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第7次職業能力開発基本計画の概要

I 計画の策定の根拠

 職業能力開発促進法第5条第1項の規定に基づき、職業能力の開発に関する基本となるべき計画を策定する。

II 計画のねらい

 近年の技術革新の進展、産業構造の変化、労働者の就業意識の多様化等に伴う労働移動の増加、職業能力のミスマッチの拡大等に的確に対応した今後の職業能力開発の目標及び基本的な考え方を明確にし、計画的な職業能力開発施策の推進を通じて、労働者の職業の安定、社会的な評価の向上等を図る。

III 計画の対象期間

 平成13年度から平成17年度までの5年間

IV 職業能力開発施策の実施目標

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の取組の視点

(1) 中長期的な視点に立った施策の枠組み

 職業能力のミスマッチを解消し雇用の安定を図るため、労働力需給調整機能の整備とともに、次のような労働市場が的確に機能するためのインフラストラクチャーの整備を図ることが必要である。

イ 労働者のキャリア形成支援システム
ロ 職業情報等の労働市場に関する情報提供システム
ハ ホワイトカラーを含む実践的な職業能力を適正に評価するシステム
ニ 労働者が多様な教育訓練を受けることができるシステム
(2) 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開

 労働力需給の動向に対応した職業能力開発を進める観点から、次のような分野を中心として、機動的に訓練コースの設定、実施を行うことが必要である。

イ IT化の進展に対応した職業能力開発の推進
ロ 新規・成長分野を支える高度な人材の育成、確保
ハ 介護、福祉分野に必要な人材の育成、確保
(3) 離転職者の再就職のための職業能力開発の充実強化

 職業能力のミスマッチを解消し雇用失業情勢を改善するため、求人ニーズに即した離転職者向けの訓練コースの弾力的な設定等を行う。

2 職業生活の全期間を通じた多様な職業能力開発の推進

(1) 職業生活の全期間を通じた職業能力開発の仕組み

イ 企業内において労働者が職業生活設計に即した自発的な職業能力開発を行うことができるよう、助成金の活用等により、事業主による必要な援助措置を促進する。
ロ 国において、求職者等に対するキャリア形成支援を行う。
ハ 教育訓練給付制度の整備等により、労働者の自発的な教育訓練の受講を促進する。
(2) 職業生活の各段階、就業形態等に応じた多様な職業能力開発の推進

 職業生活の各段階の特性や就業形態等に配慮し、次のような多様な職業能力開発を促進する。

イ 若年者の職業意識の啓発等によるキャリア形成支援
ロ 中高年齢者が長期間にわたって培った職業能力の評価やこれに基づく職業生活設計に即した職業能力開発
ハ パートタイム労働等の多様な就業形態に対応した職業能力開発
ニ ノーマライゼーションの観点に立った障害者の職業能力開発
ホ 職業生活の多様化に対応した主婦、自営業者等の職業能力開発

3 事業主、事業主団体、労働組合及び労働者の役割

 産業構造の変化等により、事業主の短期的な成果主義や即戦力志向が高まりつつある中で、事業主による長期的な視点からの職業能力開発と労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力開発との最適な組み合わせにより、職業能力開発を推進する。

V 職業能力開発の基本的施策

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の枠組みの構築

(1) キャリア形成支援システムの整備

 労働者の適切なキャリア形成を促進するため、次のような施策を講ずる。

イ キャリア・コンサルティング技法の開発
ロ キャリア形成に関する情報提供、相談等の推進
ハ 民間におけるキャリア形成支援システムの確立及び人材育成
ニ 企業内におけるキャリア形成支援システムの確立
(2) 職業能力開発に関する情報の収集、整理及び提供の体制の充実強化

 労働者のキャリア形成に資するため、次のような情報の効果的な収集、整理及び提供のための体制を充実強化する。

イ 職業情報及び人材ニーズの動向に関する情報
ロ 訓練コースに関する情報
ハ 職業能力評価に関する情報
(3) 職業能力評価システムの整備

 労働者のキャリア形成に資するため、特定の技能及び知識に関する評価に加え、効果的な評価基準の確立及び職業経験等を基礎とした評価手法の開発を促進する。

イ 民間委託を活用した技能検定制度の拡充及び整備
ロ ホワイトカラーの職業能力の評価基準や職業経験等を基礎とした実践的な評価手法の確立等包括的な職業能力評価システムの構築に向けた検討の実施
(4) 職業能力開発に必要な多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保

 労働者に求められる職業能力の変化・専門化に対応するため、次のような措置により、多様な職業訓練・教育訓練の機会を確保する。

イ 民間における教育訓練の有効な活用
ロ 公共職業訓練の効果的な実施
ハ 多様な教育訓練の機会の確保のための官民の連携
2 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開

(1) IT分野における職業能力開発の推進

 IT化の急速な進展に対応し、次のような観点からIT分野における職業能力開発を推進する。また、インターネットを活用した訓練方法の開発等新たな訓練手法の開発を推進する。

イ ITに関する実務的な職業能力の開発及び向上
ロ 幅広い分野におけるIT活用による業務遂行のための効果的な職業能力開発
ハ 情報通信分野における高度な職業能力開発
ニ イからハまでの職業能力開発を推進するためのリカレント教育を含む環境整備
(2) 介護分野、環境分野その他の新規・成長分野における職業能力開発の推進

 雇用創出を図るため、公共職業能力開発施設等において、介護分野、環境分野、教育・能力開発サービスその他の新規・成長分野を担う人材の育成、確保を図る。
(3) ホワイトカラーの職業能力開発の推進

 ホワイトカラーの職業能力開発手法について、生涯職業能力開発促進センター(アビリティガーデン)において新たに開発された訓練コースを全国の公共職業能力開発施設等に普及させる。
 また、ビジネス・キャリア制度を見直し、ホワイトカラーの職業能力の評価指標としての機能を高める。
3 労働者の就業状況等に対応した多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保

(1) 離転職者の再就職を促進するための職業能力開発

 職業安定機関及び職業能力開発機関とが密接な連携の下に、効率的な受講指示と弾力的なコース設定等を行う。また、民間の教育訓練機関等への委託を活用する。
(2) 若年者の職業能力開発

 職業安定機関及び学校等関係機関とが密接に連携して、インターンシップや職業ガイダンス等を活用して、在学中の早い時期からの職業意識の啓発を積極的に行う。
 また、学卒未就職者に対する各種情報の提供や職業相談の充実強化を図る。
(3) 中高年齢者の職業能力開発

 これまで培われてきた実践的な職業能力を評価し、これに基づき追加的な職業能力開発や独立開業のための職業能力開発等を行う。
(4) 就業形態の多様化に対応した職業能力開発

 パートタイム労働法に基づく指導、好事例集の活用による企業内労使のパートタイム労働者の職業能力開発に係る取組や、育児等により離職した労働者が技術革新に対応するための職業能力開発等を促進する。
(5) 障害者等特別な配慮を必要とする人たちへの対応

 ノーマライゼーションの観点から、一般の公共職業能力開発施設への受入れ、障害の程度に応じた訓練コースの設定等効果的な職業能力開発を推進する。
(6) 職業生活の多様化に対応した職業能力開発

 学生、主婦、退職後の高年齢者、自営業者等に対しても、キャリア形成支援に係るサービスを利用できるようにするとともに、若年者については、在学中の早い時期から職業意識の形成のための支援を行う。
4 技能の振興及びものづくり労働者の職業能力開発
(1) ものづくり振興に係る環境整備

 将来のものづくりを担う人材を育成するとともに、技能を振興するため、技能競技大会・表彰制度等の実施、基盤的技能を習得するための教育訓練の機会の確保等を推進する。
(2) 高度熟練技能の維持・継承

 産業の発展を担う優れた技能の維持・継承を促進するため、高度熟練技能者の技能やその習得過程の分析(デジタル化等)やその結果を利用した公共職業訓練基準、カリキュラムの作成、高度熟練技能者の技能を活用するための高度熟練技能活用促進事業の充実等を行う。
5 国際化と職業能力開発
(1) 国際協力の推進

 開発途上国の職業能力開発施設の運営等を支援するための専門家の派遣、開発途上国の技術者不足に対応するための職業能力開発総合大学校等における外国人留学生の受入れ等を行う。
(2) 外国人研修・技能実習制度の推進

 技術・技能の移転を通じた開発途上国の発展に寄与するため、外国人研修生の受入れ事業を実施し、受入れ企業への指導・助言等を行う。
(3) 海外進出企業対策等の推進

 企業の海外進出に対応した職業能力開発を支援するため、進出先の労働者の職業訓練を担当する指導者の育成に対する支援等を行う。
6 職業能力開発施策の推進体制の整備

(1) 公共部門と民間部門との役割分担について

 公共部門においては、事業主等による職業訓練の促進、ニーズがありながら民間の教育訓練機関において実施することが期待し難い職業訓練、先端分野で多額の費用が必要な職業訓練等の実施を行う。
(2) 国と地方公共団体との役割分担について

