09/04/30 第2回労働基準法施行規則第35条専門検討会議事録(平成21年度) 第2回労働基準法施行規則第35条専門検討会 1 開催日時及び場所  開催日時:平成21年4月30日(木)午前10時00分から午前11時30分まで 開催場所:厚生労働省専用第18会議室 2 出席者  医学専門家:圓藤吟史、大前和幸、岡田了三、奥平雅彦、櫻井治彦、夏目誠、馬杉則 彦、別府諸兄、堀田饒、柳澤信夫、和田攻  厚生労働省:新宅友穂、絹谷國雄、神保裕臣、山口浩幸、宮村満、柘植典久、他 3 議事内容 ○関谷職業病認定業務第1係長   定刻となりましたので、ただいまから第2回「労働基準法施行規則第35条専門検討会」 を開催させていただきます。本日は大変お忙しい中をお集まりいただき、感謝申し上げ ます。なお、兼高達貮先生、工藤翔二先生、山田義夫先生につきましては、本日の検討 会は御欠席との連絡をいただいております。以降の議事進行は座長であります櫻井先生 にお願いいたします。 ○櫻井座長  まず、事務局から資料の確認をお願いいたします。 ○関谷職業病認定業務第1係長  資料の確認をさせていただきます。資料1「上肢障害について」、資料2「木材粉じん による副鼻腔がんについて」、資料2-1平成14年度労働基準法施行規則第35条専門検討会 に提出した、産業医科大学寶珠山務講師による「木材粉じんによる非アレルギー性健康 障害」の文献、資料2-2寶珠山講師が平成15年に産業医学レビューに発表した「木材粉じ んとがん」の文献、資料3「理美容のシャンプー、コールドパーマー液等の使用による接 触皮膚炎について」、資料3-1平成20年に独立行政法人労働者健康福祉機構が研究した 「職業性皮膚障害の外的因子の特定に係る的確な診療法の研究・開発、普及」研究報告 書、資料4「インジウムによる間質性肺炎について」、資料4-1大前教授による作成資料 「インジウム化合物曝露作業者の呼吸器障害」、資料5「疥癬について」です。 以上です。 ○櫻井座長  それでは、議事次第に沿って進行してまいります。資料1「上肢障害について」につい て、事務局から説明をお願いいたします。 ○柘植中央職業病認定調査官  今回は多くの議事案件があり、時間の関係もありますので概括的に説明させていただ きます。資料1「上肢障害について」を御覧下さい。上肢障害については、労働基準法施 行規則別表第1の2第3号4に、「せん孔、印書、電話交換又は速記の業務、金銭登録機を 使用する業務、引金付き工具を使用する業務その他上肢に過度の負担のかかる業務によ る手指の痙攣、手指、前腕等の腱、腱鞘若しくは腱周囲の炎症又は頸肩腕症候群」と規 定されています。  支給決定件数の推移を見ますと、平成15年度581件、平成16年度671件となっており、 平成19年度は940件と増加傾向にあります。  どのような作業で増加しているのかを見るために、北海道、千葉、愛知、兵庫、広島、 福岡の6地方労働局の作業態様別支給決定件数について調べました。4頁の別紙1は、「上 肢障害に係る平成11年度認定分と平成19年度認定分の作業態様における比較」であり、 平成11年度と平成19年度の増減や構成比を調べたものです。一番下の合計を見ますと、 6労働局で平成11年度は118件、平成19年度は222件ということで増加している状況にあり ます。  作業態様について見ますと、上肢の反復動作の多い作業におけるC上肢の挙上保持と反 復動作の多い作業の中の、「製造業における機器等の組み立て・仕上げ作業」が、平成 11年度が13件であったのに対し、平成19年度は53件と増加しており、構成比も23.87%と かなり増加している状況にあります。次いで、その下の「給食等の調理作業」が平成19 年度32件と増加しております。この分類Cの小計が125件となっており、全体の半分以上 を占めている状況です。5頁以降は4頁の表の認定例の代表的なものをピックアップした ものです。  1頁に戻りまして、認定基準について御説明いたします。2の「上肢障害に基づく疾病 の業務上外の認定基準について」は、平成9年に作成されたものです。認定基準では、上 肢等に負担のかかる作業として、(1)上肢の反復動作の多い作業、(2)上肢を上げた状態 で行う作業、(3)頸部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業、(4)上肢等の特定の 部位に負担のかかる状態で行う作業に対応した対象業務が規定されています。2頁は認定 基準の運用上の留意点を示した通達であり、対象業務が例示されております。(1)のイ、 手指・手・前腕を早く動かす反復動作の多い作業では、(イ)コンピューター、ワード プロセッサー等のOA機器、VDT機器等の操作を行う作業といったものです。  [2]の対象疾病については、上肢等に過度の負担のかかる業務によって、後頭部、頸部、 肩甲帯、上腕、前腕、手及び指に発生した運動器の障害と定義されています。例示疾患 として、上腕骨外(内)上顆炎、肘部管症候群、回外(内)筋症候群、手関節炎、腱炎、 腱鞘炎、手根管症候群、書痙、書痙様症状、頸肩腕症候群が例示されております。  3頁は、認定基準改正の基となりました「平成9年頸肩腕症候群等に関する検討結果報 告書」の検討結果についてです。当該検討会を始めるきっかけについて、「発生職場の 変化、上肢作業者に発症した疾病の多様化、諸外国における疾病概念の変更等に十分対 応したものになっていない」とし、その結果、「上肢に過度の負担のかかる作業に一定 期間、原則として6か月以上従事し、業務上の要因が他の要因と比べて有力と認められる 場合には、業務起因性があると判断される」としています。具体的には、5頁の上肢障害 に係る労災認定事例として、コンピューターなどの事例が載っています。その下の(注) ですが、1.同一事業場における同種の労働者と比較して、おおむね10%以上業務量が増 加し、その状態が発症直前3か月程度にわたる場合、2.業務量が一定せず、例えば次のイ 又はロに該当するような状態が発症直前3か月程度継続している場合です。参考として11 頁に「欧州主要国等の労災職業病リストにおいて列挙される規定の比較」ということで、 イギリス、フランス、ドイツの規定の比較をしております。事務局からは以上です。 ○櫻井座長  事務局から概括的な説明がありましたが、御質問がありましたらお願いいたします。 ○柳澤先生  質問というより意見です。上肢障害の場合に、現在2頁に対象疾病と書かれている中 で、書痙とか書痙様症状という疾病が含まれているのですが、認定する医師の立場とし ては、こういうものは神経内科の医師でないと診断できません。