09/07/10 第3回労働基準法施行規則第35条専門検討会議事録    第3回労働基準法施行規則第35条専門検討会議事録(平成21年度第3回) 1 開催日時及び場所  開催日時:平成21年7月10日(金)午前10時00分から午前11時15分まで 開催場所:厚生労働省専用第18会議室 2 出席者  医学専門家:圓藤吟史、大前和幸、岡田了三、奥平雅彦、兼高達貮、工藤翔二、櫻井治 彦、夏目誠、和田攻、明石真言、三浦溥太郎  厚生労働省:新宅友穂、渡辺輝生、神保裕臣、山口浩幸、宮村満、柘植典久 他 3 議事内容 ○関谷職業病認定業務第1係長   定刻になりましたので、これより第3回労働基準法施行規則第35条専門検討会を開催さ せていただきます。本日は大変お忙しい中、お集まりいただき、感謝申し上げます。今回 は、前回の検討会でも申し上げましたとおり、「労働基準法施行規則第35条専門検討会開 催要綱」3の(3)の必要に応じ専門家を招集できるとの規定に基づき、医学的判断検討会ま たは個別症例検討会で報告書を取りまとめられた専門医の先生方に御出席していただいて おりますので、御紹介させていただきます。  独立行政法人放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター長の明石真言先生、横 須賀市立うわまち病院副院長の三浦溥太郎先生、本検討会委員でもいらっしゃる北里大学 名誉教授の奥平雅彦先生です。なお、馬杉則彦先生、別府諸兄先生、堀田饒先生、柳澤信 夫先生、山田義夫先生については、本日の検討会について御欠席の御連絡をいただいてい ます。  また、5月20日付で人事異動がありましたので、紹介をさせていただきます。職業病認 定対策室長の渡辺です。  それでは、座長であります櫻井先生に、議事の進行をお願いいたします。 ○櫻井座長   議事進行を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。まず、議事に入る 前に事務局から今日の資料の確認をお願いします。 ○関谷職業病認定業務第1係長   資料の御確認をお願いいたします。本日の資料は、資料1「石綿による良性石綿胸水及 びびまん性胸膜肥厚について」、資料1-1「石綿による健康被害に係る医学的判断に関す る考え方」報告書、資料2「電離放射線による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫について」 資料2-1「電離放射線障害の業務上外に関する検討会報告書(多発性骨髄腫と放射線被ば くとの因果関係について)」、資料2-2「電離放射線障害の業務上外に関する検討会報告 書(悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫と放射線被ばくとの因果関係について)」、 資料3「塩化ビニルによる肝細胞がんについて」、資料3-1「塩化ビニル障害の業務上外に 関する検討会報告書(塩化ビニルモノマーばく露と肝細胞癌との因果関係について)」と なっております。資料の不足等がございましたらお申し出下さい。 ○櫻井座長   それでは、議事次第に沿って進行してまいりたいと思います。最初の資料1「石綿によ る良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚について」ですが、まず事務局から資料の説明をし ていただき、その後、三浦先生から医学的判断検討会の御報告をいただきたいと思いま す。質疑は、三浦先生の御報告が終わったあとで一括して受けることにしたいと思いま す。では、事務局から説明をお願いします。 ○斎藤職業病認定業務第2係長   事務局より、資料1「石綿による良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚について」、概略 を説明させていただきます。1頁の1、「石綿による疾病の認定基準に基づく『良性石綿 胸水』及び『びまん性胸膜肥厚』に係る本省協議事案のうち、業務上の疾病と判断した 件数」ですが、良性石綿胸水については平成17年度2件、平成18年度40件、平成19年度25 件、平成20年度33件の計100件となっています。びまん性胸膜肥厚については、平成17年 度1件、平成18年度7件、平成19年度3件、平成20年度2件の計13件となっています。  次に、2「石綿による疾病の認定基準について」を説明します。この認定基準では、石 綿による疾病として石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚が規定さ れています。  2頁、石綿による疾病の取扱いですが、1、「良性石綿胸水」。石綿ばく露労働者に発症 した良性石綿胸水については、石綿ばく露作業の内容及び従事歴、医学的所見、療養の内 容等を調査の上、本省に協議すること。  2、「びまん性胸膜肥厚」。(1)石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって 次のア及びイのいずれの要件にも該当する場合には、別表第1の2第4号8に該当する業務上 の疾病として取り扱うこと。ア、胸部エックス線写真で、肥厚の厚さについては、最も厚 いところが5mm以上あり、広がりについては、片側のみ肥厚がある場合は側胸壁の1/2以 上、両側に肥厚がある場合には側胸壁の1/4以上あるものであって、著しい肺機能障害を 伴うこと。イ、石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あること。  (2)上記(1)のアの要件に該当するものであって、かつイの要件に該当しないびまん性胸 膜肥厚については、本省に協議することとされています。  