医療制度構造改革試案の概要

平成17年10月19日
厚生労働省






本試案は、医療制度の構造改革について、「医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し、達成のための必要な措置を講ずる」とする「骨太の方針2005」に対応しつつ、平成15年3月の「医療制度改革の基本方針」を具体化することを目指し、国民的議論を進めるためのたたき台である。






【基本的な方向】
 医療制度の構造改革の基本方針
(1) 生命と健康に対する国民の安心を確保するため、国民皆保険制度を堅持する。
(2) 制度の持続可能性を維持するため、経済指標の動向に留意しつつ、予防を重視し、医療の質の向上・効率化等によって医療費の適正化を実現し、医療費を国民が負担可能な範囲に抑制する。
(3) 医療費に係る給付と負担の関係を、老若を通して公平かつ透明なものとする。

 医療費適正化の進め方
(1) 医療費適正化の方策としては
(1)  生活習慣病対策や長期入院の是正のように、国民の生活の質(QOL)を確保・向上する形で医療そのものを効率化し、医療費の伸び率を徐々に下げていく中長期的な方策と、
(2)  公的保険給付の内容・範囲の見直し、診療報酬改定等により、公的医療保険給付費の伸びを直接的に抑制する短期的な方策がある。

(2) 健康に対する安心の確保は国民の強い要請であり、医療の構造に即した中長期的な方策が必要であるが、こうした中長期的な方策は直ちには効果が現れてこないため、国民的な合意を得つつ、公的保険給付の内容・範囲の見直しを始めとする短期的な方策も組み合わせていくことが必要となる。

(3) 中長期的な医療費適正化方策を進めていく際には、国、都道府県、市町村を含めた医療保険者、事業者、被保険者、医療機関、医療従事者、患者といった関係当事者が全員参加し、連携・協力の下でそれぞれの役割を果たしつつ、具体的な取組を推進していくことが必要である。


I  予防重視と医療の質の向上・効率化のための新たな取組
 生活習慣病を中心とした疾病予防を重視するとともに、医療計画の見直しなどによる総治療期間(在院日数を含む)の短縮等により、地域ごとに患者本位の医療提供体制を確立する。

(1) 生活習慣病予防のための本格的な取組
 糖尿病・高血圧症・高脂血症の予防に着目した健診及び保健指導の充実等
 国が示す基本方針の下で、都道府県健康増進計画において、糖尿病・高血圧症・高脂血症(以下「糖尿病等」という。)の患者・予備群の減少率や健診・保健指導実施率の目標を示し、その達成に向けた、医療保険者、都道府県、市町村等の連携促進を図る。
 運動習慣、食生活、喫煙等に関する取組を強化する。
 生活習慣病予防や介護予防を国民運動として展開するため、健やか生活習慣国民運動推進会議(仮称)を設置する。

(2) 患者本位の医療提供体制の実現
 医療計画制度の見直し等
 地域の医療機能の分化・連携を進め、患者の生活の質(QOL)向上に向けて総治療期間(在院日数を含む)短縮のため、(1)脳卒中対策、がん対策等の主要事業ごとの医療連携体制の構築、(2)脳卒中、がん等の年間総入院日数、在宅での看取り率等の数値目標の導入を内容とする医療計画の見直しを行う。

II  医療費適正化に向けた総合的な対策の推進
 医療費適正化計画に基づき、関係当事者の参加による中長期的な医療費適正化を進めるとともに、公的保険給付の内容・範囲の見直し等の短期的な方策を組み合わせ、国民的合意を得ながら医療費の適正化に強力に取り組む。

(1) 中長期的な医療費の適正化
 都道府県医療費適正化計画の策定、実施、検証、実施強化、実績評価
 中長期的な医療費の適正化を行うため、国が示す参酌標準の下で、医療費適正化の政策目標を定めた医療費適正化計画(仮称)(計画期間5年)を都道府県が策定・実施し、定期的に検証して、実績を評価する。
(政策目標)糖尿病等の患者・予備群の減少率、平均在院日数の短縮日数
 政策目標の実現の効果としての将来医療費の見通しも記載する。
 国は、これらの政策目標の実現に資するよう、診療報酬体系の見直しや必要な財政措置を行い、都道府県や関係者の取組を支援するとともに、医療保険財源を活用した病床転換に対する支援を講ずる。
 都道府県は、糖尿病等の予防対策に関する政策目標を達成するため、医療保険者への指導又は助言、保険者協議会での関係者間の調整等を行うとともに、平均在院日数に関する政策目標を達成するため、在宅での看取り等の推進や病床転換への支援等を図る。

