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2016年6月6日 第7回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 議事録

労働基準局

○日時

平成28年6月6日(月)13:00~16:00


○場所

中央合同庁舎5号館共用第6会議室


○出席者

荒木 尚志(座長) 石井 妙子 大竹 文雄 垣内 秀介 鹿野 菜穂子
小林 信 小林 治彦 高村 豊 鶴 光太郎 斗内 利夫
中村 圭介 中山 慈夫 長谷川 裕子 水口 洋介 村上 陽子
八代 尚宏 山川 隆一 輪島 忍

○議題

・「労働局あっせん労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」のデータを使用した更なる計量分析等について
・解雇を不法行為と構成する損害賠償請求に係る裁判例について
・その他

○議事

○荒木座長 それでは、ほぼ定刻になりましたので、ただいまより「第7回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 委員の皆様におかれましては、本日も御多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます。

 本日は、岡野貞彦委員、土田道夫委員、徳住堅治委員、水島郁子委員は御欠席であります。

 また、八代尚宏委員は、おくれて到着の予定と伺っております。

 本日の議題でありますけれども、まず第2回の検討会の際、鶴委員より御提案のございました労働政策研究・研修機構が発表した「「労働局あっせん労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」のデータを使用した更なる計量分析等について」が第1の議題です。

 第2が、前回の検討会で山川委員より御発言がありましたけれども、「解雇を不法行為と構成する損害賠償請求に係る裁判例について」、事務局から話していただきます。

 そして、最後に「その他」として全体的な議論をするという予定でおります。

 それでは、まず配付してあります資料について事務局より確認をお願いします。

○村山労働条件政策課長 お手元の議事次第等に続き、ただいま座長からお話がございました資料No.1-1といたしまして「金銭解決に関する統計分析」、大竹委員、鶴委員の連名の資料を提出していただいております。恐縮ですが、資料No.1-1に関しましては、事務局の手違いから若干のミスがございますので、後ほど速やかに修正版を配らせていただきたいと思います。具体的には、お手元の3ページ目と4ページ目につきまして差しかえのものを今つくっておりますので、間もなく配付させていただきたいと考えております。

 それから、資料No.1-2といたしまして、鶴委員から御提出の「要求金銭補償額の分析」に関する資料ということでございます。

 そして、第2の議題に関しまして、資料No.2といたしまして「解雇を不法行為と構成する損害賠償請求に係る裁判例」というA3の横置きの資料をお配りしております。色がついておりまして、傍聴席の皆様も含めてカラー刷りのものをお配りしているはずでございますが、後ほどこの色がある意味、分類の符牒になるものですから、もし何か色が抜けているとか、そういったことがありましたら言っていただければと思います。

 最後に、全体を通じての参考資料をお配り申し上げております。

 資料のほうは、以上でございます。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、本日の進め方ですけれども、まず大竹委員、鶴委員より御提出いただきました資料No.1-1及び1-2に基づき御説明をいただき、これに対しての質疑を行います。

 次に、事務局から「解雇を不法行為と構成する損害賠償請求に係る裁判例について」、資料2に基づいて説明をしていただき、質疑を行います。

 最後に、本日の議論も含めた我が国の労働紛争解決システム全体について御意見をいただくという流れで進めたいと考えております。

 それでは、大竹委員と鶴委員より御説明をお願いいたしますけれども、先ほど案内がありましたとおり資料の一部差しかえがございますので、まず鶴委員に御説明をいただき、その後で大竹委員の資料の説明という順番でお願いしたいと存じます。

○鶴委員 私のミスもあり、表現が逆さになっている箇所がありまして今、事務局に修正版をコピーしてもらって速やかにお配りしたいと思います。順序が逆になって大変恐縮ですけれども、大竹委員とともに解決金あっせん審判、それから和解についての分析をいたしました。

 それについての補足ということで、私のほうから御説明しようと思っておりますのは、資料No.1-2でございます。この趣旨は、実際の解決金の分析では、後ほど大竹先生からも御説明がありますように、解雇の無効、有効というのが実際にはっきりわからない。または、属性もわからないものがあるということで、今回私が御紹介するのはウエブ調査でもし不当解雇されたらという仮想的な質問を利用した調査でございます。後ほどの説明と補完する位置づけということで御理解をいただきたいと思います。

 それから、論文の供述者である一人のリクルートワークスの久米氏に資料の作成などを御協力いただいたことを申し添えたいと思います。

 それでは、2ページをごらんください。どのような調査を利用したか。2013年に経済産業研究所が行ったウエブ調査、「多様化する正規・非正規労働者の就業行動と意識に関する調査」を利用いたしました。最後の2つのプランを見ていただきますと、消費者サンプル5,000程度です。7割近くは正社員、残りが非正規社員というようなサンプルでございます。

 3ページ目をおめくりください。どのような質問をしたかということで、真ん中のところを見ていただきますと、不当解雇ということがあった場合にどのような対応を求めるのか。それから、これは複数回答でお願いしますけれども、金銭解決する場合の最低金額を退職金とは別に金額月給換算で聞いて、それをそれぞれ分析しております。

 次に4ページをおめくりいただきますと求める対応ということで、職場復帰を求める人が2割、金銭解決が4割と、後者のほうが高いという結果になっております。

 それから5ページをごらんいただきますと、これは今回の解決金の分析に使わせていただいたJILPTのデータです。この基本的な特徴は、検討会の最初で事務局からも御説明されていたと思いますけれども、左が我々の要求補償金額、アンケートで見たものですが、平均が815万、中央値が240万、月収ベースで答えていただいたものを見ますと平均で15.7か月、中央値で10.0か月です。

 右側のJILPTの調査で見ていただくと、和解の請求金額と解決金額の中間という感じで多分見られるかと思うのですが、解決金との比較でいえば少し上ぶれをしている。ただ、水準の中央値というところを見ますと、和解の中央値とほぼ同レベルということになります。ただ、月収換算ベースだとやはり和解の解決金より高い。このようなデータになっております。

 6ページをおめくりいただきますと、これがJILPTの労働審判、和解の分布の比較ということで、紫が今回の要求金銭補償額の分布ですけれども、やはり紫色が右のほうへ分布がずれている。先ほど上ぶれと申し上げた状況が見てとれるかと思います。

 次の7ページをごらんいただくと、これは今回の要求金銭補償金の男女別、雇用形態別の分布を見たもので、これを見ていただきますと男性正社員のほうがやはり金額の高いほうに分布が広がっているということがわかると思います。ちょっと注目していただきたいのは、3か月、6か月、12か月というところでスパイクがありまして、補償がある種のフォーカルポイント、メルクマールになっているということもごらんいただけるかと思います。

 8ページをごらんいただくと、かなり金額の高い要求をされている方もいらっしゃるので、若干その異常値を除いた形でカテゴリー別に平均値、中央値を見ています。ここで例えば平均値を見ていただくと、勤続年数別に応じて補償金額が高くなっていること。また、中央値というほうを見ていただくと、先ほど12か月、6か月というところがメルクマールになっているということもおわかりいただけるかと思います。

 それから、9、10以下はここに挙げさせていただいている論文の分析の紹介でございます。

10ページをごらんいただければと思います。細かい説明は省略させていただきますけれども、この解決金というのはどのような要因で決まるのかということで、大きく分けて労働に直接かかわるような損益に対する補償、心理的な補償、交渉力の影響、大きく3つに分けています。最初の要因については、失われた期待収入とか、過去にどれぐらい企業が特殊な投資を行った、貢献を行った、転職後の賃金の低下、こうしたものが大きければ補償金も大きくなる。理論的な整理でございます。こうした要因の中で、現在の賃金水準、勤続年数、定年までの期間といったものが影響してくるという理解に立っております。

11ページをごらんください。11ページ、12ページにつきましては実際の実証分析をやった結果をここにお出ししております。理論的な予想、要因について「○」と書かれているものがおおむね推計方法によらずに優位であるという状況を示しております。

12ページをごらんいただくと、これも非常にテクニカルで恐縮なのですけれども、大まかにこの結果を御説明します。上から見ていくと「スキル2」、これは自分と同じだけ仕事ができるようになるためにどれぐらい期間を要するのかということでスキルを測っていますけれども、スキルが高い人ほど補償金を大きく要求する。

 以下、雇用の安定とか、労働組合とか、主観的失業とあります。これはどういうことかというと、雇用安定をより求める人、労働組合に入っている人、自分が失業を余りしないだろうと思っている人ほど高い補償金を求めるということがわかります。

 勤続年数につきましては、やはりプラスに優位に働く。つまり、勤続年数が高いほうが解決金、この要求補償金を高く要求をするということです。これが、結果ということでございます。

13ページは全体のまとめなのですが、ちょっと飛ばしていただいて14ページをごらんいただくと、金銭解決を求める人、求めない人の分析も追加的にやっておりますけれども、これは求める人に限った場合も先ほどとほぼ同じ結果が出ております。

13ページに戻っていただいて、少しこの分析のインプリケーションということを申し上げたいと思います。まず、先ほどいろいろ理論的、または実証的にもごらんいただいたように、多分解決金の決定においてはかなり多様な要因がある。これを、少し考慮すべきである。

 一方、この分析においても勤続年数に応じて解決金が上昇するということは非常にはっきりした影響というか、効果が出ているということです。これは労働者の希望というか、どれぐらい欲しいですかということを聞いた上でのアンケート調査でございますので、労働者の希望が反映されていると理解をしております。

 ただ、若干注意しなければいけないのは、例えば日本と欧州を比較すると、日本は40代以降も賃金がある程度上がっていく。一方、欧州の方は余り上がらない。それで、単純に勤続年数を考慮することがいいのかどうか。欧州と日本では特にシニオリティについての考え方が違いまして、日本は賃金に対するシニオリティ、欧米は基本的に雇用保護に対するシニオリティ、つまり勤続年数が短いほうから解雇されやすいという状況がございます。かなりその背景となっている制度が違うということです。

 それから、3点目に日本のように例えば生産性と賃金が乖離するような賃金体系ですと、ある程度定年に近くなってくると、あと何年で定年かというところも当然影響してくる。こういうことを考えると、(勤続年数と解決金の関係を)しゃくし定規に考えることがいいのかということは当然議論となると思います。

 それから、先ほど申し上げた自分がどれぐらい失業する可能性があるのかとか、雇用安定に対する希望、こうした個々の主観とか事情というところも少し考えていかなければいけない部分だろう。こういうことを考えると、大まかなルールと多分プラスアルファ個別事情を反映させるようなある程度の労使の取り決めとか、裁判官の裁量とか、これは今後の議論だと私は思っておりますけれども、この分析からやや類推できるような点ではなかろうかと思っております。

 私のほうは以上でございまして、本番の大竹先生の御説明をお願いしたいと思います。○大竹委員 多分、説明させていただいている間に修正版が入ってくるかと思いますけれども、その部分も含めて説明させていただきたいと思います。

 資料No.1-1をごらんください。1ページをめくっていただきますと、この分析で何をやったかということ、それからデータの概要について説明しております。今、配付されていますから新しいほうが手に入った方はそれを見ていただければと思いますけれども、ここで分析しますデータはこの委員会で最初の頃に議論したデータを使っております。労働政策研究・研修機構の「労働局あっせん、労働審判及び、裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」で用いられたデータをもう一度分析したということです。

 どのようなデータだったかというと、各事案について紙媒体の記録をこのJILPTの担当者が読み込んで、あらかじめ厚生労働省、裁判所との間で取り決められた変数項目について電子データとして入力したというものです。したがって、ここで得られる情報にはかなり限りがあります。

 データの具体的な特徴として、サンプルサイズとして何件のデータだったかということですけれども、まずあっせん事案につきましては2014年度に4労働局で受理した個別労働関係紛争事案、853件を対象にしています。

 しかし、ここで分析しましたのはその金銭解決が行われたあっせん事案に限っておりまして、それが313件です。

 続いて、労働審判の調停・審判事案については2014年に4地方裁判所で調停、または審判で終結した事案452件です。

 それから3つ目、民事訴訟の和解事案ということで、これも同じ4地方裁判所で和解で終結した労働関係民事訴訟事案193件という形になっています。

 分析の説明はこの順番ではなくて、労働審判のサンプルサイズが一番大きいので、それを最初に説明します。それから2番目にあっせん、最後に和解という順番になっています。

 新しく配付されたものがありましたらそちらを見ていただいて、次の3ページ目をごらんください。まず、全体の分析、主に労働審判の解決について分析しました。本来であれば、解決金の決定に重要な情報を含めるべきなのに入っていないものがあります。例えば前回の難波弁護士からの説明ですと、解決金決定で重要なのは、解雇の効力の確度、会社や労働者の経済状況、在職期間が大事であるというようなことを御指摘いただいていましたけれども、今回のデータでは確度というのはわかっていないですし、会社や労働者の経済状況もわかっていません。重要だと指摘されているもののうち主に在職年数ですね、勤続年数の効果がどのぐらいあるのかということを見ております。

 結論から申し上げますと、3ページの一番上で、正社員につきましては勤続年数が1年ふえるごとに解決金の月収倍率が0.3ぐらいになるだろうというのが全体の結論です。

 ただし、もう少し分析しますと、解決金月収倍率が大きいグループと小さいグループで全く違う結果になっている。勤続年数は同じであっても解決金月収倍率が小さいグループというのは、恐らく解雇効力の確度が相対的に高い。解雇有効の可能性が高いというように想定されるのですけれども、そういうグループでは実は勤続年数とは無関係に大体2.3か月ぐらいで解決金が決まっているというのが統計から得られる。

 一方、非常に勤続年数が長くなると解決金月収倍率が高くなるグループは、勤続年数が1年ふえるごとに0.84ずつ月収倍率が高まっていくということがわかったということです。

 これは3ページ目の3つ目の段落ですけれども、今まで解雇効力の確度が高い場合には大体2~3か月の解決金のみで労働審判が決まっている。一方、解雇効力の確度が十分低いということで解雇無効の可能性が高い場合には大きな金額になるという議論と統計的にも対応しているということがわかります。

