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付録


「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告
(ガイドライン公開版)

伊藤順一郎1、吉田光爾1、小林清香2、野口博文1、堀内健太郎1、田村理奈1、金井麻子1
国立精神・神経センター 精神保健研究所 社会復帰相談部1 東京女子医科大学2


要旨
 近年、通学・就労といった社会参加や対人的な交流を行わずに自宅を中心とした生活おくるひきこもりとよばれる状態を呈する人々に関する社会的関心が高まっている。
 そこで本研究では(1)公的機関における援助の中心となっていると考えられる全国の保健所・精神保健福祉センターにおける現在の相談・支援状況を把握するとともに、(2)支援した事例に関する情報を収集しその特徴を把握することで、今後のひきこもり支援のあり方を考えるうえで必要となる基礎資料を作成することを目的とした。調査の対象は全国の保健所・精神保健福祉センターで平成15年3月に実施された。回答率は保健所94.7%、精神保健福祉センター100%であった。
 平成14年1月から12月間の全国の保健所・精神保健福祉センターにおけるひきこもりに関する相談は、電話相談9986件(延べ)、来所相談で4083件(実数)であり、あわせて14069件であった(新規・継続問わない)。ひきこもりに関する支援について「家族の個別来所相談」「本人の個別来所相談」「電話相談」などは両機関においてほとんどの箇所で実施されていた(総計で各84.4%、96.5%、90.2%)。
 また、援助場面への本人の登場が少ないひきこもり支援の糸口として重要なだけでなく、家族自身の精神的健康を保持するために必要であると言われる家族支援については、「家族だけの相談には応じていない」とする機関は少なく、また精神保健福祉センターでは機関主体の家族教室(62.3%)・家族主体の家族相談会(24.6%)を積極的に開催・支援していた。特に精神保健福祉センターでは保健所に比べ事例が集積していること、サービス内容も比較的多彩であることなどから、今後支援の中核となることが期待される。
 ひきこもりを呈している本人については、平成14年1月から12月までの間に保健所・精神保健福祉センターに本人・家族が来所相談にきたひきこもりを呈する事例のうち、3293件(総来所相談の80.7%)について情報を得た。平均年齢は26.7歳、男女比は男性76.9%、女性23.1%であった。本人の問題行為について、近隣への迷惑行為などを含む対他的な問題行為を呈する事例は少ないものの(4.0%)、家庭内暴力の存在するもの(19.8%)、器物破損や家族の拒否など家庭関係に影響を与える行為のある事例は多く(40.4%)、家族関係の調整・支援についての必要性が示唆された。また、全事例のうち小・中学校における不登校経験者は33.5%であり、不登校とひきこもりとの関連を今後検討していく必要が示された。
 全事例のうち調査時点で援助が終了しているのは16.0%、援助が継続されているのは56.9%、中断・音信不通が24.1%であり、援助に長期的な関わりが必要であることが示されると同時に、中断事例がかなり存在することが明らかになった。なお、援助終了時点ないし現在継続中の場合の調査時点で就学・就労が確認されたのは全事例のうち6.3%(206事例)であり、就学・就労などの再社会参加への支援体制をどのように充実させていくかが今後の重要な検討課題であると考えられた。今回得られた結果は、今後のひきこもり支援に関してのあり方を考える上で基礎的な資料となると考えられる。

A.調査目的
 近年、通学、就労といった社会参加や対人的な交流を行わずに自宅を中心とした生活おくる社会的ひきこもりとよばれる状態を呈する人々に関する社会的関心が高まっている。全国の精神保健福祉センター・保健所を対象にした調査1)では、83.4%の機関が精神病ではないひきこもりの事例を経験しており、また6割の機関がそうした事例の増加を感じているという状況が明らかになった。
 こうした社会的関心をうけ、平成13年5月には厚生労働省から「10代・20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン(暫定版)」2)が発行され、保健所・精神保健福祉センターなどにおける援助活動の指針が呈示されるなど、ひきこもりを巡る研究や支援体制の整備が社会的にとりくまれつつある。
 しかし、社会的認知が高まってから一定期間を経た現在、保健所・精神保健福祉センターにおける相談状況や、それに対する支援体制についての詳細な調査は行われておらず、支援整備の展開状況が明らかになっていない。
 また保健所・精神保健福祉センターなどで支援を提供した事例について集積的に情報収集をした研究は、センターの新規事例を検討した別所らの報告3)をのぞき無く、実際にこうした機関から提供された支援内容、その後の転帰などについては十分に明らかになっていないのが現状である。
 そこで本研究では、(1)保健所・精神保健福祉センターにおける現在の相談・支援状況を把握するとともに、(2)支援した事例に関する情報を収集しその特徴を把握することで、今後のひきこもり支援のあり方を考えるうえで必要となる基礎資料を作成することを目的とした。

B.対象
1.援助機関調査
 平成15年3月時点で把握された精神保健福祉センター61ヶ所(指定都市12、都道府県49)、保健所582ヶ所を調査対象とした。

2.ひきこもり事例に関する調査
 平成14年1月1日から12月31日までの間に、保健所・精神保健福祉センターにおいて、本人またはその家族が来所相談(二回以上とする)をした者のうち、以下の「社会的ひきこもり」の基準にあてはまる事例全てを調査対象とした。なお、事例の把握について新規・継続は問わなかった。

