09/09/10 第4回企業年金政策研究会議事録 第4回 企業年金政策研究会     日時 平成21年9月10日(木)      10:00〜     場所 厚生労働省専用第21会議室 ○森戸座長 定刻になりましたので、ただいまより第4回「企業年金政策研究会」を開催い たします。厚生労働省に人事異動がありましたので、それぞれご挨拶をお願いいたします。 ○古都総務課長 8月から総務課長に着任いたしました古都です。どうぞよろしくお願いい たします。 ○中村企業年金国民年金基金課長 企業年金国民年金基金課長をしております中村です。ど うぞよろしくお願い申し上げます。 ○五十里基金数理室長 基金数理室長の五十里です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○森戸座長 本日は嵩委員と駒村委員が所用により欠席です。石田委員は飛行機の関係で遅 れて参加されます。議事次第に沿って会議を進めてまいります。本日は2名の委員から、「企 業年金の諸問題について」というテーマでご報告をいただきます。それぞれ30分ぐらい報 告をしていただき、その後各30分ぐらい議論をしていきたいと考えております。まず、藤 井委員から報告をお願いいたします。 ○藤井委員 私の資料は、こちらのスクリーンに出ているものと、お手元の資料と全く同一 のものです。私が申し上げますのは、「国際的な」はちょっと大げさですけれども、ある視 点に立って、他国といろいろ比較した上で、後でディスカッション・テーマということで、 どういう点が論点になるかということで、今後の方向性の議論をその後にできたらと思いま す。ご存じの方もいらっしゃると思いますけれども、最初の辺りはお聞きいただければと思 います。  最初の頁ですけれども、便利な資料がOECDにいくつかありましたので、それを挙げな がらお話申し上げます。OECDの資料がどこまで信用できるかという批判も一部あるよう に聞いておりますが、ほかにさして有用な資料も手に入りにくいので、それを使っていると いう感じです。  2頁は、DBとDCということで、2006年の資料です。赤い方が主にDBで、正確に言う と純粋なDC以外のものを赤で示しています。OECD加盟国の中では、非常に多くの国で DBが主流を占めていると言えるかと思います。後の資料と関係がありますので覚えておい ていただきたいのが、スペイン、オーストラリア、イタリア、ニュージーランド、米国とい う辺りはDCが非常に多くなっているという、非常に特徴的な国だと言えます。  一方、左側にありますスイス、デンマーク、アイスランド、フィンランド、ドイツ、ベル ギー、オランダというように、ヨーロッパの大陸側の中央から北辺りの国々では非常にDB が盛んに行われているということが見て取れます。  次は、OECD諸国における年金資産の比較です。この年金資産に何を含めているかとい うのはご批判のあるところですが、これもほかに有用な資料が見当たらないのでご覧いただ ければと思います。いちばん大きく下に占めている所が米国で、その上が英国で、その上が 日本です。米英の年金資産の巨大さというのは一見して明らかかと思います。それに比べて、 日本は2001年では3位、2007年では若干3位よりも落ちる感じではありますが、比較的 大きいと言えます。人口比で考えると、その下に並んでいるオランダ、カナダ、オーストラ リア、スイスという辺りは、1人当たりで考えると、日本をはるかに凌ぐ規模となっていま す。全体に考えると、この中に日本は載ってはいますけれども、人口比などを勘案するとさ ほど大きいとも言えないです。とはいうものの、ほかのOECD諸国と比べれば、ここに出 ているだけ相当目立つ存在にはなっています。米国の規模が非常に大きいこともあり、やや もすると米国の動向に目を奪われがちということはあるかと思うのですが、それも1つの国 の現象ということで捉える視点も重要かと思います。  次は公的年金と私的年金の支払額の総計です。これも統計に一部問題があろうかと思いま すが、ドイツの集計がやや偏っているというか、年金基金をこしらえている場合だけを私的 年金として取り上げていると書いてあります。ドイツはそれ以外にブックリザーブの部分や、 保険を利用するということが盛んに行われておりますので、この統計はその点で大きく歪ん でいると思います。  前回少し議論になりましたフィンランドについては、私的年金が非常に大きく掲げられて います。しかし、これは事実上社会保障としての報酬比例的な年金を私的年金と位置づけて 運営していることもあり、このような表示になっていると思います。  ほかに特に目立つのは、スイス、英国、オランダ、デンマークという辺りが、私的年金の ウエイトが相当大きいということがご覧いただけます。これらは、すべて先ほどご覧いただ いたDBが盛んな国と言えます。DBが盛んな国としてのスイス、フィンランドは国自体そ う大きくないですけれども、DBでそれを行っています。オランダ、デンマークという辺り がそういうところに出てきます。残念ながら日本はこれに載っていません。  5頁は、GDPに比較した場合の私的年金の資産です。日本は真ん中辺りにありますけれ ども、これもご覧いただいているようにあまり大きな存在ではないです。一方、スイス、オ ランダ、アイスランド、デンマーク、米国の辺りが非常に大きく、それからカナダ、英国と いう辺りが非常に大きいということです。これは何を言おうとしているかというと、この辺 に出てくる上位の国々では、いろいろな面で企業年金のあり方が非常に話題になりやすい国 です。それの動向についてはいろいろ議論も絶えないところで、他国でもよく参考にしたり、 議論にしたりする国が上に出ているのかと思います。  6頁は、私が一生懸命やってみた資料です。年金シニアプラン総合研究機構の、年金と経 済に掲載したものです。MSCI WORLDというものがあります。これは、世界の先進国を 中心に、ある会社が投資用のインデックスとしてユニバースをこしらえているものです。我 が国では、日本を除いたものをMSCI KOKUSAIと呼んで、日本の年金基金でも非常に幅 広く、外国株への投資の場合のベンチマークとして採用が広がっている指標です。それに日 本を加えるとMSCI WORLDと呼ばれます。  これは、たまたま2009年3月末時点の入手可能なデータをもとにしたものですが、いく つか特徴が見て取れます。全体社数をご覧いただきますと、米、日、英、カナダの辺りが非 常に多くて、あとは私が勝手に束にしたわけですが欧州が束になって存在しています。その 後にオーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポールといったアジア・パシフィッ クが載っています。  さらに見てみますと、米国では539社(後日訂正:誤539社 ⇒ 正593社)がMSCI WORLDに入っていますが、ときどき銘柄が変わりますが、この時点ではこのようになっ ています。このうち退職給付債務があるかどうか、これは会計上のデータをある会社から入 手してここに書いてあります。そこに載っているかどうかということでやっています。米国 を見ますと399社に退職給付債務があります。194社については退職給付債務がない、即 ちDBがない、保険でやっている、あるいはないということです。  この特徴を下のほうで眺めてみますと、少し大きめに見られるところとしてイタリア、ス ペインとあり、もう少し下へいくとオーストラリアということです。これらは最初にご覧い ただいたようにDCが盛んな国々です。米国についても、相当多くの会社がDBをやめてい る、又は元からやっていないということが言えるのだろうと思います。香港、シンガポール についても、どちらかというと退職給付債務がない場合が多いということです。退職給付債 務がないからといってDCをやっているとは限らなくて、保険でやっている、あるいはそも そもそういうものがないということがあろうかと思います。  次に注目していただきたいのは、退職給付債務が有の場合の、退職給付債務を自己資本で 割った数字、右から2つ目のカラムにありますが、これを注目していただきますと、ポルト ガルが非常に大きいのですが、社数が少なくて、異例値が1社ありますので、これは数字と してどうかということがあります。それを除いて考えますと、英国、米国、ドイツ、オラン ダという辺りが非常に大きな数字を示していることがわかります。例えば米国についていう と、確かに194社はDCに移っているのですが、残りの399社については非常に大きなDB 制度を持っていると言えます。英国についてはさらに大きく、平均で120.9ですから、自己 資本を上回る退職給付債務がある会社が専らであるということがご理解いただけるかと思 います。日本は27.7となっています。  これは2009年3月末時点の入手可能データなので、若干恨みがあります。昨年の世界経 済の金融危機の影響という点で言うと、日本は2008年3月末の決算データが多いのです。 日本以外の国では、2008年12月末時点の決算データが多いということで、日本以外はそ れが織り込まれていて、日本は織り込まれていないというちょっと気になる点があります。 そうは言っても、退職給付債務がそう急に変わるわけでもなく、あとは自己資本の保有有価 証券の時価評価がどのぐらい変わるかということであって、そう極端に変わらないのではな いかと思います。  次の頁は日本の場合で、上のグラフの横軸が退職給付債務割る自己資本を、棒グラフとし ては1%単位に刻んでありますが、目盛りはちょっと飛んでいます。これは先ほどの統計と 同じで、2009年3月末時点で入手可能データです。即ち、主に2008年3月決算数値です。 改めて直近で取り直したのが下で、2009年3月決算データが主に入っていると見込まれる 2009年8月末時点入手可能データです。概ね似たような形で、若干銘柄の入れ換えもあり ますので、ザクッとご覧いただければと思います。右端に1本突き立っているのが100%超 の会社です。これは、積立不足を述べているのではなくて、債務の大きさですから、積み立 てていたり、積み立てていなかったりするということで、制度の規模を表していると理解さ れます。  ところで米英はどうかというのが8頁です。上が米国で下が英国です。右端に1本大きな 棒が突き立っていますが、これは100%超でありまして、100%ではありません。もっとも っと非常に大きな数字が並んでいます。それ未満の企業は極めて少ないということです。だ から、ほとんどの企業が100%超の退職給付債務を持っているということです。何が言える かというと、これは、金利が変われば退職給付債務は増えたり減ったりします。年金資産も 相当積み上がっているようであれば、それが浮いたりへこんだりすると、非常に大きな経営 上のインパクトを受けると言えます。したがって、彼らは退職給付についての関心が非常に 高いであろうことは全く疑う余地もないということかと思います。  右に突っ立っている棒は、日本と比べて同じような印象を受けるかもしれませんけれども、 この面積は全く違います。米国の場合には右端の目盛りが60ということで非常に大きく、 もともと社数も違いますけれども、非常に大きく偏っていると言えます。  ここから考察に入ります。言いたいことはここに並べて書いてあるつもりです。公的年金 と私的年金の位置づけ・規模というのは、各国で極めてさまざまだということがわかります。 外国の例を参考にする場合に、その中身といいますか、制度設計、権利義務関係とかいろい ろ参考にするところは大いにあろうかと思いますが、「規模」というテーマも重要だという ことで、そこの視点を欠くべきではないと思っています。  米国については、確かにDCが広がっていますけれどもDBも多いということです。DB は、確かに米国、英国ではフリーズしたり、クローズしたりしているケースもあろうかと思 いますけれども、それでも過去分の債務は非常に大きくて、企業年金に関する関心は依然と して非常に高いと言えます。それから大陸、ヨーロッパでいうとオランダが非常に大きくて、 あとはスイスが少し大きいとか、いくつか大きい国があります。  これらの国は企業年金の母体に対する、この場合の母体というのは母体の自己資本で考え ていますけれども、これに対する規模が他国と比べて飛び抜けて大きいと言えます。日本の 企業の場合には、これらと比べると格段に小さいですけれども、そのほかの国と比べるとそ こそこかなと。もちろん企業別のばらつきはあります。結局米、英、オランダ辺りでいろい ろ騒ぎになっているようなことと、同じようなことが日本で起こると考えるのは、規模から 見て相当な開きがあると言わざるを得ないかと思います。そうは言っても、日本の企業年金 に対する関心と関与は、今後従前比さらに高まる可能性は非常に大きいのではないかと思い ます。  その要因は下の4つぐらいがあろうかと思います。1つは会計基準の改定の議論がいま盛 んに行われていることもあり、この関係で企業の関心が従前比高まる、米英ほどではないか もしれないけれども高まる。それから、資産運用の環境が非常に激化している、企業の経営 環境も非常に激化している。企業年金が成熟化している傾向がある、時間が経てば次第に成 熟化するわけなのですけれども、そのことは規模を拡大するという視点で捉えることができ て、そのことが結局影響が大きくなってくるということでありますから、そのような観点か ら、日本企業の企業年金に対する関心は従前比次第に高まってくる可能性はある。