トピックス  厚生労働省ホームページ

透析医療における標準的な透析操作と

院内感染予防に関するマニュアル


改訂版 第2刷



厚生労働科学研究費補助金
医薬安全総合研究事業
「院内感染を防止するための医療用具 及び 院内環境の管理及び運用に関する研究
主任研究者 山口恵三 東邦医科大学 微生物学

分担研究「透析に関する院内感染対策」
分担研究者 秋葉 隆 東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター

協力
日本透析医会
日本透析医学会
日本臨床工学技士会
日本腎不全看護学会


照会先
厚生労働省健康局疾病対策課
電話 03−5253−1111
菊岡 内線2353
高岡 内線2368


改訂版第2刷の序

 本マニュアルは平成11年度厚生省厚生科学特別研究事業「透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究」が、日本透析医会、日本透析医学会の協力を得て作成した「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル(改訂版)」の改訂版第2刷である。
 マニュアル改訂版第1刷は、厚生労働省医政局指導課長、厚生労働省健康局疾病対策課長通知「透析医療機関における院内感染対策の推進について」(平成16年2月20日付け)にも引用され、透析施設において感染対策を行う上で参考図書としての役割を着実に果たしつつある。一方、改訂版発行後も、SARSの世界的な透析施設での流行や、西ナイル熱の移植臓器からの感染例などが報告され、その内容は常に時代の要求をうけて新しいものにならなければならない。そこで、第1刷の在庫が切れたのを機会に、異例ではあるが第1刷の誤植を改めるだけでなく、SARSおよび西ナイル熱に対する記載を追加した。改訂第2刷がさらに透析施設における感染対策の立案に役立ち、院内感染を減少することを期待する。

平成16年9月吉日

東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター
秋葉 隆


改訂版の序

 本マニュアルは平成11年度厚生省厚生科学特別研究事業「透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究」が、日本透析医会、日本透析医学会の協力を得て作成した「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」の改訂版である。
 第1版は、その序に記したように、各透析施設の感染対策委員会がその施設の役割に適合した感染防止に関する独自のマニュアルを作成するにあたって、「標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」を参考にしていただき、各施設の感染防止が進むことをめざしたものであった。この「マニュアル」はすべて日本透析医会会員、日本透析医学会施設会員に配布され、厚生労働省・日本透析医会のウエブサイト(http://www1.mhlw.go.jp/topics/touseki/tp0225-1_11.html、http://www.touseki-ikai.or.jp/pdf/man2.pdf)にも掲載されるなど、ほとんどの透析施設のスタッフに周知され、感染予防上の手技、感染予防策、感染サーベイの方法、スタッフの教育などについての「底本」としての役割を果たしてきた。一方、その後の透析医療の進歩、特に平成12年度厚生科学研究班による信楽園病院平澤由平らの「透析医療おける事故対策マニュアル」(http://www.touseki-ikai.or.jp/)の内容との整合性をはかる必要があること、また感染防止上重要な因子である透析室の環境に関する記載など、追加すべき内容が散見された。
 そこで、今回、厚生労働科学研究費補助金 医薬安全総合研究事業「院内感染を防止するための医療用具 及び 院内環境の管理及び運用に関する研究(主任研究者 東邦医科大学 微生物学 山口恵三教授)の分担研究として、日本透析医会、日本透析医学会、日本臨床工学技士会、日本腎不全看護学会の協力を得て、このマニュアルの改訂を行った。日本透析医学会の統計調査委員会の調査結果では、HCV抗体陽性患者の割合は、近年次第に低下しつつあるものの、2001年における本邦の慢性透析患者のHCV抗体陽転化率は2.2%/年と、依然としてC型肝炎ウイルスの院内感染が高頻度に起きている。本マニュアルを活用して、院内感染予防の実を挙げていただければと希望する。

平成16年3月吉日

厚生労働科学研究費補助金(医薬安全総合研究事業)
院内感染を防止するため用具 及び 院内の医療環境の管理及び運用に関する研究
―分担研究「透析に関する院内感染対策」
東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター
秋葉 隆


初版の序

 平成11年5月、兵庫県のある透析施設において劇症肝炎が多発し患者が死亡したことが報道され、院内感染として大きな社会問題となった.
 透析医療の黎明期には透析をうければ血清肝炎はほぼ必発と覚悟された時期があったが、輸血用血液のスクリーニングの徹底、エリスロポエチンの臨床応用、透析機器の進歩により、透析現場においてウイルス肝炎は、当時と比べ減少している.現在日本赤十字社から供給される献血血液によるウイルス肝炎の発症はきわめて稀となり、また国民からは「医療行為に伴う感染」は完全に防止されるべきであるとの強い要請がある.すなわち、透析医療を実施することでウイルス肝炎に新たに感染するような事態は、透析患者のみならず国民すべてから、完全に防止することを求められているといってよい.
 医療機関におけるウイルス肝炎の院内感染を予防するために、厚生省保健医療局エイズ結核感染症課の監修による、『ウイルス肝炎対策ガイドライン(医療機関内)』が作成され、広く利用されている.しかしこれは透析に限らない一般医療機関向けのため、血液を直接扱う危険度の高い医療現場である透析医療機関は独自に透析医療向けに改変を加えたマニュアルを作成しなければならなかった.すなわち、透析施設におけるウイルス肝炎院内感染を防止するためにどうしたらよいか?、具体的な透析操作法は?、消毒法は?、感染サーベイランスにどの指標をどんな頻度で測定すべきか?等について各透析施設は独自の判断を求められてきたわけである.
 日本透析医会(会長 平澤由平)は本年の総会で、災害対策委員会を改組して、危機管理委員会(現 医療安全対策委員会)とし、そこに災害対策委員会、感染対策委員会、事故対策委員会を設置した.この感染対策委員会(委員長 秋葉 隆、副委員長 杉崎弘章, 担当理事 秋澤忠男)は、日本透析医学会の了解を得て、透析医療における感染予防の対策として、院内感染防止の立場からみて安全で標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル案を作成した.このマニュアル案は、standard precaution の原則にたった上で、本邦で広く行われている疾患別院内感染対策をも取り入れた構成となっている.
 一方、厚生省保健医療局エイズ疾病対策課、医薬安全局安全対策課は冒頭の事態を重視し、兵庫県と密接な連絡をとり、その原因究明と再発防止に乗り出した.このような中、平成11年度厚生科学特別研究−透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究班 が組織された.本研究班では、現在、透析現場における感染症の実態調査と感染予防策の検討を行うほか、研究の一環として、上記のマニュアル案を引き継ぎ、班員、および透析、感染症、疫学、肝臓病学専門家、日本透析医学会総務委員会感染対策小委員会、さらに透析療法を実施している全国の施設に示して、細部にわたる検討を繰り返し、「標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」を作成した.
 この、「標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」が、各透析施設におけるマニュアル作成の参考となり、透析医療施設における院内感染の予防に役立つことを願っている.

平成12年2月吉日

平成11年度厚生省厚生科学特別研究事業
−透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究班
秋葉 隆


目次

院内感染予防からみた透析診療内容のチェックリスト

第1章 標準的透析操作
I.はじめに
II.基本的感染防止対策の遵守
  1.透析室従事者側の準備
  2.患者側の準備(患者教育の徹底)
  3.無菌操作の徹底
III.血液透析の手技に関する操作
  1.血液透析の準備
  2.血液透析の開始から終了まで
  3.治療施行時および抜針後における操作
IV.おわりに

第2章 標準的消毒洗浄
I. はじめに
II.透析従事者の手指
III.ブラッドアクセスの消毒
IV.薬剤の投与方法
V.透析装置外装
VI.透析液供給装置・回路
VII.医療器具
VIII.リネン類(シーツ・枕カバー・毛布カバー)
IX.ベッド柵・オーバーテーブル
X.食器・ガーグルベース類
XI.便器・尿器類
XII.室内
XIII.その他

第3章 感染予防上の透析室の設備と環境対策
I.はじめに
1.透析室の照明とその照度
2. 透析室の照度
II. 空調・換気
1.透析室の清浄度クラスと換気条件
2.隔離透析室
III.透析用水
IV.ベッド配置
V.機器

第4章 感染患者への対策マニュアル
I.感染対策委員会の設置
II.患者への感染対策の基本
III.B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス
  1.感染経路
  2.サーベイランス
  3.感染患者対策
  4.消毒方法
  5.新たにB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスが陽性になった場合
  6.患者教育
IV.HIV
  1.感染経路
  2.感染患者対策
  3.サーベイランス
  4.患者教育
  5.参考
V.MRSA
  1.感染経路
  2.感染対策
  3.サーベイランス
  4.MRSA患者の移送
  5.患者教育
VI.結核
  1.感染経路
  2.感染患者対策
  3.サーベイランス
  4.患者教育
VII.その他の感染患者対策
  1.HTLV−1(ATLV)
  2.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
  3.インフルエンザ
  4.重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、SARS)
  5.ウエストナイル熱
VIII.非感染患者の予防措置
  1.HBワクチンの使用
  2.インフルエンザHAワクチンの使用
IX.医師から都道府県知事への届出のための義務
  1.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
  2.届出の必要な5類感染症(全数把握14疾患)
  3.医師から保健所所長を経て都道府県知事への届出
  4.急性ウイルス肝炎の診断基準

第5章 スタッフの検査・予防と感染事故時の対応
I.はじめに
II.日常の健康管理
  1.日常の健康管理の基本
  2.検査項目および頻度とその対応
III.感染に関連する事故時(針刺し事故など)の対応
  1.HBV感染事故
  2.HCV感染事故
  3.HIV感染事故
  4.ATLV感染事故
  5.その他の感染症(特に結核)発生時の対応

第6章 スタッフの教育と感染対策
I.感染に関するスタッフ教育の基本
II.定期的なスタッフ教育
III.ケアレスミスより考える感染症教育
IV.透析業務からの感染症教育
V.院内感染対策委員会
VI.症例や専門家を通じての感染症教育
VII.最後に

謝辞

参考文献
改訂版第1刷・第2刷における主な変更点


院内感染予防からみた透析診療内容のチェックリスト

 本マニュアルを読まれる前に、ご自分の施設の診療内容が感染予防の観点からどのような状況にあるかご判断いただけるように、今回の感染多発を参考に、20項目のチェックリストを作成しました。 ■いいえ を選択された場合は該当の章節を特にご参照ください。本マニュアルのすべての内容を網羅をしているわけではありません。 すべて ■はい を選択された場合でも感染に対する備えが万全とは限りません。 院内感染予防の取り組みのきっかけとしてご利用ください。

1.施設と透析医療機器
1) 透析に使用する医療器具は患者毎に滅菌したものか、ディスポーザブル製品を使っている。□はい □いいえ→1章III.1.3)
   1章III.2.2)、2章V.−XI.
2) スタッフが透析操作前後に手洗いが容易にできる十分な手洗い設備がある。□はい □いいえ→2章II.
3) スタッフが患者の症状の変化に素早く対応し、また頻回に手洗い等に移動できるよう、十分なベッド間隔がとられている。□はい □いいえ→1章III.3.2)、3章III 3,6章IV
4) 透析装置の保守点検はマニュアルにのっとり、定期的に行っている。□はい □いいえ→ 2章V、2章VI、6章IV
5) 回路圧測定系にトランスデューサープロテクター−を挿入している。□はい □いいえ→1章III.1.1)


2.スタッフ
1) 患者数やその重症度に応じて十分な診療ができるスタッフが配置されている。□はい □いいえ→4章III.1.3)
 1章III、2.2)、 4章III 3. 2)、4章III.3.2)、4章IV 2. 6)
2) 感染対策委員会が設置され、各職種のスタッフが参加して定期的に開催されており、感染対策委員会委員長は施設の長(責任者)である。□はい □いいえ→4章I
3) スタッフに対して感染症対策に関する教育が定期的に行われている。□はい □いいえ→6章II.
4) スタッフには定期健康診断が行われ、希望者にはHBワクチン接種の機会がある。□はい □いいえ→5章II.2.


3.透析操作
1) 透析開始・終了操作は清潔不潔概念をよく理解した医師、臨床工学技士、看護師、准看護師、薬剤師などの有資格者スタッフが行っている。□はい □いいえ→1章III.1.3)
2) 透析開始、終了操作は患者側と機械側にそれぞれ1名ずつが共同して行っている。□はい □いいえ→2章III.2.2)
3) スタッフは侵襲的手技の前後に入念な手洗いを必ず行っている。□はい □いいえ→1章II.1.3)
4) 穿刺および抜針操作をするスタッフは、ディスポーザブルの手袋を装着している。□はい □いいえ→2章II.2.2)(6)
5) 肝炎ウイルス陽性の患者は透析室内の一定の位置に固定して透析されている。□はい □いいえ→4章III.3.1)
6) 血液に汚染された物品は、周囲を汚染しないように注意して、感染性廃棄物として廃棄するか、マニュアルにのっとり、洗浄滅菌されている。□はい □いいえ→1章2.2) 2章V−XI.
7) 透析中に投与され抗凝固薬やエリスロポエチンなどの薬剤は、透析室から区画された場所で無菌的に準備されている。□はい □いいえ→1章 II. 3、1章III 1. 4)
8) 透析記録(患者毎、一回ごとの透析経過、診療内容、担当者名の記録)を作成している。□はい □いいえ→1章III.2.


