09/12/10 平成21年度第3回薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会議事録 平成21年度第3回薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会 議事録 1.日時及び場所   平成21年12月10日(木)13:00〜16:00   九段会館 桐の間 2.出席委員(4名)五十音順   ○大平 勝美、岡田 義昭、◎高橋 孝喜、山口 照英   (注)◎委員長、○委員長代理   他 参考人    梯 正之、山田 正仁    日本赤十字社(6名)    欠席委員(2名)五十音順    佐川 公矯、花井 十伍 3.行政機関出席者    亀井 美登里(血液対策課長)    光岡 俊成(血液対策企画官) 他 4.備考    本部会は、公開で開催された。 ○事務局(秋山需給専門官) 定刻になりましたので、ただ今から「平成21年度第3回薬事・食品衛 生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会」を開催させていただきます。なお、本日は公開で行う こととなっております。  本日は佐川委員、花井委員から欠席の連絡をいただいております。参考人として、金沢大学大学院 医学系研究科の山田正仁先生、広島大学大学院保健学研究科の梯正之先生にお越しいただいておりま す。後ほど、英国滞在歴に係る献血制限の見直しの審議において御発表いただきます。また、採血事 業者等血液事業の担い手として、日本赤十字社血液事業本部経営会議委員の田所憲治さん、同副本部 長の日野学さん、献血推進課長の菅原拓男さん、供給管理課長の大西雅彦さん、安全管理課長の百瀬 俊也さん、参事の五十嵐滋さんにお越しいただいております。亀井血液対策課長は所用により到着が 若干遅れております。  事務局に異動がありましたので御紹介させていただきます。8月1日付で、秋野公造課長補佐の後任 として難波江功二課長補佐が着任いたしました。  議事に入ります前に、本日の運営委員会においては、個別品目の承認の可否や、個別品目の安全対 策措置の要否の審議はありませんが、血液事業の運営において、日本赤十字社が調達する技術の提供 企業との利益相反を確認しておく観点から、平成20年3月24日、薬事・食品衛生審議会薬事分科会申 し合わせ、審議参加に関する遵守事項に基づいて、利益相反の確認を行いましたところ、審議及び議 決への参加については退室委員及び議決に参加しない委員は共になしとなっております。以降の議事 進行は高橋委員長にお願いいたします。 ○高橋委員長 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 1枚目は議事次第です。2枚目は座席表です。3枚目は委員名簿です。 資料1、資料2、資料3−1から3−3、資料4−1から4−4、資料5−1から5−5、資料6− 1から6−2、資料7−1から7−5まで用意させていただきました。 ○高橋委員長 議題1は「議事要旨の確認」です。資料1のとおりの議事要旨ですが、御意見があり ましたら事務局まで連絡をお願いいたします。  議題2は「感染症定期報告について」です。委員の先生方には、既に報告書が郵送されていると思 いますが、検討を要するものを事務局から説明をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料2に基づいて御説明させていただきます。5ページからです。本日 はその他の案件等が多くありますので、若干端折り、この一覧表に基づいて御説明させていただきま す。新出文献No.1、B型肝炎についての報告です。日本の首都圏においてHBVの中で慢性化率の高い genotype Aが急速に増加しており、新規日本人キャリアからの二次感染が疑われることが急性B型肝 炎症例の検討から明らかになったという報告です。  6ページで、アメリカ・トリパノソーマ、シャーガス病についての文献の報告です。1番、FDAの CBERからの報告で、輸血用全血、血液成分製剤、ヒト細胞・組織及びヒト細胞・組織由来製剤の Trypanosoma cruziが伝播する危険性を低減するためのガイダンス案が出たというものです。  2番は、ブラジルでアサイーというヤシ科果物を介して、アメリカ・トリパノソーマが伝播し、178 例あったものです。通常、シャーガス病はサシガメに刺されて伝播するものですが、食べ物を通じて 感染があった。同様にベネズエラから、グアバジュースの摂取で児童47名と教師3名が感染したとい う報告が出ております。  7ページで文献番号5、6、7のウイルス感染症の報告です。5番は、ニューイングランドジャーナル の報告でシカダニですが、これは初めてのヒト感染のものです。  6番は、南アで旧世界アレナウイルス、ラッサ熱などがありますが、これで新しい旧世界アレナウイ ルス、Lujo virusというものが出てきた、30年ぶりに新しいものが見つかったという報告です。  7番は、ProMEDにおいてユンガンウイルスです。これは、マウスにおいて胎児死亡などを起こすとい う話がこれまでありますが、ヒトにおいても子宮内胎児死亡に関連していることが示唆されるデータ が得られたという報告です。  8番は、ウエストナイルの、アメリカからのCDCの報告で、2008年で米国では46州から1,350例 の報告があり、そのうち687例は脳炎や髄膜炎を発症し、44例が死亡に至ったという報告です。  8ページで文献番号9のバベシア症の報告で、これはニューヨークシティ・デパートメントからの報 告です。2008年9月以降の6カ月間で、ニューヨーク市において輸血関連バベシア症の報告が急増、7 例出ているという報告です。3カ月以内に輸血又は臓器移植の既往歴があり、発熱/溶血性貧血を呈す る患者の鑑別診断にバベシア症を考慮するよう勧告したというものです。  9ページで文献番号10、これは日本からのリケッチアの報告です。仙台市においてリケッチア症を疑 う患者が発生した。これまで、日本でのリケッチアというのは、日本紅斑熱のものですが、これはロ シアや中国の患者で報告されている紅斑熱リケッチア症のものが採取されたというものです。  11番は、レンサ球菌感染の報告です。足のウオノメを取ったところ、その後蜂巣炎、大腿部にガス 像が認められ、Streptococcus dysgalactiaeというもののサブタイプのヒトによる初感染例であると いう報告です。  10ページで文献番号12は、FDA2000からの報告で、2005年から2008年度に報告された供血後及 び輸血後の死亡例の概要です。2008年度は、受血者72件、供血者10件の死亡報告があり、受血者の うち46件が輸血関連、8件が輸血関連が否定できない、18件が輸血とは関係ないというものです。微 生物関連ではバベシア症は2008年の5件。2005年から2008年で見ますと、微生物関連が28件中10件 がバベシアという報告です。  13番、14番はウシでのBSEの報告です。OIEからの報告で、13番が英国を除く世界各国で報告 されたBSEで、88ページに概要があります。カナダ、フランス、ドイツなどで若干報告されている ものです。14番は、英国での2008年までの発症で、OIEに報告されたBSEの数です。  15番は、変異型ではないクロイツフェルト・ヤコブの輸血のCJD伝染リスクについて、後にCJ Dを発症した供血36例と、受血者436例を調査したところ、受血後にCJDを発症した例は特定され なかったというものです。16番も同じ文献です。  17番は、variantのCJDの報告で、これは英国からの報告で、ヘルスプロテクション・エージェン シーが、扁桃腺に蓄積されたvCJD関連プリオンタンパク質の大規模な調査を行い、6万3,000例の 扁桃腺組織の収集・解析を行ったところ、現在のところ陽性サンプルは一つもないという報告です。  18番もvCJD関連です。これは、ウシでの非定型BSEが複数の国で報告されていて、アメリカ でその遺伝子の突然変異があったという報告で、今後もそういうのがあるので、反芻動物の厳密な飼 料管理など、ウシからウシへの伝播、ウシからヒトへの伝播というものの規制を緩和すべきではない という報告です。  12ページの文献番号19も、variant CJDについて、ProMEDの報告で、英国CJDサーベイランスユ ニットの統計によると、2009年1月5日時点で、vCJD死亡総数は変化なく167例のままであり、 英国におけるvCJD流行はおさまりつつあるという見解が出されています。  20番から31番まではすべて今般の新型インフルエンザの報告です。20番は、FDAでは、今年4月 に新型インフルエンザが確認されましたが、それ以降すぐに出したものです。新型インフルエンザの 輸血を介した感染可能性について、輸血により季節性インフルエンザの感染した例はこれまで報告が ない。新型インフルエンザについても報告されていない。現時点で輸血のメリットは、新型インフル エンザの理論的リスクをはるかに上回る。分画製剤については、製造工程におけるクリアランスが十 分であることが確認されているという報告です。それ以降は、新型インフルエンザの疫学的な情報で す。以上です。 ○高橋委員長 先生方から御意見、御質問がありましたらお願いいたします。 ○山口委員 18番の報告ですが、BSEの発症がもともとスクレイピーの伝播かどうかというのはま だ異論があるようです。そういう意味では、その変異型のがまだ出てくるという話については、一定 のリスクを考えておかないといけないでしょう。この解説の中で言われているのは、危険部位の除去 というか、ある特定の国ではまだ肉骨粉などがブタの飼料などに使われていることに対する警鐘を鳴 らしているという意味では、日本のやり方というのはある程度有効な方策をとっているのだろうとい うことだと思います。 ○岡田委員 文献9のバベシアです。バベシアは以前にも何回か出たことがありますが日本にも存在し ていて、シカに感染するダニの中にいます。健常人は感染しても特に症状が出ないので、そういう方 が献血をすると、受血者の方に感染する危険性があります。ただし、発症する人は免疫不全症とか脾 臓がない人に限られた人しか発症しないです。今まで日本では1例しか報告例はないのですけれども、 このようにニューヨークでバベシアの症例が増えているということ、日本でもシカが結構増えている という報告もありますので、文献にも書いてありますけれども輸血後3カ月以内に説明できないような 発熱とか溶血性貧血が出たら、鑑別診断の一つにバベシアを考えた方がいいということです。バベシ アは一応治療が可能です。ですから、鑑別診断の一つで見つかれば、治療することによって救命する ことができます。  16番のCJDです。今までのクラシカルタイプのCJDの、輸血による感染リスクというのは、v CJDが輸血によって感染するということで、今までのクラシカルタイプのCJDはどうなのか、大 丈夫なのかという心配があるわけですが、16番のペーパーを見ますと、vCJDと同様の解析が行わ れていて、vCJDの場合は3例感染が成立してしまいましたが、CJDに関しては全くなかったとい うこと。病理学的な所見に関しても、リンパ組織等に異常プリオンの蓄積が、通常CJDにはないの で、そういうことからいって輸血による感染リスクは非常に低いのではないかということを16番の論 文は言っています。 ○高橋委員長 ほかにないようでしたら、ただ今の御意見も十分参考にしながら、さらに引き続いて 感染症の定期報告の収集等を事務局でお願いいたします。  次は議題3「血液製剤に関する報告事項」について、遡及調査の進捗状況、あるいは副作用感染症報 告について事務局から報告をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料3-1について御説明いたします。4ページ目は、今年の4月1日か ら9月30日までの半年間で行われた遡及調査の結果です。個別NATの実施件数は949、HBVが885、 HCVが35、HIVが29。(2)は、そのうち陽性となった献血件数は79件すべてがHBVです。その うち76本が使用されていて、その後の受血者情報で判明した件数ですが陽転事例はゼロでした。5ペ ージ目は、過去平成11年からの結果です。  6ページ目は、薬事法第77条の4の3に基づく回収報告状況です。これは通常より多い数となって おりますが、後ほど御議論いただきますが、新型インフルエンザが献血後に確認された方の血を回収 した事例が報告されています。以上です。 ○高橋委員長 この件に関して、委員の先生方の御意見、御質問、あるいは日本赤十字社の方から追 加などがありましたらお願いいたします。特にないようでしたら、資料3-2について事務局から説明を お願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料3-2ですが、今回は新規症例の報告はありません。以上です。 ○高橋委員長 これについての追加、あるいは御質問はありますか。特にないようでしたら資料3-3に ついて事務局から説明をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料3-3は、献血とHIVの関係です。資料3-3のいちばん下は今年の 1月から9月までの速報値です。献血件数が390万のうち79検体がHIV陽性でした。括弧内が女性 で6件で、NATのみの陽性が2件でした。10万件当たりで見ますと1.997と若干過去2年より少ない 数となっております。  1枚めくりまして右側は都道府県別です。大阪、東京が昨年の同時期に比べて減っています。特に大 阪は9月末までで9件と、昨年の同時期よりも11件減っております。東京は昨年同時期より4件減っ ています。一方で茨城、埼玉が9月時点でこれまでの数を上回っています。全部で31自治体からの報 告が上がっています。  1枚めくりまして左側は地域別に見た数です。近畿は大阪が減ったということで、10万人当たり 2.475と低い値になっております。関東は東京が減りましたが、埼玉と茨城が増えましたので、過去よ り若干高い数値となっております。四国は高めになっておりますが、もともとが5件、献血者も少ない ので人数が1人変われば大きく変わるデータとなっております。  1枚めくりまして赤と青と緑の3本の線の入ったグラフです。これは過去1987年からの推移です。 今年の6月までで見ますと2.025と、去年より若干少ないけれどもそれほど変化はない。男性の方が減 って、逆に女性の方が増えている値となっています。以上です。 ○高橋委員長 この資料についてはいかがでしょうか。若干減っているかという希望を持たせるよう なデータでもあるのですが、一方では東京、大阪以外に、茨城と埼玉のように少しずつ拡散傾向があ るので、ちょっと怖いという気もします。 ○大平委員 特に大阪と東京が減っていて、かなり画期的に減っているのが見受けられます。何かの 効果というか成果が出たものなのか、それとも自然にこうなったのか分かる範囲で教えてください。 増えている埼玉と茨城では、検査のシステムなどで気軽に検査を受けられる所が少ないのかどうか、 分かる範囲で結構なのですが教えてください。 ○日本赤十字社 大平さんが話をされたような、大阪で検査所が増えたという話は今年度はないです。 私どもがやっているとすると、大阪の各ルームの方に、ハイリスクの人たちが来なくなった事情があ ると思います。近々HIVの厚生科学研究班がありますので、そちらの方で何か情報が得られれば、 この場をお借りして報告したいと思います。  大阪の方は検査所が、chot CASTなんばは閉鎖というか、やっていない状況なのだろうと思います。 そういう状況において、献血者の中にあまり入ってきていないというのを見ると、なぜなのだろうと いうことがありますので調べてみたいと思います。 ○大平委員 大阪の方で、献血推進でPRが積極的に行われていると聞いています。若者に対しての 献血推進運動の中で、献血の安全性を確保するのに、献血ルームに検査目的で来ることを避ける、と いうことが盛んにPRされているのかという思いもしています。chot CASTなんばは今はもうやってい ない状況なのでしょうか、そういう所も前半まではたぶんやっていたのかと思うのです。それが閉鎖 してできなくなった場合に、次の推移を見なくては分からないと思うのですが、どんな影響があるの かがちょっと心配です。 ○事務局(難波江課長補佐) 大平委員御指摘の献血推進で、検査目的のための献血は御遠慮くださ いということは、去年から今年にかけて力を入れてやってきています。減った原因が直接的に何かと いうのは、これから研究班でもちゃんと見ていただかないといけないのですが、実際に本省の人間も 大阪に行って、そういうキャンペーンに協力させていただくという活動はやっています。 ○高橋委員長 近畿の問題は、保健所での検査体制の問題があるというようなことは随分言われてい て、大阪府にも保健所の検査体制整備をお願いして、少しずつ出てきた成果ではないかと思うのです。 一方で、献血によるHIVの陽性率だけを追っているだけではなくて、例えば保健所で検査される件 数を捕捉して、それで多くの方が献血に来所しないで、検査目的の方はほかの保健所なり医療機関に 行っていただいている、というようなことも調べていく必要があります。  今までは東京、大阪、愛知といった大都市圏を集中的にやればいいのかと思っていたのですが、そ れがだんだん拡散してきたので、先んじて保健所での検査の割合と、献血におけるHIVの陽性率と をよく勘案しながら対策を進めるべきではないかと思います。これからもまだまだ油断できないので、 日本赤十字社としては今後も安全衛生に関する情報を引き続き収集していただければと思います。H IVの問題は非常に重要ですのでよろしくお願いいたします。  次の議題は順番を入れ換えまして、その他の審議を先に行います。資料4のインフルエンザによる献 血血液の安全性について事務局、山口委員、日本赤十字社から説明をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料4-1について事務局から御説明いたします。資料4-1は、今年の5 月18日に新型インフルエンザの国内発生例が出たことを受け、血液対策課長通知として、日本赤十字 社に出させていただいたものです。内容は、新型インフルエンザが発生しましたので、献血希望者の 中で、発熱等の症状の有無の確認を一層徹底すること。それから濃厚接触者については採血を行わな いこと。献血後7日以内に新型インフルエンザとなった場合、又はその疑いがある場合は直ちに赤十字 センターに連絡をくださいということを献血者に周知すること。採血した血液については使用しない こと。こういう内容の通知を発出させていただきました。以上です。 ○山口委員 私に与えられた課題は、こういう対応を今とっていただいているのですけれども、今回 のH1N1のインフルエンザに感染したときの、輸血を通じての感染があり得るかどうか。それについ ての文献、各国のガイドライン、ガイドライン案等を調べて、どういう状況になっているかを御報告 させていただきます。  資料4-2に各国のガイドライン、文献等に関する概略を少しずつコメントを入れて記載させていただ いております。その後の方にそれぞれの文献があります。「取り寄せ中」と書いてあるのは、今回に 間に合わなかったものです。(1)から(6)に関してはかなり古い論文で、従来の季節性のインフルエンザ が中心なのですが、それにおいてバイレミア、血中にウイルスがいることがあるという報告と、ない という報告と両方あるという文献です。季節性に関して、古い文献ではある、ないがなかなか決着し ていなかったことになります。  (7)からはわりと近年の論文、あるいはWHOのガイドライン等を紹介しています。いくつかの論文 やガイドラインで、新しい論文に関しては二つの流れがあります。どういうことかというと、一つは 季節性インフルエンザに関しては、バイレミアになっている可能性については、(1)から(6)の文献はあ るのですけれども、最近の動向を調べている限り、季節性のインフルエンザに関してはバイレミアの 可能性は非常に低いだろうということが相対的に言えます。  ただし、WHOのガイドラインもそうなのですけれども、(9)のTransfusionあるいは(10)もそうなので すけれども、鳥インフルエンザが発症したときにはそういうことも言えないかもしれない。鳥インフ ルエンザが発症した場合には、バイレミアが起きる可能性はあると言われております。実際にタイで 鳥インフルエンザに感染した方の血中を調べたところ、いくつかの例でバイレミアが起きていますの で、鳥インフルエンザについてはバイレミアのリスクはあります。  (12)はFDAのドラフトで、まだガイドラインとしてフィックスされておりませんけれども、今回の H1N1のインフルエンザウイルス血症についてはこれがいちばんよくまとまっていると思います。H 1N1に関しては、バイレミアを起こす可能性についてはかなり低いけれども、完全に否定はしていな いようです。バイレミアを起こすかどうかについては、最終的にはいくつかの検体を調査中だという ことで、その結果が出てから答えが出てくるのだろうと思います。  もう一つは今回の課長通知にあるようなことに関連して、もし献血後1日経って、2日経ってインフ ルエンザが発症した場合にはどういう対応をとるか。このFDAのドラフトの中で述べられているの は、血液製剤の安全性に関するディレクターみたいな人がいます。正式に名称は訳せませんでしたが、 その方がリスクを判断してほしいと。それぞれ個々のベースに応じて、ケース・バイ・ケースで判断 するのだろうと考えられました。これを通じての最終的な答えは後で議論させていただきたいと思い ます。文献に関する報告は以上です。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料4-3を事務局より御説明いたします。先月、アメリカのFDAにお いて諮問委員会が開かれ、その中でもこの案件について議論が行われました。在米の日本大使館の者 が傍聴していましたが、まだ正式なレポートはFDAからホームページには出されておりませんが、 速報ということで資料を用意させていただきました。ポイントは五つあります。FDAの諮問委員会 において、FDAから安全性への影響についてこれまで分かったことの報告がされております。  2009H1N1インフルエンザウイルスにおいては限られた情報しか得られていないが、米国その他の地 域においては、これまで輸血により季節性インフルエンザに感染した事例は報告されておらず、同様 に輸血により今回の新型インフルエンザに感染した事例は報告されていない。現時点において、新型 インフルエンザに感染した無症候状態の血液や血清からウイルスは分離されていないが研究は継続中 である。新型インフルエンザはエンベロープ・ウイルスであるので、血漿分画製剤には一般的に安全 と考えられる。問診の際には、しっかり健康状態を確認しているので、スクリーニングは適切に行わ れている。それから、保健省などと協力していろいろメッセージの発出などをやって、今のところ血 液供給は堅調に推移している。  こういう報告がされております。以上です。 ○高橋委員長 資料4-4についてお願いいたします。 ○日本赤十字社 資料4-4の説明をさせていただきます。日本赤十字社では国の通知に基づき、先ほど の資料4-1にありましたように、本年5月から献血後7日以内に新型インフルエンザ、又はその疑いの 診断を受けた献血者からの申告情報により、当該献血者血液由来の血液製剤の供給停止及び回収を行 っております。  今回このように念のための措置として、確保又は回収した血液製剤、つまり新型インフルエンザの 潜伏期間と思われる献血者血液96名分について、日本赤十字社中央血液研究所において、本ウイルス の検出を行い、ウイルス血症の有無、つまりウイルスが血中に存在するかどうかについて調査いたし ました。方法は、国立感染症研究所の検出マニュアルに従い、TaqMan Probeを用いたreal-time RT- PCRにより血漿製剤及び赤血球製剤について、A型インフルエンザウイルス共通のM遺伝子、及び豚イ ンフルエンザウイルス由来H1のHA遺伝子の検出を実施いたしました。  陽性コントロールとして、国立感染症研究所から分与していただいたH1N1 2009不活化ウイルスを用 いました。2ページにわたって表がありますが、表のとおり96検体すべて陰性でした。併せて献血年 月、性別、年齢群、献血から診断までの日数についてお示ししております。40検体42%が16から19 歳、24検体25%が20から24歳、11検体11%が25から29歳で、全体の78%が30歳未満でした。以 上のことから、潜伏期間と思われる献血者では、新型インフルエンザA/H1N12009のウイルス血症は認 められませんでした。以上です。 ○高橋委員長 資料4-1から資料4-4を通じてお話がありましたが、そのことに関して先生方から御意 見、御質問がありましたらお願いいたします。 ○山口委員 先ほど、意見は後にしようということにいたしましたが、日赤から出していただいたデ ータだけを見ますと、ほとんどバイレミアになる可能性は非常に少ないというかほとんどないだろう と今のところは思えます。FDAの方でも、それ以外の論文でもそうなのですけれども、輸血で感染 する可能性があるのは、無症候で、かつバイレミアが起きるという二つのことが重ならない限り起き ないだろうということで、非常にリスクは低い、ということが一般的にいろいろな所の文献には書か れています。そういう意味では、現時点では一定の安全性はあるのかと思います。  ただ、ちょっと気になりますのは、ゲノムの安定化というのがあります。流行して、安定化してい ったときに変化してくる可能性がある。初めて入ってきたウイルスというか、それ以外にクロスする ものがあるという話もありますが、初めて入ってきたウイルスであるということを考え、またヨーロ ッパで少し変異が見られるということも考えると、一定の上積みの安全措置として資料4-1を継続する 方がいいのではないかと思います。ただ、この検査を継続するかどうかについては、ここまでやって いればという気もするのですけれども、どこで切るか、例えば、FDAでは2日までと言っていて、7 日までは言っていない。2日にするのと7日にするのとではかなり混乱しそうな気もするので、その辺 は御意見があればいただければと思います。 ○高橋委員長 山口先生、今言われたバイレミアになるのと無症候が重なるということでしたけれど も、先生が調べられた鳥インフルエンザなどで、バイレミアになるというのはかなり症状が激しくて、 急速に発症するケースでバイレミアが確認されるということですね。 ○山口委員 その前の状況というのは、鳥インフルエンザではほとんど分からないわけです。実際に 発症しているときにバイレミアになっているという、そのことしか分かっていないわけです。献血し た後に発症したケースなどほとんどないです。 ○高橋委員長 普通に献血できるぐらいの潜伏期のレベルでバイレミアになっているかというと、か なりリスクは低いような気がします。 ○大平委員 インフルエンザで症状が出ている方が献血ルームへ行くことはほとんど少ないのではな いかと思います。モラルとして、もしかして風邪ぎみだというようなときには、逆に献血に行ったら ほかの献血者に迷惑をかけるとか、献血に従事している職員に迷惑をかけるということを考えるとか なり少ないように思います。  教えていただきたいのは、アメリカの検査の情報はここに出てきているのですけれども、実際に採 血された血液はどのようにされているのかがここには出てきていないです。分かった場合には、米国 でも破棄されているのか、どうされているのか。 ○高橋委員長 ディレクターが判断するというような。 ○山口委員 そうです、個々のケース・バイ・ケースで判断するということで、一律の基準があるわ けではないようなのです。ですから、その判断に苦しむところがあります。今のところ先ほどの報告 にもありましたようにポジティブな例はないのですけれども、まだその解析が継続中であるというこ とで、たぶん全体のデータがまとまってからだと思います。これもドラフトでまだ確定していないも のですから、そういうものを全部含めて確定してくるのではないかと思います。 ○日本赤十字社 日赤では研究用に回収したり、出庫を差し止めた分については使わないということ です。将来使えるような準備も現時点においては一切しておりません。 ○岡田委員 新型といっても、この論文の中で弱毒型と、鳥インフルエンザのように強毒型がありま す。強毒型ですと全身感染です。今回の豚インフルエンザは強毒ではなくて弱毒に遺伝子の構造上分 類されますから、通常のインフルエンザと同等か、もう少し病原性が強いかというところです。鳥イ ンフルエンザと同等に議論するとちょっと問題かと思います。  我々の研究所の感染病理部が、実際に発症して2日ぐらい経った方の血液を16例検討してみたが陰 性だったという話を聞きました。4例は、インフルエンザが原因で死亡された方の剖検例を検討してい て、その死亡された方の何例かは経時的にサンプルを採っているのですが、それも血漿からは陰性だ ったと。症例が少ないから、これで陰性とは言えませんけれども、発症していても通常の核酸増幅検 査では検出感度以下ぐらいのインフルエンザだと考えられます。  全くゼロというのはなかなか難しいです。