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4.水質基準の円滑な施行について

 昨年5月に水道水質基準を大幅に見直すとともに、水質検査の方法等を改正した。これらの新制度は本年4月から施行されることから、都道府県においては、改めて、管下水道事業者への指導監督等により水質基準の円滑な施行について格段の配慮をお願いするものである。

(1 )水質基準の見直し等の経緯
 水道法第4条に基づく水質基準はその時々の科学的知見の集積に基づき改正が行われてきた。平成4年に行われた見直しでは、基準項目が26項目から46項目へと拡大した。この見直しでは、法に基づくものではないが、水質基準を補完するものとして、快適水質項目、監視項目等が設定され、これらを合わせれば100項目以上の化学物質等に関係者の注意が払われることとなった。
 平成4年の改正以後も、トリハロメタン以外の消毒副生成物、塩素耐性を有する病原微生物の問題、ダイオキシン類や内分泌かく乱化学物質など新たな化学物質による問題が提起されてきており、世界保健機関(WHO)においても、飲料水水質ガイドラインをおよそ10年ぶりに全面的に改訂すべく検討が進められることとなった。
 また、規制改革や公益法人改革の流れの中、水質検査の体制・制度を見直し、より合理的で効率的な水道水質管理のあり方を検討すべきことが指摘されるようになった。
 このような背景の下、平成14年7月に厚生労働省は水質基準の見直し等について厚生科学審議会に対して諮問を行い、これを受けた厚生科学審議会では、その下に設置されている生活環境水道部会及び水質管理専門委員会で審議を進め、昨年4月に答申があったところである。この答申を踏まえ、今回、水質基準等の制度の改正を行ったものである。

(2 )厚生科学審議会答申「水質基準の見直し等について」の概要
 今回の答申の大きなポイントが、地域性・効率性を踏まえた水質基準の柔軟な運用を可能とする仕組みの構築についての提言等である。資料1参照)
(1) 地域的であっても人の健康の保護又は生活上の支障を生ずるおそれのあるものは法律に基づく水質基準を設定すること。
(2) 水質検査に関し、地域の実情に応じ、合理的な範囲で省略できるようにすること。
(3) 地域の実情に応じた省略に際して水質検査が適正になされるよう、透明性にも配慮した水質検査計画制度の導入を図るべきこと。
 この基本方針の下、水質基準(項目、基準値及び検査法)の全面的な見直し、効率的・合理的な水質検査の実施のための措置が提言されるとともに、耐塩素性病原微生物の対策強化、水質検査の質を確保するための信頼性保証システムの導入等についての提言がなされたものである。

(3 )水質基準の見直し等の内容
 答申を踏まえ、以下のとおり、水質基準に関連する制度の見直しを行ったところである。冒頭述べたとおり、新制度の施行が迫っており、その円滑な施行につき格段の配慮をお願いする。

(1) 「水質基準に関する省令」(平成15年厚生労働省令第101号)(資料2参照)
 平成15年5月30日公布、平成16年4月1日施行
 水質基準は9項目削除、13項目追加により50項目となった。
 今回の改正により新たに水質基準とした項目は、(1)大腸菌、(2)ほう素、(3)1,4-ジオキサン、(4)臭素酸、(5)クロロ酢酸、(6)ジクロロ酢酸、(7)トリクロロ酢酸、(8)ホルムアルデヒド、(9)アルミニウム、(10)ジェオスミン、(11)非イオン界面活性剤、(12)2-メチルイソボルネオール、(13)全有機炭素の合計13項目である。
 水質基準から削除した項目は、大腸菌群、1,2-ジクロロエタン、1,3-ジクロロプロペン、シマジン、チウラム、チオベンカルブ、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、過マンガン酸カリウム消費量の合計9項目である。
 追加された項目のうち、ほう素は海水淡水化等地域の実情等に応じて問題とすべき項目、1,4-ジオキサンは事業所からの排水等が原因となり特に地下水で留意すべき項目、臭素酸はオゾン処理時の副生成や消毒剤の不純物が問題となりうる項目、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ホルムアルデヒドはトリハロメタン以外についても知見が充実したことなどから追加された消毒副生成物、アルミニウムは着色の観点から設定された項目、ジェオスミン及び2-メチルイソボルネオールはカビ臭の原因物質、非イオン界面活性剤はあわ立ちの観点から設定された項目である。
 また、削除された項目は基準設定以降の水質検査結果から見て水質基準とする要件にはあたらないと判断された項目である。
 なお、新基準省令の項目名は、原則として、国際的な命名規則に基づいたため、旧省令の名称と異なる場合がある。有機物質の指標であるTOC、臭気の原因物質であるジェオスミン及び2-MIBについては所要の経過措置(TOCの適用を施行後1年後とすること、ジェオスミン等については施行後3年間は基準値を0.00002mg/Lとすること等)が設けられている。
 これらの基準の設定にあたっての水質管理専門委員会における検討概要を関連情報とともにまとめたものを厚生労働省水道課ホームページで公表しているので参考にされたい(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/index.html)。また、答申では、水質基準について、最新の科学的知見に基づき常に見直しが行われるべきとしており、今後、答申の趣旨に従い、必要な対応を図る予定であるので、留意願いたい。