 国は、国の雇用対策の一環として離転職者の早期再就職を図るための職業訓練や、高度・先導的な訓練コースの開発・実施を行い、地方公共団体は、各地域の人材ニーズに対応した職業訓練等を行う。
(3) 公共職業能力開発施設等の体制の整備

 職業能力開発総合大学校等の拠点となる施設において、高度かつ専門的な観点からの職業能力開発に関する情報の収集及び発信、訓練コースの開発等を行い、各施設においては、こうした情報等を有効に活用して各地域のニーズに対応した職業訓練を実施する。
(4) 政策評価手法の導入

 キャリア形成支援システムや職業能力評価システム等の労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャーの整備の効率的かつ効果的な実施を図るため、政策評価により、ニーズの把握や訓練コース等の見直し等を機動的に行う。
(5) 関係施策との連携等

 労働力需給のミスマッチの解消や高度な人材の育成を図るため、職業能力開発機関と職業安定機関との連携、職業安定機関等と学校等関係機関との連携、職業能力開発施策と産業施策との連携の強化を図る。


(照会先)職業能力開発局総務課
     課長   草野隆彦
     課長補佐 田中誠二
     電話 03(5253)1111(内線5313)


○ 労働移動が活発化する中で、雇用の安定を図るためには、労働者や企業が労働市場に係る適切な情報を入手でき、労働者の職業能力を確認しつつ、その職業生活設計に即して教育訓練を受け、キャリア形成を図ることができるようにすることが必要。

○ このためには、労働市場を有効に機能させる必要があり、そのためのインフラストラクチャーとして、次の5つのシステムを構築していくことが不可欠。

○ こうしたシステムの構築を通して、労働市場を機能させ、円滑な再就職の促進や労働力需給のミスマッチの解消等雇用の安定を図る。


労働市場の5つのインフラ整備


職業能力開発基本計画





平成13年5月

厚生労働省




目次

第1部 総説

1 計画のねらい

2 計画の期間

第2部 労働力需給の動向等

1 労働力需給構造の変化

(1) 労働力の需要面の変化
(2) 労働力の供給面の変化
(3) 職業能力のミスマッチの状況

2 年齢別、産業別の労働力需給の動向等

(1) 年齢別の動向
(2) 産業・職業別の動向
(3) 労働移動の動向
第3部 職業能力開発施策の実施目標

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の取組の視点

(1) 中長期的な視点に立った施策の枠組みの構築
(2) 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開
(3) 離転職者の再就職のための職業能力開発の充実強化

2 職業生活の全期間を通じた多様な職業能力開発の推進

(1) 職業生活の全期間を通じた職業能力開発の仕組み
(2) 職業生活の各段階、就業形態等に応じた多様な職業能力開発の推進

3 事業主、事業主団体、労働組合及び労働者の役割

第4部 職業能力開発の基本的施策

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の枠組みの構築

(1) キャリア形成支援システムの整備
(2) 職業能力開発に関する情報の収集、整理及び提供の体制の充実強化
(3) 職業能力評価システムの整備
(4) 職業能力開発に必要な多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保(官民の連携による職業能力開発の推進)

2 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開

(1) IT分野における職業能力開発の推進
(2) 介護分野、環境分野その他の新規・成長分野における職業能力開発の推進
(3) ホワイトカラーの職業能力開発の推進

3 労働者の就業状況等に対応した多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保

(1) 離転職者の再就職を促進するための職業能力開発
(2) 若年者の職業能力開発
(3) 中高年齢者の職業能力開発 18
(4) 就業形態の多様化に対応した職業能力開発
(5) 障害者等特別な配慮を必要とする人たちへの対応
(6) 職業生活の多様化に対応した職業能力開発

4 技能の振興及びものづくり労働者の職業能力開発について

(1) ものづくり振興に係る環境整備について
(2) 高度熟練技能の維持・継承について

5 国際化と職業能力開発

(1) 国際協力の重要性と課題
(2) 国際協力の推進
(3) 外国人研修・技能実習制度の推進
(4) 海外進出企業対策等の推進

6 職業能力開発施策の推進体制の整備

(1) 公共部門と民間部門との役割分担について
(2) 国と地方公共団体との役割分担について
(3) 公共職業能力開発施設等の体制の整備
(4) 政策評価手法の導入
(5) 関係施策との連携等


第1部 総説

1 計画のねらい

 近年のIT等の技術革新の進展、産業構造の変化、労働者の就業意識・就業形態の多様化等に伴う労働移動の増加、職業能力のミスマッチの拡大等に的確に対応するためには、我が国の労働市場の整備を着実に進める必要があり、労働力需給調整機能の充実強化に加え、職業能力開発施策においても、労働者個々人のキャリア形成支援、適正な職業能力評価の推進等のためのシステム整備を始めとした総合的かつ体系的な対応が不可欠となっている。
 こうした観点から、「経済社会の変化に対応する円滑な再就職を促進するための雇用対策法等の一部を改正する等の法律」(平成13年法律第35号)により、職業能力開発に係る諸規定についても整備が行われ、雇用対策法において、労働者の職業生活設計に即した能力の開発及び向上等の効果的な実施及び技能評価の適正な基準の設定等を通じた労働者の職業の安定の推進について新たに規定されるとともに、職業能力開発促進法においては、職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上の促進並びに職業能力検定の充実等のための措置について具体的に規定されたところである。
 本計画は、この法改正の趣旨も踏まえつつ、今後の職業能力開発の目標及び施策の基本的な考え方を明確にし、計画的な職業能力開発施策の推進を通じて、労働者の職業の安定、社会的な評価の向上等を図るものである。
 なお、経済情勢の変動等に伴って、本計画の対象期間中に短期的又は中期的な観点から新たな施策が必要となる場合には、本計画の趣旨等を踏まえて適宜適切に対応するとともに、産業構造の変化、雇用失業情勢の動向に留意しつつ、必要に応じ、本計画の改正を行うものとする。

2 計画の期間

 本計画の対象期間は、平成13年度から平成17年度までの5年間とする。


第2部 労働力需給の動向等

1 労働力需給構造の変化

(1) 労働力の需要面の変化

 IT等の技術革新や経済のグローバル化の進展は、既存産業の衰退、新規産業の創出等をもたらし、企業の在り方を大きく変化させるとともに、職業能力や職業能力開発の在り方にも大きな影響を与えている。
 企業の人材戦略においては、我が国の経済の需要構造の急速な変化や人員構成の高齢化に対応するため、即戦力を外部から調達する傾向が拡大するとともに、企業内の職務編成の在り方も、指揮命令系統が明確なピラミッド型のものから、プロジェクト方式等の柔軟でフラットな職務編成へと移行する傾向が強まっている。これに伴い、労働移動や外部労働市場の拡大が生じているほか、企業内での職務の転換が必要となる場合も増加している。
 このため、労働者に求められる職業能力は、特定の業務への習熟から幅広い業務に対応できる専門的な職業能力へ、また、技能及び知識のみならず、業務を遂行する上で問題を発見し解決する能力、創造力、思考・行動特性等を含めた実践的な職業能力へと変化している。さらに、現に雇用されている企業において通用する職業能力のみならず、企業を超えて雇用され得る能力が労働者に求められるようになっている。こうした様々な変化に対応できる職業能力の開発及び向上が重要となっている。
 企業内における職業能力開発の在り方も、その雇用する労働者に対して、勤続年数や役職等によって一律に実施するような職業訓練は縮小し、対象者を絞り込んだ職業訓練や労働者の自発性を重視した職業能力開発支援が拡大しつつある。なお、大企業の労働者と中小企業の労働者との間には、引き続き職業能力の開発及び向上の機会について格差がみられる。

(2) 労働力の供給面の変化

 高齢化の進展に伴い職業生活の長期化が進む一方、引き続き技術革新の急速な進展等が見込まれることから、職業生活の中で労働移動や職務の転換を念頭に置いた職業生活設計やそれに即したキャリア形成が必要となっている。
 また、労働者の就業意識は、若年者を中心として、一社での長期勤続に限定されない専門職志向へ変化しており、職業選択に当たっても、自己の能力発揮の可能性及び仕事への充実感が重要視されるようになる等の変化がみられる。一方、若年者のうちには、就職後、明確な目標がなく早期に離職する者や、職業や将来に対する見通しを十分に持たずにいわゆるフリーターになる者も多くみられる。
 また、近年、パートタイム労働、在宅就業等の働き方の多様化が生じているが、こうした就業形態については、キャリア形成や職業能力開発について、十分な対応が行われていない。

