第1部 総説

 計画のねらい
 我が国経済社会のサービス経済化及び知識社会化等に伴い多様な人材育成の必要性が高まるとともに、人口減少という局面を迎え、一人一人の能力を高めることによって生産性を向上させていくことが不可欠となっている。
 しかしながら、職業キャリアの形成をめぐっては、若年失業者、フリーター及びニート状態にある者の趨勢的な増加、企業における職業能力開発の対象者の重点化とそれに伴う職業能力開発の機会が減少する労働者の増加、労働者が自発的に職業能力の開発及び向上に取り組む上での時間面・情報面における制約の強まり等様々な問題が深刻化している。同時に、我が国経済を支えてきた「現場力」の低下が問題となっている。
 こうした諸問題に対応し、職業能力を高めるためには、単に職業訓練を実施するだけでなく、職業キャリアの円滑な形成を支援する政策に踏み込んでいく必要がある。
 こうした考え方から、今般、「職業能力開発促進法及び中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成18年法律第81号。以下「改正職業能力開発促進法」という。)において、実践的な職業能力の開発及び向上を図るための実践型人材養成システムの創設、自発的な職業能力の開発及び向上を促進するために事業主が講ずる措置として、勤務時間短縮措置及び再就職準備休暇等に関する規定、労働者の熟練技能の習得を促進するために事業主が講ずる措置に関する規定の追加等が行われたところである。
 本計画は、上記のような状況を踏まえ、職業キャリアの形成をめぐる問題の背景にある労働市場の変化、企業における人材処遇の在り方の変化、働く者の意識や働き方の変化、さらには企業現場や社会の教育力の低下等の構造的な変化に対応し、職業キャリア形成支援政策を本格的に進めることを目指すものである。
 特に、本計画がねらいとするのは、職業キャリアの持続的な発展を実現するため、企業内外における職業キャリア形成支援を促進するとともに、企業現場や社会における教育力の再構築等、幅広く働く者を育てる環境の再構築に向けた取組を進めることである。
 なお、経済情勢の変動に伴って、本計画の対象期間中に短期的又は中期的な観点から新たな施策が必要となる場合には、本計画の趣旨等を踏まえて適宜適切に対応するとともに、産業構造の変化、雇用失業情勢の動向に留意しつつ、必要に応じ、本計画の改定を行うものとする。


 計画の期間
 本計画の対象期間は、平成18年度から平成22年度までの5年間とする。



第2部 職業能力開発をめぐる経済社会の変化

 労働力需給構造の変化
(1) 人口減少社会の到来等労働力供給面の変化
 我が国において、平均寿命の伸長に伴い高齢化が進展する一方、合計特殊出生率が平成17年に1.25まで低下する等少子化が進み、15歳から64歳までの生産年齢人口は平成8年から減少に転じている。また、人口動態統計の年間推計等によれば、統計の得られていない昭和19年から昭和21年までを除き、平成17年には初めて死亡数が出生数を上回る自然減となったところである。
 特に、昭和22年から昭和24年までに生まれた団塊の世代は、平成12年で約700万人と我が国総人口の5.4%を占めているが、平成19年以降60歳に、また平成24年以降65歳に順次到達する等段階的に労働市場からの引退過程を迎えることにより、労働力人口の減少や、熟練した技能やノウハウが継承されることなく失われるという「2007年問題」が懸念されている。

 また、働く者の就業意識をみると、全体的に多様化が進む中で、特に、地域や家庭における人材育成機能の低下等に伴う職業意識の形成に課題を抱える若者の増加、育児等家庭生活との調和を希望する者の増加、自発的な職業能力の開発及び向上や社会貢献活動に取り組むことのできる働き方を求める者の増加等がみられる。さらに、高齢者については国際的にみても労働意欲は高く、また、障害者の労働意欲についても高まりがみられる。
 今後、労働力人口が趨勢的に減少する中で、その減少幅を最小限に止めるためには、高齢者、若者、育児と仕事の両立等を含めた女性の就業促進等が課題である。

 このほか、職業キャリア(職業生活設計に即して行われる職業訓練・教育訓練や実務経験の積み重ね)形成について、会社に任せるとする者は減少する一方、自ら考えるとする者が増加しており、中高年層を中心に、新たな活躍の機会を求めての転職や起業を志す者も多くなっている。

(2) 企業等における労働力需要面の変化
 我が国全体としては企業収益が改善し、景気回復が続く中、平成17年12月に有効求人倍率が13年3箇月ぶりに1倍を超えるとともに、完全失業率についても、過去最高の水準である5.5%から、平成17年度においてはおおむね4%台前半で推移するなど、雇用情勢は厳しさが残るものの、改善に広がりがみられる。
 一方、地域別の経済情勢をみると、最近の景気回復を牽引する自動車、情報通信機器等の製造業や情報関連産業が集積している大都市圏の改善が進んでいる一方、公共事業の削減や国際競争の激化に伴う地場産業の衰退等により改善が遅れている地域もみられる。

 また、就業者の推移を職業別にみると、生産工程・労務作業者や販売従事者の比率が低下する一方で、専門的・技術的職業従事者の比率は上昇しており、こうした変化に対応した職業能力開発の推進が求められる。

 さらに、高付加価値製品の生産や質の高いサービスの提供がますます求められる一方、生産現場における重大災害が続発したことや、「2007年問題」を間近に控えていること等から、我が国企業において、ものづくりの現場を始め様々な現場における実践的な経験に裏打ちされた技術・技能、問題解決能力や管理能力等、いわゆる「現場力」を改めて強化することが求められている。

 こうした中で、我が国の企業における職業能力開発の状況をみると、「正社員」(期間の定めのない労働契約の下、いわゆるフルタイムで労働する者)以外の労働者の活用や業務の外部化が進むとともに、計画的なOJT(業務の遂行の過程内において行う職業訓練)やOFF−JT(業務の遂行の過程外において行う職業訓練)の実施率の停滞、訓練対象者の重点化の傾向がみられる。同時に、大企業の労働者と中小企業の労働者との間には、依然として職業能力の開発及び向上の機会をめぐる格差がみられる。

(3) 労働市場の現状と見通し
 景気の回復や、職業能力開発施策を含む雇用対策の効果もあって、第7次職業能力開発基本計画期間中、雇用情勢は着実に改善してきた。
 しかしながら、若年層について、ここ数年の就職内定率が改善している一方で、完全失業率は依然として高いことや、一部の地域における改善の遅れ等厳しさも残っている。

 また、パートタイム労働者や派遣労働者等が増加し、平成17年には雇用者の32.6%に達している。さらに、安定した収入が見込まれる「正社員」については、長時間労働に従事する者の割合が上昇傾向で推移している。

 今後の労働力需給の見通しについては、厚生労働省雇用政策研究会報告(平成17年7月)によると、人口減少社会が到来する中で、若者への就業支援、女性の意欲と能力の一層の活用、高齢者の雇用・就業機会の確保等の対策が講じられなかった場合、平成27年時点の労働力人口は、平成16年に比べ、約410万人減少すると推計されている。また、上記の対策が講じられた場合、それらの対策が講じられなかった場合と比べ、平成27年時点で約300万人の労働力人口の増加が見込まれるが、その場合であっても、平成16年に比べ約100万人減少すると見込まれており、経済社会の活力の維持・向上を図るためには、上記対策に加え、職業能力開発を効果的かつ整合的に推進し、国民一人一人の職業能力を高めることによる生産性の向上が必要であるとされている。


 職業キャリアの各段階における状況
 1でみた労働力需給構造の変化の中で、職業キャリアの各段階において様々な課題が生じており、これに対する的確な対応が求められている。
 各段階の位置付けについては、一人一人の実情により様々であることから、各段階を一律の年齢で区分することは困難であるが、本計画においては、職業キャリアについて、職業生活に入る前の「準備期」、職業生活に入っている、又は職業生活を中断している「発展期」及び職業生活の引退過程に入る「円熟期」の三段階に分けることとする。

