トピックス 報道発表資料 厚生労働省ホームページ
平成12年12月28日
照会先:厚生労働省雇用均等・児童家庭局
母子保健課
課長補佐 椎葉(内7933)
福祉係長 青木(内7937)
(代表)03-5253-1111
(直通)03-3595-2544

平成9〜11年度厚生科学研究「母乳中のダイオキシン類濃度等に関する調査研究」の総括について

第1 調査目的

 平成9〜11年度厚生科学研究費補助金生活化学安全総合研究事業「母乳のダイオキシン類濃度等に関する調査研究」(主任研究者:多田裕東邦大学教授)において、我が国における母乳中のダイオキシン類濃度と生活環境要因との関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児に及ぼす健康影響の評価を行うことを目的として調査研究を実施した(表1)
 また、都府県及び市からの委託を受けて当該調査研究と同じ計画の調査研究も併せて実施した。

第2 調査内容・結果の概要

I.保存母乳調査(1)(平成9〜11年度)

 大阪府立公衆衛生研究所において凍結保存している平成9年〜11年(昭和48年〜平成8 年は既発表)の母乳脂肪を使用した。各年ごとに25〜29歳の初産婦の出産後1〜2か月以内 の間に採取したものから等量ずつ混合した均一混合物を各年1検体としてそのダイオキシン 類濃度を測定した。
 母乳中のダイオキシン類濃度は昭和48年から平成11年にかけてほぼ半分近くに減少して おり、減少率はダイオキシン(PCDD)に比べフラン類(PCDF)の方が大きかった。また、コプ ラナーPCB(3種)はPCDD、PCDFよりも大きく減少していた(図1)

II.平成9年度に母乳を採取した対象者に関する調査について(平成9〜10年度)

<1歳児の健康調査(2) (既発表)>
 平成9年度に母乳を採取した80人(母乳群)について,その子供が満1歳になった時点での乳児(55人)の状況を調査した。調査では問診票による身体状況の確認、保護者の記載する調査票による発育状況や疾患の有無を調査するとともに、血液中の免疫機能、アレルギ−、甲状腺機能の項目を測定した。
 また,別に対照群として,出生後ほとんど母乳を摂取していない1歳児32人(人工栄養群)についても同様の調査を行った。
 その結果、母乳群で甲状腺刺激ホルモン(TSH)が有意に高い傾向が観察されたが正常範囲内の分布であった。また、甲状腺ホルモンそのものには有意差は認めなかった。
 なお、1歳までの発育・発達の状況については、母乳群と人工栄養群の比較で差は観察されなかった。
III 平成10年度に行った母乳調査及びその対象者に関する調査について(平成10〜11年度)

1 母乳中ダイオキシン類濃度調査(3)(既発表)

 全国19府県21地区の妊産婦(原則1地区20人),合計415人の初産婦の生後30日目の母乳を採取した。測定したダイオキシン類の異性体はジベンゾパラダイオキシン(PCDDs)が14種類,ジベンゾフラン(PCDFs)が15種類,コプラナ−PCB(Co-PCB)は12種類である。
 採取した415人の母乳中ダイオキシン類を解析した結果、平均濃度は脂肪1g当たり22.2pg-TEQであった。

2 生活環境要因調査(3)

 上記の母乳調査の対象者から、(1)生活環境要因(対象者自身の乳児期の栄養状況、つわりの程度、居住歴、職業歴、喫煙歴、食習慣)、(2)居住地の最寄りの廃棄物処理場についてダイオキシン排出濃度、(3)乳幼児の出生時・採乳時の状況、などの情報を入手し、ダイオキシン濃度との関係について解析した。その結果以下の事項が示された。

(1)母親の年齢との関係

 高齢の母親ほどダイオキシン類の濃度が高いという結果が示された。

(2)廃棄物処理場との関係

 居住地の最寄りの廃棄物処理場からのダイオキシン類の排出濃度と母乳中ダイオキシン類濃度には関連はないという結果が示された。

(3)妊娠中のつわりの程度との関係

 妊娠中のつわりの程度が重症であるほど母乳中ダイオキシン類の濃度が高い傾向が見られた。

(4)母親の乳児期の状況(栄養方法,出生順位)との関係

 母親自身が乳児期に母乳栄養であった者、特にその中でも第1子である者で、母乳中ダイオキシン類の濃度が高い傾向が観察された。

(5)母親の喫煙との関係

 母親の習慣的な喫煙の経験や母親の受動喫煙と母乳中ダイオキシン類濃度との関係は特に観察されなかった。

(6)動物性脂肪の摂取量との関係

 一般的な傾向として,ダイオキシン類には乳肉類からの脂肪摂取量が,コプラナーPCBには魚介類からの脂肪摂取量が影響を与えている傾向が見られた。

IV 平成11年度に行った母乳調査及びその対象者に関する調査について(平成11〜12年度)

1 1歳児の健康影響調査

 平成10年度に母乳を採取した者(415人)の内280人(母乳群)について,その子供が満1歳になった時点での乳児の状況を調査した。調査では問診票による身体状況の確認、採血、保護者の記載する調査票による発育状況や疾患の有無を調査するとともに、血液中の甲状腺機能等の項目を測定した。また、別に対照群として、出生後ほとんど母乳を摂取していない1歳児20人(人工栄養群)についても同様の調査を行った。その結果、甲状腺機能等について異常は見られなかった。
 母乳群と人工栄養群との比較でも、平成9〜10年度の少数例の検討では認められた差(II参照)はみられなかった(表2)

2 母乳中ダイオキシン類の濃度調査(4)