血液400mLを入れますので、その中に本当にいないかと言 われるとなかなか難しいと思います。インフルエンザの型等を考えると、血液中にインフルエンザウ イルスが混入するというのは非常に低いだろうと考えます。混入した場合に、インフルエンザは、今 まで我々が扱ってきた血液を媒介するウイルスはそのまま標的細胞がありますと感染します。インフ ルエンザは、通常では感染しないです。インフルエンザウイルスの表面にあるHAがプロテアーゼで ある程度分解しないと、細胞に吸着できません。それが弱毒の場合は咽頭とか喉頭に存在するプロテ アーゼによって、HAの解裂が行われて、細胞感染します。強毒型というのは、身体中に存在するプ ロテアーゼによってそういう変化が起こって全身に感染が成立するということで違います。そう考え ると、ごく微量のインフルエンザがたとえ体内に入っても、血中に解裂を起こすようなプロテアーゼ がなければ感染は成立しないことになるかと思います。 ○高橋委員長 今までのお話をまとめますと、季節性インフルエンザを含めて、これまで輸血を通じ てインフルエンザに感染したというはっきりした報告はない。新型のH1N1のインフルエンザによる ウイルス血症については、少なくとも無症候性の献血時に不顕性感染の方からは確認されていない。 日赤のデータでもそうですし、そのほかの文献でもない。山口先生が言われた、潜伏期であって、し かもバイレミアという条件というのは、両者が合致する確率は極めて低いと思いますので、血液を通 じて、今の新型H1N1インフルエンザが感染する可能性は極めて低いと言っていいのではないかと思 います。  ただ、各国とも引き続き調査をしていますし、日赤も最大限の対策を取っていただいています。そ れは過剰かもしれませんけれども、引き続きあらゆる可能性を考慮し、当面現在の対応を続けていた だいてよろしいのではないかと思います。先ほど、7日を2日とか、このPCRをどこまで続けてチェ ックするかというお話がありました。あるいは血液を使うのか、使わないのかということがありまし たけれども、やはり最大限にリスクを考えて、それで安全を確認してから、もし本当に必要であれば 縮小するということですので、それでやっていただいたらいいのではないかと思います。  次もその他の議題ですけれども、英国滞在歴にかかわる献血制限の見直しについて御審議いただき ます。これは、前回の運営委員会において一度御審議いただいた案件ですが、文献のレビュー報告に ついて、そのときに岡田委員、山口委員から御説明いただきました。本日はお二人の先生に来ていた だいてvCJDのリスク、そのほかに関しても御説明いただく予定です。事務局、山田先生、梯先生、 日本赤十字社から順次御説明、御発表をお願いいたします。 ○事務局(難波江課長補佐) 資料5-1について事務局より御説明いたします。これは前回お配りした ものと同じものです。vCJDに関し、欧州渡航歴に関する献血制限というのは、1980から1996年の 間に通算6カ月以上英国に滞在された方からの献血については御遠慮願ってまいりました。その後平成 17年2月に、日本において第1例が出ました。その方が1カ月程度英国に滞在していたという情報が ありましたので、運営委員会で御議論いただきまして、1980年以降に1カ月以上滞在された方の献血 の制限を行ってまいりました。さらに24日という情報が入ってまいりましたので、また運営委員会で 御議論いただきまして、暫定的に予防的な措置として、当面の間1980から1996年の間に1日以上英国 に滞在した方からの献血の制限をしてきました。以下は、当時の通知を添付しております。資料5-1に ついては以上です。  資料5-2は海外の状況です。ほかの国がどのような制限をかけているかというものです。アメリカは 英国渡航について、現時点で1980から1996年に3カ月以上滞在した方からの献血の制限をしておりま す。カナダは二つあります。ケベック州を除いては、同時期に英国に3カ月以上滞在した方からの献血 制限をしています。ケベック州だけは1カ月以上という措置をとっております。フランスは、英国につ いては1年以上滞在された方。ドイツ、イタリア、オーストラリアは6カ月以上滞在された方からの献 血の制限をしております。以上です。 ○高橋委員長 それでは山田先生よろしくお願いいたします。 ○山田参考人 私は、プリオン病の研究班、クロイツフェルト・ヤコブ病CJDサーベイランス委員 会を担当しております、金沢大学の山田です。私は変異型CJD、vCJDの国内外の発生状況につ いてお話いたします。一つはvCJDの発生状況、もう一つは国内におけるプリオン病全体の発生状 況について、資料5-3に沿って説明いたします。  これは、現在世界におけるBSE及びvCJDの発生状況を示しております。左側の表にBSE、 vCJDの数があって、UK、アイルランドと国別に並んでいます。BSEの数が多い国の順に上か ら並んでいて、最後のところはOther countriesということで、20頭未満の所はその他で一括してお ります。欄外に、それ以外にどんな国があるか、vCJDに関して書いてあります。BSEがいちば ん多いのはイギリスで18万4,594頭で、今現在vCJDの発生数は170例です。この中に3BTと書 いてありますのは、輸血例が3例含まれるという意味です。そのほかではアイルランド4例、ポルトガ ル2例、フランス25例、スペイン5例、イタリア2例、オランダ3例と続いて、日本は英国滞在歴の ある1例です。(UK)と書いてあるのは、英国滞在あるいは居住歴のある方という意味です。それ以外 の国に関しては欄外に書いてあります。フランスに関してはBSEの発生数に比べて、vCJDの患 者数が多いということが目立ちます。これは、英国の牛肉が輸入されていたからと説明されておりま す。  これは、英国におけるBSE及びvCJD数の推移を見たグラフです。横軸が年、縦軸の左側がB SEの数、右側がvCJDの患者死亡数のグラフです。これを御覧になると分かりますように、大体8 年ぐらいの差で両方のピークがずれております。下の方に矢印が付いていて、1989年のところですが、 特定危険部位、ウシの臓物をヒトが食用とすることを禁止されたのが1989年11月です。もう二つ矢印 がありまして、MRMといって機械的そぎ落とし肉ですが、そこには脊髄組織や後根神経節が混入し ていると言われています。それが、ウシの頭部に関して禁止されたのが1992年、脊椎に関して禁止さ れたのが1995年です。その矢印の間に*が付いていますが、この1990年のときに日本で唯一の患者が 1990年前半にイギリスに滞在していた時期です。これを見ますと、英国ではvCJDの数はかなり減 少していっています。まだ発生はしておりますが、減少していっています。  これは、フランスにおけるBSE及びvCJDの推移です。グラフの作り方はイギリスと同じです。 先ほど言いましたように、フランスのvCJDの発生は、英国からの牛肉の輸入が関係していると言 われていますので、本当はこのグラフの中に、英国からの牛肉の輸入が入っていなければいけないの だと思います。フランスのBSEとvCJDのピークの差というのはイギリスよりも短くて、おそら く4年ぐらいではないかと思います。フランスは減っていますけれども、まだ少数ながらvCJDは発 生しております。  今回問題になっております、vCJDの二次感染についてお話いたします。BSEのウシを食用に して、それが消化管のリンパ装置、そしてリンパ系組織に感染が成立して、それが脳に行くと病気と してのvCJDが発症すると言われています。ですから、今回問題になっておりますような輸血・血 液製剤の問題は、まだ脳の病気が発生する前にリンパ系組織にvCJD感染が成立するときに、発症 前の方が献血されたときにそういうことが起こり得るし、あるいはリンパ系組織は内臓に広く分布し ておりますので、そういう所の手術が行われた場合、手術器具が汚染されることになり、それもリス クになり得るわけです。普通のCJDの場合は、脳の手術、中枢神経系の手術が専ら問題になるわけ ですが、vCJDの場合はそういうことになるわけです。輸血・血液製剤によるvCJDの感染の疑 い例が5例あるということが、この辺りのまとめになります。  スライドの下の方にありますように、輸血例が4例あります。それらはvCJDを後に発症した患者 が献血した血液の輸血を受けた4例が感染を疑われています。3例は輸血約6年後にvCJDを発症し ており、1例は発症せずにほかの病気で亡くなられて、解剖のときに脾臓にのみ潜伏感染が見出されて おります。  vCJDを発症するかどうかは、プリオンタンパク遺伝子(感染因子プリオン)のコドン129に多型部 位があるのですが、その多型部位がメチオニン・メチオニン(MM)かメチオニン・バリン(MV)か、 バリン・バリン(VV)の3つの多型があります。その多型のうち、MMを持っている方だけが発病して おります。今までvCJDを発病している方は、皆さんコドン129のMMを持っていらっしゃる患者さ んです。この輸血例も、発病した例の調べられた2例はMMです。潜伏感染で亡くなられた例は、発病 に抵抗すると言われているMVのコドン129多型を持っていらっしゃいました。  それに関連したスタディとして、のちにvCJDを発症した患者さんが献血した輸血を受けて5年以 上生存した場合の感染率は、13%と計算されておりました。5例のうちの1例は、血液製剤例です。こ れはvCJDを6カ月後に発症した患者さんが提供した血漿から製造された第VIII因子製剤を、1999 年以前に使用された血友病患者さんが、最近70歳で死亡されたと。この患者さんも神経症状はなくて、 剖検で脾臓にvCJD型の異常プリオンタンパクが見出された潜伏感染例です。  そういうことを受けて、潜伏感染ということが問題になりますので、BSEが多発した英国でどの ぐらいvCJDが潜伏感染しているのかを調べるスタディが、英国で行われてきました。下にありま すように、これは2004年に発表されたスタディですが、英国における虫垂あるいは扁桃切除標本1万 2,674例中3例の虫垂標本で陽性だったと。単純計算しますと、人口100万当たり237の陽性率という ことになります。この3例の虫垂陽性例のうち2例がDNA解析可能で、問題になっているコドン129 はVVという発病しにくい遺伝子型であったということが報告されております。さらに、最近英国に おいて非常に多数の扁桃切除標本の解析が行われ、最もvCJDが多発しているbirth cohort、1961 から1985年生まれのコホートの1万2,753例中すべてが陰性であり、そのほかのコホートも全部陰性 であったというスタディが今年報告されています。次のスライドをお願いします。  これが最近『British Medical Journal』に報告されたスタディで、扁桃陽性例はすべてゼロなので す。この表の1961から1985に黄色い線が引いてあります。これを御覧になれば分かりますが、最もハ イリスクと考えられているコホートの1万2,753例中ゼロで、95%Confidence Intervalで100万人当 たり0から289という計算になっております。右のほうに過去のスタディがありまして、扁桃のほうは ゼロなのですが、虫垂のほうが3/10,278、100万人当たり292名、95%Confidence Intervalで60か ら853という数字が出ております。  次に、我が国におけるプリオン病全体をお示しします。これは人口動態統計のCJDによる死亡を 示した図です。右肩上がりの増加を示しており、現在では人口100万人当たり1年間に1.3人程度の死 亡となっております。これが本当にプリオン病が増えているのか、この病気に対する関心が高まって いるので診断が増えているだけなのかは今後の課題で、非常に丁寧なサーベイランスを長期にわたっ て続けていく必要があります。次のスライドをお願いします。  これは、最近10年間に我々CJDサーベイランス委員会が診断した1,324名のプリオン病の患者さ んの分類です。いちばん多いのがSporadic CJD、孤発性のCJDで77%を占めております。これは原 因不明のCJDです。2番目に多いのがGenetic prion disease、遺伝性のプリオン病で、これが16.6 %を占めております。3番目にEnvironmentally Acquired、獲得性のプリオン病が6.1%を占めてお ります。そこに1例の変異型vCJDがあって、残りはすべて硬膜移植後CJDです。硬膜移植例は我 が国で多発しており、1999年以降行われているサーベイランス以前の調査による例を加えると、現在 我が国では138例になっております。次のスライドをお願いします。  これは、何らかの原因で外から伝播したと考えられるプリオン病のリストです。1つはクールーとい う、パプアニューギニアの食人習慣でうつったと言われる特殊なものです。2番目に医原性CJD、こ れはいろいろあります。日本で多いのは硬膜移植例ですが、その他いろいろあって、いちばん最後に 書いてあるのが輸血あるいは血液製剤による変異型CJDで、これも医原性でうつり得るということ です。3番目に、BSE経口接種によると考えられる変異型のCJDに分類されます。赤で書いてある 硬膜移植例と変異型CJD1例が、我が国に発生しているということです。次のスライドをお願いしま す。  これは、医原性のものだけに注目した世界における医原性プリオン病の発生数です。いちばん多い のは硬膜移植例、それに次いでいるのが下垂体製剤の使用例で、硬膜移植例は200例以上ありますが、 そのうちの半数以上は我が国の例です。いちばん最後に書いてありますが、輸血/血液製剤によるもの が、3+2と書いてありますが、これはすべて変異型CJD(vCJD)で、3例は発症例、2例は剖検時 に脾臓にのみ異常プリオンタンパクが証明された潜伏例です。次のスライドをお願いします。  これは我が国に1例だけあるvCJDで、この例は先ほども御紹介がありましたが、2005年2月に 発生が確認され、2006年にLancet誌上に我々が発表したケースです。これは発症時40歳代の男性で、 1990年前半英国に24日程度、フランスに3日程度、他のヨーロッパ諸国に2週間程度滞在歴がありま す。2001年夏ごろ、英国滞在から11.5年のあと精神症状を発症し、2002年からは疼痛性の異常感覚、 認知症、失調、不随意運動などの多彩な神経症状を示しました。2003年1月に入院し、このときは特 徴的な脳波所見がなくて、コドン129がMMというvCJDに起こりやすいタイプでした。2003年11 月には無動性無言、全く動けない、しゃべれない状態になりました。  2003年12月の段階で、入院したときにこの患者さんの存在が我々CJDサーベイランス委員会に連 絡され、私が委員長をしていて、診察に行きました。