はじめに
(1) | 医療分野の規制改革については、医療法をはじめ各種の規制のあり方が各方面で議論されてきたところであるが、これまで、必ずしも国民の生命・健康の維持・増進の視点からの議論は十分に行われていないきらいがある。 |
(2) | 医療は、言うまでもなく、国民の生命・健康に直接関わる国民生活にとって極めて重要なものである。このため、医療を取り巻く環境が大きく変化する中で国民的な合意を得ながら、規制改革を進めるためには、患者・国民の視点に立って、医療制度は如何にあるべきか、そのための医療分野における規制は如何にあるべきかについて議論を行っていく必要がある。 |
(3) | 当検討会では、こうした観点から、平成15年4月に第1回の会合を開催し、まず、医療分野における労働者派遣の取扱いについて、同年6月に報告をとりまとめた。更に、その後同年7月から8回にわたり、医療分野における規制改革全般について、その基本的考え方、医療に関する規制の将来のあり方、当面取り組むべき規制の改革などについて議論を行い、その結果を踏まえて、以下のとおり提言を行うものである。 |
I 医療分野における規制改革に関する基本的考え方
(1) | 我が国の医療制度は、すべての国民が必要な医療を受けることができるよう、国民皆保険制度の下で、医療提供体制の整備が進められ、世界最高レベルの保健医療水準を実現することに大きく寄与し、国際的にも高い評価を受けている。 |
(2) | しかしながら、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、患者・国民の意識の変化等の医療を取り巻く環境の変化に対応し、将来にわたって国民生活の安心の基盤として機能できるよう、改革を進めることが課題となっている。 |
(3) | 医療制度の改革に当たっては、国民皆保険やフリーアクセスといった我が国の医療制度の基本的な特徴を維持していくべきである。また、医療提供体制の整備状況の地域的な違いなどの残された量的な課題にも対応しながら、医療の質の向上を目指していく必要がある。その際、医療の透明性を高め、患者への説明責任を果たしていくことが大切である。 |
(4) | こうした医療制度改革を進める中で、医療分野における規制の見直しを行うに際しては、医療分野における規制は、患者・国民の生命・健康を確保するとの趣旨から設けられているものであり、その見直しは、まず、患者・国民の視点に立って検討することが必要である。 |
(5) | また、医療分野における規制の見直しは、規制の廃止や緩和が適切な場合もある一方、患者・国民の視点に立つと、一定の規制は必要であり、更に、医療の安全、質を維持するための規制は強化することが必要な場合もある。 |
II 医療に関する規制の将来のあり方
1.規制の見直しの方向
(1) | 患者・国民の視点に立って医療分野の規制の見直しを行うに際しては、患者・国民に対する情報提供の促進、患者・国民による選択や医療機関相互の競争による医療サービスの質の向上・効率化の推進といった方向に進めていくべきである。これらの点を更に述べると、次のとおりである。 |
【患者・国民による選択と医療への参加、患者の自立支援】
(2) | まず、医療を自らが選択し、自ら医療に参加したいとの患者の意識の変化に対応し、医療に関する情報の提供を推進することが必要である。また、患者と医療関係者が十分に対話を行い、信頼関係を構築し、患者自身の選択や主体性が十分に尊重され、患者自身が「自己決定」に責任を負えるようにすべきである。 |
(3) | その際、医療機関の情報の提供については、患者と医療関係者が対立関係になるのではなく、医療関係者が、患者に対し適切に情報を伝え患者の自立を支援していくという姿勢で進めていくべきである。 |
(4) | 一方、患者・国民の側では、健康に関する意識を高め、患者・国民自身が自覚して生活習慣を変えていくことが大切である。このため、健康を増進し、発病を予防する「一次予防」に重点を置いて、学校における健康教育を含め、家庭、地域、職場などで継続的に適切な情報提供、健康づくりのための支援を行っていく必要がある。また、患者自身が、自らが受けたい医療を選ぶことが可能となるよう、最新の科学的知見に基づく医療について、患者・国民にわかりやすく情報提供を行うなど、患者・国民に対する教育・啓発を行うことも重要である。 |
【患者・国民のニーズへの適切な対応のための医療機関の自主性尊重と評価のための仕組みづくり】