<本研究における「社会的ひきこもり」の基準>
(1) 自宅を中心とした生活
(2) 就学・就労といった社会参加活動ができない・していないもの
(3) 以上の状態が6ヶ月以上続いている
ただし、
(4) 統合失調症などの精神病圏の疾患、または中等度以上の精神遅滞(IQ55-50)をもつ者は除く
(5) 就学・就労はしていなくても、家族以外の他者(友人など)と親密な人間関係が維持されている者は除く。

C.方法
 全国の保健所・精神保健福祉センターを対象に、二部構成の質問紙を作成し、郵送した。第一部は期間におけるひきこもりの相談数や施設での援助状況について尋ねた「援助機関調査」調査票である。
 第二部はひきこもり事例の年齢・性別などの基礎属性や、提供された援助・転機などを尋ねた「ひきこもり事例に関する調査」調査票(以下個票)である。
 配票・回収は厚生労働省精神保健福祉課から各都道府県・政令指定都市・中核市・その他保健所設置市・特別区における精神保健福祉主管課を通じ実施された。
 事例の情報は援助機関職員が機関記録より抽出したが、抽出された記録は全てID番号で管理し、個人が同定されない配慮した。

D.結果
1.回収状況
 本調査では、精神保健福祉センター61ヶ所(回収率100%)、保健所551ヶ所(同94.7%)の回収があった。また、これらに加えて、保健所支所(53ヶ所)と、実質的に相談業務を担当している保健センターで振り替えて回答したもの(29ヶ所)などがあった。本調査ではこれらを便宜的に保健所の枠内で集計した(保健所総計633ヶ所)。
2)ひきこもり事例調査
 全国での保健所・精神保健福祉センターへの来所相談は4083件(実数)が報告された。そのうち個票が回収されたのは3293件(80.7%)であった。なお、精神保健福祉センター・保健所における重複事例が存在すると考えられたが、収集された情報は限定的であるため、これらの峻別は不可能と判断した。

2.援助機関調査についての結果
1)事例数
 全国の保健所・精神保健福祉センターにおける精神保健福祉相談(電話・来所)と、ひきこもりに関する相談(電話・来所)の都道府県別の集計を表1に示す。全国でひきこもりに関する相談は、電話相談で9986件(延べ)、来所相談で4083件(実数)であり、あわせて14069件であった。
 保健所・精神保健福祉センターにおける精神保健福祉に関する相談のうち、ひきこもりに関する相談の割合は、保健所で電話相談1.2%・来所相談1.7%であり、政令指定都市の精神保健福祉センターで電話相談3.7%・来所相談15.1%、都道府県精神保健福祉センターで電話相談2.4%、来所相談8.2%であった。
 またひきこもりに関する相談のうち、精神保健福祉センターで担当した相談は、電話相談のうち35.9%(3581件)、来所相談のうち41.7%(1700件)を占めていた。
 都道府県別にひきこもりに関する総相談件数を見ると、比較的政令指定都市のある自治体で相談が多いことがわかる(図1)。なお、各都道府県の人口10万人対の相談比率を計算すると、大都市を有する自治体にひきこもり事例が多い、という傾向は見られなかった。(図2
 1機関あたりの平均事例数は、保健所では平均4.0事例(SD=6.3、最頻値0.0、中央値2.0)、精神保健福祉センターでは29.8事例(SD=29.8、最頻度20.0、中央値24.0)であった。分布を図3・4に示した。

2)提供している支援
 保健所・精神保健福祉センターで提供している支援を機関種別に表2に示す。
 「家族の個別来所相談」「本人の個別来所相談」「電話相談」などは両機関においてほぼすべての機関で実施されていた。
 保健所・精神保健福祉センター別にみると、保健所では「医師による訪問」(29.1%)や「専門職による訪問」(58.5%)など、アウトリーチサービスを実施している機関の割合が多かった。
 また数は少ないものの「他障害と合同のデイケア活動」(17.9%)や「家族教室・心理教育」(12.2%)など、精神障害などの既存サービスを転用した支援も行われていた。 他方、精神保健福祉センターでは「ひきこもり専門のデイケア活動」(23.0%)、「家族教室・心理教育」(68.9%)などが保健所と比べて多く実施されていた。また「講演会の開催」(63.9%)や「研修事業」(45.9%)、「広報類の作成」(36.1%)など、地域住民や専門職に向けての情報発信をしている機関が多かった。また「本人への薬物療法」(41.0%)をしている機関も多かった。
 しかし、どちらの機関においても、「ボランティアによる訪問」(保健所1.1%、センター3.3%(以後断りのない場合は同順で記述)や、職親や職域の開拓事業などによる「就労の組織的支援」(1.1%、6.6%)、サポート校との連携などによる「進路相談・進学の組織的支援」(0.8%、1.6%)などを実施している機関は少なかった。
 また、ひきこもり援助に関して、ガイドライン発行後何らかの研修を受けたスタッフがいる機関は、保健所で41.9%、精神保健福祉センターで67.2%であった。(表3)

