10/06/04 第8回雇用政策研究会議事録 第8回 雇用政策研究会(議事録)                       1 開催日時及び場所   開催日時:平成22年6月4日(金) 14時00分から16時00分まで   開催場所:厚生労働省・省議室(9階) 2 出席者   委 員:阿部委員、加藤委員、玄田委員、駒村委員、佐藤委員、諏訪委員、清家委員、 鶴委員、橋本委員、樋口委員、宮本委員、山川委員 事務局:太田厚生労働審議官、森山職業安定局長、山田職業安定局次長、酒光労働政策 担当参事官、伊奈川社会保障担当参事官、前田労働基準局総務課長、高橋職 業能力開発局総務課企画官、田河雇用均等・児童家庭局総務課長、宮川職業 安定局総務課長、小川雇用政策課長、里見雇用政策課企画官、平嶋雇用政策 課長補佐  他 ○樋口座長 定刻を過ぎましたので、第8回雇用政策研究会を開催します。お忙しい中、お 集まりいただきまして誠にありがとうございます。今回は、これまでの研究会での議論を踏 まえ、報告書の構成案についてご議論いただけたらと思います。では事務局から説明をお願 いします。 ○平嶋雇用政策課長補佐 資料の雇用政策研究会報告の構成に従って、ご説明します。真ん 中の現状認識の部分ですが、<経済環境・労働市場等の変化>ということで、経済成長の鈍 化の中で適切な雇用機会が減少し、非正規労働者等が増加している。こうした中で、正規・ 非正規の二極化の問題、例えば所得格差の拡大、きずなの喪失ということがクローズアップ されてきています。人口減少、少子高齢化の進展という中で就業者が減少してくる。今回、 世界同時不況ということがありましたが、景気変動の振幅の拡大の中で、非正規労働者への 大規模な雇用調整が行われたということがあります。  こうした中で、<労働市場に求められること>としては、雇用機会の創造の推進をしてい く。雇用の質の向上を図っていく。例えばディーセント・ワークの実現、ワーク・ライフ・ バランスの推進、雇用ルールの整備等です。就業者の減少の中で、就業意欲を実現できる「全 員参加型社会」の構築、成長力を支える「トランポリン型社会」の構築が求められています。 こういうことをやりながらゴールは何かですが、「持続可能な活力ある労働市場」としてい ます。  このイメージとして右側の枠になりますが、雇用の場が十分に確保され、職業キャリアが 形成できる。仕事と生活の調和が実現できる。生活を支えるしかるべき収入が得られる。夫 婦で働けば安心して子供を産み育てられる。労働者間の賃金バランスがとれている。介護な ど公的制度の下で働く労働者も人並みの賃金が得られる。こうしたことの前提として、企業 が活力を持つことが大切だと思っています。  下は、その課題に対応した対策をグルーピングしていますが、左側です。雇用の量の拡大 と質の向上を実現する経済システムの改善([1])は、上の雇用機会創造の推進等に対応して います。適切な雇用機会を確保し、雇用の質を向上させる観点から産業社会を変えていくこ とが必要として、成長分野による雇用創出では医療、環境、介護等で雇用創出をしていく。 これに関連して、先日ご紹介した産業別の就業構造の展望も掲載していきたいと思います。 「新しい公共」による国民ニーズの充足と雇用創出、SRIファンド等による企業評価・企業 行動の仕組みの構築、賃金や働き方を考慮しながら、国が発注する場合には公契約の在り方 を検討していくべきではないか。労働時間、賃金等の課題に対応するため、下請取引の適正 化を進めていくべきではないか。24時間営業等に代表される過度に利便性を求める消費行 動と、それに応える企業行動の在り方について検討していくべきではないか。子育て・教育・ 住宅への支援というのは、これまで企業がある程度担ってきた生活保障を、社会化していく べきではないかという視点で入れています。職業キャリア形成につながる教育というのは教 育の中身についての提言です。  真ん中の枠は、雇用の質を向上する企業内労働市場の整備([2])ですが、雇用ルールの整 備等を通じ、雇用の質を向上させることが必要として、上の[2]の雇用の質の向上に対応して います。雇用ルールの整備等では法定のルールと慣行が含まれますが、複線型雇用管理の整 備での含意としては、非正規から正規への移動をしやすくするとか、いま特に問題になって いる学卒未就職者、子育て支援終了後の女性など、こういったいろいろな方々が働きやすい ように、雇用管理を複線型にしていくべきではないかということです。「多様な正社員」の 雇用管理では、地域限定正社員とか職種限定正社員といった環境を整備していく。最近、非 正規労働者の中でも常雇の割合が高まっていることがありましたが、こういった状況に対応 していくことを考えています。今の国会で審議中でしたが、労働者派遣制度の見直し、有期 の雇用期間等に代表される雇用ルールの整備といったものを考えています。賃金・処遇の改 善としては、最低賃金の引上げ、均等・均衡待遇の推進です。ワーク・ライフ・バランスの 実現ですが、労働時間等の見直しでは労働時間そのものもありますし、休日等についても考 えています。育児休業等の取得促進や、メンタルヘルス問題が大きくなる中で労働安全衛生 対策の推進等としています。  右側が、就業意欲を実現できる全員参加型社会、あるいはトランポリン型社会に対応する 部分ですが、積極的労働市場政策として、若者、女性、高齢者、障害者への就労支援、地域 における雇用創出、能力開発支援で、この中ではジョブ・カード制度、日本版NVQの整備 等といったことを考えています。103万円、130万円の問題の指摘もありますが、就業を阻 害しない税・社会保障の検討等ということです。セーフティネットとして、雇用保険の機能 強化、第2のセーフティネットの構築、ハローワークを拠点としたさまざまな支援の強化、 雇用調整助成金を始めとする公的な雇用の維持、あるいは緊急の雇用創出といったことで構 成していきたいと考えています。以上です。 ○樋口座長 ありがとうございました。この後はご自由に議論していただきたいと思います が、まず構成について、こういった構成でいいかどうかについてご議論いただきたいと思い ます。対策として、下のほうに箱が3つ並んでいるわけですが、<労働市場に求められるこ と>の[1]と、下の([1])が対応するようにということで、なるべく対応関係を付けようと考 えました。ただ、完全に1対1対応と取れないものもありますので、そこの点については、 また後で書きぶりをいろいろ考えることにしたいと思います。([1])のところは、どちらか というと企業の外の経済システムについての議論、そして真ん中のところ([2])が企業の中 における雇用ルール、賃金の決め方、ワーク・ライフ・バランスというようなもの、そして 3番目は、右側の([3]・[4])のトランポリン型社会の構築というところが、主にセーフティ ネットであるとか、税・社会保障制度も含めた就業意欲を推進できる形で、まとめているも のです。これについて、どなたからでも結構ですので、ご自由にご議論いただけたらと思い ます。 ○鶴委員 どうもありがとうございます。いま樋口先生がおっしゃった、この3つのところ の振り分け方の点で。いまのお話を聞いて私も非常にわかりやすかったのですが、([1])の ところは、項目を見ると相当いろいろな項目がこの中に盛り込まれているということで、ど うしてもばらばらな印象です。一つひとつのことは納得できるのですが、全体としてばらば らな印象を受けます。  最初のところに、量の拡大と質の向上とあるのですが、やや無理やりに考えるとすれば、 最初のところは少し量の話ということで、これは企業の外側の話も含めてということであれ ば、例えば官民協力して働くという共同のイメージで、特に最初の成長分野の雇用創出とか、 新しい公共といったものを中心にしています。2番目のところは、雇用の質を強調するとい うことになると、企業評価とか公契約、下請、消費者行動、教育といったところかもしれま せんが、それも2番目のところに例えば移して、雇用の質を向上する雇用システムの整備と か、産業社会の在り方とか、何か雇用の質というところをやや強調するような考え方も、も しかしたらあるかもしれない。  それと、([1])の子育て・教育・住宅への支援は、前に事務局から送っていただいたペー パーで、若干、社会保障などの話も議論があったかと思います。そういうものは逆に言うと、 いちばん最後の([3]・[4])を扱ったセーフティネットの後に、少しそういうものを入れて、 セーフティネットよりもやや狭義のセーフティネットと、もう少し広い意味での社会保障み たいな話を、こちらのほうへ書く考え方も1つあるかもしれない。ただ、形式的に最初に量 の話をして、それから質の話をして、あと残りの話ということなので、やや強引な切り分け 方でもある。若干、議論のためにそういう考え方もあるのではないかということで、少し提 案させていただきました。 ○樋口座長 宮本さん、どうぞ。 ○宮本委員 いま、ご説明いただいた概念図が、報告書の章立てにどのようにつながるのか、 ちょっとわかっていないのですが、最初にいただいた報告書原案の章立てはなかなかわかり やすかったように思います。3章のところに、この概念図で言うところの([2])がきて雇用 システムの改善、4章のところに概念図で言うところの([3]・[4])がきて公的な支援、5章 に概念図の([1])がくる形です。なぜわかりやすいかというと、要するに3章のところに、 対応策の中でも、いちばんマイクロと言っては、賃金や均等処遇がありますから、やや的外 れかもしれませんが、でも基本的には働き方が変わるというのが3章にきて、その次に4 章に支援が変わるというのがきて、そして5章に経済社会が変わると。マイクロ、メゾ、マ クロという流れで、補完的に政策的な手立てが連携している形が示されている。いま、鶴さ んからお話のあった整理も加えつつ、この流れというのは当初の原案のほうが少しわかりや かった気もします。 ○樋口座長 これは、原案のほうは事務局で、実に私が全部入れ替えたということで、わか りにくくなったのかもしれません。 ○加藤委員 いま座長からご説明がありましたように、場所によって切り分けていくという 観点は非常にわかりやすいと思いますが、1つ、例えば現状認識の中で、中期の問題と長期 の問題が両方とも入っていて、労働市場に求められることについても、いますぐやらなけれ ばいけないことと、ある意味目標的なところのものが、いろいろと入っているのではないか と思います。1番目の労働の量の拡大と質の向上のところにおいても、例えば2020年まで の就業構造を展望する一方で、現在、すぐにやっていかなければいけない新しい公共による 雇用創出の問題とか、下請取引の適正化といった問題も入ってきて、そこらについて中期的 な視点なのか長期的な視点なのか。さらに言うと、どの程度の時間的視野を考えておいてあ るのかを、例えば章の中で少し切り分けていただくと、この「持続可能な」という言葉の意 味合いで言うと、時間的な軸を少し意識していただくと、もう少しわかりやすい形で置ける のではないかと思います。 ○樋口座長 ほかに、山川さん。 ○山川委員 章立て的なことかもしれないのですが、いちばん上にあるイメージで「持続可 能な活力ある労働市場」という、いわばヘッドラインが付いているのですが、法律家的に読 んでいくと、持続可能なという要素がまずあって、それから活力あるという要素があって、 それが労働市場という単語を修飾しているということで、それぞれの意味が、どういうふう に各下の箱のほうにつながっているか、クリアになるといいのではないか。