 医療保険者による保健事業の本格実施
 医療保険者に、被保険者・被扶養者に対する糖尿病等の予防に着目した健診・保健指導の事業について、目標を立て、実施することを義務づける。
 自営業者等の健診については、現行の老人保健事業の実態を踏まえ、公費による市町村国保等への財政支援を行う。

 実績評価措置
 政策目標の実施状況を踏まえ、都道府県・医療保険者の費用負担の特例や都道府県ごとの特例的な診療報酬の設定等の実績評価措置を講ずる。

(2) 公的保険給付の内容・範囲の見直し等
 高齢者の患者負担の見直し
 現役並みの所得を有する70歳以上の者の患者負担については、3割負担とする。(平成18年10月目途実施)
 後期高齢者(75歳以上)の患者負担については、現行どおり1割負担とし、前期高齢者(65〜74歳)については、2割負担とする。ただし、現役並みの所得を有する者は3割負担とする。
(別案)  前期高齢者・後期高齢者双方とも、一般は2割負担、現役並みの所得を有する者は3割負担、後期高齢者のうち、低所得者は1割負担とする。
(注)  この他に、65歳から69歳までの者は現行の3割負担を維持しつつ、70歳以上の者について、一般は2割負担、現役並みの所得を有する者は3割負担、低所得者は1割負担とする案がある。
 税制改正に伴い、新たに現役並みの所得を有する者に該当する70歳以上の者の患者負担については、2年間、高額療養費の自己負担限度額を一般の者の水準に据え置く。(平成18年8月より実施)

 保険給付の内容・範囲の見直し
 低所得者に対する配慮を行いつつ、療養病床に入院する高齢者の食費及び居住費の負担を見直す。(平成18年10月目途実施)
 高額療養費の自己負担限度額の水準を見直す。(平成18年10月目途実施)また、高額医療・高額介護合算制度を設ける。
 傷病手当金、出産手当金及び埋葬料の支給要件、水準を見直す。(平成19年4月目途実施)また、出産育児一時金の水準について検討する。

 保険運営効率化の取組
 ITを活用した医療保険事務の効率化を図る。
 審査支払機関による審査の充実等を図る。

 保険料賦課の見直し
 標準報酬月額の上下限の範囲の拡大等を行う。(平成19年4月目途実施)

III  都道府県単位を軸とする医療保険者の再編統合等
 保険財政運営の規模の適正化、地域の医療費水準に見合った保険料水準の設定のため、保険者について、都道府県単位を軸とした再編・統合を推進する。これにより、保険財政の安定化を図り、医療費適正化に資する保険者機能を強化する。

(1) 国民健康保険
 小規模保険者の保険運営の広域化を図るため、都道府県が積極的な役割を果たす。
 都道府県単位での保険運営を推進するため、保険財政の安定化と保険料平準化を促進する観点から共同事業の拡充を図るとともに、保険者支援制度等の国保財政基盤強化策について、公費負担の在り方を含め総合的に見直す。(平成18年度より実施)

(2) 政府管掌健康保険
 平成20(2008)年10月を目途に、国とは切り離した全国単位の公法人を保険者として設立する。
 都道府県単位の財政運営を基本とし、都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料を設定する。
 適用・保険料徴収の事務は、新たに設立される公的年金の運営主体において実施する。

(3) 健康保険組合
 同一都道府県内の健保組合の再編・統合の受け皿として、企業・業種を超えた地域型健保組合の設立を認める。(平成18年10月目途実施)

IV  新たな高齢者医療制度の創設
 高齢者の心身の特性、生活実態等を踏まえ、新たな高齢者医療制度を創設する。具体的には、75歳以上の後期高齢者の医療の在り方に配慮した独立保険を創設するとともに、65歳から74歳の前期高齢者については、予防を重視して国保・被用者保険といった従来の制度に加入しつつ、負担の不均衡を調整する新たな財政調整の制度を創設する。