 ただし、恐らくこの解決金の金額に大きな影響を与える解雇無効、有効の心証、あるいは年齢といった情報について直接データがありませんから、そういうグループがあるだろうということがわかっているだけです。それぞれの効果がどのぐらい大きいかということにつきましては、今回の分析ではわからない。恐らく今後データ収集する年齢、企業規模、退職金の有無、あるいは金額といったことの情報があったほうが、より正確な分析になるだろうと考えております。今のことが主に正社員の結果ですけれども、非正規労働者につきましてはある程度の説明力が得られます。もう少し詳しく申し上げます。これが、3ページ目です。

 4ページ目に移ります。もう少し具体的な分析結果についてお話ししようと思います。正社員について労働審判の解決金を平均で見ると、この2つ目の段落のところですけれども、正社員の平均だと解決金の月収倍率の説明力というのは17%ぐらいしかありません。ただ、その平均的な関係を見ると、解決金の月収倍率は5.5か月が平均で、勤続年数が1年延びるごとに0.33がつけ加わるというモデルになります。

 ところが、先ほど申し上げたとおり月収倍率が低いグループ、これは分位点回帰という方法を使っているのですけれども、下位のグループ10%というところで平均値を見てみると、解決金の月収倍率は勤続年数と無関係に大体2.3か月で決まってくる。先ほど申し上げたとおりです。

 一方、月収倍率が高いグループというのは、ここでの推定結果は同じく分位点回帰という手法の上位10%の水準で推計したものですが、それだと平均的にまず月収倍率が9か月分あって、その上に勤続年数が1年延びるごとに0.84ずつふえていくという形になっている。

 このように、非常に月収倍率が低いグループと高いグループで全く違う勤続年数との関係になっているということが推定された。これが、恐らく解雇効力の確度が低いグループと高いグループの違いをあらわしているのではないかと考えております。

 5ページ目に移りまして、非正規の人たちだけの分析結果ですと解決金の月収倍率は3.4か月と、それから勤続年数の0.2倍という形で増えていく形になっています。非正規のほうは、これだけのモデルで説明力が60%ぐらいということで高く、事案にはここで説明変数として取り上げた要因以外には余り大きなバラエティがないと考えております。

 それでは、もう少しデータについて簡単にお話ししようと思います。6ページ目は、労働審判のデータです。452というのが真ん中あたりにありますけれども、452件のデータを使っています。勤続年数の平均が5.5年という形で、解決金の平均が220万円、それから月給が34万円というデータになっています。それで、90%の人が役職なしという形です。それから、弁護士がついていたというのが9割、正規職員の方が8割というデータを使っています。

 それから、次の7ページ目をごらんください。労働審判の解決金を勤続年数別にあらわしたものです。この中で、medianというのが中央値で、meanと書いてあるのが平均ですけれども、どちらの数字も勤続年数が長くなるに従って解決金の月収倍率は上がっていくということで、median30年以上のところで少し違っていますけれども、大まかにそういう傾向があるということがわかるかと思います。

 8ページ目は正社員についての解決金の月収倍率の分布を示したものです。これは横軸に何か月というのをとっていますけれども、月収倍率が低い人たちから非常に月収倍率が高い人たちまで分布しているというのがわかるかと思います。

 一方、次のページですけれども、非正社員のほうは月収倍率の分布が10か月までのところにかなり固まっているということがわかるかと思います。

 そして、10ページ目に正社員に限っていますけれども、実際のデータを横軸に勤続年数、縦軸に解決金の月収倍率の分布をとっています。これを見ていただくと、かなり多様性があるということがわかるかと思います。したがって、これは平均で見ただけではだめだということはこのデータからも、このグラフからもわかるかと思います。

11ページ目にちょっとわかりにくい表が出ておりますけれども、まずこれは被説明変数に解決金の月収倍率をとっています。そして、一番左の列です。(1)というところに出ていますけれども、最小二乗法という推定方法を使って勤続年数の効果を見た。これが最初のほうに説明していただいた、勤続年数が1年ふえると0.3ずつふえていく。月収倍率が0.3ずつふえていくということの推定結果です。tenureと書いてあるところの係数が0.311というのを意味しております。

 それから、2列目に弁護士がついていたというケースを追加で説明変数に入れた場合ですけれども、弁護士がついている場合にはその解決金額が高くなるということがここからわかります。

 3列目から7列目にかけて、それぞれ10%とか25%というのがずっと書いてありますけれども、これが分位点回帰と言われている手法で、10%というのは解決金の月収倍率が説明変数の値が同じという条件で下から10%ぐらいの人たちを一つのグループだと考えている。これは、下からというのは勤続年数とか、正社員とか、ここで考えているような説明変数が与えられたときに、その同じグループの中で下から10%の人たちだという意味です。

 7列目のところに90%という数字がありますけれども、これが上位10%の人たちです。これを見ていただきますと、「*」印がついているのが統計的に意味があるとみなす係数であると読みまして、「*」印が多いほどその程度が強いというふうに読みます。例えば、7列目のtenureという勤続年数の効果というのは0.835になっています。このグループというのは、恐らく月収倍率が同じ条件のもとでも高いグループということになりますから、そういう人たちは勤続年数が長くなるに従って月収倍率も高いと読む表になっております。

 次の12ページですが、正社員についてだけまとめたものです。これも読み方は基本的には同じですが、正社員のデータだけを使った場合にはtenureのケース、勤続年数のケースが1列目の最小二乗法の場合は0.334、勤続年数が1年ふえると0.3ずつ月収倍率が増えていくという形になっていますし、2列目から6列目をずっと見ていただきますと、解決金の月収倍率の高いグループほど勤続年数の効果が大きいということがわかるかと思います。

 続いて、13ページをごらんください。13ページは、非正規についてまとめたものです。これを見ていただくと、表の読み方は今までと同じですけれども、解決金額の低いグループから高いグループにかけての係数の差が余りないということがわかるかと思います。大体0.2程度で、勤続年数が長くなるに従って0.2ずつ月収倍率がふえていくというのが非正規の特徴です。それで、説明力もある程度高いということがこの表から読み取れます。

 続いて14ページ、今度はあっせんの解決金のデータについて同様の分析をした結果をまとめております。あっせんの場合は、解決金なしの標本を除いて分析しています。その結果、まず第2段落に「基本モデル」と書いてありますけれども、最小二乗法の結果を用いたものです。この場合は、平均で見ると勤続年数が1年増えていくに従って0.08だけ増えていく。そして、定数項が1.49という形になっていますけれども、このあっせんの解決金につきましてもやはり下位10%と上位10%で違う傾向がある。それで、解決金が少ないグループにつきましては月給の解決金倍率は大体0.33ということで非常に低い形になっていますし、解決金額が多いグループは勤続年数と相関がある。まず2.95か月と、勤続年数1年当たり0.15ずつ増えていくというタイプのモデルになっています。

 サンプルはそれほど多くないので不安定なのかもしれませんけれども、後の表のほうで正規労働者よりも非正規労働者のほうが若干ですが、勤続年数の影響が大きいという結果が出ています。

15ページが記述統計をまとめています、平均は勤続年数4年くらいが多いですし、男性が54%ということです。解決金額は、平均で10万円ほどでしょうか。それから、月給が20万円というデータになっています。

16ページが、先ほどと同じように勤続年数と解決金の倍率ということです。サンプルがそれほど多くないので、ちょっと不安定な形が見られます。

17ページは、飛ばします。

18ページが、先ほど紹介したものの元の推計結果です。読み方は、労働審判制度の結果と同じものになります。1列目を見ていただくとtenure、勤続年数の効果が1年延びるごとに平均的には0.08ずつふえていくということがここからわかりますし、2列目から6列目を比較していただくと右にいくに従ってこの係数は大きくなっていくということもわかるかと思います。

 次の19ページは、今度は正規社員、正規労働者にだけ分析を絞ったものです。これだと少し係数は違いますけれども、似たような結果が出ているかと思います。

 それから、20ページはサンプルサイズが少し増えるので結果は安定しますけれども、非正規のほうの結果です。これも同じく、平均では0.098ずつ勤続年数とともに解決金の倍率が上がっていくのですが、金額が少ないグループと高いグループで全く効果が違うということがわかるかと思います。

 最後に21ページのところですけれども、和解のデータを使って同じように分析をした結果です。和解のほうは余り綺麗な結果は出なかったのですけれども、和解の解決金の月収倍率は勤続年数がふえていくに従って上がっていくのですが、20年くらいでピークとなってそれ以降は下がっていくという逆U字型のモデルが推定結果の中で一番説明力が高いという結果になっています。

 それを簡単にあらわしているのが、22ページです。勤続年数別の解決金月額賃金の倍率というものをあらわしていますけれども、どうも10年以上20年未満くらいのところで非常に高くなって、その後減っているということがわかります。

 ちょっと飛ばしまして24ページで最後になりますけれども、それを推定した結果ということです。今まで説明してきました一番ベースとなるモデルが1列目ですけれども、勤続年数だけの効果を見ると統計的に有意ではないのですが、勤続年数が二次関数になっているモデルだと、ある程度この和解の解決金の結果を表しているというのがこの2列目の結果です。それが、主な結果です。

 まとめてみますと、データそのもののサンプルサイズが大きいので、ある程度信頼できそうなものは労働審判制度の解決金の分析であろうと思います。その結果、今までこの委員会で議論されてきたこととある程度整合的だと思っています。どういうことかというと、1つは解雇が有効であるという確度が高そうだという心証が得られているようなものについては、勤続年数とは無関係に2~3か月という解決金が支払われている。それから、解雇が無効であるという可能性が高いグループについては、勤続年数が長くなるに従って解決金が高くなるという傾向が観察されるということです。

 ただし、最初に申し上げたとおり、恐らくほかにも年齢だとか、会社の経営状況であるとか、退職金制度がどうだという経営状況についての情報があればもう少し確度の高い分析はできるかと思いますけれども、統計的にも今までの議論と整合的な結果が得られたのではないかと思っています。平均的には、勤続年数が影響する。しかし、それは解雇の確度が高いグループと低いグループでかなり効果が違うというのが大まかな結論です。以上です。

○荒木座長 どうもありがとうございました。

 鶴委員、どうぞ。

○鶴委員 今の大竹先生のお話でほぼ御説明は尽きているのですけれども、私のほうから若干補足をさせていただきたい点がございます。

 今回の分析は世紀の大発見ということでは全然ありませんで、これをもとに例えば先ほど大竹先生が御説明した5.5か月プラス勤続年数に0.33を乗じた額を解決金と定めるというようなものを法律の条文に盛り込んでこの算定式とするということを、別に我々はもくろんでいるわけではないということを最初にまずお断りをしたいと思うんです。

 それで、1つは大竹先生の繰り返しになるのですけれども、ほかの要因というのをコントロールする。一定とすれば、私の御説明した分析もそうですし、この解決金の分析もそうなのですが、勤続年数というのが解決金の水準に有意に影響を与え得るという事実は割と明確になったのではなかろうかと思っております。

 ですから、余り算定式というのを機械的にやるべきではないからといって、勤続年数というのは余り関係ないのではないかとする議論というのは、私は余り科学的な議論ではないのかなということをまず最初に申し上げたいと思います。

 2番目の点として、これは大竹先生が御説明になったように、我々はこの分析をやって、これまでの検討会の議論、それからいろいろな海外の状況とか、そういうものも含めてかなりそれと整合的な姿になっているということを改めて感じております。

 1つは、やはりあっせん、労働審判、それから和解を分けてみると、この推計をやってもかなり結果が違う。この前の難波先生のお話を聞いていて、割と労働審判がルール化をしている部分というのは強いのかなと思います。ただ、和解というところはかなりいろいろなケースがあるというお話をしていたことと、今回のこういう結果も私は整合的だと思います。

 それから、例えば月収倍率に換算して勤続年数1年当たりにどれくらいの影響が出るのか。平均で0.3とか、非常に月収倍率の高いところは0.8とかという数字は出ていますけれども、これも例えばOECD諸国の英語圏の諸国というところを見ますと、大体0.3くらいです。それから、大陸ヨーロッパは0.8とか0.9です。また、世銀の調査などを見ますともっと広い国、高所得の国をとると0.40.5という数字もございます。

 こうした数字から決して懸け離れていない数字も出てきているということについて、それが確認できたということではないかということです。

 済みません。以上、補足させていただきました。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの御報告について質疑をお願いいたします。

 水口委員、どうぞ。

○水口委員 統計は大学も含めて全く勉強したことがないので、素人の質問をさせていただくことになると思いますが、御容赦ください。幾つも質問があるのですが、まず最初に3つお聞きしたいと思います。

10ページに労働審判正社員の散布図があり、tenureというのが勤続年数ということですが、この散布だけ見るとゼロというのが非常に多いのです。勤続年数ゼロのウエートが非常に多くて、これは勤続年数ゼロの労働審判の事件というと内定取り消しのことを意味するかと思うのですが、JILPTのもとになった報告書を読むと内定取り消し事件というのは7件とか10件くらいしかありません。勤続年数ゼロのときに勤続期間は0なのか、0.1なのかどのように計算するのかわかりませんけれども、なぜなのかというのが素朴な1つ目の質問です。

 2つ目の質問は、「説明力」という言葉で説明をされているところで、例えば4ページで「正社員の平均では変動の約17%の説明力」とあります。また、5ページで「非正規では…60%が説明可能」というのは、60%の説明力という意味なのだろうと思います。それを数値で示しているのが、例えば12ページの「労働審判解決件推定結果正社員」の一番下のR-squared、これは「決定係数」とか何とかと訳すのでしょうか、この「0.168」のことをおっしゃっているというふうに理解できます。

 しかし、17%程度しか説明できないということは、残りの83%は別の要因なのかもしれないということになるわけですから、「勤続年数が長くなるに従って、解決金の月収倍率は高まる」というのが果たしてどこまで説明的に、統計的にはわかりませんけれども、そんなに確度が高いものと言えるのだろうかというのが御説明いただきたい2つ目です。

