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2002年FIFAワールドカップ大会日本開催32試合
に関連した傷病者情報に関する報告書

《中間報告書》

(パブリックビューイングなど付随イベントに関する情報は除く)

平成14年11月5日

厚生労働省厚生科学研究
"Mass gatheringにおける集団災害ガイドライン作成とその評価"研究班

主任研究者:

山本保博 (日本医科大学付属病院高度救命救急センター)
分担研究者:
浅井康文 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
石井 昇 (神戸大学医学部災害・救急医学講座)
石原 哲 (医療法人社団誠和白鬚橋病院)
勝見 敦 (武蔵野赤十字病院救命救急センター)
小井土雄一(日本医科大学付属病院高度救命救急センター)
杉本勝彦 (昭和大学横浜市北部病院救急センター)
杉山 貢 (横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター救命救急センター)
吉岡敏治 (大阪府立病院救急診療科)
藤井千穂 (大阪府立千里救命救急センター)
辺見 弘 (国立病院東京災害医療センター救命救急センター)
森村尚登 (国立横浜病院救命救急センター)
協力研究者:
伊藤 靖 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
丹野克利 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
森 和久 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
奈良 理 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
武山佳洋 (札幌医科大学付属病院高度救命救急センター)
明神一宏 (国立札幌病院救命救急センター) 丸藤 哲 (北海道大学附属病院救急部)
亀上 隆 (北海道大学附属病院救急部)
松原 泉 (市立札幌病院救命救急センター)
牧瀬 博 (市立札幌病院救命救急センター)
山崎 圭 (市立札幌病院救命救急センター)
佐藤朝之 (市立札幌病院救命救急センター)
山崎元靖 (東北大学医学部附属病院救急部)
小池 薫 (東北大学医学部附属病院救急部)
篠澤洋太郎(東北大学医学部附属病院救急部)
山畑佳篤 (東北大学医学部附属病院救急部)
塚本茂樹 (東北大学医学部附属病院救急部)
遠藤智之 (東北大学医学部附属病院救急部)
野村亮介 (東北大学医学部附属病院救急部)
山田康雄 (国立仙台病院)
松本 宏 (古川市立病院)
古田昭彦 (石巻赤十字病院)
松本 純 (大泉記念病院)
亀山元信 (仙台市立病院)
大橋教良 (筑波メディカルセンター病院救命救急センター)
河野元嗣 (筑波メディカルセンター病院救命救急センター)
小関一英 (川口市立病院救命救急センター)
布施 明 (川口市立病院救命救急センター)
池上敬一 (独協医科大学越谷病院救命救急センター)
三宅康史 (大宮赤十字病院救命救急センター)
山中郁男 (聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター)
伊巻尚平 (聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター)
荒田慎寿 (横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター救命救急センター)
森脇義弘 (横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター救命救急センター)
床古知久 (横浜労災病院救急部)
佐藤重仁 (浜松医科大学麻酔・蘇生学講座)
広瀬保夫 (新潟市民病院救命救急センター)
木下秀則 (新潟市民病院救命救急センター)
田中敏春 (新潟市民病院救命救急センター)
池内尚司 (大阪府立病院救急診療科)
中山伸一 (神戸大学医学部災害・救急医学講座)
半澤一邦 (三愛病院)
重光 修 (大分医科大学救急医学)
鳴海篤志 (鳴海クリニック)
松本 尚 (日本医科大学付属千葉北総病院救命救急センター)


I 大会開催中傷病者データ

開催各地域集団災害医療担当医師を通じて、大会開催中メーリングリスト上で情報交換を行い、各自治体データを基に以下を集計した。

1. 観客数・傷病者数

(1) 観客総数:1,439,052人
(2) 一試合平均観客数:44,970人
(3) 傷病者総数:1,661人(自己管理患者の処置や授乳などのための場所提供も含む)
(4) スタジアム内傷病者総数:998人(傷病者全体の60.1%)
(5) スタジアム周辺傷病者総数:663人(傷病者全体の39.9%)
(6) 観客一万人あたり傷病者数:12.1人
(7) 観客一万人あたりスタジアム内傷病者数:7.3人
(8) 観客一万人あたりスタジアム周辺傷病者数:4.8人
(9) 救急車搬送:73人(傷病者全体の4.4%)
(10) 外国人観光客傷病者数:273人(傷病者全体の16.4%)
2. 傷病者年齢:30.1±17.4歳(0〜87歳)

3. 傷病者性別:男性603人 女性500人 (記録なし558人)