そうは言 っても、米英ほどに大変なことになるという感じではないのではないかと思います。  ここから後はディスカッション・テーマを述べながら、私の意見を少し述べたいと思いま す。関心が高まるということは、母体企業から企業年金をどうこうするということで必ずテ ーマとなっていくのはガバナンスということだと思います。ガバナンスということは、いろ いろな意味に使われていて、企業年金自体の内部の意思決定の仕組みを言う人もあれば、母 体企業がどう企業年金をコントロールするかという意味で使っている方もあるでしょうし、 いろいろな意味で使われています。結局のところは、これは母体企業の関与の仕方というこ とになってくるのかと思います。  この場合、いろいろ再整理をしてみますと、議論の参考のために下のような表ができるの かと思います。英米のシステムは、いずれも信託法に基づいていると言えます。信託法とい うものが、そもそも英国の長い伝統から生まれた、ある種特殊な法律であり、歴史から見て も、地域の広がりから見ても非常に特殊で、主に英米アングロサクソン系の国に集中的に広 がっているということで、企業年金もこれらの国では信託法ベースで行われていて、受託者 が非常に強いというか重要な役割を果たし、彼らには受託者責任が負わされています。英語 ではトラスティー・レスポンシビリティとか、フィデューシャリー・レスポンシビリティと いうわけですけれども、これが非常に強く与えられています。  支払保証制度はある国とない国がありますけれども、米英にはあります。米国はつい数年 前に作りました。これは後で関係しますが、支払保証制度があるがゆえに、政府の関与がな い状態と比べると、一段と分厚くなる、そういう根拠にもなっているのではないかと思いま す。  大陸欧州型ですが、これにはさまざまな国があって、一言で論ずることは非常に問題があ りますけれども、いずれにしても信託法はないという特徴があります。基金型という法人の 形をとるか、あるいはドイツのようにブックリザーブでやるか、いずれにしても信託でない 方法をいろいろ工夫してやっているということかと思います。財政運営については、概ね英 米とは異なっていて、保険類似の財政運営をする。キーワードとしては、ソルベンシー・マ ージンなどの議論が盛んで、いかに独立した法人として年金給付をつつがなく行うかについ ての議論が盛んに行われているということかと思います。  日本はどうかというと、ご存じのように退職金からの移行が主でありまして、労使間につ いては退職金制度が包含している関係にあるということかと思います。それがゆえに個人単 位の直接優先請求権を普通は持っています。これは退職金制度として持っているのであって、 年金制度としてはまた別の括りがあろうかと思いますがそういう形になっています。それか ら有期年金が多くて、これは英米、大陸欧州が終身年金が中心ということとの対比があろう かと思います。それから、基金型と規約型という型に分類されています。規約型については、 英米型の受託者は存在しないということです。信託銀行は受託者ですけれども、それはちょ っと別の観点かと思います。  それから保険類似の財政運営ではないです。この点では英米型の財政運営システムに大き く分ければ類型化されるのではないかと思います。即ち、ソルベンシー・マージンを持たな い運営ですから、常に満タン以下の状態で運営しているということかと思います。それから 支払保証制度はありません。このことが、英米型の行政のあり方との違いを導き出し得ると ころかと思います。  これはディスカッション・テーマにはすぎるかもしれませんが、年金制度の資産というこ とを考えてみますと、年金制度の資産はそもそも何のためにあるのか。年金制度の資産運用 は何のために行うのか。年金制度の資産運用は誰が行うのか。年金制度の資産運用でリスク を取ることはなぜ許されるのか。ALMとかLDIということが、先ほど申し上げた一部の年 金制度が非常に大きな国々では特に話題になっているようですけれども、これらはなぜ許さ れるのかという問題があろうかと思います。  これは、大陸欧州型と、英米型とでたぶん答が違ってくると思います。英米型の場合は、 どちらかというと、企業側に判断材料や目的意識があるということだろうと思います。ただ 何のためにあるのかという点に関していうと、従業員の約束をされた給付に対する担保性を 確保するということで、会社から分離ということが必要かと思います。しかし、そこで得ら れる運用益というのは、倒産しない限り企業の掛金、あるいは会計基準での反映が行われま すので、運用の主なる判断主体というのは、企業側に置かれていることが通例だと聞き及ん でおります。  ALMやLDIのLというのは負債を表していますけれども、この負債というのは母体企業 の中における負債というふうに一般的には使われるところであります。即ち、母体企業の関 与がALMとかLDIには認められるというか、元来そういう発想に基づくものだと考えるべ きだと思います。  次は企業年金に関する法規制です。そもそも法規制は何のためにあるのか、あるいは法規 制はなぜ許されるのか、というのもディスカッションとしては重要テーマかと思います。1 つの根拠は、労働法制的には、前回だったと思いますけれどもお聞きした点では、税制適格 性を認めるための要件であると労働法制上は理解されることが多いように解説していただ いたように覚えています。その観点からしますと、税制とは何かということになります。こ れは後で資料をお見せしますけれども、適格年金制度ができたときの、定義とおぼしき吉牟 田さんがお書きになった資料によれば、適格年金制度の立法の際の主張は何かというと、「適 格年金制度を優遇するものではなく、税制の整備である」と。これは、後で詳しく資料をご 覧いただければと思うのですけれども、そのようなことになっています。即ち、優遇という 概念は元来なかったと思っていますし、そういう証言がここにあるということかと思います。  厚生年金基金がずっと特法税がかからなかったということ、それからDB法、DC法がで きる前から、できて以来特別法人税がたまたま凍結されているようなことから、それらが一 様に厚生年金基金と同様の優遇状態にあるような印象はあると思うのですが、そうではなく てDB、DCというのは適年並びの税制を受けることになっているわけです。よく考えてみ ますと、特例適年並びの優遇は受けていないということですから、現在優遇があるという誤 解が一部にあるとすれば、それに関する見直しが必要ではないかと思います。もし優遇性が ないとすると、そもそも何のために法規制があるのかということはもう一度考え直す必要が あるということかと思います。  英米に関して言うと、支払保証を背景に、それの支払保証制度を維持するという観点から の行政のあり方ということも、特に英国などでは強く議論されているところですけれども、 そういう観点の議論も必要かと思います。それから、法規制に伴うコストは妥当かという点 もあろうかと思います。  次に、公的年金と私的年金の役割分担の観点です。どのような役割分担とするのか、本日 の私の観点は規模というテーマが重要だろうと思っています。それから2階部分の役割、位 置づけの再整理が必要かと。ひょっとしたらこの辺りがこれからまた議論になるかもしれま せんけれども、そういう点も思います。  公的年金と私的年金のバランスということですが、いろいろな国で、いろいろなバランス があり、一概にどちらが重いということもないわけですけれども、結局判断基準としてはど ちらが安上がりか、それから企業が負担するリスクが適量か、国際競争力が極大になるバラ ンスはどうか。解は各国さまざまだろうと思いますけれども、基本的な視点はこの辺りかと 思います。  14頁ですが、これまで日本はどういう道を歩いているかというと、私的な年金に重点を 置くか、公的な年金に重点を置くかというのは、その始まりにおいてはどちらでもよかった わけですけれども、これまでは公的年金の充実を優先し、私的な年金を任意・補完的なもの と位置づけてきたということです。これが間違いとは言えないし、これまでいろいろ課題は あるとはいえ、ある程度うまくいっていたのかという感じはいたします。  それはなぜかと言うと、企業がある種身軽な状態で、英米のように企業が重しを負って動 いてきたわけではない。一方、日本における人員構成が若々しくて、国がやったとしてもコ ストがそう重くない形で凌げるということがありますから、公的年金の充実を優先したとい うことがうまく機能してきたのではないかとも思われます。  そろそろ再検討する時期ではないかということと、世界に誇る個人金融資産が我が国に はあると言われているわけですが、これが次世代に無事に引き継がれるかどうかちょっと疑 問な状態ではないかと思います。企業のリスク負担は現状程度がほどほどかと。これは企業 によってばらつきはもちろんあるわけですが、世界比較で見れば、まあまあ今ぐらいであれ ば自己資本の充実を企業は熱心に行ってきたという面もあるのではないかと思います。まあ まあ凌げる範囲で、英米ほどに騒ぐというのはどうかという感じかと、全体感としては思い ます。  アイデアですけれども、どうしたらいいのかというのは1つのアイデアで、ディスカッシ ョンをすればいいかと思います。1つは私的年金の普及促進をせざるを得ないのではないか。 そういう政策課題を持つ必要があるのではないか。現状では私的年金の普及促進というのは 必ずしも明らかに是認されているわけではなく、いくつかの法律でそこそこにやっていると いうことかと思います。企業年金とは何なのかということですが、これは私的年金の普及促 進のための、非常に有効な手段と、非常に有効な乗り物ということではないかと思います。 それから、何らかの強制的な仕組み、又は明確な優遇を用いることで普及を図るという着想 が重要ではないかと思います。  税の優遇は、居住者全員が参加可能とするべきで、一部の人に偏った、ある条件を満たす 人に偏ってその優遇などを設けることは問題が生じやすい。しかしながら企業年金というの は有効なツールですから、これを活用しながら、私的年金の充実を図ることがいいのではな いかと思います。位置づけとしては、公的年金を縮小せざるを得ない部分をDCが補う役割 分担がいいのではないか。これは、どこかの国のもの真似のように思われると非常にいやな のですけれども、そのようなことを言っている、最近また言われた非常に大きな国があるよ うですが、そのようなことが重要な観点かと思います。  ちょっと別な観点の話ですけれども、DBというものの課題ということです。先ほど来、 なぜDBの法規制があるのか云々というのを申し上げたところではありますが、財政運営の 観点から見ますと、考慮すべきテーマとして2つぐらいに大きく括れるのではないかと思い ます。1つは、中長期的な運用メリットを享受できるようなルールに改善するべきではない かと思います。それは、良いときに積み増し、悪いときに取り崩すという仕組みの導入とい う着想です。これは、昨年の経済危機にあたって、会社の会計基準とか時価基準に関してい ろいろな人が、いろいろなことを言って、こんなことがはやり言葉のようになっているとこ ろではあります。  企業年金に関して言うと、日本の基準というのは、100%積立てをターゲットに掛金を掛 け、常に充足するか、足りないかということでハラハラドキドキする財政運営になっていま す。100%を超えるということは、運用がたまたま良かったという偶然の産物にすぎないわ けです。ここで言っているのはそうではなくて、景気の良いときには、もう少し余分に出し て、悪いときには年金制度側で少し我慢をするということかと思います。これは、昨年度末 の決算が非常に苦しかったことから、財政緩和措置等が一部出されているわけですけれども、 これなどは悪いときにだけ我慢をするというか、年金側の我慢というか、そういう仕組みを 臨時的に導入するわけですけれども、その分良いときに余分に出すことをしておかないと、 結局つじつまが合わなくなります。そういう形での運営に持っていく考え方が重要ではない かと思います。  2つ目は話が専門的なほうに入ってしまいますけれども、単独・連合型と総合型というこ との区別した議論ということが必要ではないかと思います。私の感じているところでは、従 来の財政運営基準などは、概ね単独型を念頭に置いて議論されて、構築されてきている点が 非常に多くて、総合型という直接資本関係のない、中小の企業の集まりという団体を考えた ときに、直接適用するのに若干首をかしげるところがあるのではないかと思います。それと ともに、年金資産の運用戦略も違うのが当然であると思います。  どうすればいいかというと、先ほどの大陸欧州型の考えが浮かんでくるのですが、総合型 では保険類似の財政運営に考え方を切り換える方向がいいのではないか。それのキーワード はソルベンシー・マージンということで、要するに直接的に、単独型のように母体企業が強 く責任を持って運営するという形ではないがゆえに、基金という法人が多少独立的に振る舞 えるためには、自らが準備金を持つようにするほかはないのではないかと思います。  ただ、これは非常に長期的な話であって、いまはそうではないわけで、急に積めと言われ れば掛金負担が要るばかりで、急には全く無理な話で、ある種荒唐無稽な話になるわけです が、次第に絵を描くとすればそうなります。