5頁のコンピューター やワープロを使った手の障害というのは、もし腱鞘炎であるならば、その腱鞘炎を起こ すことによって、ワープロの作業をしないような状況、例えば炊事であるとか、手で字 を書くような筆記であるとか、そういうところのすべてに障害が出てくるはずです。  11頁のイギリスでは限局性ジストニアという言葉を使っておりますけれども、そのよ うな状態であるならば、その原因となるような仕事以外のところでは、手を使っても一 切症状は出ないです。ですから、診断する医師の場合に、ある程度の診断基準というか、 情報としては腱鞘炎として実際に局所に炎症が起こっている状態と、機能的な障害とし ての書痙あるいは上肢ジストニアというものはある程度判別していくということを、こ れからは何らかの形で示していくことは必要ではないかと思っています。 ○別府先生  私は上肢を専門にしているのですが、私の実践の臨床でも先生がおっしゃられるよう な患者さんが来られます。比較的プリミティブな場合において、鑑別診断は容易です。 難しいのは両方を合併しているときです。どちらか1つであるのでしたら、比較的診断は 容易です。両方あって、両方を上手に治していくときに、少し診断の難しさがあります ので、私たちも神経内科の先生と共同して治療しております。フォーカルジストニアと いうのは、現在は職業のみならず、音楽関係等いろいろなもので大変問題になっている と理解しています。 ○和田先生  その場合、書痙とかジストニアというのは、多動することが原因として出る病気と一 応は考えていいわけですか。 ○柳澤先生  細かいことになりますけれども、書痙とかジストニアの場合に一番原因となるのは、 繰り返し運動そのものではなくて、繰り返し運動を行うことによって、人間の運動とい うのは必ず運動に対して皮膚であるとか、関節であるとか、筋肉であるとかからの情報 が脳に行って、そして運動を適正に行うような神経回路が働いています。そういう過程 の中で、繰り返し運動を頻繁に行うと、その運動にかかわる感覚情報が非常に強力に脳 に行ってしまって、結果としては目的とする筋以外の筋まで活動するような、そういう 回路網が活動してしまうということです。ですから、末梢の腱の機械的な損傷というこ とではなくて、むしろ脳の方の問題があるものですから、一応分けて考えた方がいいだ ろうということです。脳の中の神経回路網の機能異常という形です。 ○別府先生  そこは、繰り返しする動作自体が、そちらの方へすべて100%行くと。あとはサイコツ マティックな要素というのがネグレクトできないというのが、おそらく学会などで。回 数がものすごく多くなくてもなる方がいるところが、正直言って診断の難しいところで はないかと理解しています。そうしませんと、何でもたくさんやった人はみんなフォー カルジストニアになってしまうと、ちょっと難しい問題かと思っています。 ○柳澤先生  そういう精神的な要因がどのぐらい関与するかということについて、現在はあまり関 与しないだろうと。ただ、人によって異常な神経回路網の活動状態ができるのに、どれ だけの刺激、つまり反復動作が必要かということは人によって違うという理解です。で すから、そこに精神的な要素を入れてしまいますと、今度は労災として考えたときに複 雑な問題が出てきますので、書痙とか上肢ジストニアの場合には精神的な要素は考慮し ない方がいいだろうというのが、基本的には神経内科的な立場です。 ○櫻井座長  特段追加の御質問、御議論がないようでしたら、事務局の方でこういう問題を提示さ れた背景として、上肢障害に関して第3号4を改正するということを考えているようです ので、事務局としての提案を説明してください。 ○柘植中央職業病認定調査官  事務局としては、先ほど御説明させていただきましたように、現在規定されている業 務内容、疾病名が実態に合っていないということで、認定基準に合わせた改正が必要だ と考えています。  具体的には規定にありますように、「せん孔、印書、電話交換又は速記の業務、金銭 登録機を使用する業務」と例示されています。実際に発生している事例としては、機器 の組立て、給食の調理といった業務で、大変幅広い業務での発生が見られることから、 認定基準が定義しているところの、上肢の反復動作の多い業務その他上肢に過度の負担 のかかる業務といったような、広範に業務集団を例示することとしてはいかがかと考え ているところです。  また、疾病名についても腱、腱鞘、頸肩腕症候群といった概念ではなくて、認定基準 が定義しているところの「後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指に発生した運 動器の障害」といったような、具体的一般的なものに変更してはいかがかと考えている ところです。 ○櫻井座長  以上のような提案ですが、いかがでしょうか。 ○別府先生  私は、実際の現場に合った表現だと思うので、こちらの方が適切かと思います。[2]の 疾病名のところで、もうちょっと広範になるので、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、上肢、 前腕、手、指に発生した運動器の障害の方が、いまの障害を起こす所には合っています ので、この方がよろしいかと思います。 ○和田先生  この方がはっきりしているのでいいと思います。ただ、運動器と広げた場合には、い ままでは大体腱鞘炎を中心に対象としてきました。一部筋肉とか、関節、骨もある程度 認めている場合もあるようですけれども、運動器というと全部含めるということで、か なり幅広く対象にするということになると思います。骨の障害、関節の障害、筋肉の障 害というものも全部含めてしまうという意味を持っているということですか。 ○別府先生  逆に、腱鞘、腱と区切ってしまうとちょっと狭いかなと。逆にそういう余地も少し広 げておいた方がいいのかと考えて、運動器の障害の方が理解がいいかと考えます。運動 器という言葉自体が、比較的最近の表現なものですから、関節腱、靭帯、腱鞘、筋肉と いうエリアで先生がおっしゃるとおり、少し間口を広げたような感じにはなっておりま す。かえって狭くした方がよろしいでしょうか。 ○和田先生  そういう所まで広がっているということであれば、それはもちろん含めるべき問題だ と思います。筋肉炎、骨の障害、関節の障害というのも当然出てくるだろうとは思いま すけれども、他のものが入ってくる可能性が強くなってしまうかなという感じがしまし た。事実そういうものが発生しているということであれば、それは全然問題ないことで す。 ○櫻井座長  その点については、いままで事務局の方でお調べになった資料からは、特段根拠にな るような情報はありますか。 ○絹谷職業病認定対策室長  事務局で調べました傷病名について、5頁以下にそれぞれの事例について記載させてい ただいております。