10/01/26 第4回臓器提供に係る意思表示・小児からの臓器提供等に関する作業班議事録     第4回臓器提供に係る意思表示・小児からの臓器提供等に関する作業班          日時 平成22年1月26日(火)          15:00〜        場所 厚生労働省共用第18、19、20会議室 ○長岡補佐 それでは定刻になりましたので、ただ今より「第4回臓器提供に係る意思表 示・小児からの臓器提供等に関する作業班」を開催いたします。今回からは小児からの臓 器提供に関する課題につきましても検討を進めてまいりますので、本日よりオブザーバー として、筑波大学の宮本信也先生にご出席をいただき、小児医療の現場の視点からご意見 をいただきたいと考えております。宮本先生、どうぞよろしくお願いいたします。  また、前回に引き続きまして、参考人して社団法人日本臓器移植Iネットワークのコーデ ィネーター芦刈淳太朗さんにご出席いただいておりますので、実務に携わる立場からのご 発言をいただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。  次に議事に先立ちまして、事務局に人事異動がありましたのでご報告いたします。臓器 移植対策室長の辺見です。 ○辺見室長 よろしくお願いいたします。臓器移植対策室長に1月1日から着任いたしま した辺見です。7月の改正法の本格的な施行に向けて現在非常に大切な時期だと認識して おります。事務局といたしましても、気を引き締めてしっかり取り組んでまいりたいと思 っておりますので、先生方皆様のご指導をよろしくお願いいたします。 ○長岡補佐 続きまして資料の確認を行いたいと思います。議事次第をご覧ください。資 料1は「臓器の移植に関する法律施行規則の一部を改正する省令について」の1枚の資料 です。資料2は「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)の一部 改正について」の1枚です。資料3は「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律の 概要」の2枚です。資料4は「改正法の施行に向けた検討課題及びスケジュールについて」 の3枚です。資料5は「今後の検討課題について」の6枚です。  次に参考資料1は「臓器の移植に関する法律施行規則新旧対照表」です。参考資料2は 「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)一部改正新旧対照表」の 3枚です。最後に参考資料3は「検討課題に関する国会及び審議会での議論の状況につい て」の3枚です。資料は以上でございます。不備等ありましたら、事務局にお知らせくだ さい。  また、机上に紙ファイルを置いています。こちらは前回に引き続きまして、現行の法令 やガイドライン等をまとめたものを置いておりますので、議論の際に活用いただければと 思います。なお、こちらは次回以降も使いますので、終わったあとは置いておいてくださ い。以上です。以後の進行は新美班長にお願いいたします。報道のカメラの方がいらっし ゃいましたら、こちらでご退席をお願いいたします。 ○新美班長 それでは皆さんこんにちは。お忙しい中をお集まりいただきましてありがと うございます。この作業班は、いま報道でもいろいろされておりますが、昨年来、改正法 のうちの親族優先提供に関する課題について議論をしてきました。この議論の結果につき ましては1月17日から施行されておりまして、それに併せてガイドライン等が改正されて いるとのことです。  本日は、この議論の結果、ガイドライン等の改正内容がどのようになっているのかを含 めまして、これまでの経過につきまして事務局から説明をいただきたいと思います。よろ しくお願いいたします。 ○長岡補佐 それでは資料1、2に基づきまして1月17日より改正が施行されております 省令・ガイドラインの内容について説明したいと思います。まず資料1をご覧ください。 こちらは省令の改正です。省令につきましては大きく2点改正をしております。1点目が 改正の概要の(1)で、脳死判定または臓器摘出を行った医師が作成する記録等につきまして 親族優先提供の規定の施行に伴いまして、親族に対し臓器を優先的に提供する意思に関す る規定を新たに加えることにしております。  2点目は、(2)あっせん機関に対する規定です。あっせん機関は、臓器の摘出を受けた者 が生存中に親族に対し臓器を優先的に提供する意思を書面より表示していた場合であり、 当該意思により当該親族が移植手術を受けたときには、その作成する帳簿の中に次の一、 二に記す書類を添付することとされています。この書類は、まさに意思表示、親族優先提 供の意思を表示した書面の写し等を添付するということで新しく加えたものです。以上が 省令です。  続きまして、資料2をご覧ください。資料2は、ガイドラインの改正について概要をま とめたものです。「改正の概要」をご覧ください。順に説明いたします。(1)は、親族の範 囲です。こちらの作業班でも議論していただきましたが、最終的には法律に規定する親族 の範囲につきましては、立法者の意思を踏まえて限定的に解釈し、配偶者、子及び父母と することにいたしました。※のところでは、配偶者はいわゆる法律婚に限りまして、事実 婚は含まないと規定をもうけております。また、子及び父母は、特別養子縁組による養子 及び養父母を含むと。それ以外の養子、養父母は含まないと規定をもうけております。  (2)は、親族優先提供の意思表示です。(1)では、こちらは法律の規定を確認をするよう な規定です。親族優先提供の意思は、臓器提供の意思に併せて書面により表示することが できると規定しております。次に(2)では、優先提供する親族を指定した意思が表示されて いた場合、個人名を記載していた場合ですが、その場合もその者を含む親族全体へ優先提 供をする意思表示として取り扱うことで定めを置いております。  次に(3)は、留意事項です。(1)親族優先提供の意思表示がありました場合、これがあり ましても、医学的な理由から必ずしも親族に対し移植術が行われるとは限らないことを規 定しております。(2)は、自殺です。親族優先提供を目的とした自殺を防ぐ必要があるため、 レシピエント登録をした親族がいる者が、親族優先提供の意思表示を行う、その場合は自 殺を図ったときには、親族への優先提供は行われない旨を規定しております。※のところ では、この場合は親族を含めた移植希望者全体から、医学的基準に従いまして、移植を受 ける者を選択するという定めを置いております。次に(3)では、親族以外の者に優先提供す る意思が示されていた場合です。この場合は優先提供に係る意思表示は無効とすると定め を置いております。次に(4)限定提供です。臓器の提供先を限定し、その他の者への提供を 拒否する意思が明らかである場合には、親族に限定する場合も含めまして、脳死判定及び 臓器摘出は見合わせると定めを置いております。以上が1月17日より施行されております 省令、ガイドラインの概要です。説明は以上です。 ○新美班長 ありがとうございます。ただいまの親族優先提供に関しまして、ガイドライ ン等が改正されてきたところですが、その点につきまして何かご質問はございますか。特 別ご質問はございませんか。それでは、7月の全面施行に向けました検討が、2つ目の課題 になりますが、それにつきまして議論に入ります。まず、その議論の前提としまして、改 正法の内容と今後のスケジュールにつきまして、確認しておきたいと思いますので、この 点につきまして事務局から説明をお願いいたします。 ○長岡補佐 では資料3、4に基づきまして、改正法の内容、検討課題、スケジュールにつ きまして説明したいと思います。資料3をご覧ください。資料3は法律の概要です。2枚 目の表を用いまして改正法の内容を改めて確認したいと思います。2枚目は現行法と改正 法の比較表です。1では「親族に対する優先提供」についてです。こちらにつきましては1 月17日より施行済ですので内容につきましては割愛させていただきたいと思います。次に 2番以降では、こちらが7月17日より施行される条文です。2の「脳死判定・臓器摘出の 要件」です。現行法は、本人の生前の書面による意思表示があり、家族が拒否しない又は 家族がいないこと、これが要件とされています。改正法におきましては、この現行法の要 件に加えまして、「又は」以下が追加になっております。「又は、本人の意思が不明(拒否 の意思表示をしていない場合)であり家族の書面による承諾があること」、こちらが新しい 要件として加わることになります。この本人意思が不明の場合において、家族の書面によ る承諾によって臓器摘出が可能となるとの改正に伴いまして、2の後半部分、「小児の取扱 い」が変更になるわけです。改正法では、家族の書面による承諾によりまして、15歳未満 の方からの臓器提供が可能となるものです。  次に3では、「普及・啓発活動等」です。こちらは主には普及・啓発等の作業班がありま すので、そちらで議論をすることにしております。改正法におきまして、新たに運転免許 証等への意思表示の記載を可能とする等の施策を講じることが規定されております。  次に4では「被虐待児への対応」です。こちらは改正法附則におきまして、新しく設け られた条文です。内容といたしましては、虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供され ることのないよう適切に対応することが新しく規定されております。以上の2〜4が今年の 7月17日より施行されるということで、今後こちらの作業班でも議論をお願いする部分で す。  では現在の内容を踏まえまして、資料4にお進みください。資料4は、今後の検討課題 及びスケジュールをまとめたものです。1の「検討課題」のところでは、大きく4点あげ ております。Iが小児からの臓器提供に関する課題です。I-1、1つ目が小児の脳死判定 基準をどうしていくか、2つ目が、被虐待児をどのように取り扱うのか、3つ目が、15歳 未満の者による拒否の意思表示をどのように取り扱うのかという問題が挙げられるのかと 思います。  