10/02/05 第4回厚生科学審議会健康危機管理部会議事録 第4回 厚生科学審議会健康危機管理部会 【日時】 平成22年2月5日(金)10:00〜 【場所】 厚生労働省共用第8会議室 【出席委員】 明石委員、大野委員、岡部委員、加茂委員、吉川委員、倉田委員、黒木委員、        佐藤委員、古米委員、南委員、山本(貴)委員、山本(都)委員 ○鹿沼健康危機管理官 定刻になりましたので、ただいまから第4回「厚生科学審議会健康 危機管理部会」を開催させていただきます。私は、厚生労働省大臣官房厚生科学課健康危機 管理官の鹿沼です。委員の皆様、本日は大変お忙しい中をお集まりいただきまして誠にあり がとうございます。本日は石井先生、大友先生、工藤先生から欠席のご連絡をいただいてお ります。委員15名のうち12名のご参加をいただきまして、過半数を超えておりますので、 会議は成立しておりますことをご報告いたします。事務局を代表し、谷口技術総括審議官よ り一言ご挨拶を申し上げます。 ○谷口技術総括審議官 技術総括審議官の谷口です。先生方には本当にお忙しい中、本会議 にご参集賜りまして誠にありがとうございます。心より御礼申し上げます。  ご案内のとおり、本部会では原因の明らかでない公衆衛生の緊急事態について、必要に応 じて臨時に会議を開催させていただき、そういう事態への対処についてご議論いただくのが 本来のマンデートです。今回はそういう突発の事態ではなく、定期の会議ということで、昨 年2月の会議開催以来1年経過をしていることもあり、この間の健康危機管理上のトピック スについて事務局からご報告申し上げ、健康危機の対処の適切なあり方について広範なご意 見をいただくという趣旨です。  ご案内のように、この1年間でのいちばん大きなトピックは、何を置きましてもH1N1 のエピソードです。流行は若干下火になったとは言いながらも、まだ続いております。そう いう状況ですけれども、これまでも初期対応から、その医療の提供、ワクチンの確保、接種、 それから国民の皆様方への正しい情報提供など、さまざまな論点というのは提起されている ところです。本日は、健康危機管理のあり方という観点からも、委員の先生方のご意見をい ただきたいと考えております。  このほかにも食中毒でありますとか、駿河湾沖の地震、それからなかなか難しい問題では ありますが、北朝鮮のミサイルの問題というようなこともあり、国民の生命・健康の安全を 脅かす事例は度々発生していることは事実です。こういうことも含め、発生時における適切 な対応方法について、先生方のご意見をいただきますとともに、併せて国の方針のご理解、 ご支援を賜れば幸いであると考えておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。甚 だ簡単ではありますけれども、開会にあたっての挨拶とさせていただきます。本日はどうぞ よろしくお願い申し上げます。 ○鹿沼健康危機管理官 資料の確認をさせていただきます。本日は5つの議題を考えており まして、その関係で資料を5つの束に分けております。資料1-1と資料1-2が健康危機管理 調整会議の関係です。資料2-1と資料2-2はIHRの関係です。資料3は新型インフルエン ザ関係です。資料4-1と資料4-2は世界健康安全保障イニシアティブ会合の関係です。資料 5はその他諸々の関係についてです。参考資料として、資料1から資料7まで用意させてい ただきました。以降の議事進行は倉田部会長にお願いいたします。 ○倉田部会長 たくさんありますから少し急ぎつつ、かつ大事なことは外さずに意見をどん どん出してもらえればと思います。最初に健康危機管理調整会議の開催状況について報告を お願いいたします。 ○鹿沼健康危機管理官 資料1-1と資料1-2に沿ってご説明いたします。健康危機管理調整 会議ということで、幹事会を含めて月2回開催しております。ここの委員の中にもご参加い ただいている先生方もいらっしゃいますが、そちらの開催状況について平成21年の状況を ご報告させていただきます。資料1-1、「健康危機管理調整会議の主な議題」です。医薬品 の関係ではタミフルの服用と異常な行動等。これは薬食審の調査会の検討結果についての報 告を受けております。カナダにおける新型インフルエンザワクチンの一部のロットで、アナ フィラキシーがやや多い傾向があり、その副反応についての報告を受けております。  2番目は「食品関係」としてレストラン等、これは飲食チェーン店で結構起こりましたが、 そういう所におけるO157食中毒の広域発生事例。清涼飲料水・お菓子等における有症事例 の問題です。これについては事件性が高くて、衛生面での対応はほとんどないということで、 この3つのものについては終わっております。食用油に、高濃度にジアシルグリセロールを 含む食品があるということで、こちらは企業のほうで販売自粛・出荷停止ということで対応 しております。オーストラリアでの国産豆乳製品に高濃度のヨウ素があるということでリコ ールの問題が起こりました。これについては、国内で出回っているものについては回収・廃 棄、または在庫品については出荷自粛、関係国に対して情報提供ということで対応しており ます。  3番目は「感染症関係」です。後ほどご説明いたしますが、新型インフルエンザの関係に ついては、毎回定例で感染状況について報告をしていただき議論をしています。また鳥イン フルエンザ(H5N1)についても、人での発症状況について、世界各国での発症状況について フォローを行っています。鳥に対する鳥インフルエンザの発生の状況について愛知、埼玉の 事例について報告を受けております。  4番目は「院内感染関係」です。季節性インフルエンザの院内感染事例についての報告、 また多剤耐性のアシネトバクター・バウマニの院内感染事例の報告を受けております。  5番目は「自然災害関係」です。大雨、地震、台風についての災害の状況、その後どのよ うになっているかという状況について報告を受けています。  6番目は、いろいろな研究者の方々から、いろいろな健康危険情報がもたらされておりま して、そういうものについて報告・議論を行っています。  7番目は「その他」として、北朝鮮によるミサイル発射事案について報告・議論を行って おります。密封された放射性同位元素が所在不明になったということですが、最終的には破 損もない状態で回収されたということで、そういうものについての議論を行っております。 工場における爆発事故については、化学工場の爆発事故が2件ありました。いずれもその爆 発に伴う建物への被害等はありましたが、周辺住民に対して健康被害は生じていないと聞い ております。劇物等の漏洩事故は、塩素ガスなどの漏洩事故についての報告を受けておりま す。  いずれも報告を受け、それらについてその後の対応をフォローし、私どもの中の対応の評 価、また関係課の中で間に落ちないように作業を行うという形でやっております。以上、健 康危機管理調整会議についてご説明させていただきました。詳しい内容については資料1-2 にありますのでご参照ください。 ○倉田部会長 鹿沼さんの報告に対してご質問、ご意見はありますか。4の「インフルエン ザの院内感染」というのは非常に気になる言葉の使い方なのですが、どんなことが起きたの ですか。100名とか500名の人が感染したのですか。 ○鹿沼健康危機管理官 1月に、都内の病院において、入院患者と職員の間で季節性インフ ルエンザが集団発生し、入院患者のうち3名が亡くなった事案です。これに対して関係課か ら県に対して通知の発出、施設におけるインフルエンザ対策の徹底ということでの依頼・対 応を行ったところです。 ○倉田部会長 一言余計なことを言いますが、部屋の空調とか人の出入りの管理ができてい ないとか、病室がちゃんとした建物ではないということがあったら、基本的に不注意とか何 かだけではいけないですよね。その辺のところで問題点の指摘はされているのですか。人の 接触だけではなくて、基本的に病室の問題だと思うのです。院内感染については、注意をし ましょうだけでは何も進まず、普通のインフルエンザだったら、また起きると思います。  ほかにはよろしいでしょうか、もし気になることがありましたら資料がインターネットで 取れるようになっていますので、そちらを参考にしてください。次の、改正IHRについて 説明をお願いいたします。 ○杉江国際課長補佐 大臣官房国際課からご説明させていただきます。資料2-1、国際保健 規則(IHR)は昨年もご紹介いたしましたが、2005年に改正され、2007年から新しい形での 運用が始まっております。概要のところに書いてありますが、かい摘まんで申し上げますと、 IHRというのは世界保健機関(WHO)の枠組みの中で、各国が加盟しているわけですが、疾 患の発生の情報を共有していこうという枠組みです。改正以前は黄熱、コレラ、ペストの3 疾患を報告対象とする形で行っていましたが、ご案内のとおりSARSとかエボラ出血熱そ の他いろいろな感染症、それ以外には化学物質、放射線、食品といろいろなことで問題が起 こるわけです。そうしたものをグローバル化の時代の中で、世界各国が迅速に情報を共有す ることが重要であるという認識の下で改正され、2007年6月から運用が始まっております。  資料2-1の1.のところに●を3つ書いてありますが、この中で重要な点が1つ目の●です。 「原因を問わず国際的な公衆衛生上の脅威となるあらゆる事象」これがWHOに報告され るということで、この運用に当たっては、加盟国も一体どういう形で情報を出していくのか ということが議論になった経緯があります。  そうした中で今回ご説明させていただきますのは、実際にこの新しい運用の中で、昨年4 月24日以降、いわゆる新型インフルエンザH1N1が発生し、その情報共有がなされたとい うものです。この経緯をかい摘まんで申し上げます。