3)個別の支援事業の概要
 本人・家族の個別相談の体制について訪ねた結果を表4に示す。多くの機関が「既存の窓口」で対応をしており(保健所:94.6%、精神保健福祉センター:82.0%)、また「専用の窓口」で対応している機関も精神保健福祉センターで11.5%存在した。「本人が来所すれば相談に応じるが、家族だけの相談には応じていない」とする機関は保健所で10ヶ所(1.6%)、精神保健福祉センターで3ヶ所(4.9%)存在した。
 本人向けのデイケアについては平均で月4.0回、一回につき2.9時間、4.9人の参加があった。(表5
 家族向けの会や教室の実施状況について表6に示す。「家族主体の相談会の支援」が保健所3.8%・精神保健福祉センター24.6%、「機関主体の家族教室」が各9.5%・62.3%、「機関主体の講演会」が各6.5%・21.3%、「特になし」が各78.4%・23.0%であった。主として精神保健福祉センターを中心に家族会・家族教室が支援されたり、実施されたりしていた。
 なお「家族主体の相談会」「機関主体の家族教室」の頻度は平均でそれぞれ年10.0回、年7.7回であった。
 電話相談については、専用の電話相談窓口を設けている機関は少なく(保健所1ヶ所、センター3ヶ所)、多くの機関が既存の窓口で対応するか、窓口はないが相談があれば対応するという回答であった。(表7

4)ひきこもり事例の分担・振り分け
 ひきこもり事例における児童相談所や教育機関との分担について、条件を提示し、その場合の分担・振り分け状況について尋ねた。その結果を表8に示す。
 保健所ではいずれの条件でも「個別のケースで判断」という回答が一貫して目立ち、ひきこもり事例を自機関で対応することについては事例のもつ性格によって判断するという状況がうかがえる。
 他方、精神保健福祉センターでは「本人が義務教育年齢であり、いわゆる「不登校」の状態」の場合には、他機関への振り分ける(37.7%)、という回答が目立つが、一貫して他の条件では自機関で対応するという回答が多かった。
 保健所・精神保健福祉センターいずれも、「本人が義務教育年齢であり、いわゆる「不登校」の状態」という条件の場合、「他の資源に振り分ける」(各35.7%、37.7%)という回答が他の条件に比べて多い。その場合の振り分け先は保健所で「児童相談所」(56.6%)「公立の教育相談機関」(61.3%)であり、精神保健福祉センターで「児童相談所」(73.9%)「公立の教育相談機関」(60.9%)であった(表9)。
 しかし、本人の年齢によって業務分担している場合において、本人が加齢していく際の援助を継続している体制についての問では、「援助を継続させる体制はほぼできている」という回答はいずれの機関も低く(各9.3%・8.1%)、「不十分」「全くできていない」という回答が目立った。(表10

5)支援の拡大
 平成13年5月に本研究班が「10代・20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン(暫定版)」を発行してから、保健所・精神保健福祉センターで新たに構築・充実させた支援について尋ねた(表11)。
 保健所では新たに構築させたものの中で回答が多い順に、「家族の個別来所相談」(16.4%)、「本人の個別来所相談」(10.9%)、「他資源との連携による支援」(9.8%)、「家族教室・心理教育」(8.4%)、「講演会開催」(8.1%)、専門職訪問(6.0%)であった。精神保健福祉センターでは多い順に「家族の個別来所相談」(27.9%)、「家族教室・心理教育」(27.9%)、「講演会開催」(27.9%)、「本人の個別来所相談」(24.6%)、「他資源との連携による支援」(24.6%)、であった。
 今後新しく実施する予定の対応や活動については、保健所では「講演会開催」(8.9%)、「家族教室・家族心理教育」(7.9%)とする回答が多く、精神保健福祉センターでは「デイケア活動」(17.0%)、「広報類作成」(17.0%)、「家族教室・心理教育」(14.9%)が多かった(表12)。

6)援助上の困難感と今後の展望
 ひきこもりへの支援について、どの程度困難があるかについて尋ねた(表13)。
 保健所では「困難なく対応できる」が0.9%、「やや困難」が29.1%、「かなり困難」が67.8%、「全く対応できない」が1.1%であった。
 たいして精神保健福祉センターでは「困難なく対応できる」が3.3%、「やや困難」が59.0%、「かなり困難」が37.1%、「全く対応できない」が0.0%であった。
 今後、機関としてひきこもり支援について必要だと考える取り組みについて尋ねた結果を表14に示す。
 保健所では多い順に「他の専門機関の拡充」(85.3%)「回復後につながることのできる居場所や就労の場の確保」(73.6%)「自機関の援助職への知識・支援技術の提供」(65.7%)「自機関の治療相談体制の充実」(50.1%)「地域への情報提供・広報活動」(46.9%)「ひきこもり支援の業務上の明確化」(39.8%)であった。
 一方精神保健福祉センターでは「回復後につながることのできる居場所や就労の場の確保」(85.2%)「他の専門機関の拡充」(80.3%)「自機関の治療相談体制の充実」(63.9%)「自機関の援助職への知識・支援技術の提供」(42.6%)「地域への情報提供・広報活動」(41.0%)「ひきこもり支援の業務上の明確化」(32.8%)であった。
 両者を比較した場合、保健所で多い回答は「自機関の援助職への知識・支援技術の提供」であり、精神保健福祉センターでは「自機関の自機関の治療相談体制の充実」であった。

