09/12/16 平成21年度第1回雇用政策研究会議事録 第1回 雇用政策研究会(議事録)                      1 開催日時及び場所   開催日時:平成21年12月16日(水) 10時から12時まで   開催場所:厚生労働省・省議室(9階) 2 出席者   委 員:加藤委員、黒澤委員、玄田委員、小杉委員、駒村委員、佐藤委員、白木委員、諏訪委 員、清家委員、鶴委員、橋本委員、樋口委員、宮本委員、森永委員、山川委員   事務局:細川厚生労働副大臣、太田厚生労働審議官、森山職業安定局長、山田職業安定局次長、 前田労働基準局総務課長、井上職業能力開発局総務課長、田河雇用均等・児童家庭 局総務課長、伊奈川社会保障担当参事官、酒光労働政策担当参事官、宮川職業安定 局総務課長、小川雇用政策課長、里見雇用政策課企画官、平嶋雇用政策課長補佐  他 ○里見雇用政策課企画官 ただいまより第1回雇用政策研究会を開催いたします。委員の皆様にお かれましては、ご多忙の中お集まりいただきましてありがとうございます。まず本日ご出席の委員 をご紹介いたします。  明治大学政治経済学部の加藤久和委員。政策研究大学院大学の黒澤昌子委員。東京大学社会科学 研究所の玄田有史委員。労働政策研究・研修機構の小杉礼子委員。慶應義塾大学経済学部の駒村康 平委員は後ほどご出席と伺っています。東京大学社会科学研究所の佐藤博樹委員。早稲田大学政治 経済学術院の白木三秀委員。慶応義塾大学商学部の樋口美雄委員です。樋口委員には当研究会の座 長をお願いしております。法政大学大学院政策創造研究科の諏訪康雄委員。慶應義塾大学の清家篤 委員。経済産業研究所の鶴光太郎委員。学習院大学法学部の橋本陽子委員。北海道大学大学院法学 研究科の宮本太郎委員。獨協大学経済学部の森永卓郎委員は後ほどご出席と伺っています。慶応義 塾大学法科大学院の山川隆一委員。また、本日はご欠席されておりますが、獨協大学経済学部の阿 部正浩委員にも今回の研究会の委員をお願いしております。以上、16名の委員の皆様に今後議論 を深めていただきたいと存じます。  次に厚生労働省を代表して、細川副大臣からご挨拶申し上げます。 ○細川厚生労働副大臣 皆様おはようございます。ご紹介いただきました細川でございます。今日 は先生方、大変お忙しい中、雇用政策研究会にお集まりをいただきまして、ありがとうございます。 一言ご挨拶を申し上げます。  今、雇用・失業状況というのは、かつてないような大変厳しい状況が続いております。私も一昨 日、地元のハローワークへ視察に参りました。小さなハローワークですけれども、1日に1,000人 ぐらい来ている。あるいは求人倍率が0.3というような状況で、とりわけ若い人たちがたくさんみ えているという視察の状況でありまして、非常に深刻な状況で心配をいたしております。こういう 雇用・失業状況がさらに厳しい状況が続いていくのではないかと考えます。  今の状況の中で雇用の問題につきましては、非正規の人たちが多くなってきて、正規、非正規の 問題、あるいは若年労働者の問題、さらには派遣の問題とかいろいろな問題がこの不況とともにど っと顕在化してきたのではないかと思います。そこでこういった状況が顕在化してきたその中で、 こうした状況に至った背景としては、当然、世界的な市場経済におけるグローバル化、これに伴っ て、日本の企業の戦略が変更していった。その過程の中で雇用にも影響を与えてきた。その状況が 今度の不況の中で顕在化をしてきていると、こういうことだろうと思います。  そういうことで少子・高齢社会、とりわけ少子社会で人口減少状況になっている。そこで日本の 社会を持続可能な社会として、しっかりと構築をしていくためには、やはり雇用の問題をしっかり やっていかなければならないということで、これは先生方とも認識は共通かと思っております。  そういう中で、3カ月前に鳩山内閣が誕生いたしました。その3カ月の間に雇用の問題について もいろいろな方策は打ち出してまいりましたけれども、その中で全体を通じての雇用のあり方とい うのが、いまだ打ち出せない、そういう状況にございます。この鳩山政権で雇用のあり方というも のはどうあるべきかということを、先生方にご議論していただきたい。そしてご提案もいただきた いと思っております。  申すまでもありませんが雇用に関しては、まずは雇用の安定、企業の中あるいは労働市場の中で の雇用の安定ということが要請されます。また、労働条件がいかに公正に作られるか、あるいはま た働き方が非常に多様化していますから、これに対してどう、そのニーズに応えていくべきかと、 こういうことも一方では要請されると思います。  また一方では、企業が活性化する、経済が活性化する、そのことによって、雇用も存続するとい うか、維持されるというように、企業が駄目になれば当然雇用のほうも駄目になってまいりますか ら、そうしますと雇用と企業の活性化、経済の活性化と、どううまくかみ合わせて雇用のあり方を 考えていただくかと、こういうことになるのだと思います。雇用の問題はそれぞれの人生観といい ますか、社会観といいますか、それによっていろいろと異なってまいると思いますが、どうぞ日本 の持続可能な社会をしっかりと構築していくためには、雇用のあり方を先生方に是非日本社会で作 り上げていただきたいと切に思っているところでございます。どうぞ活発なご議論で、是非とも相 応しいあり方を、雇用のあり方をご提言いただければと思います。よろしくお願い申し上げまして、 ご挨拶といたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。  ○里見雇用政策課企画官 細川副大臣ありがとうございました。続きまして樋口座長からご挨拶い ただきます。 ○樋口座長 慶應大学の樋口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。雇用政策研究会、 2年振りの開催だというふうに私は思っておりますが、前回開かれたときには少子・高齢化社会を 目指して、特に誰もが意欲と能力が発揮できる。性や年齢にとらわれることなしに、誰もが活躍で きるような社会を構築していくというようなところから、例えばワーク・ライフ・バランスの問題 でありますとか、そういった問題を中心に議論をしてまいったかと思います。  前回の開かれた状況と足下の状況が大きく様変わりしておりまして、逆にむしろ失業問題という ことが、大きく考えていかなければならないテーマとして動いてきているかと思います。足下と将 来の間に非常に大きなギャップがある。足下においては人のほうが余っている。将来的には逆に労 働力人口は減少してくるだろうというようなことでありまして、この2つのパターンが通っていく 道というものを、いかに結びつけていくのか、いかに現状を打破し、そして将来、誰もが活躍でき る、活力に溢れた社会にしていくことができるのかというような、ある意味では雇用戦略がやはり 必要になってきているのかなと思います。  今回、皆様にお集まりいただきまして議論をするテーマも、足下の問題もあるでしょうし、また 中長期的な問題、これをいかに結びつけていくかと、そういうことで雇用戦略について、あるいは 人を中心とした産業社会の政策というようなことについて、ご議論をいただけたらと思っておりま す。セーフティネットの問題も大きな問題として浮上しておりますので、前回に増してこの点につ いても深い議論が進められればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○里見雇用政策課企画官 樋口座長ありがとうございました。カメラ撮影の報道関係者の方はここ でご退席願います。  それでは議事に入ります。今後の議事進行は座長にお願いいたします。 ○樋口座長 続いて議論をしていきたいと思いますが、今回当研究会で議論を行う上で、おそらく 論点になるであろう、あるいは今後の進め方についても、やはりいろいろな資料を用意していただ いたほうがよろしいのではないかというふうに思いましたので、事務局に用意していただいており ます。これにとらわれることなしに、広い視点からご議論をしていただきたいと思いますが、まず 最初にその点についてご説明いただけますでしょうか。  その前にいろいろ手続を議論しなければいけないのです。まず当研究会の開催要領及び議事の公 開についてということで、事務局から説明をお願いします。 ○平嶋雇用政策課長補佐 まず資料2の開催要領についてです。目的は先ほど副大臣のお話にもあ りましたが、さまざまな経済構造の変化の下で生じている雇用問題に関して、効果的な雇用政策の 実施に資するよう、先生方にお集まりいただきまして、現状の分析を行うとともに、雇用システム と対策についての考え方を整理するということです。  2.の(1)、職業安定局長の参集。3の(3)、議事については、別に申し合わせた場合を除き、公開 とする。原則公開としております。  資料3で議事の公開についてですが、座長により非公開が妥当であると判断をした場合には、非 公開ということで、例えば(1)個人に関する情報を保護する必要があるような場合。あるいは(2)の公 開することで率直な意見交換や意思決定の中立性が損なわれる、というようなことがあるような場 合には非公開としますが、原則公開ということにさせていただきます。 ○樋口座長 ただいまの説明につきまして、ご質問ご意見がございましたらお願いいたします。こ のような方法で進めさせていただいてよろしいでしょうか。                  (異議なし) ○樋口座長 ありがとうございます。ではそのようにさせていただきます。続きまして、今回当研 究会議論を行う論点及び今後の進め方について、関連の資料も含めて事務局から説明をお願いいた します。 ○平嶋雇用政策課長補佐 まず論点ですが、資料4です。まず現状の認識としましては、繰り返し になりますが、市場経済の深化・グローバル化といったことが企業経営に変化を与えて雇用システ ムが変化している。これが経済危機の中で問題が顕在化してきている。