4.院内感染対策
1) 感染症にたいする患者監視(サーベイランス)として、定期的な検査を実施している。□はい □いいえ→4章I.−II.
2) 定期検査の結果は患者に告知され、説明指導が行われている。□はい □いいえ→4章II.
3) 患者にはB型肝炎、インフルエンザ等に対するワクチン接種の機会が提供されている。□はい □いいえ→4章VIII.


第1章 標準的透析操作

I. はじめに

 本マニュアルは、血液透析療法における日常の手技について、「これだけのことをしていれば院内感染は起こりにくい」という標準的な「通常の透析」と呼べるものを示すことを目指して作成された。各施設でその規模や設備および患者の重症度に大きな違いがあるが、なるべく共通部分に照準を合わせようと意図した。したがって、より細部の手技等は本マニュアルの基本に沿って、施設ごとの実情に合わせて対策を講じる必要があることは言うまでもない。

II. 基本的感染防止対策の遵守

1.透析室従事者側の準備

1)常に爪を短く切っておく。

2)髪は肩にかからないよう束ねる。あるいはアップにする。

3)入念な手洗いを穿刺、止血、創部のガーゼ交換など侵襲的手技の前後に必ず行う。なお、前記手技ごとに新しいディスポーザブル手袋に交換する。

4)うがいは勤務の前後で行う習慣を身に付けることが望ましい。

5)咳の出るときはマスクを着用する。

6)常に清潔な白衣やエプロンを着用する。

7)手指に外傷や創がある場合は創部を覆うなど特別な注意を払い、自らへの感染を防止すると同時に感染を媒介しないよう厳重に注意する。

2.患者側の準備(患者教育の徹底)

1)内シャントの患者は穿刺前にシャント部を中心にシャント肢全体を通常の石鹸を使って流水でよく洗浄することが望ましい。

2)施設内のトイレや洗面所などでは、ペーパータオル、個人用タオルなどを用い、共用を避ける。

3)咳の出ている患者はマスクを着用する。

4)止血綿やインスリン注射針など血液で汚染された物品は机上などに放置せず、直接透析室内の感染性廃棄物入れに廃棄するよう指導する。

5)血液、体液、分泌物、排泄物(汗を除く)、正常皮膚組織の剥離した局面、粘膜などは感染の危険があることをよく理解してもらう。

6)手洗いやうがいの励行という日常の習慣を身に付けてもらう。

7)更衣室のロッカーは個人専用であることが望ましい。

3.無菌操作の徹底

1)滅菌物品の取り扱い、創処置、ブラッドアクセスへの穿刺、回収操作、注射の準備、バイアルを共用する薬剤の取り扱い時、プライミングなどの体内に注入する物品や薬剤を操作するときは、無菌操作を徹底する。

2)特に共用することを前提につくられた用具、薬剤を除いて、透析室内で用いられる用具、薬剤は患者ごとに専用とする。

III. 血液透析の手技に関する操作

1.血液透析の準備

 以下にプライミングを透析装置で行う場合の基本操作を示す。透析装置を用いずにプライミングを実施する場合も安全と感染防止に関わる基本操作は本マニュアルに準ずる。

1)ダイアライザおよび血液回路の透析装置への装着

(1)事前に手洗いを十分に行う。

(2)ダイアライザ・血液回路を治療予定患者名、ダイアライザ・滅菌有効期間、異物混入、不良の有無などを確認後、キャップ等に注意しながら滅菌袋から取り出す。

(3)ダイアライザ内部および外観に、異物や不良のないことを確認し、透析装置のダイアライザホルダーに装着する。

(4)血液回路を滅菌有効期限確認後、キャップ等に注意しながら滅菌袋から取り出す。
次に、外観を確認し、異物や不良のないことを確認する。

(5)静脈側血液回路を装着する。カニューラ接続部より約20cmの位置にクランプを止め、それを透析装置のスタンドに掛ける。血液回路に捻れを生じない様に静脈側エアートラップをホルダーに装着する。

(6)トランスデューサープロテクターの血液汚染がないことを目視で確認後に、圧モニターラインを透析装置の圧モニターに、トランスデューサープロテクターを介して接続する。エアートラップ下の回路部分を気泡検知器に装着する。

(7)動脈側血液回路を装着する。カニューラ接続部より約20cmの位置をクランプで止め、それをスタンドに掛ける。血液回路に捻れがない様に、ポンプセクション部を血液ポンプローラー部に装着する。次に、エアートラップをホルダーに装着し、エアートラップ下をクランプで止める。

(8)ダイアライザと回路を接続する。その際、接続部に手や鉗子等が触れないように注意する。

2)ダイアライザおよび血液回路(補液ライン付き)のプライミング

(1)プライミング用生理食塩液(以下生食液と略す)は使用説明書に記された量を使用する。

(2)静脈側エアートラップの液面は2/3程度に保持する。

(3)プライミング後、補液・返血用生食液にさし替える。

3)上記1)2)の操作は、医学上の清潔不潔概念をよく理解したスタッフが行う。可能な限り臨床工学技士、看護師、准看護師、薬剤師などの有資格者が行うことが望ましい。

4)注射薬等の準備

(1)注射薬等を準備する場所は透析室から区別された区画とする。

(2)注射薬等を準備する前に手洗いを十分に行う。

(3)へパリンやエリスロポエチンなどを準備する場合、およびヘパリン、インスリンなどバイアルを共用する薬剤をシリンジに吸引する場合は、未使用の注射器と注射針を使用する。この場合、ディスポーザブル製品を使用することが望ましい。

2. 血液透析の開始から終了まで

1)患者の観察と記録

(1)一般状態を観察し、必要と判断された場合、透析を開始する前に医師に報告する。

(2)穿刺部および周辺の皮膚の状態を観察し、適宜、消毒液や固定テープの変更を行う。

(3)血圧、脈拍などバイタルサインを定期的に測定する。

(4)透析記録用紙を用意して、透析前後および透析中の血圧、患者症状、治療条件確認、薬剤、補液等を記載する。

2)血液透析の開始、終了操作

(1)開始、終了操作は患者側と機械側にそれぞれ1名ずつが共同して行うことが望ましい。1人で操作する場合は、手袋が血液や浸出液で汚染する可能性もあり、その汚染部位が機械に直接触れないように操作する。

(2)開始、終了操作を開始する前に十分な手洗いを行う。

(3)下記の滅菌処理をしたディスポーザブルの開始終了セットを用意することが望ましい。

開始セット内容:滅菌紙シーツ、固定用テープ、滅菌紙ガーゼ
終了セット内容:止血用圧迫綿、バンドエイドなどの保護テープ

 これらのセットの準備が不可能な場合は、開始、終了操作直前に患者ごと別々に滅菌トレイなどに無菌的に用意する。

(4)穿刺針、ポビドンヨード、10%イソジンRに浸した綿球、クランプ用物品は開始操作する直前に滅菌紙シーツや滅菌トレイなどに無菌的に用意する。

(5)穿刺部位の消毒は、穿刺部位1点に付き1つ以上の綿球を用い、穿刺予定部位の中心から外へと円を描く様に十分に行う。

(6)穿刺および抜針操作をする者は、ディスポーザブル手袋を装着する。1人の患者ごとに手袋は交換し、使用後の手袋や汚染された物品は個々の患者ベッドサイドに廃棄物入れを用意し、これに一時的に廃棄する。やむを得ず素手で穿刺する場合は、手洗い後、グルコン酸クロルヘキシジン(0.5%ヒビテンR)、ポビドンヨード(10%イソジンR)、あるいは塩化ベンザルコニウム(0.1%オスバン液R)に浸した綿球で手指を十分消毒してから実施する。穿刺後は直ちに手洗いを行う。

(7)穿刺後の針固定は滅菌テープを使用することが望ましい。

(8)穿刺後の血液回路は、穿刺針が引っ張られないよう紐やテープ等でしっかり固定する。

(9)穿刺針(カニューラ)と血液回路との接続はロックできるものが望ましいが、そうでない場合は、滅菌テープ等で固定する。

(10)透析中は滅菌紙シーツ等で穿刺部を覆う。

(11)ダブルルーメンカテーテルや外シャントによる透析の開始・終了操作は、患者側の操作をするスタッフと機械側の操作をするスタッフの2名で行うことが望ましい。患者側の操作をするスタッフは厳重な無菌操作をしなければならない。

(@)患者ごとに新しいディスポーザブル手袋を装着する。
(A)カテーテル接続口をポビドンヨード(10%イソジンR等)で十分に消毒する。
(B)滅菌紙シーツなどで局部を広く覆う。
(C)血液回路との接続法以下は通常の開始・終了手順に準ずる。

(12)抜針時は刺入部を中心にポビドンヨード(10%イソジンR等)に浸した綿球で消毒する。

(13)抜針後の穿刺針はリキャップせず、感染性廃棄物として処理する。

(14)抜針後の止血は滅菌ガーゼおよび滅菌圧迫綿を使用する。

(15)使用済みのダイアライザ・血液回路は残血が漏出しないように密閉し、感染性廃棄物として施設の基準に従い廃棄する。

(16)他の汚染された、または汚染された可能性のある廃棄可能物(ディスポ製品、ガーゼ、包帯等)も、感染性廃棄物として廃棄する。なお、注射針類は使用後リキャップせず、職員の針刺事故を起こさないように工夫して感染性廃棄物として廃棄する

 感染性廃棄物の処理については、平成4年8月13日付け衛環第234号厚生省水道環境部長通知「感染性廃棄物の適正処理について」の別添報告書別紙2「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に基づいて行われていた。ところが「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成12年法律第105号)及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成15年法律第93号)の内容を反映する必要が生じた。また、平成12年12月行政改革推進本部規制改革委員会(現内閣府総合規制改革会議)において「規制改革についての見解」として、感染性廃棄物を客観的に判断できるものとするよう求められた。そこで平成16年3月16日、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部は感染性廃棄物処理対策検討会を設置して同マニュアルの改正をおこなった。本マニュアル作成時点ではこの「改正マニュアル」の内容が反映されていないので注意されたい。

3.治療施行時および抜針後における操作

1)穿刺ミスや再穿刺をする場合

(1)穿刺ミスした針や血液に汚染した紙ガーゼなどは、病床の近くに用意した感染性廃棄物入れに一時的に廃棄する。

(2)再穿刺する場合は十分止血した後に行う。

2)止血操作

(1)血液汚染した紙ガーゼなどは感染性廃棄物として処理する。

(2)素手で止血操作を行わない。間に合わず、素手で押さえた場合は新しい手袋を装着した別のスタッフと速やかに交替する。血液等で汚染した手はすぐに流水で洗う。

(3)患者待合室などで不意に出血した場合は、すぐにスタッフを呼ぶよう指導しておく。特に、患者自身で止血し、そのまま黙って帰宅することがないようにする。血液で汚染した衣類は速やかに交換し、他の患者に触れないようにする。掃除等をする場合に透析室従事者は手袋を装着し、その後は十分に手洗いする.

3)透析を一時中断する場合

(1)穿刺針に、留置する目的でヘパリン入りの生食液等を充填する場合、未使用のディスポーザブルのシリンジと注射針を使用する.

(2)血液透析を再開する際、ダイアライザ、回路、充填液を捨てる場合は感染性の廃棄物として処理する.

4)創処置をする場合

(1)処置の前後に透析室従事者は十分な手洗いをする.

(2)紙シーツなど、ディスポーザブルのシーツを患部の下に敷く.

(3)汚染されたガーゼは感染性廃棄物として、持ち運ぶことなくその場で適切に廃棄する.

5)ベッド上で排泄された喀痰、便、尿の処置

(1)処置の前後に透析室従事者は十分な手洗いをする.

(2)透析室従事者は手袋を着用して処置をする.

(3)排泄物は汚物流しやトイレに廃棄する.

IV おわりに

 本標準的操作の実行にも関わらず、感染の拡大が認められた場合、第4章に詳述する感染対策委員会でその原因を調査して改善策をたてる.また、原因が明らかでないときは、すべての点にわたってさらに厳密な予防的操作法を実行するよう操作マニュアルを改訂する.


