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2 SARS等の感染症対策について

1.SARS対策について

(1)  SARSについては、昨年3月にWHOから警告が出されてから、伝播確認地域からの入国者に対する検疫の強化、各都道府県における行動計画の策定の要請等の対策を講じてきており、国内での患者発生は今のところ確認されていない。(これまでの厚生労働省の主な対応については、資料1参照)
(2)  世界的にも、7月5日にWHOによる伝播確認地域の指定が全て解除されたことにより一応の終息を迎えた。
 しかしながら、今冬において再流行が懸念されることから、昨年11月より、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という。)及び検疫法の一部改正を行い、
 (1) 緊急時において、国自らが疫学調査を行い、都道府県等が実施する措置について必要に応じ国が指示を行うといった緊急時における国の対応の強化
 (2) 感染症に感染したおそれのある入国者について、検疫所への健康状態の報告義務を課すとともに、異状を確認した場合には、都道府県等が必要な調査を行うといった検疫対策と国内対策の連携の強化
などを図るとともに、SARSの外来を受け入れる協力医療機関に対する感染防止対策に必要な設備・資材への補助、SARSの迅速診断キットの開発と検疫所等への配備等の対策を講じている。
(3 )その後、シンガポール、台湾におけるSARS研究施設での感染例や中国広東省における感染例も散発しており、旅行者等に対する注意喚起等を行っているところである。
(4 )厚生労働省としては、WHOなどから収集した情報をできるだけ速やかに都道府県等に提供しているが、都道府県等においては万一患者が発生した場合も想定しながら万全の備えをお願いする。


.高病原性鳥インフルエンザについて

 高病原性鳥インフルエンザ(資料2参照)は、昨年の感染症法の改正により、新4類感染症として追加されたところである。本改正により、人の感染が確認された場合には、感染症法に基づき、医師に保健所への届出が義務付けられるとともに、必要に応じ消毒等の措置が行われることとなる。また、これまでもインフルエンザ対策として、豚を調査対象としたインフルエンザ流行予測調査の実施、調査研究事業(インフルエンザ大流行(パンデミック)に関する研究・新型ウイルス系統調査・保存事業の実施)、新型インフルエンザ対策についての専門家会議における検討等を行ってきたところである。
 1月12日に山口県の養鶏農場において確認された鶏の高病原性鳥インフルエンザの発生事例を受け、厚生労働省としては以下の対応を行ったところである。
  ○  鶏卵の自主回収を要請するとともに、養鶏従事者等への健康状態の確認、感染防御の徹底を指導
  ○  医療機関への情報提供、患者と疑われる者が発生した場合の厚生労働省への報告、地方衛生研究所における検査体制の確認、国民への情報提供を都道府県等に事務連絡で要請
  ○  高病原性鳥インフルエンザに関するQ&Aをホームページに掲載
 さらに、ベトナムにおける人での高病原性鳥インフルエンザ感染事例を受け、ベトナムへの渡航者、同国からの帰国者に対して検疫所から情報提供を行うよう各検疫所に対して指示を行ったところである。
 高病原性鳥インフルエンザが発生した場合は、人の健康に影響を及ぼす可能性もあることから公衆衛生上の対応も必要である。公衆衛生部局(保健所)においては、鶏での異常死増加、発生農場との疫学的関係の判明等、高病原性鳥インフルエンザの発生が疑われる段階での畜産部局(家畜保健衛生所)からの情報提供を要請するなど、関係部局との連絡・連携を図るとともに、住民に対する正確な情報提供に努めるようにお願いする。


3.感染症法及び検疫法の改正について

(1)  感染症法が平成11年4月に施行され、施行後5年を目途に見直しを行うこととされていたことから、感染症対策の見直しについて、厚生科学審議会感染症分科会で議論が行われ、平成15年8月21日に提言がとりまとめられた。(資料3
(2)  本提言を受けて、今冬のSARS等の感染症対策に万全を期すよう、検疫対策から国内感染症対策までの総合的な対策の強化を盛り込んだ感染症法及び検疫法の改正法案を第157回臨時国会に提出し、平成15年10月10日に成立、一部を除き同年11月5日より施行された。(資料4
(3 )今回の法案改正も活用しながら、SARS、トリ型インフルエンザをはじめとする感染症対策の更なる推進のため、ご理解、ご協力をお願いする。



