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3.児童虐待防止対策について

 全国の児童相談所に寄せられる虐待の相談処理件数は、ここ数年急増していたが、平成14年度においては23,738件で前年度に比べ若干の増加にとどまっている。これは市町村における虐待防止ネットワークなど地域における虐待防止に向けた取組が定着してきたことなども一因と考えられるが、このことが直ちに虐待の発生が収束傾向に入ったことを意味するものではない。
 現状は依然として、児童相談所の職権による一時保護の増加など、困難なケ−スの増加、また、児童養護施設等に入所する児童に占める、虐待を受けた児童の入所の割合も増加しているなど、児童相談所や児童福祉施設などの関係機関においては様々な取り組みを行っているものの、大変厳しいものであり、児童虐待への対応は、早急に取り組むべき社会全体の課題である。

(1 )児童虐待防止対策の充実について
 児童虐待問題が依然として深刻な早急に取り組むべき社会全体の課題であるとの認識の下、児童虐待防止法がその附則において「法律の施行後3年を目途とした見直しの検討」を求めていることをひとつの契機として、今後の児童虐待防止に向けた対応のあり方を検討するため、平成14年12月に社会保障審議会児童部会の下に「児童虐待の防止等に関する専門委員会」を設置し、平成15年6月18日に報告書がとりまとめられた。同報告書において、今後の児童虐待防止対策のあり方の基本的な考え方は以下のように整理された。
 予防から自立までの切れ目ない支援
 待ちの支援から支援を要する家庭への積極的アプローチに転換
 家族再統合・家族養育機能の再生を目指し、親も含めた家族を支援
 虐待防止ネットワークなど市町村の取り組みを強化

 さらに、同報告書における議論を踏まえ、児童虐待への対応という観点のみならず、広く要保護児童および要支援家庭に対する支援を含めた観点からそのあり方についてさらに議論を深めるため、「児童福祉施設の体系や里親のあり方」については、平成15年5月に児童部会の下に「社会的養護のあり方に関する専門委員会」を設置し、同年10月27日に報告書が取りまとめられるとともに、児童相談所のあり方や市町村の役割についても、同年5月以降、児童部会において検討を重ね、市町村を児童に関する相談をまず受け止める機関と位置づけ、都道府県(児童相談所)の役割を要保護性の高い困難事例への対応や市町村に対する後方支援に重点化するなどとした報告書が同年11月に取りまとめられた。

 この報告書を踏まえ、議員立法による見直しが検討されている児童虐待防止法の改正にあわせ、児童虐待などの児童と家庭をめぐる諸問題に適切に対応できるよう、児童相談体制の強化及び児童福祉施設・里親のあり方等の見直しを行う児童福祉法の一部を改正する法律案(仮称)を次期通常国会に提出する予定である。

(2 )予防対策の充実について
 虐待の発生を予防していくためには、「養育力の不足している家庭」を早期に確実に把握し、その上で子どもの立場に立って必要な支援を必要な時に行うことが重要である。
 そのためには、従来の母子保健事業(新生児訪問・乳児健診等)や、児童相談の窓口のみならず、例えば、保育所の入所申請窓口や児童扶養手当申請窓口等、今まで直接的には虐待と関わりの薄かった、しかし、そうしたおそれのある家庭と接する機会のある機関においても、虐待に関する理解を深めていただく等、積極的な把握のための工夫をお願いしたい。
 また、虐待をした保護者の中には治療意欲が乏しく、他者に対する根強い不信感などから、対人接触を図ろうとしない者もいる。このため、通所型の支援では限界があり、専門家などによる訪問型の支援が必要となっている。
 特に、出産後間もない時期の養育者は精神的にも肉体的にも過重な負担がかかりやすいことから、この時期に効果的に手厚い支援を行うことが、虐待予防に有効と考えられる。
 このため、平成16年度予算案において、出産後間もない時期に様々な原因で養育が困難になっている家庭等に対して子育てOB等による育児・家事の援助や、保健師、保育士等の専門職による具体的な育児に関する技術支援を行う訪問型育児支援サービス(育児支援家庭訪問事業)を創設することとした。
 都道府県におかれては、本事業を活用し、従来の障害・病気・ひとり親等を根拠とした育児支援の枠に捕らわれることなく、支援が必要な場合に、柔軟にサービスが提供できるよう積極的に本事業を活用されたい。
 なお、必要な家庭に効果的なサービスを提供していくためには、養育力の不足を的確に判断する指標が必要であり、本事業の実施要綱に併せて、参考としていただけるような指標をお示ししたいと考えている。