このときには、右側にありますような脳波、こ れは「周期性同期性放電」といって、普通のCJDに見られる脳波が見られ、当時の診断基準ではこ れが出るとvCJDではないという基準がありました。診断はvCJDではなく、臨床診断ですが、 孤発性CJDという診断になりました。しかし、その1年前、2003年1月のデータは全くvCJDに 合致しているということがあり、要注意例ということでフォローアップしており、2004年12月に死亡 されて、剖検で下にありますような典型的なWesternブロットの所見が得られ、vCJD(変異型CJ D)と確定診断しました。この例が、2005年2月にすべての所見が揃い、我が国初の確実例ということ で報告されたわけです。次のスライドをお願いします。  12番目のスライドですが、細かくなるので簡単に説明します。これは2001年にWHOが出した、ど のようにvCJDが診断されるかということですが、このような基準で診断されておりました。とこ ろが、この診断基準にいくつかそぐわない点が出てきました。例えば、IのD.にある「明らかな医原 性の原因の可能性がない」ということは、輸血例が出てきたので、「硬膜移植や下垂体製剤の使用歴 がない」ということに変えられました。また、IIIのA.にあります「脳波所見が孤発性CJDの典型像 を示さない」というのは、我が国の例が病気の経過中典型的な脳波所見を示して、診断が非常に惑わ されたということがあったので、病後期にはPSD、典型的な脳波所見が出現する場合があると、 EuroCJD、ヨーロッパ諸国のCJD診断基準では改定されております。次のスライドをお願いします。  問題になるのは、我が国でいわゆる原因不明の孤発性CJD(sCJD)と診断されている中に、実 は手術や輸血によって二次感染したプリオン病があるかどうかです。そこで、我々はCJDサーベイ ランスのデータに基づいてsCJDと対照例、プリオン病が否定された例の手術歴、輸血歴に関して 両者を比較しました。脳外科手術、眼科手術、その他の手術、輸血がありますが、これは患者群と対 照群の間に有意差を認めませんでした。両群年齢差があるので、年齢階層ごとの解析をしましたが、 有意差は認められませんで、現在sCJDを発症している患者さんの中には、患者さんが手術や輸血 がリスクになっている証拠はないという結果でした。これは今年米国CDCの機関誌の『Emerging Infectious Diseases』に報告しました。次のスライドをお願いします。  問題になったのは、孤発性CJD発症後にかなりの患者さんが手術を受けている、結局、それは取 りも直さず手術器具などが次の患者さんへのリスクになり得るということで、それが問題になりまし た。ここに書いてありますように、脳外科手術が0.8%、脳に次いでリスクがややあると言われている 眼の手術が1.9%、脳外科、眼科以外の手術が2.1%の患者さんに行われていて、こういった医原性の 二次感染の問題についてはさらに十分注意していかなければいけないということが分かりました。  まとめますと、vCJDの数は、英国でも発症数は減少しつつあること、我が国では、2005年2月 に確認された1例のみであること、発症者はすべてプリオンタンパク遺伝子コドン129がメチオニン・ メチオニンの(MM)であるということです。輸血・血液製剤例が疑われる例が全部で5例あって、その うち3例は発症例で、遺伝子は調べられているようにMM、2例は潜伏例で、そのうち遺伝子を調べら れた1例はMVであること、虫垂で潜伏感染が考えられた例は、コドン129はVVであったということ です。以上です。 ○高橋委員長 どうもありがとうございました。次いて、梯先生に数理モデルによるリスク評価のご 発表をお願いします。 ○梯参考人 それでは、英国渡航に由来するvariant CJD感染リスクの評価、献血制限のあり方につい ての参考情報ということでお話します。次のスライドをお願いします。  英国渡航に由来してvariant CJDに感染するリスクと、感染者が献血をし、その血液が輸血されるこ とを通して、感染がどんどん拡大していくのかどうかを数理モデルを使って評価しましたので、献血 制限の効果と併せてお話します。この研究は、国立医薬品食品衛生研究所の山本部長を班長とする研 究班の行った研究の一部です。次のスライドをお願いします。  全体の話の流れですが、最初に、日本人がイギリスに渡航することによって現地で汚染された牛肉 を食べ、感染が起きるリスクを評価します。次に、その方から献血や輸血を通して、どういう形でど の程度のリスクで広がっていくかという問題について考えます。最後に、献血を制限することによっ てそれをどれぐらい下げることができるか、そういう流れでお話します。次のスライドをお願いしま す。  1番目の英国渡航に由来するリスクの評価ですが、最初にイギリスにいること自体によってどういう リスクがあったか、これは実際イギリスの方が発症しているということ、またBSEのウシが発生し たことを基に検討しました。次に、そこへ日本人が渡航して、一定期間滞在して戻ってくるというこ とですが、そういう方が日本人で何人ぐらいいたかを評価します。次に、それぞれの方がどれぐらい の滞在日数であったかを検討した上で、イギリスのデータから得られた潜伏期間を基にして、日本人 で渡航した方がイギリス人と同じリスクで発症するとすると、どういう形で発症していくのかを予測 します。そのとき、先ほど山田先生がお話になったコドン129の多型の問題があるのですが、それを考 慮して計算を行います。最後に、その予測が合っているかをちゃんと見てみようという流れになって おります。次のスライドをお願いします。  まず、イギリスに滞在することによってどういうリスクを受けただろうかということですが、基本 的にはBSEに感染したウシの、特に神経関係、脳などを食べることがいちばんのリスクと考えられ ているわけですが、青い線で示しているのが先ほど山田先生もお示しになったイギリスでのBSEの ウシの報告数です。同じ山田先生のスライドにありました1989年から特定危険部位の除去が始まった ということで、実際に人の口に入るというリスクを考えると、1990年ごろを境にほとんどのリスクが 除去されるようになったと考えられます。これは同じ研究班のメンバーである東京大学の吉川先生の 推測に基づいてこういう形であっただろうと考えております。これがイギリスに滞在したときのBS Eのリスクであろうということです。次のスライドをお願いします。  もう1つは日本人の渡航者ですが、こちらが日本人のイギリスに渡航した方の数です。1980年ごろ から1996年までのデータをお示ししておりますが、渡航者数はどんどん増えています。特に最近では 女性の方の率が増えている傾向が見られますし、1990年の直後に少し減っていまして、これは国際情 勢の影響だと思いますが、そういうことが見て取れます。基本的にはこの期間ずっと増えてきている ということです。次のスライドをお願いします。  次は滞在日数ですが、英国に限った滞在日数のデータがありませんでしたので、出入国管理統計年 報から日本に帰国した方の滞在期間の分布を調べてみました。区切りが5日以内、10日以内、15日以 内、20日以内、1カ月以内、2カ月以内、3カ月以内、6カ月以内、1年以内、2年以内、3年以内、5年 以内、10年以内で、ほとんどの方が10年以内ということになります。左から順に色分けをしてお示し しておりますが、御覧のとおり半分以上の方が5日以内の滞在であると。次に多いのが10日以内で赤 い部分、次が15日以内と続きますが、あとは非常に数としては少なくなっていることが分かるかと思 います。1年以上の方は、1980年から1996年をお示ししておりますが、いずれの年でも1年以上は5 %未満であったということが分かりました。次のスライドをお願いします。  先ほど、どれぐらいのリスクが各年次にあるかお示ししました。その結果、もう一度お示しします が、variant CJDの患者さんの発生はここにお示ししているようなグラフになっています。この間に潜 伏期間があります。普通ですと感染が成立してから潜伏期間が何年ということをそのとおり計算して いって、何年後には何人と予測をするのですが、統計的な手法で、何年に何人発症しているので何年 前にどれぐらいのリスクを受けているはずだという、逆に計算する「back calculation」という手法 があります。こちらに示しました本に、私がChapterとして詳しい説明をいたしております。そういう 手法を使ってこのときのイギリスの潜伏期間を統計的に推測しました。次のスライドをお願いします。  これがその結果です。いろいろな分布パターンが使用されていますが、よく使われるワイブル分布 と呼ばれるもの、機械の故障などでよく使われるのですが、そういう分布を当てはめて、平均とか分 散とか分布の形がいちばん合うようなパラメータを選びました。イギリスのBSEのリスクとイギリ スのvariant CJDの患者さんの発症をつなぐ、いちばんフィットする潜伏期間の分布が、左側にお示し している平均が11.5年という、ピークが少し大きいほうに寄っていて左右対称ではないのですが、そ ういう潜伏期間になっています。これがイギリスのデータに基づく潜伏期間の分布となります。  実際にこの潜伏期間に基づいて、これは死亡した時点のデータですが、リスクからイギリス人の variant CJDの発症の予測値を取りますと、赤い線がデータであるのに対して、青い線のように、細か いところでは「ずれ」もありますが、おおむね非常によく一致した結果を得ております。この結果を 使って、日本人が何年に平均何日ぐらい滞在しているかが分かっていますので、潜伏期間の分布を使 って、今度は日本人の滞在というリスクから日本人の中で何人の方が患者さんとして発生することが 予想されるのかを素直に計算しました。次のスライドをお願いします。  これが今お話した方法なのですが、その方法に基づいて、先ほどコドン129の多型の話がありました が、実はイギリス人で最もvariant CJDの可能性が高いと言われているMMのホモの方は37%と言わ れています。日本人では、そのホモの方の割合が非常に高くなって、93%と言われております。です から、イギリス人だと思って計算した値を93/37倍、約2.5倍して日本人の発症人数ということで予測 しました。その結果ですが、簡単に言いますと2007年までに0.06人、これは期待値ですが、これだけ の方が発症する、お亡くなりになるという予想です。次のスライドをお願いします。  実際にどの年次にどのぐらいの方が発症すると考えられるかですが、1990年から少しずつ高まって、 2000年を過ぎた辺りにピークが来て、あとはだんだんと下がっていってなくなっていきます。イギリ スでのばく露が大体1990年の直前、あるいは1990年ごろにピークがあると考えられますので、それか ら約11、12年後にピークが来ています。先ほど、潜伏期間の平均値がそういう値でしたので、それに 合った予測となっています。いちばん高い年でも0.008という人数です。次のスライドをお願いします。  今の予測が本当に合っているかということですが、0.06と言いながら、実際には先ほど山田先生が 御発表になったように、日本人でお一人の方が発症し、死亡されました。0.06人の予測なのに1人発 症するというのは、統計的にこの予測が間違っているという、いわゆる「棄却」ができるのではない かと思われる方もあると思いますので、もし、分布がポアソン分布として平均値が0.06のときに、1 人以上の発症する方が出る確率を計算しました。そうしますと、約5.82%ということで、通常よく使 われる5%の有意水準では、このモデルの計算を棄却することはできないという結果になります。2人 以上の場合には同じく0.17%、これは非常に低くなりますので、もしもう1人イギリスに渡航したこ とに由来する患者さんが発生すると、私の計算はどこか間違っていると考えなければいけませんが、 幸いにして今のところ2例目という御報告はありませんので、棄却はされずに、計算結果は誤りとはな りません。いずれにしても、この結果が正しいとすると、2人目の患者さんが発生する可能性は非常に 低いであろうと予想されます。次のスライドをお願いします。  ここからが献血や輸血によるリスクの評価ですが、流れとしましては、まず献血をされる方が、何 歳ぐらいの方がどれぐらいのパーセントで毎年献血されているのか、その血液を輸血される方、手術 を受ける方がどういう年齢分布で、年間何例ぐらいあるかを、いろいろなデータに基づいて調べる。 次に、献血をされて血液が貯蔵されるわけですが、それがどんどん使われていく過程で感染が起きる かどうか、感染が拡大するかどうかに注目をして計算をするというシミュレーションを行いました。 次のスライドをお願いします。  まず、献血の現状です。この委員会の先生方にこのようなことを御紹介するのは大変恐縮ですが、 10歳刻みに献血率のパーセントが書いてありましたが、モデルのほうが5歳刻みの年齢階級を用いて いますので、どの10歳刻みも前半と後半は同じという形で、2本ずつ並んだ棒グラフになっておりま す。このような実際の献血のパーセントに基づいて献血をされるということをデータから仮定しまし た。全体で約500万人ぐらいの方が献血をされて、献血の量にして400mLで300万人ぐらい、200mLで 50万人ぐらいなのですが、あとで計算しますと、献血をされた量がここに書いてありますが、輸血を されたほうの総量と差が気になるほどあります。ここは少し気にしているので、もし教えていただけ ることがありましたら、是非お願いします。次のスライドをお願いします。  今度は輸血をされる方です。社会医療診療行為別調査というものがあって、冊子のものもあるので すが、年齢別のデータがほしいということで、冊子には残念ながら載っていなかったのですが、ホー ムページからレセプトデータを調べた結果、輸血を受けた方の年齢分布が分かりました。輸血の件数 が延べにして150万件、200mL勘算で400万本ぐらいの血液が輸血に使われていると。御覧のように、 高齢者の方に非常に輸血をされる方が多いことが分かります。ここで約400万本ということですので、 先ほどの量からすると少し減っていると。ある程度、100%使い切ることはないし、ほかの用途にも使 われることがあるのかもしれません。ここは気になっておりますが、大筋ではこういう形になってお ります。次のスライドをお願いします。  次に、今献血と輸血の年齢別の構造が分かりましたので、ここに今の日本の人口構造に近い1億 2,000万人規模の人口で、毎年出生をし、一定の率で死亡して人間が入れ替わっていくと。