第2章標準的消毒洗浄

I. はじめに

 透析施設での実施すべき標準的消毒方法について、この章で記述する。この章の内容を徹底させるためには、透析室従事者に、器具、機材および(透析の)環境について「清潔(域)」、「不潔(域)」の基本的概念の教育が反復して行われる必要があることはいうまでもない。なお、特殊な感染患者治療時の消毒方法については、「第4章感染患者への対策マニュアル」で詳述する。

II.透析従事者の手指

 手洗いの励行は感染経路を遮断する最も有効で簡単な方法である(脚注参照)。透析室内に自動水栓付き(足踏み式、肘式でも可)手洗い場を充分な数設置し、医療業務の中で石鹸と流水により頻回に手洗いを行う。

 合衆国のCDCのPractices Advisory Committee and the HICPAC/SHEA/APIC/IDSA Hand Hygiene Task Force はGuideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings-Recommendations of the Healthcare Infection Control (MMWR 51(RR16):1-14,2002)を発表し、手の清潔保持法としてにアルコールを基材とした手用消毒剤の使用を限定的に許容した。しかし患者の皮膚と直接接触する場合やアクセス穿刺などでは、従来通り手洗いが必要としているので注意されたい。

手洗いの方法(下図参照)

  (1)流水で手に付着した汚れを洗い流す。

  (2)まず石鹸の表面を流水で洗浄する。表面の汚染を除去した後の石鹸をつけ、手のひらでもむように泡立てる。

  (3)手を洗う。
図


  (4)手を拭く。
ペーパータオルで丁寧に拭く。

III.ブラッドアクセスの消毒

 血液透析患者ではブラッドアクセスの適切な消毒を怠ると重篤な敗血症に至ることがある。消毒薬には一般に、ポビドンヨード、10%イソジン液Rが用いられる(15頁、主な消毒剤の適応一覧表参照)。内シャント穿針・抜針時、血管カテーテルヘの接続・離脱の消毒方法は透析操作に準じる。

IV.薬剤の投与方法

 透析中の経静脈薬物投与は、血液透析回路の静脈側回路ラインにある混注ジョイント部か、静脈側チャンバーの液面調節ラインから行う。これらの部位を消毒用アルコール綿で消毒し、短針を接合した注射器、もしくは、注射器や点滴回路を接合し投与する。

V.透析装置外装

 透析終了ごとに0.5%〜1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で清拭する。血液付着時は消毒用アルコール(70 %イソプロピルアルコールでも可)綿等で拭き取り、水拭きし、その後上記操作を行う。特に機械のつまみなどをきちんと清拭する。

VI.透析液供給装置・回路

1.多人数用透析液供給回路は、毎日、0.02 %次亜塩素酸ナトリウム等で自動洗浄する。また週l回は0.3−1.0 %酢酸で洗浄する。

2.個人用透析装置、供給回路は、使用日ごとに、0.02 %次亜塩素酸ナトリウム等で洗浄する。また週1回以上は0.3−1.0 %酢酸で洗浄する。

VII.医療器具

1.鉗子・トレイ類は使用ごとに、グルタラ−ル(2.25 %サイデックスに30分以上、または、2 %ステリハイド等に1時間以上)浸漬後、水洗いする。

2.聴診器は使用後に毎回、消毒用アルコールで清拭を行う。

3.液体の消毒剤を使用できない器具はエチレンオキサイドガスで滅菌する。

VIII.リネン類(シーツ・枕カバー・毛布カバー)

 患者ごとに使用後、シーツ、枕カバー上の埃、髪の毛等を清掃する。リネン類は最低毎週1回交換し、血液で汚染された場合は、その都度交換する。

血液汚染時のリネン交換

  (1)洗濯可能な物
交換時は0.1 %次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬後、水洗いし、洗濯する。
  (2)洗濯不可能な物はエチレンオキサイドガスで滅菌する。
  (3)汚染が強度の場合はビニール袋に密閉し、感染性廃棄物として処理する。

IX.ベッド柵・オーバーテーブル

 一日1回、0.1〜1 %次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて清拭する。

X.・ガーグルベース類

 透析室内に持ち込んだ食器は、使用ごとに洗浄加熱滅菌する。ガーグルベースは使用ごとに次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンR等)200-500 ppmに浸漬後、水洗い、乾燥する。

XI.便器・尿器類

 汚物処理後、熱水(80度10分)で洗浄後、水洗い、乾燥する。

血液が大量に混入した排泄物

  (1)吐物は汚物槽に流す。
  (2)排便は汚物槽に流す。ベッドパン (差込便器)は80度10分の熱水消毒を行う。

XII.室内

 毎日清掃する。床は血液汚染された場合はその部分を0.1〜1 %次亜塩素酸ナトリウム溶液で清拭する。
 患者控え室など透析室外において止血ガーゼなどの血液汚染された物品が発生した場合は、透析室に持ち込み感染性廃棄物入れに廃棄するように指導する。

XIII.その他

 透析従事者が感染患者と非感染患者を判別できる処置を講ずる。


主な消毒剤の適応一覧表


(出典: 昭和大学藤が丘病院感染対策委員会編 院内感染防止対策マニュアル 第2版 昭和大学藤が丘病院、1994.)
消毒剤 適用濃度 適応 適応微生物 無効微生物 備考
1)(消毒用アルコール)
消毒用エタノール(78.9−81.4 %)
調製不要 手指、皮膚、器具
(15秒以上)
一般細菌、ウイルス、HIV、結核菌、酵母菌、クラミジア、リケッチア、スピロヘータ 芽胞(炭疽菌、破傷風菌)、HBV 水洗不要、火気厳禁
脱脂等による皮膚あれ、過敏症、蛋白除去してから使用ゴム類変質
2)(塩化ベンザルコニウム0.2 %+エタノール83 %)
ウエルパス 速乾性擦式消毒剤R
調製不要 手指
乾燥するまで手掌を摩擦する
細菌、真菌、MRSA、スピロヘータ 芽胞 水洗不要
火気厳禁
有毒物・石鹸等を除去してから使用
3)(ポビドンヨード)
イソジン液(10 %)R
ネオヨジン液(10 %)R
手術用イソジン液(7.5 %)R
調製不要 手指・皮膚・粘膜・創傷面 一般細菌、結核菌、真菌、芽胞菌、ウイルス、HIV、MRSA、スピロヘータ HBV 遮光、石鹸分を除去してから使用
ヨード過敏症に注意
<蛋白の存在下で効力低下>
4)(グルコン酸クロルヘキシジン)
ヒビテン液(5 %)R
ヒビテングルコネート液(20 %)R
ヒビスクラブ(4 %)R
0.1−0.5 % 手指、皮膚、器具 一般細菌
スピロヘータ
芽胞
結核菌
真菌
ウイルス
遮光
有毒物・石鹸等を除去してから使用
0.05 % 病室、用具
0.02−0.05 % 粘膜(グルコネートのみ)
調製不要 手指
5)(塩化ベンザルコニウム)
オスバン(10%)R
0.05−0.2 % 手指、器具、衣類等 一般細菌
真菌
芽胞
結核菌
ウイルス
有毒物・石鹸等を除去してから使用
0.01−0.025 % 粘膜、創傷面
0.3 % 1分以上 排泄汚物不可)
6)(次亜塩素酸ナトリウム)
ミルトン(1%)R
80倍(0.013 %) 器具、衣類等 ウイルス、MRSA、HIV、HBV、真菌、一般細菌 結核菌 金属腐食
蛋白分解作用
20倍(0.05 %)2分 緊急時
7)(クレゾール)
クレゾール石鹸液(クレゾール50%)R
0.5−1 % 手指・皮膚 一般細菌
結核菌
真菌
スピロヘータ
芽胞
ウイルス
HIV
遮光
過敏症状に注意
<廃水規制あり>
0.5−1 % 器具、病室
1.5 % 排泄物
8)(グルタラール)
サイデックス(2.25 %)用時調製液(2.25 %)R
ステリハイド(20 %)用時調製液(2 %)R
2 %、2.25 %
30分以上
器具 細菌、真菌、MRSA、芽胞、結核菌、ウイルス、HBV、HIV   粘膜刺激(吸入接触さける)
皮膚につけないよう注意
浸漬時は蓋付容器で行い、調製後直ちに使用
2 %、2.25 %60分以上 汚染器具
9)(塩酸アルキルジアミノエチルグリシン)
テゴー51(10 %)R
0.05−0.5 % 手指、皮膚 一般細菌
真菌
結核菌
芽胞
HBV
蛋白・脂肪共存下で効果低下
石鹸類は効力減弱させる
0.01−0.05 % 粘膜、創傷面
0.05−0.2 % 器具、病室
0.2−0.5 % 結核領域

希釈法
0.15 % 0.2 % 0.5 %
希釈倍率 100倍 50倍 20倍
3)イソジン(10%原液)R
5)オスバン(10%原液)R
9)テゴー51(10%原液)R
10 ml 20 ml 50 ml
全量 1000 ml
  0.013 % 0.05 % 0.1 % 0.5 % 1 % 1.5 %
4)ヒビテン(5 %原液)R   10 ml
(100倍)
20 ml
(50倍)
100 ml
(10倍)
   
6)ミルトン(1 %原液)R 12.5 ml(80倍) 50 ml(20倍) 100 ml(10倍)      
7)クレゾール石鹸(50 %原液)R       10 ml
(100倍)
20 ml
(50倍) 
30 ml
(33倍)
全量 1000 ml
( )内は希釈倍数を示す.


第3章 感染予防の透析室設備と環境対策

I.はじめに

 透析医療における感染の経路は患者相互、スタッフから患者へ伝播、また、患者及びスタッフが外部で感染して持ち込むものなどさまざまである。この章では、透析室設備(照明・ゾーニング・空調・透析用水・ベッド配置)の環境対策について述べる。感染防止の観点から透析施設の設備や環境対策において、本マニュアルを参考に様々な対応を行うことを期待する。特に今後の透析施設の新築・増改築の際は感染予防に視野をおいた設計を心がけて頂きたい。

II. 透析室の照明

1.透析室の照明の目的
 透析患者は血液透析治療の数時間を透析室で過ごすため、快適な照明を考慮しなければならない。また、医療側からは治療行為や看護が、清潔かつ安全に行う上で充分な明るさを確保する必要がある。 そのためには、以下の点に十分な配慮を行うべきである。

(1)昼間と夜間それぞれの時間帯の適正照度を満たすように照明設備を用意する。
(2)穿刺や処置等、部分的に高照度を要するところでは、必要に応じて局所照明の併用を考える。
(3)室内の装置等の配置を考慮し、グレア*を下げるために必要であれば間接照明を取り入れ、照度の調和を図る。

*グレア…視野の中に特にまぶしい光や輝度が大きいものがあると不快感や目の疲労を生ずる。このような現象のことをグレアという。

2. 透析室の照度
 病院の照明は、日本工業規格の照度基準(JIS-Z-9110)に準拠して照明計画を行う。特に透析室の照明では以下の照度を確保する。

(1)患者が安静横臥、ないし睡眠をとっているときの照明(グレアを考慮):100 lx-200 lx程度
(2)患者が読書やTV観賞するときの照明:150 lx-350 lx程度
(3)スタッフの穿刺等処置のための照明:350 lx-500 lx程度

III.透析室のゾーニング

 感染防止におけるゾーニングとは、病院内において機能に応じて清浄度を変えて対応することを言う。表1に日本病院設備協会が作成した病院の機能的区域別の要求される清浄度からみたゾーニングを示す。一般の透析室は医療ゾーンの一般清潔区域(清浄度クラスIV)に相当する。ただし、救命救急センターに附属した透析室等は、準清潔区域であるICU・CCUと同じレベルの区域とするのが望ましい。

 ゾーニングを考慮に入れた透析室の空調やベッド配置等について述べる。

表1.清浄度によるゾーニング*
清浄度クラスゾーンの名称該当室(代表例)
A.医療ゾーン  
  I高度清潔区域バイオクリーン手術室、バイオクリーン病室
  II清潔区域一般手術室、手術用配盤室、清潔廊下、材料部門の既滅菌室、無菌製剤室、開創照射室、手荒いコーナー
  III準清潔区域手術部周辺区域(回復室など)、NICU・ICU・CCU、未熟児室、特殊検査・治療室(心カテ、膀胱鏡など)分娩室・調乳室
  IV一般清潔区域一般病室、デイルーム、診察室、待合室、玄関ホール、材料部・検査部の一般区域諸室、X線撮影室、内視鏡室、人工透析室、通常新生児室、物理療法室、調剤室
  V汚染管理区域RI管理区域諸室、細菌検査室、感染症病室・診察室(空気汚染の危険性のあるもの)、解剖室、霊安室、患者用便所、使用済リネン室、汚染処理室
B.一般ゾーン  
  VI一般区域事務室、医局、会議室・講堂、食堂
  VII汚染拡散防止区域一般用便所、一般用ゴミ処理室
*日本病院設備協会:病院空調設備の設計・管理指針(HEAS-02)1998 より引用

1.空調・換気
1)透析室の清浄度クラスと換気条件
 表1に示し、ゾーニングの項で述べた透析室の清浄度クラスIVとは、一般病室、診察室などが該当し、日本病院設備協会の病院設備の設計・管理指針(HEAS-02)1998によると「医療ゾーンの一般区域においては、中性能以上のフィルタを使用し、感染防止対策上も適切な気流が得られるように、吹出し口と吸込み口の位置関係などを検討しなければならない。」と規定されている。空気中微生物数は200-500 CFU/m(6-15 CFU/ft3)*を目標とする。
*CFU:colony forming unit, 空気の単位容積中に含まれる微生物の集落数(コロニー数)

