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あさコラム vol.30
感染症エクスプレス@厚労省 2016年11月18日

永久欠番

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 まずは冒頭でお詫びを申し上げます。
 前回のコラムでスナノミについて書きましたが、専門家の方から次のとお
りご指摘を頂きました。
 ・スナノミ(Tunga penetrans)は名のとおり砂のノミで「ノミ」(ダニ
  ではない)
 ・スナノミ症はスナノミが寄生して発症する病気(リケッチアが原因では
  ない)
 大変申し訳ございません。スナノミについて勉強不足で、反省しきりです。
 修正の上、心からお詫びを申し上げますとともに、それでもスナノミ症対
策にはシューズが必要です。
 私も、アフリカの子どもたちのためにシューズ集めに邁進する所存ですの
で、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、今回の本題。
 先日、今季限りで引退した広島東洋カープの黒田博樹投手の背番号「15」
を永久欠番にすると発表されました。
 広島東洋カープの永久欠番はミスター赤ヘル・山本浩二氏の「8」、鉄人・
衣笠祥雄氏の「3」に続き3例目です。
 日米両国で活躍し、今年のリーグ優勝の立役者でもある黒田投手。
 その清い引き際に対する球団からの誠意ある計らいに、プロ野球ファンな
らずとも心が熱くなります。

 大変名誉がある永久欠番制度ですが、実は日本プロ野球界において、感染
症と関係深い永久欠番を有する球団があります。
 その球団とは「読売ジャイアンツ」。
 ジャイアンツの永久欠番は、
 ・世界のホームラン王こと、王貞治氏の「1」。
 ・ミスタージャイアンツこと、長嶋茂雄氏の「3」。
 ・伝説の速球投手こと、沢村栄治氏の「14」。
 ・打撃の神様こと、川上哲治氏の「16」。
 ・前人未踏の400勝投手、カネやんこと金田正一氏の「34」。
 球界が誇る名選手ばかりで、ここまではプロ野球ファン、特にオールドフ
ァンなら簡単に答えられますが、実はあと一つ欠番があります。
 その答えは、黒沢俊夫氏の背番号「4」です。

 黒沢選手は大正3年(1914年)生まれの大阪府出身のプロ野球選手です。
 関西大学から昭和11年(1936年)に名古屋金鯱軍に入団した俊足の外野手
で、以降、大洋軍、西鉄軍へ移籍しました。
 昭和19年(1944年)には戦争のため人員不足となったことから、供出選手
として東京巨人軍へトレード移籍。
 昭和19年(1944年)、昭和21年(1946年)は4番打者、5番打者を務めるな
ど、主軸打者として活躍されました。

 昭和22年(1947年)のシーズン途中、黒沢選手は腸チフスを発病し、6月23
日に急死されました。
 腸チフスはチフス菌による感染症で、当時は年間約4万人が罹患していまし
た。
 現在、衛生環境の改善などにより、腸チフスの感染者は年数十例程度と少
なく、かつ抗菌薬が奏効するため死亡例はほとんどありませんが、責任感の
強い黒沢選手は体調が悪いことを隠して試合に出場し続け、それが結果的に
命取りとなりました。
 享年33歳。葬儀は球団葬として執り行われ、「自分が死んだら、巨人軍の
ユニフォームのまま葬って欲しい」と遺言を残した黒沢選手は、ユニフォー
ム姿で棺に納められたそうです。
 球団は、病に倒れるまで活躍されたことへの感謝を込めて、太平洋戦争で
戦死した沢村投手の背番号「14」と共に、黒沢選手の背番号「4」を永久欠
番にすることを決めました。

 時が経ち、平成18年(2006年)、東京ドームの外野席上に、読売ジャイア
ンツの永久欠番のプレートが掲示されました。
 東京ドームでの野球観戦で、この背番号「4」のプレートを見るたびに、
腸チフスで荼毘に付された黒沢選手の無念さを感じざるを得ません。
 もちろん、感染症で生命を落とすことになるまで、野球の試合に出場し続
けること自体を美化し過ぎてはいけませんが、劣悪な環境の中で感染症と戦
いながらグランドに散った選手がいたことを忘れないでいて欲しいと、黒田
投手の永久欠番のニュースを知ってご紹介したまでです。

 オレンジのタオルを回しながら、東京ドームの外野席でジャイアンツファ
ンの方々が歌うアニメ「侍ジャイアンツ」の主題歌。
 この歌が黒沢選手の鎮魂歌となっていると思うのは、私の勝手な思い込み
なのでしょうか。
 (注:「侍ジャイアンツ」の主人公で、数々の魔球を投げる番場蛮投手
はジャイアンツの背番号4という設定なのです。)

 では、次回もどうぞよろしくお願いします。


永久欠番「4」プレート(提供:東京ドーム)


読売巨人軍の永久欠番(提供:東京ドーム)

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