(5) | 患者・国民のニーズは多様であり、また、地域ごとの違いもある。医療サービスは、個々の患者の病態やその変化、地域の実情にきめ細かく対応できるものでなければならない。 |
(6) | また、患者・国民のニーズとしては利便性と安全性の両面があり、一定の安全性を確保しながら、患者の多様なニーズにどう応えていくかということを考える必要がある。 |
(7) | このように、医療の安全性を確保しながら、個々の患者のニーズに対応した質の高い医療を効率的に提供していくためには、地域の実情を勘案しつつ、医療機関が自主的に機能の向上・分化と連携などに取り組むことができる環境整備を進める必要がある。その際、医療サービスの質をアウトカム(成果)で評価することにより、患者に選択されない医療機関や医療関係者が自然に排除されるような仕組みを作っていくことが望ましい。 |
(8) | 規制の方法については、医療は患者・国民の生命・健康に関わることであることから、問題が生じた場合の事後的な対処(結果責任)だけでなく、医療の安全性を確保するための一定の事前規制が必要であり、両者を適切に組み合わせていく必要がある。 |
(9) | さらに、医療の質の向上には、一定のコストの裏打ちが必要であり、患者のニーズを満たすために必要なコストについて、誰がどのように負担していくべきかという議論をあわせて行うことが必要である。 |
【規制の見直しに当たっての留意点】
(10) | また、医療分野の規制の見直しに際しては、個々の患者・国民、世代、地域などによる多様性に十分留意して議論する必要がある。 | ||||||
(11) | 具体的には、
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2.主要な規制のあり方
(1)患者・国民に対する情報提供の推進
(1) | 医療を患者が選択し、主体的に参加できるようにするためには、患者・国民に対して、医療機関に関する情報提供を推進し、患者に対し治療方法の選択肢等に関する説明が適切に行われるようにする必要がある。 |
(2) | その際、診療情報や自らが受けた診療の医療費、医療従事者の専門性、第三者評価とその結果、最新の科学的根拠に基づいた診療ガイドラインなどに関する情報について更に拡充するとともに、安全管理体制等の医療のプロセス、アウトカム(成果)による評価などの医療の質に直接関わる情報を重視していくべきである。 |
(3) | このため、広告規制は更に緩和することが適切である。また、医師等の専門性や得意な分野、医療のプロセス、アウトカム情報などについての情報提供が進むよう、環境整備を行っていくことも大切である。 |
(4) | いずれにしても、実際に、信頼できる情報が、十分に、かつ、わかりやすく提供されるような取り組みを、関係者が協力して進める必要がある。 |
(5) | また、かかりつけ医(歯科医)が、日常的な医療を提供し、さらに、必要な場合には専門医に紹介するなど、その機能を十分に発揮するとともに、必要な情報を提供し、地域住民の信頼を得て、いつでも何でも相談に応じられるような地域の第一線の医療機関として定着していくことが何よりも重要である。 |
(6) | カルテやレセプトなど医療内容や医療費に係る情報提供を推進することも、医療に関する透明性を向上し、患者側のコスト意識を高める上で重要であり、個人情報保護法の施行を踏まえ、医療に関する情報の取り扱いについて包括的な取り組みを進める必要がある。 |
(7) | また、インターネットは、利用できる者とそうでない者のギャップやインターネット情報の信頼性などに留意しつつ、情報提供手段として有効に活用していく必要がある。 |
(8) | こうした情報提供の推進やその信頼性の確保は、医療は専門性の高い分野であることから、できる限り、専門的な団体が策定するガイドラインなどにより自主的に取り組むことが望ましい。しかしながら、そうした取り組みでは十分でないと考えられる場合には、患者・国民にとって医療機関を選択する際に必須である情報の提供については、一定の医療機関に一定事項の情報提供を義務付けることも考えられる。 |
(9) | また、広告規制については、医療の質を直接評価できる手法の開発や国民に対する普及啓発を進めながら、将来的には、ネガティブリスト方式にすることも考えられる。 |