 ついでに3番目で、24ページの訴訟の和解の解決金月収倍率推定結果ですが、訴訟のほうが一般的にいって、解雇の有効、無効の心証度が高いはずです。労働審判は前回の検討会で難波さんから説明があったようにラフジャッジングなものです。訴訟のほうが、じっくり解雇が有効か無効か、心証を固めます。

 ところが、24ページでいくとR-squaredというのが0.041、要するにほぼゼロですね。訴訟における勤続年数については全く説明力がないというのは、これは労働審判の結果と矛盾していることが出てきている。

 でも、訴訟と労働審判で全く解決金の判断のシステムがとられており、それが変わっているとは思えないにもかかわらず、こういう矛盾した結果をどのように分析されるのか。この点をお聞きしたい。以上、3つです。

○荒木座長 今の点、いかがでしょうか。

○大竹委員 まず、最初にゼロのサンプルが多いのではないかということですけれども、6ページ目の「労働審判記述統計」というところを見ていただきますと、勤続年数が一番上にあって、それの最小値が0.01という形になっていまして、ゼロという人は一応このデータからはいないです。ですから、数日間とか1か月という人たちが多いというのがグラフでゼロ近辺に存在するように見えたということだと思います。

 それから、2つ目に御指摘いただいた、私が使った説明力の意味というのは何かということです。水口委員がおっしゃったとおり、12ページの表でいいますとR-squaredと書いてある0.168のことを申し上げております。それで、これは決定係数と言われているもので、こういったここで使っているような説明変数で全体の変動をどのくらい説明できるのかという数字でして、17%程度というのがここでの答えになります。

 それから、ではこれで意味があるのかというと、まず平均的にはそれを説明する力があるというのが、勤続年数が1年上がったら0.334というのが統計的に有意である。ですから、無関係だという仮説が棄却されるということです 。

 それで、説明力が高いかどうかについては、それほど高くないということは申し上げたとおりなのですけれども、その理由が2列目から6列目までにあるとおり、解決金額のレベルによってかなりモデルが違うということです。ですから、解雇有効か、無効かの程度がここではデータとしてありませんから、その情報がないのでかなり説明力が低い。それを推測できるのは、低いグループと高いグループというのは恐らく解雇の有効の程度を示しているのだろう。それで見ると、違うモデルとして推計できます。

 解雇が恐らく無効だという人たちには、勤続年数に応じた解決金額が支払われているのだろう。それで、解雇がそもそも有効であれば解決金額はほとんど定額のものになっているのではないか。定額というか、解決金の月収倍率が一定のものになっているのではないかということをあらわしているということです。

 ですから、ここでそれらのグループの違いを無視した推定モデルの説明力が低いのはそういう意味では当然です。17%というのは、違うグループを一緒に推定しているから低く見えているだけです。しかし、だからといって勤続年数が解決金には影響を与えないのではなくて、平均的には勤続年数は効果があるということを示しているという意味です。

 それから、和解のほうの説明力がほとんどないのはどうしてかというのは、その理由はわかりません。違うメカニズムがどうも入っている可能性はあるということだと思います。恐らく労働審判で解決できなかった人たちがきているわけで、そういう大まかな枠組みに入らなかった人たちばかりのデータであるということが理由ではないかとは思います。

 ただし、ここも同じく解雇が有効であるか、無効であるかということの確証についてのデータがないということで、それが恐らく一番重要な変数になっているのだろうと思います。以上です。

○荒木座長 事務局からどうぞ。

○村山労働条件政策課長 事務局から、1点だけ補足させていただきます。

 今、水口先生の御質問の1点目の散布図の非常にゼロ近傍のサンプルが多く見えることについて、データ自体を御紹介したいと思います。JILPTの雇用紛争事案の比較分析のデータでございますが、労働審判について4つの裁判所からいただいたデータ452件の内訳を申し上げますと、1か月未満の勤続期間の方が17件、3.8%、1か月から6か月未満の方が69件、15.3%、6か月から1年未満が63件、13.9%ということです。

 そもそもこのグラフの軸を五等分くらいしていただくと、下5分の1、勤続期間1年未満のところに集中しているように見えますが、データ自体として見ましても3割を超えるところはそこに分布しているということで、先ほど大竹先生からもお話がございましたが、中央値、平均値、いずれで見ましても、あるいはまた最小値を見ましても、かなり下のほうに重心が寄っているということ自体はもともとデータの性格としてあるということは御報告を申し上げておきたいと思います。以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。

 では、高村委員どうぞ。

○高村委員 私もこうした分析については全く知識がないものですから、極めて初歩的な御質問をさせていただくかもしれません。先ほど今回の分析を通じて基本的には勤続年数が解決金の金額に大きく影響しているというお話がありましたが、10ページの散布図を拝見しますと、必ずしも勤続年数と解決金の月収倍率が連動しているようには見えず、かなり広範囲にばらけているというイメージを私は受けています。3ページに労働審判の解決金についての分析結果があるわけですが、こうした散布図からこの3ページにありますような結論を導き出した経過、過程ですが、どのようなことでこういう結論になったのかということについてお聞かせいただければと思います。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○大竹委員 まず10ページのグラフを見ていただくと、ばらつきがあるというのはよくわかるかと思います。

 それで、2つのことをやって、まず例えば12ページを見ていただきたいと思います。これは正社員についてだけ分析した結果なのですけれども、まずいろいろなグループに分かれていないということで、平均的に勤続年数と解決金の月収倍率の間にどんな関係があるのかを分析したのが1列目です。それだと、勤続年数が1年上がると0.3ずつふえていくということが平均的には言えます。

 ただし、先ほどの散布図を見ていただいたとおり、かなりばらつきがありますということ、それからおっしゃったとおり勤続年数とは無関係なグループもどうもありそうだということもわかります。

 それを統計的な手法で分析しているのが、2列目から6列目という形になります。それで、2列目はどうも勤続年数と余り関係なさそうなグループを一番あらわしているというふうにお考えいただいて結構ですけれども、解決金額が少ないグループで、勤続年数は同じであっても解決金額は少なくなるようなグループを統計的な解析をしたものが2列目です。

 そのグループは御指摘のとおり、勤続年数と解決金額の間には関係がない。ここにtenureの係数がマイナス0.030となっておりますけれども、「*」印がついていないということで、これは統計的には意味のない数字であるということにしていまして、この2列目の一番下のほうのConstantというところの2.253で「*」印が3つついている数字があります。これが、ほとんどこのグループはどうも解決金の月収倍率は2.2か月ぐらいで平均的には与えられているのではないか、決まっているのではないかというふうに推測しました。

 一方、6列目のほうですが、だんだん分位点回帰の分位点の数字が高い。つまり、解決金の月給倍率が高いグループの人たちをずっと推定して特性をあらわしたモデルは何かというのが6列目なのですけれども、そこは勤続年数の係数は0.843というふうに非常に高いということです。

 ですから、今までの議論にございましたとおり、勤続年数だけで決まっているわけではないと考えられます。もう一つ大事なのが、解雇の有効度というか、確証、心証がどのくらいあるのかということが大事だということを皆さんおっしゃっていましたけれども、それと対応した結果になっていると解釈しております。

○鶴委員 大竹先生のお話でほぼ尽きているのですけれども、10ページの散布図を見た場合に、普通であればもうちょっとこの点々が直線にちょっと並んでなっていないと、その関係が言えないのではないか。これは、もっともだと思うんです。

 ただ、こうやってばらついているというのは、勤続年数でもし解決金がそれだけでほとんど説明できるというような現実的な状況であれば多分そういう形になると思うんですけれども、こうやってばらついているのは勤続年数以外の要因も解決金に影響を与えている。それについては、我々が説明変数で使った要因以外も解雇の効力の確度というものが抜けておりますので、当然それも入っているからこそこれだけばらついている。

 ただ、そういう状況だからといって勤続年数自体が影響を与えているのか、与えていないのかというのは全く別問題なんですね。我々は統計的な処理をやるときに、それが影響を与えていない、影響としてはゼロであるかを問う場合、ゼロとは言えません、何らか影響を与えているということが、我々の分析の中からそれが確かめられているんです。

 だから、こういうふうにばらばらに見えてもいろいろな要因が影響しているからばらばらになっている。その中で、でも勤続年数を取り上げて考えるとその影響が全くないということを言えば、それはそうではないということなので、そこを御理解いただきたいのです。

R-squaredも、いろいろな変数を寄ってたかって全部でどれぐらい説明できるかというのがR-squaredの説明力というところなんです。それは、解雇の効力の確度という変数が多分入って、それからどれぐらい職場に帰りたくないだろうかとか、難波弁護士もおっしゃっていた、そういう要因ももし変数として利用できたら、多分説明力はかなり上がったものが皆様にお見せできたと思うんです。それがないがゆえに、説明力は小さくなっている。

 ただ、勤続年数がそれ自体影響を与えているのか、与えていないのかということについては、我々の分析では影響を与えていないとは言えません。それは何らかの影響を与えている。それもそれなりの大きさで与えていますよということははっきりしているので、この散布図、それからR-squaredで見た説明力ということと、個々の変数が影響を与えているかどうかということは別個に御理解をいただきたいと思います。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 斗内委員、どうぞ。

○斗内委員 ありがとうございます。こういった形で分析をいただき、大変、分析お疲れ様でございます。

 今の論議のところですが、例えば11ページで労働審判の全ての集計をしているところで今、御説明がありましたように、例えば(1)で勤続年数のところが0.311で、「*」が3つついているところがいわゆる有意差が確認できるというふうに読み取りをさせていただいて、ただし、その相関係数といいますか、決定係数Rの二乗、R-squared0.196だというふうにお読み取りをさせていただきました。その意味で申し上げますとこの次のところにあるmale、いわゆる男女差でいうと、例えば男性のほうがマイナス1.280というのは女性に比べて男性の解決金の方が低いというふうに読み取れます。「*」が2つあり、有意差がある程度確認ができるということなのかと読み込ませていただいております。

 その行を横に見ていっても、金銭解決の金額が高いところでもずっと男性についてマイナスが続いているんですね。このことをどう理解をすべきなのかというところが1つと、もう一つはポジションのところで、いわゆる役職が低いところ、例えばレギュラーのところで「*」が3つ、d_position2のところでやはり「*」が3つ出ているということからすると、いわゆる役職が低いほうが月数換算で高い解決金を獲得しているとお読み取りさせていただければよろしいのかということをまずお伺いしたいと思います。

○大竹委員 まず、男性のほうが月収倍率が低くなっている。これはそのとおりなんですけれども、金額が低くなっているわけではないので、恐らく平均的には賃金は男性のほうがこのサンプルの中では高くて、金額自体は男性のほうが高いんじゃないかとは思うんですけれども、月収倍率という数字にしたときにはそれが若干、最低限の確保とか、そういうのがあるのかもしれないですが、そこでこの係数がマイナスになっている可能性があるとは思っています。ただ、なぜそうなっているのかはよくわかりません。

 それから2つ目、ポジションで私はちゃんと説明しなかったんですけれども、d_position2という変数ですね。これは何かというと、係長なんです。役職なしの人に比べて係長の人の月収倍率がすごく高くなっているという結果なのですけれども、これも恐らくサンプルのほとんどは役職なしで、90%が役職なしなんです。それで、恐らくすごくサンプルが少ない事例の中で、たまたま係長のサンプルにそういう人たちが多かったのではないかと予想しています。ただ、それ以上のことはこのデータからはわからないです。

 ですから、余り申し上げなかったのはそこで、理由が恐らくそんなに多くないことから引っ張ってきているのか。係長で解雇事案になる人に特性が何かあるのかということについては、ちょっと私はわからないです。データを分析したらたまたまこうなったということで、それが何か定性的に必ずこういう関係があると言い切れるほどの情報は今、持っておりません。

○荒木座長 事務局からどうぞ。

○村山労働条件政策課長 斗内委員から大変重要な御指摘があり、大竹先生のお答えがございましたが、1点目のところで事実関係にかかわる点について補足させていただきます。

 先ほどと同じように、JILPTの雇用紛争事案の比較分析では、労働審判における解決金の額ですけれども、平均で見まして男性が253万円余、女性は170万円余ということで、金額は男性のほうが高いということです。

 それで、ここで分析の対象になっていますのは、金額が月収に対する何か月分かという割り算になっております。これについて、JILPTのオリジナルデータを分析した調査報告書にも、その関連の記述がございますので、ちょっと読み上げさせていただきます。

 「性別、賃金月額の格差によるものではあるが、解決金額を賃金月額の何か月分というふうに決めているとすれば、その限りで女性のほうが高目に解決されているということでもあり得る」ということで、ある意味、大竹先生の分析の仮説になっている部分も含めてかもしれませんけれども、月収に対する比率ということについての何か相場的なものが意識されているということがあれば、それが勘案されているのではないかということもうかがわれないでもないという旨は、JILPTの報告書にも書かれているということです。

 だからといって、それ以上の分析がこの報告にあるわけでもないということもあわせて申し上げておきたいと思います。以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。

 どうぞ、斗内委員。

○斗内委員 ありがとうございます。前にも御発言をさせていただいたのですが、私は労働審判員をやっていまして、先ほど来出ていますように、やはりいろいろな要素をケースバイケースで判断をさせていただきながら解決のあっせんといいますか、調整をやらせていただいているというところの結果がまさにこれは出ているのではないかという気がしております。

 今もありましたように、統計的な分析の結果でいうと、男性と女性を比べて男性のほうがマイナスに出るということはこの表では読み取れるのですが、実際に私たちが労働審判のときに、男性だから、女性だからという判断をすることはまずありません。

 それからもう一つは、そういう意味でいうと月収で割り返すという換算のベースもそれほど大きく念頭に置いていないということからすると、月収で割り返すということの意味合いがどれぐらいあるかというのはなかなか難しいところがあるのではないかと思っております。

 さらに言いますと、この解決金には、会社の退職金規定で計算した場合は幾らか、しかし今回はそのまま退職金規定を適用するのではなく、それ以外の様々な要素を加味して、例えば解決金という名称ですべて含めて解決しているというところも多々ありますので、いろいろな要素が混在しているということからすると、やはりこの分析の結果にそのような関係が表されているのではないかなという気がしております。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 どうぞ、石井委員。

