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2013年2月25日 平成24年度化学物質のリスク評価に係る企画検討会(リスコミ2/25)_議事録

労働基準局安全衛生部化学物質対策課

○日時

平成25年2月25日(月)13:30~16:30


○場所

大阪YMCA会館903号室(大阪府大阪市西区土佐堀1-5-6)


○議事

○司会者(柳川)  それでは、定刻となりましたので、ただいまより平成24年度第3回の化学物質のリスク評価に係るリスクコミュニケーションを開催いたします。
さて、このリスクコミュニケーションは、労働者の健康障害を防止するために、厚生労働省が行っている化学物質のリスク評価に当たりまして、関係者の方々との情報共有、意見交換を行うものでございまして、厚生労働省からの委託により私ども中央労働災害防止協会が運営をしているものでございます。
本日のスケジュールですが、まず「化学物質の発がん性の迅速評価法」というタイトルで、名古屋市立大学特任教授の津田先生にご講演をいただきます。次に、「健康障害防止のためのリスク評価と制度的規制」というタイトルで、厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質評価室の松井室長様にご講演をいただきます。
これらが終わりましたら、一たん15分から20分程度の休憩時間をいただきまして、その間に1回目のアンケートを回収させていただきます。ごらんのアンケート、2枚ございまして、そのうちの1枚目、ピンク色のものがあるかと思いますが、こちらのピンク色のほうに基調講演をお聞きになられましてのご感想ですとか疑問点、それからご質問されたい点などについてお書きをいただきまして、私ども事務局のほうにお渡しいただきますようにお願いいたします。いただいた意見を踏まえて後半の意見交換を進めたいというふうに思っております。
なお、意見交換では、基調講演をいただきました方に加えまして、厚生労働省の有害性調査機関査察官の大淵様にお入りをいただき、疑問点等にお答えをいただきます。意見交換は1時間程度で、あらかじめ会場からいただいたアンケートのご質問に回答する形で行い、その後、30分ほどは会場からのご質問を直接お受けする形で行います。その間、私ども係員がマイクをもって伺いますので、ご質問につきましては必ずマイクを通してご質問していただきますようお願いいたします。
なお、講演会は、後半の意見交換を含めまして議事録作成のため録音をしております。議事録は厚生労働省のほうへ納付をいたしますけれども、厚生労働省のほうといたしましては、プライバシーにかかわる部分、個人が判別するような部分を除いた上でホームページ等により公開することがあるというふうに伺っております。あらかじめご了承方よろしくお願いいたします。
終了は4時半を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、津田先生、よろしくお願いいたします。
○津田  名古屋市立大学の津田です。こんにちは。私は単に研究をやっているだけ
で、行政のほうは全く素人ですので、こういうふうにして研究でリスクの評価に使えるデータを出しているということでございます。今回のお話を承りましたときに、そういう話の一端でいいということでしたのでお引き受けしました。
 長期毒性実験、あるいは慢性毒性実験には、長い時間がかかります。2年間。そして、非常に高価であります。特に今問題になっている胆管発癌が疑われている物質では、吸入毒性試験が必要で、それを実施できるところは非常に限られて、日本で一、二施設であります。そして試験期間は2年であり、とても長いわけです。それはとても無理だと言うことで、それにかわる短期試験が必要ということになってきます。そういうことの話を私の知っているところを紹介させていただきますので、よろしくお願いします。
(パワーポイント)
 きょうは発癌の話ですので、癌の原因というところになりますが、ここにおみえになる方は皆さん毒性、あるいは安全性についてのお仕事に携わっている方ばかりですので釈迦に説法になりますがご容赦ください。癌の原因は割合でいいますと、喫煙と、食品すなわち何を食べるかと言うことです。この2つで癌の原因の7割を占めることになります。
 あとはいろんな要因でありまして、ここの1つは職業要因、それからこの辺の社会経済状況、医療行為、こういうものが多少入ってくるということになります。あるいは化学物質ですね。これらが癌に果たす役割は、全体からみますと余り大きくはありません。
(パワーポイント)
それで、どうしたら癌を防ぐことができるかといいますと、まずは喫煙はやめられるんです。だれでもいつでも吸えますが、いつでもやめられます。やめられないというのは、厚生省の喫煙対策でいいますと病気であるということで、医療保険の対象にもなっています。
もうひとつは何を食べるかということですね。一言でいいますと、高カロリー、高脂肪食が癌の原因になっているということは統計的に明らかにわかっておりまして、Richard Dollという、有名なイギリスの疫学者の論文にあります。それから、WHO/IARC、国立がん研究センター、あるいはハーバード大学等でほぼ同じデータが出ております。すなわちたばこ、それから何を食べるかで癌の原因の7割の発生を規定しているということであります。
(パワーポイント)
今日の話はこの2つの要因をなくしてしまった話のうちの労働現場、あるいは人工的に生産されてマーケットにある物質の話になります。
(パワーポイント)
この図は化学物質総合管理学会というのがありまして、私もそこで一緒に活動しておりますが、ネットで引いてくださればすぐヒットします。そこの勉強会で提言しておりますのはリスクアセスメント、それからリスクマネージメント、リスクコミュニケーション、この3つがうまくバランスよくきちんと動いていかないと、安心で安全な生活環境、常に安全性は保てないということであります。これを三輪車の輪と思っていただけば良いと思います。三輪車はどの輪が欠けてもうまく進みません。そういうことで、この三輪がスムーズに動くことは非常に大事です。
ただ、その中でどれが優位というわけではありませんが、リスクアセスメントが前輪でそれがないと進まないわけですね。これがいわゆる安全性試験、我々のアカデミックが関与するところになります。
リスクアセスメントの結果を正確に、バイアスなく、行政それからリスクコミュニケーション、これはマスコミも含めリスクの報道でして、それをバイアスなく理解できて活動をする。リスクマネージメントは、それによって行政を行うということであります。これが欠けますといろんなことが起こると。1つの例ですけど、余り詳しくはいいませんが、こういうことがありました。
(パワーポイント)
これの事例は立派にあるんです。だれも知っているはずですがだれも知っているというわけではありません。アスベストの発癌性は化学的に明々白々な事実があっても、これについてはここで詳しくは述べませんが、長く軽視されていたことは確かであります。そのためにリスクアセスメントと、リスクマネージメントはほとんど動いていなかったということであります。これは1つの例です。
逆に、リスクコミュニケーションだけがやけに動いてしまった、何かちょっとよくわからんなというのが、俗にいう環境ホルモンという内分泌攪乱物質の話であります。いろいろ調べても、現在の状況ではそんなに騒ぐほどのことは起こっていないということも明らかになりつつあります。そういうことで、三輪のバランスがよくないといけないということであります。
(パワーポイント)
発癌性試験は、ここでわざわざ紹介することもありませんが、NTPのゴールデンスタンダードという方法で、アメリカが実施している試験ですが、投与群は2用量、各群50匹ですから、高用量、低用量、それからゼロ用量の3群で雄雌で合計300匹になります。NTP TRシリーズはボリューム1から始まって、現在ボリューム500ぐらい行っていると思います。ということは、何十年かかって500ケミカルしかできないんですね。それぐらい大変だということであります。
日本ではこれに貢献していることはなくて、これは全部アメリカ政府が民間に委託してデータを出しています。その結果は完全にオープンで、だれでもアクセスできます。ご興味ある方はNTPのホームページに入って、NTP Technical Report Seriesをみると、PDFで委細漏らさずみることができます。それによって発癌性を公開しているということであります。
NTPが始めてから、500種ぐらいしかいかないんですね。ですから、ものすごく時間がかかるということであります。ところが、それと比べると、世の中にある発癌物質はもう勘定できないぐらい。すごい量ですね。いかに大変かということで、短期の代替法が必要だと昔からいわれております。
(パワーポイント)
これはCasarett & Doull’sというアメリカの、また世界中で使っているToxicologyの教科書にある各試験のコストでありますが、こういうふうに、Ames’だったら大体これぐらい。これは少し前ですから、今はちょっと為替相場も変わりましたが、まあこのぐらいは最低かかるということになります。
吸入曝露にすると、これが5倍以上ぐらいになります。それぐらいお金がかかるということで、ですから吸入曝露が必要な物質については非常にデータが少ないということがいえます。
(パワーポイント)
そういうわけですが、昨今、安全性にはなるべく動物を使わないという風潮がだんだん強くなりまして、そういうふうに考えられておりますが、しかし、いまだもって最終的な発癌性、慢性毒性評価は動物抜きではできないのが現実であります。
ヒトのことになぜ動物を使うかということになりますが、例えばこれは肝癌ですけれども、ヒトのをみても、動物、これはカニクイザルの肝癌ですけれども、よく似た形態を示します。ネズミともよく似ていて、生物学的にもよく似ているということで、やむを得ず代替していただいているということになります。
(パワーポイント)
Liver Cancerでも、ラットにコリン欠乏食というのを食べさせますと、こういう肝硬変の状態になって、肝癌が出ています。これはヒトのC型肝炎ですけど、このように似ているということであります。
(パワーポイント)
それから、大腸癌ですね。これは手術でとった大腸の一部であります。
これはラットの大腸癌です。表面はちょっときれいですけれども、顕微鏡でよくみると癌化している。これは、ラットに大腸癌をつくる化学物質がありまして、ジメチルヒドラジンだとか、あるいは食品の中に入っているPhIPという、ヘテロサイクリックアミン、これは焼け焦げ産物の中に、調理でオーバークッキングすると微量入っています。それを合成してラットに投与すると癌ができるということで、一時期、これが人間の癌の原因として非常に注目されました。まちがいはないんですけど、ラットのPhIPの用量はヒトの食べる量と比べると、なかなかそれをそのまま外挿することにはいかないということですね。
おもしろいことに、このヘテロサイクリックアミンは、雄のラットには大腸癌をつくりますが、雌のラットにやると乳癌をつくるんです。雄のラットにやると大腸癌と前立腺癌、これは欧米の癌の第1位と2位ですね。雌にやると乳癌ができるということで、これも第1位ですね。それは、肉を焼いて食べることによって、その中にあるということで非常に注目されたんです。そういうようなことがモデルとしてできるということであります。
(パワーポイント)
ハザードの評価。発癌については皆さんもう既にご存じだと思いますが、リヨンにWHOの国際癌研究機構(International Agency for Research on Cancer)という研究施設があります。これはリヨンの町の真ん中にあるんですけれども、あんまり大きな研究所ではありません。一般的な研究と、部の一部に発癌物質のIdentification and Evaluationというセクションがありまして、そこで発癌ハザード評価をやっています。それで、結果はオレンジブックと俗にいいますが、モノグラフシリーズとして刊行されています。