3.「ひきこもり事例に関する調査」
1)相談事例の年齢分布・性別
 相談事例における、ひきこもりを呈している本人の性別は男性76.4%、女性22.9%であった(表15)。また、平均年齢は26.7±8.2才であった。年齢の内訳を表16に示す。10代後半から20代が中心だが、30歳を超えても大きく減じてはおらず、36歳以上の人も1割近くを占めた。
 不登校を含めた最初の問題発生時の年齢は、平均で20.4歳(±7.5)であり、主として19〜24歳が多かった。18歳までに問題が発現した事例は46.8%であった(表17)。
 現在の年齢と問題発生時年齢の差をとって経過年数とすると、平均で4.3年(±2.3)であった。半数は5年未満だが、最初の問題発生からかなりの時間が経過している割合も多く10年以上の事例も2割近く(760件)みられた(表18)。

2)来談経路
 来所相談の経路を表19に示す。ひきこもりの相談は家族からのものが最も多く(合計72.2%)、本人からの相談は少ない(6.6%)。また学校や福祉事務所など他の機関からの紹介による事例も19.0%存在する。
 初回の相談については直接来談52.4%、電話相談42.1%であった。

3)援助開始時の本人の活動範囲
 事例の援助開始時点の活動範囲について表20に示す。「友人とのつきあい・地域への活動には参加」9.2%、「外出可能」40.8%、「条件付外出可能」20.9%、「外出不可能で家庭内では自由」17.0%、「自室で閉じこもっている」9.7%であった。

4)ひきこもりに関連した問題行動
 対象者への関与中に存在した事例の問題行動をたずねた(表21)。家庭内暴力については、何らかの暴力が存在している相談事例は全体の19.8%、本人から親への暴力が存在している事例が17.9%あった。また家族関係に直接影響を与える行為としては、器物破損が15.1%、家族への拒否が21.4%、家族への支配的な言動が15.7%見られ、これら3つのいずれかが存在している事例は40.4%であった。
 近隣への迷惑行為なども含む対他的な問題行為は、事例の4.0%に問題が見られた。
 自傷・自殺に関する行為で、自傷行為が2.1%、自殺企図が3.2%に見られた。
 また、強迫的な行為(17.9%)・被害的な言動(14.5%)・食行動異常(7.6%)などの精神症状的な見地からの検討も考えられる問題も見られた。その他には昼夜逆転が41.1%と多かった。
 なお、男女別にみると、男性では「家庭内暴力」「器物破損」が多く、女性では「食行動異常」が多かった。

5)本人の精神医学的診断の既往歴
 本人の精神医学的診断の既往歴について尋ねた結果を表22に示す。結果、「診断無し」という回答が46.6%と最も多く、「不明」という回答も15.8%で多かった。診断が把握された中では、強迫性障害やPTSDなどを定義に含んだ「神経症性・ストレス関連障害」(16.6%)が最も多く、ついで「その他」(6.8%)、「人格障害」(5.6%)、「感情障害」(4.6%)が多かった。重複診断をのぞいて何らかの診断の既往歴がある事例は1174事例(35.7%)であった。なお本研究ではひきこもり事例の定義上の問題から統合失調症は除外している。

6)本人の不登校経験
 「小学校」「中学校」「高等学校」「短期大学・大学」それぞれにおける本人の不登校経験を尋ねた(表23)。なお、高等学校・大学などについては、「不登校」という概念は本来的にはそぐわないが、本研究では便宜的に使用することとした。
 それによると不登校経験有の事例は、事例全数に対して、「小学校」11.4%、「中学校」31.6%、「高等学校」33.0%、「短期大学・大学」12.3%の割合で認められた
 また、得られた回答をもとに集計したところ、「小・中学校いずれかでの不登校経験」は全事例に対して33.5%で認められ、「小・中・高・短大・大学いずれかでの不登校経験」では61.4%で見られた。
 ただし、本調査項目については教育機関の段階があがるほど欠損値が増えている上での結果であることに注意されたい。

7)本人の就労・アルバイト経験
 本人の就労・アルバイト経験については、「経験あり」が53.1%、「経験なし」が40.3%であった(表24)。なお不登校経験と就労・アルバイト経験の関連をみると、「小中学校でのいずれかの不登校経験あり」群では就労経験のあるものが33.2%、「不登校経験なし群」では就労経験のあるものが65.6%であった(表25)。

8)提供された支援
 提供された支援で多いものは「家族への個別来所相談」(79.5%)、「家族向けの家族教室・心理教育」(29.9%)、「本人への個別来所相談」(28.5%)、「電話相談」(24.0%)などであった(表26)。本人を対象とした面接以外の支援の実施率は、ひきこもり専門のデイケア(7.8%)、他障害と合同のデイケア(3.8%)、就労・進学の組織的支援(各1.7%、0.5%)など低かった。
 また、機関調査と比較した場合、機関として取り組んではいるものの、個別の事例での実施率が低い支援項目も「家庭訪問」や「他の資源との連携による支援」などで見られた。機関調査回答では「医師訪問」が55.4%、「その他専門職訪問」では18.1%に対して、個票では「専門職訪問」がされている事例は18.1%である。また、他資源との連携による支援は、機関調査回答では51.6%であったが、個票回答では20.7%であった。