II、本人が意思表示していない場合における臓器提供に関する課題です。1、意思表示し ていないことをどのように確認していくか。2、脳死判定・臓器摘出について承諾する家族・ 遺族の範囲、こちらをどうしていくか。3、有効な意思表示ができない者をどのように取り 扱っていくか。  IIは普及啓発等に関する課題です。こちらは、まずカード、システムをどのようにして いくか、普及啓発の対象者と普及啓発の方法、普及啓発の内容についての課題です。  最後にIV、臓器移植の実施に係る課題。1、ドナー適応基準及びレシピエント選択基準を どのように見直ししていくか。2、臓器移植に係る体制をどのように整備していくか。以上 が検討課題として現時点で事務局でまとめているものです。  2は、それを踏まえたスケジュールです。施行期日は7月17日と規定されており、その 7月までの具体的なスケジュールを次の頁の別添1にまとめております。別添1、大きく7 月に向けての課題が「小児からの臓器提供」「普及啓発等」ということで挙げています。ま ず施行は7月17日ですので、その普及の周知期間を考えますと、6月に省令・ガイドライ ンを改正することが考えられ、それから逆算した形でいまスケジュールを設定しておりま す。「親族優先提供」のときと同じように、検討の間にパブリックコメントを30日間行う、 それを5月に行うと現時点では考えております。これに合わせまして、臓器移植委員会で の議論を行っていくこと、専門家による作業班での議論を行っていくこと、厚生労働科学 研究で小児脳死判定基準等に関する研究を行っていくことで、それぞれスケジュールを設 定しております。  本作業班は、この中で申し上げますと、小児からの臓器提供の部分の専門家の作業班で の議論に該当いたしますので、先ほど挙げた論点につきまして3月を目処に集中的な議論 をお願いいたしまして、見解という形である程度の取りまとめをいただき、こちらを臓器 移植委員会に報告をいただき再度議論を重ねていくスケジュールで考えております。次の 頁の別添2は検討体制です。一度こちらの資料につきましては説明したかとは思いますが、 検討体制のいちばん上のところです。臓器提供に係る意思表示・小児からの臓器提供等に 関する作業班ということで、主に15歳未満の者による拒否の意思表示について、有効な意 思表示ができない者の取扱いについて等で、こちらで今後議論をお願いすることとなりま す。こちらは3月を目処に議論を行っていただきまして、臓器移植委員会にご報告をし、 臓器移植委員会で更に審議を重ねてパブリックコメントを経た上で省令やガイドラインと いう形で改正を行い7月17日の施行に繋げていくと現時点では考えております。以上資料 3、4の説明でした。 ○新美班長 どうもありがとうございます。ただいまの我々のPORを含めて全体のスケジ ュールをご説明いただきましたが、何かご質問がございましたらよろしくお願いいたしま す。ある意味でデッドラインが決まっておりますので、パブコメとか周知期間を入れると 相当短期間に集中して議論をいただかないといけないという説明だと思いますが、よろし いでしょうか。あと、我々の検討班の課題は3枚目のところにありますように、作業班と しては3つの事項につきまして検討をいただきたいとのことです。よろしいでしょうか。  スケジュールにつきましては、いろいろ大変だと思われるかもしれませんがなにとぞご 了承くださいとのことです。それでは、スケジュール等につきましてはご了解いただいた ということで、さっそく改正法の内容を踏まえて、検討すべき課題を事務局にあらかじめ 整理していただいておりますので、その点の説明をいただきたいと思います。よろしくお 願いします。 ○辺見室長 私から資料5に沿って説明します。参考資料3にも触れながら説明しますの で、併せてご覧いただければと思います。先ほど資料4で説明をした本作業班における検 討事項ですが、もう少し具体的にこちらの1枚目に記載があるように、6つのポイントに 課題を整理しています。大きくは2つのグループになりますが、1つ目が脳死判定・臓器 摘出の要件の改正に伴う検討課題ということです。15歳以上の臓器提供の意思が不明な方 について、家族の承諾によって臓器提供は可能となるわけですが、この場合の家族(遺族) の範囲について。また2つ目は、15歳未満の小児の方について、脳死判定・臓器摘出を書 面により承諾する場合の家族(遺族)の範囲について。3つ目が、15歳未満の小児の方が 表示した臓器提供しないという拒絶の意思、これを表示した場合の取扱いについて。4つ 目が、臓器を提供しない意思を表示していなかったことを確認する手段及び手順。これは どちらかというと、法律的な課題というよりも、法律が求めるところを実務上どの程度確 認をしておくことが求められるかという課題です。次が、改正臓器移植法附則第5項とあ りますが、これは虐待を受けた児童に関するものですが、5と6ですが、附則第5項の検 討規定に規定する「虐待を受けた児童」の範囲、6は同じく範囲という切り口ではありま すがその児童の年齢についてです。今回、これ以降、具体的な論点をもう少し説明したい と思いますが、まずは論点整理ということで、多少幅広にご意見をいただければと考えて いますが、併せて論点的に抜けている所もあればご指摘をいただければと考えています。  あと、先ほどの資料4で有効な意思表示ができない方の取扱いといった記載がありまし たが、こちらの主として知的障害者の方についての取扱いですが、問題となるのが15歳未 満の場合ということですので、論点的には3の論点と併せてご議論いただく形で、次の頁 以降、整理をしています。  資料5の2頁をご覧ください。検討課題1です。15歳以上の臓器提供の意思が不明の場 合に、脳死判定・臓器摘出を行うことを書面により承諾する家族(遺族)の範囲について です。現行制度で2つポツが書いてありますが、臓器提供の意思を表示している者につい て、現行制度下では本人の意思表示があった上での話ですので、その場合について脳死判 定・臓器摘出を承諾することができる「家族(遺族)」の範囲は、ガイドラインにおいて「原 則として配偶者、子、父母、孫、祖父母及び同居の親族」ということで、おおむね二親等 の範囲とされ、喪主又は祭祀主宰者が総意を取りまとめるものとされているということで す。  また、心停止後に行われる角膜・腎臓の移植については、これは本人の意思表示がない 場合も、遺族からの書面による承諾を得た上で摘出は可能ということになっています。こ れは旧角膜及び腎臓の移植に関する法律を廃止した後の経過規定ということで置かれてい るわけですが、この規定においても、遺族の範囲については同様の取扱いとなっています。  こうした現行制度を踏まえて、改正法の下で本人の意思が不明の場合に、脳死判定・臓 器摘出の承諾をすることができる家族・遺族の範囲についてどう考えるのかが論点です。1 つ、これまでのご議論で紹介するのが、参考資料3をご覧いただければと思いますが、9 月15日の臓器移植委員会における町野先生のご意見を一部引用していますが、現行法の下 では遺族のオプティングインを要求していないにもかかわらずオプティングインのような 運用がされている。そうだとすると、法律が変わって書面による同意を要求したことにな っても、恐らく同じ運用でいくのではないかというご指摘をいただいているところです。  検討課題の2です。小児(15歳未満の方)ですが、この場合においても、脳死判定・臓 器摘出を行うことを家族が書面で承諾することによって可能となるわけですが、この場合 の家族(遺族)の範囲についてです。現行制度に書いてあるのは、上とかぶりますが、家 族(遺族)の承諾で角膜及び腎臓の移植・摘出が可能となっているわけですが、同様の扱 いをしているということです。こうした場合において、論点としては、この現行制度を踏 まえて改正法のもとで家族(遺族)の範囲についてどう考えるかが、同じく論点となると ころです。  参考資料3ですが、子どもの場合の家族(遺族)の範囲ですが、9月15日の臓器移植委 員会において、奥山先生から述べられている意見として、提供する方の家族の方の話は二 親等で、喪主がまとめるということですが、ガイドラインにもそう書いてあるわけですが、 対象に子どもが入ったときには、喪主がまとめるのは非常に危険ではないか、個々人の意 見を聴取しないと、父親に母親が引っ張られて自分の意見が言えないということが多いの ではないか、というご指摘をいただいています。  1つ紹介をすると、検討課題1と2共にかかわる所ですが、紙ファイルの同じ参考資料3 にガイドラインが入っています。このガイドラインに親族の範囲について書かれています。 3枚目、第3で「遺族及び家族の範囲に関する事項」が書かれています。1に先ほど私が紹 介した二親等など、配偶者、子、父母、孫、祖父母、同居の親族といったことが書いてあ ります。1のパラグラフの下から3行目の終わりのほうから、ただし書きとして「前記の 範囲以外の親族から臓器提供に対する異論が出された場合には、その状況等を把握し慎重 に判断すること」という記載があります。実際はこういったガイドラインに基づいて運用 がされている、ということが1つです。もう1つは、法律の文言上は同じく遺族・家族が 年齢に関係なく書いてあるので、そういった法律上の書きぶりなども踏まえてご議論いた だきたいと考えるところです。  資料5の3頁、検討課題3です。15歳未満の小児の方の臓器を提供しない意思の表示に ついてです。現行制度の枠ですが、ガイドラインにおいては、意思表示の有効性について、 年齢等により画一的に判断することは難しいとは考えるが、とした上で、民法上の遺言可 能年齢等を参考にして、15歳以上の者の意思表示を有効なものとするという運用をしてい ます。また、知的障害者等の意思表示については、一律にその意思表示を有効と取り扱わ ない運用は適当でないが、これらの者の意思表示の取扱いについては、今後さらに検討を すべきものであるとして、主治医等が家族等に対して病状や治療方針の説明を行う中で、 患者が知的障害者等であることが判明した場合において、当面、法に基づく脳死判定は見 合わせることとされています。  