4月24日の時点で、豚からのインフ ルエンザがどうも怪しいという情報が入ってきて、それ以降各国で発生してくる情報につい て、各国のナショナル・フォーカル・ポイントと呼ばれている所からWHOに情報が出さ れ、その情報が各国に同時に還元されてくるということがなされました。その意味では、発 生時において日本でも5月に迅速に対応が行われ、IHRの枠組みは非常に機能したことが 国際的にも評価されました。  2.から3.のところにかけてですが、実際にはIHRの中でいくつかの課題が指摘され始め ています。その1つは、1回、新型インフルエンザが発生した後も、各国が断続的に情報を WHOに報告し続けていくと、WHOと各国との情報のやり取りの中で情報が非常に錯綜し てきてしまうということがあります。その中で重要な情報として、ウイルスの変異、病状が 悪化している、もしくは薬剤耐性があるという情報も入れるべきだという声が上がってきて、 そういう情報も流れてきています。実際にいまもこの動きは続いているわけで、その中で回 線は1つになるわけですから、そこにどういう情報が出されていくべきなのか、その中で精 査はどうしていくべきなのかということについては、まだWHOの中でも十分な議論がさ れていません。  別の言い方をしますと、今まさにそういう問題意識が出始めているところです。こうした 点を、特にIHRの運用でもご活躍いただきました岡部先生にも、必要に応じて補足してい ただければと思います。我々としては、今後先生方のご意見等も踏まえ、もちろんいま機能 しているわけですが、例えばインフルエンザだけの情報が世界的に回っている中で、もう1 つ新しい疾患が出たときに、国際的に見落とされないようにするにはどうしたらいいのかと か、さまざまな問題があるということで、今後は我々内部でも精査した上でWHOでの会 議、もう少し大きな枠組みではWHOの総会という場の中でも議論を惹起していきたいと 考えております。したがって、この点についてご意見をいただきたいというよりは、むしろ こういう枠組みがありますので、これをご紹介させていただきつつ、ご意見がありましたら 承らせていただきたいと考えております。  資料2-2については、IHRの枠組みで、平成21年度にどういうことが起こったかという ことで、日本で起こった感染者をWHOに報告したこと、逆にWHOのほうから情報が流 れてきたこと。それ以外にもO157などの情報についてもやり取りいたしましたということ でかい摘まんで書かせていただきました。説明は以上です。 ○鹿沼健康危機管理官 いま杉江のほうからご報告いたしましたが、もう少し詳しくお話い たしますと、基本的には資料2-2にありますように、今年度IHRについては新型インフル エンザの話を中心として、いろいろ報告がなされております。また各国において情報共有を 行っているところです。  1つの塊としては発生状況ということで、国内で確定症例が出て以降、国内の感染状況に ついて、当初は毎日やっておりましたし、それ以降は週に1回ということで定期的に報告を している形です。関心が、当初の「発生状況」から、「ウイルスの変異」や最近では「副反 応」という話に移ってまいりましたので、7月3日のタミフル耐性を示す遺伝子変異につい ての通告、それ以降の耐性ウイルス分離が行われ次第継続しています。  真ん中よりやや下のところに、10月23日から現在まで、ワクチン接種後の副反応につい ても継続的にWHOに報告しています。WHOのほうからも、事務局長による勧告があり、 4月25日に新型インフルエンザの流行を、国際的に公衆衛生上の緊急事態と認定する。そ の上でサーベイランスを強めることを求める旨の暫定的な勧告が発出されて以降、事務局長 のほうからIHR参加国が国境を封鎖しないこと等についての勧告が追加され、現在まで継 続されているものです。  インフルエンザ関係では下から2番目のところに、新型インフルエンザの発生当初の話と して、濃厚接触者について、国際渡航等に関する情報交換も綿密にやってきました。その他 O157の話等についてもやっております。基本的に新型インフルエンザについては、その発 生状況、場面の変化に応じて適宜通報等を行ってきました。以上です。 ○倉田部会長 いまのお2人の説明についてご質問、あるいは説明を加えることはあります か。 ○大野委員 この文章を読むと、感染症が中心なのですけれども、先ほどの説明だとケミカ ルについても考慮に入れてこういう制度ができたということでした。例えば、ダイオキシン に汚染された食肉がどこかで大量に出たということの防疫にも関連して、情報を提供すると いうことなのでしょうか。 ○杉江国際課長補佐 いいご指摘だと思います。この点は国際的にも非常に議論があるとこ ろなのですが、枠組み的にはすべての事象と書いてありますので、まさにすべてが入ります。 国際的な枠組みですので、基本的には国境を越えての健康危機の伝播といいますか、そうい うものが対象になります。例えば、国内に限定している場合については、基本的にこの枠の 中に入ってこない形になるわけですが、その精査とか、特に途上国からするとこれはどうす るのだという場合があります。WHOとしては、なるべく情報は貰おうとしているわけです が、そういう形になると少しレベルの低い情報まで出てきてしまう可能性があるということ で、いまの段階で、私が見ている限りでは感染症の情報が非常に多いと認識しています。 ○岡部委員 今回のH1N1が発生してからの連絡体制というのは、WHOに対しては非常 によかったのではないかと思います。日本でまとめている情報がそのまますぐIHR担当者 への報告でレスポンスをやっていたようです。そういう担当を厚生労働省内に置いたという のは非常によかったと思います。  WHO側に問題があるのではないかということもあります。WHOが発表している世界の 状況の中で、日本の状況の、例えば地図みたいな所で日本はノーレポートになっています。 本当はレポートしているはずなのです。そこのメカニズムは向こう側の問題だと思うのです が、出している以上はちゃんと書けということは、おっしゃったほうがいいと思うのです。  それから、途中でIHR絡みの国際会議があって、私や私の所の谷口室長の所に出席要請 の連絡が来たりするのですけれども、全体にショート・ノーティスで、なかなかその会議に 行く時間が取れない、あるいはそういうものに対して、あらかじめ旅費等の配分がない。こ れは厚生労働省だけの問題ではなくて、国全体の問題だと思うのです。そういうものに対し て、普段からきちんとした手当てをしておくというか、そういう構造にしておくことは、非 常に重要ではないかと思います。 ○倉田部会長 岡部さんが言ったことは、別にいま始まったことではなくてずっと前からな のです。その度に、私はその現実を言い続けてきました。どういうことかというと、大事な ことには行ってください。行くのはいいのですが、研究費で行くと、向こうへ行ってからの 動きも全部自腹を切って行くことになります。エコノミーのディスカウントに乗せられてそ こから始まるのですが、この辺のやり方は世界の国々と全く違います。  そういうことで緊急時に対応しろというのはわかりますし、やり得る人もだんだん育って きていると思うのです。またアメリカと言うけれども、私自身はCDCに30年近く出入り していますが、緊急時には4時間でチームが出ていく体制ができています。そのためのトラ べルオフィスも中にあって、緊急に切符を取ります。アトランタから国際の空港まで飛べな い場合は、前は持っていなかったのですが、今はジェット機を持っているのでそこまで人も 運んでしまいます。物によってはアフリカまで機材を持っていってしまいます。現地では全 面的に大使館が応援します。そういうやり方がいまはだんだんはやってきています。もちろ んフランスはフランス、イギリスはイギリスのやり方がありますが、もし迅速に対応してい こうということならば、そういう人あるいは物の運び方に関することをきちんとやれる体制 をつくっておくほうがいいかと思います。いま岡部さんが言われたことは非常に重要なこと なので、お考えいただければと思います。  ほかにないようでしたら、また後で戻ることにして、議題3の新型インフルエンザの対応 についてを事務局から説明をお願いいたします。 ○鹿沼健康危機管理官 資料3です。冒頭の谷口からの挨拶にもありましたが、新型インフ ルエンザ対策というのは、今回の健康危機管理での非常に大きな話かと思っております。資 料3にありますが、今回の新型インフルエンザ対策についてはいくつかの大きな段階があっ たのかと思います。1番目の大きな段階としては、6月ぐらいまでの間の発生初期の段階の 対応です。資料は、左側に感染状況、真ん中に私どもがどういう対策を目標にやってきたか、 右側に主な対策という形でまとめさせていただきました。  4月23日に米国で豚由来インフルエンザウイルスの人への感染事例の報告がありました。 メキシコの中で、豚由来のインフルエンザが出てきたということで、こういう話がありまし た。私どもとしては、まず国内への侵入を阻止するということと、国民に対する正しい情報 を提供していくことを主眼に置いて、対策を講じてきました。行動計画に基づいて検疫体制 の強化、省内にコールセンターを設置して情報提供に努めてきました。  4月28日にWHOがフェーズ4の宣言を出し、これを受けて「基本的対処方針」を策定 し、新型インフルエンザを感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」と位置づけ、検疫 について隔離・停留の強制措置も含めた検疫の強化を実施いたしました。対策の目標に追加 しておりますが、情報提供にプラスして、国内の体制の準備ということで発熱相談センタ ー・発熱外来についての準備を行いました。  4月30日にWHOはフェーズ5に引上げを行い、5月8日には米国から成田に到着した 患者の中で、4名の感染が確認されました。