モデル上は 平均寿命が82歳前後で、合計特殊出生率が今小さくなって問題になっておりますが、1.54と。今の数 字よりは少し高いかもしれませんが、今の状況から離れていないものを仮定して、数十年にわたる献 血から輸血を通しての感染拡大の計算をしました。  初期条件ですが、先ほど日本人の中で2人目の感染者が出る可能性は非常に少ないと仮定をしました が、0人でシミュレーションしたのでは1人も患者は発生しないので、出発点としてお1人の方が1990 年に感染を受けて帰国して、そのまま献血とか、普通に生活をされていたという想定をしました。次 に感染に関する仮定ですが、潜伏期間についてもイギリスで実際に牛肉を食べて感染をしたという方 と同じ潜伏期間の分布を仮定しました。プリオンの入った血液を輸血されても発症しないことがある かもしれませんが、ここでは必ず感染が成立するという仮定で計算をしました。今は輸血経験者とか 海外渡航者の献血制限がかかっておりますが、それを外した上で計算をしました。ですから、かなり Over Estimateするというか、上限を計算しようという趣旨になっております。  もう一つは、輸血を経験される方は何らかの疾患等をお持ちなので、実際には死亡率が高いもので すから、そのあとの感染に寄与する可能性が低くなるのですが、それも先ほどのOver Estimateすると いう観点から死亡率の増加も想定しておりません。ですから、相当最悪な場合を仮定している状況で す。次のスライドをお願いします。  その結果がこれです。1990年から始まり、まず献血によって感染者が発生する、いわゆる罹患率を 見てみます。1990年から2020年までを見ておりますので、先ほどの例のように2000年を過ぎた辺り にピークがあって、ピークが約0.6ぐらいになると。ピークは実際に細かく見ると2003年ぐらい、こ れは有病数、要するに人数で出ておりまして、その時点で何人の方が有病者であるか。それを、今度 は累積の発症者数で数えていくと、2010年代前半までにほぼ発生する方が発症を終えるということで、 最終的に2020年には0.563、最後までずっと見ていっても0.59ぐらいで止まるという結果になってお ります。少し累積発症者の数が減るように思われるかもしれませんが、それは発症する前に亡くなる 方が出てくるためです。先ほど輸血を受ける方が高齢の方に多いというお話をしましたが、輸血を通 して感染が起きると、その方は高齢の可能性が高いので、結構死亡率がかかっているということです。 それが1つの感染が拡大するブレーキにもなるかと思いますが、こういう結果になりました。最終的に 0.6人未満の方が発症するのではないかと予測されます。これが献血制限等を全くしない、かなりのワ ーストケースシナリオで計算した場合の数値です。次のスライドをお願いします。  先ほど申しましたように、感染した方の年齢分布を見ると圧倒的に高齢者の方が高い。85歳以上を まとめておりますので、ここにかなりの方が集中しています。85歳以上では、年齢が高くなってもそ れ以上死亡率が上がらないことになっておりますので、そこは実際以上に人数が多くなっているかと 思われますが、そういう結果になっております。次のスライドをお願いします。  最後に、献血制限によって先ほどのリスクがどれぐらい下げられるかです。モデルのほうでは、直 接に献血制限をシミュレーションできるような形になっておりませんでしたので、全体のリスク量を 考えたときに、献血制限によってどれぐらいのリスク量がそこから除去できるのかという形で、参考 となる数字を計算してみました。まず、1989年時点の滞在日数の分布を代表として取り、そのとき例 えば5日未満、いちばん左の棒グラフですが、その場合が55%。1カ月以内は、5本目ですが93%ぐら いの方が制限から外れます。ある程度の期間を超える場合だけ献血制限をするとしますと、かなりの 方が献血制限から外れます。したがって、献血に参加できるようになることが分かります。次のスラ イドをお願いします。  あとは、それによって献血が増えるのはいいが、リスクがどれぐらい残っているかを考えないとい けないわけです。献血に起因するvariant CJDの感染拡大の絶対リスクは、英国に滞在した日数と人数 を掛けた量と考えていただいたらいいと思います。それを、もし滞在が1年を超える方だけ献血制限を すると、半分とは言いませんが、43%以上の相対残存リスクが低減できると。半分近くと言うと言い すぎかもしれませんが、それぐらいに抑えられるということです。6カ月以上は駄目だけれど、6カ月 未満ならいいということにしますと、リスクは60%以上除去することができます。3カ月では約3分の 2、1カ月では75%、15日とすると80%以上と、それぐらいリスクが下げられます。もともと非常に小 さいリスクではあるのですが、さらにその8割が、2週間以上というか、15日以上の滞在に限り献血制 限を行うという条件により低減できると考えられます。参考とする数字ということですが、そういう 結果になりました。次のスライドをお願いします。  補足として、外国でもこういう数理モデルの研究がたくさん行われております。外科手術のリスク についての論文があって、実は私たちもそれに基づいてそういうシミュレーションをしたのですが、 こちらもいくつか仮定を積み重ねておりますので、これが絶対こうだという主張ではなくて、参考ま でに10回ぐらい滅菌をしても手術器具から感染するという、これもかなりOver Estimateの仮定を置 いているのですが、感染確率が3分の1程度よりも小さいと。実際にはもっと小さいのではないかと期 待されるのですが、その場合には手術器具でも感染拡大が起きないことが、先ほどの輸血と同じよう なフレームワークのシミュレーションで示されました。英国の研究では、Clarke、Will、Ghaniという Imperial College Londonのメンバーの論文で、白血球の除去とか献血制限、イギリスの場合には輸血 経験者の献血制限をすることになっておりますが、それが有効であるという結果を得ております。  ただ、一方ではドイツのDietz先生の研究グループでは、あまり輸血経験者の献血制限をしても効果 がないという結果になっています。数字的には、献血制限によって発生する患者さんの1%も減らすこ とができないという計算になっています。細かく見ると、Dietz先生の論文は、輸血を受ける方は次の 輸血も受けやすいという感染のばく露について集中分布が仮定されていて、それがあるとより感染し にくくなりますので、そういうことも影響しているかと思います。丁寧な仮定が設けられており、非 常に良い研究ではないかと思います。次のスライドをお願いします。  まとめますと、感染者がいる可能性そのものが非常に小さいのではないかということが1つあります。 さらに、それが基になって、献血、輸血というプロセスの中で拡大していくことも非常に考えにくい ということが結論として得られました。英国渡航に由来する新たなvariant CJDを発症する方は報告さ れておりませんので、幸いここで仮定している理論の根拠が毎日高まっているのではないかと考えて おります。献血条件を少し緩めるだけでも、かなりの方が献血が可能になるということがありますの で、これはコストとベネフィットのバランスになりますが、今十分献血制限のあり方を考えるタイミ ングになっているのではないかと思います。ただ、私どもの班はもともとBSEのサーベイランスの あり方の研究班だったのですが、BSEではいわゆる全頭検査の問題があって、科学的には全頭検査 をしても効果があまり期待できないことが分かっていても、国民感情といいますか、どうしても安心 ということが優先される中で、科学的な結論が必ずしも受け入れられないということがありました。 それはリスクを上手に伝えることがうまくできなかったということで、そのようなつまずきの例と思 います。本件でもこういう問題がかかわってくると思いますので、是非御検討いただきたい項目の一 つと思います。以上、簡単ですが発表を終わらせていただきます。 ○高橋委員長 どうもありがとうございました。最後に、資料5-5を使って、日本赤十字社から血液製 剤の在庫状況の推移、献血制限緩和による供給への影響についてご説明をお願いします。 ○日本赤十字社 日本赤十字の供給管理課長の大西でございます。よろしくお願いいたします。資料 5-5「新型インフルエンザが更に蔓延した場合の赤血球製剤在庫シミュレーションについて」御説明し ます。  1ページを御覧ください。このグラフは、年度別に赤血球製剤の全国合計在庫の推移を示したもので す。縦軸は赤血球製剤の在庫を単位数で示しており、横軸は4月から3月までの毎週金曜日の在庫を示 しており、平成16年度から本年度までの6種類のグラフとなっております。赤色の折れ線が今年度で す。平成20年度の濃い青色の折れ線と比較すると、本年4月以降昨年度よりも高い在庫で推移してき ており、特に9月半ばを過ぎてからはさらに高い在庫を維持しています。これは、本年7月の当委員会 にて御審議いただいた新型インフルエンザの蔓延に備えた献血量確保対策の一環として、さらなる蔓 延を想定し、その場合の大幅な献血者減少による在庫不足を補うための在庫量上乗せ措置を行ったた めであります。例えば、本年9月から11月の3カ月間において、昨年と比較すると移動採血車及び固 定施設で85回多く稼動させるなど、献血確保量を増やして在庫の底上げを図っております。  新型インフルエンザの蔓延による献血への影響については、すでに9月以降全国各地で見られており、 12月4日までの集計では、高校や大学等の学域献血で移動採血車110台分、企業等職域献血と地域献 血で54台分の献血の実施中止、又は延期が発生しております。この対策としては、適宜代替の献血会 場に振り替えて実施するなど、在庫の減少を最小限に食い止めているところです。この対策について も、本年7月の当委員会にて御審議いただいた新型インフルエンザの蔓延に備えた献血量確保対策の1 つとして、官公署、企業等の御協力をいただいております。  現在、適正在庫の維持が困難な冬場に入っており、中でも例年の在庫不足がピークとなる1月の献血 量確保が喫緊の課題となっております。  2ページです。そこで新型インフルエンザがさらに蔓延した場合に、赤血球製剤の在庫がどのように 推移するのかを御説明します。グラフを御覧ください。このグラフは、在庫上乗せ措置による本年12 月10日の予測在庫を起点として週単位で1週から18週目までの毎週金曜日の在庫予測数を示したもの です。本年5月の兵庫、大阪で発生した新型インフルエンザの影響を基にAパターンを作成し、これに Bパターンを加えて想定しました。  グラフの下の表を御覧ください。採血数については、Aパターンは発生後4週間、当初計画に対して 20%減少すると設定し、以下の週については表のとおりです。Bパターンは、Aパターンを基に、そ れぞれの期間において減少率を5%ずつ抑制させた設定としました。一方、供給数についてはAパター ン、Bパターンとも一律発生後2から3週で10%減少、以下の週については表のとおりです。Aパタ ーン、Bパターンとも正月明けから在庫が急降下し、Aパターンでは1月中には在庫がほとんどなくな ります。Bパターンでは1月の間は適正在庫を大きく下回ったままであり、安定供給への支障は避けら れない在庫状況となると予測しております。なお、両パターンとも血液センターの規模や血液型別の バランスを考慮した上で、安定供給の指標となる適正在庫を維持するために必要な量を、献血確保必 要数としてグラフ下の表、右にお示ししております。この2つのパターンの中で、採血の減少率を低く 設定しているBパターンにおいても、リスクを回避するには適正在庫を下回る1月の間において、おお むね2万単位分の献血が必要と考えられます。  このシミュレーションでの適正在庫を下回る1月の間、おおむね2万単位分の献血者確保対策として、 英国渡航歴の献血制限の緩和を実施した場合の献血数増加予測について、次のページを基に御説明し ます。いちばん上の表を御覧ください。平成20年度の献血申込者数は、延べ数で約620万人でした。 次にお示ししているデータは、日本赤十字社が平成17年3月16日から22日までの間、全国の8都道 府県において英国に1日以上滞在歴がある献血受付者数の状況を調査したところ、その割合は3.42% でした。  次にお示ししている表は、日本赤十字社が平成19年6月1日から10日までの間、全国にて調査した 全献血受付者数のうち、英国1泊以上と回答した献血受付者数の割合です。この表の左上段を御覧くだ さい。英国滞在日数が1から14日以内の献血受付者数は、英国滞在歴のある全献血受付者数の88.8% でした。このデータは、平成20年度の献血申込者数と、前段でお示した3.42%を基に算出しますと、 この表の右端に太枠で囲った部分でお示ししておりますとおり理論値上、年間約19万人の献血者を確 保することができるものと推測されます。また、英国滞在歴31日(1カ月)以内及び英国93日(3カ月) 以内の献血受付者数は、それぞれ英国滞在歴のある献血受付者数の94.9%及び97.0%であり、理論値 上それぞれ年間20万人及び21万人の献血を確保することができると推測されます。また、下のグラフ ですが、英国1泊以上滞在したと回答した献血受付者数の分布グラフです。大半は2週間以内の短期の 滞在であることが推測されます。  結論としましては、あくまでも理論値上の予測ですが、来年1月に新型インフルエンザがさらに蔓延 した場合には、献血確保対策として英国渡航歴の献血制限緩和は有効であると考えられます。以上、 資料の御説明をいたしました。 ○高橋委員長 どうもありがとうございました。だいぶいろいろな資料が出てきましたが、これらの 資料、今までの御説明について御意見、御質問はいかがでしょうか。 ○大平委員 いろいろ資料をありがとうございます。前回の運営委員会のときに一応方向性は出たの ですが、社会全体に説得力があるような資料が必要なのではないかということで揃えていただいたの だろうと理解しています。今回、新型インフルエンザの問題もありますが、基本的に献血制限の問題 で見直しの時期は図られていたのではないかというところがあります。英国滞在歴が1日以上という問 題で、あまり長く献血者の方たちに諦め行動みたいなものが続くことは、それがずっと続いていく中 で、献血の自粛や献血に対しての意欲が欠けてしまうのではないかというおそれを感じていたのです が、新型インフルエンザの問題も出てきたところで、リスクとしては、今日のお話の中では可能性と しては世界的にも低くなっているということで、そういう制限が少し緩和されて、献血者の意欲にも 合った形の献血の受入体制ができることは、歓迎すべきことなのではないかと思います。