(3 )早期発見・早期対応体制の充実について
 児童相談所及び市町村の役割等の見直しについて
次期通常国会に提出を予定している「児童福祉法の一部を改正する法律案(仮称)」においては、
 (1)市町村を児童に関する相談をまず受け止める機関と位置付けるとともに、児童相談所の役割を要保護性の高い困難な事例への対応や市町村に対する後方支援に重点化すること、(2)政令で定める市は児童相談所を設置できることとすること、(3)地方公共団体に要保護児童等に関する情報の交換及び支援内容の協議を行う協議会を設置できることとし、その運営等に関し必要な規定を整備すること等を内容としている。
 都道府県においては、児童相談体制の強化を図るとともに、市町村での相談支援活動が円滑に実施できるよう、積極的な取組をお願いする。

 児童相談所の体制強化について
(ア )地方交付税における児童福祉司等の配置
 児童相談所において児童虐待等の対応の中心となる児童福祉司の配置については、各自治体において児童虐待への迅速な対応ができるよう積極的な配置にご努力いただいているところであるが、施設入(退)所後の家族支援や在宅指導等に充分な対応が出来ていない状況も見受けられるので、児童福祉司の増員はもとより、心理判定員等の増員についても積極的な対応をお願いする。
 特に、児童福祉司の配置が地方交付税積算基礎の基準に満たない自治体が見受けられるので、該当する自治体におかれては児童相談体制について検討を行い、必要な措置を講じて頂くことをお願いする。
 平成15年度の地方交付税積算基礎における児童福祉司の人数は標準団体当たり23人であり、さらに、平成16年度についても増員の要望を行っているので御了知願いたい。

(イ )要保護児童に関する司法関与について
 児童虐待防止対策等の充実・強化を図るため、保護を要する児童等に対する家庭裁判所の関与が求められていることを踏まえ、児童福祉法の一部を改正する予定である。
(例)
 (1)  家庭裁判所の承認に基づく親の意に反して行う児童福祉施設への入所措置については、期限付き(2年)のものとし、措置継続の際には再審査を実施
 (2)  児童の保護者に対する児童相談所による指導措置について、家庭裁判所が関与する仕組みの導入

(ウ )児童虐待防止のためのネットワークについて
 児童虐待防止の機能を持つ市町村域でのネットワークの設置数は、平成15年6月現在において、全国3,209市町村の30.1%にあたる967か所と、平成14年度の同時期に比べ265か所(対前年度比37.7%)の増加となっており、市町村域でのネットワークの整備が着実に進んでいる。
 また、今回新たに、児童虐待防止ネットワークの目的を「発生予防」「早期発見・早期対応」「保護・支援」の3つに分けて調査したところ、576か所(59.6%)は、予防から早期発見・早期対応、保護・支援までのすべての段階での支援にネットワークを活用することとしており、ネットワークの有効性が認識されてきていることがうかがえる。
 このネットワークの活用による児童虐待の防止を一層促進するため、ネットワーク設置の根拠を児童福祉法に定めることとしている。これにより、要保護児童・家庭の状況の把握や関係機関相互の情報の交換等が容易になるものと考えているので、管内市町村に対し、児童虐待防止ネットワーク設置に向けた働きかけをお願いする。
 また、新たに立ち上げられた市町村ネットワークが軌道に乗るためには、児童相談所等都道府県の支援が極めて重要との指摘もあり、協力をお願いしたい。
 なお、ネットワークの参加機関については、現場の機関等では、教育委員会(87.6%)、保育所(85.2%)、児童相談所(78.0%)、警察署(71.7%)、小・中学校(77.7%・71.3%)の参加が高い。団体や専門職では、民生・児童委員協議会(76.7%)、医師会(39.4%)、社会福祉協議会(26.5%)の参加が高いが、広範な視点からの対応が重要であり、関係機関のより積極的な参加が望まれる。
 さらに、主な活動内容の割合では、代表者会議の開催が最も多く、714か所(73.8%)で開催していた。また、更に一歩進んで個別具体的なケースについての対応を検討する事例検討会については、 608か所(62.9%)で開催されていた。まず、相互に連携を取り合う場という意味で代表者会議は一定の意義を有するが、さらに一歩進んで事例検討にまで進んでいただくことが重要であり、この点についても、管内市町村及び関係機関、団体等への一層積極的な指導をお願いする。

(エ )子育て支援総合推進モデル事業(都道府県事業)の創設
 虐待の困難事例の増加に対応するため、児童・家庭に関する相談を、まず市町村が担うこととした上で、都道府県(児童相談所、保健所等)が専門性を踏まえた市町村のバックアップを行う体制を整えることとしている。
 このため、児童相談所における専門性のより一層の確保・向上等を図り、相談機能を強化することが必要であることから、児童相談所が地域の医療、法律その他の専門機関や職種の協力を得て、高度で専門的な判断が必要となるケースへの対応が可能な体制を確保する等の事業を10か所の自治体でモデル事業として実施することとしているので、事業の実施に向けた積極的な検討をお願いする。