こういう中で、私ども対策についても「基本的 対処方針」の改定し、新型インフルエンザについて専門家諮問委員会を政府に置き、ここの 委員であります岡部先生を含め、感染症やウイルス学、また臨床などの専門の方5名の先生 方に委員になっていただきました。そして、尾身先生を委員長として会議を開催し、適宜い ろいろご検証いただきながら、そこでの議論の結果を踏まえ、政策を進めていこうというこ とでやってきました。13日に、その諮問委員会で停留に関する報告についてもいただきま した。  2頁ですが、最初は国内に入ってくるまでをどうするかというところが問題だったのです が、5月16日に国内最初の患者を確認し、これ以降は発生したものに対してどう封じ込め ていくかということが我々の対策の目標になりました。神戸、大阪、兵庫のほうでは結構患 者がいましたが、全国的にはまだでしたので、まず封じ込めと検疫は引き続き強化するとい うことでやってきました。発熱外来の設置等医療体制の整備、患者の発生した地域における 感染拡大防止策の実施ということで、施策目標の下に、16日に「確認事項」を決定し、国 内での患者発生に対応した発熱外来の設置等の医療体制の整備、患者の発生した地域におけ る感染防止策の実施ということでの確認事項を決定しました。  5月16日の患者発生の確認以降、兵庫・大阪を中心にして患者数が増加しました。特に 発生地域においてはかなり急激に出てきたということもあり、中学校、高校等の臨時休業を 行ったりという形で、感染拡大防止策を行ってまいりました。関西地域とそれ以外の地域で は患者の発生状況も全然異なる面もありましたので、その地域の実情に応じた柔軟な対応を やっていかなければいけないということで、「基本的対処方針」とか、厚生労働省のほうで 医療の関係、検疫の関係、学校・保育施設等の臨時休業の関係について運用指針を策定させ ていただきました。これらについても全国一律ではなくて、発生状況に応じて大きく2つの グループに分けて対策を実施可能という形にしたものです。  それ以降患者の状況はだんだん全国に拡大してきて、6月12日にはWHOではフェーズ 6に引上げを行いました。それまでの患者の個別の発生であれば、そこをどう封じ込めるか ということだったわけですが、国内では全国的にかなり患者も出てきている状況になってき ますと、封じ込めというよりは、一般医療の中で、きちんとそういう医療を含めた対応をし ていこうという形での対策に転換をしました。秋、冬に向けてさらに流行していくことが今 後予想されるということで、それに向けた準備を政策の主眼に置いたものです。  6月19日に運用指針を改定し、秋冬に向けて、国内での患者数の大幅な増加が起こるこ とも想定し、社会の混乱を最小限にするための体制整備に重点シフトしました。具体的には、 一つは重症患者のための病床確保。また、サーベイランスもそれまでは全数報告ということ でやってきたわけですが、こうなってくると全数という形ではなくなってまいります。一つ 一つのものを封じ込めるというよりは、集団、クラスターとして捉えて封じ込めていったほ うがより効果的であろうということで、集団発生をサーベイランスの重点に置いて、集団発 生が起こった場合に臨時休業等の措置を行うということでの対策に切り換えてきました。  この段階からだいぶ変わってまいりましたが、国内で発生している状況の中で、海外から の侵入を抑えるというのは、あまり意味を持たなくなってまいりますので、検疫等について も政策の転換を図っております。  3頁からが7月から9月ぐらいの状況です。発生初期の段階が終わって、その後だんだん 国内に蔓延してくる。正直申しまして、7月、8月という時期は学校を中心に感染が広がっ ていたこともあり、7,8月に入って夏休みになって多少収まってくるのではないかという 可能性もあると思っていたのですが、現実にはジリジリと増えてきて、第32週で、定点当 たりの医療機関の患者数の全国平均は0.99、しかもこの時期ですのでほとんど新型インフ ルエンザということで、8月10日〜16日の第33週には1.69になりました。一般的に季節 性のインフルエンザでも1を超えるとそろそろ流行が始まりますよと。それから6〜8週ぐ らいで流行のピークを迎えるという形が多かったので、これを踏まえて新型インフルエンザ の流行入りの宣言を出させていただきました。  8月28日には、医療について新型インフルエンザの流行のシナリオとしてこういうこと があり得るのではないか、その中で都道府県の方々に医療についての体制の整備をお願いし ますということでの「流行シナリオ」を公表し、各都道府県における医療機関の病床数の確 認、必要な医療提供体制の確保対策の実施を要請しました。さらに秋、冬になって流行が本 格化してくるだろうということに向けての体制整備、またワクチンの早期確保と、その接種 に向けた体制整備を7月から9月に行ってまいりました。  10月になって第44週では、ジリジリと上がってきていたのが、だんだん上がり方が急に なってきました。感染状況についてはグラフがありますので、そこでもう一回お話をさせて いただきます。思っていたよりも上がり方は急ではなくて、ジリジリ上がってくるような形 で、上がり方としては急に上がって急に下がるという形で、ずうっと上がってくるような感 じではなかったかと思っております。10月には、優先順位に従ってワクチンの接種が可能 になりましたので、ワクチンの接種を始めました。  ワクチンについては、量的に順次出荷されてくるという状況でしたので、ワクチンが感染 防止というよりは、死亡者とか重症化を抑える効果があるということを踏まえ、よりリスク の高い方から先に打っていこうということで、ワクチンの接種を優先順位に従って行ってき ました。そのために10月1日に政府のほうで、「新型インフルエンザのワクチン接種の基 本方針」を策定し、こちらのほうで優先順位や、接種対象者に対して順次必要なワクチンを 供給できるようにと。H5N1のときのプレパンデミック・ワクチンは2回接種でしたので、 おそらくこれについても2回接種ではないのかということで2回接種を前提に、国内産ワク チンを2,700万人分、これだけでは足りないだろうということで輸入ワクチンを5,000万人 分程度購入するということの決定がなされたところです。また、ワクチン輸入に際して必要 な立法措置を講ずることが、本部で決定されました。  10月19日からワクチン接種が開始され、医療従事者から順次優先順位に従って行われま した。接種回数については、実際に臨床試験の結果が出てまいりますと、当初は2回接種で ないと効果が上がらないと思っていたのですが、試験の結果、健康成人については1回接種 でかなり高い効果が得られそうだと。それ以降順次臨床試験をいろいろな方に行い、その結 果に基づいて妊婦の方はどうなのか、中高生の方はどうなのかということで、10月から12 月にかけて接種回数の見直しを行いました。  11月の感染の状況は引き続き増えてきて、第48週の11月23日から29日がいちばんピ ークになっておりますが、全国平均が40弱、いちばん多い福井県では95に達していて、 定点医療機関あたりの患者数は多くなってきました。また、ワクチン接種後の死亡事例の報 告が11月13日にありました。施策の目標としては、10月に引き続き優先順位に従っての ワクチン接種、あとはピークを迎えてきますので患者増に対応できる医療体制の整備を主眼 に置いて対策を行ってまいりました。  また、ワクチン接種後の死亡事例の報告があったこともあり、その副反応についての検討 も行ってきました。専門家による検討のほか、医療従事者2万人を対象に、接種後の安全性 に関する調査研究を実施し、そういうものも評価してきました。  12月に入り、引き続きワクチン接種と医療体制の整備を行ってきました。併せて右側に ありますように、「健康被害の救済に関する特別措置法」という新しい法律を制定したり、 基本方針のほうを改定し、優先接種対象者以外の方、健康成人も含めた全国民に対して接種 費用の負担の軽減措置を可能としていきました。今後、健康成人も含めて接種の範囲が広が っていくだろう、それを踏まえて軽減措置ができるような形での指針の見直しを行ったもの であります。新型インフルエンザの予防接種法での位置づけや、緊急時のワクチンの確保と 供給のあり方等について、これはむしろこの先に向けての議論ということで、「予防接種部 会」を新たに設置して開催し、検討を開始したところです。  1月の感染状況はだいぶ落ち着いてきてはおりますが、一方でワクチンの接種回数も2回 ではなくて1回でいけるということで、ワクチンは量的に余裕が出てきたこともあり、健康 成人も含め、希望者すべての国民に対してワクチンを接種するということで施策を転換しま した。薬食審の分科会のほうで、輸入ワクチンについての特例承認、健康成人に対する接種 開始を決定しました。  あと3頁ほど感染状況について書いてありますが、5頁は当初の感染状況ということで全 数把握のときです。いちばん左側に小さな山があって、その後は6月ぐらいからグッと上が ってきて、7月になると毎日2百数十名ぐらいの報告が出てきたということです。7月下旬 で全数報告は終えたわけですが、それ以降は6頁にあるように、定点医療機関の患者数の動 向を把握させていただきました。第32週で0.99、第33週で1.69ということで、夏休みに もかかわらずこの辺でジリジリと上げて、普通ですとここから急激に上がってくるのですが、 それ以降1から2、3という形で少しずつ上がってきます。それが、9月の下旬、10月上旬 ぐらいの第40週、第41週ぐらいから今度は急に上がってきて、第44週から第48週辺り にかけてかなり高い水準になってきました。  それ以降、季節性だともう少し落ち方も早いのかと思いますが、新型インフルエンザにつ いては落ちるほうも、例えば沖縄県では再び少し増えてきたりという状況もあり、その辺も 季節性とはちょっと違うところかと思います。現在第3週のところで9.03と出ていますが、 いまは1桁ぐらいの水準になっています。  