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「精神保健福祉の改革に向けた今後の対策の方向」
(精神保健福祉対策本部中間報告)の概要

1 経緯

 精神保健福祉対策本部においては、平成14年12月の発足以来、省内関係部局による会議や外部講師を招いた勉強会を開催し、今後の対策の方向について議論を重ねてきたが、今般、厚生労働省として今後取り組むべき施策の方向について以下の中間報告をとりまとめた。

2 報告の概要

(1) 基本的な認識と施策の方向
 精神疾患は、誰でも罹る可能性のある疾患であると同時に、適切な治療の継続により、その症状を相当程度安定化させ、寛解又は治癒することも可能な疾患である。
 精神病床においては病状に応じた適切な医療により早期に当事者の退院を可能とするよう、例えば急性期集中治療、リハビリテーション、専門治療等の機能分化を図る必要がある。一方、当事者が地域において安心でき、かつ、安定した社会生活を送るためには、地域ケア体制の整備とともに、住居を確保し、働く場を提供し、地域生活を支援する体制を整えることが不可欠である。
 「入院医療中心から地域生活中心へ」という方向を押し進めていくため、精神障害者が可能な限り地域において生活することができるよう、必要な保健医療福祉サービスの資源を確保し、適切に配分していく必要がある。そのための重点施策として、以下の事項について優先的に取り組むこととする。

(2)重点施策
(1) 普及啓発 ──→ 正しい理解・当事者参加活動
 精神障害に対する無理解、誤った認識を改めるべく積極的な普及啓発活動を行うため、あらゆる機会を通じて精神疾患及び精神障害に対する理解の促進を図るとともに、当事者参加活動の機会を増やす。
(2) 精神医療改革 ──→ 精神病床の機能強化・地域ケア・精神病床数の減少を促す
ア. 精神病床の機能分化を図り、急性期医療の充実、専門病床の整備等を進めることにより、入院医療の質を向上させる。
イ. 精神科救急体制を含めた地域ケアの体制整備を進める。
ウ.病床の機能強化を推進し、より良い精神医療を確保するため、人員配置の見直しを含めて精神病床数の減少を促す。
(3) 地域生活の支援 ──→ 住居・雇用・相談支援
ア.地域における居住先の確保等を支援する。
イ.雇用支援を進めるとともに、雇用の機会を増やす。
ウ.相談機関の充実、当事者活動の支援等を通じ、地域生活を支援する。
(4) 「受け入れ条件が整えば退院可能」な7万2千人の対策
 (1)〜(3)の各施策の推進と併せ、7万2千人の早期退院、社会復帰の実現を図る。

(3)検討の進め方
 平成15年度より、普及啓発、精神病床等、在宅福祉・地域ケア等について3つの検討会を開催し、それぞれの課題に対応する。

照会先:厚生労働省障害保健福祉部精神保健福祉課
 精神保健企画官 八神(内線3068)
  課長補佐  泉(内線3053)
 社会復帰対策専門官 古元(内線3054)
 (代表)03−5253−1111
 (夜間直通)03−3501−4864