9)連携先機関
 ひきこもり支援に関して連携した専門機関を尋ねた。結果を表27に示す。最も多い回答は「該当なし」(43.0%)で担当機関単独で支援している事例が半数近くであった。次いで「精神科医療機関」(26.9%)「精神保健福祉センター」(10.8%)などであった。
 「精神障害者小規模作業所」(1.6%)、「地域生活支援センター」(0.9%)、「職親登録事業所」(0.3%)など、従来の精神障害者向け機関・サービスなどとの連携率は低かった。

10)家庭内暴力がある場合の避難の有無
 家族間に何らかの家庭内暴力がある場合、家庭外への避難があるかどうかについて尋ねた(表28)。その結果、「家族の避難あり」が31.2%、「本人の避難あり」が1.6%、「非難はない」が51.3%であり、家庭内暴力の存在する事例のうち、暴力からの避難が3割近く存在することがわかった。
 避難者が家族の場合の続柄では、「母親」が50.2%、「父親」が12.4%、「両親」が11.2%であった(表29)。
 家族の避難先では「その他」が45.1%、「親類・知人宅」38.2%、「女性センターなどシェルター」は3.4%であった(表30)。

11)対象者の現在の状態
 対象者の平成15年3月現在での援助状況について表31に示す。現在の援助状況については「援助継続中」が56.9%、「中断・音信不通」が24.1%、「援助終了」が16.0%であった。
 援助が終了している場合の本人の状況を複数回答で尋ねた(表32)。終了した事例のうちで回答が多かったのは「改善は特に見られないまま終了」(25.9%)、「ひきこもってはいるが困難間・不安感が減少した」(16.3%)、「家庭関係の改善」(14.2%)であった。ひきこもっている状態像そのものの変化と関連している状況については、「非常勤・アルバイトの終了」が8.1%、「教育機関への就学」が5.3%、「常勤の就労」が1.3%、「その他の社会的活動への参加」が6.1%であった。
 援助が継続している場合の現在の活動範囲を表33に示す。「就学・就労はしているが援助継続中」が6.9%、「友人とのつきあい・地域への活動には参加」が13.4%、「外出可能」41.1%、「条件付外出可能」16.3%、「外出不可能で家庭内では自由」13.0%、「自室で閉じこもっている」6.1%であった。
 なお、援助終了時もしくは援助継続中の場合平成15年3月に就学・就労が調査項目の回答上から確認されたのは206事例(全事例中の6.3%)であった(表34)。

12)支援提供の様式
 なお、支援内容の項目から、支援提供が誰に対して行われているか、という支援提供の様式を「家族のみ」「本人と家族」「本人のみ」「その他の類型」に分類した集計を表に示す。「家族のみ」が59.8%、「本人と家族」が25.1%、「本人のみ」が9.0%、「その他の類型」が6.1%であった(表35

E.考察
1.相談件数について
 平成13年度における倉本の調査1)では、実数・延べ数が区別されていないものの、精神病でないひきこもりの相談は、電話相談2464件、来所相談3759件であった。集計方法が異なるため、安易に比較をして断ずることはできないが、今回の調査ではいずれの数字も上回っていることから(電話相談(延べ)9986件、来所相談(実数)4083件)ひきこもりに関する相談が近年増加している様子がうかがえる。
 また、精神保健福祉センターでは精神保健福祉相談の内のひきこもり相談の割合が保健所と比して高いこと、ひきこもりの全事例のうち精神保健福祉センターでうける割合が多いことなどから、精神保健福祉センターが現在ひきこもり援助において中核的な役割を果たしていることが推測された。
 政令指定都市を有する都道府県ではひきこもりの相談が多く見られたが、このことはこれらの自治体に人口が多く、また援助の中核となる精神保健福祉センターの施設数が多いことが影響しているものと思われる。各都道府県の人口比で除すと、この傾向はなくなることから、「都市圏にひきこもりが多く生じる」とは、安易にはいえないように思われる。
 各保健所・精神保健福祉センターにおけるひきこもり来所相談の数については、1つの保健所での事例数は多くないことがわかった(平均4.0事例(SD=6.3)、最頻値0.0、中央値2.0)。しかしこれをして実際に地域にひきこもり事例が少ない、と結論づけることは避けたい。なぜならば住民が保健所をひきこもりに関して相談しうる機関として認知していない可能性や、精神科医療機関など他の援助資源にアクセスしている可能性もあるからである。しかし現時点で1保健所あたりの事例数が多くないという事実は、本人・家族の来所相談や電話相談といった従来援助以外の新規サービスを組織化・展開できない状態の原因のひとつになっているかもしれない。
 一方精神保健福祉センターでは、機関ごとに事例数のかなりのばらつきが存在する。キャッチメントエリア内の人口の多寡も影響していると思われるが、センターは基本的には県庁所在地・政令指定都市などの大都市に位置することから、ひきこもり事例への対応のあり方にセンター間で地域差があることを示していると思われる。今後こうした地域格差をどのように解決していくかが課題となるであろう。