期間などは なかなか判断が難しいのだろうと思うのですが、専門家の先生たちにいろいろと考えていただいて、 岡田先生や山口先生から良いお話が聞けたらなと思います。 ○山口委員 山田先生と梯先生にはいろいろ説明していただきましてありがとうございました。前の 議論のとき、こういうバックグラウンドのデータというか、どのぐらいのリスクがあるかという評価 をまずインプットして、その上で判断できればと考えたわけですが、今日非常に貴重な御意見をいた だきました。もともと1日にしたというのが、暫定的で当面の献血の需給が問題なければということで、 セーフティのマージンを高く取った制限措置だったと思うのです。そういう意味では、年数的な話、 要するにこれだけの時期が経って、リスクの発症が非常に低くなっているときに、しかも導入してか ら5年経っているわけです。シミュレーションで示していただいたように、いちばん低減してくるよう な時期にあって、1つの見直すべき時期だろうと思います。  もう1つは、先ほどのインフルエンザのことでいくつか論文を読んでいて、今回はH1N1なのです が、H5N1が出てくれば献血そのものの対応をすぐに取らないといけなくなる。要するに、献血を集 める人たちの感染も起き得ることで、できるだけ早くそういう体制を取ってもいいのではないかと私 は思います。この前も意見を述べましたが、先ほどのシミュレーションで出していただいたように、 ほとんどの方が2週間以内のイギリス滞在歴で、海外の状況を見たときに、日数でやっている例がない わけです。ケベック州で1カ月という例があるだけです。ある意味で現場の混乱を招かないという観点 から考えるときに、これがいいかどうかは分からないのですが、私などは例えば1カ月の献血制限とい うのは、一つの考え方だろうと思うし、もしそのようにできれば運営も非常にやりやすいのではない かと思います。 ○高橋委員長 ほかにいかがですか。 ○大平委員 諸外国における資料が資料5-2で出されていますが、大変厳しく中ではやっているのがカ ナダのケベック州の1カ月以上というところで置かれています。日本は日本で独自に厳しい制限があっ てもいいのではないかとは思います。  諸外国を見て、かなり厳しく自粛しているのはケベック州の献血制限の滞在時期の問題かと思いま す。私も1カ月という感じの方向で、もし何か情勢が変わってきたら、即時に対応するという形でやっ たらいいのかと個人的には思っています。 ○岡田委員 英国の発生状況を考え、また日本の献血制限を考えると、日本人の場合はMM型が9割以 上を占めるということで、もし感染している方がいれば、多くの方はもう発症していると推定されま す。そういう面では残存している潜伏期というか、感染しても発症していない人数は、梯先生の統計 学的な計算からしても、1人よりもはるかに低い人数だと考えると、緩和することは理論的にも妥当か と考えます。  その次にどこに線を引くかが次の課題ですが、もともとのリスクは非常に低いので、実務上、実施 しやすいところで線を引くのがいちばんいいのかと思います。例えば、BSE発生から、もう10年以 上時間が経っています。英国に旅行に行って、10日と思っていたのが、献血したあとで考えたら11日 で、それをオーバーしていたということで、そうなると血液の遡及等をやらなければいけないので、1 日の違いでリスクがどう変わるかというと無視できると思います。実際の業務で、また人の記憶で曖 昧さを考えると、例えば1カ月ぐらいで線を引くのが実務上もいいのかと思います。 ○高橋委員長 意見はほぼ一致しているのではないかと思います。今までの参考人の先生方の御説明、 御発表、委員の先生方の今の御意見を総合しますと、一つはこの献血制限の歴史です。そもそもは平 成17年6月から予防的、かつ暫定的な措置として1980年から1996年の間に1日以上英国に滞在され た方からの献血を制限するということでやってきたわけです。  その当時もこんなに根拠がしっかりした議論はむしろなされないで、リスクに関して相当高めに評 価して、献血者の志の尊重などの問題もあったのですが、安全第一ということで、あくまでも暫定的 に決めましょうと。そのときの条件としては血液の相対的な供給不足があってはならないということ で、日本赤十字社にシミュレーションもしていただき、あるいはそれを受けてキャンペーンを展開し てやったという歴史があると思います。もう少し明記して、いつの時点で見直すということを書いて おけばよかったのですが、その時点でも新たな知見が得られた場合や、血液の安定供給に重大な支障 が生じる場合には見直すとされてきたということがあります。  それから、今日の話で非常によく分かったのですが、イギリスにおいて牛のBSE、人のvCJD の発症のピークは過ぎて、日本で初の感染者が確認されてから約5年経過し、その後感染者が確認され ていないという事実、それから、数理モデルに基づいた推計のリスク評価では、日本にさらにもう一 人感染者が存在する可能性は極めて小さい。献血・輸血に起因するvCJDの感染拡大のリスクが非 常に小さいということが示されたと思います。  一方、いろいろな要素で少子高齢化の影響や、今回の新型インフルエンザの流行などで、毎年冬場 の在庫が厳しくなります。大変な現場の御努力で何とか維持しているわけですが、このままだとさら に厳しくなります。本当の鳥インフルエンザとか、もう少し激しいことが起こると、なかなか対応し 難いような事態が起こります。  当時はあまりはっきりしなかったのですが、諸外国の対応がここまで整理されております。5-2の表 が非常に分かりやすいのですが、諸外国でも3カ月以上とか、6カ月以上、あるいは1年以上が多くて、 ケベック州が1カ月というのがいちばん短い。日本のように1日以上という例はなかなかなくて、それ を長期的にこれ以上継続するかということが、先ほどの献血者の意欲をそがないかということ。将来 的な安定供給への影響を考えると、リスクが小さくて、逆に献血制限による不要の問題が生ずる。そ ういうことを考えると、そろそろ滞在歴1日以上という献血制限を緩和していいのではないか、それが 妥当なのではないかということだと思いますが、いかがでしょうか。今までの御意見だと、大体そう いうことでまとまったのではないかと思います。 ○山口委員 今の結論で結論だと思います。この前も議論になったのですが、日赤は対応するのにち ょっと時間がかかるという話でしたが、ここで、あるいは最終的には部会でなければいけないのかも しれませんが、その辺ですぐ対応していただけるのかとか、そういう点だけを確認できればと思いま す。 ○高橋委員長 これは血液事業統一システムの改修時期にうまく合わせて変えないと、それを別にや ると、また大変手間ひま、時間がかかるということですか。 ○日本赤十字社 今、血液事業統一システムの改修の準備をしております。それと問診票を変える必 要があり、その準備も行っているところです。来年の1月中には実施の方向で、1日も早く可能とすべ く、今、進めているところです。 ○高橋委員長 もう一つの問題で、どの程度に緩和するかですが、先ほどの日本赤十字社のこの献血 制限にかかる人の日数の割合で、2週間から1カ月、3カ月が9割弱から94%、97%となっていくわけ です。基本的には切り方として、すごく差があるわけではないが、先ほど岡田先生が言われたちょっ と半端なところで切ると、献血者も混乱するし、先ほどの5-2の表を拝見しても、諸外国で10日とか、 2週間という切り方をしている所はない。日本も1日制限の前は1カ月ということもありましたので、 1カ月が妥当ではないかと思います。それでやることは日赤としてもいちばんやりやすいのでしょうか。 ○日本赤十字社 そうだと思います。 ○高橋委員長 緩和される幅は1カ月とした場合に、それを実施するタイミングは、ここで決断するか、 また少し様子を見てやるか。私はここで決めて、お話のように来年の1月に実行に移せるのが非常にい いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。 ○山口委員 そのとおりだと思います。タイミングでやらなければ、例えば、いちばんの流行のとき を失してしまったりするかもしれません。 ○高橋委員長 それでは、そういう形で日本赤十字社で準備を進めていただいて、整い次第実施して いただくのがいいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。こういう献血制限の見直しと いうのは、初めての経験なので、今回のように必要な根拠を示しながら、それで確認しながら、でも 迅速、タイムリーに見直すというのはすごく良かったのではないかと思いますので、今後また別のこ とで起こるかもしれませんが、そのときもよろしくお願いしたいと思います。先生方、どうもありが とうございました。  それでは、議題4の日本赤十字社からの報告事項に戻ります。資料6の「血小板製剤への不活化技術 導入について」を事務局及び日本赤十字社から御説明をお願いします。 ○事務局(難波江課長補佐) では、資料6-1について、事務局より御説明します。血液製剤に対する 感染性因子低減化(不活化)技術については、昨年2月、4月、5月、7月と4回この運営委員会と安全 技術調査会の合同委員会が開催されて、そこで輸血学、毒物学の専門家、学会の代表、メーカー、日 赤などからのヒアリングが行われました。その結果、血小板製剤への不活化技術の導入に向けて日赤 で準備が開始されることが了承された次第です。  その後、血液事業部会において、日赤よりその準備状況の報告があり、不活化剤の安全性、我が国 の血小板製剤への適合性等の観点からリボフラビンを用いた技術を重点的に評価することが表明され、 引き続きその技術について残された課題評価することが実施されることを了承したといった過去の経 緯です。後ろに4回の合同委員会の概要を付けております。以上です。 ○高橋委員長 それでは、日本赤十字社から御説明をお願いします。 ○日本赤十字社 資料6-2です。図表については後半にまとめて掲載してありますので、随時見比べて 御覧ください。血小板製剤に対する感染性因子低減化技術であるアモトサレン法とリボフラビン法で、 リボフラビン法については、第一世代と第二世代があります。第一世代については、現在の血小板製 剤にリボフラビンを添加して紫外線をかけて低減化する方法です。  第二世代は濃縮採血をした後にリボフラビンを添加して、低減化処理をした後にPASと呼ばれる 添加液を添加するという方法ですが、この3法について、いろいろな評価、各メーカーが公表している データを検証するための評価試験を実施してきました。このたび、これまで実施してきた当該評価試 験の結果に加えて、この春以降とったデータならびに低減化技術を導入した場合の血液事業への影響 及び海外における使用の状況等を総合的に評価しましたので、御審議をお願いしたいと思います。  まず感染性因子低減化(不活化)技術の評価結果について、低減化技術の評価結果を総括して別添表1 に示しています。各方法での低減化、不活化の効果についてですが、HIV、HBV、HCVのよう なエンベロープウイルスについては、いずれの方法も著明な低減化効果を示しています。しかし、パ ルボウイルスのようなノンエンベロープウイルスに対する効果はどの方法も低値でした。我々の評価 においては、EMCVと呼ばれる脳心筋炎ウイルス(モデルウイルス)に対するアモトサレン法の効果 が低いという結果を、平成20年7月23日に開催された合同委員会に報告をしております。その報告内 容については表2に示してあります。その他のウイルスについては、概ね開発メーカーの公表している 数値と検討した限りでは一致していました。  これらの結果から、低濃度ウイルスが製剤中に混入した場合については、いずれの方法を用いても 十分な効果が期待できると思いますが、高濃度ウイルス、特に高濃度のノンエンベロープウイルスが 混入した場合の効果については確実ではないのではないかという評価としました。  一方、細菌についても各メーカーの公表値とほぼ同等の低減化効果が確認されています。しかし、 リボフラビン法でStaphylococcus(ブドウ球菌)など、一部の菌株に対する低減化効果が、メーカーの 公表データと同様に低い場合がありました。これについても平成21年3月10日に開催された合同委員 会に報告しており、その結果を表3に示してあります。  ただし血小板製剤中に混入する細菌量は多くの場合、およそバッグあたり60CFU以下と推定され ていますので、この程度の細菌量であれば十分に低減化できるものと考えられます。さらに初流血除 去等の安全対策を実施しておりますが、それによって皮膚常在菌等に血小板製剤中に混入する頻度が 大きく減少していることを確認しております。以上の結果から、細菌については十分低減化効果は期 待できると評価しました。  表4には初流血除去導入前後における血小板製剤中の細菌混入率を示しておりますが、初流血除去の 導入により、細菌が混入する確率は3分の1以下にまで減少しているという結果になっています。  以上からリボフラビン法とアモトサレン法については、片方はノンエンベロープウイルスは少し弱 い傾向がある。もう片方は細菌について低減化能は弱い方法であるということで、全体としては、ほ ぼ同等の低減化効果を有しているのではないかと考えております。なお、この低減化効果について、 リボフラビン法第一世代、第二世代でも差は認められませんでした。  またもう一つ、白血球に対する増殖抑制効果はアモトサレン法を含め、いずれも十分であり、GV HD予防のためのγ線照射の必要はないという報告が、各社から出されていますが、日赤においても リボフラビン法第一世代で処理した白血球の増殖をブロモデオキシウリジン(BruU)を、細胞が増 殖するときに取り込むという方法で評価した結果を図1に示しました。  図1を見ますと、リボフラビン法で処理した白血球を培養してもブロモデオキシウリジンの取り込み は認められず、γ線照射と同等以上に白血球の増殖が抑制されていることが確認されています。  次に低減化処理された製剤の品質の影響についてです。アモトサレン法は、特に低減化薬剤である アモトサレンを除去する工程が入りますが、その工程で残液が発生して、血小板数が10%程度減少し てしまいます。その結果、1人の献血者から現状より多くの血小板を採取する必要が出てきます。一方、 リボフラビン法処理による血小板数の減少は3%程度でした。  低減化した血小板は生体内での血小板クリアランスと相関すると言われているp-セレクチンが増加 を示し、特にこれはリボフラビン法で顕著でした。また血小板代謝の指標となるグルコース消費、乳 酸産生についてもリボフラビン法で処理した血小板でやや活性化傾向を示しています。ただし、血小 板保存に重要な因子であるpHの大きな低下は認められておりません。