(2) 「水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法」(厚生労働省告示第261号)
 平成15年7月22日公布、平成16年4月1日施行
 水質基準項目の水質検査の方法を具体に定めたものである。今後、水道法第20条に基づく定期及び臨時の水質検査はこの告示に示した方法で行うことが必要となる。なお、一部項目については所要の経過措置を設けていることに留意されたい。
 なお、答申では、水質検査技術の革新等に柔軟に対応できるよう、検査方法告示以外の方法で検査方法告示に示す方法と同等以上の方法と認められるものについては、積極的に公定検査法として認めることが必要であるとしており、今後、答申の趣旨に従い、必要な対応を図る予定であるので、留意願いたい。

(3) 「水道法施行規則の一部を改正する省令」(厚生労働省令第142号)
 平成15年9月29日公布、平成16年4月1日施行
 主な改正点は水質検査の方法に関わるもので、次のとおりである。
 水質基準の基本的な考え方の見直しに伴い、水質検査においては、各水道事業者が、原水や浄水の水質に関する状況に応じて、合理的な範囲で検査の回数を減じる又は省略を行うことができるよう、検査の回数及び省略に関する規定の整備を行ったこと。
 また、併せて、水道事業者等が水質検査を実施するに当たり毎事業年度の開始前に水質検査計画を策定するとともに、需要者に対し情報提供を行うこととしたこと。

(4)その他の主な改正事項

「簡易専用水道の管理に係る検査の方法その他必要な事項」(厚生労働省告示第262号)
 平成15年7月23日公布、10月1日施行
 答申における簡易専用水道の管理に係る検査方法等についての提言を踏まえ、水道法施行規則第56条第2項の規定に基づき、簡易専用水道の管理に係る検査の方法その他必要な事項(検査の方法、判定基準や検査後の措置等)を定めたものである。なお、従前は通知により簡易専用水道の管理に係る検査の方法等について考え方を示してきたが、今回の答申においてその考え方が見直されているので留意されたい。
 答申で指摘されているように簡易専用水道の管理の一層の徹底が重要であり、貴部局においては設置者を監督する立場として、水道事業者の取り組みとも連携して、指導体制の強化を図り、管理の適正化、受検率の向上を図られたい。
 なお、水道法の改正により、簡易専用水道の管理に関する検査を行う機関(いわゆる34条機関)については指定制度から登録制度へ移行することとなっており(本年3月末施行予定)、これらの状況の変化も踏まえつつ、今回の告示の円滑な施行について格段の配慮をお願いしたい。

「水道法施行規則第十七条第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める遊離残留塩素及び結合残留塩素の検査方法」(厚生労働省告示第318号)
 平成15年9月29日公布、平成16年4月1日施行
 今回の水道法施行規則改正では、規則第17条の衛生上必要な措置のうち、給水栓における残留塩素の確保の規定について、残留塩素の検査方法を厚生労働大臣が定めることとした。この改正に基づき、厚生労働大臣が定める遊離残留塩素及び結合残留塩素の検査方法を定めたものである。

給水装置基準及び施設基準の見直し
 水道水質基準及び検査方法の見直しを踏まえ、給水装置の構造及び材質の基準、水道施設の技術的基準のうち資機材等の材質に関する基準、薬品等の品質に関する基準を見直すこととしており、以下に示す省令及び告示の改正等を行うこととしている。
(平成16年1月下旬〜2月上旬公布、4月1日施行予定。)
1) 給水装置の構造及び材質の基準に関する省令
2) 給水装置の構造及び材質の基準に係る試験
3) 水道施設の技術的基準を定める省令
4) 資機材等の材質に関する試験