精神保健福祉の改革に向けた今後の対策の方向
精神保健福祉対策本部中間報告
平成15年5月15日

精神疾患を取り巻く状況の認識
 精神疾患は、誰でも罹る可能性のある疾患であると同時に、適切な治療の継続により、その症状を相当程度安定化させ、寛解又は治癒することも可能な疾患である。近年では、うつ、ストレス疾患、痴呆等精神医療の対象となる患者は増えており、精神疾患は、より一般的な病気となっている。また、代表的な精神疾患の一つである統合失調症も、放置すれば多くの場合に症状が悪化、再発するが、一方、継続的に治療を行うことにより長期的に症状の安定を図ることが可能であることは、糖尿病等の慢性疾患と同様である。
 従って、精神疾患を発症した者についても、早期に適切な対応を行うことにより、当事者は地域において社会生活を継続することが可能であり、また、症状が悪化し入院が必要な状態になっても、手厚い急性期治療を行うことにより、多くは早期の退院を見込むことができる。たとえ10年、20年を超える長期入院を余儀なくされていた場合であっても、適切な社会生活訓練等のリハビリテーションや退院支援、退院後の居住先の確保及び地域生活支援により、社会生活が可能となる場合もある。
 こうした入院予防、早期退院、社会復帰の可能性の拡大は、近年の薬物治療の進歩、リハビリテーション等の治療技術の向上に負うところが大きく、精神病床においても、できるだけ早期に地域生活を可能とするようその機能を明確化し、例えば急性期集中治療、積極的リハビリテーション治療、専門治療の提供等の機能分化を図る必要がある。このことは当事者が可能な限り地域で生活できる途を広げていくことを可能とする。一方、当事者が地域において安心かつ安定した社会生活を送るためには、地域ケア体制の整備とともに、住居を確保し、働く場を提供し、地域生活を支援する体制を整えることが不可欠である。欧米諸国においては、こうした精神医療の改革や地域の支援体制の整備を進めた結果、入院医療中心から地域生活中心へと変わってきたが、我が国においては、制度のあり方も含めてこのような流れに未だ十分対応できていない。
 こうした認識に立ち、世界的趨勢を踏まえて、わが国の精神保健福祉対策の各分野について、改革に向けた具体的施策の方向を提案する。(別添1及び
基本的方向と重点施策
 社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書において示された「入院医療中心から地域生活中心へ」という方向を押し進めていくために、精神障害者が可能な限り地域において生活することができるよう、必要な保健医療福祉サービスの資源を確保し、適切に配分していく必要がある。そのための重点施策として、次の事項について優先的に取り組む。
1. 普及啓発
 精神疾患は誰でも罹りうる疾患であり、又、適切な治療により症状の安定化を図ることが可能な疾患であるが、一般にこうした認識が充分とは言えず、「精神障害者」ということを理由に偏見を持たれ、そのために社会的な差別を受けることが少なくない。精神障害者に対する無理解、誤った認識を改めるべく積極的な普及啓発活動を行うため、あらゆる機会を通じて精神疾患及び精神障害者に対する理解の促進を図るとともに、当事者参加活動の機会を増やす。
(1) 普及啓発指針の策定
(2)国民の理解を深めるイベント活動、広報の実施
(3)当事者主体の活動の支援
(4)政策決定への当事者の関与の推進
(5)家族への啓発、家族の支援
(6)精神保健事業への住民の参加
 医療・福祉関係者、当事者のみならず、教育関係者、経済界、マスコミ関係者等の参加を求め、広範な媒体を利用した普及活動を平成15年度より推進する。
2. 精神医療改革
ア. 精神病床の機能強化について
 急性期の入院治療の充実及び専門病床の整備等を進めることにより、入院医療の質を向上させる。
(1)  入院治療の充実を図るため、病床の機能分化のあり方を検討するとともに、人員配置基準の見直しと診療報酬上の評価のあり方を検討
(2) アルコール、薬物等の専門病床のあり方を検討するとともに、これを整備する方策を検討
(3) うつ、ストレス疾患、精神科的治療を要する痴呆の治療のあり方を検討
(4) 高度な治療を要する急性期患者、重度患者等、病状に適した治療体制を検討
(5) 長期入院患者の退院や新たな長期入院者の発生防止を図るための集中的リハビリテーションの実施体制を検討