(10) | さらに、単に一方的に情報を提供するのではなく、患者・家族と医療提供者が対話をはじめとする相互のコミュニケーションを通じて、信頼関係を構築することが大切である。また、このような信頼関係の構築を支援できるよう、身近な地域において、患者の苦情・心配や相談に迅速に対応できる専門的な第三者による相談窓口が整備されることも重要である。 |
(2)患者・国民による医療機関の選択と医療機関相互の競争の促進
(1) | 患者・国民の選択を通じ医療機関の競争を促進し、医療の質の向上を図っていくためには、上記のように患者・国民に対する情報提供を促進し、患者が医療機関を選択できるようにするとともに、医療機関相互の競争が更に促進される仕組みを検討していくことが適切である。 |
(2) | なお、この場合、医療分野における競争は、医療サービスの質による競争を基本としたものであるべきことは論を待たない。 |
(3) | 医療計画による基準病床制度については、医療機関ごとの許可病床数がいわば「既得権益化」し、医療機関の競争の抑制や、より質の高い医療機関の新規参入の妨げになっているとの指摘もある。このため、医療機関の新規参入を促し、新陳代謝が図られるようにするため、病床を抑制しつつも競争メカニズムがより機能する手法の開発が必要ではないか、更に、患者に選択されない病院は経営が成り立たないという形にした上で基準病床制度は廃止しても良いのではないかとの指摘もある。 |
(4) | 一方、基準病床制度は、医療資源の地域偏在の是正に一定の機能を果たしていることは事実であり、そのあり方については、医療費対策の観点からのみならず、へき地医療への参入を如何に促すかなど地域における医療提供体制の整備を推進する観点からも検討していくべきである。 |
(5) | こうした基準病床制度を含む医療計画のあり方については、平成15年8月より、「医療計画の見直し等に関する検討会」において、現行制度の評価と今後のあり方、現行の医療計画に係る課題への対処について検討が開始されたところであり、今後、地域における医療サービスの質に基づく医療機関の競争の促進、更には、地域における医療提供体制の確保を基本的な視点に加えつつ、検討が深められることを期待する。 |
(3)医療機関の管理・運営
(1) | 医療機関の管理・運営については、医療法に基づき、厚生労働省令において人員配置や構造設備、更には一定の業務委託に係る基準等が定められている。 |
(2) | これに対して、患者のニーズや医療サービスが多様化する中で、医療機関の人員配置や構造設備などについては、地域の実情や診療科ごとの特性などを勘案して医療機関ができる限り自主的に判断することが望ましいとの考え方がある。このため、人員の配置状況などについての情報や医療の質をアウトカムで評価した情報などの公開を進めることで競争を促進し、患者に選択されない医療機関や医療従事者が排除されるような仕組みに変えていくことで、こうした規制については弾力化や緩和を進めるべきとの指摘や、さらには廃止してはどうかとの指摘もある。 |
(3) | 一方、看護職員の人員配置標準については、第4次医療法改正において一般病床の看護職員の配置標準の引き上げがなされたところであり、更に、急性期医療を行う病床の看護職員の配置標準などについて、医療の高度化等を踏まえ、引き上げを求める意見もある。 |
(4) | 現状においては情報提供に基づく患者による選択のみでは十分な医療の質が確保されるとは言えないことから、医療機関における人員配置、構造設備に係る一定の規制は必要と考えられる。今後更に、医療機関の種類や職種ごとに、患者の安全や医療の質を確保する観点に立って、医療の現場の実態、労働者保護などの他の規制との関係なども勘案しながら、これらの規制のあり方を検討していく必要がある。 |
(5) | この場合、医師については、特に地域偏在の是正が課題となっており、大学における医師養成や新臨床研修制度における対応も含め、地域における医師確保対策を推進すべきである。地域ごとの医師の充足状況の違いなどを考えると、地域における医療提供体制の整備とあわせて、医師の配置標準について地域の実情に応じて見直すということも考えられる。 |
(6) | また、現行の医療法においては、病院と診療所の種々の規制の違いがあるが、多様なニーズに柔軟に対応するとの観点から、有床診療所のあり方を含め、これを見直すことも考えられる。 |
(7) | さらに、医療の安全を確保するために必要な規制については、強化を行っていくことも考えられる。例えば、相談窓口、苦情処理機関の設置とともに、医療事故等の第三者機関への届出の義務化などについて、これまでの取組の実施状況も踏まえ拡充していくことが考えられる。 |