(3) 職業能力のミスマッチの状況

 近年、失業率が4%後半で高止まりしているが、この要因としては、需要不足のほか、相当程度が労働力需給のミスマッチによるものとなっている。
 労働力需給のミスマッチの内容としては、求職側、求人側ともに、職業能力・職業経験、賃金・労働条件及び年齢要件がその主な理由として挙げられているが、今後も、急速な技術革新の進展、産業構造の変化等に伴い、労働者に対して求められる職業能力が変化し、かつ、その変化の速度が増大するとともに、これに応じた労働者の職業能力開発、能力発揮に対するニーズの一層の多様化により、職業能力・職業経験のミスマッチが拡大するおそれがある。
 例えば、新規・成長分野での新たな人材の需要が生じても、これに対応できる人材の育成、確保が十分でなければ、実際の雇用拡大には結び付かず、職業能力のミスマッチが新規産業の成長の阻害要因となることも考えられる。
 一方、労働者の職業能力に対する的確な認識が、労働者及び事業主双方に不足していることにより、職業能力のミスマッチが生じ、雇用の安定や円滑な再就職の阻害要因となっている面もみられる。
 すなわち、労働者については、求められる職業能力の変化等の下で、自らの適性の発見や、職業経験により形成された職業能力の十分な分析、把握が困難となっており、こうした状況は、今後、企業内における業務内容の変更、職務の転換や企業外への労働移動の活発化等に伴って拡大するおそれがある。
 また、事業主においても、個々の求職者の適性や職業能力の迅速かつ的確な判断に基づく募集・採用や配置・処遇を行うに当たり、適正な職業能力評価やそれに基づく効果的な職業訓練・実務経験の機会の確保が重要な課題となっている。

2 年齢別、産業別の労働力需給の動向等

(1) 年齢別の動向

 我が国の労働力人口は、2005年まで増加し、その後減少するものと見込まれている。これを年齢別にみると、近年の出生率の低下を背景として、2010年までの間に若年層(15〜29歳)は大幅に減少する反面、高年齢層(55歳以上)は大幅に増加し、高年齢層の労働力人口全体に占める割合は2010年には約30%に達するものと見込まれる。また、年齢別の労働力率の推移をみると高年齢層の労働力率が上昇しつつあり、労働力の高齢化が一層進展するものと考えられる。

(2) 産業・職業別の動向

 就業者の推移を産業別にみると、第1次産業及び第2次産業のうち製造業の就業者数が大幅に減少するとともに、これらの就業者の就業者全体に占める割合も低下しており、今後もこの傾向が続くものと見込まれる。
 一方、第3次産業の就業者については、近年大幅に増加しており、1990年において就業者全体に占める割合が約59%であったのが、2010年には約68%に達するものと見込まれる。
 第3次産業の内訳をみると、卸売・小売業、飲食店については、就業者全体に占める割合が若干低下し、金融・保険業、不動産業等については横ばいの状態にあるが、サービス業については、1990年において就業者全体に占める割合が約26%であったのが、1999年には約30%に上昇し、2010年には約34%に達するものと見込まれ、経済のサービス化が一層進展するものと考えられる。
 さらに、IT化等による産業構造の変化に伴い、サービス業のうち情報通信関連分野、医療・福祉関連分野等の新規・成長分野において、今後特に就業者が増加するものと見込まれる。ただし、今後IT化の進展による業務効率化に伴う企業規模の縮小、組織のフラット化等により金融・保険業、不動産業、流通業関係を中心に雇用の減少が懸念され、特にIT化への対応が困難といわれる中高年層について、雇用失業情勢の悪化が懸念される。
 また、就業者の推移を職業別にみると、就業者全体に占める割合は、農林漁業作業者、技能工、製造・建設作業者、販売従事者及び管理的職業従事者について低下し、専門的・技術的職業従事者、事務従事者、保安職業・サービス職業従事者及び労務作業者について上昇している。

(3) 労働移動の動向

 近年、入職率及び離職率ともにおおむね横ばいの状態にあるが、転職希望者の割合は、若年者を中心として高まってきている。
 また、第1次産業及び第2次産業の就業者数が減少する一方で、第3次産業の就業者数が増加しており、特にIT化等による産業構造の変化に伴い情報通信関連分野、医療・福祉関連分野等の新規・成長分野において就業者の増加が見込まれることから、産業間における労働移動が増加するものと見込まれる。
 さらに、近年の技術革新の進展や産業構造の変化に対応して、事業主が事業の遂行に必要な労働力を迅速かつ的確に確保するため、パートタイム労働者の雇入れ、派遣労働者の受入れ等を行う傾向にある。一方、近年価値観やライフスタイルが変化する中で、労働者においても、特定の企業に縛られずに転職してでもその職業能力を活かして仕事をしたいというニーズや就業時間等を選択して働きたいというニーズが高まっており、派遣労働等の多様な働き方を選択する労働者が増加している。
 これらの状況から、今後も労働移動が一層増加するものと考えられる。


第3部 職業能力開発施策の実施目標

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の取組の視点

 技術革新の急速な進展、産業構造の変化や就業意識の多様化等に伴い、労働移動が活発化するとともに、今後も、我が国の経済の需要構造の急速な変化に伴い、求められる職業能力の内容は変化し続けるものと見込まれる。
 こうした中で、労働力需給における職業能力のミスマッチの解消や、更なる雇用の安定・拡大を図るためには、労働者や事業主が適切な職業能力開発を行い、職業能力に応じた雇用の機会の確保や円滑な再就職が可能となるよう、労働市場を整備することが不可欠である。
 第6次職業能力開発基本計画においては、こうした構造的な観点に立った職業能力開発施策は必ずしも十分には取り組まれていなかったが、本計画においては、雇用の安定や円滑な再就職に資するため、言わば、労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャー(経済社会基盤)の整備に向け、中長期的な視点に立って、官民共同で職業能力開発の枠組みを構築するとともに、労働力需給の動向に応じた雇用対策の一環として、機動的な職業能力開発を進めることとする。また、こうした施策に併せて、技能の振興や国際化に対応した職業能力開発施策を推進することが必要である。

(1) 中長期的な視点に立った施策の枠組みの構築

 労働者の自発的な職業能力開発や事業主主導の職業能力開発を適切に進め、雇用の安定・拡大を図るためには、労働者や事業主が、職業情報を始めとする労働市場に関する適切な情報を入手できるようにするとともに、労働者が、その職業能力を確認しつつ、自らの職業生活設計に即して、教育訓練を受け、キャリア形成(労働者が、企業を超えても、自らの職業生活設計に即して職業訓練や実務経験を積み重ね、実践的な職業能力を形成すること)を図ることができるようにすることが必要である。
 このためには、労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャーとして、労働力需給調整システムのほか、職業能力開発施策として、(1)労働者のキャリア形成を支援するシステム、(2)職業情報、職業能力開発ニーズ等労働市場に関する情報を簡易に入手できるシステム、(3)ホワイトカラーを含め実践的な職業能力を適正に評価するシステム、(4)受け皿としての多様な教育訓練を受けられるシステムを構築していくことが不可欠である。
 こうしたシステムの構築は、同時に新たな雇用の機会の創出を進め、特に、中高年ホワイトカラーの雇用の確保にもつながるものと期待される。
このような観点に立ち、今後、職業能力開発行政の中長期的な施策として、官民共同で上記の労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャーを整備していくこととする。
 その際、インフラストラクチャー整備を進める上でのポイントとして、次の点に留意することが必要である。


イ キャリア形成支援システムの整備

 キャリア形成支援を行う前提として、キャリア・コンサルティング(労働者が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練の受講等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談をいう。)技法の開発を進めるとともに、官民連携によるキャリア形成に係る情報提供、相談等のための推進拠点の整備、さらには、キャリア・コンサルティングを始めとしてキャリア形成支援を担う人材の育成を図る。
 また、事業主がキャリア形成支援を行うことができるよう情報提供、相談、助成金の支給等の援助を行う。

ロ 職業能力開発に関する情報収集・提供体制の充実強化

 キャリア形成や職業能力開発を行うために必要な情報として、(1)職業に関する基本的な情報及び人材ニーズの動向に関する情報、(2)訓練コースに関する情報、(3)職業能力評価に関する情報等について収集・整理し、及び事業主や労働者に提供するシステムの構築を図る。

ハ 職業能力を適正に評価するための基準、仕組みの整備

 民間委託を活用した技能検定制度の拡充、整備を図るとともに、各業界の労使と国との連携による包括的な職業能力評価システムの構築に向けた検討を進める。その際、特に、次の点に留意することが必要である。

(1) ホワイトカラーを含む適正な職業能力評価基準の設定
(2) 実践的な職業能力の評価手法の確立
(3) 職業能力評価システムの適切な活用の促進

ニ 職業能力開発に必要な多様な教育訓練機会の確保

 民間における新たな訓練コースの設定の促進や教育訓練給付制度に係る講座の適切な指定等により、大学、大学院等による高度な内容の教育訓練の確保を始めとした民間における教育訓練の質の確保・向上を図る。また、教育訓練ニーズの把握や政策評価を通じて公共職業訓練の効果的な実施を図る。

(2) 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開

 労働力需給の動向が急速に変化する中で、雇用対策の一環として職業能力開発を進める観点から、労働力需給の動向に応じ受け皿となる訓練コースを機動的に設定する等、短期間で訓練の内容及び量を調整することが求められる。具体的には、訓練コースの設定・実施について、各地域において事前に一定の職業訓練ニーズの把握を行うとともに、事後的に政策評価を行う等により、スクラップ・アンド・ビルドによる更新を図っていくことが必要である。
 このような産業構造の変化等に対応した機動的な人材育成の推進という観点から、IT化への適切な対応や、新規・成長分野において求められる人材の育成、確保に向けた取組を強化することが重要である。