例えば人口減少社会に入っ ていますが、それらへの対応を含めて社会を持続可能にするために、雇用システムはどうあるべき かということです。  その検討に当たっては雇用の安定・公正さ・多様性ということと、経済的効率性が好循環をする ような対策はないかということで、現状把握と考え方の整理が必要だと思っています。  2.の今後の方向性ですが、こういった現状認識に対して、今後5年程度の間に重点的に実施すべ き雇用政策の方向性について検討をいただきたいと思っています。検討の内容は、雇用政策基本方 針に反映していきたいと思っています。1つはあるべき雇用システムに向けての環境整備です。こ れは雇用システムが技術的にどううまく回るかということ、それから(2)は積極的な雇用政策の活用 による就労促進とセーフティネットの整備としておりますが、政府が積極的な労働市場政策、ある いはセーフティネットを通じて、どう役割を果たしていくかという大きな括りにしています。  (1)の中味としましては、例えば正規・非正規のあり方、福祉に係る雇用管理、最低賃金。それか らワーク・ライフ・バランスというものを環境整備としては考えています。(2)は若者・女性・高齢 者・障害者に対する就労支援。それから雇用保険の機能強化、人材育成、セーフティネットという ようなものも入ると思っています。  ※に書いていますが、「社会の再生産」を可能とする「持続可能な雇用」を生み出せる産業構造、 経済システムのあり方についても、議論を深めるべきではないかということで、よい雇用を生み出 していく産業、中にはNPOといったようなものも入ってくるかと思います。それから消費者への サービスの提供のあり方、24時間営業とか、かなりその労働のほうにしわ寄せがきているのでは ないか。あるいは労働法の関係で税や社会保障のあり方というようなことについても議論できるの ではないかと思います。  資料5、スケジュールについてです。本日第1回目ですが、2回、3回、4回と雇用システムあ るいはセーフティネットについて、議論をしていきたいと思っています。次回1月は労使、有識者 の方等もお招きして、ヒアリングを交えて行いたいと思っています。5回目が先ほどのさまざまな 働き方に対する就労促進ですとか、働き方の見直し。4月第6回ですが、今後の産業構造の変化と 雇用者の伸びが期待できる分野。第7回で労働市場から見た産業社会のあり方ということで、6月 を目処にとりまとめをお願いできればと考えています。  資料6ですが、4頁、GDPの推移と寄与度、GDPは2008年前半から減少しておりましてマイ ナス成長ということです。特に右側になりますが、2008年のリーマンショック以降は落ち込みが 顕著で、当初、外需から落ち込んでいる。足下は外需のほうから少し回復しているということです。  5頁がGDPギャップの推移ですが、今回急激な落ち込みということが見えます。このいちばん 底のところはマイナス7.9ということで、ピークの08年第1四半期の1.4から9.3ポイント下落 したということです。  6頁の株価と円相場の動きです。景気後退期に入りまして、株価は大きく落ち込みまして、まだ 低水準。それから対ドル円レートにつきましては、リーマンショック以降、円高が急速に進みまし て、現在も円高基調で推移している。  7頁、これはグローバル化の市場ですが、輸出・輸入とも増加傾向で推移しております。それか ら、対外直接投資については、ちょうど05年ぐらいからですが急増している。8頁の株式所有構 造の変動ですが、銀行・事業法人間の相互持合い関係の解消を背景としまして、インサイダーから アウトサイダー中心に転換している。外国人というのはアウトサイダーの内数ですが、この外国人 の伸びにしたがって、アウトサイダーの割合が上がってきているということです。9頁、鉱工業生 産指数・日銀短観で、鉱工業生産指数、去年前半は110ぐらいで推移していましたが、一気に70 程度まで40ポイント急落しています。その後20ポイント弱戻した状況です。業況判断のほうは 製造業を中心に、足下では青の大企業製造業は回復感があるが、中小企業のほうは低水準でありま す。  10頁、賃金と物価の動向です。物価が青ですが、90年代の半ばまでは物価の上昇よりも赤の給 与総額の伸びのほうが角度が急だったということですが、その後、物価は安定しまして、賃金は減 少している。これは相当程度非正規比率の上昇が影響していると思います。それから雇用者報酬の 推移ですが、97年ぐらいまではおおむね増加傾向にありましたが、以降は横ばいになっています。  12頁、売上高・経常利益が大きく減少していまして、ことに経常利益は紫ですが、バブル崩壊 時をしのぐ低水準となっている。経常利益率は直近の景気回復局面で大きく上昇しましたが、その 後下降幅も大きく、バブル崩壊時より低水準となっています。それを規模別に見たのが13頁です。 大企業の経常利益率は景気拡張局面で上昇して、中小企業との差が大きく広がりましたが、景気後 退期においては、非常に大きく低下している。それから資本金1,000万円以下の零細企業について は、近年ほとんど1%未満で推移している。労働生産性の伸び率の推移、これは実質GDPを就業 者数と労働時間数の掛け算で割ったものですが、生産性の伸びは近年低水準で推移している。  15頁、国際比較です。これは就業者数で、時間は加味せずに就業者数だけで割ったものですが、 OECD加盟30カ国中20位という低い水準にあります。その上昇率も1.8%でOECD平均2%よ りも低い水準になっています。  16頁、規模別の労働分配率の推移。労働分配率は、景気回復局面では低下するものではありま すが、後退局面に入りまして上昇している。特に大企業で上昇が大きいということです。  17頁、企業の新任役員に対するアンケートで、「だれの利益を最重視するか」という質問です。 これを見ますと、近年「株主」と答える企業新任役員が低下している一方で、「従業員」とする回 答が増加している。これは2006年にちょっと断層がありまして、このころちょうど「ライブドア 事件」とか、「村上ファンド事件」がありました。それから、今回の不況をみてまた株主というの が一段落ちているという状況です。  18頁、ヒット商品のライフサイクル、これは企業に売れ筋商品がどれぐらい長持したかという アンケートをしたものです。70年代、80年代は5年以上というのが5割、6割だったわけですが、 近年は1年未満というのが2割程度。2年未満を合わせると逆にこの半分が短いほうになっていま す。  20頁、「社会の変化」です。人口のほうは2004年にピークを迎えて、減少局面に入っている。 2055年には9,000万人を割り込んで高齢化率は40%を超えるということです。高齢化率は40% を超えますので、生産年齢人口はその人口以上に減少しまして、2008年の8,230万人から4,595 万人に減少するということです。  21頁、少子化の進行と人口減少社会ということで、合計特殊出生率が2005年に1.26。このと ころは若干増えていますが、2008年でも1.37ということです。  22頁、労働力人口の見通しで、これは前回の研究会で検討していただいたものですが、労働力 人口、いまの労働力率を前提にすれば、2030年、1,000万人の減少ということですが、各種対策 でそれを半分程度に抑えようということです。  23頁、共働き世帯の推移で、90年代を境に共働きのほうが増えているという状況です。  24頁、大学への進学率、50%程度まで上がってきていますが、就職率は以前よりも低いという ことです。  25頁、世帯の所得分布、この青が直近になりますが、収入が少ない世帯が増加して、全体に左 が高いようなグラフになってきています。  26頁、労働者ベースです。世帯と同じような傾向でジニ係数も上がっているということです。  27頁、目指すべき社会の姿です。足下は「自由競争社会」を目指すか、「平等社会」を目指すか ですが、「平等社会」が増えてきているということです。  29頁、雇用情勢、就業構造の変化です。全体的には自営業者と正社員が減って、非正規が増え ていますが、特に自営業者の減少が大きい。それから産業別就業者の割合の推移です。「農業、林 業、漁業」と「製造業」が低下傾向にある一方で、サービス業が上昇傾向にあります。いわゆる一 次、二次産業は、製造業までですが、3割程度まで減少しているということです。  31頁、労働費用総額です。98年をピークに減少傾向になります。中でも現金給与額の割合が低 下しています。  32頁、労働時間は所定内、所定外ともに減少しています。しかしながら、33頁で、週の労働時 間が60時間以上の者は、若干減少していますが、子育て世代であります30代男性については、 依然として高い水準ということで、20%程度になっています。勤続年数ですが、おおむね40代ぐ らいまでは、勤続年数は減少傾向にありますが、55歳以上は長くなってきています。非正規雇用 者増加の社会的影響です。OJT、特にOff‐JTのほうで正規労働者との差が大きいということです。 有配偶者の占める割合についても、いちばん右のグラフですが、30〜34歳層で見ますと、正規は 6割ぐらいの方が結婚しているのに対して、非正規は3割程度にとどまっている。  36頁、雇用情勢、ご承知のように今回、7月に5.7%、過去最高を記録して、依然高水準の失業 率になっています。有効求人倍率も過去最低を更新したということです。  37頁、正規・非正規の雇用者の増減を前年差でみたものです。これまでの景気後退局面では、 これまで2回ですが、正規は減少しているのに対して、一方で非正規は増えているという状況があ りましたが、今回は正規・非正規ともに減少した。特にリーマンショック以降は非正規雇用者の減 少幅が大きかったということです。  38頁、職種別労働者の過不足状況D.I.ということで、07年、08年は不足が大きかったわけで すが、09年は過剰になりまして、特に技能工、単純工などの製造分野の過剰が大きかったという ことです。  雇用調整の実施方法別事業所割合ということで、派遣労働者、そのほかの非正規労働者の再契約 停止、解雇、それから希望退職者の募集解雇、これは主に正社員が中心になるかと思われますが、 今回、派遣やその他の非正規の部分が大きかった。