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別添


平成21年7月29日

厚生労働大臣 舛添 要一  殿

中央最低賃金審議会
会長 今野 浩一郎


平成21年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)

 平成21年6月30日に諮問のあった平成21年度地域別最低賃金額改定の目安について、下記のとおり答申する。

 平成21年度地域別最低賃金額改定の目安については、その金額に関し意見の一致をみるに至らなかった。
 地方最低賃金審議会における審議に資するため、上記目安に関する公益委員見解(別紙1)及び中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(別紙2)を地方最低賃金審議会に提示するものとする。
 地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることとし、同審議会において、別紙1の2以下に示されている公益委員の見解を十分参酌され、自主性を発揮されることを強く期待するものである。
 政府において、IT化の推進や人材の確保・育成の強化等による中小企業の体質強化、収益力の向上、下請適正取引の推進等により、中小企業の生産性向上に引続き取り組むことを要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。



別紙1

平成21年度地域別最低賃金額改定の目安に関する公益委員見解


1 平成21年度地域別最低賃金額改定の目安は、以下の(1)及び(2)によることとする。
 (1) 表中の都道府県(利用可能な直近の平成19年度データに基づく生活保護水準との乖離額から、平成20年度の地域別最低賃金引上げ額を控除してもなお生活保護水準を下回っている都道府県)の引上げ額の目安は、
[1] 表中の下線が付されていない都道府県(昨年度の地方最低賃金審議会において、今年度以降も引き続き乖離額を解消することとされていた都道府県)については、原則として、それぞれ同表のC欄に掲げる乖離額を、昨年度において乖離額を解消するための期間として同審議会が定めた予定解消年数(以下「予定解消年数」という。)から1年を控除した年数(以下「乖離解消予定残年数」という。)に1年を加えた年数で除して得た金額とする。ただし、そうした場合に、地域別最低賃金と実際の賃金分布との関係等を勘案して、地域の経済や雇用に著しい影響を及ぼさないと考えられるケースについては、少なくとも当該金額は引き上げるとした上で、同表のC欄に掲げる乖離額を乖離解消予定残年数で除して得た金額も十分踏まえて、地方最低賃金審議会において審議を行うものとする。
[2] 表中の下線が付された県(昨年度に乖離額を一旦解消したが、最新のデータに基づいて比較を行った結果、新たに乖離額が生じた県)については、それぞれ同表のC欄に掲げる乖離額を、当該乖離額を解消するための期間として地方最低賃金審議会で定める年数で除して得た金額とする。

 (2) 表中の都道府県以外の県については、現下の経済・企業・雇用動向等を踏まえ、今年度については、現行水準の維持を基本として引上げ額の目安は示さないことが適当である。

都道府県

平成19年度データに
基づく乖離額

(A)

平成20年度地域別最低
賃金引上げ額

(B)

残された乖離額

(C)
(=A−B)

北海道

60円

13円

47円

青森

20円

11円

9円

宮城

34円

14円

20円

秋田

14円

11円

3円

埼玉

43円

20円

23円

千葉

22円

17円

5円

東京

87円

27円

60円

神奈川

96円

30円

66円

京都

40円

17円

23円

大阪

43円

17円

26円

兵庫

31円

15円

16円

広島

30円

14円

16円

2 現下の厳しい経済・企業・雇用動向等を踏まえ、今年度の目安は以上のとおりとしたが、今後とも、成長力底上げ戦略推進円卓会議において合意された「中小企業の生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針」を尊重し、同基本方針に沿って、政労使が一体となって取組を継続していくこととする。

3(1)  目安小委員会は本年の目安の審議に当たっては、平成16年12月15日に中央最低賃金審議会において了承された「中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告」を踏まえ、特に地方最低賃金審議会における合理的な自主性発揮が確保できるよう整備充実に努めてきた資料を基に審議してきたところである。

