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日本版デュアルシステム協議会報告
日本版デュアルシステムの推進について


1.趣旨

(背景)
 若者を取り巻く現下の雇用失業情勢は厳しく、高い失業率、無業者・フリーターの増加など、若者が自らの可能性を高め、活かす機会のないことが社会的な問題となっている。このような状況が続けば、若者本人に職業能力が蓄積されないばかりか我が国の経済基盤にも長期的に重大な影響を及ぼす懸念がある。

 日本版デュアルシステムは、こうした状況に対応し、企業における実習訓練と教育訓練機関における座学とを組み合わせた養成プログラムを通じて若年者を実践に強い一人前の職業人に育てる、新たな人材育成システムである。企業における実習訓練と一体となった教育訓練を行うとともに、修了時に実践力の能力評価を行うことにより、高卒未就職者が新たにフリーター化・無業化することも防止しつつ、企業の求人内容の高度化ニーズにも応えていくものと期待されている。

(導入のねらい)
 日本版デュアルシステム実施の目的は、若年者が学校卒業後に本格的な雇用に至らない場合にも、日本版デュアルシステムを通じてこれらの者を一人前の職業人として育て、職場定着させるところにある。実施により、学卒未就職者がフリーター・無業者として社会に定着してしまうことを防ぐという効用も期待される。

(従来の職業訓練との相違点)
 日本版デュアルシステムは、企業が求める能力の高度化、即戦力志向に対応するため、従来の座学による教育訓練、施設内の実習訓練に加え、これらと並行して企業の現場における実習を大幅に取り入れて実施する仕組みである。これにより、企業が求めるニーズに即応するとともに、訓練修了後の正規雇用への円滑な移行が期待でき、更に訓練修了後に行われる能力評価によって実践力が保証される。

(メリット)
 企業にとっては良質な若年人材の育成・確保ができる上、教育訓練を外部機関で実施することで、訓練の負担を軽減しつつ体系的な知識・技能を習得させることが可能となる。また、訓練修了時に実施する能力評価により、能力の保証された人材を確保することができる。若年者を直ちに正規雇用することが難しい場合であっても、有期パート雇用等の形態により訓練を実施しつつ、能力・適性を見極めることができる。

 若年者本人にとっては、企業実習を大幅に取り入れた実践的な訓練を受けることで就職が有利になるばかりでなく、直ちに正規雇用に就けない場合でもパート等賃金を得ながら訓練を続けることが可能となる。また、修了時の能力評価により、採用時に企業から適正な評価を得ることができる。


2.定義

 日本版デュアルシステムとは、
「訓練計画に基づき、企業実習*1又はOJT*2とこれに密接に関連した教育訓練機関における教育訓練(Off-JT*3)を並行的に実施し、修了時に能力評価を行う訓練制度」
をいう。
  *1 企業実習: 企業内における実習(非雇用)を通じて行う訓練
*2 OJT: 企業内における実務(雇用)を通じて行う訓練
*3 Off-JT: 教育訓練機関における座学及び基礎的実習を通じて行う訓練
「教育訓練機関」としては、公共職業訓練施設、専修学校等民間教育訓練機関、認定職業訓練施設が主なものとして想定される。

 「並行的に実施」とは、訓練中の一定の期間(3ヶ月程度を目安とする。)を単位としてその期間内に両方が組みこまれることとする。ただし、訓練当初及び終了直前の一定期間(1年以上2年未満の課程においては3ヶ月程度、2年以上3年未満の課程においては6ヶ月程度を目安とする。)についてはこの限りではない。 「修了時の能力評価」については、既存の修了評価、能力評価制度の活用に加え、企業実習・OJT部分についても実務経験として別途評価を実施する。
 この報告書においては、雇用対策の一環として実施される短期間の委託訓練を活用したデュアルシステムについては対象としない。

 なお、
 (1)35歳未満であり、
 (2)就職活動を続けているが安定的な就業につながらず、
 (3)日本版デュアルシステムを通じ、就職に向けて職業訓練を受ける意欲がある者、
が当面の主な対象者として想定される。