(4)その他留意事項

(1)水質管理目標設定項目等
 既に水質基準の施行通知(平成15年10月10日付健発第1010004号厚生労働省健康局長通知及び健水発第1010001号水道課長通知)においてお知らせしているとおり、今回の答申を踏まえ、将来にわたり水道水の安全性の確保等に万全を期する見地から、水道事業者等において水質基準に係る検査に準じて、体系的・組織的な監視によりその検出状況を把握し、水道水質管理上留意すべき項目として水質管理目標設定項目を設定した(資料3参照)。従前の「水質基準項目」、「快適水質項目」、「監視項目」及び「ゴルフ場使用農薬に係る暫定水質目標」という水道水質管理の体系は廃され、「水質基準項目」及び「水質管理目標設定項目」という新しい体系となるため、都道府県においても都道府県の策定する水道水質管理計画に位置付ける等、水質管理目標設定項目の知見の集積を図り、水道水質管理に活用できるように配慮されたい。
 なお、農薬については、水質基準とはされなかったものの、水質管理目標設定項目において農薬類として規定された。農薬類とは、101の農薬リストから水源地域の使用時期や状況を勘案して必要な農薬を選定し、検査結果を総合的に評価するという新しい考え方に基づくものである。答申においても特に優先的に水質検査を実施すべき項目とされており、地域の実情に応じて適正な検査がなされるよう格段の配慮をお願いする。

 この他、毒性評価が定まらない、水道水中での検出実態が明らかでないなど、水質基準又は水質管理目標設定項目に分類できなかった項目は要検討項目としている。国においても今後必要な情報・知見の収集に努めていくこととしており、都道府県においても地域の実情に応じて情報・知見の収集にご協力いただきたい。

(2)水質検査の精度管理
 水道法第20条第1項の規定に基づく水質検査の実施に当たっては、答申で指摘されたとおり、その精度管理と信頼性の保証が重要であることから、当該検査を行う水道事業者等において、信頼性保証部門と水質検査部門に各責任者を配置した組織体制の整備や標準作業書の作成等を行うなどにより、正確な検査結果を得るための体制の構築が図られるよう配慮をお願いしたい。
 なお、水道法の改正により、水質検査を行う機関(いわゆる20条機関)については指定制度から登録制度へ移行することとなっており(本年3月末施行予定)、これらの状況の変化にも配慮されたい。



資料1

厚生科学審議会答申「水質基準の見直し等について」のポイント

(1) 地域性・効率性を踏まえた水質基準の柔軟な運用(第1章)
 ・ 従来の「全国的な問題を生ずる項目は法律に基づく水質基準、問題が一定地域に限定される項目は通知による行政指導」とする考え方を改め、地域的であっても人の健康の保護又は生活上の支障を生ずるおそれのあるものは法律に基づく水質基準を設定すること。
 ・ 一方、水道事業者にとって大きな負担である水質検査に関し、地域の実情に応じ、合理的な範囲で省略できるようにすること。
 ・ 地域の実情に応じた省略に際して水質検査が適正になされるよう、透明性にも配慮した水質検査計画制度の導入を図るべきこと。

(2) 水質基準の全面的な見直し(第2章〜第4章)
 ・ 現行の水質基準項目について全面的な見直しを行った結果、現行の46項目を50項目に拡大すべきこと(13項目追加、9項目削除。)
 ・ これに従い、従来の「監視項目」などの行政指導項目を廃すべきこと。
 ・ 水質検査法について公定法化を図るべきこと。

(3) 病原微生物対策の強化(第5章)
 ・ クリプトスポリジウムなど塩素消毒が無効又は有効でない病原微生物対策(ろ過措置)を法令上義務付けるべきこと。

(4) 水質検査の質の確保等(第6章、第9章)
 ・ 水質検査結果などの質を確保するため、優良試験所基準(GLP)の考え方を取り入れた信頼性保証システムを導入すべきこと。

(5) 効率的・合理的な水質検査(第7章、第8章)
 ・ 上記(1)の水質検査の効率的・合理的な実施を図るため、検査省略指針やサンプリング・評価指針の策定、水質検査計画の作成と公表などの措置を講ずべきこと。