ソルベンシー・マージンを設けるべきで、単・ 連と総合では全く異なる発想に基づくべきだと思います。しかし、そうは言っても急にでき ないからといって一切やらないということではなく、その方向が皆さん納得できるようであ れば、少しずつでもそういう方向に向かっていくことが重要ではないかと思います。  これ以降は附録であります。先ほどの吉牟田さんの本を引用させていただいています。こ れは適格年金ができたときのお話です。いまのDB、DCは適格年金の税制を継承していま すから、これを見るのが当然と思います。まずこの頁では、掛金の損金算入制を述べていま す。これは理の当然であると。要するに、社外に拠出するものが損金であることは、優遇と か優遇でないとかという問題ではなくて、理の当然であって、それを確認的に規定している にすぎないということかと思います。ここで重要なのは、社外に拠出していると言えるかど うかという点ではないかと思います。  次に、主に特別法人税のことについての話ですけれども、アンダーラインのところをご覧 いただきますと、「掛金の拠出の際には、各人の受給権は確定していないので、実際に年金 として受給したときに、給与所得として課税することとして、それまでの課税繰延べの利益 を総体的に法人税として徴収することとしている」。これは仕組みを述べているわけです。  その評価はどうかというのが19頁です。上に給与所得者の平均上積所得税率、利子相当 額の7分などの計算根拠が妥当であればとした上で、「理論的には直ちに給与所得課税を行 うのと全く同じで、この課税自体は適格退職年金を優遇するものではなく、税制の整備であ るとの立法の際の主張が裏づけられるのです」と述べています。ですから、数字の出来上が りについては妥当であればということですから、前置きをした上で、考え方としては優遇で はなく整備であるということだと思います。  20頁で、しかし実際には[1][2][3]と述べまして、7分の利子がどうかということです。こ れが実際の金利より低いことと書いてありますから、いまでいうと甚だしく高いわけですが、 当時は低いということ。それから、課税を年金支給時に繰り延べることにより、年金支給時 は退職後であり、掛金払込時より下積みや所得、これは累進課税のことを言っているわけで すが、適用累進税率が低くなること云々でということ。  それから老年者控除、これは税制で変わりますけれども、当時の話として、適用を受ける ことなどの観点から、実際上は相当のものが1%の課税のみで終わることも考えられます。 「そうであるとすれば、直ちに事業主掛金について、従業員の給与所得としての課税を行う ことに比べて、1%課税は事実上優遇の効果を持つということもできます」ということで、 数字には若干そういう含みが感じられなくもないということで、これは2つに分けて考える 必要があって、税の形としては優遇という観点はないが、計算式の前提から見て、当時の実 情を考えると、事実上優遇の効果を持つとも言える。  これは時の関数ですから、経済状態が変われば、優遇が優遇でなくなることもあるし、そ れはその状況に応ずるところであって、仕組み自体は優遇という観点を持っているわけでは ない。この理解が正しいのではないか。吉牟田さんの証言を全面的に信用するかどうかは議 論すればいいと思います。私も、この考え方は非常に的を射ていてわかりやすく、正しいの ではないかと思います。以上です。残りの時間でご議論いただければと思います。 ○森戸座長 ただいまの報告に関して、ご質問、ご意見等がありましたらお願いいたします。 ○野村委員 貴重なご講演をありがとうございました。頭の整理になったような気がしてお ります。重要な論点がたくさん入っていてどうしようというところが正直あります。今般政 権交代が行われるといったこととの絡みもあり、関心を持たざるを得ないのが、公的年金と の関係ではないかと思います。藤井委員ご自身のご意見として、私的年金をこれからは重視 していかざるを得ないとおっしゃっていて、私自身も全く同感であります。  日本の企業年金、あるいは私的年金もかもしれませんが、議論の進め方という意味では公 的年金との関係を踏まえた上で議論するというやり方をいままでやってきたような気がい たします。公的年金をこれから大きく変えるということが言われている中で、いま時点での ご意見をいただければということになりますが、民主党から出された新しい公的年金はまだ 細かいことはわからないのですけれども、ああいうことを踏まえて今後企業年金のあり方を どのように考えていけばいいのか。その新しいファクターが入ってきたと思いますので、そ の辺りで何かご意見があればお聞きしたいと思います。 ○藤井委員 民主党の案がどうかというのは、それぞれ皆さんご意見があるでしょうし、な かなか難しいところであります。私の意見を申し上げてよろしければ、どのような方法をと ろうとも、公的年金を相当の負担なしに従前の給付水準を維持するというのはなかなか困難 な状態がどんどん増すのではないかと思います。  それは、それが難しいからそうだというだけではなくて、非効率というか、無理というか、 国がカバーする範囲というか、そういうことの見直しということだと思います。従来は先ほ ど申し上げましたように、日本の場合は非常に安上がりにうまくやってこられたのだと思い ます。人口構成が非常に若い形で、給付の厚味をどんどん増していっても、たちまちそんな に保険料を取らずともうまくやっていける。そのことは、企業にとっては身軽な状態で、そ れがカバーしてくれるわけですから、従前からある退職金を企業年金に変える程度で済む話 だと思います。  その水準というのは英米と比べると非常に低いということもあってよかったと思います けれども、その状態をこれからも維持するというのは無理ではないかと思います。そういう ことを申し上げたつもりです。 ○森戸座長 確かに高齢化であれ、こういう社会の変化で公的年金は昔とは違って大変だと いうのはそのとおりです。それは民間というか、私的年金とか企業年金がやるのも大変な時 代なわけです。公的な部分だけではなくて、私的な部分でやるほうがまだより効率的な時代 になったという理由というか根拠は何ですか。 ○藤井委員 具体的なカバーしている範囲が公的年金であるということは、強制する範囲と いうことだと思います。強制する範囲というのは、国民全般が納得できるミニマムな状態で、 それでもって幸せが得られるとそれは大変よいということだと思うのです。残念ながらとい うか、幸か不幸かというか、幸なことはないかもしれませんけれども、多少ばらつきが出て きています。全般的に所得のばらつきとかがいろいろ出てきているのではないかと思うので す。  そういう中で強制力をもって国民全般に国が行える範囲というのはどうしても縮まざる を得ないのではないかと思います。それを大きくしようと思うと、そこに加入したくない人 ですとか、あるいはそれを補うために相当のお金を払える人から取ってきて運ぶということ で、所得再分配機能が非常に大きくなってしまうということがあるでしょう。要するに、公 的年金がカバーするべき範囲というのが自ずと縮むのではないかと思います。  それを大きくしますと、先ほどの競争力のところで見ましたように、所得再分配機能があ まりにも大きくなりますと、国際競争力という点でもなかなか疑問が出てくるかもしれない し、そういうことかと思います。良いとか悪いとかという議論もあるし、そういうものだと いう議論もあるかと思います。 ○森戸座長 強制加入一律の制度の網が掛けづらくなってきているのではないかというこ とかと思うのです。もう一言確認ですけれども、藤井さんの資料の15頁のディスカッショ ンのところのアイデアというのは、それに関連して言うと公的年金はあるけれども、そんな に拡大できないし、すべきものでもない。そうすると、私的年金の普及促進ということは、 企業年金以前に個々の国民一人ひとりが老後に備えていかなければいけないのだと。それに 対して国として措置なり、方法なり、税制なりを適用すべきだという前提がある。だから、 そこには企業年金というのは直接出てこなくて、ただ、それぞれの国民が私的に老後に備え るという枠組みの中で、企業がもし自分の従業員に対してそういう制度を提供するというの であれば、そこは企業がやるならそこはやってもいいですよという、極論すれば別に企業年 金というのは別になくてもいいということはないですけれども、そういう個々の国民の老後 に備えるという努力を支える、サポートするという前提があって、その中にこの[2]が位置づ けられるという理解でいいのですか。そういう政策でやっていくべきだということですか。 ○藤井委員 私はそう思います。そのようにしないと、企業年金だけを優遇するというのは 非常に理屈が立ちにくいと思うのです。税の優遇などを用いると、いま現在が優遇かどうか という議論がありますが、私はあまり優遇ではないと思っていますが、明らかに優遇して、 促進という意思を明示する。そのためには、企業年金だけを優遇するというのは非常に困難 で、全般的に優遇するべきで、企業年金というのは、しかしながらその中で非常に有効な手 段だと思います。  これと違う方法があります。それは先ほど言った大陸ヨーロッパ型のいくつかの国々でや っているように、企業年金を職域年金という発想が一部の国にあるかと思います。私的に社 会保障システムを行うという発想もあるとは思うのですけれども、ただ、それはその国の伝 統がそうでなければ無理なのです。日本の場合は、例えばの話が厚生年金保険部分を民営化 すればそういうことも言えるかもしれませんけれども、そうであればその議論を別途すれば いいと思うのです。いまのような大きな枠組みを前提とすると、私的という分け方で持って いくのがいちばん進みやすいのではないかと思います。 ○島崎座長代理 座長の質問とも関係するのですけれども、ディスカッションのペーパーの 15頁の税制優遇は、居住者全員が参加可能という書き方がされています。これはDBのタ イプについてですか、DCのことを言っているのですか。そうではなくてDBも含めてとい うことなのでしょうか。 ○藤井委員 概念としてはどちらも含みますが、1人で勝手にDBはできないので、その意 味では事実上企業が何もしてくれない場合にはDCとせざるを得ない。それは、その制度設 計のネイチャーからもそうならざるを得ないわけですが、考え方としては別にそう特定する 必要はないと思います。 ○島崎座長代理 先ほどの規制との関係ですが、私が多少気になったのは、言葉尻を捉える ようで申し訳ないのですけれども、支払保証制度があるから規制があるわけではないように 思います。つまり、ある目的があって、そのために支払保証制度があるというロジックにな っているはずで、そうすると、規制の存在意義というか、その規制があることの正当性は、 その目的との関係で論じるべきだと思うのですが、その点は、どのようにお考えになってい るのでしょうか。 ○藤井委員 ここは非常に難しくて、明快なアイデアがあるわけではないです。もちろん法 規制はそれ自身のためにあることもあるし、何かのためにあることもあると思います。ただ、 明らかに言えることは、例えば英国における議論は、明確に支払保証制度を設けた以上、そ の支払保証制度が破綻しないようにすることが明らかな目的としての、企業年金担当の部局 がありますけれども設置されているという点は非常に明快です。そういう場合もあるという ことかと思います。  そうでないとすれば、そもそも何のためにあるのか、なぜ許されるのかという点について は、もう一回考え直すべきだと思います。例えば、後で受給権のことを聞かせていただける かと思いますが、受給権にしても、なぜ企業年金に対してばかりそう言うのか。企業年金で はない、例えば退職金云々というような場合の受給権というのはどうなっていて、それにつ いては全く放置していることがなぜ許されるのかという点もある。企業年金というのは何な のか。私は、企業年金のいちばん重要な特徴は、資産を社外に積み立てているということが いちばん重要な特徴だと思います。そうであるとすれば、そもそも何のためにあって、何の ためにあるかに基づいて、なぜ法規制はこういう形をとっているのかということはもちろん 重要なところかと思います。 ○島崎座長代理 その点については後で私のプレゼンテーションの中で申し上げます。もう 1つは、ディスカッションの16頁のところで、経済環境の良いときに積み増しをして、悪 いときに取り崩すという考え方は私も重要だと思います。確認なのですが、税務当局的な見 方をすれば、法人税のよく言えば節税、悪く言えば潜脱的な行為だということになりかねま せんが、上限というのは「青天井」で、いくら積み増してもいいということまで言っている わけではないと思うのですが、ものの考え方としての上限設定についてはどのようにお考え ですか。 ○藤井委員 これは、下に書いてある総合型で導入のアイデアとして持ってきているソルベ ンシー・マージンと少し考え方は共通するかと思います。結局企業年金がわざわざ社外に拠 出して運営しているということは、担保性ということもありますけれども、もう1つは長期 的に給付を確実に行うという存在である、そこに意義があるのだということだと思います。 その意義をいちばんのベースに置くべきであって、そのためには運用の良いとき、悪いとき というのはあり得て、悪いときのために準備しておくというのはある種当たり前のことで、 保険会社的にそれは自明のことです。  