○石井委員 基本的な質問で恐縮ですが、非正規の部分では雇止めも入っているのではないかと思うのですが、その点の確認と、仮に雇止めが入っているとすると、勤続年数が影響するのは、雇止めが有効なのかどうかという点に大きくかかわってまいりますので、ある程度そういう結果になるだろうという実感があるわけですが、それを混ぜてしまうのはやはり解雇の解決金に関する分析としてはどうなんだろうかという気がします。この点、どういう扱いになっているかを確認させていただきたいと思います。

○荒木座長 ありがとうございます。いかがでしょうか。

○大竹委員 雇止めは入っていますが、識別できればまた分析してもいいと思うんですけれども、ここで申し上げたかったのはそれを無視したとして、それは入れていないのですが、説明力がかなり高いということは非正規労働者の場合は言える。かなり安定した分位点別でもそれほど大きな係数の差がないという特徴があって、正規労働者に比べるとある程度、定型的に決まっている部分が大きいのではないかというのが分析した印象になっております。

 済みません。ちゃんとした答えになっていないかもしれません。

○荒木座長 よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。

 中村委員、どうぞ。

○中村委員 鶴さんに1つと、大竹さんと鶴さんにもう一つです。

 鶴さんの解雇に対する対応のアンケートの説明変数に、離職経験とか、離職回数とか、解雇された経験とか、そういうものが入っていたかどうか。入っていないと、これは経験したものがないことが他人事で答えているので、その答えを一生懸命集計してもかなり現実とは違ってくるんじゃないかというふうに聞いていて思って、それはどうかということです。

 もう一つは、鶴さんも大竹さんもすごくバリアを張って、わずかここしかやっていないんですよと言っているのですけれども、私がこれを見たときにインプリケーションは何なんだろうと思ったんです。個人的にでなく、この分析から私だったらこういうインプリケーションを出すかなと思ったのは、1番目は解雇予告手当は1か月じゃなくて2.3か月ぐらいにしていい。つまり、解雇が有効である労働者には2.3か月出しているので、2.3か月出してもいいということです。

 2点目は、解雇が不当で、かつ労働者が復帰したくないというようなケースでは、ガイドラインとして9.1足す0.84掛ける勤続年数というのを関係者に知らせたいというインプリケーションか。

 あるいは3番目、もっと突っ込んで解雇が不当であっても解雇をする権利を、使用者は9.1足す0.84掛ける勤続年数を払えば得られるということを言っているのか。また、別のインプリケーションがあるのか。それを教えていただきたい。

○鶴委員 では、最初に私の先ほどのアンケート調査に関する御質問にお答えしたいと思うんですけれども、それは全く御指摘どおりだと思うんです。そういう経験をしたことのない者が、どれぐらい金額をもらっていいのかはなかなかわからないだろう。確かにそれは御指摘のとおりだし、過去に例えばどういう経験をされているかはこのアンケートでも聞いているんですが、なかなか解雇とか、そういうところまできちんとこの分析に反映できるほどの情報は多分なかったというふうに私も理解します。

 ただ、そういうふうに言ってしまうと、全く分析というのがこのテーマというのは非常にできなくて、これまでもほとんどこのテーマで実証的な分析というのはなかったんですね。それで、確かにそこは仮想的な質問で皆、勝手なことを答えているかもしれない。

 ただ、私がちょっと申し上げたいのは、分析したいろいろデータの中身を見ていったり、分析した結果を見ていくと、それほどおかしな結果にはなっていないということが、一方で実感としてあります。もともと仮想的な質問をして、それで何が役に立つのかというのは本当にそのとおりだと私も思うんですけれども、それでも分析をして十分留保をつけながらどこまで我々の肌合いというか、感覚的に合ったような結果が出てきているのか、出てきていないのか。その辺を見るというのが、こういう分析をやっていく非常に大きな意味じゃないかと私は思っておりますので、御批判は御批判ということで私も十分理解をしておりますし、重要な御指摘だと思います。

○大竹委員 中村委員がおっしゃった解釈の方法は、一つの解釈だと思っております。

 ただし、幾つか大事なところで、これは私たちの解釈の一つである。だから、わかっていることは、平均的には例えば勤続年数が0.3ずつふえていくとか、下のグループでは勤続年数とは無関係で、上のグループは0.8ずつふえていくとかということがわかっていることと、それから今までの議論の中で解雇が有効であるという確度が高い人と低い人は大体こうなっていますよという議論とは対応しているということまでわかっている。

 ただ、それぞれのケースについてこれは有効だった、無効だったということについては確度という情報はもらっていませんので、この結果をもとにすぐにこのガイドラインでやるべきだということは申し上げていないということです。一つの解釈は、中村委員がおっしゃったとおりだと思っています。

 ただ、先ほど斗内委員からも御指摘がありましたとおり、このモデルがベストかどうかというのは別の問題で、今までの議論で解決金の月収倍率を基準にしているという発言が多かった。それで、このモデルを使っています。実はほかにもモデルはいろいろやっていて、対数賃金で対数解決金という形の説明のモデルでやったほうが実は説明力は高いです。

 ただ、現場のほうが月収倍率でやっているということなので、このモデルをきょうは提示して、それで大体こういうことが言えるんじゃないかというお話をした形です。

 ただ、定性的にはどういうモデルを使っても下のほうのグループと上のほうのグループで、勤続年数が影響するグループとそうでないグループに別れるということは余り変わらないということですね。

 中村委員がおっしゃったとおり、非常に大事な変数というのがわかっていたらガイドラインのところにもう少し正確に言える形になるかもしれません。それから、退職金の情報というのも実際には使われているということであれば、そのデータがわかればこういう手法である程度説明力が高いモデルは推定できるだろうとは思いましたが、残念ながら得られている情報がここで使われているようなものしかないというところで、どこまでできるかということをやってみたというのが今回の御報告になります。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 補足ですけれども、10ページのグラフを見て、これでは何も関係ないんじゃないかという疑問が挙げられています。仮にこの分析が単相関、つまり説明変数が1つしかないものであれば、まさにこのグラフで見るのと大差ない結果が出てくるはずです。

 だけど、実際は大竹、鶴先生の分析は多重回帰分析といいまして複数の説明変数があるわけで、1つの説明変数ごとに1つのグラフが書ける。だから、それを全部投影した結果がこの結果です。仮に他の条件を一定にして勤続年数だけで説明することができるかどうかを示すのが勤続年数の係数の有意性です。これが十分に大きいということは、勤続年数とかなりの関係があると言うことができます。それは経済学というより、統計学で一般に使われている手法であるということです。

 それから、より大事なのは中村委員がおっしゃったインプリケーションで、つまりこの分析だけで一つの水準を決めるというのは確かに乱暴ですけれども、ただ、ある程度の範囲は示せるんじゃないか。先ほど斗内委員から、現場ではいろいろなことを考慮してもう既に決めているんだということですが、その相場感が果たしてほかの裁判所、ほかのケースと比べてかけ離れたものであるかどうかは今までは分析できなかったわけです。

 ですから、こういう分析はそういう一種の相場観を示す一つのデータであって、もちろんこの分析からかなり乖離した決定があってもいいわけですが、その場合はなぜ乖離しているか。例えば、どれだけ使用者側か労働者側に問題があるからこんなに乖離しているんだということを説明する必要がある。そういう相場観を示すためには、私は非常に有用な分析ではないかと思います。

 ですから、これまでは裁判官の心証で決めるのは当然とされてきたのですが、その心証の中身を統計的に分析し、裁判官にある程度の説明を求めるための手段となるというふうに私は理解しております。以上です。

○荒木座長 水口委員、どうぞ。

○水口委員 済みません。2度目の質問をお許しください。

 このJILPTの報告書を読むと、解決期間について触れられているところがありました。しかし、大竹先生、鶴先生の資料1-1のほうには解決期間については記載がありません。JILPTの報告書では、解決期間によってその解決金額にはそう差がないというようなことがたしか書かれていたと思うのですが、ただし、それは解雇の有効、無効ごっちゃにすればそうかもしれないけれども、解雇が有効な場合のグループ、解雇が無効の場合のグループとに分けた場合、やはり解決期間が何らかの影響を与えるんじゃないかと思います。

 実務的に言えば、訴訟で解雇が無効の場合には、バックペイプラス解決金幾らと考えますから、解決期間のデータ分析をもしされていたのであれば、教えていただきたい。解決期間との関係ですね。それは検討していないというのであれば、それで結構です。

 2点目は意見にわたるのかもしれませんが、私は統計には全く素人ですが、労働審判の場合にはおっしゃるような形で分析結果が出た。しかし、訴訟の和解については、その説明力は0.041、多分これは統計的にいうとゼロと言ってもいいぐらいの低い数字が出たときに、果たして鶴先生がおっしゃったように「5.50.33*勤続年数」というようなものが少なくとも訴訟の中では確立していない。本件の検討会では、裁判で解雇を無効か決めてどうしようかという訴訟の場面を検討しているなか、労働審判では先ほどの説明ができたとしても訴訟では説明できないときに、勤続年数をそれほど重視することができるだろうかというのが私の素人の素朴な疑問です。

 御苦労されて出されたものでいくと、必ずしも勤続年数では説明できないということに少なくとも訴訟についてはなっているんじゃないかと思っているので、この点、また私の考え違いということであれば御説明いただければと思います。

○荒木座長 いかがでしょうか。

 では、大竹委員どうぞ。

○大竹委員 最初の解決機関については、多分推定の中ではいろいろやっていたような記憶があるのですけれども、今は覚えていないです。また確認させていただきたいと思います。

 それから和解のほうですけれども、和解の分析で勤続年数が影響ないのではないかというのは間違いです。例えば24ページの細かい表で申しわけないですけれども、(2)というところは説明力は0.067ですが、何度か申し上げているとおり、これはほかの要因がいっぱいあってこの変数で説明できるのは6~7%というだけで、勤続年数に効果があるのか、ないのかというのであれば、これは2次関数の形になっていますけれども、勤続20年ぐらいまでは増えていって、それ以降は減っていくという関数の決定が影響しているんだと解釈する。

 したがって、問題は勤続年数だけで決まっているんですかと言われたら、そうじゃないです。でも、勤続年数は影響していませんかと言われたら、それは影響していますというのがこの推定結果の意味することです。

○荒木座長 ほかにいかがでしょうか。

 村上委員、どうぞ。

○村上委員 何点かございますが、まず1点目は御質問ということではなくてデータの制約かもしれませんけれども、先ほど村山課長からJILPTの雇用紛争事案の比較分析のデータの勤続年数についての御説明がありました。それで、実感としてそれは私だけかもしれませんけれども、労働審判にくる事件の中で4割近くが勤続年数1年未満の事件で、1か月から6か月未満の方が15.3%とか、労働審判全体の傾向とこのデータの傾向が合っているのかどうかというところは少し確認をしたほうがよいかと思いました。これは、御質問ではありません。

 それから2つ目ですが、鶴先生、大竹先生からもデータを分析してみると勤続年数が何か関係はしているようだという御説明でしたけれども、では、どのようなメカニズムでどのようにして勤続年数がどんな影響を与えているのかというところは、どのように考えればいいのかということです。先ほど斗内委員からもありましたけれども、勤続年数も要素の一つであるということをおっしゃっている方はいらっしゃいましたが、勤続年数は決定的な要素ではないということを私は自分の経験から申し上げてきたつもりでしたので、どのように影響していくのかということを少し御説明いただけないかと思います。

 それから3点目で、斗内委員の質問との関係なのですが、男性、女性の話で、女性の事件ではもしかしたらセクハラですとか、そういった悪質な解雇の事件が多いことも影響しているかもしれないと思います。解雇が有効か無効かというだけではなくて、無効であってもどのような解雇なのか、労働者にも落ち度があったのか、落ち度はなかったのかということもかなり影響していて、そういうことがその男女のデータの違いに反映している要因の一つではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか。

○荒木座長 いかがですか。

○大竹委員 村上委員がおっしゃっていることと、私たちの推定結果は矛盾しないと思っております。ですから、この勤続年数が与える効果というのはグループ別に随分違うというのが1つです。平均だと、大体勤続年数は長い人のほうが解決金倍率は高い。

 ただし、そういう関係がある人と、そうでない人がいるということです。そうでない人というのは、ここまでの議論から推測できることは、解雇が有効だった場合には有効だという心証を審判員の方が判断された場合には、恐らく勤続年数とは無関係に2~3か月の解決金倍率というのが出されていて、解雇が無効であるという心証を皆さんお持ちのときには勤続年数がかなり影響しているんだろうというのが私たちの解釈です。

 それ以上、どうしてそうなるのかというのは理屈はいろいろあるかもしれませんけれども、そこについては今回データ分析しただけなので、それはむしろ審判員をなさっている方がどういうケースでカウントされているのかということをこちらからお聞きしたほうがいいかと思います。

 それから、2番目の男女の差も、恐らくここでは判断できなかったように、女性のほうがひょっとすると解雇が無効であるという判断のケースが多いのかもしれませんけれども、そこも基本的には私たちの分析では審判員の方々の心証についての情報がないので推測にすぎない。だから、村上委員のほうがより豊富な情報をお持ちだということで、そういう解釈もあるかと私は思います。以上です。

○荒木座長 どうぞ。

○鶴委員 補足ですけれども、勤続年数がなぜ解決金に影響するのか。多分、ヨーロッパのほうで明確に解決金と勤続年数の関係が非常にしっかりしているのは、先ほど申し上げたようにシニオリティの関係で雇用保護は勤続年数が長いほど高いということが非常に確立されていると、明らかにそれが影響していると思います。

 日本の場合は必ずしもそうじゃないのでどう考えるのかということで、私は先ほど御紹介した論文の中で一つ考えるのは、企業の特殊な投資というものを何年も企業にいることによってやってきた。解雇されたら、それがもう使いものにならない。そうすると、それに対しての何らかの補償ということを考えたときに、勤続年数が影響し得る場面があるんじゃないか。