7頁には、個別の都道府県の状況を付けております。福井県が非常に高いです。沖縄は第 34週、第35週ぐらいのところで、ほかの県とは違って山が来ています。いま第1週、第2 週の辺りでも比較的高い数字になったり、都道府県によって少し感染状況が違います。なお、 こうした状況を踏まえ、それぞれの県の流行のピークにおいては、医療の面でちゃんと確保 できているのか、混乱はないのかどうかを確認しながら施策を進めてきました。  今後どうなるのかという話がよく出てまいりますが、新型インフルエンザは季節性とはだ いぶ違うところがありますし、そもそも最初が冬ではなくて5月に感染が始まっています。 我々としては、これからも感染状況については油断なくやっていきたい。またウイルスの変 異についてもどうなるのかわからないということで、そこについてもきちんとウォッチして いきたいと思っております。以上です。 ○倉田部会長 インフルエンザの問題についてご意見、ご質問がありましたらお願いいたし ます。 ○岡部委員 先ほどご紹介いただきましたように、私も諮問委員会のメンバーに入っていま した。全体にいって、初動はそんなに間違っていなかったのではないかと思います。いろい ろな方面の準備が進まなかった部分も急速に動いたりして、いままでの準備状況はそれなり に評価できると思います。  現在の状況ですけれども、確かに患者数は諸外国に比してそんなに変わらない、感染者数 としては変らないと思います。入院者数もパーセントでいうと低いほうですけれども、それ ほど目立って低いというわけではありませんが、死亡者数、重症者数も、ちゃんとやってい る所としては妊婦の入院数も世界でいちばん低いぐらいではないかと思います。一般の方が こういう病気をよく知っていた、医療のアクセスのよさ、医療機関の人は大変だと言ってい ましたけれども相当努力したり、もちろん保健行政に関わる方の力も大きかったと思います。 そのような良い面もアピールしていっていいのではないかと思います。  ただSARSのときに、結果的に日本では1例も出なかったので、これでよかったと思っ て、そのまましぼんでしまったようなことがありますから、喉もと過ぎれば何とやらという ことのないように、これでよかったというのではなくて、リスクマネジメントとしてはきち んとやっていったほうがいいと思います。特にサーベイランス体制その他については、厚生 労働省の出す情報とか、私たちの出す情報は随分役に立って利用していただけたのではない かと思います。そういう体制を縮小しないように是非続けていく必要があるのではないかと 思います。  もちろんうまくいっていることばかりでなくて、うまくいっていないこともあるので、そ ういう反省点をきちんとまとめて、こういうことはしょっちゅうあっては困るのですけれど も、次の世代に残していく必要があると思います。レッスン・エンド・ラーンをきちんと残 していったほうがいいだろうと思います。 ○佐藤委員 保健所のほうからお話をさせていただきます。今回の新型インフルエンザにつ いては、全国の保健所で随分前から、鳥インフルエンザ対応ということで準備してまいりま した。実際に4月に発生した段階で、ほとんどの保健所で活動の開始ができたと思っており ます。これは国のほうで随分検討していただいて、方針を出していただいたところに大きな ものがあろうかと思います。  東京では比較的混乱は少なかったと思うのですが、地域によっては非常に混乱して、保健 所もほとんどパンク状態に近いという状況になったのではないかと思います。保健所が準備 できておりますのは、H5N1対応と、強毒性の対応ということで準備していたわけですが、 これがH1N1ということで、病原性がさほどでないというところで、果たしてH5N1と同 じ対応でずっとやるのかどうかです。いまとなっては、もう少し早く全国的に季節性の対応 でよかったのではないかというところがあります。したがって、H5N1の今後のことも含め、 病原性ごとの対応という方針も今後必要になるのではないかと思っております。  保健所の人的資源も豊富ではありません。ギリギリでやっているところで、今回の流行に ついて、いろいろな部署からの応援をいただきながらなんとかこなしてきました。これが、 もしH5N1になると、とてもとても保健所の職員だけでは足りないということで、自治体 によっては、全庁的な対応ということもあろうかと思いますが、発熱相談センター等につい ては、民間の活用ということもあろうかと思います。それから、医師会との連携をもう少し 強くしていくということがあろうかと思います。  いちばん困難だったのは、医療提供体制の確保のところが、保健所としては困難だったと ころです。東京でも地域によっては、重症者を診るベッドがほとんどない所もありますので、 これは今後のH5N1を見ますと早急に十分な体制の整備、早期から一般医療機関が関与で きるような体制が必要ではないかと思っております。  総じて、今後この新型インフルエンザの第2波がどうなるのかわかりませんけれども、そ れとH5N1の準備を今後していかないといけないわけです。是非今回の流行の対応の検証 をしていただいて、それを是非今後に活かしていただきたいと思います。その辺をお願いい たします。 ○倉田部会長 非常に貴重なご意見をありがとうございました。 ○南委員 読売新聞の南です。私は専門家でないので、非常に雑なことしか申し上げられな いのですけれども、先ほど岡部先生が言われたことに関係があると思うのです。今回のイン フルエンザのことで、私もメディアの立場で情報というのは本当に難しいということを痛感 しました。感染研の岡部先生の所が定期的にブリーフィングをしてくださり、昼夜問わず対 応してくれたので、記事を作る側としてはいろいろな情報を出していただきました。  今度、メディアとして出す情報については、さらにそこから何をどう出すかというところ で、これは映像にしても活字にしても、それぞれが非常に悩んだ部分が多かったと思います。 1つは、最終的に今回のことがどうだったかという、先ほど岡部先生が言われた総括という のでしょうか、そういうことをきちんとしておく必要があります。私がそれを非常に強く感 じたのは、メキシコで最初に起こって、メキシコの様子が報道されたときに、すごく混乱し ていて大変なことだというイメージを国民は受けたようです。  その後世銀の人だったと思うのですが、メキシコは長年の積み重ねがあったので対応は大 成功だったのだということを、私どもの紙面でも紹介しました。それを読んだ社内の話とし て、あの記事は国民が受けていた印象とは齟齬がある。メキシコは医療施設も足りないし、 もう大変なことになっていたではないか。でも、あれは非常に対応がうまかったというのは、 何かちょっと齟齬があるよねという話になりました。それは、たぶん情報の問題だと思うの です。  その対応がどうだったのか、先ほど岡部先生が、初動もそう間違ってはいなかった、正し かったと言われましたが、そういうことも含めてきちんと知らせていくことの難しさを、ど うしたらいいのかをこの会議でも共有していただく。メディアにも限界がありますので、そ ういう情報をどのように国民に出すのか、「それはお前らの仕事だろう」と言われてしまう かもしれないのですけれども、その限界があるということです。国民に、起こっていること の事実を正しく知らせていくことを、共有していただきたいという思いがあります。よろし くお願いいたします。 ○倉田部会長 南さんは非常に重要なことを指摘されました。これは、専門家のほうはずう っと同じなのです。ところが、記者の方はどんどん替わる、行政も頻繁に替わります。私の 長い経験から見ていて、これをずっと把握している人は1人もいないです。メディアの人が 取材に来たときに、「それは中央で聞け」と。私はローカルなことはやりましたが、ほかの ことは一切していないです。  問題はみなさんが病気を知らないということです。インフルエンザとは何かも勉強しない で、「先生今度のは」と、「そういう取材の仕方はするな」と。もう1つは、「あなたの所に は、インフルエンザというものをずっと歴史的に勉強している人はいるのか、H5N1からほ かのものを含めて」と。もちろん読売新聞社の方も、いろいろな新聞社の方がおられました けれども、勉強をふだんからしていないからみんな新鮮なのです。みんな新しい、みんな国 民に大変なことを起こすと、そういうように捉えるということがあります。  これは行政も同じだと思います。ちょっと厳しいことで申し訳ないですが、病気をよく知 らない方がタクトを振ることによってだいぶ変わります。これは専門家を集めてやれば済む という話ではなくて、行政の人も一体になっていろいろなことをずっと勉強して、10年、 20年と積み上げてきた人がいないと、緊急時に世界からパッと電話一本で情報を取るのは 難しいのではないかと思うのです。  いまメキシコのことを言われましたが、先週、メキシコの方が非常にいいお話をしてくれ ました。結局メキシコの対応はどうだったか、最初が非常に重要であると考えて、もしかし たらSARSのときもそうでしたが、普通の実験室ではまずいのではないか、どうしたらい いか。バイオセーフティー上オープンにしていない部分があって、レベル4の実験室は使え ないということでカナダへ持っていきました。SARSのときにもカナダでやりましたが、ど うもいろいろやってみると違うぞと。それが4月27日から30日ぐらいでした。1から3 日ぐらいに3レベルでもいいのではないかと落としてやってみたら、どうも違うぞと。それ から2に落としました。先ほど佐藤先生が言われた病原性の問題も絡まっているのですが、 その病原性から見るとどうも違うということで、5月の第1週の終りに、日本ではバタバタ し始めて、感染研が検査キットを用意して配付したのが5月1日と2日です。地方衛生研究 所ですべてチェックできるようになったのはゴールデンウィーク明けに全部体制ができま した。  