これらの結果も開発メーカー のデータと一致しています。また、リボフラビン法第一世代、第二世代について、血小板の品質に大 きな差は認められませんでした。  次に、リボフラビン法の実製造への導入について評価するためにいくつか試験を実施しました。ま ずリボフラビン法第一世代で、採血から低減化処理までの時間が製剤の品質に及ぼす影響を検討しま した。その結果を表5に示してあります。  その結果、採血直後に処理しても、採血翌朝に処理しても血小板の品質に大きな差は認められませ んでした。また白血球不活化のためにリボフラビン法で処理した上に、γ線を照射して品質を検討し た結果を表6に示しておりますが、この結果についてもγ線照射の有無、時期による品質への影響は認 められませんでした。以上の結果より、実運用上の問題もないという判断をしているところです。  なお、リボフラビン処理血小板を3日間以上保存した場合、検体によっては1mm前後の凝集塊が数個 以下認められることがありました。これについては図2に血小板製剤の写真を示しております。赤い丸 の中心付近に凝集塊の発生を示しています。ただし、この凝集塊は輸血時に必ず輸血セットのフィル ターを使いますので、それで十分除去可能と考えられます。  また、血小板単位数による差を比較しますと、表7にその結果を示しましたが、10単位製剤におい て血小板の活性化がやや高い傾向が認められています。その他の試験項目に単位数による差は認めら れませんでした。  血小板の活性化や凝集塊が臨床に及ぼす影響について、今のところは不明ですが、少なくともこれ までに欧州で報告された臨床結果では、特に問題とされた報告はありません。血小板用添加液は冒頭 で申し上げましたが、アモトサレン法とリボフラビン第二世代については血小板用添加液を用います。 アモトサレンの場合は、採血時に血漿を一部除いてPASをあらかじめ添加して低減化処理をする。 リボフラビン法第二世代については、先ほど申しましたが、一度濃縮採血して低減化処理をした後に PASを添加するという方法になっていますが、これらの製剤のヨーロッパにおけるCEマーク(EU 地域内での医療機器販売承認)取得時の有効期間は、上記2製剤は7日間となっています。この7日間 という数字は欧米では慣例として採血当日をゼロ日と表示しますので、日本式に換算すると8日の有効 期限があります。機器あるいは低減化キット自体は7日間あるいは8日間の有効期限がありますが、ド イツ、フランスで製造販売承認を取ったアモトサレンの有効期間は5日間、日本式にいえば6日間とな っています。また、スイスでは製造販売承認上、有効期間は7日間、8日間まで認められていますが、 通常は5日間で運用しているという話を聞いています。これらの国ごとの状況は、あとで説明する表8 に示してあります。一方、PASを使用しないリボフラビン法第一世代のCEマーク取得時の有効期 間は欧米の未処理製剤と同じ5日間、日本式では6日間の有効期限となっています。  日本では、細菌増殖による重篤な副作用の発生頻度を低下させるため、血小板製剤の有効期間を3日 間、日本式では4日間と欧米よりも短く設定しており、広域的な需給調整など、効率的な運用により、 期限切れの削減を図っているところです。  表9に米国と日本の期限切れのデータを比較して載せました。日本では昨年度のデータで2.3%と期 限切れ率が非常に低くなっています。また初流血除去導入の際、有効期間を72時間から3日間あるい は4日間目の24時までとしましたが、これにより利用機関、血液センターとも従来よりも余裕を持っ た輸血の実施や業務の運用が可能となっているところです。  低減化技術導入に伴う有効期間の延長の要否については、医療機関あるいは日本赤十字社の供給部 門における必要性や、血小板の品質への影響等を十分検討した上で、判断したいと考えております。  3番目は「低減化薬剤の安全性について」です。アモトサレンという物質は、レモン、オレンジ、パ セリなどに含まれるソラレンという物質と同じ骨格を持っていますが、この感染性因子低減化の目的 のために新たに合成された新規の化合物です。臨床使用の5,000倍以上の高濃度において遺伝毒性があ ると報告されていることもあり、製造方法にはアモトサレン及びその光分解物の除去工程が組み込ま れているということになっています。  一方、リボフラビンはビタミンB2そのもので、古くから医薬品や食品添加物として利用されていま す。リボフラビンについては、光分解物を含め、毒性を有するとの報告はありませんし、米国の食品 添加物基準においてはGRAS(Generally Recognized As Safe)という評価をされています。そのためも あり、製造工程にリボフラビンの除去工程はありません。  4番目は「血液事業への影響について」です。アモトサレン法は採血時に血漿の一部をPASで置換 した血小板を原料とします。現在、PAS置換に対応した採血装置は日本赤十字社では1部しか使用し ておりません。そのため、PAS置換に対応した採血装置を新たに整備する必要が発生します。  またアモトサレン法が欧州でCEマークを取得した規格は、血小板数が2.5から6.0×1011個で、そ の容量が255から325mLという規格です。現時点において日本国内の供給本数の8割強を占める10単 位製剤(血小板数2×1011個以上)、容量が200±40mLという規格になっています。この10単位製剤にC Eマークを取得した規格を適用するとはできないことになっています。  したがって、10単位製剤をアモトサレン法で処理して供給するためには、20単位なりの製剤を処理 した後に分割することしか今のところはできないということになってしまいます。高単位を採血でき る血小板値の高い献血者の確保は非常に困難ですし、10単位と比較して採血時間が1.5倍程度延びて しまうことがあって、献血者の負担増大も懸念されるところです。さらに低減化処理後に添加薬剤を 吸着除去する工程に4時間以上必要とすることから、供給を開始できるのは多くの場合、採血翌日の夕 刻近くになってしまうことも懸念することの一つです。  次にリボフラビン法第二世代ですが、これは高濃縮した血小板を原料として使用します。そのため、 特定の採血装置を用いた濃縮採血もしくは製造工程における血小板濃縮のための血漿除去が必要にな ります。そうすると、やはり新たな採血装置も必要になってきます。それと低減化処理後にPASと いう添加液を添加する必要がありますので、そこでも多少時間がかかってしまうことになります。  一方、リボフラビン法第一世代については、通常どおり採血した血小板にリボフラビンを添加し、 紫外線を照射すれば、そのまま製剤として供給することが可能です。したがって、供給開始可能時間 が今と比べて、大きく遅れることはないと考えています。  10単位製剤ももともとの規格で対応しておりますので、そのまま製造することが可能であることか ら、献血者確保を含め、血液事業への影響は最も少ないと考えられます。なお、アモトサレン法及び リボフラビン法第二世代では、血小板と同時に採取される原料血漿の確保量を、PASで置換します ので、その分を原料血漿として血漿を確保できるわけですが、献血者1人当たり100から150mLぐらい の血漿を増加させて採取することが可能となります。ただし、リボフラビン法第一世代は現状と同じ 採血をしますので、確保料の増加はないことになります。  次にリボフラビン法第一世代を導入すると仮定して、事業費用を概算した結果を表10に示していま す。製造販売承認取得までに主に臨床試験などを考えておりますが、10から16億円、後述する使用成 績調査に2から3億円、全国展開のための初期投資に3から5億円、全国展開後のランニングコストと して、1年当たり55から85億円が必要になるものと推計されます。ただし、この金額については、今 後当局と話合いになりますか、治験の症例数の多い、少ないあるいは低減化処理キットがいくらで納 入されるのかということで、これらの金額は大きく変動することを申し添えておきます。  次に欧米における臨床試験、承認等の状況についてです。これについては表8に欧米の主要国におけ る両製剤の臨床試験、承認等の状況を示しています。ここで左から4番目の「血小板製剤の製造販売承 認」で×もありますし、不要と書いてあるところもありますが、不要と記載した国は輸血用血液を医 薬品として区分していない国で、製造販売承認は必要がないという国々になります。血液製剤の製造 販売承認が必要ありませんので、ここでいえばアモトサレンのキットと紫外線の照射装置、あるいは リボフラビンのキットと照射装置の販売承認、CEマークを取得すればそのまま血液を加工して医療 機関に提供することが、原理的には可能な国々です。そういう国々ではCEマークを持った機器であ れば、比較的容易に使用することが可能となっているようです。一方、表の上にまとめた英国、ドイ ツ、フランス、スイス、米国では日本と同じように医薬品として血液を扱っていますので、製造販売 承認が必要な国々ということになります。  まずアモトサレン法を見ていきますと、アモトサレン法については2002年にCEマークを取得して、 臨床使用も非常に進んでいます。製剤としての製造販売承認もドイツ、フランス、スイスですでに取 得しているという状況です。特にフランスの海外県では、Chikungunya virusの蔓延に対処するため、 アモトサレン法で処理された血小板製剤が広く使われた実績もあります。フランスの本土については、 現在は一部の血液センターにおいてアモトサレン法で処理した血小板が出荷されているという状況で す。  ベルギーについては、国土の南半分の地域を中心に血小板製剤がアモトサレン法で処理されており、 2010年8月までには全血小板製剤を何らかの方法で低減化処理する旨の王室令が発布されています。 情報では、国家レベルで導入が決定されたのは、今のところはベルギーだけです。一方、今年に入っ てオランダでアモトサレン処理製剤投与後の補正血小板増加数(CCI)の数値が想定よりも低いとい う理由で臨床試験が中止になる事例がありました。  イギリスについては、オランダの当該試験の最終結果を評価した上で、導入を判断したいという方 針が示されています。ただ、この臨床試験については、プロトコルに従ってやられていなかったので はないかということで、メーカーはその結果について抗議をしているという状況と聞いています。  一方、アメリカではアモトサレン法の第三相試験において、肺関連副作用の問題で承認作業が長ら く中断しておりましたが、先月16日に血液製剤諮問委員会(BPAC)で新たな臨床試験の追加実施に ついて検討されているところです。その結果は、アモトサレンに起因する肺関連副作用ではないこと を証明するためには、メーカーの提案した1,024例よりももっと多くの症例について臨床試験を実施す ることがBPACから求められています。当初の予定では、臨床試験に2年はかかるという話でしたの で、米国で製造販売承認が認可されるのは、まだ数年以上かかるものと考えています。  リボフラビン法第一世代については2007年にCEマークを取得しています。フランスで第三相試験 が実施されており、現在、製造販売承認の申請中であると聞いています。またオランダでも新たな臨 床試験が計画されているということです。  学会での発表なので表には記載しませんでしたが、先般の名古屋の血液事業部会(ISBT)のラン チョンセミナーにおいて、ドイツのケルン大学で臨床試験を計画しているという話がありました。以 上が臨床試験です。  アモトサレン法とリボフラビン法第一世代で処理した製剤については、製剤としての製造販売承認 の必要がない国において、すでに臨床使用がルーチンで開始されています。その一部については安全 性等を確認するための市販後調査が実施されていると聞いています。また、イタリアでは国立衛生研 究所の指導の下、リボフラビン法とアモトサレン法で低減化処理された血小板製剤のHLA同種抗体 の発現率、コスト、ヘモビジランスプログラムの有効性等を確認するための臨床試験が予定されてい ます。  リボフラビン法第二世代については、2008年にCEマークを取得しておりますが、現時点までに臨 床使用という情報は我々にはありません。その代わりというか、採血時にPAS置換をした血小板に リボフラビンを添加して低減化処理するアモトサレンと同じような方法で処理するリボフラビン第三 世代が開発されているという話を聞いています。  4は、以上、各低減化技術を総合評価ということでお話をします。スクリーニングでは検出できない 極めて低濃度のウイルス、保存中に増殖して重篤な副作用の原因となり得る細菌、さらには将来蔓延 する可能性がある新興再興病原体等への対策として輸血用血液製剤への感染性因子低減化技術の導入 は、もちろん有用と考えられます。  しかし、今日輸血用血液製剤の感染症に対する安全性については、検査感度の向上や、初流血除去 など、種々の安全対策により、著しく向上したとの評価をありがたいことにいただけるようになりま した。そのような状況において、輸血用血液製剤中に塩あるいは糖以外の化学物質、特に核酸に障害 を与える物質を添加することに対する医療者側の不安の声が聞こえてきます。  一方、血小板の確保については、体重等の制限によって10単位しか採血ができない献血者の皆様に も多大な協力をいただいているという状況があります。感染性因子低減化技術の導入により、血小板 の採血単位数は15単位、20単位が中心に大きくシフトしてしまいますと、血小板を採血できない献血 者が増加するために、血小板の安定供給に支障をきたしてしまうという状況が発生するおそれがあり ます。  このような状況を考慮しますと、導入する感染性因子低減化技術の決定に際しては感染性因子の低 減化能や製剤の性質、臨床試験の結果など医薬品としての特性はもちろんですが、それに加えて低減 化薬剤自体の安全性、高単位血小板の必要性、血液事業への影響などについても十分配慮する必要が あろうかと思います。  アモトサレン法処理血小板製剤は、2002年にCEマークを取得したこともあり、すでにヨーロッパ を中心に35万例以上臨床使用されています。これまでヨーロッパにおいてはアモトサレン法に由来す る重篤な副作用は報告されていません。また、PAS置換した血小板を用いることから、軽微な非溶 血性副作用の抑制あるいは原料血漿の確保が期待できます。しかし、日本国内の供給本数の8割以上を 占める10単位製剤の規格に、今のところは対応できていないことは大きな問題です。それに高濃度ア モトサレンの遺伝毒性の問題あるいは米国で再試験される予定の肺障害の問題等もあって、現時点に おいてアモトサレン法を第一選択肢とするには至らなかったということです。  