そのことと、右 のほうにあるイメージとの関連も出てくるように思われます。  例えば、労働市場における活力とは何かと考えると、いろいろな議論が出てきそうな感じ がするところですが、右のイメージでは企業か活力を持つと、ここで活力という言葉が出て きますが、これだけではないという感じがします。おそらく労働者自身の活力というのでし ょうか、単純に素人的に言えば、頑張って働こうという気持になるような企業であり、社会 であることをつくる。それは収入でもワーク・ライフ・バランスでも、雇用の場でもそうだ と思います。そういう労働者から見て、活力がある労働市場という視点が流れると、さらに イメージが明確になるのかなという感じがします。  あと1点は、この内容ではなく、あとがき的なことかもしれませんが、これまでPDCA の話が何度も出ていましたので、これらの仕組みをどのように実現していくか。あるいは実 現の仕方が検証できること自身も、一種の政策の問題になるだろうと。これは項目ではなく て、あとがき的なものになると思いますが、これまでの議論の経過からすると、そういう点 も入れておいたほうがいいのかなと思います。 ○樋口座長 ほかに、いかがでしょうか。 ○清家委員 大枠なところではないのですが、セーフティネットのところで、循環的要因へ の対応ということで、従来、循環的な要因による雇用の問題については、雇用保険が対応し ていたわけです。非正規の人の適用が不十分だということで、今回、雇用保険の適用を拡大 したりして、できるだけ本来の循環的な要因による失業等に対して、雇用保険での適用が十 分に行われるように、しようとしていると思います。それはとてもよく理解できるけれども、 そこにもう1つ第2のセーフティネットの構築が出てきている。第2のセーフティネット というのは、たぶん雇用保険にそれでもまだ適用されない人がいるとか、あるいは雇用保険 の例えば給付の適用期間が切れた人とか、そういうのが対象だと思います。  前者について言えば、もし雇用保険の機能を強化して、適用をどんどん拡大していくので あれば、例えば1時間でも働いた人は、雇用保険を適用しますという形にしていくこともで きるわけです。後者で、雇用保険の給付が切れた人、またそういう人を救うというのは循環 的要因への対応とも言えるのかどうか。構造的な対応になってしまうのではないかという気 がして、雇用保険の機能強化と第2のセーフティネットの構築は、もちろん両方あったほう がいいという話なのかもしれませんが、ちょっと整理しないといけないのではないかと思い ます。下手をすると、第2のセーフティネットというのは、構造的な要因への対応となって、 ばらまきとは言いませんが、システムというか、そういう構造ができてしまう可能性もある ので、ちょっと注意深くしたほうがいいのではないかと思いました。 ○樋口座長 阿部さん、どうぞ。 ○阿部委員 加藤さんも指摘されたと思いますが、この中身はいろいろな軸が入っていると 思います。加藤さんが指摘されたのは時間軸だと思いますが、私が指摘したいのは、([2]) のところは内部労働市場の話で、([3])のところが外部労働市場政策の話で、果たして内部 労働市場政策と外部労働市場政策は、どういう重みも持って今後の政策展開をしていくのか というのは、どこかで考えておかないといけないだろうと思います。分けてしまっているの で、それをどういうふうに重みづけをしていくのか、このあたりは考えないといけないので はないかと思いました。 ○清家委員 言い忘れました。関連で阿部さんの発言に触発されて申し上げると、例えばセ ーフティネットという観点で言うと、おそらく今回の雇用の後退でいちば効いたセーフティ ーネットは、雇用調整助成金だと思います。この中に出てこないのですが、まさに内部労働 市場と外部労働市場をどうするかという話に関連してくるので、その雇調金などもどう考え るのか議論していただきたいと思います。 ○樋口座長 たぶん雇調金も含めたのが、セーフティネットの最後のところの公的な雇用の 維持・創出のところです。たぶんそういうつもりですよね。  ○玄田委員 いま、ちょうど清家さんが言われたので私はもうあまり言いませんが、そこを しっかり書くほうがいいと思います。いま、いろいろな軸の話が出て、あえてもう1個ある とすると、基本的には個別の労使で解決すべきものと、政策的に働けるものというのが、完 全に切り分ける必要はないかもしれないけれど、雇用政策研究会だから、1番目には政府と して何をやるかという政策の部分は、そこだけ見ればよくわかるほうがいいと思って、私は この研究会で同じようなことばかり言っている気がしますが、先ほど言われたように、今回 の不況の中で雇用調整金は何だったのかを踏まえた教訓を、どうするのか。  つまり、全般的に質的な議論はかなり整理されている気がしますが、今後、おそらくまた 起こり得る量的な対応に対して、果たして十分であるかどうかという観点が大事です。確か にいちばん最後の公的な雇用の維持・創出のところで、何をやるかというと、私は去年2 月の緊急的に雇用調整助成金をやるのだという政策は、とてもよかったと思っています。た だ、今後同じようなことが起こったときに、より的確にできるかどうかを、どういうふうに 担保するのか問題が残っています。というのは、最近まで雇用調整助成金を経済学者はみん な批判していて、こんなことをやると労働市場の構造変化を遅らせるから、よくないとみん な言っていたのが、なぜ今回、これが正当化できるかというと、今回は全部駄目だったから です。  もちろん福祉とか医療もあるのですが、それほどまだ大きく育っていないとか全部駄目な ときにはシフトも何もないわけです。いまは全天侯型不況だということが即座にわかって、 その規模が大きいときは調整助成金をやるのだということで、ある程度明確に法制を考えて おかないといけないと思います。今回、厚生労働省の方が大変実銭的な勘がよかったので、 こういうふうな判断になったわけですが、将来も同じように勘がいいかというと、そんな保 証はどこにもないわけだから、今後、起こり得るさまざまなショックに対する予測機能の向 上と、それに対する財源的な担保の問題は、しっかりと書いておいたほうがいいと思います。 いまギリシャで大騒ぎしていますけど、次はもう少し近い国だったり、我が国だったりする わけですから、その時にどういうふうに機動的に対応するのか。雇用調整助成金も含めた緊 急的な助成政策の制度向上を、是非、公的な雇用の維持・創出のところで書いてほしい。  こう書くと何となく、また臨時的な公務員を雇うのかという議論になりがちな感じがする から、いま、ここで皆さんが議論されたようにそういう問題ではなくて、今後、大きな不況 がきたときに、どうやって持続性を確保するのかというと、量的な政策は財政金融政策だけ でなく、雇用政策も雇用量の確保には一定の機能を果たすのだということを、今回の経験を 多少踏まえて、しっかり書いておいたほうがいいのではないかと私も思います。 ○樋口座長 今まで雇用政策研究会で何回も出てきて、今回の新たなというか、従来とどこ が、どう違ってくるのかを考えたときに、まさに景気循環的なものも含めて今回は議論しま しょうというのが、どうも今までに比べて新鮮味というか、せざるを得なくなってきている。 今までは、どちらかというと構造的な対応に対して、どう対応していくのかということだっ たのが、今回、ここに景気変動の振幅の拡大を入れたというのは、たぶん新しいところかな と思っていますので、是非、そこら辺は入れたいと思っているのです。 ○阿部委員 別に玄田さんと喧嘩しようと思ってはいないのですが、今回の雇用調整助成金 と以前の雇用調整助成金の違いは、たぶん2003年で制度的に変更があったように私は記憶 しているのです。従来は、特定不況業種、あるいは特定不況地域を対象とした雇用調整助成 金だったわけで、今回のようにそれを全部取っ払った仕組みで、これだけ大きな不況が来た のは初めての経験だと思います。昔と今を比べ、特定不況と付いたのと付かなかったのとで、 どう効果が違ったのか、検証しておくべきではないかと思いますので、もちろんここで書く ことはいいと思いますが、いずれにしても数年先には、必ず雇調金の検証はすべきだろうと 思います。 ○佐藤委員 3番目のところで先ほど鶴さんからも、セーフティネットのところを少し広げ て、社会保障等を書き込んでという話がありました。それに関係して今回の目指すべき労働 市場のイメージの中で、生活を支えるしかるべき収入が得られる、夫婦で働けば安心して子 供を産み育てられるとあります。これは、全員参加型社会のところの女性の就労支援みたい なのがあると思います。そうすると、前もちょっと出てきましたけれども、広い意味でのセ ーフティネットで、夫婦で働いて子育てができる保育サービスがすごく大事なのです。一応、 ([1])のほうで出ているのは、産業としての保育サービスです。ですからセーフティネット として、夫婦で働けば子供を育てられる、女性も希望すれば就業できる。働きながら子育て もできるのが実は大事なセーフティネットなので、できればセーフティネットのほうに、産 業として入っているのではなく、セーフティネットとして入れることにしていただくほうが、 メッセージがきちっと伝わるのではないかということです。 ○玄田委員 いまの阿部君のお話で思い付いたのですが、先ほどの2月以降の緊急的な発動 と同時に、助成政策はどうやめるかということが大変大きなポイントだと思います。ある種、 助成金は劇薬だから、これをどういうタイミングでどうやめるのが、いちばんいいソフトラ ンディングなのかを含めて、稼働と同時に、それをどう終息するのか。もしかしたら阿部君 が言うように、効果を計るときには、やめるときのタイミングでかなり地域と業種に違いが あるし、そこを見ると実際にこの効果がわかると思うから、そういうのを含めて、今後、政 策として是非、ご検討いただきたいと思います。 ○樋口座長 実は雇用政策研究会でありながら、雇用政策についての過去の評価というのは、 必ずしもこれまでは十分なされていなくて、少なくとも報告書という形では出てこなかった わけです。いま聞いていると、幾つかこれまでやってきたことについての評価も含めて書き 込んだほうがいいと。特に政策をやめるときに、何を基準にやめたらいいのかは、すごく重 要なもので、まだここのところについては議論がこの研究会でも進んでいないところだろう と思いますから、それについてもご意見があったらお願いします。 ○鶴委員 雇用調整助成金の話が何回か出て、私も発言させていただこうと思いながらコメ ントしていなかったのですが、雇用戦略も出口戦略を考えなければいけなくて、いま、まさ におっしゃったように額として、かつてのピーク時の10倍ぐらいの額の雇用調整助成金を 使っているのです。これは政権が代わる前から考え方がだいぶ変わって、不況の時に公共投 資を増やすよりも、むしろ失業の問題を考えるのであれば、雇用調整助成金を思い切って増 やせばいいのではないか。そこから既にコンクリートから人への考え方が、政策当局の中で も出てきた。でもかなり大胆で、伝統的な発想ではなかったのだろうと思います。それは額 に現れているわけです。だから、それをこれまでの政策評価とともに、今回これをどのよう な形で縮小していくのかという話については、何らかの言及はお願いしたいと私も思ってい ます。  