(1) 後期高齢者医療制度(75歳以上)
 後期高齢者の保険料(1割)、国保・被用者保険からの加入者数に応じた後期高齢者医療支援金(仮称)(約4割)及び公費(約5割)を財源とする新たな独立保険を創設する。また、併せて所要の患者負担を設けるものとする。
 また、世代間の負担の公平化を図るため、今後、後期高齢者の増加等を勘案して後期高齢者の保険料総額の割合を高め、現役世代の負担の軽減を図る。
 後期高齢者一人ひとりに、応益+応能の保険料負担を求める(一人当たりの平均的な保険料水準は現行とほぼ同じで年間7万円程度)。低所得者に対する適切な軽減措置を講ずるなど、現行の国保の仕組みを踏まえて制度を設計する。
 運営主体は市町村とした上で、財政リスクを分散・軽減するため、次に掲げる保険運営の安定化措置を講ずる。
2年を単位とした財政運営の導入
保険基盤安定制度(低所得者の保険料軽減分を公費で支援)
高額医療費再保険事業(高額な医療費に係る都道府県レベル、全国レベルの再保険事業)
財政安定化支援事業(保険料の未納、給付の見込み違い等に対し貸付・交付を行う基金を設置)
保険料の特別徴収(年金天引き)を実施する。
 公費負担については老人保健制度と同様(給付費の5割等)とする。
 後期高齢者の診療報酬について、終末期医療の評価、在宅での看取りまでの対応の推進、入院による包括的なホスピスケアの普及等、後期高齢者の心身の特性等にふさわしい体系を構築する。

(2) 前期高齢者医療制度(65〜74歳)
 国保・被用者保険といった従来の制度に加入することとするが、前期高齢者の偏在に伴う給付費(前期高齢者に係る後期高齢者医療支援金(仮称)を含む)の不均衡については、国保・被用者保険の各保険者が加入者数に応じて負担する財政調整を行う。この際、現行の退職者医療制度と異なり、所要の公費負担を行う。
 国保加入の前期高齢者についても、保険料の特別徴収(年金天引き)を実施する。

(3) 経過措置
 平成26(2014)年度までの間における65歳未満の者を対象として、その者が65歳に達するまでの間、経過的に現行の退職者医療制度を存続させる。

V  診療報酬体系の在り方の見直し等
 患者本位の医療を更に推進するため、診療報酬と医療政策上の要請との関係を明らかにするとともに、診療報酬決定プロセスを透明化する。

(1) 診療報酬体系の在り方の見直し
 平成18年度改定において、(1)平均在院日数の短縮の促進、(2)医療機能の分化・連携の促進、(3)終末期対応も含めた在宅医療の推進等について検討する。

(2) 薬剤に係る給付の見直し等
 平成18年度改定等において、後発品の使用促進のための仕組み等について検討する。

(3) 保険診療と保険外診療との併用の在り方の見直し(いわゆる「混合診療」への対応)
 現行の特定療養費制度を、「将来的な保険導入のための評価を行うかどうか」の観点から、「保険導入検討医療(仮称)」(保険導入のための評価を行うもの)及び「患者選択同意医療(仮称)」(保険導入を前提としないもの)に再構成する。

(4) 中央社会保険医療協議会(中医協)の見直し
 委員構成の見直し等を行う。

VI  施行時期(主なもの)
(1)  平成18年4月適用
 ・  国保財政基盤強化策
(2)  平成18年10月目途
 ・  70歳以上の現役並みの所得を有する者の負担の見直し等
 ・  「保険導入検討医療(仮称)」等の制度化
 ・  中医協の見直し
 ・  国保における共同事業の拡充
 ・  地域型健保組合の創設
(3)  平成19年4月目途
 ・  現金給付の見直し
(4)  平成20年度目途
 ・  新たな高齢者医療制度の創設
 ・  政管健保の公法人化(10月目途)