 それから、ラジアー型の賃金というのが日本の場合にある程度当てはまるのであれば、若いときは相対的に低い賃金という可能性があるわけですね。勤続20年ぐらいまでにそれをやめてしまえば、取り返さなければいけない。だからこそ月収換算では伸びていくんですけれども、だんだん定年に近づいて、今度は逆により高い賃金をもらうとなればその影響は変わってくるということも考え得るかもしれない。

 ただ、これは今、私が申し上げたある種の理論的な仮説ということなので、日本の場合になぜそれが影響を与えるのか。先ほど大竹先生がおっしゃったように、逆に実務の方々からこういう点を重視しているんですよというお話があれば、またそれもお聞かせ願いたいと思います。以上です。

○荒木座長 それでは、時間もありますので最後に輪島委員からお願いします。

○輪島委員 ありがとうございます。大竹先生、鶴先生に大変努力をいただきまして、この調査結果を多としたいと思っております。

 その点で少し補足的にお伺いしたいのですけれども、解雇の金銭解決というステージで労使ともに予見可能性としてどういうふうに分析することができるのかというのが当初の目的だと私は理解をしております。その際、例えば私が50歳で、正社員で、勤続年数が30年で、月給が40万でという条件のときに解雇された場合、どれぐらいになるのかというようなことを、予見可能性が高まるという意味で分析的に結果が出るのかどうかというところに関心があったわけです。いろいろご報告を伺うと、例えばずっと当初から各委員から話があるように勝ち筋なのか、負け筋なのかというのが多分、前提として非常に大きくて、その後にいろいろな要因でなるというようなことからすると、今日の分析での予見可能性というところはかなり低いのではないかと思います。

 それでお聞きしたいんですけれども、さらに分析を進めるとおっしゃったようないろいろな前後の要因をもう少しやってみるとわかるのかどうか。それから、一番大事な労働審判という意味ではそういう話になるのかどうかわかりませんが、実際には訴訟のところなので、そういうようなところでの分析が本当に可能なのかどうかというところを教えていただきたいです。

○荒木座長 いかがでしょうか。

○鶴委員 非常に難しい御質問だと思うんですね。これ以上、さらに分析の精度を高めるというのは、先ほども何回も申し上げているように解雇効力の確度というところがやはり情報としてわからないということがありますので、これ以上より精緻化するというのはやはり難しいのかなというふうに思います。

 逆に、我々は分位分析もやっているので、ではその確度というものがもしわかったときにどういう分析になるのだろうかということを考えた場合に出てくるような結果が、きょう幾つかパターンとしてお示ししたものと非常に大きく外れるということになると、案外そうでもなさそうな感じがするわけですね。

 そうすると、大体勤続年数の影響力というのはどれぐらいのところで考えられているのかといったようなこととか、大まかに見て大体これぐらいの解雇の効力について、これぐらいの期間の月収ベースの金額が適当ではないか。これは難波先生の御議論もありましたし、そういうところである程度これまでいろいろこの検討会で出てきたような議論とか数字というところに、大体のメルクマールみたいなものというのはある程度あるんじゃないか。

 これは、我々の分析だけでそういうことを申し上げているつもりは全然なくて、皆様がこれまでいろいろ御議論していただきながら、また御報告いただいた先生方、また海外の状況ですね。

 そういうふうに私は思っておりますので、基本的にこれが確実だというものはなかなか難しいし、それはないんですけれども、これまでにいろいろ出てきた情報を組み合わせながら議論していくということは十分可能ではないか。もちろん、十分解釈というのは注意、留意しながらということは前提だと思いますけれども、なかなか答えにならなくて申しわけないです。

○荒木座長 どうぞ。

○大竹委員 鶴委員がおっしゃったとおりなんです。予見可能性というところだと、今回の分析結果は、私達の解釈はこの委員会での今までの議論と矛盾はしていないだろうということなんですね。大まかに解雇が有効だというように多くの方が心証を持たれた場合は2~3か月となっていますし、そうでない場合には勤続年数を考慮しているというような議論と整合的な結果が得られている。そのときに、平均で見ると大体勤続年数何か月分当たりに相当する。勤続年数がふえるとどういうふうになっていくかということも出てきた。

 では、これ以上正確性、または予測可能性を高められるかということについては、現在得られている情報、だから裁判所と厚生労働省とJILPTがこのデータ、これだけの変数については取っていいですよというもとでやっていますから、それだと無理だということです。

 今後それがもう少しいろいろな変数について、データとして使うことができれば、精度を高めることができますし、あるいは労働審判のときに最低限こういう情報を集めるということをルール化していただければ、より予見可能性が高くなるような分析はできるようになると思っています。

 ですから、私はデータさえあればもちろんもう少し多くなるだろうと思いますけれども、今すぐできるかというと、それはできないということです。

○荒木座長 ありがとうございました。

 それでは時間もありますので、一旦この最初の議題については以上ということにしたいと思います。大竹委員、鶴委員、大変御苦労様でした。

 それでは、ここで10分ほど休憩をとりまして、2時45分から再開をしたいと思います。

 

(午後2時35分休憩)

(午後2時45分再開)

 

○荒木座長 それでは、再開したいと思います。

 第2の議題ですけれども、事務局から「解雇を不法行為と構成する損害賠償請求に係る裁判例について」の御説明をお願いします。

○村山労働条件政策課長 資料のNo.2をごらんください。

 近年の解雇をめぐる裁判におきまして、解雇された労働者の方が従業員としての地位確認を求めるとともに賃金請求をするという訴えではなくて、使用者の不法行為による逸失利益として、恐らくは一定期間得られたであろう賃金額等を請求するというようなことが認められているのではないかという御指摘がございました。

 この点について、前回の本検討会におきまして、平成14年から19年の間に東京地裁の労働部で裁判官をお務めでいらした先生から、「解雇された労働者の方が会社には戻りたくないが次の仕事を探すのに苦労をしたことや、不当な解雇で精神的に苦しんだことに対し、逸失利益や慰謝料を支払ってほしいと求める訴えが私のころからぼつぼつ出てきました」という御説明がございました。

 この御説明を受けて委員から、事務局で裁判例を一度整理して本検討会に御紹介するようにという御提起があり、座長からも取り組むようにという御指示をいただきましたので、まとめたものが資料No.2でございます。

 挙げている裁判例は、裁判例データベースで解雇、不法行為、逸失利益、損害賠償等の関連する用語でキーワード検索して収集したものに、さらに代表的な労働法の教科書に掲載されているものなどを補強して時系列にまとめた上で、幾つかの視点で少し分類をしているものでございます。

 個別の御紹介に入ります前に、御留意いただきたい点が1点ございます。第1回の検討会でも司法統計の資料に即して御説明しましたとおり、我が国では年間1,000件ぐらいの解雇訴訟が提起されているわけでございますけれども、今日でもその大部分が地位確認請求と賃金請求、さらに精神的な損害に対する慰謝を求めるという内容が乗せられているものもございますが、その基本は地位確認請求訴訟であることは何ら変わっているわけではございませんが、この資料の2番でいっております損害賠償請求というのは主として逸失利益の損害賠償のほうに焦点を当てています。したがって、我が国の解雇訴訟全体の中ではかなり限られたケースではあるけれども、前回のヒアリングの中でぼつぼつ出てきているという御紹介があったものについてまとめたものということでごらんいただければと思います。

 まず、その分類を色分けでしております。一番上に分類色、緑色のものがございます。<不法行為の要件のうち、逸失利益が認められないとした裁判例>ということでございます。すべてを個別に御説明している時間がないので、典型的なものということで6ページをお開きいただきたいと思います。

 「中央タクシー事件」の懲戒処分事件に関します長崎地裁の判決でございますけれども、「財産的損害(逸失利益)」という真ん中右側を御覧下さい。「本件懲戒処分は無効である。そうすると、原告Aが就労できないのは被告の責めに帰すべき事由によるものであるから、同原告は民法536条2項本文によって賃金請求権を失わない。したがって、同原告は、本件諭旨解雇処分によって、賃金相当額の損害を被ったとはいえない」ということで、民法536条2項の規定によって反対請求権があるのだから不法行為による損害賠償は請求できないとして、下のほうで「賃金相当額の損害を被ったとはいえない」と判示し、損害賠償を認めていないものでございますが、緑色の裁判例は基本的にこういった構成をとっているという訳です。

 関連で、ページが戻って恐縮ですが、4ページ目をお開きいただきたいと思います。労働法の教科書でもよく取り上げられる、「わいわいランド事件」の一審の裁判例でございます。今と同じようなロジックが「財産的損害(逸失利益)」のところで展開された上で、さらに(中略)の後でございますけれども、「原告Aは、1年間の賃金相当額を逸失利益として請求するが、復職を望まないとの理由で解雇の無効を主張をしないことは、自らの意思によって雇用関係の解消をもたらすものであり、結局のところ、自ら退職する場合と同様である。従って、将来の賃金が逸失利益となることはない」ということで、自らの意思によって雇用関係を解消する点で辞職するのと同等だと判示しているものでございます。

 この緑色の裁判例について、精神的な苦痛への慰謝に関しましては諸般の事情を総合的に考慮して、認める事例もあれば、認めない事例もあるということでございます。

 1ページに戻っていただきまして、大体その判決が出た時期を見ていただきますと、この緑色の裁判例は平成10年代前半までにここに掲載しているもの以外にも多々あったわけですけれども、その後、平成10年代の後半以降になりますとさまざまな類型の解雇に関しまして、不法行為により逸失利益に基づく損害賠償請求は認められるという事例も増加しているところでございます。

 これをさらに2つに色分けしております。このうち、真ん中のクリーム色の分類につきましては「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を特に区別していない裁判例でございます。

 それから、真ん中の下あたりの水色の裁判例でございますが、これは「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を区別して逸失利益を判断している裁判例ということでございます。

 クリーム色のものにつきまして、ある程度こうした裁判例が安定的に出るようになった時期以降のものを幾つかごらんいただくという意味で、9ページをお開きいただきたいと思います。

 9ページでございますが、2つ裁判例が載っております。上が「S社(派遣添乗員)事件」、東京地裁の判決でございます。先ほど申しましたように、請求内容のところを見ていただきますと地位確認請求は行っておらず、不法行為に基づく損害賠償を行っているというものでございます。

 それで、クリーム色に分類している理由ですが、「解雇の効力、不法行為該当性」というところを見ていただきますと、「本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当なものとは認められないから、権利の濫用として無効かつ違法であるといわざるを得ず」の後に、「原告に対する不法行為を構成する」ということで、権利の濫用で無効だと判示し、直ちに不法行為を構成すると判示し、あとは財産的な損害、逸失利益に関する検討に入っているというような裁判例でございます。

 その下、「O法律事務所事件」、名古屋高裁の判決でございます。平成17年のものですが、これも真ん中の「解雇の効力、不法行為該当性」のところを見ていただきますと、「控訴人の主張する本件解雇の理由は、合理的なものということはできず、したがって、これを合理的なものと誤信し、漫然と本件解雇を行った被控訴人の行為は、不法行為に該当するというべきである」と判示しております。

 その後、10ページの「フリービット事件」も「解雇権濫用の法理に照らして無効であり」の後で、そのまま今度は「財産的損害(逸失利益)」の検証がなされるべきであるといって具体的な内容に入っていくということでございます。

 さらに11ページの「インフォーマッテック事件」、その下の「日鯨商事事件」、いずれも同じような流れになっておりまして、解雇権濫用法理に照らして解雇無効とした上で不法行為に該当するということをいっておりますが、解雇無効の判断を行った上で特段の説示はなく不法行為に該当する旨を判断されているという流れが、その後もクリーム色の裁判例では続いているということでございます。

 一方、1ページ目で水色に区分しているものがどのような構成になっているかということでございます。初めのものは8ページ目の「静岡第一テレビ事件」、静岡地方裁判所の平成17年の裁判例でございますが、これは概要の「※」印のところにありますように、別件訴訟におきまして既に地位確認請求、それから復職までの賃金等の支払いを命じた判決がなされた上で、現職復帰とか未払い賃金等の支払いが事実関係としてなされた後に慰謝料の請求がなされたということで、ほかの事例とやや性格は違う面はありますが、解雇無効の判断と不法行為の該当性の判断ということについて考察をされているという意味で引かせているものでございます。

 「解雇の効力、不法行為該当性」のところで、「権利濫用の法理は、その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではない」とした上で、太字下線のところにございますように「懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては、個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである」とし、具体的に懲戒解雇に関してどのような場合に不法行為に該当するのかということについて判断の枠組みを1、2、3、これは原文には番号はなく便宜に振ったものでございますが、そこに書いてあるような枠組が判示されているというものでございます。

 具体的には、「1懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら、あえて懲戒解雇をしたような場合」でありますとか、「2通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇をすべき事由のないことが容易に判明したのに、杜撰な調査、弁明の不聴取等によって非違事実を誤認し、その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合」でありますとか、あるいは「3上記のような使用者の裁量を考慮してもなお、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する」。こういった必要があり、そのような事実関係が認められて初めて、その懲戒解雇の効力が否定されるだけではなくて、不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるとしまして、そこで事実認定して上で、本件に関しては被告にそこまでの過失を認めることはできないとした裁判例でございます。

 同じようなものとしましては12ページの「レイズ事件」、これは整理解雇として解雇されたけれども、訴訟では懲戒解雇と被告が主張したというような事例でございまして、そこでも独自な考察がなされているということでございます。内容は、割愛させていただきます。

13ページ目が「三枝商事事件」、平成23年の東京地方裁判所の裁判例でございます。事件の種類としては普通解雇事案ということで、これも請求内容としては不法行為に基づく損害賠償請求のみ、逸失利益と慰謝料が請求されているものということでございます。

 この裁判例では、権利利益侵害と故意過失の部分について民法709条の枠組みを意識してそれぞれ検討したものでございます。権利利益侵害のところですが、1の真ん中あたりのところで、労働契約法の16条に違反したとしても「そのことから直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず、当該解雇が民法709条に「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当するためには、労契法16条に違反するだけでなく、「その趣旨・目的・手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当」とした上で、今件解雇につきましては事実認定に即した考察の上で民法709条にいう「原告の権利又は法律所保護される利益を侵害」する行為に該当するとしております。