次に、この認定基準の策定に当たって取りまとめられた検討会報告書について説明しま す。 「平成15年石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書」の概要に ついてですが、この報告書では、「良性石綿胸水の約半数は胸痛、呼吸困難等の自覚症状 がある。一方、自覚症状がなく、健康診断等により胸水が発見される場合もある。いずれ の場合であっても精密検査が必要となる。たとえ、胸水が自然消退した後でもびまん性胸 膜肥厚となり、対側あるいは同側に胸水貯留を繰り返すこともある。また、まれにではあ るが、明らかな胸水貯留を呈さずに、徐々にびまん性胸膜肥厚が進展する場合がある。進 展したびまん性胸膜肥厚では、著しい肺機能障害を来す場合があること、また、良性石綿 胸水でも、まれに胸水が被包化されて消退しない場合がある。このような場合、肺機能障 害が改善しない。以上のことから、石綿への職業ばく露により生じた良性石綿胸水及びび まん性胸膜肥厚で、著しい肺機能障害等に対して適切な療養が必要な事案については、労 災補償の対象とすべきである。」とされました。この検討結果を踏まえて、良性石綿胸水 とびまん性胸膜肥厚が認定基準に加えられました。  次に、「平成18年石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方報告書」の概要 についてです。ここに報告書の抜粋を掲載し、資料1-1として報告書を添付しております が、報告書の内容については、この後、三浦先生より御説明いただくこととなっていま す。簡単ではありますが、事務局からの説明は以上です。 ○櫻井座長   引き続いて、資料1-1の報告書について、三浦先生から御説明をお願いいたします。 ○三浦先生   良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚の説明をします。石綿(アスベスト)による病気は 大きく分けますと、肺がんや中皮腫などの悪性腫瘍(いわゆるがん)と、非がんの炎症性 病変・線維性病変の2つに分けられます。もう1つ大事なことですが、石綿(アスベスト) は、肺の中だけではなく、肺の外側の胸膜という透明な膜にも病気を起こしてくるという 性質があります。  歴史的に見ますと、まず肺の中、ここは酸素を取り込んで炭酸ガスを出す所ですが、そ こにびまん性の線維化が起きる疾患、すなわち石綿肺というじん肺が最初に登場しまし た。次いで明らかになったのが、肺の中のがん、肺がんです。石綿による肺がん、これが 次に登場してきました。3番目に、外側をくるんでいる胸膜の悪性腫瘍、がんである悪性 胸膜中皮腫という病気が、石綿による疾患として認められました。腹膜、これは胸膜と同 じようなお複の膜ですが、腹膜の中皮腫もほとんど同時期です。中皮腫に関しましてはそ の後、心臓の周りの心膜に発生する心膜中皮腫と、腹膜の延長である精巣鞘膜に起きる精 巣鞘膜中皮腫が加わり、これが認定基準に入っているわけです。最後に4番目ですが、そ れ以外の胸膜の疾患、すなわち腫瘍ではない胸膜の疾患も、石綿によって起きることが はっきりとわかってきました。良性石綿胸水とびまん性胸膜肥厚の2つの疾患です。これ が今回の対象になりました。  お手元の資料1-1の18頁から良性石綿胸水、21頁からびまん性胸膜肥厚について述べら れています。18〜19頁にあるように、良性石綿胸水が石綿関連疾患として広く認知された のは、他の石綿関連疾患と比べて10年以上の遅れがあり、我が国では、石綿肺に合併した 良性石綿胸水が1971年、石綿肺を伴わない事例については1984年に、それぞれ初めて報告 されています。  我が国及び世界的にも良性石綿胸水に関する疫学調査はあまり行われていません。拠り 所とされているのは、1982年のエプラーの疫学調査報告です。ここでは、お手元の資料の (1)成因、診断等という所の3行目からですが、発症率は、石綿ばく露濃度別に見てみると 職業性の高濃度ばく露群で約7.0%、職業性の間接ばく露群で3.7%、職業性の低濃度ばく 露群で0.3%と報告されています。一般に良性石綿胸水の発症率は石綿ばく露量が多いほ ど高く、特に中・高濃度ばく露群では10年以内に10%の割合で発症すると言われています。  良性石綿胸水という病名ですが、良性というのは、悪性腫瘍ではないという意味合いで す。良性石綿胸水が発症した後どうなるかと言いますと、大体、9割位はそのまま知らな いうちに治ってしまいます。最大10か月位で治りますが、残りの1割位はなかなか治らな い。そのまま胸水が貯まって、そのまま被包化されて、その分だけ肺が圧迫されて呼吸 面積が減ってきます。また、2つ目の特徴は、良性石綿胸水は一度治りましても、同じ側 あるいは反対側に再発を繰り返すことが多いことです。一旦治っても、また再発します。 さらに、3つ目の特徴は、今度は完全に治ってしまった後にも、徐々に胸膜が肥厚してき て、この後説明しますびまん性胸膜肥厚に移行するものが結構多いことです。  したがって、良性石綿胸水は、悪性腫瘍ではないという意味では良性ですが、疾患とし ては必ずしもいい転帰を取るとは言えません。言い換えますと、すべての患者が、生活障 害を伴わない状態に治るということではなくて、何パーセントかの方は後遺症として著し い呼吸機能障害を来すことがわかっています。もう1つわかっていることは、胸水が大量 に貯まった時や、胸水を調べるために入院が必要なことがありますので、その期間は休ま なければいけないことになります。これが良性石綿胸水という病気の特徴です。  良性石綿胸水は診断が難しい疾患です。胸水はいろいろな疾患で出現します。我が国に おいて、まだ一番多いのは結核性胸膜炎ですが、その他にいろいろな種類のがんによる胸 膜炎もあります。