09/11/25 第8回有期労働契約研究会議事録 第8回有期労働契約研究会 議事録 第8回 有期労働契約研究会 1 日時 平成21年11月25日(水)10:00〜12:00 2 場所 厚生労働省共用第8会議室(6F) 3 出席者 〈委員〉 荒木委員、奥田委員、鎌田委員、佐藤委員、橋本委員、 藤村委員、山川委員 〈事務局〉    渡延労働基準局審議官    前田労働基準局総務課長    富田労働基準局勤労者生活部企画課調査官    青山労働基準局総務課労働契約企画室長    丸山労働基準局監督課中央労働基準監察監督官 4 議題 (1)論点(契約締結時の課題、均衡待遇、正社員転換) (2)その他 ○鎌田座長 定刻にまだ少し前ですが、皆様がおそろいのようですので、ただいまから「第8回 有期労働契約研究会」を開催したいと思います。委員の皆様には御多忙のところ、御出席いただ き、誠にありがとうございます。また、本日は阿部委員が御欠席ということでございます。  本日は「契約締結時の課題、均衡待遇、正社員転換」について御議論をいただきます。  まず、前回の議論の内容について資料として提出されていますが、これは資料1ということで 前回の議論、論点としては総論、有期労働契約の範囲等、契約期間についてということで、御議 論いただいております。  前回、御欠席された委員の皆さんで前回の論点について御意見がありましたら、是非、ここで 御発言をいただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○藤村委員 前回、欠席いたしましてどうも済みませんでした。前回の議事概要を拝見して、3 点ほど申し上げておきたいと思います。  まず第1点は、今回、この有期労働契約の研究会をやっているわけですけれども、将来、法律 としてこれをつくっていく場合に、是非、派遣も含めたいわゆる有期労働全体をカバーするよう なものにしていく必要があると思っています。  私は法律の専門家ではありませんが、いわゆる労働基準法が基本的にあって、それぞれいろん な法律があるわけですけれども、正社員以外の契約期間の定めのない雇用の以外の人たち全体を カバーするようなものであればいいと思っています。これは希望です。  2点目は、この間、日本の労働市場の状況が20年ぐらい前と比べると相当様変わりをしてきて います。よく「雇用の流動化」と言われますが、雇用の流動化の中身は人によって大分とらえ方 が違うように思います。相反する事実が出てきています。  例えば「賃金構造基本統計調査」で見ると平均勤続年数は伸びています。平均勤続年数が伸び ているということは、定着化が進んでいるというのが一つの事実としてあります。逆に離職率が やや上昇している。ということは、どうも固定的に働いている1つの会社で長くという人たちと、 割と頻繁に移る人と、2つの層があるように思います。  統計上は10人の人が1回転職をした場合と、1人の人間が10回転職をした場合と同じように 出てきますので、どうも1人の人間が頻繁に転職を繰り返すというのがある。そういうのは実は 日本経済全体にとって余りいいことだとは思っていません。 企業の教育訓練投資の回収とか、 そういうものを考えると、ある程度、定着をしてもらった方がいい。そうなると、今回、議論を しているような法律で少し定着化を促すような、そういう方向での誘導は意味があると思います。  3点目はそういう割と短期の雇用を回していくような企業行動の原因がどこにあるか。私なり に見ておりますと、例えば電器産業などで部品をつくっている会社に伺うと、今月、来月の受注 量はわかっているけれども、3か月先はわからないとおっしゃいます。ですから、当面、雇える 人を非常に短期間で雇って、それで回していくと。  なぜそうなるかというと、一番大元のいわゆる最終組立てをやっているような会社が市場の変 動に合わせて柔軟に対応したいと。大きなところがそういう行動をとると、末端に行くと非常に 振れが大きくなる。それがここ15年ぐらいの状況かなと思います。  実はこれも企業の競争力、少し中長期の競争力を考えたときには余りいい状況ではない。つま り部品メーカーも含めて、全体で産業の底上げをしていかなければいけないときに、目先の市場 対応のために短期雇用、採ったり採らなかったり、そういうのもやはり少し制限するような方向 の方が、実は日本全体にとっては、日本の将来にとってはいいのではないか。そんなことを考え ながら、前回の議事概要を拝見しておりました。以上です。 ○鎌田座長 ありがとうございます。何か事務局の方に御質問ということではありませんね。 ○藤村委員 そうではありません。 ○鎌田座長 よろしいですか。 ○佐藤委員 いいですか。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○佐藤委員 前回、欠席しましたが、私は今日の論点に関わるのかなとも思うのですが、厳密に 前回の論点に即してどうなのかというのはちょっとあれですけれども、一つはやはり実態です。 つまり、活用する方、それから働く方の実態。活用する側には有期として活用する理由があるは ずで、有期としての雇用形態を活用する側が選択した理由が、この実態に即して非常に重要にな ってくるのではないかと。  それから、働く方も、結局、有期としての働き方を選択している。これはほかにも正規もパー トも派遣もあるわけですから、なぜ有期であるのか、その理由です。  その2つがまず非常に重要な点ではないかと思いまして、その点、法律論、議論をされるでし ょうけれども、実態に即した規制のあり方を考えていくことが重要ではないかと思いました。こ れが一つです。  もう一つは、それと関連してですが、実態調査の中では、今回、4タイプの類型化を行ってい ます。これは非常に重要だと思います。全体として見ますと、要は有期契約としての活用とか働 き方はどうなのかというと、一つは正社員同様職務型は、これは理由はいろいろあるでしょうけ れども、本来、仕事が正社員と同じで、正社員としてではなく有期として活用する理由は何なの かということがより強く求められるのかなと思います。正社員と同じ仕事なわけですから。  もう一つは、軽易作業のようなものがありますが、これは要するに業務の変動性のゆえに先が 見えない。つまり不確実性が高いので、長期で雇ってしまうリスクを回避するために有期なのだ ということで、結果的には、そこは軽微な仕事も含めて、変動性に富んでいるがゆえに有期だと いうタイプがあり得ると思います。  それから、真ん中のところが要するに専門職型というもので、これが高度な専門能力を持って いるがゆえに、いわば正規の処遇体系にはなじまないから、別立てで有期契約という形が多いで すね。  例えばデザイナー、研究開発技術者、あるいは金融のデリバティブの専門家、こういうものは 非常に高額な年俸でしばしば外国からも雇い入れている。こうしたタイプについては我が国の、 日本の雇用システムの中での処遇の箱に収まらないから有期なのだと。  そういうふうに、これは活用する事由というか、理由が全部違うわけです。これを全部、「有 期」としていいのかどうかということになると、私としてはこれは分けて議論をする必要がある し、要するに有期の事由が強く求められるのは最初の正社員同様職務型ということになるのかな と。これはわかりませんが、そういう印象を持って議論を伺っていました。それが2つ目です。  3つ目はいわゆる均等待遇、真ん中のところですが、均等待遇と正社員への転換ということで すが、ここは要するにパートで長時間、あるいは職務の相当性、同等性がある場合には、キャリ アの実態等から見てそれがない場合には、これは賃金の決定方式を正規に合わせなさいというこ とですよね。  そういう考え方が有期にも当てはまるかどうかというのは、結構、デリケートな問題で、とい うのは要するに、例えばこの専門業務型のようなものは有期には入っているわけです。これはし ばしば、賃金水準からいうと正規より高いのです。  そういうことになったときに、合わせるといったときに、一体、どちらにどちらを合わせるの かという悩ましい問題が出てくる。そういう問題が一つあると思います。  それから、もう一つはやはりパートの場合には短時間のゆえに短時間の仕事に就いてもらう人 を雇うということがありますが、それゆえに長く働いていたり、期間性を持っている場合にはそ ろえなさいという話になりますが、有期の場合は時間というよりも、3年とか、期間ですよね。  こういう期間の中で雇い入れるということなので、これは要するに賃金の払い方の考え方から すると、正規は例えば20年、40年という長期の中での収支決済を図っているわけです。つまり、 働き方、貢献と報酬のバランスからいうと20年、30年、非常に長期で採る。その中で賃金システ ムを設計して支給する。こういう考え方でいくわけです。  ところが、有期はそもそも3年という期間の中で雇い入れているわけですから、若いときには ゆっくり育成して、それから返してもらうということではないわけです。即戦力になってもらわ なければ困るというところがあると思います。  そう考えていったときに、要するに賃金制度の設計としての考え方からいうと、使用者の場合 にはやはりそこを分けて考えなければいけないという考え方を多く持ってくるのかなと思います。 有期のゆえに期間限定なのだから、そこはそこで賃金制度を分けて考えた方がいいのかなという 考え方があり得るように思います。  そういうことから考えると、均等待遇の問題に関してパートと有期に関しての扱い方というか、 考え方の共通点もあると思いますが、違いも少し議論をする必要があるのかなと思いました。以 上です。 ○鎌田座長 ありがとうございます。では、山川さん。 ○山川委員 前回はどうも失礼いたしました。前回は比較法の話が多かったように見受けまして、 議論の整理程度のことかもしれませんが、政策の選択肢には、有期契約の締結事由を制限すると いう政策と、それから更新回数とか勤続年数に上限を設けるという政策と、それから日本で現在、 判例でありますような雇止めの制限を一定程度、設けるという3つぐらい、入り口とか出口と言 われますが、一応その3つぐらいがあって、それらを国によって組み合わせて採用したり、どれ かを選択したりという方式をとっていまして、入り口と出口、両方、規制をかけているところも あるし、そうでもないところもあるので、そこは雇用システムとの関連でどういうポリシーを選 択していく、あるいは組み合わせていくのがいいかということを考えるということだと思います。  いずれにしても、どこの国でも、ある範囲ではその有期契約の存在自体を肯定しているので、 そうすると欠けているのが、さっき藤村先生も言われましたそういった人たちのスキルの向上と か、その地位の向上という点をどうするかということです。  これは外国では余りそれほど注目されてはいない、重視されてはいないようですけれども、今 日、恐らく議論になる正社員転換などはもし有期契約の存在を認めるとしても、それをよりスキ ルを向上させていくという点で、それも政策的に組合せの対象になり得るというか、補完的なも のになるのではないかという整理になるかと思います。  なお、これは先ほど藤村先生の御意見を伺って触発された点で、前回の議論には関係ないかも しれませんが、昔から景気変動に対して受注が変動したということはあって、昔は臨時工をたく さん採用していって、それがだんだんと定着していったという歴史があると思うのですが、最近、 昨今の経済状況では非常に受注の変化のスピードが速いのではないか。私は専門ではないので、 それもちょっとわかりませんが、そうすると、そういう受注行動自体をどう考えていくかという ことが問題になりえます。  もう一つは、かつても受注の変動があった中で、現在ほど有期契約が活用されていなかったと すると、要員管理といいましょうか、受注の変動と人の使い方のようなものの工夫が若干違って きているのではないか。  これは全くの推測ですが、つまり、昔は何とか要員管理をやりくりして雇用安定を図っていた のに対し、やりくりしないで有期契約で単純に受注の変動に合わせて雇止めをするという方法は 簡単なやり方かもしれないのですが、そういった要員管理の態勢がどうなってきたか、法律の問 題ではないかもしれませんが、それらの工夫が何か考えられないか。ついでながらちょっとそう いうことを思いました。 ○鎌田座長 ありがとうございます。三先生から今日の御議論の中にも踏み込んだ非常に貴重な お話が出たと思います。