 また、2の「故意・過失」につきましても「使用者として通常払うべき法令等の調査・注意義務をつくしていたならば、本件解雇のような性急かつ稚拙な解雇は許されないものであることを認識することは」、この代表取締役の方においては可能であったというべきであるとした上で、少なくとも過失が認められるとした上で「財産的損害(逸失利益)」のところにございますように「「損害」が発生しているものというべきである」。その考え方しては上にありますように、「雇用契約に基づく雇用機会の喪失と賃金を得られない状態の継続という不利益が生じている」ということで、損害の範囲につきまして4のように認定しているというような枠組みということでございます。

 以上、もう一度1ページ目、表紙のところに戻っていただきまして、緑色とクリーム色と水色の3つに分類いたしました類型を比較いたしますと、これまで本検討会でも委員の先生方から御指摘いただいています幾つかの論点が浮かび上がるのだろうと考えております。

 まず、緑色とクリーム色や水色の比較でございます。緑色の裁判例は、先ほど6ページの裁判例で御確認いただきましたように、解雇が無効であれば労働契約は存在するので、使用者の責めに帰すべき事由のために就労できない労働者は賃金債権を請求できる。そうである以上、不法行為による損害賠償は請求できないという判断を出発点とするものでございました。

 他方で、クリーム色とか水色の裁判例は不法行為に基づく損害賠償、それも財産的損害、逸失利益に対する賠償請求自体を認めているものでございます。この点につきまして、下級審の裁判例ではございますが、こうしたクリーム色や水色の裁判例が徐々に蓄積しつつある今日、こうした傾向についてどのように考えるべきかというような点について議論を深めていただければありがたいというのが1点目のところでございます。

 既にお示しいただいている問題意識の中でも、使用者の帰責事由で休業された労働者の請求について、賃金請求権と休業損害の賠償請求権を選択的な併合だと言っている最高裁の判決なども出ているわけでございますが、そうした判決も出ている今日において、今回のようなテーマにつきましてもどのように考えるのかという点はあるのだろうと思います。

 また、本検討会の1回目で、そもそもこうした紛争解決システムを今日的に議論する意味づけといたしまして、労働者の方の選択肢をふやすという観点からの御提起もあったかと思っていますが、こうした裁判例の動向、あるいは裁判のスタイルというべきかもしれませんが、そういったものにつきまして、労働者の選択肢との関係でどのように考えるべきかというような論点もあろうかと思います。今のことが、緑とクリーム及び水色との関係でございます。

 次に、第2の点としてはクリーム色の裁判例と水色の裁判例の比較でございます。クリーム色の裁判例は先ほど幾つかの裁判例を見ていただきましたとおり、権利濫用法理の枠組みに立脚して解雇は無効だという判断を行った上で、特段の説示はなく不法行為に該当するということを判示しているというものでございます。

 これに対しまして水色の裁判例は、その対象としている解雇の類型が違いますのでそれぞれでございますけれども、権利濫用法理は権利行使の正当性を失わせる法理で、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性、因果関係を導き出せるものではないという判断に立って、その上でそれぞれの事例に即して枠組みを設けているということは、先ほど3つの裁判例で御確認いただいたところでございます。

 このように、クリーム色と水色のグループではかなり考え方に違いがあるのだろうと考えております。学説を見ましても、解雇権濫用に当たるような解雇というものが不法行為になり得るという点では皆さん一致されていると思うのですけれども、権利濫用に当たる解雇というのは基本的に不法行為を構成するのかどうかという点につきましては、まだこうした政府の公の検討の場等でも議論は必ずしも深められている点ではないというということと、本検討会は民法、民訴法の専門家の先生でありますとか、あるいは労使の法曹の先生でありますとか、また労働法の先生や労使団体の方々など、こうしたことに造詣の深い方々がお集まりのところでございますので、このクリーム色と水色のところの関係についてどのように今後考えていけばいいのか、整理していけばいいのかという点について御示唆いただければありがたいということでございます。以上が基本的な論点のもう一つ、クリーム色と水色の関係ということでございます。

 最後に、今までのことと少し違いますが、逸失利益とか慰謝料の水準について、むしろ本日の1つ目の議題とも重なる点も若干あるかもしれませんけれども、そこについてどのようになっているかをごらんいただきたいと思います。逸失利益については当然、緑色の裁判例では射程外ですので、クリーム色と水色の裁判例について幾つかの点を見ていただければと思います。これも、ある程度、数が出ている時期から以降のものを集中的に見ていただくということで、先ほどと同じところからで恐縮でございますが、9ページから幾つかごらんいただきたいと思います。

 9ページの平成17年の「S社(派遣添乗員)事件」におきましては、考え方といたしましては「財産的損害(逸失利益))に関しましては、「本件解雇がなかったならば、原告が以後相当期間にわたって被告会社に勤続していた可能性が高い」ということで、では特にそれがどれだけかということは判示せずに、求めているのが1年分相当額なので、それ以上であることは認められるという判断になっているということです。

 その下の、「О法律事務所以降」のものから割とどれくらいというのが明示されているものが多いわけでありますが、О法律事務所、平成17年の名古屋高裁の判決では、「合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる」ということで、諸般の事情を総合考慮すると、本件解雇後の3か月の範囲に限って、本件解雇と相当因果関係のある損害と認めることができるとされております。

 それから、10ページの「フリービット事件」を御覧下さい。「財産的損害(逸失利益)」のところでございます。これも、「解雇通告を受けて、他に再就職するまでに時間的間隔が存在し、そのため労働者の生活の資源である給与所得が途絶えることによる経済的損害をどの程度見積もるべきかという問題に帰着すると思われる」とされた上で、(中略)の後でございますけれども、「解雇されなければ得られたであろう賃金に照らして、一般的には月例給与の半年分程度を見積もるのが相当であると考えられる」という考え方の枠組みを示しております。

 もっとも、この後、ざっと御覧いただければわかりますように、支給された給与や賞与のほか、失業給付ですとかアルバイト収入等も差し引いているということで、最終的な金額を指しているところでございます。

 次は、11ページの「インフォーマテック事件」でございます。これは逸失利益に関して簡明に考え方を整理されていますが、「財産的損害(逸失利益)」のところで「退職時の給与の6か月分相当額」で、括弧の後に「(解雇に至る使用者の交渉経緯・交渉態度、労働者の勤続年数、年齢、再就職の困難さ等を考慮)」とされているということでございます。

 その下の「日鯨商事事件」でございますが、こちらは先ほどの裁判例と同じように「本件解雇により失職したことによって、合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる」という基本的な考え方の上で、この原告の方が比較的、言ってみれば労働市場における交渉力の高い方であるというようなことを総合考慮して、「原告が合理的に再就職をすることが可能であると考えられる期間は、本件解雇後3か月であると認めるのが相当」というふうにされているということでございます。

 次のページの「レイズ事件」でございますけれども、この事案は解雇をされた後に、原告の方は株式会社の設立に至っております。そして、その解雇の2か月半後に株式会社を設立した時点で、もともといらっしゃった被告の会社における就労意思を有していないことは明らかであるということと、会社設立の準備期間もあるだろうから、就労意思を失うに至った時期はその会社の設立からある程度さかのぼった時期であると認められるとして、具体的には1か月分の給与額50万円と慰謝料相当額と算定評価されているという事案でございまして、このケースは就労意思を失うまでの期間という、やや別の尺度を用いているものかと存じます。

 それから、その下の「テイケイ事件」は、「本件解雇がなかったならば、以後相当期間にわたって被告に勤務していた可能性が高い」ということで、一方で「その年齢から見ても再就職が困難な状況に置かれた」とされておりますが、原告は50歳ちょっと手前くらいの方だったと思いますが、再就職が困難であるという状況も勘案をして週平均賃金額の34週分ですから、8か月分弱くらいのところを認めているというものでございます。以降、再就職に必要な期間ですとか、そういったようなことを13ページ以降の裁判例でも見ているようなものが多いかと考えております。

 なお、慰謝料に関しましては、緑色、クリーム色、水色、いずれの裁判例におきましても支払いを命ずる判決と、これを認めないという判決が見られているところでございますが、この点に限って言えば地位確認請求訴訟で解雇は無効だとした場合にも、精神的な慰謝まで認めるものと認めないものがあるということとある意味整合はしているかと思っているということでございます。

 以上でございますが、この緑色とクリーム色やブルーの関係、それからある時期からぼつぼつ出てきたと前回言われましたクリーム色と水色の関係等につきまして整理いたしましたので、御議論を深めていただければありがたいと思っております。

○荒木座長 ありがとうございました。

 ごらんのとおり緑のものが以前は多かったのですけれども、それからクリーム色とか青というふうに不法行為責任を認めるようになってきているというあたりで、その不法行為構成をどう考えるかというのが大きく一点あろうかと思います。

 ただ、緑の部分も慰謝料は認めているわけです。一切、不法行為責任を認めないというわけではなくて、吉村とか、わいわいランドでも慰謝料は認めております。慰謝料について認めるという点についてはどの事案でも以前から今日まで異論のないところですが、逸失利益を認めるかというあたりで判断が変わってきているという御説明があったところであります。

 まずこの不法行為構成についてどう考えるか。もう一つは、最後におっしゃった逸失利益等をどう算定するかということにかかわる論点があろうかと思います。では、いずれの論点でも結構ですが、御質問、御意見等いただきたいと思います。

 鹿野委員、どうぞ。

○鹿野委員 今回の裁判例の御紹介を聞いていて、幾つか感じたところがあります。私は民法をやっておりますので、その観点から幾つか感想めいたものを申し上げ、あるいは一部質問をさせていただきたいと思います。

 第1点は、事件の傾向についてです。先ほど、緑のところは逸失利益が認められないとされたものであり、クリーム色と青についてはそうではないものということでの御紹介があって、しかも時期的にどちらかというと早い時期には緑が多く、少し変わってきたというような御紹介だったと思います。それぞれを私自身が詳しく確認したというわけではないのですが、少なくともこの表を見る限りにおいては、当事者が何を求めたかということによる判断の違いというところが、まず大きな点なのではないかと感じました。

 といいますのは、緑のうち、「わいわいランド事件」はちょっと別なのですが、それ以外の事件を見ますと、当事者が解雇は無効だということを主張し、地位確認等を求めたというものでありまして、その請求に応じて解雇無効が認められているというものです。そこで、その場合には先ほど御説明があったように解雇が無効であったら賃金請求権があるのだということになりますので、その部分の財産的な損失というのはなくなるということに論理的になります。

 ですから、そこでは、なおそれ以外の損害というのが認められるのかということが問題になり、賃金分の財産的な損失が填補されたとき、それ以外の別の損害というのが賠償の対象として認められない。特に、逸失利益というようなものについての損害というのはないでしょうということで、賠償請求が否定されたというものだろうと思います。

 これに対して、クリーム色と青のものについては、この表を見る限りは、当事者が地位確認等を求めたのではなくて、専ら不法行為等による損害賠償の請求のみをしたという事件ですから、先ほどのような点で賃金請求権があるでしょうということにはならず、専ら不法行為等の要件の検討がなされた。そこで緑とは判断が異なっているのだということのように受けとめました。

 下のほうの青の一番上の「静岡第一テレビ事件」はちょっと特殊なようですけれども、それ以外のものについてはそのようなことが言えるのではないかと思いました。

 そうすると、裁判所の判断が食い違っているということでは必ずしもなく、当事者が請求しているものが違っているので、それぞれに応じた判断を裁判所がしているのだと受けとめることができるのではないかと思いましたが、その点はそれでよろしいのか。もしかしたら詳細が省略されていることがあるのかもしれないので、その点を伺いたいと思いました。

 第2点ですが、クリーム色と青の違いということです。すなわち、「解雇の無効の判断」と「不法行為該当性の判断」との関係ということですが、これは一般的にいうと民法の不法行為に基づく損害賠償請求をするときには、民法のその要件を満たしているかどうかということを問題にせざるを得ず、御承知のとおり民法の709条についていうと、故意過失、権利または法律上保護される利益の侵害、損害の発生、そして因果関係ということが要件とされておりますので、それぞれの要件該当性ということを検討せざるを得ないということになるのだろうと思います。

 ですから、一応別建てであり、解雇が無効であるということが、直ちに不法行為による損害賠償請求権に結びつくわけではないと言うことはできると思うのですが、そうは言っても実質的には解雇の有効、無効というところの判断の考慮要素というのが、特に不法行為における権利侵害要件、あるいは故意または過失による権利等の侵害に該当するのかどうかという点の考慮要素とかなり重なってくる部分があるのではないかと思います。

 先ほど、青でくくられた裁判例は両者が別であることを強調しているという御説明がありましたが、その青の中でも多くのものは、結局そのような重なり部分を考慮して損害賠償請求を認めているものであるように受けとめました。ですから、ここもどこまでそれを強調するかというところの違いはありますけれども、実質的に激しく対立している考え方なのかどうかという点については、少し慎重に見る必要があるかと思いました。

 それから、ちょっと注意しなければいけないのは、青のところの第1番目の「静岡第一テレビ事件」という8ページに記載されているところですが、これにつきましては先ほども御説明があったように、別件訴訟において懲戒事由に当たらないとして解雇を無効としている。そして、賃金等の支払いを命じたというものですから、ここで問題となっているのはその賃金等ということではなくて、専ら慰謝料についての損害賠償請求ということなのです。そこで、ここで問題となったのは、財産的な損失が填補されたとしても、なお賠償が必要だとする慰謝料請求を基礎づけるだけの事実があるかどうかということなのだろうと思うのです。

 この点は、一般論としても、財産的な損害が解消ないし填補されたとすると、それによって精神的な苦痛も慰謝されると解される場合が多くあり、ただ、加害行為の態様等によっては、なおそれではカバーされない部分があって、それが慰謝料請求としてプラスとして認められるということもあるのだろうと思います。この「静岡第一テレビ事件」については、そのように財産的損害については別途解決がついた場合の慰謝料の請求事件だということで、その点をきちんと区別する必要があるのではないかと思いました。