リウマチやSLE(systemic lupus eryhtematosus)等の膠原病による胸 膜炎もあります。それらを全て除外して、なおかつ最終的に、アスベストを大量に吸った ことが判明した患者にだけ、この診断名が付きます。  続いて、21頁のびまん性胸膜肥厚について説明したいと思います。もともとじん肺であ る石綿肺にびまん性胸膜肥厚が伴うことは、よく知られていたのですが、石綿肺を伴わな い単独の石綿関連疾患の1つとして認知されたのは、1970年代です。実は8〜9割位は石綿 肺を伴わないものであるということが、現在わかっています。つまり、昔はじん肺である 石綿肺がどんどん進行して、その結果、胸膜が厚くなって線維化して呼吸障害を来すのだ と解釈されていたのですが、実はその後の調査で8〜9割位は石綿肺が認められないという ことがよくわかってきました。したがって、じん肺である石綿肺とは別の、独立した疾患 として認定する必要性が出てきたわけです。  最初にこの疾患を認定したのはイギリスであり、1980年代です。1997年に認定基準が改 定されました。それまでは両側胸壁の1/4以上にびまん性の胸膜肥厚がなければいけなか ったのですが、片側であっても片側の半分以上肥厚していれば認定されることになりまし た。我が国でも、このイギリスの基準を援用し、両側の場合には側胸壁のそれぞれ上から 下までの1/4以上、片側だけの場合には半分以上あればよい、という基準になっています。  「びまん性胸膜肥厚」という用語についてですが、対をなすものに「限局性胸膜肥厚」 があります。限局性胸膜肥厚は別名、胸膜肥厚斑あるいは胸膜プラークとも呼ばれます。 びまん性胸膜肥厚が疾患名であるのに対し、限局性胸膜肥厚は、石綿(アスベスト)ばく 露の医学的所見とされる病理的所見ですが、疾患名ではありません。ところで余談です が、「胸膜肥厚」という表現は何でもかんでも使われ非常に紛らわしいので、現在は「限 局性胸膜肥厚」や「胸膜肥厚班」よりも「胸膜プラーク」という言葉が使われるようにな っています。  限局性胸膜肥厚は、実はほとんどが肋骨の内側や横隔膜表面など壁側胸膜の線維化病変 です。それに対してびまん性胸膜肥厚は、メインが肺の外側をくるんでいる、肺とつなが っている胸膜すなわち臓側胸膜、または肺胸膜の線維化病変です。したがって、そこが厚 くなると肺そのものが膨らまなくなりますから、呼吸困難を生じやすくなります。定義上 は肺の外側の肺胸膜という胸膜の肥厚ですが、通常は壁側胸膜にも炎症が起きて、ガチガ チにくっ付いてしまうというのが特徴です。したがって、びまん性胸膜肥厚というのは、 肺の外側にある胸膜全体が厚くなる病気でして、その結果として呼吸困難を生じるという ことです。  呼吸困難を生じた場合にはじん肺と同じように、著しい肺機能障害(通常は%肺活量の 低下)があれば労災認定されます。  ところで、「胸膜肥厚」の厚さですが、先ほど説明しましたイギリスの基準が5mmとい うことになっていますので、その5mmをそのまま援用して使っています。イギリスの基準 の5mmは、ILOのじん肺エックス線写真の読影のときに、副所見として胸膜肥厚を記載する という項目があるのですが、そこで5mm以上の厚さについて記載するということになって いましたので、それがそのまま使われたものです。エプラーの基準も同様です。ただし、 最近のILOのじん肺所見では、これが3mm以上となっております。厚さについては厳密にも のさしを当てて測ろうとしても、どこからどこまで測るのかなかなか難しいところがあり ますので、3mmと5mmの違いはあまり大きな問題ではなくて、おおむね5mm以上ということ で援用しています。  もう1つの特徴として、びまん性胸膜肥厚も先ほどの良性石綿胸水と同じように、いろ いろな疾患で起きてきます。例えば、特に日本では多いのですが、結核性胸膜炎の後遺 症、昔行われた人工気胸術のあとのガチガチに癒着し石灰化した胸膜、人工気胸術後の 慢性膿胸などとの区別が非常に大切になってきます。それから、膠原病のひとつである リウマチなどでも、起きることがわかっています。その他に薬でもそういうことが起き てくることがわかっており、薬の副作用で起きてきたものも除外しなければいけません。 麦角アルカロイドという系統の薬ですが、その副作用に胸膜線維症、すなわち胸膜の繊 維性肥厚があります。アスベストを吸っている方がそれを使用している場合には、一層 その頻度が高くなります。放射線治療のあとに同じようにびまん性に胸膜がガッチリと 厚くなってくることもよく知られていますので、これも区別しなければいけません。し たがって、認定される疾患は単なる、びまん性胸膜肥厚ではなく、「石綿による」びま ん性胸膜肥厚と、必ずそれが付きます。石綿にばく露したということが厳密に証明され ないと、この疾患としての認定はされません。以上です。 ○櫻井座長  三浦先生どうもありがとうございました。先ほどの事務局の説明も含めて何か御意見 はありますか。 ○工藤先生   私は呼吸器の臨床をずっとやってきたものですから申し上げますと、良性石綿胸水も 石綿によるびまん性胸膜肥厚も、まれではありますが経験をするものです。診断の際に 一番のポイントは、ばく露歴の有無と鑑別診断というか、言ってみれば除外診断という ことになります。  ばく露歴がときにはっきりしない場合があるのです。このときは本当に困るのですが、 しかし証明されない以上は断定をすることはできないので、疑いのまま残されるというこ とがあります。一方除外診断については、いま三浦先生がおっしゃったように非常にたく さんの胸水を貯める疾患、あるいはびまん性に胸膜を肥厚させる疾患を鑑別していかなけ ればなりませんので、相当程度専門的な力が要ると思います。  