1965年に設立されまして、モノグラフでは現在までに大体1,000物質を評価しています。そこで評価するのはあくまでも文献的な評価です。文献的といっても、雑誌に投稿してピアレビューを通って客観的評価を得られたものです。その論文からデータを集めてきまして、ある物質について発癌性があるかないかということを調べます。それはヒト、動物、それからメカニズムということでやるわけです。
ヒトに対する発癌性が疑われたのは、1,000物質ぐらいやって、現在100ちょっとがグループ1。100号を記念して、100物質についてまとめるということで刊行されています。
もちろんアスベストなんかは1970年代、ここの活動が始まったときに真っ先に評価されて、そのときにヒトに発癌性があると。後にグループ分類が取り入れられて、グループ1ということで、3度、4度にわたってここが出しております。
(パワーポイント)
こういうことでありまして、疫学調査を重視します。大事ですけれども、これが出たときはもう遅いわけですね。ヒトに対する曝露があったわけですから。予防にはこちらが大事ということです、動物実験です。
それから、動物実験だけからでもみて、その発癌機序、動物におけるいわゆるADMEが、ヒトでも起こり得るということがかなりはっきりわかっている場合は、グループ1に入れられるということがあります。
2Aは、英語でいうと「Probably」と書いてあります。日本語だと「恐らく」と書いてあるのですが、僕はその訳が個人的に余り好きでなくて、恐らくというと何か幅があるような気がします。もう少しわかりやすくいえば、僕の研究仲間にアメリカ人と、イギリス人がおりますけど、「Probably」というのは「十中八九」と訳すのが一番わかりやすいと言いますので、(ヒトにおいて)高い確率で発癌性があるとなります。
それから、発癌の可能性があるPossibly。Possibly carcinogenic to humans。
それから、分類するに足るデータがないということですね。リミテッドというんですけど、グループ3。
こんなことをいうと、よその省庁の悪口をいってはいけないような気がするんですけど、これはあくまでも個人的な話として聞いてください。化審法ではグループ3と4と一緒のところに入っています。これは我々からいうと正しくありません。3というのは分類するデータがないということであって、安全だといったことではありません。たまたまその隣が4だから、4の影響を受けちゃって変なふうに理解されていますけれど、1,000やったうちの半分ぐらいはまだデータが十分でないということで、評価会議ではまだまだ、俎上にのってもグループ分類を考えるデータがないということであります。
グループ4は1つだけ。ナイロンの原料のカプロラクタムです、一応こうなっています。これを一生懸命ふやすためにやっているわけではありません。
というわけで、約半分について発癌性の可能性があるということで分類されています。これはIARCのホームページをみていただければ、alphabetical order、それからCS number等で全部みることができます。
(パワーポイント)
もう少しみますと、動物実験とヒトの疫学データと両方を勘案するわけですが、確実に発癌性があるというのが109物質です。これはグループ1。
予防原則からいえばこれはグループ1では遅いわけであります。もうヒトに事例があったわけですね。ですから、私はこの委員で10回ぐらいIARCに行っておりますが、結局はIARCの目するところは、グループ2をグループ1にしないようにどうするかということを考えてほしいということであります。
(パワーポイント)
グループ1物質は、それをつくる、つくらないよりも、それをいかに管理するか、いかに曝露しないかということに力を注ぐというものであります。全ての化学物質に発癌性がないというわけにはいかないということは十分承知しておくことです。
これはもう既にご存じの話ですね。例を出しますと、これはNHKからとってきただけでありますが、ジクロロメタン、すでにグループ2Bに分類されています。動物については、もう完全にエビデンスはしっかりしているということであります。
ただ、1,2-ジクロロプロパンはグループ3というのは十分なデータがないという状態です。今ではデータが出てきましたけれど、いずれにしても発癌性があるということですね。そういうことですが、使う側が知っていなかった。リスクコミュニケーションがある程度足りなかったのではないかという気がします。こういうことで、ヒト曝露事例が実際にあったということになります。
(パワーポイント)
実際にみますと、これはちょっと古いです。もう10年近く前のものですが、このぐらいあって、今はもっとふえているわけです。8,000ぐらいは健康影響が懸念されているということです。これを合わせると1万種ぐらいですね。
それで、実際には発癌性について未確認は191物質あるということで、これをやろうと思っても大変お金と時間がかかるわけですね。アメリカが国家威信をかけて40年かかっても、たかだか500ぐらいしかできないわけです。日本では、実際はやっているんですが、公開されていないのが一番問題です。企業内のデータであったり、あるいは論文になっていない。言葉の障壁がありますから、英文化しないということが一番でしょうけれども、公開しなければデータは無いと同じです。試験がつくるのに追いつかないというのが現状であります。
(パワーポイント)
データが無ければどうするかというと、そういう化学物質を考えると、リスクを予測してありますがデータが十分じゃない。ないので動きようがない。厚労省さんも動きようがないということになります。ですから、いかにして早く、そして正確なデータを出すかということが、社会の安全な環境を守るには非常に大事なことだということになります。
(パワーポイント)
先ほど出しましたが、実はこのグループ2Aの試験は吸入曝露じゃなくて経口試験なんですよ。経路が全然違うんです。だから比較的軽くみられていたということも否定できないです。吸入曝露試験が必要なことは、使うときに吸入するということがわかっていましたから必要なんですけれども、費用、時間ともに不足しているので、とても何ともならんということです。
先ほどいいましたが、日本では厚労省の関連の研究施設で日本バイオアッセイ研究センターというのが神奈川県秦野市にあります。小田原からちょっと行ったところですけれども、そこでも年間試験できる物質は2つか3つなんですね。ですから、なかなか追いつきません。
(パワーポイント)
発癌試験は用量試験から入れますと、どうみても4年ぐらいかかります。今問題になっているナノ物質というのがありますね。非常に小さい、直径が100ナノ以下、短径が700ナノ以下のものをナノ物質というんですけれども、人工的につくられていてエンジニアド・ナノマテリアルといいますが、それについても、当然主として吸入毒性が必要なんですけれども、これの実施できる施設は世界的にみても不足しています。あるのは、私の知っている限りでは二酸化チタニウム。これはもう既に粉体として、粒子として、ナノ以前に、ナノより大きいものがあちこちで使われていたということもあって、データがあります。
それによれば二酸化チタニウムはグループ2Bです。そして、ヒトに対する曝露事例はあってもそのデータがないという状態です。ということですけども、その後、そうこうしているうちにカーボンナノマテリアル、カーボンナノチューブ、あるいはフラーレンというのが出てきまして、それについてはまだデータは全くありません。世界に先駆けてになりますが、日本でバイオアッセイ研究センターがやっと始めたところで、ドイツでもまだ行われていません。ということで、お金がかかるからなかなか進められないというのが現状です。
(パワーポイント)
発癌のことでいいますと、単なる癌原物質であると、それ自体が癌を発生させるということではありません。基本的なことですが、発癌物質のほとんどはそのままでは癌原性はありません。体の中で、あるいは細胞の中で代謝されて発癌物質になります。直接発癌させるのももちろん少数あります。そういうことは非常に少ない。例えばニトロ化合物です。メチルニトロソウレアがそうですけれども、そのままで発癌原性があります。
それから、胃癌をつくったので有名なMNNGというのも直接発癌物質。だけど、ほとんどのものは代謝活性化といいます。代謝を経る。フェーズ?、CYP—P450ですね—になって、わかりやすい言葉で水溶性になる。そして、その先が解毒酵素。これは抱合酵素が多いわけですが、抱合されて、無毒化されて、尿中あるいは便中に、腎臓あるいは胆管系を経て出るという経路があります。
そういう経路において、かえって発癌物質が活性化されてしまって、DNAにヒットして、細胞の増殖を促進するということになりますと、そしてどんどん勝手に増殖する状態になりますと、それがふえてある遺伝子の変異が、これも全部がどうして起こるのかわかっていませんが、起こった末に癌になるということであります。
ですから、その時期ですね。最初の発癌、ある物質が代謝されてDNAにヒットする、これはいっぱい起こっているんです。DNAに傷がついた細胞はほとんど死んでしまうわけですが、非常に低い確率で生き残った元気な細胞がいるんですね。それをイニシエーションといいます。日本語では「起始過程」といいます。
その後、その細胞がさらに自然淘汰されて、生き残って癌になっていくのをプロモーション・プログレッション期といいます。イニシエーションは良性病変ですね、良性腫瘍、プロモーションになると悪性化ということで、こういう一般的な2つの段階。イニシエーションはDNA損傷の作用が起こる、プロモーションはそれがどんどん細胞増殖する時期というふうに分かれるわけです。
(パワーポイント)
これを、イニシエーションとプロモーションに便宜的に分けて、発癌の二段階説といいます。Two-step theoryです。それは今だけでなしに、もう随分昔にベレンブルムという人が論文で唱えた説です。皮膚の発癌物質のDMBA——芳香族炭化水素ですが——をネズミの背中に塗っても、それだけでは発癌は起きない量で処置しておいてその後にTPAというホルボールエステルを塗りますと、両方相まって皮膚癌ができます。しかし、そのホルボールエステルだけでもできない。すなわち、イニシエーターとプロモーターを一緒にしたら癌ができるけれども、イニシエーターだけ、プロモーターだけでは癌はできないというのがベレンブルムの皮膚発癌二段階説です。有名ですから、興味のある人は検索してください。
それは後になって、特に皮膚の発癌だけではなく、いろんなところの臓器でも同じような状態で起こっている、その発癌に際して二段階説で理解できるということがわかってきました。
いろいろ試してみると、遺伝毒性発癌物質、端的にいうと、エームス等で陽性になる物質で発癌性のあるもの、これはイニシエーションとプロモーションの両方を持つ。単独で癌化させる。ずっと量を落としていくとイニシエーションだけで終わっちゃうのですが、非遺伝毒性はプロモーション作用を持つというふうに分けられています。
便宜的に非遺伝毒性物質は遺伝子を傷つけないので安全だというふうに考えますが、これはあくまで便宜上の問題であって、遺伝毒性があってもなくても発癌物質であることには変わりないです。特に農薬系なんかは、遺伝性発癌物質で変異原性が出たらもう開発しないので、食品安全委員会の評価俎上にのってくるのはすべて非遺伝性物質でした。その中で発癌物質というのは結構あるんです。いい方は悪いですけど、かなりあります。ただ、それを、ADI(1日摂取許容量)をどこまでにするかということで厳しくしているわけであります。
非遺伝毒性物質は全部発癌性がなくて安全だというのは神話でありまして、区別は何もありません。発癌物質は発癌物質です。遺伝毒性があろうとなかろうと、関係ありません。
(パワーポイント)
今言いましたことをまとめますと、普通の2年毒性をきちっとやるには大変な時間と労力、お金がかかると。積み残しが山ほどあって、もうとても処理し切れないということです。