 まず、職業キャリアの準備期にある若者においては、大学等進学率が50%を超える一方、大学(学部)卒業後、就職も進学もしない者の割合が20%前後の水準に上っている。また、高校卒業者及び大学卒業者の就職後の早期離職率は高水準で推移している。こうした中で、若年層の完全失業率は高水準で推移している。
 また、平成17年平均で、若年失業者、フリーター及びニート状態にある者の重複を排除した合計は370万人を超える。その要因は、新規学校卒業者の採用が特に厳しい時期に「正社員」として就職できなかった者が「正社員」となる機会に恵まれなかったこと、職業キャリアの準備期にある若者に対する職業意識の涵養や、社会生活に最低限必要なコミュニケーション能力等の基礎的能力を習得させるための支援が十分に行われてこなかったこと等多様である。
 特に、ニート状態にある者の属する世帯の収入別の割合をみると、近年は世帯収入が相対的に低い世帯に属する割合が増える傾向にある。また、生活保護受給者の中には、ニート状態にある者が含まれていると考えられる。

 次に、職業キャリアの発展期にある者においては、労働時間が週60時間以上の者の割合が高く、仕事と家庭・地域生活との調和(以下「ワーク・ライフ・バランス」という。)やメンタルヘルスを含めた心身の健康保持の観点からもマイナスの影響が懸念されている。
 職業能力開発という点では、自発的な職業能力の開発及び向上を行うに当たって、金銭面や情報面の制約以上に時間面の制約が隘路となっており、個人主導の職業キャリアの発展を図る上でも長時間労働は大きな問題となっている。

 さらに、職業キャリアの円熟期にある者においては、平成16年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号。以下「高年齢者法」という。)が一部改正され、65歳までの定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置が設けられ、本年4月から施行された。
 高年齢者等については、働く意欲と能力に応じた多様な就業機会を設けることが重要であり、短時間労働を含めた就業環境の整備に加え、シルバー人材センターにおける臨時的かつ短期的な就業機会の提供等を進めることも重要となっている。
 こうした措置や取組に加え、特に中高年齢者層を中心に、雇用・就業に限らず、教育・文化・環境等の分野における地域に密着した活動を通じて、その意欲や能力を発揮できるようにすることの意義は高まっており、今後、団塊の世代を中心にこうした活動の場の拡大が期待される。


 地域や家庭における人材育成機能の低下
 都市化や雇用者の増加が趨勢的に進む中で、就業者全体に占める雇用者の割合は、昭和30年の43.5%から平成17年の84.8%へ上昇しており、反対に自営業者や家族従業者は大きく減少している。特に近年は、規制改革等に伴う中心市街地の変容やグローバル競争が激化する中で商店街や中小企業集積の減少等もあって、地域のコミュニティが衰退するとともに地域の人材育成機能は低下しつつある。
 家庭の状況をみると、離婚率が昭和40年代と比較して倍増し、これに応じて母子家庭や父子家庭の数や率も、昭和50年時点と比較して倍増している。また、こうした家庭の状況に加え子育て期における長時間労働者が趨勢的に増加する中で、家庭における日常的なコミュニケーションが少なくなっていることも、子どもの職業意識の涵養や、社会生活に最低限必要なコミュニケーション能力の習得の隘路の一つになっていると考えられる。
 こうした中で、今後、職業キャリアの持続的発展を確保する前提として、ワーク・ライフ・バランスを図り、地域や家庭の基礎的な人材育成機能を再構築することが、人材育成をめぐる大きな課題となっている。



第3部 職業能力開発政策の実施目標

 第2部でみた職業能力開発をめぐる経済社会の変化にかんがみ、実施目標を以下のとおり定める。

 職業キャリア形成支援政策推進の視点
 職業能力開発政策は、雇用対策の一環を成すものであり、従来、その重点は、経済・産業全体の視点から、労働力需給の状況に応じた職業訓練や離職者の発生に対応した機動的な職業訓練の実施に置かれてきた。今日においても、こうした施策の重要性に変わりはない。
 しかしながら、第2部2で述べたように、近年、働く者の職業生活をみると、準備期、発展期及び円熟期それぞれに新たな課題が生じており、これらに対する的確な対応が求められている。

 本計画においては、こうした状況を踏まえ、次のような視点に立って、職業キャリア形成支援政策を推進する。
 第一に、職業能力の開発及び向上を促進する視点である。一人一人の職業能力は、多くの場合、職場での切磋琢磨や、知識・技術の吸収等仕事を通じて習得されるものである。こうした実態からすれば、職業能力の開発及び向上を促進するためには、仕事を通して職業能力の蓄積が進むこと、すなわち職業キャリアが円滑に発展することへの支援を政策の目標とすることが重要である。
 第二に、雇用対策としての視点である。技術革新の進展や商品サイクルの短縮により企業の在り方や産業構造について急激な変化が生じている中で、労働市場においても、就業意識の多様化が進んでいる。こうした中で、離職者対策と、企業による雇用維持の支援とを組み合わせた政策に加え、職業キャリアの多様化に着目し、一人一人の職業キャリア形成を支援することによって、その雇用可能性を高めていくことが雇用対策としても重要性を増している。
 第三に、今後こうした職業キャリア形成支援政策を発展させるためには、平成13年の「経済社会の変化に対応する円滑な再就職を促進するための雇用対策法等の一部を改正する等の法律」(平成13年法律第35号)において、職業能力開発促進の基本理念として、職業能力開発は労働者の職業生活設計に配慮しつつ、その職業生活の全期間を通じて段階的かつ体系的に行われる旨が規定され、それに即した施策が実施されていることを踏まえ、今後、職業キャリア形成支援政策を職業能力開発の中心的な柱としていく上での理論的な面からの根拠付けや整理が求められる。


 職業キャリア形成支援政策の展開
(1) 働く者に対する職業キャリア形成支援政策の推進
 近年、第2部2でみたような様々な課題に対応し、職業能力開発行政として、初等・中等教育段階からの職業意識啓発や、ニート状態にある者の職業的自立に向けた対応、出産・育児・介護等により職業キャリアを中断している者の円滑な再就職・再就業等に向けた支援等、厳密な意味での就業者や完全失業者に対する政策に限らず、幅広く職業キャリア形成支援政策の展開を行っている。
 今後、人口減少という局面を迎えた我が国において、経済社会の活力の維持・向上を図るためには、多様な人材一人一人が就業することを通じて豊かな社会づくりに寄与できるよう、職業意識を高めることを含めた働く者に対する職業キャリア形成支援政策をさらに進めていくことが必要である。
 このため、上記施策の充実を図るほか、雇用と自営の中間的な働き方をする者の職業キャリア形成支援、若者や障害者の就業の場となり得る地域貢献活動の分野に高年齢者の知識や経験を活かす仕組みづくり等にも政策的な配慮をしていくことが重要である。

(2) 労働市場を有効に機能させる基盤整備の推進
 第7次職業能力開発基本計画に基づき、産業構造の変化に伴う労働移動の増大等に対応し、労働者の職業キャリアの形成と雇用の安定を図る観点から、労働市場を有効に機能させるため、キャリア形成支援、職業能力開発に関する情報、職業能力評価、多様な職業訓練・教育訓練といった分野でインフラストラクチャー(経済社会基盤。以下「インフラ」という。)を整備してきた。
 これらの労働市場のインフラの整備は、後述のとおり、一定の進展はみられるものの必ずしも十分な状況ではなく、今後とも、円滑な職業キャリア形成を進めるために官民協力によって継続して構築・整備を進める必要がある。
 具体的には、これまで整備してきた制度を適切に運用していくとともに、高度なものを含め多様な職業能力開発が求められていることに対応し、多様な教育訓練を提供する法人や団体の教育訓練サービスの提供主体としての一層の育成や活用に取り組むとともに、様々な教育訓練を組み合わせることにより多様な教育訓練ニーズに対応することが必要である。また、企業・業界団体等のニーズを踏まえた職業能力評価制度づくり、キャリア・コンサルタントの養成や資質の一層の向上等に取り組んでいくことが必要である。