こういう良性石綿胸水で自然に治ることは確かにありますが、いまおっしゃったよう に、しばしば再発し、そのたびに入院して胸水を抜くのですが、何回も入退院を繰り返し ている間に、最終的には中皮腫が出てきたというものもあります。そういう疾患で、我々 は臨床の立場からは、両方の疾患について診断はできると思っています。ただ、ばく露歴 がはっきりしない場合には困ってしまって、そこは疑いのままに残されるということです。 ○櫻井座長   三浦先生、何かコメントはありますか。 ○三浦先生   全くそのとおりでして、良性石綿胸水もびまん性胸膜肥厚も、共にあとから中皮腫が出 てくるということはまれではありません。先ほど少し申し忘れましたが、いま、石綿肺と いうじん肺そのもの、特にかなりひどくなる方は、少なくなっています。それに対して世 界的に石綿によるびまん性胸膜肥厚は、数が年々少しずつですが増えています。 ○櫻井座長   他にも何か御意見はありますか。いかがですか。事務局にお伺いしたいのですが、良性 石綿胸水とびまん性胸膜肥厚は、すでに認定基準に基づく労災認定事例があるわけです が、事務局としてのお考えがありましたらお願いします。 ○柘植中央職業病認定調査官   事務局としては、ただいまの三浦先生からの御説明、及び、これまでの認定事例から、 良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚については、労働基準法施行規則別表第1の2の第4号 に例示することとしてはいかがかと考えています。 ○櫻井座長   認定基準にはあったけれども例示はされていなかったものですが、それを例示すること にしてはどうかという事務局の考えですが、その提案について、先生方、いかがですか。 三浦先生、いかがですか。 ○三浦先生   私は是非そうしていただけたらよいと考えています。 ○櫻井座長   その他何か御意見はありますか。本件について、事務局提案のとおり第4号に例示する というのが適当であると考えるということに、当検討会としてすることとしてよろしい ですか。                  (異議なし) ○櫻井座長   ありがとうございました。では、第4号の例示疾病に追加することが適当であるとしま す。なお、具体的文言については、今年度まだ何回かある検討のすべてが終了し、報告書 をまとめる段階で改めて検討することとします。そのように御了承下さい。  次の議題に入ります。資料2「電離放射線による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫につい て」です。事務局から資料の説明をしていただき、その後、明石先生から個別症例検討会 の御報告をいただきたいと思います。先ほど同様に、質疑は明石先生の御報告が終わった 後で一括して受けたいと思います。事務局から説明をお願いします。 ○柘植中央職業病認定調査官   それでは、事務局から資料2「電離放射線による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫につい て」概略説明させていただきます。最初の枠の中に該当の「労働基準法施行規則別表第1 の2」を掲載しています。その下、1、第7号18のうち「多発性骨髄腫」についての説明を します。認定件数ですが、平成15年度に多発性骨髄腫について1件認定をしているところ です。  次に、認定事例の概要です。被災労働者は男性の方ですが、昭和48年1月より昭和61年 1月までA社において配管工事の監督等の業務に従事しておられました。このうち昭和52 年10月、当時52歳、から昭和57年1月までの4年3か月の間に、B原子力発電所等において 放射線業務に従事しており、この間の請求人の被ばく線量は集積線量で70mSvでした。 平成10年3月にC病院に入院され、多発性骨髄腫と診断されました。所轄労働基準監督署 長は、平成16年1月に本件を業務上の疾病と認定したところです。  2頁を御覧下さい。本事例を認定するまでに、「電離放射線障害の業務上外に関する検 討会」を開催し、今日、そのメンバーの一人である明石先生がおられますが、そこで多発 性骨髄腫と放射線被ばくとの因果関係について、御議論をいただいたところです。(3)に その報告書の概要を掲載しておりますが、検討会報告書(資料2-1)については、この 後、明石先生から御説明いただきます。  続いて、2頁の2、第7号18のうち「悪性リンパ腫」についての説明をします。認定件数 ですが、悪性リンパ腫のうちの非ホジキンリンパ腫について、平成20年度に1件認定をし ています。その認定事例の概要ですが、被災労働者は男性の方で、平成9年8月、当時46 歳、から平成16年1月まで、D社において専ら原子力等施設の定期検査に際し、蒸気発生 器細管、配管の傷等の非破壊検査業務の補助業務等に従事されていました。このうち平 成9年8月から平成16年1月までの6年5か月の間にE原子力発電所等において放射線業務等 に従事しており、この間の被災労働者の被ばく線量は99.76mSvでした。平成16年5月にF 大学医学部附属病院に入院され、「節外性NKリンパ腫、鼻型」と診断されました。所轄 労働基準監督署長は、平成20年10月に本件を業務上の疾病と認定したところです。  3頁に検討会で御議論いただいた結論の部分を掲載しています。この報告書について は、資料2-2で用意しておりますので、また明石先生から御説明いただきます。事務局 からは以上です。 ○櫻井座長   続いて資料2-1と資料2-2について、明石先生から御説明をお願いします。 ○明石先生   放射線医学総合研究所の明石です。よろしくお願いいたします。今回の2つの事例に関 しまして、放射線が他の化学物質等とどこが違うかと申し上げますと、見てわかるとおり 、数字でばく露、要するに定量的な被ばく線量というのが出ているということが、1つの 特徴であるということ。