脳死下での臓器提供事例に係る検証会議
平成12年12月28日
目次 検査所見(4月14日 15:20から16:15まで) 体温:38.2℃ 血圧:106/55mmHg 心拍数:102分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.0mm 右5.5mm 脳幹反射:対光、角膜、毛様体脊髄、眼球頭、前庭、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm) 診断内容 以上の結果から臨床的脳死と診断して差し支えない。 |
検査所見 (第1回) (4月15日02:31から06:07まで) 体温:36.1℃ 血圧:106/67mmHg 心拍数:79/分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 5.5mm 右5.5mm 脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm) 聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない 無呼吸テスト:陽性
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検査所見 (第2回) (4月15日12:30から15:03まで) 体温:36.4℃ 血圧:121/68mmHg 心拍数:76/分 JCS:300 自発運動:なし 除脳硬直・除皮質硬直:なし けいれん:なし 瞳孔:固定し瞳孔径 左 6.0mm 右6.0mm 脳幹反射:対光、角膜、眼球頭、前庭、毛様脊髄、咽頭、咳反射すべてなし 脳波:平坦脳波に該当する(感度10μV/mm,感度2μV/mm) 聴性脳幹反応:I波を含むすべての波を識別できない 無呼吸テスト:陽性
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判定内容 以上の結果より、第1回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(4月15日06:07) 以上の結果より、第2回目の結果は脳死判定基準を満たすと判定(4月15日15:03) |
平成12年4月13日11:00頃に患者が自宅で倒れているところを家族が発見。救急隊が患者を搬送し、11:40に病院に到着。その際には自発呼吸はほとんどなく両側とも瞳孔は散大・固定しており、人工呼吸器の装着等がなされた。4月14日15:55に家族から臓器提供意思表示カードが提示され、16:15に臨床的に脳死と診断された。その後、16:20に都道府県コーディネーターが病院より連絡を受け、16:40に当該都道府県コーディネーターより東北ブロックセンターに連絡がなされた。22:45にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名が臓器提供施設に到着し、院長、副院長、総婦長等と面談し、院内体制等を確認。また、医学的情報を収集し、一次評価を行った。 |
4月15日0:20にネットワークのコーディネーター1名及び都道府県コーディネーター1名が家族(父、母、兄、姉)と面談。脳死判定・臓器提供の内容、手続等を記載した文書を用いてこれらを説明。1:15に父親が脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書に署名、捺印し、コーディネーターが受領。意思表示カードにおいて脳死下での提供臓器として眼球の記載はなかったが心停止下での提供臓器として眼球の記載があったため、コーディネーターの「眼球提供は難しいが一応確認する。提供できない場合、承諾書は訂正していただく。」旨の説明を聞いた上で、家族は眼球提供が可能なときのために承諾書の摘出臓器として眼球を記載している。
また、承諾を得るべき家族の範囲に関して不明瞭な点を確認するため、ネットワーク本部の指示等に基づきコーディネーターが家族から直接事情を聞き家族構成を確認した。その際、眼球提供ができない旨の説明も行い、家族による承諾書の訂正を得ている。 |
4月15日2:24にレシピエント候補者の選定を開始。また、16:40に心臓、肺、肝臓、腎臓の各臓器別にレシピエント候補者の意思確認が開始された。 心臓及び肺は、最終的に移植実施施設が現地で移植可能かどうかを評価することとなった。現地での評価の結果、心臓については心肥大等により、肺については感染により、移植実施施設側は移植に適さないと判断し移植を辞退した。腎臓については第1候補者から第4候補者まで意思確認が行われたが、すべて移植実施施設側は移植を辞退。最終的にネットワークのメディカルコンサルタントが腎機能等を勘案しあっせんを中止した。なお、肝臓については第2候補者が移植を受諾し、ネットワーク本部において18:10にその確認を得ている。 また、感染症やHLAの検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認されている。 |