イ IT化の進展に対応した職業能力開発の推進

 IT化の進展に対応して労働者がその能力を有効に発揮するため、労働者がITに関する実務的な技能の十分な習得機会を得られるよう必要な施策を実施するとともに、高度な技能も含めITに係る多様な水準に応じた訓練コースを確保することとする。

ロ 新規・成長分野を支える高度な人材の育成、確保

 我が国の経済活力の確保、雇用の機会の創出等のために、新規・成長分野に必要な高度な人材を的確に育成、確保することが重要であることから、職業安定機関と職業能力開発機関との連携を強化しつつ、環境分野等の新規・成長分野を支える高度な人材の育成、確保に努める。

ハ 介護、福祉分野に必要な人材の育成、確保

 高齢化の進展に伴い、介護、福祉分野における人材の育成、確保が必要であることから、公共職業能力開発施設や介護労働安定センター等におけるホームヘルパーの養成、介護福祉士養成施設等における介護福祉士の育成等を通じて、必要な人材の的確な育成、確保を図る。

(3) 離転職者の再就職のための職業能力開発の充実強化

 職業能力のミスマッチを解消し、雇用失業情勢を改善するためには、特に、離転職者の早期再就職のための求人ニーズに即した職業能力開発の充実強化を図ることが不可欠である。そのため、離転職者向けの訓練コースの弾力的な設定、民間の教育訓練機関等への委託訓練の活用等により、機動的な職業訓練を実施することが重要である。
2 職業生活の全期間を通じた多様な職業能力開発の推進

(1) 職業生活の全期間を通じた職業能力開発の仕組み

 職業生活の全期間を通じた職業の安定を確保するための多様な職業能力開発を推進する観点から、職業生活の節目ごとに、労働者個人の職業生活設計を考え、それに即したキャリア形成を含む職業能力開発ができるよう企業内外を通じた社会的な仕組みを構築していくことが必要である。
 具体的には、次のように、労働者が企業内において職業生活設計に即した労働者のキャリア形成を含む職業能力開発を行うことを促進するため、事業主が講ずる必要な支援措置の促進を図る。また、国は自ら求職者等に対するキャリア形成支援等を行う。
 また、労働者がキャリア形成や自発的な職業能力開発を行うためには、そのための時間が必要であり、事業主が労働時間面での配慮をすることが求められる。

イ 助成金制度の効果的な活用等により、事業主が労働者の職業生活設計に配慮しつつ行う職業訓練、必要な実務経験のための配慮、職業能力評価、有給教育訓練休暇等の付与等を促進する。また、企業内においてキャリア・コンサルティングが行われるよう、国が職業能力開発推進者に対して講習を行う。

ロ 雇用・能力開発機構都道府県センターは、求職者、中小企業の労働者を主たる対象として職業情報を提供しつつキャリア形成支援を行うとともに、必要な民間の教育訓練や公共職業訓練を受けられるよう、公共職業能力開発施設や民間の教育訓練機関との連携を図る。

ハ 教育訓練給付制度の整備等により、労働者が自発的に教育訓練を受けることができる機会を拡大する。

(2) 職業生活の各段階、就業形態等に応じた多様な職業能力開発の推進

 職業生活の全期間を通じた職業能力開発を適切に行うためには、次のように、職業生活の各段階の特性や多様な就業形態の在り方に配慮することが必要である。

イ 若年者のキャリア形成支援

 若年者においては、失業率が非常に高い状況にあり、就業している場合もフリーター等として就業する者が増加している。特に、フリーターの中でも職業や将来に対する見通しを十分に持たずにフリーターになった者が最も多い状況にあり、若年者のキャリア形成が適切に行われるよう施策を講ずることが求められている。
 このため、若年者の職業意識の効果的な啓発を図るとともに、若年者自らがその適性を早期に発見し、動機付けを行い、適切な職業選択を行う等充実した職業生活を送ることができるよう、在学中の早い時期から職業意識形成のための支援を行う。

ロ 中高年齢者の職業能力開発

 中高年齢者については、その意欲と能力に応じて年齢にかかわりなく働ける社会を構築する必要があり、雇用・就業機会の確保のための諸施策と相まって、その職業能力の有効活用を図るための支援を強化する。具体的には、中高年齢者が長期間にわたり培った技能及び知識やそのもととなる思考・行動特性等の実践的な職業能力を十分に活用しつつ、人材ニーズの変化に対応した職業選択が可能となるよう、キャリアシート等により職業能力・職業経験を分析し把握すること(職業能力・職業経験の棚卸し)等を可能とするキャリア・コンサルティング技法を確立するとともに、これをもとに職業生活設計やそれに即した多様な職業能力開発を行うよう支援する。

ハ 就業形態の多様化に対応した職業能力開発

 自らのライフスタイルに応じ、多様な就業形態を選択できるよう、パートタイム労働、派遣労働、在宅就業等についても安心して就業できる形態としていくことが必要である。このため、これらの就業形態を選択しても、労働者のキャリア形成を含めた職業能力開発ができるよう必要な施策を推進する。

ニ 障害者の職業能力開発

 障害者の雇用の安定を確保するため、ノーマライゼーション(障害者が他の一般市民と同様に社会の一員として種々の分野で活動することができるようにすること)の推進の観点から一般の公共職業能力開発施設への受入れ等を引き続き積極的に促進するとともに、その習得した職業能力の発揮の場を十分確保するため、障害者の職業能力に対する事業主や国民一般の理解を高めるための施策を強化する。

ホ 職業生活の多様化に対応した職業能力開発

 近年、職業生活の在り方は多様化しており、雇用者から主婦となり再び雇用者となる形態のみならず、雇用者から自営業者になる形態やその逆の形態も多くなっており、職業生活の全期間を通じた職業能力開発という観点からは、もはや、現に労働者である者のみを対象とするだけでは不十分となりつつある。
 このため、学生、主婦、退職後の高齢者、自営業者等に対しても、こうした観点からの取組を検討することが必要である。

3 事業主、事業主団体、労働組合及び労働者の役割

 近年のIT等の技術革新や経済のグローバル化の影響により、我が国の経済の需要構造が急速に変わりつつある。このため、労働者においては、長期の明確な職業生活設計を描きにくくなり、事業主においては、短期的な成果主義、即戦力志向が高まりつつある。
 しかしながら、短期的な成果主義や即戦力志向によって人材育成を怠ることは、事業主自身にとっても、人材育成に対する投資の減少による人材の枯渇によりやがて事業の存続を危うくすることになり、社会全体としても、生産力・国際競争力の低下ひいては雇用の減少につながりかねない。
 今後も、事業主が目標を持って長期的な視点から人材育成に対する投資を行うことができるよう積極的に支援を行っていく必要があるが、技術革新の進展等により、事業主を取り巻く環境は引き続き急速に変化し続けることが予想される中で、事業主主導の人材育成に対する投資を期待するだけでは、十分な職業能力開発の機会を確保することは困難である。
 このため、従前からの事業主主導による職業能力開発に加え、労働者個人がその職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上を図っていくことが必要であり、事業主もこれに対して積極的に支援していくことが必要である。
 したがって、選択型訓練、有給教育訓練休暇等の付与等の労働者の自発性を重視した職業能力開発を推進し、支援する体制を構築することにより、事業主と労働者それぞれの取組による職業能力開発が最適に組み合わされた職業能力開発を推進することが必要である。
 また、事業主が、長期的な視点に立って職業能力開発を行い、かつ、労働者の自発的な職業能力の開発及び向上を促進するためには、国が事業主を支援するのみならず、事業主団体や労働組合が自主的に取り組むことが重要であり、これらの適切な組合せにより今後の職業能力開発施策が進められることが重要である。


第4部 職業能力開発の基本的施策

1 雇用の安定・拡大のための職業能力開発施策の枠組みの構築

(1) キャリア形成支援システムの整備

イ キャリア形成の意義とその重要性

 技術革新、労働移動の増加等の様々な変化の中で雇用の安定・拡大を図るためには、労働者自らがその適性や職業能力を的確に把握しつつ、求められる職業能力の変化に柔軟に対応し、効果的に職業能力を発揮することができる職業能力開発の推進が重要な課題である。
 こうした職業能力開発に当たっては、特定の職務に必要とされる技能及び知識のみならず、創造力、問題を発見し解決する能力等の幅広い実践的な職業能力の開発及び向上が重要であり、従来からの事業主主導の職業能力開発に加え、労働者の自発的な職業能力開発の取組を促進することが必要である。
 また、今後、労働移動が増加することが見込まれる中で、労働者の雇用の安定・拡大を図る観点からも、労働者の自発的な職業能力の開発及び向上を促進することが重要であり、そのためには、労働者がその職業生活設計に即して、必要な教育訓練の受講、実務経験等を積むことが求められる。
 このため、今後の職業能力開発の在り方については、労働者のキャリア形成を積極的に促進していくことが重要である。
 具体的には、職業訓練・教育訓練の機会の確保に加え、事業主の適切な配慮の下におけるキャリア・コンサルティングの実施、必要な実務経験の機会の確保、適正な職業能力評価等を通じて、効果的に対応することが必要である。