 なお、診療内容によって清浄度クラスの要求が異なるため、施設の診療内容を検討して清浄度も配慮すべきである。例えば、ブラッドアクセスのためのダブルルーメンカテーテル等を挿入する場合は、局所的な清潔操作と挿入部の清潔維持操作を行えば表1の空気清浄度IVでも差し支えないが、シャント部の手術を実施する場合は表1の空気清浄度クラスIIの部屋で行うのが望ましい。 ちなみに、透析部門に関連する部屋の空調関連の条件を表2に示す。

2)隔離透析室
 空気感染症、例えば結核感染患者の場合、隔離透析室での透析が必要になる。 厚生省の感染症指定医療機関指定基準では、感染隔離室の空調設備、専用の空調設備を設置し、全外気または再循環給気で、室内に病原体を流入させない措置が必要であること、外部への病原体飛散・室内への逆流を防止すること、かつ陰圧制御で十分な換気能力を持つことなどを指示している。空気清浄度に関する具体的な数値は示されていない。
 隔離透析室の基準も示されていないが、基本的にこの考えかたに準じて設備を用意する。すなわち、隔離透析室では専用の空調設備を設置し、室内の空気を循環し、また隔離透析室は周囲より陰圧に保ち、排気は除菌フィルタを通して行い、周辺環境の汚染を防止する必要がある。医療スタッフの感染防御のため、室内循環送風は常にスタッフの作業側を上流とするなどの配慮も必要である。

下記に各室の換気回数(1時間あたり)と空気清浄度を示す。
 (1)隔離透析室 12回以上
 (2)一般透析室 6回以上

※換気回数の増加が室内温度制御に影響しないこと。

空気清浄度
 (1)隔離透析室 クラス1万*
 (2)一般透析室 クラス50万〜100万
 (3)一般病室 クラス100万
   *クラス1万とは、1m中に含まれる煤塵が1万個以下の空気の状態

1時間当たりの換気回数を一般透析室で6回以上、隔離室で12回以上とする(一般事務室の望ましい換気回数は、1時間当たり5回)。

表2 透析部門における各室の条件*
エリア・室 清浄度
クラス
最小風量のめやす 室内圧 室内循環機器の設置 温湿度条件 許容騒音
レベル
〔dB(A)〕
夏期 冬期
外気量
(回/h)
全風量
(回/h)
温度
(℃)
湿度
(%)
温度
(℃)
湿度
(%)
透析室 IV 3 10 等圧 26 50 23 50 40
シャント手術室 II 4 20 正圧 ** 26 50 24 50 45
準備室 IV 2 8 等圧 26 50 22 50 45
透析機械室 IV 全排気 8 負圧 - <28 - >15 - 50
洗浄室 IV 全排気 8 負圧 - <28 - >15 - 50
待合室 IV 3 8 等圧 26 50 22 50 45
更衣室 IV 2 6 等圧 27 50 22 50 45
ナースステーション IV 2 8 等圧 26 50 22 50 45
器械リネン室 IV 2 6 等圧 - - - - - 45

*日本病院設備協会:病院空調設備の設計・管理指針(HEAS-02)1998 より抜粋
**高性能フィルタを装着した循環機器ならば可

2.透析用水
 透析液への微生物等の汚染から患者の発熱等の炎症反応、その他長期合併症の増加などが報告されている。それらの症状を防止するために、透析用水の管理は充分に配慮し、下記の点に留意する必要がある。

(1)透析用原水は、飲用水としても適切な良質の水を充分な量用意する。
(2)透析用水システムの配管は、その成分の溶出などがない材質を用い、細菌汚染巣となりうる構造、例えば盲端配管やジョイント、未使用分岐管などのデッドスペースを避けた設計を心がけるべきである。できれば数年毎に配管を更新することが望ましい。
(3)透析部門の逆浸透水システムは初期抜水機構を備えた装置が望ましく、できれば月に一度以上、装置に適した洗浄剤を用いて洗浄消毒することが望ましい。また、各透析装置に供給する配管は毎日洗浄消毒する。
(4)透析用水は細菌学検査とエンドトキシン検査を月に一度行うことが望ましい。その結果により洗浄回数の増加や洗浄法を変更するなど、水質の維持に努める。

3.ベッド配置
 従来、透析ベッドの専有面積は、既存の透析室の床面積とそこで治療を行う患者数と装置の数などによって二次的に決まってきた。しかし、ベッド配置は、感染予防や緊急時の対応などを考慮した配置が必要であり、今後、血液透析室の新規設計や増改築などを行う際には適切なベッド配置を取り入れるよう努力すべきである。 また、ベッド間隔を充分に取ることは、下記のような効果も期待できる。

(1)患者のプライバシーを保護しやすい。
(2)スタッフの移動が容易となり、緊急時の対応も容易となる。
(3)人(患者(既知感染の有無)・医療従事者・見舞い客・出入り業者)の動線と物(清潔物・不清潔物・廃棄物)の動線を明らかにし、不潔物と清潔物が交わらない配置(ゾーニング)を設定できる。
(4)隣接するベッドの患者処置を行う前に手洗いをするようになるなど、感染予防に対する医療スタッフの意識レベルに微妙な影響を与える効果が期待できる。

 以上の点から、感染防止にも配慮してベッド間隔を充分取るよう配慮しなければならない。米国建築学会の病院設計指針によると「専有面積は7.2 mまたはベッド間隔を1.2 mとする」となっている。一般病室においても、1.0m以上とされている。現在、日本の透析施設におけるベッド間隔は0.8m-1.0m程度であろうと推測され、充分とは言いがたい現状である。

ベッド配置の原則

 (1)隔離透析室 基本的に1ベッド単独で使用する。
 (2)一般透析室 ベッド間隔を1 m以上とる。
 既知感染症の配置では、HBV、HCVなどの患者を動線の交わらないでまとまった位置に固定し、できる限り専任のスタッフが治療を担当する。

IV.機器の消毒

 透析関連機器に関しては、感染予防の外装消毒等は第2章で述べられているので再掲しない。 ここでは、特に注意点についてのべる。

  (1)最近では、装置内部の消毒の洗浄剤が多く発売されている。次亜塩素酸系・過酢酸系等、装置に応じた洗浄剤を選択する。
  (2)機器外装の消毒にハイアミン(塩化ベンゼトニウム)を使っていた施設があったが、HBVには効果が明らかでなく、次亜塩素酸ナトリウムを使用する。
  (3)外装のタッチパネル方式になっている装置には、アルコール系消毒薬・洗浄剤の選択には特に慎重におこない、清拭後、乾燥したガーゼなどで再度ふき取ることを忘れずに行う。
  (4)透析装置以外の機器(輸液ポンプ、自動血圧計、ベッド等)も同様に清拭する必要がある。
  (5)ベッド及び装置周辺環境やノンクリティカル器具(聴診器・血圧計のカフ等)が血液汚染された可能性がある場合はアルコール系消毒薬で清拭する。目に見える血液汚染がある場合は、1,000 ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液で消毒する。


第4章 感染患者への対策マニュアル

I. 感染対策委員会の設置

 すべての施設で感染対策委員会を設置する必要がある。感染対策委員会は院内感染予防、および、感染発生時その拡大を防止する場合に中心的な役割を果たすため、委員長は各医療機関の責任者をあてる。
 業務は以下のものが含まれる。

  (1)各施設の実状に合った院内感染対策マニュアルの作成と実行

  (2)院内感染サーベイランスシステムの構築
院内感染の実態の把握、院内感染が生じた場合の感染経路の推測、院内感染が起きた場合の対応の指示

  (3)スタッフへの教育

  (4)患者への教育、情報提供

 なお、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(第4章IX)により、対象となる感染症を診断した医師は都道府県知事等(管轄の保健所)への届出をおこなう。

II. 患者への感染対策の基本

 患者への感染対策の各感染症に共通する基本方針は以下の通りである。

  (1)サーベイランスのための検査をする際には、患者にその意義と必要性を説明し、理解と同意を得る。

  (2)検査結果を患者本人に告知する。その際には、例えば、肝炎ウイルスキャリアであることの意味をウイルス肝炎研究財団刊「HBs抗原の知識」、「HCV抗体の知識」などの小冊子を用いて十分に説明し、またプライバシー保護に努める。

  (3)感染性の高い疾患を有する患者に隔離が必要な場合、患者・家族に対し、疾患の特殊性、隔離の必要性、隔離中の注意事項を十分に説明し、理解と同意を得なければならない。

III. B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス

1.感染経路

 血液媒介感染症であり、透析施設においてもっとも注意を払うべき感染症である。ウイルス陽性の患者血液あるいは体液(脳脊髄液、羊水、精液、膣分泌物、胸水、腹水、母乳)が皮膚を越えて接種された場合や、創傷のある皮膚あるいは粘膜への接触によって感染する。また、これらの体液で汚染された器具や手袋、包帯を介しても感染が起こりうる。
 B型肝炎ウイルスはなかでも感染力が強い。特にHBe抗原陽性血は感染力が強い。HBs抗原陽性でHBe抗原陰性の変異株がもし感染を起こした場合、劇症肝炎を起こしやすいので、HBs抗原陽性HBe抗原陰性血に対しても注意が必要である。なお、透析患者では、感染発症時にも比較的AST(GOT)、ALT(GPT)値が低値をとること、HCV抗体が出現しにくいことが知られている。

2.サーベイランス

1)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの新たな感染が起こっていないことを確かめる目的で、前者については、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体の検査を、後者についてはHCV抗体の検査を年2回以上定期的に行う。

2)HBs抗原陽性者については、HBe抗原、HBe抗体検査を実施する。

3)HCV抗体陽性患者についてはHCV-RNA定性検査を実施する。

4)転入時、転出時には上記以外の時期でも実施する。

5)もともと肝炎ウイルスのマーカーが陰性であった患者において、肝機能検査(月1〜2回)で正常だったものが異常値を示す際には、定期外にウイルス関連検査をする。
肝炎ウイルスの感染が疑われた場合、早期診断をするには、B型肝炎では、IgM型HBc抗体、C型肝炎では、HCV -RNA定性検査をおこなう。急性ウイルス肝炎診断基準と、診断時の届出法は第5章IVに記載した。

6)検査結果は患者本人、家族に告知し、スタッフに周知徹底する。ただし、プライバシー保護に努める。

7)HBs抗原あるいはHCV抗体陰性であっても感染者であることがあるので、すべての患者が感染者との認識で対応するのが第一である。

3.感染患者対策

1)原則として、肝炎ウイルス陽性の患者(キャリア)はベッドを透析室内の一定の位置に固定する。優先順位としては、HBe抗原陽性患者、HBe抗体陽性患者、HCV抗体陽性患者の順とする。上記の固定は各シフトを通じて実施することが望ましい。共通の固定ができない場合にはシフトごとの固定でも可とする。この場合はシフトごとに、機器の消毒、リネンの交換を行う。

2)肝炎ウイルス陽性の患者を処置するスタッフはシフトごとに固定することが望ましい。ただし、血圧測定など明らかに感染の機会が生じないと考えられる行為は除外する。

3)2)の対策が困難な場合、血液透析の開始、終了は肝炎ウイルス非感染者、 HCV抗体陽性患者、HBe抗体陽性患者、HBe抗原陽性患者の順番に行うことが望ましい。

4)聴診器、体温計、血圧計を専用とする。

5)血液や体液で汚染したものを取り扱う場合はその都度新しい手袋をして、汚染部は直ちに消毒する。

4. 消毒方法

 B型、C型肝炎は血液媒介感染症であり、またスタッフは直接血液を取り扱うため、感染媒体となる可能牲がある。そのため標準的消毒方法に加え、以下の消毒方法の励行が必要となる(HlV.ATLAなどもこれに順ずる)。

1)透析従事者の手指

 皮膚の血液汚染時には、すぐに石鹸を用いて手洗いをし、その後流水でよく洗い流す。

2)透析中の薬物投与

 透析中の経静脈薬物投与は、針刺し事故防止のため血液透析回路の静脈側回路ラインに、注射器・点滴回路を接合し投与する方法や無針部注ポートを用いる方法が望ましい。

3)医療器具

(1)血庄計・聴診器・電子体温計類は専用の物を使用する。
患者ごと、使用ごとに、アルコールを浸した綿で清拭を行う。
(2)廃棄可能物はビニール袋に密閉し感染性廃棄物として処理する。
透析セットやトレイはディスポーザブル使用が望ましい。

4)リネン類

 患者専用とするのが望ましい。またはディスポザブルシーツを使用する。

5)ベッド柵・オーバーテーブル・カーテン

 透析後、0.1%〜1%次亜塩素酸ナトリウム液の溶液で清拭し、その後水拭きする。

6)食器類

 吸い飲みなどは、患者専用の物を使用する。使用後ごとに、水洗して熱消毒(80度10秒)、乾燥する。

7)室内

 隔離が必要な症例では、個室管理とし入室時ガウン、マスクの着用が必要である。また透析装置は、専用に個室内に設置するのが望ましい。

5.新たにB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスが陽性になった場合

1)患者に対して告知、教育、カウンセリング、そして必要に応じて治療を行う。その際、患者のプライバシー保護に努める。

2)感染対策委員会を中心にスタッフへの情報伝達、感染源、感染経路の検索、感染対策マニュアル通りの治療手技がなされているか再確認し、必要なら再教育を行う。

3)他の患者について、肝機能検査、ウイルス検査を定期外に施行するなど、サーベイランスを強める。

6.患者教育

1)B型肝炎ウイルスの感染経路としては、血液、血液製剤のほか、血液が付着することがある医療器具、カミソリ、歯ブラシ、タオル等などを介しての感染も考えられるので、これらの処理に気をつける。