 それから、3点目になるのでしょうか。不当解雇における金銭解決ということがここで問題となっており、私自身が定見をこれについて持っているということではないのですが、この資料を見ると、既に地位確認等を請求せずに損害賠償を請求して認められた一連の裁判例が存在するということなので、そのような意味では、既にこのような形での一種の金銭解決というのが、労働者側のイニシアティブに基づいて図られてきたという事実があると見ることができるのではないかと感じました。

 それから、これを最後にしますけれども、第4点目として逸失利益の算定ということについてです。先ほど御説明が一部あったところでもあるのですが、不法行為による損害賠償に関し、損害賠償の範囲はどうなるのかということについて、学説には相当な異論もあるものの、判例は相当因果関係という枠組みでこれを捉えてきましたし、今回御紹介のあった裁判例を見ましても、相当因果関係という概念を用いて賠償の範囲を画しているように見えました。

 そして、その中で、その相当因果関係の範囲を画する考え方としては、再就職が合理的に可能な時期はいつだったのかということを一つの重要な指標とし、合理的に再就職が可能と見られる時期までの賃金相当額を、少なくとも財産的損害についてはベースとして、そこからいろいろな要素を考慮して調整をしていると見ることができるのではないかと思いました。以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。

 では、事務局からお願いします。

○村山労働条件政策課長 1点目は事務局への御質問もかねての点だったと思いますので、その点に限ってお答えを申し上げます。

 先生の御指摘のとおり、「わいわいランド事件」を唯一の例外として、他のものに関しまして緑のグループは解雇自体の無効の確認請求なりと損害賠償請求を同時にやっているとか、あるいはどちらかをやった上で予備的に何か請求として別なものをつけているとか、そういったものでございます。

 それを端的にあらわしているのは15ページ、最後の「東京エムケイ事件」、平成26年の東京地裁の判決でございますけれども、これは地位確認請求、解雇後の賃金支払い請求、または不法行為に基づく損害賠償請求として賃金相当額ということになっておりまして、この場合は緑のスタイルになっているが、一方では地位確認請求が認容されて、解雇後の賃金請求も一部ですけれども認容されているということでございます。

 先程の説明では言葉が足らず恐縮ですけれども、裁判所の判決のスタイルがどうこうということを申し上げているというよりは、むしろ解雇という深刻な事案があったときに労働者の方が、恐らくはつかれる弁護士の方と一緒になって、どのような請求を起こされるのかということと合わせての問題提起であるというふうにお受けとめいただき、その上で先ほどの鹿野委員の御指摘のうちの3番目にございました、実質的には既に一種の金銭解決がなされる状況になっているのではないかという御認識も含めて、御議論を全体として深めていただければありがたいということでございます。

○荒木座長 ありがとうございます。

 2点から4点はいろいろな問題提起でございますので、ほかの委員からも御意見を伺いたいと思います。

 中山委員、どうぞ。

○中山委員 2点目だったと思いますが、資料No2の1頁でクリーム色の分類「「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を特に区別せずに逸失利益を判断した裁判例」と、それとの対比で、それらを区別した裁判例として青色の分類に分けられているのですが、私は実務家なのでこういった判決の見方で申し上げたいのは、判示の文言だけから不法行為の各要件がきちんと述べられているか否かで区別するのは適当でないと思います。判決は具体的な認定事実の提示だとか、結論の具体的妥当性を優先して、判決の文言だけ見ると区別していないような場合でも、不法行為の要件を念頭に置いたものもあろうかと思います。むしろこのクリーム色と青の分類については、先ほど同趣旨で鹿野先生から御指摘があったように、決して相対立するものではないのではなかろうかと考えます。

 例えば、クリーム色の分類で3ページに御指摘のありました東京セクハラ(M商事)事件の「解雇の効力不法行為該当性」欄の最後のところに「過失」と書いてあるんです。過失の認定があって、その前段で被告代表者がこのようなパフォーマンスをとったということが書いてあるものですから、これも単に解雇濫用だけではなくてそれと区別して過失もあるとした上で不法行為を認めているわけです。

 そういう意味で見ますと、例えば9ページの「S社事件」も引用の判示だけ見ると、権利濫用、解雇無効イコール不法行為だということになっているのですが、この事案は解雇理由が極めて問題で大半が事実に基づかないような解雇だった。この辺は、その一端が精神的損害欄の引用部分で出ていると思うのですけれども、こういう事案ということを念頭に置いて書かれているので、これなどは不法行為を認めているわけですが、実務の観点から見ますと、これは不法行為の要件を全く頭に入れないで濫用イコール違法、不法行為とまでは言えないのではなかろうかと思います。

 ほかにもクリーム色の分類の裁判例で過失の指摘があったり、あるいは解雇の事実がなかったとか、そういう指摘もあって、私自身はクリーム色と青色の分類についてはそう矛盾なく、同様にむしろ基本的には不法行為は別物だという考え方で理解すべきではなかろうかと思っております。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 鶴委員、どうぞ。

○鶴委員 こちらのほうは私も全く素人で、素人の質問になってしまうかもしれないのですけれども、今のお話も聞きながら、クリーム色と青というのはそれほど大きな違いがないというお話を伺うとなるほどそうかと思うのですが、この判決の抜き書きしていただいたところを読むと、非常に素人目にはかなり大胆に判断をされて、大胆というのはケースバイケースと裏腹なのかもしれないのですけれども、その場その場で基本的な考え方がちょっと違うという印象は持ちました。

 それで、私は先ほど事務局からも御紹介があったのですけれども、これまでの議論の中で解雇無効のときにどうやって労働者の選択肢をふやそうかということを私はこの検討会でも申し上げました。その出口の選択肢と、ここは訴訟の中の入り口での選択肢で、私はその2つをどういうふうに見ていくのか。両方とも、やはりこの検討会でしっかり考えていかなければいけないテーマかということを非常に強く感じました。

 この入り口の選択肢というのも、若干裁判例はいろいろありながらも、損害賠償というやり方で問題を解決するということが出てきている。ただし、もう少し制度化してわかりやすくするということが、やはりかなり私は求められていると思います。それを考えると、ここにいらっしゃる法学者や弁護士の先生方のいろいろなお知恵を借りながら、ここでこれから少ししっかり議論をしていくことは大事ではないかと思いました。

 それで、一点、これまで解決金というものがどういった要因で決まるのかということと損害賠償の話というのは、私は裏と表の話だと思うのです。損害賠償の話を突き詰めていくと、解雇無効ということ以外に民法上容認されるにはどういう要因が必要なのか。それを突き詰めていくと、解決金というのは一体どういうような要素がそこに入らなければいけないのかという問題と、私は同値の問題になると思います。

 ですので、入り口と出口の話をさらにこれから議論していくというのは、まさにその同じテーマを私は議論することになると思いますし、ぜひこの入り口の選択肢ということもこの場で議論を深めさせていただきたい。これは、非常に強いお願いでございます。以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

 垣内委員、どうぞ。

○垣内委員 裁判例の傾向の理解ということに関してなのですけれども、鹿野先生のされた分析はおおむね私も同感でございまして、とりわけ「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を余り区別せずにしているように見える裁判例が一部あるという御指摘は、表面上確かにそうであるけれども、実際にそれほど実質的な考え方が異なるわけでもないのではないかという点については、そうなのかなという印象を私も持っております。

 ただ、若干、実質的な考え方の違いがあるとすれば、これは事務局からの御説明でも御指摘があった点ですけれども、緑の裁判例とクリーム色、あるいは青も一部そうかもしれませんが、損害の捉え方に関して解雇が無効であるので、なお賃金請求権が発生する余地があり、したがって損害は生じないというような考え方、6ページの「中央タクシー事件」では逸失利益は発生しないという考え方をとっているものもありますけれども、どうも他の、特にクリーム色の裁判例の多くはこういう論理は必ずしも採用していないということで、事実上就労ができなくなったことによって収入が得られなくなったのは、直ちに解雇は無効と見えるような判断をしておきつつ、その点は特に考慮せずに損害の発生、逸失利益の発生を認めているものがある。このあたりは、やや裁判例の中で考え方が分かれている部分があるのではないかという印象を持ったところです。

 ただ、きょう御紹介いただいたところでは、判決文での整理を引用していただいているかと思いますけれども、そのあたりは当事者の争い方がどうであったかというところは、相当判決の構成に影響する部分もあろうかと思われまして、そのあたりも立ち入って見てみないと確かなことは言えないという印象を持ちました。差し当たり、以上です。

○荒木座長 ありがとうございます。

 では、水口委員どうぞ。

○水口委員 判例を改めて全体を読んでみたのですが、私は東京で仕事をしているということもあって、東京地裁の裁判所の判断の傾向はほぼ固まりつつあるかということを、判決文を読んで思いました。いわゆる、弁論主義というか、処分権主義で当事者がどういう請求したかによって判断が違ってくるというのは鹿野先生の御指摘のとおりですが、要は地位確認請求、賃金請求を提訴しないで不法行為一本で損害賠償をしたときには、基本的には不法行為であるかどうかという要件を判断して逸失利益で認める。

 ただ、解雇無効であれば賃金請求権が失われないのだから損害がないというのは、もう過去の判断になっているのではないか。地位確認請求、賃金請求をしないで不法行為だけでいったらそういうことで否定されるというのは、少なくとも東京地裁ではもうないと思われます。

 特に、「インフォーマテック事件」の東京高裁判決が平成20年に出ており、雇用保険の失業給付については損害の補填をしないということも、これは社会政策的な制度なのでそれを入れるのはおかしいということを東京高裁が言って、その後はほぼ認められていないということもあるので、実務的な感覚でいくと、東京地裁に提訴すれば今までお話があったような枠組みで解決ができるかとは思っているところです。

 もちろん、労基法16条違反で即不法行為の違法になるというふうには恐らく弁護士だと余り考えず、何らかの違法性を具体的に709条に沿った形で証示しなければいけないということになるので、そういう事案であればそう心配することはないかと思われる感じがします。

 ただ、一点、「東京エムケイ事件」が平成26年でこのグリーンのところに分類されていますが、これをよくよく読むと、タクシー会社の方が1~2か月後に転職をして、もうそこで働き始めてタクシー運転手として解雇前と同等の給料を得ているというような場合で、賠償額として三十何万円を認めたという事件ですから、ほかのグリーンの事案とはちょっと違うのかという感じはします。

 その意味でも、東京地裁の判断は大体固まってきているという印象を受けますので、私は鹿野先生がおっしゃったように、最高裁判決は出ていませんけれども、昔の裁判例はいろいろでしたが、労働者の一つの選択肢として損害賠償、復職はしないけれども損害賠償を請求する。不法行為の損害賠償請求というのはまだ少ないですが、一つの道筋ができたかと今回の整理で認識をしています。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 中山委員、どうぞ。

○中山委員 先ほど鶴先生のお話で、今この資料2で解雇を不法行為と構成する損害賠償の幾つかのパターンで引用されていたところで、先生のほうでコメントいただいた損害賠償と解雇無効の場合の金銭解決とは裏腹というお話だったのですけれども、解雇の金銭解決とは裏腹ではないのではないか。

 つまり、解雇が無効の場合にイコール不法行為にならないということもあるわけで、そういう前提に立ちますと、その場合、金銭解決の補償の対象外かというとそんなことはない。したがって、まだここでは議論する話ではないのですが、解雇の金銭解決制度自体の解決金の性格というのは別途慎重に検討すべきではなかろうか。その点だけ申し上げます。

○鶴委員 ちょっと私も言葉足らずだったと思うのですが、それはそのバックペイ以外の部分の解決金ということになると、多分そこは損害賠償のときもそうだと思いますし、私も先ほどの研究の中でも少し申し上げましたけれども、その人の精神的な損害とか、そういうものも当然そこには入ってくる可能性があるということで、どういうものが一般的な損害賠償や解決金というものを構成し得るのかといったところは当然共通した議論が多分あるのだろう。

 それは、逸失利益というところももちろん私はそうだと思いますし、そういったもろもろの要因というものがもう少し逆に明確に議論されるきっかけにもなるかと思います。そういうことも含めて両方議論していくことは、私は非常に補完的な意味合いがあるという趣旨で申し上げたつもりです。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 長谷川委員、どうぞ。

○長谷川委員 鶴先生に御質問なのですけれども、さっき先生が言っていました「入り口と出口」というのがちょっと私には理解できなかったのですが、訴訟であれば入り口は訴訟物が解雇無効でやるのか、不法行為損害賠償でやるかのどちらかということになり、恐らく労働者から弁護士に対して、「先生、解雇されたのですけれども、この解雇はおかしいです。職場に戻してください」という相談から始まると思うんです。それで、恐らく相談された弁護士とその労働者が話し合いながら、ではこれをどうやって争うかと決めていくと思うのですけれども、先生のおっしゃる入り口というのはその点を言っているわけですか。

○鶴委員 多分、ここでの検討会の話というのは、そもそも最初から金銭解決を求めるのであればなるべく労働審判という制度があって、非常に機能しているのでそこに行ってはどうか。それで、それ以外の地位確認を求めるということであれば、訴訟というところでしっかりやる。

 大まかにそういうような仕分けだったと思うのですけれども、その訴訟ということにおいても入り口のところで地位確認を求めるのか。それとも、最初から戻るつもりはないので損害賠償ということでやるのか。そこの判断というのは、当然最初は訴訟に行くと判断したときにも、実際に今この裁判例を見ると2つの判断があるということですね。

○長谷川委員 労働審判でも、最初はこの解雇が有効か無効かという訴訟物を出すわけです。そうすると、労働審判であってもこの解雇が有効か無効か。だから、恐らく相談された弁護士は、さてこの事件は労働局のあっせんでやろうか、労働審判でやろうか、通常訴訟でやろうかといろいろ考えると思うのです。

 そういう意味では、労働審判と裁判というのは、前者は審判ですけれども、解雇が有効か無効かを判断して、その上で調停を進め、それで調停が不調であれば審判を決するとなっているわけですから。