雇用調整速度の変化ということで、これは全産 業活動指数と賃金と、前期の雇用者数から雇用調整速度を試算しているものですが、今回は前回、 前々回の景気後退局面に比べると、生産活動の低下に比べると、雇用調整は少なかった、そのスピ ードは遅かったという数字が出ています。  41頁、雇用者数と実質賃金の変化を前回のIT不況と今回の不況で比べていますが、赤が雇用者 の減少で、青が一人当たりの実質賃金です。前回に比べると今回は青の部分のほうが目立っている のではないかということで、実質賃金の減少のほうが相対的に見て顕著であったろうと思っていま す。  42頁、長期雇用についての考え方です。右側で終身雇用に対する評価、個人ベースで「よいこ とだと思う」が合わせて86%です。企業のほうでも、原則としてはこれから終身雇用を実施して いくというのが、5,000人以上の大企業では8割を超えています。  資料7をかいつまんでご説明します。1頁の今回の緊急経済対策の主な項目ですが、1番の雇用 調整助成金の要件の緩和を改めて行っている。貧困・困窮者支援の強化ということで、ワンストッ プのサービスだとか、職業訓練と生活保障を行う求職者支援制度の検討を行っています。3番で新 卒者支援の強化、4番の緊急雇用創造、特に重点分野で介護・医療・農林・環境といったこと。そ れから地域社会雇用創造事業の創設といったことが盛り込まれています。  4頁、三党連立政権合意にある項目です。6番の雇用対策の強化で、派遣の保護、求職者支援制 度の創設、最低賃金の引き上げ、男女間、正規・非正規間の均等待遇ということが書いてあります。  5頁が、民主党のマニフェストです。手当つきの職業訓練制度、雇用保険の全労働者への適用、 製造派遣の原則禁止と、最低賃金の引き上げ、均等待遇ということです。以上簡単でございますが、 資料の説明です。 ○樋口座長 ありがとうございました。それでは議論に入りたいと思いますが、少し補足をさせて いただきたいと思います。資料4でこれが今回の論議していただくものになっていますが、これま での雇用政策研究会は、主に上のほうの現状の認識ということで、例えば企業や社会を取り巻く環 境の変化が、どのような状況を労働市場にもたらしてきたかということを中心に議論をし、そして、 そこにおけるその政策のあり方ということについて、我々提言をしてきたと思います。  今回それが重要であることは間違いないわけですが、特に「今後の方向性」に書いてあります※ のところも、少し視野に入れたらどうかなということを考えています。例えば従来は環境が変わる ことによって、雇用形態の多様化というものが進展してきた。いうならば労働市場がある意味では 受皿といいますか、影響を受ける側であったわけですが、もう1つ、むしろ社会の再生産を可能と する、持続可能な雇用を生み出せる社会のあり方とか、あるいは産業構造、経済システムのあり方 についても、議論を深めてはどうかということを事務局と相談しながら考えてまいりました。  そこにおきましては、当然雇用形態の多様化に対して、どういう政策を打つかも重要なわけです が、さらにセーフティネットのあり方、さらには企業だけではなく、例えばNPOであるとか、あ るいは社会的企業であるとか、そういったものを含めて、社会としてこの安定した雇用情勢をいか にして作り出すか。そして、経済的効率と雇用の安定、公正性を担保するためにはどうあるべきな のかという、少し広い視野からご議論いただけたらと、社会保障制度についても、そういったこと があるかと思いますが、そういったところに議論も及べばよろしいのではないかと思って用意して いただきました。早速議論に入りますが、まず最初、清家さんからお願いいたします。 ○清家委員 最初に樋口さんが言われた中長期の課題と足下の雇用情勢にギャップがあるという のは、私もそのとおりであると思っていまして、ここのところが1つ、今回特に議論をする際に注 意していかなければいけないところだろうと思います。  実は中長期の課題と短期の課題というのははっきりしているわけです。つまり中長期においては 少子高齢化の下で、高齢者や女性の雇用を促進しなければいけない。そしていま能力が十分に身に ついていない可能性がある若者の能力開発をしていかないと、人的資源が空洞化してしまう。した がってもう中長期のこの課題は一般論としては、もう既にこれまでさんざん議論をしているわけで、 そこのところはもうかなり明らかになっていると思います。  実は短期の雇用についても、対策はもうはっきりしているわけです。これは皆様に釈迦に説法で すが、雇用というのは生産からの派生需要ですから、生産が回復しないかぎり、雇用問題の本格的 な回復というのはあり得ない。そういう面では経済対策でありとか、あるいは産業政策と一体とな っていない雇用政策というのは、求人政策ではあり得ても、雇用政策ではあり得ないわけですから、 そういう意味では短期の雇用政策についても、1つはもちろん生産が回復するまでのセーフティネ ットをどうするかということと、もう1つはいうまでもなくその生産をいかに回復するかというこ とに尽きるかと思います。   したがって、考えなければいけないポイントは、その中で中長期の課題と短期の課題の間の接点を どのように持っていくか、ということで、1つはやはり若年の、特に非正規で働いてこられたよう な方々に対する能力開発の問題だと思います。これはある面で言えば、ピンチをチャンスに変える といいますか、いままで展望の見えない、能力開発が十分に行われないような非正規の仕事で忙し く働いていたような人たちが、雇用を失うことは厳しいわけですが、一時そういう雇用がなくなっ て、所得保障が何らかの形でそれらの人々に提供されるのであれば、所得保障を受けながら、しっ かりと能力開発をする機会を得る。あるいはそういうプログラムを提供することで、特に非正規雇 用で働いている人たちの、特にその中でも若者でいままで十分に能力開発がされていなかった人た ちに対する能力開発を行うチャンスに変えることが、1つの中長期の課題と短期の対策の接点にな り得るところだと思います。  もう1つは私が前から関心をもっていたところですが、諏訪先生が苦労されて高年齢者雇用安定 法を改正されまして、これは本当にシグニフィカントな効果があって、60代の前半の高齢者の就 業率が、本当に有意に高まったわけなのですが、そういう意味で今回の改正は意味があったと思い ます。実はこれも釈迦に説法ですが、2013年になりますと、61歳の人が基礎年金も報酬比例部分 も両方もらえない状態が出てくるわけです。つまり、1階も2階も両方の部分の年金がない。いま までは年金の支給開始年齢引き上げとはいっても、基礎年金の部分のところが最終的に65歳にな るということで、報酬比例部分は出ていましたので、継続雇用というの形でよかったのかもしれま せんが、いざ、2013年に1階部分も2階部分も年金がもらえない人が61歳で出てきたときに、 本当にいまの不安定な継続雇用制度のルールのままでいいのかどうかというのは、早急に考える必 要があると私は思います。  その割には皆さんのんびりしているというか、行政はどうなのかはわかりませんが、2013年と いうとあと4年後なわけですが、その前に労使でルールを決めておかなければいけません。本当に 61歳の人が年金1階も2階もないままで、現在の65歳までは確かに雇用を確保する措置を講じる 義務はあるかもしれませんが、しかし、必ずしも本格的な定年延長でなくてもいいと、継続雇用で もいいし、なおかつ継続雇用の対象が現在のところは、一定の基準を設けて、継続雇用の対象にす るのでもいいというままで、本当にいいのかどうか。私はこの辺はもう少し危機感というか、スピ ード感をもって労使で議論をしてもらったほうがいい問題ではないかと。これも中長期的な課題と 足下の、これは直接現在の雇用情勢と関係しているわけではありませんが、スケジュールをしっか りと定めてやらなければいけない課題との接点のところかなというふうに思っています。  最後に、雇用は生産からの派生需要ということと同時に、一方で雇用のあり方が生産活動、ある いは社会のありようを変えるということが、特に少子化の問題等のところでもあるわけです。単な る受身ではなくて、広い意味での積極的雇用政策といいますか、雇用のあり方を見直すことで、社 会のあるべき姿を考えていくことも、雇用政策研究会の視野に入れるという座長のお考えは、私も 大賛成ですので、そのような形で議論をしていって頂ければいいのかなと思います。   ○樋口座長 ありがとうございます。ほかにどなたでも。 ○佐藤委員 2つあるのですが、1つは安定した雇用が作られ、それが維持されるような社会を目 指すときに、安定な雇用は何かというのをもう一度議論をしておいたほうがいいだろう。1つは正 社員化という議論があるわけですが、従来型の正社員化というのが今後も可能なのかということで、 やはり企業経営を考えたときに、先ほどもご報告がありましたように、企業環境はいまどういう状 況かというと、1つはマーケットについては変化も急で予測がつかない。技術構造についても同じ です。技術構造も変化が続き、どう変化するかわからない。つまり、企業経営としては将来につい て予測しにくいという状況におかれています。  そういう中で雇用を考えるときに、従来の正社員は企業が人的資源投資を行い、長期に雇用をす るという正社員であったわけですが、確かにこれがいわゆる従来型の正社員、企業が人的資源投資 をし、長期に雇用するという人材が企業経営の競争力の基盤であることは今後も間違いないと思う のですが、それはやはり、どうしても企業としては絞り込まざるを得ないだろう。絞り込んでかつ そういう人については、企業環境が変化するわけですから、常にその変化に適応できるような能力 が求められるわけです。つまり、企業が能力開発をし、働く人たちも常に新しい仕事に取り組める ような能力に、ある面では柔軟な能力が転換していくような、フレキシビリティな能力を求めざる を得ないという状況があるのです。そうすると企業はやはり絞り込む。  