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2.総合的な母子家庭等自立支援策の展開について

(1) 母子及び寡婦福祉法、児童扶養手当法等の一部改正の概要について
  ア  はじめに
 近年、離婚の急増など母子家庭等をめぐる状況が変化しており、このような状況の変化に的確に対応した母子家庭等の自立を促進するため、今回、子育て・生活支援、就労支援、養育費の確保、経済的支援などの総合的な母子家庭等対策を推進することとし、「母子及び寡婦福祉法」、「児童扶養手当法」、「児童福祉法」及び「社会福祉法」の一部改正を内容とする「母子及び寡婦福祉法等の一部を改正する法律」が平成14年第155回臨時国会において成立し、11月29日に公布されたところであり、平成15年4月1日より施行されることとなっている。
 今回の改正の概要は、次のとおりであるので、運用に遺漏なきようお願いしたい。

  イ  改正の概要
  (ア)  子育て・生活支援
 母子家庭のようなひとり親家庭が就労により自立するためには、安心して子育てと仕事を両立できるよう支援することが重要である。
 このような観点から、今回の改正では、市町村は、児童福祉法の規定により保育所に入所する児童を選考する場合には、母子家庭等の福祉が増進されるように特別の配慮をしなければならないものとした(母子及び寡婦福祉法第28条関係)。また、「子育て短期支援事業(親の残業、病気などの場合に子どもを一時的に児童養護施設などにおいて預かるショートステイ・トワイライトステイ事業)」を児童福祉法に規定するとともに、第二種社会福祉事業とすることとした(児童福祉法第6条の2第13項及び第34条の8、社会福祉法第2条第3項第2号及び第3号関係)。
 さらに、親の病気等により、家事や保育のサービスが必要となった場合に家庭生活支援員を派遣する「日常生活支援事業」を拡充した(母子及び寡婦福祉法第17条、第33条)。
  (イ)  就労支援
 母子家庭は、就労意欲が高く、8割以上は就労しているが、正社員は5割程度にとどまっている(平成10年11月1日現在。全国母子世帯等調査)。このように、就労意欲が高く、現に就労しているにもかかわらず、平均年収は229万円(平成9年、全国母子世帯等調査)と低くなっている背景には、男女の賃金格差に加え、(1)就労経験が少ないこと、(2)パート、非正規職員という就労形態が大きく影響していると考えられる。
 母子家庭の経済的な自立を図る上で、就労支援策は大変重要なものであり、今回の改正では、
     a  第一に、都道府県は、就職を希望する母子家庭の母の雇用の促進を図るため、母子福祉団体と緊密な連携を図りつつ、母子家庭就業支援事業を総合的かつ一体的に行うことができるものとした(母子及び寡婦福祉法第30条、第35条関係)。具体的には、平成15年予算案で都道府県・政令市・中核市において、就業相談、就業支援講習会の実施、就職情報の提供など一貫した就業支援サービス等を行う母子家庭等就業・自立支援センター事業を創設することとしている。
     b  また、都道府県等は、母子家庭の母の雇用の安定及び就職の促進を図るため、自立支援教育訓練給付を支給できることとしており、具体的には都道府県、市及び福祉事務所設置町村において職業能力開発のための講座を受講した場合に、自立支援教育訓練給付金を支給したり、2年以上養成機関でする場合に経済的支援(母子家庭高等技能訓練促進費)などができるよう平成15年度予算案に計上した。(母子及び寡婦福祉法第31条関係)
     c  養育費の確保
 離婚の際の養育費の支払い状況を見ると、取り決めている割合が約35%、実際に養育費をもらっている割合が約21%にとどまっている(平成10年11月1日現在、全国母子世帯等調査)。
 今回の改正では、民法上の扶養義務を前提としつつ、母子家庭等の児童の親は、扶養義務の履行に努めるとともに、当該児童を監護しない親の扶養義務の履行の確保に努めるものとした。
 また、国及び地方公共団体は、扶養義務の履行を確保するために広報その他適切な措置を講ずるように努めなければならないものとした(母子及び寡婦福祉法第5条関係)。
 さらに、法施行後の各種施策の実施状況を勘案した上で、扶養義務の履行確保に関する施策の在り方についても検討する旨を附則に規定した。
 これらの規定に基づき、養育費についての取決めを促進する観点から、
(1)  国及び地方公共団体において、積極的な広報・啓発活動を実 施するとともに、
(2)  国において、養育費に関するガイドラインを作成し、養育費 取得手続等に関する情報提供を推進することとしている。
     d  経済的支援(母子福祉資金の貸付)
 母子福祉資金貸付金については、これまで母親にしか貸すことができなかった母子福祉資金貸付金のうち、児童本人のための資金(就学支度資金、修学資金、就職支度資金、修業資金)については、児童本人にも貸し付けることができることとした(母子及び寡婦福祉法第13条関係)。
  また、母子福祉資金貸付金のうち政令で定めるもの(現段階では、平成14年8月の政令改正で創設した「特例児童扶養資金」を予定している。)の貸付けを受けた者が、所得の状況その他政令で定める事由により当該貸付金を償還することができなくなったと認められるときは、条例で定めるところにより、当該貸付金の償還未済額の一部を免除できるものとした。(母子及び寡婦福祉法第15条関係)