腱鞘炎とか、上顆炎、肘部管症候群といった傷病名で現在は認定し ている状況です。いま和田先生がおっしゃいました、骨そのものの疾患というものは、 いまはあまり出ていないといいますか、そういう場合の診断名としては、やはり炎症、 腱鞘炎、あるいは上顆炎といった診断がなされるのではないのかと考えております。 むしろ、事務局からいかがでしょうかとお聞きしたいところです。 ○別府先生  今後は関節自体の障害が出てきてもおかしくはないのではないかと思います。いま申 し上げたような疾患がメインだろうと思うのです。6か月間という診断の規定の中で、6 か月間で関節障害まで出てくるというのは少ないのではないかと思います。比較的期間 的な限定で出てくるものは、やはり腱鞘、筋腱移行部のものが主となるものだと理解し ています。 ○柳澤先生  私は、11頁のイギリスの分類というのが、全体として上肢障害を見た場合には妥当な のではないかと思います。実際に機械的な損傷が、そういう身体部位に生ずるというこ とで腱鞘炎とか、あるいは関節の障害も出るかもしれません。骨まではないだろうと思 いますが、そういう機能的な障害によるものもかなりあるのですけれども、従来はそう いう形では診断されていなくて、たぶん腱鞘炎という診断で出てきているということが あるのだろうと思います。そうしますと、病態そのものが、その方にとっては意味が違 うというか、日常生活の中で意味が違うものですから、そういうものははっきりと分け て、認定の場合もきちんと把握しておく必要はあるだろうと思います。病名としては、 一般的な意味で、いまの段階では上肢障害という形で、先ほどの運動器の障害というこ とで括っておくのが適切ではないかと思います。 ○奥平先生  運動器には、骨関節は当然入るわけです。ただ、認定要件について先ほど1頁で説明が ありましたが、この認定要件に合った上肢障害ということになるので、一般にいう骨関 節疾患が入ってくる可能性は少なくなるのではないかと思いますが、どうでしょうか。 ○柳澤先生  先ほど申し上げたのですが、それを全くネグレクトしてしまうのかどうかということ で、別府先生と同じ意見であり、そこの窓口も開けておいた方がよいと思います。そう なると筋肉なども入らないということになってしまうので、これからフォーカルジスト ニアとかいろいろなことが入ってきた場合に、運動器の方がいいかと思うのです。先生 がおっしゃるとおり、この文面からいくと、腱鞘がほとんどで、そして3か月、6か月と いう括りですと、最初はそういうものがほとんどだと感じております。  例えば、上腕骨外側上顆炎という病気がありますが、そのようなものも最初は腱の付 着部の問題なのですが、これが時間が経ってきますと、いろいろな障害が関節自体にも 難治例に関しては起きてきます。そうしますと、その境い目とか狭間の方がちょっと難 しい感じになってしまうので、括りとしては運動器の方がよろしいかと思っております。 ○和田先生  もちろん運動器で構わないと思うのですが、概念としてかなり広がったということを 根底に考えておくのかどうかというだけのことです。骨とかそういうものも考えますよ、 ということを示しているかどうかというだけのことで、特に問題はないです。 ○別府先生  2頁の対象疾病として後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指という形での部位的 指定は当然あるわけです。 ○櫻井座長  重要な課題ですが、他にも予定されている議題があります。最終決定ということでは なくて、本件について事務局提案のとおり、現在の認定状況とは異なる業務が例示され ている状況にありますので、業務内容を発生職場の実態に合わせて変更する。それと同 時に、疾病名についても認定基準に合わせて変更するという、その方向性についてはそ れでよろしいでしょうか。 (異議なし) ○櫻井座長  ありがとうございました。それでは、3号4については、業務内容、例示疾病を「上肢 障害に基づく疾病の業務上外の認定基準」で定義した概念に変更することにいたしまし て、その具体的文言については全体の検討が終了し報告書をまとめる段階で、再度その 表現の仕方等については検討の機会がありますので、その段階で改めて検討することに して差し支えなければそのように御了承いただきたいと思います。 (異議なし) ○櫻井座長  ありがとうございました。それでは、この件はそのようにさせていただきます。次の 議題は、資料2「木材粉じんによる副鼻腔がんについて」を事務局から説明をお願いいた します。 ○柘植中央職業病認定調査官  資料2「木材粉じんによる副鼻腔がんについて」です。平成14年の検討会においても検 討していただいておりますので、それについて御説明いたします。1「背景と平成14年検 討会での検討結果」についてですが、当時の検討結果については、平成14年6月に開催さ れたILO第90回総会において採択された第194号勧告の職業病一覧表の中の「3職業上のが ん」の中に、新たに「3.1.4木材粉じん」が追加されました。  平成14年の35条専門検討会におきましては、「諸外国における調査等では、有意なリ スク上昇等が見られるが、日本における木材の塵埃によるがん発生リスクが上昇したと の疫学報告は見当たらない。従って、因果関係が明確になっていないことから、現時点 において、新たに追加する必要はないと考えられる。しかしながら、今後、国内におけ る木材の種類別にみたばく露の程度、人数等の調査、より詳細な疫学調査等の実施が望 まれる」とされたところです。  2の「平成14年検討会以後の状況」について、国内症例報告についてCiNiiで検索した ところ2003年(平成15年)に産業医科大学の寶珠山先生が発表されました「木材粉じん とがん」の文献が1件得られましたが、内容は文献レビューでありまして、特に新たな症 例を発表したというものではありません。資料2-2「木材粉じんとがん」ということで、 寶珠山先生の文献レビューを付けております。  また、平成14年の検討会資料として資料2-1を付けております。こちらも寶珠山先生に よる「木材粉じんによる非アレルギー性健康障害」というものが出されておりますので、 参考までに付けさせていただきました。寶珠山先生の論文の15頁から16頁にかけてにお いてですが、15頁の第2パラグラフの「Fukudaら(1987年)、FukudaとShibata(1988年、 1990年)」というところと、16頁の真ん中よりちょっと下の「Shimizuら(1989年)」の ところです。