(3) 職業生涯の全期間を通じた職業キャリア形成支援
 高齢化社会を迎えた我が国において、意欲と体力に応じ、生涯を通じ可能な限り充実した職業生活を送れるようにすることは、働く者本人のためだけではなく、経済社会全体の活力の維持・向上のために重要な課題である。
 しかしながら、働く者の職業キャリアについて、第2部2において述べたように、その「準備期」については職業キャリアを形成できる就業機会の確保、「発展期」については職業キャリアを発展させるためのワーク・ライフ・バランス、「円熟期」については蓄積された能力の発揮の機会の確保等、それぞれの段階ごとに大きな課題を抱えている。特に、近年、パートタイム労働者、派遣労働者等のいわゆる「非正社員」(以下単に「非正社員」という。)の増加が著しいが、「非正社員」については、「正社員」と比較して、総じてみれば職業能力開発の機会が十分ではない状況に置かれている。こうした動向が人材の二極化につながることのないよう、「非正社員」も含め、バランスの取れた職業キャリア形成の支援や職業能力開発の在り方を模索する必要がある。
 生涯にわたる持続的な職業キャリアの発展を確保するためには、企業等において働く者の職業能力の開発及び向上を図る環境整備に配慮するとともに、社会や家庭における人を育成する環境にも配慮しつつ、こうした課題に対処していかなければならない。


 労働力需給の動向に応じた職業能力開発の促進
 職業能力開発政策は、雇用対策の一環として位置付けられるものであり、これまで労働力需給の動向に応じ、主に求職者や中小企業労働者を対象に公共部門(国及び都道府県)が中心となって職業訓練を行ってきた。
 特に、経済の不況や他分野の政策の影響等により、大量に離職者が発生したとき等には、雇用対策として、公共部門が中心になって機動的に離職者訓練を実施することに力を注いできた。
 今後とも、こうした雇用対策として公共部門が主体となった職業訓練等の取組の重要性に変わりはないが、その促進に当たっては、特に民間教育訓練機関の積極的かつ効果的な活用、企業における教育訓練ニーズの把握、中小企業等の事業主に対する職業能力開発ノウハウ、施設・設備等の面での支援に配慮することが重要である。
 また、近年は、求職者の能力と求人側の求める能力とのミスマッチが大きくなっており、キャリア・コンサルティングを行いながら、成長分野へ向けて職業能力開発を実施することが重要な課題である。


 働く者を育てる環境の再構築
(1) 企業における「現場力」強化に向けた仕組みの再構築
 これまで、我が国の産業、とりわけ製造業の競争力を支えてきたのは、ものづくりの現場を始め様々な現場における、いわゆる「現場力」の強さであった。
 他方、生産現場における重大災害や欠陥製品の発生等を契機として、「現場力」の低下が問題となっている。こうした問題の背景には、進学率の上昇に伴う現場に入職する若者の不足、厳しい人員抑制に起因する労働者の年齢構成の偏り、さらには、従来の企業内訓練校のような若者を育成するシステムの縮小等の実態がある。加えて、技術・技能等を持った団塊の世代が引退することにより、現場を支える技術・技能等が失われてしまうことが懸念される。
 今後、高付加価値製品の製造や質の高いサービスの提供に不可欠な「現場力」の強化を図るために、将来の中核を担う若者の現場への入職を確保し、育成する仕組みを抜本的に再構築するとともに、技術・技能等を持った団塊の世代を始めとする中高年労働者から技能継承を進める措置を併せて講じることが求められる。

(2) 地域社会等における人材を涵養する力の再構築
 我が国社会は、従来、雇用者以外にも自営業者・家族従業者が多数存在し、地域のコミュニティを支えてきたが、近年、大都市を中心とする雇用者中心の社会となり、各地のコミュニティも変容し、衰退しつつあるものも少なくない。
 これに伴って、地域社会において様々な価値観・生き方を受け入れ、若者等の人材を涵養する力も衰退している。
 都市化の進展した我が国において、従来のような地域のコミュニティを再生させることは大きな課題であるが、各地に教育・文化・環境などの多様な地域貢献分野をつくり出すことによって、様々な生き方や価値観を受け入れる地域社会をつくるとともに、若者や障害者も含め多様な人材を受け入れ、育成する取組を進める必要がある。
 また、こうした取組と並んで、家族の在り方や家庭の教育力の重要性についても理解を深め、一定の配慮をしていくことが望まれる。


 官民協力による「公」の形成
 人口減少局面を迎え、企業が労働者に対し職業能力開発の充実を図ることは、企業内における生産性を向上させ、個々の労働者の職業キャリア形成を図ることとなるのみならず、我が国経済の活力を維持・向上させていくためにも、これまで以上に重要となっている。
 また、労働者が、その職業キャリア形成のために自発的に職業能力開発に取り組むことは、企業にとっても職業能力が高められた人材を確保することにつながるとともに、豊かな社会の実現に向け貢献し得ることとなると考えられる。
 こうした観点から、改正職業能力開発促進法において、労働者の自発的な職業能力の開発及び向上を促進するために事業主が講ずる措置として、勤務時間短縮措置及び再就職準備休暇に関する規定が追加されたこと等を踏まえ、企業において、労働者の自発的な職業能力開発を支援するための措置を講ずることが期待される。
 第7次職業能力開発基本計画に基づき、国は労働市場を機能させることによって職業キャリア形成を円滑に推進することに重点を置いて政策を進めてきた。
 しかしながら、前述した、各段階それぞれに生じている職業キャリア形成のための課題に対応して、生涯にわたる職業キャリアの持続的な発展を確保するためには、労働市場のインフラづくり等により労働市場を機能させることと並行して、(1)若者の職業キャリア形成支援、(2)労働者のワーク・ライフ・バランス、(3)地域貢献分野の創出と地域の教育力の再構築等官民協力による「公」の視点に立った政策の推進が不可欠である。
 また、企業においても、地域社会への貢献や若者の職業キャリア形成支援等の面で、企業の社会的責任(CSR)の考え方を取り入れることや、社会全体として社会的責任投資(SRI)等を媒介として、そうした企業を評価し、「公」の視点の下に持続可能な社会の在り方を探ることが期待される。
 なお、こうした人材育成に係る「公」の視点に立った取組という点で、例えばアメリカにおいては、寄付金をベースとした様々な財団やNPOの活動が盛んであり、ドイツにおいては、商工会議所が若者の職業訓練に関して主要な役割を担う等各国の状況に応じた取組がなされており、今後、我が国において、どのような形で「公」の視点に立った職業キャリア形成支援政策を進めていくかは大きな検討課題である。



第4部 職業能力開発の基本的施策

 労働市場のインフラの充実
 産業や職業の構造的変化、技術革新の進展、働き方の多様化等の中で、働く者の職業キャリアの持続的かつ円滑な展開を実現するためには、一人一人が自らの職業生活設計に即して教育訓練の受講や実務経験等を重ね、効果的に職業能力を発揮できる環境を整備することが重要な課題である。
 こうした観点に立って、第3部2(2)で述べたように、第7次職業能力開発基本計画期間中は、キャリア形成支援、職業能力開発に関する情報、職業能力評価、多様な職業訓練・教育訓練等の労働市場のインフラ整備を通じた職業キャリア形成支援システムの整備に取り組んできたところである。
 その現状をみると、公共職業訓練における民間教育訓練機関への委託訓練の活用、職業能力評価基準の整備やキャリア・コンサルタントの養成等一定の成果がみられる。しかしながら、多様な職業訓練・教育訓練インフラの整備、企業や業界団体等のニーズを踏まえた職業能力評価インフラの整備等の課題が残されるとともに、職業キャリアの各段階における問題の深刻化への対応が急務となっている。
 このため、本計画期間においては、こうした課題に適切に対処し得る労働市場のインフラの充実を進めることとする。