2)透析以外の感染経路としては、注射その他の医療行為、あるいは出血を伴う民間療法、刺青、性的接触(異性間、同性間を問わない)等がある。これは、血液が直接体内に入る場合や性行為に伴うような密接な接触関係がなければ、B型肝炎ウイルスは感染しないからである。

3)B型肝炎ウイルスに対しては有効なワクチンがあるため、HBs抗原陽性患者の配偶者や同居者のうち、HBs抗原抗体陰性者についてはワクチンを接種することが望ましい。

4)C型肝炎ウイルスの感染経路もB型肝炎ウイルスと同様であるが、B型肝炎ウイルスに比べると血中のウイルスは少なく、感染力は100分の1から10000分の1と格段に低いため、血液にさえ気をつければ、日常生活では感染の心配はない。性的接触も感染経路の1つとして考えられてはいるが、その頻度は低い。

5)日常生活上の注意(B、C型肝炎ウイルス共通)

(1)創、皮膚炎、鼻出血はできるだけ自分で手当し、他人に血液がつかないように注意する。血液の付着したものは密閉して廃棄し、廃棄できないものは十分に水洗する。
(2)月経時、鼻出血等の処置後は、手指を十分に流水で洗う。
(3)かみそり、歯ブラシ、タオルは専用とする。
(4)排尿、排便後は流水でよく手を洗う。
(5)食器の洗浄、衣服の洗濯、入浴は通常通りで問題ない。

IV. HIV

1.感染経路

 肝炎ウイルスと同様に血液媒介感染である。感染力は弱く、加熱や消毒により容易に不活性化される。

2.感染患者対策

1)CAPD排液中にはウイルスが存在するので、取り扱う際には、手袋、ガウン、マスクを使用する。

2)血液透析を行う場合、ベッドを固定し、感染予防に特に注意して透析を行う。

3)マスク、手袋を常時使用する。手袋は患者ごとに常に新しいものに交換する。穿刺・返血時にはガウンと、フェースシールドマスクあるいはゴーグルを装着する。

4)接続部ロック式の血液回路を使用する。

5)採血、輸液、輸血時に金属針を用いない。すなわち、開始時の採血は穿刺と同時にし、透析中の採血、注射、輸液、輸血はすべて輸液ラインを利用する。

6)終了(回収)操作は必ず2名で行い、抜針後、穿刺部の止血を確実にする。

7)プライバシー保護には特に注意を払う。

3.サーベイランス

1)透析導入時や他院からの転入時には、スクリーニング検査をすることが望ましいが、患者に同意を得る必要がある。

2)スクリーニングで通常用いられるHIV抗体検査で陽性にでても、偽陽性の場合が少なくないので、ウェスタンブロット法や間接蛍光抗体法、あるいはPCR法などによる確認検査が必要である。

4.患者教育

1)専門施設での教育、カウンセリングを要する。

2)血液媒介感染症であるが、感染力はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスよりもはるかに弱い。

3)日常生活上の注意は肝炎ウイルスに準ずる。

5.参考

 診療、サーベイランスのための診断規準、カウンセリング等についての詳細は、『HIV感染症診断の手引き』(平成6年12月)、『後天性免疫不全症候群の発生動向の把握のための診断基準について』(平成11年3月3日健医疾発第17号)、『HIV医療機関内感染予防対策指針』(平成元年4月)、『HIVとカウンセリング』(平成2年3月)、『エイズ相談マニュアル』(平成5年3月)を参照されたい。

V.MRSA

1.感染経路

1)MRSAは健常人や合併症のない元気な透析患者では問題になることは少ないが、重い合併症のある透析患者や高齢透析患者、術後の透析患者に感染すると難治化し重篤になることがある。

2)医療スタッフの手指により以下のように媒介されて伝播する接触感染であることが多い。

(1)MRSA患者の処置をした手で他の患者に触れる。
(2)MRSA患者周囲の環境の菌が医療スタッフの手に付着して運ばれる。
(3)保菌者の医療スタッフが鼻腔などに触れた手で患者の処置をする。
(4)MRSAで汚染された医療機器、物品を介しての接触感染が知られている。

3)喀痰、塵埃による飛沫感染も知られている。

2.感染者およびキャリアに対する対策

  (1)特にMRSA腸炎、MRSA気管支炎・肺炎、開放性ドレーンからMRSAが検出されたもの、尿・開放創から大量のMRSAが検出されたものは、感染性が高い。
  (2)感染症発症患者に対しては、抗菌薬の適切な使用および接触予防を行う。
  (3)感染性の高い患者については個室における隔離透析が理想であるが、ベッド固定でも可とする。必要に応じてカーテンあるいはスクリーンによる仕切りを用いる。
  (4)聴診器、体温計、血圧計を専用とする。
  (5)手洗いにはアルコールローションを用いる(手袋をはずした時にも手洗いをする)。
  (6)隔離を行う際には、患者・家族に対し MRSA感染の特殊性、隔離の必要性、隔離中の注意事項を十分に説明し、理解と同意を得なければならない。

3.サーベイランス

1)MRSA感染者については、2週に1回程度、咽頭、鼻腔、痰、膿などについて、MRSAの有無をチェックする。

2)スクリーニング検査については集団発生時に気管切開、褥瘡、手術創、IVHカテーテルなどを有する患者にのみ施行する。ハイリスク領域の勤務者を除き、スタッフのスクリーニング検査は原則として不要である。

4.MRSA感染者の移送

 患者移送は最小限とする。車椅子、ストレッチャーは患者専用のシーツなどで覆って用いる。

5.患者教育

1)MRSAはさまざまな抗生物質に耐性をもつ細菌であり、易感染者では時に重症の感染症が発生するが、その場合にもいくつかの治療法がある。

2)MRSA感染患者および保菌者は手洗いを励行し、保菌部位に手を触れないように、易感染者に近づかないようにする。

3)他の患者への感染防止のために、隔離やスタッフの予防衣、マスク、手袋の着用が必要なことがある。

4)汚染が拡大しないように、使用した機器、器具を消毒し、リネンなどを袋に密閉して搬出する必要がある。

5)健康者や易感染者以外の患者にMRSA感染症が発症する危険性は非常に低く、家庭での日常生活には支障がない。

VI.結核

1.感染経路

 結核菌は空気感染により感染が広がる。結核菌を含んだ分泌物は咳やくしゃみによって大小の粒子になって空中に放出されるが大きな粒子はすぐに床に落ちる。小さい粒子は急速に水分を失い、5μm以下の飛沫核となり、これを吸入することにより感染する。この飛沫核は空気の流れに乗って長時間浮遊し、広く、遠くまで運ばれる。飛沫核として空中に浮遊した菌が感染源であり、床や壁、寝具や衣服などに付着した痰を介しての感染は無視できる。

2.感染患者対策

1)結核の感染対策でもっとも重要な点は、早期発見、早期治療である。すなわち、結核と診断されるまでがもっとも危険な感染源であり、いったん抗結核療法が始まれば、比較的速やかに(2〜3週)感染源でなくなるからである。

2)排菌のある結核患者では、隔離透析のできる施設へ速やかに転院させる。しかし、転院先が見つからない場合や患者の状態などでできない場合は、個室(理想的には独立した空調を有し、空気が流出しないよう陰圧にする。空調が独立していなければ空調を止め、ドアは閉めて一般病室へ空気の拡散がないようにする)で透析するか、それが不可能なら、時間帯を一般の透析患者と変えて透析する。その際、スタッフは微粒子用(N95規格)のマスク(薄い紙マスクは無効である)およびガウンを着用する。また、換気を頻回に行う(1時間に6回程度)。移送の際は、患者にサージカルマスクをしてもらう。

3)シーツや食器などに付着した結核菌は感染源とはならないので、これらを特別に処理する必要はない。

4) 透析患者が感染性のある結核であることが判明した場合のほかの透析患者および医療従事者への対応も重要である。感染者に化学予防を行えば、発病を1/2から1/5へ減少させるが、免疫能の低下した透析患者におけるINH投与による化学予防の適応基準や効果の報告はいまのところない。

3.サーベイランス

 前述したように早期発見が重要である。定期検査における胸部X線に注意する。原因不明の発熱や咳が2〜3週間以上持続する際には、結核も鑑別診断に入れ、胸部X線、喀痰検査などをする。  喀痰検査では、塗抹、PCR、培養を行う。

4.患者教育

1)結核は、飛沫核感染(空気感染)であり、通常は、排菌陽性の肺、気管支、咽頭結核患者のみが感染源となる。呼吸器以外の肺外結核(結核性胸膜炎、胸水例でも)が周囲に伝染する可能性はきわめて低い。

2)排菌のある場合には、専門の施設での隔離が必要である。

3)咳をするときには、飛沫が拡大しないように、マスクをし、手で口をおさえる。

4)疾患の社会に及ぼす影響、治療が中断された場合の再治療の難しさを良く説明し、服用する薬剤の用法、用量を厳守してもらう。

VII. その他の感染患者対策

1.HTLV−1(ATLV)

 成人T細胞白血病の原因ウイルスである。血液を介して感染し、発病すればきわめて予後不良であり、感染対策はHIVに準ずる。

2.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

 腸球菌はヒトの腸管の常在菌であり、病原性が弱く健康人には無害であり、基礎疾患を有し、免疫力が低下した患者にみられる日和見感染菌である。臨床的に問題となる腸球菌はEnterococcus faecalisとEnterococcus faeciumで、尿路感染症、敗血症、感染性心内膜炎、胆道感染症の原因となる。VREはバンコマイシンを始め種々の抗生剤に耐性を示し、治療に難渋する。日本でも最近院内感染の報告がなされ、今後問題となる可能性が高い。
 VREの保菌者の多くはVREが腸管内に定着しており、糞便中に高濃度にみられる。また、尿路感染症患者では、尿中に認められる。したがって、感染経路を遮断するには、手洗い、トイレの清掃・消毒、便尿の取り扱いの注意が必要である。VREの感染者および保菌者に対しては、MRSAに準ずる。
 また、VREの予防として、バンコマイシンを予防的治療や経験的(empiric)治療として使用することを控えること、MRSAの保菌者に対する治療や偽膜性腸炎に対する第1選択薬としての使用も控えることが必要である。

3.インフルエンザ

 径5μm以上の飛沫により感染する。飛沫が到達するのは約1mであるので、個室透析ができないときには、隣のベッドとの間にスクリーンをおくのが望ましい。患者さんがマスクをしていれば飛沫の発生は最小限に抑えられるので、インフルエンザに罹患した患者、および咳嗽などの症状のある患者は、周囲への感染拡大を防止する意味から、マスクの着用を行う。また、手指を介した接触感染もあるので、手洗いは確実に実行する。予防注射がもっとも有効な感染予防策である。

4.重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、SARS) 日本透析医会医療安全対策委員会感染症対策部会(部会長:秋葉 隆)が作成した「感染指定病院、SARS 診療協力病院以外の慢性透析施設におけるSARS 対策ガイドライン」(http://www.jsdt.or.jp/pdf/2003_11_sars.pdf)を再掲する。

1)国内外でSARS 流行が確認される前にあらかじめ行うSARS 対策
(ア)管轄保健所の電話/ファックス番号を確認する。
(イ)地域のSARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関を確認する。
発症者(疑似症例以上)が出たら、ただちに保健所に届け出る義務がある。
地域毎にSARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関や当該ベッド数が異なり、対応も異なる。
SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関は保健所を経由した患者に対応する。
(ウ)発熱時の行動を患者/スタッフへ周知する。
自宅で発熱したら、来院する前に電話をして指示を仰ぐこと(透析施設にはいって着替えてベッドに付いてから熱があると申し出ることの無い様にする)。
透析中に発熱に気づいたら、直ぐにスタッフにしらせる。
(エ)あらかじめ用意すべき予防具。
N95 マスクあるいは外科用マスク、手袋、ゴーグル、フェースシールド。
(オ)インフルエンザ感染との鑑別を行えるよう準備する。
インフルエンザは予防手段があり、また比較的早期診断も可能である。
インフルエンザワクチン接種を患者及びスタッフに推奨する。
インフルエンザ診断キットを用意することが望ましい。
あわせて、肺炎球菌ワクチン、HB ワクチン接種も推奨する。