2.提供されている支援について
1)支援の開始について
 相談・支援を開始するにあたり、開始時に本人が登場する割合は218事例(6.6%)と極めて少なかった。外出や対人接触に恐怖感・不安感をもつことが中核的な問題であるひきこもり事例にとって、本人自らが援助機関に接触することの難しさを表している。
 逆に、このことは本人の登場しないままでも、家族を相談の主体とした相談を始めることが、問題解決の糸口を掴むうえで重要であることを示している。特に精神科を含め医療機関は、保健診療上の枠組みや本人の受診を条件としたこれまでの医療モデルが前提にあるため、本人不在のまま援助活動を開始しにくい面もあると思われる。保健所・精神保健福祉センターなどで、「家族のみの相談には応じていない」と回答した機関は少なく、これら公的機関で家族を主体とした相談に積極的に門戸を開くことは、今後のひきこもり支援の上で「家族支援」というモデルを提示する意味でも望ましいと考えられる。
 また実際に関与中に本人の個別来所相談を提供したとする事例は28.5%であった。本人の来所相談が継続して行われているかどうかは本調査からは不明であるが、相談を継続する中で本人との接触を持ちうることを示している。また来談の経路の中で学校や警察・福祉事務所など他機関からの紹介による事例は全体の2割近く存在し、少なくない。本人・家族が何らかの機関にアクセスした際に、保健所・精神保健福祉センターなど適切な援助機関につながることができるように、機関間の連絡・連携をしておく重要であることを示唆している。
 なお、事例の半数が電話相談によって開始されていたことや、機関でひきこもり専用の窓口が設置されることは少なかったことを考慮すると、一般の電話相談に関与する援助職がそのことを意識化し、ひきこもり事例に対応しうる電話相談体制を準備しておくことが重要であると思われる。

2)提供されている支援の内容
 上述したようにひきこもり事例では開始時に本人が不在であることが多く、家族相談から解決の糸口をさぐる必要がある。また、家族を本人と相談機関をつなぐ役割としてとらえるだけでなく、ひきこもり事例の家族では家族機能の健康度および精神的健康度の低下が見られることから4)、家族を主体にした相談・援助を開始するという枠組みで臨むことが望ましい。この点については、ほとんどの機関について家族の個別来所相談を実施しており(保健所97.0%、センター98.4%)、また「家族だけの相談に応じていない」とする機関は少なかった(保健所1.6%、センター5.0%)ことから、多くの機関で「家族主体の相談」という枠組みがとられてきていると考えられる。
 また、家族支援に関しては、家族教室・心理教育を実施している機関は少なくなく(保健所18.0%、センター60.7%)、今後実施を予定している機関も多かった(保健所9.9%、センター28.8%)ことから、統合失調症などの既存の支援で培われた家族支援の技術を応用していくことが期待される。
 本人向けの支援については、「ひきこもり専門のデイケア」などの取り組みを実施している精神保健福祉センターは少なくない(23.0%)が、保健所で実施している機関は乏しかった(1.1%)。しかし保健所については1機関における事例数が乏しい機関が多いことから、そのような機関にひきこもり専門のデイケア活動の組織化を望むのは困難であることも予想される。逆に「他障害と合同のデイケア・グループ活動」の実施度は比較的して多いことから(18.0%)、他障害のデイケア・デイサービスや思春期対策など他の既存事業を積極的に活用していくことも今後の検討課題であるだろう。
 また不登校経験者が多いこと、就労経験者が少ないことを考慮すると、就学・就労についての支援はひきこもりという状態からの回復の上で重要であると考えられる。しかし、現在これらについて組織的な支援は十分に行われてはいない。ハローワークや若者向けの就労支援事業など他の資源・事業とより積極的に連携を結ぶことや、ひきこもっている本人に対する就労・就学を支援するNPOなどを積極的に助成・育成していくことなどが今後重要性を増していくと考えられる。
 なお、個別の支援の中で連係している資源として「精神障害者小規模作業所」「地域生活支援センター」など従来の精神障害者向けサービスの連係は極めて少ないことも明らかになった。これらの従来の精神障害向けのサービス・制度を就労や社会参加のうえで、活用・応用していくことについて今後さらに検討が必要であろう。

3)機関間の連携について
 本調査では小・中学校いずれかにおける不登校経験者は、ひきこもり来所相談事例の33.5%であった。倉本らの調査(2001)1)でも40.7%に不登校経験があるといわれており、逆に不登校経験者のうち5年後で「就学就労をしていないもの」は23%であったという森田らの報告4)もあり、不登校とひきこもりに関しては関連があると思われる。こうした義務教育年齢における不登校事例への対応について、保健所・センターでは、児童相談所・公立の教育相談機関などに振り分けるという回答が多くあげられている。しかし、加齢における事例のひきつぎについては十分ではないという意識が保健所・センターには存在することが明らかになった。今後、不登校からひきこもりへの遷延化防止という点において、不登校事例の予後や、児童相談所や教育相談機関との連携について検討していくことも課題であろう。