(6) 看護教育の充実等により看護職員の資質の向上を図るとともに、チーム医療を推進
イ. 地域ケアの充実について
 地域生活への移行及び地域生活を支える地域ケアを行う体制整備を進める。また、緊急時に24時間対応できる救急体制を整える。この際、身近な地域で適切な精神科医療が受けられるよう精神科診療所も活用する。さらに、地域ケアの充実を図るため、診療報酬上の評価のあり方についても検討する。
(1) 地域医療及び各種生活支援を含めた包括的地域生活支援プログラム(ACT事業)のモデル事業の実施を検討
(2) 精神科救急医療体制の全国的整備
(3)精神科訪問看護の充実
ウ.精神病床数について
 近年精神病床入院患者は自然減しているが、さらに急性期治療の充実による入院期間短縮、退院促進、地域ケアの充実による入院の予防等を進めることにより、入院患者の減少が促進されることとなる。精神病床の機能強化を推進し、より良い精神医療の確保のため、人員配置の見直しを含めて病床数の減少を促す。
(1) 医療計画の見直しに反映させるため、病床のあり方を検討
(2) 病床機能及び病床数見直しに向けた医療機関によるアクション・プログラムの作成、実行を促進する助成措置や診療報酬による対応の検討
3. 地域生活の支援
ア. 住居について
 地域における居住先の確保を支援する。
(1) 公営住宅、民間住宅における精神障害者の入居支援策の検討
(2)  グループホーム及び福祉ホーム等の充実の検討
 新障害者プランの着実な実行を図り、必要に応じ見直しも検討
 付加的サービスの提供を含めた質の向上
(3)  居宅生活を支援するホームヘルプサービス等の充実の検討
イ. 雇用について
 精神障害者の雇用支援を進めるとともに、雇用の機会を増やしていく。
(1) 採用後精神障害者、短時間労働精神障害者も含めた納付金制度に基づく助成金の効果的な活用
(2) 障害者就業・生活支援センターによる相談支援機能の充実
(3) 障害者雇用促進法における雇用率の検討
ウ. 気軽な相談機関や仲間・生き甲斐づくりについて
 地域の相談支援機関の充実及び当事者同士の相談活動等を通じた支えあいの場を設ける。
(1)  地域生活支援センターにおいて個々の精神障害者のための各種地域支援サービスプログラムの提供等の機能充実を検討
(2) ピアサポート(当事者自身による相談活動)、クラブハウス等の当事者活動や作業所活動等の支援
 上記の住居、雇用等地域における生活の場の確保、地域ケア、在宅福祉サービス、相談事業等地域生活を支える多様なプログラムを、個々の当事者の意向を踏まえつつ総合的に調整する仕組みを検討。
 なお、平成15年度からは「退院促進支援事業」(地域生活支援センターを拠点とし、個々の入院患者の地域生活移行に必要な各種サービスプログラムを作成)を実施することとしている。
4. 「受け入れ条件が整えば退院可能」な7万2千人の対策
 上記各施策の推進と併せ、「受け入れ条件が整えば退院可能」な者の早期退院、社会復帰の実現を図る。このため、「退院促進支援事業」の全国への拡充を検討する。退院後の受け皿については、新障害者プランを着実に実施し、グループホーム、福祉ホーム、生活訓練施設を確保するとともに、在宅生活者についてはホームヘルプサービス等の充実による支援を行う。これにより入院患者の減少が促進されることにあわせ、精神病床の機能強化を推進し、より良い精神医療の確保のため、人員配置の見直しを含めて病床数の減少を促す。なお、これらについては、現在実施中の精神障害者ニーズ調査の結果及び今後の退院の状況を踏まえて必要に応じ見直しも検討する。精神病床の機能分化と地域精神医療及び福祉の確保、病院と地域との中間的な機能を有する社会復帰施設の体系的整備の検討など、社会復帰促進策を計画的に進めることとする。
5. 具体的検討の進め方について  平成15年度より以下の検討会を開催し、それぞれの課題に対応する。(別添3
 普及啓発に関しては、普及啓発指針検討会(仮称)において指針策定
 病床の機能分化及び病床数の見直し等精神医療の改革については、精神病床等検討会(仮称)において検討
 地域ケアの充実、社会復帰施設の体系的整備、グループホーム等の充実、地域生活支援センターの機能等に関しては、在宅福祉・地域ケア体制等検討会(仮称)において検討


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