2)国内外でSARS 流行が確認された後のSARS 対策
(ア)SARS 感染にかかわる診断基準、特に疑い例の定義、届け出内容など「重症急性呼吸器症候群についての患者、疑似症患者の判断基準等について
(イ)透析患者・スタッフが発熱・各種呼吸器症状・SARS 流行地訪問/SARS 患者との接触など、SARS を考えるべき所見を呈したら、できだけ他の患者/スタッフとの接触を避け、SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関を受診させる。
(ウ)SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関以外の外来血液透析患者が、SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関を受診した結果「疑い例」となった場合(このケースは、SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関もしくは協力機関を受診し、38 度以上の発熱でかつ呼吸器症状があって、XP 上異常がない場合に生じ得る。)。
この患者の入院透析、外来透析はSARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関において行う。「設備がない」などの理由で不可能な場合は保健所の指示を求める。
当該施設の濃厚接触した透析患者の透析はSARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関に依頼する。不可能な場合には、管轄保健所に相談し適切な外来透析先を確保する。
もし、日本が伝播確認地域になりoutbreak した結果、濃厚接触が疑われる症例が多数発生し上記の対応が困難な場合は、SARS入院対応医療機関及びSARS外来診療協力医療機関透析室の収容能力の範囲であれば上記の透析室で行う。その収容能力を超えたら、行政側に相談した上で、当該透析施設の火曜木曜土曜の夜間帯や深夜帯などの空いている時間帯に行うか、通常の透析時間帯をずらし、他の患者と時間的な隔離透析を行う。
この場合、すべての患者とスタッフは最低限外科用マスクを着用する。とくに透析中の着脱を控えるよう指導する。10 日の観察期間中この処置を継続する。
(エ)濃厚接触した透析スタッフへの対応。
接触から10 日間自宅に待機し、健康状態を観察することが望ましい。
(オ)院内感染防止策のための施設内対応(予防策・消毒など)。
厚生労働省の示した院内感染防止対策に従い実施し院内感染の予防に努める。

3)SARS に関する知見の収集
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/ 、国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/、米国疾病対策予防センター(CDC) http://www.cdc.gov/ 等のホームページを参照して最新の知見を収集されたい。
参考資料と問い合わせ先
ア)院内感染防止対策。http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou05/pdf/06-07-06a.pdf
イ)重症急性呼吸器症候群についての患者、疑似症患者の判断基準等について(通知) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou05/06-07-07.html
ウ)国立感染症研究所感染症情報センター
医療機関等の専門家の皆様からの診断検査に関する照会に原則的に午前9時〜午後5時まで対応。 電話:03-5285-1111(代表)
エ)厚生労働省健康局結核感染症課 行政機関からの行政対応に関する照会先
電話:03-5253-1111 内線2382

5.ウエストナイル熱

 ウエストナイルウイルスを保有する蚊(多種類)にヒトが刺されることにより感染し、ヒトからヒトへの直接及び蚊媒体による感染はないとされている。一方、2004年米国疾病対策予防センター(CDC)よりジョージア州の透析室における同時発症2例が確認され、透析治療との関連が否定できないと報告された(http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5332a3.htm)。
 ウエストナイル熱は潜伏期間は2〜14日(通常2〜6日)で、突然の発熱(39度以上)で発症し、3-6日間持続、頭痛、背部の痛み、筋肉痛、食欲不振などの症状を有する。約半数で発疹が胸部、背、上肢に認められる。リンパ節腫脹も通常認められる。症状は通常1週間以内で回復するが、その後倦怠感が残ることも多い。 脳炎は上記症状とともにさらに重篤な症状として、激しい頭痛、方向感覚の欠如、麻痺、意識障害、痙攣等の症状を呈する。高齢者では死亡例も報告されている。
 流行地からの患者に上記症状をみたら疑い、確定診断には特異的IgM・IgG抗体(ELISA、中和試験)、ウイルス分離、ウイルス遺伝子の検出(PCR)を行う。
 その時点での流行地・検査実施施設も含め、最新の情報を厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/、国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/、年米国疾病対策予防センター(CDC) http://www.cdc.gov/ 等のホームページより得て対応されたい。

6.その他の感染症
 透析施設において、今後も、第4章に病名を挙げて記載した以外の感染症に遭遇ないしはその感染の危険に直面する場合が予想される。最新の知識を参照して、対処することが望まれる。以下に、代表的な感染症に関する情報の入手先をあげる。
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/
米国疾病対策予防センター(CDC) http://www.cdc.gov/
日本透析医学会  http://www.jsdt.or.jp/
日本透析医会 http://www.touseki-ikai.or.jp/

VIII.非感染患者の予防措置

 現在有効な感染予防対策としては、HBVに対する「HBワクチン」とインフルエンザに対する「インフルエンザHAワクチン」がある。非感染患者にはインフォームドコンセントを得た上、これらのワクチンを使用することが望ましい。

1. HBワクチンの使用

 HBs抗原・抗体ともに陰性患者およびHBワクチン未接種患者を対象として10歳以上は下記用量を接種する。3回目接種1ヶ月後にHBs抗体を測定し抗体の獲得を確認する。

初回接種(1回目)10μg(0.5ml)皮下又は筋肉内
1ヶ月後(2回目)同量
6ヶ月後(3回目)同量

2.インフルエンザHAワクチンの使用:インフルエンザ流行前に18歳以上には下記の用量を接種する。

初回接種(1回目)0.5ml 皮下
4週間後(2回目)同量

 接種回数については、免疫力の低下している透析患者では1回接種法で55%の有効との報告があり、2回接種法の方が望ましい。

IX. 医師から都道府県知事への届出の義務

1.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

 1998年10月2日「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防・医療法」と略)が公布され、1999年4月1日より施行、2002年11月改正された。全数把握(実際の発生患者数)の対象となる58疾病のうち透析医療と特に関わりのあるのは、「急性ウイルス肝炎」、「後天性免疫不全症候群」、「バンコマイシン耐性腸球菌感染症」「梅毒」などである。また、結核については 従来の「結核予防法」に従って対応することになる。
 ここでは「急性ウイルス肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」について記述する。詳細については厚生省保健医療局結核感染症課より自治体及び医師会を通じてガイドラインがしめされている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/index.html)。

一類感染症エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る)、痘そう、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱

二類感染症急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、ジフテリア、腸チフス、パラチフス

三類感染症腸管出血性大腸菌症

四類感染症E型肝炎、ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎含む)、A型肝炎、エキノコックス症、黄熱、オウム病、回帰熱、Q熱、狂犬病、高病原性鳥インフルエンザ、コクシジオイデス症、サル痘、腎症候性出血熱(HFRS)、炭疽、つつが虫病、デング熱、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、Bウイルス病、ブルセラ症、発しんチフス、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ライム病、リッサウイルス感染症、レジオネラ症、レプトスピラ症

五類感染症アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)、急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)、クリプトスポリジウム症、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、後天性免疫不全症候群、ジアルジア症、髄膜炎菌性髄膜炎、先天性風しん症候群、梅毒、破傷風、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症

*以下の五類感染症については、定点医療機関のみの届け出

RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、風しん、ヘルパンギーナ、麻しん(成人麻しんを除く)、流行性耳下腺炎−小児科定点医療機関

インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く)−インフルエンザ定点医療機関

急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎−眼科定点医療機関

性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症−STD定点医療機関

クラミジア肺炎(オウム病を除く)、細菌性髄膜炎、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、マイコプラズマ肺炎、成人麻しん、無菌性髄膜炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症−定点基幹病院

3.医師から保健所所長を経て都道府県知事への届出

1)管轄の保健所への届出は、迅速に行うため、電話等で行う。

2)5類については診断後7日以内におこなう。届出様式(別紙参照)は保健所に常備されている。

3)患者にも届出をしたことを説明する。

4.ウイルス性肝炎の定義と届け出基準

1)定義
 ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎(B型肝炎、C型肝炎、その他のウイルス性肝炎)である。慢性肝疾患、無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない。したがって、透析室ではHBs抗原・抗体、HCV抗体などが陰性であった者が急性肝炎を発症し、ウイルス感染が証明された場合には届出が必要となる。

2)臨床的特徴  一般に全身倦怠感、感冒様症状、食思不振、悪感、嘔吐などの症状で急性に発症して、数日後に褐色尿や黄疸をともなうことが多い。発熱、その他の全身症状を呈する発病まもない時期には、感冒あるいは急性胃腸炎などと類似した症状を示す。
 臨床病型は、黄疸をともなう定型的急性肝炎のほかに、顕性黄疸を示さない急性無黄疸性肝炎、高度の黄疸を呈する胆汁うっ滞性肝炎、急性肝不全症状を呈する劇症肝炎などに分類される。

3)届出基準
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって検査所見による診断がなされたもの
(1)B型肝炎
血清抗体の検出
 例、患者血清中のIgM・HBc抗体が陽性のもの(キャリアの急性増悪例は含まない)
(2)C型肝炎
抗原の検出
 例、HCV抗体陰性で、HCV・RNAまたはHCVコア抗原が陽性のもの
血清抗体の検出
 例、患者ペア血清で、第2あるいは第3世代HCV抗体の明らかな抗体価上昇を認めるもの
(3)その他のウイルス性肝炎
HDV、HEVなど上記以外の肝炎ウイルスによる急性肝炎や、その他の非特異的ウイルスによる急性肝炎
 ○病原体検査や血清学的診断によって、ウイルス性肝炎と推定されるもの
 (この場合には、病原体の名称についても報告すること)
 ○上記のウイルス性肝炎の届出基準を満たすもので、かつ、劇症肝炎となったものについては、報告書の「症状」欄にその旨を記載する。劇症肝炎については、以下の基準を用いる。
肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン時間40%以下を示すもの。発病後10日以内の脳症の出現は急性型、それ以降の発現は亜急性型とする。


「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」による届出の様式(1)-1・2・3類感染症発生届出票


「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」による届出の様式(2)-4類感染症発生届


「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」による届出の様式(3)-後天性免疫不全症候群発生届(HIV感染症を含む)


感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」による届出の様式(4)-5類感染症発生届(クロイツヘルト・ヤコブ病、後天性免疫不全症候群、先天性風じん症候群を除く)


感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」による届出の様式(5)-1類感染症、2類感染症、3類感染症、4類感染症および5類感染症検査票(病原体)


第5章 スタッフの検査・予防と感染事故時の対

I.はじめに

 スタッフの感染症発生の予防には「日常の健康管理」と「感染に関連する事故時の対応」が必要である。一概に感染症といっても多岐にわたるので、ここでは透析室で一般的に経験する感染症を対象として取り扱うことにする。

II. 日常の健康管理

1.日常の健康管理の基本

 ウイルス肝炎の病原ウイルスには、経口感染するA型、E型肝炎ウイルスと、血液を介して感染するのはB型、C型、D型肝炎ウイルスがある。従って、A、E型感染に対しては透析室での喫煙、飲食を禁止することや患者の糞便の取り扱いに注意することで十分予防はできる。D型肝炎はB型肝炎感染者のみに感染が起こる不完全ウイルスであり日本ではほとんど問題にする必要がないことから、B型とC型肝炎についての定期的な検査をおこなう。
 ATLV、HIVの感染経路は、母から子への垂直感染、性的接触、夫婦間の水平感染・血液による感染であるので、ATLV、HIVに対しては本人の承諾を得てから、1度は抗体を測定しておくのが望ましい。
 MRSAに対しては感染患者への対策マニュアルの項に従って対応することが重要で、特に定期的な検査は必要ない。Tbcに対しては年1回の胸部X線撮影が必要で、場合によってはツ反応も必要である。

2.検査項目および頻度とその対応

1)定期健康診断

 労働者が50人以上の事業所に、労働省(労働基準監督署)が健康診断結果の報告を義務づけている。したがって50人未満の医療機関でもこの1年1回の健康診断を施行することは施設の質を高め、時には医療資源の節約も考えられる。
 第4章Iで述べられている「感染対策委員会」を設置し、スタッフの健康診断の計画、施行、結果に対して積極的に関与すべきである。

定期健康診断の内容: 労働省で定めた健康診断項目
 ( )内は担当医師の判断で必要なければ省略しても良いとされている場合を示す。

(1)既往歴および業務歴の調査

(2)自覚症状および他覚症状の有無

(3)身長、体重、視力、色覚、および聴力(身長は20歳以上省略可、聴力は35、40歳を除く45歳未満では省略可)

(4)胸部X線および喀痰(喀痰検査は胸部X線で病変なし等の場合は省略可)

(5)血圧

(6)貧血:赤血球、血色素量

(7)肝機能:ALT(GPT),AST(GOT),γ−GTP(γ−GTPは35歳を除く40歳未満では省略可)

(8)血中脂質:血清コレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド(血清トリグリセライドは3  5歳を除く40歳未満では省略可)

(9)血糖(35歳を除く40歳未満で省略可)

(10)尿中の糖および蛋白の有無(糖については血糖実施時省略可)

(11)心電図 (35歳を除く40歳未満で省略可)

 このような定期健診に感染対策委員会が積極的に関与し、下記の検査項目などを追加し、スタッフの感染対策に役立てるのが望ましい。
 HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体の測定、場合により、HIV抗体、HTLV−1抗体、ツベルクリン反応などを追加

2)HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体: 年2〜3回施行

(1)HBs抗原およびHBs抗体陰性者に対しては、将来HBV感染の危険性が高いので、インフォームドコンセントの上、できる限りHBワクチンによりHBs抗体を獲得するようにする。

