 酸素欠乏症 発生事例 

  業種 被災者数 発生状況 主な原因
死亡 休業
1 製造業 1 1   金属製品の焼入炉内に窒素ガスが供給されていたところ、被災者はうつ伏せの状態で炉内に入っていき、のちに意識不明の状態で発見され、酸欠による窒息で死亡した。被災者は、当該設備に係るランプの表示状態がおかしいことを受けて、その原因と考えられる汚れを除去しようとしたことが考えられる。 (1)測定未実施
(2)換気未実施
(3)作業主任者未選任
(4)特別教育未実施
(5)作業標準不徹底
(6)ガス流入遮断不十分
(7)監視人配備なし
2 製造業 4 1   入渠中の船舶の汚水用配管逆止弁の開放作業に従事した被災者が、同船の逆止弁の設置されている鋼製の空タンク内で倒れているところを発見された。同タンク内の床には水が溜まっており、内壁の下部分には随所に腐食があった。被災者の頭部の一部が水面に浸かっており、酸素欠乏による意識喪失の結果、溺死したことが考えられる。 (1)測定未実施
(2)換気未実施
(3)立入禁止措置不十分
(4)監視人配備なし
3 製造業 5   1 半田の粒を製造する縦長タンクを清掃するため、被災者は昇降装置を用いてタンク内部に上昇したところ、窒素ガスによる酸素欠乏空気を吸入して、意識を失い、高さ約5メートルの位置から墜落して、被災した。 (1)換気未実施
(2)作業主任者未選任
(3)特別教育未実施
(4)作業標準不徹底
(5)安全帯未使用
(6)監視人配備なし
4 製造業 6 1   電気溶解炉が自動停止し、炉内原材料の酸化防止のため、ピット内にアルゴンガスを充填の上、自然冷却させていた。午前0時から勤務開始の交代勤務者である被災者は、炉内温度が低下しないため待機していたのであるが、午前7時30分頃、ピット内の底に倒れているところを発見され、酸素欠乏症により死亡した。 (1)測定未実施
(2)換気未実施
(3)作業主任者未選任
(4)立入禁止措置不十分
(5)監視人配備なし
5 製造業 6 1   被災者は、遠心分離機の上蓋を開けて、その内面に付着している粉体製品を掻き落とす作業をしていたものであるが、酸素欠乏により死亡した。災害発生時、遠心分離機内に窒素供給するバルブの一部が開放されていた。 (1)測定未実施
(2)空気呼吸器未使用
(3)作業主任者未選任
(4)作業標準不徹底
(5)ガス流入遮断不十分
(6)立入禁止措置不十分
(7)監視人配備なし
6 清掃業 7 1
(1)
  被災者は、焼却灰溶融炉の導通確認作業を行うため、炉内に入ったところ酸素欠乏症により倒れ、救出しようとして炉内に入った者も覆い被さるように倒れた。救出のために後に炉内に入った者は酸素欠乏症により死亡し、先に炉内に入った者も被災した(休業4日未満)。災害発生時、電極付近等から窒素ガスが噴射されていた。 (1)測定未実施
(2)空気呼吸器未使用
(3)作業主任者未選任
(4)特別教育未実施
(5)作業標準不徹底
(6)ガス排出措置不十分
7 製造業 9 1   マンホール設置の障害になるガス管の迂回工事として、被災者は、プロパンガスの送給を停止せずに個人住宅への引き込み管を切断し、切断部を仮止めした。しかし、仮止め箇所からプロパンガスが深さ1.1メートルの掘削穴に漏れ出し、そこで作業していた被災者は酸素欠乏空気を吸入して、被災した。 (1)作業標準不徹底
(2)安全衛生管理体制不十分
(3)ガス流入遮断不十分
8 建設業 9   1 被災者はマンホールの内部で、下水管を敷設する位置を決めるための機器を据え付ける作業を行ったが、当該マンホールの内部は、メタンを含有する地層に通じており、その湧出による酸素欠乏空気を吸入して、被災した。 (1)測定未実施
(2)換気未実施
(3)作業主任者未選任
(4)特別教育未実施
(5)監視人配備なし
(6)避難用具不備
9 その他 9 1   船倉内において、被災者は、船倉の壁に付着している木材チップを掻き落とす作業を行っていたが、左舷側のくぼみでうずくまっているところを発見され、酸素欠乏症により死亡した。 (1)測定不十分
(2)換気不十分
10 建設業 10   1 船倉内を掃除するため、自然換気を約10分行った後、被災者は内部に立ち入ったところ、酸素欠乏状態となり、被災した。船倉内は、水が溜まっており、内壁はさびていた。また、救助のために船倉内に立ち入った同僚も一時意識を失ったが、すぐに蘇生した(不休)。 (1)測定未実施
(2)空気呼吸器未使用
(3)作業主任者未選任
(4)特別教育未実施
(5)換気不十分
11 建設業 11 2
(1)
  下水道の管内部の汚れ具合を見る調査作業において、4人の作業員のうち、最初にマンホール内に入った被災者が被災し、続いて救助のためマンホール内に入った現場責任者も同様に被災した。 (1)測定未実施
(2)空気呼吸器未使用
(3)特別教育未実施
(4)安全衛生管理体制不十分
備考   1 被災者数の( )内の数は、二次災害での被災者数で内数である。
2 「休業」は、休業4日以上のものである。

平成18年 硫化水素中毒 発生事例

  業種 被災者数 発生状況 主な原因
死亡 休業
1
2
建設業
清掃業
8 2
(1)
  汚水槽のマンホール内部で、2人が折り重なるように倒れているところを発見された。現場責任者である被災者は、マンホール内の電気設備のケーブルが内部で絡まって引き上げることができないため、電気設備の様子を見にマンホール内に入って被災し、もう1人の被災者は、その異変に気づいてマンホール内に入って同様に被災したことが考えられる。 (1)空気呼吸器未使用
(2)作業標準不徹底
(3)安全衛生管理体制不十分
(4)立入禁止措置不十分
(5)避難用具不備
3 その他 8   1 温泉供給設備の清掃作業中、温泉引湯管を清掃するための用具を回収する作業をしていた被災者が、温泉に含まれている不純物を沈殿させるための槽(沈殿槽)の上部において、温泉から噴出した硫化水素を吸入したことにより、被災したもの。沈殿槽の上部にある蓋は外れて、槽は開放されていた。 (1)測定未実施
(2)空気呼吸器未使用
(3)安全衛生教育不十分
(4)作業標準不徹底
備考   1 被災者数の( )内の数は、二次災害での被災者数で内数である。
2 「休業」は、休業4日以上のものである。

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