そのころメキシコでは、季節性より弱いことがわかり、カナダ、米国、メキシコを含めて 普通よりも弱いという考え方でいこうということになりました。そのときにメキシコは日本 とは全然違います。すばやく全国体制が数日で可能になるような国は日本だけです。抗原も 遺伝子もすぐ検査しうるという国ではないのですが、最初4カ所しかない所が、1カ月以内 に24カ所に広がりました。そこには、もちろんカナダも米国も乗り込んで検査の指導をし ています。  5月の連休明けに、先ほど言った日にちで季節性以下の扱いで十分であるという結論を出 しています。実際に医療体制の側の対応も非常によかったのですが、病原性からいっても非 常に低いということが既にわかり、そういう対応をしていました。そのときから日本が大騒 ぎを始めたというのは、つまり情報の取り方と、その情報をどうやって使うかということだ と思うのです。  日本は一旦走り出すと、こういう言葉が適切かどうかわかりませんが、メディアも含めて 皆さんのパンデミック傾向があります。国民そのものもそうですが、ある方向に進み出すと ファシズム的になって、ワーッとなってあるときまで撤回が効かなくなる。気がつくまでが 遅すぎます。2カ月かかりましたから7月24日に方向転換するまでにかかっています。そ の辺のところがわかっていても、なかなか転換できないということがあります。  これをしていくためには専門家はもちろん当然ですが、メディアも行政もいろいろなこと を歴史的にも知っていて、この対応はインターナショナルにどこへアプローチすれば、どう いう情報が得られるか。WHOは公的機関には違いないのですが、あくまでも事務局であり、 あらゆる分野の専門家がいるわけではない。WHOの情報は各国から上がるものであり、ど うしてもある程度わかるまでに時間がかかる。これは、病原体はどういうものだ、というと ころにいちばん重要なことがあるので、それが非常に弱いものであれば、日本は臨床対応が 非常にちゃんとしていますからそんなに騒ぐことはないです。  私もそれについてあちこちに書いていますが、イギリスとかアメリカの医療体制は日本と は全然違いますから、患者の広がり方が違うのです。もちろん日本と比較にならない死亡者 も出ていますが、11月の終わりまでに米国では5,700名ぐらい死者が出ています。それは 本当にインフルエンザかなと。鼻から採れたものに抗原があって、PCR法でやって、イエ スだよと。しかし、それがインフルエンザ扱いの死因になっているか。そういうことでいく と、5,700例あったうち、わずか140例ぐらいしかないのです。そのうちから本当のインフ ルエンザだと間違いなく確認できるのは100例ということで非常に少ないです。日本では 150何名亡くなっていると思うのですが、日本の場合は解剖されている例が少なくてよくわ かりません。  解剖して本当にインフルエンザで亡くなった例と、そうでないものということでいきます と、いわゆる病原性の問題でいくと、過去のインフルエンザの流行に比べたら非常に病原性 は低いと言えるのではないかと思います。これはメキシコも同じです。本当かどうかわかり ませんが、現場で指揮していた人の数字から見ると、徐々にきちんと対応することによって、 本当に静かになってしまったということです。最初、メキシコの死亡例が千何百例と出たと 思うのですが、後で検査をしたら10例にもいっていなかったということもあります。必ず しも最初から沈静してきたわけではなくて、あるときから、検査体制ができてから沈静化し たというのは事実です。  日本は、検査体制ができてからもなかなか沈静化していない、いまもって沈静化していな いおもむきがあると見ています。今後のいろいろな対応のために、世界を把握している専門 家とか、日本国内の情報だけではなくて、いろいろ病気の実態について把握している専門家 が行政の中にも、もちろん感染研には当然ですが、メディアの中にもおられると本当の議論 ができる。それがないと、今後のいろいろな問題に対する緊急時の対応の問題も含めて、い つもバタバタとなり非常に難しいのではないか。仕組みを変えていかないと、というのが私 の意見です。いろいろな国のやり方を見てきて、そこのところがどうも日本のいちばん弱い ところだと思います。何かあったら非常に対応は上手なのですが、その前のところで情報を 取ったりというところが弱点というか、仕組みとしてないということです。国際機関を大事 にしたいのですが、国際機関の情報は遅れる。1週間とか2週間かかって出るというのは前 からそうです。  もう1つは、いろいろ病気のことがわかるバランス感覚のある若手を育てるためには、こ こでは不適切な言葉かもしれないのですが、若い研究者も含めて、いわゆる病気の修羅場で すね。間違っては命が落ちるよというようなところに放り込んで、育てる。これは米国のや り方ですね。そうすると、3割ぐらいしか歩留りはないのですが、それでも良いのが残りま す。その人たちがいまの指揮官です。きちっとした意志決定ができるヒトはそういうような やり方で育てていくべきでしょう、それは簡単にはいかないですが。何かおきるたびにどう なっている、どうなっているということをやっているようでは、どうしても遅れるというこ とだと思うのです。一応死ぬような、間違ったら死ぬよというような環境で育てますと、バ ランス感覚がとれてきて、いろいろな対応が非常にしやすくなる。そういう人たちが、これ からの国際時代というのならば、育っていくことが、私は大事だと思っています。まあ、そ ういうことで私は勝手な意見を言いましたが、南さん、非常に良いこと指摘してくれました ので、付け足しを言いました。参考にでもなるのならまた考えていく必要があるかなと思っ ています。ちょっと余計なことを言いましたが、ほかに何かありますか。どなたでもどうぞ。 ○鹿沼健康危機管理官 いま各先生方からいろいろ貴重なご意見をいただいたところでご ざいます。まず、今回のH1N1のことについての反省、検証についてですが、いろいろ問 題点もあったと思っております。その点については、まだH1N1が完全に鎮静化したわけ ではございませんが、やはり私ども行政も、時間が経つとまた次のことへいってしまうこと があるので、今のスタッフがいるうちにきちんと、これから検証の作業をやっていこうと思 っているところでございます。また、H5N1という話も出てまいりました。実は一昨日です か、閣僚懇で官房長官の方から、H5N1ということも踏まえて対策の見直しをもう一回やっ ていこうと、今回のH1N1のいろいろ出てきたことを検証しながら、それを踏まえてやっ ていこうというご発言があり、昨日も副大臣会議の中でもそういった話がございました。私 どもはそれも踏まえて、H1N1についてのいろいろな検証作業をしていきながら、H5N1 でどういうことが今回の中で導き出されてくるのかということを、やっていこうと思ってお ります。  H1N1とH5N1の病原性がだいぶ違いますので、H1N1のときこうだったから、H5N1 のときにはこういうふうにしてもいいよということではないものもあります。そこはやはり H1N1ですらこうだったので、それをH5N1のときはこうしなきゃいけないとか、また H1N1でこうだったということはH5N1でもこういうふうにやってもいいとか、その辺は いろいろなことを分析・検証し、次のH5N1対策につなげていきたいと思っております。  特に保健所の関係、先ほどご指摘ございましたが、例えば検疫で見つかった方々の、濃厚 接触者ですとか、またそのほかでも渡航した人たちについて、保健所の方に情報を流して、 保健所の方でフォローをしていただく。この作業は非常に大変でございまして、全国の保健 所の方々に多大なご苦労をおかけしたと思っております。これからの検証作業次第ではござ いますが、例えば、検疫の場合、機内において、感染者の方々の周囲の方へ結構広範囲に移 る可能性があると思っていたのです。現実に見てみますと、機内で移ったというケースは、 今回はほとんどなかったという状況でございます。旅行で同行し、アメリカでも同行してい て、それで同行者が発症したというケースはもちろんあるのですが、機内でほとんど感染し ていないといったことをどう考えるのか。今回のことを踏まえて、現場の方も耐えられるよ うにしていく必要がある。無制限にやって現場の方が破綻するということがあってはいけな いわけです。そういったことも踏まえて、科学的知見に基づいて対策をきちっと講じていか なければいけない、検証しなければいけないと思っています。  また情報の難しさでございます。これも私どもも痛感しております。今回発生初期から、 ほぼ毎日のように定例の記者会見を開いておりまして、そこで発生状況ですとか、あと記者 さんのご質問にお答えするというような形で、しばらく開催させていただきました。私ども としては、正しい情報に基づいて冷静に行動しましょうとか、あとはうがい、手洗いとか通 常の季節性インフルエンザにやっていることは、この新型でも有効なので、そこもきちっと やってください、あんまりパニックにはならないでくださいというような情報も流しながら やってきたつもりではあります。ただ、やはりどうしても国民の方々は、何かあると、例え ば左に行くというと過剰に左の方に行ってしまって、また今度は右だというと過剰に右のほ うに行っているような形です。例えばマスクが急激になくなってしまったりだとか、いろい ろなことがあったと思っております。やはりリスクコミュニケーションというのは、非常に 大切なことでございます。今回のことで、さらに痛感させられたところもございます。今後 のことを踏まえれば、ここのところをもう一回、どうしたらいいのかということも考えてい きたいと思っているところでございます。私の方からは以上です。 ○倉田部会長 ほかに何かどうぞ。 ○加茂委員 東京女子医科大の加茂でございます。いまの情報の伝達に関してのことなので すが、5月だったと思いますけれども、中高生の修学旅行の帰りの子どもたちが、この病気 を持ち込んだということで、ものすごく追われたことがありましたよね。