ロ 労働者個人が適切なキャリア形成を図るための支援システムの整備

 適切なキャリア形成を図るためには、職業生活の各段階における労働者の職業能力・職業経験の棚卸し、適正な職業能力評価、事業主が労働者に求める職業能力と労働者の適性・希望・職業能力との照合等を通じて、労働者自らがそのキャリア形成と職業能力開発の方針を明確化していくことが必要である。
 このため、キャリア・コンサルティングや情報提供等が適切になされることが重要である。

(イ) キャリア・コンサルティング技法の開発

 キャリア・コンサルティングにおいては、まず、労働者の職業経験やこれまでに習得した職業能力を客観的に明らかにすることが必要である。
 このため、これらの事項を総合的に記述できるキャリアシートの開発及び普及を図る。なお、労働者が企業間を移動しながらキャリア形成を図ることができるようにするためには、キャリアシートの記述の客観性を高めることが重要であり、そのために必要な職業経験や技能の記述に係る用語の共通化についても調査、検討を行う。
 また、キャリア・コンサルティングについて、労働者のニーズに応じた各レベルの専門家の養成やキャリア・コンサルティング技法の開発及び普及を図る。

(ロ) キャリア形成に関する情報提供、相談等の推進

 適切なキャリア形成を図るためには、労働者に対し、業務に必要な職業能力に関する情報、職業訓練や教育訓練に関する情報、職業能力評価システムに関する情報その他の職業能力開発に関する情報が適切に提供されるとともに、これらの情報を十分に活用してキャリア・コンサルティング等の必要な相談、援助が行われることが不可欠である。
 このため、キャリア形成のために必要な各種情報の収集、整理及び提供を行うとともに、求職者等に対するキャリア・コンサルティングの実施、その雇用する労働者に対してキャリア・コンサルティングを実施する事業主に対する相談、援助等を行うための拠点の積極的な整備を図る。
 また、労働者や事業主に対して職業訓練やキャリア・コンサルティング等の職業能力開発に係るサービスを一体的かつ効果的に提供することができるようサービス提供窓口のワンストップ化や利用手続の簡素化を進めるとともに、これらのサービス提供に関し、職業紹介機関、地方公共団体等とのより密接な連携を図る。

(ハ) 民間におけるキャリア形成支援システムの確立及び人材育成

 労働者がキャリア・コンサルティングを受ける機会を十分に確保するためには、公共機関のみならず、民間の職業紹介機関その他の民間機関においても、キャリア・コンサルティングが適切に行われることが望ましい。
 このため、労働者がその必要に応じ専門的なキャリア・コンサルティングを受ける機会が確保されるよう、民間機関の協力も得つつ、キャリア・コンサルティングの専門家の養成の在り方について検討する。

(ニ) 企業内におけるキャリア形成支援システムの確立

 企業内において労働者の自発的な職業能力開発を促進するためには、事業主が計画的かつ体系的にその雇用する労働者のキャリア形成を支援するシステムを確立することが重要である。
 また、企業内の職業能力開発計画が、労働者のキャリア形成支援に資するようにするため、労働者の理解と協力を得つつ、より体系的かつ具体的に定められ、これが労働者に周知されることを促進するとともに、事業主の行う職業訓練等に対して助成する際には、同計画の内容及び周知が適切であるかどうかについて、十分に考慮する。
 労働者がその職業能力開発に関する目標を定めることを支援するため、事業主が、その事業に係る業務に必要な職業能力をできる限り客観化し、その雇用する労働者に周知すること、また、事業主がその雇用する労働者に対するキャリア・コンサルティングその他必要な相談、援助を行うことを促進する。その際、労働者が希望する場合には、外部の専門家・専門機関によるキャリア・コンサルティングを受けることができるよう、事業主に対して必要な支援を行う。
 さらに、企業内の職業能力開発計画の実施については、職業能力開発推進者が十分に役割を果たすことが重要であり、特に、事業主が同計画に基づき企業内におけるキャリア・コンサルティングを推進するに当たっては、職業能力開発推進者がその中心的な役割を果たすことが期待される。このため、国が職業能力開発推進者に対する研修を実施すること等により、事業主によるキャリア・コンサルティングの実施を促進する。
 なお、今後、こうした企業内におけるキャリア形成支援システムの一環として、有給教育訓練休暇等の付与、労働時間面での配慮等労働者が自発的にキャリア形成を行うことができるような環境整備を推進していくことが重要である。

(2) 職業能力開発に関する情報の収集、整理及び提供の体制の充実強化

 労働者のキャリア形成に資するため、職業能力開発に関する情報の収集、整理及び提供のための体制を充実強化する。具体的には、次のような情報の効果的な収集、整理及び提供を図る。

イ 職業情報及び人材ニーズの動向に関する情報

(イ) 各職業の業務内容及び求められる職業能力の内容

(ロ) 各業界、企業の人材ニーズに関する動向

ロ 訓練コースに関する情報

(イ) 事業主等の行う職業訓練に関する情報

(ロ) 民間の教育訓練機関が実施する教育訓練に関する情報(教育訓練給付制度の指定講座に関する情報を含む。)

(ハ) 公共職業訓練に関する情報

ハ 職業能力評価に関する情報

(イ) 職業能力評価システムに関する情報

(ロ) 労働者の有する職業能力に関する情報

 なお、情報の提供に当たっては、データベースの整備を進め、インターネット等の活用により事業主や労働者に対する効果的な提供が図られるシステムを構築する。
 また、キャリア形成を支援する職業総合情報拠点として「私のしごと館」の開設を推進するとともに、開設後は体系的かつ継続的な職業情報の収集、整理及び提供に努める。

(3) 職業能力評価システムの整備

 現在の職業能力評価は、特定の技能及び知識に関する評価が中心であるが、キャリア形成を促進するためには、実践的な職業能力に関する評価基準の設定及び職業経験等を基礎とした評価手法の開発が重要である。
 適正な職業能力評価は、企業内における職務の転換や業務内容の変更、企業間の労働移動に際し、職業能力のミスマッチの発生を抑制する等により雇用に関する労使双方のリスクを軽減させることを通じて、雇用の安定、処遇の改善、迅速かつ的確な人材確保等に資するものである。
 職業能力評価システムは、労働者の処遇に直接関係するものであることから、労使の同意の下に整備されることが望ましい。このため、例えば、業界ごとに労使が協力しつつ、実践的な職業能力に関する評価基準を確立すること等を積極的に支援する。

イ 民間委託を活用した技能検定制度の拡充及び整備

 技能検定制度は、現在、製造業、建設業関連職種を中心に実施されているが、労働者の職業能力を公証する制度として、労働者の雇用の安定、円滑な再就職、労働者の社会的な評価の向上に引き続き重要な役割を有するものであり、技術革新の進展に的確に対応するため、民間機関への試験業務の委託を拡大する等民間機関の活力を活用しつつ、事務系職種を含めた技能検定職種の拡大及び見直しにより、労働者が技能検定を受ける機会の拡大を図る。

ロ 包括的な職業能力評価システムの構築に向けた検討の実施

(イ) ホワイトカラーを含む適正な職業能力評価基準の設定

 当面、各業界を単位として、当該業界の労使が協力して適正な職業能力評価システムを構築することを支援する。
 国においては、各業界において職種間、業種間での互換性のある職業能力評価基準が整備されるよう、必要な調整を図り、可能な部分については、評価基準や用語の共通化を促進する。
 特にホワイトカラーについては、特定の技能及び知識のみならず、創造力や問題を発見し解決する能力等の実践的な職業能力についての評価を行うことが、その職業能力を適正に評価するために不可欠であることから、これに係る職業能力評価基準の確立を図る。

(ロ) 効果的な職業能力評価手法の確立

 適正な職業能力評価基準に基づき、労働者の職業能力を評価するための効果的な手法の確立を図る。
 試験の方法のみならず、その労働者の職業経験、実績等の把握、第三者評価の活用等の手法を、職業能力評価基準の設定と併せて検討する。

(ハ) 職業能力評価システムの適切な活用の促進

 職業能力評価システムは、労働者の職業生活設計や事業主の雇用管理に的確に活用されることによって、雇用の安定や円滑な再就職、労働者の社会的な評価の向上に結び付くものであり、その活用を促進するため、必要な指導、援助等の措置を講ずる。

(4) 職業能力開発に必要な多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保(官民の連携による職業能力開発の推進)

 労働者に求められる職業能力が多様化かつ専門化しており、職業能力のミスマッチを防ぐためには、これに対応した多様な職業訓練・教育訓練の機会が十分に確保されることが重要である。
 このためには、公共職業能力開発施設、民間の教育訓練機関がそれぞれの機能を活かして、ニーズに応じた職業訓練・教育訓練の機会の提供を図るとともに、これに関する情報を体系的に整備し、提供していくことが必要である。