4. 傷病者重症度
(1) 軽症(外来診療のみ):1,599人(傷病者全体の93.9%)
(2) 中等症(2週間未満の入院を要する):3人(傷病者全体の0.2%)
(3) 重症(2週間以上の入院を要する):2人(傷病者全体の0.1%)
(4) 死亡:1人(傷病者全体の0.1%)
5. 傷病者疾病内訳( )内は全体に対する比率
(1) 外傷:454人 (27.3%)
部位内訳: 四肢285(62.8%)・頭頚部10(2.2%)・顔面10(2.2%)
胸部3・腹部3・詳細不明143
損傷内訳: 骨折7、コンパートメント症候群1
その他大部分は擦過傷・捻挫・打撲・靴擦れなど軽症例
(2)頭痛:191人 (11.5%)
(3)消化器疾患:177人 (10.7%)
(4)発熱・感冒:92人 (5.5%)
(5)熱中症・脱水:75人 (4.5%)
(6)疲労・気分不快:68人 (4.1%)
(7)産婦人科疾患:53人 (3.2%)
(8)呼吸器系疾患:18人 (1.1%)
(9)循環器系疾患:12人 (0.7%)
(10)熱傷:12人 (0.7%)
(11)急性アルコール中毒:11人 (0.7%)
(12)中枢神経系疾患:9人 (0.5%)
(13)その他:137人 (8.2%)
(14)詳細不明:352人(21.2%)


II 傷病者データの解析

1. 傷病者数と試合当日の気温・湿度・風速の関係
気象条件
気温(平均):24.7℃
湿度(平均):61.4%
風速(平均):2.4m/sec

観客1万人あたりの傷病者数と気温・相対湿度のグラフ
→気温が高いほど、観客1万人あたりの傷病者数は有意に多かった

観客1万人あたりの傷病者数と風速のグラフ
→風速が遅いほど観客1万人あたりの傷病者数は有意に多かった

2. 傷病者数と観客数の関係

1試合あたりの傷病者総数と観客総数のグラフ 1試合あたりの傷病者総数とスタジアム収容率のグラフ
1試合あたりのスタジアム内傷病者数と観客総数のグラフ 1試合あたりのスタジアム周辺傷病者数と観客総数のグラフ

→観客総数と傷病者総数、スタジアム内傷病者数、スタジアム周辺傷病者数とに相関関係をみとめなかった。また各スタジアム収容率と傷病者総数、スタジアム内傷病者数、スタジアム周辺傷病者数とに相関関係はみとめなかった


3. 開催会場別傷病者発生場所の比率の比較

各地域毎1試合平均傷病者数(観客1万人当たり) 各地域毎1試合平均傷病者の発生場所の割合

→会場までのアクセスの特徴として、「徒歩10分以内の会場」(札幌、横浜、大阪、神戸)と「全てシャトルバス運行によるアクセスであった会場」(宮城)では傷病者の多くはスタジアム内で発生した。他方、「徒歩で10分以上かかる、または徒歩10分以上でかつアクセス手段がシャトルバスだけでない会場」(茨城、新潟、埼玉)では傷病者の40%以上がスタジアム周辺で発生した。

4. 疾患別・発生場所別傷病者数と気温・湿度・風速・観客数との関係
(1)熱中症・脱水の発生頻度と気温の関係

観客1万人当たり1試合熱中症症例数と気温
→気温が高いほど熱中症症例数は多かったが、風速とは相関をみとめなかった

(2)スタジアム周辺傷病者総数とスタジアムアクセス方法の関係
 スタジアムアクセスが徒歩10分以内またはアクセスが全てシャトルバスであった会場はそれ以外のアクセス条件の会場に比べて有意にスタジアム周辺発生傷病者総数(観客1万人当たり)が少なかった(2.0±2.3人vs9.0人±4.9人、p=0.0001)。
(3)スタジアム周辺発生の外傷症例数とスタジアムアクセス方法の関係
 スタジアムアクセスが徒歩10分以内またはアクセスが全てシャトルバスであった会場はそれ以外のアクセス条件の会場に比べて有意にスタジアム周辺発生の外傷症例(観客1万人あたり)が少なかった(0.4±0.6人vs4.8人±2.7人、p<0.0001)。


5. 2002年日韓大会と1998年フランス大会の比較

2002年日韓大会日本データと1998年フランス大会データの比較
→2002年大会では、前回大会に比してスタジアム内発生数が多かった

III 中間報告における小括

  1. 大会中傷病者総数は1661人で観客一万人あたり12.1人であった
  2. 全体の93.9%が軽症例であった
  3. 疾患の内訳は外傷が最も多く全体の27.3%で、次いで頭痛(11.5%)、消化器疾患(10.7%)であった
  4. 観客一万人あたりの傷病者数は気温と風速に統計学的に相関したが観客数やスタジアム収容率とは関係をみとめなかった
  5. 会場へのアクセスが容易でない地域では、スタジアム周辺傷病者総数および外傷症例数が統計学的に有意に多かった
  6. 熱中症・脱水症例は気温が高いほど統計学的に有意に多数であった
以上

照会先 厚生労働省医政局指導課 課長補佐 佐々木 昌一
    03−5253−1111 内線2554


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