テレビを見ていて 結構落ち込んだお子さんたちとか、あるいは校長先生が非常に暗い顔でインタビュー受けた ということがありました。こういった感染症のことであれば、持ち込んだということで、あ る程度そういった反応も仕方がないのかなというふうに見ていたわけなのですが、いまお話 をお伺いすると、5月の段階でそれほど強毒ではないということがもうわかっていたという ことですよね。あの子たちがここまで落ち込まなきゃいけなかったのは何なのかということ がありますので、もし、この件について後で検証なさるということであれば、あのときに持 ち込んだということで、非常に周りからも非難されたと思うのですけれども、この子たち、 あるいはその学校の先生方のその後のメンタルの状態といいますか、地域での混乱などにつ いても調査していただけると、後の情報伝達に関してもかなり大きな情報になるのではない かなと思います。よろしくお願いいたします。 ○倉田部会長 インフルエンザなんて誰でもかかるので、特別な病気のように扱うこと自体 が基本的に間違いだと私は思っています。1,000万人もかかるようなものを、特別な扱いに するなんてとんでもない話です。  もう1個、H5というのは非常に強調されていますけれど、私は日本以外のあちこちの人 たちと話をしていて、H5は、ワンオブゼムだと。世界はそういう考え方をするのです。こ の話は1年前の3月の審議会で申し上げたら、厚労省はそう捉えていませんと叱られました。 それはいいのですが、その1カ月後にこういうとんでもないもの(H1N1)が登場し、とん でもなくはないのですがインフルエンザの別なものです。これは、たぶんH5が来る前に、 また今度、別なものが出てくる可能性があるのですよね。  もう一つ気をつけなくてはいけないのは、H5が肺胞上皮細胞を破壊しますので、これは SARSに非常に近いのですが、パンデミックになるのはこの上気道に感染が移ってくること です。いきなり感染者の肺胞に病変が起きるとは、私は病気としては思っていないのです。 しかも、いちばん大事なことは薬も何もない時代と違い、いまは非常にいいインフルエンザ の薬があることですね。ですから、そこのところだけが全く違う。それをまた大変なオオカ ミが襲ってくるのか、ハリケーンが来るかのようにやるのは、科学的ではない。それは専門 家がきちっと把握していればいいだけの話なのです。  ではどういう人が犠牲になったか、犠牲になりやすいかということが、インフルエンザの 場合は非常にはっきりしています。米国や日本の解剖例もそうですが、メディアでは本当の 健康という情報を出していますが、本当は健康ではない。亡くなっている方は米国も同じで、 非常に肥満の方と、基本的に肺疾患がある人や、特に子どもさんだったら気管支喘息の人た ちがみんな犠牲になっていますね。あとは高齢者です。日本では非常にうまく対応されてい るから、子どもさんの気管支喘息で亡くなられた人はあったとしても、非常に少ないと思う のです。そこで亡くなってしまうか、亡くなってしまわないか、重症化するか、しないかと いうのは、先ほどいくつか指摘がありました日本の医療の体制は、時間に関係なくどこでも 対応したというところから犠牲が非常に少なかった、みんな良い方に回復したということが あるわけです。この医療体制の仕組みをきちっと維持するということで、そんなに大騒ぎし ないでも済みます。もっと現場の臨床医を信用することです。  では、H5が来ると大騒ぎしたからと言って、いま薬剤がある限り、それで結構対応でき ると私は思っています。何かそのために、来るか来ないかのために、もう13年経っている わけですよ。ですから、特別の体制を作ることによって医療関係の方も、保健所もそうです が、大きな負担というのは時間的、体力的疲弊状態がありましたが、そのようなことが起こ らない対応の仕方はいくらでもあるのです。  いまも各開発途上国を中心としたところで、閉じ込められたようなモグラ叩くみたいにな っても、うまくモグラを押さえられているという格好ができていて、それが、家族にもほか の方にも広がってないです。ですから、そういう事実というのをきちっと把握しておきます。 リスクは13年間言われていますが、格段上がっているようには見えてないですね。  もう一つは、農水省のほうの世界的な鳥の病気についてです。処理の問題が進んでいるよ うですから、日本ではありませんが、変なワクチン打ったというおかしなこともだんだん減 ってきているようです。農水省もウイルスの専門家から聞いていますが、リスクは下がって くるだろうと。いつでも来るような体制をとっておけば、行政のほうでも時間的、体力的に H5が来るぞということで大騒ぎすることはなくて、ほかのインフルエンザの新しいものが 出るかもしれません。それもみんな同じような対応をしていくという、良いレッスンが今回 できたわけです。それさえ頭に入れておけば、あとはどういう情報を取るかということです。 H1N1はみんなわかっていますし情報は簡単に入ってくると思います。それに応じた対応を すればいいと。ただし、異常な医療の仕組みというか、縛りつける仕組みですね。最初の頃 の日本で見ますと、日本はなかなか管理する仕組みが上手だなと思うのです。管理はしない 仕組みの米国とかイギリスとかと、管理をすぐしたがるドイツとか日本のやり方のところで、 どちらがうまくいくか知りませんが、結果として今度のインフルエンザにおいては、似たよ うなものだと思います。アメリカの場合は医療の体制が違いますから、日本では細菌性の肺 炎で亡くなった人はほとんどいなかったと思うのですが、米国では3割います。実際表の数 字を見せてもらっての話ですが、日本の体制とは随分違うのです。だから、そういうところ とを過剰にして、日本もそうなるぞと言う必要はなく、日本の医療関係の臨床レベルはそう いう意味では、アクセスから始まって非常に良い対応をしてきていると思いますし、そこを 信頼することだと思うのです。先ほど私が言ったことも付け加えて考えて、医療の静かな対 応です。やってる、やってるという対応はパニックを起こすだけですから、それは慎んだほ うがいいかなと私は思います。まだ時間ありますか。何か質問あるいはご意見がありました ら、どうぞ。 ○佐藤委員 ちょっと保健所のほうからの情報について1点だけお話させていただきます。 全国保健所所長会では、昨年から全国の保健所の方々と新型インフルエンザ対応についての 検証を含めた研修会を開催いたしまして、その中で情報の点についてもどうしたかという話 があったのです。一応、保健所では基本的に現在webサイトのいろいろな情報を得ていま すので、情報としては十分なものを持っていると。ただ、例えば国の通知等ですが、これは 非常に重要なのですが、やはり次々と新しい情報が文書で届いてきて、それをきちんと読む のが非常に大変だという点がございます。私どもとしては、大きな方針で、ある一定期間動 かしていただけると、対応しやすいかなというところがございます。  それで保健所の活動が開始した契機と申しますと、国からの通達もあるのですが、メディ アです。メディアの報道で開始したという部分も、かなりございます。私どものほうも4 月24日土曜日のお昼のNHKのニュースを見て、それで保健所の本部を立ち上げたという、 似たところがよくございます。日本の国民性でバンデミックになりやすいというのはあるの ですが、やはり我々としては地域の生の情報が、目で見える情報を把握するのには非常に役 立つところがございまして、保健所の対策本部でもテレビを見ながらということも不可欠な 部分でございました。その活用の仕方という面についてはいろいろまだあろうかと思います けれども、そういった役立った情報としてはメディアの情報が非常に役立ったということで ございます。 ○倉田部会長 ありがとうございました。何かほかにご意見、ご質問ありましたらどうぞ。 ○鹿沼健康危機管理官 いまの点でございますが、当初行動計画というのが元々あったわけ ですが、こちらのほうはH5N1を念頭に置いていたものでございます。そこから緩めてい く中で、次々といろいろな文書が出て、自治体の皆さま方から見ると、あまり多過ぎてわか りにくいという点があったかと思っております。途中から、特に、予防接種のワクチンの辺 りの議論を始めたところから、やはりwebサイトのほうをきちっとしようということで、 ホームページのほうも見やすい形に変えております。通知は通知として行いつつ、一方であ まり通知ばかり来ていると、担当者から見ると、メールで来てもそれが埋もれてしまうとい うこともありますので、webサイトできちっと情報を入れておき、それをいつでもご覧い ただけるようにする。もちろんメールはメールでいたしますが、そういったこともやってい こうということで、いまやっているところでございます。いずれにしましても、情報のきち っとした伝達の仕方については、引き続き工夫をしていきたいと思っております。  話は変わりますが、先ほどメディアの話が出ましたが自治体の皆さま方から、メディアの ほうから出てくる情報が早くて、私どもの情報が遅いと。メディアから国でこういうことが 行われたと報道されて、住民の方から問合わせがくるのだけれど、自治体のほうはまだ十分 に把握できてないこともございました。そちらも、できるだけ早く予告をしていくとか、そ ういった形で自治体の方々に情報を早く提供していかなくてはいけない。結局住民の方に当 たられるのは自治体の方ですので、その辺のところは、私どももきちっとした情報伝達をし ていこうということで、いろいろ変えてきておりますが、まだまだ不十分な点もあろうかと 思います。いろいろご指摘をいただけたらと思っております。以上です。 ○倉田部会長 ありがとうございました。ほかに何か、どうぞ。 ○南委員 先ほど申しましたように、メディアも、それぞれに活字も映像も媒体いろいろあ りますけれども、不特定多数の人に出す情報というところで非常に悩んでおります。