資料2
新しい水質基準項目及び基準値(施行日:平成16年4月1日)

番号 項目名 基準値
一般細菌 1mlの検水で形成される集落数が100以下であること。
大腸菌 検出されないこと。
カドミウム及びその化合物 カドミウムの量に関して、0.01mg/L以下であること。
水銀及びその化合物 水銀の量に関して、0.0005mg/L以下であること。
セレン及びその化合物 セレンの量に関して、0.01mg/L以下であること。
鉛及びその化合物 鉛の量に関して、0.01mg/L以下であること。
ヒ素及びその化合物 ヒ素の量に関して、0.01mg/L以下であること。
六価クロム化合物 六価クロムの量に関して、0.05mg/L以下であること。
シアン化物イオン及び塩化シアン シアンの量に関して、0.01mg/L以下であること。
10 硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素 10mg/L以下であること。
11 フッ素及びその化合物 フッ素の量に関して、0.8mg/L以下であること。
12 ホウ素及びその化合物 ホウ素の量に関して、1.0mg/L以下であること。
13 四塩化炭素 0.002mg/L以下であること。
14 1,4−ジオキサン 0.05mg/L以下であること。
15 1,1−ジクロロエチレン 0.02mg/L以下であること。
16 シス−1,2−ジクロロエチレン 0.04mg/L以下であること。
17 ジクロロメタン 0.02mg/L以下であること。
18 テトラクロロエチレン 0.01mg/L以下であること。
19 トリクロロエチレン 0.03mg/L以下であること。
20 ベンゼン 0.01mg/L以下であること。
21 クロロ酢酸 0.02mg/L以下であること。
22 クロロホルム 0.06mg/L以下であること。
23 ジクロロ酢酸 0.04mg/L以下であること。
24 ジブロモクロロメタン 0.1mg/L以下であること。
25 臭素酸 0.01mg/L以下であること。
26 総トリハロメタン(クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン及びブロモホルムのそれぞれの濃度の総和) 0.1mg/L以下であること。
27 トリクロロ酢酸 0.2mg/L以下であること。
28 ブロモジクロロメタン 0.03mg/L以下であること。
29 ブロモホルム 0.09mg/L以下であること。
30 ホルムアルデヒド 0.08mg/L以下であること。
31 亜鉛及びその化合物 亜鉛の量に関して、1.0mg/L以下であること。
32 アルミニウム及びその化合物 アルミニウムの量に関して、0.2mg/L以下であること。
33 鉄及びその化合物 鉄の量に関して、0.3mg/L以下であること。
34 銅及びその化合物 銅の量に関して、1.0mg/L以下であること。
35 ナトリウム及びその化合物 ナトリウムの量に関して、200mg/L以下であること。
36 マンガン及びその化合物 マンガンの量に関して、0.05mg/L以下であること。
37 塩化物イオン 200mg/L以下であること。
38 カルシウム、マグネシウム等(硬度) 300mg/L以下であること。
39 蒸発残留物 500mg/L以下であること。
40 陰イオン界面活性剤 0.2mg/L以下であること。
41 (4S,4aS,8aR)|オクタヒドロ−4,8a−ジメチルナフタレン−4a(2H)−オール(別名ジェオスミン) 0.00001mg/L以下であること。注1)
42 1,2,7,7−テトラメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−オール(別名2−メチルイソボルネオール) 0.00001mg/L以下であること。注1)
43 非イオン界面活性剤 0.02mg/L以下であること。
44 フェノール類 フェノールの量に換算して、0.005mg/L以下であること。
45 有機物(全有機炭素(TOC)の量)注2) 5mg/L以下であること。
注2)
46 pH値 5.8以上8.6以下であること。
47 異常でないこと。
48 臭気 異常でないこと。
49 色度 5度以下であること。
50 濁度 2度以下であること。
 注1) この省令の施行の際現に布設されている水道により供給される水に係る表41の項及び42の項に掲げる基準については、平成19年3月31日までの間は、これらの項中「0.00001mg/L」とあるのは「0.00002mg/L」とする。
 注2) 平成17年3月31日までの間は、表45の項中「有機物(全有機炭素(TOC)の量)」とあるのは「有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)」と、「5mg/L」とあるのは「10mg/L」とする。

(参考)水質基準新旧対照表

水質基準新旧対照表の図


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