資料1

重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する
厚生労働省の主な対応について

 国民への情報提供

 ○  SARSに関するQ&Aを公表(ホームページにも掲載)。
 ○  SARSに関するリーフレット(40万部)を作成し、広く配布(6月4日)


 検疫所における対応強化

 ○  香港、中国、台湾、カナダからの航空機全てについて、機内で健康状態質問票を配布するとともに、全員の体温測定を含む健康状態を確認。必要に応じて、10日間、健康状態をフォロー。
 ○  SARSを検疫法感染症として追加
(11月5日施行)


3 国内発生に備えた体制の整備

(1 )患者発生動向調査(サーベイランス)体制の整備
 疫学及び臨床医学に係る1チーム4名程度の専門家チームを都道府県に派遣する体制を整備。(4月15日)

(2 )感染症法上の取扱い
 感染症法を改正し、SARSを1類感染症に追加。(11月5日施行)

(3 )医療提供体制の整備
 国立国際医療センターを特定感染症指定医療機関に指定。(4月7日)
 入院対応医療機関236施設(1,290床)、外来診療協力医療機関766施設を確保。(平成16年1月6日現在)
 院内感染防止のための研修会の開催。(5月2日、7日、9日)

(4 )危機管理の徹底
 厚生労働省に厚生労働大臣を本部長とするSARS対策本部を設置。(4月8日)
 SARS患者が発生した場合の具体的な「行動計画」を全都道府県で策定。
 「院内感染防止対策に係る管理指針」を作成し、公表。(4月7日)
 全国7つの地方厚生局管轄区域の自治体職員及び保健所長を対象に、国と地方自治体との連携、疫学調査手法及び院内感染対策の改善等に関する講習会を開催。
(6月4日、10日、11日、19日、23日、24日、30日、7月10日)
 国、自治体等の参加による総合的な実地演習の実施。(8月25日)



資料2

高病原性鳥インフルエンザについて


1.疾病の特徴
 (1)  トリの疾病としては、死亡率が高い、又はウイルスが変化して死亡率が高くなる可能性のある特定のインフルエンザウイルスによるものをいう。鶏、あひる、七面鳥、うずら等が感染し、神経症状(首曲がり、元気消失等)、呼吸器症状、消化器症状(下痢、食欲減退等)等を呈する。トリ同士の接触感染の他、水、排泄物等を介したトリへの感染もある
 (2)  ヒトへの感染については、感染したトリとの接触等により感染例が知られているが、食品(鶏卵、鶏肉)を食べることによるヒトへの感染は世界的にも報告されていない
 (3)  仮にヒトに感染しても、ヒトのA型インフルエンザウイルスの診断に使う迅速診断キットで、鳥インフルエンザウイルスを検出することが可能であり、また、A型インフルエンザの治療に用いられている抗インフルエンザウイルス薬が、鳥インフルエンザに効果があるといわれている。

2.発生状況
 (1)  トリでの発生は、香港、中国、米国、ドイツ、韓国、オランダ、デンマーク、イタリア、チリ及びベトナム等、世界各地で報告がある。
 今回の発生を受けて、農林水産省では発生した農場への立入制限、飼育されている鶏の殺処分、卵の出荷自粛、鶏舎の消毒、同農場から半径30km以内の家きんの移動制限を、厚生労働省では同農場からの鶏卵の自主回収の要請、養鶏従事者の健康状態の確認及び感染防御の徹底を指導している。
 (2)  ヒトへの感染は、香港(H5N1型:1997年、2003年)、オランダ(H7N7型:2003年)、及びベトナム(H5N1型:2004年※)で確認されている。

 昨年10月以降、ハノイ市等で14名(小児13名、大人1名)が重篤な肺炎にかかり、うち12名(小児11名、大人1名) が死亡しており、死亡した者のうち3名(小児2名、大人1名)からH5N1型のウイルスが検出されている。ヒトからヒトへの感染は否定されているものの、感染経路については現在不明。



