ホーム> あさコラム vol.54

あさコラム vol.54
感染症エクスプレス@厚労省 2017年5月19日

二人の教訓

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 前回のコラムでコレラを取り上げましたが、内戦が続く中東のイエメンの
首都サヌアを中心に、コレラが感染拡大しています。
 情報によりますと、コレラに感染した疑いの方々が1万名以上、うち死亡者
が180名あまりとのことです。
 また、2017年(平成29年)4月22日以降、コンゴ民主共和国(旧ザイール)北
東部のバ・ズエレ州で、エボラ出血熱が疑われる患者が20名発生し、うち3名
が死亡。
 この死亡者3名のうち1名から、生存者17名のうち1名からエボラウイルスが
検出されました(5月18日現在)。

 厚生労働省では、海外でおきたこうしたアウトブレイクについて、WHOなど
から情報を収集し、WEBサイトや広報、検疫所などを通じて、広く情報提供に
努めているところです。
 高速交通体系が整備されている現在、こうした事案を遠い国の出来事と思
わず、今、我々は何をすべきか、何を準備すべきか、2014年(平成26年)の
西アフリカで発生したエボラ出血熱のアウトブレイクの経験を踏まえ、取り
組んでいかねばなりません。
 この場をお借りしまして、現場で感染症治療に取り組む医療従事者の皆様
や国立感染症研究所の専門家の皆様をはじめ、関係各方面からのご指導・ご
協力をお願いいたします。

 さて、ここ数日、アニサキスによる被害が急増しているとの報道が目につ
きました。
 アニサキスは寄生虫(線虫)のひとつで、その幼虫は長さ2~3cm、幅は0.5
~1mmほどの白い糸のように見えます。
 この幼虫は、サバやイワシ、サンマやアジ、カツオやサケ、イカなど、海
産の魚介類に寄生しています。
 これら魚介類を生で食べた時、偶然に寄生していた白い糸が胃壁や腸壁に
刺入することで、食中毒(アニサキス症)を引き起こすのです。
 特に、胃に寄生すると「急性胃アニサキス症」を起こし、みぞおちの激し
い痛みや悪心、嘔吐を生じます。
 ちなみに、アニサキス症を診断した医師は、食品衛生法に基づく食中毒と
して保健所に届出をする必要があります。

 アニサキスによる食中毒の予防法は、次のとおり、魚介類の取り扱いに留
意することです。
 ・新鮮な魚やイカなどを選び、丸ごと1匹で購入した際は、速やかに内臓
  を取り除く
 ・内臓を生で食べない
 ・目視で確認して、アニサキスの幼虫を除去する
 ・加熱(60℃では1分、70℃以上で瞬時に死滅)や 冷凍 (-20℃で24時間以
上冷凍すると感染性が失われる)が有効
 特に、生食する場合、-20℃で24時間以上冷凍してから、解凍して生食する
のが良いとのこと。

 なお、食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびをつけても、アニサキス幼虫
は死滅しません。
 醤油やわさびをつけたお刺身だから安心!というわけではないのです。
 また、良く噛んでアニサキスを噛み切ればよいとの記事も読みましたが、
さすがにこれは予防法としての根拠はなく、推奨できません。

 さて、「急性胃アニサキス症」は、どれほど苦しいものか?
 1999年(平成11年)、「急性胃アニサキス症」にり患した私のかつての同
僚・野上耕二郎さん(現在、佐賀県精神保健福祉センター所長)の話をした
いと思います。

 野上さんは、夕食に居酒屋でサバの刺身を食べたところ、その日の晩に胃
の激痛が起こり、寝ようとしても、すぐ痛みで目が覚めるの繰り返し。
 本人はアニサキスを疑ったのですが、翌朝、上司に相談しても「まさか、
そんなことはないだろう!ただの胃痛じゃないのか?」と取りつく島もない
有り様。
 仕事に追われていたこともあり、責任感が強い野上さんはその日の受診を
見送り、激痛に耐えながらも私の対面で熱心に仕事をしていました。

 しかし、症状は改善されず、翌日も脂汗が出るほどの痛みで苦しむ野上さ
んに、さすがに上司も私も「早く受診しないと!」と促しました。
 急いで病院の内視鏡科を受診した野上さんの胃の中には、見立てのとおり
1匹のアニサキスの幼虫を確認。
 そのアニサキスが噛みつき回るのか、胃壁のあちこちが出血していたそう
です。
 医師が内視鏡でアニサキスをつかまえ無事に治療が終わり、捕まえたアニ
サキスを野上さんが小瓶に入れてもらって来たので、見せてもらいました。
 初めてアニサキスをじっくりと見ましたが、こんな小さな白い糸が胃に激
痛を与えるとは…と、かなり驚いたことを覚えています。

 今では、この話は野上さんと私の間では懐かしい思い出となっていますが、
当時の野上さんの痛みと苦しみを思うと、野上さんの見立てを信じてもっと
早く受診してもらえば良かったと、受診を働きかけられなかったことが私に
とっての苦い反省点として残っています。
 刺身など生で魚介類を食べた後に、脂汗が出るほどの胃の激しい痛みがあ
ったら、アニサキスを疑い、少しでも早く医療機関を受診すること。
 これは「二人の教訓」ですが、二人の間に留まらず、皆様に広くお伝えし
たい「教訓」でもあります。

「感染症エクスプレス@厚労省」は、主に医療従事者の皆さまに向け、通知・事務連絡などの感染症情報を直接ご提供するメールマガジンです。
本コラムは、「感染症エクスプレス@厚労省」に掲載しております健康局結核感染症課長によるコラムです。
「感染症エクスプレス@厚労省」への登録(無料)
本コラムの感想、ご質問、ご要望など
コラム バックナンバー

ホーム> あさコラム vol.54

ページの先頭へ戻る