それでは、今回の論点について議論を始めていただきたいと思います。 事務局で資料を用意しておりますので、まずはその説明をお願いいたします。 ○富田調査官 それでは、私の方から資料番号の2から4−6まで一気に説明をさせていただき たいと思います。資料2を御覧いただきますと、今回、議論いたします論点と前回の論点を一部 修正したものを提示しております。  まず、初めの書いております「第7回研究会 論点(1)」のところは、前回、荒木先生からの御 指摘による修正を行ったところでございまして、それが2ページのところのちょうど1つ目の丸 でございます。  諸外国の法制では、契約期間について上限規制となっているということで、1回ごとの更新で はありませんということを、これは3のところの「1回の契約期間の上限」のところに書いてい ましたが、座りからすると「勤続年数等の上限」のところに置いた方がいいのではないかという 御指摘がございましたので、こちらの方に移動をさせたという修正を行っております。  それで、本日の論点でございますが、「第8回研究会 論点(2)」というところに書いてござい ます。1としまして「契約締結時の課題」。  まず、「現行法制の評価」でございます。労働基準法は労働契約の締結に際し、「労働契約の 期間に関する事項」を書面で明示することを使用者に義務付けているが、契約期間が非常に重要 な要素であることから書面の明示がない場合の効力についても定めるべきという考え方について は、どのように評価をするべきかと。  それから、2点目としましては「有期契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が大臣告示 でございますけれども、これによりますと使用者は有期労働契約の締結に際し、更新の有無を明 示しなければならず、更新する場合があると明示したときは、その判断基準を明示しなければな らないこととされておりますけれども、労働者の更新に係る予測可能性を高める観点から手続面、 あるいは実体面において強化すべきという考え方については、どのように評価すべきかというこ とで、これは17年に行いました研究会報告におきましては、この辺についてもコメント、言及が あったということでございます。  「諸外国の法制との比較」でございますが、諸外国の法制におきましてはドイツのように労働 契約の期間設定は書面でなければ有効とならないとするものや、フランスのように期間だけでは なくて、利用事由も書面で明示しなければ無期契約とみなされるものがございますけれども、我 が国の雇用システムの特徴等に照らしてどのように評価すべきかということでございます。  「その他」。トラブル防止等の観点から、契約締結時に係るルールとして何か考えられるもの があるかと書いております。  2点目が「均衡待遇・正規労働者への転換」でございまして、総論的なものをまず書いており ます。  今回のヒアリングや実態調査結果等を踏まえて、有期契約労働者の正規労働者との待遇の格差 に係る課題にはどのようなものがあると考えられるか。とりわけ、職務タイプ4類型について、 それぞれ課題は異なると考えられるかということです。  それから、有期契約労働者の正規労働者との待遇の格差に係る課題への対応としては、今回、 議論になっております、論点になっております均衡待遇の確保と、正規労働者への転換の推進と いう2つの手法が考えられますが、我が国の雇用システムの特徴等も踏まえて、どのように考え るべきか。片方だけでいのか、両方やるべきかといった議論があろうかと思います。  3点目は正規労働者と有期契約労働者の二極化を橋渡しするものとして、例えば、「業務や職 場・事業所を限定した契約期間に定めのない雇用契約」により雇用されている者が、これは「労 働市場改革専門委員会」や第4次報告で提言されておりますけれども、これを研究会においては どのように評価すべきかということでございます。  3点目は「均衡待遇」でございます。まず、有期契約労働者のうち通常の労働者より所定労働 時間が短い者、いわゆるパートタイム労働者でございますが、これは「パートタイム労働法」の 適用がございまして、事業主はこの法律に基づいて均衡待遇を確保する必要がありますけれども、 これはパートでございますので、フルタイムの有期の方につきましてはこのような法的な枠組み がないところでございます。  今回のヒアリング等を踏まえまして、こういった課題についてはどのように考えるべきかとい うことでございます。  次は、これもパート法のことについて書いていますが、差別的取扱いの禁止。これは後ほど詳 しく説明いたしますけれども、対象者といたしましては短時間労働者のうち、正社員と一緒とい うことで無期契約の方、あるいは、この「実質無期」といいますのは東芝柳町工場事件型でござ いまして、反復更新によって実質的に無期契約と異ならない状態で存続している者、そういった 無期とほとんど変わらない方に限定されていますが、この有期契約労働者に係る差別的取扱いの 禁止の問題について考えるときには、この「実質無期」以外の有期の方についても検討すべきと いう考え方についてはどのように考えるべきかということでございます。  「諸外国の法制との比較」でございますが、諸外国におきましては、我が国と異なりまして、 正規労働者、有期ということではなくて、無期と有期という差別的取扱いが禁止されております けれども、我が国の雇用システムの特徴等に照らしてどのように評価すべきかということでござ います。  それから、「正規労働者への転換」のところでございますが、これも先ほどの議論と同じでご ざいまして、フルタイムの有期の方につきましてはパート法の適用がないわけですが、こうした 方々につきましても正規労働者への転換を推進すべきという考え方についてはどのように評価す べきかということでございます。  それから、「諸外国の法制との比較」でございますが、諸外国の法制におきましては有期に係 る規制の違反があった場合に無期とみなす法制が多く、転換推進措置といたしましては、フラン ス、ドイツのように無期契約に係る欠員の情報提供といった程度のものしかありませんが、我が 国の雇用システムの特徴等に照らしてどのように評価すべきかということでございます。  それから、資料3−1を御覧いただきたいと思います。今回の均衡待遇、あるいは正社員転換 といったことにつきまして、より理解を深めるために事務局の方でペーパーを用意しております ので、ちょっと説明をさせていただきたいと思います。  3−1は、均衡待遇と諸外国の法制における不利益取扱いの禁止がどのように異なるのかを整 理したものでございます。まず、上の方を御覧いただきますと、均衡待遇があります。  重要なことは、これは諸外国にはない我が国独特の概念でございまして、通常の労働者との職 務、人材活用の仕組み・運用や契約期間の違いに応じて、それぞれ法律に定めた措置を講ずるこ とにより、待遇面のバランスを図るということでございまして、ここで重要なことは措置を講ず ることによってバランスを図るということで、賃金水準がどうだこうだということがまず第一に 出てくるわけではないという措置義務の規定になっているということでございまして、これはち ょっとおめくりいただきますと、パート法におきます均衡待遇の確保がどのようになっているの かを書いております。  これはマトリックスになっておりますが、左側を御覧いただきますと、先ほど説明しましたと おり、通常の労働者と比較して職務の内容が同じなのかどうか、あるいは人材活用の仕組みや運 用など、これは人事異動の有無及び範囲と見ておりますけれども、それが一緒なのかどうか。あ るいは契約期間がどうなのか。無期なのか、有期なのかということによりまして、例えばすべて 通常の労働者と同じですということになりますと、賃金等のすべての待遇につきまして差別的取 扱いをしてはならないと二重丸で書いておりますけれども、そうしなければならないとなってお ります。  それぞれ、職務は一緒ですが、人材活用の仕組みは一部しか一緒ではありません、一定期間し か一緒ではありませんということになりますと、これは賃金の決定方法を同じようにしなければ ならないとなったり、それぞれ、丸とか三角で書いているような措置を講じなければならないと するようになっております。  そのほか、職務の内容が同じで人材活用の仕組みが異なる場合とか、職務の内容が異なる場合 ということについても、ここに書いておりますような措置を講じなければならないということが パート法における均衡待遇の確保になっております。  ちょっともとに戻っていただきまして、御覧いただきますとわかりますとおり、よく均衡、均 等といいますとどうしても同じ仕事をしている人だけが念頭に行くわけですけれども、我が国の 均衡待遇の考え方は職務内容の相違にかかわらず、すべての短時間労働者が一つの対象になって いるということが重要なところではないかということでございます。  次に賃金ということでございますけれども、今、御覧いただきましたとおり、これは決定方法 のような規制でございまして、これは一番上の二重丸のところを除きまして、賃金の水準につき ましては直接の規制がないということが、また諸外国とも若干異なっているということでござい ます。  主な履行確保手段は、こういう措置義務をいかに担保するのかというのは、基本的にパート法 は行政指導と紛争解決援助制度が利用されることを念頭に置いた法律構成になっているというこ とでございます。  一方、諸外国の有期法制はどうなっているかということでございますが、諸外国はこういう措 置義務の考え方ではなくて、特にEU法制、EUの諸国でございますけれども、客観的な理由に より正当化される場合を除き、有期契約労働者であることを理由として、比較可能な無期契約労 働者よりも不利な取扱いをしてはならないという規定が置かれているということでございます。  これは勿論、「比較可能な無期契約労働者と」ということでございますので、職務、あるいは 格付けが同じ無期契約労働者がいる方が対象になるということで、ここでは職務内容が異なる場 合は対象にならないということで、我が国のパート法とは異なってきていると。  いわゆる同一価値労働は職務内容が異なっても、例えば価値が一緒であれば同じ賃金にしなさ いという発想はこの有期法制においてはとられていないということでございます。  それから、諸外国の有期法制で出てきますのは、「報酬比例の原則」が明文に書かれたりして おりますけれども、そのように賃金の水準につきましても直接的な規制の対象になっているとい うことでございます。  次に主な履行確保手段としましては、ある意味ではちょっとふわっとしたこういう規定を置い て、具体的な解決は民事裁判に委ねられるということが諸外国の法制になっているということで ございます。  続きまして、資料3−2を御覧いただきたいと思います。  これは「均衡待遇確保」と「正社員転換推進」がどのように違うのか。これもできる限り違い を際立たせる感じで整理したものでございます。  まず、目的を御覧いただきますと、均衡待遇は正社員と同様に労働者の働きと貢献に応じた待 遇の確保を図るということでございまして、一方、正社員転換の方は意欲と能力がある者につい て正社員となる道を開くということで、特徴を御覧いただきますと、先ほどの説明にもつながり ますけれども、均衡待遇はあくまでも、これは仮に有期契約労働者にも同じことをやった場合と いうことですが、全員が対象になるということでございます。一方、正社員転換は希望する者の みがこの対象になってくるということで、違いが生じてきています。  2点目としましては、均衡待遇はどこまで進めていっても、期間の定めがあること自体を変更 するものではない。待遇は正社員と同じようになるかもしれませんけれども、期間の定め自体は 変わらない。  一方、正社員転換の方は有期の方を無期に変更するということで、属性の変更まで生じてくる ということが違うということでございます。  3点目といたしましては、均衡でございますので、正社員との待遇の差は生じますが、正社員 との就業の実態の違いに応じて待遇を決定することになりますので、この対象になる方の納得性 は向上するのかなということ。  それから、その下にまいりまして、2点目ともつながりますけれども、雇止め自体は有期とい う性格に基づいて発生するものでございますので、仮に同じ待遇にするとした場合でも、雇止め はなくならず、雇用の安定には必ずしも結びつかないということがございます。  