目安小委員会の公益委員としては、地方最低賃金審議会においては最低賃金の審議に際し、上記資料を活用されることを希望する。

 (2)  昨年度の地方最低賃金審議会において、今年度以降も引き続き乖離額を解消することとされていた都道府県については、今年度の解消額は、昨年度の公益委員見解で示した考え方に基づけば、本来、最新のデータに基づいて算出された乖離額を、乖離解消予定残年数で解消することを前提に定められるものである。 

しかし、昨年度の地方最低賃金審議会の答申後、アメリカの金融危機を発端とした世界同時不況により、我が国における経済・企業・雇用動向等は、著しく悪化していると認められるところである。

また、最低賃金と生活保護の比較について、最新のデータに基づいてこれを行った結果、昨年度の地方最低賃金審議会において最低賃金が生活保護水準を下回っているとされた都道府県のすべてにおいて、乖離額が昨年度と比較して大きく拡大するといった状況が見られるところである。

このため、最低賃金額は、労働者の生計費なかんずく生活保護のみによって定められるものではなく、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力も含めて総合的に勘案して決定されるべきであることにかんがみ、各地域の経済・企業・雇用動向等の実態を踏まえ、今年度においては、緊急避難的な措置として、上記の昨年度の公益委員見解で示した考え方に基づく解消方法を見直すこともやむを得ないものと考える。

その場合、今年度の解消額の目安については、予定解消年数を1年延長することを想定し、乖離額を乖離解消予定残年数に1年を加えた年数で除して得た金額を原則とすることが適当である。ただし、そうした場合に、地域別最低賃金と実際の賃金分布との関係等を勘案して、地域の経済や雇用に著しい影響を及ぼさないと考えられるケースについては、少なくとも当該金額は解消するとした上で、予定解消年数を延長しないこととして乖離解消予定残年数で除して得た金額も十分踏まえて、地方最低賃金審議会において審議を行うことが適当である。

 (3)  上記の見直しに伴い、残された乖離額を解消するための期間について、昨年度の地方最低賃金審議会の答申において、原則として今年度で乖離額を解消するとしたケース(宮城、埼玉、京都、大阪、兵庫、広島)は、乖離解消予定残年数に1年を加えた年数までと見直すことが適当と考える。

一方、昨年度の地方最低賃金審議会の答申において、昨年度で乖離額を解消するとしたケース(青森、秋田、千葉)については、今年度新たに発生した乖離額について、昨年度の公益委員見解で示した考え方を踏まえ、原則として2年以内とすることが適当と考える。そうした場合に、地域別最低賃金と実際の賃金分布との関係等を勘案して、地域の経済や雇用に著しい影響を及ぼすと考えられるケースについては、3年以内とすることが適当と考える。

なお、具体的な解消期間については、地域の経済・企業・雇用動向等も踏まえ、地方最低賃金審議会がその自主性を発揮することを期待する。

 (4)  また、今後の最低賃金と生活保護の具体的な比較については、その時点における最新のデータに基づいて行うことが適当と考える。ただし、解消すべき生活保護との乖離額が年々大きく変動しうるという問題については、別途対応を検討することが適当である。

 (5) 目安小委員会の公益委員としては、中央最低賃金審議会が本年度の地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。




別紙2

中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告

平成21年7月27日


1 はじめに

平成21年度の地域別最低賃金額改定の目安については、累次にわたり会議を開催し、目安額についてそれぞれ真摯な議論が展開されるなど、十分審議を尽くしたところである。

2 労働者側見解

労働者側委員は、2002年以降、景気拡大局面においても、その成長成果は労働者に対して十分に配分されないまま現在に至り、勤労者生活も厳しい状況となっており、今後、日本経済が本格的な回復へと向かうためには、勤労者生活の安心・安定を確保し、個人消費の落ち込みに歯止めをかける必要があると主張した。

また、勤労者の所得格差が拡大し貧困率もアメリカに次いで高水準となっており、生活そのものに困難を極める人たちが増大していることを指摘し、ナショナルミニマムとして「生活できる賃金水準」を保障することが必要不可欠と主張した。