企業年金について言うと、自明とまでは言えない。ただソルベンシー・マージンというの は、正確に言うと悪いときにも危険準備金を置いておくということなのだと思うのです。そ れがあまり高じていると、昨今のサイクリックな感じだよね、という批判があろうかと思う のです。悪いときにも、なおさらに悪いときのために積んでおくということがソルベンシ ー・マージンだと思います。そうではなくて、企業年金的には、悪いときにはいいではない かというぐらい感じとするべきで、良いときにはちゃんと積み増しておくというぐらいがち ょうどほどよいのではないかと思います。  それは、適格年金の税制の発想では、余分に積んだら返せということだと思うのです。そ この突破だと思います。ここは企業年金が、いわば適格年金とは違って、DBの場合には中 長期的な財政運営ということがあるのだという是認をした上で、それに関してのあり得るべ き姿ということの議論だと思います。 ○小野委員 確認を1つと、15頁と16頁について少しコメントをさせていただきます。6 頁の資料を拝見いたしますと、退職給付債務の有無のところで、有り、無しのところにそれ ぞれ社数が載っていて、それを合計すると全体社数になると思うのです。アメリカだけそう なっていないのですが、どちらが正しいのかということです。 ○藤井委員 大変失礼いたしました。どちらかが間違っています。すみません、いまは覚え ていないです。[注:インターネット上に掲載の資料は訂正済み(米国の全体社数、誤539  ⇒ 正593) ○小野委員 ドイツは、自己比率資本に対する退職給付債務の比率が大きいという印象を受 けます。先ほどの説明では、支払いに対する係数の中にはブックリザーブが入っていないの が、ここでは当然入っているという意味では少し土俵が違ってくるという理解でよろしいで すか。 ○藤井委員 まさにそのとおりです。 ○小野委員 15頁、16頁辺りなのですが、私は日ごろ藤井委員とはお話をさせていただい ているのでかなり意見は近いと思います。15頁の企業年金の普及促進の中で、職域ないし 企業というのは非常に有効な手段であるというのは確かにそのとおりで、これを利用しない 手は絶対にないです。それはDBもそうですけれども、個人勘定型の制度であっても、職域 として提供することについてのメリットは非常に大きいのではないかと思います。そのよう にいろいろな面でこの器を使うのは非常に有効なことではないのかと思っております。  ここで1つ確認なのですが、[5]の公的年金を縮小せざるを得ない部分を、DCが役割分担 するというのは、最近ではドイツだとかいろいろな所で、公的年金の一部をDCというよう な話が少し出てきているように見ています。第1回の研究会のときにも質問させていただい たのですけれども、公的年金でDCをやっていて、企業年金もDCになると、多くの人たち はアカウントを2つ持つようになってしまうと思うのです。これは非常に不効率なのではな いかということで、その辺りの整理についてほかの国はどういうことになっているのか、日 ごろから疑問に思っています。  16頁に関しては、この前の企業年金研究会のときに私からお話申し上げましたが、良い ときに積み増すことが非常に重要だというか、その選択肢を提供するのが非常に重要な政策 なのではないかということで提案いたしました。いま説明がありましたとおり、そのために は剰余金の帰属問題が1つ出てくるでしょう。  私は別の観点から申し上げたいのは、例の財政運営上予定利率が長らく5.5%ということ で固定されていました。これは企業年金設立当時、導入当時は基本的に金利ものの資産の収 益率という位置づけであったかと思います。例えば定期預金だとか、そんな利回りだったわ けです。企業年金の財政運営基準が弾力化といいますか、自由化されたのは平成9年だった と思いますけれども、その時点では既に五分五厘の位置づけがだいぶ違ってきております。 現状の財政運営基準でも、保留しているアセットの期待収益率が1つの基準になっていると いう意味ではかなり位置づけが変わってきています。  変わってきているということは、逆に実質的には予定利率を結果的には高めに設定すると いうことで、損金算入ということをするのであれば、実質的には損金算入の額は減らされて いるという理解もし得るのではないのかと思います。意見も含めてこのようなことをコメン トさせていただきます。 ○藤井委員 先ほどご指摘いただいたことの繰り返しですけれども、ドイツについてはおっ しゃるとおりで、米国の数字がおそらく間違っているということです。それから、ドイツに ついてはおっしゃるとおりで、6頁は退職給付債務のありなしですから、ドイツで盛んに行 われているブックリザーブに関しては、こちらで当然入っています。ところが、こちらの OECDの統計では、注釈にもありますように、ペンションファンドをこしらえている場合 の数字しか載っていないということで、当然に違った統計になっているということがありま す。  それから、「公的年金を縮少せざるをえない部分をDCが補う役割分担」、このDCを国が やるのか民がやるのかというところですが、どちらでもいいと思いますが、ここでイメージ しているのは民間ベースですね。国がやるというのは、そのためにまた国がその装備をこし らえて別途、これまでのDCと別の枠組みでやるというのも、非常に非効率だと思いますし、 おっしゃるとおり。そうはいっても運用するのは結局金融資本市場で運用せざるを得ないわ けで、それは我が国の持っていき方としては、やるとすれば民間ベースの、これまでのDC を活用・拡大することしか考えにくいのではないかと思います。外国でもどちらもあると思 いますが、そういうアイデアかなと思います。 ○森戸座長 ほかにいかがでしょうか。 ○臼杵委員 まずコメントとしてですが、先ほど支払保証と規制の関係のお話があったと思 うのですが、支払保証自体は受給権の保護というか、きちんと年金を受け取れるようにとい う目的で作っているわけですが、支払保証は一種の預金保険のようなものですから、それを 作ること自体でモラルハザードの問題などが出てきます。それを防ぐために支払保証自体が また新しい規制の理由になるというふうに理解できるのかなと思います。  藤井委員に2つ質問をお願いしたいと思います。15頁の[3]で「強制的な仕組み、または、 明確な優遇」という2つのオプションを書かれているわけですが、強制的というのは1つ、 日本ではこれまであまり馴染まないところだと思うのですが、強制するということになると 当然、公的年金がある程度縮小するとしても、それは雇用主にとっては新しい負担になり、 例えばいまのパートに厚生年金を適用できないという話とも似てくると思うのです。  私の質問は先ほどのお話と関係すると、世代内外の所得再分配があって自分の払った保険 料が誰のところにいくか分からない公的年金と、いわば収支相当しており、ある意味では個 人ごとに確立している私的年金とを比べれば、後者のほうが事業主にとって受け入れやすい とか、あるいはそれが強制できるというようなお考えがおありかどうかというのが1つ目の 質問です。  2つ目は同じ15頁の[5]です。これも小野さんからもいろいろご質問があったところです が、DCというと、具体的に例えば今の日本の確定拠出年金とか、アメリカの401Kとかそ ういうものをみんな思い浮かべると思うのですが、そういうDCでいいということか、そう いうDCで十分というふうにお考えになっているのか。あるいはどういうDCで公的年金の 縮小を補うことができるのかという、その辺のイメージをお伺いしたいと思います。以上2 点です。 ○藤井委員 14頁のいちばん下に書いてあるように、「企業のリスク負担は現状程度がほど ほど」と。ここではリスクのことをいっていますが、コスト負担もほどほどかと思うのです。 即ち現状の企業年金は普及と書いてありますが、まあ、ほどほどなのかなと。企業年金を実 施していない企業も、今、退職金はある場合が正社員については多いので、そういう意味で は、企業年金をその意味での普及ということはあるのではないかと思います。私の意見です けどね。  一方、次に「公的年金が縮小せざるをえない部分をDBが補う」という部分に関して言う と、私のイメージはいままでのような企業年金で企業が丸抱え負担をするというDCは、そ ういう意味で難しいのだと思うのです。だから、どちらかというと本人負担あるいは税の支 援を受けた本人負担を中心としたものを、そうしなければいけないことはないのですが、そ ういうものを私はイメージしているという感じです。それを企業がやることも一向に差し支 えないわけですし、基本的にその選択は自由ですが、そういうことがいいのではないかと私 は思っています。  強制云々に関して言いますと、こういうふうに書いてありますが、これはディスカッショ ンすればいいことだと思っていますが、私個人的な発想から言うと、強制的なというのはや はり無理だと思います。だから、やはり明確な優遇をして促すと、こういうほうがやってい る方も嬉しいですよね。結局同じことなのかもしれないけれども、積極性とか嬉しさという のが伴っていて、ある種穏やかですしね。そちらのほうがいいのではないかなというか、現 実的ではないかという感じをもっています。 ○菊池委員 社会保障の観点からで恐縮なのですが、私も15頁のところです。1つはコメ ントと申しますか、基本的に私も藤井委員のお考えと申しますか、非常に共感する部分がご ざいます。企業年金加入者というのは、高齢になっていく国民の一部なわけですから、単な る労使間のルールづくりという制度であればそれがいいのでしょうが、それを越えて税制を 含めるさまざまな優遇措置を講じていくということになると、やはり企業年金加入者とそれ 以外の国民とのバランス、公平性ということを考えざるを得ないわけです。企業年金に加入 していない人は生活保護があるからいいのだということでいいのかというと、その点は私は 疑問がありますので、そういった意味で企業年金を考えていくに当たっても、私的年金とい う枠組みの中で捉えていくという考え方は非常に重要ではないかなと思っています。共感を 覚えた次第です。  もう1つは確認と申しますかご質問と申しますか、[5]の公的年金の縮小の部分です。せざ るを得ないというのは、私もそうだろうなと思っているのですが、ただ、そういういろいろ な状況の中でそうならざるを得ない、それへの対応という部分と、やはりどういう役割を、 これは私が以前報告させていただいたのですが、公的年金の守備範囲、役割をどういうもの としておくかという、それとの関係で企業年金に対する規制、やはり皆さん強制をかけるか どうかということとか、あるいはどこまで優遇措置を講じるかといったこともある程度決ま ってくる部分もあるのではないかなと思っています。あまり定量的な議論はできないのです が、今でもモデル年金で全居住世帯で23万くらいでしたか。例えばそれがかなり下がらざ るを得ないとすると、そういったある程度基礎的な、いままで公的年金が担っていた老後の 所得保障の役割もある程度企業年金、私的年金が担わざるを得ないのだと。プラスアルファ ではなくて、生活の本体部分で担わざるを得ないという発想で考えていくとすると、そこは かなりしっかりとしたある程度の強制力、強制をかける、規制をかけていくという発想でい くと思います。  そうではない、まだそれほどではないとなると、それはある程度労使の自治に委ねるとい ってもいいのだという発想に傾く面があると思うのですが、その点でここは公的年金の議論 をする場ではないのですが、どういう公的年金のイメージを描かれた上でのご議論なのか、 もしあればお伺いしたいということです。 ○藤井委員 もう菊池委員のおっしゃったとおりに私も思いまして、そこに何か1つの明解 な答があるとも思えませんが、ご指摘いただいた視点はすべて重要で、そういう中でみんな で選んでいくだけのことだと思います。  ちょっと付け加えるとすれば、もう1つの観点として、14頁の下から2つ目ですが、「世 界に誇る個人金融資産は、次世代に無事に引き継がれるか」ということだとか、企業年金も 公的年金も非常に長期の問題ですね。したがって今の社会状態だけを見て、まあいいじゃな いか、まあいいじゃないかとやっていますと、いずれ手がつけられないことになってしまう。 そして、どうにもならなくなってからやると、日本の今のような社会システムは維持できな くなるおそれすらあるのではないかと思うのです。ほとんど金を持たない老人が非常に多く の国民を占めるようなことになりますと、もう様変わりしたような社会システムになりかね ないと思います。  ですからおっしゃるように、最後のところは非常に難しくて、公的年金が縮小せざるを得 ない云々というのが、どのぐらいの範囲のことを、どのぐらいに思っているのかというご質 問と言い換えることができるかと思うのです。それは非常に難しくて時の関数とその時の政 策立案のときにおいて、どのぐらいまでの将来を見越すことが多くの方に是認されるかとい うので、程度が分かれてくると思うのです。非常に長期まで見通せて、皆が「ああ、そうだ」 というような納得が得られるような情勢であれば、相当早く思いきった手を打っておくほう が先々安定するとは思うのですが、なかなかそうはならないので、じわりじわりもっていく ということかと思いますけどね。  