第2回法的脳死判定終了後、15:20に副院長が脳死判定の結果を説明。引き続きネットワークのコーディネーター2名が、2で述べた確認等を行うとともに情報公開の内容等について家族の意向を確認。さらに、15:40にネットワークのコーディネーター2名及び都道府県コーディネーター1名でその後の手続の説明等が行われた。また、21:00にコーディネーターと病院側で摘出手術、情報公開等の打合せが行われている。
なお、21:45にコーディネーターから家族に医学的理由により腎臓提供はできないことを連絡している。さらに、4月16日9:53に、肝臓は提供可能であるが、医学的理由により心臓、肺の提供はできないことを伝えている。 |
4月16日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。 |
4月16日15:00にコーディネーターは肝臓の摘出と搬送について報告し、御遺体をお見送り。 4月24日にネットワークのコーディネーター2名及び都道府県コーディネーターで御霊前にお参りしている。その際、移植後の経過を報告し、厚生大臣感謝状を手渡している。なお、家族からドナーの生前の様子や「やはり寂しい。でも臓器提供の意思をかなえることができてよかった。また、病院の先生方にはよくしてもらい感謝している。」旨の感想を聞いている。また、何か問題となっていることがないかどうかを確認したところ、特に問題はないとのことであった。 その後、5月20日に都道府県コーディネーターが家族を訪ね、特に問題はないこと等を聞いている。 |
厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室
[担当]岩崎、小森、衣笠、木村
(代表)03-5253-1111
(内線)2361,2362,2364,2366
〈参考資料1〉
4月13日 11:00頃 |
意識不明で倒れているのを家族が発見。呼名反応なく嘔吐の痕跡あり、自発呼吸は非常に微弱であった。 |
11:16 | 救急隊出動要請。 |
11:18 | 救急隊現場到着。 気道確保(経鼻エアウエイ)、酸素吸入(流量6L) |
11:31 | 救急隊現場出発。 |
11:40 | 救急隊病院到着。 内科救急当番医、脳神経外科専門医の2名で診察。 意識レベル JCS:300、 GCS:E1+V1+M1=3、 両側瞳孔散大(両側とも径5mm)、対光反射 なし 血圧223/142 自発呼吸ほとんどなく気管内挿管し、人工呼吸器(ベンチパーク)を装着。 静脈確保(足、前腕)、輸液開始(ヴィーンF)。 降圧剤(ヘルベッサー10mg)静注。 |
11:49 | 頭部CT施行。所見:くも膜下出血、脳内血腫。 膀胱留置カテーテル挿入。 |
12:10 | 3D-CTA施行。所見:左大脳半球non-filling。 |
12:35 | 心電図、胸・腹部Xp施行。 |
12:40 | 家族にCTを示しながら説明。「非常に強いくも膜下出血と左大脳半球内に脳内血腫が認められます。非常に厳しく手術も適応にならない状態で、呼吸器管理と降圧剤や止血剤の投与など保存的治療を行います」。 |
12:50 | 9階病棟に入室。血圧102/62、脈拍54、人工呼吸器(サーボ)装着。条件:ボリュームコントロール、 FiO2 50%、換気回数 15回/分、分時換気量 7.5L |
13:00 | 血圧98/52、ドパミン製剤(プレドパ200)5ml/hで開始。止血剤(トランサミン、アドナ)、H2ブロッカー(ガスター)、脳代謝賦活剤(ニコリン、ルシドリール)を投与開始。 |
17:00 | 主治医診察。意識JCS300、瞳孔散大、対光反射なし。 角膜反射なし。挿管チューブから吸引しても咳反射なし。自発呼吸なく人工呼吸器に同調している。 以後、血圧は120-100/70-65と安定。 |
4月14日 8:30頃 |
医師団(副院長、脳神経外科科長[2名]、医長の4名)診察。 意識JCS300、両側瞳孔散大、対光反射なし。角膜反射なし。人形の目現象なし。自発呼吸なし。 家族(兄)に病状説明。「自発呼吸は再来せず、依然として人工呼吸器 での呼吸です。瞳孔も散大したままで対光反射もありません。血圧は昇圧剤の投与でなんとか維持されていますが、かなり厳しい状況で脳死に近い状態です」。 |
10:00 | H2ブロッカー、抱水クロラール坐薬(エスクレズポ)投与。 体温39.1゜Cに上昇し、解熱剤(ボルタレン25mg)坐薬投与。 |
12:00 | 血圧115/60と安定しており、ドパミン製剤一時投与中止。 |
13:30 | 収縮期圧が一時100台となったためドパミン製剤再開(5ml/h)。 家族(父親)から看護婦に「使える臓器があれば提供したいので脳死判定お願いします」と申し出がある。 |
14:00 | 体温38.6゜Cのためクーリング開始。 |