3.類型

 基本類型は、(1)教育訓練機関主導型、(2)企業主導型、の2つとする。なお、ここでいう「訓練生」とは類型や企業との雇用関係の有無にかかわらずデュアルシステム訓練を受ける若年者を広く指す。

(1)教育訓練機関主導型
 教育訓練機関が若年者を訓練生として受け入れる。
 受け入れ企業を開拓し、企業と共同で訓練計画を立案の上、Off-JTを自己の施設において実施するとともに、企業実習については企業に委託して実施する。

(2)企業主導型
 受け入れ企業が若年者を有期パート等雇用者として採用する。
 教育訓練機関を選択し、教育訓練機関と共同で訓練計画を立案の上、OJTを自社において実施するとともに、Off-JTについては教育訓練機関が実施する。

 これらの類型について、当面は教育訓練機関主導型の普及を推進するとともに、企業主導型についてもモデルを提示するなどして企業への普及を進めていくこととする。

 なお、両類型の普及に当たっては既存の職業訓練の仕組みも有効に活用し、平成16年度から18年度までの3年間(若者自立・挑戦プランの目標期間)で新しい人材育成の仕組みとして社会に定着させることを目標とする。


4.訓練の枠組み

(1)教育訓練機関主導型
  教育訓練機関主導型においては、(1)訓練計画、(2)訓練委託契約、(3)雇用契約に、以下のとおり必要な事項を定め、これらに基づき訓練を実施することが考えられる。(参考様式は別添1〜3参照。)
 また、教育訓練機関が徴収する受講料は、訓練生本人が負担し、OJTの実施に係る費用は、受入企業が自社で負担することを原則とする。
 なお、実習の委託に際し、教育訓練機関は必要に応じて企業に委託料を支払う。

(1)訓練計画
 訓練の期間(企業との雇用契約の締結期間を含む。)、場所、職種、カリキュラム及び評価方法といった基本的な事項のほか、企業実習中の報酬の有無、保険の適用関係、訓練生の遵守すべき事項等について規定するもの。教育訓練機関が中心となって企業と調整の上作成し、訓練期間全体を通して適用する。
(2)訓練委託契約
 教育訓練機関が企業に企業実習を委託するに当たって、両者間で委託の詳細を定めるもの。
(3)雇用契約
 企業実習を受けた訓練生が企業の雇用者となって訓練を続ける際に締結するもの。一般的な雇用契約事項に加え、カリキュラム及び修了時の評価方法、Off-JT時間の労働時間としての取り扱い、企業によるOff-JT費用負担等訓練に必要な事項についても規定。

(2)企業主導型
 企業主導型においては、雇用契約(訓練計画を兼ねる。)に必要な事項を定め、これに基づき訓練を実施することが考えられる。教育訓練機関主導型における雇用契約同様、一般的な事項に加え訓練に必要な事項についても規定。(参考様式は別添3参照。)  また、教育訓練機関が徴収する受講料は、訓練生本人が負担し、OJTの実施に係る費用は、受入企業が自社で負担することを原則とする。

 企業と訓練生が雇用契約を締結後に、企業がOff-JTに係る経費の全部又は一部を負担した場合、一定の要件を満たせば、キャリア形成促進助成金の支給の対象となる。(「6.支援措置」参照)



5.当面の実施方針

 平成16年度からの日本版デュアルシステムの導入については、当面、以下の方針に基づき実施する。なお、その実施・進捗状況をみながら、必要に応じて、実施方針の見直しを含め、より効果的な方策について検討を行うこととする。

(1)訓練分野
 現在、公共職業訓練や専修学校等民間教育訓練機関等で広く教育訓練の対象となっている職種のうち、公的資格等、評価制度の確立したものや、座学だけでなく実務経験が重要な分野等を中心に推進する。
 具体例としては、自動車整備、電気工事、建築、塗装、金属加工、IT、経理、医療事務、観光(ホテルサービス)、介護などが考えられる。第三次産業の職種にも十分配慮する。
 また、後継者確保に困難を抱えている地場産業、伝統産業などにおいては、日本版デュアルシステムの活用により必要な人材の育成・確保が可能になると考えられることから、このような視点からも対象分野を検討する。