そしたら、もっと試験期間を短くして、それでも信頼性の高いデータの出る方法が欲しいということに当然なってくる。企業さんだって同じ考えだと思います。
それで、いろいろなモデルが出てきました。1つは遺伝子改変動物を用いたもの。それから、もう一つは二段階試験法を使う。後者ではあらかじめ発癌物質をやっておいて、それで被験物質を投与する。そうすると、げたを履かせたような状態ですね。その後に被験物質をやると、その被験物質分だけ早く癌ができるから、期間を短くできる。前者は癌ができるように遺伝子を仕組んだやつで、動物を使うこの方法が考えられてきました。
ほかにも、新生仔モデルというのは投与が非常に難しい。これは若いほど発癌物質に対する感受性が強い。というのは、全身で細胞増殖が起こっていますから。ということなんですけど、今度は毒性がすごく出てしまって使いにくいということで、余りこれは使われていません。
(パワーポイント)
遺伝子改変動物を使う方法に用いる動物は2つの違った方法でつくられました。癌遺伝子を人間の癌からとってきた癌遺伝子ですがこれを入れたトランスジェニックマウスまたはラットです。癌遺伝子のオーバードースをさせたのです。
そのひとつがRasH2マウスです。
これはヒトのHa-ras遺伝子を入れたものです。Ha-ras遺伝子というのは、ヒトの乳癌、それから皮膚癌等で活性化されているとわかっています。それを癌からとってきまして、その配列のある部分を受精卵に入れて生まれたマウスは皮膚癌ができやすくなったということでみつかったものです。
皮膚癌と前胃——前胃というのは、食道が胃の一部になったようなげっ歯類に特有の胃で、そこにも癌ができます。
それから、Tg.ACマウス。これはアメリカでつくられました。
それから、H-ras128。RasH2マウスと同じ遺伝子をラットに入れたら、こちらは乳癌がやたらよくできる。これは実は私どもの仕事であります。こういうのがあります。これについてお話しします。
もうひとつの方法でつくったマウスは、p53ノックアウトマウス、今度は癌抑制遺伝子p53というのもを働かないようにして癌ができやすくしたものです。
XPAノックアウトマウスもそうで、XPAという遺伝性の皮膚の色素性乾皮症という病気があります。紫外線に当たると皮膚が簡単に癌になってしまう病気です。それでXPAという癌抑制遺伝子がノックアウトされたマウスです。
(パワーポイント)
RasH2についてもう少し詳しくお話しします。せっかくおみえになったので、もう少し詳しく知りたいという方がいるかもしれません。
導入遺伝子は、普通はヘテロです。両方に用いますと、大体うまく育ちません。対立遺伝子の片側、ヘテロに入れる。それで、こういう交配によってつくったものであります。
それから、発癌物質をやりますと、皮膚、前胃、リンパ腫、血管、に発癌しやすくなります。これらは大体6カ月、2年に比べたら4分の1になった、短くできるということです。
問題は、普通のネズミは1匹1,000円、2,000円ですけれども、このネズミは1匹4万円します。ですから、値段が高い。だけども、ランニングコストは4分の1ですので、はるかに短いということで、使われるようになりました。このマウスについてはかなりのデータがもう既にあります。日本のみならず、世界でかなり使われています。
(パワーポイント)
それから、Tg.ACマウス。これはアメリカでつくられました。ζ(zeta)グロビンというたんぱくのプロモーター下にウイルスからとったv-Ha-ras遺伝子、ヘモグロビンを構成するグロビン蛋白をつくる遺伝子をプロモーター下に導入すると、癌が早くできるわけです。遺伝子は骨髄に入るんですけれども、皮膚発癌が感受性が高いということであります。RasH2と比べると少し寂しいですね。
それで、26週ぐらい、大体似たようなもので、半年でできるということであります。
(パワーポイント)
それから、今度は癌抑制遺伝子を抜いたもの。癌抑制遺伝子p53Pの中のExon5を抜いたら、癌ができやすくなったということであります。細胞増殖をコントロールするブレーキの肝腎な部分、大事なところを取り去ったというわけです。そうすると、できるのはリンパ腫が多いんです。これは日本とアメリカあたりと、ほとんど同時につくられたという経緯があって、特許論争になったということが記憶に新しいです。これもやっぱり6カ月ぐらいで結果が得られます。
(パワーポイント)
それから、XPA、これはヒトの色素性乾皮症ですね。紫外線に当たると、かなりの高い確率でDNAが、二本鎖の間にダイマーをつくって、TTダイマーだと思いますが、そして傷がつく。紫外線に当たったために起こる遺伝子の変異を修復する酵素をつくる遺伝子を除去したということでDNA損傷が修復できないので、紫外線に当たると容易に皮膚癌ができる、そういう病気ですね。
それと同じことを動物でつくったということですけれども、意外とリンパ腫が多い。皮膚にできるかと思うと、違うところにできるんですね。これも、期間はちょっと長いけれども、使えないことはない。ただ、バックグラウンドデータが少ないので、多く使われているわけではありません。
(パワーポイント)
H-ras128ラットは、私どものつくった、さっきのRasH2と全く同じ遺伝子をラットに入れたものです。皮膚発癌は共通して発生しましたが、こちらのラットは乳腺癌があっという間にできるということで、私どもは、乳腺癌を指標として化学物質の発癌性の検定に使えないかということで少しやったのですけれども、資金が枯渇しましてアメリカのNIEHSにもっていったら、おもしろいということで、やろうということになって、向こうも予算を申請したんですが、通らなかったからだめになった。惜しいことをしちゃいましたけれども、そういうことで今のところ背景データは少ないです。
(パワーポイント)
簡単に、これは自分たちのことで、宣伝も兼ねてお話ししますと、これはHa-rasで3コピー、この分を入れた3コピー、3倍入っているということです。これでやりますと、ほとんどの細胞に全部入っているわけで、5番染色体の中に乗っかっているということがわかります。
5番の染色体のあたりは特に発癌関連遺伝子がないので、発癌感受性の亢進は入れたC-Ha-ras遺伝子ということになります。
(パワーポイント)
普通のラットは乳癌は1年ぐらいかかるんですけど、DMBAという乳腺発癌物質、あるいは先ほどいいましたPhIPという焼け焦げ産物の中の乳腺発癌物質で20週もかからない短期間に乳癌ができます。
不思議なことに、マウスのほうもそうですし、ラットもそうですが、発癌物質を投与して癌ができると、入れたヒトの遺伝子のほうが変異を起こしています。ところが、動物の内在するras遺伝子は変異を起こしていない。その辺が不思議なところですが、理由はわかっていません。わずかな例から類推するのは科学的ではありませんが、どうも人間の遺伝子というのは化学発癌物質に弱いんじゃないかという印象はあります。
(パワーポイント)
これは、起始の発癌物質だけやってみると、10週から12週の間に、特に雌の場合は乳癌が短期でできるのです。
DMAというのはヒ素化合物です。ヒ素では乳癌はできなかったんですけど、あとの既知の発癌物質では大体全部乳腺癌ができる。こちら側は普通は乳腺癌をつくらない物質ですが、それでも乳癌ができます。それで乳腺に癌をつくることを指標にして短期検索ができるということです。10週から20週でできるということがわかりました。ここに示す以上のデータはないので、バックグラウンドはまだ少ないということになります。
(パワーポイント)
まとめますと、最初のRasH2マウス、トランスジェニックのほうはこのぐらいでいいと。遺伝毒性、非遺伝毒性についても大体いいということですが、信頼性が高いということで使われつつあります。Tg.ACマウスはまだちょっと、皮膚発癌だけですので、アメリカが使おうとしていますが、それほど多くはない。p53癌抑制遺伝子を抜いたほうは、割と使いやすいということで使われています。それから、XPAはまだちょっとバックグラウンドがないと。私どもがつくったH-ras導入ラットはデータ不足ということで、まだ国際的評価がないということであります。
(パワーポイント)
それから、今度は二段階モデルのお話をさせていただきます。
(パワーポイント)
二段階発癌モデルですが、あらかじめ発癌処置をしておいて被験物質をやる、げたを履かせるという状態であります。先ほどは遺伝子でげたを履かせましたが、今度は発癌物質でげたを履かせる、そういうモデルであります。
(パワーポイント)
肝臓を標的としたものを主としてお話しします。なぜかというと、肝臓癌をつくるほうができやすいんです。
これはWHO/IARCの調査ですが、環境発癌物質の60%ぐらいが肝臓に癌を発生させる。ですから、肝臓癌を指標とすれば大体半分ぐらいは当たるだろうと、こういうことになります。ということで編み出されたのがこれからお話する中期発癌物質検索法です。
(パワーポイント)
イニシエーターは肝発癌物質、ジエチルニトロサミンを用います。200?/?をi.p投与します。その、2週目から被験物質を普通は餌に混ぜて投与します。そして、3週目に3分の2肝臓切除をします。ラットは、肝臓を3分の2とっても、死にません。そのときはぐったりとしていますが、1週間もすれば元気になって、2週間たつともとに戻ってしまう。再生能力が非常に強いんです。
なぜこういうことをやるかというと、被験物質を投与中にS期の細胞を増やせるからです。
増殖期細胞は癌原物質に対して感受性が高いということで、それを肝臓にもっていくために行います。すなわちイニシエートされた肝細胞をより増殖させるためです。部分肝切除はそんなに難しい手法ではありません。
この群は化学物質だけ。この群はイニシエーターだけ。イニシエーション+被験物質投与群とイニシエーションのみの群をくらべて、前者の方の前癌病巣が多ければ、この物質がプロモートしたということになりますね。そういう検査法です。
これは、実は私どもがまだ名市大で伊東先生と一緒にやっていたころに開発したモデルでありまして、300ケミカルぐらいやりました。朝から晩までいろいろやったわけですが、先生の名前をとって、本人が生きておられるうちは別に名前をつけなくても良いと言っておられましたが、亡くなられてからは皆さんが、「伊東モデル」と呼ぶようになりました。
(パワーポイント)
指標とする病変は、試験期間が短いですから、癌はなくて前癌病変です。これは、弘前大学の佐藤清美先生——男性ですけれども——がみつけられた、グルタチオンS-トランスフェレースの抗体で染まるラットの腫瘍性結節病巣(GST-P陽性巣)で、この中から肝癌が出るということがわかりました。
GST-P陽性巣の最小の大きさは直径200マイクロメータだということで計測しますと、その値は発癌結果とよく合うということになります。
(パワーポイント)
肝を標的とする発癌物質の90%以上がこの方法で陽性に出ると。肝を標的としないのは20%。こっちは悪いわけですね。
ということで、非発癌物質については1個できる。フォールスポジティブは少ないということであります。こういうことがわかりました。物質は大体159ぐらい。160やってこんなふうなであるというデータが現在あります。
(パワーポイント)
もう一つは、この特徴は、この方法で鼻部に曝露、要するに吸入曝露をやったらどうかということで、これは化学物質評価研究機構(CERI)と共同でやってみました。これは鼻部曝露の機械です。CERIが開発した機械ですが、鼻のところから吸入させるということで、キノリン、四塩化炭素、これは弱い発癌物質ですが、これを吸入させると、GST-P陽性がふえるということで、吸入にも使えるということがわかった研究であります。
(パワーポイント)
そういうことで、これがほかのものですけど、キノリンは、食べさせても、経口投与でも吸入でも伊東法で陽性に出ます。それから、四塩化炭素ですね、これも弱い発癌物質で陽性に出るということがわかったわけです。
(パワーポイント)