ここに我が国の北海道ないし東北地方での大工、建具職人、家具製造人等 での上顎洞の扁平上皮がんに過剰なリスクが認められたとの報告がありますが、IARCで は鼻腔及び副鼻腔の扁平上皮がんは、腺がんに比べると、リスク上昇は少なく、因果関 係は支持されないとされておりまして、病理組織の相違について検討すべきではないか と考えております。事務局からは以上です。 ○櫻井座長  いままでの経緯と、文献情報等についての説明がありましたが、御質問、御討議があ りましたらお願いいたします。 ○和田先生  1頁の2の文献検索の結果のところで、これはもちろん外国の論文も引いたけれどもな かったと考えて、ほとんど新しい文献はなかったと判断していいのでしょうか。 ○絹谷職業病認定対策室長  国内についてはないということです。 ○和田先生  少なくとも、この検索に限ってはないという判断でいいということですね。 ○絹谷職業病認定対策室長  はい。 ○和田先生  それで問題ないと思うのですけれども、あとは寶珠山先生とか、日本で発表した人が いま現在そういうことをやっているかどうか。やっていてその人が何かデータを持って いるかどうか。それでないということになれば、その後は発表がないと考えていいので はないでしょうか。そうすれば、前と同じような考え方で問題ないしょうか。 ○櫻井座長  資料2-1の15頁のFukudaら、あるいはTakasakaら、16頁のShimizuらというのは、いず れもケースコントロールスタディでよろしいですか。 ○和田先生  そうですね、これは全部扁平上皮がんです。 ○櫻井座長  それぞれ有意のリスクがあると。 ○和田先生  マイナスのものもありますね。 ○櫻井座長  IARCは、これらの論文を引用した上で、なお扁平上皮がんについては、その他の国の データ等も合わせて明確ではないと判断したとなっているかと思います。 ○和田先生  日本産業衛生学会に関係される先生方がいらっしゃいますけれども、日本産業衛生学 会で認めたというのは、ただIARCの論文を引用してだけのことですか、あるいは日本で 調べてありとされたのですか。 ○大前先生  これは、いま先生がおっしゃった前者です。 ○櫻井座長  木材粉じんのがんは、平成14年度の検討会で継続検討とされた事案です。その後も依 然として我が国の発症例の報告もないし、いま知るところでは追加の疫学的なデータ等 もない状況で、直ちにリスト化しなければいけないという印象ではないのですが、事務 局の方で何かお考えはありますか。 ○柘植中央職業病認定調査官  事務局といたしましては、まだ不明確な点、発生部位とか、病理組織が欧米と異なる などが多く、平成14年度以降もその状況に変わりがないので、引き続き調査を実施する こととしたいと考えております。平成14年度に続きまして、恐縮でございますが、再度 継続検討という形にさせていただければと考えております。 ○櫻井座長  ただいまの事務局の提案についていかがでしょうか。 (異議なし) ○櫻井座長  ありがとうございました。本件については事務局提案のとおり、引き続き調査を実施 するということにいたします。検討会としては、そのような結論といたします。議題3は 「理美容のシャンプー、コールドパーマー液等の使用による接触皮膚炎について」です。 事務局から説明をお願いいたします。 ○山口職業病認定対策室長補佐  資料3「理美容のシャンプー、コールドパーマー液等の使用による接触皮膚炎につい て」事務局から御説明いたします。1頁は、労働基準法施行規則別表第1の2第4号8のうち 「理美容師のシャンプー、洗剤又はコールドパーマー液等の使用による接触皮膚炎等」 の可能性のある業務別の認定件数です。これは直近の統計であります平成19年度以前3か 年です。平成17年度は4件、平成18年度は4件、平成19年度は2件の合計10件です。その下 の参考は、同表別表の第4号8のうちの「理美容以外の業務によって『接触皮膚炎』に罹 患した可能性のあるもの」についての支給状況を見たものです。  2頁は、独立行政法人労働者健康福祉機構において、本年4月に取りまとめられた理美 容を対象に実施したアンケート調査と、パッチテストから得られた治験の報告です。 「『職業性皮膚障害の外的因子の特定に係る的確な診断法の研究・開発、普及』研究報 告書」の概要等についてです。この報告書につきましては、資料3-1としてお付けしてお ります。理美容師向けのパッチテスト用のアレルゲンとして市販しておりますアレルゲ ンから32種を選択し、理容師10名、美容師53名の63名を被験者として成分パッチテスト を行ったものです。そのパッチテストの成績については、2頁から3頁の表のとおりです。  この結果によると、陽性率の高い成分は、パラフェニレンジアミン(PPD)で、陽性率は 74.5%です。パラアミノアゾベンゼン(PAAB)で、陽性率は74.0%です。赤色225号は、陽 性率は40.0%となっております。このうち最も陽性率が高いとされております、一番上 のパラフェニレンジアミン(PPD)は、既に第4号1の告示物質とされていて、皮膚障害が対 象とされているところです。また、このほか第4号1の告示物質とされているものについ ては、その下のレゾルシン、ホルムアルデヒドです。したがって、これらの告示物質以 外の化学物質の取扱いについて御検討いただきたいと考えております。  4頁は、平成14年度の当検討会報告書から抜粋したものです。前回の報告書の中では見 ていただいたとおりですが、「理美容の業務におけるシャンプー液の使用等による接触 性皮膚炎について、近年、認定事例があったため、着目していたところである。しかし ながら、理美容におけるシャンプー液の使用等による接触性皮膚炎については、当該物 質は混合物であり製品により有害性が異なること等により、現時点において、新たに追 加する必要はないと考えられる」とされたところです。以上です。 ○櫻井座長  御質問、御議論がありましたらお願いいたします。 ○和田先生  教えていただきたいのですが、1頁の表の上の方に頻度が書いてありますけれどもかな り少なく、平成19年度は2件しかありません。これは、もっと出ているだろうけれども、 申請されていないということなのでしょうか。 ○絹谷職業病認定対策室長  私どもとしても、はっきりしたことを申し上げることはできません。 ○和田先生  2件しかないですよね、平成19年度は。 ○絹谷職業病認定対策室長  全体として、増えておりますので。 ○和田先生  他のものを認めているから、やはり入れた方がいいとは思うのですが。 ○絹谷職業病認定対策室長  はい。軽度の方が労災請求に至っていただくのが本来よろしいわけですが、実際には 軽度の皮膚炎の症例では療養補償給付請求を出さない方がおられることは容易に考えら れることだと思っております。 ○和田先生  もう1つは4頁の下のところで、平成8年は確かにあらゆる障害を化学物質について加 えたことがありました。