一方、正社員転換の3ぽつ(・)目でございますけれども、正社員にするということですから、 通常は待遇が改善されると考えられますけれども、正社員という枠組みの中では待遇の差が設け られるということはあり得るということでございます。  例えば、総合職と一般職に区分されている場合に一般職にだけ転換しますという考え方は当然、 あり得ます。それから、無期契約であるわけですから、雇用の安定は雇止めがないという観点で 一定程度、図られるということは正社員転換の特徴だと思います。  課題といたしましては、まず、均衡待遇ですが、先ほど佐藤先生からも御指摘がありましたけ れども、正社員の方は長期勤続を前提とした人事・賃金制度となっているということ。一方、有 期契約労働者は短期的な雇用を前提にした制度となっているということで、この両者の間の均衡 をいかに図るのか。これが課題になってこようかと思います。いわゆる職務の同一性だけで均衡 を図るのは、なかなか難しい面もあるのではないかと考えられます。  それから、現時点においてということですが、有期契約ということが今はパート法では有期で 差を設けることが認められておりますけれども、待遇の差を設ける合理的理由となるのかという のは議論をする必要があるだろうと思っております。  それから、正社員転換の方ですが、労働者のニーズからすると責任が重くなるから正社員にな りたくないという方が今回の実態調査等でも出てきておりますけれども、こういう労働者がいる ことをどう考えるのか。  あるいは企業側のニーズといたしましても、正社員を幹部候補生と位置づける場合には正社員 転換のハードルが非常に高くなってしまう。そのことをどう考えるのかという課題があろうかと 思います。  したがいまして、正社員転換を進めるにしても、こういった労使のニーズにどう対応するのか という課題が出てくるだろうと思っております。  それから、資料4−1でございます。  これは当研究会で行いましたヒアリング結果のうち、今回の論点に関わるものを抜粋させてい ただいたものでございます。  まず、「契約締結時の課題」でございます。契約締結・更新時に契約内容の明示、捺印・手交 等によりまして、本人に内容を確認することでトラブルが発生しないようにしているということ を流通業の方は言っておられます。  それから、人材派遣業の方は大臣告示に沿いまして、更新の有無等について明示をしておられ ると。また、更新について労使で互いに確認する時期をいつにするか、事前に具体的に労働者に 伝えるようにして納得性の向上を図っているということでございます。  それから、中小企業の方は契約締結時に労働者一人ひとりに時間をかけて、一つひとつの契約 内容を確認することで納得することで契約締結をしてもらえるようにしている。  一方、労働相談担当者の中からは、この大臣告示につきましては判断基準の明示とか雇止め理 由の明示については、必ずしも守られていないということで、より周知徹底が必要ではないかと いう御発言をいただいております。  それから、均衡待遇でございますけれども、この製造業関係の労働組合の方からはパートの方 と正社員のうちの日給月給者を比べると、日給月給者以外にも実は月給者の方がおられますが、 日給月給者と比べますと業務面では明確な差がない。  一方、正社員との待遇の差として賃金水準自体が異なる。賞与の額が勤続年数に応じて変わる ほか、通勤手当等がその月の労働時間が少ない場合には支給されないとか、いろんな違いがある ということを挙げて言われております。  流通業関係の労働組合の方からは、この組合の方はこれまでかなり取り組んできておられまし て、忌引き休暇とか退職慰労金の導入等の取組みを図ってきておりまして、近年、人事処遇制度 を一本化したと。  この処遇制度におきましては、属性に関わる手当をすべて仕事基準にする、要するに職務給へ 一本化したほか、教育訓練機会も同様であり、同じ評価基準で昇進することにしているというこ とで、有期の方からも評価されていると言われております。  流通業関係の労働組合の方からは、正社員はフルタム・無期雇用であり、「シフト勤務」に組 み込まれ、日によって勤務時間帯が異なるなど、不規則勤務であると。それから、自宅から離れ た他事業場へ配置転換されるケースもあるということで、先ほどのパート法の枠組みを使うので あれば、人材活用の仕組みが有期の方とは異なってきているということを言われております。  一方、非正規労働者を組織している労働組合の方からは、10年ぐらいかかって、少しずつ賃上 げがあっても、1回の契約更新で大幅に金額が下がることがあるので、均等待遇を実現するため には有期労働契約そのものの問題とセットにして是正していかないと、実効性がなくなるという ことを懸念されております。  それから、正社員転換ですが、有期の方にも正社員登用の道を開いておりまして、かなりの数 の方が正社員に登用されているということを製造業の方は言われております。  それから、流通業の方は正社員転換の登用制度を設けておられますが、応募は思ったよりも少 ないと。これは正社員になると時間外労働や人事異動を伴うということで、家庭と仕事の両立面 で支障が生じかねないということを気にされているのではないかと言われております。  裏にまいりまして、中小企業の方はやはり正社員登用制度については拘束時間や自由度という 点で大分変わってくるので、申し出が少ないのではないかと言われております。  製造業関係の労働組合の方も正社員転換へのニーズは高く、大きいのですが、この1年間の転 換事例はないということで、この労働組合の方はトップダウンで推進することが効果的ではない かと言われております。  流通業関係の労働組合の方は複数の有期契約の方が正社員に転換されている実績がありますと。 ただ、正社員を希望するよりも、そのまま、今の仕事のまま雇用の安定を望むと。恐らく無期に してくれという声だと思いますが、その声については会社側が受けとめるに至っていないと言わ れております。  それから、資料4−2を御覧いただきたいと思います。  これは7月に実施いたしました実態調査のうち、今回の論点に関わることを抜粋したものでご ざいます。まず、事業所調査でございますが、1ページ目は労働条件の明示のところでございま す。  御覧いただきますとわかりますとおり、契約期間、更新の有無、判断基準の明示といったもの が、この丸で囲んでおりますように、それぞれ9割、8割、6割ということで明示されていると いうことが出ております。  2ページにまいりまして、今度は就業の実態を明らかにするために残業の有無を聞いておりま す。残業をすることがあるという有期の方は62.5%ということで、これを職務タイプごとに見ま すと同様職務型が68.2%ということで、丸が別職務のところに付いていますが、軽易職務型の 56.7%からするとちょっと多くなっているということでございます。  3番は人材活用の仕組みということで、異動・転勤の有無と範囲ということでございますが、 異動・転勤することがあるとする同様職務型が26.8%。これが軽易職務型になりますと、ない方 が8割を超えているということで、職務タイプによって差が生じてきているということがここで 出てきております。  3ページにまいりまして、これも人材活用の仕組みの1つでございますが、昇進の有無でござ います。これを御覧いただきますと、正社員が昇進することがあるのは87%でございますが、同 様職務型で20.9%、軽易職務型になりますと8割以上の方は昇進することがないということにな っております。  一方、基本給の水準でございますけれども、正社員と比較した基本給の水準が同様職務型で6 割から8割、あるいは8割から10割というのが3割弱ということで、軽易職務型になりますと6 割から8割が38.4%で最も多くなっているところでございます。  次のページにまいりまして、退職金、賞与の有無でございます。これを御覧いただきますと、 退職金がある有期契約が12.6%、賞与があるとするのが45.6%でございまして、これもタイプご とに見ていただきますと、同様職務型が軽易職務型に比べて多いということになっています。  諸手当につきましては、丸で囲んでおりますが、通勤手当は職務タイプによる大きな差はない のではないかと見ております。  退職金の水準でございます。これを御覧いただきますと、これは仕事の中身が高度だからとい うことでしょうが、高度技能活用型で正社員と同額程度というのが63.1%ということで、ほかの ところは低くなっておりまして、とりわけ2割未満とするのが軽易職務型で37%となっておりま す。  次のページにまいりまして、教育訓練機会でございます。正社員と比較した教育訓練機会でご ざいますが、同様職務型で全般的に正社員とほぼ同じ教育訓練機会が与えられているとするのが 42.3%、一方、軽易職務型になりますとむしろ少ない、あるいはほとんどないとするところが2 割を超えてくるということでございます。  それから、福利厚生の内容でございます。これを御覧いただきますと、福利厚生があるとする 有期契約労働者は84.2%ということで、何らかあるというのが8割を超えているということでご ざいます。  次のページをおめくりいただきまして、正社員転換制度及び実績でございます。制度があると お答えになった事業所が46.5%、そのうちの実績があるとするところが52.2%でございます。  先ほど、ヒアリングに出ていました「少ない」ということで、何か支障があるのかというとこ ろでございますが、実は支障がないとするところが51.3%で最も多いのですが、個々の「ある」 とするところの中身を見ますと、ポストが少ないというところがこの調査では20.8%ということ で多くなっているところでございます。  次のページは個人調査の方でございます。まず、(1)は、これも労働条件の明示でございま して、御覧いただきますとわかりますとおり、契約期間、あるいは更新の有無、更新の判断基準 の明示については95%、87%、62%という明示の割合になっております。  それから、残業でございます。これを御覧いただきますと、やはり職務タイプによって差が出 ておりまして、同様職務型で残業することがあるとするのが69.6%、軽易職務型になりますと 52%の方が残業することはないとなっております。  おめくりいただきまして、今度は正社員と比較した場合でございます。これは正社員と比較し たらどうかと見た場合は同様職務型で7割を超える方が同じように残業をしていますと。なおか つ残業時間が等しいとしているのが65%おられます。  一方、軽易職務型になりますと、残業もするというのが55%ですが、この残業時間は64%の方 が、有期の方の方が短いと答えております。  異動・転勤の有無が次の(3)でございます。異動・転勤することがあるとするのがやはり同 様職務型の方がほかのタイプに比べて高いということで、軽易職務型に至りましては転勤するこ とがないとするのが8割を超えてくるということでございます。  正社員と比較した場合でございますが、これも御覧いただきますと、ここで御留意いただきた いのは正社員も転勤がないというのが22%、これは恐らく中小企業も含めますとこういう数字に なってくるのかなということ。  軽易職務型になりますと、正社員のみがするというのが68%と高くなってくるということでご ざいます。  3ページにまいりまして、今度は昇進の有無でございます。まず、一般的なことを申し上げま すと、昇進することがないとするのが67%でございます。タイプ別に見ますと、あるとするのが 同様職務型が比較的高く、17%となっております。  正社員と比較いたしますと、勿論、正社員のみがするというのが77%で多いわけですが、両方 するとするのがタイプ別に見ますと同様職務型で20.5%で、最も高くなっているところでござい ます。  基本給の水準でございますが、正社員に比べて少し低いとするのが同様職務型で、23.8%。か なり少ないとなりますと、勿論、同様職務型も40%を割りますが、軽易職務型で56%と最も多く なっております。  それから、退職金でございますけれども、退職金があるとする有期の方が10.2%。これも職務 タイプごとに異なりまして、あるとしても、特に軽易職務型になりますと正社員に比べて少ない ということになっております。  次のページにまいりまして、賞与でございます。賞与があるとする有期の方は28%でございま して、これもタイプ別に見ますと同様職務型で最も高く、35.3%になっております。