それとショートコメントですが、先ほど山川先生と清家先生がおっしゃったことの関連で、 持続可能なと言うときに、市場が持続可能というのはあまり言わないのです。制度や仕組み の場合だと持続可能ということを言うのですが、そうするとタイトルの中に、労働市場・制 度みたいな話を入れなければいけないのかもしれない。  循環要因と構造的要因ですが、諸外国を見ると、雇用保険の支給額と正規労働市場政策の 額、相対規模は結構比例的な関係があって、セーフティネットを非常に強めるのだったら、 その裏でそれなりに積極的労働政策もやらなければいけない関係が、私は当然あるのだと思 います。そう考えると、この2つはどっちが構造的要因への対応、どっちが循環的な要因へ の対応と分けて考えるのはおかしくて、その2つを一体として考えるのが基本なのかなとい う感じです。これは両先生がおっしゃったのとちょっと違った視点ですが、趣旨としては私 は全く同意です。 ○樋口座長 ここら辺も事務局の責任ではなくて、私の責任です。誰の責任であるか明確に しておいたほうがいいと思いますので、向こうではなくて全部私です。ほかにどうでしょう。 清家先生から質問が出た、雇用保険の機能強化と第2のセーフティネットの構築のところの 関係を、どう考えたらいいのか。これは、現状がどうなっているのかご説明いただけますか。 ○小川雇用政策課長 雇用管理の機能強化は、いま法律も通っていますけれども、いま、適 用の拡大をやっているということですし、第2のセーフティネットの構築は、どちらかとい うと、今後、審議会でご議論いただく求職者支援制度を、新たに作っていくことを念頭に書 いています。その対象としては清家さんがおっしゃったように、そもそも自営業者等の雇用 保険の適用がなかった人とか、また消えてしまった方のが主な対象になるだろうと考えてい ます。 ○樋口座長 どう書いていったらいいかというのは、またご議論していただければと思いま す。ほかに、この構成というところではどうでしょうか。いろいろご議論いただきましたの で、これをどうするかというのは、よく相談してまた提示したいと思います。続きまして、 それぞれの項目と言いますか、現状認識はこれでいいのかについて、いかがでしょうか。 ○佐藤委員 どこのグループでもいいですか。 ○樋口座長 まずは上のブルーのところについて何かございますか。このほかにも書くべき ことがあるとか、あるいは、これは要らないのではないかということがありましたら。 ○諏訪委員 この書き方に異議があるわけではないのですが、何か明るい話はないのですか。 これが全部ブルーで塗ってあるのはそういう意味なのかなと思うのですが、現状認識の中に プラス面はあるはずなので、是非、それも書いて、プラスとマイナスの両方でないと、まず いのではないかというのが、これを読んだ瞬間に感じたところです。  いまの経済環境、労働市場等の変化の中には、プラス面がいろいろあるはずなのです。新 興市場とうまくやっていくとか、いろいろなことがあるでしょうし、企業もいろいろな形で 変わってきている。あるいは最近、大学で聞くと出席率が上がっただけでなく、勉強も前よ りしているのではないかという話を何人かから聞いたりして、にわかに信じ難いという気に もなりますが、もし本当だとするととてもいいことです。つまり明るい面が必ずあるわけで、 暗い面だけを書きますとよろしくない。それは過去の政策評価のときも、うまくいかなかっ たところだけ、ついついいろいろ議論しがちですが、うまくいっている部分も、ちゃんと然 るべく見なければいけないのと同じことかなと思っています。ちょっと蛇足ですけれとも。 ○玄田委員 明るい面は3つぐらいは思いつきます。この不況の中でも、先ほど全般的な不 況と言いましたが、福祉、医療関係は着実に雇用が増加傾向にあるから、この芽をどうやっ て伸ばしていくのかということは、社会のニーズからして大事なので、そこが1点です。2 点目は、前に資料が出ましたが、非正規雇用は増えていて、臨時的な非正規雇用よりも常用 的な非正規雇用の形が増えている事実は、もう少しみんなが共有したほうがいいと思います。 その二極化だけでなく、その間の中間形態も少しずつですが、拡大傾向にあることは言って もいいと思います。3点目は、昔、座長も本で書いていましたけれども、週60時間以上労 働の30代は今でも深刻な問題ですけれども、ピークの2004、2005年に比べれば、若干改 善傾向があることも事実なので、この内容をもう少し精査しながら、措置法時間労働が特に 深刻であった状況については、若干、いま上向き方向になりつつあるかもねという感じで、 明るいことは3つぐらい思い付きます。あとはよく知りません。 ○加藤委員 明るいことや暗いこと、いろいろあるかもしれませんが、例えば数回前に座長 の文書が出て、その後に中期目標のデータの案がありました。例えばこういったものについ て、やはりそういったものが後に付いていくのかどうなのか。言いっ放しではなく、例えば いろいろなことをやったときに、それを確認する手立てがこの後に入っていくのかだけ教え ていただけますか。 ○樋口座長 これは、先ほとPDCAサイクルの重要性も書けという話を、山川先生からい ただきましたけれども、それと絡めて何かアイディア、考えがありますか。 ○小川雇用政策課長 アイディアと言いますか、現在、労働政策審議会のほうに評価委員会 を作って、樋口先生からいただいた案について労政審の中でもご検討いただいた上で、それ について、PDCAに基づいて検討評価していくことになっています。 ○樋口座長 数値目標をどうするのかは、いかがですか。 ○小川雇用政策課長 数値目標自身は、国全体の新成長戦略との関係で決まっていくことに なると思いますが、その辺の先行きがやや見えない状況もあります。最終的にはそこを睨み ながら、そこで決まったものについてここに書き込んでいく、もしくは添付していくことに なろうかと思います。 ○酒光労働政策担当参事官 労働政策審議会のほうを担当しているものですから、私から補 足します。労働政策審議会の各部会でこの間、労働政策研究会で出されたものを参考に、数 値目標を含めて議論いただき、すべての分科会でご議論いただいています。今後、その数値 目標も10年分ありますので、その10年先の目標と、あと単年度の目標も、毎年、毎年作 っていき、その達成状況を検証していく。検証していくために、専門の部会も労政審の下に 新たに設けたいと考えています。それにあたって、今回、この議論も参考にしたいと思って います。 ○樋口座長 よろしいですか。 ○玄田委員 さっきの明るい話の続きで、明るいか暗いか評価が分かれるのは、今回、不況 で賃金面がかなり停滞したわけです。今後、賃金面での柔軟性をどう確保していくのかとい うことで、今回のが一時的な不況に対する低下で、今後、よくなれば回復するかどうか。そ の柔軟性を日本の労働市場と企業の雇用システムが、どれだけ維持、確保できているかです。 厳しいときにはみんなである程度我慢するけれど、よくなったらちゃんと回復する形になっ ているかどうかの認識があった分、現状であり、今後について重要だと思いますが、そうい う議論は今回はなかったので、現状認識のところで少し考えてもいいかなと思います。 ○樋口座長 宮本さん、どうぞ。 ○宮本委員 元気の出る報告書にするということに大変賛成ですが、そのときに明るい材料 を探すことと同時に、何もこれまでやったことがないことをやろうとしているわけではない。 無から有を作り出そうとしているわけではない。むしろこれまでできていたけれども、環境 の変化とともに調整が必要になったことを、これから実現していくのだと。要するにこれま で雇用というのは、日本社会の中でセーフティネットの機軸であったことに出発点を求めて、 そことの連続性で、いわば第3の道を先取りしていたのだという書きぶりをしてもいい気が します。いただいている文章の前文のところは、少し詳しく書き込んであるので、ここがベ ースになると思いますが、もうちょっとこれまでやってきたことを書くこともいいのかなと 思います。 ○樋口座長 明るいことだろうと思いますが、女性の就業率が、この不況の中でむしろ上が っている、働く女性が増えてきている。ある意味で構造が変わってきていることは、現状認 識としてあるかもしれません。 ○山川委員 これも明るいと言うべきかどうか、わかりませんけれども、特に若い人たちの 意識です。私は専門ではないので、客観的なデータで検証できるかどうかわからないですが、 先ほど諏訪先生の言われた勉強の話にも関連するかもしれません。本屋に行くと、例えば『蟹 工船』が大ベストセラーになるなど、職業や社会に対する意識がリーマンショック以降とか、 それ以前の格差問題のあたりから変わってきて、仕事というものに対する意識も変ってきて いるのではないか。それが例えば職業キャリア形成という形で、政策的にどのようなことを 実施していけばいいか。ニーズとしては高まっている状況にあるのではないかと考えていま す。それが政策につなげられるものと言えるように思います。これは客観的に、おそらくそ ういうアンケート調査が既にあるとは思いますが、自分ではわかりません。  もう1点は、純粋に現状認識のところで書かれていることへの質問ですが、これは事務局 に質問したらいいのか、樋口先生にお伺いしたらいいのか、2番目のポツで「きずなの喪失」 とあります。これまで欠席したこともあって、議論がなされたかどうかわからないのですが、 ここで言うきずなとは何かということです。つまり職場のきずな、あるいはワーク・ライフ・ バランスの関係で家庭のきずななのか、家庭のきずなでしたら割とわかるのですが、職場の きずなはあまり議論が出ていなかったような気もしますので、そのことの意味です。なぜこ こにきずなの喪失ということを書くのか。逆に言えば喪失しないほうがいいということなの で、そうさせないというのは、ターゲットの関係でどういう意味を持っていくのか。主観的 な話ですが、ちょっと関心がありましたので伺った次第です。 ○樋口座長 これは私のほうで答えたほうがいいと思います。ゆとりのほうはいいかなと思 いますが、おっしゃっているように職場におけるつながりというか、実はこれをメンタルヘ ルスの問題とか、従来、そこで何となく解消してきた問題が解消できない問題となってきて、 労働問題についてもそれが言えるのではないかというつもりで、ここは入れさせていただい ています。 ○山川委員 よろしいですか。『不気嫌な職場』という本がベストセラーになったくらい、 その問題というのはなかなか分析の対象にならないのかもしれませんが、ご指摘のとおり実 は重要な問題かなと私も思います。 ○加藤委員 いま、山川先生のお話の中で、女性の働き方の問題、特に就業者数が増えてき ている一方で、ちょうど全国家庭動向調査のとき、社会保障人口問題研究所のあれだと、伝 統的な家族観というものに対する見直しと言いますか、その割合が増えてきているところを、 どういうふうに考えていけばいいのかと思いました。今まで内閣府の男女共同参画に関する アンケート調査でも、ずっと伝統的家族観に対して否定的な数が増えてきていたのが、最近、 それが少し止まって、逆に保守的な考え方が増えてきた。そういったことと女性の就業支援 との関係みたいなものも、どう考えたらいいのかと思いまして、山川先生のお話に触発され て発言しました。 ○樋口座長 是非、そこを議論していただいたほうが、よろしいかと思います。