HBワクチン10μg(0.5ml)を皮下又は筋肉内に接種(1回目)、
同量 1回目より1ヶ月後に接種(2回目)
同量 1回目より6ヶ月後に接種(3回目)
HBs抗体の測定:1回目接種前および3回目接種1ヶ月後

(2)HBs抗体陽性者に対しては、年1回のHBs抗原・抗体の測定で良い。(HBs抗体が検出されなくなる場合があるので年1回は必要である。HBs抗体が検出されなくなったらHBワクチンを追加接種する必要がある。)

(3)HBs抗原陽性者に対しては、トランスアミナーゼ値を測定し肝機能を把握する。できればHBe抗原・抗体およびHBV DNA量を測定する。
 特にHBe抗体陽性の場合、HBV遺伝子のpre−C変異株が存在し、これに新たに感染した場合、急激に肝機能が悪化し、劇症肝炎を発症することがあるため注意を要する。

(4)HBs抗原陽性で肝機能検査正常者は原則として無症候性キャリア扱いとする。HBs抗原陽性で肝機能検査異常者は要治療者として専門医を紹介する。

(5)HCV陽性者に対してはHCV-RNA定性を測定し、HCV-RNA定性陽性患者はキャリアとして扱う。

(6)HBVおよびHCVキャリアのスタッフの取り扱い

A.感染予防指導
 感染対策委員会が当該スタッフに対して、肝炎ウイルスキャリアであることの意味をウイルス肝炎研究財団刊『HBs抗原の知識』、『HCV抗体の知識』などの小冊子を活用して十分に説明し、下記事項を管理指導する。
 (1)出血時の注意、(2)月経時、鼻血などの処置、(3)日用品の専用、(4)輸血のための供血禁止、(5)乳幼児に接する時の注意など。
B.健康管理
 状態に応じて、3〜12ヶ月ごとに定期的に医療機関を受診するように指導する。
C.労働条件
 上記感染源とならぬように(1)〜(5)の注意事項を守る限り、労働軽減など特別の措置は必要なく、一般健康人と同様通常の労働に従事しうる。
 ただし、最近刊行されたCDCガイドラインでは、HBe抗原陽性者は陰性化するまで、曝露を起こしそうな手技を行わないように業務制限をしている。


3)トランスアミナーゼ他(AST(GOT),ALT(GPT),ZTT,γ−GTP): 年 2〜3回施行
 肝機能障害を認めたときには、HBs抗原、IgM型HBc抗体、HCV抗体、必要に応じてHCV
RNAを測定し、感染の有無を判定し、陽性者は前項2)(3)〜(5)に従って要治療者か無症候性キャリアか判定する。

III. 感染に関連する事故時(針刺し事故など)の対応

1.HBV感染事故

 HBV感染事故の事実を診療録に記載し、感染対策委員会に報告する。
 HBV感染対応策は、原則として、HBs抗原・抗体陰性のスタッフを対象とする(HBs抗体価が16倍(PHA)未満の場合にも予防を開始する)。
 高力価HBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)をできるだけ早く(遅くとも48時間以内に)投与し、特に感染源がHBe抗原陽性のHBVキャリアの血液であった場合は、必ずHBワクチンを併用する。

HBIG (遅くとも48時間以内):1000単位(5ml)接種
HBワクチン:
 できるだけ早い時期(事故発生7日以内)(1回目) 10μg(0.5ml)接種
1ヶ月後(2回目) 同量
3ヶ月後(3回目) 同量
HBs抗原・抗体の測定 事故直後、事故後7ヶ月目(必須)
 できれば事故後1,2,3,4,5,6ヶ月にも実施し、最後に12ヶ月目に確認するのが望ましい。

 なお、事故直後から数日以内に採血した血清を保存し、後で評価できるようにしておくことが望ましい。

2.HCV感染事故

 HCV感染事故に対しては特異的な予防法はない。事故の事実を診療録に記載し、感染対策委員会に報告する。
 2〜4週ごとにAST(GOT),ALT(GPT)と、HCV-RNA(必要に応じて)などを定期的に6ヶ月まで測定する。 感染が成立する可能性は低率(1〜2%)である。
 発症した場合には、速やかに治療を考慮し専門医を紹介する。
 最近、インターフェロン(IFN)の投与が、C型慢性活動性肝炎に移行する以前の段階においても効果的であるとの報告もあり、HCV感染が確定した時点で、担当医の判断と責任のもとにIFN投与も考慮する。
 労災保険の適応が医療従事者に限り承認されている(平成6年5月1日)。
 医療従事者がHCVに汚染された血液などに業務上接触したことに起因してHCVに感染し、業務上の疾病と認められたものについて、IFNの投与が認められている。IFNの種類・量については健康保険に準拠し、投与期間は原則1ヶ月程度とされている。

3.HIV感染事故

 HIV感染事故の事実を診療録に記載し、感染対策委員会に報告する。HIV感染対応策は抗ウイルス薬の投与が感染率を明らかに低下させるので、CDCガイドラインに従って予防内服するのが望ましい。針刺し事故の内容と感染源のウイルス量によりBasic regimenとExpanded regimenとに分け予防的措置を推奨している。
 Basic regimenはジドブジン(AZT 600mg)+ラミブジン(3TC 300mg)の2剤を、重度と考えられるExpanded regimenはこの2剤にインジナビル(IDV 2400mg)又はネルフィナビル(NFV 2250mg)を加えた3剤を4週間服用することを推奨している。内服開始は事故後1〜2時間以内が望ましいとされるので、HIV陽性患者を受持つ施設では薬剤を常備しておく必要がある。
 なお、HIVの感染予防対策についての詳細は、『HIV医療機関内感染予防指針』(平成元年4月)、『針刺し後のHIV感染防止体制の整備について』(平成11年8月30日健医疾発第90号医薬安第105号)を参考にされたい。

4.ATLV感染事故

 ATLV感染に対しては特異的な予防法がない。感染事故の事実を診療録に記載し、感染対策委員会に報告する。 ATLV−1抗体陽性者は、要治療者として扱う。

5.その他の感染症(特に結核)発生時の対応

 透析患者が感染性結核を発症した場合の対応として、平常時のスタッフの管理が非常に大切である。定期健康診断で胸部X線およびツ反応の結果が参考となる。患者発生時には診療録に記載し、感染対策委員会に報告する。
 対応策を以下に述べる。

1)ツベルクリン反応の実施(スタッフの希望者)

 ツベルクリン反応の二段階検査法を行う。これにより陰性または疑陽性であった者は3ヶ月後の早い時期にツ反応検査を再度実施する。3ヶ月後のツ反応の発赤径が10mm以下の場合は陰性。発赤径30mm以上あり、かつ二段階検査法実施時の反応よりもおおむね10mm以上大きくなった場合には、喀痰、CRP、血沈の検査、胸部X線撮影を実施す る。

ツベルクリン検査(1回目)
↓ 2週間後
ツベルクリン検査(2回目)
(陰性(−)および疑陽性(±)者)
↓ 3ヶ月後
ツベルクリン検査

   判定
2)喀痰の検査(MTD、PCR法)および胸部X線で肺結核の疑いがある場合は専門医を紹介する。

3)スタッフの感染予防

(1)感染源である排菌患者を隔離透析できる施設へ速やかに転院させる。
(2)安全マスクの着用:患者と接触する期間中は、結核菌が通過しないようなマスク(N95規格の微粒子マスク)の着用が必要である。


第6章 スタッフの教育と感染対策

I. 感染に関するスタッフ教育の基本

 患者への接し方の基本は、standard precaution である。このことをすべての職員に繰り返し徹底、啓発する事が必要である。このためにスタッフ教育が必要となるが、医療免許職はその職制上、すでに明らかにされている感染症患者や未知の感染症患者を扱う業務であり、予防などについても熟知している専門職とされている事を認識する必要がある。院内感染が話題性に富むのは、医療者側から見れば、感染症患者を集めるのだから必然的に院内感染の危険が増えるという意見が一部に有るのに対して、世間的常識からすれば、専門集団だからこそ医療機関では感染は起こり得ない、起こってはならない場所と見なされている点である。
 医療スタッフに感染症の教育を行う場合は、このことをまず自覚させることが必要である。
 実際面では、末端まで感染症対策が充分徹底されないと考えられる場合、1つには施設における感染症に対する組織的な対応がなされていないことが上げられる。次いで、医療従事者個々の自覚の欠如が上げられる。
 敢えて「スタッフ教育」の重要性が感染症対策で取り上げられる理由は、両者が相まってその必要性が問われるからであろう。本章ではこういったスタッフ教育の大まかな方法を述べるが、個々の詳細は各医療機関に即した方法が作成される必要がある。

II.定期的なスタッフ教育

 先ず、全ての新人スタッフの教育が必要である。この場合は、できうるなら医師、感染症担当看護師(専従ではなくても良いが、年間を通じて透析室で感染症への対応を担うと決められた担当看護師の設置が好ましい)、臨床工学技士による異なった角度からの教育が好ましい。内容は個々の施設のマニュアルに沿った病態、看護行為上での注意、機械・廃棄物の説明、患者の人権保護や感染症患者のアフターケア等も加え、具体性を持った説明を行うこととする。当然、院内感染対策委員会の説明や届出についての説明は詳しく述べられなければならない。

III.ケアレスミスより考える感染症教育

 院内感染や針刺し事故、さらには医療過誤が起きるとすれば、その前兆として、日常業務上での「ヒヤリハットミス」の件数の上昇数からある程度予知でき、感染を未然に防げることが多いと思われる。したがって、普段から事故につながらなかったミスの報告を義務付けること、件数の移行を観察し上昇傾向にある時期には、再度、院内感染・針刺し事故などについて、スタッフ全体の再教育により自覚を喚起する事が望ましい。この場合は、婦長や技士長を中心に「慣れ」を起こしている職種を含めて、再度、感染症の反復学習や医療過誤についての再教育を行うことが望ましい。

IV.透析業務からの感染症教育

 業務の改善や新しい血液浄化法を学び導入するときに考えなければならないが、常に感染症患者の搬入時刻・透析時間・作業導線などを考慮すべきである。さらに定期的に患者の検査結果を集積して施設内の感染症の発生頻度なども周知する必要がある。
 また、透析装置の血液汚染が起こらないようなサーベイランスやメンテナンスが必要となる。いずれにせよ、効率的に患者環境の整備に務める事は、すなわち職員の作業動線の短縮と複雑な動きをしない工夫が、間接的に感染症の伝播を防ぐ事でもある。このことを考慮して透析業務を常に見直し、改善する過程で感染症についての教育を行う必要がある。

V.院内感染対策委員会

 「院内感染の疑い」がある場合は、徹底的に「感染対策委員会」による調査が必要である。組織的に広い視野から調査する事により、業務手順によるものか、個人の不注意によるものか、明確にさせる姿勢をとることが職員への啓発となる。

VI.症例や専門家を通じての感染症教育

 先に述べたように透析医療では感染のリスクが高いし、すでに感染症を持っている患者の導入もある。こういった新規の患者や感染を起こした患者について、医師、看護師、臨床工学技士を交えた症例検討を行うこと、それを通して個々の注意事項を具体的に上げ、該当する感染症患者に対するマニュアルに則った透析治療上での注意、症例に即した感染伝播の予防計画、患者の精神的ケアを含めた治療・看護計画を立てることで、感染の問題について再度確認をしあう事が必要である。
 これに加え、マンネリ化してしまう感染症教育の一環として奨められるのは、1〜2年に1回位、日頃顔をあまり知らない、重症感染症患者を扱っている感染性疾病を専門とする講師を呼んで疾病の経過、治療、感染防御について講義を聞く事も重要である。新鮮な講義でマンネリ化し易い感染対策の一環とすることも可能である。

VII.最後に

 以上のように、教育は繰り返しであり習慣づける事が肝心である。肝に銘じないといけないのは、いかなる手だてを取っても感染を防ぎ得ない場合もあるが、ちょっとした1人のスタッフのミスや不注意で他の患者に感染を広げる事がある点である。この点から、いかに精緻なマニュアルを創っても、強固な組織を構築しても、感染防御が完全とはなり得ない。
 個々のスタッフが、基本に忠実に感染を起こさない診療を絶え間なく実践することである。
 その為には、感染が院内で発生しないという、一見目に見えにくいあたりまえの効果を求めて、教育を行い続けなければならない。日常の教育を続けて、感染症患者の人権を守り、マニュアルに忠実に医療や看護を行い、疾病に真摯に立ち向かうスタッフを育てることが大切で、安全な透析医療を行う根源である。


謝辞

 本マニュアルは平成11年度厚生科学特別研究事業「透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究班」報告書「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル(第1版)」をその後の透析医療の進歩を取り入れて改訂した。この改訂にあたって、第1版の作成に協力戴いた先生方に加えて、厚生労働科学研究「院内感染を防止するための医療用具 及び 院内環境の管理及び運用に関する研究班」の先生方、特に山口恵三先生、大久保 憲先生には大変お世話になった。特に謝意を表したい。第1版の謝辞とお世話になった先生方のお名前を再掲し、また参考にさせていただいた各病院のマニュアルの作成に携わった皆様に感謝する。

