09/06/29 第2回厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会議事録 第2回厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに 関する専門委員会議事録  ○日時 平成21年6月29日(月)15:00〜17:05  ○場所 アルカディア市ヶ谷私学会館(5階)穂高  ○出席者   【委 員】 永井委員長、梅澤委員、高坂委員、佐藤委員、澤委員、永井委員 中内委員、西川委員、本田委員、水澤委員、武藤委員、山口委員   【事務局】 千村研究開発振興課長、井本課長補佐、梅垣専門官、田邊専門官  ○議事 1. ヒト幹細胞を用いる臨床研究の現状等について      2. 「臨床研究に関する倫理指針」について      3. その他       ○永井委員長 時間になりましたので、第2回ヒト幹細胞臨床研究指針の見直しに関する専 門委員会を始めます。まず事務局より、本日の出席の確認をお願いします。 ○事務局 委員の先生方におかれましては、ご多忙のところをご出席いただきまして、誠に ありがとうございます。お手元の委員名簿をご覧ください。まず、今回初めてご出席される 委員のご紹介をさせていただきます。神戸学院大学法学部准教授、佐藤雄一郎委員です。東 京医科歯科大学大学院医歯科学総合研究科教授、水澤英洋委員です。  本日は位田委員、鹿野委員、町野委員がご欠席との連絡をいただいております。また、本 日急遽、中畑委員から欠席の連絡をいただいております。全委員のうち11名のご出席にな る予定となっております。本田委員は若干遅れていらっしゃるということを、連絡をいただ いております。したがって過半数を超えており、本会は成立していることをご報告申し上げ ます。 ○永井委員長 ありがとうございました。では、続きまして配布資料の確認をお願いします。 ○事務局 配布資料についてご説明します。議事次第にございますように、議事次第、座席 表、委員名簿、資料1、資料2。資料3、4、5はそれぞれのプレゼンテーションの資料があ ります。そして、ファイルにまとめられております参考資料1〜7を机上にご用意しました。 過不足などございましたら、お知らせいただきますようお願いします。 ○永井委員長 ありがとうございます。それでは前回、第1回の委員会で、委員会設置の趣 旨、現行のヒト幹細胞指針の概要、審査状況の説明をしていただきまして、事務局より提示 いただいた指針の見直しに向けての大まかな検討項目をもとに、大凡の意見交換を行ってい ただきました。また、関連のある臨床研究に関する倫理指針の改正の概要についてもご説明 いただきまして、主に倫理審査の在り方について、若干のご議論をいただいたかと思います。  今回からは、特定の項目にある程度絞って、議論を進めていくということにしたいと思い ます。本日の議事について、事務局から大凡のご説明をお願いできますか。 ○事務局 ただいま委員長から仰せられましたように、前回の委員会では現状の確認をさせ ていただきながら、ざっくばらんな意見交換を行ってまいりました。前回委員会での主な意 見については、資料1にまとめさせていただいております。資料1をご覧ください。前回の 委員会では、大まかに分けると4つの項目に関しての議論がなされました。  1.ヒト幹細胞の定義について。いろいろな種類の幹細胞がある。特にIPS、ESなどにつ いて、議論が必要だろうと。また、そういった最近のサイエンスの進行状況にも、しっかり 確認をしていかなければいけないということが出されました。  2番としては、指針・制度の在り方について。特に臨床研究の承認や、薬事の確認申請な どの点についても、いろいろな議論が必要だろうと。ただし、「再生医療における制度的枠 組みに関する検討会」というのが別に立ち上がっていますので、そちらのほうの議論とも合 わせながらやっていく必要があります。  3番としては、臨床研究の多様性について。様々な臨床研究があるために、ハードルを設 けるのもいろいろと問題がありましょう、ということになっております。  4番としては、今回佐藤委員にもお話していただきますが、倫理審査委員会についての議 論がなされました。特に今回の検討課題であります、外部の倫理審査委員会の審議の可能性 などについて、ヒト幹のほうでもそういった外部委員会を設けることを可能とするべきか、 もしくは違うような規制にしていく必要があるかということを、今回ご議論していただくこ とになります。  本専門委員会では、資料2に示すような、前回お示しした検討項目について、議論を進め ることとさせていただいております。特に本日に関しては、まず議題の1番「ヒト幹細胞臨 床研究の現状について」、検討項目2番の「指針の適用範囲の確認と整理」の中の「幹細胞 の由来」という所に注目して、梅澤委員から臨床研究で用いられる幹細胞、特に自己由来の 幹細胞と同種由来の幹細胞、相違点について。また、さらにもっと大きく含めた、想定し得 るヒト幹細胞臨床研究の体制について、ご発表をいただきます。その後、西川委員からiPS 細胞研究の最新の状況について、ご発表をお願いしております。それぞれ10分程度のご発 表をお願いしまして、その後に意見交換をいただければと存じます。  また、本日の議題の2番としては、「臨床研究に関する倫理指針について」です。2008 年の改正に専門委員としてご参加いただいた佐藤委員から、その改正の背景についてと、前 回ご議論のあった倫理審査委員会の外部への依頼についてご発表をいただき、それを基に委 員会としてのご議論をいただければと存じます。 ○永井委員長 ありがとうございます。では、さっそく議事に入ります。議題1「ヒト幹細 胞臨床研究の現状について」ということで、事務局からご説明がありましたけれども、まず 梅澤先生から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究の現状等について」と、続いて西川委員から 「iPS細胞研究の今」ということで、それぞれお話を伺いたいと思います。では、まず梅澤 先生、お願いします。 ○梅澤委員 ご紹介ありがとうございました。国立成育医療センターの梅澤です。資料3、 パワーポイントの打ち出しファイルをご覧ください。茶色のタイトルがついたものです。1 枚めくっていただけますでしょうか。現在、ヒト幹指針のもとで多くの臨床研究が進んでい ます。そして、指針にちょうど慣れ親しんだといったところではあるかと、私自身もそうい う感じを持っております。  一方、実施される症例数が増えてくるに当たり、いくつかの点で、今回の専門委員会のほ うで見直しに関して論点を挙げさせていただければと考えております。この1、2、3、4の 順にお話させていただければと思います。  1枚めくっていただけますでしょうか。こちらがヒト幹細胞の種類です。幹細胞を分類す る際には、この1、2、3と挙げましたように、様々な切り口があるかと存じます。今回は 先ほどご紹介いただきましたように、2.の由来する個体による分類、自己由来幹細胞、同種 由来幹細胞といった点に関して焦点を当てて、私自身としてはこの点が直近の課題の1つだ と考えておりますので、この点を中心にお話をさせていただければと存じます。  1枚めくっていただけますでしょうか。タイトルが「自己由来及び同種由来幹細胞を用い る臨床研究の枠組みについての整理」となっている紙です。左から自己由来、同種由来、そ していちばん右にコメントと書いています。左側の行として、幹細胞の種類から、いちばん 下をご覧いただけますでしょうか。いちばん下に「細胞の採取・調整・投与の要件」で、赤 印で書いてあるのが、昨年施行されました医薬食品局の通知です。「ヒトの自己由来細胞や 組織を加工した医薬品、または医療機器の品質及び安全性の確保について」、平成20年2 月8日に医薬食品局長通知として、第0208003号として施行されました。  一方、同種由来の細胞については、「ヒト同種由来細胞や組織を加工した医薬品、または 医療機器の品質及び安全性の確保について」、平成20年9月12日、医薬食品局長通知とし て、第0912006号として施行されております。いずれも平成20年度に新たに制定されたも のですが、こちらは自己と同種について分けた通知です。  1枚めくっていただけますでしょうか。それでは自己由来の幹細胞と同種由来の幹細胞と いうのが、どのように違うのかといったことを挙げたのが、こちらの紙になります。自己由 来の幹細胞の特徴です。1つ目として、安全性に関する点です。自分から自分に細胞を移植 するわけですから、病原体混入などのリスクが異なるということが言えます。すなわち新た なリスクは、調製・加工の過程に病原体が混入する程度であり、新たな同種の他人の感染源、 病原体が混入する可能性は低いということになります。  2番目として、提供者に対する倫理的配慮です。提供者が患者自身になると、自分から自 分へということになりますので、倫理的なハードルは低いのかなと考えております。  3番目です。特徴を活かした利用方法の違いとして、これは自分から自分になりますので、 拒絶ということはありません。もちろん生着するかどうかは別問題ですが、拒絶はございま せん。下に細かい字で書いてありますが、参考として自己細胞による再生医療は、いちばん 上のポツとして「流通性」がない。これは自分から自分に戻すわけですから、他の方へ流通 することはない、ということです。  それから、下から2番目のポツとして、原料の時点で個人差があるため、作業工程を単純 に規格化できない。また、いちばん下のポツとして、治療の有用性を画一的に評価すること ができない、といった特徴が自己由来の幹細胞にございます。  一方、同種由来の幹細胞においては、安全性・有効性を検証する時間が非常にあるのかな と考えております。これは他の方(同種)の細胞ないしは医療廃棄物として考えられている 胎盤等の細胞を用いるわけですから、それらに関して検証する時間を確保することが可能だ ということ。また、同時にそれらの細胞の数についても、時間があるわけですから数を集め ることができるといった面から、有利な点があると考えております。  このように自己由来細胞と同種由来細胞においては、ある意味、私自身の感覚で言います と、現場で実際に細胞を培養している者の感覚で言いますと、非常に大きな差があると考え ております。同時に、それ故に取扱いに対する気の使い方がかなり違うといったような、私 自身の感覚です。  そういった観点から見ますと、1枚戻っていただけますでしょうか。先ほどの「枠組みの 整理」です。先ほど局長通知が2つに自己と同種で分かれているということを申し上げまし たが、いま現在、かなり違う感覚を持っている自己由来細胞または同種由来細胞を用いた細 胞医療においても、上から3つ目、関係する研究機関、これはある意味では分かれておりま すけれども、対象疾患、記録の保存期間、研究実施の許可体制といったところに関しては、 大きな点で現状は区別がなされておりません。医薬食品局長通知の第0208003号及び第 0912006号においては分かれているにもかかわらず、ヒト幹指針においては現状区別がな いということですので、こういった点からもいくつかの点でご提案ができる可能性があると 考えております。  では、2枚進んでいただけますでしょうか。いちばん上の茶色い所のタイトルで、第1章 「総則」、第3「適用範囲」といった紙です。真ん中辺りの「現行指針での想定」です。こ ちらは関係する研究機関をまとめ上げたものです。左から(1)単一医療機関で完結、(2)調整の み他施設を利用、(3)採取・調整とも他施設といったような形、3つの形態が考えられると思 っております。  一方、1枚めくっていただけますでしょうか。先ほど申しましたように、ヒト幹指針にお いては、臨床研究の形態はヒト幹細胞を用いる場合、多様な形態が必要になることがあると いうことを示したのが、こちらの紙です。上の○が、ヒト幹細胞臨床研究は同一機関内で幹 細胞の採取・調整・投与が完結するケースばかりではないということを考えております。