もう1つは従来型の正社員というのは、そういう意味で企業からすれば長期に雇用をする以上、 よりフレキシブルな働き方を求めるわけですから、それは働く人からすると、ある面では、ワーク・ ライフ・バランス上非常に問題。いつでも仕事を代わってください、忙しければ残業をしてくださ い、あるいは転勤してという。それはワーク・ライフ・バランス上、働く人にとっても、あまり望 ましい働き方ではないわけです。企業経営上そういう人材は必要ですし、またそういう働き方がい いという人もいるわけですが、企業としては絞り込まなければいけないし、多くの働く人にとって 望ましい働き方かというと、実はそうでもない。  そうすると、安定した雇用のあり方を考えたときに、たぶん従来型の正社員を増やせというのは、 企業経営の面からも無理ですし、働く人からとってもそれほど望ましいことではないのだろうと思 うのです。もちろん非正規を増やせという意味ではないのですが、つまり、有期の人が増えたり派 遣の人が増えたり、この人たちの安定した雇用を考えたときに、その安定した雇用イコール従来型 の正社員だという議論というのは、なかなか難しいのではないか。ですから従来型の正社員は縮小 していく。そういう中でどうして安定雇用を作っていくのかということを考える必要があるだろう と思います。  例えば非正規の人が増えている、有期雇用の人が増えているという議論はあるわけですが、有期 契約だけど事実上、こういう不況下でも契約更新されている人がたくさんいるわけです。ですから、 結果として継続雇用されている人たちがいる。つまり企業からテンポラリーに使いたいという人が 増えているわけではなくて、業務を限定で有期だけど長く活用している。けれども従来型の正社員 にできないという、この構造をどう変えていくかということが、すごく大事なのかなというふうに 思っています。  そういう意味で中長期の課題がある程度議論されたと清家さんが言われたのですが、正社員のあ り方をどう考えるか、安定雇用をどう考えるかということは、実はあまりきちんと議論されていな いのかなと思いますので、できればそこを少し考えることが必要かなと思います。  もう1つは、セーフティネットとのかかわりなのですが、例えば雇用保険の適用対象などが変わ りました。問題なのはセーフティネットの仕組みはかなり変えてきたが、それの担い手。つまり、 雇用保険の適用対象が1カ月ということになると、雇用保険の手続の業務量がすごく増えます。企 業だけではなくて、これを受け付ける職安の所ですね。たぶんその認定の手続も増えます。つまり 制度上セーフティネットを作っても、そのセーフティネットを支える人たちが、きちんとそのサー ビスを適用できるかというと、その点はほとんど議論されていない。  ですから、例えば雇用保険の適用対象事業所を増やせとか、きちんと捕捉しろというのですが、 では、捕捉できるだけの人がいるのか。ですからセーフティネットを張ったときにそのセーフティ ネットを支えられる人材が、例えば職安なり基準監督署にいるのか。例えば短期的にいえば、雇用 保険の適用拡大と言ったときに、今回増えてくる事務作業量、実際どうなるかわからないような状 況だと。適用のところも結構難しくなるということもあると思います。私は短期的にセーフティネ ットを増やしたと同時に、そのセーフティネットがきちんと提供されるには、それを支える人材を 増やさざるを得ないだろう。それはほとんど議論されていないので、そのことも短期的には議論し ていただければと思います。  今回、派遣法改正の議論はありますが、労働者保護の点から改正しなければいけないと思うので す。私個人的に研究者としては、製造業派遣禁止は望ましいとは思っていないのですが、法改正さ れたあと、労働力需給調整をどうするのか。それは例えば短期派遣禁止だとすると、短期の職業紹 介でやるのかということを、きちんと法改正が進んだときに労働力の需給調整をどうするのかとい うことは、法改正がすんだ後の対応について、いい悪いは別として、きちんと議論をしておく必要 があるかなと思います。 ○玄田委員 佐藤さんの議論に関連して少し述べさせていただきたいのですが、去年から大変なシ ョックになって、いろいろな予測だといまごろは失業率が8%とか、10%とかいう予測が比較的多 かったように思うのです。現下は5%前半という水準にあるということの意味を改めて考えたとき に、1つはおそらく雇用調整助成金を今年の春の段階でかなり積極的に厚生労働省が決断して、大 幅に導入したことの意義は少なからず認めていかなければならないだろうと思っています。  経済学者は大体雇用調整助成金はとても嫌いで、産業構造の転換を疎外するものだということで、 非常に否定的な考えの人が多いのです。そう考えてみたとき、今回の異常事態に対しては、やはり こういう助成金の措置が必要だということを改めて問いかけたのかもしれません。  もう1つはやや乱暴な意見になりますが、もしかしたら日本の雇用システムというのはそんなに 柔ではないのかもしれない。それを支える労働者とか企業というのは、実際にはそんなに弱くなく て、いろいろな経験の中で強くなっているかもしれない。  中村圭介氏の主張ですが、雇用システムというのは、大体15年周期で危機が訴えられるという 説があって、1960年代初等の資本の自由化とか、貿易の自由化のときもシステムは崩壊と言われ たし、オイルショックの70年代前半にも崩壊と言われた。それからバブル経済がはじけても崩壊 と言われた。毎回崩壊と必ず言われて、約15年後の2000年の半ばにまた崩壊と言われた。たぶ ん今度は2020年ぐらいにまた崩壊ときっと言われる。その度ごとに、中村氏の言葉で言えば、や はり変化に対するモードチェンジを繰り返してきた。根幹としてはおそらく人を大切にするという 部分を維持しながらモードチェンジをしてきたという、日本の雇用システムの強かさということは、 ある部分自信をもって議論をしていくべきではないか。それは別な言い方をすれば、労働市場、経 済全体に起こっている変化をきちんと見て、それに応じた政策を考えていかないと、政策の効果は なかなか出ていかない。  では、どう見るかというときに、1つはあまり常識に思われているものをある種疑って見て、本 当にどういう変化が起こっているかということをきちんと見ていくべきではないか。そういう意味 で私は佐藤さんの後に発言したいと思ったのは、今回の雇用システムの変化を考えるときに、やは り非正規雇用の問題が最も大きな課題であることは間違いないと思うのですが、私なりの言い方を すれば、従来型の非正社員と従来型の正社員の間の中間形態的な働き方がいま生まれつつあるし、 その部分というのはかなり層が広がってきていると私は捉えています。必要であれば後日エビデン スをお見せしますが、正社員でもない、非正社員でもない、中間的な働き方が増えている。  具体的にはどういうことかというと、特に何もないときに関してはあたかも正社員のような安定 的な働き方をしている。しかし今回のリーマンショックのようなことが起こった、異常事態に対し ては柔軟な雇用調整の対象となり得るような、そういう働き方がいま増えてきているし、これから 増えていかざるを得ないだろうと思っています。  それに対しては2つの意味で積極的な評価をしたいと思っていて、通常時は安定ですから、その 人の場合は異常時ではない限り、OJTを通じて、企業内で自分なりに能力開発ができる可能性が ある。もう1つは比較的年齢や性別や学歴に問われない。これからおそらくそういう中間的な働き 方には新卒者が入らざるを得ませんし、定年退職の後の人たちも、おそらくその中間的な働き方を する。学歴もそうですし、性別も関係がない。その部分に対しては、これからそこをどう捉えてい くべきかということの議論があると思います。  そう考えたとき重要になってくるのは、では異常時って何だということに対する社会的な合意と、 異常時に対する体制づくりが問われてくる。今回リーマンショックを言われましたが、たぶん5 年ぐらいの間にまた大きなショックが起こる。間違いなく必ず異常事態が起こる。それがどこから くるかはあえて申し上げませんが、かなり近くからくるだろう。そういう異常事態に対して、どう いう体制をとるのかということが、いまの段階で問われているのではないか。  考えられるのは3つぐらいあって、今回ある意味で不幸だったのは、労働契約法という法律がで きて素晴らしくよかったと思いますが、17条の、「やむを得ない事由」に対する社会的な合意がな いままに、事態が起こってしまいましたから、雇止めのような混乱が大きく起こってしまった。そ うすると「やむを得ない事由」というのはどういうことかということを、社会的に合意をつくって いくための方向がたぶん問われなければならない。  2つ目はそういう異常事態が起こったときに、雇用調整の重要な対象になるわけですから、おそ らく正社員に先駆けて非正社員の解雇に対しては、金銭賠償のあり方がまず具体的に議論されなけ ればならないだろう。今回明らかになった、非正社員が解雇になった場合には生活というものが直 結してきますから、生活に必要なのは金銭だとした場合に、金銭賠償の可能性は正社員より先駆け て議論する必要があるのではないか。  もう1つ最後に申し上げると、非正規社員の雇用が多様化しているので、やむを得ない事態とい うのは完全に社会的な合意ができなくて、ある部分個別の合意づくりが必要だとしたときに、やは り非正規社員があらゆる事態が起こったときに、そういうトラブルに対する相談体制をいかに整備 していくか、いまの総合労働相談コーナーのあり方を、場合によってはもっと強化していく必要が あるのかもしれない。  そういう意味で一言だけ申し上げると、いまこれだけの非正規社員の問題を考えたときに、かつ てAlbert O. Hirschmanが、“Exit,Voice,and Loyalty”という本を書いたように、いまExitのあ り方に非正規社員のVoiceをどういうふうに社会全体で汲み上げて社会のルールづくりに反映させ ていくかということが、新しい、非正規社員でもない正社員でもない中間的な雇用形態が広がって いる労働市場を意識したシステムづくりでは重要になっているような印象をもっています。