(4)医療機関の経営のあり方
(1) | 我が国の医療サービスは、非営利を原則として運営されている。これは、生命や健康に関わる医療はそもそも営利を目的とすべきものではないこと、営利の追求は患者の利益と矛盾し、医療サービスを歪めるおそれがあること、医療費の抑制が大きな課題となる中で医療費の高騰を招く可能性があるなどによるものである。また、一方において株式会社による医業経営を容認すべきとの意見もある。こうした意見の背景には、医業経営の現状に対する批判もあるものと考えられ、医療関係者は、この点を重く受け止める必要がある。 |
(2) | 医療に対する患者・国民の信頼を高めるためには、医業経営の非営利性を確保するとともに、特別・特定医療法人の普及を行うなど、より公益性の高い法人の育成・普及を図っていく必要がある。また、単に非営利というだけでなく、どのような医療サービスを如何なる理念の下に提供するかについて、医療機関が地域住民に対してどう提示していくかということも重要である。 |
(3) | また、医療法人については、有力な医療施設の開設主体として期待される役割を十分に果たすことができるよう、医業経営の近代化・効率化のための改革を推進していくことが期待される。 |
(4) | このため、医療提供者は、患者・国民の信頼を得て、そのニーズを適切に汲み上げ、これに即応した医療を提供し得るよう、経営管理機能の強化、医療機関債の発行をはじめとする資金調達手段の多様化など、「これからの医業経営の在り方に関する検討会」最終報告に示された方向に沿って主体的に取り組むととともに、政府もこれを支援するため制度面での対応を着実に進めていくことが必要である。 |
(5) | また、医療機関は、患者・国民の医療機関の選択に当たり有用な情報を中心に、情報の開示に積極的に取り組むべきである。その一環として、医療法人の経営情報の開示を推進すべきであり、まず、特定医療法人、特別医療法人、国等から運営費補助を受けている医療法人が着実にこれを推進すべきである。 |
(5)地域における医療提供体制の整備
(1) | 医療提供体制は、全国的には既に相当の整備が進められてきたが、国民の誰もが、必要な医療を受け、安心して暮らせるようにするためには、医療計画に基づき、更に整備を推進し、医療提供体制に係る地域格差を縮小していく必要がある。 |
(2) | この場合、未だ医療機関の量的な整備が十分でない地域ではもちろん、量的には十分な地域においても、夜間や休日などにおける患者のニーズには必ずしも適切に対応できていない場合もある。こうした点を含め、国、都道府県、関係団体等が協力して、二次医療圏ごとの救急医療体制等の整備を更に進めることが必要である。 |
(3) | また、患者の病態やその変化に対応した質の高い医療が効率的に提供されるよう、かかりつけ医(歯科医)の普及、医療機関の機能分化と介護・福祉を含めた連携、医療機器の共同利用の推進などを更に進める必要がある。特に、在宅医療については、今後の需要の拡大に対応し、介護・福祉とも連携した適切なサービスが提供されるよう、医師の更なる積極的な取組や、訪問看護ステーションの充実・普及等を推進していく必要がある。 |
(4) | 病院の機能分化についても、患者がその病状に応じてふさわしい医療を適切に受けられるよう、一般病床、療養病床という区分を踏まえつつ、急性期医療、難病医療、緩和ケア、リハビリテーション、長期療養、在宅医療等といった機能分化を更に推進する必要がある。 |
(5) | さらに、医療機関の機能分化等の医療提供体制の整備については、全国一律ではなく地域特性を考慮に入れて、診療科ごとのきめ細かな目標値を設定し、その達成に向けて医療機関が整備されるよう誘導するようにしてはどうかとの指摘もある。 |
(6) | このような地域における医療提供体制の整備を進めるためには、患者・国民に都道府県が取り組み方針を明確に示すという視点から、医療計画制度の見直しに当たり、地域における医療提供体制の整備の実効性を高める方策を検討していく必要がある。 |
(7) | また、患者に対する情報提供、チーム医療や医療機関の連携の推進等のため、電子カルテ等の院内情報システムの普及、医療機関等のネットワーク化など医療分野における情報化を推進することが適切である。 |