そ の例として、(1)細胞の調整のみを施設を備えた機関に依頼するケース、これは細胞の調整を 別の施設にお願いするという場合です。この機関を企業とすることも、ある意味で考えられ るかと思います。(2)バンク化した同種由来幹細胞を投与機関に分配して使用するようなケー スが考えられるということです。これは後に、また図でお示ししたいと思います。  そしてもう1つの点が、現在厚生労働省の「再生医療における制度的枠組みに関する検討 会」において、自己由来細胞の医療機関同士のやり取りについての枠組みを整理中と伺って おります。これは平成21年度措置として整理が行われていると伺っておりますので、今後、 医療行為の一環として見なされる範囲が変わる可能性もあるのかなと感じております。その ような点を鑑み、今後想定し得るヒト幹細胞臨床研究の形態を示したのが、次の紙になりま す。左側に(1)自己由来細胞、右側に(2)同種由来細胞として分けております。特徴となるのは、 先ほどと大きく変わる点はそうございません。自己由来細胞において現在、A医療機関(採 取・投与機関)として存在している所から、B医療機関(調製機関・企業)と書いてござい ますが、このような研究者のBの所に、現在は研究者自身が移動して行っているといった ようなことが考えられますが、このような形態に違う形態があり得る可能性があると考え、 これが今後想定し得る点としました。  (2)同種由来細胞です。こちらは研究機関からB別の研究機関、これは同種由来の細胞で すので、ここでは預託と書いてあります。寄託でも結構ですが、細胞のバンク化、これは樹 立や保管機関として、このような研究機関が考えられるのではないかということを、お示し させていただきました。  1枚めくっていただけますでしょうか。次に対象疾患です。自己由来細胞及び同種由来細 胞といったような違いを考えますと、現在、第1章の総則、第4「対象疾患等」という所で、 (1)「重篤で生命を脅かす疾患、身体の機能を著しく損なう疾患、または一定程度、身体 の機能もしくは形態を損なうことにより、QOL(生活の質)を著しく損なう疾患であるこ と」という点について、実際の専門委員会のほうでもいくつか問題となった、この指針の点 について問題となったことがあると、伺ったことがあります。それは細胞治療により、有効 性が予想されるもの、指針の対象疾患外として上の専門委員会ではご承認いただいたとして も、下の機関内の倫理審査委員会等で問題となり、上まで上がってこれないという、可能性 についてです。指針は法令に準ずるものだと理解しておりますので、その指針に一つひとつ 従っていきますと、やはりそれに誠実に従っていくと、なかなか上(厚生労働省の専門委員 会)まで上がってこれないような、機関内倫理審査委員会での問題があるということです。  ちょっと例を挙げさせていただきましたが、椎間板ヘルニア、指関節の拘縮、指関節が固 まってしまうということです。関節域の可動域の縮小とご理解ください。角膜の混濁、これ は考え方によってはQOLを著しく損なう疾患ではありますが、やはり「考え方によると」 といったようなところがございますので、そこについては見直すことができる可能性がある のかなと感じております。  以上の点をまとめたのが、もう1枚めくっていただいた紙です。「指針見直しについての 論点」と記載させていただきました。自己由来幹細胞と同種由来幹細胞という観点から、細 胞調製を他機関に依頼することが、研究者個人が自身の手で移動するといったことだけでは なく、調製・加工するということだけではなく、他機関において依頼するということのほう が、この自己細胞における再生医療の特徴を考慮すれば、そのほうが妥当になることがあり 得るということです。特にお忙しい実際の現場の先生方が採取された細胞を増殖・加工する という細胞培養行為は、これらのプロセスに医師自らが関与するより、培養技術の教育を受 け、経験を積んだ専門の従事者に委ねたほうが、安全でかつ効率よくでき得るという可能性 です。  2番目として対象疾患は先ほど申し上げたとおりです。研究実施の許可体制、これは二重 審査のことを意味しておりますが、こちらもどうしたらいいかということで、私自身が何か 挙げられることはございません。ただ、自己と同種といったような観点から、そこには許可 体制の審査体制に、ある程度の区別というか、ある程度の差があってもいいのかなと考えて おります。  3番目として、GMP、GTPのレベルに関しても見直せる点があるのかなということです。 そういった点を考えまして、指針の見直しを是非、本専門委員会でお願いできればというこ とを考えております。ただ、いま申し上げたことは、ある意味今の指針の中でも読み込めな くもないといったようなこともございます。しかし、私としては特に下の機関内倫理審査委 員会においては、やはりこの指針はいちばん大事なものです。この指針に則って、全てを審 査するといったようなことがございます。ですので、私としましては、指針の見直しとして、 指針、細則、Q&Aの中のいずれかに書き込んでいただければ非常にありがたいし、また、 書き込むべきだと考えております。  最後に1枚、これは全然論点とは違う紙です。先天性代謝異常疾患に対する造血幹細胞移 植の実施状況です。これは私が班長をさせていただいた厚生労働省の班会議ですが、先天性 代謝異常症に対する治療の一つとしての骨髄移植です。骨髄移植はヒト幹指針の対象外では ありますが、非常に有効な治療です。しかし、この右下に赤印で書いてある123例中、24 例が移植死、治療死になっております。すなわち生着不全、またはGVHDで、治療するこ とによって5人に1人の方がお亡くなりになっているということです。非常にリスクの高い 治療ではありますが、その有効性は極めて高いと、いまフォローアップスタディで検証され ております。  これは骨髄移植でありますが、現在、(造血幹細胞を用いない)細胞移植が欧米において、 同疾患に対して行われております。(造血幹細胞を用いない)細胞移植ではGVHDは起き ません。そういう安全性、いまヒト幹指針によって行われる細胞医療のほうが、安全性が高 いものがあるけれども、指針の上ではやはり時間がかかるのかなという感触を持っていると いうことを、一言付け加えさせていただきたいと思います。以上です。ありがとうございま した。 ○永井委員長 ありがとうございます。ディスカッションはまた後ほどということで、続き まして西川委員から「iPS細胞研究の今」ということでお話をお願いします。 ○西川委員 手持ちのハンドアウトで行います。1頁めくっていただきまして、まずiPSが 可能にしたことに関してのサマリーですが、原理はともかくとして、「体の細胞」と「多能 性細胞株」と書いてありますが、皆さんの体の細胞から多能性の細胞を作り、その多能性の 細胞からもう一度皆さんの違う体の細胞が作れるようになった。すなわち、体の細胞と多能 性の細胞が行ったり来たりできるようになったということが、たぶん技術的にいちばん重要 なポイントだろうと思います。これは今まで全くできなかったことだったわけで、このパラ ダイムの変換というのは極めて大きく、次頁をご覧いただくと、これはMonya Bakerとい うなかなか優秀なエディターが『NATURE』の4月号に書いた記事のタイトルですが、彼 女はこの2年間の研究サマリーをしており、是非お読みになられるといいと思います。  “FAST AND FURIOUS”、びっくりするほど速いと書かれてありますが、この2年間は 本当に、あっという間に出来事が過ぎたと思っています。その中に書かれているちょっと驚 くべき数字ですが、iPSが世界中広がっている1つの例として、AddgeneというMITのデ ィポジットリーみたいなものがあるのですが、ここにYamanaka遺伝子が入ったベクター のリクエストが、この2年間で6,000を超えていると。6,000という数字のリクエストがど れだけ大変なことかというのは、研究を行っている人はほとんどわかると思いますが、 1,000以上の研究室に配られ、それは日々変わっていっていると。この2年間、我々にとっ て1つ重要なテーマであったのが安全なiPSを目指す競争であったわけですが、これに関し てはMonya Bakerは、私もそうですが、この競争はほぼ終わったと考えております。すな わち、どこが勝ったとか負けたとかではなく、フレームワークができたということです。  ずっといろいろあるのですが、例えば最近では蛋白を使ってiPSを作るというのがシェ ン・リン、その後は韓国のチャー研究所のカン・スーとハーバードのグループがやっていま す。これは全く問題ありません。日本は負けているかと言うと、例えば産総研の中西君や DNAVECのフサキさんは、日本独自の技術で遺伝子の全く変わらないiPSを作れるところ まで既に来ているのです。ですから、基本的に今までiPSを使って難しい、安全性の問題が どうしても残る、遺伝子が変換してしまうから再生医学には使えないという発想はもう持つ 必要はないと思っています。  日本の技術で私がいちばん重要視しているのはセンダイウイルスなのですが、これは日本 独自の技術で、イシダナカオ先生からオカダヨシオ先生を通じてずっと培われてきたもので、 基本的にはウイルスがゲノムDNAに行かないという大きな技術です。中西さんやフサキさ んからいろいろ聞くと、これの発現をオンにしたり、オフにしたりすることが割と自由にな ってきているということで、日本も決して負けていないと思っております。  iPSがどのような方向で使われていくだろうかということですが、将来の医学が目指すべ き長期的課題として何があるかと考えると、1つは疾病の予防です、それも科学的に予防す る必要がある。もう1つは、慢性疾患に関しては“根治”法を開発する。最終的に、創薬に 関してはヒトの体を使わないで創薬ができれば言うことがない。この3つの点が挙げられる と思いますが、iPSはこの3つに、例えば科学的疾病予防に関係はないだろうと思われるで しょうが、私はこれ自身に関してもかなり大きなインパクトを持っていると思っています。 今日はこれを詳しく述べる時間はないですが、この3つの重要な柱に関してもiPSは絡んで くることができる。いまはiPSを用いたヒトモデル細胞の確立等々が強調されていますが、 決してそこにとどまらないということは是非考えていただきたいと思います。  ただ、遺伝子も変わらない、入れた遺伝子はすっかりなくなっているというiPSが皆さん の体から作れたとしたら、iPSについて全く問題がないのか。皆さんに考えていただきたい のですが、iPSテクノロジーが何をやっているかと言うと、正常の細胞をテラトーマを作り 得る細胞に変えているわけです。  すなわち、遺伝子の変化はないのですが、遺伝子の変化なしに一種の癌というものが作れ る。これはある意味では素晴らしいことですが、逆に、遺伝子変化がない、いわゆる epigeneticと言われているものが完全にコントロールできないと、癌の危険性があるのでは ないか。iPSそのものがテラトーマを作りますから、この辺はちょっと禅問答的ですが、し かし、マウスではこれに関してはかなり明確な回答が得られています。すなわち、さまざま な形でepigeneticな状態を1個1個の細胞について調べなくても、例えばAustin Smithオ ースチン・スミスたちが、私たちはもう使わせてもらっていますが、作ったメディウムを使 うと、ある一定のグラウンドステートに必ず来る。ですから、基本的に今いちばん多くの研 究所がヒトiPSでやっているのは、マウスで得られるような選択的培地が人間でもできない かということで、世界中でやっています。これに関して日本ではあまりやっている所がない のではないか、私自身は残念に思います。  もう1つ、iPSに関しては腫瘍性の問題があります。ここで私が強調しておきたいのは、 腫瘍ができるかどうかというものに関して、私たちはゲノムを読んで全部わかるというもの ではないということです。先ほど言いました遺伝子の変化がある場合はある程度の危険性を 予測できますが、しかしながら、もし遺伝子の変化がない場合は、私たちの体の細胞1個1 個が違う、すなわちepigeneticに違う、その違いを調べるということですから、基本的に はなかなか難しい問題があります。  