論点として、改正法に係る国会審議の過程においては、小児の臓器提供をしない意思表 示、拒絶の意思表示については有効とされているところですが、年齢を特に考慮せず、い ずれの年齢であっても有効と考えることでよいかということが1つ目の論点です。2つ目 の論点は、知的障害者に係るものですが、改正法に係る国会審議の過程において、知的障 害者等については、脳死判定を見合わせるとする現行のガイドラインを維持するという議 論がされているところですが、15歳未満の知的障害者等についても同様の取扱いというこ とで、つまり見合わせる取扱いでよいかということです。  この点について、また本日の資料としてお配りした参考資料3ですが、それぞれ子ども の拒絶の意思表示の件と知的障害者にかかわる件について、国会審議での議事録の抜粋を 載せています。1つ目ですが、子どもの意思表示について、これはA案の提案者である山 内康一先生のご発言ですが、現行法においては、民法上の遺言可能年齢を参考に15歳以上 の者の臓器提供に係る意思表示を有効なものとして取扱うこととされているところです。 この点については、A案も同様の考え方を取っています。ただし、15歳未満の者について も、臓器提供を拒否する意思表示はできることとされていることから、子どもの年齢に応 じたきめ細やかな普及啓発措置が講じられるものと考えています。子どもに関しても、拒 否に関しては意思表示は有効と考えているので、先生がご指適のようにということですが、 きめ細やかな普及啓発活動が必要だと考えているということです。  知的障害者に関しては、これは福島豊先生のご発言ですが、ガイドラインは今後も維持 すべきだと思っていますと。理由は、なぜかと言えば、その拒否の思いがあられるかもし れない。しかし、その拒否の思いそのものが適切にご本人が表示することができないかも しれないと。こういうことを考えると、私は、現在、知的障害者の方々等の取扱いについ て慎重であるというガイドラインは引き続き重要だと考えていますということです。  検討課題4です。資料5の4頁をご覧ください。臓器を提供しない意思を示していなか ったことを確認する手段及び手順についてです。現行制度の枠の中に書いてありますが、 書面により臓器を提供する意思が示されている場合にあってもということで、ポツは2つ ありますが、臓器提供意思登録システムに臓器を提供しないという意思が、その書面のあ とに書かれているといった可能性もあるので、これとシステムでどうかということを確認 する。また、家族に、書面により示された臓器を提供する意思が本人の意思と相違ないか、 といったことを確認するということを入念に行っているところです。  論点は、手段として、提供しないという意思を表す手段としては、臓器提供意思表示カ ード、これは選択肢は3つありますが、3つ目の選択肢は提供をしない、希望しないとい うことですので、ここに記載すること、またシステムへ登録すること、その旨家族に伝え るといったことが考えられるので、それら、カード、システム、家族というものを確認す ることは考えられますが、それら以外に考えられるものがあるかということです。  資料5の5頁です。虐待に関することですが、こちらは念のために改正法の条文附則第 5項を枠囲いの中に書いています。先ほど検討体制の分担の中で紹介していますが、※1 にあるように、移植医療に係る業務に従事する者が、虐待が行われた疑いがあるかどうか を確認する方策については、厚生労働科学研究において検討を進めています。脳死判定・ 臓器摘出を行わない「虐待を受けた児童」の範囲や、意思の取扱いについては、本作業班 においてご検討をいただきたいということです。  附則第5項に伴う国会での審議ですが、参考資料の3頁をご覧ください。平成21年7月 7日、参議院厚生労働委員会の山内康一先生のご発言ですが、児童虐待を行った者は、被 害者である児童の利益を考慮した上で意思表示をするという立場にはなく、また臓器の摘 出が虐待を隠滅することに使われてはならないことは言うまでもありません。虐待を受け て死に至った児童から臓器が摘出されることがないようにするのは当然のことと考えてお ります、ということです。  資料5に戻りますが、※2に書いてあるのは、山内先生のご発言を少し要素に分解して 考えると、虐待を行った者は、被害者である児童の利益を考慮して脳死判定・臓器摘出に ついて判断する立場にないと考えられることという点と、臓器摘出が虐待を行った事実の 隠滅に利用されてはならないこと、という2点が附則第5項の趣旨として挙げられている と解されるところです。  そうしたことを踏まえ検討課題5です。附則第5項にある虐待を受けた児童、これは具 体的には条文自体をご覧ください。「政府は」とされて、「虐待を受けた児童が死亡した場 合に」とあります。この虐待を受けた児童が死亡した場合にという、虐待を受けた児童、 これをどう考えるかということです。この点について論点で2つ挙げています。脳死又は 心停止となった直接の原因が虐待である若しくはその疑いがある児童、つまり虐待を受け て死亡した児童ということで考えていくのか、(2)にあるように、そうしたことが確認でき ない場合でも、過去に虐待を受けていた事実若しくはその疑いがある児童、虐待を受けた 児童がいて、その者が死亡した場合ということで考えていくのかという点です。この点に ついて「医療現場の実態等を踏まえ、どのように考えるか」と書きましたが、具体的には、 法解釈の問題としてどう考えるのか、文言解釈としてどう考えるのかという切り口と、あ と、実際には現場での運用の面でどのように考えていくのか、という2つの問題があろう かと思います。  6頁、検討課題6です。これは年齢の問題ですが、法律の条文上「虐待を受けた児童」 となっています。「児童」という文言ですが、児童虐待防止法で同じく「児童」という言葉 が使われているところですが、これは18歳未満の者とされているところです。本法におい ての範囲について18歳未満の者と考えるのか、それとも15歳未満と考えるのかというこ と。こちらの15歳と引いているのは、引っくり返しの問題ですが、例えば17歳、16歳の 方で臓器提供の意思ありと積極的に意思表示をしていた場合、その積極的な意思表示はど のように考えるのかという問題が出てくるかということで、事例的に多いかどうかという 問題はありますが、課題として挙げたところです。 ○新美班長 非常に論ずべき点は多岐にわたりますが、今日は言わば論点整理ですので、 取り立ててこちらの方向で意見を取りまとめることは行いません。ですから、今日挙げて いただいた論点について、ご自由にご発言いただきたいと同時に、これに限らずこのよう な論点もあるのだということがあれば、それもご指摘いただけたらと思います。今日の方 向としては、資料5にまとまっている1から5の検討課題について、ご説明いただいたこ とを前提に、ご意見・ご質問がありましたらご発言いただきたいと思います。順序は1か ら5を問いませんので、よろしくお願いします。 ○本山班員 質問という趣旨ですが、家族の範囲の問題について、資料5の2頁に現行制 度について配偶者、子、父母、孫と並んでいて、同居の親族という形も取っているわけで すが、同居の親族ということは、当然、兄弟姉妹が入ってくることになるかと思いますが、 例えば脳死者で提供の意思がある人に関して、同居の親族に小さな子どもがいるなどとい う場合には、いまはどのような扱いになっているのですか。 ○芦刈参考人 日本臓器移植ネットワークの芦刈です。実際に小さなお子さんがいる場合 に、そのお子さんのご両親や家族の方に、こういった臓器提供に関しての話をそのお子さ んが聞いて、それで理解ができる年齢や状況であるかを確認しながら、例えば中学生や高 校生であれば理解できるだろうということであれば、「一緒にお話を聞かれますか、どうし ますか」は問いかけをしています。最終的には、話に入っていただくかどうかはご家族の 方の判断になります。 ○新美班長 ほかにご質問・ご意見がありましたら、どうぞ。これは私の質問ですが、国 会の審議で未成年者というか児童でも有効だと言っているのですが、0歳でも有効だとい うご趣旨だということですかね。そういう意味では、法律家から見ると全然理解不能な発 言になっているのですが、この点については議論の中ではどうなってきているか、このま ま通ってしまっているということでよろしいのですか。 ○辺見室長 先ほどの参考資料3の1〜2頁にかかる部分のご議論だと思うのですが、実は このあたりのご議論で我々が参考にできる部分は限られており、この部分になってまいり ます。1頁の下の所の「15歳未満の者についても拒否をする意思表示はできる」というこ とは、これはたぶんそのとおりだと思うのですが、では下についてどう考えるのかという 点において、次の段落、2頁の上をどのようにつなげて考えるのかですが、「拒否に関して は意思表示は有効というふうに考えております」と、表現的にはこれだけですので、拒否 の意思表示イコール有効ということか、拒否の意思表示を有効と取り扱うということか、 厳密にはこれ以上詰めた議論は、申し訳ありませんがないということです。 ○新美班長 これは民法の中ですと意思能力という議論で片づけてきている問題だと思う のですが、意思能力がなければこれは無効だということで、児童あるいは未成年者の場合 の意思表示でも、かなり低年齢というか、まさに乳幼児に近いものについては、対象事項 の複雑さとの相関ですが、そもそも意思としての意味を持たない、法的な効力を持たない という扱い方をするのですが、そういう考え方をしないのかするのかを確認しておきたい です。ですから臓器移植法ではそういった民法のような議論はしないのだと。 ○町野班員 民法のような議論をしないということではなくて、これは国会でどれだけの 議論がされたことも、されてないということはあると思いますが、考え方としてオプトイ ンの意思表示は15歳をとにかく最下限にして、それ以上でなければ能力がないと駄目だと。 しかし、拒否の意思表示能力はより低くていいだろうという前提が1つあることは、間違 いないですよね。したがって、だから15歳以下でも結構だと。  先ほど新美班長が言われた0歳児でもあるのかというのは、これはそういう問題ではな くて、0歳児の場合、意思表示そのものがないですから、不存在ですから、そういうこと は問題ない。