その中に接触皮膚炎というのをかなりいっぱい入れた覚えがあ ります。それは生きていて、もしそういう症状があった場合には、こういうことで別途 きちんと再審査しますという意味であるわけですか、当然そこに載っているわけですか ら。 ○絹谷職業病認定対策室長  はい。いま告示物質が151種あります。その中でかなり多くが皮膚障害ということで 症状障害の中に入っておりますので、それで接触障害が出れば、そこの皮膚障害で認め 得るという体系になっています。 ○和田先生  平成14年度のときの、混合物であり製品の有害性が異なるので、いまは追加する必要 がないというのは、どういう意味なのかよくわからないのです。確かにそれによって起 きて、そこに成分が含まれていたら、やはりそれによるものだと考えた方がいいかとい う感じがします。成分によって異なっていて、それがよくわからないから採用しないと いうのはちょっとおかしな感じがします。 ○絹谷職業病認定対策室長  平成14年の検討会の議事録を読ませていただいております。染毛剤というものは、理 美容業界では色を出すために、こういう色とこういう薬品とを配合するということが結 構現場で行われる場合があったと書いてありますので、あるいは製品成分がなかなか特 定しづらい面があって、検討会ではこういう表現になったのかと考えます。 ○和田先生  1頁の参考のところでは、いろいろなもので起きています。この中で、一部は認定基 準に入っているものもあるのですか。パーマとかシャンプーだけでなくてです。 ○絹谷職業病認定対策室長  これも、成分分析を行いまして、それが告示物質に該当することになれば、先ほどの 理美容と同様に、その化学物質による接触皮膚炎ということになろうかと思います。 ○和田先生  ちゃんと対処ができているから、そうでなくて他は切り捨てて、これだけ上げるとい うのはちょっとおかしいかなという感じがしたのです。 ○絹谷職業病認定対策室長  そういうことはないということです。 ○櫻井座長  化学物質をきちんとリストアップしてあり、それによる皮膚障害は認定され得るので すが、実際には少ししか出ていないという現状です。理美容師についても、既にパラフ ェニレンジアミンは第4号1として告示されているにもかかわらず少ない。今回の課題は、 それ以外の物質をリストアップするかどうかということになるわけです。  資料3の2頁、3頁辺りを見ますと、先ほども事務局から指摘のありましたパラアミノア アゾベンゼンとか、赤色225号は、それぞれ陽性率が74%とか40%と高いのですけれど も、これは分類のところでパラフェニレンジアミン関連物質と書いてあります。これは 交差反応があるということについては資料3-1にも書いてありますので、そういう点をど う考えるかという課題も残っているように思います。したがって、資料3-1の労働者健康 福祉機構の研究成果のみで、これをリストアップに加えるには、まだ検討すべき課題が あると思いますが、事務局としてお考えがあるでしょうか。 ○山口職業病認定対策室長補佐  事務局としては、先ほどお話が出てきました平成8年3月に、第4号1の告示物質を全面 改正したところです。この改正に当たっては、化学物質あるいは産業衛生の専門家で構 成される「労働基準法施行規則第35条定期検討のための専門委員会小委員会」を設置し、 329の物質について検討をしたところです。  検討の方法は、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)ですとか、日本産業衛生学会等でば く露限界値が設定されている化学物質を基に、国内生産量・輸出入量・用途・症例報告 等を収集し、有害性と生じる症状・障害を検討したところです。  本件の理美容のシャンプー、コールドパーマ−液等の使用による接触皮膚炎について も、同様に検討会の小委員会を設置して検討していただければと考えております。なお、 この小委員会の設置時期は、基礎的な資料の収集等が必要となりますので、本件検討会 が終了した後の次年度を予定したいと考えております。 ○櫻井座長   ただいまの事務局の提案についていかがでしょうか。 (異議なし) ○櫻井座長  本件については、化学物質に係る専門的見地からの検討が必要であるということで、 別途検討小委員会を設けて検討するという事務局の提案に沿った方向で、この検討会の 結論といたします。  次の議題は、資料4「インジウムによる間質性肺炎について」です。事務局から資料の 説明をお願いし、その後大前先生から医学的視点からの御説明をしていただきます。質 疑は、大前先生の御説明が終わった後で一括して受けたいと思います。 ○山口職業病認定対策室長補佐   資料4「インジウムによる間質性肺炎について」概略を御説明いたします。別表第1の 2第4号8のうち「インジウムによる間質性肺炎」の認定件数はこの表のとおりです。平成 13年度1件、平成19年度1件の合計2件です。  その下のインジウムの使用量については、日本が全世界の85.5%を占めています。そ の用途は、薄型ディスプレイ、蓄電池、化学物半導体、低融点材料等に使われておりま す。作業内容については、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの製造 過程に使用するインジウムと、酸化スズの混合物の焼結体の研磨とか切削です。  その下は認定事例の概要で、事例1、事例2の2件です。事例1の被災労働者は男性の方 で、死亡当時29歳でした。薄膜材料(ターゲット材)の製造に従事していて、傷病名は 間質性肺炎です。職歴は、平成6年から平成10年までターゲット材の研削切断業務に従事 していました。2頁で療養の経過です。平成8年10月頃から咳が出始め、平成9年10月の業 務中に呼吸困難を自覚し、平成10年4月に休業して病院を受診しました。肺上部に陰影が あると言われ、平成12年7月に転医をし、平成13年4月に呼吸困難、これは両側の気胸に よるものですが、これが悪化し死亡した事案で、平成13年8月に支給決定をしております。  事例2の被災労働者は、現在35歳の男性の方です。薄膜材料(ターゲット材)の製造に 従事していて、支給決定時の疾患名はインジウム肺です。職歴は、平成4年4月から平成 9年9月まで、ターゲット材の平面研削作業に従事していました。療養の経過は、平成14 年に呼吸器検診をし、血清KL-6及び血清インジウム濃度測定で、インジウム粒子の吸入 に起因するインジウム肺と判断、平成18年12月に呼吸困難を訴えて病院を受診、即日入 院となり、インジウム肺と確定診断され、平成19年8月に支給決定となったものです。 簡単ですが、事務局からは以上です。 ○櫻井座長   それでは、大前先生からお願いいたします。 ○大前先生   資料4-1について説明させていただきます。 (パワーポイント開始)  先ほどもありましたように、インジウムの主たる用途は、フラットディスプレイのパ ネルを作るときに必要な、透明かつ電気が通るという、透明導電膜を作るための材料で す。  これは、インジウムの需要と用途の曲線です。日本は世界の8割以上のインジウムを使 っています。そのほとんどがフラットディスプレイを作るための材料として使っている のが現状です。  インジウムはレアメタルでして、リサイクルは非常によくされています。これは、製 造からリサイクルに関わる過程ですけれども、もともとは亜鉛の副産物として出てきま す。それと、リサイクルしたインジウムの両方を合計したものが先ほどの数字になりま す。金属インジウムを溶かして、水酸化インジウムにして、それを酸化インジウムにし て、それと酸化スズの粉を混ぜて、高温かつ高圧で焼き上げてセラミックスを作る感じ です。そのセラミックス状態というのは右下にあるようなものです。こういうものの研 磨、あるいは研削等々のところで、先ほどの2例の労災の事例が出たということです。 ターゲット材を作り、それを真空蒸着してディスプレイを作ります。残ったものはリサ イクルに回すということで、いまリサイクルで出てくるのは、全体の使用量の5割を超え ています。  これは1例目の症例で経過は先ほどのとおりです。この方は血清中のインジウムが 290ng/mlありました。これは、その方の診断時のVATS(video- assisted thoracoscopic lung biopsy)の生検だったと思いますが、ここに茶色い粒子が見えますが、これがすべ てインジウムとスズのセラミックス、ITOと略しますが、ITOの粉です。サイズは、これ が20μですから、1μ前後の粉がたくさん入っていたということです。これは、SEM (scanning electron microscope)を使ってX線解析で、この粒それぞれインジウムと スズを検出しておりますので、ITOの粉であることは間違いないということは同定されて おります。  この症例の方は一番重症で亡くなった方ですけれども、現在公表されているのは全部 で7例あります。労災認定されたのは2例で、残り5例もペーパー等で公表されておりま す。その公表された7例のうち5例が同じ会社の、同じ工場の、同じ工程です。この1例、 2例と同じ会社だと思っております。  そういう症例がありましたものですから、疫学の方でも調査がされていて、疫学の論 文にも2つ出ています。その1つがChonan論文ですけれども、これはその主な結果です。 血清中インジウムの濃度ごとに作業者を4群に分け、それぞれKL-6、%VC等と呼吸機能の 指標を検査しております。一番鋭敏に出てきておりますのはKL-6でして、1st Quartile、 インジウムのレベルが3未満の方ですと239ぐらいなのですが、それが3〜8になると367、 それから8〜21ですと448、それ以上になると998ということでこれは幾何平均値です。 このような形で量反応関係がきれいに出ております。  もう1つの論文はHamaguchi論文で、これも同じで、横軸方向はインジウムの濃度別に 分けております。1未満、1〜5、5〜10と分けてあります。KL-6の値を見ますと、幾何平 均値が257からずっといって、第4群のところで有意に上がっています。ちなみにKL-6は 500未満が正常範囲となっておりますので、20を超えるレベルですと、平均値としても 既に500を超えるレベルです。似たようなSP-D、これも量依存的に上がっています。  これはPrevalenceを示したものです。何パーセントの人が異常値を示しているかとい う意味です。KL-6の場合、血清インジウムが1未満ですと、この論文では異常値を示した 方はゼロパーセントですが、1〜5まででは8%、それから38、33、血清インジウムが50を 超えると全員が異常値を示しています。SP-Dも同様に量依存性があります。  これはHRCTの所見ですけれども、このIというのは間質性の変化、Eというのは気腫性 の変化を示しています。それの有所見率ですが、濃度が低いと非常に有所見率は低いで すが、濃度が上がるに連れて有所見率は高くなっていくということです。  現在、我々が把握している範囲では、ここにありますような点のところ、これはすべ て各事業所ですが、このぐらいの事業所とコンタクトしていまして、全部の事業所では ありませんが、いくつかの事業所をまとめて示した生の値がこれです。これは、横軸が インジウムの濃度で、縦軸がKL-6です。これはグループが5つに分かれていまして、いわ ゆる企業群、例えば三菱集団、三井集団という意味の企業群です。そういう形でプロッ トしてやりますと、この5つの集団それぞれ同じようなところに乗るということで、再現 性があると。ちなみに、このグリーンの線が500ですから、この500を超えたのが異常値 ということになります。  これは、同じように、インジウムの濃度別に示した平均値です。KL-6というのは、非 常にクリアに、インジウムの濃度が上がると上がってきます。  これは量反応関係の絵です。一番左上がインジウムですが、非常にクリアに量反応関 係が示されている。大体血清インジウムが30、40ぐらいになりますと、ほとんど100%の 方が異常値を示すということです。  これは%FVCと%VCが書いてありますが、これも量反応関係は有意な量反応関係です。 これは、もっと増えればこのようになるのでしょうが、その前に亡くなってしまうよう なことになりますので、この辺でしかデータがありませんが、一応、%VCとの有意な量 反応関係が得られています。  これが、全部で574名のトータルのデータです。インジウムごとに分けてありまして、 KL-6の場合ですと、これは幾何平均値、量影響関係ですが、血清インジウムが3を超える と非ばく露群よりも有意に増えてくると。それから異常率ですが、これも大体血清イン ジウムが3を超えると非ばく露群、ベースラインのところでも2%ぐらい500を超えている 方がいるようですが、3を超えると有意に増えてくるということで、このようなデータを 基にしまして、2007年に産業衛生学会は、血清中のインジウムとして3という数字を報告 しています。  これは、一番最初にありましたように、非常に伸びた産業でして、この調査が始まっ た後で非常に工場がエキスパンションしました。生産量が増えました。したがって、こ の情報が生きまして、作業環境管理が良くなった後に新たに入ってきた作業者の方が、 結構たくさんいらっしゃいます。その方々が、この絵で「開始後就業者」となっていま す。