ということで、感受性については高いと。特異性、フォールスポジティブは少ないということになります。ポジティブと出る可能性が98%あるということで、これを裏返したんですけども、偽陽性、そういうことがわかりまして、まあまあうまく使えるということであります。
(パワーポイント)
調べると、マウスでネガティブに出ている発癌物質は結構あるのですがこの方法ではかなりよく検出されるということもわかってきました。
マウスはもともとバックグラウンドの腫瘍が非常に多い。肺癌、肝癌、それぞれの種類によって違いますが、よく出てノイズとなります。アメリカなんかではもうマウスでは、被験物質がやたら発癌物質になってしまうのでマウスの試験はやめようという意見もあったぐらいです。
この辺は農薬ですね。アルドリン、バルビタール、フェノバルビタールとかですね。これはネガティブに出ます。カルバゾール。ディルドリン。これも陰性ですね。
これはDEHP。最近ちょっと問題になりましたプラスチックの可塑剤ですね。これは生産量も多いんです。ついこの前まではグループ3でしたが、IARCのボリューム105では2Bになりました。この会議に私は評価委員として招かれました。ご存じのように、DEHPはperoxisome proliferatorsですが、それを介さない経路で発癌することが分かってきたからです。peroxisome proliferatorsは医薬でありますね。高脂血症剤です。医薬はリスクベネフィットで使うからそれで良いのですが、こちらはもっと厳しく扱う必要があるし、実際には今言いましたような経路があって、グループ2Bになったわけです。
しかしDEHPは伊東モデルではネガティブになります。しかし長期投与では、癌ができるのです。癌はできても、DEHPで発生したものはどういうわけかGST-Pはネガティブなんです。後でわかったんですけれども、GST-Pの制御領域とインタラクトしてGST-Pの発現を抑えてしまうということがわかりました。
Trichloroacetic acid、これもGST-Pネガティブですね。あとは大体出るということで、マウスで出ないやつも出ると。逆のもありますけれども、大体少しいいようです。
(パワーポイント)
問題は、これはわずか8週ですから、判定は前癌病変じゃないか、癌のほうはどうなっているかという議論があります。
そこで長期試験結果と比較してみました。結果はGST-P陽性巣と癌の発生は同じように合うということもわかりました。
(パワーポイント)
ということで、伊東法の利点では、癌と前癌病巣と指標とするものでよく合うと。それから、マウスの肝で陰性のものもOKです。それから、投与経路を選ばない、吸入曝露も可能であるということがわかってきました。ただ、非肝発癌物質、先ほど検出率は20%といいましたね、ちょっと弱い。肝臓を標的としないものでは使えないということです。
(パワーポイント)
じゃあ、どうするかということで工夫したのが、2段階モデルで肝以外の臓器も癌または前癌病変ができるように、仕組んでおいてやればいいじゃないかということで、たとえばこれは肝発癌物質、MNUというのは多臓器に癌をつくります。主に骨髄系、リンパ系です。このDHPNは肺と甲状腺、腎臓等を標的とします。
というわけで、それだけの臓器に、発癌するようにげたを履かせておいて被験物質をやると、どうなるかということです。
(パワーポイント)
 さらに標的をふやして、肝臓、リンパ系、それから膀胱、大腸、肺、甲状腺あたりを標的とするというふうにしてから被験物質を投与するということで、伊東モデルで検出できない臓器を補完しようというわけです。そうしますと、肝発癌物質は当然ですが、非発癌物質は90%検出できるということで、これらの2つの多臓器発癌モデルで大体いけるのではないかと考えています。
(パワーポイント)
指標病変は、今いいました臓器は大体が前癌病変です。期間が短いので、癌までもっていけませんから、前癌病変でみることになります。
それで、前癌病変と癌との相関については、特にラットについてはたくさん論文がありまして、一時期、僕がまだ駆け出しのころ、前癌病変の生物学的特性の解析というので文科省、厚労省の研究費で研究しましたが、前癌病変の発生と癌の発生はよく相関するということにが判りました。
(パワーポイント)
例えば、これは肺癌ですね。ぼこぼこできています。これは前癌病変でアデノーマあるいは過形成、これは癌です。これは膀胱癌がいっぱいできていますが、初期病変は、パピローマというわけです。甲状腺ですが、早期の段階のも顕微鏡でみつかります。これは胃癌です。こっちが前胃ですがこの写真は、腺胃の胃癌。ヒトと一緒です。これは大腸ですが、非常に初期の前癌病巣で変異腺窩巣といいます。ヒトにもみつかるということがわかっています。
以上はほんの一部ですけれども、動物の前癌病変というのはかなりよくわかっているので、その知識をもとに診断してできるということになります。
(パワーポイント)
伊東法で陰性になった物質を多臓器モデルでやってみますと、大体これでいけるということになります。
(パワーポイント)
ということで、多臓器モデルでは伊東法の補完として大体できると。ただ、伊東法とくらべて期間は長いです。8週に対して20週ぐらいかかりますから、そういうデメリットがあります。
それから発癌物質を多種類使うので、取り扱いに注意する必要があるということもあります。
(パワーポイント)
伊東法で陽性だったら肝発癌物質です。これでもう勝負がついた。陰性の場合は、先ほど半分は肝臓を標的としないから多臓器でやる。陽性だったらこれは発癌物質である。その臓器を標的とする。陰性の場合はどうするかというと、さらにそれでも開発を進めたい企業さんは、やっぱり2年の慢性毒性試験をやってくださいということになります。発癌物質はこの方法で除外できるから開発途中でスクリーニングできるわけですね。何から何まで全部やる必要はないことになります。
これは我々の提案している検索プロトコルです。
(パワーポイント)
これは、『Toxicologic Pathology』という本がございます。アメリカの毒性病理学会の雑誌ですけれども、それに3年前に私が書いた論文が出ています。今いったようなことが書いてあります。
(パワーポイント)
実は、今のことに基づきまして、こういう発癌物質検出評価の加速ということで、委員会ができて何度も検討されました。伊東法、あるいは多臓器発癌や、ほかの遺伝子改変動物も含めて、まずスクエア1からどういうふうにもっていったらいいかという検討がこの間に熱心になされました。
(パワーポイント)
委員としては、大前先生を座長として、それぞれの分野の専門家が集まって、もちろん我々みたいに癌の研究だけじゃなく、遺伝子医療をやっている方、それからもちろん労働衛生の関係の方、それからレギュラトリーに詳しい方、そういう方たちが集まって熱心に討論してきました。
(パワーポイント)
現行は、やっぱり先ほどいいましたOECDテストガイドラインに準拠して、あるいはこういうNTP、ゴールデンスタンダードなんですね。
(パワーポイント)
今後はやっぱり代替法を入れると。長期試験はまだ2種ですね。ラット、マウスだと1種。原則としてラットのほうを代替に使おうということで、どっちかを使っていくということになります。
(パワーポイント)
そして、それについてはいろんな絞り込みがあります。この辺は松井室長さんのほうが詳しくお話しされると思いますのではしょりますが、こういうのでやっていくと。これについてずっと、サイエンティフィックにちゃんと全部補完できるかというところを、私は参加してやりました。
で、こういう指針が出てきてやっていくと。これは松井室長さんのほうからお話が出てくると思います。
(パワーポイント)
結局のところは代替法が要るだろうということになってきまして、こういうスクリーニング的なことから形質転換に進めまして、そしてin vitro試験。
(パワーポイント)
これは8週間ですから、伊東モデルを指している。それから、多臓器発癌等に移っていくということで出すということに大体落ちつきつつあるということで、こういう会がもたれたのだと思っております。
以上でございます。
○司会者  津田先生、ありがとうございました。
次に、松井化学物質評価室長にご講演いただきます。
それでは、松井室長、よろしくお願いいたします。
○松井  厚生労働省の労働基準局化学物質評価室の松井といいます。よろしくお願いします。
今、津田先生にお話ししていただいたとおり、私ども昨年の秋から年末にかけて、職場で労働者が使っている化学物質が非常にたくさんあるんだけれども、その中で発がん性のある物質をできるだけ効率的に、その可能性のあるものをみつけられないだろうかということで検討をお願いいたしました。
その結果が、先ほどの津田先生のお話にあったようなところなんですが、こういったことを我々としては行政の対応のほうにこれから反映させていくというようなことにしております。
このリスクコミュニケーション、最近何年かやってきているわけですけれども、従来ですと、労働基準局のほうのリスク評価がある程度進んで、個別の物質の規制が入るかもしれない、あるいは入りそうだという時点で、こういった意見交換会をやっていったわけですけれども、今回はそのちょっと前、リスク評価に入る前の有害性、つまり発がん性の評価の段階の検討をいただきましたので、それをこれから労働安全衛生法、あるいは労働基準局の通達の関係に反映していきますので、この段階で意見交換会を行おうというふうにしたものです。
(パワーポイント)
先ほどの津田先生のお話をどんなふうに反映していくかということなんですが、まず反映できそうなところについて、幾つかお話ししておこうと思います。
この三角形ですけれども、一部通達なんですが、労働安全衛生法の化学物質の関係の規制を説明するのに使っているものです。
先ほどお話があったようなこと、どの辺に反映できるようなことが可能性として考えられるかというと、まず国によるリスク評価をしまして、上のほうにあります特別規則に基づいた管理の規制をかけておりますけれども、この規制が必要かどうかというのを国のリスク評価で今判定をしてきているところです。
この国のリスク評価の対象物質になるかどうかというようなところが、発がん性の評価をされて発がん性のおそれがあるかどうかというところ、どのくらいの可能性であるかというところに反映することができるのかなというふうに考えております。
それから、もう一つは、先ほど津田先生にご紹介いただきましたけれども、日本バイオアッセイ研究センターのほうに委託しまして、長期の発がん性試験、2種類の動物で2年間の発がん性試験を行いまして、その結果、労働者にがんを起こす可能性があるというものについては、こちらの技術指針というのをつくりまして指導させていただいているところですが、委託で行っております長期試験の試験方法、あるいはスクリーニングの過程で得られた情報を、この幾つかの指針とか、あるいはもう一つ下にあります強い変異原性のある物質の通達による指導、こういったところ、これに類するものに反映することができるんじゃないかなというふうに考えておりまして、具体的には来年度以降、スクリーニングから新しい方法による発がん性試験などを行っていきますので、その結果をこういったことに反映させていこうというふうに考えております。
(パワーポイント)
まず、リスク評価のほうは、以前は問題になった物質について後追い的にやってきたものを平成18年以降、予防的に労働者のリスクがみられるものは、それを調べて規制をかけていこうと、できるだけ後追いにならないようにということで取り組んできたところです。そのためにやってきましたのが、先ほどのリスク評価という取り組みです。
(パワーポイント)
これは、先ほどの発がん性の評価のような、化学物質自体がもっている有害性の評価と、その化学物質を扱うときに、どのくらい労働者がそれにばく露されるんだと、両方を比べてみて、労働者のリスクが高ければ、先ほどの特別規則のようなもので規制していくというようなことをこの数年やってきたところです。
(パワーポイント)
平成18年度から始めまして、50物質についてリスク評価を実施いたしました。そのうち、48物質というのは、先ほど津田先生がお話しになりました国際がん研究機関などの評価によって、発がん性のおそれのある物質について調査をしまして、そのうち12物質について規制を追加してきております。