以上で す。 ○樋口座長 ありがとうございました。そのうち是非おっしゃったエビデンスをご紹介いただけれ ばと思います。 ○加藤委員 3点ほど簡単に申し上げたいと思います。1つは先ほど座長がおっしゃった中期と短 期とのつなぎ方の問題だと思うのですが、ご存じのように最近の高卒者の内定率が滅茶苦茶低くな ってしまった。大卒においても新規の就職というのは非常に厳しくなってきています。もし、この 人たちが十分なサポートがないと、以前にあったような氷河期時代を迎えてしまうということがあ ると思います。ここでもし、短期的な施策をもう少し。雇用調整助成金というのは難しいでしょう が、例えば内定者に対する何らかの、より一歩の単純な支援をすることによって、彼らに人的資本 を蓄積させるためのチャンスを与えていかないと、長期的に非常に厳しいものだろうと思っていま す。  すなわち、中長期的に見る場合には、生産性あるいは供給面の問題が非常に重要になってくると 思うのです。もし生産性が十分に形成されない若者層が増えることは、持続可能な社会を維持する ことが、とても難しくなってくるのではないかと思っています。   同時に、これは樋口先生のご研究にもあるように、非正規、あるいは就職が困難だった若者と いうのは、結婚や出産の時期が遅れていきますので、さらに少子化に対する1つの大きな要因にな っていくのではないのだろうか。  2つ目は、セーフティネットをどう考えるかです。いままでは雇用保険のことがセーフティネッ トと言われておりますが、民主党のマニフェストの中にもありますように、最低賃金をどうするの かということもありますし、給付付き税額控除の問題もあります。最低賃金、給付付き税額控除と いったセーフティネットをどのようにバランスして考えていくのか。それが、雇用の世界の中にお けるセーフティネットとして、雇用保険とどのような役割分担をしていくのかというのは非常に重 要だろうと思います。少なくとも、最低賃金を単純に上げることによって、Card and Kruegerが 言うように、そんなに影響はないとは個人的には思えないですので、セーフティネットを上げるこ とによる、失業への影響ということ自体とのトレードオフの問題も考えていくべきだろうと思いま す。  3つ目は、先ほど清家先生がおっしゃったように年金の問題も非常に重要だと思います。いまは 65歳ですが、たぶん年金等々の議論をしていく中では、残りの年金改革をさらに何かやろうとす ると、やはり支給開始年齢をさらに引き上げるということが視野に入ってくる可能性もあると思い ます。そのときに67歳、70歳になった段階を考えると、60歳代の働き方を抜本的に考えていか ないと、単に継続雇用の問題だけではなくて、先ほど清家先生がおっしゃったように、そこは抜本 的に10歳代の大きなタームの中で考えていく必要があるのではないかと思います。 ○鶴委員 先ほどからお話がありますように、短期と中長期をどうつなぐのか。今回は特に現状認 識のところで事務局から説明がありましたように、大きな経済環境の変化、特に企業経営の変化と いうのが、2年前にここで議論したときよりもそこに重点が当たっていると思います。このように 雇用情勢が非常に悪い時期、緊急的にやらなければいけないことを山積みにしているわけですけれ ども、中長期的な対応を考えると、これまで過去15〜20年ぐらい続いてきた、経済全体の大きな 流れで何が起こっているのかをもう一回見直してみないと、中長期的なことはなかなか考えられな いです。  1点目は、先ほど佐藤先生がおっしゃられた不確実性の問題がいちばん大きいと思っています。 1980年代までは高い成長、安定した成長の中で、日本的雇用システムが機能しやすいような状況 にありました。それが、不確実性が増大してくると、企業もなるべく労働等にもいろいろバッファ ーを積み上げる必要が出てきます。労働時間を長目に取って、ある程度そこで調整する。なるべく 有期雇用を雇って、そこで数量の調整をするような状況が出てきたのだと思います。  このような状況というのは、大きな経済環境の変化の中で起こってきているので、それをけしか らんではないかという話の中だけで議論してしまうと、企業のほうも非常に厳しいところに追い込 まれています。年功賃金型の後払い式の賃金というのは非常に難しくなっています。これというの は、企業の中で所得配分をやっていたのですが、それを企業が、いまやなかなかできなくなってい る状況を見ると、昔に比べてそのような所得の配分についてもう少し政府の役割をやらざるを得な い、というのは大きな流れだと思っています。  申し上げたいのは、いまは企業側も非常に厳しい状況にありますし、労働者側も非常に厳しい状 況にあります。ただ、ここでどちら側かに寄りすぎた政策をやると、必ず自分のほうへしっぺ返し があります。だから、企業のほうもいまはこういう厳しい状況だからどんどん有期雇用を増やそう ということをやりすぎると、結局企業の生産性は下がってきます。こういうのは欧米の実証分析で も明らかになっています。労働者側には、最低賃金をどんどん上げればいいという議論があるかも しれませんけれども、それで企業のほうが苦しくなれば、最後は雇用調整という数量ベースで労働 者が影響を受けてしまいます。この辺のバランスをどのように考えていくのかというのは、この研 究会でもものすごく重要なポイントになってきます。労使の間だけの議論で、単に妥協というよう なことだけでは済まされない問題というのは、いま我々が考えていかなければいけない部分ではな いかと思っています。 ○森永委員 私は、基本的な考え方が皆さんとは大きく異なります。今回のリーマンショック以降 の雇用・失業情勢を見ると、過去最悪の状態を迎えたことは間違いないわけです。なぜそれが起こ ったのかということです。私は、労働省が1990年代からとってきた、円滑な労働移動という基本 政策自体が間違っていたのだと思うのです。いままで、雇用調整助成金をメインにして、クビにし ないでくださいという政策をとってきたのだけれども、産業構造がどんどん変わっていくから、企 業はクビにしてもいいですよと。その代わり政府として一生懸命職業能力開発や職業情報の提供を 進めていきましょうという政策をとってきました。デンマークがやっているフレックスセキュリテ ィという政策と基本的な考え方は一緒なのだと思うのです。  その結果何が起こったのかということです。OECDが雇用者保護の指標を出しています。これは 2008年の正社員についてのデータとして、アメリカは0.17、デンマークは1.63、日本は1.87、 オランダは2.72ということでドイツとかフランスとかヨーロッパの国に近い非常に雇用者保護が 強い国です。2007年に何が起こったかというと、これはリーマンショック前ですけれども、デン マークの失業率は3.8%、オランダが3.2%で並んでいました。今年の9月にはどうなったかとい うと、オランダは3.6%でほとんど変わっていないのですけれども、デンマークは6.4%に上がり ました。日本は3.9%から5.3%に上がりました。雇用者をほとんど保護していないアメリカは 4.6%から9.8%に上がっています。つまり、労働者保護を弱めると、危機のときに失業率がドンと 上がるというのは、今回のことでごく当たり前のことが証明されたのだと思います。  日本は、非正社員のところまで広げれば、製造業への派遣労働の解禁といった雇用調整をしやす いほうへ制度を変えてきたのですが、逆に舵を切ったほうが中長期的な国民の利益になるのだと思 うのです。そんなことを言ったら、産業構造調整もできないし、企業活動が回らなくなるではない かとみんなが言うのですけれども、雇用は守って賃金は守らないという形に、この守らないという のは極論ですけれども、賃金調整ができるようにしたほうがいいと思うのです。  なぜかというと、こういう状況でクビを切られて路上に放り出されると、本当に生きるか死ぬか という状況にたくさんの人が追い込まれているのです。雇用さえあれば、賃金が下がっても、思い きり節約すればなんとか食っていけます。雇用と賃金とどちらを守るべきかというと、私は雇用を 守るべきだと思います。自動車産業でどんどんクビを切られましたが、彼らの技能はそこで消失し てしまいます。だから、景気が戻ったときにはまた最初からやらなければいけないのです。だから、 労働者保護の程度をどのようにするのかという、いちばん根っこのところを議論しておく必要があ るのだと思います。 ○樋口座長 いろいろな意見があって、この後の議論が楽しみになってきました。 ○宮本委員 私は政治学者ですので、経済政策のエキスパートの議論にはなかなか口出し難いとこ ろではあるのですが、そこを逆手に取って申し上げますと、どんな立派な雇用政策も実行されなけ れば仕方がないところがあると思います。雇用政策そのものについての新しい考え方というのは、 いまもある程度コントロバーシャルな部分が出てまいりましたけれども、大きく言うと大体方向性 は見えているような気もします。  ただ、それをどこが実行するのかというと、まさに地域主権を掲げている政権の下でもあります ので、地域であろうし、自治体であろうと思うのです。いま現実に地域や自治体に雇用政策を引き 受ける意欲と能力がどの程度備わっているかということです。これは、必ずしも疑問とせざるを得 ないようなところも多々あろうかと思います。緊急雇用創出事業なども、やや受け身にお付き合い いただいているようなところもあるかもしれないし、そして事業が終わるとあまり雇用が残ってい ないということもあろうかと思います。  それからワンストップサービス、ワンストップデイサービスも、おそらくはかなり受動的にお付 き合いをいただいているようなところがあります。半ば生活保護の申請が増えるのではないかとい う懸念を伴いつつ、半ば受動的にお付き合いいただいているようなところがある。