(2)訓練期間・時間数等
(1)総訓練期間・総訓練時間は、公共職業訓練を活用するものについては、1年以上2年未満で1,400時間以上あるいは2年以上3年未満で2,800時間以上を標準とする。専修学校等民間教育訓練機関を活用するものについては、現行の課程で定められた時間数(専修学校の場合、年間800時間以上)を標準とする。

(2)企業実習及びOJTの時間数は、就職に必要な実践的な能力を確保するために十分な時間数とする。必要な時間数は訓練分野によって異なると考えられるが、いずれの訓練分野においても、総訓練時間数の2割以上を最低限の目安として企業実習及びOJTが実施されることが望ましい。

(3)企業実習及びOJTについては、一定の経験を有する指導員の下で実施する、訓練生の数に見合った指導員数を確保する、など、訓練実施に必要な体制を確保する。

(3)職業能力評価の方法
 Off-JT部分については、教育訓練機関がそれぞれのOff-JTコースにおける評価方法に基づき評価する。
 企業実習及びOJT部分については、企業が訓練計画に沿った企業実習及びOJTの修了を確認するとともに、評価項目に沿って到達度を評価する。
 教育訓練機関主導型については教育訓練機関が、企業主導型については企業が以上の評価結果を修了証書としてとりまとめ、訓練生に交付する。(参考様式は別添4参照)

(4)文部科学省との連携
 日本版デュアルシステムの実施に当たっては文部科学省が実施する事業との連携に留意する。具体的には、両省が実施する支援施策を相互に活用するなど両省事業の連携を図るとともに、教育訓練機関及び企業に対しては、協力の上説明・要請を行うなど、我が国における日本版デュアルシステムの一体となった実施を期すこととする。

(5)情報提供等の実施
 日本版デュアルシステムの普及を図るため、国、独立行政法人雇用・能力開発機構等は、教育訓練機関と連携し、適正な運営を図るとともに、日本版デュアルシステムに係る情報提供を積極的に行う。また、訓練の対象となる若年者の把握、情報提供、募集に当たっては、ハローワークや学校教育と十分に連携するとともに、インターネットの活用など効果的な方策を講ずることが望まれる。



6.支援措置

 日本版デュアルシステムに係る支援措置は以下のとおり。(予算案ベース。なお、日本版デュアルシステムに係る平成16年度政府予算案は別添5のとおり。)
(1)企業に対する支援措置
(1)訓練生を雇用者として受け入れる事業主に対し、実施に必要な計画を策定する費用を助成(1事業所につき15万円)。(キャリア形成促進助成金制度の拡充)
(2)雇用者として受け入れた訓練生の教育訓練機関における訓練にかかる費用や賃金を負担した事業主に対し、以下の率で助成金を支給。(キャリア形成促進助成金制度の拡充)
  中小企業 1/2 (デュアル以外の訓練では通常1/3)
  大企業 1/3 (デュアル以外の訓練では通常1/4)
(3)相手先の教育訓練機関を探している企業に対し、コーディネート事業の実施により企業の訓練分野に沿った機関を探してマッチング。訓練開始後も相談に対応するなど、一貫した支援を提供。
(4)ハローワークにおいてデュアルシステム訓練に係る求人を受付け、若年求職者の紹介を実施。

(2)教育訓練機関に対する支援措置
(1)相手先の企業を探している教育訓練機関に対し、コーディネート事業の実施により教育訓練機関における訓練分野に沿った企業を探してマッチング。訓練開始後も相談に対応するなど、一貫した支援を提供。
(2)日本版デュアルシステムに係る訓練コース情報を雇用・能力開発機構都道府県センター、ヤングジョブスポット、ジョブカフェ等において若年者に提供。

(3)若年者に対する支援措置
(1)公共訓練を利用した訓練を受ける若年者に対する技能者育成資金の貸付。
(2)ハローワークにおいてデュアルシステム訓練に係る求人を受付け、若年求職者への紹介を実施。
(3)雇用・能力開発機構都道府県センター、ヤングジョブスポット、ジョブカフェ等においてキャリアコンサルティングを実施するとともに、日本版デュアルシステムに係る情報提供を実施。
(4)訓練終了後に、受入企業における雇用に至らなかった場合、当該受入企業、教育訓練機関、ハローワークが、就職支援を実施。


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