ですから、本当は患者もある一定の細胞が、人間の細胞なら必ず増えるという条件で腫瘍 を作るかどうかという場合はそれが必要で、それがないとなかなか安心してもらえないので はないかと思います。そのようなことを並行して研究すると同時に、しかし細胞治療の戦略 が安全なiPSというか、少なくとも遺伝子の変化及び入れた外来の遺伝子が全くないiPS が作られることによって、細胞治療の戦略というものが必要になってきます。これに関して は、やはりかなり戦略的にきちっとやる必要があると思っております。何もかもということ は絶対あり得ません。例えば安全性の問題を考えると、移植細胞数が少なくてもよい治療か ら戦略的に進める必要があるわけです。  すなわち、安全かどうか、癌がそこに存在するかどうかということは、細胞数が少ないほ ど安全性は上がるということですから、例えば移植細胞数が少なくてもいい疾患、黄斑変性 症の網膜色素細胞移植の場合は2mm角ぐらいの細胞移植で済みます。これは5乗以下のオー ダーだと思います。血液幹細胞も難しいと言われていますが、中内先生がいらっしゃいます が、実際には中内先生がマウスでは1個の細胞で骨髄移植が可能であることを示されていま すし、たぶん人間でも3乗などといった少ない細胞で十分できるものですから、このような ものからスタートして、例えば肝臓や膵島移植、心筋梗塞など、澤先生もいらっしゃいます が、大量の細胞が要るものはすぐに戦略性をもってやるというのは難しいだろうと思います。 しかし、当然さまざまな方向性を持って研究は必要だと思います。  というのは、安全確認が容易な疾患から始めないと、様相技術というものが固められませ ん。例えば、人間のiPSやES細胞を考えてみると、培養時間が極めて長い。このようなも のに関して増殖速度を克服したり、選択培地を作るという新しい技術の開発というものを、 しかし具体的な細胞治療をもってやる必要があると思います。いろいろな課題を挙げてあり ますが、安全確認が容易な疾患から様相技術を固めた上で、一方で、先ほど言ったように、 iPSの技術というのは例えば疾患、要するに人間の体を用いない創薬などといったものに必 要ですから、心臓とか肝臓などに関しては、是非そのような方向性からスタートしていく。  次の所に書いてあるように、実際の研究進展に応じて、新たな再編を行う構造が重要であ ると。例えばシミュレーション等は肝臓がんから始めるといったアイディアが必要だろうと 思います。実際の細胞治療に関しては、このような細胞数が少ない治療からやっていけばよ いと。そのためにはこのような技術を確保する必要があると書いてありますが、解決すべき 問題は山ほどあります。しかし、大体多くはフレームワークとしては技術的問題に収束しつ つあると思っています。  次の頁ですが、理化学研究所ではこのようなことをきちっとやるために3年という年限を 設けて、いま技術的にはほとんど全部可能になっていますから、iPS細胞を用いた、先ほど 言った黄斑変性症中心の網膜再生治療が可能かどうかということを全面的にサポートして います。すなわち、何が難しいか、例えば倫理的なものも含めて指針、倫理、技術といった ものをすべて解決していくということを今戦略的にやろうとしています。幸いなことに、私 たちの所にはそのようなことをやりたいと言う強いモチベーションを持った医師がおられ ます。  次の頁に入りまして、そのためにいろいろな開発課題をリストして、3年という時限を区 切って是非やりたいと思っております。重要なことは、次の頁にも書いてあるように、基本 的な技術はほぼ解決しているということです。ですから、やれるかどうかがいちばん重要で、 次の頁をご覧いただくと、これは高橋先生からいただいてきているのですが、網膜色素上皮 というのはquality controlがしやすい。すなわち、すべての細胞がこのようにtight junction を持った上皮構造を取りつつ、なおかつセグメントを持っているということで、癌があるか どうかというもののフォローがしやすいと思っています。このような戦略を持っていろいろ な形でやっていく中で、iPSは遺伝子が変換されていないものに関しては指針の中で議論し ていただきたいと思っております。  最後の頁をご覧いただくと、いま日本もシステムバイオロジーあるいはシミュレーション 科学といった問題が重要なテーマとして挙げられています。このときに大事なことは、例え ば現在よく行われている何々の疾患のiPSを作ることだけが目的化するようなことでは、た ぶん間違いだろうと思います。というのは、目的はあくまでも、シミュレーション科学であ ればヒトを用いない薬効予測ができるかということですし、その中にiPSがどのような形で 位置づけられるかを全体的に考えていただくことが大事だからです。そのためには、ここに 書いてあるようなさまざまな科学がiPSとともに発展する必要があります。同時に、日本の 苦手なエリアとしては、このようなさまざまなエリアがiPSの研究と本当に真剣な対話をし て、きちっとfeedbackできるかということがあるのですが、それについては若干弱いとこ ろがあるのです。この辺を、よりサポートしていく真の対話が行われ、必要なところにこの 技術が使われるようにすることが大事ではないかと思っています。以上です。 ○永井委員長 ただいまのお二人のお話を踏まえて、ご質問、ご意見等があれば自由にお願 いいたします。 ○山口委員 最初に、梅澤委員のご発表について質問とコメントをさせていただきます。梅 澤委員が言われた自己由来と同種由来、これは薬事法がかかるほうの指針で研究には引用す る形になると思うのですが、実際に指針の作成に携わった者としては、この2つの指針がも のすごく違っているかと言うと、そうではなくて、いくつか挙げていただきましたように、 病原体の残留や、HLAが一致している場合と一致していない場合は当然違うでしょうと。 そのような点については違いを書き述べたのですが、かなりの部分、例えば製造工程そのも のは製造で使っている生物由来原料は感染のリスクがありますので、そのような意味で梅澤 委員も異なると書かれており、ないとは書かないだろうと理解いたしました。ですから、生 物由来原料基準を使うとか、工程由来のものなどといったところから感染性の因子があると。 もう1つ考えないといけないのは、もし、ラテンシーのあるウイルスがあったとして、体外 で培養することによってウイルスの誘導を期待する可能性もある。これについては全く予測 できないわけではなくて、ラテンシーが出ているようなケースがウイルスなどで割と知られ ているので、それはその評価をしてやればいいだろうということで書き分けたつもりです。  この点は非常に感心したのですが、後ろから3枚目のところの対象疾患に関して、これは 確かに対象疾患のハードルが非常に高いために、本来もっと差が出てきてよさそうなところ が出てきていないのではないかということを感じております。これはたぶん遺伝子治療など についても言えることだと思うのです。癌でも、例えば重篤な癌の患者ばかりやっていると 差が出ないのですが、範囲をもう少し広げると有用な差が出てくるのです。また、申請する 側が自己規制をしているケースも非常に多いと思います。特にIRBの中で、これは重篤な ものでしか駄目なのだから、生活習慣病などには使いにくいといったことがあるのだろうと 思います。もしかしたら、そのようなところのほうが差が出てきやすい可能性もあるので、 そこは自己規制をしない方向で改正できればいいかなという気がしています。 ○中内委員 私も対象疾患で質問というか、よくわからないのですが、ヘルニアとか指関節 の拘縮、角膜のいずれもQOLを著しく損なうとは理解できないのでしょうか。 ○梅澤委員 ご指摘ありがとうございます。現指針の中でこの3つに関しては、QOL、生 活の質を著しく損なう疾患であると読むことは可能です。それは裁量の中で可能ですし、そ う読めるところもあります。その一方で、先ほど山口委員が指摘されたように、細胞医療、 治療に有効性が予想されるものの、指針の対象疾患外としてIRB、機関の中の倫理委員会 でこの文言をより正確に適用すると、これらが対象外になるという考え方もあります。 ○永井委員長 ただ、これは一例の既成事実ができれば問題なくなってしまうのではないで しょうか。既にそのような中で角膜移植も行われていますが。 ○梅澤委員 上(厚生労働省)の専門委員会と下のIRB(各施設の機関内倫理審査委員会) との間では、倫理委員会ですので(審査の)独立性がある思っています。 ○永井委員長 どこかの病院からこのような申請が出てきて、幹細胞の審査委員会で認めら れてしまえば、もうそれは既成事実のように思います。 ○梅澤委員 それは前例といった意味でしょうが、現在これは臨床指針にも言える、ちょっ とあまり話を大きくはしたくないのですが、倫理委員会ごとに指針に従う方というか、指針 の読み込み方に大きな違いがある場合がありまして、ここで私が申し上げたいことは、でき れば具体的に指針のQ&Aないし細則、または指針そのものの中に書き込んでいただければ、 よりわかりやすい審査なり、そこに裁量の余地がない、グレーの部分がないわかりやすい判 断ができると考え、今日ご提案させていただいた次第です。 ○高坂委員 前回指針を作った者の1人として、ここの「対象疾患等」のところは、いま委 員が言われたように(1)(2)(3)とあるのですが、どちらかと言うと(2)で、幹細胞の臨床研究 による治療の効果が、現在可能な他の治療と比較して科学的に優れていると予測されている もの、あるいは被験者にとって治療によって得られる利益が不利益を上回るといったことが 十分科学的に予想されるといったところがメインであって、(1)の対象疾患については、あ まり安易にやってもらっては困るという意味を込めてこのような文言にしたと思っていま す。ですから、いま山口委員が言われたように、自己規制の部分がかなりあるということだ けは本当だろうと思います。 ○永井委員長 成功例が出てきたら、考え方が変わってくるだろうということでしょうか。 ○中内委員 Q&Aで、個体的には例えば椎間板ヘルニアとか書いていけばいいわけですね。 ○梅澤委員 はい。 ○武藤委員 そのように疾患を例示するという手もあると思いますが、そうするとたぶんき りがなくて、いろいろなことになるので、これはこの指針に沿った倫理審査をやる委員会が 横できちんとつながって、いろいろ検討していくことも同時に考えていく必要があると思い ます。 ○梅澤委員 それは非常に重要なことだと思っております。いま中内委員が言われたように、 指針の中で具体的なQ&Aないしは細則が、IRB(各施設の機関内倫理審査委員会)の委員 の方々にとって、より判断しやすい基準が明確に書かれているとさらにわかりやすいと考え ております。 ○永井委員長 その他何かあればお願いいたします。 ○山口委員 外部に委託する件で、研発課もこの前CPCの補助を出されていたので、一定 の地域に1つ作るという方針から考えれば、そのようなことを想定されているのだろうと思 います。その点は薬事法あるいは他の法令規制が、院内調剤の中に拡大解釈という形で行け れば適用可能ではないかと思うのですが、ただ気になったのは、業者が関与するとなると、 それは業になってしまうので、これはちょっとハードルが高いというか、薬事法上難しいの ではないかと思いました。研究の中でそのようにやるのはたぶん大丈夫のような気がしては いるのですが、その点について、もし何かあれば。 ○梅澤委員 自己細胞について業になるかというご指摘です。企業が参加したとき、特に調 製機関を他がやった場合ですが、特に自己細胞の場合、1人の人間が別の人間に繰り返しす ることはなかなか難しいというのが1点目です。2点目は、他に流通することがほとんど不 可能と思料します。現実的に自分から採ったものを他者に使うことはほとんどありません。 そのような2点から、それについて業と判断するかどうか、これはプロ(医療法及び薬事法 の専門家)の方に判断していただきたいと考えております。 ○澤委員 先に今の点についてですが、これは読み方だと思うのですが、臨床研究の範囲で、 例えばプロトコールに業というか、企業が入るにしても、それは研究範囲内であるとか、少 なくとも委託になるかどうかというのはお金が発生するかどうか微妙なところもあるので す。もし、研究範囲内ということであれば、かなりフレキシビリティはあるのかなという考 え方は、これからしていくべきかなと思っております。その議論は今すぐは決まってはいま せんが、もう1つの枠組みの委員会のほうでもその議論はされている最中です。はっきり言 えることは、臨床研究と治験との区別の認識はまず必要だということです。最終的には治験 のほうなのか、本当に加工業というのが成り立つのかどうか、そこも将来的な最終的な議論 になるのではないかと思っております。 ○西川委員 ただ、日本では基本的にJ-TECの問題が一応settleしたお蔭で、逆にこの指 針に応じて研究としてやっていく部分と、将来業を成り立たそうとしてやっていく部分がと もかくスタートしているので、いいか悪いかは別として、そこからいろいろな問題点が上が ってきますから、そこに関してはファイナンスの問題も含めてきちっとやっていくと言うし かないと思います。  もう1つ、前も澤委員たちといろいろやっていたのですが、やはり国としてきちっとした 登録機関を持つと。実際に再生医療は行われているわけですから、発癌のインシデンスなど といったものに関しても、より精細な統計がきちっと取れるように大至急やっていただく。 そこに関しては同じようなプロトコールできちっとフォローできるようにするということ がいちばん重要です。一方で、逆にいろいろなものを調べたらそれはわかると思うのはかな り難しい問題があって、やはりオペレーショナルにしかわからないことがある。ですから、 臨床の場合は患者が協力し、インフォームドコンセントも取っていただけるわけですから、 最大漏らさずデータを取っていくということが大事かなと思います。 ○佐藤委員 話を戻してしまいますが、薬事法の業との関係で、たぶん事務局が整理される と思いますので後ほど教えていただきたいと思いますが、製薬企業が入った場合、1回1回 の細胞の調整や内容は1回限りであっても、似たような作業を繰り返しやるということにな ると、これは反復継続の意思があると判断されるのだろうという気がしてしまうのです。業 から外すというやり方が1つですが、もう1つはアメリカのINDやイギリスのIMPのよう に、製造販売承認が得られていない医薬品や医療機器の扱いとしての整理というのも、でき るといいかなと考えました。 ○澤委員 梅澤委員の指針の見直しの論点というのは非常によくまとめられていて、我々も 大賛成です。隣に理事長の中内委員がいらっしゃいますが、再生医療学会のほうでも臨床研 究に関して、この指針を中心として、いかに臨床研究をスムーズにいかせるかということを 今まとめております。その中で出ているのは、細胞調製の他機関への依頼ということと、 GMP、GTPのレベルということです。それからCPCの基準というものも、どうも大変背 伸びしたような基準で、我々も何がいいのかがわかっていないでスタートしたものですから、 審査委員会のほうで常に議論になっているのをお聞きすると、きっちりとしたCPCの基準 も、臨床研究に関してはあまり明確でないと。どうも薬事法なりを援用しているような部分 があって、いわゆる治験薬、GMPといった言葉が走っているということに非常に大きなフ ラストレーションというより、ハードルを感じているというのが実際なのです。それは再生 医療学会の委員会の委員の報告です。今後その辺りをまとめて、梅澤委員がまとめられてい るのと近い部分が多いですが、学会としてもまたここで提案させていただき、議論していた だければと思っております。 ○西川委員 例えばES細胞等で言うと、いろいろと滑稽なことが世界中で行われています ので、いわゆるGMP基準というものを薬事から持ってきた結果、不思議なことがシンガポ ールにしてもアメリカにしても行われています。逆に、基本はディスクロージャーというか トランスパレンシーと科学性ですから、ここの問題を日本はどうするのかということにきち っと対応する。ともかく今はCPCが先にありきになっているので、そこも大至急やる必要 があるし、そのような形で学会がやっていただけると大変重要な貢献になると思います。 ○中内委員 西川委員のお話とも関連するのですが、確かにiPSを安全に作ることはかなり 進んできたように思います。最近の我々の研究では、できたiPSをたくさん調べてみると、 ゲノムレベルではかなりいろいろなミューテーションが入ってくることがわかってきまし た。つまり、作るだけではなくて、作った後、培養して目的の細胞を誘導するまでの間にも、 いろいろな変異が入ってきて問題を起こす可能性が出てきますので、やはり培養もある程度 きちんとしたレベルでやらないといけないかもしれないですし、そのモニタリングをどうす るかなどといったことが、これから大事になってくると思います。そのような意味では過度 に装備し過ぎたCPCは、かえって再生医療の実現を阻害しますが、ある程度のスタンダー ドを持ったところできちんとやるということは非常に大事だと考えています。学会としても そのような基準が出せればいいなと思っておりまして、いま検討しております。 ○西川委員 いまES細胞に関しては世界的なイニシアティブができて、いま中内委員が言 われた部分に関して、Peter W. Andrewsピーター・アンドリュースさんの下で、培養によ ってどのような変化が起こるか、それは今のところゲノムレベルだけですが、徐々に進んで いっていると思います。一方、iPSに関しては、私は前から言っているのですが、ともかく 遺伝子が入っている、いわゆるレトロウイルスベースなり何なり、遺伝子が入っている可能 性のあるもので、何かバリデーションをやっても意味がない、私はそう思っています。遺伝 子が入らないiPSができた時点で、それまでに採ってそこからやったらいいと思っていたの で、これからは是非同じようなことをやっていただいたらいいのではないか。それで、培養 の問題で皆が忘れてはいけないのは、私たちのゲノムの中の2割以上が、少なくともトラン スポゾンの由来なのです。しかも、ヘビリーにメチレーションされていますから、こういう 私たちのゲノムそのものの不思議さというか、そういうものを全く抜きにして安全論議をや ってしまうと全くわからなくなってしまう。確かに、ゲノムレベルで異常が出てこないよう にストレスを与えないということはやれると思うのですが、基本的に、これからもう少し違 った意味でのストレスのエバリュエーションというものが必要なのにもかかわらず、たぶん、 ここには時間がかかるというふうに思っていますから、これはいちばん大事なのはその腫瘍 性を安心して示せる培養アッセイがないことには、これは禅問答で終わるというふうに思っ ております。 ○山口委員 1314号のところもそうなのですが、治験に入るときと、承認申請のときとレ ベルが違うのだということを明確にしているのが今度の改定のときのわりに大きなポイン トだと。CPCも、おそらく、臨床研究にスタートする時点と臨床研究をやっていく時点で 変わっていくべきものだと思うのです。そういう意味では、もう少しフレキシビリティがあ っていいのだと思いますし、そのときに、これはこうでないといけないというものではない のではないかと思うのです。例えばSOPにしてもそうですし、その辺は臨床研究の中で変 わっていくべきもの、要するに改良していくべきものというふうに考えたほうが合理的では ないかと思っています。 ○永井委員長 梅澤先生の、論点の3番目ですが、研究実施の許可体制が二重審査になって いるというのはどういう意味だったでしょうか。 ○梅澤委員 研究実施の許可体制は、例えば現在はすべてIRB(機関内倫理審査委員会) と上(厚生労働省)の専門委員会でご審査いただくことになっていますが、ある疾患や同じ 施設において似たような場合があった場合に本当に二重審査が必要かということを提案さ せていただいたということです。要するに、もし許可体制がIRB(機関内倫理審査委員会) だけでできるような高いレベルのIRB(機関内倫理審査委員会)があってもおかしくない と思っておりますので、そういうことで提案をさせていただいたということです。これはす べて提案です。具体的に先ほど佐藤委員がご指摘になった業か業ではない問題かというのは 法令の解釈の問題でもあるかもしれませんし、個々のお考えがある。そういうことに関しま してはad hoc委員会ないしはワーキンググループをつくり、そちらで議論いただくか、事 務局のほうでご検討いただいて、どこまで可能なのかということをご示唆いただけると非常 にありがたい。法令の問題について私どもは不慣れなものですので、そういうところは、ど こまで積極的に踏み込めるかを教授いただきたい。 ○永井委員長 そのほかにいかがでしょうか。あるいは、西川委員のご発表に関してもご質 問がありましたらよろしくお願いいたします。 ○山口委員 安全性の面は動物実験で証明していくだけなのか。将来的には、先ほど中内先 生がおっしゃいましたが、培養の過程で遺伝子異変が起きたりする可能性もあるということ を考えれば、ロングタームのフォローアップが非常に重要な項目になってくるのです。ヒト 幹の中にはそういうロングタームフォローアップということをきちんと入れておけば、そう いうふうな有害事象が起きたときの体制、海外などはそういうところをわりときちんと整備 されていますので、その辺はやっていくべきかなと思います。 ○西川委員 先ほど梅澤先生に申し上げた、あるいは澤先生たちと今まで議論したのも、き ちっと登録制が行われてロングタームをやる。ただ、新しい事象に対してどれだけ私たちが 対応できるかといった部分を考えると、どこかで根本的なアッセイがあってもいいかなと。 例えば、私が、残念ながら今の技術でできていないことを言うと、どんながんでもいいので すが、良性腫瘍も含めて、がんを得て逆に手術をするとします。胃がんでも大腸がんでもい いのですが、そのがんをそのまま増やしてくれるような動物モデルというのは残念ながらな いのです。しかし、どんなプライマリーながんも必ず増えますよと。たぶん、私の胃がんは もう一度私に植えれば増えると思うのですが、そういうことが可能になれば患者さんも安心 してその問題に関していけるだろうと。そういうものが戦略だろうと思います。残念ながら 実現していないのですが、それと並行して、ゲノムに関しては、この前、新聞で報道されて いたと思いますが、今、30回オーバーラップしてヒトのゲノムを読んでいただくのを、イ ルミナーだったと思いますが、入札をすると4万5,000ドルに下がっています。450万円で ホールゲノムが読んでもらえる時代になったことは事実なので、この値段はもっと下がるで しょう。ですから、常にそういう可能性はフォローして考えていくことは重要だと思ってい ます。 ○山口委員 ちょっと違う話をしてしまうようなのですが、遺伝子治療でXSCIDでがんが できたというのはご存じだと思うのですが、今、私はICHの中で遺伝子治療のワーキング グループの中で議論をしているのですが、動物でのがんの予測は非常に限界があるだろうと いうのがコンセンサスになっていて、むしろ、動物で1年半やっても出なかったからといっ て、そこでがんができないという保証はない。むしろ、そのリスクを超えるようなベネフィ ットがあればその臨床研究なり治験なりがやるべきであって、そのための対応というのはロ ングタームフォローアップに依存せざるを得ないのではないか。そこの技術が開発されてく れば、当然それがオーバーカムしていくのでしょうが、それまではそういう対応が現実的で はないかというふうに思っています。 ○西川委員 ただ、目はありますよね。この前、ショーン・モリソンたちが示していたので すが、例えば、そのままがんを植えても増えないのだけれども、マトリジェルにヒトの細胞 を入れて、入れた場所をつくってあれば1個の細胞がそのまま増えてきたと。ですから、た ぶん、今後そういう可能性は生まれてくる。そして、そこに関しては日本もきちんと対応し ていっていいのではないかなとは思います。 ○武藤委員 ちょっとついていけなくなったのでもう一回教えていただきたいのですが、長 期フォローアップというのは、私も概念としてはすごく大事だと思うのですが、こういう研 究に参加された患者さんのフォローアップをするという話と、主体と対象が違う水準のフォ ローアップの話がいくつかあったように思うのですが、それは先生方の間ではある程度わか っているのですか。誰が何をモニターしないといけないかという。 ○西川委員 先ほど、戦略的に、しかもある焦点を絞った疾患についてやるということの重 要性はそこなのです。例えば、網膜色素上皮だとヒトのES細胞からつくれます。それで、 いまおっしゃったように、培養でのフォローアップでどういう異常が出てくるかというのは 一方であって、実際に行われています。もう一方で、次に動物に移植するということも行わ れています。その上で、しかし、ES細胞ですから、ヒトに移植されたことがないわけで、 もう一度同じことをiPSで、しかも遺伝子の変化の別で行うということは絶対に必要なので す。そして、最後にその患者さんのところがあるわけですが、そこまでで100点かという ことに関しては、100点でないということをある程度理解していただいて、なおかつ、患者 さんの登録をきちっとした上で本当の長期フォローアップをして次に備えるということが 大事だろうと思っています。 ○高坂委員 このiPSあるいはES細胞研究の現状ということで非常にわかりやすくお話を いただいたのですが、iPSに関しましては、例えば山中さんがよく言っているように、高品 質で安全なというところがいちばん重要であると。高品質というのはいろいろな細胞にきち っと分化できる能力を持っているという意味です。一方、安全性に関しては非常に大きな議 論がまだ残っていると思うのです。先生がおっしゃったように、ゲノムがインテグレートさ れているかというのはこれは言語道断だということではなくて、例えばゲノムを使おうが、 あるいはタンパクを使おうが、今、我々が持っているデータとしては、先生がまさしくおっ しゃったように、個々のエピジェネティックの関連が非常に影響しているらしいということ がわかってきていますね。例えばiPSとしてはそれがどこの細胞由来であるかというところ が腫瘍化には大きく影響を与えているというようなことがだんだんわかってきていて、それ はここ2年ぐらいのいちばんメインな研究になってくると思うのです。私たちは、そういう ことの正しい知識が得られたならば、こういった臨床研究への応用ということは一歩進むと 思うのです。ところが、一方で安全性といいますか、そこのところが、先生がまさしくおっ しゃった培養アッセイ系というのは今のところ立つ目処が立っていないのです。それを、今 後、我々はどう予測してこういう指針の見直しをしていけばいいのかなというのが、たぶん、 そこがいちばん問題になってくると思っています。 ○西川委員 もちろん、ゲノムが変わっていないということは条件にすべきだろうと思いま す。実際に、レトロトランスポゾンの振舞いから考えても、例えばさまざまなことが起こり 得るわけですね。ですから、私たちは、20%もそれをゲノムとして持っているのだからち ょっと足されたっていいだろう、という話にはしないほうがよくて、先ほど山口先生がおっ しゃったアラン・フィッシャーのトライアルでも、予想もつかないことが起こったわけです。 そこは、ゲノムが変わらないということは条件にすべきだろうと思っています。しかし、そ れに関してはわりと安くて、これからはわかっていくだろうと。  もう一方で、エピゲノムのほうに関しては2つの方向があって、1つは原理がよくわかる ということだと思います。原理がよくわかるという意味で言うと、最も効率がよさそうに見 えるクローンですらかなり多様性がありますから、100%エピジェネティックなものを変え るということはたぶん短い期間では難しいと。しかし、ちょっと考えていただくと、私たち のエピジェネティックなステートというのは、基本的に外側からの刺激で全部整えられて、 私たちの皮膚は少々の違いはあってもずっと皮膚をつくれるようにできているわけです。で すから、ここに関しては必ず外側からのシグナルがきちっとわかってくるだろうし、それの いちばんいい例がオースティン・スミスさんたちがマウスで開発した、新しい、ES細胞だ けしか残らない培養方法だと思うのです。これは、例えば、今まで、ES細胞というのは、 ある特種なマウスしかできないと言われていたのが、ほとんど100%どんなマウスからも ES細胞をつくれます。ラットからですらつくれるわけです。もちろん、失敗したiPSから もES細胞と同じようなものが最終的にできます。1つブレイクスルーができることによっ て達成されるところというのはものすごく大きいので、そこはみんな頑張って原理とともに メディウム開発をやっていくということが大事かなと思っています。 ○高坂委員 いまのお話は、どういうメカニズムでiPSだけ選択しているのですか。それで、 ヒトはまだうまくいっていないということがある。 ○西川委員 1つ大きな問題があって、これはややこしくて大変申し訳ないのですが、ヒト のES細胞とマウスのES細胞はステージがまるっきり違うということは知られています。 ヒトのES細胞は、マウスで言うとエッグシリンダーステージのエピブラストと言われてい る上皮なのです。マウスのES細胞は内部細胞塊と言われているものです。それを完全に、 遺伝子発現も含めて、体の中の細胞で言うと同じものだろうと。すなわち、ちょっと進んだ ものがヒトのES細胞で、今はマウスでも同じものがつくれるのです。増殖の方法も全然違 います。ではいちばん安全なマウスのES細胞と同じようなものをヒトからつくれるのかと いうのは、猛烈な勢いで今研究されています。そして、マウスでようやくそれが可能になり つつありますから、たぶん、同じことをヒトでも持っていくということができるようになる のだろうなと思います。そこが進むと、あるメディウムの条件で安心して同じものを繰り返 してつくれる時期が来るのかなと思っています。 ○永井委員長 iPSで。 ○西川委員 iPSですね。iPSもESもです。ヒトのESでも。 ○山口委員 私は、遺伝子変異があるといけないというところは、前提としてあまり賛成で きないところがあります。どういうことかというと、例えば、今、XSCIDの遺伝子治療だ って禁止されているわけではないですね。それなりの対象疾患を絞って、骨髄移植ができな い場合にはFDAも認めていますし、そういう場合にはやってもいいのだろうと。ただ、そ の前提の上で、リスク・アンド・ベネフィットの観点から許されるケースがあるのだろうと 思うのです。iPSの場合は、たまたま、すごく時間をかけてつくりますので、その間のこと を考えれば、ほかのいろいろなアプローチがあるのだろうと思うのですが、それが緊急時に やらねばならないケースにおいては、遺伝子変異があったとしても、対象疾患によって選択 されていくものだろうと考えています。 ○西川委員 もう1つ、いまの山口先生のお話で言うと、これは技術的にものすごく早くな ると思います。例えば、マウスのクローンのことを考えていただくと、核移植してから少な くとも10日以内にほとんどの細胞のリネージができてしまうわけです。すなわちリプログ ラムもできるわけです。なぜiPSでは遅くて、マウスのクローンにはそういう因子があるの かということが今研究されています。例えば、たぶん出てくると思いますが、ケンブリッジ の人たちはESETという遺伝子を見つけて、それがあるともっと早くなります。ですから、 こういうものは日進月歩で出てきますから、あまり気にしなくてもスピード等々に関しては 進んでいくなという印象があります。 ○中内委員 私も山口委員と同じ意見で、もしゲノムを入れたら使ってはいけないというこ とになると、今の遺伝子医療はすべてやる意味がなくなってしまいますし、iPS細胞の本質 的な危険性というのは体細胞を無理やりESレベルまでエピジェネティックに戻してしま ったというところにあるので、いつそれがどのように変化するかというのは全くわからない わけですので、そこがいちばん重要なところだと思います。それを今の時点ではあらかじめ 推し測ることができないので、安全性を確保する何らかの仕組みを組み込むか。あるいは、 しょうがないからそのままやってみて、ロングタームフォローアップをしてその危険性を把 握する。その2つが今のところ考えられるのではないかと思います。ですから、そこのとこ ろはきちんと理解した上でガイドラインをつくっていくほうがいいかなと思います。 ○水澤委員 これはいまのお話を両方組み込んでおくことになるのではないですかね。どっ ちかだけを選ぶということではなくて。 ○中内委員 ただ、その安全性のほうは我々も今考えていますが、最初の何十例か何百例か をやって、ロングタームフォローをして、問題がなければなくてもいいというふうになる可 能性はあると思います。 ○水澤委員 お話を伺っていると、皆さん大体そういう形で、ちょっと長短はあっても両方 おっしゃっているような感じはするし、その辺はコンセンサスという感じはいたしますが、 どうなのでしょうか。 ○西川委員 あと1つだけ重要な視点だと思うのは、ES細胞に関してはインターナショナ ル・ステムセル・フォーラムというものができて、安全性に関して世界の枠組みをつくろう という動きがあって、日本も実際には年間1,000万円というお金を払ってコンソーシアムで 安全性等々の検討がなされているわけです。ですから、1つの国で全部済ますことではなく て、皆が分担をして国際的にこういうものをやっていってほしいなというのが私自身の気持 で ○永井委員長 よろしいでしょうか。ここまでのまとめとしましては自己由来と同種由来幹 細胞の違いを含めた取扱いについては、事務局で今日の議論を整理してまた次回に論点をご 提示させていただきます。iPS、ESにつきましては、個別の検討課題として安全性、倫理 面の留意点についてまた後日さらにご検討いただく機会を設けたいと考えております。議題 の2にまいりますが、臨床研究に関する倫理指針の改正についてですが、前回、臨床研究に 関する倫理指針の改正点について事務局より概説をいただいております。この改正について 専門委員としてかかわっていらっしゃいます佐藤委員から、改正の背景、また、前回議論の あった倫理審査の外部への依頼という点についてお話いただきたいと思います。佐藤委員、 お願いいたします。 ○佐藤委員 資料5に基づいて説明させていただきます。前回も事務局のほうからご説明が ありましたし、また、今回の私の報告は全く私の切り口ですので、永井委員長や本田委員も 前回委員としていらっしゃいましたので、また後で追加コメントをお願いできればと思いま す。1頁めくっていただいて、2007年の8月からこの見直しが行われておりました。大き く3つぐらいの理由があったかと思います。1つ目は、2003年にできたもともとの臨床研 究指針というのは、臨床研究には極めて多様な形態があることに配慮して、この指針におい ては基本的な原則を示すに留めており、というふうに言っておりまして、片一方では丸ごと のヒトを使った研究から、もう片方では個人特定可能なマテリアルやデータを使った研究と いうものも同じ指針の中に置いておりました。とりわけ、丸ごとのヒトを使った研究の場合 には少し上乗せをすべきではないかということが1つ目の理由です。2つ目の理由は、ちょ うどこのころ、外国において動いていました臨床研究計画の登録ということに対応すること が2つ目の理由でした。3つ目は、少し先行して動いていた疫学研究指針との整合性をとる、 とりわけ、疫学のほうで改正されたことについてはこの臨床研究指針でも入れていこうとい うことが、これは見直しの最後の段階になって入ってきたところですが、3点目の理由でし た。  1頁めくっていただいて、主な改正点の(1)です。先ほど、見直しの理由の1点目で述へ でたように、改正前は臨床研究のサブカテゴリーはありませんでした。すべて同じように扱 うということでした。それを、改正後はまず介入研究と観察研究の2つに分ける。