(8) | その際、個人情報の取扱いについて患者・国民が安心でき、また、医療関係者の十分な連携の下に適切な医療サービスが提供されるよう、医療分野の個人情報保護についての包括的な仕組みを整備していく必要がある。 |
(6)医療資格者の資質の確保・向上等
(1) | 医療は、専門性の高い医療資格者により提供されるものであり、医療の質を向上していく上では、医療を担う人材を確保し、その資質を高めていくことが何よりも重要である。特に、近年、医療事故の頻発により患者・国民の医療に対する信頼は揺らいできており、医療の安全を確保し、患者が安心して医療機関にかかれるようにすることが緊急かつ重要な課題となっている。 |
(2) | そのためには、すべての医療資格者が、一定水準以上の資質や技量等を有し、更に資質が向上されるような仕組みをつくっていく必要がある。 |
(3) | まず、医療関係団体は、医療資格者の生涯教育の充実や、自浄作用の発揮に、従来以上に取り組んでいく必要がある。更に、こうした関係団体の取組状況も踏まえながら、将来的には、医師、歯科医師、看護師等の医療資格について、一定の研修を義務化することも必要であろう。その上で、このような取組を踏まえつつ、医療資格者の資質向上のため必要があると認められる場合には、資格を更新制とすることも考えていくべきである。 |
(4) | また、平成16・18年度から実施が予定されている医師・歯科医師の臨床研修の必修化については、すべての医師・歯科医師が人格を養い育て、基本的な診療能力を身に付けるとの必修化の趣旨が徹底されるよう、引き続き、取り組んでいく必要がある。 |
(5) | あわせて、専門医の資質や信頼性の向上にも取り組んでいく必要がある。まず、専門医の認定等を行っている関係の学会において、患者・国民からの信頼を高めるための取り組みを行うことが適切であるが、更に、国としても、学会の取組状況を踏まえながら、その推進を図ることも必要である。 |
(6) | さらに、看護師については、医療の高度化・専門化に対応した看護師の養成・普及を図るとともに、患者の療養生活の質の向上を図るため、看護師の基礎教育の充実、卒後の教育研修の制度化も含めた検討等について、「新たな看護のあり方に関する検討会」の報告書の趣旨を踏まえて取り組んでいく必要がある。 |
(7) | こうした医療資格者の資質の向上のための対策とあわせて、医療過誤等の事例には適切な対応を行っていく必要がある。このため、刑事事件とならなかった医療過誤についても不適切な事例には厳正に対応するとともに、刑事、民事を問わず、処分を受けた医療資格者の再教育の徹底を図ることが必要である。 |
(8) | また、医療資格者の業務範囲を見直す際には、誰がその業務を行うことが最も効率的で、かつ、安全を確保できるかという患者・国民の視点に立って、個々に検討していくことが適切である。 |
III 当面取り組むべき規制の改革
上記のような患者・国民の視点に立った規制の将来のあり方の実現に向けて、当面、次のような規制の改革に取り組むことが適切であり、必要に応じ個別の検討会を開催することも含め、対応すべきである。
1. | 患者・国民に対する情報提供の推進、患者・国民による選択と医療機関の競争の促進 |
(1) | 医療に関する情報提供の推進
患者・国民が医療に関する多様な情報に容易にアクセスできるよう、例えば次のような対策により、医療に関する情報提供を推進する。
(個人情報保護の推進については、2(2)を参照。) |
(2) | 医療に関する相談窓口の整備
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(3) | 広告規制の緩和
広告規制については、今後とも逐次緩和を図る。その際、具体的には、例えば、次の事項について検討する。
|
2. | 医療サービスの質の向上と効率化の推進と地域における医療提供体制の整備 |
(1)医療機関・医療法人に係る規制の見直し
(1) | 地域における医師確保対策の推進と地域の実情を踏まえた医師配置のあり方の検討
| ||
(2) | 医療法人が行うことができる附帯業務規制の見直し
| ||
(3) | 医療機関が委託する業務に基準を設ける範囲及び基準の見直し
| ||
(4) | 同一建物内の複数診療所の一部施設の共用化
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(2)地域における医療機関等の連携の推進
(1) | 地域医療支援病院の承認要件の見直し