強制するか優遇するかというのはおっしゃるように、本当に基礎的なところまで踏み込む とすれば、若干の強制的な傾向を強める必要も出てくるでしょうし、労使に委ねるほかに、 労使関係でカバーされていない人をどうするかという問題にたちまちなると思います。その 点のカバーも含めて考えていく必要があるのかなと思います。ご質問への明解な答はないか もしれませんが、そのようなことかなと思います。 ○森戸座長 ありがとうございました。だいぶ時間も押しているのですが、高瀬委員最後に お願いします。 ○高瀬委員 現実に企業年金を運営している立場から今のご説明をお伺いしまして、特に 15頁の所は、運営する側の企業と受取側の従業員にとって、以前にもこの場で報告をしま したが、公的年金との関係で言えば、相当期待感が増している。一方で企業側の経営環境が 非常に悪くて、どうやって企業年金を運営する意欲を持ち続けるかというところが悩ましい と思っています。  そういう中で15頁の流れに非常に我々も共鳴するところがあると思うのです。煎じ詰め ると現実に運営する側は、企業としていかに運営する意欲を削がないかということが、1つ ポイントになるのかなと思っています。資料の9頁に今後どういう価値観の下で、この一番 下の所に4つほどまとめられているのですが、この中でも、この場ではあまり従来議論にな っていないのですが、会計基準の改定というのが意外と影響が大きいのではないかという話 が昨今聞かれています。  今日の藤井先生の資料で、退職給付債務の比率からは、あまり影響がないのではないかと データ的には見えるような気もしますし、実際に企業年金の運営側に対する影響がどれぐら い出てくるのかという、その感触をご意見として承れればと思います。  もう1つは15頁に戻りますと、明確な優遇とあります。これは当然企業の導入意欲に関 わってくるわけです。例えば16頁でDBの財政運営について、経済環境の良い時に積み増 しをするといった方策が出ていますが、積み増しをする際に税金を取られるということにな ってしまうと、なかなか導入に踏み切れなくて、別な制度にいくような流れになってしまい ますので、この辺、何か更にこれを入れる場合にこんな優遇がいるのではないかとか、ご意 見等がありましたらお教えいただきたいのです。 ○藤井委員 まず15頁のアイデアに共感いただきましてありがとうございます。それから、 9頁のいちばん下にある4つの要因の中の会計基準のところですが、7頁にこれをもう少し 仔細に見ると、いろいろなことが分かってくるかと思います。現在の日本企業は自己資本に 対する割合が、平均値で言うと27.7で30%程度ですね。確かにこのグラフを見ると、まあ、 そのぐらいかなということだと思います。  例えば30%だとしますと、その30%の年金退職給付債務が10%動くということは、自 己資本に対する3%の影響です。退職給付債務が動く可能性があるいちばん大きな理由は金 利の変動だと思いますし、それから年金資産がどのぐらい積み立てられているかは企業によ りけりだと思いますが、ある程度積み立てられているとすれば、その年金資産の変動もまた それぐらいのインパクトをもつということなのかなと思います。だから、自己資本比率で当 期利益が税引前で与えられる影響がそれぐらいのこと。変動におけるインパクトはそのぐら いと理解されるのではないかと思います。  もう1つは移行の時における未処理の額を一時に引き当て追加をしなくてはいけないと いう面があろうかと思います。それは今日ここには出していません。別途資料は掲載してい ますので資料をご覧いただければと思います。  最後の点は16頁のいい時に積み増しをして悪い時に取り崩すということですが、もちろ ん掛金の損金性ということは重要だと思います。いい時に積み増すからといって、小野さん がご指摘になったように、積み増した金の帰属の問題だと思うのです。帰属の問題というの は例えば制度が終了したり、その瞬間企業が倒産した場合に、その金がどこにいくのかとい うことの整理が必要です。いまのDBですと偶然の賜かもしれませんが、剰余がある場合に は、それはすべて加入員または事業者のほうに回っていくことになっているかと思いますが、 その辺はそのとおりと位置づける必要が出てくるのかなと思います。掛金の損金性とか税制 は、追加して拠出しているからといって、それについて特別何か、それをエンカレッジする 税制はあるかもしれませんが、それを特別扱いして、何か税の優遇を外すことは到底考える べきではないと思います。  もう1つあるのは、いい時に積み増すことを強制するか許すかという問題だと思います。 現状では許すという程度がせいぜいではないかと思いますが、本来は強制するべきだろうと 思いますが、日本の企業年金の歴史的経過を考えますと、現状でも積立不足で推移している 形があるわけで、それは100%を目標にしているから当然そうなるわけですが、その段階か ら一気に危険準備金まで積み立てることを義務づけるのは、[2]のケースとも共通しますが、 無理だと思いますから、それは非現実的だと思います。 ○森戸座長 ありがとうございます。まだ皆さんご質問があるとは思うのですが、時間の関 係もありますので、藤井委員の分はひとまず終わりにしまして、次に移りたいと思います。 お待たせしました島崎委員にご報告をただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○島崎座長代理 「確定給付企業年金の受給権保護」ということでレジュメを用意していま すのでそれに即して、お話しいたします。  前回のこの研究会が終わったとき、いつも書いているようなことを言うのは面白くないの で、こういう金融危機の下でOECDが企業年金についてどういう方針を出したのかという ことを調べようと思ったのですが、時間がなく、結局、既出の論文のエッセンスを引き抜い たような形になっています。  早速、内容に入っていきますと、1頁の最初に問題の所在というか、受給権保護というの がなぜ必要になるのか、どういう論点があるのか。これは釈迦に説法ということになるかも しれませんが、若干述べておきたいと思います。  企業年金も労働の対償という意味では「賃金」の一種です。かぎ括弧をつけているのは、 以前、森戸先生がこの場もでおっしゃったことと関係しますが、「賃金の確保に関する法律」 上の「賃金」かという問題があるからですが、いずれにしても広義には「賃金」の一種です。 その払い方をどうするか、それからその水準をどうするかというのは、基本的には労使で決 めることになるわけですが、その賃金が後払いにされますと、掛金の拠出から受給の間にさ まざまなリスクに晒されてしまう。DBの給付は、拠出した資産を運用して賄うという構造 になっているわけですから、いちばん大きなリスクは市場収益率の変動リスクですが、それ 以外にも、母体企業の倒産リスク、あるいはその後に「等」を入れたほうがいいかもしれま せんが、インフレリスクとかいろいろなリスクに晒されます。資料で、※を付けていますの は、市場収益率と企業業積は、基本的にシンクロナイズするということであり、ビルトイン スタビライザーとは逆の形になっているということです。  そういうことで、先ほど藤井委員がおっしゃったような調整措置というか、そういうバッ ファみたいなものを設けるということが必要だと思います。ただ、先ほど小野委員も指摘さ れたように、その帰属の問題とか、税の安定性の問題ということは別途考慮が必要だろうと 思います。  資料で税制上の「特別措置」とあえて書いたのは、これが優遇措置なのか特別措置なのか、 何なのかということがあるからですが、例えば下のほうに書いてあるとおり、自社年金、特 に決定的なのは内部積立型タイプの場合には、事業主掛金は損金不算入、事業収益として課 税され、雑所得課税という形になりますので、少なくとも確定給付企業年金とは税制上の取 扱いが全然違うわけです。  繰り返しになりますが、これはほかの退職金とかと比べてみたときに、あるいは税制適格 年金と比べてみたときにどうかという議論があるので、今日はこれ以上、これが優遇かどう かということについて深入りするつもりはありませんが、特別措置が講じられていることは 間違いない。そして、特別措置が講じられている理由は、結局のところ、老後の所得保障に 資するという政策目標に帰着するのだろうと思います。  そうだとすると、もちろんその設計に当たっては公平性を害していないとかといったこと も大切ですが、いちばん重要なのは「給付できなくなってしまうこと」を避けなければいけ ない。これが受給権保護が求められる本質的な理由だと思います。受給権保護というのは言 うまでもなく、適正な外部積立というか、ここは非常にクリティカルで、極端なことなこと を言えば、ここさえしっかりしてさえいれば、それで済むという面もあるわけですが、受託 者責任とか、情報開示と適切なガバナンスとかという一連の仕組みによって成り立っている。 しかし、そもそも受給権とは何なのか。どの範囲までカバーされるのか、どういう場合にそ れが損なわれてしまうのかということがはっきりしないまま議論をしていてもしようがな いのではないかというのが、今日、お話しする趣旨であり、いろいろなところで私が書いて いることです。  2番目のことですが、受給権とは、単純に言えば、「約束された給付を受ける権利」です が、権利と言っても、期待権に過ぎないものから、憲法上の財産権保障の対象となるまでい ろいろあるわけです。その意味では、法律の条文の立て方、特に給付減額の要件とそれから 制度終了時にこの権利というのはどういうふうに扱われているのかということを見る必要 があるし、もう1つ重要なことは、受給者、それから受給待期者、正確には受給権待期脱退 者、そして現役の加入者、この3つに分けて、その受給権の保護の範囲とか態様がどうなっ ているのかということを見ていく必要があるのではないかということです。  結論を先に言うと、いろいろな保護といっても、それは労働法の延長で行う保護もあれば、 独自に確定企業年金法のような形でいろいろ規制していくやり方もある。それから、いろい ろな積立水準等についてもあるのですが、どうも、2つの考え方が錯綜しているというか交 錯しているというか、融合していないというか、2つの流れが入ってきているのだろうとい うのが言いたいことです。  1頁目に書いてあるのは、DB法の30条とか36条の規定を読むと、裁定によって初めて 受給権が存在するということではなくて、その前にこの受給権というのは少なくとも潜在的 にあると考えられているということです。ただし、これは、今日の議論の本質の話ではあり ません。  2頁の給付減額のときに受給権がどう扱われているかという話なのですが、先ほど申し上 げた企業年金の本質は賃金だというのであれば、賃金というのは労働に対する対償ですから、 過去分というか既に発生している労働の部分については、受給権を発生させるという考え方 があっておかしくはない。むしろそのほうが素直なのかもしれません。米国のエリサではそ ういう形をとっている。細かいことを言うといろいろご議論があるかもしれませんが、過去 分と将来分を峻別して、過去分についてはvestingをし、没収不可としていると、こういう 立て方になっていると思います。  日本はこういう形をとっていないわけです、つまりvestingをしているわけではありませ ん。もちろん「給付減額」を自由に行えるわけではない。ここで給付減額に鍵括弧を付けた のは、給付減額というのは、厳格に言えば受給者に対する給付の減ということになるかもし れませんが、企業年金法の法制度の中では現役の給付の引き下げも給付減額という言葉を通 常使っているので、ここではその両方を含みます。給付減額を内容とする規約の変更を行え る理由要件と手続要件を規定し、なおかつ、その規約に関わらせしめて、その変更について 厚生労働大臣の認可、あるいは承認に関わらせてと、こういう縛り方をしているわけです。  注意すべきことは、皆さん方専門家ばかりでいらっしゃいますので、詳しい説明はいたし ませんが、受給権者の給付の給付減額の要件は厳格、加入者(現役従業員)の給付減額の要 件、手続きは緩やかというふうに書き分けているということです。下に書いてあるようなこ とですが、手続要件のところでいえば、希望をする人には最低積立基準額を一時金として支 給することを義務づけている。これは理屈上の話としては、給付減額前の年金額と最低積立 基準減額というのは、理論的には等価値だから、それを一時金として支給するというオプシ ョンを設けることによって、受給権者の財産権の侵害の議論を回避していると言えるのでは ないかと思います。  もう1つ、下から6行目、給付減額の要件というのは、受給脱退者は加入者と同じ取扱い ではなくて、加入者であったものとして受給者と同列の扱いになっている。つまり、給付減 額の要件上は、退職し給付額が決まっているかどうかということがメルクマールになってい るところです。制度終了時はどうかというと、言うまでもなく、非継続基準の考え方が出て くるわけで、非継続基準というのは、解散時基準、つまり、解散した時点で然るべき資産が あるかどうかという基準なわけで、この考え方は3頁にあるような※の所に書いてあるよう な考え方になっています。  すなわち、加入者期間に応じて発生している、または発生しているとみなされると給付の 予想額をリスクフリー・レートで割り引いた現在価値が最低積立基準ということになるわけ で、その金額と資産を見比べて、足りなければきちんと積みますよというのが非継続基準の 考え方になっているわけです。  