4)ひきこもり本人の生活状況
 現在の年齢については、20代を中心としながらもかなり多様な年齢層を含んでいる。注目すべきは35歳を超えるものも少なくない点である。またひきこもりの継続期間とまでは言えないが、最初の問題発生から10年が経過している事例も少なくなく、現在のひきこもり事例が長期化した場合、こうした壮年期の事例数も増加していくことが懸念される。年齢が高くなると通常の就学・就労といった社会参加上の困難が多くなることが予想されることから、今後壮年期以降のひきこもり対策について検討していく必要もあるだろう。
 本人の活動範囲については、「自室で閉じこもっている」という状態を呈する者も少なくはない。しかし外出可能で地域の活動への社会参加もあるものや、家庭内では自由であるなど、一概に「ひきこもり」といってもその活動範囲は様々であることが明らかになった。本人の活動範囲に留意し、提供可能な支援や利用可能な資源を検討していくことが望ましい。
 ひきこもり状況下でさまざまな問題行動が生じることはこれまでにも報告されている1) 3) 5) 6)。本研究のひきこもり事例においては、家族外に対する対他的な問題行動を呈するものは多くないながらも、およそ2割で家庭内暴力の問題が存在し、4割で家族関係に直接影響を与える問題(器物破損や家族への支配的言動など)が見られた。小林ら5)の調査では、本人が家族を拒否していたり、支配的な言動があるなど家族関係に緊張のある場合、家族機能や精神的健康度が低いことが示唆されている。これらから、家族関係に問題が生じやすいひきこもり事例では、暴力に対する緊急時対応も含め、家族関係を調整するための適切なサポートが必要であることが再確認された。また、家庭内暴力が存在する事例について確認されただけでも3割の家族について避難が生じており、その避難者の半数は母親であったが、女性センター等シェルターの使用はきわめて少なかった。アクセス可能な範囲にそうした公的資源が存在するかどうか、といった問題もあるが、今後DVに対応する女性センターなどへのひきこもり事例の緊急的な受け入れが検討課題になると思われる。
 強迫的な行為、被害的な言動、食行動異常など、精神症状としての把握が検討される行為も、事例のうち少なくない割合で見られた。診断についても、神経症圏や感情障害を中心として35.6%の事例に何らかの既往歴があった。別所ら3)の報告では、調査項目に本研究では存在しない「統合失調症」の項目が存在するものの、32.8%の事例に精神医学的診断がついており本研究の結果に類似している。強迫行為などの問題が例えば強迫性障害といった明確な精神障害としてとらえうるものかどうか、あるいは、精神症状的な問題や報告された診断の障害がひきこもる前からの一次的なものなのか/ひきこもることによって生じた二次的なものかについてはさらに詳細な情報収集が必要であり本研究では明らかにできない。しかし、いずれにせよ、こうした問題や診断の存在は、精神医学的な対応が様々な援助活動の一環として検討される一群が存在することを示唆するものである。

5)本人の転帰について
 2003年1月から12月までに保健所・精神保健福祉センターで支援したひきこもり事例のうち、援助を終了した者は16.0%(528事例)で、56.9%(1875事例)は援助継続中であり、長期的な関わりを必要としていることが明らかになった。また、現在「中断・音信不通」の事例は24.1%(792事例)と、援助を終了したものを上回っていること、また終了した場合においても「改善は特に見られないまま終了」したものが27.7%(137事例)存在することなどから、継続的に支援することの難しさが浮き彫りになった。中断した事例の中断理由などは本調査からは明らかではないが、長期的な関わりを必要とし明確な変化の見えにくいひきこもり事例において、相談者の援助継続のためのモチベーションを維持することや、支援者のバーンアウトなどの問題に今後留意が必要かもしれない。
 また、終了した場合においても就学・就労といった形での終了は少なく、援助終了時または調査時点で就学・就労が確認されたのは全体の6.3%にとどまった。ひきこもり支援における支援目標は就学・就労といった形での変化が目標ではないとしても、ひきこもりからの回復について重要な視点であることにかわりはなく、就労・就学支援についての援助モデルの呈示が今後重要な検討課題であると思われる。

6)精神保健福祉センター・保健所の役割
 精神保健福祉センター・保健所では、多くの機関でひきこもり事例への対応を何らかの枠組みで行っていた。また多くの機関で家族相談を実施していた。既に述べたように、医療機関においては、家族のみの相談が多いひきこもり支援に乗り出しにくい現状もあると思われる。家族が身近に相談しうる援助機関としての保健所・精神保健福祉センターへの期待は大きいといえよう。
 また、精神保健福祉センターでは、保健所と比べて提供しているサービスの種類・関与している事例は明らかに多い。機関としての人員や予算の問題のみならず、事例数が多いことはデイケアや家族教室など組織化された支援も構築しやすく様々なサービスを展開しやすい面もあると思われる。こうした点で、精神保健福祉センターはひきこもり支援の上で各都道府県における中核的な位置をしめているといえ、期待は大きい。また今回の調査では、研修事業・講演会・広報類の作成を行っているセンターも少なくないことがわかった。先駆的に開発された援助モデル・援助技術を研修事業などで保健所など他資源などへ広めていくことや、地域住民へのひきこもり支援に関する情報発信をすることなど、各都道府県におけるひきこもり支援についての情報を集約し、発信する役割をになうことも必要であると考えられる。
 一方保健所は、地域における第一線の身近な相談機関としてその役割は大きい。また保健所は精神保健福祉センターと比較して、専門職による訪問活動が活発である。訪問活動によるサービスの提供の有効性は下時点では明らかではなく今後の検討が必要であるが、支援上のニーズを自ら来談して表明することの難しいひきこもりの本人にとって、保健師など専門職による訪問による相談・サービスの提供は大きな可能性をもつものであるといえるだろう。ただし、保健所の「支援技術の提供」へのニーズは高いことから、これらの支援活動をバックアップする面でも精神保健福祉センターなどによる研修事業の実施が必要であろう。