軽易職務型 になりますと、少ないというのが95%を超えてくるというふうになっております。  それから、諸手当でございます。これは両方、諸手当があるとするのが同様職務型でタイプご とには最も多く、69.4%でございますが、正社員よりも諸手当の数が少ないとするのが有期全体 で81%を超えてきているということでございます。  それから、昇給でございます。正社員のみ昇給があるとするのが57.9%という数字が出ており ます。  次の5ページにまいりまして、福利厚生でございます。これも正社員にも有期にもあるとする 有期の方が73.8%でございますけれども、これも数を見ますと73.8%の方が、やはり有期の方の 方が福利厚生の数が少ないとお答えになっているところでございます。  それから、教育訓練機会でございます。これは前回も事業調査とちょっと違う結果だと申し上 げましたが、比較的に同様職務型がほかのタイプに比べまして正社員とほぼ同じ教育訓練機会が 与えられているということになっておりまして、軽易職務型になりますと、少ないとお答えにな っております。  転換制度になりますと、転換制度があるとするのが25.4%とお答えになっているところでござ います。  次に資料4−3でございます。こちらの方は今回の論点に係る諸外国の法制との比較を、第5 回の研究会資料などを基に作成したものでございます。  まず、「契約締結時の労働条件等の明示」でございます。我が国につきましては、労働基準法 によりまして契約期間、賃金、その他、一定の労働条件は書面で明示する必要がありまして、こ れは罰則がございます。  それから、更新の有無、判断基準につきましては、これは大臣告示によりまして明示する必要 があるとしていまして、違反に対しましては助言・指導の対象になるということでございます。  それから、労働契約におきましては、契約の中身についてはできる限り書面で確認してくださ いということが書かれております。  ドイツでございますが、ドイツは契約期間の設定については、有効となるためには書面性を必 要とするとなっております。それから、契約期間を含む主要な労働条件につきましては、遅くと も労働関係開始の1か月後までに書面で交付する必要があるということで、ドイツにおきまして はある程度の幅が認められていると。 仮に期間設定が無効になった場合につきましては、この 有期契約は期間の定めなく締結されたものとみなされるとされております。  フランスでございます。フランスも同様、有期契約は必ず書面で締結しなければならないとな っております。それから、契約書には利用事由、契約満了日、更新条項、不確定期限の場合は最 低期間等を記載する必要がございます。  契約書はドイツと異なりまして、採用日から2日の就業日以内に交付する必要があるとなって おります。書面の欠如、あるいは利用事由、必要的記載事項の記載がない場合は無期とみなされ るほか、賠償金の支払い義務があったり、あるいはここについては刑事制裁もございます。  イギリスでございます。イギリスは1か月以上勤続している被用者には雇用継続期間等につき まして、雇用開始の2か月以内に雇用条件明細書で交付する必要があるとなっております。  この不交付、あるいは誤った内容の交付の場合につきましては、被用者は雇用審判所に対して 雇用条件の特定、または修正を求めることができるということが認められております。  アメリカでございます。これは詐欺防止法等で書かれているということでございますが、多く の州では1年を超える有期契約を締結する場合、書面によらなければ当事者は法的拘束力を否定 されるというものがあるということでございます。  裏にまいりまして、今度は均衡待遇、あるいは正社員転換ということで比較表をつくったもの でございます。ちょっと字が小さくて恐縮でございますが、ここで御留意いただきたいのは、ち ょっと見出しを付けておりますけれども、均衡待遇については我が国に独特の制度で、諸外国に ついては不利益取扱いの禁止という形になってきているということでございます。  我が国につきましては、先ほど説明いたしましたとおり、短時間労働者について均衡待遇を推 進というものが書かれているということでございます。  ドイツにつきましては、不利益取扱いの禁止ということでございまして、客観的な理由が異な る取扱いを正当化する場合を除きまして、比較可能な無期の方よりも不利に取り扱われてはなら ないと。  一定の算定期間について支給される賃金等については、少なくとも就業期間の割合に応じて保 障しなければならないと。仮に一定の雇用条件が就業期間に係っている場合は、その異なる取扱 いが客観的に正当化される場合を除いて、無期の方と同じ期間を考慮してくださいとなっており ます。  フランスにつきましても同じでございまして、比較可能な条件にある無期の方と同じ権利・義 務を享受するということになっております。  それから、報酬につきましては同等の格付けで同じ職務に従事する無期の方が試用期間後に受 け取る報酬額を下回ってはならないということで、ここは違反に対して刑事制裁が書かれており ます。  労働条件については、勤続年数要件がある場合は異なる待遇も許容されることがあるとされて おります。  イギリスでございますが、イギリスも同様でございまして、比較対象となる被用者と比較して 不利に扱われない権利を有するとなっております。それから、勤続期間の資格要件についても不 利な取扱いを受けない事項としまして規則に明示的に書かれております。  それから、報酬についても比例原則が適用されることになっております。  それから、不利な扱いを受けていると考えている有期の方は使用者に対しまして、その扱いの 理由を示した書面の交付を求めることができるとなっております。  韓国でございますが、韓国もヨーロッパと同様でございまして、期間労働者であることを理由 に類似の無期の労働者の方と比べて差別的取扱いをしてはならないということになっております。  デンマークもEU指令が適用される国でございまして、比較可能な無期の方よりも不利になっ てはならないとなっておりまして、報酬の期間比例の原則、あるいは勤続年数を資格とする場合 は同じにしてくださいということが書かれております。  右側にまいりまして、正社員転換の推進等でございます。「正社員転換推進」とあるのは我が 国に独特でございまして、これも短時間労働者についてパート法に書いてございまして、事業主 は通常の労働者への転換を推進するために、通常の労働者に係る求人情報をその雇用する短時間 労働者に周知しなければならない。あるいは社内公募の機会提供、あるいは通常の労働者への転 換試験の整備等の措置を講じなければならないという措置義務の規定が書かれております。  ドイツについては正社員ではなくて、あえて無期契約の転換の推進策と整理をさせていただき ましたけれども、期間の定めのない労働ポストに関する情報を提供しなければならないというも のがございます。ドイツは違反に係る無期みなしの規定があるということは、前回の研究会で申 し上げたところでございます。  フランスについてもドイツと同様でございまして、ただ、ここは無期のポスト、その職のリス トを提供する措置が存在する場合は、有期の方についても通知しなければならないというルール、 平等取扱いの規定がございます。違反に係る無期みなしがあるということはドイツと一緒でござ います。  イギリスでございますが、イギリスについてもやはりその期間の定めのない雇用契約の職を得 る機会について無期の方との平等取扱いの義務があります。それから、違反に係る無期みなしは 締結事由ではなくて、上限を超した場合に原則的に無期となるというものがございます。  韓国でございます。韓国はどちらかというと我が国に近い規定でございますけれども、期間の 定めのない労働契約を締結して新たに労働者を雇用する場合、当該事業、または事業場の同種、 または類似業務に従事する期間制労働者を優先的に雇用するように努めなければならないという 規定がございます。それから、違反に係る無期みなしがやはり韓国もございまして、2年を超え た有期契約は無期とみなされるというものがございます。  デンマークでございますが、やはりデンマークも有期契約の方につきまして常用機会の情報提 供、ポストの情報提供がございます。それから、これはある意味、藤村先生の御指摘に近いのか もしれませんが、有期の方が技能やキャリア機会を改善し、職業的移動可能性を高めるために適 当な訓練へのアクセスを容易にするものとするような規定がございます。それから、違反に係る 無期みなしが判例法理でデンマークもあるところでございます。  それから、資料4−4を御覧いただきたいと思います。今回の論点に参考になりそうな裁判例 を幾つか事務局でピックアップしたものでございます。おめくりいただきまして、2ページを御 覧いただきたいと思います。契約締結時の期間の定めの明示に関する裁判例を3つほど紹介して おります。  まず、ソニー長崎事件がございます。これは雇用契約書がなかったというものでございますが、 これは募集広告に雇用期間が書かれていた、あるいは使用者の方が一方的に送ってくる採用通知 書の内容などから、雇用契約には書いていませんでしたが、期間の定めのある契約であると判断 されたものでございます。  次は愛徳姉妹会事件でございます。これは中途採用者につきまして求人票には雇用期間の欄に 記載がなかった。それで定年が60歳であることは書いてあった。この労働者の方は他企業の内定 を断って応募してきた等を勘案しまして、特段の事情がない限り、この求人票の内容が雇用契約 の内容となり、契約書には1年間と書いてありましたが、求人票によって応募したものであるこ とから期間の定めのない職員であることを内容として成立されたとしたものでございます。  これは実はこの後、本訴がございまして、その本訴の方ではこの契約書に1年と書いてあった のだから、これは期間の定めがあるという判決が出されております。  それから、日欧産業協力センター事件でございます。これは1年間の期間の定めのある労働契 約である初期契約の締結後、6年間、手続は全くなかったということです。期間の定めのあるこ とを確認する手続もなかったということですけれども、この初期契約を締結したときの説明内容、 あるいはこの契約の記載内容が、これは申し出がなければ自動的に更新するようなことが書いて あった。あるいは勤務内容等から判断すると、初期契約の契約更新後の契約についても、1年の 期間の定めがあるものと了解されていたものと考えるのが最も自然であり、合理的であるとして、 第一審判決は期間の定めのない契約として存続することになりましたが、それではないというこ とになったというものでございます。  それから、均衡関係でございます。これはまず1つ目は非常に有名な丸子警報器事件というも のでございますが、同一価値労働・同一賃金の原則が労働関係を規律する一般的な法規範として 存在しているとは認められないと。  しかし、同原則の基礎にある均等待遇の理念は賃金格差の違法性判断において一つの重要な判 断要素として考慮されるべきものであり、原告ら女性臨時社員と同じライン作業に従事する女性 正社員について、従事する職種、作業の内容、勤務時間、日数、並びにいわゆるQC活動への関 与などがすべて同種であることなど、労働内容が外形面でも帰属意識という内面においても同一 であるにもかかわらず、原告らの賃金が同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となっているとき は許容される賃金格差の範囲を明らかに超え、その限度において使用者の裁量が公序良俗違反に なるとされたものでございます。  次も有名な日本郵便逓送事件でございますが、こちらの方は同一労働・同一賃金の原則が一般 的な法規範として存在しているとは言いがたいとされたものでございまして、一般的に期間雇用 の臨時従業員について、これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは正社員と同様の 労働を求める場合であっても、契約の自由の範疇であるということで何ら違法ではないとしたも のでございます。  それから、次の2つは比較的新しいものを紹介いたしたいと思います。  1つ目が京都市女性協会事件でございます。