健康危機管理対策の推進について


(1)国内でのテロ事件発生に備えた対応について

 わが国をめぐるテロ情勢
(ア)平成13年9月11日に、米国において航空機による同時多発テロが発生した。

(イ)その後、米国では、平成13年10月5日にフロリダ州で肺炭疽の患者が死亡するなど、平成13年12月5日までに22例の炭疽患者が発生し、米国の捜査当局では、炭疽菌によるテロが行われたと断定している。

(ウ)また、平成15年3月20日に、米国等による対イラク武力行使が開始され、最近においても、イラクをはじめとする中東地域等におけるテロが頻回に発生するなど、テロに関する情勢は極めて厳しい。

 厚生労働省等の対応
(ア)厚生労働省では、かねてより、政府の対応の一環として、生物化学テロ対策を進めてきた。

(イ)米国における同時多発テロ等の発生を踏まえ、平成13年10月8日には事務次官を本部長とする厚生労働省緊急テロ対策本部を設置し、
(1) 炭疽や天然痘等の診断や治療方法、炭疽菌等に汚染されたおそれがある場合における対処方法など、情報提供及び研修の実施
(2) 炭疽の発生をはじめ異常な感染症の発生等を把握した場合の迅速な連絡の要請
(3) 平成13年度の補正予算に必要な経費を計上し、天然痘ワクチンの生産・備蓄や、救命救急センターへの除染設備及び防護服の配置の推進など、必要な措置を講じてきた。

(ウ)また、米国等による対イラク武力行使の開始にともない、平成15年3月20日に厚生労働省緊急テロ対策本部を開催し、厚生労働省の当面の対応として、国立感染症研究所等における検査体制の強化の指示等を行うとともに、3月31日には、同本部を大臣を本部長とする厚生労働省イラク関係問題対策本部へと格上げした。

(エ)近年の国際的な組織犯罪や国際テロの多発に対して、関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに、有効適切な対策を総合的かつ積極的に推進することを目的として内閣に設置された国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部(本部長 内閣官房長官)において、今後の政府のテロ未然防止対策について検討され、平成16年12月10日に「テロの未然防止に関する行動計画」を決定した。
 厚生労働省では主に以下の項目について必要な措置を講じている。
(1) 旅館業者による外国人宿泊客の本人確認の強化等
宿泊者名簿の記載事項に外国人宿泊客の国籍及び旅券番号を追加することを内容とする旅館業法施行規則の改正
(平成17年1月24日公布、4月1日から施行)
都道府県等に対し、旅館等の営業者に外国人宿泊客の旅券の写しの保存を求める旨の通知を発出するとともに、関係業界団体に対して各営業者への周知を依頼。
(平成17年2月9日実施)
都道府県等に対し、実態として旅館業を営んでいるウィークリーマンション等の施設が旅館業法上の営業許可を取っていない場合、営業を中止させるか、営業許可を取るべきことを指導するよう求める旨の通知を発出。
(平成17年2月9日実施)
(2) 生物テロに使用されるおそれのある病原性微生物等の管理体制の確立
医療機関、試験研究機関、公的機関等を対象に、都道府県、政令市、特別区及び省内関係部局を通じて、生物テロに使用されるおそれのある病原性微生物等の保有状況及び管理状況に関する調査を実施。
(平成16年12月調査実施、平成17年3月30日に公表)
都道府県、政令市、特別区及び省内関係部局に上記調査結果を情報提供するとともに、管下の機関に対し、本調査結果を踏まえ、既発出の通知の遵守及び病原性微生物等管理マニュアルの整備に努め、病原性微生物等の適切な管理について、一層徹底するよう指導。
(平成17年3月30日実施)
今国会に感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の改正案を提出する予定。
(感染症の病原体を保有している者に対し、国及び都道府県に対する届出を義務付けるとともに、病原体の譲渡の規制、国及び都道府県による報告徴収、調査及び立入検査等に関する規定を設け、違反等に対し行政処分を行い、又は罰則を科すことなどを内容とする法改正)
(3) 爆弾テロに使用されるおそれのある爆発物の原料の管理強化
爆発物の原料となりうる化学物質として、事件が頻発し問題となっている過酸化水素製剤について、薬局・薬店や毒物劇物の販売者等に対し、適切な管理と販売を行う旨の指導を行うよう、都道府県に通知。
(平成17年3月29日実施)

 各都道府県等における対応
(ア)厚生労働省では、米国同時多発テロ以降、各都道府県等に対し、感染症、救急医療、医薬品、食品、地域における健康危機管理の体制整備等にわたるテロの発生を踏まえた所要の措置をお願いしてきたが、平成15年12月15日に、イラクをはじめとする中東地域等のテロ情勢に鑑みて、改めて通知を発出し、引き続き適切な体制整備を図っていただくようお願いした。

(イ)
(1) 平成13年11月16日には、炭疽菌等の汚染のおそれがある場合における、住民、医療機関、保健所の具体的対応等について、それぞれ通知を発出するなど、必要な指示及び注意喚起を実施してきた。