(パワーポイント)
規制の内容については、もちろん物質によって一部違っておりますけれども、おおむねこんな内容の規制を行ってきているというところです。
(パワーポイント)
今までそんなふうなことでやってきたんですが、先ほどの津田先生のお話にありました検討会で検討いただきました結果をこのリスク評価の対象物質に反映させていくということがあります。
それから、先ほど国際がん研究機関などの評価が、既にある程度発がん性のおそれがある物質を対象にしてきていたんですけれども、国が委託で実施しております長期の発がん性試験、こういったものの結果で、国際がん研究機関の評価は先ほどの3のものであってもリスク評価の対象にしていこうということで、こういった取り組みを始めているということがあります。
上の四角囲みの3つ目の丸ですけれども、既に規制の対象になっている物質であっても、発がん性という観点からみて、その規制が十分であるかどうかという、そういう検討も今後やっていく必要があるのかなと思っております。
2つ目の四角囲みは、きょうのお話とはちょっとそれるんですが、発がん性以外の有害性のある物質についてのリスク評価を始めているということ。
それから、3つ目の四角囲み、ナノマテリアルについてもいろいろな、普通の物質と異なる有害性が指摘されているので、そういったものについても取り組みを始めているというようなことです。
(パワーポイント)
先ほど来、少し話に出てきている、国が日本バイオアッセイ研究センターに委託をして実施している長期の発がん性試験というのは、先ほどなかなか数をこなせないというお話がありまして、私のほうからみても、昭和57年以降、30年くらいやってきまして、今まで49物質が終了してきていると。そのうち28物質については、先ほどの一番最初の三角の絵にありました中の指針で指導をしてきているということがあります。
(パワーポイント)
あともう一つは、新規化学物質については、エームス試験などを行っていただきまして、その結果を添えて国に届け出ていただくというようなことで、そういった中で強い変異原性が認められた物質についても、これは通達によって指導をしているということがあります。
(パワーポイント)
先ほどの話の繰り返しになりますけれども、こういったようなところに先ほどの、このスライドの下にありますけれども、化学物質のリスク評価検討会の有害性評価小検討会で昨年の9月から12月にかけて検討をいただきまして、中身としては長期発がん性試験の効率化と、それからスクリーニングの迅速化ということを検討いただいたところです。
(パワーポイント)
これは先ほどもありましたけれども、大前先生以下、津田先生などに検討いただきましてまとめていただいた検討結果、大ざっぱにいうとこういうことで、詳しくは2月20日の有害性評価小検討会に最終版を配付しておりまして、もうすぐホームページにも掲載しますので、もし必要であれば参考にしていただきたいと思います。
(パワーポイント)
一番上の四角にありますように、職場で使われている物質ですが、私ども大ざっぱに、大体6万物質ぐらいあるんじゃないかと。その中で、年間1トン以上、1つの事業者で製造、輸入される物質が7,000ぐらいと。そのうち、発がん性に関する情報があるのは一握り。7,000に対しては比率は少ないので、そういった中で遺伝毒性の有無の判断ですとか、遺伝毒性の強さ、それから先ほどの非遺伝毒性の発がん性物質のスクリーニングについてはいろんな新しい方法が開発されてきていて、こちらのほうは来年度からすぐ試験実施というふうにはならないのですけれども、そういった試験をさらに検討してスクリーニングをしていきたいというふうに考えております。
(パワーポイント)
そういったものを発がん性のおそれという段階までもっていくために、ご検討いただきまして、まず先ほどのお話にありました伊東法と呼ばれている2段階発がんモデルの肝発がん性試験、肝臓をターゲットにした試験が、本試験が8週間ぐらいでできるということで、一番効率的で、かつ発がん性物質の半分以上はこれによってみつけられるということがありますので、これを来年度からやっていこうというふうに思っております。
こういったもので陽性の結果が得られて、発がん性のおそれがあるものについては何らかの指導が必要ではないかということがございます。
そういったものについて、順次長期の発がん性の試験、これは先ほどのお話にありましたように、1種類の動物では長期試験で、もう1種類の動物についてはもう少し短い試験。
これは医薬品の製造の承認ですね。これの手続では既に取り入れられている手法なのですが、私どもの委託試験のほうにもこれを入れていこうというふうに考えております。
こういった物質について、先ほどのリスク評価の対象物質にしていくというようなことを考えております。
まだ具体に細かなところ、あるいは指針といってもどんな指針なんだというようなところはこれから詰めていくんですが、この段階で意見交換をさせていただこうというようなことできょうはお話をさせていただきました。
私の話は以上です(拍手)。
○司会  松井室長、ありがとうございました。
それでは、これから休憩に入りたいと思います。3時5分まで休憩をいたします。
先生方にご質問がある方は、お手元にお配りしておりますピンク色のアンケート用紙にお書きいただきまして、3時までに私か、皆様から向かって右側に立っている女性か、どちらかのほうにお渡しいただければというふうに思います。
では、よろしくお願いします。

     (暫時休憩)

○司会者  それでは、後半の意見交換に入ります。
コーディネーターは、順天堂大学医学部公衆衛生学教室助教の堀口先生にお願いをしております。
パネリストといたしまして、基調講演を行っていただいた津田先生、それから厚生労働省化学物質評価室の松井室長、また、大淵有害性調査機関査察官に出席をいただいております。
では、16時ごろまで、あらかじめ会場からいただきましたアンケート用紙でご提出をいただきましたご質問につきまして先生方からご回答をいただきます。その後、30分ほどですが、会場から直接ご質問を受けたいというふうに思います。
なお、記録のために、差し支えなければで結構ですけれども、ご質問される方は最初に所属と名前をおっしゃっていただければというふうに思います。
また、ご質問の方には、係の者がマイクをもってお伺いしますので、必ずマイクを通してお話しいただけるようお願いいたします。
それでは、堀口先生、よろしくお願いいたします。
○コーディネーター(堀口)  こんにちは。順天堂大学の堀口です。
東京会場のほうは100人ちょっとの参加者がいましたので、結構時間が押して、押してという状況でしたが、きょうはそれよりは少ない人数なので、フロアからの質問も、時間がありますので、よろしくお願いいたします。
済みませんが、最初に赤と青の紙で皆さんに教えていただきたいことがあります。
私のほうから質問させていただきたいんですけれども、厚生労働省と中災防のほう、委託事業で、このリスクコミュニケーションについて、これまで3年ぐらいこのような会をもってきたんですけれども、皆様個人でなくとも、会社がとか、所属する団体さんのほうで、このようなリスクコミュニケーションにご参加のご経験のある方は赤、そうでない方は青を挙げていただきたいんですが、よろしいでしょうか。お願いします。——わかりました。参加している人がちょっと少ないぐらいな感じですね。
それから、よく健診のご質問等をいただくことがあるんですけれども、産業医の方は赤、そうでない方は青を挙げていただけますか、お願いします。——産業医さんは1人ですね。ありがとうございます。
それでは、最初はいただいた質問に従って進めていきたいと思います。
先生、ご質問が来ていますので。
○津田  はい。
○コーディネーター  げっ歯類以外の動物におけるスクリーニング法の適用についての評価結果を教えてほしい。
○津田  げっ歯類以外ですと、まず魚類が頭に浮かびますが、若干はあると思いますが、発癌試験となると、ほとんどデータはないんじゃないかと思います。
また、実施は難しい。その1つは、飼うのに水族館のような設備が要ると。さらにその排水が問題になってくる等々の、コストの問題がありまして、余り盛んには行われていません。
短期の試験は、魚類で行われているのはあります。
○コーディネーター  動物実験以外での評価方法は、まだ検討は行っていないのですか。
○津田  行政と関連して、という意味でいったら、松井室長さんのほうからです。
○松井  動物試験以外といいますと、ヒトの疫学調査というのはありますけれども、先ほどの津田先生のお話のように、どうしてもそれだと後追い?なるということがあります。
それから、あと培養細胞系での試験ということですと、従来から遺伝毒性試験でスクリーニングをしているところなのですが、もう少し新しいもので、配付されている資料の31ページの上のほう「非遺伝毒性物質の発がん性のスクリーニング」と書いているスライドがありますけれども、このうち「in vitro形質転換試験」ということで、これはマウス由来の培養細胞系に発がん遺伝子、ras遺伝子を組み込んだ細胞系が確立されておりまして、これに被験物質を投与することによって、これは遺伝毒性ではなくて発がん性そのものを試験、推定するという試験系が開発されてきております。
これは、OECDのテストガイドラインに提案をしていて、ピアレビューが今年度で終わると。その後どうなるかというのは、私どもわかりません。去年の検討のときには、食品薬品安全センターの田中先生にお話を伺いました。
それ以前にも、厚生労働省でOECDのほうに提案しているものもありますし、アメリカのほうからも提案されているものが、同様の試験系であるというようなところです。
ただ、これはまだテストガイドラインに採用されているわけではないというようなところと、実施機関もまだ限られているというようなことがあります。
そんなことで、お答えになっているかどうかはわからないですけれども。
○コーディネーター  津田先生、何かつけ加えることはありますか。
○津田  特にありません。
○コーディネーター  昨年の胆管がんは、1,2-ジクロロプロパンの大量長期吸入により発生したと理解しているが、今回説明の評価法で使用するラットには胆嚢がなかったように記憶している。標的臓器が試験動物に備わっていないような問題には、どのように対処するのでしょうか。100%ヒトと同じというのは困難と思うのですが。津田先生、お願いします。
○津田  非常にいい質問です。ラットには胆管がないので、胆管癌モデルはありません。ただし、膵胆管系を標的にすれば、同じようなものだというふうに解釈されますし、恐らく予想としては、癌が標的になるのではないかと思います。動物種によって標的臓器は違いますが、癌原性ありということについてはデータが得られると思います。
○コーディネーター  津田先生にご説明いただいた手法だと、従来より短期間で評価できますが、それでも世の中の化学物質の数からすると、現在のシステムではマンパワーが不足だと思います。津田先生のご意見をお願いします。
○津田  まさにおっしゃるとおりです。日々我々の生活環境中に毎日出てくる化学物質に対し、試験は全く追いついていません。
あとは、松井室長のほうから。
○松井  一応、限られた予算と対応できる期間の中で、先ほどのスクリーニングの取り組みなどをしているところですけれども、その中身は、配付資料の30ページにあります。
ただ、これらについて全て必要な試験をするのには、相当の期間を要するというような状況であることは確かです。
今後とも皆さんのご声援をいただければ、予算ももっと確保できるのかなというふうに思っております。
○コーディネーター  伊東法で陰性の場合は、「多臓器」に進むのか、あるいは「2年」に進むのか教えてください。
○津田  コストからいえば「多臓器」で、もう1つスクリーニングをかけたほうが安上がりではないかと思います。「2年」をやりますと、期間も、予備試験も入れますと三、四年かかる。それから、お金もかかるんですけど、「多臓器」ですとそうは要らない。1群20匹ぐらいで大体データが出ますので、そっちのほうが安い。