地域の雇用政策 の形成、執行体制、特に現局面では先般の緊急雇用対策もそうですけれども、先端部門でたくさん の雇用をつくっていくというよりは、地域で地元密着型の介護だとか農業だとか、その他NPOを 動員したような雇用に重点を置いていくことが明らかにされているわけで、なおのこと地域・自治 体の役割は大きいわけです。地域・自治体で雇用政策の形成と執行を妨げているとまでは言わない までも、困難にしている要因は何なのかということを丁寧に抽出して検討していくような作業も必 要になってくるのではないかと思います。  これに関連してもう1点付け加えると、国民に届く雇用政策といいますか、日本の行政全般に由 らしむべし知らしむべからずというようなところがあったと思いますけれども、いちばんアクセシ ビリティが高くなければいけない雇用行政ですが、ここがとりわけ外から見ているとわかりにくい ということです。どういう制度が、どこまで支援をしてくれるのかということが、国民の側から見 てもっと可視的でなければいけない。雇用というのは、こう言ってよければ国民の義務と権利がク ロスする部分だと思うのです。それであるからして、なおのこと社会契約としての雇用といいます か、そのためにも何がどこまで期待できるのかということとともに、国民に頑張ろうというメッセ ージが届いていかなければいけないと思うのです。その辺りをどう工夫するかも是非ご議論いただ ければと思います。 ○小杉委員 私は、教育との接点みたいなところをずっとやってきています。先ほど新卒の話があ りましたけれども、新卒就職は大変厳しい状態で、足下という意味ではそこをどうにかするという のは大事なことだと思います。  生まれ年別に、どの年生まれの人がいちばん新卒就職がうまくいかなかったか、学齢限界はいろ いろ違うのですけれども、生まれ年別に整理すると、いちばん悪かったのが1982年生まれです。 この世代の人が新卒就職をいちばんしていなくて、その世代の中の6割しかしていないのです。問 題は、こういう不幸な世代をつくってはいけないというのは、この世代が今になってもそれをずっ と引きずっているということです。この人たちの正規雇用率がいちばん低いという状態があります。  どうしてそうなっているかというと、日本に長期雇用があって、途中からは入りにくいからです。 長期雇用は、一方では途中からは参入しにくい仕組みになっているので、一旦生まれ年がたまたま 不運だった人がいつまでも引きずってしまう仕組みになっています。そこで、どうやって途中参入 を可能にするかというか、食べていける形をつくるかというのは大事なのではないか。それが1 つです。   非正規から正規へという動向を実際に調べていくと、先ほど多様な働き方の話がありましたけれど も、非正規といってもパートがいちばん正社員になっていないとか、一方で嘱託とか契約、特に嘱 託という名前で雇われている若い人は、次の年に正社員になっている確率が高いとか、働き方や呼 称の面で見てもいろいろあります。  その方たちの能力開発の状態を見ていると、自己啓発でやっている比率が非常に高いという実態 があります。たぶん働き方で違って、専門性がある程度あるような嘱託があるというような形で、 非正規といっても現実は一絡げにできなくて、いろいろな働き方があって、その中で移動の可能性 のある人もいる、移動の可能性の非常に低い人もいる、こういう多様なところに焦点を当てて、実 際にどこでどういうふうに異動しているかをちゃんとつかまなければいけない。たまたま生まれ年 が不幸だった人たちの不幸をどうやって起こらないようにするか。そのためには実際に起こってい ることの多様性をきちんと捉えて、その中で何が効いているのかをしっかり捉えていかなければな らないのではないかと思います。  最初に議論がありましたけれども、清家先生からあった非正規の人たちの能力開発をきちんとす るというチャンスになり得るということなのですが、本当に食べるだけのものがあって、能力開発 ができるという仕組みがいま少しずつできていると思いますが、それは非常に重要だと思います。 ただ、それを実効にどうするかというところも少し踏み込まないといけません。やはり現場に入っ て調べてみると、なかなかそううまくいくものではないというところがありますので、そのうまく いっていないところをきちんと見ていかなければいけないのではないか。  意識とか心の問題みたいなのがすごくあって、それをどう捉えるか。非正規の人たちで、クビに なった後に能力開発の訓練に送り込まれた人はいるのですが、そこから次の所にどうステップアッ プしていくかというところが、来たもののまだまだ迷っている人たちがたくさんいますので、そこ をどうやって手当てしていくか。仕組みと現場。能力開発の現場はこれまでの改革の中で、国によ る職業能力開発がかなり弱体化していますので、その中でどうやってそれを効力化するかというの はとても大事な点であって、まだなかなかうまくいっていないところがあります。いま現場で起こ っていることをきちんと捉えて、その中で最もうまくいっていないところをフォローしていくこと が大事ではないかと思います。そういう意味では実証に基づいた議論を是非お願いいたします。 ○山川委員 いままでの議論では2つの点が出てきているように思います。1つは、政策的なビジ ョンの実現の手法といいますか、理念としていろいろなことを掲げるのはいいのだけれども、実現 のためにどういう仕組みがあるべきかという問題がいろいろ出てきているような気がします。セー フティネットの実現方法もそうですし、労働相談の方法もそうですし、地域でどう実現していくか ということもそうです。  これまで、雇用政策研究会では、大きな理念の話はしても、それをどのように実効性があるもの にしていくかという議論は、参加してまだ2、3回ぐらいですけれどもあまり出てこなかったので、 理念が本当に効力があるためには、それをどうやって実現していくかという仕組みを考える必要が あろうかと思います。法律家からいうと裁判ということなのですが、そのほかに、足下の問題を短 期にカバーするには助成金がいいと思いますし、それ以外にもいろいろな手法があり得ると思いま す。  現在、特に企業では相当苦労していて、話を聞くと週3日休業、4日休業とか、それで雇用調整 助成金で生きているような所も結構ありますが、種々の問題への対応につき、現場できちんと労使 の話合いも含めて工夫が活発化するような仕組みが何かあるのではないか、あるいはコミュニケー ションを円滑化する仕組みを促進すべきではないか。要は理念を実現するための手法を考える必要 があるのではないかというのが1点です。  もう1つは政策の中身のことで、長期雇用と正社員ということです。先ほど佐藤先生が言われた ことですが、長期雇用ということと正社員ということはちょっと違う部分があります。森永先生が 言われた点に共通しているかもしれませんが、正社員だけで考えると、安定していて、しかし企業 にとってフレキシブルに利用でき、企業内で能力開発をしている。すべてそれだけにすることは、 佐藤先生と同感で、企業経営上難しいのです。そうすると、以上のような正社員のどの属性を重視 するのか。安定性とフレキシブルと能力開発を企業内で行うということは相関関係があるとは思う のですけれども、相対的にどれを重視していくかということで、いろいろ多様化を図る必要がある のではないかと思います。私は、いまの正社員ほどではないけれども、安定ということを重視し、 あとは他の手法で補完していくような仕組みもあるのではないかと思っています。 ○白木委員 1回目ですから、私は違う視点から議論を提案したいと思います。一般的には正社員、 非正社員といろいろな呼び方はあろうかと思います。中間的な層は玄田先生からも指摘があったの ですが、そういう層をいかに企業の中で活せるような人事システムをどうやって作っていくかとい うことが根幹的な議論だと思います。  本日いただいた資料にも出ていましたが、資料6の7頁に、輸出入が2000年前後からずうっと 伸びています。これは内需が弱かったからというのがあったかもしれないのですが、同時に私が特 に注目したい点は、対外直接投資の指数曲線的な増大です。これは05年ぐらいから伸びていて、 円高とは直接関係ない時期から伸びています。これはどういうことかというのはまた議論しないと いけないと思うのですが、これから雇用システムを考える場合に、必ずしも日本国内というドメス ティックな考え方だけではなくて、アジア域内も含めた視点が必要ではないかと思っています。  日本の海外派遣者の数を見ていると、ここ数年で激増しています。特にアジア域内で激増してい ます。対外直接投資が増大すれば、日本人派遣者が増大するというパラレルな関係はあろうかと思 いますが、同時に日本の企業が伸びていくためには、日本人だけで回していくというシステムはか なり限界に近づいている面も同時に出ていると思います。したがって、ブリッジできる人材を、日 本人を超えた形で育成、あるいは活用していくシステムを求められていると考えています。  これからそういう人材をどういう所で求めるか、どういう形でキープするかということになろう かと思うのです。1つの期待は留学生にあろうかと思っています。現在、留学生は1年間で3万 5,000人卒業します。その中で日本で就職しているのは1万数千人でありますから3分の1です。 進学もしますから、希望した中では約5割ぐらいが日本で就職していると思っています。これが 30万人になっていきますと、おそらく年間10万人ぐらいが卒業します。そういう場合に、そうい う人材にどういう形で取り組んでいくか。日本の大学卒業生はおそらく50〜60万人の規模だと思 いますが、10万人の卒業生というのはかなり大きなインパクトのある数であります。日本の企業 がこれからアジアを中心に交易を広げていく場合に、日本の企業の雇用人事システムのあり方は、 そういう点も入れた形で考えていく。そういう意味ではフレキシブルで、正社員的で、しかし契約 社員的な何年かしたら向こうに帰りたいという人もたくさんいるわけですので、その辺の多様な人 たちをうまく活かしていくシステムという意味では、一貫性の中に入っているのかと思っています。 そういう視点も必要かと思っています。 ○諏訪委員 最初ですからいろいろな視点をということで、私もいままでとは少し違ったお話をさ せていただきます。20歳前後から働き始めて、今は65歳までの継続雇用が1つの視点です。実際 は70歳ぐらいまで働く人が随分います。とりわけ男性の場合はかなりいます。海外でも、今は年 金の支給開始年齢がだんだん上がってきて68歳とかに上げていく傾向があって、おそらく維持し ようと思うと70歳近くまで上がる可能性があります。もう既に70歳を1つのターゲットにした 細々とした政策も始まっています。  そのように考えてみますと、我々の生涯現役の期間が非常に伸びてきて50年、半世紀にわたっ て働く時代がやってくるわけです。先ほどのいろいろな統計資料の中にもありましたが、見かけ上 大きく就業人口が減らない場合でも、その中身を見ると非常に中高年の比率が高まっていき、急速 に比率が落ちていくのは若者です。したがって、ここしばらく若者に関する適切な対応策をとって いくことで、現在の対応もできれば、中長期もそれなりにここは見込めるのではないかと考えられ ます。  そうしますと、問題は主流になっていく中高年です。コーホートで見ていちばんたくさんになっ ていくのが、しばらく経ちますと10代ずつに切っても40代になります。ところが皆様ご存じの とおり、日本の働き方は20代後半から30代の人で、とりわけ男性で60時間以上働いている人は たくさんいるように、この辺に思いきり馬車馬のごとくに働かすというシステムでありまして、そ れで山を越えたが40歳過ぎぐらいから再就職が非常に難しくなるというように、どうも世間の期 待値が下がっていきます。それは会社の中なら上がるかというと、どうもいろいろ見ていると必ず しもそうではないです。つまり50年続く生涯現役の就労期間のうち、ちょうど真ん中の折返し点、 箱根駅伝でいえば初日が終わったところは45歳です。この45歳過ぎというのはどこの国でもそ うなのですが、日本の場合はとりわけ再就職も難しいし、組織内における活用もいまひとつのとこ ろがあります。  そうなると、雇用政策として考えなければいけないことの、これから非常に重要な中長期的な課 題は、この中高年の活性化です。いつまでも元気よく働けるか。そうなると、これまでのいくつか のキーワードを変えなければいけないと思っています。私は人材育成という言葉はやめるべきだと 思います。人材育成というのは、既にある一定の段階に達した人が、私のところまで皆さんを育て てあげますということなのですが、この発想でいくと教育訓練は35歳ぐらいで終わりなのです。 あとは自分でやるか、専ら働くという方向だけにいけということになります。 ところが変化の激 しい時代には、このようなやり方をしていると、必ず時代にうまく適応できない時点が来てしまい ます。そのように考えますと、生涯キャリア形成支援という形に転換していかなければいけないの ではないか。言葉の問題だけではないだろうと思います。ここにあります発想そのものを変えない といけないのではないか。  もう1つは、いくつになっても自分が蓄積してきたさまざまな経験、スキル、人脈、コンピテン シーといわれるような働き方にかかわる基本的な考え方や行動の体制がうまく時代変化の中に対 応していけるような雇用システムを考えていく必要があるのではないか。能力開発はいくつになっ てもやれるような方策、これは北欧その他でも必ずしもうまくいっていませんが、中高年にも再訓 練の場を用意するとか、長期の再訓練のための休業を保障していくとか、その間の所得保障をして いくとか、いろいろこれまでにない政策を考えていかないと、主流になるのが中高年労働者になっ ていくのに、高年齢者向けの最後の終わる段階のいろいろな政策は打ってきましたが、その前の熟 年のいちばん活躍するところでより活躍してもらう政策は、必ずしもうまく用意されていないので はないか。  つまり、これまでは放っておいてもなんとかなると思っていましたが、最近いろいろな形で調べ てみますと、40代のモチベーションの低下は激しいです。とりわけ40代後半からが激しくモチベ ーションが落ちていて、これは由々しい事態だなと。その意味では中長期的に大事でありますが、 実は当面の日本人が元気になっていくためにも、ここの層に元気になってもらう政策が必要ではな いか。ここが内向きの元気がないと、若い人たちにも非常によろしくない影響を与えるわけです。 前の世代の背中を見ていくときに、前を歩く人の背中が曲がってしおれているというのはよろしく ないのではないかと思っております。自戒も込めまして。 ○黒澤委員 月並みな話しかできないのですが、いままでの議論の内容と変わらないのですけれど も、私も長年能力開発についてやってきた者として、今回の論点でもあります短期と中長期、そし て公平性と効率性と、そのどちらの観点から見ても能力開発というのはそれらをいずれにしてもブ リッジさせて向上させるというか、エフェクティブな、非常に重要なものだと思っております。私 のコメントは、能力開発について1点と、あとは別の政策について1点です。  能力開発の状況については、能力開発基本調査が厚労省によって提起されていますが、それで正 社員について見る限り、一度失われた10年のところで、その実施率をoff-JTや計画的OJTとい う指標で見ても一度ドンッと落ち込んでいます。ところが2008年ぐらいまで見る限り、バブル期 前の状況にまで復活しています。それなので、正社員については以前に戻ったのではないかという 感触さえあります。しかしながら正社員の中でも中身を詳細に分析すると、学歴や職歴というとこ ろでの格差の拡大は散見されます。  それ以外にも皆さんご承知のとおり、非正社員の比率が拡大していること自体、日本の社会全体 での能力開発の実施状況というのは本当に減ってきているわけです。それでは非正社員については どうかというと、提示していただいた資料ではそうでもないのですが、能力開発基本調査を見る限 りにおいては、非正社員のoff-JTの実施率や、計画的OJTを見ても正社員の半分ぐらいになって います。能力開発基本調査というのは、常用の非正社員です。少なくともいま厚労省がなさってい る段階での能力開発基本調査はそうです。それで半分ぐらいですから、非常用的な働き方をしてい る非正社員を考えるともっと低い状態になっています。  しかも、これまた常用だけですけれども、非正社員を詳細に分析すると、特に若年の男性でその 実施率は非常に低い。しかも非正社員と正社員とどう違うかというと、勤続を重ねても能力開発機 会が全く増えない状態が非正社員のところでは見られます。こういう状況から考えると、公平性の 観点からは本当に問題ではあるのですが、効率性の観点からも非常に問題があります。そういうこ とで、政策的には特に効率的に今後も能力開発が実施されるような環境があるのかということにつ いて、それにいかに有効に対応できるようなポリシーミックスを考えるかということが非常に重要 なのではないか。  以前に助成金ができましたけれども、それ以上にローンだけでも十分なのではないかと思ってい たときもあったのですが、やはりいろいろな文献や海外の事例を見ますと、能力開発を個人で行う ようなものを支援するといったときに、それがローンのようなものだけで十分かというと、それは 不十分であって、そこにカウンセリングなり情報なりいろいろな支援をミックスした形で提供しな いと、特に会社を担っている若年の方々の能力開発の状況を盛り上げるには不十分であるというこ ともあります。その辺りをもう少し突っ込んでいただきたいと思います。もちろん、そういう政策 が今回の緊急対策にも盛り込まれておりますけれども、その辺りをもうちょっと十分に議論する必 要があるのではないかということです。それが能力開発についての1点目です。  もう1つは、これまで企業内訓練が中心に職業能力開発がなされてきた日本の状況において、い ざ個人主導の能力開発を支援しましょうとなっても、実はそうすることが逆に高まった能力の所有 権を従業員に移譲してしまうことになり、それが企業にとっては、これまで企業内訓練としていろ いろほかの企業でも役に立つような能力を付与していたコストを負担していたというインセンテ ィブはどんどんなえていく状態になります。もちろん個人主導の能力開発は提供していかなければ いけないのだけれども、そういう方向に政策を舵を取れば取るほど、これまでの日本の状況を考え ると、やはり企業内訓練というものへの支援も同時にやっていかなければいけないので、その辺り のポリシーミックスも考えないといけないということです。これが2つ目です。  3つ目の能力開発については、いわゆる失業率が高まってきて、失業者にどのぐらいの能力開発 の支援をするかということを考える必要があるのではないか。諸外国を見るとその辺りはワークフ ァースト、つまり何でもいいからとにかく仕事に就いてくれと。そこまでできるような能力開発の 支援しか政策的にはしませんというような方向性が多々見受けられます。そうするべきなのか、そ れとももうちょっと踏み込んで、ある一定のキャリアラダーの真ん中辺ぐらいまでいけるような形 での支援を政策的に失業者にするのかということは議論の余地があると思うのですが、例えばワー クファーストということであるとするならば、そうすると就業中の人たちが先ほどの話にもありま したけれども、就業した後の人たちが正規であれ、非正規であれ、能力開発を自分たちの力と能力 でできやすいような環境を提供することがより重要になってきますので、その辺りも考えなくては いけないということです。以上が能力開発についてのコメントです。  もう1つは保育政策についてです。保育政策というと、出生率向上ということで雇用政策とは関 係ないではないかと思われるかもしれませんが、実は長期的な労働力が減っていく中で、女性の労 働力参加という意味においても、そして効率性においても、すべての人的資源を効率的に活用する 意味でも、やはり雇用政策の範疇に入るのではないか。そこでいろいろと議論はすべきだと思うの ですけれども、特に地方自治体の政策として何をすべきかということは、ここでどのぐらい議論で きるかわからないのですが、その辺についてもし議論できれば非常によいのではないかと思ってお ります。  