言いたいことは、受給権者分が最低積立基準額の対象となるのは当然なのですが、加入者 の過去分も最低積立基準額の対象だということです。つまり給付減額の要件上は、加入者の 過去分は将来分と同じように取り扱われているけれども、制度終了時の基準としては過去分 が将来とは切り離されて別のものとして取り扱われているわけです。言い換えれば加入者の 過去分も「みなし受給権」として保護の対象になっているところであり、これは単に非継続 基準ということだけではなくて、制度終了時において、では、その残余財産をどうやって分 配するかと、そういう基準にも使われているということです。  そこに書いてありますように、制度終了時の残余財産の分配については、2つの方式が認 められていますが、受給権者と加入者の最低積立基準額を比例按分する方法をとるというこ とは、受給権者と加入者の、つまり過去分は平等に取り扱っているということになると思い ます。  これを表の形でまとめると下のような形になります。つまり米国のエリサ法のところは過 去分と将来分という切り方をしていて、したがって非常に堅い◎、◎、◎と、将来分は×と しています。これももちろん労使の合意が必要だということは当然の話ですが、法制的には ×ということになるだろうと思います。   重要なのは[2]と[3]の違いです。特に加入者のところは、いま申し上げたように制度終了時 の基準上は、先ほど申し上げたような考え方をとれば○。つまり受給権者と加入者の過去分 は平等に取り扱っているわけですから、こういうことになるだろうと思います。将来分は△。 ところが給付減額のところは過去か未来かという切り方をしているわけではなくて、現役か 現役ではないかという切り方をしているわけです。  次の頁ですが、現行の法令上の「受給権」の捉え方というのは、給付減額の要件に見られ るように、退職金に関するこれまでの労働法の法理とか、裁判例の考え方、(森戸先生がい らっしゃるので違っていたらあとでご指摘いただきたいと思いますが)例えば労働条件の不 利益変更の法理というものがあって、それのいわば「延長線」上で物事を考えていくという ことが1つある。もう1つは、非継続基準における最低積立基準額の考え方に見られるよう に、「賃金の後払い」というか、それを非常に強調する、つまり、元の賃金で既に働いたも のについては本来保護されるべきだという考え方がある。そして、わが国のDB法は、この 2つが並存しているのではないかということです。  もっと言ってしまうと、この2番目の考え方というのは、退職給付会計における発生給付 の考え方と当然整合しているわけです。これは、もともと非継続基準というのは、運用環境 等が変わったという時代背景ももちろんありますが、当時の欧米の確定給付企業年金の考え 方、退職給付会計の発生給付の考え方を念頭に置いて、これを我が国に置き戻したものです から当然と言えば当然だと思います。  そこで「受給権付与」の話ですが、そもそも賃金だったら既に働いた分については受給権 を付与してあげればよいではないか。vestingしてあげればいいではないかというのが素直 な考え方としてはあるのだろうと思います。制定時の議論について見てみますと、ジュリス トに書かれている柳楽さんの解説では、「受給権付与の強制化は現実の雇用慣行と大きくか け離れることになること等を踏まえ、本制度の給付について受給権付与を義務づけることは しなかった」となっている。問題になるのは現実の雇用慣行とか、大きくかけ離れることと なると、どの部分がどういうふうにかけ離れているかということとか、あるいは現行の労働 法制とどういうふうにバッティングをするのかということなのでしょうけれども、考え方と して受給権付与を行うとどういうことが起こるのか、これは「思考実験」として考えてみる ことが重要だと思います。  仮に受給権付与をすると、少なくとも受給権減額の要件において、現役の加入者の過去分 も、既に働いたものに対する対償ですので、これは受給権者並びにしなければいけないでし ょう。それから制度終了時の残余財産の分配においても、過去分は平等に取り扱うことにな る。先ほど制度終了時の残余財産の分配には2つの方式があるということを申し上げました が、受給権者への優先配分の方式は認めないということが必要になってくるように思います。 さらにきちんと受給権付与を徹底するという話になれば、米国のエリサ法と同様に過去分は 不可没収にする、つまり過去分については一切給付減額は認めない、どんな場合であっても、 企業が倒産する寸前であったとしても認めないと、ここまで行きつくのかもしれないと思い ます。  その結果、受給権の取扱いは一元化され、ある意味からいうと、非常にすっきりした体系 になるということかもしれません。ただし、これがよいのかというと、それはそれで問題が ある。1つは、加入者であった者とそれから加入者、つまり退職者と大雑把に言えば現役の 従業員を区別しているのはなぜかということなのですが、もちろんいろいろな理由は立つと 思いますが、雇用関係の有無ということが大きな理由である。座長の論文を引用すtれば、 「労働条件切り下げと引き替えに守ってもらえる利益」、つまり雇用が退職者の場合にはも はや存在しない。これは非常に大きな違いがあると思います。  2つ目は、加入者の過去分は非常に「固い」権利、将来分は保護しないという形を、もち ろん労使交渉問題に委ねてしまう。つまり、企業年金法制上、完全に切り分けてしまうこと が本当に妥当なのかということを考えてみますと、必ずしもそうではないかもしれない。将 来分は基本的に改廃自由ということだとすると、それを当てにして退職後の将来の生活設計 を行っている現役の人の期待権的なものがどうなるのか、そういう話だろうと思います。言 い換えてみれば、社会政策上の老後の所得保障ということに重きを置く社会保障法上、政策 上の観点に立てば、将来分といえどもその変更について、現行程度の制約は必要なのではな いかなという考え方もあると思います。  一方で、過去分の給付減額、典型は受給者の給付減額ですが、それは一切認めないという のも、これは企業年金が所詮は企業が存在しての年金であることを考えれば行き過ぎという 感も否めない。結論として言いますと、現行DB法令の受給権保護の体系というのは、ヌエ 的に見えながら、あるいは今から申し上げるように個々の規制の是非論はありながら、労使 合意を前提とする企業年金の自律性の尊重と、労後の所得保障という政策目的に由来する受 給権保護の重要性という、相反する要請、実は完全には相反していないのかもしれませんが、 思想的にはこういう異なる2つの要請の接点として、妥当な線をいっているのかなと私は思 います。  以下、時間の関係もありますので要点だけ申し上げますと、現行法制上いろいろな問題が 残っているだろうと思います。1つは、制度終了時と給付減額の要件の相違でして、これは 森戸先生もおっしゃっていますし、もちろん実務担当者も知っていることですが、制度終了 については理由要件がなく、規約型であれば労使合意、基金型であれば代議員会での4分の 3以上の賛成があれば行える。つまり、制度終了のほうが給付減額に比べて要件が緩いとい う形になっているわけです。  この点はNTTのグループ企業事件でも、制度終了のほうが緩やかだというのはバランス を欠いており、給付減額の要件についてあれこれ規制するのはおかしいという主張をしたわ けですが、それに対する判旨を見ても、必ずしも説得的だとは言えないように思います。少 なくとも私はこれを読んで、ああ、なるほどというふうには得心はいきません。  整合を図るには、これは過去に臼杵委員からコメントをいただいたことなのですが、どち らかに並べることが考えられる。つまり、1つは、制度終了の要件の厳格を図る、たとえば、 受給権者については3分の2以上の同意を要するといった給付減額と同様の要件の一部を 被せる方法がある。もう1つは、逆に給付減額の要件を緩和するということが考えられる。 ただし、後者は、結局先ほど申し上げたような受給権保護も基本論にまた戻ってしまう話に なると思います。  2つ目は、給付減額の要件の判断基準の明確化というか、DB法の施行規則や解釈を見ま すと、かなり行政庁の裁量性がある規定ぶりとなっているわけです。例えば「経営状況の悪 化理由」とか、あるいは「掛金の大幅上昇かつ負担困難」という抽象度の高いというか、そ ういう書き方になっているわけで、例えば、債務超過となりましたというのと、当期は赤字 決算でしたというのは違うはずですが、どのような場合に「経営状況悪化」という理由に該 当するのか、それから「大幅」とか「困難」とかということと基準も必ずしも明確にされて いるわけではない。もちろん給付減額の事案というのは非常に個別性が高いので、全ての斟 酌要素を列挙することはなかなか難しいかもしれませんが、法的安定性を確保するためには、 これまでもいろいろな相談とか実際に認可してきたような事例もあるはずですから、基本的 な考え方を整理し明確にする必要があるのではないかと思います。  加入者の最低積立基準額の算定方法なのですが、これについては論文の中でも書いたこと があるのですが、受給権者については、既に退職して給付額が確定していますので、その現 在価値が最低積立基準額になるわけです。加入者については給付額が確定していませんので、 何らかの形で最低積立基準額を算出しなければいけない。そのやり方として2つ認められて おり、[1]は厚生年金基金のときの考え方をそのまま引きずっているやり方で、[2]はDB法が できたときに加えられたやり方なのですが、問題にしたいのは[2]の方法です。[2]で何をやっ ているかというと、仮にここの時点で解散が行われたときに、あるいは企業年金をやめたと きに、退職金としていくら払わなければいけないのという、いわゆる「要支給額」に対して、 どのくらいの割合を払うのかという決め方になっているわけです。  この決め方については一応通知などで一定のルールはあるものの、実際上は事業主等が労 使協議の中で任意に設定することができる形になっており、私もいくつか調べたところでは、 かなり率が低いケースがあります。そうしますと、解散したときに十分な保障がない、つま り、受給権者の権利が保全されていないわけで問題なのではないかと思います。私は本来こ ういう権利義務にかかわることについて、あまり裁量性が余地があるのは好ましくないと考 えていますが、少なくとも労使協議において、1号方法で算定した場合との比較を含め、ど ういう問題があるのか、どういう影響があるのかについて、これは給付減額の要件にも該当 すると思うのですが、きちんと説明をさせるようにすべきだと思います。  基本的に以上なのですが、若干の時間を使い、支払保証制度、受託者責任の問題について コメントをしておきたいと思います。私は支払保証制度について結論から申し上げると、篠 原委員には恐縮なのですが、賛成はできません。森戸座長、小野委員らと一緒に検討をした 研究会でもいろいろと議論をしたのですが、やはりいろいろ考えていくと難しく、企業年金 の本質に触れる話だと思います。  まず、支払保証制度を設けるとすると、「逆選択」を避けるためには、強制加入とせざる を得ない。つまり、リスクの高いところだけ入ってしまうと、一種の保険である支払保証制 度が成り立ちません。また、確定給付企業年金の給付の「厚さ」等は、個々の制度で大きく 異なりますので、支払保証制度を作るとなると、共通の「物差し」とかルールが必要になる。 諸外国の例をみても、支払保証制度を設けるといろいろな規制が入ることは事実で、それは 先ほど藤井委員も、臼杵委員もご指摘されたとおりです。  要するに、支払保証制度を設けると制度の強制加入等の強い規制が必要になるのですが、 それでは、なぜ、そうした「無理」を冒してまで支払保証制度を作る必要があるのかという 論拠が問われるわけです。支払保証制度は受給権保護の全体の中の1部分であって、それだ けで成り立っていない。というか、むしろそれ以外、特に適正な積立は決定的に重要なわけ です。つまり、最低積立基準額が保全されていれば十分ではないか、あるいはやや暴論かも しれませが、最低積立基準額が若干目減りをしていたとしても、一定のお金が保証されてい るいるのであればそれでよいではないかという考え方もある。要するに、無理に支払保証制 度を設けるよりも、より重要性の高い、適正な積立がされているかどうかということに力を 注いだほうがいいという考え方もあるのだろうと思います。これが1つです。  2つ目は、仮に支払保証制度を作る場合、その理由は、企業年金は老後の保障のためだか ら、それを保全しなければいけないということになるのでしょうが、そもそも公的年金の「代 替・補完」というふうに位置づけていくことが確定給付年金の将来像として果たして適当な のかどうか。少なくとも、厚生年金基金はともかくとして、DBは公的年金との関係の「代 替・補完」という位置づけにはなっていない。  3つ目は、今言ったことを裏返せば、DBは企業の年金であるという性格をどう考えるの かということです。企業年金は、それぞれの企業がリスクを負い行っているわけであり、D B全体のいわば「共通の船」に乗っているわけではない。そういう意味では、支払保証制度 に強制加入させるということは、各企業の自己責任原則を歪めかねないように思います。  