資料3

感染症対策の見直しについて(提言)の概要

平成15年8月21日
厚生科学審議会感染症分科会

1.新感染症等の重篤な感染症に対する対策の強化(国の役割の強化等)

 (1) 積極的疫学調査の機動的な実施
 国内に重篤な感染症が発生し、公衆衛生上重大な危険が生ずるおそれがある場合には、国も積極的疫学調査を行えるようにすべき。(現在は、都道府県等が実施)
 (2) 予防計画に関する緊急時の対応
 重篤な感染症が発生する危機のおそれが顕在化した場合などにおいて、国は、都道府県が策定している予防計画に関して、より具体的な対応策(行動計画)の策定を指示できるようにすべき。
 (3) 広域的な対応が必要な場合の調整
 広域的な感染のおそれがある場合、国が自治体間の調整を行えるようにすべき。
 (4) 重篤な感染症に対する医療提供体制
 国は特定感染症指定医療機関、都道府県は第一種感染症指定医療機関の確保について、より一層の努力をすべき。また、国は、第一種感染症指定医療機関の指定を促進するため、都道府県への支援の強化等を図るべき。
 重篤な感染症が発生する危険性が生じた場合には、感染の疑いのある者を対応可能な医療機関に誘導する体制を整備するとともに、これらの者が一般の医療機関で受診することも想定し、二次感染防止対策やそのための支援についても検討が必要。


2.検疫対策の強化

 (1) 検疫所における医師の診察
 病原体が不明な新感染症などについても、検疫所において医師による診察ができるようにすべき。(現在は、一類感染症、コレラ、黄熱に限定)
 (2) 感染が疑われる者に対する対応
 重篤な感染症に感染している疑いがある入国者については、一定期間、検疫所に対して体温などの健康状態を報告することを義務付けるべき。
 (3) 重篤な感染症に関する出国時の健康状態の確認
 我が国が重篤な感染症の流行地域になった場合、国際的封じ込めの観点から出国時の健康状態の確認等の実施も考えられるが、これについては、今後、十分な検討が必要。


3.動物由来感染症に対する対策の強化

 (1) 動物に対する輸入届出制度の創設
 ペットとして輸入される動物(家畜を除く。)について、輸出国側政府機関の感染症にかかっていない旨の証明書の添付とともに、数量等の届出を義務付けるべき。
 (2) 四類感染症に分類されている動物由来感染症に関する措置
 動物由来感染症対策を強化するため、現在、四類感染症とされているものの一部について、感染源となる動物の輸入規制、消毒、ねずみ・蚊の駆除等の対物措置ができるようにすべき。
 (3) その他
 獣医師や動物を取り扱う者の動物由来感染症のまん延防止の責務の明確化、国民に対する情報提供の推進、自治体におけるねずみ・昆虫等の調査の強化を図るべき。


4.感染症法の対象疾患の追加等

 (1) 感染症法の対象疾患の追加
 天然痘、SARSなどを感染症法の対象疾患として追加すべき。


5.感染症に係る人材育成等

 (1) 感染症に係る人材育成
 疫学調査の専門家、感染症対策の第一線で働く職員、指定医療機関の医療スタッフなど、感染症に関する幅広い人材の育成を図るべき。



資料4

  「 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
及び検疫法の一部を改正する法律」の概要


I.感染症法の改正内容

 1.緊急時における感染症対策の強化
 (1) 感染症の発生状況等の調査に関する国の事務の追加(第15条関係)
 厚生労働大臣は、緊急の必要があると認めるときは、自ら感染症の発生状況等の調査を行うことができることとする。
 (2) 緊急時における感染症の予防等に関する計画の策定(第9条、第10条関係)
 厚生労働大臣の定める基本指針及び都道府県の定める予防計画の中に、緊急時における感染症の予防等の計画の策定に関する事項を追加する。
 (3) 関係行政機関に対する指示権限の創設(第63条の2関係)
 厚生労働大臣は、感染症の発生を予防し、又はまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは、この法律の規定により都道府県知事等が行うこととされている事務に関し、必要な指示をすることができることとする。