もう1つは非常に難しい点ですが、化学物質でも何でもそうなの ですが、なかなか放射線によってその病気ができたという目印がないということから、結 果的には他の病気と同じように統計学的なものにより推定していく、また、もし、そうい うものがあるとすれば、動物実験等から推定していくということしかありません。  この2つの症例につきましては、主に文献調査をして、その中で特に放射性物質に起因 するかどうかということについて、例えば放射線を使っている労働者であるとか、調査に よっては原子力施設がある周辺の住民の調査であるとか、医療被ばく、つまり病院で診 断、ちょっと治療の場合は違いますが、治療の場合も含めて医療被ばくという調査があり ます。その調査から、放射線の被ばく線量、それから被ばくの形態等と、その病気と放射 線との関係にどういう調査があって、どういう結果が得られているのか、しかも、信頼性 のある論文、統計等がきちんと得られている論文から調査をいたしました。  まず、多発性骨髄腫から御説明いたします。この報告書の中の7頁をお開きいただきた いと思います。7頁までにはずっとさまざまな外国の症例、もちろん我が国には原ばくの 被ばく者という非常に大きい母集団の多い統計がございます。これらを最近の論文を中心 に、かなり多くの症例の調査や、我々が見て信頼性があるかどうかというものを調査いた しました。  8頁にも書いてございますが、1つ問題があるのは、やはり多発性骨髄腫というのは、非 常に少ない、あまり多い病気ではないということでございます。白血病に比べても、頻度 は決して多くないということで、死亡数、発生数が少ないということで、なかなか論文、 調査方法によって誤差が出てきます。例えばここにも書いてございますように、同じ広島 ・長崎の被ばく者の調査でありましても、報告された時期、調査方法によってだいぶ結論 が違っているというのが問題です。ただ、いろいろ論文を拾ってみますと、何でもそうで すけれども、特に定量性のある数字が出ている放射線については、線量反応関係、つまり 線量が増えると、病気に、その疾病になる人が増えるのかという線量との関係が見られる かどうかということが1つの大きなポイントになってきております。  これらに注目して、アメリカ、イギリス、日本、特に日本の数字というのは非常に重要 でして、これらについていろいろ論文を見たところ、決して症例数は多いとは言えないの ですが、線量増加に伴って、骨髄腫の死亡率が統計的に高くなるという、有意に高くなる という線量反応関係が認められるという事実がございます。これに検出力を高めるため に、いくつかの調査を見たところ、やはり同様な結果が得られています。線量の問題、線 量の反応の関係があるという問題という点で、この症例については放射線との因果関係が ないとは言えないということを結論いたしました。  その後、いろいろ社会、新聞等でもいろいろ裁判等とか診断の問題等もございました が、私どものこの検討会では、診断についても多発性骨髄腫で間違いないだろうというこ と、それから再度論文の調査、過去の統計等を見てみたところでも、線量反応関係という ものは非常に大きなポイントであるということを考えて、我々はこの症例については認め るというような結論に達しました。  確かにここの論文に出ているとおり、先生方、皆さん方はおわかりと思いますが、かな りのばらつきがあります。因果関係があると言っているもの、ないと言っているものと、 かなり多くの調査があります。ただ、我々はやはり線量反応関係というのは非常に重要な 問題だと、先ほど述べましたとおり、そういうことを考えて、この点は放射線起因性があ るだろうと考えたというのが、多発性骨髄腫の例です。  もう1つ、次の例で悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫についてです。御存知のよ うに悪性リンパ腫は、結論では血液疾患と、特に白血病と類縁疾患であるということを重 点に置いたという結論を導いておりますが、症例によっては胃だけにできる悪性リンパ腫 で、外科的に手術をしてしまうということができる疾病という場合もあります。肺だけに あるという場合もあります。悪性リンパ腫にはいろいろなタイプがあるということが第1 点です。  この報告書の中の2頁、3頁に、どんなものが悪性リンパ腫であるのかということがいく つか出ております。医学界では大きくホジキンリンパ腫というリンパ腫と、非ホジキンリ ンパ腫という2つに分けています。ホジキンリンパ腫といいますのは、日本ではそれほど 多くはないと言われていますが、EBウイルス、つまり3頁の(3)の悪性リンパ腫の発生要因 についてというところに書いてあるように、感染というのが1つの要因として挙げられて います。  このようにある程度原因として特定なものが証明されているものもありますが、ないも のもあるということがあります。これらのことをよく加味して、職業被ばくや医療被ば く、当然長崎・広島の原ばくの症例等について検討を加えさせていただきました。  13頁に疫学調査の結論があります。我々がこの検討会で導いた結論の一番大きなポイン トは、悪性リンパ腫が白血病の類縁疾患である、つまり、白血病に非常に近い病気である ということを考えました。これについては論文の調査等、もちろんWHOの報告の中でも白 血病類縁疾患であるということを、はっきり述べている点があります。ただし、先ほどの 多発性骨髄腫とは違いまして、線量反応関係というのは、観察された論文が存在していま せんでした。  特にこれまでも認められている、多くの論文で放射線と関係があると言われている白血 病等との関係ですが、統計学的にはどうかというと、白血病に比べると、ここにも書いて あるように1/5とか、線量についてはより多くの線量を浴びた場合のみに放射線等の因果 関係が強いという論文が多かったということです。  