したがって、これについては必要であれば改めて議論をしたほうがいいと思いますが、 私は支払保証制度は必然ではないと考えていますが、仮にもし設けるとすると現行の企業年 金の性格を変える覚悟が必要だと思います。  最後に受託者責任ですが、受託者責任をめぐる議論が現場の人たちの意見を聞いています と、かなり混乱をしているように思います。例えばリスク許容度をどの程度にするかという ことは基金で判断できない、母体企業しか判断できないが、その責任は自分たちだけが取ら される。あるいは、給付減額のときに、基金の理事兼母体企業の役職員である場合人、どち らを向いて判断すればよいのか、さらには、受託者責任違反の典型事例としてしばしば取り 上げられる、母体企業の取引関係等を考えて運用受託機関を決めてはいかないということに 十分得心がいかない、といった声が聞かれます。  要するに、受託者責任は現場ではいろいろ混乱が見られるのですが、私はその一番の理由 は、[1]制度の設立・変更・終了など、制度の設定者としての責任と、[2]企業の固有財産と分 離された積立金の管理・運用の責任が混在されているからだと思います。本来受託者責任と いうのは[2]の責任のはずであって、[1]の制度の設計をどうするかというのは、企業の判断の 問題であると、整理して考えるのがいちばんすっきりするだろうと思います。  それでは、条文の立て方がどうなっているかというと、厚生年金基金については、基金の 理事が忠実義務を負うのは、実をいうと[2]の業務に限定されている形になっているのですが、 DB法においてはどうして厚生年金基金と書き分けたのかはわからないのですが、基金の業 務全般に忠実義務が課せられている形になっている。しかし、その一方でDB法においても、 基金の理事が基金に対して連帯して損害賠償の責めを負うのは、積立金の管理及び運用に関 する基金の業務に限られている、こういう構成になっています。  言いたいことは、何か全般的に忠実義務が課せられていると見えながら、実は厚生年金基 金あるいはDB法の立て方も丁寧に読めば、[2]に限定しているということになるのだろうと 思います。この峻別論をさらに進めてしまいますと、亡くなられた土浪さんが昔言っていた ように、「給付条件の設定機能は基金外の労使合意に移管して、基金を積立金の管理・運営 に特化した組織にしてしまう」ということも1つの考え方だろうと思います。ただ、そこま でしなくても、条文上は、連帯して損害賠償の責めを負うのは、[2]の範囲に限られているわ けですから、法令上の整理の仕方の問題に過ぎないように思います。  その一方で、たぶんこのメンバーの中にも、そもそも受託者責任不要論というか、積立金 の管理・運用についても、企業が責任を負えばよくて、受託者責任を全うするために重々し い仕組みを作る必要はないのではないか、という議論もあると思います。しかし、私は受託 者責任は「無用の長物」ではないというふうに思っています。なぜかというと、やはり積立 金は受益者の共有財産なわけですが、毀損は起こりうる、むしろたえずそのリスクは潜んで いると思います。例えば自社株を買ってしまい、会社の倒産とともに受給権者が大打撃を受 けたということもありうるわけですから、受託者責任はやはり大切だと思います。雑駁な報 告ですが、以上です。 ○森戸座長 ありがとうございます。それではご質問ご意見等をいただきたいと思いますが、 いかがでしょうか。 ○藤井委員 いくつかコメントをしたいところがあるのです。まず第一にお伺いしたいのは、 私の発表との関係が大いにあると思うのですが、DBの場合にはなぜ退職金と比べて強い規 制などがあるのか。そのことはなぜ是認されるのか。どの程度の規制ならばよいのか。例え ば退職金における我が国の伝統的な給付の権利の確保の仕方とDBにおけるそれはなぜ違 うほうがいいのか、いけないのか。それはなぜかというところがあるのではないかと思いま す。  それと英米における受給権ですが、私の理解ではこれは制度に対する請求権であって事業 主に対する請求権ではないのですね。ところが日本の場合も企業年金制度の場合については 加入員たちは制度に対する請求権を持っているのですが、その外枠で退職金制度がカバーし ているケースがままあってというか、それが大半で、その意味において、各加入員は企業に 対して不足分に関する請求権を持っていて、かつそれは私の理解では高いプライオリティに おける請求権となっている。そういうこと全体の解決策というか、あり姿についてどうか。 私の理解では英米では必ずしもプライオリティは高くないと思っています。  それから、不足金があるまま制度を終了した場合の不足金に関する請求権とその順位など があって、それが伴わなければ結局その権利を保護するといってみても、実態を伴わないの で、だから積立金の状態、それから支払保証制度の云々、次に請求権の順位と位置づけ、あ るいは誰が誰に対して請求権を持つのかということなどを併せて考えないと、全体の議論は 難しいのかなというような気がしています。  最低責任準備金の計算式については、なお疑問があるところは全く同感でして、何がいい のかよく分からないし、意味が分からないものだとすると、それを強固に保護する意味もよ く分からないことになるので、この辺の整理が必要かなと思います。  受託者責任に関しては、私もちょっと意見があるところですが、ご指摘のような整理の仕 方はあると思います。これはアングロサクソン型のトラスト型の整理だと思います。ところ が我が国の場合に基金の理事の責任がよく議論されて、基金の理事は基金に対して責任を負 っているので、結局法令または代議員の決定に対して責任を負っているということなのです。 理事には直接的な裁量権はあまりないので、その点で英米型のトラスティーとずいぶん違い があることに着目する必要があるのではないかと思います。英米型のトラスティーシステム がこの世にある1つのシステムではなく、他国の様子も議論をする場合には参考にするほう がいいと思います。  受託者責任は無用の長物であるかないかに関して言いますと、受託者責任という言葉が指 し示す内容によりけりだと思うのですが、言葉を正確に言うと、我が国のシステムはトラス ト方式ではないので、受託者責任という言葉は当たらないと思うのですが、我が国ではしば しば受託者責任を忠実義務などの言い換えに使っているので、その意味では必要なことだと 思います。理事は代議員会や法令に対して、忠実であらねばならないことは明らかであって、 そのことを受託者責任と言い換えるということであれば、それは絶対に必要なことですが、 その前に英米型のトラスティー・レスポンシビリティーとか、フィデューシャリー・レスポ ンシビリティーの訳語であることを強く連想させる「受託者責任」という言葉を用いること で、むしろ混乱が生じているのではないかと思います。 ○島崎座長代理 いちばん最後の点に関して言うと、条文上、確定給付企業年金法上、「忠 実義務」という言葉が明確に入れられていますよね。単に法令を守ればいいという話ではな くて、政策論としての、当時のものの考え方の当否はあるにせよ、米国型の受託者責任の考 え方が、本当にいろいろな諸法令との関係はきちんと整理されたのかという質問でもあると 思います。そのことはさて置き、そういう立て方になっています。  もっと言うと、そこの受託者責任における、フィデューシャリー・デューティーの最も重 要な義務は何かというと忠実義務なわけで、そうすると基金の場合には誰に対して忠実義務 を負っているかと言えば、受給者に対してです。  ところが、規約型のときに、その人が2つの帽子を被るわけです。そのときに、いまのよ うな立て方で忠実義務が履行できるかの問題は残ると思います。つまり、少なくともそこの 忠実義務を負うのは誰か、固有名詞を指名するという立て方をしておかないと、利益相反の 問題は解決できないと思います。 ○藤井委員 いまの点に少しコメントします。日本の基金型の理事の忠実義務というのは、 加入者に対してとは規定はされていなくて、基金に対してです。それから、規約型の場合に は、加入者に対して企業が忠実義務を負っていると書かれています。忠実義務を受託者責任 と言い換えるかどうかは、言葉の問題にすぎないように思うのですが、忠実義務が必要であ ることは明らかです。  ただ、英米の場合の忠実義務というのは、トラスティーとしての忠実義務ですから、基本 的に裁量的執行権があります。その裁量的執行権を執行するに当たっての責任です。ところ が理事の場合にはそうではなくて、代議員会の決定に従うにおいて行っているということで、 忠実の意味が違うと思うのです。裁量権との関係を重視する必要があると思います。忠実義 務があることは当然のことであって、無用の長物であることはないと思います。 ○島崎座長代理 細かいことを言い出すと切りがないのですが、私が言いたいのは、少なく とも財産管理に着目したときに、明らかに受益者の権利を毀損させる可能性があるので、そ こは忠実義務はきちんとさせておいたほうがいいということです。  あと請求権のことです。冒頭に申し上げなくてはいけなかったのですが、受給権の保護の 問題を鑑みるに当たって、誰がどのような請求権を持っているのか、現行法制上不備はない のか。はっきり言うといろいろと不備があると思います。したがって、受給権保護を考える 場合に、それが重要な論点になることは間違いないです。その点を書き漏らしていました。  いちばん重要なのは、DBが退職金に比べてなぜいろいろな規制があるのか。これは立法 政策の話です。つまり、退職金に関していうと、性格とかいろいろありまして、必ずしもそ こが保全されているわけではないです。あるいは、企業年金法の立て方の点でいうと、受給 権保護といったときに、差別してはいけないとか、給付減額ということだけを言っているわ けではないのです。つまり、公平性、安全性、いろいろな要素から、いろいろな規制を行っ ています。その上位目的は何かというと、サラリーマンの老後の保障を確実なものとするた めです。  そうすると、さらにきつく言うなら、退職金は自由に設定できてしまいます。それに比べ て、例えば政策的なことを言えば、終身年金のほうが好ましいとか、いろいろな要素の付け 方のバリエーションはあると思いますが、いまの立て方を見た限りは、少なくとも対象に比 べて、いろいろな設計というのは企業の自由に委ねながらも、重要な点については必要な規 制を行っています。それはなぜかというと、老後の保障をするためである。  さらに突き詰めると、何で老後の保障を確実に行うために、国がお節介を焼かなければい けないのか。パターナリズムではないか、ということまで行きつくのかもしれませんが、そ れは公的年金でも同じような問題だと思います。人間は老後のことは真面目に考えませんか ら、いざそうなったときに、社会の混乱などを考えると、社会政策的にそういうことを行う のも、是認されるのではないかと思います。  税金の問題に関して言うと、税制というのは推進するための唯一の方策ですから、果たし てそれがどのような状態になっているのか。さらに言うと、それが本当に鉤括弧付の優遇措 置だとすれば、それだけのお金があるのだったら、公的年金の2階部分との調整問題とか、 むしろ公的年金のその部分を手厚くするほうがましではないかという議論も有り得ます。  逆に言うと、何でそこまで金持ちのための企業年金に税金を突っ込むのだという議論も、 完全にはクリアしきれないと思います。ただし、それは前提としては、そこの税制上の措置 が、何に対しての優遇措置なのか、何に対しての特別措置なのかをもう1回議論したいと思 います。 ○森戸座長 いまのお話、先ほど藤井委員のおっしゃった公的年金と私的年金の中での企業 年金の位置づけとか、そのような話にも関係するかと思います。その議論ももっとしたいと 思いますが、少しコメントすると、忠実義務は、現行法の解釈で言えば、忠実にせよと言っ ているけれども、規約型と基金型で忠実議務の内容が違ってくるということでしょうね。現 行法は同じ言葉を使っているけれども、状況に応じた忠実だということにしないといけない のでしょうね。もしくは立法的な措置が必要なのかもしれません。それが1点です。  あとは、DBと退職金は、一言で言えば外に積めるかどうかが違いになると思います。そ れも先ほどの藤井委員の話につながるので、このぐらいにしておきます。ほかにいかがでし ょうか。 ○篠原委員 このような部分が不明確だ、このようなところに問題があるのではないかとい うことで、いろいろな部分に指摘があるのではないかと思います。  これはご質問ではなくて、こちらの意見ですが、最後にありました6頁の支払保証制度の 部分についてです。この中にもいろいろ文言がありました。例えば退職後の将来の生活設計 を行う前提が崩れてしまうので、退職者の将来設計が非常に難しい等ということがあります し、企業年金は労務の対価ということでも確定しているということで、支払保証制度という かどうかは別にして、同じような制度が必要ではないかと組合としては思っています。  それと、事務局にご質問です。政策研究会ということで、今後どのような形でこの内容を 発展させていくのかを確認させていただきます。 ○中村企業年金国民年金基金課長 1回目の研究会のときにご説明致しましたように、当分 はさまざまなテーマについて、委員の皆様から広くお話をいただくことによって、研究して いただくお願いをしています。