要する に、情報というものはつき詰めてしまえば、最終的には受け手がどういうふうに読むかとい うところに、最後はかかっているということになると思うのです。ですから、行政の方は一 般の読者の人にも非常にわかり良くて、よくわかったと言っていただける場合もあれば、難 解すぎてわからないとか、何を言いたいのかわからないとか。読み手がどう読むかというと ころに非常に大きな部分がかかっています。そう考えますと、こういう問題は最終的には国 民のこの問題に関する知識を上げてもらうことがすごく重要です。その意味では今回、うが いや手洗いがいかに重要かとか、そういうことを繰り返してテレビや何かで示したことは、 ある意味、大きな健康教育に寄与したのではないかと。最終的にそういう国民の健康教育み たいなところも長期的に議論していただくしかないかなというふうに思っております。よろ しくお願いします。 ○倉田部会長 ありがとうございました。どうぞ。 ○明石委員 被ばく医療研究センターの明石でございます。いまいろいろお話伺っていまし たが、感染症が、放射性物質に比べて頻度が非常に多く、化学物質が次で、放射線の場合は たぶんほとんどないと思います。ただ、いままでこういう多くの国民が被害を被るという点 で日本ではあまりないのですが、例えばイギリスのロンドンで、ポロニウムが環境放出され てしまった事象では、国民の危機について、情報を与えたり、対応するという組織がイギリ スの中では統合されて、HPAという1つの組織になっています。そこが情報や外国とのコ ミュニケーション、外国人の対応も一元管理ができていました。アメリカでもCDCという 組織もあるし、テロではホームランドセキュリティという組織がありますが、日本の場合は それが一元化されていない。そのために、例えばいろいろな事象が起きたときにそれを総括 して、情報をそこに問い合わせれば情報が残っているということはなかなかないという問題 が1点です。  情報と事象について、いくつかの省庁等にあまり分かれすぎてしまっています。例えば保 健所であれば、感染症がいちばん強い、2番目に化学物質。ところが、放射性物質になって くると、保健所があまり強くないという事象が実は出てきてしまう。健康危機管理という組 織的なものがあって、国民に危害が及ぶような情報をストックしておく、データーベース化 する。何という言葉がよいのかわかりませんが、過去のこういう経験が、感染症が、放射線 の事故なり、化学物質の環境への放出に役立ったような情報を一元化できるような組織があ ると、今後の対応にもいいのではないかなと思いました。以上です。 ○倉田部会長 何かご意見ございますか、どうぞ。 ○黒木委員 日本中毒情報センターの黒木です。全く私も同じことを考えておりまして、化 学物質の観点でいきますと、サリン事件から15年経ちました。あのサリン事件のときの検 証が、このインフルエンザのようにうまく進められたらよかったのでしょうけれども、結局 海外でアメリカやイギリスの危機管理は進み、日本がいちばん遅れているぞと、海外から指 摘を受ける状態になってしまいました。  明石先生がおっしゃったように、そのときの情報を一元管理し、縦割行政ではなくて、健 康危機管理のことですので、ちゃんと国が面倒を見ていける。それは人的には教育もできる し、組織は予算も取れるといった状態を作っていかないと、日本はどんどん遅れていくと思 います。  倉田部会長と先ほどお話したときに、研究費の話が出たのですが、健康危機管理の研究と いうのは、いろいろな基礎研究をするのは研究でいいと思うのですが、消防とか医療機関と か警察、自衛隊など連携を考えていく研究というのは、研究そのものよりも行政が本来すべ きことだと個人的には思っています。ですから、そこは行政が強化していく、そういった提 言を残していくのも、健康危機管理部会の大事な役割ではないかと思っております。以上で す。 ○倉田部会長 ありがとうございました。何か事務方からご意見がございますか。 ○鹿沼健康危機管理官 確かに米国、英国と比べますと、危機管理に対しての体制が遅れて いるのではないかというのは、本当に耳の痛いところでございます。自治体から上がってく るところをどう我々に集約していくかとか、各省との関係で一元的な組織を作るというのも あろうかと思いますが、各省からの健康危機に関する情報は少なくとも厚労省のところにき ちっと入ってくるような仕組み作り、みんなの意識作り、こういったものをやっていかなけ ればいけないと思っております。ちょっといま新型のほうで結構ばたばたしておりますが、 併せて自治体、研究者、各部署、そういった所から上がってきたものを、一元的にどういう ふうに見ていくのかという仕組み作りの構築に頑張っていきたいと思っておりますので、ま たいろいろご指導いただければ、それでやっていきたいと思っております。よろしくお願い します。 ○倉田部会長 大事な指摘、ありがとうございました。ただ、感染症というのはしょっちゅ う動いているということと、化学物質と放射能はいろいろ事故が起きたり、意識的なテロと いうのはまた非常に限られた格好できている。もちろんそれに対するテロ対策なり、その事 故に対する対応というのはあるべきですが、いまそこを担当している所に任かされていると いうような格好になっている。では米国のようにホームランドセキュリティを作って、FBI も、法律家もみんな入って、何かやるかというような仕組みはまたちょっと違います。  もう1つ大事なことは、イギリスも米国の場合もドイツの場合もすべて軍が入っています。 日本はそういう仕組みになっていないというところが、先ほど言われた健康危機管理の研究 費の報告に行政が全然入っていないですね。「こういう健康危機管理があるか」と私は、今 年もまたわめくつもりでいます。ところが研究はそういうことは全く関係ない、ほとんど大 学の人たちが机上でやっているのです。これは健康危機管理でも何でもなくて、よその論文 読んで問題点を集めているだけです。これはもうとんでもないと、私は思っているのです。 こういう健康危機管理対応ではいかがなものかと。これは、場合によっては警察も防衛省も 一緒に入った管理体制に関する仕組みがあったり、いろいろなことを作っていかないと、要 するに世界のWebからとった作文をいくらやっても現実は動かないし、行政は動けないわ けです。そういうことでは、いま黒木さんの指摘のあった、政府のいろいろな関連機関が一 体というのは、当然のことだと私は思っています。そういうことを頭に置いた上で、また今 後の対応ということをやっていくべきだと思います。これで一応しめます。  4番目に、世界健康安全保障イニシアティブにつきまして、事務局から説明願います。 ○鹿沼健康危機管理官 資料4-1から資料4-2に基づきまして、世界健康安全保障イニシア ティブ会合の関係につきまして、ご説明いたします。参考資料のほうに、このイニシアティ ブ会合のことについて書いております。そもそも米国のテロ事件に端を発して、先進国等に おいてこういった情報交換、また年に1回は少なくとも閣僚級の会合を行うという形でやっ てきているところでございます。今年は閣僚級会合のほかに、適宜電話でいろいろ情報交換 したり、また局長級の会合を行うというようにしておりますが、基本的には新型インフルエ ンザの話を中心といたしまして、当初は発生状況、感染状況の話、また予防接種の確保の話、 その予防接種の副作用の話等々について、議題が出てきたところでございます。  昨年は12月の3日から4日にかけまして、閣僚級会合が行われました。場所はロンドン で行われました。我が国からは、担当の審議官ほか3名が参加しております。この会合の結 果、共同声明が出ておりまして、これも参考資料のほうに、共同声明そのものと、英文と私 どもの和訳を付けております。  共同声明の概要をご説明いたしますと、新型インフルエンザに対するワクチン戦略とか、 抗ウイルス薬の使用、またはリスクコミュニケーション戦略についての情報交換の議論が行 われました。特に、ハイリスクグループへのワクチンについては引き続き継続していくべき ではないか、また国際支援についてのWHOへの協力を進めていくべきではないか、また ワクチンの安全性のモニタリング、こういったものの重要性を確認したところでございます。  また、今年度いろいろなワーキンググループを作っております。テロ等の対策に用いる薬 剤の開発・備蓄に係る課題の検討、さらには脅威の早期探知システムの開発、化学・放射性 物質等の脅威への対応能力強化のための協力、こういったものの活動成果を確認するととも に、次年度の活動といたしまして、包括的なリスク評価の実施、新型インフルエンザ対策に ついてはこちらでもいろいろなお話ございましたし、私どももこれからやっていこうと思い ます。今回の対策からの教訓の抽出と他の脅威への対策への応用の検討、またオリンピック 等の大規模集会の準備、汚染物質の関係の検討、各ワーキンググループの分野横断的な取り 組みの実施等についての決定がなされたところでございます。共同声明の概要は資料4-2 にございます。先ほど申しましたが、本文については参考資料のほうに添付をさせていただ いております。以上です。 ○倉田部会長 ありがとうございました。いまの1と2に関して何かご意見、あるいはご質 問ありますか。よろしいですか。  それではその他の事項になります。何かこの1年間の活動について、事務局から報告する ことありますか。 ○鹿沼健康危機管理官 資料5でございます。いまお話ししましたこと以外のことでござい ます。1つは日中韓で新型インフルエンザ対策における協力を平成19年4月から行ってお りまして、こちらの活動をご報告させていただきます。20年度までは、まだ新型インフル エンザは起こっているわけではございませんので、起こったときにどうするのかということ の話合いとか、また机上の訓練を中心にやってきたところでございます。