これは作業環境、あるいは作業環境管理がとりあえず終わった後から入ったという 方です。この調査では108人ぐらいそういう方がいまして、インジウムの濃度ですと、 前からやっている方が3ぐらいですが、あとに始めた方は0.15ぐらいしかない。KL-6も 平均で380が216に減っているということで、作業環境あるいは作業環境管理の改善をし た効果が既に現れているというのが、このデータです。  これは最後のデータだと思います。このような情報から、インジウムとこの肺障害の 因果関係が言えるのかどうか、ということに関するまとめです。因果関係をいうにはい くつかのクライテリアがありますが、ここでは、一番古くて、かつ簡単な、US Surgeon Generalが1964年に出した因果関係推論の条件を示しておきます。関連の時間制、強固性、 一致性、普遍性、特異性という5つのことが証明されれば大体因果関係があると言ってい いだろう、ということを言っているわけです。  まず時間制ですが、実は、いままで追跡調査がなくて、みんな時間断面研究だけです ので、系時的に追ったデータはありませんが、実はインジウムというのは一般環境には ほとんどありません。したがって、労働環境からしかばく露がないというのが現実です。 そういう意味では、時間制はクリアできているのではないかと。スタンダードなクリア の仕方ではありませんが、できているのではないかと思っています。  それから、強固性。これは、先ほどありましたように、量反応関係、あるいは量影響 関係にクリアに出ています。それから、一致性。これは5つの集団で結果が一致していま して、程度の差はありますが、7症例の報告があるということで、これも一致しているの ではないかと。  それから、普遍性。実は、このデータは日本のデータでしかないので、他の外国はど うかというのは、データ自身がありませんので、人種の問題等々はクリアできていませ んが、動物実験等々との整合性はあります。  特異性。これは一番証明しにくいタイプのことですが、先ほどの労働衛生管理、環境 管理、あるいは作業環境が終わった前後の作業者が良くなっていますので、言えるので はないかと考えています。例えば、たばこを止めると肺がんの罹患率が減るという、あ れと全く同じです。ばく露が少なくなれば影響が小さくなるというのは、特異性のある 意味での証明ではないかということで、おおむねインジウムと間質性肺炎との因果関係 は成立しているのではないかと考えています。 ○櫻井座長   ありがとうございました。それでは、先ほどの事務局の説明も含めまして、何か御質 問、御意見はございますでしょうか。 ○堀田先生   非常に興味深く拝聴しました。我々、日常診療において、結構最近はCTが普及してい ますから、当然、患者さんの中にはかなり間質性肺炎というのは多いです。このインジ ウムによる間質性肺炎の生前の診断となると、大前先生がおっしゃったような血清のイ ンジウム、あるいはKL-6の測定が中心になるのでしょうか。 ○大前先生   まずインジウムの仕事をやって、インジウムにばく露しているということが大前提で すので、それを実際にチェックできるのは血清中のインジウム、あるいは全血でも可能 ですが、それしかありません。そうは言っても、この血清中のインジウムが肺のバーデ ンを正しく反映しているかどうかというデータは実はありませんので、そこは若干躊躇 するのですが、現実的にはこれしかやりようがないので、これが前提であると。それプ ラス、KL-6が上がる、もしくはCT等で間質性の変化もしくは気腫性の変化があるという ことではないかと思っています。 ○堀田先生   日常診療において、問診というか病歴というのは無視できないわけですね。広くこう いったことを聞く必要があるという意味では、非常にいい症例かと思っています。  もう1つ、3番目のスライドで「X線分析」という言葉を使われました。これはX線解析 のことでしょうか。 ○大前先生  成分分析のことです。 ○堀田先生  そうなると、実際にVATSしたものからのですか。 ○大前先生  この場合、VATSした試料を電顕用に作りまして、それで測定したということです。 ○櫻井座長  他にはないでしょうか。 ○和田先生  大前先生のお考えでは、今後これがどんどん増えていく可能性があるか、予防対策を きちんとやればこれ以上はあまり増えないかというのは、どうなのですか。 ○大前先生  最初の症例が出まして、いろいろなところで疫学調査等々をお願いするときに、同時 にこのリスクを話しています。幸い、この業種は非常に伸びている業種でして、各工場 がある意味でお金があったということもあるのでしょうが、非常によくわかっていただ きまして、ほとんどの会社で自主検診をやっています。それから、先ほど示しましたよ うに、環境も随分改善しています。具体的なデータについてはあまり見せていただいて いませんが、イメージとしては、2桁ぐらい濃度が下がっている。プラス、防塵マスクを 全部入れましたので、いまこの情報が伝わっている会社に関しては、たぶん、これから 新しく仕事をされる方で何か起きることは、まずないだろうと思います。ただ、まだ情 報が伝わっていないところがあるかもしれませんし、日本以外に、韓国、中国、台湾等 で作り始めていますので、こちらの方はどうなっているか、ちょっとまだそこまでは把 握していません。 ○和田先生  もう1つ、インジウムによって発症したというのは、先ほどおっしゃったKL-6、分析、 あとはレントゲンの所見で診断するということになりますよね。 ○大前先生  はい。 ○和田先生  こういう補償に対する疾病の場合に、生化学的な変化だけでやった例というのはいま までないですよね。いまのところは、発症して病気になった、その病気に対して基準が 作られているというわけですよね。ですから、KL-6の値が高くて発症していないものを 補償するということは、たぶんできないのではないかと思います。発症したということ になるわけです。しかも、予防をすればある程度は防ぐことができるということであれ ば、経過を見るというのも1つの手かなという感じがします。 ○奥平先生  肺の組織標本をお話になりましたが、あれは、私は一見して、ヒストプラズマ・カプ スラーツム(Histoplasma capsulatum )というかびの感染に似ているものではないかと 思ったのです。大きさは1μ前後であるというお話で、ヒストプラズマは大体2、3μなも のですから、大きさは違うのですが。これが血中に入るということは、シリカにしても アスベストにしても、いわゆる肺の呼吸間質に貯まりますが、これは血中に移行するの で血中濃度として測れるわけですね。血中に入ったものの運命はどうなるのでしょうか。 ○大前先生  これは尿中にも出てきます。