  ウ  児童扶養手当制度の見直し
 今回の改正では、児童扶養手当制度について、離婚直後の一定期間に重点的に給付することにより、離婚等による生活の激変を一定期間で緩和し、母子家庭の自立を促進する制度に改める観点から、見直しを行っている。
 具体的には、3歳未満の児童を監護している場合や障害・疾病を有する場合など自立が困難な母子家庭に十分配慮しつつ、手当の受給期間が5年を超える場合には、それ以後、手当の一部について支給を停止することとした。
 この減額に当たっては、少なくとも従前の手当の半額以上は確保することとしている(児童扶養手当法第13条の2第1項及び第2項関係)。
 この措置による減額の具体的な割合は政令で定めることとしているが、この政令は、法施行後の(1)子育て・生活支援策、(2)就労支援策、(3)養育費の確保策、(4)経済的支援策の進展状況、(5)離婚の状況等を踏まえ、5年後の適用に当たり、十分な時間的余裕を持って制定することとしている。
 この措置は、施行日である平成15年4月1日から起算して5年を経過した後に初めて適用されることとなっているので(附則第4条)、施行日の時点で既に5年を経過している受給者についても、施行日から直ちに手当が減額されるわけではないことに留意されたい。
 また、受給資格及び手当の額についての認定の請求は、手当の支給要件に該当するに至った日から起算して5年を経過したときは請求することができない旨の規定を削除し、施行の際に認定の請求権を持つ者から適用することとしている(児童扶養手当法第6条第2項関係)。

  エ  国及び地方公共団体における総合的な自立支援体制の整備
 厚生労働大臣は、母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針を定めるものとした(母子及び寡婦福祉法第11条関係)。
 また、都道府県や市等は、この方針に即し、母子家庭及び寡婦自立促進計画を策定し、又は変更しようとするときは、あらかじめ、母子福祉団体その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、その内容を公表するものとした(母子及び寡婦福祉法第12条関係)。
 厚生労働大臣の基本方針は、法施行までに定める予定としているので、各自治体においては、この基本方針に即して、できるだけ早い段階で母子家庭及び寡婦自立促進計画を策定していただきたい。
 また、都道府県においては、来年度中の策定に努められたい。

  オ  母子家庭等対策における今後の自治体の役割
 今回の改正法では、国が母子家庭等対策の基本方針を定め、地方公共団体は基本方針に即して関係者の意見を反映させ自立促進計画を策定し、ひとり親家庭に対して家事・保育サービスを提供する事業や就業・自立支援センター事業を計画的に支援していくという役割分担を明らかにしている。
 今回の法改正に先立ち、本年8月より、児童扶養手当の支給事務が都道府県から福祉事務所を設置する市等に委譲されたが、これを機会に、母子家庭の自立支援策が手当の支給主体である自治体で総合的に展開されることとなり、よりきめ細かいものになることが期待される。
 今後、母子家庭等施策を有効に実施していくためには、これまで以上に自治体の役割が重要であるといえるので、積極的、精力的に取り組んでいただきたい。

(2) 平成15年度母子家庭等自立支援対策について
 母子家庭等自立支援策については、改正法成立を受け、平成15年度より本格的に実施されることとなる。具体的な事業の実施については、次のとおり。

 <母子家庭等の子育てと生活の支援>
  ア  子育て短期支援事業
 本事業は、保護者が疾病、出産、残業等の事由により、家庭での養育が一時的に困難な児童や夫の暴力などにより緊急一時的に保護を必要とする母子を児童福祉施設等で養育・保護する事業であるが、平成15年度予算案においては、ショートスティ事業について、新たに育児不安や育児疲れ、慢性疾患児の看病疲れなど身体的・精神的負担の軽減が必要な場合を加えるなど広く利用できるよう対象の拡大を図るとともに、子育て支援短期支援事業を児童福祉法に位置づけ、補助率を国1/3から1/2に見直しを行った。