さらに、最低賃金の水準は一般労働者の賃金実態からみて依然として低く、賃金の底上げにつながる実効性の高い最低賃金を確立することが急務となっていると主張した。

こうした状況を踏まえれば、今年の目安審議においては、改正最低賃金法の趣旨である「雇用形態の多様化の進展や低賃金労働者層の増大などの環境変化に対応した賃金のセーフティネットとしての機能強化」を実現するため、賃金の底上げの歩みを止めることなく、最低賃金水準の着実な改善を行うことが肝要であると主張した。具体的には、最低賃金の水準は、高卒初任給や一般労働者の平均賃金の50%程度、連合が試算した最低生計費からすると、時間給900円を超えるものとすることが必要であり、この水準に向けて中期的に引き上げるために、賃金の底上げにつながり、生活できる最低賃金の確立に向けて、その目的に合致した水準の引上げを図ることが不可欠であると最後まで強く主張した。

また、生活保護との乖離解消については、「健康で文化的な最低限度の生活を営むこと」を保障する憲法第25条(生存権)及び改正最低賃金法の趣旨にかんがみれば、昨年度の公益委員見解で示された内容に基づき、速やかに解消することが望ましいと主張した。

3 使用者側見解

使用者側委員は、日本経済は、まさに百年に一度と言われる大変厳しい状況にあり、最近は、景気の底打ち感が見られるとの指摘もあるが、最悪期を脱するかどうかという話であり、経済活動の水準は未だに極めて低い状態にとどまっていると主張した。また、企業収益の悪化により設備投資が落ち込み、雇用失業情勢の悪化などから個人消費や住宅投資も低迷するなど、地方経済の回復の見通しも全く立っておらず、不況は長期化の様相を呈していると主張した。

また、企業の倒産件数も増加しており、とりわけ中小企業は倒産件数全体の99%を占めている。今後も倒産件数はさらに増えることが見込まれており、中小企業はまさに生き残りをかけた危機的な状況が続いているといっても過言ではないと主張した。

さらに、雇用失業情勢も日々深刻の度合いが増しているが、雇用調整助成金に係る休業等実施計画届の受理状況が6万事業所以上、対象人数200万人以上にものぼるなど、企業は雇用維持に最大限の努力を行っている。しかし、こうした企業努力にも限界があり、雇用過剰感が、特に中小企業において高まっているということを最後まで強く主張した。

以上の点を踏まえれば、始めに「最低賃金の引上げありき」という前提で審議を行うことは、結果として雇用の不安定化につながることになりかねず、今年度の目安審議に当たっては、賃金の伸び率が過去最悪を更新した賃金改定状況調査結果を十分に踏まえて慎重に議論を行うべきと主張した。

また、生活保護との乖離解消については、未曾有の経済危機の発生や、生活保護の基準年度の変更による乖離額の大幅な拡大という、全く想定外の事象が発生した。改正最低賃金法の趣旨を踏まえれば、乖離解消努力の必要性については理解しているが、これらの想定外の事象が発生した以上は、昨年定めた乖離解消の方法について見直しが避けられないと主張した。また、乖離額の大幅変動問題については、今後、見直しも含めた本質的な対応も必要であると主張した。

4 意見の不一致

本小委員会としては、これらの意見を踏まえ目安を取りまとめるべく努めたところであるが、労使の意見の隔たりが大きく、遺憾ながら目安を定めるに至らなかった。

5 公益委員見解及びこれに対する労使の意見

公益委員としては、賃金改定状況調査結果を重要な参考資料とするとともに、地域別最低賃金と実際の賃金分布との関係にも配慮しつつ、加えて、生活保護に係る施策との整合性にも配慮することとする規定が新たに加えられた最低賃金法改正法の趣旨を踏まえ、昨年度の公益委員見解で示した、一定の前提の下での生活保護と最低賃金との比較(直近データによる比較は、別添グラフ参照。)を行い、また、上記の労使の小規模企業の経営実態等への配慮及びそこに働く労働者の労働条件の改善の必要性に関する意見等にも表れた諸般の事情を総合的に勘案し、公益委員による見解を下記1のとおり取りまとめた。