雇用政策と いうと、どうしても企業、職場における話に終始することが多いわけですが、いまのような 意識の問題、あるいは世帯の問題、中には地域の問題という広がりのほうをどうするかと、 そこまで雇用政策として書くのかどうかということです。たぷんワーク・ライフ・バランス ということであれば、そちらも議論になってくるだろうと思います。 ○鶴委員 いま、樋口先生がおっしゃった関連ですが、私もこのきずなというのは非常に大 事だという感じがします。というのは、最近、一橋の守島先生が新書を出されて、普通、企 業というのは明示的な、また暗黙的な契約の束ということで表現される場合があるのですが、 先生のご著書では信頼関係の束だと。それが日本の企業を見ると、この10年、20年ぐらい の間に少し揺らいできたと。いちばん端的な例は、玄田さんなんかも分析されていますが、 成果主義の導入のときも非常に端的にあったわけです。よく考えてみると雇止めのときなん かの問題も、信頼関係というか意思の疎通というか、そういうものが完璧に出ていれば、逆 にあまり問題になってこないような部分でもあるのだと思います。そういう点を除いて考え てしまうと、この10年、20年、何が変わったのかというところの根本的な理解ができない のです。そういった面で、実証的にきちっとやるのは実は難しいのですが、そういう問題意 識は是非入れていただきたいと思います。 ○玄田委員 山川さんが言われたきずなで、職場のほうのきずなが喪失されているかどうか 客観的にわかるのは、すごく難しいけれども、1つ客観的なデータで関わっているのは、職 場や仕事を通じて結婚相手を見つけるというのが、かつてはいちばん多かったのが、2000 年ぐ前半ぐらいの社人研の統計で抜かれました。1番は友人、知人の紹介で職場に限らない のです。それが良いことか悪いことかの基準ではないと思いますが、それこそ職場や企業が 全生涯的にコミットしていた部分が変わってきたのは事実だと思います。それを元のように、 職場が結婚相手すらも見つける場であるべきかどうかは、議論が分かれるところです。  もう1つ、先ほど山川さんがおっしゃった若者の意識の変化の中には、企業に対する期待 が明らかに変わってきて、企業で働くことより、NPOも含めてもっと社会で役に立つもの にとなってきている。だからすごく難しいけれども、おそらく雇い手と労働者の距離間とい うか関わり方というか、コミットメントのあり方が2000年代を通じて転換点にきていて、 それはどういうあり方なのか。たぶん全く離れてしまうのもよくないだろうし、べったりと いうものでもない。その適度な距離間を今は模索する過程にあって、それを踏まえた能力開 発や就業環境づくりになっていると思います。だから「きずなの喪失」と書くと、何かすご く悪いことのような感じもするし、一方で、そういったつながりというか、先ほど信頼と鶴 さんが言われましたが、そういうものが必要だというので、何か足して2で割ると、企業と 労働者の間の関係が変わりつつある感じではないかと思います。 ○樋口座長 それに対する対策というのは、たぶんいろいろな視点があると思います。対策 をとらないほうがいいというのもあるし、きずなを戻すべきだという主張があれば、その一 方で、失ったものの代わりをどうするのか。NPOという話もありましたし、ここは人によ って意見が分かれるところだと思いますが、問題として何が起こっているのかは、指摘した ほうがいいという皆さんのご意見かと思います。ほかにどうでしょうか。 ○阿部委員 現状認識のところで、特に下との関係で指摘したいことがあるのですが、下と いうのは、雇用ルールの整備の中で、労働者派遣制度、有期雇用ルールの整備といったとこ ろです。現状認識として、派遣や有期というのを、正規・非正規の二極化のところで見てい るのだろうと思いますが、2000年前後にこの場か審議会か、どこかわかりませんが、そこ で語られた労働市場の規制緩和や自由化というのは、認識としてあるべきではないかと思い ます。自分たちがやってきた制度改正が、労働市場にどんな影響を与えてしまったのか。そ れを今回、是正するのか是正しないのか。今後、どういうふうに道筋を付けていくべきなの かを考える上でも、一応、どこかに現状認識としてあってもいいのではないかと思います。  私は、必ずしもネガティブな話ばかりではないと思います。例えば労働市場でのマッチン グ機能が、ある程度競争的になって高度化したようなところはあると思います。そういうの も含めて、お書きになったらいいのではないかと思います。ただ、議論はあまりしてこなか ったので、サラッとでもいいのかもしれません。 ○樋口座長 ほかに、どうでしょうか。そうしますと、下の箱のほうにも言及していますの で、さらに広げてオープンでどうぞ。 ○佐藤委員 下のほうの真ん中のところの雇用の整備等ですが、私は今回、ここがすごく大 事だと思っています。一応、ここに○が4つあるのですが、この中で何がいちばん大事と考 えるかはすごく大きくて、私は「多様な正社員」の環境整備が非常に大事だと思います。先 ほど玄田さんも言われたように、非正規は増えているけれども、いわゆる常用非正規が増え ていることも関わるわけです。他方で、企業の人材活用からすると、多様な正社員は実態と しては進んでいるのです。実態として進んでいながら、それがもう少し広がらない。たぶん そこが環境整備になると思います。多様な正社員のところの環境整備で、企業が現状進めて いることで、先ほどお話があったような業務限定、雇用期間の定めのない正社員みたいなも のが増えて、実態としてはあるけれど、前もお話したように今回みたいな大きなショックが 起きて、その仕事がなくなったときに契約解除できるか。業務限定で活用していても契約解 除できるかというと、企業としてはかなりリスクを感じているから、なかなか広げられない。  ですから、業務限定の無期契約の社員を、例えば大きなショックが来て業務がなくなり、 契約解除が合理的に認められるか。例えば整理解雇4要件が外れるとか、そういうことがで きると何が変わるかというと、先ほどの複線型雇用管理で非正規の人を正社員に登用すると か、例えばそういうことを挙げられましたけれども、つまり有期契約でいま増えているのは、 常用型の非正規というお話がありました。そういう人たちは、業務限定なわけですから事実 上契約は続いているのです。ですから、多様な正社員のところの関係整備ができると、複線 型雇用管理で、この複線型雇用管理で言われていることが、例えば非正規から正規への転換 であれば、業務限定型の有期で契約更新し、何年も長い人、そういう業務限定の無期契約の 正社員が社会的に認知される仕組みになれば、転換しやすくなるわけです。  有期雇用のルールも、たぶん日本の場合、9割ぐらいは無期契約にできると私は思ってい て、現状の雇用保障ルールだとリスクがあるから有期契約にしている。派遣もそうですね。 派遣の場合は業務限定で働いているわけです。ですから、このまま現状の正社員であれば、 いくら長く派遣でいるのを正社員転換しろと言っても、企業は現状の業務限定ではない正社 員を想定したところで転換というのは、なかなか難しいということがあります。  多様な正社員の環境整備が進めば、実はほかのところで相当解けてしまう。かなり問題だ と言われた派遣から正規へ、あるいは非正規から正規へという転換も相当程度進むし、有期 契約もいま非常に増えていますが、相当程度減る可能性があると思っています。ですから環 境整備というところをどう書くか。そういう意味でこれから書き始めて、そうするとほかは こう変わる。書きにくいかもしれませんが、この中の優先順位をどう書くかです。つまり並 列ではない。多様な正社員ができていないために有期契約が非常に増えてしまうし、有期だ けの実情はテンポライズでなく常用で、派遣もそういうところがあると思います。その辺を 少し整理するといいというのが1つです。  2番目のワーク・ライフ・バランスのところの中身で、ここをどう書くかです。育休の話 や労働時間、労働安全衛生はいいと思いますが、制度の話です。実態としてワーク・ライフ・ バランスで問題になるのは、実は働き方のところで、例えば育休を取って復帰したあと、子 育てと仕事と両立できる働き方があるか。これはすごく大事なのです。ここが変わらないと 育児休業を取っても復帰したあと継続就業ができないわけです。もちろんそれも大事なので すが、実はワーク・ライフ・バランスのところが大事で、いま課題になっているのは、普通 の働き方のところが、ワーク・ライフ・バランスを実現できるかというところだと思います。  そういう意味で政策的な手当ては何かというのは、また議論が難しくなると思います。も ちろん恒常的な長時間労働をなくすとかということだろうと思います。つまり、フルタイム で働きながら、かつ、例えば育児や介護と両立できる働き方があるということがワーク・ラ イフ・バランスを実現する上で、いま最大の課題だと思います。ですから、制度を入れたり、 それを利用できれば解決すると書く前に、少しそういうことも書いていただく。育児休業も 女性についていえば、取得率は相当高いわけです。でも、なぜその前に辞めてしまうかとい うと、育児休業を取って、復帰したあと、仕事を続けられるような働き方があるかというと、 まだまだそこは難しいので、取ってもしょうがないと。そういう理由も相当大きいと思いま すので、是非そのようなことを書いていただくことが大事かなというのが2つ目です。 ○樋口座長 まず1点目の「多様な正社員」の環境整備のところですが、これは雇用ルール の中に入っているわけです。おっしゃったように、実態としては進んできている。これは雇 用ルールとしてどうするのかというご質問だったと思います。 ○佐藤委員 これが動くと、かなり他が。つまり書き方が連関していると思います。並行し て書くという話ではないだろうと。 ○樋口座長 事務局、何か考えがありますか。 ○小川雇用政策課長 ここは正直言って、どこをどのように書こうかと悩んでいるところで す。佐藤先生がおっしゃるように、本当に職種限定、地域限定という契約で働いている労働 者を、そういう業務とか、職がなくなったときに、本当に解雇できるかどうかについて、少 なくとも担保が何もありませんし、それは特約でやっても、なかなか難しそうだということ もあるので、そこをどこまで役所としてできるのかというのは、悩ましいところです。そこ をどのぐらい書けるかなと。文章を書きながら、先生方にご意見を伺えればと思います。 ○樋口座長 では、ご意見をいただいたほうが事務局も書きやすいと思いますので。正規、 非正規ではなくて、半正規。いま中間を作れという話のときに、多様な正規雇用だというと、 何となくイメージがいいのですが。 ○佐藤委員 私が言っているのは、特約付きの雇用形態などは定めない。例えば業務限定で 無期契約を結んで、その業務限定がなくなった場合の契約解除が。つまり、現状でいうと、 ほかに異動させる先がないかどうかが、従来の正社員であればやらなければいけないわけで す。そういう特約付きの場合は、特約条件がなくなれば、契約解除は合理的であるという話 ですね。いろいろな方は、いろいろな形で主張されているので。 ○樋口座長 いろいろなパターンが掲載できる。 ○玄田委員 準正規、準正社員。 ○佐藤委員 雇用契約上どうなるのか。 ○玄田委員 それは、ほとんど一緒。 ○鶴委員 いま霞ヶ関の中でも、この話はどうやって進めていいかという議論になっていて、 経産省などもしているのですが、1つは私の感じだと、わりと経済学者とか、経営も含めて、 佐藤先生がご提案されたようなのは、1つのやり方ではないかということです。逆に法学者 がこれをどのように評価されているのかというのは、必ずしも明らかに批判という形で、私 も直接伺ったことはありません。  1つは、実際にこのような契約を企業で結ぶと。労働者もそのときは納得されたのですが、 実際に業務がなくなったから解雇ですと言われたときに、どういう労働者が理屈を付けるの かわからないのですが、裁判に持っていった場合に、例えばどのような問題があり得るのか とか、そういうところについて、どのようなケースを具体的に考えておられるかとか、そう いうことも法学者に伺わなければいけないと私自身も思っていながら、たぶんそこがいま焦 点になっているのではないかという感じがしております。 ○佐藤委員 議論するときに大事なのは、事実上、有期だけの契約更新をされているという 人たちの雇用の安定が、その状態が良くなるということがすごく大事だと思います。いまの 正社員より低いではないかという議論ではなくて、いまの有期で、半年なり1年ごとに契約 更新をしていく、あるいは契約更新をしてしまうと無期とみなし得るから、2回しか更新を しないという企業もたくさんあるわけです。そこが改善されることを良いと考えるか、それ はいまの正社員より不安定な雇用を作るだけだ、変わらないと考えるかというのが、結構分 かれ目だと思っていて、そこでだと思います。 ○加藤委員 この点に関して1点だけ伺いたいのですが、例えば無期で業務限限定となると モラルハザードみたいなことが起きる可能性はないのでしょうか。つまり、自分の仕事をず っとし続けるために効率的な仕事をしなくなるなどというような。 ○佐藤委員 あまりそんな心配をしなくていいです。 ○樋口座長 両面あって、これがまずどうなるかわかりませんが、法的にできたときに、お っしゃるゆように非正規からこれに就く人もいるだろうし、いまの正規のほうからこれにな ってくる人もいるだろう。要は全体として、雇用の量はそれで増えるのかという問題ももう 1つあると思いますが。法学者に対してご意見はというのは。 ○山川委員 これまでの下級審判例はそれほど多くありません。例えば「シンガポール・デ ベロップメント銀行事件」では、勤務地限定と認定しつつ、整理解雇の要因を、その適用に 当たっては、勤務地限定であっても、必ずしも配転を全く考慮しなくてもいいというわけで はない。そもそも配転の命令はできないので打診ということになるのですが、そういうこと を述べた判決があったと思います。ちょっと不正確ですが。それは、整理解雇を有効とした 事件ですが、いずれにせよ、あまり議論はなされておらず、直ちに勤務地限定だからと言っ て、4要素の中身が大幅に変わるということでもなさそうな感じがします。いまのあまり多 くはない下級審を前提とする限りはあるかと思います。  ただ、政策的逃避の問題とは別に、法制度を作る際の整合性みたいな問題があって、前も 申し上げたかもしれませんが、そもそも整理解雇の4要素とか、4要件自体が、現在のとこ ろ、法律にも指針にすらなっていない。前の研究会のときには、報告書において、せめて指 針にしてはどうかという提案をしたところですが、それも実現できなかったので、4要素と 4条件自体も、いまのところは判例法にとどまっている状況です。  その中のある部分だけを取り出して法制化するというのは、法の体系的な美しさから見て、 いかにも不自然ではないかという感じがあります。4要素みたいなことが指針レベルになっ て、その際の考慮要素の1つとして勤務限定の有無というのがあり得るということでしたら、 全くの私見ですが、考えられなくはないと思います。あまりに限局的な部分だけを取り出す のは法制的には難しいのではないかというのが、私の個人的な意見です。 ○樋口座長 ほかにいかがですか。 ○清家委員 私が最初のころに発言して、その後サボっていたので消えたかもしれませんが、 2点だけこの内容で、どこに行ったのかなと思ったのです。  1つは、厚生年金の2階部分の支給開始年齢の引上げも2013年度から始まりますが、2013 年度になると、61歳まで1階も、2階ももらえない人が出てくるわけです。いまの改正高 齢法で65歳までの雇用確保措置を講じる義務はあるのですが、定年の延長ではなくてもよ くて、しかも継続雇用制度も基準を設けていいことになっていて、その辺をどうするのかと いうのは雇用政策という観点からいうと、かなり喫緊の課題だと思います。前にもちょっと そういう話をしました。労働市場のほうには、若者、女性、高齢者就労支援が出ているので すが、それはむしろ企業内のルールの話で、企業内で65歳、あるいは年金の支給開始年齢 まで確実に雇用が確保できるようなルールを作るかどうか。それは政策的には非常に重要だ と私は思いますので、できれば大きな柱にしていただきたいと思います。  もう1つは、これも前に申しましたが、賃金処遇の改善のところで、均等・均衡待遇の推 進ということはいいのですが、そういうことを政府とか行政が言う前に、例えば、厚生年金 の適用、雇用保険の適用、雇用形態を労働時間によって変えたりしているわけで、おそらく 民間企業から言わせれば、民間企業にそういう余計なお節介を言う前に。政府のルールを民 間企業が適用しないでくれと言っているのですが。例えば、厚生年金などというのは明らか に適用外になるような雇い方がお奨めですよと制度が言っているわけです。そのように政府 が言っておきながら、一方で政府が均等・均衡待遇というのはちょっと変なのです。そこは いますぐやるかどうかは別として、厚生労働省なのだから、年金の適用とか。前にも言いま したが、雇用保険だって1時間から適用しても給付のほうで何カ月以上の加入と付けておけ ば、別に乱給の問題などは起きないわけだから、少なくとも雇主にこういう雇い方をすると、 年金保険上、あるいは雇用保険上お得ですよという制度は早急に中立化するということを、 はっきりさせたほうがいいのではないかと思います。これは前にも言ったのですが、もう一 度繰り返したいと思います。 ○樋口座長 税・社会保障は確かにどこかへ消えてしまった。 ○小川雇用政策課長 「積極的労働市場」の最後に、就業を阻害しない税・社会保障の検討 と、ここに入っています。  それから清家さんがおっしゃった高齢者の問題については、バクッと書いてあるのですが、 高齢者の就労促進の中で書こうと思っていますので。 ○清家委員 だけど、それはどちらかといえば、企業内労働市場の話ですね。企業の中で、 年金の支給開始年齢までは雇用を保証してくださいというのだから、労働市場政策というよ りは、雇用ルールの整備のほうではないのですか。 ○小川雇用政策課長 高年齢者の雇用安定法も労使の雇用をどうするかということだと思 うのですが、それについて今後考えたほうがいいのかなと思います。 ○清家委員 わかりました。 ○樋口座長 いずれにしてもどこかで書いてもらわないとというご指摘だと思います。 ○駒村委員 いま清家先生がおっしゃった社会保険の問題は、就業阻害をしないで社会保障 の検討に加えて、やはり明記しておいたほうがいいような感じがします。社会保険のほうで 起きているさまざま問題は、まさに雇用労働市場の変化を受け切れなかったのが原因だと思 いますので、年金の空洞化、医療保険の空洞化も含めて、厚生年金や健康保険に適用しない ほうが企業にとって有利になっているわけですから、そこは労使ともにの選択にとってのニ ュートラルになるような社会保険というのは阻害しないという以上のものかと思います。適 用したら、かえって雇わなくなるということで、阻害していると解釈する人もいるかもしれ ませんので、そこは本体に書き込んでいただきたいと思います。  それから、各話がちゃんとループになってつながっているかどうかというのも、雇用政策 検討会の報告書が浮いてしまわないように、ちゃんと関連性を付けていただきたいと思って います。例えば、健康、医療、介護、新成長戦略で、過去の資料を見れば、この分野で45 兆円、280万人の雇用を求めると書いてあるわけで、これを従来の社会保障給付の範囲がこ れだけ伸びていくというわけではないとは思うものの、先端医療などというものも期待して いるのだと思いますが、あまり混合的な分野が広がっていくことを前提にして、この成長分 野のことを考えているわけではないと思います。ある程度、いまの社会保障の守備範囲が整 合性があるように広がっていくのだろうということと、そこから生まれる成長分野における 雇用創出と、さらにイメージのところの介護などの公的制度の下で働く労働者も人並みの賃 金が得られる。人並みの賃金というのは一体どういう意味なのかというのはあると思います。 さらに人並みの賃金とは、おそらく、きちんとしたキャリアの評価なり、NVQの整備との 対応関係があると思うのです。そういう意味では、45兆円の280万人というのがみんな公 的介護保険、医療保険、保育の分野で生まれるということではないとは思うものの、かなり 大きな社会保障給付を表裏の関係で前提としているわけですから、この報告書は、ほかの部 局との関係で浮かないような、これが相互につながりがあるという書き方をしていただけれ ばいいと思っています。  もう1つは、どういう議論があって、これをどう書いてくるのかというのは過去の資料で どの部分で議論したか、私は記憶になかったのです。1つは、公契約の在り方といのは、ど ういう議論をここで書くのか、安全衛生対策というのはどこまで書き込むのか教えてもらえ ますでしょうか。   ○小川雇用政策課長 雇用契約の在り方ですが、前回の研究会のときに資料をお出ししたと は思いますが、要するに、先ほど事務局からの説明のときに申し上げましたように、国など が契約を結ぶときに、賃金であるとか、ワーク・ライフ・バランスなどに配慮した業者等を 優先して、選定事由に入れ込んでいくことによって、企業行動が変わっていくのではなかろ うかということです。  安全衛生は、どちらかというと、いま我が方も労働基準局の安全衛生部が行っているよう な職場とか、もちろんメンタルヘルスなども含めて、安全対策などを中心に書き込んでいく のだと考えています。 ○樋口座長 雇用契約の在り方のところは、雇用戦略対話のほうでも大きな議論として、い ま議論しているところです。要は、入札のときの価格入札という問題だけでいいのか。そう いった企業の在り方とか、労働者に対する、例えばミニマム・ウェルフェアも当然遵守して いるのでしょうねというようなチェック機構を入れるかというようなところが議論になっ ているかと思います。またご意見があったら逆に聞かせていただきます。 ○玄田委員 2点ほど。先ほど鶴さんが言われた限定型非正規社員とか準正規社員に対して、 法律的な観点について山川さんから説明があったのですが、私は基本的に、法律的にはなか なかゴーサインは出しにくいのではないかと思っています。それは、ある種の不利益変更の 可能性が常にあって、いまの正社員とか、もし整理解雇があった場合には正社員と同等な扱 いになるような非社員に対しては、準正社員的なものというのは、不利益変更みたいな可能 性があるから、すぐさまオーケーとはなりにくいので、連合などが去年出した政策提言など でも、こういうことに対して慎重にならざるを得ないと思うのです。  