これによりますと、憲法14条、労働基準法4条の 根底にある均等待遇の理念、あるいはILO100号条約等が締結されているもとでの国際情勢及び 労働契約法等が制定されたことを考慮すると、パートタイム労働法8条、これは就業の実態が同 じ場合に差別的取扱いは禁止と書いてありますが、パートタイム労働法8条に反していること、 ないし同一価値労働であることが明らかであることが明らかに認められるのに、労働に対する賃 金が相応の水準に達していないことが明らかであり、かつその差額が具体的に認定し得る特段の 事情がある場合には、その当該賃金処遇が均衡処遇の原則に対して不法行為を構成する余地があ るとされたものでございます。  実際はどうであったかというのが次のパラグラフでございまして、1年の有期契約を更新して いた嘱託職員、これは短時間の方でしたが、主体的に責任を持って業務を遂行し、質の高い業務 を行っていたことは認められた。ただ、業務が限定されていた。あるいは有期で職務ローテーシ ョンの対象ではなかったということで、人材活用の仕組みが異なっていたということからすると、 原告はパート法の8条が適用されるような通常の労働者と同視すべき短時間労働者に該当すると は認めがたく、ほかにどのような賃金にするべきか判断すべき事実がなかったので、訴えが退け られたということでございます。  それから、学校法人立教女学院事件でございますが、これも佐藤先生から御指摘のあったよう なことが書かれておりまして、いまだ我が国は長期雇用が予定されている労働者と短期雇用が予 定されている有期雇用労働者との間に単純な同一労働・同一賃金の原則が適応されることが公序、 公の秩序になっているとは言えないということで、同一労働の賃金原則はあるかもしれないが、 この2つには単純には適用されないのではないかということが指摘されたということでございま す。  次のいすゞ自動車事件、これも新しいものでございます。これはなぜ紹介するかといいますと、 労働契約法第3条の均衡処遇のことが引用されたということで紹介させていただくものでござい ます。  これは事案としましては、有期の方が初め、中途解雇されたのですが、それが撤回されて、そ の残りの期間を休業にするということで休業手当60%を支給されたものでございますが、この休 業手当についても使用者の一方的決定によって40%を不支給とすることが重大な不利益であり、 包括的、一律に長期間にわたり休業させることの合理性は非常に高度なものを要するものとされ たというものでございます。  「さらに」のところが労働契約法から引用されたところでございまして、正社員の方はこうい う長期の休業にはなっていないということで、この差別的取扱いについては労働契約法の基本理 念の規定中に均衡処遇の概念、理念が盛り込まれていることを併せて考慮すると、その差別的取 扱いをもって直ちに合理性を否定することはしないとしても、少なくとも、そのような差別の有 無、程度、内容は合理性の判断における重要な考慮要素になるとされたというものでございます。  次に職種の限定に関する裁判例。今回、職種限定正社員のようなものがちょっと論点に挙がっ ておりますので、ちょっと挙げたものでございます。  東京海上日動火災保険事件でございますが、これは損害保険の契約募集等に従事する外勤の正 規従業員、正社員の方ですが、その労働契約につきまして業務内容、勤務形態及び給与体系が、 正社員はほかに内勤職員がおりましたが、その内勤の方とは異なる職種としての特殊性、及び独 立性が存在しまして、そのため使用者は初めは有期として職種及び勤務地を限定した労働者を募 集して、その後、正社員に登用したのですが、その後もその限定した合意は黙示的に引き継がれ ているとされたものでございます。  実際にこういうふうに職種限定の合意を伴う労働契約があるわけですが、採用経緯と当該職種 の内容、あるいは職種変更の必要性の有無、程度、変更後の業務内容の相当性、配転による労働 者の不利益の有無、程度、代替措置等を考慮しますと、他職種への配転を命ずるについて正当な 理由があるとの特段の事情が認められる場合には、職種限定ではありましたが、当該職種を別の 職種への配転を有効と認めることが相当であるとされたものでございます。  これは実際は不利益は非常に大きいということで、この配転も認められなかったということで ございます。ちょっと参考までにこういうものも紹介させていただいております。  資料4−5はこれまでの提言を紹介させていただいております。  まず、17年の研究会報告でございます。この下の方のアンダーラインを御覧いただきたいと思 います。下の3行です。このときも有期と正社員の均等待遇につきましては雇用形態にかかわら ず、その就業の実態に応じた均等待遇が図られるべきことを明らかにすることが適当であるとさ れたところでございます。  おめくりいただきまして、今度は契約の書面における明示でございます。1パラグラフ目の下 線のところを御覧いただきますと、使用者が契約期間を書面で明示しなかったときの労働契約の 法的性質については、期間の定めのない契約であるとみなすことが適当であるということを、こ のとき、御提案されております。  それから、(2)のところでございます。  これも1パラグラフの傍線のところを御覧いただきますと、更新の可能性の有無や更新の基準 の明示の手続を法律上必要とすることとし、使用者がこれを履行したことを雇止めの有効性の判 断に当たっての考慮要素とすることが適当であるということが、この際、言われております。  ちょっと1ページ飛ばしていただきまして、4ページでございます。  これは「労働市場改革専門委員会第4次報告」でございます。ここでは幾つかの壁の一つとし て働き方の壁を是正する方策が提言されております。その中の(3)のところに正社員と非正社 員の中間的な働き方が提案されております。  これもアンダーラインのところを御覧いただきますと、この有期で契約更新を繰り返す非正社 員の雇用の安定を図るために短期雇用と長期雇用の中間に位置する中間的な雇用契約についてル ールを設けることが有効となっておりまして、具体的には、期間の定めのある有期契約と契約期 間に定めのない雇用契約の中間に業務や職場・事業所を限定した契約期間に定めのない雇用契約 という選択肢を設けることが適当ということを御提案いただいているものでございます。  それから、最後、資料4−6は今回の論点に関わる参照条文を付けております。  ちょっと説明が長くなりましたが、私からの説明は以上でございます。 ○鎌田座長 ありがとうございます。それでは、これから御議論をいただきたいのですが、まず、 前回の議論の残りがございまして、それは何かといいますと、1回の契約期間の上限についてと いうことで、資料でいいますと資料2の2ページ目の真ん中辺、3、「1回の契約期間の上限」 という論点がちょっと残っておりましたので、まず、これについて先生方に御議論いただきたい と思います。いかがでしょうか。 ○佐藤委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 どうぞ。 ○佐藤委員 これはどうすべきかというのは早急には言えませんが、考えなければならない要素 として2つあるのではないかと。やや相矛盾しますが、一つは使用者側から見たときに非常に市 場環境が不確実性、不透明性が高まっている中で、何をどれだけつくったらいいのかということ の判断が非常に難しくなってきているということは、よく指摘されているところです。  そういうところから考えたときには、通常、契約期間を短くして、そしてその契約をして雇用 するのが合理的だと考えるという考え方が1つあると思います。  もう一つはそれとちょっと違うのですが、働く方から見たときに、不透明性の高い状況の中で 短期で契約を区切って断続的にやるという働き方は、将来展望が見えない。それから、また仕事 に対するコミットメントということから言っても、これは組織心理学などの研究ではそういう不 透明性が高くて断続的な期間のもとで仕事をさせるのは、そうでない人たちよりもコミットメン トやモラルにおいて問題があるという知見もあります。  したがって、一方で合理性が、短期で、ここの文脈で言うと期間を短くするか、長くするかと いうことについて言いますと、短くするのが合理的だという考え方と長くした方がよいという考 え方が共存しているのではないかという点があるのではないかということです。 ○鎌田座長 よろしいですか。 ○佐藤委員 はい。 ○鎌田座長 ちょっと基本的なことをお聞きします。労基法の137条、「当分の間の措置として」 ということですが、この当分の間の措置として、ある種、片面的規定になっているわけですけど、 その理由を少し御説明いただけますか。 ○富田調査官 これは条文を御覧いただいた方がわかりやすいかと思います。恐らく第1回の資 料4です。お手元にあると思いますけれども、第1回の資料4のところに労働基準法の引用をし ておりまして、ここの附則第137条が14条の下に書かれております。  ここで「期間の定めのある労働契約を締結した労働者は労働基準法の一部を改正する法律の附 則第3条に規定する措置が講じられる前の間」ということで、民法628条の規定にかかわらず、 当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以降においては、その使用者に申し出ることに より、いつでも退職することができるということでございまして、これは「附則の第3条」と書 いておりますが、国会修正で入ったものでございまして、この「当分の間」はこの附則第3条に ありますこの法律の施行後3年を経過した場合において、この法律による改正後の労働基準法第 14条の規定についてその施行の状況を勘案しつつ、検討を加え、その結果に基づいて必要な措置 を講ずるものとするということで、今はまさしくこの14条の施行状況等を踏まえまして御議論い ただいているわけでございますので、「当分の間」はこの14条の検討とセットであるという感じ かなと考えております。 ○鎌田座長 ありがとうございます。私の方から少し聞きたいことは、事務局にお答えいただけ ればと思いますが、契約ですので、期間を定めて、その間、労使ともに期間内には拘束されると いうことはまさにその契約の原則、もっとわかりやすい言い方をすれば、期間を定めて、その間、 就労するということはその間の他の転職機会についてのリスクを契約の中で合意によって分配す る、適正に配分するということが大原則だと思うのです。  ところが、この規定はいわゆる片面になっていまして、その辺のところ、契約論からいうとそ の辺が恐らく労働者保護の観点から片面化しているということだと思うのですが、それはいわば 労働者にとってその拘束性が1年以上を超えた場合には、少しその保護から言って問題がある。 こういうことなわけですね。 ○富田調査官 前回の15年の改正はこの論点にも書いたとおり、原則1年から3年に延長したと いうことで、このときに議論になりましたのは常用代替が進むのではないかとか、あるいは若年 定年制がたくさん出てくるのではないかということでございます。  したがいまして、この1年を3年に延ばすこと自体がかなり議論になっていた。その当時の契 約期間は1年だったわけです。ですから、それを議論がまだ詰まっていないのに3年にするとい うことで、そこはやはりその当時の1年という原則を維持した上で議論を先に延ばしてやろうと いうことで、この1年という期間は恐らく民法の原則に従って、その両当事者の拘束性が維持さ れたわけでございますが、それを超える部分については労働者に少し有利なものになっているの ではないかと理解しております。 ○鎌田座長 なるほど。そうすると、その常用代替の防止などの雇用システムの在り方に関する 政策的な議論、政策的な目的があって、その1つの流れの中でこういう片面的な規定になってい るということですね。  ただ、それはその常用代替防止を含めて、そういった政策的な課題は単にここだけで解決する わけではなくて、つまり、その期間の定めのある労働契約についての退職の自由をどう保障する かということだけにとどまらず、全体で考えていくことだろうと思います。  もう一つ、しかし、期間を定めることが契約上、両当事者に一定の拘束性を持つというのは契 約法から言って、非常に重要なことでありまして、そういったことを原則的に考えておくという 立場も必要ではないかと思います。 ○荒木委員 2003年改正のときは、審議会では上限1年を3年に上げようと。そのときの考え方 は上限1年までということであれば、そもそも、例えば3年使いたいという場合でも1年契約を 2回更新しなければいけない。