したがって、問題は、自然的な意味で「ノー」という意思表示がされたとき に、それをどのように扱うかということで、おそらくはそのときのをすべて有効と扱うと いうことではないかという具合に私は理解しています。 ○新美班長 いまのは分からないでもないですが、意思表示は、別段、言葉でなくても意 思表示として扱うわけです。無言でも意思表示として扱えるわけです。ですから、我々は それをどう処理するか。例えば、腕に注射を打とうと思ったら、腕を引っ張って隠したら、 これは拒否の表示です。 ○町野班員 それは意思表示能力と関係ない話です、表示の方式の問題ですから。 ○新美班長 いや、1歳でも嫌なものは嫌だということはあり得るわけです。ですから、 能力の問題は、存在か不存在かという問題は別で、どの辺で能力を判定するかという議論 をしなければいけないので、ですから0歳でもあり得ると。 ○町野班員 ちょっと理屈は違うように思いますが。 ○新美班長 いや、0歳でもあります。このことは嫌だという表示が出たら、それはその ことに関する能力はあるということになるわけです。例えば、幼児にものを食べさせよう と思って、口をつぐんで嫌だと言ったら、これは食べたくないという表示はあるわけです。 ですから、我々のような能力があるかどうかは法的な判断をするわけで、そういう拒否の 所作やいろいろな表情をするときに、これは意思ではないと見るのか見ないのかは、法的 な判断をするわけですが、それをどこまでやるのかです。これは年齢の問題ではないです。 ですから、脳死判定による臓器移植を拒絶するということについて、どういうことを、ど の辺のことを考えたらいいのかは、議論せざるを得ない。 ○水野班員 いま班長がおっしゃいましたように、まさに意思表示の扱いの問題は、意思 表示をどのような様式で扱うかということと常に表裏一体で問題になってくるのだと思い ます。そういう意味では、これだけ小児の臓器を提供しない意思がある、それを大事に扱 おうということであるのであれば、そのことについてきちんとした様式の準備をしてあげ ることになっていく可能性があります。議論の蒸し返しになってしまいますが、提供の意 思表示の様式を整えていくという提案は、前回受け入れられなかったわけですが、意思表 示の様式を整えていくことが、やがて拒絶意思の登録のほうにも発展していくだろうと考 えていたのですが。 ○町野班員 それはちょっと違うので、考え方としては、これは様式を要求しないところ にむしろ意味があるので、要するに本人が嫌だということを言っていたときについては、 10歳ぐらいでも8歳ぐらいでもそれは尊重しようということで、そのときにいちいち書面 にしなくてはいけないとか、そう書くと、かえって本人の拒絶意思が尊重されないことに なるだろうと。ということで、確かに先生がいろいろ主張されるオプトインや親族優先提 供については、様式性を保って、より厳格なものにすることは立法論としてはひとつ考え られる話だとは思いますが、こちらは様式性がなくて、しかも意思能力を引き下げている ところに私は非常な意味があると思います。  もう1つ、これは意思表示とは言いますが、おそらく民法の法律行為の意味の意思表示 ではなくて、これは事実行為だと思いますから、民法上の意思表示のそれについては適用 はないのではないかと私は思いますが、そこらは民法の人のご意見を伺いたいと思います。 ○水野班員 このような小児が、例えば先ほど班長がおっしゃったような、そういうこと は嫌だと身振りしていたことが、意思表示と評価できるかどうか疑問ですけれど、かりに 意思表示であると認めるとしても、親族の拒否権を非常に幅広く維持するという前提です から小児が拒絶したかったろうと認めている家族の誰かが別途、拒否権を行うことによっ て担保されることになるのではないかと思うのですが。 ○町野班員 そうです。ただ、もし議論として「ノー」というオプトアウトということを 認めるべきだとするならば、それをオーバーライズすることは遺族はできませんから、「結 構です、どうぞ取ってください」というわけにはいきませんから、これはかなり決定的な 意味です。だから、その限りで本人が「ノー」と言っていたら、身ぶりであろうが何だろ うが、基本的にそれが本当にそのようなものである、拒絶の意思と見られる以上は、それ を尊重しなくてはいけないということだと私は思います。 ○新美班長 いまのは、理屈ではそうですが、移植の現場でそれは確認できるのかがある のです。例えば、いつの時点で「ノー」と言ったのかは、非常に大きな意味を持っている のです。昔はこの辺では、1年ぐらいは「嫌だ」と言っていた。いまはどうかと。そのあ と遺族の中での議論が分かれて、かつて「ノー」と言ったけれども、そのあと「構わない よ」と言っていたとか、大変な論争になってしまう可能性があるのではないかと思うので すが、その辺はどうですか。これは本当に様式をかなり緩やかに捉えれば捉えるほど、確 定が非常に難しくなる。様式をきちんとするとなると、まさに町野先生がおっしゃったよ うに、拒絶することが極めて難しくなると、言わば背反する事情だと思うのですが、その 辺をどう見極めていくかという議論をせざるを得ないと思うのですが。 ○町野班員 資料5の4頁にあるとおり、基本的には、本人が拒絶意思を持っていたかど うかは、これは小児に限らず、どういうことで知るかということからスタートするわけで す。ですから、そのときに、小児の場合については、カードへ記載、ネットワークだとか、 それはあり得ない話ですから、遺族から話を聞くという話になると思います。そうして確 認していくのであって、漠然とこの子どもはどうだったのかという話ではない。これはド イツの臓器移植法の通知方式と似た考え方を取っているわけですから、このようなものと してやればいい。だから、最終的には、先ほど水野先生とのやり取りの中で言いましたと おり、本人が「ノー」と言っていたら、遺族はそれを覆すあれはないですが、こういうと きについても遺族が最終的にパイプにならざるを得ないわけです。ということを理解した 上で、それを見た上でコーディネーターの方がどのようにそういうところでコーディネー ションをされるか、という問題になってくるだろうと私は思います。 ○新美班長 法律の書き方ですと、拒否の意思がないと確定できなければ移植はしないと いうことになるのですかね。拒否の意思がないということで初めて家族の承諾が生きるわ けですね、拒否の意思がないときに。 ○町野班員 そうです。 ○新美班長 だから、拒否の意思がないと確定できなければ移植はできない、ではないで すか。 ○町野班員 それはそうではないです。不明でそういうことになりますから。 ○新美班長 ないことの確認は要らないわけですか。あったときはそれは絶対に拘束され るというのがこの趣旨ですから。 ○丸山班員 どの程度の信憑性を求めるかはともかく、なかったことの確認が必要なので はないですか。合理的な調査をしてなかったということが確認されれば、遺族・家族の同 意で進めてもよいということだと思います。  もう1つ、いま見ていて思ったのですが、これまで意思登録システムは本人意思という ことで15歳以上の者が対象だったのですが、拒否の意思も登録できるとなると、この問題 についてよく勉強している子であれば、小学生でも登録できるようにしないと、あるいは 幼稚園児でも登録できるようにしないと、制度的にまずいのではないかと思いますが。拒 否の意思については、いろいろな言い方をなされましたが、同時に、拒否についての意思 能力が認められる限り。新美先生のご発言だと、「嫌だ」という意思が表示されれば、能力 ありとしようというような、かなり。 ○新美班長 いや、そういうこともできるのではないかというだけで。 ○丸山班員 それが合理性をもっているかというところまではあまり要求しない、高くし ないというのがおそらく立法者などの意向だと思いますから、システムの、意思を登録で きる人の範囲の下のほうを広げる必要はありますね。 ○手嶋班員 今日は論点整理ということでお伺いしたいのですが、啓発活動をどの程度お 考えになっておられるのか、ここで議論することではないとは思いますが。例えば、いま 丸山先生がおっしゃったように、年齢の低い方に対しても、こういったことについていろ いろ知る機会を提供していくのだという話になれば、いま問題になっている話は結構前に 出てくる可能性もあるし、そうではなくて個別の意識の壌成に任せるということであれば、 それほど数的には増えない可能性もあるのかということで、啓発活動をどの程度想定して おられるのかについてお伺いできればということです。 ○新美班長 事務局から、どの程度のことを考えていらっしゃるか。 ○辺見室長 具体的な啓発活動については、普及啓発班でのご議論も踏まえて検討したい と思いますが、いま、子どもですと、そういう意味では年齢が高いかもしれませんが、中 学生に対してのパンフレットの配付などを行っていますので、それをどういう形で拡大し ていくかということかと思います。 ○新美班長 ほかに、ご意見、ご質問はありますか。 ○町野班員 いま、小児のネットの登録について、制度上どうのこうのと言われましたが、 現在は何の制限もないはずですね。 ○芦刈参考人 15歳以上です。 ○町野班員 拒否についても同じですか。 ○芦刈参考人 拒否についても現行どおり。 ○長岡補佐 現在は、個人情報を打ち込む際に生年月日を入れる所がありますが、そこで 15歳未満ですと弾かれてしまうような仕組みになっています。 ○町野班員 それは変えなければいけないという話は大切ですね。 ○水野班員 親族の拒否権の問題をずっと心配しているのですが、この範囲について「原 則として配偶者、子、父母、孫、祖父母及び同居の親族で、喪主又は祭祀主宰者が総意を 取りまとめる」というのが現行の運用ということですね。そうすると、現在でも例えば兄 弟が危篤だということで駆け付けてきたら、その兄弟はこの原則の範囲の中に入らないわ けですが、実際には含まれているということですね。臨終だというので枕辺に駆け付けて きた、ドナーの兄弟は含まれてきますか。 ○辺見室長 もしあれだったら、ネットワークさんのほうから補足していただければと思 いますが、9月の臓器移植委員会でご議論があったときに紹介された事例ですと、お亡く なりになったときに集まってこられる親族の方がいらっしゃる。それは同居の方々が中心 になるけれども、その周辺の方々も集まってこられた。現状ですので、本人の意思表示は されていて、家族の承諾を得る場合ということですが、ご家族のご承諾をという話をする ときに、あえて二親等に区切ってということではなくて、お集まりになられている方々に ご相談をして、ご承諾を得るといったような流れのようです。なので、先ほど私がご紹介 しましたように、現行取扱いというかガイドライン上、二親等プラス同居の家族と書いて あって、ただし書きでその範囲外の親族もいらっしゃって、ご異論があった場合には、そ れについても慎重に配慮せよということになっていますので、現場における対応というの はそういったようなことを踏まえた対応になっていると認識しています。 ○芦刈参考人 いまご説明にありましたように、実際その現場に駆け付けたご家族の方、 祭祀主宰者、そのキーパーソンになる方がどこまでの範囲を臓器提供の意思決定に加える かというのはご判断いただいて、例えば兄弟が駆け付けたということで兄弟も入れたい。 あるいは、非常にお世話になった会社の同僚がいるということで、その意思決定に加えた いということであれば、私どものほうで拒むものではありませんので、その家族によって 判断をしていただいて、その意思決定に加わっていただく。ただ、原則としてというとこ ろがありますので、この枠は私どもは非常に注意をして、このご家族の方が入っているか どうかということを十分に確認しながら手続を進めていっています。 ○水野班員 そうすると、例えば夫が臓器提供の意思表示をして亡くなって、喪主が長男 という場合に、夫の兄弟が駆け付けて反対した場合に、喪主である長男がおじさんの言う ことは聞きたくないということで排除すれば、それは提供されることになる。 ○芦刈参考人 そうですね。ただ、そこは慎重に判断をしていかないといけないと思いま す。長男がこのおじさんの意思も、本人の兄弟の意思も含めて尊重して、そこの同意が得 られないので提供をやめましょうという答えをしてくることもありますし、逆に自分たち の家族で決めることだからということで、本人の兄弟と話をした上で祭祀主宰者、キーパ ーソンとして、その返事を承諾することはあります。 ○水野班員 諸外国の同意権者などと比べますと、すごく柔らかくなっています。法的な 感覚で言いますと、祭祀主宰者は誰だとどうやって決めるのか等、曖昧きわまりないもの で、その範囲が非常に柔らかくなっていて、これで運用せざるを得なかったことは理解で きます。現場で医師が限られた時間の中でやることですし、コーディネーターも法によっ て強い権限を与えられているわけではありません。そして、こういうことの結果、誰か1 人が反対すると移植がなされない形の運用に流れていったのだろうと想像しています。積 極的に臓器提供を強く押し進めていく立場に立たない限り、現状を考えるとこのこと自体 は致し方ないのかなと思います。  今回の話題は小児の問題ですので、レシピエントがわかっている親族優先意思の場合の 問題はありませんから、従来と同じように柔らかく広げてしまって、誰かが反対すると提 供できないまま流れていくということでもなんとかなるのではないかと思いますが、親族 優先意思が入ったときについては、同意権者の問題をずっと心配し続けています。兄弟の おじさんが駆け付けてきて、拒否権を行使しようとしたときに、喪主に当たる人はいった い何ができるのかということも問題だろうと思いますし、そのときにいろいろなことが起 きるでしょう。同意することの条件として、予め遺産からいくらよこすかという交渉が陰 で行われていることもあるでしょう。ただし本日の話題の問題については、従来そうであ ったように匿名と匿名で結ばれていますので、受け取る側が自分がもらえなくなったこと について知ることはありませんので、問題になることはないだろうと思います。 ○新美班長 ありがとうございます。ほかにご意見、ご質問はありますか。 ○山本班員 ガイドラインに「知的障害者等」とありますが、現在、知的障害者以外にど ういう範囲が含まれると見るのか。高度な精神障害者とか統合失調症の人とか、どの範囲 でそれが考えられるのか。 ○辺見室長 いまの「知的障害者等」の「等」について、具体的に示したものはありませ んが、先ほどの紙ファイルの参考資料3にガイドライン本文があります。ガイドラインの 参考資料3の知的障害者に関するところの1頁の第1の2段落目に、「知的障害者等の意思 表示については」とありまして、3行目から「主治医等が家族等に対して病状や治療方針 の説明を行う中で、患者が知的障害者等であることが判明した場合においては」という書 き方がしてあります。これは、法的な概念からして知的障害者と捉える場合と、それに準 ずる場合などが現場においてあり得て、その準ずる場合を含めて等々を読んでいると、と りあえずこのガイドライン上は考えられます。そのほか、現場において類して具体的に事 例があれば、ご紹介いただければと思います。 ○新美班長 いかがですか。 ○芦刈参考人 知的障害者等ということで、これまで知的障害者あるいは知的障害者に近 いような状況の中での意思表示という事例はなかったかに思いますので、これを提供する、 見合わせるということは、実際にはありませんでした。 ○新美班長 私も法律は知りませんが、知的障害者というのは精神病等による精神障害と、 発達遅滞の方が含まれるわけですね。あと、薬物中毒者みたいな方は含まれるのですか。 あれは精神障害者のほうに入るのですか。 ○辺見室長 精神障害者の定義からすると、含まれたかと思います。 ○新美班長 そうすると、どんなものが入るのですか。アル中もそちらに入ってきますね。 ○辺見室長 精神障害者ということであると入ってくると思います。 ○新美班長 知的障害者の中には入ってこないですか。 ○町野班員 要するに知的障害を中心としていて、「等」の中に精神障害者も入ることはあ るけれども、全部が入るわけではないという話ですね。精神保健福祉法の3条か何かの定 義が非常に広いもので捉えて、精神病質まで入っていますから、全部入るとなったらえら いことで、我々も能力がないという話になりますので、先ほどご説明がありましたとおり、 知的障害と比較し得るだけの精神障害ということに一応関わっている。しかし、現状では そのような実例というのは、いまのところはなさそうだということで理解してよろしいで しょうか。 ○新美班長 この知的障害者というのは、テクニカルタームとして法的にこういうものだ という定義がまだ決まっていないという理解ですか。 ○町野班員 「等」については。 ○新美班長 知的障害者そのものは、法律上の根拠がありますか。 ○宮本参考人 私は医師ですので、知的障害に関しては医学では明確な定義があります。 知能指数と生活上の困難の2つで規定されます。知能指数が70未満。生活上では具体的に はいろいろな適応コードで規定されていますが、日常生活、社会生活において困難を持っ ている。つまり、1人ではできないということです。ただ、やっかいなのは、知的障害と いう診断は状態診断であって、永続的なものではないということです。なぜならば、知能 指数が70未満であっても、生活上で困難を持たなければ知的障害と判断されない。これは、 日本の福祉の法律でもそのようになっています。したがいまして、知能指数が60の方でも 大人の方はよくありますが、日常生活をそれなりにやっておれば、知的障害ではないとい うことになります。  位置づけとしては、精神障害の中に医学でも知的障害は含めますが、しかしながら普通 「知的障害等」と言う場合には、その「等」には、特に小児科医が考えるときには、その 他の発達障害を含める。そして精神疾患は含めないというのが一般的で、そのときおそら く知能障害がない。ほかの発達障害であっても、知的障害の概念に当てはまる場合には、 それはすべて知的障害を合併していると考えますので、知的障害ではないということに当 たらなくなります。そうすると、ほかの発達障害で何が問題になるかというと、知的障害 でないにもかかわらず、理解面に合理的な判断や理解に問題がある状態が存在し得るかと いうことになります。それは存在して、何かというと自閉性障害です。ただ、この「等」 には、そこまでのものは考えていないのではないかと分析します。 ○新美班長 ありがとうございました。そういう意味では、医学的な問題はまさに2つの メルクマールで判断されるということですが、そうすると「等」の中に何が入るのかとい うのは、相当難しい議論にはなってくると思います。 ○町野班員 せっかくですので、宮本先生に質問します。いま、ガイドラインの第1の2 項目を維持する方向で皆さんお考えだろうと思いますが、これは合理性があるのでしょう かということが基本です。というのは、ちょっと似ているのが韓国の移植法です。ところ が、これが非常に奇妙にできていまして、精神障害者及び知的障害者については、本人が 決定しなければ臓器の提供ができない。そういう人の意思決定を重視すると、むしろ逆の ような気がしますが、韓国ではこのようなことをすることによって、精神障害者と知的障 害者の自己決定を保証するのだという考え方で作られたようです。  しかし、これに対してかなり反対が強くて、障害者からも「これは我々の能力がないと いうことを前提にしているものではないだろうか」、あるいは本人が何も言わないことにつ いては駄目だということだと、提供することができないということは差別ではないかとい う意識があると同時に、他方では法律的に見ても、合理性がある、ないということで、今 度はこれを削除する方向でいま進んでいるという話です。その意味では、日本とちょうど 逆の方向に来ている。これは合理性があるのでしょうか。国会での議論を見ましても、そ のようには受け取れないところが少しあります。この点で、宮本参考人のご意見を。 ○宮本参考人 この点は、先ほど班長が言われた15歳未満の意思表示能力、拒否能力を0 歳でもいいのかという議論と同じことがそこに入ってきます。