ただ、毎回言うように、これは労働市場の流れとしてはそういう方向になっていかざるを 得ないので、新規の採用も含めて、むしろ法律が後押しするよりも、それこそ経済原理の中 で広がっていくものではないかという認識です。  もう1点は、いま連携ということをおっしゃって、私はこのブルーの所の労働市場に求め られるところの4番目がちょっとドキッとしたのですが、これは宮本さんが使われていたけ ど、トランポリン型社会というのは、成長力を支えるべきためのトランポリン型社会という のはちょっとびっくりしてしまったのです。トランポリン型社会はうまくいけば成長力を担 う後押しにはなるかもしれないが、基本的にはトランポリン型社会というのは、すべての労 働者の働く権利を確保したり、自尊とか共感を育成するためであって、必ずしも経済成長力 を支えるというのは、この2つの言葉のつながりの中には、やや不自然さを感じるのです。  私はトランポリン型がなぜ大事かというと、社会のメルトダウンというか、これがないと 本当に社会の中で停滞してしまう人たちがたくさん出てきて、ディスカレッジするようなケ ースが 非常に増えていくと、ひいては社会的なコストになるからです。つまり、簡単にい えば、前回の雇用政策計画のとき、そういう文言はあったかもしれないが、やはり貧困対策 と雇用政策との連携が、いまものすごく問われるようになって、それがこの間の基金などで も始まる形になってきて、これは今後どうあっても恒常的に対応していかなければいけない。 先ほどの社会保障もそうですが、貧困対策と雇用政策の連携が問われているのだと。  そのときいちばん大事なのは、認識では、その貧困対策を担う人材がいま圧倒的に足りな いだから、その支援人材の育成・強化ということは、やはり公的な雇用政策としての役割だ と思うので、そういう貧困対策とか、これだけ政府が認める形になったわけだから、研究会 でも大きく書き込んだほうがはっきりとしているのではないかという気がしました。 ○宮本委員 トランポリン型社会という言葉を使ったのは事実ですが、趣旨としては、綱と 網の比喩で言うならば、網だけでどうこうできはしない。だから、どんなにトランポリンに しても、綱のほうがきちんと張ってないと、成長にも何もならない。綱を太くし、綱をつな ぎ、綱の本数を増やすことが出発点であって、網のほうをいじるとしたらトランポリンだろ うということで、綱が放置されれば、トランポリンにしても落ちてしまうのが自明ですので、 そういう趣旨でした。 ○樋口座長 成長力を支えるかどうかはわかりませんが、諦めの社会を作らないという、再 挑戦する元気を出させる、出るような仕組みを作りたいというところで、成長力を支えると いうのが出てきたのかと思います。これは少し書きぶりを変えたほうきがいいのではないか ということです。 ○諏訪委員 いつも私も同じようなことばか言って恐縮ですが、生涯にわたる雇用の期間が 非常に長くなって、しかも世の中が変化する、環境変化が激しいとなると、生涯学習という のは非常に重要な課題であり、キャリア形成をいかにうまく支援していくかというのは、社 会にとって不可欠な課題になるわけです。この点でキャリア形成支援の教育をしなさいと ([1])で言って、([3]・[4])で能力開発を支援しますということを言っていて、大変結構な ことだと思いますし、イメージのところで職業キャリアの形成ということを言って、これも 全く大賛成です。  問題は、それは多くの人にとって「どこでキャリアというのは形成されるのですか」と言 ったら、真ん中なのです。企業で働いている中でまさに我々のキャリアというのは形成され ていくわけで、重要なのは、雇用の質の中にキャリア形成が円滑に進められる。こうした雇 用というのをもっと増やしましょうと。そういう意味で有期雇用だとか、非正規とか、いろ いろな問題はキャリアがうまく形成されないところに大きな問題があるのです。あるいは女 性雇用なども一緒です。あるいは高齢者もある意味ではそうかもしれません。うまく環境変 化に対応できなくなってしまうから要らないという扱いを受ける。要らないという扱いを受 けないようにするためには環境変化にうまく適切対応できるようなキャリア形成の仕組み を作っていきましょう。したがって、これを真ん中にも何らかの形で書いたほうがいいので はないかと思っています。  とりわけ何が問題かというと、真ん中の所では、内部労働市場は非常に組織化された市場 というか、市場というよりはむしろ組織という部分であるだけに、組織から見た合理性が優 先されてしまって、個々の働く者にとって中長期に見ると、そういうやり方をすると、あま り良くない結果になるのではないかということを、結果的には組織というのは押しつけるわ けです。量の拡大とか、緊急対応などを考えれば、そういうこともしょうがない部分はある のですが、政策のビジョンとか、ミッションとしてはそういうデッド・エンド・キャリアに できるだけならないように、あるいはそういう所に行ってしまったら、うまくそこから抜け 出して次へつながっていくようにというのは、企業内の市場にも一定の関与をせざるを得な いと私は考えております。  いちばんの例を挙げますと、社会人大学院生がいつも不思議だなというのは、会社が職業 教育訓練のコースを設定して、誰もに行けと言う。行って、みんなが居眠りしていたも、そ こに行ったというのは評価をする。でも、個人が自分で会社と関係なく何かキャリアを作り ますと言って、自発的に活き活きとやっても、そういうものは評価しない。場合によっては、 それに「そんな暇があったら、もっと会社の仕事をしっかりやれ」という類の意地悪をする。 だから、社会人院生の半分は隠れキリシタンで来るわけです。こういう不健全な状況を何と かしないと、私は企業が活性化などはしないだろうと思います。活き活きと働けるという部 分の重要な部分はここだと、いつも同じ歌ばかり歌っているようですが、これを是非真ん中 のどこかで書いていただければと思います。よろしくお願いします。 ○佐藤委員 いまの諏訪先生のお話に関係して、やはりキャリアが行き止まりにならないで 能力開発もすればキャリアがつながっていくというのはすごく大事だと思います。  そうすると、先ほどの話になってしまいますが、有期とか派遣ということで終わるのでは なく、次につながる。そのためには法律上、書くのが難しいにしても、正社員のところが多 様化しない限り、もちろんいろいろあるのですが、だんだん仕事の範囲が狭くなってくるの です。さらに上のためには正社員に移らなければならない。では、現状の正社員に移るかと いうと、企業としてはなかなかです。つまり、いろいろな働き方の中のキャリアをつなぐた めには、実は正社員のところが多様化しなければいけないということは書いてもらったほう がいいかと思います。その法律を整備しろというのは書きにくいにしても、変えられる提起 はしたほうがいいと思います。  ここが変わらない限り、派遣から正社員、有期から正社員というようなキャリア形成は作 れない。ですから、有期のほうだけをいくら議論しても駄目だし、派遣のほうだけ議論をし ても駄目なのです。正社員のほうを多元化、多様化することが、実は働く人にと って非常に能力開発になる。企業にとっても多様な人材を活用できるようになるわけです。 法律上どうするというだけで、それが大事だということは書けるのではないかと思いますの で、そういう意味でご検討いただければと思います。 ○樋口座長 いま諏訪先生のおっしゃったこととの関連でいうと、真ん中にキャリア形成と いうのが入るのと同時に、イメージのほうで企業が活力を持つというのが入っているのです が、これに対応するものがなかなかないのです。いまのキャリア形成というのは、本人はも ちろんのこと、企業にとっても活性化につながるのだというお話がありましたが、そこは要 するに、企業の生産性向上に、本来、税制とか何とかという話もありますが、労働市場、労 働の果たす役割も相当大きいのではないかと思います。 ○玄田委員 企業の成長という観点からすると、雇用創出と密接に関わってくると思います。 たぶんこれからの雇用政策のときには企業と政府との連携ということが成長戦略とか生産 性にものすごく重要になってくるというのは、近年の発展途上国等に対する企業が出ていく ときに、企業だけで出ていっても討ち勝てない時代になってきて、政府と企業がある種のパ ートナーシップを作っていかないと、これからの企業の成長はグローバル競争の中で勝って いけない時代になっていると考えると、労働者と企業との対話と同時に、企業と政府、政府 と労働者のそれぞれの対話のトライアングルみたいなものがもっと強化されてくるのだと 思います。  これから海外進出戦略とか、もし企業と政府が連携となると、すぐ思い浮かぶのは、経済 産業省のテリトリーだろうという感じはするのです。いま座長が言われたように、そこで重 要な軸になるのがジョブだという、雇用機会だということになった場合に、どういう連携で あれば社会的に是認されるのかとか、極端な場合には政府が外国の企業と連携してでも何か をしなければならないときには、ジョブという観点が当然出てくるわけです。企業が頑張っ てというのではなくて、ますますグローバル化の中で、企業と政府との連携が重要になって、 その中でどれだけのジョプが確保できるかという観点から、雇用政策にも一定の役割がある のだというのは、かなり大きな話ですが、そういうこともこれからの雇用創出というときに は大事になってくるのではないか。キャリア形成というミクロ的な面とマクロ的な連携をど う企業とやっていくかというのと、両方大事になってくるような気がします。 ○鶴委員 いまのに関連です。ここに書いてある話であれば、雇用の質を向上させれば企業 にとっても、非常に生産性も高くなり、活力も出てきます。企業の活力、そこの中の人たち のやる気とかインセンティブとかモチベーションということになれば、誰もが出番と居場所 があれば、当然活力がみなぎった企業になると思います。そうなると、そこで働いている人 の質をどれだけ上げていくとか、そこで働いている人のやる気をどれぐらい確保してあげる のかということが、すべての活力の源泉になってくるということであれば、この中の議論は 私は十分ちゃんと入っているかなと思います。  若干2点だけ追加で申し上げたいと思います。「トランポリン型社会」の構築のところで、 外部労働市場の整備というのがあります。ここは中身を見ると、再就職しやすいということ なので、失業している人たちはトランポリンで持ち上げてやるということを、主に認識して いると思います。例えば、誰もが出番と居場所があるということになると、ある所で非常に 自分に不本意な働き方をしている人が、もっと自分が活き活きと働ける所に移りたいという ことになると転職ということもあるのだと思います。  私自身、経済学の観点からいうと、自分の書いたものを見ると、外部労働市場の整備とい うのがいっぱい出てきます。外部労働市場の整備ということを書いて、経済学者などは、自 分で納得して、そこはいろいろあるのだけれどもという傾向が強くなってしまって、それは 具体的に何を意味しているのか。そういう買手独占の話とか、転職サーチコスト、マッチン グの効率性なのかとか、ものすごく職種別な労働市場ということで、市場としての取引をや るための標準化みたいな話も、ここの日本版NVQなどという話はすることだと思います。 表現ということの話にもなってしまうのかもしれませんが、何か工夫の余地があるのかな、 転職・再就職がより容易になるようなということで、そこで少し表現できるのかもしれない のですが、書き方の問題が1つあります。  