7)地域資源の開発について
 しかし、ひきこもり事例に関しての対応についての困難感は保健所・精神保健福祉センター両者ともに決して少なくない。また「回復後につながる場の確保」「他の専門機関の充実」といった、自機関ではない他資源へのニーズは多い。フリースペースの開設や就学・就労支援などのひきこもり支援を行っているNPO法人や自助集団を財政面でも補助しながら育成していくことが重要であると思われる。
 また、精神保健福祉センターが中核的な役割を担うことが期待されるとはいっても、各都道府県に1ヶ所の設置が基本であるセンターへのアクセシビリティは地域住民にとって必ずしもよいものではなく、実際の利用には問題がある場合も多いと思われる。本人向けの宿泊施設を併設するような民間施設への助成なども考えうるであろう。ただし、これらの助成・育成を行うためには、第三者的な視点による適正な事業評価活動なども今後必要になってくると考えられる。また、訪問活動についても今後メンタルフレンドやボランティアの育成など、訪問活動をサポートするような事業の展開が検討されるかもしれない。
 なお、これらの支援体制の整備とともに、機関で行われている援助や他資源の情報について、地域の家族や本人が知り、活用できるように、インターネットや広報・パンフレットなどによって情報発信していく事業の推進も重要であろう。

F.総括
 通学・就労といった社会参加や対人的な交流を行わずに自宅を中心とした生活おくるひきこもりとよばれる状態を呈する人々に関する社会的関心が高まっている。
 本研究では(1)全国の保健所・精神保健福祉センターにおける現在の相談・支援状況を把握し、(2)支援した事例に関する情報を収集し、ひきこもり支援のあり方を考えるうえで必要となる基礎資料を作成することを目的とした。
 平成14年1月から12月間の全国の保健所・精神保健福祉センターにおけるひきこもりに関する相談は、電話相談9986件9986件(延べ)、来所相談で4083件(実数)であり、あわせて14069件であった。ひきこもりに関する支援について「家族の個別来所相談」「本人の個別来所相談」「電話相談」などは両機関においてほとんどの箇所で実施されていた。
 また、本人が援助場面の登場することが少ないひきこもり支援の糸口として重要なだけでなく、家族の精神的健康を保持するために必要であると言われている家族支援については、「家族だけの相談には応じていない」とする機関は少なく、また精神保健福祉センターでは機関主体の家族教室・家族主体の家族相談会を積極的に開催・支援していた。特に精神保健福祉センターでは保健所に比較して事例が集積していること、サービスの内容も比較的多彩であることなどから、今後の支援の中核となることが期待される。
 ひきこもりを呈している本人については平均年齢は26.7歳、男女比は男性76.9%、女性23.1%であった。本人の問題行為について、近隣への迷惑行為などを含む対他的な問題行為を呈する事例は少ないものの、家庭内暴力の存在するもの、器物破損や家族の拒否など家庭関係に影響を与える行為のある事例は多く、家族関係の調整・支援についての必要性が示唆された。また、全事例のうち小・中学校における不登校経験者は33.5%であり、不登校とひきこもりとの関連を今後検討していく必要が示された。
 全事例のうち調査時点で援助が終了しているのは16.0%、援助が継続されているのは56.9%、中断・音信不通が24.1%であり、援助に長期的な関わりが必要であることが示されると同時に、中断事例がかなり存在することが明らかになった。
 なお、援助終了時ないし現在継続中の場合の調査時点で就学・就労が確認された割合は少なく、就学・就労などの再社会参加への支援体制をどのように充実させていくかが今後の課題であると考えられた。

 本研究は「こころの健康科学研究事業:地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究(H12-こころ-001)の一環として行われた。調査にご協力頂いた方々、および保健所・精神保健福祉センターの皆さまに深く感謝いたします。

文献
1)倉本英彦:ひきこもりの現状と展望,こころの臨床アラカルト20(2):231-235,2001
2)障害保健福祉総合研究事業 地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究(H-12-障害-008):10代20代を中心とした「社会的ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン(暫定版),2001
3)別所晶子ら:「ひきこもり」についての相談状況調査報告書,2001
4)森田洋司ら:不登校に関する実態調査,平成5年度不登校生徒追跡調査報告書,2001
5)小林清香ら:「社会的ひきこもり」を抱える家族に関する実態調査,精神医学45(7):749-756,2003
6)斎藤環:社会的ひきこもり−終わらない思春期,PHP新書,1998


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