(4 )自立に向けた保護・支援・アフターケアの充実について
 平成15年10月に「社会的養護のあり方に関する専門委員会報告書」で報告されている、里親制度の拡充・施設のあり方の見直し・年長児童に対する支援についての平成16年度予算案は以下の通りであるので、都道府県等におかれても所要の予算の確保に努められたい。

 里親制度の拡充について
 里親制度は、養育に欠ける児童を温かい愛情と正しい理解を持った家庭の中で養育する、児童の健全育成を図る上で大変有意義な制度である。
 平成14年10月より「里親の認定等に関する省令」及び「里親が行う養育に関する最低基準」を定め、専門里親の創設、親族里親の創設、短期里親の運用の弾力化を実施し、制度の普及啓発に努めているところである。
 さらに、平成16年度予算案では、里親の養育負担を軽減するため、児童相談所において研修の上登録された者を、里親からの援助の求めに応じて派遣する里親養育援助事業を創設するとともに、里親自身の養育技術の向上等を図る里親養育相互援助事業を実施する。
 また、専門里親に対する専門的な研修(応用研修)の実施か所数の増を図ることとしたので、里親の一時的な休息のための援助(レスパイト・ケア)など既存の里親支援事業と併せ、積極的な取り組みをお願いする。

 施設のあり方の見直しについて
 近年の児童虐待等児童をめぐる環境は一段と厳しさを増しており、虐待を受けた児童が他者との関係性を回復させることや愛着障害に陥った児童等のケアをするためには、より家庭的な生活環境を可能とするケア形態の小規模化やケア担当職員の質的・量的充実が必要である。
 平成16年度予算案において、ケア形態の小規模化については、虐待を受けた児童を家庭的な環境の中で養育する地域小規模児童養護施設の拡充(40か所→100か所)や児童養護施設において小規模なグループによるケアを行う体制を整備し、これに対応した職員を配置することとしている。
 これにより、「地域小規模児童養護施設」とあわせ全児童養護施設に小規模ケアの実施が可能となる体制を整えたので、積極的な取り組みをお願いする。
 また、ケア担当職員の質的・量的充実については、施設入所前から退所まで、更には退所後のアフターケアに至る総合的な家族調整を担う家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)を全ての児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設に配置することとした。また、虐待を受けた児童の施設入所の増加に対応するため、従来より定員50名以上の児童養護施設に配置していた被虐待児個別対応職員の配置の拡充を図り、全ての児童養護施設、母子生活支援施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設に配置する予算を確保したので、配置の促進について積極的な取り組みをお願いする。

 年長児童に対する支援について
 児童養護施設等を退所した子どもなどの自立を促していくためには、生活拠点の確保と就労支援が重要である。
 平成16年度予算案では、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)のか所数の増(19か所→40か所)を図るとともに、自立援助ホームが行う就労先の開拓や住居の確保等対外関係調整業務について一層の体制整備を図るため、対外関係調整事業を創設することとしたところであるので、積極的な取り組みをお願いする。
 また、施設退所児童等の自立に資するため、生活福祉資金制度を活用して、退所後の児童がアパートを借りる際の当面の賃借料や就学に必要な資金等の貸付を行うこととしている。
 既に生活拠点の確保を図るために全国にある雇用促進住宅の入所要件を緩和したり、就労支援として施設の求めに応じてハローワーク職員が児童福祉施設を訪問し、個別的な就労相談、説明を行う仕組みを整えたところである。(平成15年10月31日雇児発第103102号通知・平成15年10月17日雇児福発第1017001号通知)
 これら既存施策と併せ、積極的な取り組みをお願いする。

(5 )日本虐待・思春期問題情報研修センター(通称:子どもの虹情報研修センター)について
 子どもの虹情報研修センター(横浜市戸塚区)は、児童虐待や非行・暴力等の思春期問題に対応するため、第一線の専門的援助者の養成と、高度専門情報の集約・発信拠点となるナショナルセンターとしての機能を担うものとして、平成14年4月に設立された。
 この間、児童相談所や児童福祉施設等関係機関職員を対象とした各種専門研修や研究、相談を実施しているところ。
 今後さらに、分野別、機関別の研修のみでなく、各分野や機関の職員の協働が図られるような合同研修の工夫及び、専門研究や相談体制等の充実を図ることとしている。
 各都道府県におかれては、今般の制度見直しの議論の過程においても関係職員のレベルアップの必要性について強く指摘がなされているところであり、当該各種研修への参加のための特段の配慮及び社会福祉法人等への指導を引き続きお願いしたい。


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