(1) 多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保
 労働者に求められる職業能力が多様化、専門化するとともに、激しく変化する中で、経済社会のニーズに応じた多様な職業訓練・教育訓練の機会を提供することが求められる。
 多様な教育訓練サービスを提供する主体の育成及び活用
 今後ともOJT及び企業内におけるOFF−JTは引き続き人材育成に大きな役割を果たしていく一方、技術革新や求職者ニーズの多様化が進む中で、労働者一人一人の職業能力の開発及び向上を図るためには、企業外におけるOFF−JTや自発的な職業能力の開発及び向上が重要性を増していくものと考えられる。
 企業外におけるOFF−JTや自発的な職業能力の開発及び向上のための教育訓練サービスを提供する主体としては、民間企業、中小企業団体・業種別団体等の事業主団体、公益法人、大学・専修学校等の学校などが存在する。
 これらの主体の本来的役割、提供する教育訓練サービスの水準や価格等は多様であり、今後、そうした個々のサービスの提供主体の役割や性格に応じた育成を進めるとともに、様々な教育訓練を組み合わせることにより多様な教育訓練ニーズに対応することが必要である。特に、中小企業労働者や「非正社員」の職業キャリア形成支援を担う事業主団体や公益法人等の役割や、職業キャリアの方向付けや転換等のための長期の職業能力開発に係る大学・専修学校等の役割は大きい。
 そうした観点から、(1)教育訓練給付の講座指定に当たって、講座修了者に対する職業能力評価の状況等を勘案し、民間企業等における教育訓練の質の向上を図ること、(2)事業主団体や公益法人を教育訓練の受皿として活用すること、(3)高度な教育訓練を担う大学等を含めた、多様な民間教育訓練機関への委託訓練を積極的に実施するとともに、訓練修了者の就職実績を反映した委託費の支給等を通じ、訓練の質の向上を図ること等を推進する。

 公共職業能力開発の充実
 産業構造の変化、技術革新や求職者のニーズの多様化等に対応するため、企業の人材ニーズの変化を踏まえた職業訓練のコースの設定や中小企業等に対する職業能力開発に係る支援を進めるとともに、求職者自身のニーズを踏まえた選択を可能とする公共職業訓練の充実に取り組む。
 また、幅広い分野において求められる情報通信に関する職業能力開発や、高齢化の進展に伴い労働力需要が高まっている介護分野における職業能力開発などに必要な職業訓練・教育訓練を積極的に進める。その際、民間の活力やノウハウを最大限活用する観点から、多様な民間教育訓練機関への委託訓練を積極的に実施する。
 併せて、起業等を希望する者について、「創業サポートセンター」による相談・援助や情報提供等を推進するほか、eラーニング手法を活用した職業能力開発の推進を図るため、情報提供等の支援を行う。

 「実践型人材養成システム」の普及・定着
 改正職業能力開発促進法において、事業主等の行う職業能力開発促進の措置として追加された「実践型人材養成システム」(企業が主体となって、「教育訓練機関における理論的な学習」と「企業における有期雇用の下で行うOJT」とを組み合わせることにより、若者に実践的な職業能力を習得させる制度)の普及・定着を図る。
 具体的には、改正職業能力開発促進法に基づく指針において、訓練内容や訓練期間中の労働条件等の労働者への周知方法、教育訓練機関と事業主との連携の在り方等を示すとともに、訓練内容等に関する必要な記載事項について分かりやすいモデル契約書を作成し、その活用を促進する。
 また、「実践型人材養成システム」のうち、訓練の期間、時間数、内容等の面で若者の就職支援策として有効であるものについての認定制度や、認定事業主の取組を称揚する表示制度等について周知を図る。
 さらに、訓練生の募集を支援するとともに、カリキュラムの編成方法や修了時の職業能力評価の方法について、事業主の求めに応じて相談、援助等の支援を進める。
 同時に、中小企業や中小企業団体に対して、改正職業能力開発促進法に基づく支援措置の効果的な活用を促すとともに、当該団体としての取組や、当該団体と教育訓練機関とのコーディネートを推進する。

(2) 職業能力評価に係るインフラの充実
 専門的・技術的職業の割合の増加や職務内容の高度化・多様化などが進む中で、労働者の職業能力の適正な評価を進め、企業が求める職業能力と労働者の持つ職業能力とのミスマッチを抑制し、雇用に関する労使双方のリスクを軽減させることの重要性が増している。
 このため、職業能力評価制度について、企業内外を通じた職業キャリアの円滑な展開を図るための指針としての役割を効果的に果たすことができるよう、企業・業界団体のニーズを踏まえた整備・充実に努め、労使双方の利用を促進する。

 職業能力評価に用いられている制度の現状をみると、技能検定制度や「職業能力習得支援制度」(ビジネス・キャリア制度)等に加え、各種の資格制度、各民間企業における職能資格制度や社内検定制度等が存在しているが、これらの諸制度に統一的な基準は存在していない。
 このため、幅広い職種にわたって横断的な職業能力評価制度を整備する観点から、現在、国と業界団体等が共同し、職業能力を評価する統一的な基準として策定を進めている「職業能力評価基準」について、企業・業界団体のニーズを踏まえた一層の整備・充実を図り、様々な制度の位置付けの明確化に活用することにより、職業キャリア形成の目標を立てやすくする。

 また、技能検定制度について、企業・業界団体のニーズを踏まえた検定職種の見直し、民間機関の活力の活用等を図り、職業キャリア形成の段階に応じた受検機会の拡大に努めるとともに、技能士の活用を含め技能検定制度の一層の普及促進に努める。
 さらに、ホワイトカラーの職務分野に係る「職業能力習得支援制度」(ビジネス・キャリア制度)について、利用者のニーズを踏まえたものとなるよう見直しに努め、試験制度の整備等による職業能力評価機能の強化を図る。
 加えて、若者の就職基礎能力の向上を図るための「YES−プログラム」についても、普及促進等に努める。

(3) 職業キャリア形成に向けた情報提供体制の充実
 キャリア・コンサルティング環境の整備
 職業生活の長期化等を背景として、働く者が自ら職業生活設計を行う傾向が強まる中で、キャリア・コンサルティングの重要性は一層高まっている。
 こうした中で、利用者ニーズに見合ったキャリア・コンサルタントの養成を進めるとともに、その資質の向上や能力発揮の場の拡大を図ることが課題となっている。
 特に、ライフ・キャリア(職業・職務のみにとどまらず、家庭生活や地域活動等を含めた個人の生き方)全体の設計やメンタルヘルスなどの問題への対応も視野に入れたキャリア・コンサルティングの在り方の確立、様々な業種や規模の企業におけるキャリア・コンサルティングの普及・浸透を進めていく必要がある。

 具体的には、キャリア形成促進助成金や教育訓練給付制度の活用により、民間機関におけるキャリア・コンサルタントの養成を推進するとともに、キャリア・コンサルタントの資質の確保・向上等を図るための取組を支援する。
 また、ライフ・キャリアをめぐる知識や再就職のための活動の実施方法等、キャリア・コンサルティングを有効に進める上で必要性の高まっている様々な知識や技能について、専門家による研修等を実施するほか、メンタルヘルス等の問題を抱える者への対応に当たっては、関連分野の専門家との連携体制の整備に努める。

 なお、こうした取組については、改正職業能力開発促進法において、事業主等の行う職業能力開発促進の措置として、企業内外におけるキャリア・コンサルティングの機会の確保が明確に位置付けられるとともに、国等による援助として、キャリア・コンサルタントを含めた職業キャリア形成支援を行う者に対する講習の実施が規定されたことを踏まえて推進する。特に、企業内にキャリア・コンサルタントを配置することが困難な中小企業事業主に対しては、公的機関に配置されたキャリア・コンサルタントを積極的に活用するよう、周知や啓発を進める。
 さらに、キャリア・コンサルティングに関する好事例の労使への提供等の取組を進め、キャリア・コンサルタントの能力が発揮される環境の整備を進める。