そのことをいろいろ考えて、最終的には14頁に書いてあるように、悪性リンパ腫の中で も、ウイルス等々がはっきり特定されているものではない非ホジキンリンパ腫については 白血病と非常に関係が深いということ、男性において過剰リスクについてのみ有意差が認 められていること、ただし、白血病ほどではない、白血病に比べてより高い線量を浴びな いと、たぶん因果関係は推定できないだろうということを考えて、つまり白血病の1/5〜 1/6程度であると考えて、この悪性リンパ腫についても被ばく線量を参考として否定でき ないという考えで、これについても妥当であると結論したということです。以上です。 ○櫻井座長   明石先生どうもありがとうございました。それでは事務局からの説明も含めて、何か御 質問、御意見等がございましたらどうぞ御発言下さい。  私の感想のようなことなのですが、多発性骨髄腫などで同じ対象集団を観察している と、はじめは有意の差で過剰の死亡が認められたものが、後で認められなくなったような 報告もあるということです。これは私は他の化学物質でそういうようなデータを、直接自 分でいろいろレビューしたときにめぐり合って、そのときに考えたことがありますが、や はりある時期に調べてポジティブだったのが、後でネガティブになっている。少し前倒し になって、ある時期に早く発生しているけれども、その後、それが明瞭でなくなる。一般 集団でも起こってきますから、比較的こういう発生の確率の低いものについては、そうい うことも考えられるなという気持でおります。  ですから、後でネガティブになったからといって、否定することにはならないという感 覚を持っておりますが、これは感想のようなことです。他に何かございますでしょうか。 特段の御質問等もないようですが、それでは事務局ではいまの多発性骨髄腫、悪性リンパ 腫のうちの非ホジキンリンパ腫について、ただいまの個別症例検討会では、因果関係は認 めるというお立場での御報告でしたが、事務局として何かお考えはございますでしょう か。 ○柘植中央職業病認定調査官   事務局といたしましては、個別症例検討会の結論を踏まえた認定の事例がありますし、 ただいまの御議論も踏まえまして、この多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫のうちの非ホジキ ンリンパ腫については、別表の第7号10に例示することとしてはいかがかと考えておりま す。 ○櫻井座長   別表に例示するという提案ですが、先生方いかがでしょうか。明石先生いかがでしょう か。 ○明石先生   結構です。 ○櫻井座長   御異存ないようでございますので、本件については事務局提案のとおり、多発性骨髄腫 と、非ホジキンリンパ腫について、第7号10に例示することが適当であると考えるという ことで、よろしゅうございますか。                 (異議なし) ○櫻井座長   ありがとうございました。第7号10の例示疾病に追加することが適当であるということ に結論し、具体的文言については全体の検討が終了し、報告書をまとめる段階で、改めて 検討することにいたします。  それでは次の議題に入ります。資料3の「塩化ビニルによる肝細胞がんについて」で す。これも事務局から資料の説明をしていただいて、その後、奥平先生から個別症例検討 会の御報告をいただきたいと思います。質疑は全体の報告が終わった後に、一括してお受 けすることにいたします。それでは事務局から説明をどうぞ。 ○柘植中央職業病認定調査官   資料3、塩化ビニルによる肝細胞がんについて説明をさせていただきます。先ほどと同 じ形式ですが、最初の枠の中に該当の「労働基準法施行規則別表第1の2」を掲載していま す。その下、1、第7号18のうち「塩化ビニルによる肝細胞がん」についての説明をしま す。認定件数ですが、平成20年度に1件認定しているところです。  2、認定事例の概要についてですが、被災労働者は男性の方で、昭和32年2月、当時20歳 から、昭和54年4月までの22年2か月間、A社において塩化ビニルモノマーの製造工程にお ける作業に従事しておられました。22年2か月間の塩化ビニルモノマーばく露作業のう ち、1970年代以前の昭和32年2月から昭和42年9月までの10年8か月間は、槽内塩化ビニル モノマー濃度が概ね500ppmの重合槽内清掃作業に従事しておられまして、高濃度の塩化ビ ニルモノマーばく露作業でありました。  平成18年6月にB大学医学部附属病院に入院されまして、肝細胞がんと診断されました。 所轄労働基準監督署長は、平成21年2月に本件を業務上の疾病と認定しました。  2頁に検討会で御議論いただいた結論の部分を掲載しています。この報告書については 資料3-1で用意しておりますので、奥平先生から御説明いただきます。事務局からは以上 です。 ○櫻井座長   それでは続きまして資料3-1の報告書ですが、奥平先生どうぞよろしくお願いします。 ○奥平先生   塩化ビニル障害については、昭和51年に専門検討会が開かれています。そのときに肝血 管肉腫は塩化ビニルモノマーの長期大量ばく露と因果関係があるとして、業務上疾病とし て認定するのが適当であるという答申が行われました。そのときにすでに肝細胞癌の報告 もありましたが、疫学的なデータが十分ではないので、今後検討を要するということにな っておりました。私どもがこの検討会を始めるにあたりまして、最初に私どもの報告書は 第一に肝細胞癌について、おおよそのことを述べておりますが、ここのところで日本は先 進国の中でも有名な肝細胞癌の多発国なので、このような国における認定については慎重 でなければいけないということを、まず最初に考えました。  