もう1点、書き方の話でずれてしまうのですが、経済システムの改善という話があって、 改善となると、単一の指標で悪いとか良いとかと判断するような感じがして、その表現の仕 方があるのかなと思います。  それと中身の話は先ほど申し上げたように、ここにいろいろなものが入っているので、も っと経済システムを良くしたいということになると、統一して、例えばこのようなイメージ、 何か目先の利益とか、目先のコストアップということばかりを考えるのではなくて、むしろ 相手のことを考えたり、ある程度の分かち合いなどを含めていったら、実は長期的にお互い に、ウェルフェアが誰もが上がっていくような、そういうソリューションの仕方があるのだ というメッセージの仕方もあるのかもしれません。経済システムが、より良くなっていると 言うのだったら、ここに書いている話をまとめて理解できるようなフレームみたいなものが あると、もう少しパンチが出るのではないかという気がします。 ○樋口座長 労働市場の、我々の言葉では高質な労働市場と言っているので、そのための市 場インフラをどう整理するかということで、いまおっしゃったようなところが、まさに情報 の問題、キャリア形成の問題ということで、そういう形で整理したほうがいいかと思います。  キャリア形成との関連、あるいはジョブ、職種別という話で、高度専門職の活用が、日本 の企業はうまくいかない。これが基本的な問題としてあって、社会としてはむしろそちらを、 いま求めるような世界的な動きとしてはあるにもかかわらず、それに対応しきれていない。 だから、専門的なものにうまく対応できないという課題があるのかなと思います。 ○鶴委員 研究会で企業とか世界的なディマンドにどうやって対応するのかという話も結 構出たのだと思いますが、そういうところも逆に既に研究会で議論が出ているので、いま先 生のお話を含めてのところを、どう的確にスピーディに対応していくのかということを是非。 ○樋口座長 そうですね。これは私より清家さんが言ったほうがいいのかもしれませんが、 大学院の進学率というか、就学率がOECDの国々の中でも、最も低い部類なわけです。そ れでいて、片方で高学歴ワーキングプワーという、供給が少ないところに、もっと需要が少 ないということが起こっている。これで、それこそ企業の活力とか、高付加価値化とか、高 産業社会、知識産業社会に対応できるのかというような大きな問題があると思います。まさ にそこのところで、どちらかというと、労働市場というのは今まではこういった失業の問題 などをどうするかというところだったのですが、産業政策に対する考え方みたいなものも必 要になってきているのではないかという感じがします。 ○阿部委員 まず1つ話したいことは、裁判員制度が始まって分かってきたことがあります。 裁判所というのは、どうも日本的企業の象徴的みたいなところもあって、みんなジャーゴン で話をして、一般人にはわからない世界だと。ジャーゴンを話すための関係特殊訓練をどん どんやってきた。ところが、そこに裁判員が入ってみたら、何を話しているかわからない。 「わかりやすくしろ」と言ったら、「説明力がありません」ということがアンケートで取ら れていたと思うのです。  たぶん座長がおっしゃったことと関係があると思いますが、我々が今まで見てきた日本の 企業の雇用慣行というのは、その企業でしか使えないジャーゴンでみんな話をして、その下 で行動してきたのです。そのために能力開発をしてきている。諏訪先生がおっしゃるように、 だからこそ会社がやってこいと言ったことは、何もやってなくてもオーケーを出すが、自分 で勝手に行くと、「それは駄目ですよ」ということになってしまうというところがあると思 うのです。  したがって、これからはそこをきれいにしていかないと高質な労働市場というのは、もし かしたら難しいのではないかと思いますが。すぐにそれができるかどうかわかりません。1 つは、3番の外部労働市場の整備を、2番の企業内労働市場の整備以上に今後はしていかな いと、そういったことはできていかないのではないか。特にジョブカードにしてもそうです し、NVQにしてもそうですし、その辺りを積極的にやっていなかいと、いつまで経っても ジャーゴンで、ほかの会社に移ったら、何を話しているかわからないという社会になってい くのではないかと思います。  したがって、私は最初に構成で、2番、3番のどちらに重点を置くのでしょうかという話 をしたのですが、2番も大事だというのはよくわかるのですが、どちらかというと、3番に これまで以上に力を入れていくべきではないかと思います。これは私個人の考えです。 ○加藤委員 これが企業内市場か、外部労働市場かという問題で分けていくのもあれですが、 1つは清家先生がおっしゃったのと同じように、労働市場の入口と出口について、とのよう にこれを切り分けて考えていけばいいのかと思っています。出口について、例えば年金、あ るいは社会保障等々とのリンクでもありますし、入口でいうと、この研究会の中で新卒一括 採用の話等々も出てきたのですが、それは雇用ルールの整備の中で考えていくべきなのか、 それとも入口、出口という形の企業の分け方をしたときには、何か違う視点が必要なのかと 思ったのが1点です。  もう1つは、超現実的なことで書きぶりとして伺いたいのが2つあります。1つは、労働 者派遣制度の件です。今国会でどうなるかというのもあると思いますが、この書きぶりみた いなものが、果たして事前面接の話なども含めて、どうなるのかということです。  もう1つは、最低賃金の話ですが、2020年を目指して1,000円ということも出ています が、最低賃金の引上げみたいなものについて、具体的にどういう感じで考えるのかです。非 常に原始的なところで、もしわかれば教えていただきたいと思います。 ○樋口座長 これは厚労省に聞くのは気の毒なような、特に派遣法はいま。 ○加藤委員 だからと言って、質問しないと。 ○樋口座長 むしろ皆さんで何かあったら検討させていただきますということで。それでは 最低賃金のほうはどうですか。 ○前田労働基準局総務課長 昨日、雇用戦略対話で、最低賃金引上げについて、2020年ま での目標をということで、できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮し て、全国平均1,000円を目指すことというのが、一応目標として設定されました。これは新 成長戦略の名目3%、実質2%を上回る成長を前提ということです。これに向けて当面は、 2008年に得たことというのもあって、それを踏まえて最低賃金の引上げと中小企業の制度 の向上に向けて政労使が取り組むということです。  当面は、これから特に中小企業に対する支援と、それが非正規の職業能力育成などとも関 連するということで、こういった支援策を講じながら、最低賃金の引上げに政労使で取り組 んでいくということです。それから、先ほどの雇用契約の在り方なども、こういう中で1 つの考え方としては出てくるのではないかということです。 ○樋口座長 という扱いになっているのですが、ご意見がもしあれば思いますします。 ○加藤委員 意見というよりも、こう書かれたときにどう書くのかというのを伺いたかった だけで、特に申し上げることはありません。  ただ、先ほどの考え方として、入口と出口について、特に入口の面についても、どこかに 入れていただければありがたいと思います。 ○樋口座長 最低賃金については、最近、いろいろな分析が日本でも行われるようになって きて、果たして最低賃金の引上げが雇用を失わせるのかということについても研究がありま すよね。だから、その辺はちょっとサーベイして織り込むということも、政策評価としては あるかなと思います。  いままで我々の研究で言えていること、あるいはいろいろな対立意見があると思いますが、 そういったものをそのまま書くのではなくて、もしかしたらフットノートなりという形でま とめていくことが必要で、政策の在り方というのは科学的に見て、どのようなことが言える のかというのは、我々に課せられた課題かと思いますので、そこはまとめたいと思います。 ○玄田委員 書きぶりの1つの例みたいなものですが、いま座長が言われたように、最低賃 金法も派遣法改正も同じで、有利になる人も出てくるのです。最低賃金が上がることによっ て、働いた場合のいわゆる期待収益率が上がるということで、先ほど元気という言葉が出た のですが、より働くインセンティブを高めて、もっと働くぞという人も出てくる。常用型の 派遣をして、登録型ではなくなるということにおいて、賃金が高くなる。それによってより 働こうというインセンティブが高まる人も出てくるのも事実で、まず第一歩の影響としては プラスの面が出てくると思います。  一方でマイナスの面というのは、派遣で言えば、登録型がなくなることによって、登録型 派遣と、いわゆる無業との境界にある人にとっては、働くチャンスが失われることになって、 今度は逆に期待収益率が下がってしまうのです。最低賃金の引上げも、最低賃金のかなり低 い部分で働いていた人は、700円台から1,000円台の人たちの間はなくなってしまうわけだ から、働けないということになってしまって、そういう人たちも出てきます。いちばん教科 書的な経済学の理解では、プラスとマイナスとどちらが大きいかというと、普通はマイナス の影響のほうが全般的には大きい可能性があるということは、やはり考えなければいけなく て、その2つのプラスとマイナスはラグが出てきたりするから、なかなかすぐには計測しに くいのです。  そうなると、大事になるのは([3]・[4])の部分で、そういうマイナスになる人が出てくる 可能性は排除できないとすれば、外部労働市場の整備や能力開発によって支援しなければな らないといので、先ほどつなげるという話がありましたが、派遣法改正とか、最低賃金はプ ラスになる働き手も出てくるが、マイナスになるのも出てきて、そちらにより目配りをする ことが必要になるというのが、いちばん穏やかな書き方なのではないかと思います。 ○加藤委員 いまの続きですが、最初私が最低賃金のことを考えて、カード=クルーガーみ たいな話でプラスの面というのはあるのかなと。ただ、座長がおっしゃったように、いまの 日本の自主分析でも、わからないというところが多くて、下手に書き込むことによって、非 常に誤解を与える可能性もあるかと思います。ですから、座長がおっしゃったように、ある 意味で、いまのサーベイというか、そういったことがあるというものを列挙していただくの が大事ではないかと思いました。 ○宮本委員 いろいろなことを3点ほど申し上げたいと思います。1つは、私自身雇用の政 策について、こうした報告書がどういう扱いを受けるのかはよくわからないのです。これは、 佐藤先生がおっしゃった新しい正社員というか、第2、第3の正社員の問題に関連して言う ならば、わりと政治主導が言われ、非正規から正規へとか、均等対遇だとか、わりと話が過 剰に単純化されてしまう流れの中で、専門家の皆さんを中心とした委員会の報告書ですので、 少なくともそんなに単純ではないというところは、はっきり書き込むことが大事なのではな いかと思います。そういう流れで書くことが、また効果的でもあろうかと思います。それに 付随させる形でおっしゃったようないくつかのオプションみたいなものを並べていくとい うのが、わりといい書き方なのかと思います。  