 職業キャリアの形成に関する情報インフラの充実
 職業キャリアの円滑かつ持続的な発展を実現するためには、労働者や求職者はもとより、例えば出産・育児・介護等により職業キャリアを中断した者等、条件が整えば就業可能な潜在求職者に対する情報提供の充実を図ることも必要である。
 このため、職業キャリアの形成に関する情報を総合的に整理し、ホームページ上で提供している「キャリア情報ナビ」について、多様な働く者向けの情報を分かりやすく整理する等、情報提供等の内容や質について、利用者の立場に立った充実を図る。
 また、職業能力開発に資する取組の活性化を図るため、専修学校、職能団体等の教育・職業能力開発関係者が相互に情報交換できるシステムづくりも課題である。
 このため、諸外国における情報提供システムの整備状況等も踏まえ、企業、労働者等一般の利用者向けの情報提供だけではなく、教育・職業能力開発関係者相互の情報交換の場づくりを進めることについて検討する。


 働く者の職業生涯を通じた持続的な職業キャリア形成への支援
(1) 職業キャリアの段階に応じた支援の充実
 準備期における支援
 職業キャリアの準備期にある若者については、家庭、学校、企業、地域社会等 がそれぞれ役割を果たすとともに、相互に連携を図り、職業意識の涵養、社会人となるためのマナー等職業に必要な基礎的能力の習得を始めとする職業キャリアの準備のための支援をすることが必要である。

 このため、「若者の人間力を高めるための国民会議」において、「若者の人間力を高めるための国民宣言」が出されたことを踏まえ、若者が人間力を磨き、発揮することを通じ、職業人として自立できるよう、次のような施策を講じる。
(1) 小中高校、大学のそれぞれの段階において、職業との触れ合いや職業意識の啓発を通じ、働くことの理解を深めさせ、生きる自信と力をつけさせる。
 具体的には、児童・生徒について、学校等との連携の下、初等・中等教育段階からの職業キャリア教育の充実や職業と触れ合う機会づくりを進めるとともに、生徒・学生について、事業主等との連携の下、インターンシップや職業ガイダンスを実施する。
 また、実践的な資質のある新規学校卒業者等を対象に、現場への入職を誘導し、将来現場の中核となるための基礎を習得させるため、就労、就学と並ぶ、双方の要素を兼ね備えた第三の選択肢としての「実践型人材養成システム」の普及・定着を図る。

(2) 若年失業者やフリーター等については、その状況に応じ必要なキャリア・コンサルティングやカウンセリングを実施するとともに、「日本版デュアルシステム」を始めとする効果的な職業訓練の実施等によって、その就職を支援する。

(3) ニート状態にある者については、職業的自立を促すため、合宿形式による集団生活の中で生活訓練、労働体験等を行う「若者自立塾」による支援等を行うほか、地域における若者の自立支援機関をネットワーク化すること等により、その状況に応じた多様な支援を受けられるようにする。

(4) 若者の自立のためには、家庭、学校、企業、地域社会等の連携の下、社会全体として支援する。また、その際には若者の目線に立って自立支援・就労支援を行うNPOやそれを支える人材等を育成することが重要であることにも配慮する。

 発展期における支援
 職業キャリアの発展期においては、企業による職業能力開発に加え、労働者の自発的な職業能力の開発及び向上を支援することがますます重要である。また、職業生活の見通しがつきにくくなる中で、職業キャリアの持続可能性及び発展性をいかに確保するかが問われる。
 このため、次のような施策を講じる。
(1) 企業における労働者の職業キャリア形成支援に係る取組の推進
 経済のサービス化や知識社会化などが進展する中で、企業の競争力の源泉は、商品やサービスの付加価値を生み出す人材であり、また、職業能力開発投資を行う企業ほど、企業業績が良いという傾向が現れている。
 このため、キャリア形成促進助成金や外部の教育訓練機関に係る情報提供等により効果的なOFF−JT等を推進する。
 また、労働者に求められる職業能力の変化に対して、労働者自ら職業キャリアの形成を考え自己の職業能力を高めることが企業にとっても重要となっており、企業による職業能力開発に係る金銭面、労働時間面での配慮が可能となるよう、有給教育訓練休暇制度に加え、勤務時間の短縮措置等の導入促進に向け、助成金の活用を含めた支援を行う。
 特に、近年、20代後半から40代の事業の中核を担う労働者の労働時間が長くなる傾向が顕著であり、職業能力開発を行う時間の確保という点だけでなく、メンタルヘルス等を含め、職業キャリアの持続可能性や発展性を確保する観点から、ワーク・ライフ・バランスに係る政策や仕事の分かち合い(ワークシェアリング)に係る政策を関連行政と連携して推進する。

(2) 企業の枠を超えた職業キャリアの再構築や新たな展開
 労働者の職業キャリアの展開は、産業構造の変化や技術革新の急速な進展に加え、雇用慣行の変化や労働者の意識の変化により、企業の中にとどまらず多様化する傾向にあり、それぞれに応じた職業キャリア形成支援を行う必要がある。
 まず事業の再構築や技術・技能等の陳腐化等により、職業キャリアの中断を余儀なくされた者については、キャリア・コンサルティングを通じて、自らの職業キャリアを見通し、具体的な目標設定を行えるよう支援を行いつつ、雇用のセーフティネットとして、公的責任の下、民間教育訓練機関も活用した効果的な職業訓練の実施や職業安定機関との一層の連携強化により、早期かつ円滑な再就職の実現を図る。

 また、出産・育児・介護等の事情により職業キャリアを中断した者については、再就業に向け、休業期間中においても、企業や公的機関によるキャリア・コンサルティングを受けやすい体制の整備や職業能力開発に関する情報を活用しやすい環境の整備に努める。同時に、こうした者に対する支援を行う機関や団体との連携を密にし、職業能力開発施策に関して必要な情報が広く提供される環境を整備する。
 さらに、新たなビジネスチャンスや自己の能力発揮の場を求めて積極的に転職や起業等を希望する者に対して、「創業サポートセンター」を中心とした情報提供、相談・援助、講習等を実施するほか、職業生活の中途から全く新たな職業キャリア形成に挑戦できる社会を目指し、支援の仕組みづくりや環境整備の在り方を検討する。

 円熟期における支援
 今後の人口減少社会において、高い就業意欲を有する高齢者の活躍の場を広げることは重要な課題であり、高年齢者法に基づく高年齢者雇用確保措置等の円滑な実施やシルバー人材センターによる多様な就業機会の提供等とともに、職業能力開発施策としても、高齢者が多様な経験と熟練した技術・技能等を十分発揮できる環境づくりに努めることが求められる。

 このため、職業キャリアの円熟期を迎えた労働者に対して、企業によるライフ・キャリア全般を見据えたキャリア・コンサルティング機会の提供や、退職後の再就職・就業等に向けた準備を行うための休暇制度の導入を促進するため、キャリア形成促進助成金等による支援を行う。さらに、教育・文化・環境等の分野における地域貢献活動を希望する者が、こうした活動に円滑に移行できるよう、NPO等への委託訓練の活用を行う。加えて地域貢献分野において能力を発揮することを促す等、関連する施策等と効果的な連携を図る。