イ 民間における教育訓練の有効な活用

 教育訓練給付制度の指定講座については、雇用保険の被保険者等が、その職業能力の開発及び向上に関するニーズに応じた講座を適切に選択できるよう、教育訓練の内容に関する情報の収集、整理及び提供の体制の充実強化を図る。
 教育訓練給付講座の指定を受けた教育訓練機関に対し、その教育訓練の内容や目標の明確化について、十分な協力を求める。
 また、事業主による共同の職業能力開発の推進のための体制整備を促進することも重要であり、地域における業界団体や地方公共団体による取組を促進する。特に認定職業訓練については、職業訓練の体制が脆弱な中小企業が、その雇用する労働者に対し的確な職業訓練の機会を確保するための有効な制度として、必要な見直しを行いつつ、効果的な支援を行い、その振興を図る。

ロ 公共職業訓練の効果的な実施

 公共職業訓練については、技術革新、産業構造等の変化に迅速に対応するため、政策評価等を活用しつつ、IT分野やホワイトカラー向け職業訓練の充実等訓練コースの機動的な新設、見直しを進め、その効果的な実施を図る。

ハ 多様な教育訓練の機会の確保のための官民の連携

 事業主等の行う職業訓練に関し、公共職業能力開発施設その他の施設、訓練設備等の有効活用を進める。
 また、公共職業訓練の指導員を民間から確保することについて、事業主の協力を得るとともに、職業訓練に係る地域のニーズの把握等については、事業主団体等の協力を得る。

2 労働力需給の動向に対応した職業能力開発の展開

(1) IT分野における職業能力開発の推進

イ IT分野の職業能力開発支援の必要性

 あらゆる産業分野においてIT化が急速に進展する中で、あらゆる職種において、ITに関する実務的な職業能力が必要とされるようになるとともに、ITを活用した生産システムの構築等、業務に必要なIT活用能力が求められるようになってきており、こうした職業能力の開発及び向上のための教育訓練の機会を確保することが必要となっている。
 また、IT産業が発展する中で、先端的な研究を行う研究者、開発の作業に従事する技術者等の人材不足が深刻化しており、これらの人材育成を図るための職業能力開発の仕組みを整備することが重要である。
 他方、IT化の進展に伴い、流通過程の合理化等によるいわゆる「中抜き」(脱仲介化)が生じ、雇用の機会の減少が懸念される中で、離転職者に対する適切な職業能力開発を念頭に置く必要がある。

ロ ITに関する職業能力開発のための基盤整備

 上記の考え方を受け、今後、

(1) ITに関する実務的な職業能力の開発及び向上
(2) 幅広い分野におけるIT活用による業務遂行のための効果的な職業能力開発
(3) 情報通信分野における高度な職業能力開発
(4) (1)から(3)までの職業能力開発を推進するためのリカレント教育(職業人を中心とした社会人に対して学校教育の修了後、いったん社会に出た後に行われる教育)も含む環境整備やこれらの分野におけるキャリア形成を通じた職業能力開発

の観点から施策を推進する。
 ITに関する実務的な職業能力の開発及び向上については、約140万人を対象としたIT化対応の職業能力開発の機会の確保のための事業を現在進めているところであり、こうした対応を継続的に実施することにより、あらゆる事業分野における労働者にITに関する実務的な職業能力を付与し、デジタル・ディバイド(情報格差)による雇用不安が生じないように支援する。
 その際には、平日夜間又は休日を含めた職業訓練・教育訓練の機会の提供等により、幅広く労働者の利便の確保に努めるとともに、民間の教育訓練機関との連携により、ITに関する職業能力開発の推進を図る。
 ITを活用した業務の遂行に必要な職業能力の開発及び向上については、今後、ものづくりや流通等、ITを活用した新たな事業展開が特に必要となっている分野について、公共職業能力開発施設が主体となってモデル的な訓練コースの開発を行うとともに、その民間機関への普及を推進する。
 情報通信分野におけるITに関する高度な職業能力の開発については、プログラミング、システムの開発・運用等に関する職業能力開発を行うための訓練コースを開発し、実施するとともに、これらの分野における即戦力志向に対応した職業能力の評価手法の整備を図る。
 また、IT分野の先導的な技術者や研究者、ITを機軸とした起業や経営戦略の構築を担う人材等に係る特に高度な職業能力については、大手IT企業が育成機能を担うとともに、大学、大学院等の高等教育機関が、企業等との産学連携による研究活動等を通じて、人材育成に寄与している。今後、IT化に対応した職業能力開発を推進していくに当たっては、関係省庁間で緊密な連携を図り、教育・研究機関等に対する必要な情報提供、相談、援助等を総合的に実施するとともに、大学、大学院等における高度かつ実践的なリカレント教育を受けることをより容易にするための環境整備を推進する。

ハ 新たな教育訓練システムの開発

 近年、民間の教育訓練機関や企業内の教育訓練において、インターネット上で教育訓練ソフトを提供し、学習から試験による職業能力評価までを一連のものとして行うシステムの活用が増加してきている。
 こうした教育訓練システムは、コスト、時間や能力に合わせた学習が可能であること、到達度の管理等の点で有効であることから、公共職業能力開発施設においてもその積極的な活用を推進するとともに、民間の教育訓練機関におけるその活用に対する支援の在り方について検討する。
 さらに、公共職業能力開発施設間のいわゆるウェブ・ネット上での仮想ネットワークによる職業訓練システムといった新たな訓練システムの開発について検討する。

(2) 介護分野、環境分野その他の新規・成長分野における職業能力開発の推進

 我が国経済の活力の向上、雇用の創出等のためには、新規・成長分野に必要な人材の育成、確保が重要であることから、介護分野、環境分野その他の新規・成長分野において、ニーズを踏まえた訓練コースの設定、事業主等の行う教育訓練への支援、公共職業訓練の充実等により、効果的に人材の育成、確保が行われるよう施策を推進することが必要である。
 特に、介護分野については、良質な人材の確保が要請される中で、今後中高年齢者の雇用の機会を確保する場としても期待されることから、公共職業能力開発施設や介護労働安定センター等におけるホームヘルパーの養成等を通じて、必要な人材の育成を図る。
 また、今後、循環型の経済社会システムへの円滑な転換に対応するため、リサイクル分野において資源の再利用・再生を担う人材や、リサイクル分野以外において環境を重視した製品開発等を担う人材の育成を図っていくことが必要である。
さらに、教育・能力開発サービス関係の雇用需要の増大が期待される中で、これらの分野において中高年ホワイトカラーがその豊富な知識、経験等を活用することができるよう、必要な職業能力開発を行う。

(3) ホワイトカラーの職業能力開発の推進

 ホワイトカラーについては、これまで職業能力開発や職業能力評価についてのノウハウが十分に蓄積されていないことから、今後、こうしたノウハウの開発やこれに即した職業能力開発や職業能力評価を推進することが必要である。
 このため、生涯職業能力開発促進センター(アビリティガーデン)において新たに開発された訓練コースを、全国の公共職業能力開発施設や民間の教育訓練機関が各地域のニーズに応じて実施することができるよう、その効果的な普及に努める。
 ビジネス・キャリア制度は、ホワイトカラーの職務遂行に必要な専門知識の段階的かつ体系的な習得を支援するものとして、専門的知識を10の職務分野ごとに、初級と中級のレベルに区分して実施している。
 今後、ビジネス・キャリア制度が、ホワイトカラーの職業能力の評価指標として一層機能していくために、

(1) 対象者のレベルを明確化すること
(2) 対象職種の再編成を行うこと
(3) 労働市場で求められている職業能力に関するニーズを踏まえた弾力的な運用を行うこと
(4) 民間の教育訓練機関や企業との連携の強化を図ること

等の観点から見直しを検討することが必要である。
 ホワイトカラーについては、職業能力の在り方が急速に変化していることから、変化に対応できる実践的な職業能力がますます必要となっている。このため、単なる技能及び知識にとどまらず、これらを効果的に用いるために必要な判断力等の思考・行動特性等についても職業能力開発の手法を開発することが重要であり、これらの職業能力の評価手法の開発を、民間との連携の下で進める。

3 労働者の就業状況等に対応した多様な職業訓練・教育訓練の機会の確保

(1) 離転職者の再就職を促進するための職業能力開発

 離転職者に対する職業訓練については、その重要性にかんがみ、次のような施策を講ずる。

(1) 職業能力開発機関と職業安定機関との密接な連携の下に、効率的な受講指示と弾力的な訓練コースの設定を行うこと。

(2) 地方公共団体とも十分に協力を図りつつ、地域の人材ニーズの的確な把握等に努めること。

(3) 急速な雇用変動等が生じた場合に、民間の教育訓練機関等への委託訓練の活用等を機動的に実施し、円滑な再就職につながるよう、関係機関との必要な連携体制を整備すること。