21年度は、今回 の新型インフルエンザの発生を受けまして、基本的にはお互いに状況をきちっと密にして交 換し合うというところをやってきました。当初は、その発生情報、疫学情報の交換、さらに はワクチンの安全性の情報交換を行ってきたところでございます。21年11月には、東京で 三国の保健大臣会合を開催いたしまして、共同声明を採択、引き続き各国の対応情報等や検 査状況の情報共有を行って、国際機関やアジア・太平洋諸国とも連携しつつ、協力を続ける 重要性を確認したところです。これは今後の予定ですが、3月にはソウルで日中韓のセミナ ーを開催する予定でございます。  また、2頁目から5頁目にかけまして、3件の訓練の関係について書かせていただいてお ります。毎年行っているものですが、2頁目、原子力総合防災訓練ということで、万一放射 性物質が環境に放出されるというような緊急事態が発生した場合に、国、地方、事業者が一 体となって応急対策を講じるということになっておりますので、政府関係機関、自治体、事 業者、その他の関係機関にご参加をいただいて、訓練を12月21日、22日に行ったもので ございます。  また4頁目は国民保護に係る訓練ということで、炭疽菌が大規模集客施設で散布された場 合を想定しての訓練を図上訓練という形で、東京都と一緒になって行ったものでございます。  また5頁目は兵庫県で国民保護共同実動訓練で、サリンを使った化学テロを想定しての訓 練が行われたものです。毎年行われている訓練の一環ではございますが、こういうことが今 年度行われたことをご報告させていただきます。以上です。 ○倉田部会長 ありがとうございました。ただいま話が出ましたが、資料5について何か質 問、あるいはご意見ありましたら、どうぞ。明石先生、いまの放射能の原子力に関して何か ご意見ございますか。 ○明石委員 今回は茨城県ということで、いろいろ問題点が出ました。住民の避難というこ とで、自動車を使った訓練というのを実は初めて試みたのです。一般的には災害の避難のと きに車を使うというのはあり得ないのですが、茨城県の考え方でやってみたところ、うまく いかない。今日この場で取り上げていただいたのは、私は逆にうれしいと思っています。そ ういう情報も含めて、やはり危機管理というのはこういう問題点をこうやってみたら、こう なんだというところが共有できると、インフルエンザの経験が放射線、化学物質にも使える のではないかと思っておりますので、今日はこういう機会をいただいて、本当にありがとう ございます。問題点もいくつか出たということと、車を使うというのはやはりかなり問題が ある。いくら広い地域であっても、車が駐車場から出られない。それから右に曲がる車と左 に曲がる車で道路が詰まってしまう。いろいろな問題点が出たというこことをご紹介させて いただきました。以上です。 ○倉田部会長 そういうときに、例えば自衛隊のものすごく大きいパワーのあるヘリコプタ ーがあるのですが、そういうもので移動するとか、そういうような発想は日本にはないので すか。 ○明石委員 残念ながら、いまのところ放射線の施設で事故が起きたときに、大量に一気に 運んでしまうというのはありません。唯一、四国の原子力発電所は半島の先のほうにあるた め、避難をするときに陸のほうに逃げるのが難しい。そういう場合に、海から船を使ってと いうだけで、大きな輸送手段はないと思います。 ○倉田部会長 ほかに何かご意見ございますか。よろしいですか。これで今日用意した議題 は全部終わりました。時間は少しありますのでもし何かいろいろご意見ありましたら、どう ぞ。 ○正林新型インフルエンザ対策推進室長 新型インフルエンザ対策推進室長をしています 正林です。かれこれ4年ぐらいこの仕事を続けていまして、今回のH1N1発生時も、中心 で働かせていただきました。この場が危機管理部会ですので、危機管理の基本姿勢について ちょっと確認をしておきたいのです。  私どもの考えは、危機管理というのはやはり最悪の事態を想定して対処する。やり過ぎて 怒られるのと、やらなくて怒られるのはどちらがいいかとしたら、やり過ぎて怒られるほう がまだましだと、そういうスタンスです。特に、最悪のことを考えながら対処していくとい うのは危機管理の基本姿勢と思い、その姿勢は4月の発生以来続けて、いまでも続けていま す。確かにピークを過ぎてはますけれど、この後また再流行が起こる可能性も否定はできま せんし、病原性が変わる、あるいは薬剤耐性がという可能性が、常に否定ができません。や はりそういう事態を想定して、いまでも緊張状態は続けています。  昨今何となく安心ムードがありちょっとやり過ぎだったのではないかとか。特に、いま輸 入ワクチンが余る、余らないで擦った揉んだしていますので、何かそういうトーンで時々私 もマスコミの取材を受けるのですが、最悪の事態を想定して対処するという基本姿勢は、私 は今後も維持すべきではないかなと思っています。  例えば、先ほど岡部先生からもお話ありましたが、百万人当たりの死亡の数についてはま だ最終的な結論は出ていませんが、日本は格段に低いのです。ほかの諸外国は桁が違い10 倍、100倍の大台で高く、日本だけ極端に死亡者の数が少なく、WHOの担当者などは、こ れは一体なぜなのだろうと。そもそも日本は夏頃に第一波を経験しなかった、これは一体ど うしてなのだろうとか、なぜ日本だけがこんなに死者の数が少ないのだろうとか、そういう 疑問をWHOなどはどうも持っているようです。  一方でアメリカでは、ある専門家が早々にこれは病原性は大したことないから、風邪と一 緒だというメッセージを国民に発して、第一波を経験もしました。第二波もっと大きいのが 来て、死者の数も相当多かったと、聞いています。途中で急に方針変更して、大統領が緊急 事態宣言を発したりして、慌てて11月頃やっていました。日本の場合はそういうことは取 らずに、最初から最悪のことを想定して対処してきた結果として、まだ最終的な評価は早い ですけれど、究極の目標であった死者の数を極力減らすという目標はいまの段階では達成さ れつつあるかなと、そういう気持でいます。  繰り返しになりますけれども、こういった私どもの最悪の事態を想定しての対処というこ の基本姿勢については正しかったのではないかなと、皆さま方に言っていただけると大変あ りがたいと思うのですけれど、いかがでしょうか、倉田先生。 ○倉田部会長 それは当然のことなのです。ただ、死者が少なかったとか、重症の人があま り出なかった。私はいま細かく知っているのは富山県だけで、110万ですが、実に緻密なの です。どこの病院に何人ベッドを置くと、これ以上のときはどこにする。それ以上増えたら どうするかというのを3段階ぐらい置いて、きちっとプランがあって、それを全部こなすこ となくいまのところ済んでいるというと、非常に良いことなのです。どこの地方でもきちっ とやっていると思うのです。  そこの違いというのは、米国、イギリスと全く違います。米国がなぜ重症が出て、死ぬ人 が多いかというと、医療が全然違いますから、重症にならないと行かない。通常の場合、行 ってもタミフルが出るわけではない。まず保険があるかと、こういう話になる。誰が金を払 うのかと、米国は、病院に向けて誰が払うかと、それが最初の質問なのです。日本は、そう いうことがないですね。24時間診てくれる。米国にそんな病院ないです。イギリスは全部 予約制ですから、イギリスにもないです。その違いがあるので、それらの国々と比較する必 要は全然なく、日本のレベルが相当きちっとしているということです。対策が良いのはもち ろんだけれども、医療の関係者の反応もまた素晴らしく良かったと思います。それは結果と して良いほうに行っているのではないですか。  150何例のうち全部解剖されていれば、その中に本当にインフルエンザは、1割あるかな いかだと私は思っています。要するに、鼻からとれたからインフルエンザで死んだかと全然 関係ないですからね。そういうのはいろいろな解剖例で山ほど見ていますから、訴えられる ようになって見たら、実は2〜3年の病気だったと。「ワクチンが悪い」、「ワクチンではな かった」という話はいっぱいあるので、死んだというのをそのまま鵜呑みにはしていません。 信用していません。死んだのはもっと少ないという意味です。  そんなに深刻にも反省をなさる必要は全然ないです。そういう意味では対応はうまくいっ た。最悪の事態を考えるというのは行政も当然、関係者も専門家も当然。そのアンテナがな かったら駄目なのです。今回のはそういう意味で、ばたばたし過ぎです。ばたばたしないで、 病気のわかる人が、行政にも専門家に、命を懸けてものごとをやる対応をした人たちがいる ということが大事だし、メディアにもそうした人たちがいることによって、淡々とした冷静 な記事が書けるし、その間に病院は病院で対応できるわけです。だから、今回のは良い教訓 にすべきだと私は思っています。今後もよろしく。岡部委員、何か言いたいことがあります か。 ○岡部委員 ちょっと考えています。 ○倉田部会長 出だしのときはわからないから、みんながいろいろと言うし、各々得ている 情報が個別ですから、どこからでも電話一本で取れる人たちを、行政にも、専門家にも、そ ういう人たちが育つことが大事だと。メディアもそうだと思うのです。都会に行って、言っ てるやってるでは駄目なので、「これ知っている人は誰だ」と、ぱっとあちこち電話してぱ っと情報を取れると。南さんがさっき言われた1週間後の情報などではなくて、きちっとし たものがメディアでも対応できる。そうすると、恐しい活字で踊らすようなことがなくて済 むのではないかということを、お願いしておきます。特になければ、今日はこれで終わりに したいと思います。どうもありがとうございました。 (照会先)                         厚生労働省大臣官房厚生科学課                         健康危機管理対策室  田辺                         電話:03-5253-1111(内線:3818)