(2) 福祉から自立へ向けた職業キャリア形成の支援等
 障害者への支援
 「障害者自立支援法」(平成17年法律第123号)の成立等を受けて、福祉から雇用・就業への移行支援が強化されることにより、就職を希望する重度障害者が増加するものと予想されるが、これらの障害者に対しては、よりきめ細かな、その障害の態様に即した職業訓練支援を推進する必要がある。
 このため、障害者職業能力開発校においては、日常生活に介助を要する重度身体障害者、知的障害者、精神障害者や発達障害者等自立に向けた支援が必要な障害者に対する職業訓練の実施に重点的に取り組むこととする。特に、実雇用率に算定されることとなる精神障害者については、訓練ノウハウの蓄積と普及を図りつつ、職業訓練を拡充する。発達障害者については、まず、試行的な職業訓練に取り組み、訓練技法の確立に努める。
 一般の職業能力開発校においても、一般の訓練コースでの受講が可能な障害者を引き続き積極的に受け入れるとともに、知的障害者等を対象とする訓練コースの設置を促進することにより、居住地域の近隣での職業訓練機会の確保及び障害者職業訓練の一層のノーマライゼーションを進める。加えて、障害者の職業訓練機会の大幅な拡大の手法及び福祉部門等との連携の手法として機能している、障害者の態様に応じた多様な委託訓練を一層推進する。また、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号)の一部改正により、在宅就労が法的に位置付けられたこと等を受け、eラーニングによる情報通信技能を習得するための委託訓練を実施することにより、在宅就労を希望する障害者を支援する。
 全国障害者技能競技大会(アビリンピック)の実施に当たっては、社会の障害者の技能に対する認識を高めるため、本大会の周知・広報に積極的に取り組む。さらに、平成19年に静岡で開催される「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」に向けた職種拡大と選手強化に取り組み、障害者の技能向上への取組を支援する。

 母子家庭の母や生活保護受給者等への支援
 母子世帯や生活保護世帯等が増加傾向にあり、家事等の関連する支援を含め、その自立に向けた効果的な支援が求められている。特に、母子家庭の母については、教育訓練の受講に当たって保育面についての配慮が必要となっている。
 このため、母子家庭の母及び生活保護受給者の職業的自立等が図られるよう、子の保育の必要性等対象者の置かれた状況に配慮しつつ、積極的な職業能力開発機会の提供を図る。

 その他
 同和問題などの社会的事情等により著しく就職が阻害されている者等については、その雇用の機会を確保し、職業生活の安定を図るため、職業安定機関と密接な連携を取りつつ、公共職業能力開発施設において効果的な職業訓練の実施に努める。

(3) パートタイム労働者や派遣労働者等の職業能力開発についての環境整備
 就業形態の多様化の中で、十分な職業能力開発機会を得られない者が増加しているが、こうした状況を放置すれば、これらの者の十分な職業能力の開発及び向上が図られず、職業キャリアの持続的な発展は困難となる。
 このため、企業内においてバランスの取れた職業能力開発機会が提供されるよう、例えば、事業内職業能力開発計画におけるパートタイム労働者等の位置付けの明確化、企業内外のキャリア・コンサルタントによる相談・援助等の支援を、個々の企業の実情に応じて促す。
 さらに、労働市場のインフラの充実を図る中で、パートタイム労働者等の求職ニーズに配慮した訓練コースの設定、eラーニングを活用した教育訓練等についての情報提供、好事例の収集及び企業への提供、関連する支援策を推進している団体との連携等を進める。
 また、派遣労働者については、その職業キャリアの持続的な発展の観点に立って、派遣元事業主による職業能力開発の取組、派遣先事業主による派遣労働者の自発的な職業能力の開発及び向上への協力等とともに、業界団体等における職業能力評価に関する自主的取組を促進する。
 なお、「非正社員」の勤務実態及び職業能力開発の在り方については、本人及び企業のニーズが様々であることから、今後、国においてそれらをより詳細に把握した上できめ細やかな施策を検討する必要がある。


 雇用失業情勢や産業分野の動向に応じた職業能力開発の促進
(1) 雇用失業情勢に対応した職業能力開発
 雇用失業情勢や労働力需給の変化に的確に対応するため、事業の再構築や技術・技能等の陳腐化等により離職を余儀なくされた者に対して、雇用のセーフティネットとしての離職者に対する公共職業訓練及び職業安定機関との一層の連携強化による訓練受講生に対する一貫した再就職支援の実施により、早期かつ円滑な再就職の実現を図る。
 なお、こうした職業訓練については、地域の雇用失業情勢等に対応して機動的に実施するとともに、大量の離職者が発生したときには、迅速かつ適切な対応に努める。

(2) 産業動向等に対応した職業能力開発
 産業動向、技術革新や求職者のニーズの多様化等に対応するため、産業分野ごとの企業の人材ニーズの変化を踏まえた職業訓練のコースの設定を進める。

 ものづくり分野は、我が国産業の競争力を支える源泉であり、自ら職業能力開発を行うことが困難な中小企業を中心として、公共職業能力開発施設において、この分野の現場を担う人材の育成支援をすることは国としての重要な政策課題である。
 特に、職業訓練の展開に当たっては、製造ラインや工作機械等の生産工程の自動化・効率化、製品の高付加価値化、製品の設計から加工、生産・品質管理等複数の工程に対応できる技術・技能の要請、機械系、電子系、情報系等の技術分野の複合化といったものづくり分野の近年の動向を踏まえ、基礎的技術・技能等の鍛錬を含め、実践的な職業能力の付与や職業訓練内容の高度化・複合化等を図る。

 また、情報通信分野やサービス分野等については、今後、先端技術を活用した省力化や生産性の向上への取組が進むことが予想され、職業能力開発に当たっては、高度通信技術等の新技術の現場への応用に対する支援や新技術に対応できる人材の育成が必要である。
 こうした人材ニーズの高度化や多様化に対応して、大学、大学院等を含めた幅広い民間教育訓練機関への委託訓練の積極的な活用や企業実習を取り入れた実践的な職業能力の付与を図るとともに、就職実績を反映した委託費の支給等を通じた委託訓練の質の向上を図る。
 さらに、幅広い分野において求められる情報通信に関する職業能力開発や、高齢化の進展に伴い労働力需要が高まっている介護分野における職業能力開発等に必要な職業訓練についても積極的に進める。

 なお、産業動向や雇用失業情勢に的確に対応した職業能力開発の推進を図るため、地域における人材ニーズの把握・分析を踏まえた柔軟な職業訓練コースの見直しを図る。


 「現場力」の強化と技能の継承・振興
(1) 「現場力」の強化に向けた職業能力開発
 我が国の産業競争力の基盤となる高付加価値製品の生産や質の高いサービスの提供のために不可欠な「現場力」や、それを支える人材の育成・確保を図るための取組を総合的に推進する。
 具体的には、改正職業能力開発促進法に基づく「実践型人材養成システム」、キャリア形成促進助成金や外部の教育訓練機関に係る情報提供等による効果的なOFF−JT等を推進する。
 また、公共職業訓練において、企業の中堅を担う労働者層を主たる対象として、生産管理や安全管理等の職業能力の幅を広げるためのオーダーメイド訓練の実施、指導員の派遣、施設・設備の開放等の事業主支援を進める。さらに、ものづくり分野を中心に自ら教育訓練を行うことが困難な中小企業等に対して、民間教育訓練機関では対応が困難な職業訓練機会の提供を図る。
 また、認定職業訓練制度の下、大企業では認定職業訓練短期大学校を中心とし、中小企業では認定訓練校を中心として、その運営を通じた職業能力開発を進めているところであるが、同制度についても、必要に応じて見直しを行いつつ、現場を担う中核となる人材の育成・確保に資する制度として、その普及を図る。
 さらに、魅力ある職場、現場づくりによる人材獲得のため、労働環境の改善に取り組む中小企業事業主に対する資金や人材募集等の面での支援制度の活用を促すとともに、パートタイム労働者、派遣労働者等の業務に応じた技能評価や職業能力開発の促進について政策面からの配慮を進める。