ただ、それがネガティブになった場合、その化学物質をどうするか。どうしても市場に入れたいとなると、やはりその先に「2年」があると思います。そこで癌原性が出れば、落ちるということにして、まずスクリーニングをすればいいと思います。
○コーディネーター  酸化チタニウムの発がん性評価はされていますか。
○津田  IARCで評価されたとおり、ドイツのフラウンホーファー等で既に吸入試験がありまして、雌ラットの肺に発癌性があることが認められています。
ただ、吸入試験なので他施設のデータ等がたくさんあるわけではないので、グループ2Bであって、Aにはなっていない状況です。ラットに発癌性があることは間違いないです。
ただ、職場曝露についてはデータがないので、それについては全くわかりません。
ですから、発癌性の可能性があるということになっています。
○コーディネーター  遺伝毒性の評価、材料として、手持ちの試験結果、データの提出は認められますか(追加実施を含めた)。
○松井  おっしゃっているのは、既存の物質で、恐らく通達などで一定の評価をされているものについて、違う試験結果がありますよというようなことだというふうに考えられるんですけれども、これはあくまで制度に基づくものではなくて、任意に私どもにいただけるのであれば参考にさせていただきます。
その場合に、公表できるデータかどうかというのもあらかじめ教えていただければ。公表できるデータであれば、いろんな検討会などに出して、検討材料にしていただくことができると思います。そういうものがあれば、またいただければと思います。
○コーディネーター  いろいろありますが、ばらばらな感じがするので読み上げていきます。
ナノ物質に対して、以前通達を出しましたが、その後その対応はどうなっていますか。取り扱う企業は通達を守られていますか。最近は、経済産業省のナノ物質に対する取り組みが活発ですが、この点の情報共有と連携は進んでいるのでしょうか。
○松井  ご指摘のところは、平成21年3月に厚生労働省の労働基準局長名で出している取り扱いの通達だと思いますけれども、その後、一昨年の秋から年末にかけて、これも先ほどのリスク評価関係の検討会ですけれども、これからどんなふうにリスク評価をしていくんだというような検討を行いました。そのときにナノビジネス推進協議会ですとか、またそのときとは別の機会に、酸化チタン工業会の代表の方にもお話を伺いまして、業界の対応状況というのは、その一昨年の検討会のときに少しまとめて資料で配っておりますので、それはホームページにぶら下がっています。
ただ、もとを正せばそれは何かというと、経済産業省のほうに企業のサイドから出された取り扱い状況というのを厚生労働省でまとめて資料にしたというようなところです。
そういったことでリスク評価に取り組んでいくんですけれども、その材料としては、経済産業省で実施されたいわゆるNEDOプロジェクトのナノマテリアルの3物質の評価書というのが、かなり重要な材料になるんじゃないかと思っておりますし、関係省庁で連絡をとりながら、ナノマテリアルについては対応を検討しているというようなところです。
○コーディネーター  発がん性物質としては非常に流通も少ない(全物質からみると)と思われるが、企業、事業者に対し規制を示すだけでなくて、立入検査エトセトラをしないとチェックはできないのではないでしょうか。結果的に絵に描いた餅となってしまうおそれはないかと思いますが。
○松井  まず、一般的なレギュレーションとしては、先ほどの配付資料35ページの下にありますような規制をするかどうかというのを、先ほどのリスク評価結果をもとに検討していて、35ページの上のスライドにあるような12物質について追加をしてきているということがあります。
もちろん、労働基準監督署もございますので、制度的には立入検査もできますし、したものもあります。
想定されているものがどういうものか、というのがあるんですけれども、私どもの今やっている取り組みとしては、リスク評価の対象物質を決めて、告示を官報に載せたりいろんなところで公表をして、それを年間500キロ以上取り扱っている事業所は報告をいただいて、それをもとにリスク評価を進めています。報告しないと、一応罰則もついている報告制度です。
こういったものをベースにしてリスク評価をしているということと、もちろん立ち入りとかをするということになると、やはりそれなりの状況のあるものについては、ある程度強権的なこともやることはできるというようなことです。
○コーディネーター  短期、中期発がん試験の結果はGHSでは反映しないので、SDSでは分類できないとなる。指針による指導が伝わらないのではないでしょうか。
○松井  今、GHSの分類の関係省庁でつくっているガイダンスでは、確かに分類できないのがあります。ただ、これは今後、関係の部署と検討しないといけないということがあります。
ただ、その指針については、別途こういう物質については発がん性の一定程度のおそれがありますよということで考えますので、どういう形式になるかどうかというのは、まだこれからですけれども、こういうやり方がいいということであれば、また教えていただければと思います。
○コーディネーター  特化則は、ハザード管理ではなくて、ばく露量、頻度、作業環境(局排や報告?)を考慮したリスク管理にはなっていない。
作業上のリスクに応じた、区分けした管理にすべきと思いますが、リスク評価委員会での作業に当たってばく露評価をしたとしても、基準値を超えた事業所は一部であり、大半は基準値以下で作業していたのに、全ての企業に規制をかけるのはいかがなものか。
○松井  リスク評価に当たっては、一番悪い数値が得られた場合、それと基準となる濃度を比較しています。
なぜかというと、一定の共通をもつグループの中でこういう数値が出ているということであれば、そのグループの中のほかのものも、その数値になる可能性があるということを考えています。
ただ、特殊な使い方をその事業場だけでやっている場合、その事業場の管理が特に何か飛び抜けて悪かった場合、そういった要素を排除するために、その作業をその物質を使って行った場合に共通して高いリスクがあるのかどうかというのをリスク評価検討会で検討していただいているところです。
実は、私ども評価値といっている基準となる濃度より高い濃度がみられた物質であっても、その現象がその事業場に限られているというふうにリスク評価検討会でみられた場合については、規制の対象まで進んでいないということが実績としてあります。
なお、特化則の中には、さまざまな例外規定が含まれていまして、局所排気装置については、例えば一定の連続する2日間で濃度をはかって、管理濃度以下であったこと、そういった事実をもとに労働基準監督署に届け出ていただければ設置する必要はない、そういったいろいろな特例の規定を設けているところです。
もう一ついうと、規制の対象じゃない物質について、まさにリスクに基づく管理をお願いするために、リスクアセスメントの努力義務という規定を置きまして、こういった管理を行っていただくようにお願いをしているところです。よろしくお願いします。
○コーディネーター  対象物質についての質問です。対象物質を選定し実験を行われるのは、通常化学物質単位であると思うのですが、法令実施時には、一般名(例えばコバルト及びその化合物)となる場合があります。これは科学的に妥当な方法でしょうか。
例の場合、コバルトを含む無機化合物全てに有害性があることの実証は行われていないのではと感じます。
○松井  こういう法令に基づく規制について、金属化合物についてはかなり広い範囲でグルーピングされている状況にあります。
これは、日本だけではなくて諸外国もそうですし、あるいは国際がん研究機関のような機関のグルーピングもそうですし、それにならっていると。なぜかというと、金属元素の有害性に共通性があるということから安全側をみているということです。
逆にいうと、有機化合物、何で異性体だから毒性が違うのかというと、それはデータがあるわけです。
例えば、全く例は違いますけれども、合成大麻のように、少し有機物の構造が違ったからといって規制対象ではないということが非常に問題になっているわけです。私どもの部署ではありませんけれども、薬事法の省令を改正して骨組みを指定して包括的に規制をかけるというような取り組みもやっております。
もちろん、十分な情報をもとに規制を考えるというのは全くそのとおりなのですが、物質によって今までのグルーピングですとか、有害性の共通性ですとか、そういったものがさまざまある中で、今の選択をしているというところです。
いろいろなデータをまた教えていただければ、違う考え方ができる物質もあると思いますので、そのあたりはよろしくお願いします。
○コーディネーター  発がん性が確認されてから行政通達が出るまで、どのくらいの時間がかかりますか。
○松井  これについても、先ほどの長期発がん性試験からがん原性の指針、先ほどの説明の中でありました指針まで何年かかかっているというのが今までの状況です。
というのは、先ほどの指針の中に、作業環境の測定をして管理してくださいというくだりがあります。その発がん性がわかると、その物質の作業環境測定法を実際にはかれるかどうかというのをまた委託に出しまして、測定法を検討してもらっていたりします。
そんなこんなで、すぐ出せないという状況が確かにあるんですけれども、今後はいろんな、先ほどお話ししましたような背景がありますので、もっと早くできないかということは今、検討しようとしているところです。
○コーディネーター  生殖毒性、神経毒性評価の今後のスケジュール及びその可能性のある物質を知りたい。
○松井  まず、生殖毒性や神経毒性の観点から、既にリスク評価の対象物質として選んでいる物質があります。これは少したまっているので、今後どんどんリスク評価していかないといけないということがあります。
その選ぶときにベースにしているGHS区分の1に当たる物質がどんなものかというのも、それを選ぶときの資料に出ております。こういったところがとりあえずの候補になっていると考えていただければと思います。その辺はリスク評価検討会なり、リスク評価に係る企画検討会というのを労働基準局でやっておりますので、そこに出ている資料はホームページに掲載されておりますので、参考にしていただければと思います。
○コーディネーター  今のは「今後(現在)ターゲットに挙がっている(予定の)物質は?」というのを包括していますか。
○松井  そうですね。
○コーディネーター  近年、特化則に新たな対象が加えられてきている(ニッケル、コバルトなど)。製造現場からは、これまでの対象物質と比較し、規制の程度が高い(作業記録のほか、健診結果の保存年数など)ことに対し、なぜこれまで規制されていなかった対象がこれまでの対象物に対して程度が高いのか、これまでは放置されていたのか、本当にこれまでの対象物と比較して危険度が高いのか、などの声があります。
法対応として、現場には対応させているが、衛生担当部門としてとまどいがあります。
○松井  今までの物質よりも規制がたくさんあるというのではなくて、特化則の中に「特別管理物質」というのがあります。これは特化則の38条の3の条文の中に括弧書きで「特別管理物質」って出てくるんですが、これはがんのような遅発性の重篤な障害を起こす物質について規定しておりまして、これらは長い期間保存しておかないと、あるいは作業の記録をとって長い期間とっておかないと、後で症状が出てきたときに対応ができないので、作業の記録をとって30年間保存する、あるいはその作業環境測定の記録を30年間保存する、特殊健康診断の結果を30年間保存するといったような規定があります。
これらは以前からあるグルーピングです。ですから、遅発性の重篤な障害ということで、リスク評価を始めてから今まで、ほとんどが発がん性のおそれのある物質を対象にしてきているので、そういったもので規制の対象にする必要があるものは、そういった長い保存期間の規制も同じようにかけないといけないということで、今までの物質から特に飛び上がって規制が大きくなったのではなくて、従来からあるグルーピングの中で長期の期間の保存が必要なグルーピングの中に入っているというような状況にあります。