〔総括〕 医療費適正化方策について

 ・  平成27(2015)年度、平成37(2025)年度の医療給付費について、厚生労働省の現行見通しと、この試案で示した医療費適正化の中長期的方策及び短期的方策による効果額を示した。

 ・  今後、医療費適正化の方策・規模については、各般の議論を行い、平成17年中に結論を得ることとする。


  平成18年度
(2006年度)
平成27年度
(2015年度)
平成37年度
(2025年度)
「社会保障の給付と負担の見通し」に即した現行制度ベース 28.3兆円 40兆円 56兆円
  対 国民所得比 7.3% 8.7% 10.5%
対 GDP比 5.4% 6.4% 7.7%

  平成27年度
(2015年度)
平成37年度
(2025年度)
中長期的方策
(生活習慣病対策、平均在院日数の短縮)
▲2.0兆円 ▲6兆円
短期的方策
(高齢者自己負担、高額療養費制度、食費・居住費、現金給付の見直し)
▲0.6兆円 ▲1兆円
合計 ▲2.6兆円 ▲7兆円
上記の中長期的方策及び短期的方策を講じた場合の医療給付費 37兆円 49兆円
  対 国民所得比 8.1% 9.1%
対 GDP比 6.0% 6.7%
別案  前期・後期高齢者2割負担(現役並み所得を有する者は3割負担、後期高齢者のうち低所得者は1割負担)
▲0.8兆円 ▲1.3兆円
 (注) 65〜69歳の者は現行どおり3割負担とし、70歳以上の者は2割負担(現役並み所得を有する者は3割負担、低所得者は1割負担)
▲1.0兆円 ▲1.4兆円

(参考)
 経済財政諮問会議における民間議員が、経済の規模に応じて医療費を適正化する考え方の下で提案した、高齢化修正GDPによる管理指標に基づいて厚生労働省で試算すると、平成37(2025)年度において、医療給付費42兆円、国民所得比7.8%(GDP比5.8%)となる。

  平成27年度
(2015年度)
平成37年度
(2025年度)
経済財政諮問会議民間議員提案(※) 35兆円 42兆円
  対 国民所得比 7.7% 7.8%
対 GDP比 5.7% 5.8%
 ※ 「経済財政諮問会議民間議員提案」は、経済財政諮問会議民間議員提案の「高齢化修正GDP」(名目GDP成長率+(65歳以上の人口の増加数)/全人口(前年度))を基に厚生労働省が試算したもの。

 また、これまでの経済財政諮問会議の議論、社会保障の在り方懇談会の議論等において提案されている様々な案の中で、医療費削減効果の機械的な試算が可能なものを試算すると、表に掲げるとおりとなる。

  平成27年度
(2015年度)
平成37年度
(2025年度)
入院時の食費・居住費負担の見直し ▲0.5兆円 ▲0.7兆円
保険免責制の創設 外来受診一回当たり1,000円 ▲3.2兆円 ▲4.0兆円
外来受診一回当たり500円 ▲1.9兆円 ▲2.3兆円
診療報酬の伸びの抑制 ▲3.7兆円 ▲4.9兆円※※
 ※  平成27(2015)年度までに合計▲10%とした場合。
 ※※  平成37(2025年度までに合計▲10%とした場合。

(注)  表中の対国民所得比及び対GDP比は、「平成17年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」における平成17年度の国民所得及びGDPを基として、その後は「社会保障の給付と負担の見通し(平成16年5月推計)」の名目国民所得の伸び率(平成18(2006)年2.1%、平成19(2007)年2.4%、平成20(2008)年2.8%、平成21(2009)〜22(2010)年1.9%、平成23(2011)年以降1.6%)により伸びるものとして推計したもの。



医療費適正化の効果

医療費適正化の効果のグラフ
(注1)  医療給付費の( )内は対国民所得比。〔 〕内は対GDP比。 GDPの伸び率は、平成18(2006)年2.1%、平成19(2007)年2.4%、平成20(2008)年2.8%、平成21(2009)〜平成22(2010)年1.9%、平成23(2011)年以降1.6%として推計
(注2)  「現行制度」は、平成18年度概算要求を起算点とし、平成16年5月の「社会保障の給付と負担の見通し」に即して推計したもの。

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