(2) 技能の継承・発展のための施策
 技能継承を円滑に進めるためには、引き継ぐべき技術・技能等を明らかにし、団塊の世代等の定年延長や継続雇用等により、企業の中堅を担う労働者にその技術・技能等を引き継ぐとともに、若年層の現場への誘導と育成、「非正社員」の多能工化等職業能力開発の措置を一体として講ずる必要がある。
 こうしたことを踏まえ、改正職業能力開発促進法に基づく、労働者の熟練した技術・技能等の習得の促進を図るための事業主の取組として、熟練技能の体系的な管理、提供等を促す。併せて、技能継承に係る情報提供、相談・援助を行う窓口の開設、人材確保・教育訓練の取組に係るノウハウの提供や資金面の支援施策の強化に取り組む。
 また、近年、中小企業同士のネットワーク形成や、産学共同のクラスター(集積)形成等の動向が進展していることを踏まえ、職業能力開発行政においても、関係する行政機関や団体等との連携の下に、技術・技能等の交流の場の設定や公共職業能力開発施設と企業との産学連携等に積極的に取り組む。

(3) 技能の振興のための施策(技能競技大会等)
 ものづくり分野を始めとして、技能の重要性について国民各層の理解を深め、技能者の社会的評価・技能水準の向上を図るため、技能振興施策の積極的な推進を図ることが必要である。とりわけ次代を担う若者が技能の現場に対して興味を持ち、自ら進んで技能の習得に向かう環境を整備することが課題である。
 こうした課題に対応し、若者に対する技能やものづくりの振興を図るため、教育機関等関係機関との連携により、児童・生徒の段階から技能やものづくりの魅力に触れる機会をつくる。
 また、若者が目標を持って技能を競い合う機会を増やすとともに、各種技能競技大会の周知・広報と、その観戦を通じた技能振興を並行して進める。
 特に、本計画期間中には、平成19年に静岡において、世界で初めて「技能五輪国際大会」と「国際アビリンピック」を同時に開催する「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」が行われることとなっており、大会の周知・広報に努めるとともに、これを契機として、我が国社会における技能尊重気運の醸成を図るなどの積極的な技能振興等を進める。
 このほか、高度熟練技能者等を工業高校等に派遣する取組等を推進する。さらに、技能競技大会優勝者等の職業キャリアの紹介等を通じた高度技能者の職業キャリアモデルの提示や周知・啓発を図るとともに、企業内における様々な高度技能者の顕彰制度の紹介と普及を図る。


 地域貢献分野の創出と教育力の強化
 第3部4(2)で述べたとおり、地域のコミュニティは、元来、異なる世代の者が地域に根ざした様々な活動を通じて人的交流を図る場であり、高齢者に活躍の場を提供するとともに、若者が一人前になるための社会性やコミュニケーション能力を養う教育の場でもあった。
 今後、各地域において、様々な地域貢献活動が活発化することによって、同様の効果がもたらされることが期待される。
 こうした地域貢献分野に係る人材面の対策としては、これまでにも、
(1) 勤労者が在職中から、関心のある分野の社会活動に参加することにより、視野を広げるとともに、退職後の生きがいとしての就労につなげることを目的として、地域貢献分野に係る情報の提供・相談、講習、活動体験プログラム等を内容とする「勤労者マルチライフ支援事業」
(2) 求職者に対し、NPOの起業ないし雇用のために必要な知識・技能を習得するための訓練をNPO等に委託して実施する事業
(3) 中高年齢者、若者、専業主婦等がコミュニティ・ビジネスに係る起業・就労・社会参加を行うことを通じて、これらの者の自己実現と地域の活性化を目指す「コミュニティ・ビジネス支援集中モデル事業」
がある。
 今後、地域におけるこれらの事業について、
(1) 団塊の世代等の人材を幅広く受け入れる対策の強化
(2) 若者や障害者の訓練受入れ体制の整備
(3) 市町村等と連携した各種サービスをワンストップで提供する仕組み
等の観点から、事業の総合化を検討して、段階的に地域の貢献分野をつくり上げることが必要である。
 また、こうした事業の推進については、地方公共団体、NPOや公益法人等の関係者のほか、地域の企業が果たす役割も大きい。
 この外、家族、家庭の在り方が問われる中で、ニート状態にある者の保護者に対する相談・指導・助言の強化、企業におけるワーク・ライフ・バランス対策の強化等により、家庭における人を育てる環境づくりを進めることも重要である。


 国際化と職業能力開発
(1) 質の高い人材育成に向けた国際協力
 近年、グローバル化に対応した自国産業の国際競争力の強化のため、開発途上国において、人材育成を重視する機運が一層高まっていることから、今後の国際協力については、経済発展の基盤となる人材の育成・確保のためのシステムづくりに重点を置きつつ、各国における経済の発展段階に応じた協力を効率的かつ効果的に実施する。具体的には次のような施策を講ずる。
(1) 我が国との経済的相互依存関係が拡大・深化しつつある東アジアを中心に、質の高い労働力の育成・確保を図るため、「技能評価システム移転促進事業」等の事業を通じて、日系企業と連携しつつ、技能評価システムの構築・改善のための協力を行うとともに、民間の製造現場における指導者層の育成・確保を積極的に支援する。
(2) 職業能力開発分野の技術協力についても、技術協力終了後の自律発展性を高めるため、技術協力過程において相手国業界団体等との連携を積極的に図るとともに、職業能力開発や職業能力評価制度に関する政策助言及び現地政府の人材育成を重視する。また、開発途上国における職業訓練指導員等を育成するため、職業能力開発総合大学校へのこれら諸国からの留学生の受入れを積極的に推進する。
(3) 国際労働機関(ILO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の国際機関等を通じた国際協力においても、各国の職業能力開発システムが有効に機能するよう、長年の実績を有する我が国のシステムの長所や運用のノウハウを紹介することにより、国際社会に貢献する。

(2) 外国人研修・技能実習制度について
 開発途上国への技能等の移転により、その経済発展に貢献するという制度の趣旨に基づき、制度の適正な運用と見直しを検討する。具体的には、次のような施策を講ずる。
(1) 国内において、研修期間における研修手当の不払いや不適正な時間外研修等、技能実習期間における賃金不払い等、研修期間及び技能実習期間中の失踪等の事 案も一部発生していることを踏まえ、実務研修に係る法的保護の在り方等を検討 するほか、制度の周知や効果的かつ的確な巡回指導を展開すること等により、こ れらの事案の発生防止を図る。
(2) 本制度については、実習生送出国における技能移転ニーズ等から技能実習移行対象職種の拡大が要望されていること等を踏まえ、効果的かつ的確な技能移転を進めるため、技能実習移行対象職種の見直しを行う。
(3) 技能実習による技能習得の成果の検証が不十分であることから、修了時等における技能実習生の技能検定等の受検を促進するとともに、技能実習生の帰国後の状況についても可能な限りフォローアップを行い、成果の検証に努める。

(3) 企業活動のグローバル化に対する支援
 企業活動の国際化の進展を背景として、我が国企業の海外への事業展開は今後もますます活発になることが見込まれているが、特に中小企業を中心に国内外で国際業務を担うことができる実践的な職業能力のある労働者の育成が喫緊の課題となっている。
 このため、海外に展開している中小企業等を対象に、相談・援助、情報提供、セミナーの開催等により海外での事業活動に即した職業能力開発の機会を提供する「グローバル人材育成支援事業」の一層効果的な実施を図り、実践的な職業能力のある国際人材の育成を推進する。