その理由というと、認可保育園の利用者の数と定員の数の差分を都道府県別に計算をしたことが あります。これが、どんなに待機率が高い都道府県でも、定員数のほうが利用者数よりも多いとい う状況が2002年ぐらいまではありました。都道府県間でも、例えば東京都を見ても待機率がもの すごく高い世田谷区、杉並区、品川区というのがある一方で、しかしながら都心から離れたほうで は余っている状況があります。そこを市区町村までいって、権限があって柔軟化できるかというと、 いままではそれができなかったのです。ところが、2000年半ばぐらいにそれが若干できるような 状況があったそうで、そこからは利用者数と定員数の差分がみんな押しなべてネガティブであると いうようなことはなくなってはいます。その辺りは、今後も地方の現場への権限移譲の可能性も含 めて議論できればと思います。 ○橋本委員 先生方のお話から非常に多くのことを学ばせていただきました。その感想にとどまり ますけれども、私からも述べさせていただきます。先生方のご意見の中で、非正規雇用の安定を図 るために、従来型の正社員とは異なる長期雇用という雇用形態をイメージして、そちらを促進して いく政策がとれないかということで、政策的にも非常に望ましいかと思います。ただ、法律的に見 ますと長期雇用というのは、おそらく期間の定めのない契約であり、有期契約ではなくて無期契約 だと想定されていると思います。そうすると正社員も無期契約で、法律上は区別ができないことに なります。  無期雇用にするためには、現在山川先生とご一緒させていただいております有期契約の見直しに 関する研究会で議論しているところです。ヨーロッパのように有期契約を制限する方向で、活用事 由を法定化するとか、現在日本では更新の上限等が決まっておりませんけれども、契約期間の上限 全体を決めてしまうとか、そういう法制にするのかどうかということが1つ大きな論点になるのか と思います。法律のほうで活用事由や期間を縛って、なるべく無期契約のほうに促すというのも1 つの方法で、長期雇用の実現のために非常に有益だと思いますが、現在、研究会ではまだ慎重に検 討を進めております。というのは、、現在の規制から著しく規制を強化することになりますので、 雇用に対する影響が大きいのではないかという懸念も表明されています。ここは1つ大きな論点に なるのではないかと考えています。  もう1つ、有期契約と無期契約を考える上の論点が均等待遇ないし均衡処遇原則です。日本では パート法において一定の限定された範囲でのパートタイマーについて均等待遇、差別禁止原則が入 りましたが、日本の実態に鑑み、まだまだ諸外国と比べて完全な均等というところにはなかなかい かないかと思います。この点については、直ちに一気に均等待遇原則導入というのは、日本の雇用 慣行に大きな影響を及ぼすので難しいとは思っておりますけれども、国際的な傾向として、雇用の 平等の理念というものは強まっておりますので、均等待遇に向けた方向への政策というのはとられ ていかざるを得ないのではないかと考えております。  佐藤先生がおっしゃいました、セーフティネットの担い手というところについては私も全く同じ 意見です。これも佐藤先生とご一緒させていただいております、東京都の地方労働審議会で伺った 話で、また視察もさせていただいたのですが、今度、雇用保険の適用が拡大され、また遡及適用に ついては現在は過去2年までしか遡及が認められないところを、その2年を遡って遡及適用の可能 性が認められるようになる予定です。そうしますと、現場の作業量が非常に増えるということで、 人手が足りないという話を伺いました。佐藤先生と同じ意見ですがこの点は繰り返させていただき ます。 ○樋口座長 ありがとうございました。冒頭のご挨拶の中で、足下と中期的、あるいは長期的な整 合性をどう取っていくかが重要だという話をさせていただきました。皆さんのお話を伺っていて、 足下というのは不確実性の問題であり、やはり需要の大きなショック、特にネガティブショックと いうものに対し、どう安定した制度、それに伴う運用、それも個別企業なのか、労働市場全体で考 えていくのか、社会全体としてというような問題がポイントになってくるかと思いました。  中期というと、少子高齢化ということですが、いま足下で起こっているこの不況の中で私が注目 している1点というのは、やはり性別の失業率に非常に大きな違いが生まれてきているということ ではないかと思います。一時は1ポイントほど男性の失業率のほうが女性を上回っていましたが、 ここのところは1ポイントを切ってきておりますが、まだ依然として大きな差があって、男性の失 業率が急速に悪化しました。女性のほうも悪化していますが、そのスピード的には男性のほうが大 きいです。これは、おそらく構造的な、長期的な変化、産業構造の変化というものが相当影響して きているのだろうと思っています。従来のような建設とか製造という男性の比率の高い産業が、産 業構造の変化の中でウエイトを落としていっていることがあるかと思います。  足下においても、今度の雇用創出ということで、財政政策を考えても、従来のような公共事業、 建設業を中心としたような、男性の雇用をつくり出すようなものから、むしろ医療とか介護という 形で、女性のほうにその対策というものも、結果としてだろうと思いますが変わってきています。 この流れというのは、将来の雇用を先取りして今つくっていくのだと、あくまでも将来必要となる ような雇用をこの緊急対策の中で考えていくのだということからは、当然の施策だろうと思います。  問題は男女共同で働く、夫婦共に働いているというようになっていく社会、これは長期的な問題 でも構造変化であろうと思います。そのときの働く側というか、世帯側というか、家庭側というか、 そこのところがあまり議論されてこなかったのではないか。雇用対策というと、企業に対する対策、 あるいは労働組合というようなところであったわけですが、やはり個人の生活の場まで遡って、こ ういう変化に対してどう対応していくのか。ワーク・ライフ・バランスの議論につながっていくの だろうと思いますが、そういうものが必要になろうと思います。  今回はセーフティネットの議論ということですが、個人が働いて所得を稼ぐことができる状況を つくるというのも基本的なセーフティネットであるわけです。それが女性の就業という問題も含め てそこを確実にする。そして、それに対するエンプロイアビリティの拡張というような能力開発と いうものも必要だと思いました。  同時に皆さんの議論を聞いていて重要なのは、エビデンスベースの政策議論をしていくべきでは ないか。ビジョンとしていかにあるべきかという議論というのはいろいろできるわけですが、これ までやってきた政策について評価を加えないと、新たな政策についての方向性も見出せないのでは ないかということがあり、そこについてはエビデンスベースでできる限りの話です。もちろんそれ はできないものもあるわけですが、そういうものを中心に今後の議論を進めていくべきではないか と思います。  同時に、そういう政策を実行していますとか、あるいはある法律ができましたということだけで はなく、それがどう運用されているのか、あるいは実効性がどうなっているのかというようなこと も必要だというご指摘もありましたが、そこも視野に入れながら考えていくべきだろうと思います。  最後に同一価値労働、同一賃金の問題ですが、派遣労働、請負労働の問題も含めて、これまで企 業の中における、同じ雇用主の下における同一価値労働、同一賃金ということであったと思います が、社会全体としてこの問題をどう考えていったらいいのか。要は企業横断的な話、あるいは人に よっては雇用主が違っても、同じ職場で働いている人たちについてのこの問題が解決しないと、な かなか派遣問題は解決しないのかと思うところがあります。雇用主が違うのだから、同じ職場で働 いていても、賃金が違うのは当たり前だというような社会通念がある限りにおいては、派遣の問題 は当面解決しないのかと思っております。  例えばアメリカ辺りを見ても、派遣期間についての期限制限というものは設けられていないので すが、逆に派遣労働者のほうが割高な存在ですと。同じ賃金を払うのであれば、派遣会社に手数料 を払う分だけ割高になるわけであって、長くその人たちを雇うということは、企業にとって逆にマ イナスになるということから直接雇用したほうがいい、というような経済合理性が働いているわけ であります。  表面的、制度的に禁止するかどうかというのは議論があると思いますが、同時に日本社会で抱え ている、企業単位で雇用条件が決まってくる、これはある意味で企業が儲かれば社員も豊かになる というようなインセンティブを高める上では重要なことだろうと思いますが、その一方でそれだけ でいいのかという職種別の賃金の話はここでもずっと議論してきたと思いますが、もう一度その議 論も含めて議論していく必要があるのではないかという感じを持ちました。  本日は1回目でキックオフということで、皆様の問題意識を指摘していただきました。この後、 事務局で本日の議論を反映して、どういう形で進めていくかということについて考えていただきま すが、皆さんからも注文していただきたいと思います。本日出されました意見を踏まえて、追加的 にどのようなことをまた議論してほしいというようなことがありましたら、早目に事務局のほうへ お申し出いただきたいと思います。次回の日程等について事務局から連絡をお願いいたします。 ○里見雇用政策課企画官 次回第2回雇用政策研究会は、1月27日の午前10時から、こちらの省 議室で開催することとしております。ご案内は後日お送りいたしますが、よろしくお願いいたしま す。 ○樋口座長 本日は以上で終了いたします。どうもありがとうございました。 照会先 厚生労働省職業安定局雇用政策課雇用政策係  〒100−8916 東京都千代田区霞が関1−2−2  電話 03−5253−1111(内線:5732)     03−3502−6770(夜間) 1