本小委員会としては、地方最低賃金審議会における円滑な審議に資するため、下記1を公益委員見解として同審議会に示すよう総会に報告することとした。

また、審議の際の留意点等に関し、下記2以下のとおり示し、併せて総会に報告することとした。

 

なお、下記の公益委員見解については、労使双方ともそれぞれ主張と離れた内容となっているとし、不満の意を表明した。

さらに、本小委員会としては、政府において、IT化の推進や人材の確保・育成の強化等による中小企業の体質強化、収益力の向上、下請適正取引の推進等により、中小企業の生産性向上に引続き取り組むことを要望する。また、行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合に、年度途中の最低賃金改定によって当該業務委託先における最低賃金の履行確保に支障が生じることがないよう、発注時における特段の配慮を要望する。

(以下、別紙1と同じ。)


生活保護(生活扶助基準(1類費+2類費+期末一時扶助費)+住宅扶助)と最低賃金



(参考1)

最低賃金制度と地域別最低賃金額の改定に係る目安制度の概要

1 最低賃金制度とは

最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度である。

仮に最低賃金額より低い賃金を労使合意の上で定めても、それは法律により無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされる。

2 最低賃金の種類

最低賃金には、産業に関わりなく地域内のすべての労働者に適用される都道府県別の「地域別最低賃金」と、例えば電気機械器具製造業、自動車小売業など特定の産業に働く労働者に適用される「産業別最低賃金」の二種類が設定されている。

3 最低賃金の決定と最低賃金審議会

最低賃金は、最低賃金審議会において、賃金の実態調査結果など各種統計資料を十分参考にしながら審議が行われ、

[1]労働者の生計費

[2]労働者の賃金

[3]通常の事業の賃金支払能力

の3要素を考慮して決定又は改定されることとなっており、[1]を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされている。

最低賃金審議会は、厚生労働省に中央最低賃金審議会が、都道府県労働局に地方最低賃金審議会が置かれており、地域別最低賃金は、各地方最低賃金審議会の審議を経て、都道府県労働局長が決定又は改定することとなっている。

4 地域別最低賃金額改定に係る目安制度の概要

昭和53年から、地域別最低賃金の全国的整合性を図るため、中央最低賃金審議会が、毎年、地域別最低賃金額改定の「目安」を作成し、地方最低賃金審議会へ提示している。

また、目安は、地方最低賃金審議会の審議の参考として示すものであって、これを拘束するものでないこととされている。

なお、地域別最低賃金額の表示については、従来、日額・時間額併用方式となっていたが、平成14年度以降時間額単独方式に移行されており、目安についても、平成14年度以降時間額で示すこととなっている。




(参考2)

目安審議及び地域別最低賃金審議の流れ

中央最低賃金審議会

【目安審議】


地方最低賃金審議会

【地域別最低賃金審議】
諮問
諮問
調査審議


調査審議


目安を提示
答申
─────→
答申
決定
決定の公示
効力発生



(参考3)

地域別最低賃金の全国加重平均額と引上げ率の推移

(単位:円、%)
年度
最低賃金額
平成11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
時間額
(前年比、%)
654
(0.77)
659
(0.76)
663
(0.61)
663
(0.00)
664
(0.15)
665
(0.15)
668
(0.45)
673
(0.75)
687
(2.08)
703
(2.33)
日額
(前年比、%)
5,213
(0.89)
5,256
(0.82)
5,288
(0.61)








(注)1 金額は適用労働者数による全国加重平均額である。
2 ( )内は引上げ率(%)を示す。
3 地域別最低賃金については、平成14年度から時間額表示のみとなった。

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