この検討会においては2頁の2に塩化ビニルモノマーの肝障害性、特に塩化ビニルモノマ ーの代謝についての新しい知見について、最近の文献をまとめてみました。そのおおよそ のことについては、4頁の上に図がありますが、そこにあるように塩化ビニルモノマーが CYP2E1によって、代謝されまして、CEOすなわちクロロエチレンオキサイドになった後、 その下に書いてあるような酵素により代謝され、あるいは他の代謝経路を経て体外に排出 されますが、その一部が上の方に書いてあるDNAアルキル化、DNA adductの生成が行われ ます。このDNA adductが遺伝子の変異、染色体異常を誘導する。これが肝細胞癌の原因と なるという事実が最近になって明らかにされました。  3頁の一番下の方に戻りますが、肝細胞癌と比較して、肝血管肉腫のもとである類洞内 皮細胞に、悪性腫瘍が発生しやすいのは、このethenoadductの量以外の要因が働いている と考えられておりまして、肝細胞と比較して、細胞増殖の旺盛な類洞壁内皮細胞において より腫瘍を形成しやすいという理由の1つと考えられております。  もう1つ、VCMばく露者の肝細胞癌発生においては、このような塩化ビニルモノマーの代 謝以外に、アルコール、B型肝炎ウイルス感染など、何らかの補助因子が必要であるとい う報告が出ております。  引き続き4頁の下にある3番目の、VCMばく露と、肝細胞癌との関連性については、疫 学、臨床、病理について分けて記載しています。特に疫学的知見が最も重要であろうと考 えましたので、疫学の専門家である北里大学の相澤教授、東京慈恵会医科大学の清水名誉 教授を中心として、さらに北里大学の相澤教授一門の方々の専門家の検討により、VCMの 疫学的調査を行っていただきました。その結果はここにお示ししますように、「塩化ビニ ルモノマーばく露作業者における肝細胞がんによる死亡等の発生頻度についての疫学調査 を用いたメタアナリシスに関する報告書」という報告をいただいています。この結論が6 頁の下から6行目に書いてあるように、大変御尽力いただきました結果として、疫学的に は肝炎ウイルス感染による肝細胞癌発生リスクに比べますと、塩化ビニルモノマーのばく 露による肝細胞癌発生のリスクははるかに低いけれども、独立した危険因子であることが 文献的な調査から明らかになったと言えるという結論をいただきました。  次に臨床的な所見です。塩化ビニルモノマーによる肝細胞癌の臨床症状は、それ以外の 原因による肝細胞癌の臨床症状とほとんど異なるところがありません。8頁に触れていま すが4行目から、我が国の肝細胞癌の多くは、ウイルス肝炎によるものが多いものですか ら、肝硬変に合併しているものが多いのに比べ、VCMによる肝細胞癌では、肝硬変の合併 が少ないという事実が出てきましたが、これは当時のヨーロッパの肝細胞癌症例の全体像 から見ると、特にVCMに特徴的な所見というわけにはいかないという結論となりました。  発がんの増強因子について調べられており、これについては後で述べる病理と重複する ので、省略させていただきます。  病理学的な知見については、9頁以下に述べていますが、症例報告の総括です。Popper が1975年に報告して、その報告とほぼ同じ時期に下の方に書いてありますGedigkの報告が あります。これらはいずれもその前年にニューヨークで開かれました国際シンポジウムの 記録です。塩化ビニルモノマーによる肝血管肉腫の発生がそれらの報告により間違いない ということが確定されてきたわけですが、それらの報告の中においても、次頁に一部例示 してありますが、10頁の上の表1です。VCMばく露を受けた労働者5例のばく露歴と死因と 肝臓の所見が出ております。これは肝血管肉腫が3例、肝細胞癌が1例、両者が合併してい るものが1例です。その肝所見のところで御注目いただきたいのは、いずれの例において も、再生性の肝細胞の過形成結節が認められる、あるいは肝細胞の異形成ディスプレイジ アの病変が認められるという点であります。  そして、症例報告の表のすぐ下にTamburroの報告が紹介してありますが、Tamburroはそ の後、日本において産業医科大学で行われました国際会議にも塩化ビニルモノマーの報告 をしている方です。慢性の肝障害として肝細胞と類洞内皮細胞の限局性の過形成がある。 要するに類洞内皮細胞による腫瘍以外にも、肝細胞からの発がんの可能性がここで強く示 唆されており、VCMばく露を受けた個体に、肝細胞癌が発生するという証拠が動物にも人 間にもあると報告されています。  先ほども触れましたが、肝細胞癌の原因並びに補助因子については、WHOの報告でも、 整理してありますが、ここでは肝細胞癌の原因として、かび毒のアフラトキシン、性ホル モン、トロトラスト、α1-アンチトリプシン欠損症、免疫抑制薬、塩化ビニルモノマー、 寄生虫、肝硬変及びB型肝炎ウイルスなどが挙げられておりまして、さらに、アルコール や薬物なども挙げられています。ここでは台湾からのWongの2003年の報告の結果がわかり やすく出ているので、御紹介したいと思います。台湾の6カ所のPVC工場の4,096人の労働 者のコホートで、インタビュアーによる質問形式によって調べられたものですが、3つの 点が紹介してあります。HBs抗原が陰性で、重合槽の清掃歴のある人の肝癌の発生リスク は4倍である。HBs抗原が陽性で重合槽清掃歴のない人の肝癌発生リスクは25.7倍、HBs抗 原が陽性で、かつ重合槽清掃歴のある人の肝癌発生リスクは396倍とされておりまして、 アルコール飲用とかウイルス感染の関与は非常に大きいのではないかということが報告 されています。  さらに、次頁の表2においても、肝細胞癌のところでHBs抗原の、またはHCV抗体の陽性 者における肝癌発生のオッズ比は46.6倍であるというような報告が出ております。