つまり、結局、短期契約になってしまう。  労使双方に一定の期間を定めた雇用関係を設定するニーズがあるのであれば、むしろ短期契約 と長期契約の間の中期雇用を認めた方が有期契約の雇用自体の質も上がるのではないか。そうい う議論で1年から3年に上げるという審議会での結論になったと記憶しております。  これが国会の修正で1年を過ぎたらいつでも辞めることができることになりました。これは国 会の意思でありますので、そういう審議会と異なる意思決定がなされたということだと思います。  ただ、国会修正でありましたので、余り法的には詰めていないままに立法された結果、無期契 約、正社員であっても、2週間の予告を置かないと雇用関係を解消できないのですが、この137 条はいつでも退職することができるということで、無期契約労働者と比べてもちょっと均衡がと れていない点があります。  それから、3年の通常の有期契約についてのみこういう解約、労働者に片面的な解約自由を与 えていますが、他方で5年まで上限で決められている専門能力のある有期契約については対処は されておりませんが、それはそれで平仄が合っているのかといった問題もあります。  もしこれを維持するのであれば、そういう点についてどうするのかということを考えなければ いけないと思います。  もう一つ、この137条が国会修正で入った結果、審議会での中期雇用、すなわち労使ともに3 年間、雇用関係が存続するということを前提に有期契約がより質の高い契約として使われるかど うか、そうなるとかならないとか、いろんな議論がありましたが、それがこの修正によって、結 局、労働者はいつでも辞められるということですから、中期雇用自体は導入されなかった。  つまり、中期雇用としての活用が現行法制でどうなるかということは、実は試して検証するこ とができない状況のまま、今日まで来ている。そういう状況かなと思っております。 ○鎌田座長 ありがとうございます。はい、どうぞ。 ○奥田委員 今、荒木先生の方から検証の問題をおっしゃったのですが、今回のヒアリングとか 実態調査の結果を踏まえてどう考えていくかということで、この研究会が設定された目的の1つ でもあったと思いますが、これをどう考えるかというときに、やはり前提として、例えばこれま でに出てきた統計であるとか、そういうものからしますと、この2003年に3年契約が結べるよう になったことによって、その3年契約が増えたのかどうか、そういうことが必ずしも出てきてい ないと思うのです。  ですから、初回のときにも一度発言をさせていただきましたが、そのときの統計でも2003年以 降に3年契約が増えたかどうかはわからない統計でしたし、その点でいいますと、2003年の法改 正をどう評価するか、その根拠となる資料といいますか、そういうものがはっきりと明示されて いないとは思っています。今、おっしゃった検証という点と同じだと思います。  この間のヒアリング等で2003年以降でも契約自体は必ずしも1年から3年に延ばしたわけで はなくて、契約自体は1年で結ばれているということも出てきていたと思いますので、その契約 期間が延びることの利用がもしかしたらそれほどないのかもしれませんし、逆に、今、137条の話 が出てきましたように、この規定があるから3年契約が結ばれていないのかもしれませんし、そ の辺りの判断をする材料が、検証をするための材料が必ずしもないのではないかとも思いますの で、若干、判断しかねるという点があります。 ○鎌田座長 この点については事務局の方で、いわばその判断、検証できるようなデータがもし ございましたら、御紹介いただければと思います。 ○富田調査官 今回の実態調査におきましては、この契約期間のところは非常に重要な論点の1 つと考えておりましたので、それを念頭に調査表もつくらせていただいたと考えておりまして、 すぐにちょっと出てきませんが、例えば、今回、基準法の改正によりまして1年から3年に延び たから有期が増えているのかということを、実はこれは第6回の研究会資料を御覧いただきます と、ちょうど資料3の例えば17ページのところに、第10表があります。  この第10表の真ん中辺りに、基準法の改正により1回の契約期間の上限が1年から3年に延び たから有期を増やしているのですとお答えになった事業所は0.5%ということで、非常に少ないと いうことがあろうかと思います。  それから、おめくりいただきまして、同じ資料ですが、19ページには1回当たりの契約期間が 非常に延びているのかということをまとめた第12表がございます。これを御覧いただきましても、 これをどう評価するかはちょっと私どもには直ちに判断しかねる部分がありますけれども、1年 以内というところが非常に多い。  むしろ、17年に統計情報部の方で同じような調査をしておりますけれども、それと比較しても、 そんなに1年を超えるような契約が増えているとは見えないということがありますので、こうい ったことをどのように評価するのかということがあるのではないかと考えております。 ○鎌田座長 ありがとうございます。今、幾つか、データについての御指摘がありまして、この データをどう読むかということを今すぐに御意見をいただくのも難しいのではないかと思います ので、後ほど、また次回、あるいは次々回の方でもし御発言があればそういうときに回していた だきまして、今回、ちょっと本題の話し合いが、本題の議題にまだ入っておりませんので、この 次の本日議論をする論点についての議論に進めさせていただきたいと思いますが、よろしいでし ょうか。 (「はい」と声あり) ○鎌田座長 はい。では、もしデータについて参考になるものがあれば、後日、事務局の方から も各先生の方にこの論点について提示をしていただければと思います。  それでは、もう時間がかなり押していますが、今日、本来の議題の方に議論を進めたいと思い ます。まず、第一の議題は「契約締結時の課題」でございまして、この点につきまして先生方、 自由に御発言をお願いできればと思います。  大きく2つに分けまして、今、少し時間を使っていただいて、その後、「均衡待遇、正規労働 者の転換」というもう一つの議題でまた時間をとろうということで考えておりますので、よろし くお願いしたいと思います。 ○奥田委員 いいですか。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○奥田委員 これは労働契約の研究会のときにも出ていたと思いますが、一番問題になる点とい うか、一番大きかった点は恐らく期間が明示されていないときに有期と考えるか、無期と考える かという問題だと思います。  率直に申し上げて、契約期間の明示は罰則付きで義務付けられている内容でもありますし、そ のことがなされていない場合に、全くの契約解釈でどちらもあり得るというのは少し考え方とし ては無理があるのではないか。これは率直な私の意見です。  つまり、契約期間を設けるかどうか自体が契約上の自由、当事者の自由だとしても、ただ、そ の契約期間を設けるのであれば、明示をするということは労基法上の義務でもありますので、そ ういうことから考えますと、例えばその期間の明示がされていない場合には、場合によってはみ なし、無期のみなしであるとか、あるいはみなしとまでいかなくても推定であるとか、反証があ り得る推定であるとか、そういうことは少なくとも十分あり得ると思います。それがもし望まし くないとすれば、どういう理由があるのかということを少し知りたいと思います。 ○鎌田座長 今は御意見をいただいて。 ○奥田委員 1つの意見です。 ○鎌田座長 先生方の御意見を聞いて、もし先生方の御意見以外にこういう意見があるというな ら、事務局にちょっと御紹介いただくという形にいたしましょう。そのほか、この点につきまし て。今、奥田先生から問題提起がありましたが、この点に関してでも結構ですし、そのほかの点 についても御意見をいただければと思います。  はい、どうぞ。 ○荒木委員 今、奥田先生の指摘は非常にもっともで、私も同じですが、明示の意味、使用者の 方が有期契約であることを何ら説明も、口頭でも言っていなければ、それは無期契約と解される。 これは通常の解釈だろうと思います。  問題はその明示を書面によって行わなかった場合に、書面によって行うことを罰則付きで労基 法は義務付けておりますが、その場合に、しかし口頭では有期だという合意があったという場合 に、どう扱うか。これが難しいところで、諸外国ではその場合には無期契約とみなすというもの が多いようであります。  労働契約法研究会もそういう提案をしたところでありますけれども、この点をそういうふうに 踏み切るのかどうかというのが、一つ、議論をしなければいけない問題だと思います。  これはもし橋本先生が御存じであれば教えていただきたいのですが、ドイツも書面明示をしな ければいけないのですが、この有期の書面明示は契約締結時でしょうか、それともドイツでは一 般的に労働契約内容の書面明示は契約締結後1か月以内にすればよいとなっていると思いますが、 有期については締結時でいいのか、それとも締結後1か月以内でいいのか、もし何か御存じであ れば教えていただければと思います。 ○橋本委員 済みません、ちょっとわからないのですが、先生の御指摘のとおり、有期の契約期 間の設定は書面でなければ有効にならないという規定がパートタイム労働法・有期契約法の方に あり、他方で先生のおっしゃった労働条件明示のための法律が別にあって、そこでも期間設定は 書面で明示しなければいけないとありまして、そちらの労働条件明示の方の法律、証明法という 法律ですが、そこでは書面による明示は1か月以内でいいという規定なのです。  その両者の規定の関係がよくわからないのですが、ちょっとまだ調べておりません。申し訳あ りません。 ○荒木委員 例えば、イギリスでも、1か月以上勤続している被用者については2か月以内に雇 用条件明細書を交付するということです。フランスは2就業日以内に交付ということで、書面で 明示するというのをいつまでに、締結時に要求するのか、それとも一定期間内に明示するのかと いうことも併せてその効果を考える必要があるのかなと考えているところです。 ○奥田委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○奥田委員 ちょっと言葉足らずでしたが、私も先ほどは書面での明示を前提に意見を言わせて いただいたのですが、今、荒木先生がおっしゃったことで言いますと、書面化するかどうかとい うときに、書面化がされていないけれども、口頭では十分な期間合意がされているというときに、 まず、それをどう評価するか。そういう御趣旨だと考えてよろしいですか。  例えば、書面化されていないときに無期としての推定はあり得るけれども、考え方としては、 口頭で十分な期間説明がされていたことを反証としてとらえることもあり得るわけですよね。そ の辺りで違いが出てくるということですね。 ○鎌田座長 荒木先生にお答えいただかなくても、よろしいのでしょうか。 ○奥田委員 はい。今、確認をさせていただきましたので。 ○藤村委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○藤村委員 書面で労働条件を提示するというときに、期間を書かない理由、使用者側がなぜ書 かないのかというところがわかれば、法律でどう対応するかというのもわかってくると思います。 単に書くのを忘れたというのであれば、書いてくださいで済むと思うのです。  そうではなくて、もっと別の理由があって、その期間を書かないというのであれば、そこが何 か争点になるような気がするのですが、現実には何か書かない特段の理由があるのでしょうか。 ○荒木委員 基本的に日本の契約は書面化することは要求されておりませんので、合意してしま えばいいわけです。「諾成契約」といいますが、合意すればよい。口では合意していると。です から、それで明示はされているかもしれない。  今、議論をしていたのは口で合意していても、書面化されていなかったら無期とみなしてしま っていいのか。そういう議論なのです。  ですから、中小企業ではそんなにきちんと契約書を作成していない。しかし、当人同士では有 期ということでちゃんと合意をしていた。それを書面化されていなかったら、全部、無期とみな すということについては、それはもう大きな変革となるので、そこまで法規制をダイレクトにす るかどうかということでいろいろ議論があるということだと思います。