厚生労働科学研究費補助金(医薬安全総合研究事業)
「院内感染を防止するための医療用具 及び 院内環境の管理及び運用に関する研究」
(主任研究者 山口恵三 東邦医科大学 微生物学教授)
分担研究「透析に関する院内感染対策」
分担研究者 秋葉 隆 東京女子医科大学
  腎臓病総合医療センター
研究協力者 佐藤千史 東京医科歯科大学大学院
  保健衛生学研究科健康情報分析学
 山崎親雄 日本透析医会
 内藤秀宗、斎藤 明 日本透析医学会
 宇田有希、萩原千鶴子、佐藤久光 日本腎不全看護学会
 川崎忠行、大石義英、大浜和也、金子岩和 日本臨床工学技士会


平成11年度厚生科学特別研究事業「透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究班」報告書「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」(第1版)の謝辞

 本マニュアルをまとめるにあたって、試案作成に参加され、またご教示いただいた先生方のお名前を下記に挙げ感謝する。また参考とさせていただいた各病院のマニュアル名を挙げ、その作成に携わった方々に感謝する。

平成11年度 厚生省厚生科学特別研究事業
「透析医療における感染症の実態把握と予防対策に関する研究」
主任研究者 秋葉 隆 東京医科歯科大学
分担研究者 吉澤浩司 広島大学
分担研究者 佐藤千史 東京医科歯科大学
分担研究者 山崎親雄 増子記念病院
分担研究者 秋澤忠男 和歌山県立医科大学

日本透析医会 危機管理委員会 感染対策委員会
        委員長 秋葉 隆 東京医科歯科大学
        副委員長 杉崎弘章 心施会府中腎クリニック
        担当理事 秋澤忠男 和歌山県立医科大学
        委員 安藤亮一 中野総合病院
        委員 佐藤久光 増子記念病院
        委員 杉田和代 昭和大学藤が丘病院
        委員 内藤秀宗 甲南病院
        委員 松金隆夫 東葛クリニック病院

日本透析医学会 総務委員会 感染対策小委員会 
        委員長 高橋 進 日本大学
        委員 西沢良記 大阪市立大学
        委員 岡田一義 日本大学
        委員 久保和雄 東京女子医大
        委員 黒田重臣 国立大蔵病院
        委員 酒井 糾 北里大学
        委員 田部井薫 自治医大大宮医療センター
        委員 長瀬光昌 帝京大学
        委員 丹羽利充 名古屋大学大幸医療センター
        委員 長谷川廣文 近畿大学

参考とさせていただいた病院マニュアル

  聖マリアンナ医科大学腎センター 感染対策
  心施会府中腎クリニック事故防止マニュアル
  心施会府中腎クリニック消毒法
  社会保険中央病院 MRSA感染対策マニュアル
  社会保険中央病院 HBV、HCV、HIV院内感染予防マニュアル 1995年度版
  松和会西新宿診療所 院内感染防止対策委員会検討記録
  松和会西新宿診療所 透析手順マニュアル
  松和会西新宿診療所 廃棄物処理システム
  昭和大学藤が丘病院透析センター 看護手順1 血液浄化法
  昭和大学藤が丘病院透析室 看護手順 感染予防対策
  清湘会聖橋クリニック B型およびC型肝炎医療機関内感染予防対策について
  東京医科歯科大学医学部付属病院 肝炎ウイルス院内感染対策
  東京医科歯科大学医学部付属病院 MRSA院内感染対策
  東京医科歯科大学医学部付属病院 結核マニュアル
  東京医科歯科大学医学部付属病院 肝炎ウイルス院内感染対策
  東京医科歯科大学医学部付属病院 AIDS後天的免疫不全症候群
  東京医科歯科大学排水等処理対策委員会 廃液等処理の手引(抜粋)
  東葛クリニック病院 透析前後の消毒
  東葛クリニック病院 透析開始前後チェック
  東葛クリニック病院 回路組立マニュアル
  東葛クリニック病院 感染対策スタッフ教育マニュアル
  みはま病院 ME研修マニュアル
  虎ノ門病院腎センター 透析室の消毒
  都立大久保病院 透析マニュアル
  都立大久保病院 院内感染対策指針
  玄々堂君津病院 感染予防と消毒
  玄々堂君津病院 MRSA感染防止看護マニュアル
  玄々堂君津病院 結核感染患者対応マニュアル
  中野総合病院 院内感染対策マニュアル(結核)
  武蔵野赤十字病院 院内感染対策マニュアル 1999年4月
  増子記念病院 院内感染対策マニュアル(血清肝炎)
  六甲アイランド病院 院内感染対策マニュアル
  東京女子医科大学 血液浄化療法スタッフマニュアル(太田和夫・二瓶宏監修 医学書院刊)


参考文献

透析医療と感染症に関する一般的な知識

1)東京都衛生局編.感染症治療ガイド 1-14、1999.

2)厚生省保健医療局 結核感染症課.医師から都道府県知事等への届出のための基準:東京都医師会雑誌 52:89-193、1999.

3)竹田美文 新しい時代の感染症対策 公衆衛生 63:538-539、1998.

4)日本透析医会合併症対策委員会編 透析患者の合併症とその対策No.5 肝障害 日本透析医会、1995.

5)三宅千恵、河野茂、原田孝司 透析における (MRSAなどの) 院内感染対策の現況秋葉隆、丸茂文昭編 透析療法 new wave 209-216頁 1999.

6)佐藤千史 透析患者のウイルス性肝炎―その対策と意義 秋葉隆, 丸茂文昭編 透析療法 new wave 200-208頁 1999.

7)日本透析医会 安定期慢性維持透析の保険診療マニュアル 平成7年11月29日.

8)浅野康、秋葉隆、日台英雄 1透析施設における劇症肝炎発生調査報告 透析会誌 25(5):843-845、1995.

9)秋葉 隆 他 日本の慢性透析療法を行っている施設で院内感染防止の現況-院内感染防止に関するアンケート調査より 透析会誌 28(5): 847-856, 1995.

10)秋葉 隆、川口良人、黒田満彦 他 日本の透析施設におけるHCV感染に関する実態調査 透析会誌 27(2):77-82、1994.

院内感染防止マニュアル

11)厚生省保険医療局・エイズ結核感染症課監修:ウイルス肝炎感染対策ガイドライン―医療機関内― 改定III版、1995.

12)Bolyard, E. A., Tablan, O. C., Williams, W. W., et al.: Guideline for infection control in healthcare personnel, 1998. Hospital Infection Control Practices Advisory Committee. Infect. Control Hosp Epidemiol. 19: 407-463, 1998.

13)Jimenez DA, Sanchez-Peya J. Standard precaution in haemodialysis ? The gap between theory and practice. Nephrol Dial Transplant 14:823-825, 1999.

14)Weinstein JW. Isolation guidelines for hospitals. Up To Date (1), 1999.

15)Gerberding, J. L. Management of occupational exposures to blood-borne viruses, New Engl J Med 322:444-451,1995.

16)Public health service guidelines for the management of health-care worker exposures to HIV and recommendations for postexposure prophylaxis. MMWR 47:1-33, 1998.

17)日本結核病学会予防委員会: 結核の院内感染対策について Kekkaku 73(2):95-100,1998.

18)Garner JS, et al. Guideline for isolation precaution in hospital. Am J Infect Control 24:24-52, 1996. (http://www.cdc.gov/ncidod/hip/isolat/isolat)

透析施設における感染多発例

19)東京都劇症肝炎調査班報告書 平成7年3月29日、東京都衛生局

20)Tanaka S. et. al. A common-source outbreak of fulminant hepatitis B in hemodialysis patients induced by precore mutant. Kidney Int. 48:4972-1978, 1995.

21)CDC, Outbreaks of hepatitis B virus infection among hemodialysis patients -California, Nebraska, and Texas MMWR 45(14):285-9, 1996 (http://www.cdc.gov/wonder/prevgid/ m0040762/entire.htm)

22)兵庫県健康福祉部長: 透析患者のウイルス性肝炎の感染防止について 平成11年7月5日.

23)兵庫県健康福祉部長: ウイルス性肝炎の感染防止に係わる指導について 平成11年7月1日.

24)平澤由平、後藤武男: 安全な透析医療を提供するための改善勧告 平成11年6月22日.

25)日本人工臓器工業会: 透析装置の圧力計用エアフィルタについての注意書 (工臓協自主基準) 平成11年8月2日.

設備・環境と感染防止

26)八本 輝:病院と照明;病院電気設備の設計指針シリーズ,18?24,病院電気設備の設計指針;日本病院電気設備協会,1982.

27)大嶋庄次:病院の電気設備シリーズ,第3回病院の照明,病院設備,39(1):77-86,1997.

28)日本病院設備協会:日本設備協会規格,病院空調の設計・管理指針,HEAS-02-1998.日本病院設備協会

29)横山隆他;院内感染システム,2.感染防止とゾーニング:院内感染マニュアル,臨床透析,6月増刊号.1999

30)大久保憲,大原永子;これからのクリーンホスピタル,病院設備,44(4):479-485,2002.

31)芝本 隆;血液透析施設の最適設備条件について,日本透析医学会誌:34(5):329-334,2001.

32)CDC:Recommendations for Preventing Transmission of Among Chronic Hemodialysis Patients.
MMWR 50 (RR55), 2001.

ワクチン投与

33)前田貞亮、福内史子、星野仁彦、他:慢性維持透析患者に対するインフルエンザワクチン接種の効果―1回接種法と本季流行の型について. 臨床透析 15:643〜648、1999.

35)CDC, Protection against viral hepatitis recommendations of the immunization practice advisory committee (ACIP). MMWR 34:313-45, 1988.

36)Tokars JI Miller E, Alter MJ et. al. National surveillance of dialysis-associated diseases in the United States, 1997. (http://www.cdc.gov)

37)Holley JL, Immunization in patients with end-stage renal disease. Up To Date (1), 1999.


改訂版における主な変更点

第1版の記述 改訂版第1刷での記述
感染予防上の透析室の設備と環境対策については、特に記述がなかった。 「第3章 感染予防上の透析室の設備と環境対策」 を追加した。これにともない、章番号などが変更された。
患者指導において、血液で汚染された物品は、休憩室に設置した感染性廃棄物入れに廃棄するように指導すると記載した。 「血液で汚染された物品は机上などに放置せず、直接透析室内の感染性廃棄物入れに廃棄するよう指導する。」とした。なお、「感染性廃棄物入れ」は休憩室・待合い室などスタッフの眼の届かない場所には設置しない。
通常の透析開始終了操作において透析滅菌手袋の使用を薦めた。 通常の透析操作では(非滅菌の)ディスポ手袋を使用するように記述した。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による、感染患者を診察したときの医師から都道府県知事への届出のための義務について記載した。 2004年11月改正の改正に基づいて変更した。また記載用紙も改正版に入れ替えた。
感染性廃棄物の処理については、平成4年8月13日付け衛環第234号厚生省水道環境部長通知「感染性廃棄物の適正処理について」の別添報告書別紙2「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に基づいて記載した。 廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成12年法律第105号)及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成15年法律第93号に対応した平成16年3月16日の「改正マニュアル」に対応した変更が必要なことを脚注に追加した。
第1版の記述 改訂版第2刷での記述
  「改訂版第2刷の序」を追加した。
 第4章 感染患者への対策マニュアル
VII.その他の感染患者対策
 4.重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome、SARS)
 5.ウエストナイル熱
 6.その他の感染症の項を追加した。
第3章III.3.
誤:専有面積は2.4またはベッド間隔を1.2 mとする
第3章III.3.
正:専有面積は7.2またはベッド間隔を1.2 mとする
第4章 III.2.
誤:HIV抗体陽性患者についてはHCV−RNA検査を実施する。
第4章 III.2.
正:HCV抗体陽性患者についてはHCV−RNA定性検査を実施する。
第4章 IX.1.
誤:1998年10月2日「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防・医療法」と略)が公布され、1999年4月1日より施行、2004年11月改正された。
第4章 IX.1.
正:1998年10月2日「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症予防・医療法」と略)が公布され、1999年4月1日より施行、200年11月改正された。
第5章II.2.
誤:HCV陽性者に対してはHCV−RNAを測定し、HCV−RNA陽性はキャリアとして扱う。
第5章II.2.
正:HCV陽性者に対してはHCV−RNA定性を測定し、HCV−RNA定性陽性患者はキャリアとして扱う。
第5章III.1.
誤:高力価HBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)をできるだけ早く(遅くとも48時間以内に)投与し、特に感染源がHBe抗陽性のHBVキャリアの血液であった場合は、必ずHBワクチンを併用する。
第5章III.1.
正:高力価HBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)をできるだけ早く(遅くとも48時間以内に)投与し、特に感染源がHBe抗陽性のHBVキャリアの血液であった場合は、必ずHBワクチンを併用する。


トップへ
トピックス  厚生労働省ホームページ