いず れもVCMと肝細胞癌の発生が関係あるのではないかという報告です。  VCMばく露と関連した肝腫瘍、特に肝細胞癌の報告例について、国内文献をまとめたも のが13頁の表3です。この中のうちの表1は、我が国の症例の第1例で、名古屋大学の第一 内科から稲垣先生が報告されました。稲垣先生は昭和50年から始まりました塩化ビニルモ ノマー専門検討会の委員でもおられた方ですが、稲垣先生が臨床報告されまして、病理の 平林先生によって解剖例の報告が行われております。現在まで肝腫瘍は10例報告されてお り、10例中の3例、第3番目、第4番目、第6番目の症例が肝細胞癌です。  外国文献の症例については表4にまとめてあり、11例の報告があります。この11例の報 告のうち、症例2、3、4、8の4例は、肝血管肉腫の合併例ですが、いずれも肝細胞癌の報 告例です。VCMの平均ばく露期間は肝血管肉腫の併発例では約20年、肝細胞癌では約15年 ということで、長期大量ばく露の場合には、人にも肝細胞癌が発生するであろうという データとして受け止めました。  14頁に分子生物学的な文献の総括がしてありますが、これは慶應義塾大学の坂元教授を 中心としてまとめられたものです。この報告を要約しますと、16頁の上の方に表として要 約してありますが、VCM関連肝腫瘍におけるがん遺伝子、がん抑制遺伝子の変異として書 いてありますが、ヒトの肝血管肉腫、ヒトの肝細胞癌においてはがん遺伝子であるK-ras- 2がいずれも証明されていること。codon13における変異として、アデニンよりグアニンの 方が優勢である、多量であるというようなことが明らかにされまして、ヒトにおいても塩 化ビニルモノマーが肝血管肉腫に限らず、肝細胞癌の発がんにも関与していることが示唆 されているという総括が行われました。  以上の結果から、17頁の最後に書いてあるように、塩化ビニルモノマーは、肝血管肉腫 に限らず、肝細胞癌の発がんにも関与していることが示されたと判断いたしました。  このような結果を経て、個別症例の検討をいたしました。個別症例については、この症 例は、HBs抗原は陰性ですが、HBs抗体が陽性者でした。この点については臨床家により十 分な検討が行われまして、この症例が長期大量のばく露を受けていることが一番肝細胞癌 の発生に関与しているであろうということで、この症例を業務上として認めるのが適当で あろうという報告をさせていただきました。以上です。 ○櫻井座長   奥平先生ありがとうございました。それでは委員の皆様方から、何か御意見はございま せんでしょうか。十分に御説明をいただきました。特に御質問等はないようでございま す。この肝細胞癌について、個別症例検討会で因果関係が認められたという御結論のよう ですが、事務局として何かお考えがありましたらお願いします。 ○柘植中央職業病認定調査官   事務局としましては、個別症例検討会の結論を踏まえた認定の事例がありますし、ただ いまの御説明も踏まえまして、この肝細胞癌については別表第7号9に例示することとして はいかがかと考えております。 ○櫻井座長   ただいまの提案について、先生方いかがでしょうか。奥平先生よろしゅうございますか。 ○奥平先生   結構です。 ○櫻井座長   それでは、ただいまの事務局の提案について異議なしということですので、本件につい ては、第7号9に例示することが適当であると考えると、当検討会の結論でよろしゅうござ いますか。                 (異議なし) ○櫻井座長   ありがとうございました。では、第7号9の例示疾病に追加することが適当であるといた します。なお、具体的文言については、先ほど同様、全体の検討が終了して、報告書をま とめる段階で、改めて検討することにいたします。以上で、今日予定しました議題につい ては、概ね終了したと思いますが、もし、全体を通じて御質問、御意見等がございました ら伺いますが、いかがでしょうか。  今日は3つの事項について概ね方向性が決定されました。検討会としての正式な結論は 次回以降の検討事項の結果と併せて、最終的に「検討会報告書」として取りまとめる際 に、再度皆様にお諮りすることになりますので、どうぞ御承知おきお願いいたします。 以上のようなことで、特に他に御議論等はございませんようですので、今日の検討会は これで終了いたします。なお、次回の日程等を含めて、事務局から何かありましたらど うぞ。 ○柘植中央職業病認定調査官   次回の検討会の日程ですが、9月中を予定させていただきたいと考えております。ま た、後日日程調整をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。検討内容で すが、次回は「過重負荷による脳血管疾患及び虚血性心疾患、心理的負荷による精神疾 患」について御議論をいただきたいと考えております。 ○櫻井座長   次回はただいま申し上げたとおり、過重負荷による脳血管疾患及び虚血性心疾患、それ と心理的負荷による精神障害について検討を行うということにいたしますので、どうぞよ ろしくお願いいたします。今日はお忙しい中、御出席いただきまして、誠にありがとうご ざいました。これで終了といたします。                        照会先                      厚生労働省労働基準局労災補償部補償課                      職業病認定対策室職業病認定業務第一係                      〒100-8916東京都千代田区霞が関1-2-2                      電話   03-5253-1111(内線5570)                      FAX  03-3502-6488