  イ  母子家庭等日常生活支援事業
 事業名を、介護人派遣事業から日常生活支援事業に改めるともに、多様なニーズ、時間帯に応じて家庭生活支援員を派遣する観点から、支援員の居宅や講習会会場での児童の預かりの実施、宿泊できる預りを実施することとした。また、児童の預かりについて家庭生活支援員の資質向上を図るため実施主体において講習会を実施する。
 なお、家事援助の派遣単価については、基準単価を大幅に引き上げたところであり、NPOや介護事業主の活用により事業のより一層の拡大を図られたい。

  ウ  ひとり親家庭生活支援事業
 子育てと生計の維持という二重の負担を負い、子供の養育に関する問題や健康の維持管理など生活面に多くの問題を抱えているひとり親家庭の生活基盤の安定を図るため、(1)生活指導を行うための講座開設と相談支援、(2)個々の家庭の状況に応じた継続的な健康管理等の支援、(3)休日・夜間の電話相談、(4)ひとり親家庭の子どもの精神的支援、(5)ひとり親が定期的に集い、お互いの悩みを打ち明ける場の提供の各事業を地域の実情に応じて選択実施することとしている。

  エ  父子家庭対策
 父子家庭に対しては、今般の法改正において父子家庭を母子寡婦福祉法に明確に位置づけたところであり、子育て支援や日常生活支援事業などの活用により、父子家庭の支援について積極的な取組をお願いする。

  オ  母子生活支援施設における保育機能の充実
 母子生活支援施設の保育機能を活用して、地域の母子家庭等の児童を受け入れることにより地域で生活している母子家庭等の自立を支援することとしており、保育所に準じて保育士を加配することとした。
 また、「母子家庭等子育て支援室」を整備する場合の費用も補助対象とすることとしており、整備の推進をお願いする。
   ・母子家庭等子育て支援室加算
      1人当たり 1,740千円を加算(小規模保育所並び)

  カ  小規模分園型(サテライト型)母子生活支援施設の創設
 母子生活支援施設に入所する母子家庭のうち、早期に自立の見込まれる者について、地域生活の中の小規模な施設で生活することによって、自立を促進する小規模分園型(サテライト型)施設を創設することとしており、その運営にあたっては、本体施設と十分な連携をとりながら、自立意欲の助長、就業による自立生活の支援など入所者の早期自立が図られるよう自立に向けた支援を重点的に行われたい。

 <母子家庭等の自立のための就業支援>
  ア  母子家庭等就業・自立支援センター事業
 就業相談から就業支援講習会の実施、就業情報の提供等に至るまでの一貫した就労支援サービスの提供や養育費の相談など生活支援サービスを提供するための母子家庭就業・自立支援センター事業を創設することとしており、

 
(1)就業相談員による就業相談の実施、(2)就業支援員による求人開拓等の実施、相談に応ずる者のネットワークの設置(3)就業支援講習会の実施、(4)求人情報の提供、(5)講習会における託児サービスの実施、(6)母子家庭の就業相談に応じる関係者の研修(7)養育費の取り決めなど専門相談の実施(8)母子生活支援施設と連携した地域生活の支援体制の整備
等を総合的に実施することとしているので、管下の様々な社会資源を積極的に活用するとともに、労働局関係部局等関係機関と連携を図りながら、事業の効果的な実施に取り組んでいただきたい。

  イ  特定事業推進モデル事業
 母子家庭の母の就業の機会を創出できる可能性の高い先駆的な事業を促進するため、必要な高度技能訓練の実施、事業の円滑な実施のためのサポート体制の整備など、モデル事業を実施することとしている。

  ウ  自立支援教育訓練給付
 事業実施主体である都道府県、市及び福祉事務所設置町村が指定した教育訓練給付講座を受講した母子家庭の母に対して、受講料の4割相当額(上限20万円)を支給することとしている。
 なお、講座の指定にあたっては、雇用均等・児童家庭局長が明示する講座に準じて指定するものとした。

  エ  高等技能訓練促進費
就職に有利な資格取得を目指す母子家庭の母の訓練受講中の生活の安定を図るため、2年以上養成機関で修業する場合に、就業期間の最後の1/3の期間、月額103,000円を支給し、生活費の負担を軽減することとしている。
 なお、対象資格の指定については、看護師、介護福祉師、保育師、理学療法士、作業療法士等資格取得後に当該職種への就労が見込まれる専門的な資格とすることとしている。