なぜかと申しますと、知的 障害には程度の差がかなりあります。最初に知的障害を除こうと考えたときのイメージが、 意思表示ができないような比較的重い知的障害の方を想定されているのだとすれば、大多 数の知的障害の方はそうではない。知的障害の方は現在、疫学的には1%と言われていま す。その中の85%は、軽度の知的障害の方です。知能指数でいうと50〜70です。この方々 の多くは、大人になると社会生活は普通にやっておられます。つまり、この方々をすべて 除くことになります。  しかし一方、知能指数20という重度の知的障害の方は、おそらく大人になっても発話も できない。つまり、意思表示の能力がほとんど見振り手振りや動作に限定されて、そして その方々がご自分の状況や将来のことをどこまで理解できるかは、かなり限定して考えな くてはいけなくて、これを同じに考えることに関しての問題点はあるように思います。 ○町野班員 問題は、普通の法律家の物の考え方というのは、知的障害者とか問題がある 人についてのイエスもノーも、有効と扱わないものにするということだと不明という扱い になって、あとは親族等が提供をOKすれば提供できるというのが筋道になるはずだと。例 えば、5歳ぐらいの小児についても、もしかしたらノーも無効と言うかもしれませんが尊 重するとして、OKと言っても5歳ぐらいだと無効だろうと考えたとして、そのときは遺族 の承諾でOKなわけです。だから考え方の点で、これとバランスを失しているのではないだ ろうかということです。それが基本的な問題で、年齢で区切ることについては15歳とか2 歳以下は駄目だという議論をするのとかなり違って、精神障害とか知的障害で括ることが 差別ではないだろうかという議論です。 ○宮本参考人 わかりました。その点は私も同じような感覚は持ちます。なぜ知的障害の 方を除くのか。知的障害の方を除く根拠を当てはめてしまうと、小児もそのまま同じ条件 が当てはまらざるを得ない部分がありますので、そこで少し矛盾を生じるということは十 分考えられます。 ○新美班長 ほかに、あるいはいまのに関連してもよろしいですが、ご意見がありました ら。 ○水野班員 小児は提供できるのに知的障害者はできないという理屈について、論理的に 説明ができないかというのを少し考えてみたのですが、できませんでしたと白状いたしま す。論理的には説明できないのですが、大きく日本の制度全体で考えたときには、子ども の場合には親権者という親がいて、その親権者がそれなりの意思表示を代行できる権限を もつ合理的な存在として満遍なくいるわけですが、知的障害者、とりわけ成年の場合には、 意思表示代行システムというのが日本では全然なっていないという問題があります。つま り、意思能力を欠く成人に満遍なく制度的な援助が付いていないことが、あらゆる議論を 難しくしているということがありまして、班長は後のほうに回すということで入れていら っしゃいませんが、児童虐待についても同じことが言えます。  児童虐待の場合は、虐待死の場合を考えると、満遍なく異状死について検視が行われて いて看過される虐待死がないという前提があったり、児童虐待をしている家庭に満遍なく 社会的な援助が入っていることが前提になっていれば、筋論で議論できるのですが、そう ではない日本の現状で、突発的にたまたま網に掛かってきた事例について、どのような一 般論を立てるかが非常に難しくなるという構造があります。それと同じ構造がここでもあ るような気がします。そうすると、知的障害者についてきちんとした制度設計がいまでき ていないときに、そのことがもたらすさまざまな危険を配慮して、論理的には説明できな いけれども、とりあえず外しておくという判断はありかもしれません。そういう判断で何 とか説明できるかとは思いますが、私自身も小児と比べて、なぜこれを論理的に正当化す ることができるかというのは難しい気がします。 ○新美班長 いかがでしょうか。いま水野さんの話を伺っていて、イギリスのキャパシテ ィアクトの立法過程の議論を思い出したのですが、判断能力があるかどうか、コンピテン トであるかどうかというときのシステムとして、コミュニケーションがどうなされて本人 が意思決定をするのかということは、非常に大きな問題である。そのときにコミュニケー ションするものが、その能力の判定をされる人とどういう関係にあるのかというのが非常 に大きな意味を持つ。要するに親子であれば、子どもにわかるようなコミュニケーション をする。子どもは、親の言うことなら理解をして意思決定ができる場面が広がる。他人が やったら理解できない場面があるので、能力判定においては誰がコミュニケーション、情 報提供して意思決定を促すのかというのは、非常に大きなポイントだということが、その 立法過程で議論されました。そういうことからいくと、未成年あるいは児童の場合の親権 者がそこに介在する場合と、そういったコミュニケーションするコミュニケーターが期待 できない知的障害者というのは、とりあえず別個に括っておくということはあり得る制度 の設計の仕方だと、いま水野さんの話を伺っていて思い出しましたが、皆さんの意見はい かがでしょうか。 ○町野班員 私は、それでもあり得ないと思います。基本的に、言われるのはよくわかり ます。これは歴史的な経緯といいますか、筑波大学の膵・腎同時移植のときに、提供者の 側が精神障害の方であられたということがあって、それはかなり影を落としていることが 1つあると思います。  もう1つは意思決定能力とか、本人の福利厚生について問題がある。日本の場合は水野 先生が言われましたとおり、コミュニケーションの問題ではなくて、そのときに本人の決 定といいますか、システムが確立していないことがあって、かなりあやうい領域だと考え られている。子どもの場合、特に児童虐待の場合はそれが現れている。そして、精神障害 者の場合にそれが現れていることから、これは何かまずいのではないかということで、こ うなっているというのは理解できます。しかし、制度が確立したときは、みんなこれでや めてくれるか。これでOKにしてくれるかというと、おそらくそういうことはないだろうと 思います。現在のところ多くの人たちは、これについて非常にネガティブな反応を持って いることは私も理解しますから、これはあえて波風を立てる必要はないと思いますが、問 題はかなりあることはこの場で理解というか、ご議論いただきたいと思います。すんなり と、前のことをそのまま維持するわけにはいかないのではないかと思います。 ○丸山班員 このガイドラインの1の後段の文章で、「知的障害者等の意思表示については、 一律にその意思表示を云々」の意思表示というのは、前段の提供の意思表示ですよね。今 回は、拒否の意思表示も考えざるを得ないので、ここは検討することが必要なのではない ですか。それと、最初の臓器移植法というか、この部分については現行の臓器移植法が制 定されたときのガイドラインだと思いますが、「今後さらに検討すべき」ということでした が、検討されたことはなかったのではないかと思います。町野先生はずっと臓器移植の委 員会のメンバーでいらっしゃったと思いますが、検討されたことはありますか。「今後さら に検討すべき」と謳われている。 ○町野班員 それはないですね。 ○丸山班員 本格的な検討は難しいかと思いますが、少し検討しておくほうがいいかもし れないです。 ○新美班長 いまの丸山さんがおっしゃったように、これは拒否の問題であるということ は1つのポイントですから、町野先生よりも極めてスレッショールドを低くして、基本的 には拒否の意思ないしはそれについての表示があったら、意思能力ありという推定をして しまうこともあり得ますね。何らかの反応をしているのだと。 ○町野班員 ガイドラインで、もしこれをこのまま維持することになると、簡単に言うと 「知的障害者等からの臓器の提供はできない」ということですから、意思表示の有無に関 係ない話ということになっています。これをいまのように意思表示があって、能力があっ たかということをやることになると、全部変えるという話になります。維持できないとい う話になります。 ○丸山班員 この前提が変更されていますよね。後段の文章の。 ○新美班長 これは、まさに提供の意思の問題ですから、書いてある。 ○町野班員 ただ、拒否の意思であっても問題は同じですから、意思能力を下げてもあれ なので、問題は何も言っていないときについては拒否の意思もどこを探してもないし、提 供の意思もないといったときについては、もうこのときは結局駄目だという話ですよね。 遺族の意思だけではできないということにしようとしているわけですから。 ○新美班長 扱いとしてはそうしていますよね。国会の審議のときには。 ○町野班員 そうすべきかどうかですよね。 ○新美班長 少なくとも、それについては町野先生がおっしゃったように、あまり理屈は ないように思います。知的障害者を除くことについての理由がよくわからない。 ○町野班員 理屈といいますか、理解はするけれども、同調することはできないという話 です。 ○新美班長 なぜ、そういうことを言いたいかというのはわかるけれども、理論的な根拠 をどこに求めるかというと、なかなか理解し難い。説明がしづらい。 ○丸山班員 水野先生、町野先生がおっしゃったことと同じ結論になりますが、知的障害 者の取扱いというのは子どもと同じにしようという場面が多かったと思いますが、今回子 どもはドナーとなり得るのに、なぜこちらはならないのかというあたりの説明は、本当に 難しいと思います。 ○新美班長 今日は一定の何が論点かというのを明らかにしていこうということですので、 これ以上やっていくと延々と夜中までやっても決着がつきませんので、ほかにご意見等が ありましたらよろしくお願いします。水野さんから1〜4以外でも話があるということです。 1〜4についてあればまた出していただきますが、次に5と6についてご議論をいただきた いと思います。ご意見がありましたら、よろしくお願いします。 ○水野班員 これについて、問題をよく呑み込めていないところがあります。虐待の可能 性があると医師が判断した場合に、それを厳密にきちんと検視の手続に持っていかなくて はならないという筋はよくわかりますが、脳死提供をやめるということだけで終わってい るのだとすると、虐待かもしれないと医師が考えた場合に、子どもの身体をそのまま親に 返してしまうことがあったら、親はそのまま荼毘に付すわけですから、何ら虐待の問題は 解決しないことになります。