(2) 天然痘テロに備えるため、平成14年12月18日に都道府県等の担当者を集め、天然痘が発生した際の対応指針等について会議を開催し、また、15年3月17日には、天然痘テロに備えた体制の整備、初動対処要員の選定のための通知を発出し、さらに、4月28日には、各都道府県等における天然痘対策行動計画の策定をお願いした。

(ウ)化学テロに対する対応として、救急医療の中心となる救命救急センターにおいて除染設備や防護服を整備するとともに、日本中毒情報センターにおいて化学兵器を含む化学物質中毒に係る治療情報の提供体制を整備し、また、医療機関等に対し化学テロ被災者への対応に必要な診断治療方法等の情報を提供するなどの対応を講じてきた。
 平成13年11月22日には、関係省庁からなるNBCテロ対策会議幹事会において、関係省庁、地方公共団体等関係機関の連携のあり方を示すものとして、「NBCテロ対処現地関係機関連携モデル」が取りまとめられた。

(エ)今後とも、
関係機関との連絡・協力体制の確立
事件の発生防止のための警戒
事件が発生した場合の迅速な把握、連絡及び適切な対処
等が極めて重要であるので、(ア)、(イ)の通知等を踏まえ、引き続き必要な設備の配置の推進や点検、関係機関との連携、関係団体等への指導及び情報提供等をお願いする。

(2)健康危機管理体制の充実について

 健康危機管理の重要性
(ア)近年、国民の生命、健康の安全を脅かす健康危機事例の発生が度々みられる。
(1) 平成 8年以降 腸管出血性大腸菌O-157による大規模な食中毒の発生
(2) 平成11年9月 茨城県東海村のウラン加工施設における原子力災害
(3) 平成13年9月 牛海綿状脳症(BSE)に罹患した牛の発見
(4) 同年   10月 米国同時多発テロ以降の炭疽菌事件
(5) 平成15年 重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生
(6) 平成16年 高病原性鳥インフルエンザの国内発生
(7) 同年    9月 東北北陸を中心に急性脳症事例が多発

(イ)こうした健康危機事案に対して、できるだけ速やかに原因究明を図り、その拡大を防止するとともに、迅速かつ的確な医療の確保等を通じて、地域住民の生命・健康を守ることは、地方公共団体の重要な責務である。また、これらの取組みを支援することは国の責務である。

 厚生労働省における健康危機管理体制
(ア)適切な健康危機管理対策を速やかに講じるため、その基本的な枠組を「健康危機管理基本指針」において定めるとともに、部局横断的な組織である「健康危機管理調整会議」を設置し、次のような対応をとっている。

(1) 平素の対応
 健康危険情報の把握に努めるとともに、事件・事故等による突発的な健康危機の発生に備え休日夜間を含めた連絡体制を確立し、内容に応じて健康危機管理実施要領に基づき対応。

 健康被害が懸念される事案について調整を図るために、調整会議を通じ関係部局間の情報の共有化を図り、必要に応じて国民に情報提供。

(2) 重大な健康被害が発生し、又は発生するおそれのある場合の対応
 必要に応じ、厚生労働省に対策本部を設置し、関係部局間の対応調整、関係省庁との連携、広報等を一元的に実施。

(イ)平成10年度より都道府県等における健康危機管理業務従事者の資質の向上を図ることを目的とした健康危機管理研修会を実施しており、今年度においても、保健所職員等を対象に実施している。

 都道府県等における健康危機管理体制の整備
(ア)健康危機事案が発生した場合に適切に対処するためには、平素から地方公共団体において、次の取組みをはじめとした健康危機管理体制を整備することが重要である。
(1) 他の地方公共団体を含む関係機関及び関係団体等との役割分担を明確化し、必要な連携を図る。
(2) 健康危機事案発生時における被害者に関する情報の収集、管理及び分析等の拠点として、保健所の機能を強化する。
(3) 健康危機事案発生時に対応できるように、休日夜間を含めた、連絡体制の確立・強化を図る。

(イ)既に、多くの都道府県等においては、健康危機管理に係る要綱等が作成され、厚生労働省に提供いただいている。厚生労働省では、平成13年3月に、「地域における健康危機管理のあり方検討会」において「地域健康危機管理ガイドライン」を作成したので、当該ガイドラインも参考としつつ、更なる体制整備の推進をお願いする。また、既に要綱等を整備した都道府県等においても、要綱等に基づき危機管理体制が十分に機能するか等を、訓練の実施により検証等を行い、適宜見直しを行われるようお願いする。

(ウ)保健所、地方衛生研究所等を含む都道府県の健康危機管理を担当する部署における健康危機管理業務を支援する「健康危機管理支援情報システム」を平成14年度より稼働しているので、本システムを十分活用し、健康危機に対応できるよう体制整備を図られたい。



今後のがん対策の推進について


(1)「がん対策推進アクションプラン2005」

 がんは日本人にとって第一位の死亡原因として、国民の健康にとって重大な脅威であり続けている。同時に、国民・患者はがん医療の進歩に期待しつつも、実際に享受できる医療サービスには満足しておらず、現状の改善や不安の解消を強く求めている。
 このような状況を踏まえ、厚生労働省は「がん対策推進アクションプラン2005」を作成し、緊急にがん対策の飛躍的な向上を目指すこととしている。