 2.動物由来感染症対策の強化
 (1) 動物の輸入に係る届出制度の創設(第56条の2関係)
 感染症を感染させるおそれがある動物及びその死体を輸入する者は、輸出国における検査の結果、感染症にかかっていない旨の証明書を添付するとともに、種類、数量、輸入の時期等を届け出なければならないこととする。
 (2) 感染症を感染させる動物等の調査(第15条関係)
 感染症の発生状況等の調査において、感染症を感染させるおそれがある動物又はその死体の所有者等に対し質問・調査することができることを明確化する。
 (3) 獣医師等の責務規定の創設(第5条の2関係)
 獣医師、獣医療関係者について、国及び地方公共団体が講ずる施策に協力するよう努めなければならないこととする。また、動物等取扱業者について、動物の適切な管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととする。

 3.感染症法の対象疾病及び疾病分類の見直し等
 (1) 感染症の類型の見直し等(第6条関係)
(1) 一類感染症に「重症急性呼吸器症候群」及び「痘そう」(天然痘)を追加する。
(2) 現行の四類感染症のうち鳥インフルエンザ等について、媒介動物の輸入規制、消毒、ねずみ等の駆除等の措置を講ずることができるようにするため、四類感染症の類型を見直す。
 (2) 都道府県等による迅速な措置(第27条、第28条、第29条関係)
 都道府県知事等が、市町村に指示するだけでなく、消毒及びねずみ等の駆除の措置を自ら行うことができることとする。
 (3) 地方公共団体における調査体制の強化・連携(第15条関係)
 都道府県等は、感染症の発生状況等の調査を行うため、他の都道府県等に対し、検査研究機関の職員の派遣等の協力を求めることができることとする。


 4. 検疫との連携(第15条の2関係)
 都道府県知事等は、検疫法に基づき、検疫所長から検疫感染症に感染したおそれのある者であって健康状態に異状が生じたものに係る通知を受けたときは、当該者に対し必要な質問又は調査を行うことができることとする。

 5. 罰則
 2(1)及び4に係る罰則を整備する。


II.検疫法の改正内容

 1 .検疫感染症に感染したおそれのある者に対する入国後の健康状態の確認等(第18条関係)
 (1)  検疫所長は、検疫感染症の病原体に感染したおそれのある者に対し、旅券の提示を求め、入国後の居所、連絡先、氏名及び旅程等の報告を求めるとともに、一定の期間、健康状態の報告を求め、質問を行うことができることとする。
 (2)  検疫所長は、(1)の結果、健康状態に異状が生じた者を確認したときは、保健所その他の医療機関の診察を受けるべき旨その他必要な事項を指示するとともに、当該指示した旨を当該者の居所の所在地を管轄する都道府県知事等に通知しなければならないこととする。

 2. 新感染症についての医師の診察(第34条の2関係)
 厚生労働大臣は、外国に新感染症が発生した場合、当該新感染症の発生を予防し、まん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは、検疫所長に、当該新感染症にかかっていると疑われる者に対する診察を行うことを行わせることができることとする。

 3. 病原体の検査が必要な感染症の検疫感染症への追加(第2条関係)
 国内への病原体の侵入を防止するため、医師による診察及び病原体の有無の検査が必要な感染症(デング熱、マラリア等)を検疫の対象となる感染症に機動的に追加することができるよう、検疫感染症の規定方法を見直す。

 4. 新四類感染症に係る応急措置等(第24条、第26条の3関係)
 感染症法の四類感染症の類型の見直しに伴い、(1)新四類感染症の患者等を発見した場合の診察・消毒等の応急措置、(2)新四類感染症の病原体保有者を発見した場合の都道府県知事等への通知の規定を整備する。

 5. 罰則
 1及び2に係る罰則を整備する。


III.施行期日

 公布の日から起算して20日を経過した日(平成15年11月5日から施行)。
 ただし、動物の輸入に係る届出制度の創設は、公布の日から2年以内で政令で定める日。


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