いまそれを順次進めさせていただいています。  今日も2人からプレゼンをいただいたわけですが、まだ一巡まではいっていませんので、 もう暫くはこういった形で議論をしていただければと考えています。 ○森戸座長 すぐに報告書を出すとか、決まっているわけではないということです。 ○篠原委員 わかりました。 ○菊池委員 5頁の検討課題の「その1」に「要件の相違」というのがありまして、確かに そうだなと思いました。ただ、制度終了であっても裁判所の判断が入るだろうというのが1 つです。  もう1つは、制度終了の要件の厳格化という提案についてです。公的年金の場合は、法律 関係は行政処分によって設定されると思いますが、企業年金の場合は基本的に契約がベース になっていて、そこは基本的な法律関係が違うと思うのです。その中で、誰と誰がどのよう な契約かというのは、細かく場合分けしないと、受給者と加入者、加入者の場合は労働契約 の一部なのか、受給権であれば企業年金契約という独立の契約があるのか。  いずれにしても、特に独立した契約として考えた場合には、そもそも行政がどのような要 件を掛けられるかという前提として、まず契約論、契約の性格がどのようなものであって、 なぜその終了に当たって制約できるのか。例えば継続的契約です。そういった議論があって、 どこまで要件を掛けられるかという順序ではないかと思うのです。 ○島崎座長代理 考え方としては異論はありません。労使合意の下に企業年金を設定するわ けで一種の契約だと思います。そこから始まって、制度が永続し給付が約束(契約)どおり 支払われればそれでよいわけですが、経営が悪化すると、選択肢が2つある。普通に考える と、給付減額をします、それでも行き詰まって制度を終了しますというのが、順番かもしれ ませんが、制度を終了すれば、その時点で財産の分配をするにしても、受給者にとってはい ろいろな影響が出てきます。受給権者あるいは現役の人もそうかもしれませんが、企業との 関係で約束した、あるいは事業主との関係で約束したことが履行されていないかという意味 では、決して給付減額だけではなくて制度終了も大きな影響を及ぼすわけですが、両者の均 衡はどうなのか。つまり、給付減額の前に制度をやめてしまうほうが、いろいろな手続き面 を考えるとよほど簡単だという法規制のあり方はどうなのか。そういう意味では、現行の規 制は素直に考えると奇妙な感じがするように思います。 ○森戸座長 私は最近地位も出てきたので気をつけますが、この2つの要件が違うことは、 私は書くもので指摘していますが、どちらがいいということはあまり言っていません。分析 として、そこは違う扱いになっているということは指摘しています。裁判所が言ったことが 説得的かどうかというのも、ちょっと微妙な点もありますが、一定の説明にはなっているの かなという気もします。  菊池委員が最初におっしゃった、終了でも裁判所には行くわけだからというのは、どのよ うな意味ですか。 ○菊池委員 全く法的な縛りがないわけではないという、その点は触れられなかったのです が、確認です。 ○森戸座長 ただ、減額みたいな要件はないというのが島崎座長代理の、労使合意があれば やめられると。そこは裁判にいって、労使合意がなかったという主張はできるでしょうけれ ども、数的にあれば、そこは覆らないですよね。もちろんほかの制度との関係で、これをや めたことが結果的に全体の労働条件の不利益変更になるという裁判はあるかもしれません。 島崎座長代理もそういうことですね。 ○島崎座長代理 はい。そういうことです。 ○森戸座長 ほかにいかがでしょうか。 ○野村委員 本日の中で、言葉は挙げられていたけれども、あまり触れられなかったのが、 情報開示のところです。先ほどの議論の流れもあって、すぐに想起されるのは会計基準、い わゆる退職給付会計における開示という気もする一方で、あれはあくまでも連結の結果です し、開示対象は誰かと言ったら、広く投資者というか、そちらの目線の情報開示という気も しますので、その限りでもないのかなど、情報開示について少し触れていただければと思い ます。 ○島崎座長代理 私が情報開示で念頭に置いていたのは、DB、DCについてもそうですが、 従業員が、本当にいろいろな制度を理解して判断をしているかということです。この前の研 究会でもいろいろと議論になりましたが、そこは労使できちんと議論する、代議員会で説明 がされるとか、きちんと情報が流されて、説明されて、それに対して同意をするというのが、 大きなものの考え方になっています。そういったときに、いまの情報開示のレベルがそれで よいのかという点については、個別に見ていかなければいけないと思いますが、議論の余地 があるのではないかと思います。 ○石田委員 両委員のご報告の中に、支払保証制度がありましたので、この点について一言 だけコメントします。金融機関、年金基金に対する経済的規制ということでいうと、事前規 制、事後規制があります。ある意味で、支払保証のようなものも事後的な規制に区分される かと思います。  先ほど臼杵委員からも指摘があったように、支払保証制度というのは、モラルハザードが 強い制度になる危険性があります。特に、アメリカのような、財務状況に変動した保証保険 料となると、これは特に中小企業等にかなり負担が重くなります。重くなると、財務状況が 急速に悪化すると、よりリスキーな投資をしてしまいます。このようなモラルハザードがあ ります。これは非常に大きな問題だと思います。  ただし、事前規制と事後規制をうまく組み合わせていく必要がありまして、どちらかとい うと、事前規制から事後規制に移っていく方向にあると思います。  そうしたときに、先ほど藤井委員からもありましたように、コントリビューションホリデ ー、自由な積増しのやり方、その他柔軟な制度設計をしていこうということになると、事前 の規制は少しずつ弱まっていきます。  こういう中にあって、事後規制ときちんと組み合わせていくためには、私自身は支払保証 ではないにしても、先ほど篠原委員からありましたような、再保険のような何らかの仕組み を作って、これによって支払いをきちんと保証していく考え方は必要ではないかと思ってい ます。  そうでないと、支払保証制度があると、それだけ中小企業に負担が重くなるということは あるのですが、そういった制度がないことによって、逆に事後的に、企業に対する不当な請 求権の強化が行われてしまう事態も起こらないとも限りません。そうすると、かえって導入 のインセンティブが引き下がってしまう危険性があります。  そういう意味で、事前規制と事後規制の組合せを考える上で、導入のインセンティブにき ちんと配慮した両者の組合せを考えていく必要があると感じました。  それと、先ほどこの中で不足している、説明不足があるのではないかというご指摘があり ましたが、もう1つ受給権の保障ということで言うと、現職者等のポータビリティも、もち ろん受給権が基礎になるわけですが、ポータビリティをいかに確保していくかという発想も、 受給権保護ないしは受給権保障にとっては重要なのではないかと思います。 ○島崎座長代理 一言だけ申し上げると、確かに支払保証制度におけるモラルハザードの問 題があります。いま石田委員がおっしゃったように、最後に一か八かの博打を打つこともモ ラルハザードの典型として挙げられているのですが、これはいろいろな規制によって解消可 能だと思います。むしろよりクリティカルなものは、企業年金というのは所詮は企業のもの であるにもかかわらず、企業年金という「共通の船」に乗る必要があるのか、支払保証のた めの保険料を納めなければいけないのか、ということなのだと思います。それは企業年金の 性格を本質的に変えてしまう可能性があるというのが、いちばん言いたかったことです。 ○藤井委員 参考意見です。ドイツの場合には、積立てをしている年金制度については支払 保証の適用はなく、ブックリザーブで日本の退職金のように、会社が直接払う約束をしてい るものに関して支払保証の制度を設けています。これは1つの解決策だとは思います。  何も、企業年金についてどんどん規制をして、その保障を付けていくこととの見返りで、 税のメリットとか、バランスを欠いていない範囲であれば、いいのかもしれませんが、それ を突破してしまうとよくなくて、全体としてのバランスも考えながら、いちばんよい方法を 取る必要があると思います。 ○森戸座長 ドイツは、支払保証という名前になっていますが、破綻してからお金を取るの ではなかったですかね。たぶんいろいろなやり方があるのでしょうね。 ○藤井委員 それは請求権の順位と似たような話になるのかもしれません。いずれにしても 保証すべきはどれであって、そのコストとバランスの全体の制度設計はどうかだと思います。 ○石田委員 いま島崎座長代理からいただいたのですが、もしそういうことで、資産の運用、 ポートフォリオに対して規制を掛けることになると、全体的に規制を掛ける必要があって、 財務状況が厳しくなったようなところに対してだけ規制を掛けるのは難しいです。そうする と、全般的にポートフォリオに規制を掛けていくことになると、運用の効率性にマイナス面 が出てきます。 ○島崎座長代理 私は規制を掛けるべきだと言ったのではありません。いま申し上げたのは 前置きのような話で、よくモラルハザードと言われるけれども、本質的なモラルハザードは 何かと突き詰めて考えると、企業年金の本質にかかわる話だと言いたかっただけです。 ○石田委員 わかりました。私の問題意識も、事前規制と事後規制をいかに組み合わせるか ということです。 ○臼杵委員 先ほどの忠実義務と受託者責任の話ですが、いまの法律の下では、当然忠実義 務は必要だと思いますが、考え方としては積立基準だけでいくというのは、立法論としては あるのかなと思っております。それは受給権を一般の債権と同じように考えてしまえば、例 えば企業の経営者は債権者に対して受託者責任としての忠実義務は負わないですから、同様 に忠実義務なしで債権に対する担保として積立てをきちんとやれば良いという考え方はあ り得ると思います。受給権を債権と位置づけてしまった場合には、さっきの利益の上がった 時に積立を促進するようにするべきかという問題のところで出てきたような、剰余資産が誰 のものかという点も、それが企業のものだということがはっきりするのかなと思います。  今日の内容と直接は関係ないのかもしれませんが、1つ質問です。受給権のところで、確 定給付という言葉は、向こうのdefined・benefitという言葉を訳していて、definedとはフ ィックス(fixed)とかプロテクティド(protected)という言葉と違って、単に定義するとい う意味で、よくそういう背景からアクチュアリーの方は「確定給付」の代わりに「給付建て」 という言葉を使われます。それに関連して、給付を事後的に減額するのは問題だと思うので すが、例えばインフレーションに連動し、デフレになった場合には、自動的に減額すること を事前に約束していく、あるいは極端かもしれませんが、最近のハイブリッドの流れの中で は、運用の結果によってある程度給付が場合によっては減額することを事前に合意しておく 仕組みも考えられると思うのですが、そういう制度について、座長代理は税制上の特別措置 に値するのかどうか。defined・benefitというものに含めていいのかについて、ご意見があ ればお伺いしたいのです。 ○島崎座長代理 非常に難しい質問です。結論から言えば、そのような選択肢も考えていか ないと、DBが普及しないというか、やめてしまう企業が多くなってしまうと思います。  どういうことかと言うと、米国は1980年代の最後の頃は景気が悪かったのですが、1993 年頃から回復し、DBを設けている企業は、コントリビューション・ホリデーを謳歌しまし た。それにもかかわらず、DBに回帰した、あるいはDBをもっとたくさんつくろうとなっ たかというと、必ずしもそうではない。DBは運用のリスクを負うことの怖さがわかったと いうことなのかもしれません。日本の話に戻せば、運用環境は相当厳しくなっている、さら に言うと、経済のグローバル化や金融工学が進めば、ボラリティーも基本的には高くなるは ずです。そういうことを考えていくと、企業はどこまでリスクを負えるのか、換言すれば、 リスクシェアの問題をより考えていかなければいけないように思います。その際、片方に DBがあって、片方はリスクは労働者に負わせてしまうという、二者択一がいいのかを考え ると、そこの間にいろいろなバリエーションはあり得るはずであり、そのバリエーションに 応じた政策の方法、端的に言うと税制になると思いますが、それがあってもいいのかもしれ ません。つまり、オール・オア・ナッシングではなくて、ここの程度だったらとか、もちろ んDBとDCを組み合わせるというやり方もあるわけですが、リスクシェアのあり方は柔軟 に考えたほうがいいのではないかという気がしています。 ○森戸座長 私ももっと質問したいのですが、時間がきてしまいました。本日の議事はここ で終了します。事務局から何かございますか。 ○中村企業年金国民年金基金課長 本日はありがとうございました。次回の日程は改めてご 連絡申し上げます。よろしくお願いします。 ○森戸座長 本日はこれで終了します。ありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省 年金局 企業年金国民年金基金課 企画係 (代表)03-5253-1111(内線3320)