  オ  常用雇用転換奨励金
 母子家庭の母を新規にパートタイム労働者等の非常勤雇用労働者として雇用し、OJTを実施した後、一般常用雇用労働者に転換した場合、6か月経過後、事業主に対して母子家庭の母一人当たり30万円を支給することとしている。

 <子供のための養育費の確保>
  ○  養育費の取り決めの促進のためのリーフレットの作成について
 法改正を踏まえ、国において社会的な機運の醸成を図るため養育費に関する啓発リーフレット等の作成、養育費制度、取り決めの方法、別れた父親の所得と子供の数に応じた養育費の額の目安となるガイドライン等を盛り込んだ養育費に関する啓発リーフレット等の作成することとしており、自治体等において児童扶養手当等の受給相談の際や離婚届用紙を受け取りに来る父母に対し、配布していただきたい。

 <自立を支援する経済的支援>
  ○  母子寡婦福祉貸付金について
 母子寡婦福祉貸付金について次のとおり拡充を図ったところである。
(1)  児童に係る資金について、児童本人を借受人に拡大
(2)  就学支度資金の限度額の引上げ(3ヵ年計画)
(3)  生活資金の貸付け条件の拡充と貸付限度額の引き上げ
 技能講習期間について生活資金の単独貸付の実施
 児童に対する父親からの養育費の取得に要する費用の貸付の実施
 技能習得を行っている期間の生活資金の貸付限度額の引き上げ施
(4)  母子福祉団体の貸付対象事業の拡大
(5)  母子家庭の母等が共同して起業する場合に必要となる経費の貸付
 事業開始資金の団体貸付に準拠(423万円を限度)

 <自立支援体制の整備>
  ア  母子家庭等自立支援推進事業
 母子家庭の自立を促進し、きめ細やかな対応を図るため、市等において、積極的に展開することが必要となっているが、市等においては母子寡婦福祉施策に経験が浅いため、従来からこれらの施策を実施し、施策を推進するうえでノウハウを持っている都道府県が市等の検討課題や方策の検討を支援する体制を整備を図ることとした。
 また、今回の法改正に伴い、必要となる児童扶養手当のシステムの改修経費の助成を行うこととした。

  イ  基本方針及び自立促進計画
 今回の法改正において母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針を定めることとされたところであり、母子家庭等施策に係る基本方針研究会を設置し、研究会において議論しているところである。
 この基本方針研究会において都道府県等が作成する母子家庭及び寡婦等自立促進計画の指針となるべき基本的事項も議論しているところであり、年度内にお示しできるようにしたいと考えている。
 また、都道府県等において作成する自立促進計画の作成については、それぞれの都道府県等の判断によることとなるが、母子家庭等の自立支援策の効果的な実施のためにも、できる限り速やかに策定していただきたいと考えている。

  ウ  母子自立支援員による相談体制の整備
 母子自立支援員については、母子家庭の母の自立に向けた総合的な支援を行う者として位置づけ、児童扶養手当の受給など相談者に対して必要な情報提供や各種施策の活用について個々の母子家庭の状況、地域の実情に応じた支援策を効果的に組み合わせるなど、従来にも増   してきめの細かい対応を行うなどの役割を担うこととなることから、母子自立支援員の積極的な設置についてご配慮願いたい。
 なお、今般、母子自立支援員が市等の福祉事務所設置自治体に配置することとなったことにより、総務省に地方交付税において十分な相談が行える体制となるよう、要望しているところである。

(3) 平成15年度児童扶養手当の物価スライドの特例措置について
 児童扶養手当は、物価スライドの仕組みが設けられているところであるが、平成14年の消費者物価指数は、現状のまま推移すれば、対前年比マイナス0.9%〜1.0%程度になる見込みであり、法律に従うと、平成12年度から14年度に据え置いた1.7%と合わせて2.6%〜2.7%程度自動的に引き下げられることとなる。
 しかしながら、現下の社会経済情勢にかんがみ、平成15年度の手当額については、公的年金と同様、特例措置として、平成14年の消費者物価指数の下落分(マイナス0.9%〜1.0%の見込み)の改定とすることとしている。
 また、児童扶養手当については、平成14年の所得制限に係る制度改正の実施により、手当額が減額となった受給者が多いことから、減額の影響を踏まえ、物価スライドの適用を半年見送り、改定は平成15年10月から実施することとする。
(△0.9%の場合)
・児童1人  全部支給(月額) 42,370円 → 42,000円
 一部支給(月額) 42,360円〜10,000円 → 41,990円〜9,910円


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