(2) 若年者の職業能力開発

 若年者については、失業率が近年高まっている。未就職のまま学校を卒業した者やフリーターが増加しており、また、就職した場合でも、早期に離職する者が多く、これらが若年者の高い失業率の要因の一つとなっている。
 十分な職業意識を持たないまま学校を卒業したり、計画性に欠けたまま離転職を繰り返すことは、本人の適切なキャリア形成、更には雇用の機会を阻害するとともに、将来の良質な人材の確保を阻害することにもなりかねない。若年者については、職業意識の効果的な啓発を図るとともに、若年者自らがその職業に関する適性の早期発見、動機付け、キャリア形成に取り組んでいけるよう支援を充実させることが必要である。
 このため、適切な職業選択や安易な離転職の防止のため、職業安定機関等が学校等関係機関と密接に連携し、就職時の就職指導を適切に行っていくとともに、事業主との協力の下行うインターンシップや職業ガイダンス等を活用して、在学中の早い時期から職業意識の啓発を積極的に行っていく。
 さらに、現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえ、未就職のまま学校を卒業した者やフリーター等に対して職業能力開発の機会を与える等の援助を行うとともに、職業能力開発に関する各種情報の提供や職業相談等の充実強化を図る。

(3) 中高年齢者の職業能力開発

 中高年齢者については、高齢化の急速な進展に伴う職業生活の長期化により、就業ニーズの一層の多様化が見込まれることから、年齢にかかわらず働くことができるよう、その職業能力を適正に評価する仕組みを構築することが必要である。
 このため、技能及び知識のみならず、キャリア形成を通じて培われた思考・行動特性等の実践的な職業能力を評価し、それに応じた多様な雇用の機会が確保できるようにする。具体的には、キャリアシートを活用した職業能力・職業経験の棚卸し等を通じて実践的な職業能力を評価し、これに基づき、独立開業する場合に必要な職業能力等の追加的な職業能力の開発及び向上等幅広い観点からの職業能力開発の支援を図る。
 さらに、中高年齢者は、意欲と能力の在り方が多様であり、また、今後65歳までの雇用延長に向けた取組が進められる中で、中高年齢者がその意欲と能力に応じて多様な就業形態を選択できるようにすることが必要であることから、その受け皿として、これまでの職業能力・職業経験を踏まえた中高年齢者の自発性を尊重しつつ、正規雇用のみならず、パートタイム労働等就業形態にかかわりなく職業能力開発や職業選択が可能となるシステムを整備する。

(4) 就業形態の多様化に対応した職業能力開発

 近年、サービス経済化が進展するとともに、パートタイム労働、派遣労働、在宅就業等就業形態の多様化が進む中で、これらの労働者の職業能力開発を推進するため、訓練期間・時間等に配慮した特別な訓練コースの設定、インターネットを活用した職業訓練等多様な教育訓練の機会その他の職業能力開発の機会の確保を図る。

イ パートタイム労働者の職業能力開発

 パートタイム労働については、労働時間が短いだけであり通常の労働者と同様に職業能力を有効に発揮できる良好な就業形態として位置付けていくよう、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律に基づく指導、好事例の活用による企業内労使の取組に対する支援を行っていくことが重要である。具体的には、パートタイム労働者について、企業内における正規労働者との均衡を考慮した処遇に関する好事例も参考としながら、職業能力開発が推進されるよう、企業内労使の取組を支援することが重要な課題である。また、公共職業能力開発施設においても、短時間の就労を希望する労働者に対して、訓練期間・時間等に配慮した職業訓練を実施していくことが必要である。

ロ 派遣労働者の職業能力開発

 派遣労働者については、派遣元事業主による職業能力の開発及び向上への取組や、派遣労働者の職業能力の適正な評価を推進するための事業主団体等による自主的取組を促進する。

ハ 育児や介護等のために離職した労働者の職業能力開発

 育児や介護等のために離職した労働者が技術革新に対応できるよう、その職業能力の維持を図り、円滑な再就職を促進するとともに、育児や介護等による休業期間中における職業能力の維持又は向上を推進する。

(5) 障害者等特別な配慮を必要とする人たちへの対応

イ 障害者の職業能力開発の推進

 障害者については、その雇用の安定・拡大を図るため、就職前の職業準備訓練から就職後の職場適応まで一貫した支援が重要であり、関係機関や事業主等と密接な連携の下に職業能力開発施策を推進する。
 その際、障害者の職業能力に対する事業主や国民の理解を高めるための取組を強化する。
 ノーマライゼーションの推進の観点から、一般の公共職業能力開発施設における障害者の受入れを一層促進する。
 また、障害者については、就職後の職業能力開発が雇用の安定のために重要であり、在職障害者に対する効果的な職業能力開発が行われるよう事業主に対する相談、援助や公共職業訓練を推進する。
 また、障害の重度化・重複化、障害者の高齢化や訓練ニーズの多様化等に対応して、国及び都道府県の障害者職業能力開発校等において障害者の特性や障害の程度に応じた訓練コースの設定を推進するとともに、ITの技術的成果を効果的に活用した新たな訓練手法を検討する。
 特に、知的障害者については、障害者職業能力開発校等における特別な訓練コースの設定を推進する等、職業上必要な生活習慣を身に付けることも含め、その職業能力の開発及び向上を図る。
 このほか、重度身体障害者や知的障害者、精神障害者等について、訓練用機器の進歩等を考慮しつつ、訓練職種や訓練手法、高度職業訓練の在り方等について調査研究を行うほか、職業訓練指導員の研修や指導方法の充実に努める。
 なお、職業安定機関、医療機関その他の関係機関との連携を緊密にすることにより、障害者の職業能力評価から訓練修了後のアフターケアに至る職業リハビリテーション体制の一環として、効果的な職業訓練の実施に努める。

ロ その他特別な配慮を必要とする人たちの職業能力開発の推進

 同和関係住民については、その雇用の機会を確保し、職業生活の安定を図るため、職業安定機関と密接な連携をとりつつ必要な援助を行いながら、公共職業能力開発施設において効果的な職業訓練の実施に努める。また、その他特別な配慮を必要とする人たちについても同様の支援に努める。

(6) 職業生活の多様化に対応した職業能力開発

 職業生活の多様化に対応して職業生活の全期間を通じた職業能力開発を促進するため、学生、主婦、退職後の高年齢者、自営業者等に対しても、キャリア形成支援や職業情報の提供に係る支援サービスを利用できるようにする。また、若年者に対して、今後、適切な職業選択を行う等充実した職業生活を送ることができるよう、在学中の早い時期から職業意識の形成のための支援を行う。

4 技能の振興及びものづくり労働者の職業能力開発について

(1) ものづくり振興に係る環境整備について

 将来のものづくりに係る技能を担う人材を育成し、また、技能の振興を図るため、次のような施策を推進することが必要である。
 なお、ものづくり労働者の職業の安定や社会的な評価の向上等に資するため、職業能力評価システムの整備を図るとともに、ものづくり労働者の企業内での処遇改善に向けて労使が取り組んでいくことが重要である。また、ものづくり労働者の熟練技能は、生産活動を支える社会的財産であることから、国や地方公共団体のみならず、各業界の労使団体が技能労働者の職業の安定や社会的な評価の向上に対して取り組むことも重要である。

イ 国民各層がものづくりや熟練技能の重要性に対する理解を深めるため、技能競技大会・表彰制度の充実、熟練技能者の社会的活用等を推進する。

ロ 将来のものづくりを担う若年者を育成するため、基盤的技能を習得できるような教育訓練の機会を確保することに努める。
 また、ものづくりを担う人材の育成のために、学校教育との密接な連携を図るとともに、各地域における業界ごとの労使とも連携しつつ、技能集積地域における人的な集積を活かした技能の継承・発展を図るとともに、ものづくりを担う技術・技能双方に通じた人材育成等に努める。

ハ 技能労働者の職業生活の全期間にわたる技能形成の促進という観点から、そのキャリアに応じた段階ごとの目標の設定等により、技能振興施策の充実を図る。

(2) 高度熟練技能の維持・継承について

 産業の発展を担う優れた技能の維持・継承を促進するために、次のような施策を推進することが必要である。

イ 高度熟練技能者の技能やその習得過程の分析(デジタル化等)を行い、その成果を公共職業訓練の基準、カリキュラム等に反映することで、人材の効率的な育成に資するよう努める。

ロ 高度熟練技能者の技能を活用するため、高度熟練技能活用促進事業の選定対象、業種・職種の拡大を図るとともに、高度熟練技能者の社会的活用を推進する。

ハ 事業主又は事業主団体等の高度熟練技能の維持・継承に関する自主的取組に対する支援の充実を図る。

5 国際化と職業能力開発

(1) 国際協力の重要性と課題

 我が国の経済社会がアジアを始めとする諸外国との密接な相互依存関係にある中、今後とも安定した経済社会を維持し、更に発展させていくためには、諸外国との友好関係を促進し、国際協調を図ることが不可欠であり、このためには我が国の積極的な国際社会への貢献が必要である。
 特に、いわゆる人づくりは、開発途上国にとって、持続可能な社会経済の開発を推進するための重要な基盤であることから、国民の理解と支援が得られるよう一層の透明性確保に努めつつ、引き続き開発途上国に対する職業能力開発分野における技術協力を積極的かつ効果的に行うことが必要である。また、技術協力を通じて相手国における技能尊重の気運の醸成及びものづくり基盤技術の振興が図られるように努めることが重要である。
 さらに、最近の社会経済環境の急速な変化に伴い、ITによる国際的なデジタル・ディバイドの解消等への職業能力開発分野における技術協力も重要な課題である。
 なお、国際化の進展等に伴い、アジアを中心に企業の海外進出が恒常化している中、これに伴う我が国の労働者の職業能力開発も引き続き必要である。