○鶴委員 それももちろんわかった上で、ただ、労働審判の場合は最終的にはほとんどの場合、金銭で解決するということがあるわけなので、もちろん最初に有効か無効ということを争いながら最終的には金銭でということです。

 ただ、なるべく効率的なやり方となれば、この議論でも裁判というのはそれ以外にどういう役割があるのだろうか。もちろん、労働審判に全部いって裁判にいくなということを私は言うつもりはもちろんないのですけれども、裁判にいく場合でもこれまでの例を見れば、そこにいったときに入り口として2つのやり方があるということをきょうは申し上げました。

 ただ、それについては必ずしも素人が見ても制度化されているという感じは余りしませんし、そこはもう少し選択肢を生かしていくということは私はあり得るのではないかということを申し上げたのです。

 済みません。余りにも素人的な話で、ちょっと誤解を生んだかもしれません。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。

 では、石井委員どうぞ。

○石井委員 この機会にお伺いできればというので水口先生にですが、どういう場合にこの不法行為構成を選択するのか。金額面から言えば、認められているのは解雇無効の上にさらに不法行為の要件を満たすというところまでで、苦労された割には金額面では今まで出ていた解雇無効の場合の和解金相場に比べると少な目のように思いますし、地位確認でバックペイのほうが訴訟は1年ちょっとはかかりますので、そういうことを考えるとどうしてこれを選択されるのか。前々から地位確認でいって和解した方がいいのではという思いもありましたので、一度聞いてみたいと思っておりまして、この機会にもしできればと思います。

○荒木座長 どうぞ。

○水口委員 労働側としては、やはり再就職がもう決まるとか、もう再就職は決まりそうだが、この解雇は泣き寝入りしたくないということで損害賠償請求をしてほしい。その意味では、金額の多寡よりは再就職が間近に迫っている、あるいは実質に決まっているという人が結構多いです。

 それで、この中の「インフォーマテック事件」というのは、うちの事務所の井上幸夫弁護士が担当した事件なのです。早稲田のリーガルクリニックで、第一号事件で裁判までやったということなのですが、判決を読んでもらえれば、この方の本当の請求は退職金請求なんです。違法な解雇をされたけれども、戻りたくない。でも、退職金は請求する。それで、その退職金の就業規則が有効か無効かが一つの大きな論点だったのですけれども、でも違法な解雇だからそれは納得したくないということで地位確認ではなくて、地位確認請求をすると退職金請求はできませんので不法行為の損害賠償請求をしたというような事案でした。このように、当事者の要求をどうするかによってそこを決めていくというのが恐らく労側の弁護士の多く意見です。

 ただ、不法行為であると先ほど言ったプラス違法故意過失を立証しないといけないので、解雇権濫用のほうが実務的には主張しやすいとは思うので、多くは解雇無効地位確認請求を選択していると思います。

○石井委員 ありがとうございました。

○荒木座長 では、山川委員どうぞ。

○山川委員 本日提供していただいた資料で既に事務局の御説明、また委員の方々の御発言にもありましたように、裁判例の傾向についてはこのようなことで理解できるのではないかと思いました。

 理屈面で、これはどちらかというと研究者、プロパー的な発想かもしれませんが、なお細部を見るとトーンの違いがあるような気がします。つまり、何をもって不法行為と考えるかについてですけれども、3ページの「東京セクハラ(M商事)事件」は、労働契約の継続を断念させたことが不法行為で、賃金請求権を喪失させたことが不法行為という理解になっているように見えまして、13ページの「三枝商事事件」も同じような感じに読めます。

 他方で、15ページの「東京エムケイ事件」におきましては、むしろ就労の意思の喪失によって損害賠償請求もできなくなるということで、必ずしもまだ一貫した構成には至っていないのかという感じがします。

 このことと、損害額の認定が直接関連はしていないようにも思えますけれども、何か研究会での発言みたいになってしまいますが、先ほどの損害賠償請求で提訴した場合に、解雇は無効であるから賃金請求権が存在して、したがって損害の認定ができないというのは、処分権主義というようなことからそれが制約されるのか。あるいは、解雇が無効であれば実体法上賃金請求権は存在する。地位確認の訴えを起こすかどうかを問わず、そういうことはないのかということはなお検討の余地があるような気がいたしまして、その辺を教えていただければ、どなたに教えていただくというわけでもないのですが、お考えをお聞きできればと思います。

○荒木座長 山川先生に質問されると困ってしまいますが、何かございますか。

 恐らく、損害は何かということがよくわからなくて、当初は解雇は無効であって地位確認ができる。にもかかわらず、地位確認を請求しないということは就労の意思もないといったようなことで、一切逸失利益は認められないというのが以前はあったのですけれども、そこからは明らかに変わってきている。

 しかし、ではその損害は何なのかというあたりになってくるとよくわからなくて、解雇されて未来永劫定年までの差額賃金というのも損害になるのかというと、そうは裁判所では見ていなくて、再就職するまでの期間などを見ているようだというあたりですね。

 そういうことで、損害をどう算定するかというのは、実は不法行為としてどういう権利侵害があったと見るのかというあたりと本当は理論的にはつながってきていないとおかしいのですが、その辺がよく整理されているのかというと、まだよく解明されていないという状況かと思います。

 それでは、どうぞ斗内委員。

○斗内委員 感想めいたことで非常に恐縮でございます。私も労働審判員をやらせていただいていますが、法律家ではございませんので感想めいたことなのですが、やはり労働審判においても、申し立てる方の申し立てに基づいて、私どもも申立書並びに答弁書、さらには証拠書類等々をきちんと確認をさせていただきながら、第1回の労働審判の中で1時間なり2時間なりお話を伺う中で、先ほどから出ていますけれども、やはり心証というものを形成していくというプロセスが非常に重要だと思っております。

 その上で、申し立てられている方が何を解決として求められているのかを見た上で、やはり私どもは労働審判員として裁判官のリードのもと、御指導いただきながら調停をさせていただいているところでございます。そういう意味でいうと、それぞれが求めるものに基づいて事実認定をして、その当事者たちにとってどう解決を図っていくかということのお手伝いさせていただいているのが労働審判だと思っております。

 そういう意味では、本訴においても、当事者が何を請求されているかを見ながら、それぞれケースバイケースで結論を得られているということを感じましたので、御発言をさせていただきました。

○荒木座長 八代委員、どうぞ。

○八代委員 今、座長がおっしゃった、損害賠償で言う損害とは何かというのが私は非常に大事な点だと思いまして、今のように解雇された労働者が地位確認を要求して、結果的に和解という形で、いわばうやむやの形で金銭を払われるという状況は、企業の支払い能力とか、いろいろな要因に左右されて非常に労働者間で不公平であると思うわけです。

 他方で不法行為でないと金銭賠償を要求できないというのもまたハードルが高過ぎ合法的な解雇というのも当然あり得ると思うのです。これは、解雇というのを労使間の対立というふうに頭から考えたら出てこないことですが、私は経済学の観点から、特に整理解雇というのは労働者対労働者の利害対立である。つまり、経営上の困難に陥った企業に残れる労働者と残れない労働者の関係です。不況時には、何割かの労働者が整理解雇されることで残りの労働者の雇用は保障される。そうであれば、その雇用が保障される労働者がやめざるを得ない労働者に補償するという考え方も経済学では成り立つのではないかと思います。

 ですから、それはあくまでも労働者間の所得の再分配であって、企業の責任ということは別の考え方です。それは私が考える労・労対立の世界の中での損害賠償であると考えると、これは不法行為でもないし、かつ地位確認のためのものでもない。したがって、そのときの賠償金額というのは、倒産寸前の企業に補償金の原資が乏しい以上、あくまでも企業に残れる労働者の賃金の一部をカットして、それを原資にしてやめざるを得ない労働者に補償するような形で金額が決まるというケースもあり得るのではないかと考えております。

○荒木座長 ありがとうございます。

 中山委員、どうぞ。

○中山委員 質問というよりも、この資料No2の1頁、一番下の紫色の分類ですか。ここで挙がっているわいわいランド事件の控訴審判決、この判決は私も知っていますけれども、これは緑色の分類の「わいわいランド事件」の二審で、解雇は有効なのになぜか不法行為は認めるという異例の判決で私も反対なのですが、これだけ挙がっていると何か分類として並列されているように誤解されると思うので、見方の違う先生方がいたら御指摘いただくにしろ、分類として私はこれは不要ではなかろうかと思っているのですが。

○村山労働条件政策課長 事務局としては、必ずしも並列ではないという意味であえて御説明は差し控えていただきましたが、一審の判決を引いていることありまして、その関係で御指摘があったらということで載せさせていただいたところで御理解をいただければと思います。恐縮です。

○荒木座長 残りの時間では、これまでの議論を含めて労働紛争解決システム全般について何か御意見があれば、既にそういう議論も出ていますけれども。

 では、輪島委員。

○輪島委員 ありがとうございます。時間もないことなので少しお伺いをしたいと思います。検討会での議論はなかなか深まってきたようにも思うのですが、今後の予定を教えていただければと思います。

○荒木座長 では、事務局からお願いします。

○村山労働条件政策課長 とりあえず私のほうからお答えさせていただいて、足らざるところがあればまた座長からお願いしたいと思います。

 基本的には、まずこの検討会の設置自体は昨年の閣議決定された成長戦略におきまして、予見可能性の高い紛争解決システムということの検討が求められているので、ぜひ幅広い関係者の方々の御参画をいただいて、早急に立ち上げて、透明かつ公正、客観的でグローバルにも通用する紛争解決システムということに向けて解雇無効時における金銭救済制度のあり方とその必要性を含め、予見可能性の高い紛争解決システム等のあり方について具体化に向けた議論を進める。そして、結論を得た上で労働政策審議会の審議を経て所要の制度的措置を講ずるということで、特に期限を定めることなく、非常に難しくて複雑な問題なので、まずは関係の先生方にお集まりいただいてよく論点を含めて詰めていただくということで、閣議決定され、それを受けてここまで御議論を重ねてきていただいたところでございます。

 今、輪島委員からもお話を賜りましたが、1回目の検討会のこの場では大変多様な御意見、御質問、御提言を頂戴いたしましたけれども、その際、まず実態をよく見てみることが大事ということはコンセンサスだということで、行政のあっせん、労働審判など、当事者として携わられている先生方からのプレゼンテーションですとか、諸外国の法制についてもよく見てみる必要があるという話もありましたので、JILPTの研究報告をベースにさらに3人の専門家の先生にプレゼンテーション、質疑もやっていただいたり、特に実際の裁判官の経験者の方のお話をぜひともというお話でございましたので、前回、難波先生に来ていただいて深めていただいたということでございます。

 おおむね、1回目から2回目にかけて、こうしたところはお話を伺わないと、あるいはこういうところは見ておかないと、という御指摘があったところは一巡をした感もあるのではないかと思いますし、その点が先ほど輪島委員のお話にあった「議論も深まってきたようだ」というところにもつながると思います。

 本日は大竹先生、鶴先生のプレゼンテーションもいただきましたし、後半は委員の先生方からいただいた宿題もお返ししつつ、議論も深めていただいたということでございます。

 今後ということですが、相当幅広い議論の論点につきましていろいろな御意見がこれまで示されてまいりましたので、少しお時間をいただいて、事務局のほうでまずどのような意見が示されたのかをよく整理させていただき、それぞれの先生方にもよく御確認をいただいた上で、今後その論点とされたところをどうやって詰めていくことができるか、少し夏休みの期間も近づいておりますので、お時間をいただいた上でよく各委員の皆様方と御相談させていただければというのが、虚心坦懐に申し上げて私どもの思っているところでございます。

 なお、成長戦略は毎年閣議決定で、去年決定されたものがことしは上書き決定されるわけでございますが、ことしの成長戦略におきましては、基本的にこのテーマに関しては昨年と同様の内容、すなわちこの検討を速やかに進めて結論を得た上で労働政策審議会の審議を経て所要の制度的措置を講ずるという旨を特に期限を定めずに、政府の方針として決定されておりますので、この場での皆様方の議論の積み重ねを尊重しながら、事務局としてもしっかりと取り組み、よい結論が得られるように努力してまいりたいと考えております。現時点では、以上でございます。

○荒木座長 村上委員、どうぞ。

○村上委員 今の点とは違うのですが、確認をさせていただきたいと思います。

 本日の議題の資料No.1-1の「金銭解決に関する統計分析」についてですけれども、あくまで検討会の議論の参考として大竹先生と鶴先生が分析していただいて、それについて委員の中で質問をしたり、感想を述べ合ったりしたということで、検討会として何らかのまとめをしたものではないということを確認させていただければと思います。

 それから、2点目は予見可能性の議論で、先ほど輪島委員からあたかも労働者が解雇されたら幾ら解決金をもらえるのかということの予見可能性が重要ではないかというような御発言があったのですが、解雇されてから弁護士の先生にいろいろな相談をすることはあっても、解雇されていないのに自分が解雇されたら幾らもらえるのかということを考える労働者はまずいないと考えております。

 予見可能性ということを御主張されるのは、まだ解雇していない使用者の皆さんが幾ら払えば解雇できるのだろうかということを気にされているのではないかと思っておりまして、そこで労働者をたとえに出すのは少し違和感があるということで申し上げておきたいと思います。

○荒木座長 それでは、ちょうど時間になってしまいましたので、過去6回において先ほど村山課長から御説明いただいたように実態についていろいろとヒアリングを行い、それから外国法制についてもヒアリングをし、また実際に制度に携われた方々からもお話を伺ったところであります。

 これは相互に関係している問題等々もありますので、一旦これまでの議論を整理する時間をいただきまして、それを事務局のほうでまとめていただいて、その上でさらに今後検討を続けていくことが適切ではないかと考えております。

 それでは、本日は以上ということにいたしまして、次回について事務局からお願いします。

○村山労働条件政策課長 次回の検討会の日時、場所等につきましては追って調整の上、御連絡を差し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○荒木座長 それでは、本日は以上といたします。どうもお忙しい中ありがとうございました。


(了)

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