○コーディネーター  発がん性が確認され、規制がかかると、代替物質を使うことが一般的だが、代替品にもリスクがある場合が多いように思います。リスクが未知?化学物質に対するリスク管理はどのように対応すればいいのでしょうか。
○松井  先ほど合成大麻の話をしましたけれども、全部規制をかけないといけないというようなことになったら、例えば従来の有機化合物は異性体だから有害性が違うというような、そういう従来のやり方と違うようなやり方をやったほうがいいんじゃないかとおっしゃる方も中にはいらっしゃると思いますが、なかなかそうではなくて、やはり異性体であれば、異性体であって有害性が相当違うというデータがある物質も相当ありますので、そういうわけにもいかないというようなことがあります。
リスクアセスメントの努力義務というのが、もともとベースに全ての物質、全ての有害危険性のある物質についてはありますので、その世界で管理していただかないと、我々がリスク評価を幾らやっても、後から代替物質の有害性という話になってしまうと、イタチごっこですね、どこかの世界でいわれているような。
そうすると、我々もどんどん、どんどん規制を大きくしていかないといけないものですから、そうではなくて、ベースとしてはやはりリスクアセスメントに基づく管理というのをやっていただくのが基本であって、これは努力義務であるということなので、その辺をよろしくお願いします。
ちょっと答えになっているかどうかはわからないのですが、よろしくお願いします。
○コーディネーター  コバルトを溶解し、歯科用鋳造合金を製造するメーカーの者ですが、規制内容についてご質問がございます。作業場の床などの水洗?が義務づけられておりますが、それが難しい場合、代替作業にはどのようなものがございますか。
また、当社の製品(コバルトクロム合金)を購買し、再度溶解、鋳造する歯科技工所は該当しますか。
○松井  密閉型?などで行われている場合は、あえて床を不浸透にするというようなところは必要ありませんけれども、どんな状況で作業されているのかによるのかなと思います。
歯科技工所についても同様です。
○コーディネーター  インジウム関係の健康障害防止のための技術指針を読みましたが、特化則の表現とかなり異なっているように思います。洗浄施設などの設置や清掃の方法など、特化則の改定などはお考えでしょうか。粉じん則などにもいえるかと思いますが。
○松井  インジウム化合物に関する規制については、昨年の秋、改正したばかりですので、改正というのはとりあえず考えてはおりませんけれども、技術指針の考え方を具体化して制度の規制に当てはめたというのが現行の条文です。
例えば、こういうデータがあるので必要ありませんというようなデータが、もしあるのであれば、みせていただければ検討させていただきますけれども、今のところ半年ですので、改正というのを考えているわけではありません。
○コーディネーター  特定化学物質障害予防規則の具体的な対応を教えてください。
例えば、空気中の濃度の測定はどういう測定器が必要かとか、規定値の設定方法。
これは松井さんが答えられる問題ではないような気がしたんですが、大丈夫ですか。
○松井  特化則の作業環境測定については、私、具体的にはご説明できませんけれども、告示の中で測定法、それから評価法を定めておりますので、具体の物質について、さらにわからないということであれば、またお問い合わせいただければと思います。
○コーディネーター  PM2.5は大気環境ということで、環境省が中心となり観測を強化しています。呼吸器系の健康影響という視点で厚生労働省はどのように取り組まれますか。
また、環境省との連携はどのようになっていますか。中国からの飛来物は、職場環境にも影響を与えるという観点から質問をしました、ということなんですけれども。
○松井  済みません。厚生労働省として、ということは、いわゆる旧厚生省の部門は、当然政府全体の取り組みですので取り組んでいます。
その中身は、私、説明能力がないのでご勘弁いただいて、私ども労働基準局のほうでは、要するに労働現場で労働者がばく露するという観点なので、どちらかというと厚生労働省の中では、旧厚生省の部署が取り組んでいると。ちょっとそんなお答えしかできません、済みません。
○コーディネーター  労働環境にお話が来るのは、もう少し時間がたってからなのかなという気がしないでもないです。
一応、全部読み上げた状況なので、済みませんが、残りの時間、挙手をいただいて、差し支えなければ、ご所属なりをいっていただいてご質問を受けたいと思います。
どなたかご質問をされたい方はいらっしゃいますか。——じゃ、こちら行って、そちらでよろしいですか。
○A氏 有害物ばく露作業報告制度で、今年の対象物質にカーボンブラックが入っていて、まだ知っていただけでパンフレットが出ていないので詳細がわからないんですけれども、カーボンブラックの場合、ゴムの材料に使っていて、最終製品にも入っています。じゃ、入っているもの全てが含有ですというたら、ゴム、塊も全部扱い量に入るのかどうかということになるので、どこの、どういうものがあかんのか、いいのかというのは、いつぐらいに出るのかというのを教えてほしいのですが。
○松井  まず、パンフレットはでき上がっているので、ちょっときょうは手元にないですけれども、ホームページには掲載をしているんじゃないかなと思いますけれども。
○A氏  まだ出ていなかったです。
○松井  済みません。じゃ、帰って早急に。
それから、0.1%以上のものというふうに含有率ではなっているかと思います。
あと、全くばく露の恐れのないものについては報告の必要性がないということにしております。
具体にどんな作業をされているかということが問題になりますけれども、含有率では0.1%以上のものということです。
○A氏  もうその辺は、ばく露するかどうかは自分たちで判断して報告せよ、という形でいいんですか。
○松井  明らかにばく露しないものは結構です。
○A氏  はい、わかりました。
○コーディネーター  よろしいですか。
○A氏  はい。
○コーディネーター  そうしたら、そちらの方、どうぞ。
○B氏 松井室長にお伺いしたいんですけれども、努力義務ということで何回か国が行うリスク評価の前に企業さんがやりなさいよというご発言があったと思うんですけども、なかなかリスク評価というのは難しいというのはご存じのとおりだと思います。
そのために、中災防さんあたりがコントロールバンディングというような、そういうような方法を開発して、広めていこうとされているわけなんですけれども、例えば加速化ということですけれども、化合物はたくさんあります。その中に、選ぶ際に、例えばGHSの1とかということがありましたけれども、そういう中災防さんがやられているコントロールバンディングのような、そういうような手法が考慮されるのかどうか。あるいは、将来的には、やはりそういうのを考慮して、ハザードだけじゃなくて、ばく露とのバランスをとりながら化合物を選定していって、具体的に進めていくというような方向が考えられるんじゃないかと思うんですけども、その辺はいかがでございましょうか。
○松井  対象物質の選定のほうは、お話のように、主にハザードのほうをみて選定をしてきています。この中に、ばく露の程度というので考慮しているということになるのかどうかわからないですけれども、製造・輸入量、そういったもの、それからあと、データからみてわかるものといえば蒸気圧とかそういうものがあるかと思うんですが、その辺の考慮というのはあるんですけれども。
コントロールバンディングの手法の利用としては、有害物ばく露作業報告を出していただいたデータ、これをコントロールバンディングのバンドに分けるのに使っています。バンドに分けて上のほうのバンドのほうは、ばく露が高いおそれがあるので、実測のほうに行くと、その中から選ぶということをしているような状況です。
また、その物質の選定に当たって、こういう方法でばく露が反映できるというようなことがあれば、また教えていただければと思います。
○B氏  コントロールバンディングをとりあえず使って、コントロールバンディングで実際やってみて、それなりにリスクが低いよというようなことが出ていれば、まあまあ安心であるというふうに理解してよろしいんですね。
○松井  基本的には、と思います。ただ、発がん性物質と変異原性のある物質と、あと呼吸器感作性の物質は、コントロールバンディングにやると、これらの有害性のGHS区分が高いやつは専門家に相談するという表現だったかどうかはあれですけど、そっちのほうに全部流れますので、有害性の種類によってはコントロールバンディングでうまくいかないものもありますけれども、低いバンドのものは、ばく露が低いだろうというふうに推定されるというようなことですね。
○B氏  ありがとうございます。
○コーディネーター  追加でいいですか。
物質の選定は、厚生労働省が決めているのではなくて、厚生労働省は資料を作成されていますけれども、検討会がありまして、その中の専門家の議論の中で物質を選定しています。ほとんどが選定されていない状況ではあります、コストの関係もありますし。
資料としては、流通量から全て上がってきますけれども、それぞれ専門家がいて、先ほどのようなお話——中災防の方もその委員に入っておられますし、そういう中の議論で選定物質を会議として決めていますので、厚生労働省の室が勝手に決めているものではありませんし、委員の中に中災防の方も入っておられたりします。
近々だと、あさって東京のほうで会議がありまして、多分公開されていると思いますので、あさって来れなかったとしても、また次回なり次々回なり、定期的に、年に1回は開かれておりますので、ご参加いただければと思います。
ご質問、ほかにありますか。——大丈夫ですか。
津田先生、今の議論を聞きながら、何かいい忘れたこととか、ここだけは知っておいてもらいたいとか、ありませんでしょうか。
○津田  私は、行政は全く素人なのでお答えできるものはありません。
先ほどのカーボンブラックの問題ですけど、確かに用途がすごく広く、生産量も多いんですよ。タイヤからカーボンブラックを除くと、つるつる滑ってだめになるとかいろいろあって、タイヤをやめにするわけにはいかないとかあるんですけど、今一番問題になりそうなのは、あるいはしているのは、プリンターのトナーとしての使用が一番、やっぱりかなり多くて、そして飛散するおそれがあるということで、ドイツあたりで問題になっています。
カーボンブラックは、グループ2Bで、やっぱり雌のラットに発癌性がある。アメリカのカーボンブラック協会は、雌のラットだけの問題なんて非常に特殊だから、余り扱わんでくれというようなコメントを出していますけれども、そういうことは抜きにしても、動物に発癌性があることは間違いないので、それなりの行政の対応は必要だと思っています。
ある会社さんから、どうしたらいいですかという本当に真面目なご質問を受けたんですけども、私としては、カーボンブラックの粉が1つも出ないプリンターをつくってくださいという以外にないので、やはり、そういうことの技術革新も大事ではないかと思います。
もう一つは、二酸化チタニウムのナノにしたやつもグループ2Bだといいましたが、最近はカーボンブラックの周りにナノでない、もう少し大きい粒子のカーボンブラックの周りに二酸化チタニウムをまぶして、相互のアグリゲーションを防止して印字の性能をよくしたのもあるとか聞いていますので、両方ですと、両方ともグループ2Bが合わさると1にはならないんですけれども、そういうことがありますので、やはり部屋の換気等のそういう指導は、今はないんですけど、必要になるかもしれないし、もう一つはやっぱり技術革新だと思っています。
○コーディネーター  先生、幾つかの評価方法について技術的な優劣は理解できなかったが、伊東法がすぐれているらしいことは伝わってきたって書いてあります。