(2) 国際協力の推進

 我が国の経済社会の発展を支えてきた人材育成に関するノウハウを活用し、開発途 上国の職業能力開発施設の設置・運営、職業能力開発施策の策定等に関して、専門家の派遣、研修員の受入れ等種々の形態による技術協力を、相手国の実情等を十分に踏まえて的確かつ効果的に推進する。
 また、開発途上国の工業化の進展等に伴う技能者不足に対応するため、職業能力開発総合大学校等における外国人留学生の受入れについても、引き続き積極的に推進する。
 さらに、国際機関を通じた事業等によりアジア太平洋地域の職業能力開発に貢献するため、アジア太平洋経済協力(APEC)域内の人材養成分野の活動に対する協力、アジア太平洋地域技能開発計画(APSDEP)に対する協力等を、効果的に推進する。

(3) 外国人研修・技能実習制度の推進

 技術・技能の移転を通じ開発途上国の経済発展に寄与する観点から、外国人研修生受入れ事業として国際技能開発計画及び海外青年技能研修計画が実施されているが、帰国する研修生への支援等により引き続きこれらを積極的に推進する。
 また、外国人研修生受入れ企業等に対して実施される各種の指導・援助事業により、その適正かつ効果的な実施を推進する。
 技能実習制度については、開発途上国のニーズに対応し、一層適切かつ効果的な技能・技術移転が図られるよう、関係省庁と連携しつつ、制度の在り方について検討を進めるとともに、こうした検討を踏まえて制度の見直しを行い、その適正かつ効果的な実施を推進する。

(4) 海外進出企業対策等の推進

 企業の海外進出等の企業活動の国際化に対応した労働者の職業能力開発を支援するため、引き続き、進出先の労働者を訓練できる職業訓練指導者の育成に対する援助、海外の職業訓練に関する情報提供、相談・援助、現地の職業訓練指導者への指導・援助、職業能力開発分野の人材交流等の事業の効果的な実施を推進する。

6 職業能力開発施策の推進体制の整備

(1) 公共部門と民間部門との役割分担について

 公共部門は、民間の活力を最大限に活用するとの原則の下、職業能力開発の促進に関する基本的な枠組みの設定・調整を行うほか、職業訓練については、(1)事業主等による職業訓練の促進、(2)ニーズがありながら民間部門では実施を期待し難い、又は実施していない分野等において自ら職業訓練を実施することが基本的役割である。
 具体的には、事業主や事業主団体等による職業訓練の促進として、これらの者が行う職業訓練を支援するための情報提供、相談、訓練施設・設備の貸与、指導員の派遣、助成、さらには、民間の教育訓練機関が実施する教育訓練を教育訓練給付の指定講座として適切に指定することにより、教育訓練給付制度の効果的かつ効率的な運営等を図る。
 さらに、先端分野等で多額の設備投資を要するために個々の事業主等や民間の教育訓練機関では実施することが困難な職業訓練、離転職者の早期再就職促進のために公共職業安定所長の受講指示等に基づいて行う職業訓練その他そのニーズがありながら民間部門では実施を期待し難い、又は実施していない職業訓練について、自ら実施する。
 一方、今後においては、労働市場の重要なインフラストラクチャーとして、職業訓練ニーズに応じた官民連携による教育訓練の機会の確保が必要となることから、上記のような役割分担を基本としつつ、公共部門は、訓練コースの開発及び普及を行うとともに、民間における教育訓練のコーディネート等を通じた教育訓練の機会の確保を図っていく。また、教育訓練ニーズの把握のために必要な情報の適正かつ効果的な収集及びその提供を行う仕組みを官民連携により構築し、その十分な活用を図る。

(2) 国と地方公共団体との役割分担について

 国と地方公共団体における職業能力開発施策には次のような相違があり、それに応じた施策の推進が求められる。
 国にあっては、国の雇用対策の一環として離転職者の早期再就職を図るための職業訓練を行い、また、高度・先導的な教育訓練を開発し普及させるとともに、自ら当該教育訓練を実施する。
 一方、地方公共団体にあっては、地域産業の人材ニーズや職業訓練ニーズをきめ細かく把握しつつ、これに対応した職業訓練を行う等、地域の実情に応じた職業能力開発を推進する役割を担い、地域の産業施策と一体となって、新たな雇用創出等に向けた取組が期待される。
 また、各地域の職業訓練ニーズに対して一層細やかに対応するとの観点から、各市町村によるその地域の事業主団体等と連携した職業訓練に関する取組の重要性が高まるものと考えられる。
 なお、両者は、上記のような役割分担を図りつつも、全体として公共職業訓練の役割を十分に果たせるよう密接な連携を図り、必要な調整を行いつつ施策を推進することが重要である。

(3) 公共職業能力開発施設等の体制の整備

 公共職業能力開発施設等について、職業能力開発施策上の諸課題に効率的かつ迅速に対応できるよう、施設ごとの役割の明確化を図り、職業能力開発総合大学校の機関である能力開発研究センターやアビリティガーデン等拠点となる施設において、体制の整備を図りつつ、高度かつ専門的な観点からの職業能力開発に関する情報の収集及び発信や、訓練コース等のノウハウの開発を行う。
 また、各施設において、こうした情報等を有効に活用し、関係機関、事業主団体等との密接な連携を確保しつつ、各地域のニーズに対応した職業訓練の実施、情報提供、相談・援助、施設・設備の提供、指導員の派遣等の総合的なサービスをより効果的に提供する。
 なお、職業能力開発大学校について、平成13年度までに計画的に整備を行ったところであるが、産業界から求められる職業能力の高度化等に対応し、一層の機能の充実を図る。

(4) 政策評価手法の導入

 職業能力開発施策に関する政策評価に当たっては、労働市場の活性化に向けて、労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャーの整備としての、キャリア形成支援システムの整備、職業能力に関する情報の収集、整理及び提供の体制の充実強化、適正な職業能力の評価基準・評価手法の整備、職業能力開発に必要な多様な教育訓練の機会の確保をどのように図っていくかについての見通しを立てることが必要である。
 これらの見通しを前提として、公共職業訓練、技能検定制度、教育訓練給付制度、助成金制度等の職業能力開発施策について、これらの施策に係る政策評価手法を確立し、的確に政策評価を実施することを通じ、その効率的かつ効果的な実施を図る。
 さらに、個々の訓練コースの新設、見直し等についても、政策評価手法の活用により、労働力需給の状況、訓練ニーズの変化、職業訓練修了後の就職の状況等を把握し、それに応じ機動的かつ効果的に行うよう努める。このため、個々の訓練コースについて訓練目標の一層の明確化を図るとともに、政策評価に即した職業訓練基準の策定に取り組む。
 なお、職業能力開発施策に関する政策評価については、職業安定施策その他の施策による効果との切り分け、政策評価の時期、職業能力の向上の程度等について効果的な手法を検討することが必要である。

(5) 関係施策との連携等

 労働力需給のミスマッチを解消するためには、職業生活設計に即した職業能力開発と雇用の機会の確保が不可欠であり、職業能力開発機関と職業安定機関との連携を一層強化することが必要である。特に、職業訓練を修了した者について、その職業能力に応じた職業が確保できるよう、職業能力開発機関において、職業安定機関と協力しつつ、積極的に職業能力に応じた求人開拓を行っていくことが重要である。
 さらに、今後人材の育成を行っていくためには、関係施策との密接な連携が不可欠であり、こうした観点から、学校教育に関する施策を始め関係施策との連携の在り方についての検討を行い、関係省庁との共同の取組を強化する。
 特に、若年者が職業意識を高め、早期に自らの適性を発見することにより適切なキャリア形成が行われるようにするため、職業安定機関等が学校等関係機関と密接に連携して、在学中から、事業主の協力の下で、インターンシップを活用することや職業ガイダンスにより職業意識の啓発を実施する。また、職業能力開発を一層実践的なものとするため、職場を体験する機会を組み入れた訓練コースの開発、実施等に取り組む。
 また、求められる職業能力の急速な変化に適切に対応するため、中高年齢者を中心とした社会人についても、高度なリカレント教育等の機会を確保する仕組みが必要であり、大学、大学院等において行われる社会人に対応した高度かつ実践的な教育とも密接な連携を図りつつ、公共職業訓練や教育訓練給付制度の充実を図る。
さらに、新規産業分野を担う起業家等の高度な人材の育成、確保についても、大学、大学院等における高度かつ実践的な教育の充実や創業支援等の施策との密接な連携の下に積極的な推進を図る。



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