2番目に、これはやや細かいことであるような、大きいことであるような、どこで申し上 げていいのかわからなかったのですが、二極化から多極化へという書き方がされていて、こ れも少し説明が要るかと思います。多極化というところを、極と極の距離はそのままにして、 間を見てみるみたいな形もあるわけで、おそらくそういう趣旨ではなかろうということで、 多極化という言い方を。選択肢の拡大ということだと思いますので、少し説明を加える必要 があるのかと思います。  第3に、この前申し上げていたことでもあり、駒村さんが言われた他部局他省庁との連携 ということに関わるかと思いますが、いま地域主権戦略会議などで、随分雇用問題が取り上 げられるようになって、知事会などでも取り上げられるようになりました。意外なことにか なり分権化論議の中心になってきているわけです。そうした中で、この報告書がそこに何を 言うのかということが、当然注目されるのではないかと思います。  この項目でいくと、例えば職業訓練とか、ハローワーク等の行政制度的な扱い、あるいは 政策のインプリメンテーションのシステムがどこに書かれていくのかというのはわからな いのですが、素直にとると、「積極的労働市場政策」の項目の中で、「能力開発支援」や「地 域における雇用創出」というところで書かれるのかと思います。そこで多少なりとも、執行 体制については書き込んだほうがいいのではないかと思います。できるならば、項目を1 つ外に出して書いたほうがいいのかなと。専門家の皆さんの名において出される報告書です ので、そういう文脈でないと、なかなかこの状況の中で言いにくいことでもあろうかと思い ますので、その点は少し強調しておいてもいいのかと思います。 ○樋口座長 なかなか難しい書きぶりになるかと思います。ただ、研究会にこれだけの人に 集まっていただいて議論しているわけですから、専門家の目から見た雇用政策というものを 書いていくべきだろうと思います。どこまで書けるかというのは、皆さんと相談しなければ いけないかと思います。  前に玄田さんとは、執行体制との関連で、運用のところが弱くなっているのではないかと いう話が出ました。例えば、人員的にも、こういった職業紹介とか、いろいろな所が削減さ れている。そのときは書くべきだというトーンでお話になったと思うのですが、今回は政策 立案のところまでで止まっています。いまのインプリメンタル、執行体制のところまで出る 中で、どう考えますか。 ○玄田委員 書けるものだったら書いたほうがいいと思います。先ほどの貧困対策もそうで すが、いま足りないのは人が足りない。そういう雇用政策を担うべき人材が絶対足りないと いうのは、いくつかの統計を厚生労働省でバーッと集めてくれば、相当集まるのではないか と思います。官庁だけではありませんが、支援人材をどれだけ持続的に良質な人々を確保す るかということは、あらゆる政策の必要条件であるみたいなことは、何とか座長の力で書い ていただいて。 ○清家委員 それは政策の評価だって、先ほどの明るい話題ではないが、非常にギリギリの ところでやっているわけです。だって労働力人口が6,000万人いる所で、ハローワークの職 員は1万2,000人ぐらいしかいないでやっているというのは、国際的に見ても著しく効率的 というか、一部は人手不足にさえなっていると思うのです。そういうのはこういう政策をや る際に必要なのは何だろう、フレームワークとしての話で、あまりギラギラ書くのはよくな いと思いますので、それはちゃんと触れたほうがいいのではないかと思います。 ○佐藤委員 私も賛成です。これはセーフティネットのところの強化で、今回、雇用保険の 適用拡大もしましたが、あれは業務量が増えるわけです。ハローワークの拠点強化とかあり ますが、現状でいうと、非常勤がすごく増えています。あと非常勤の人の労働条件も、正確 ではないかもしれませんが、継続されても時間給は上がらないのですか。あと全国一律だと 聞いているのですが、正規、不正規の均等待遇だとか、いわゆる能力に応じて処分しろとか、 パート労働法と言っていますが、実は全然そうなってないような、非常勤化が異常に多いし、 そこでの処遇も、その人たちの能力を高めるような仕組みになっていないみたいなのです。 やはりマンパワーの量と質がこれだけの政策をやっても、事実上、現場で動かないではない かと危惧するのです。書くのは難しいというのはよくわかっていますが、そこに人が就いて いないということは言ったほうがいいのではないかという気がするのです。 ○樋口座長 PDCAサイクルを回すということになると、どうしても書かなければいけない ところが出てくるのです。政策自身、立案自身の問題なのか、それとも運用の問題になるの かというところで、その効果が出てきますので、ちょっと相談させてください。 ○阿部委員 ついでに、政策立案と評価のための統計整備もちゃんと書いていただいたほう がいいと思います。 ○佐藤委員 予測機能の評価みたいなところですね。 ○樋口座長 エビデンスベースでのポリシーということですね。 ○山川委員 先ほどPDACの話で終わりにぐらいでとか申しましたが、モデスト過ぎたか もしれませんので、もし可能なら。要は政策実現体制、真に目標を実現できる体制を敷くと いうか、強化するという発想で、それは更なる効率性のある仕組みを考えるということもあ るかもしれません。ギラギラと書かないということから、いずれにしても政策実現体制とい う観点から書き込めたらどうかと思います。 ○清家委員 こういう政策のためには、こういうフレームワークが必要で、そのためにこの 資源が不足している、していないというようにしないと、最後は特攻隊をやらなければ駄目 だとか、そういう話になるのです。それから政策が失敗していたとしたら、これは本来の素 晴らしい作戦を航空母艦1機動部隊要るところを、駆逐艦3隻でやろうとしているからなの だということをやるのがPDACでしょう。 ○樋口座長 検討させてください。皆さんのご意見はそういうのが強かったということです。 ○清家委員 私はあまり出席する機会がなくて、もうそういうのは議論されたと思いますが、 やはり古くて新しい話題ですが、([2])と([3]・[4])という内部労働市場と外部労働市場を、 どのようにバランスさせるかということで、両方というのはなかなか難しいと思います。先 ほど阿部さんが言われたように、ジャーゴンがあったりとか、確かに均等対遇などは大切で すが、それも突き詰めていくと、ジャーゴンなし、均等待遇、ジョブカードでどこでも異動 できるというのは、要するに典型的なベッカーが出てくる前の経済学の考え方ですね。  つまり、労働力というのはいくらでも入れ替え可能な投入要素ですと、同じジョブカード の内容だったら、阿部さんでも清家さんでもいいですよと。阿部さんは全然自分のほうが上 だと思うかもしれませんが、仮に評価が同じだったら、最終的には別にどちらを雇ってもい いという話ですよね。それが労働市場機能の強化でしょう。だけど、ベッカーが出てきてか らの話というのは、そうではなくて、きずなとも関係があるのですが、「いや、こういうも のは阿部君でなければ駄目なんだ。ずっと阿部君にいてもらいたいのだ」という話です。そ うすると、それは両方を良くしましょうというのは難しいのです。今までは、日本の企業の 強さというか、あるいは産業の強さは、どちらかといえば「阿部君でなければ駄目なのだ。 ずっとここにいて頑張ってね」と。それが信頼の束だったのかもしれないのです。それでや っていたのですが、それだけではなかなか難しいので、阿部でも清家でもいいという世界を 作りましょうというように、だんだんなってきているのですが、そのウエイトというか、バ ランスをどうするかという話ではないかという気がするのです。  やはり私は、いまでも主流は阿部君でなければ困るというのが雇用の世界の大宗ではない かと思うのです。だけど、変えなければいけないというのはわかります。そこは阿部さんと 私はウエイトの置き方が違うのかもしれません。 ○阿部委員 私は、100%外部労働市場だけでできるとは思っていない。だから、どちらも 大事だと思うのです。ただ、1990年代後半ぐらいから「失業なき労働移動」ということで、 内部労働市場重視の上での外部労働市場の活用というのが出てきたわけで、それがずっと今 の状況でもそうなのかなというのが私の考えです。もう少し外部労働市場がウエイトが上が っているのではないかと思います。これから逆転することもあるのではないかというところ です。だから、そこはやってみないと分からないところがあるかもしれません。無責任かも しれませんが。 ○樋口座長 ただ、やはり企業は阿部さんでなければ困るのですが、企業が倒産してしまっ たときに、阿部さんは困るので、それをという話ですよね。 ○佐藤委員 人事で経済の人は企業の特殊的な一般づけを1、0ではなくて、実際上は企業 で独自的に訓練して一般的スキルが高くなるわけです。つまり、実際上、トヨタから日産は 転職できて、1年も経てば適応できるのです。企業の特殊的事情はほんのちょっとなのです。 0.1と考えないで、バリアはそんなに高くない。せいぜい1割です。 ○阿部委員 それを実現すればいいのです。ところが、実現しないという、0、1でみんな 考えているところがあるのではないかと思います。 ○山川委員 書きぶりの話かもしれませんが、先ほど諏訪先生が言われたキャリア形成の点 で、真ん中の([2])に入れたほうがいいと思います。その前提になるのが雇用の質とは何か というところから書き起こして、例えば、安定、均衡、キャリア向上とか、そういうところ から下の3つ、あるいは キャリアの形成ということをさらに加えることになるのか なという感じがします。  つまり、雇用の質というところから始まって、具体的な柱を立てていくと。何となく雇用 ルールの整備等、賃金処遇の改善、ワーク・ライフ・バランスの実現、この3つの並び方、 特に雇用ルールの整備を先ほどの議論の関係でいえば、ここだけ価値的でないものになって いて、賃金処遇の改善は均衡みたいな話かもしれません。ワーク・ライフ・バランスの実現 も一種の理念、価値を表しているのですが、雇用ルールの整備は、そのこと自体は価値中立 的な表現になっていて、若干アンバランスかなという感じもします。  ここに書いてあるのは、おそらく二極化への対応という趣旨かという感じがします。だと するとキャリア形成とか、先ほど清家先生が言われた高齢者雇用という意味でのキャリアの 継続とか、そういうことかもしれません。そういうのがちょっと別の次元になってくる、も しくは雇用ルールの整備等に書かれていることが二極化への対応だとしたら、その辺りはど ちらでもあり得ると思いますが、ご検討いただきたいと思います。 ○樋口座長 まだ議論は多々あるかと思いますが、ほぼ時間がきておりますので、今回はこ こまでとさせていただきます。たくさん宿題をいただきましたし、また貴重なご意見もいた だいておりますので、事務局と相談しながらまとめていきたいと思います。  今回いただいた議論、ご意見を踏まえて報告書案を作成していきたいと思いますので、次 回はそれについてご検討いただきたいと思います。 ○平嶋雇用政策課長補佐 次回の研究会は6月24日10時から、省議室で開催したいと思 います。どうぞよろしくお願いします。 ○樋口座長 どうもありがとうございました。 照会先 厚生労働省職業安定局雇用政策課雇用政策係  〒100−8916 東京都千代田区霞が関1−2−2  電話 03−5253−1111(内線:5732)