リスク評価と対策のバランス感覚が大切で、評価の迅速化、低コスト化が大切なことはよくわかりました、と。
発がん性の評価に多大な金額と時間がかかることがよくわかりました、というふうに書いてあります。
○津田  それが一番の問題ですね。発癌物質に曝露された場合、きょうも、あしたも、一月後も、多分半年後も何ともないんですね。例えば、アスベストと考えればわかる話で。ところが20年後、30年後にその作用の結果が出てくるわけで、そういう意味では普通の、例えばほかの急性毒性なんかのこととは違っています。やはり必要なことをやっていかなくちゃいけないということで、完璧でなくても、短い代替法で押さえていくことが、今実施可能な方法ではベストだと思っています。
○コーディネーター  ほかにご質問ないですか。——はい、どうぞ。
○C氏  ちょっとしょうもない質問で恐縮なんですけども、先ほど特化則の改定が行われる予定はないんでしょうかって書面で質問させていただいた者なんですが、具体的には、全体にちょっと表現が古いなと感じていまして、例えば35ページの下のところで、管理第2類物質措置ですね。規制内容とかあるんですが、作業場での喫煙等の禁止でも、もう今は全面禁煙のところが多いんですが、禁煙の表示をそれでもせんとあかんのかとか、取り扱い場所には、その禁煙の表示をしなきゃいけないとはいえ、もうそもそも全面禁煙なのにするのかとか、あと洗浄施設等の表現、水を流すですとか、あと掃除機とかでも、真空掃除機ですとか、その辺の例示が、あくまでも例示だとは思うんですが、ちょっとその辺をどこまで幅を広げて対策を検討しようかなという時点で、結構特化則とか粉じん則の表現が古いなあと思いまして、それで最近の健康障害予防指針とかを拝見していると、いろんな例示をしていただいているので、そういう意味で、特化則のその辺の表現の改定はご予定されているんでしょうかと。それが質問をさせていただいた趣旨でございます。
○松井  失礼しました。全く先ほどの私の答えでは答えになっていなくて、ちょっと全然違う話をしておりました。
おっしゃるように、特化則に関しては、改正の頻度というのは結構ありまして、ほとんど毎年に近い状態で改正をしてきているので、おっしゃったようなことで、昭和40年代につくった規則ですので、こういうところは全然必要がないとか、そういうことがあれば、また教えていただければ、私どものほうで検討をさせていただいて、もし必要であれば改正をすると、あるいは通達でいろいろいっているところもありますので、そういうところもまた考慮できるのではないかと思いますので、また教えていただければと思います。
○C氏  ありがとうございました。
○コーディネーター  ほかに。——はい、どうぞ。
○D氏  特化則で、今回コバルト及びその無機化合物が入ったんですけれども、この無機化合物の定義で、非常に社内でもめまして、これはどっちなんや、有機か無機かというのがあって、ちょっとどこに書いているかを教えてほしいんですけど。
○松井  それは、本当は施行通達で出すべきだったんですが、有機、無機といいながら、教科書に書いてあるように思いがちですが、実はつかめない?ところがあるので、そこは詰めてわかる形にさせていただきます。
個別に問題があるものがあれば、また問い合わせていただければと思いますけれども、統一的にはそんなことで対応したいと思います。
○コーディネーター  いつも同じ質問が、ほかからも来ます。
リスクコミュニケーションの立場からいえば、無機、有機という言葉、その概念と使われ方が企業の方々の技術開発によって、やはりグレーになってきているのも事実なので、みんな悩ましいところではあると思います。
なので、積極的にご質問をしていただくことが、私たち検討会の資料にも上がってくることなのでお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
ほかにご質問はありませんか。——はい、どうぞ。
○E氏  私、インジウム取り扱い事業所で産業医をしておりますけれども、インジウム化合物に関して、特化則に今回入りまして、それ以前からリスクがあるといわれていましたので、自主的に健康診断を数年間やっております。
今回、特化則に入って、健康診断が定められまして、現在のばく露者以外の過去ばく露者についても、ずっと血中濃度をはからなければいけないということになったんですが、実際に事業所ではかってみますと、非常に血中濃度が低くて、ほとんど検出されないような状況で、現在の作業者も過去ばく露者もそういう状態なんですけれども、その人たちにも現在のケイロシックスと血中濃度をはかるという健診を続けていくことが、果たして遅発性の健康障害を検出するのに有効なのかどうかということに対して、ちょっと疑問を感じております。
もっとほかの、例えば、ばく露が終わった時点で、もう血中濃度が低い人にも退職するまでずっと測定しなければいけないのかどうかその辺、ほかの指標をもっと用いたほうが健康障害を発見するにはいいんじゃないかというふうに考えたりしているんですけど、その点についてはどうお考えでしょうか。
○松井  今の点については、持ち帰りまして担当部署に伝えます。
おっしゃっていることは、特に過去に従事した者については確かにおっしゃるとおりだなと思うところも私、今聞いていて感じましたので、直接の担当のところに伝えます。
○E氏  ありがとうございました。
○コーディネーター  同じような質問を以前も多分、インジウムのリスクコミュニケーションで産業医の立場の方からは質問も出ていたと思います。室長が持ち帰るということですので、それでご勘弁ください。
ほかに。——はい、どうぞ。
○F氏  関西労災病院のエント゛ウです。津田先生にお聞きしたいんですけど、伊東法で肝がんをやると、大体5割ぐらいがひっかかるということなんですけれども、一度NTPがメダカとグッピーで発がん実験をしたと思いますけど、あれはもうその後はやられなくなったのですか。その結果を根拠に、発がん評価をした論文がありまして、もしそうだとしたら、今後もグッピーやメダカで肝がんをとっても、やはり一つの評価として使われるのかどうかをお聞きしたいと思います。
○津田  魚の件は、この前の委員会では検討されなかったですね。
○松井  なかったです。
○津田  情報が余りないことが原因だと思います。
○F氏  NTPも試験的にやったようなんですけれども、結局これからげっ歯類がだんだん使えなくなるという状況下で、やはりそういう検討は今後もなされるのでしょうか。
○津田  そういうことになるかもしれないんですけど、現実には余り進んでいません。先ほどもいいましたように、IARCの評価に何回か出ていますけれども、魚のデータが出たことはほとんどないんですよ。ということは、余り行われていないんじゃないかと思います。試験的にNTPがやったかもしれません。
○F氏  ありがとうございます。
○コーディネーター  ほかに。——はい、後ろ。
○G氏  歯科用の金属を製造しています。先ほどの作業環境測定のところで、定期的に測定してくださいということなんですけど、一応全国の歯科技工所の団体からも今回ちょっといわれて、いってほしいということだったんで、いいますけど、歯科技工所のほとんどの技工所が1人なんですね。作業というか、会社をやっている、1人でしているところがほとんどなんで、こういう、例えば原子吸光の測定をしてくれというのは、ちょっと現実的にはありえないんですけど、その辺はどう思われますか。
○松井  コバルトを常時使われているんですね。
○G氏  コバルトクロム合金のことなんですけど。
○松井  それは、やはりしていただかないといけないと思います。
ただし、制度的な話をすると、お一人でやっておられるところというのは、その方が経営主で労働者を雇っておられないかもしれませんね。その場合は、ちょっとややこしい問題で、労働安全衛生法の対象にならない場合もあります。
ただ、健康のことを考えれば、どのくらいの濃度になっているかというのをチェックしていただくのがやはり必要であるというふうに思います。
○G氏  例えば、原子吸光の分光光度計を使って測定となると、例えば外注ということになるわけですね。
○松井  一人でやっておられるのであれば、恐らく作業環境測定士の資格をそのお一人の方がもっておられるというのはまれだと思われますので、そういう測定をする企業といいますか、測定士を抱えて測定を専門にやっておられるところもありますし、そういうところにご相談していただくのがいいと思います。
○G氏  わかりました。
○コーディネーター  歯科技工所がすごく個人事業主的です、従業員が少ない。——済みません、私、一応歯医者の資格をもっているので。
大企業と零細だからといって規則が変わるという発想ではないというところがベースにあります。
○G氏  はい。
○コーディネーター  で、ホルムアルデヒドかなんかのときは、多分大学病院の病理とか病院でも、やはりそれは考えていかなければいけないというところで、こういうリスクコミュニケーションの場にご参加をされておられまして、医療だからとか、そういう分野だからといって、この労働者の安全という話とちょっと……、日常とはちょっと感覚が違うかもしれないんですけど、事業場として複数の従業員がいるところであれば考えなければいけないということです。
きょうおみえになっている方々は、結構大手の企業さんだったり、組合の代表、工業組合とかの代表の方が多いんですけれども、労働衛生コンサルタントの方などもよくご参加いただいていて、やはり中小、零細の企業において対応が難しいというご意見はさまざまな化学物質においていただいているところではあります。
ほかにご質問ありますか。大丈夫ですか。
大淵さん、いい忘れたこととかないですか、今までのやりとりから。
○大淵  厚生労働省の大淵です。
皆さん方とこうやって意見交換させていただく機会としては、本日開いているようなリスクコミュニケーションというのがありますし、あとそれ以外に、私どもで有害物ばく露作業報告の対象物質を定めるときですとか、あるいは規制内容を定めるときというのは、必ずパブリックコメントという手続をさせていただいております。そういった中で、ご質問とかご意見を出していただければ、規制内容そのものに反映するケースもありますし、あるいはそれの施行通達などで、例えば先ほどご質問にあったような、無機化合物の範囲はどうなのかというような質問があれば、そういった通達などで反映させることも十分可能かと思います。
昔と違って、役所も今は一方通行ではなくて、両方通行のやりとりをしておりますので、できるだけそういった機会を使っていただけますと、私どもも実際法令をつくってみたけど、その施行のときに、いろんなトラブルが生じるということも未然に防げますので、ご協力をいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。
○コーディネーター  よろしくお願いします。
ほかにご質問、大丈夫ですか。
それでは、時間が早く終わりましたが、何か個別に各会社で何かあれば、済みませんが松井室長なりフロアでつかまえて、あと津田先生もいらっしゃいますので、お尋ねいただければと思います。
それでは、意見交換を終了させていただきたいと思います。皆さん、ご協力ありがとうございました。
○司会者  それでは、これで本日の化学物質リスクコミュニケーションを終了したいと思います。ご参加いただき、ありがとうございました。
なお、今後の参考にさせていただきますので、ぜひ水色のアンケート用紙にご記入をいただき、会場出口の者にお渡しいただくよう、お願いいたします。
なお、その際に、赤と青のカードも会場入り口の係の者にお渡しいただくようにお願いいたします。
また、中央労働災害防止協会のほうでは、各地区にセンターがございまして、作業環境測定等も実施させていただいておりますので、ぜひ作業環境測定の必要がある場合、私ども中央労働災害防止協会のセンターのご活用といったようなこともご検討いただければと思います。
本日は、どうもありがとうございました。


(了)

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