(2)がん対策に係る平成18年度予算案

 がん予防・早期発見の推進45億円
 がん医療水準均てん化の促進15億円
 がん在宅療養・終末期医療の充実2.4億円
 がん医療技術の開発振興83億円
 がん対策情報センター(仮称)の設置15億円
がん対策関連予算合計161億円
(前年度144億円)

(3) 各都道府県における主な対応
 がん医療水準均てん化の促進
 ○地域がん診療拠点病院(仮称)の機能強化と診療連携の推進
 がん予防・早期発見の推進
 ○効果的ながん検診の普及(マンモグラフィ緊急整備事業等)
 人材開発・研修の推進
 ○がん専門医等がん医療専門スタッフの育成
 ○がんの在宅療養・終末期医療の充実



平成18年度厚生労働省科学技術関係予算案について


(1)平成18年度科学技術関係予算案について

 科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)においては、(1)ライフサイエンス分野、(2)情報通信分野、(3)環境分野、(4)ナノテクノロジー・材料分野の4つが研究開発の重点分野と定められている。

 平成18年度予算の概算要求に当たっては、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(以下、「骨太2005」とする。)において、「活力ある社会・経済の実現に向けた重点4分野」に施策を集中することとされ、また、当該4分野のうち「人間力の向上・発揮−教育・文化、科学技術、IT」においては、ライフサイエンス等、科学技術の重点4分野への更なる集中と重点化に取り組むこととされた。
 また、「骨太2005」の中で重点強化期間(平成17〜18年度)中の主な課題の一つとして「健康フロンティア戦略」(10か年戦略)が引き続き位置付けられ、本格化を図ることとされた。
 一方、科学技術施策について調整に当たる総合科学技術会議(内閣府)では、平成17年6月16日に「平成18年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」を決定し、ライフサイエンス等4分野を他分野に優先して研究開発資源の配分を行うこととされた。

 厚生労働省では、これらの決定を踏まえ、国民の健康で安全な生活を守る上で欠くことのできない施策について、ライフサイエンス分野を中心に概算要求を行い、重点4分野への重点化を図った。

(ア)科学技術振興費では、最先端科学を活用したがん研究等を含む厚生労働科学研究費補助金が約428億円(対前年度約5.5億円増額)など、約1,098億円(対前年度約19.4億円増額)。
(イ)また、これに国立がんセンター研究所等の国立高度専門医療センター研究所などの特別会計における研究費など、科学技術に係る予算全体をまとめた科学技術関係予算案では、約1,308億円(対前年度約16.8億円増)。
(ウ)なお、「健康フロンティア戦略」中の「健康寿命を伸ばす科学技術の振興」部分については、対前年度比2%増の約241億円を確保した。

(2)厚生労働科学研究費補助金について
 平成18年度における予算額(案)は約428億円(平成17年度の厚生労働科学研究費補助金の予算額は約422億円)である。

 厚生労働科学研究費補助金は、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関する行政施策の科学的な推進を確保し、並びに技術水準の向上を図ることを目的とし、独創的又は先駆的な研究や社会的要請の強い諸問題に関する研究について、原則公募の上交付するものである。

 平成18年度においては、昨年度に引き続き「健康安全の確保」、「健康安心の推進」、「先端医療の実現」を重点施策としつつ、健康フロンティア戦略の基本目標である国民の「健康寿命(健康で自立して暮らすことができる期間)の延伸」の実現に向けた研究を中心に研究を展開していくこととしている。

 また、厚生科学審議会科学技術部会に設置した「今後の中長期的な厚生労働科学研究の在り方に関する専門委員会」における検討内容(平成17年4月21日に部会において中間的なとりまとめを実施)に基づき、平成18年度からは、研究の枠組みの抜本的見直しを実施し、5つの研究類型((1)一般公募型、(2)指定型、(3)戦略型、(4)プロジェクト提案型、(5)若手育成型)に整理し、効果的・効率的な制度運営を図っていくこととしている。


重点事項>
.健康安全の確保
 新興・再興感染症研究
 エイズ対策研究
 肝炎等克服緊急対策研究
 医療安全・医療技術評価総合研究(仮称)
 食品の安心・安全確保推進研究

.健康安心の推進
※○ 第3次対がん総合戦略研究
※○ がん臨床研究
※○ 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
※○ こころの健康科学研究

.先端医療の実現
※○ 萌芽的先端医療技術推進研究
※○ ヒトゲノム・再生医療等研究
※○ 身体機能解析・補助・代替機器開発研究
※○ 基礎研究成果の臨床応用推進研究
※○ 治験推進研究
※○ 臨床研究基盤整備推進研究

 (注)「※」は健康フロンティア関連経費

 なお、厚生労働科学研究費補助金については、競争的な研究環境の形成を行い、厚生労働科学研究の振興を一層推進する観点から、厚生労働省のホームページにおいて募集を行った。

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