またリボフラビン法第二世代については、感染性因子の低減化能や、製剤の性質は第一世代と同等 ですし、アモトサレンと同様に軽微な非溶血性副作用の抑制あるいは原料血漿の確保は期待できます が、臨床試験の情報が未だに一つもないこと。アモトサレン法の場合と同様に濃縮した血小板採血が 可能な成分装置への切り換えが必要なことというのがありますので、第一選択肢とすることはできま せんでした。  一方、リボフラビン法第一世代については、CEマーク取得が2007年で、そのため、現時点におい て臨床実績が十分とは言い難いのは事実です。ただ、これまでに有用性、安全性等についての大きな 問題は報告されておりません。  また低減化剤であるリボフラビン(ビタミンB2)の安全性については、医薬品として少なくとも数十 年の使用実績があります。リボフラビン法で低減化効果の低かった細菌についても、実際に混入し得 る細菌量を踏まえれば初流血除去など、他の安全対策との相乗効果により十分な効果が期待できます。  また、現状の採血装置をそのまま使用できること。献血者に今まで以上の負担をかけずに低減化製 剤を安定的に供給できることの2点については、他の方法にはない大きな優位点と考えております。  低減化処理後の血小板の活性化、保存中の凝集塊の発生など今回明らかになった問題については、 今後臨床や血液事業への影響の有無について詳細に検討する必要がありますが、現状の血液事業に導 入する低減化技術としては、リボフラビン法第一世代が最も適しているという結論でした。  最後に「今後の進め方について」ですが、これまではメーカーの報告したin vitroのデータの検証 を中心に評価してきましたが、採用する感染性因子低減化技術について御了解が得られれば、上記評 価試験で明らかとなった問題等を詳細に検討するとともに、薬事申請のため、必要な海外での詳細な 承認状況や使用状況の収集あるいは規格安定性データの採取等、臨床試験実施のための準備に着手し たいと考えています。  なお、これは将来の話になりますが、製造販売承認取得後においても低減化技術は未だ開発途上の 技術であることを考えますと、低減化製剤の供給開始当初は、地域及び医療機関を限定し、市販後の 副作用情報の収集、安定供給ならびに献血者の影響等を使用成績調査により評価した上で、全国展開 については検討していくべきと考えております。ただし、新興再興感染症の蔓延など、他の安全対策 では対応できない事態が発生した場合については、速やかな全国展開も考慮する必要があろうかと思 います。  さらに血小板輸血による軽微な副作用の抑制あるいは少子高齢化を見据えた血漿分画製剤用原料血 漿の確保も感染性因子の低減化と同様、血液事業の重要な課題となっています。これらへの対応も考 慮し、今後技術の進展により、新たな知見が得られた際には導入する低減化技術の追加あるいは見直 し等について、再度御審議をお願いしたいと考えております。以上です。 ○高橋委員長 ただ今の不活化技術導入についての御報告について、いかがでしょうか。 ○大平委員 これまでの経緯などは資料を改めて見させていただきました。昨年のころからの検討で、 そのころに私たちも関心は持っていたのですが、新しい不活化技術の導入というのは、いろいろな費 用対効果や安全性の問題で、問題がなければそれはそれで進めていく必要があるのではないかとは思 います。  当時、世界でもかなり広まっているという雰囲気が、この委員会でも議論されたと思います。海外 のいろいろな治験などの資料を見て、まだごく一部で始まっているというのが大変気になるところで す。特に小国と言っては語弊があるかもしれませんが、ベルギーなど、ヨーロッパでも限られた地域 での導入で、それもベルギーだけが突出しているのかとは思いますが、どうしてベルギーはそうなっ ているのかは、改めて調査をしたらいいのではないかと思います。実施されているとしても限られた 範囲でしか使われていない。英国ですとか、ドイツも限られた部分でしか使われておりませんが、米 国などでは、まだ評価中と書かれています。  日本に目を向けますと、NAT導入や、日本赤十字社も費用をかけて新しい検査の導入をしている ところです。これにまたどのぐらいのメリットがあるのか分かりませんが、ここで計算されて算出さ れた経費はごく一部ではないかと思います。全面的に機器の切り換えとか、いろいろなことも考えま すと、大変な費用、コストがかかってくることも考えられると思います。  何よりも慎重にしていただきたいことは、輸血学会、感染研とか、山口先生の所の研究機関などで のいろいろな懸念が表明されたところは見逃がしてはいけないところではないかと思います。患者が 印象として持つのは、単なる血液を取り出しての検査ではなく、血液にいろいろな負荷をかけるとい うところで、それ自体に負荷をかけてくるのが一つの不活化導入の形です。これについてはもっとい ろいろな評価試験、それから動物での実験などは、まだここではあまり検討してはいないのですが、 そういう問題も含めて、もう少し時間をかけて評価してもいいのではないかと思います。  昨年からの短い期間に少し急いだ審議がありましたが、もう少し時間をかけてきちんと評価を出す。 これは血液全体の問題にもかかわりますので、是非専門家の先生も交えて、いろいろな御意見を賜り たいと思います。 ○高橋委員長 ほかにいかがでしょうか。 ○山口委員 アモトサレン法及びリボフラビン法の第二世代については、実製造を考えたときに、か なり大きな変更をしなければいけないということから、それをなかなか選択しにくいのは非常によく 理解できます。ですから、それに対する費用対効果、そこまでやるほどの効果があるのかというのは、 いちばん大きな問題だろうと思います。  あとは今の第一選択肢がリボフラビン法の第一世代ということで進めていきたいというお話だった かと思いますが、実際上、全国展開をすると最後のページにあるように、非常に費用がかかってしま うのだろうと思いますし、これをやるほどの大平委員が言われたような効果があり得るのか。要する に、それだけの安全性とリスクベネフィットとの関係があるのかは、初めから全国展開をしていくに は、ちょっと疑問なところもあるかと思います。  先ほどからお話いただきましたように、新興感染症あるいはウエストナイルがはやってきたとか、 H5N1が出てきたとか、そういうときの対応としては、その技術を導入しておかないとそのときに対 応できない。そのような開発は非常に有用ではないかと思います。  以前から気になっているのですが、FDAが現時点でのHIV、HCV、HBVなどの対応として は、不活化法というのは導入する費用対効果が非常に低いと言っているわけです。それは私は非常に 妥当な意見だと思いますし、もし導入するにしても、新興感染とか、現時点での現に動いているもの 以外のものが入ってきたときの対応しては、非常に有効だろう。そういう意味では、こういう技術を 導入していくための試験あるいは安全性評価はできるだけ早く進めておいていただきたいというのは 一つだと思います。  実際的には先ほどお話がありましたが、もし安全性や有効性も含めてそれが承認された時点では、 小さな地域から始める、あるいは緊急時の対応としての製剤を持っておくという意味で、非常に意味 があるのだろうと思いました。 ○岡田委員 反復になりますが、導入に関しては各国とも慎重なのです。ベルギーだけが特別に全土 で導入するということで、正直なところ、各国でどういう変化が起こるのかを見ているのではないか という気もします。  ヨーロッパの血液の供給システムと日本との大きな違いは、表8にも書いてありますが、医薬品では ない国と、医薬品の国が混在していますので、医薬品ではない国にとっては血液センター単位とか、 地域単位で結構融通が利くのです。そういう意味でパイロット的にフランスなどでは、フランスのア ルザスがパイロットセンターですので、いろいろなことを試みています。そういう所は実施して、そ こで実際のメリット、デメリットを検討して、それで良ければ拡大していくだろうし、そうでなけれ ばそこで終わりかなという感じがします。  あと大学病院の輸血部が血液センターを兼ねている所があって、そういう所もパイロット的に不活 化を導入しているということで、日本みたいに一律に導入するのはないのです。そういうことで、今、 試験的に導入をしているというのが現状だし、やはり安全性は感染症の発生状況と不活化による長期 的な安全性、毒性を考えると、どうしても躊躇しているのが現状かと思います。  技術的にはこういう安全性を高める技術開発の一つとして、これは重要だと思いますので、この技 術の導入というか、検討を続けて、導入が可能かどうか。あまりにも血小板の機能にダメージを与え るとか、収率が悪いとか、あとは日本の採血システムや供給システムをかなりドラスティックに変え なければいけないようなものだと、導入はちょっと厳しいかと思います。しかし、そういうものを評 価することだけは進めておかないと、何か起こったときに対応ができませんので、技術の検討を進め ることには問題はないと思います。もし承認が取れて、医薬品として供給する場合には、ある程度地 域を絞った供給ということで、ほかの医薬品、血液製剤みたいに一律にすべて日本中不活化処理した 血小板に置き換えるのは、現在の状況では控えておいたほうがいいのではないかと思います。 ○高橋委員長 だいぶ細かい議論、特に実際に導入準備ができて、その後の治験をどうするかとか、 どういう展開にすべきかなども含めて議論が少し出ましたが、今回の場合は日赤の準備状況がどこま で行っているかということに絞って確認したいと思います。もちろん実際に導入するとなったら慎重 にやらなければいけないし、患者に十分インフォームドコンセントをしながらやらなければいけない とか、地域を限るのか、施設を限るのか、少なくともオプションで未処理のものと併用してやるのか、 さまざまな議論をしなければいけないと思いますが、今回の議論では3種類の方法論を比較して、安全 性の観点から、割合収率がいい、現行の機器で対応しやすいということから、リボフラビン法の第一 世代のものを使うという予定だということですね。  簡単ではないと思いますが、収率ということを考えますと、3%のロスがあることに加えて、いろい ろな血小板の劣化がどの程度のものなのか。これは非常に闇雲で申し訳ないのですが、動物の血小板 を使って同種の動物に入れてインクレメントがどうかとか、そのような系で見るなり、何かしらin vitroのデータに加えて、実際に輸血したら、未処理のものに比べてどのぐらいのロスがあるのかとい う評価があると、非常に分かりやすいかと思います。リボフラビン法の場合は長期的な安全性評価は、 そんなにリスクは大きくないということですので、むしろ血小板輸血の効果がどこまで維持できるの かということです。  少し気になったのは、GVHDの対策は我が国が諸外国に別して、相当広く行っているわけです。 それが本当に照射しないでやるのか、照射を加えてやるのか。先ほどのデータですと、PHAか何か で刺激した系で見ていますが、混合リンパ球培養なり、GVHDを模した系でできれば、もう一回確 認していただいたら、さらにいいかなと思いました。  時間の関係でそろそろこの話題は終わりにしたいと思います。今回の情報整理は非常に良かったと 思います。海外における臨床試験や市販後調査の結果、それから日赤のin vitroの評価などをやって いただきました。今後もそういう情報を十分収集して精査した上で、今のリボフラビン第一世代の技 術の臨床試験の実施に向けた準備を開始していただきたいと思います。  また併せて、そのほかの新たな技術の開発状況についても、引き続き情報収集をお願いしたいと思 います。ちょっと気になったのは、第一世代、第二世代、第三世代とリボフラビンがあるというので、 普通は第一世代より第二世代、第二世代より第三世代の方がいいということですが、この場合は血漿 を別に余分に確保できるということで、濃厚血小板の効果とか、血小板輸血の効果としては第一世代 のものがいちばん良さそうですか。 ○日本赤十字社 臨床で使われているのは、今のところは第一世代のみでして、第三世代は現在開発 中ということです。  いちばん大きな違いは、原料と血小板に何を使うかというところで、第一世代については現状の血 漿に付与したものです。 ○高橋委員長 高単位血小板にしなければいけないとか、いろいろな問題が第二世代はあるというこ とですが。 ○日本赤十字社 第二世代については、10単位も使えます。リボフラビン法については10単位は使え ます。 ○高橋委員長 もう一つは、いちばんやりやすいもので準備しておいて、さらにいいものがあったら どう切り換えるかということも視野に入れなければいけませんし、先ほどの新興感染症とか、パンデ ミック問題が起きたときに、どのぐらいの期間で準備したものを導入できるかということも視野に入 れながら、御検討いただいたらありがたいと思います。  それでは最後にフィブリノゲン製剤等に係る報告事項について、事務局から御説明をお願いします。 ○事務局(光岡企画官) それでは、資料7-1から7-5です。フィブリノゲン製剤納入先医療機関の追 加調査については、平成16年12月9日に納入先医療機関の公表をしていますが、2週間に1度、平成 19年11月7日以降に追加調査という形で、これをリバイスしていくという話になっています。直近で は、資料7-1で示しましたように、11月21日に新たな調査結果を公表しています。それが資料7-1で す。  資料7-2は「C型肝炎訴訟の和解について」です。資料7-3は田辺製薬株式会社の「個人情報の開示 請求への対応等について」で、これも10月1日に公開しております。資料7-4は「血液凝固因子製剤 の納入先医療機関の調査」ということで、平成21年9月4日以降、数字が動いていないということで、 これをプレス発表の直近版として付けています。最後は資料7-5ですが、本年度もフィブリノゲンの製 剤納入医療機関に直接訪問調査を行う予定で、現在もその調査の実施中です。今月もいくつかの医療 機関について訪問調査をやるということです。昨年度は主に国立病院を中心に行いましたが、本年度 については国立病院のみならず、国立の高度専門医療センター、労災病院や社会保険病院、厚生年金 病院を加えて、新たに追加調査という形で訪問調査を実施します。以上です。 ○高橋委員長 それでは、資料7-1から7-5について委員の先生方から御意見、御質問があればお願い します。特にないようですので、そのほか何か御意見はございますか。  司会の不手際で時間がギリギリになってしまいましたが、特になければ本日の議題は以上です。次 回の日程等については、後日、事務局から御連絡を差し上げます。本日は御多忙のところ、ありがと うございました。 連絡先: 医薬食品局血液対策課 小川(内線2902)