もしこれで脳死提供になって、子どもが脳死になって虐待の 可能性があると医師が考えたときの手続としては、100%検視のほうへ行くことが前提とさ れている議論だと考えていいわけですか。この手続は。 ○町野班員 前提として、そうではないと思います。要するに、異状死体の届出の場合と 同じかというと、必ずしも同じではないという議論があるわけです。前の臓器移植委員会 の最初のときでしたか、水野委員がそのような考えでした。私は、異状死体の届出の問題 で解決がつくのではないかと見ましたが、そうではなくて、犯罪による死亡であることで ない場合にあっても、虐待されている子どもが死んだ場合についてはこれにもありますと あり、見たら体中に痣があった。しかし、そのことが原因で死亡したということは断定で きない。あるいは、そうではないことは明らかだといった場合でも提供してはいけないと いう議論を取りますと、おそらく異状死という概念に入らないことが出てくるわけですよ ね。さらに、親が目を離している隙に、子どもが飛び出して死亡してしまったときについ ても、虐待の意思だと言われる方がおいでです。ネグレクトの意思だという考え方を採り ますと、いまのようなときは異状死体の届出義務と関係ないですから、解剖になることも まずないという話だろうと思います。  もう1つは、脳死ばかりではなくて心臓死の場合も同じですから、例えばいまのですと 虐待をしたことがわかって、仮にこれが犯罪だということになりますと、次に検視の制度 がスタートして、そうすると犯罪捜査が終わるときまでは臓器提供できませんという話に なる。それから解剖するときは、心臓死を待たなければできないという取扱いになってい ます。そしてすべてのそれが終わったあとで、腎臓の提供とか眼球という問題が起こると きもあり得るわけです。これは、そのときはできるという話になるはずですが、今度は虐 待した児童からの臓器の提供ができませんから、そのときもできないという話になってい るということです。そういうことでよろしいですか。 ○新美班長 いまの児童虐待と臓器法では、どういう通知義務になっていますか。 ○辺見室長 正確な理解をしていなければ、改めて次回に訂正しますが、虐待防止の施策 は主として虐待児を見付けたときに、その保護を行うという観点から保護を即講じるとか、 親に対しての調査を行うという前提になっていまして、死亡した場合、その後どう取り扱 うのかは、あまり施策全体の体系の中から把握ができていません。そこのところは、もう 一度確認をする必要があろうかと思っています。 ○新美班長 児童虐待防止法ですと、児童福祉の観点からの施策であって、町野先生が先 ほどおっしゃったみたいに犯罪に関する異状死体の問題とはまた別だと。 ○辺見室長 そうですね。言い方はあれですが、児童がまだ生活を営んでいる状態で、ど う保護していくかということだと思います。死亡した場合で切り分けをしていきますと、 異状死体に犯罪の捜査が必要な場合と、そうでない場合と間があったとして、異状死体の 場合は刑事的な警察の出番と、そうでない場合との間にあった場合に、児童相談所が出て きても、たぶんこれから何をするのかというのは、いまの施策のメニューの中にはないの だと思います。ですので、逆に犯罪のところは広く捉えられるというのではまた話は別で すが、犯罪のところで線を引くと、いまの犯罪の線まで狭められますので、狭めた上で考 えるのか、それとももう少しグレーゾーンも取り込んだ上で、こちらのほうを考えていく のかというところのご議論だと思っています。 ○新美班長 もう1つは、医師法で犯罪を疑わせる疾病が出た場合には通報義務というの がありますが、その辺はいかがでしょうか。 ○宮本参考人 私は、日本小児科学会の子ども虐待プロジェクトの委員長もやっていまし て、小児科学会としてもどうするかといういろいろな指針を考えていっていますが、基本 的にはこれまでを申しますと、残念ながら小児科医の認識も必ずしも広まっていなかった こともあって、おかしいなと思いながらも、まさか虐待とまでは考えない。ないしは、お かしいとも思わない。「ああ、そういうこともあるんだ」ぐらいで済ませていた案件がかな りあった。最近の傾向としては、死亡事例はほとんどの医師は警察に通告するようになっ ています。かなり重篤な外傷も通告する。それから重篤な外傷だけではなくて、重篤な病 的な状態。例えば、つい最近福岡であったネグレクトの問題も通告するようになっている ということで、だんだんその方向になっています。  私どものプロジェクトでも、今回臓器移植のシャンテに伴う虐待の問題を検討していま す。基本的に水野委員が言われたように、これを脳死判定の前の虐待の除外云々で終わら せていたのでは何にもならない。もし除外するということは、虐待の疑いがあるというこ とですから、その次のステップを作っておかないと片手落ちになるということで、この場 合、脳死というのは現在の日本の法律では死ですので、死亡したのに準じた対応をする。 つまり、警察への通告という方向で指針を作っていくというのが1つ考えられるのではな いか。ただ、実際にはこれはおわかりいただけると思いますが、現場の医師、特に小児科 医はそうだし、ほかの科の医師もそうかもしれませんが、こういう虐待の事案を毎回扱い 慣れているわけではありませんので、突発的にそういう患者が来た場合、指針どおりに本 当に動けるかどうかというのは、ある程度の年月を要するだろうと思っています。 ○新美班長 ありがとうございます。ほかに、この問題についてご意見、ご質問はありま すか。いまの先生のお話は、基本的には虐待が原因で、脳死ないしは死亡した場合の処理 ですね。 ○宮本参考人 はい。 ○新美班長 虐待の事実はあるけれども、死亡原因にはなっていない。例えば、交通事故 で入ってきたような場合には通告はしない。 ○宮本参考人 します。というのは、この場合は脳死ですので、とても変な言い方になり ますが、逆に言うとそのあと、その子とその家族の調整をする必要はないので、しやすい というところがあるだろうと思います。それから、虐待行為が脳死の直接の原因だった場 合、積極的に通告する必要があるのは、これは死に至らしめているわけですから、決して 保護者を犯人にするのではなくて、次を予防する必要がある。保護者への積極的な支援・ 介入を行うそこが入口になるという意味で、積極的な意味があると考えます。 ○峯村部長 補足ですが、ガイドラインの中でも脳死判定を行う際に、その脳死の状態が 内因性疾患によることによって脳死状態に陥ったということ以外の場合については、すべ て所管の警察署に届け出るようにという規定を置かれているということを補足の意味で申 し上げておきます。 ○新美班長 どこにありますか。 ○峯村部長 12の5です。死体からの臓器移植の取扱いに関するその他の事項の5の等で す。 ○新美班長 どうもありがとうございました。何かほかにご意見、ご質問がありましたら。 ○町野班員 いまのことでよろしいですか。基本的に、いまのような手続の問題の前に、 これは法律ができたからこれも親族提供と同じように仕方のないことですから、今後進め なければいけないですが、どうして被虐待死した子どもから臓器を提供してはいけないか ということは、どこかで議論。 ○新美班長 そこは明確しておくね。 ○町野班員 明確にする必要はないですが、議論はせざるを得ないだろうと思います。そ れによって、かなりその範囲というものが、ある程度限定されてくることがあるだろうと いう話です。どうも失礼しました。 ○丸山班員 いまの町野先生のご発言と関連することを一言言います。しばらく前にアメ リカの状況を調べたのですが、ここ2〜3年ほどのデータですが、子どもがドナーとなる 場合の死因の1割近くが虐待でした。ですから、必ずしもいまの改正法の附則が定めたと ころが、制度の作り方次第では、必要というわけとも限らないということがあると思いま す。  検討課題の6で、何歳まで児童虐待と扱うか、それで、ドナーとしない取扱いを定める かということから敷衍して考えたのですが、子どもが大きくなってくると、本人の意思が ない場合に提供する、あるいは承諾することができるのは遺族です。親とは定められてい ない。となると、老人虐待とか成年、普通の者であっても、家族の中でいじめられて、そ のいじめで死んでしまって、その家族が遺族として提供する、あるいは家族として脳死判 定の承諾をするというようなことがあり得るので、子どもだからというのは実際は生まれ てほどない子どもの場合だと、ドナーとするのは可哀想だなという気持が強くなりますが、 18歳とか15歳とかあたりで年齢を動かしていると、大人になっても同じように利益相反 というか、遺族の立場が必ずしも提供するのにふさわしい立場とは限らないというような ことが言えるのではないかなというのを少し感じました。 ○新美班長 要するに、意思決定をする資格がある、ないという観点から議論するという ことでいいのではないかというか、そちらの視点を強く出されたわけですね。代行決定か 何か知りませんが。 ○丸山班員 遺族として提供する者が、死をもたらした者であるという重なりから、先ほ どの国会のこのところの根拠が示されていますが、それだと子どもに限らないということ も言えるのではないかなと思いました。 ○新美班長 虐待による死亡であるから、移植ができないということはあまり強調すべき でないというご趣旨も踏まえて。 ○町野班員 児童虐待に限る必要はないのではないか。 ○新美班長 もう1つは、丸山先生の虐待死に、そんなに特別視する必要はないと。 ○丸山班員 だから、どちらにも考えられます。 ○新美班長 要するに、虐待した人が提供の意思決定に加わってはいけないということで すよね。 ○丸山班員 感情的にはそう思いますが、論理的にそうなのか。ドナーとなるのが負担と いう捉え方もあるし、アメリカだと最後の権利だと捉える見方もあるので、そうなると、 いじめ殺した人が提供しても、最後の手向けという捉え方もできるのかなとも思います。 ○新美班長 そうすると、社会的な背景が色濃く反映するということですかね。ほかに、 ご意見がありましたらお願いします。 ○峯村部長 いまの丸山先生の話の補足です。いま手元に資料がないですが、たしかアメ リカでは臓器の提供に際して、虐待児も含まれているという状態ではありますが、国会で の議論を振り返りますと、A案の附則5項もそうですが、D案、E案、修正A案も、共通す るところで虐待の問題については、キックオフでかなり問題意識を持って議論がされてき た。それが、なぜ、そういった虐待者からの提供を防がないといけないかというきちんと した理屈づけが必要だと思いますが、もう1つはそういった立法府を含めた国民的議論が なされた上での背景がある。我々事務方としては、それは非常に重く受け止めていますの で、補足の意味でそれだけを申し上げます。 ○新美班長 ほかにご意見はありますか。5、6に限定せずに、1〜6の全体を眺めてみて、 ご意見がありましたらよろしくお願いします。 ○町野班員 重く受け止めるのはもちろんそうですが、これは法律になっていますから、 否応無しには。全然レベルが違う。先ほどの知的障害等についても、もちろん国会で議論 は、これが出ましたら重く受け止めざるを得ないけれども、これは法律ではありませんか ら、私はかなりレベルが違うだろうと思います。 ○新美班長 これは無視することは一切できないと明定されています。全体をもう一度見 てみて、いかがでしょうか。あるいは論点として、こんなものも残っているのではないか というものがあれば、ご指摘いただきたいと思います。 ○宮本参考人 1つだけよろしいでしょうか。これはまだ結論がない、これからの議論だ ろうと思います。小児の拒否の意思をどこまで尊重するかに関してですが、それを云々す るというよりは、もしそれをある程度尊重するという方向で議論が進むときには、そのこ とはこの臓器提供に限定したことであることをどこかにわかるようにしていただければと 思います。と申しますのは、私はいま医療ネグレクトの指針作りを厚生科研でやっていま す。いちばん問題になるのは親が拒否するだけではなくて、子ども本人が医療を拒否する。 しかも、この場合はその医療をやることが、子どもにとって最大の利益になることが明ら かにもかかわらず、このとき医療は何も手を出せなくなるというのでは、唯一とは言いす ぎですが、小児科医はとにかく子どもの利益を最優先で考えますので、それで親とも対決 できるわけですが、そのときに子どもが向こう側になってしまわれると、ものすごく辛い です。そのときに、これが論点されるようなことはないような配慮をいただきたい。 ○町野班員 おそらく両者連動しないので、それはないだろうと思います。つまり、死亡 したあとに臓器を提供するかどうかの問題ですから、生きているうちに治療を拒絶するの と全然違いますから、これは全然連動しないだろうと思います。かなり連続的に考える傾 向はありますが、2つは全然違う問題で、例えば親が輸血を拒否して、子どもが輸血を拒 否する場合と、子どもが死後に臓器をあげたくないというのは死んだあとの問題ですから、 それは尊重していいだろう。これは、かなり違うだろうと思います。そこらが理屈として はっきりしていれば、そういう問題は起こらないと思います。 ○水野班員 さらに、児童の自己決定権、意見表明権については、民法の領域でも非常に 慎重な議論があります。児童の権利条約で自己決定権とか意見の表明権ということが書か れてしまいましたので、あれをストレートに非常にラフに適用して、例えばお父さんとお 母さんと、どちらと一緒に暮らしたいかということを子どもに聞いて、それで親権の移動 を決めるなどという議論が一部には民法学者でもすることがありますが、それは絶対にし てはいけないというのはむしろグローバルな考え方で、子どもの意見表明権より上位に来 るのが児童の利益です。子どもの福祉という観点から考えますと、子どもに親を選ばせる こと、聞くこと自体が児童虐待になる場合があり得るので、非常に慎重に考えなくてはな らないとされています。ですから、ここでも子どもの利益というのをより上位の概念にお いて議論をするということであれば、当然ネグレクトの場合と、このような臓器提供の場 合の拒絶の意思表明というのは違う話だというのは、自明なことになってくるだろうと思 います。 ○町野班員 要するに、小児についてもOKしなければ駄目だという、子どもの権利条約を 持ち出して議論したところに、かなり問題があっただろうと思います。しかも、子どもの 自己決定についても、自己決定一本ではなくて条約を見ればわかるとおり、その人の保護 のために、そしてその人の能力を考慮しながらやりなさいというのがあれなので、医療ネ グレクトのところではまさにそういう場面です。それなのに自己決定を持ち出して、しか も死後の臓器提供についてまで同じだという具合に議論する傾向があったことで、現在の 混乱が生じているのだろうと思います。 ○新美班長 いまの点は、非常に重い問題であると思います。自己決定というのは強く言 われますが、それが適切な自己決定であるかどうか。常に社会的な評価を受けて、これは 自己決定として認めましょうということが言われていますので、基本的には、いま言った 子ども権利条約を見ていても、きちんと裸の自己決定ということは言っていないと思いま す。ですから、必ず社会的な評価をスクリーニングをした上での自己決定と言っているの が多いと思います。  ほかにこんな論点、あるいはまだ論じ残したことがあれば少し時間がありますので、ご 発言いただけたらと思います。 ○本山班員 この作業班のマターではないかもしれませんが、先ほどの子どもの拒否の意 思表示に関しては、普及啓発活動をしていくということですよね。当然、その普及啓発活 動の中の1つの要素として、子どもについては拒否ができますよということをたぶん啓発 していくのだろうと思いますが、ただその前提としては、子どもに対して脳死臓器提供と いうのはこういうものであってという説明があった上で、もし脳死状態になったあとに、 あなたはこういったことを拒否することができますよと。その拒否については、然るべき 方法でその意思表示ができるみたいな形になっていくと思います。拒否が理解できるとい うことは、当然提供の趣旨もおそらく理解できることになるのではないかと思いますが、 そうした場合に、これはネットワークがそれを引き受けることになると思いますが、子ど もについては拒否だけを受け付けますといったシステムみたいなものをお考えになるとい う理解でよろしいのでしょうか。 ○新美班長 登録システム。 ○本山班員 登録システムみたいなもの。 ○新美班長 それは視野に入れているでしょうか。ちょっと難しいような気もしますが、 いかがですか。 ○辺見室長 子どもに特化した登録システムを構築するのかというのは1つの考え方かも しれませんが。 ○新美班長 拒否だけの登録は考えていらっしゃる。 ○辺見室長 現状の登録システムでも、拒否の登録はできますが、その年齢がいま15歳以 上となっていますので。 ○新美班長 その年齢を拒絶するのを外せばということですね。 ○辺見室長 はい。 ○新美班長 外すかどうかは、まだ検討はしていないですか。 ○辺見室長 はい。 ○町野班員 本山委員の趣旨というのは、提供の意思能力と拒絶の意思能力と同じはずで あるので、どうして拒絶だけを有効として扱って登録システムを作ったのか。 ○本山班員 そもそも論で言いますと、そういうことになってしまいます。 ○町野班員 ということなので、私は両方の能力が違うというのは前からの議論で、拒絶 の意思能力と同意の能力は、かなり違うだろう。通常の医療行為の場合について、このと き10歳ぐらいの子どもが風邪の注射をするのが嫌だと。そのときについて、うるさいとい って実際どこまでできるかは能力がないよということはできるだろうと思って、注射して もそれは構わないだろうと。しかし、10歳ぐらいの子どもが臓器移植の移植手術を受ける 意思表示をして、それが直ちに有効として扱って、親が何も言わないのに手術できるかと いうのは、そういうことではないだろうということで、両者は違う。だからこそ、いまの ような拒絶意思能力は低くてよくて、同意能力というかオプトインの能力は15歳でなけれ ば駄目だという議論が、初めて出てくるのだろうと思います。 ○本山班員 ただ、拒絶するためにはその前提として、それなりの情報が提供されなけれ ばいけないと思いますが、そういうことではないですか。 ○新美班長 いま言ったように、提供という事柄についての意思表示かどうかというピン ポイントにしたら、本山さんのおっしゃるもの。現状維持で構わない。何もしてくれるな ということだって、意思表示としてあり得るわけですよね。ですから対象が違うというこ とであったら、町野さんが言うように意思能力に要求されているレベルが違うということ はあり得るわけです。同じ問題についてイエス、ノーというのと、いま言った一般的に私 の体に触ってくれるなというのとでは、判断の対象が全然違うと思います。いまのままで いいという。これは、また追い追いと議論をしていくことになるかと思いますので、時間 が参りました。  今日は論点についてご自由にご議論いただいて、次回は今日いただいたご議論を基に、 もう少し具体化していくことになるかと思います。本日の議論は非常に面白かったし、次 回以降にとって有意義だったと思いますので、ここまでで一応止めておきたいと思います。  次回以降の日程について、事務局からご説明をお願いします。 ○長岡補佐 本日は長時間のご議論をありがとうございました。次回以降の日程について は、また各委員の日程を調整させていただきまして、決まり次第文書にてご連絡を差し上 げたいと思っています。お忙しいところ恐縮ですが、先生方におかれましてはまた日程の 確保をよろしくお願い申し上げます。本日は、ありがとうございました。 ○新美班長 それでは、今日は大変有意義なご議論をありがとうございました。今日の会 議はこれで終わりたいと思います。ご苦労さまでした。 【照会先】  厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室  代表 : 03(5253)1111  内線 : 2366 ・ 2365