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(2) | 個人情報保護の推進
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(3)医療資格者の資質の確保・向上等
(1) | 医師・歯科医師の臨床研修の推進
| ||||
(2) | 医療資格者の生涯教育の推進
| ||||
(3) | 医療過誤に関する医師の処分の強化
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(4) | 自動体外式除細動器(AED)の安全な使用の推進
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おわりに
(1) | 医療分野における規制改革は、関連する施策とあわせて、患者・国民の視点に立って進めていく必要がある。また、情報提供や患者・国民による選択を促進し、医療機関相互が自主的に医療の質を基本とした競争を行うことで、医療サービスの質の向上・効率化を推進していくべきである。そして、医療の安全を確保し、医療に対する信頼を回復することが何よりも重要な課題となっている。 |
(2) | 当検討会としては、本報告書で示した医療分野における規制改革に関する基本的考え方や将来の規制のあり方を、今後の医療制度改革や規制改革の基本的な指針として、行政のみならず、関係者が連携して課題に取り組んでいくことにより、患者・国民本位の医療制度が実現していくことを強く期待するものである。 |
【用語に関する解説】
○ | 国民皆保険とフリーアクセス 我が国では、国民の誰もが原則としていずれかの公的医療保険に加入するという国民皆保険体制がとられている。また、この体制の下で、患者は基本的に医療機関を自由に選んで、どの医療機関でも受診が可能という「フリーアクセス」の仕組みが採用されている。なお、欧米諸国では、医療機関へのアクセスについて一定の制限がなされている場合が多い。 |
○ | 広告規制とその方式 医療機関の広告については、患者保護の観点から、広告できる事項を列挙し、それ以外の事項については広告を禁止するというポジティブリスト方式による規制が行われている。これまでは、この方式の下で、客観的で検証可能な事項については原則として広告を認めるという方向での規制緩和が逐次行われてきている。これに対して、原則として規制を撤廃し、例えば、虚偽広告、誇大広告など患者にとって有害なものを明示し、これに限って禁止するという規制の仕方をネガティブリスト方式という。 |
○ | 医療計画と二次医療圏 医療計画は、医療法に基づき、地域の体系的な医療提供体制の整備を促進するため、医療資源の効率的活用、医療関係施設間の機能連係の確保等を目的として、各都道府県が策定する医療を提供する体制の確保に関する計画である。医療計画では、その単位となる区域(医療圏)の設定や地域ごとの医療提供上必要とされる病床数(基準病床数)のほか、医療関係施設間の機能分担と連係、休日診療・夜間診療等の救急医療の確保に関する事項等を定めることとされている。医療圏の設定上、特殊な医療を除く一般の医療需要で、主として病院における入院医療を提供する体制の確保を図る区域が二次医療圏とされており、地理的条件、日常生活や交通事情などの社会的条件を考慮し、平成15年8月現在で全国で369の圏域が設定されている。 |
○ | 医師の臨床研修の必修化と新スーパーローテート方式 平成12年に医師法が改正され、これまで努力義務であった医師の2年間の卒後臨床研修が、平成16年度から必修化されることとなった。今回の臨床研修の必修化に際しては、専ら一般的な診療に当たる医師はもとより将来は専門的な診療に当たる医師を含めて、全ての医師がプライマリ・ケアの基本的な診療能力を身に付けることを大きな目標のひとつとしている。このため、研修プログラムにおいては、基本的な診療科や地域保健・医療等の研修に十分な時間を振り向けることとされ、当初の12か月を、内科、外科、救急部門(麻酔科を含む)に充てるほか、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療も必修の研修科目とする新スーパーローテート方式を採用することとされている。 |
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