介入研究 の定義というのは、下に*で書いてありますが、通常の診療を超えた医療行為であって研究 目的で行うもの、あるいは通常の医療行為であっても割付けの上効果等を比較するもの、こ のどちらかがあるものについては介入研究と扱う。その上で、医薬品医療機器を用いた介入 研究を(1)として定義いたしました。それ以外の介入研究を(2)としております。それ以外のも のは(3)観察研究というふうに定義をつけました。ただし、ここの点は以前から変更がないの ですが、診断及び治療のみを目的とした医療行為は本指針の対象としないということはこれ までどおりになっております。  実は、ヒト幹細胞を用いる臨床研究の指針、この検討会の課題になっているものですが、 この中でも同じ定義が入っております。参考資料1の3頁ですが、第1章総則の第3適用範 囲の「ただし書き」です。「ただし、次のいずれかに該当するものはこの指針の対象としな い。(1)診断または治療のみを目的とした医療行為」と。臨床研究指針のほうにはこれについ て細則がないのですが、このヒト幹細胞の指針のほうには細則がありまして、「この医療行 為というのは安全性及び有効性が確立されており一般的に行われている医療行為を指す」と いうことになっております。前回、私は欠席をしてしまいまして申し訳ありませんでした。 議事録を少し読ませていただきましたら、このヒト幹細胞の指針と臨床研究の指針を合わせ ないといけないのかどうか。言い換えると、おそらく、ヒト幹細胞を用いた治療が臨床研究 なのかどうかという点で少し議論になったように私は理解いたしました。  しかし、先ほどのご議論も聞いていると、幹細胞といってもいろいろな種類があるという のはいまかなり詳細に教えていただきましたが、ヒト幹細胞を用いた治療の中には、体内に 入ってそれがどのように動いていくか必ずしもはっきりわからないものがあり、そのために フォローアップ、ここで言うフォローアップというのはその患者さんをずっとフォローアッ プしていくという必要があろうと。それは研究として行うべきであって、そのようなフォロ ーアップの体制をとっていないような、つまり通常の治療として行うべきではないだろうと いう点からは基本的に臨床研究のカテゴリーの1つとしてこの幹細胞の治療を考え、そして 幹細胞治療の特殊性に鑑みてまた別に指針をつくったという整理をすべきかと個人的には 考えております。  次の頁ですが、主な改正点の(2)です。ここも、おそらく、ここの幹細胞の指針に取り入 れなければいけないかどうかご議論いただかないといけない点だと思います。まず、介入研 究であって、医薬品または医療機器を用いた予防、診断または治療方法に関するものについ ては、健康被害の補償のため保険その他の必要な措置をとるということが明記されました。 これまでは、臨床研究にあたっては補償の有無を説明することということになっていまして、 必ずしも補償の措置をとらなければいけないということではなかったのですが、今回、介入 研究であって医薬品または医療機器を用いたこれこれというものについては、保険その他の 必要な措置をとらなければいけないということになっております。次の点ですが、介入研究 であって医薬品または医療機器を用いた予防、診断または治療方法に関するもの。その他手 術等侵襲を伴うものについては臨床研究データベースへの登録を義務付けることになりま した。この点は、たしか、改正のときにもいろいろ議論がありまして、どういう所に登録を すればいいのか。アメリカのサイト、例えばclinicaltrials.comのような所に登録すること で十分なのだろうかという議論がありましたが、倉田委員と本田委員のご発言でしたでしょ うか、それは患者さんや被験者さんがどういう臨床研究が行われているかを知りたいのだ、 そのためには日本語で登録することが望ましいだろう、というところで、現在、日本国内の 3つのサーバーのどれかに登録をすることになっております。  1枚めくっていただいて、主な改正点の(3)です。臨床研究機関の体制の整備というもの をとってくださいということになりました。1点目としましては、有害事象に対する対応を とる。研究責任者が予期しない有害事象が起こったときには臨床機関の長に報告をする、場 合によっては臨床研究機関の長が厚生労働大臣に報告をする、というようなことが定められ ております。2点目としましては、研究者が研究倫理をきちんと学ぶようにということで、 これは努力義務ですが、これが設けられました。3点目、4点目が倫理審査委員会に関する ことですが、後ほどまた少しご説明しますが、3点目は倫理審査委員会の設置の外部委託と いうことが認められました。4点目は、委員の教育や研修の機会をとるようにということも 定められております。  1枚めくっていただいて、最後のスライドですが、改正前も外部委託は制限付きながら認 められておりました。原則としては研究機関の中に臨床研究機関の長が設けるということに なっていましたが、「ただし」として、「臨床研究機関が小規模であること等により当該臨床 機関内に倫理審査委員会を設置できない場合には、外部に委託することができる」というこ とになっていたのを、この4月からの改定では、特に制限がなく外部委託ができるという形 になっております。さて、この幹細胞の臨床研究でこの外部委託というのはどうなのだろう かということを少し考えてみました。先ほど、梅澤先生からお示しいただきましたように、 いろいろな形があり得る。特にセルプロセッシングセンターが外にあるとか、あるいは現在 は認められていないけれどもバンクのようなものをつくる、あるいは外の業者に完全に調製 を頼んでしまう、あるいは採取機関と調整機関と移植機関を完全に分けてしまうような場合 には、これは通常の臨床研究とは違って、1つの研究という中にいくつもの臨床研究機関が 入ってくることになりますので、これは各臨床研究機関ごとに倫理審査をするというのでは なくて、中核となる臨床研究機関に倫理審査をすべて委託するということもあり得、それに よって、複数の機関の判断を統一化させるということもできるかもしれません。あるいは、 さらに進んで、幹細胞研究について特化して審査を行う審査委員会を設置することもあり得 るだろうか。この点につきましては、このヒト幹細胞の指針ができて3年経ちますので、そ の3年間のうちにIRB、インスティテューショナルのレビューボードの審査がある程度集 積されてきているという評価もできるでしょうし、また、非常に新しい分野ですので、まだ まだ各機関でどう判断してよいかわからないというふうな見方もできるだろうと思うので す。後者の見方をとると、幹細胞の研究について集中して審査を行うところをつくると審査 を集中して行うこともできますし、それによって審議あるいは教育も非常に集中して行うこ とができるようになるのではないか。こんなことを考えると、もしかすると現在のいわゆる 二重審査ということも少しまた考え直してもいいのかもしれないというようなことを、これ は少し私の独断も込めながらですが、そのようなことがあり得るかと思いました。ちょっと 駆け足でしたが、以上で終わらせていただきます。 ○永井委員長 ありがとうございました。ただいまのご説明に何かご質問やご意見がありま すか。 ○武藤委員 ご説明ありがとうございました。いまの最後のお話で私もかなり同感している のですが、これは事務局にお伺いすればいいのかどこにお伺いすればいいのかわからないの ですが、今までこの指針に基づいて行われた審査の総件数とか、どこでどれぐらい審査をや っているのかという現状みたいなものはどこでも把握されていないのでしょうか。例えば、 事務局はご存じでいらっしゃいますか。 ○事務局 基本的には、今のところは指針の中では施設ごとに倫理審査委員会をつくってい ただく。いわゆる調整だけをされる所に関しても、そこでも倫理審査委員会を別個とってい ただくという形になっていましたので、出していただいた申請機関の数だけ、それぞれで審 議をしていただいたというのが今のところの現状です。 ○武藤委員 ただ、その体制がよかったかどうかということも、たぶん、今までの経験を基 に判断をするということになるのかなと思いました。あと、もう1つ、ちょっと瑣末な訂正 をしてもいいでしょうか。お話になったことで、研究者の教育は努力義務とおっしゃったの ですが、最後から2枚目の改正点の所で、研究倫理に関する研究者に対する教育は義務にな っていて、研究者等の義務なのですね。「教育を受けなければならない」とあるのですが、 倫理審査委員会に対する教育研修は倫理審査委員会の設置者の努力義務です。 ○佐藤委員 ありがとうございました。この点は臨床研究機関の長の責務というところと研 究者の責務というところもあって、それでちょっと混乱したかもしれません。申し訳ありま せん。 ○永井委員長 ほかにいかがでしょうか。 ○澤委員 私はこのヒト幹細胞の審査については審査を受ける側ですので、あまりよくわか っていないのですが、二重審査というのが、この臨床研究に関する指針でもヒト幹の指針で もかなりできて、整備がされてきて、各施設の倫理委員会の審査が随分レベルが上がってき ているのかなと思ったりしていて、それが実際に中央の審査委員会に出たときにもう一回、 これは倫理ができていないとか、そういう議論になっていて、二重審査でまた屋上屋を重ね るようなことになっているのですか。それとも、大体の議事録等を見ながらどの程度でやら れているのかという、実情というのはどんな感じなのか。ちょっとわかっていなくて、二重 審査は確かに問題かもしれませんが、二重にやっても、そこの審査体制がスムーズであれば そんな大きな問題ではないのか。そこは我々審査を受ける側からはあまり見ていないのです けど。 ○高坂委員 永井委員長が言いづらいこともあるでしょうから、その委員の委員でもある私 から感想を述べさせていただくと、おそらく、ESなどの樹立と使用機関の審査に二重審査 をやっていますね。ああいうものに比べて、この幹細胞の臨床研究というのはまだ非常に未 熟な段階だと思います。IRBでしっかり練られているのだろうと思っていたのだけれども、 実は、先ほどのセルプロセッシングのところで訳のわからないものが出てきたり、必ずしも 広くすべての機関で同じようなクオリティの議論がされているとはとても思えない状況だ ろうと私は思います。少なくとも、そういうことを勘案すると、ESでも樹立機関のほうに は全く今までどおりということで二重審査体制を残していますし、特にこの幹細胞の分野に 関しては、私個人的にはしばらくの間は二重審査が必要であろうという感想を持っておりま す。 ○西川委員 補足させていただくと、たぶん、高坂先生もおられたいちばん最初の委員会、 要するに指針をつくるときの委員会で1回議論になったのは、国なりの機能として、科学性 というか、そういうものを中心にしようではないかという話があって、私の印象でも、永井 先生の委員会では、基本的には科学性であったり、そういうものが本当にきちっと保証され ているかというところに議論の中心があって、例えばインフォームド・コンセントなどに関 してはIRBをかなり信用されているというような印象ではないかという感じがします。 ○澤委員 倫理性というよりは、そのプロトコールの内容の科学性の評価に対して不備があ るというか、そういうふうな感じをおっしゃっているのですかね。ですから、その辺が二重 審査体制よりも中央だけでもよいという形であれば、それはそれでそうすべきかもしれませ んし、何となく、我々はまだ見えてないのであれなのですが、どのようにこの点を改善して いくべきなのかというのが。 ○永井委員長 まだ始まったばかりなのです。もし臨床で大きな問題が起こってしまうと、 幹細胞研究全体に大きな影響が出てしまうことを我々は懸念しています。科学性もそうです し、それに則った説明がされなければ倫理性の問題にもなってしまうわけで、今の時点では しばらくこの体制を続けざるを得ないのではないかと思います。 ○澤委員 そういうことですね。ですから、二重審査が悪いというよりは、しっかり皆で見 ていくということがまだまだ必要だということですか。 ○永井委員長 そうですね。 ○澤委員 もう1点は、そういう科学性の評価をするための、論点も含めて、申請をすると きに申請側があまりわかっていないのではないかということが、実はこれは再生医療学会の ガイドラインの委員会で出たのです。要するに、申請する側も、どの論点に申請すべきかと いうのが、ああいう指針を見ただけでは行間をなかなか読みづらいというところもあるので すけど。 ○永井委員長 そういう難しいことではなくて、きちっとした論理が成り立っているかどう かということを我々はチェックさせていただいています。 ○澤委員 申請する側は必ずしもそうは思っていなくて、つい難しく思ってしまうのです。 ○永井委員長 たぶん、思い入れが強すぎて、大事なポイントが抜けていることがあります。 それは第三者でないと気がつかないこともありますし、同一施設の方だとわからないかもし れないですね。そういう意味では、まだお互いに勉強している段階ですが、いずれにしても、 とにかく日本でこういう研究が生まれて、間違いがあって社会的な批判を受けるようになる と、研究全体に影響がでると思います。そういうことのないように今はまだ慎重に進めてい る段階と私は理解しております。 ○梅澤委員 いまのところにもあるのですが、二重審査というところで、もしIRBで拒絶 されている例が少ないのであれば、全例中央審査のみで承認するというのは大変でしょうけ れども、考えられるのかなというふうに思います。これは事務局が大変すぎて無理かもしれ ませんが、可能性としてはあり得るかなと感じております。  もう1つ、厚生労働省の専門委員会で承認された申請につきましては、申請者の許可が得 られ公開してもいいという部分に関しては公開していただければありがたく存じます。確か に、厚生労働審議会のほうでダウンロードができるウェブサイトがありますが、肝心な所が 抜けているところがあって、申請者が許可した部分に関しては公開していただけるとありが たく存じます。「ここまでやらないといけないのか」とかいう点がわかりますし、申請につ いてのプロトタイプといいますか、そういうものがあったらいいかなと感じております。承 認された申請の病名の表が指針のQ&Aの中にホームページのサイトを入れておいていた だいて、そのホームページの先を行くと、専門委員会で承認された病名が全部列挙されてい るとありがたく存じます。そういう簡単に変えることができるところにつきましては申請者 サービスといいますか、変な話ですが、可能である範囲の中でご検討いただけたらと思いま す。 ○永井委員長 すでに科学技術部会で許可されたものについては公表されていると思いま すが。 ○事務局 はい。現状を申し上げますと、今のところ、審査の委員会自体は非公開で行われ ていますけれども、その結果を報告する厚生科学審議会の科学技術部会の資料は基本的に公 開になっていまして、先ほどご指摘のとおり、ホームページ等で閲覧していただくことが可 能です。その中で、当然、知財関係の部分とか、外に出しては困るという部分は確認させて いただいていて、現在はいちばんメインになる申請書、研究の概要を示していただいた要旨、 被験者さんへの説明文書、これを3点セットとさせていただいて、それを公開させていただ いております。当然、その試験薬概要書とか、そういったものに関しては出さないようにし ております。 ○梅澤委員 科学技術部会の中で出しているものはダウンロードできるのでわかるのです が、もうちょっと情報公開できると思うのですが、いかがでしょうか。たぶん、申請者側で 許可できる部分があると思うので、これは申請者側の問題として、もうちょっと(社会に) 公開してもいいだろうという部分があれば公開していただきたい。それは、別に、科学技術 部会に上げなくてもいいのですが、どちらかのホームページで、その許可を得た部分だけで 結構ですので、アップロードしていただければと思います。 ○西川委員 おっしゃるとおりで、例えば製薬メーカーがSOPを公開しろというのは絶対 に駄目なのですが、いろいろな公的な機関でCPCをきちっと運営されている所でSOPなど を出していただけるとものすごく役に立つのではないかなと、あの申請書などを見ていても そう思いますので、そういう取組みをやっていかれたらいいのではないかと思います。 ○中内委員 先ほど、ヒトESのほうはかなり内容が固まっていると高坂先生がおっしゃっ ていましたが、固まってきたのは比較的最近で、最初のころは何をやっていいかよくわから なくて、それがものすごくプレッシャーになって申請をする数が減ってしまったのですが、 そういう状況に対応して文科省が生命倫理安全対策室のほうでチェックリストをつくられ たのです。そういうリストがあると、何が論点になるかということが非常にわかりやすいの で、各IRBもやりやすくなってきたのではないかと思います。そういうチェックリストを つくるというのは1つの方法で、それを学会でやるべきか、行政の側でやるべきか、そこら 辺は協調してやるのがいいのかもしれないですが、それは再生医療学会としても是非前向き に取り組まなければいけないと考えておりますので、よろしくお願いします。 ○武藤委員 いま中内委員がおっしゃったことと関連して、審査をする側に対する審査のポ イントの提示も必要かなと。いまおっしゃったのは研究者の側に対するということでしょう かね。それで、審査をする側にとっても、何をもって審査をすればいいのかということがは っきりするとわかりやすくて、例えば今度の改正のときに、ここに同じように足並みを合わ せて倫理審査委員会に対する教育を努力義務とすると入れても、たぶん、これを配って終わ りみたいなことがあり得るので、もう少し今までの経験から踏み込んで、審査のポイントが わかるものを何か作成されるといいかなと思います。 ○永井委員長 もし学会でそういうワーキングでも立ち上げていただいて、事務局と一緒に これまでの議論のポイントを挙げていただけると随分違うかもしれません。我々も、これが おかしい、どこに齟齬が生まれているか、というのはだんだん見えてきましたので。 ○澤委員 先ほど委員長からお話がありました学会のほうの臨床研究ガイドライン委員会 でもそういう意見が随分出てきていまして、通った側の感覚も審査する側からの感覚も、あ る一定の方向のポイントというものが出てきているみたいですので、是非その辺りはしっか り学会として、虎の巻と言うと怒られるかもしれませんが、ガイドラインをつくっていけば いいかなと思っています。 ○中内委員 決して楽をして通そうというわけではなくて、臨床研究ガイドラインですので、 ややこしい生命倫理の問題とか、そういうものはここにはなくて、主眼は科学的合理性とか 安全性とかになると思いますので、そういう点では我々が関与していってもいいのではない かと思っています。 ○本田委員 私は研究者とか科学者のほうの立場からの視点はわからないことが多いので ご質問と意見なのですが、受ける側でちょっと伺いたいのですが、とっかかりとして、佐藤 委員から説明いただいた臨床研究指針2008の改訂の3頁目の主な改正点1の所のいちばん 最後に「診断及び治療のみを目的とした医療行為は指針の対象としない」という、これは普 通の臨床研究の指針のときにはこういうものが入っていてそれはわかるのですが、このヒト 幹細胞を用いる場合の研究にこれも入っているというのは、ヒト幹細胞を用いた臨床研究は わかるのですが、ヒト幹細胞を用いた普通の医療行為というのは存在しているのかどうかと いうのがわからない。なぜこういうことを言うかというのを是非教えていただきたい。なぜ そういうことを言うかというと、ヒト幹細胞に限らなくて、まだ今の段階では自己由来細胞 とかのいろいろな部分の臨床試験と称して普通の高額な治療をしている。それも、患者がす ごく科学的なこともわかって納得してやっているのだったら、ある程度しかたがない部分も 認められる部分もあるのかもしれないのですが、わからない上に例えば培養とかの技術レベ ルもどうなのかということを誰も審査していない上でやられていて、それがこれからの臨床 試験、特にヒト幹細胞とかiPSといった国民の期待、特に患者は藁にもすがりたいと思うよ うな中でそういうことを言われて、「あっ、いま話題のこれか」と飛びついてしまうような ことにも今後なりかねない。そうすると、逆に批判をより浴びてしまうことにもなりかねな いという不安をちょっと感じていて、いまこういうことを伺ったのですが、そういうことが わかるような、これは臨床研究の中できちんとやられているのだとか、そういうこともどの ように入れ込んでいくのか。  もう1つは、その審査をする過程で、特にこういうヒト幹細胞を用いる臨床研究などの際 に、被験者側が必ず自己チェックというか、研究者側から説明を受けた際にこれだけは確認 しておかないと、本当にそうなのか大丈夫なのか、後で自己責任を問われないかとか、そう いうポイントとかも知れたらいいなというのも感じました。すみません、意見と質問だった のですけど。 ○永井委員長 実際に、造血幹細胞移植というのはまさにそういう診断と治療を目的として いますし、先ほどの大規模な熱傷の後の皮膚の幹細胞移植は長い歴史があります。ですから、 そういうものは指針の対象にはならないわけです。しかし、まだほとんどの研究はこれから という段階ですし、今はまだ安全性を検討しています。 ○西川委員 ただ、おっしゃる部分で言うと、美容整形などに使われているのがありますよ ね。それは実際にウェブサイトを見ていただいても、培養細胞で治療するとか、そういうの があります。ですから、そういうものがこういうところに来るかというと、絶対に来ないと 思います。もう1つ、おっしゃっているのは例えばがんの治療とか、そういうものは対象に はなっていないと私は今理解しています。 ○武藤委員 でも、いま西川委員がおっしゃったことはとても大事で、私もステムセル・ツ ーリズムの調査みたいなことで、YouTubeとかブログとかでどのようにして勧誘をして患 者さんを募っているかということを今調べているのですが、患者さんたちからすると、臨床 研究などに参加するよりもお金があって時間がとれるならばそっちに行ったほうがいいと いうことになってしまうので、それは患者さんの考え方にもよりますが、なるべく避けてい ただいて、臨床研究でしっかり安全性が確認されたところにチャレンジしていただきたいと 個人的には思いますし、それが先生方の思いとも同じだと思いますので、そういう意味で、 患者さんが、臨床研究に参加しようか、そういうクリニックに行こうか、ということを迷う 岐路に立つような方々にとっても必要な情報とこれが一体化しているということがとても 大事なのではないかと思います。 ○佐藤委員 私もお2人と全く同じで、要するに安全性と有効性がある程度確立されている もので通常の医療の中で行われているものについてはそれほど心配しなくていいと思うの ですが、それがはっきりしていないのに指針の対象外で高額のお金を取ってやっているとい うようなものが確かにたくさんあります。ただ、この指針自体は、残念ながら倫理指針で、 法的な拘束力も罰則を付けることもできませんので、それは別途、例えば医療法や薬事法の 広告規制等々で対応を考えていく必要があるだろうなということを考えました。 ○西川委員 今年の4月か3月にそういうシンポジウムをやったのですが、1つ重要なのは、 厚生労働省も私たちも含めて、患者さんの団体ときちっとコンタクトをとって、実際に行か れるのは患者さんなのですね。そういう方々が、少なくとも、登録される。例えばインドに 行かれるとか、中国などはあるのですが、そういうケースに関しても登録される。今は、例 えば脊髄損傷の会等はそういうことをきちっとやる仕組みが、岡野先生を含めてできていま す。ただ、なかなか登録まではいかない。ですから、一方でそういうものをトランスパレン トにして科学性を私たちが獲得していくと同時に、しかしそれでも、いまおっしゃった個人 で選ばれた部分に関しても登録される。そして、患者さんが情報を入れるという状況をつく っていかないと、結局、この問題はいつまでも自由な医療ときちっと規制された医療という ので解決しない問題なのですね。ですから、私は登録がいちばん重要かと思っています。 ○本田委員 そういう登録の形とかもあればいいと思いますし、臨床研究の中で進めていな くてもきちんとやっているところなのか、例えば細胞の培養にしても何にしてもきちんとや っているのだけれどもいろいろな理由で臨床研究などに載っていないのか、もしくはそうい うところに載ることができないレベルでやっているのでやっているのか。特に、進行がんの 患者とかになるとすがりたくなることもたくさんありますので、そういう際に患者の視点の 側で何を見て、最終的に臨床試験にも載っていないようなところでもやりたいと思うような 場合ももちろんあるけれども、それを全部規制することはできないと思います。ただ、何を ポイントで見たらいいのか。この指針でも、もちろん研究者に対するそういうものは指針な ので必要なのでしょうけれども、QAなどは患者向けの一般国民向けのQAとかもあったら いいのかなとか、患者のほうが何かを判断するのに何を見て判断していいのかみたいなもの を出すようにしていただいたほうが、今後の信頼性という意味でも大きな問題になっていく 可能性もあると思ったので、そういうこともご検討いただければと思いました。 ○西川委員 しかし、それは基本的には、医学というものについて言うと、統計的な有効基 準をきちっと調べる方法があるわけです。ですから、それが公開されるかどうかがいちばん 重要であって、例えば5例ぐらいの症例で、それが効いたとか効いてないとかいうことの宣 伝ではないのです。ですから、多くの患者さんたちがいろいろな登録の上でエンドポイント を決めたトライアルに参加されて、そこで承認される、ポジティブになったものはたぶん安 心だろうと。だからこそ、逆に、最初はわからないわけですから、こういう指針をもっても う一度そういう科学性を獲得しようということを今からやるわけです。患者さんたちも、そ ういう形でしか今は有効性というものを私たちは語れないのだということをわかっていた だくというか、平積みの本が正しいのかどうかというふうにある程度考えていただくしかな いと私は思います。 ○本田委員 もちろん、最終的にそうあってほしいと思っているのですが、そこに至るまで の間にもこちら側がチェックするようなものもあればいいなという意味合いです。 ○永井委員長 審査委員会では患者さんへの説明文書もかなりチェックはしていまして、わ かりにくい表現とか論理がわからない部分をかなり指摘させていただいているのです。さら に踏み込んでQ&Aのような形にするというのはこれからの議論だと思いますが。 ○高坂委員 いまのご議論というのは、この指針の中に盛り込んでいくというよりも、例え ば厚生労働省のホームページで一般に広くお知らせしてあげるというような、そういったと ころでやるべきことだろうと思います。あるいは、内閣府の方がいらっしゃるので、内閣府 でもいいのですけど。 ○澤委員 この佐藤委員の主な改正点の2の健康被害の補償のことですが、今回非常に大き なウェイトを占めているのですが、実は、いろいろなことでいくと、こういうふうなファー ストインマンみたいなものとか、がんもそうなのでしょうけれども、対象外になりやすいと いうか、あまり対象にならないという話があって、この辺りの議論はどうなのですか。今は まだ整備中ということですか。 ○永井委員長 かなり対応できるというふうに聞いておりますけど。 ○澤委員 この前、保険のあれも聞いたのですが、個々にその保険会社が来ると、会社によ ってばらばらですけれども、コホート研究とか、大きな臨床研究は非常にいいのです。まず、 がんは外れますよね。がんのものは対象としない。 ○事務局 がんといいますか、抗がん剤です。 ○澤委員 動いていても、幹細胞で非常に難しいものについては別途相談みたいな、そうい う形ではないですか。 ○永井委員長 事務局はその辺の情報をお持ちでしょうか。 ○事務局 まず、指針としては補償その他の必要な措置ということで、もちろん保険、補償 金を第一義にしていますが、その他のことも含めて考えてくださいということになっていま す。あと、保険商品につきましては、当然、掛金と償還金との発生比率の問題がありますの で、実際に抗がん剤みたいなものは死亡重篤症例が非常に広範囲に高頻度で起きるというこ とがあって、保険商品の掛金についてはできないと。これは、実は、医薬品被害救済基金の ほうの対象除外医薬品に載っていることにもあるのですが、そういった技術的な問題で補償 保険という制度が民間レベルでも積上げが不可能ということがあって、そこについては必ず しも補償金という形をとらなくてもいいのではないかと。ただし、次善策として見舞金とか 医療費あるいは医療手当といったことも検討してみてくださいという話はガイドしている ところです。もちろん、それについても実際は支払い不能に陥ることもあり得るので総合的 に判断していただかざるを得ないのですが、全体としてはその他の必要な措置も考えてくれ というような中でやっています。先生がご指摘のように、保険商品というものは掛金という ものが存在して、実際にそれに基づいて償還金というものがあって、頻度の問題などで、ご 指摘のように、支払保険ができないというようなものも当然存在しているというのが実際だ と思います。 ○澤委員 ですから、個々に相談しても、結局、会社がもう引き受けられないというような 形で断われる場合が多くて、がんも同じで、重症心不全も亡くなる方が本当に多いという状 況になってくるので難しくなって、会社側が引いてしまうようなことがある。そういう場合 は、これは、従来どおり、補償については誠意をもってとか、前はそういう書き方にしてい ましたが、そういう形でも今後もまだ成立するのですか。それとも、これは臨床研究だから 措置を取る必要があるということで。 ○事務局 指針上の制度から言うと、ヒト幹細胞臨床研究指針に関してカバーされているも のは臨床研究指針では適用されません。これは他の法律あるいはガイドラインで適用になっ たものは臨床研究倫理指針では適用しないというふうに明言されているので、そういう意味 ではこちらのヒト幹の指針についてはこちらで考えた形になろうかと思います。 ○千村課長 いま申し上げたとおりですが、まず、先生がご懸念になっておられる臨床研究 の倫理指針、改正されたものに伴う補償等々に関しては、先ほど申し上げましたように、基 本的には何らかの補償の措置が必要である。それは、民間商品として提供されている保険が あれば、それによって対応していただくということも可能です。それから、そうでない場合 には、そうでない例えば医療の現物を給付するといったようなことで対応していただく。そ れについて、どういった対応をするかということについては、事前に、被験者の方には、い ろいろな臨床研究に関する説明をしていただく際に、この研究に関して健康被害を受けた場 合にどのような補償の措置が講じられますということを明確にお話していただいた上で、研 究に参加していただくか参加していただかないかということを決めていただくということ を臨床研究指針の中では求めているというところです。それで、今回、ヒト幹細胞の臨床研 究指針を改正する場合にこれと同じような考え方を持つのか、あるいはそうではない考え方 を持つのかということがこれからご議論いただくことになるのだろうと思いますが、いずれ にしましても、これは民間で提供される保険としてのものを提供するということになれば、 当然、リスクに応じた掛金というものが必要になってきましょうし、それに対しては民間で 商品として提供されるかどうかというところは、ある意味では、我々行政サイドから介入す るのは不可能なところでもありますので、提供していただけるようなことを考えるとすれば それなりの保険料をお支払いいただくということになってこようかと思われます。基本的に は、とりあえずそのような今の時点の議論の整理であろうかと思います。 ○澤委員 わかりました。 ○佐藤委員 臨床研究の倫理指針の見直しの際に、私は個人的な意見として、患者さんに治 療性のある臨床研究と純粋にデータをとる臨床研究と分けて考えていいのではないかとい うことを申し上げたのです。幹細胞の場合には患者さんの治療を第一の目的としていますか ら、必ずしも厳しい対応は必要ではないかと思います。もう1つは、それに反してと言うべ きなのでしょうか、私は現物を見ていないのですが、この6月の臨床研究指針のQ&Aで、 指針本文よりは少し厳しめのアンサーが出たという話を聞きましたが、それとこれがどうい う関係になるのかなということがちょっと気になっているというぐらいです。ですから、必 ずしも幹細胞のほうでこれと同じだけの措置を必要としないという考え方もできるだろう ということです。 ○永井委員長 その辺はこれからの議論の課題ということでよろしいでしょうか。そうしま したら、ただいまご議論いただいた外部倫理審査委員会の倫理審査の依頼という点につきま しては、次回以降、論点を事務局からご提示いただくということにしたいと思います。本日 いただいたいろいろなご提案を踏まえまして次回の議事を調整したいと思います。また何か 委員の先生方からご意見がありましたら、事務局までお寄せいただきたいと思います。 ○高坂委員 実は、前回の委員会でも伺ったのですが、ES細胞のことがどうしても気にな っていまして、ここでESを含めた細胞を1つの対象とするかどうか、含めるかどうかとい う点なのですが、それはいまES指針ですが、これはかっきり研究のためと謳っていて、臨 床研究は駄目だというふうに謳っているわけです。それをどのように今後考えていけばいい かと。すなわち、ESから分化した細胞を使うというのであればまだ抜け道はあると思うの ですが、ES細胞をこのために樹立してというふうになると、おそらく、今は手立てがなく なってきていると思うのです。だから、そこら辺を今後どのように。 ○西川委員 ES細胞の委員会の考え方でもないのですが、基本的には、厚生労働省のほう で明確な方針が出たらそれに合わす。すなわち、基本的には研究と臨床応用というものは違 うけれども、例えば研究のほうで臨床応用を最終的に認めさせていかないと臨床応用できな いというふうには考えていないので、逆に、ES細胞であればこういう枠内でこういうふう にやっていただいたら臨床応用が可能ですよということが明確に示されたら、それに文科省 のES細胞の委員会も合わしていくというスタンスで考えています。 ○高坂委員 どちらが鶏か卵かの議論だと思うのですが、ここではESも使え得るというこ とを前提にこの指針をつくっていけばいいかどうかという点なのですね。 ○西川委員 だから、ここで考えていただくと言うかどうか、その1年というタイムスケジ ュールがありますから、それは永井先生なり今後の議論だと思いますが、基本的に文科省の ES細胞委員会とここというものはわりと独立して考えていただいて、その整合性に関して は後できちっと直していくというふうにすればいいと私自身は思っております。 ○永井委員長 事務局、いかがですか。どこまでESについて議論するか。 ○事務局 これはまた文科省のご担当の事務局に確認をさせていただきますが、たしか、現 在行われているES細胞のほうの指針では臨床研究を禁止するという文言を消す改正をし たというふうに聞いていますが。 ○西川委員 それはないです。 ○事務局 ちょっと事実関係を確認させていただきますが、次回までにその点を整理させて いただきます。すみません。 ○永井委員長 ということで、事務局から連絡事項をお願いいたします。 ○事務局 本日はお忙しい中、また、遠方よりご参加いただきありがとうございました。本 日いただきました大変貴重なご意見につきましては事務局で整理をさせていただき、改めて ご提示させていただきたいと存じます。次回の会議期日は7月29日17時からの開催予定 となっております。次回の委員会では主に研究機関の基準やヒト幹細胞臨床研究における安 全対策などについてご議論いただくことを予定しております。詳細につきましては追って連 絡をいたします。 ○永井委員長 それでは、本日の委員会は終了させていただきます。どうもありがとうござ いました。 照会先 厚生労働省医政局研究開発振興課 田邊 03−5253−1111(内 2541)