 職業能力開発施策の推進体制の整備
(1) 公共部門と民間部門との役割分担及び連携について
 労働者の職業キャリア形成や職業能力開発に関しては、事業活動の主体である企業が事業運営上不可欠なものとして実施することが基本である。
 しかしながら、近年、企業が労働者に対して実施する職業能力開発の内容も多様化し、教育訓練をアウトソーシングする動きが顕著になっている。加えて、自発的に職業能力の開発及び向上を行う労働者の増加とあいまって、企業外の教育訓練サービスを提供する主体の役割はますます重要となっている。
 受皿となる民間の教育訓練サービスを提供する主体は、民間企業、事業主団体、公益法人、学校等が主要なものであり、サービスの水準や価格等により、その特質に応じた役割分担を行っている。
 これに対して、公共部門は、
(1) 中小企業等、自ら労働者に対する職業能力開発を行うことが困難な者に対する支援を行うこと
(2) 民間の教育訓練サービスを提供する主体がそれぞれの特質を生かして、企業や働く者のニーズに応じた教育訓練サービスを提供できるよう、育成を図ること
(3) ものづくり分野等訓練の実施経費が訓練効果と比べて膨大であるが、国家的見地からは人材育成が必要な分野における職業訓練を実施すること
(4) 離職者の早期再就職や障害者、母子家庭の母、生活保護受給者等の職業的自立に向けた職業訓練等の実施や、職業訓練の基本的な枠組みの設定を行うこと
が主な役割である。
 特に、雇用対策の一環としての離職者訓練の実施については、多様な民間教育訓練機関への委託を推進するとともに、委託訓練を含めた公共職業訓練全般について、訓練修了後の就職率等による評価を進めるほか、求人事業主と求職者それぞれのニーズを踏まえた職業訓練を推進し、公共職業訓練の効率化及び利用者サービスの向上を促進することが課題である。
 この外、労働市場のインフラの充実を図る上で、官民連携による多様な教育訓練機会の確保が必要であることから、上記のような役割分担を基本としつつ、公共部門は訓練コースの開発及び普及を行うとともに、民間における教育訓練のコーディネート等を通じた教育訓練機会の確保を図る。

(2) 官民協力による「公」の視点に立った施策の推進
 第3部の実施目標で述べたような、働く者の生涯にわたる職業キャリアの持続的発展性を確保するためには、教育訓練の実施により直接職業能力の開発及び向上を進めるだけでなく、企業・地域・家庭にまたがり、官民協力の下、公的視点から人を育成する環境を再構築する必要がある。
 例えば、働く者の職業キャリアの持続的発展を図るためには、企業において、労働者に対して職業能力開発を行うのみならず、
(1) 「日本版デュアルシステム」や「実践型人材養成システム」のように、若者に対して幅広く教育訓練機会を提供すること
(2) 育児・介護と仕事の両立を始め、ワーク・ライフ・バランスに対する配慮や、仕事の分かち合い(ワークシェアリング)を進めること
等について、積極的に取り組むことが期待されるが、こうした取組を行う企業を積極的に評価し、支援する仕組みを官民の協力の下、つくり上げていくことが求められる。
 また、地域における人材育成力を再構築するためには、地方公共団体と地域のNPOを含めた公益団体や企業との連携や、必要に応じ国等の支援が不可欠である。具体的には、地方公共団体が主導しつつ、団体の協力と国等の支援の下に、地域貢献分野を担う人材の育成、情報の提供や就労環境の整備等を図ることが考えられる。また、企業においても、地域に貢献する存在として、労働者に対するボランティア休暇の付与や時間面での配慮や、地域行政に対する協力を行うことが望まれる。

(3) 国と地方公共団体との役割分担及び連携について
 国と地方公共団体における職業能力開発施策には、次のような役割の相違があり、この相違を踏まえた施策の推進が求められる。
 国は、雇用対策の観点から、セーフティネットとしての離転職者の早期再就職を図るための職業訓練を行い、また、高度・先導的な職業訓練を開発し普及させるとともに、自ら当該教育訓練を実施する。
 一方、地方公共団体は、地域産業の人材ニーズや職業訓練ニーズをきめ細かく把握しつつ、これに対応した職業訓練を行う等、地域の実情に応じた職業能力開発を推進する役割を担い、地方公共団体としての産業施策や福祉施策と一体となり、関係機関との連携を図りつつ、雇用の創出や安定に向けた取組が期待される。

 こうした国と地方の役割分担を踏まえつつ、効果的な職業能力開発行政を推進するため、両者は密接に連携を図り、職業訓練コースの設定等について必要な調整を行うものとする。
 特に、若者、障害者、母子家庭の母、生活保護受給者等に対する職業能力開発施策については、都道府県のみならず市町村も含め連携を進めること等により、これらの者の地域における職業的自立の促進を図る。

(4) 関連する諸施策との連携
 今後、幅の広い職業キャリア形成支援政策の推進を図るに当たり、次のように関連施策との連携の強化を図る。
 第一に、職業能力開発施策は、職業安定施策とあいまって雇用対策の一環を成すものであり、密接な連携が必要である。このため、公共職業能力開発施設は、雇用のセーフティネットを担う機関として、雇用失業情勢や労働力需給に的確に対応した職業訓練を実施するとともに、職業訓練に当たっては、職業安定機関はもとより、地元企業や社会福祉施設等関連機関とも連携しつつ、職業訓練受講者に対して、その態様に応じた訓練の受講から再就職に至るまでの一貫した取組を一層充実していく。

 第二に、働く者全般を対象として生涯にわたる職業キャリア形成支援政策を展開するため、次の点を重点的に推進する。
(1) 職業意識の啓発やインターンシップの実施、更にはニート状態にある者やフリーター対策、「実践型人材養成システム」等の若者の職業キャリア形成支援に係る教育施策や産業施策との連携
(2) 大学、大学院等において行われる高度かつ実践的な教育の活用に向けた教育施策との連携
(3) 障害者、母子家庭の母、生活保護受給者等について職業的自立に向けた職業能力開発を行う際の教育、福祉、医療等の関連施策との連携
(4) 起業や、雇用から自営への移行等を希望する者について、職業キャリア形成支援を進めるための産業施策等との連携

 第三に、生涯にわたる持続可能な職業キャリアの発展を図るためには、青少年期における家庭や地域の教育力の強化、高齢者の体力や能力に応じた就業形態の普及や地域における活躍の場の創出等が重要課題であり、市町村行政等との協力・連携を進めることが不可欠である。

 なお、上記政策の展開に当たっては、官民協力により施策を推進することが前提であり、企業の枠を超えた、労働組合や事業主団体を始めとする諸団体の役割が重要である。

(5) 政策評価を通じた効率的な施策の推進
 政策評価については、各種施策を効率的かつ効果的に実施するために、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき実施することとされている。厚生労働省においても同法に基づき定められた「厚生労働省における政策評価に関する基本計画」に基づき、職業能力開発政策についても、個別の施策ごとに政策評価を実施している。
 こうした政策評価を行うに当たっては、事業の検証に必要な情報収集体制の整備に努めつつ、より効率的かつ効果的な施策を講じることができるよう、事業ごとに施策の利用状況や利用者のニーズの状況等を踏まえた上で、個々の訓練コースの設定や見直し等事業の見直しに努める。
 なお、職業能力開発施策のうち雇用保険三事業として実施されている事業については、いわゆる「PDCAサイクル」による目標管理を行っているが、こうした手法をも考慮しつつ、職業能力開発施策全般について、より効率的かつ効果的な事業の実施に努める。

(6) 施策の周知・広報
 職業能力開発に関する情報には、法令や職業能力評価制度に関するもののほか、職業能力開発施設におけるコースの設定の状況や助成金制度等各種支援策に関するもの、窓口等の所在案内や支援策の活用に係る好事例に関するもの等様々なものがある。これまで、職業能力開発施策に関する周知・広報については、毎年11月を「職業能力開発促進月間」、同月10日を「技能の日」として、この期間を中心に実施される諸行事を活用するとともに、施策ごとにポスターやリーフレットの作成、ホームページの活用等により実施している。
 今後、職業能力開発に対する関心を高め、理解を深めるとともに、制度や各種支援策の活用を図るためには、平成19年に静岡にて開催する「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」等各種技能競技大会を積極的に活用するほか、施策に関する各種の情報について、企業や働く者が利用しやすいものとなるように提供することが重要である。
 このため、職業能力開発に関する基本的な情報を整理し、それらの情報の提供を受けるための窓口の利用を含め、施策の対象となる者に幅広く行き渡るよう、その多様な状況に配慮しつつ周知・広報を行う。
 その際、国や地方公共団体だけではなく、労働組合、事業主団体、職能団体、NPO等の関係団体等に広く協力を得つつ、効果的な周知・広報を行うことに努める。


【照会先】厚生労働省職業能力開発局 総務課 企画係 (内5313)

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