全国6府県の妊産婦(原則1地区20人),合計111人の初産婦の生後30日目の母乳を採取した。
 併せて、上記の母乳調査の対象者から、生活環境要因とダイオキシン濃度との関係について解析した。
 採取した111人の母乳中ダイオキシン類を解析した結果、平均濃度は脂肪1g当たり24.0p g-TEQであった。平成10年度の平均と比較すると変化はみられなかった(表3図2)。

第3 今後の予定等

1 母乳栄養の評価について(表1参照)

 平成8年12月に「母乳中のダイオキシンに関する検討会」がとりまとめた「我が国において は、乳児に与える母乳中に一定程度のダイオキシン類が含まれているものの、その効果及び安全性の観点から今後とも母乳栄養を進めていくべきである。」とした見解を元に、今後とも引き続き母乳栄養を推進していく(平成10年のWHOも同様の見解を示している)。また、ダイオキシン類対策基本指針(平成11年5月)おいても母乳栄養を推進すべしとの見解がなされている。

2 妊娠期・授乳期の栄養指導について

 ダイオキシン類は、食事や呼吸等を通じて摂取されているが、主として魚介類、肉、乳製品など脂肪に富む食事から摂取されている。厚生省が実施したダイオキシン類の一日摂取調査の結果によれば、国民栄養調査による国民の平均的な食品の摂取量であればTDI(4pg/kg体重/日)を下回っている。各種の食品に含まれる栄養素は健康のために重要であるので、妊娠期間及び授乳期間の栄養指導については、多くの種類の食品をバランス良く食べるよう引き続き指導していくこととしている。
 1、2の視点から母乳の不安払拭のためのパンフレット「おっぱいごくごく」を平成12年3月に作成し、各都道府県に配布した。

3 今後の調査等について

 母子保健課においては、今後、以下のような調査研究を進めていくこととしている。
(1)母乳のモニタリング調査の実施
 ダイオキシン類対策特別措置法に基づき環境中への排出抑制対策が全国的に推進されているが、その効果を判定する観点からも、今後とも継続して母乳中ダイオキシン濃度の調査を実施していく予定である。(平成12年度も6府県で120人の母乳調査を実施)。

(2)また、これまでの調査結果について英訳し、世界に向けて発信することも検討する。

(3)母乳のダイオキシン測定の精度管理のためのマニュアルを作成し、本年12月22日に公表した。(既発表)
※今回報告された調査研究結果は、平成11年度の厚生科学研究費補助金により実施された。研究課題名と研究者は次のとおり。

平成11年度厚生科学研究費補助金生活安全総合研究事業
「母乳中のダイオキシン類に関する研究」
主任研究者多田 裕東邦大学医学部新生児学教室教授
分担研究者中村好一自治医科大学公衆衛生学教室教授
近藤直実岐阜大学医学部小児科学教室教授
松浦信夫北里大学医学部小児科学教室教授
森田昌敏国立環境研究所統括研究官

母乳のダイオキシン類濃度等の調査研究の体系

図1 保存母乳のダイオキシン類の推移 図1

表2 1歳児(母乳栄養群、人工栄養群)の甲状腺機能

母乳群と人工栄養群の平均,分布の比較
  TSH(μU/ml) T3(ng/ml) T4(μg/dl) FT4(ng/dl)
母乳群
 
 
 
平均 2.1 1.6 10.6 1.39
標準偏差 1.2 0.2 1.7 0.18
人数 337 337 337 337
     
人工栄養群
 
 
 
平均 2.1 1.7 10.9 1.41
標準偏差 1.1 0.2 1.7 0.18
人数 52 52 52 52
     
 (注)人数の内訳は平成10年度調査母乳群55人、人工栄養群32人と平成11年度調査母乳群282人、人工栄養群20人

表3 母乳中のダイオキシン類濃度

平成11年度(毒性等価係数1998年にて算出)
 
試 料
 
 
検体数
 
 
脂肪含量
 
TEQ(脂肪当たり) pg-TEQ/g TEQ(母乳100g当たり) pg-TEQ/100gmilk
ダイオキシン類,Co-PCBs(12種) ダイオキシン類,Co-PCBs(12種)
PCDDs+PCDFs Co-PCBs 合 計 PCDDs+PCDFs Co-PCBs 合 計
岩手県 20 4.6 12.5 10.2 22.6 57.8 47.0 104.4
千葉県 20 3.4 16.5 7.9 24.4 55.5 26.6 82.2
新潟県 20 3.8 14.7 9.3 24.0 55.3 35.0 90.5
石川県 11 3.4 15.3 9.3 24.6 51.9 31.6 83.8
大阪府 20 3.7 16.3 7.5 23.9 60.8 28.0 88.7
島根県 20 4.4 16.1 8.8 24.9 70.2 38.5 108.2
平 均 計111 3.9 15.2 8.8 24.0 59.0 34.1 93.0

平成10年度(毒性等価係数1998年にて算出)
岩手県 20 3.7 11.1 8.4 19.7 40.9 30.8 72.5
千葉県 20 3.4 16.1 10.8 27.0 55.6 37.3 93.0
新潟県 20 3.6 12.9 9.1 21.9 46.6 32.8 79.3
石川県 10 3.6 10.5 6.9 17.3 37.6 24.6 61.8
大阪府 20 3.9 17.8 10.7 28.7 69.0 41.6 111.2
島根県 20 4.1 19.1 13.4 32.5 77.8 54.8 132.8
平 均 計110 3.7 14.6 9.9 24.5 54.2 36.7 90.9

 平成10年度 平成11年度
岩手 19.7 22.6
千葉 27.0 24.4
新潟 21.9 24.0
石川 17.3 24.6
大阪 28.7 23.9
島根 32.5 24.9
平均 24.5 24.0


図2 地域別母乳中のダイオキシン類濃度平成10年度と平成11年度の比較

図2



トップへ
トピックス 報道発表資料 厚生労働省ホームページ