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○山川委員 労基法との関係でいいますと、労基法は労働条件の明示で書面をかなりの部分につ いて必要として、強行法規ですから、当事者が合意しようがしまいが、それは明示しなければい けないということになります。  そうしますと、労基法違反が成立することはともかくとして、では書面は省略しましょうとか、 あるいは書面はちょっと後にしましょうという合意をして、有期契約であることは明確に合意し ていた場合にまでみなしの効果が及ぶのかというと、やはり、ちょっと厳し過ぎるといえるかも しれない。  労働契約法研究会では確かにみなしということでしたが、もし、このような場合や、書面での 明示を忘れたが有期契約とする明確な合意があった場合にも適用するのはちょっと厳しいとすれ ば、奥田先生が選択肢としてさっき言われたような推定という方法で対処するのも立法政策とし てはあり得るのではないかと思います。 ○鎌田座長 いいですか。私もこの問題をちょっと考えたときに、2つの見方があると思うので す。1つは先ほど奥田先生が冒頭におっしゃった、つまり、義務付けられているのにそれをやっ ていないから、ある種、民事制裁的に無期とみなすという考え方もあると思います。  もう一つは、どういう事情であるかよくわからないが、契約期間を定めていないということか ら、当事者の意思に沿って明確化を進めていく必要があるのではないか。そうした場合にはみな しではなくて、むしろ推定という形で、裁判を通じてでもいいですけど、当事者の真意を確定し ていくということ。  そうすると、推定という考え方はむしろフィットするわけです。要するにはっきりさせましょ うと。ところが、そうではなくて、契約期間を定めていないということが、義務付けられている のに、それをしていないから制裁として無期になるのですという一種の威嚇を与える。これは違 うと思うのです。  奥田先生が冒頭におっしゃった義務付けられて違反であるからということで無期みなしとおっ しゃったのは、どちらかというと後の経緯からいくと推定とおっしゃったから、当事者の意思を 確認するための1つの法的なツールとして考えているということなのかなと理解したのですが、 どうでしょうか。 ○奥田委員 例えば、これまでの裁判例を見た場合でも、有期か無期かが全くわからない状態で、 それをいつから当事者がどうであったかというふうに認定をしているのがやはり多いと思うので す。  そうだとすると、私は義務付けられているのにやっていないとすれば、みなしという方法もあ り得るし、そこまで言わなくても、少なくとも推定という方法はあるだろうという意味で申し上 げたので、全くのその当事者意思の解釈でということではなく、そういう意味で言うと、若干、 折衷的ということになりましょうか、推定ぐらいはやはりルール化をして、ただ、口頭での明確 な確認があったり、そういうことを反証として認めることはあり得ることではないかという理解 です。 ○鎌田座長 私はそのみなしについてはここで議論をするつもりはありませんが、実は派遣のと ころでもこのみなしは大変な問題になっておりまして、この「労働者派遣の今後の在り方につい ての研究会」の中でも、みなしということで違法派遣があった場合の派遣先への雇用、直接雇用 みなしということが議論になったときに、その研究会の中でいろいろ議論がありまして、これは 違法な派遣に対する法的な、労働者を保護するための措置として考えられる手段として何がある かという議論の中で、実は4つの選択肢を考えたのです。  それは何かというと、まず第一はまさに直接雇用みなし。第二は派遣先による契約申込みなし。 これもみなしです。そういう制度がある。ただし、この契約申込みなしの場合には労働者の意思 にかかわりなく整理するということはありません。3番目に派遣先から労働契約の申込みの義務 付け。契約申込義務を課すというやり方。4番目に行政による勧告という制度を考えていたわけ です。  みなしという手段はかなり強烈な側面、強烈な効果がありまして、そういったものをとるか、 あるいは今言ったような幾つかの効果の面での選択肢を議論したことがありまして、効果の面で も、どう考えるのかということは、是非、その辺も含めて考えていただくと私としてはありがた いと思っています。  ただ、これは今日すぐにその面で議論をしていただくという趣旨で言ったわけではなくて、紹 介といいましょうか、派遣のところでみなしということで議論になっておりますので、御紹介を したということであります。  先生方、あとは、ほかにございますか。はい、どうぞ。 ○荒木委員 1点、付け加えますと、有期であることを明示しなかった、書面で明示しなかった ことで無期とみなすのは1つの在り方ですが、もう一つ、有期契約の利用期間、更新回数、そち らを規制するということもあり得まして、その場合には一定期間、例えばドイツなら2年間、更 新3回を超えた場合には、まさに無期契約とみなされるわけです。  そちらの規制もあるということも視野に入れながら、書面明示をどう位置づけるか。そこでも う一度考えるという在り方もあるかなと考えています。 ○鎌田座長 今、契約期間だけが少し議論になっていますが、そのほかの締結時の事項について はいかがでしょうか。  雇止めに関する基準、大臣告示ですけど、先ほど御紹介いただいたデータで見ますと、期間の 定めについてはかなり達成率、遵守率は高い。資料4−2の1ページ目。これは事業所調査です が、期間に関する明示の有無ということで、「明示している」が91.7%、それから更新の有無に 関する明示の有無は82.9%、これはかなり高いように感じます。  更新の判断基準に関する明示の有無というところは62.2%で、やや低目です。これが低いと見 るか、高いと見るかはなかなか微妙なところだと思いますが、こういうものをどう見ればいいの だろうか。確かに事業所としては更新の判断基準を明示するのはなかなか大変なところもあるか なという感じもします。 ○山川委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 はい。 ○山川委員 先ほどの労働基準法の明示と、例えばこちらの労働契約ルールとして明示するとい うことでは、その効果という点でも随分意味が違うと思いまして、したがって、もし労働基準法 の労働条件明示に付け加えるとすると、かなり重い効果が発生することになります。  契約ルールとしてでしたら、紛争防止のためには、判断基準の書き方はいろいろあるにしても、 雇止めの効力判断に当たって考慮するという民事上の効果ですので、それを推進するということ もあり得るのではないかと思います。 ○鎌田座長 民事上の効果ということになると、やはり何らかの形で法律に組み込むという形に なりますか。 ○山川委員 そうですね。逆にもし法律に組み込むとしても、労働基準法ほどハードルは高くな いのではないかと思います。そういう観点です。 ○鎌田座長 そうですね。この論点につきましていかがでしょうか。後でまた触れていただいて も結構ですが、次の論点に進めたいと思います。  次は均衡待遇、正社員転換の論点でございます。これについて自由に御発言をお願いしたいと 思います。 ○荒木委員 ちょっと確認をさせていただけますか。 ○鎌田座長 はい。 ○荒木委員 事務局に確認です。資料3−2で有期契約労働者に係る「均衡待遇確保対策」と「正 社員転換推進対策」と書いてありますが、これは「仮に考えると」ということですか、それとも 何か現行法でこういうふうに考えられているということですか。  後ほどの説明の中で「これは諸外国と日本の有期の均衡待遇と同じなのですが」という説明が あったものですから、若干、混乱しました。確認をいただけますか。 ○富田調査官 済みません。わかりづらくなりまして申し訳ございません。資料3−2はあくま でも現在のパートタイム労働法の均衡待遇の考え方を、ここは「有期」と書いていますので、有 期に適用した場合にこうなるのではないかということを書いたということでございまして、現在、 有期に関してこういう規定が適用されているわけではございませんので、そこはちょっと言葉、 説明が悪かったとすると訂正をさせていただきたいと思います。 ○荒木委員 ありがとうございました。そうしますと、これも確認ですが、例えば、今、資料3 −1でパートタイム労働法における均衡待遇、これは一番広義、広い意味で使っていらっしゃる わけですね。すなわち、均衡待遇は恐らく2つに分かれていまして、一つは均等待遇、パート法 8条の通常労働者と同視されるパートタイマーについては正社員と差別をしてはならないという 規制。実は私はこれは諸外国の不利益取扱いと同じだと考えております。  それに対して、パート法の8条以外の部分は均等待遇ではなくて、均衡待遇でありまして、こ れについては全体的に配慮義務や努力義務にとどまっていて、強行的な規範ではない規制がなさ れている。そういう両方を含んだ意味で、ここでは「均衡待遇」という言葉を使われているとい う理解でよろしいでしょうか。 ○富田調査官 はい。まさしく御指摘のとおりでございまして、言葉で補ったつもりではあった のですが、この資料3−1の裏に書いておりますとおり、通常の労働者と同視すべきパートタイ ム労働者につきましては、このすべての待遇につきまして差別的取扱いをしてはならないという ことで、まさしく諸外国の法制と同じと。  ただし、範囲については大分、人材活用の仕組みもありますので狭くなるということ。あるい は行政指導、紛争解決援助制度が履行確保手段になっているということで、異なってくるという ことだろうと思います。  ただ、我が国の特徴としましては、職務の内容が異なるものにつきましても措置を講じなけれ ばならないということで特徴があるということを際立たせるために、こういうペーパーをつくら せていただいたということでございます。 ○奥田委員 同じ資料の3−2ですが、一つは質問で、一つは疑問点です。私の理解では均等待 遇とか均衡待遇とか平等取扱いとか、そういう問題と正社員転換は全然、質の違う問題だと思っ ていまして、正社員転換は非常に重要な1つの施策ではあると思いますが、均等待遇とか均衡待 遇はどちらかというともっと原則的な問題なので、3−2でこれが比較されているのはなぜか。 それがちょっとよく趣旨がわからなかったのです。それが単純な質問です。  もう一点は、これは考え方の問題なのですが、そこの課題に示していただいているように、人 事・賃金制度が異なっている正社員とそうでない人たちを均衡という形でどうとらえていくかと いうことが非常に難しい問題だということは、重々、承知をしております。 それから、そういうことを事実、実態として考えていくというのも必要だとは思いますが、私の 基本的な考え方は、先生方もいろいろかと思いますけれども、何か人事制度や賃金制度が前提に あって、そこから均衡とか均等を考えるよりも、均等待遇とか均衡処遇ということを考えるとす れば、原則として考えていって、まさにここに書いていただいているように、合理的理由があれ ば差があることについては全く差別でも何でもありませんので、そこに人事とか賃金制度とかそ ういうものが合理性があるかどうかという形で反映されてくるのではないかと思っておりますの で、順序が違うのではないかという気がしたのです。  別にそういう御趣旨ではないということであればいいのですが、均等待遇、均衡処遇を考えた 中で、合理性があるかどうかの範囲の中でそういう具体的な人事制度などが考えられていくべき ではないかと思いますので、それはあくまでも意見として申し上げたいと思うので、前者の質問 だけお願いいたします。 ○富田調査官 この資料3−2を作成した趣旨は、まさしく奥田先生のおっしゃるとおり、均衡 待遇と正社員転換は全く異なるものだと私どもは考えておりますけれども、中には均等待遇だけ をすれば正社員転換は要らないのではないかという御意見もあるところでございます。  均衡待遇の中の一部の方につきましては、まさしく同じ就業実態にあれば同じ待遇にしなけれ ばならないとなっていまして、そうすると正社員転換など要らないでしょうという御議論がある わけです。  ただ、ここでクローズアップしたかったのは、仮に均等待遇にしたとしても、期間の定めがあ ること自体は変更されない、雇止め自体はなくならないということがあるので、それとは別に無 期に転換するという法制度も、政策も必要という考え方もあるのではないかということで、あえ てこの両者を並べて資料を作成したということが趣旨でございます。 ○鎌田座長 奥田先生、よろしいですか。 ○奥田委員 はい。 ○鎌田座長 冒頭にこの均衡待遇を考える上で4タイプに分けております。そういったタイプ分 けをした上でどう見ればいいのかという問題提起。それから、そもそも期間を短いものと無期の ものとでいうと、やはり報酬、賃金をどう払うのかという心構えが違うのではないかという問題 提起もありました。  こうしたことを含めまして、均衡待遇についてどう見ればいいのか、もし御意見をいただけれ ばありがたいと思います。 ○山川委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 はい。 ○山川委員 先ほどの荒木先生の御発言とも関係がありますが、資料3−1で均衡待遇で、ここ にはある意味では現在の8条のようなものも、不利益取扱いの禁止に属すると思われるようなも のも入るという御理解で、そうだと思いますけれども、そうすると、この両者は割と連続的な色 彩があるような気がいたします。  先ほどの奥田先生のお話とも関係がありますが、現在のパートタイム労働法のスタイルは「通 常の労働者と同視すべき者」をかなり厳格に、いろんな要件をかけて絞っていって、そうであれ ば、特に8条で言えば差別をしてはならないと、その要件をかなり特定して厳格化していくとい うシステムをとっている。  これに対して諸外国、欧州諸国の不利益取扱いの禁止はむしろ要件はすごく一般的な形でかけ ていって、先ほど奥田先生も言われましたように、その合理的な理由があれば別ですという形で、 いわばその立証責任を転換するようなシステムになっている。  ということは、その要件が例えばA、B、Cとあったとすると、A、B、Cを全部課している のは現在の8条のような均衡待遇の仕組みであると。これに対してA、B、C、そういうものを すべて合理的な理由の方に盛り込んで、「Aではない」「Bではない」「Cではない」のどれか を立証すればよいという形になっていますが、そうすると、その中間的なものがあって、例えば Aという要件は課す、しかしBとCという要件はその合理的な理由の方に持っていくという形で、 連続性のある制度設計も可能ではないかという感じがしています。  それをどうするかはまた別で、そこはまた措置義務形式とか、努力義務形式とか、法律の規制 のかけ方も関係するものですから、なかなかポートフォリオ的に難しい面はありますが、いずれ にしても、組合せは可能ではないかという点と、あと、正社員転換もちょっとよろしいですか。 ○鎌田座長 どうぞ。 ○山川委員 「正社員転換」という言葉の問題もあるような気がしますが、ハードルが高いとい うのがパートタイム労働法でも言われていることで、先ほどの労働市場専門委員会の話にも関わ りますが、正社員転換の意味として、もし雇用の安定を中心に考えるのでしたら、特に有期契約 の場合は有期、無期という点が1つのポイントで、無期契約への転換ということで、雇止めによ り地位が非常に不安定になるということは一定程度、防止できるので、転換のハードルを下げて いくためには「勤務地限定正社員」、あるいは「職種限定」と言われるような選択肢を加えるこ とも考えられるのではないか。  そういうことで、ある程度、雇用安定という点に重心を置いた形で無期契約の転換の中で選択 肢を広げていくという考え方もありうるのではないか、一足飛びに狭い意味での正社員への転換 のみと必ずしも限定的に考えなくてもよいのではないかという感じもいたします。以上です。 ○鎌田座長 ありがとうございます。 ○藤村委員 よろしいですか。 ○鎌田座長 どうぞ。 ○藤村委員 人事管理を研究していると、そもそも企業はなぜ正社員を雇うのかという議論をす るわけです。私の理解ではあらかじめ予測できない事態が、企業経営上、いろいろ起こり得る。 それに対処するためには、やはりその企業の将来と自分の生活の安定とか繁栄を同一視してくれ る従業員がいた方が、企業としてはやりやすい。それが正社員だろうと思います。  ですから、例えば場合によっては個人生活を一部食い込むような労働時間、例えば急に残業し なければいけないとか、そういうこともあり得るだろう。それには対応してもらわなければいけ ない。  均衡待遇といったときに、例えばそういう不確実な状態が毎日のように起こるのか、あるいは 1年に1回ぐらいしか起こらないのかで、恐らく扱い方は違うだろうと思います。多くの企業は 毎日のようにいろいろ、不確実。例えばお客様から夕方4時半ぐらいになって急に来てほしいと 言われたと。うちの終業時間は5時半ですと。それを超えると残業になる。でも、そういうこと には対応してもらわなければいけない。だから正社員が必要だ。こういう話になると思います。  正社員への転換を考えたときに、実は1960年代の初めぐらいまでの日本の地方の工場は、基本 的には臨時工で雇って、一緒に働いている仲間からあの人はいいという評価をもらってから、本 工になる。そういうのが割と普通でした。それが1960年代半ば以降、人手不足が非常に深刻にな ってきて、最初から正社員として雇わないと人が来てくれない。だから、採用は最初から正社員 ということになったのです。  その後、いろんな変化があり、今、どちらかというと人手が余っている状況であれば、最初は いわゆる臨時工で入って、その中から正社員を雇っていく。例えば製造業の自動車の現場はそう いうことを普通にやっています。その現場のリーダーから言わせると、高卒でよくわからない人 を雇うよりは、そうやって半年ぐらい一緒に働いた人から正社員に上げてくれた方がやりやすい と。そういう声も上がっています。だから、現場としては実際の人事の施策としてはそれを無視 できない。だから正社員に上がってくるという仕組みを持っているわけです。  ですから、正社員はそもそも何をしてもらう人かというところから考えていくと、この均衡待 遇とか、正社員になる仕組みを用意するというのは、企業側の経営の実態からいうと非常に合理 的であり、そこに余りにも制限をかけ過ぎると、かえって本来なら正社員になれる人がなれなく なってしまうとか、そういうふうになる可能性があるので、この辺りは曖昧にしておくのがいい のかなという感じがします。 ○鎌田座長 普通の企業で正社員転換というのは、一応、就業規則か何かで定める、それとも慣 行のような形でやっているのでしょうか。 ○藤村委員 規則でやっているところもあるでしょうし、それはさまざまではないでしょうか。 ○鎌田座長 さまざまですね。 ○藤村委員 例えば、実際、これはトヨタ自動車の現場で聞いた話ですが、期間工で半年間の定 めで入ってくる人たちの中に最初から正社員転換の仕組みを目指してくる人もいるわけです。そ うではない人たちもいます。ですから、現場のリーダーは、最初、一人ずつ面接をする。  何を求めてこの期間工という働き方をしたいのかと。だから、一人ずつ聞いていくと実は自分 は正社員になりたいと。そうであれば、正社員になるのは決して簡単ではないけれども、君がそ こまで思うなら、これから半年間、そのように鍛えるからついてきなさいというふうにして、仕 事の配分などを決めていく。  だから、それはそれで正社員になれるという制度を持っているということは、そういう意欲の ある人たちを非正社員として、入り口はそうだけれども、入ってきてもらうという点ではいい制 度で、今のところはちゃんと機能している制度だと思います。 ○鎌田座長 そうしますと、法律などで正社員転換制度を設けましょうということをもし言った とすると、そこは自然とコース分け人事のようになりますね。つまり、臨時社員の中でも正社員 転換を予定する人として採用する、来てもらう。そうでない人。  そうすると、先生がさっきおっしゃったように、曖昧にしないとその部分がかなり硬直してし まうという側面もあるわけですね。 ○藤村委員 そうですね。現実には例えば自分は別に正社員になりたくないと思って働き始めた けれども、いろんな事情で賃金をもっと稼げるような仕事にならなければいけなくなった。それ で正社員転換制度があれば、そちらに乗っていきたいという人も現実にはいると思います。 ○鎌田座長 わかりました。 ○藤村委員 そういうものをうまく拾えるような仕組みが何か必要だと思います。 ○鎌田座長 はい、どうぞ。 ○荒木委員 最初に佐藤先生が御指摘になったように、有期契約労働者はいろいろいます。正社 員同様職務型がいれば、軽易職務型もいれば、専門職型もいる。非常に多様な有期契約労働者が いるとすると、やはりその多様性に応じた規制をしないと、ある一つの人を見て、この人たちの みをターゲットに法律で規制してしまうと、ほかのタイプの人についてはむしろ適切ではないと いうことになると思います。  例えばパート労働法は非常にユニークなアプローチをしまして、先ほどの通常労働者と同視さ れる者については差別的取扱い禁止。つまり、均等待遇を要求してよい人については非常にかた い規制を行ったのです。  それ以外の、つまり同一労働を行っているとは必ずしも言えないような人たちについては、均 衡処遇、均衡待遇を、これは配慮義務や努力義務を課し、しかし、それは非常にソフトな規制で すので、その実効性を担保するためにパート法13条で、なぜそういう処遇になっているのかを労 働者から問われたらきちんと説明しなさいという規制をかけている。  つまり、ある強行的な規制、法的な効力で契約の内容を無効にしたり、あるいは一定の金銭請 求権を与えたりするのではなくて、当事者にちゃんと交渉をさせて、妥当な労働条件に仕向ける。 そういう行為規範を課していると言ってもいいと思いますが、そういうアプローチをしている。 これは実態は多様である中での工夫された新しいアプローチとして注目していいことだと思いま す。  有期契約も同様にいろんなタイプの人がいるということになると、ある部分については確かに 差別禁止を導入していいかもしれません。しかし、それですべて行うのは必ずしも妥当ではない という場合には、別のアプローチ、なぜそういう処遇になっているのかをきちんと説明させ、そ れで当事者の交渉のきっかけとする、そういうアプローチも考えられる。多様なアプローチを重 層的に使っていくというのは恐らく藤村先生が言われたように、ある部分について、全部、法律 でそれは禁止だとか、そういうことではない別のアプローチとして当事者の創意工夫をいい方向 に向ける。そういうことにもなるかもしれないという気がいたしました。 ○鎌田座長 ありがとうございます。あとはありませんでしょうか。 ○橋本委員 前提の確認ですが、有期契約のパートで働いている方はたくさんいるわけで、その 人にはパート法の規制がかかるので、現在、議論しているのはフルタイム有期ということで何か 新しい規制を考える。前提の確認なのですが、そういうことでよろしいでしょうか。 ○富田調査官 そういうことを念頭に、論点で書かせていただいたところです。 ○鎌田座長 何か、それに付け加えるということではなくて。それでいいですか。 ○橋本委員 はい。それで荒木先生や佐藤先生がおっしゃったとおり、タイプごとの規制は勿論、 おっしゃるとおり必要かと思いますが、フルタイム有期でどういう方が、どういう類型が多いの かということもわかればいいのかなと思いました。 ○富田調査官 ちょっと言葉が足りなかったかもしれません。論点に書かせていただきましたの は、パート法で一定程度、均衡待遇の確保とか、あるいは正社員転換の規定がありますが、ただ、 パートタイム労働法はあくまでも時間が短いということに着目した均衡待遇、ないしは正社員転 換でございますので、当研究会におきましては、勿論、有期という特徴に着目した均衡待遇とい うものも、もしあるのであれば御議論いただきたいと事務局としては考えております。 ○鎌田座長 ほかに御発言はありませんでしょうか。今日は全体に関わったことでも結構ですが、 よろしいですか。  それでは、一応、時間もちょうど予定の時間がまいりましたので、本日の議論はここまでとし たいと思います。  それでは、今後の日程について事務局から説明をお願いいたします。 ○富田調査官 次回の日程でございますけれども、現在、まだ調整中でございますので、委員の 皆様には改めて御連絡させていただきます。 ○鎌田座長 それでは、以上をもちまして本日の研究会は終了させていただきます。貴重な御意 見をありがとうございました。 (照会先)労働基準局総務課政策係(内線:5587)