14:20 | 脳神経外科科長(主治医)が家族からの申し出に対して説明。 「臓器移植法という法律があって患者の意思はドナーカードに表明されなければなりません。ドナーカードが必要ですので自宅にあるかどうか確認して下さい。それを確認ののち、臨床的脳死判定を行って、コーデイネ ーターを呼ぶことになります」。 |
15:20 | 脳波検査開始。 |
15:40 | 血液ガス分析施行。PO2 110.3、PCO2 26.3、SO2 98.6%。 |
15:45 | 血圧78/43下降のためドパミン製剤増量(10ml/h)。 |
15:49 | 血圧98/54。ドパミン製剤さらに増量(13ml/hへ) |
15:50 | 脳波検査再度施行。 |
15:55 | 家族がドナーカードを持参。記載の正しいことを確認。 |
16:06 | 臨床的脳死判定作業開始。脳死判定マニュアルにそって、必須・前提条件を確認、除外例に該当しないことを確認、中枢神経抑制薬・筋弛緩薬を使用してい
ないことを確認、血圧106/55でショック状態でないことを確認。意識 JCS300・GCS3、瞳孔散大。脳幹反射なし。 平坦脳波を確認。 |
16:15 | 臨床的脳死と診断。 |
16:20 | 都道府県コーデイ ネーターに連絡。血圧100/54。ドパミン製剤増量(15mlへ)。 |
17:00 | 倫理委員会開催。主治医より臨床的脳死患者の報告とドナーカードの確認後 家族の承諾の下に当該患者に対する法的脳死判定の実施、臓器摘出を承認。 |
17:10 | 脳死判定医会議開催。脳死判定医2名を選出。 |
18:00 | 家族(両親、兄、姉)に説明。 「仙台の日本臓器移植ネットワーク東北ブロックのコーデイ ネーターにも応援してもらうため、コーデイ ネーターの来院は今夜10時頃になる予定です。そこでコーデイネーターと話し合っていただき意思を再確認し、法的脳死判定を行います。今後の治療継続と法的脳死判定のため患者 さんを集中治療室(ICU)に移送します」。 血圧111/62、脈拍98/分。抗生剤投与。 |
19:33 | ICUへ転室のための移動開始。 |
19:43 | 頭部CT施行。 |
19:50 | 腹部CT施行。 |
20:08 | ICU入室。動脈ライン確保。 |
20:25 | 家族がICUで患者と面会。 |
20:44 | 聴性脳幹反応検査(ABR)施行。所見:無反応。 |
23:35 | 日本脳神経外科学会脳死・臓器移植検討委員会脳波検査専門委員来棟。 |
4月15日 0:20 |
コーデイ ネーターより家族に説明。 |
0:50 | 家族が脳死判定・臓器提供に承諾し、署名開始。 |
1:15 | 署名終了し、脳死判定承諾書、臓器提供承諾書を受領。 |
1:18 | 家族(父、姉)が患者と再度面会。「たくさんの人を助けて下さい」。 |
1:30 | 倫理委員会・脳死判定医会議を合同で開催。 脳死判定承諾書、臓器提供承諾書を確認。法的脳死判定実施と臓器摘出の承認。 |
2:19 | 組織適合検査等のため85ml採血。 |
2:31 | 第1回目の法に基づく脳死判定開始。 |
6:07 | 第1回目の法に基づく脳死判定終了。 |
12:30 | 第2回目の法に基づく脳死判定開始。 |
15:03 | 第2回目の法に基づく脳死判定終了。脳死と判定。 |
〈参考資料2〉
〈参考資料3〉
脳死下での臓器提供事例に係る検証会議名簿
氏名 | 所属 |
宇都木 伸 川口 和子 嶋 多門 島崎 修次 竹内 一夫 アルフォンス・デーケン 新美 育文 貫井 英明 平山 正実 藤森 和美 ○藤原 研司 柳田 邦男 |
東海大学法学部教授 全国心臓病の子供を守る会幹事 福島県医師会会長 杏林大学医学部救急医学教授 杏林大学名誉教授 上智大学文学部人間学教室教授 明治大学法学部教授 山梨医科大学脳神経外科学教授 東洋英和女学院大学人間科学部教授 聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部長 埼玉医科大学第3内科教授 作家・評論家 |
〈参考資料4〉
医学的検証作業グループ名簿
氏名 | 所属 |
大塚 敏文 桐野 高明 島崎 修次 ○竹内 一夫 武下 浩 貫井 英明 |
日本医科大学理事長 東京大学医学部長 杏林大学医学部救急医学教授 杏林大学名誉教授 宇部短期大学学長 山梨医科大学脳神経外科学教授 |
大熊 輝雄 | 国立精神・神経センター前総長 現大熊クリニック院長 |
〈参考資料5〉
脳死下での臓器提供事例に係る検証会議における第6例目に関する検討経過
平成12年5月11日 | 医学的検証作業グループ(第2回) |
6月23日 | 医学的検証作業グループ(第3回) |
7月21日 | 第3回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議 ・6例目の医学的部分を検証。 |
9月27日 | 第4回脳死下での臓器提供事例に係る検証会議 ・6例目の臓器あっせん業務を検証。 |