絶対量でいきますと、単位当りの濃度でいきますと、尿 中に出てくる量は血中の大体10分の1ぐらいですので、濃度は高くはないのですが、尿中 からの排泄はあります。それから、糞便中はちょっとチェックしていませんので、これ はちょっとわかりません。 ○奥平先生  そうすると、解毒という概念で、自然に少なくなっていくという。 ○大前先生  はい。いま最大5年ぐらい観察している集団があると思うのですが、化合物の形態によ って若干違うのですが、例えばITOなどですと非常に血清中の濃度の減少は遅いです。KL -6は比較的早く下がってくれるのですが、血中のインジウムは相当遅いので、肺に蓄積 している分が、そんなに簡単にはなかなか減ってこないのだろうと思います。 ○奥平先生  血中に行くとなると、他の臓器にも行く可能性があるわけですね。 ○大前先生  それも気になりまして、いくつかの会社で肝、腎等々を調べてみたのですが、現在の ところ、肝機能、腎機能、免疫系の機能、抗核抗体等のコラーゲン・ディズィーズ (collagen disease)の指標、酸化ストレスの指標などを一応測っていますが、いまの ところコントロールと比べて差がないので、現段階ではまだ肺だけしか明らかになって いません。 ○櫻井座長  他には何かございますでしょうか。現在の段階では労災給付事例2件ということでは ありますが、現在まで文献も日本に限定されているということを伺いましたが、その他、 一応さまざまに調査も必要かと思いますが、事務局として何かお考えがありますか。 ○山口職業病認定対策室長補佐  本件インジウムにつきまして、仮にリスト化するとすれば、化学物質等の告示である 第4号1で対応するということになろうかと思います。先ほどの理美容のシャンプー、コ ールドパーマー液等の使用による接触皮膚炎と同様の検討が必要かと思いますので、理 美容と同様に、別途、検討小委員会を設けて検討することが適当かと考えています。 ○櫻井座長  いまの事務局の提案について、いかがでしょうか。大前先生、いかがでしょうか。こ れでよろしいですか。それでは、特段、御異存もないようですので、本件につきまして は事務局提案のとおり、先ほどの理美容のシャンプー、コールドパーマー液等の使用に よる接触皮膚炎と併せて、別途、化学物質に係る検討小委員会を設けて検討するという ことでよろしいですか。                 (異議なし) ○櫻井座長  ありがとうございます。それでは、そのように当検討会として結論します。次の議題 に入ります。資料5の「疥癬について」です。事務局から説明をお願いします。 ○関谷職業病認定業務第1係長  資料5を御覧下さい。6号1「患者の診療若しくは看護の業務又は研究その他の目的で 病原体を取り扱う業務による伝染性疾患」の認定件数ですが、平成17年度は88件、平成 18年度130件、平成19年度105件の3年度合計で323件となっています。6号5「1から4まで に掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体に さらされる業務に起因することの明らかな疾病」、こちらの認定件数は、平成17年度39 件、平成18年度56件、平成19年度71件の3年度合計で166件となっています。6号5の166件 のうち最も多いのは疥癬でして、次いで、海外出張中の伝染性疾患、食中毒の順となっ ています。  2頁にいきまして、最も多い疥癬の認定件数を業務内容別に見てみますと、介護業務の 認定件数が、平成17年度22件、平成18年度39件、平成19年度39件、3年度合計で100 件となっていまして、全体の98%を占めている状況にあります。以上で事務局の説明を 終わります。 ○櫻井座長  いかがでしょうか。何か御意見や御質問がございましたら、どうぞ。これといって御 質問はないようです。かなりはっきり、わかりやすい問題点であろうかと思います。こ の件につきましては特に御異論もないことと思いますので、介護の業務における疥癬の 症例が非常に多いということですので、介護の業務における伝染性疾患を6号1の例示疾 病に追加するということでよろしいですか。                 (異議なし) ○櫻井座長  それでは、そのように結論させていただきます。ありがとうございました。以上で本 日の議題はおおむね終了したかと思いますが、全体を通じて御質問や御意見等はござい ませんでしょうか。本日の5つの議題につきましては、おおむね方向性を決めていただき ました。検討会としての正式な結論は、次回以後、まだ他の検討課題もありますので、 その結果と併せて、最終的に「検討会報告書」として取りまとめる際に再度お諮りする ことになります。そのように御承知おきください。いかがでしょうか。特に追加の御議 論はよろしいですか。それでは、今日の検討会はこれで終了します。次回の日程等を含 めて、事務局から何かありますか。 ○柘植中央職業病認定調査官  次回検討会の日程ですが、6月中を予定させていただきたいと考えています。日程につ いては後日調整させていただきますので、よろしくお願いします。検討内容ですが、次 回は、「電離放射線業務による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫について」、「塩化ビニル 障害による肝細胞がんについて」、「石綿関連疾患について」、以上の3つの事項につい て検討をお願いしたいと思います。なお、その際、前回の検討会でも申し上げましたとお り、「労働基準法施行規則第35条専門検討会開催要綱」の3の(3)に「必要に応じ専門家を 召集できる」との規定があります。それに基づきまして、それぞれ個別症例検討会で報告 書を取りまとめられた専門医の方がおられますので、その方々をお呼びしまして、直接各 個別症例検討会における考え方を説明していただきまして、検討を行っていただきたいと 考えています。いかがでしょうか。 ○櫻井座長  具体的にはどなたをお呼びすることになるのでしょうか。 ○柘植中央職業病認定調査官  まず、「電離放射線業務による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫」については、独立行政 法人放射線医学総合研究所の明石真言緊急被ばく医療研究センター長。「塩化ビニル障害 による肝細胞がん」については、本検討会の委員でいらっしゃる奥平雅彦北里大学名誉教 授。「石綿関連疾患」については、三浦溥太郎横須賀市立うわまち病院副院長に御説明を お願いしたいと考えています。 ○櫻井座長  ただいまの事務局の提案については、いかがでしょうか。よろしいですか。 (異議なし) ○櫻井座長  御異存ないようですので、そのようにお願いしたいと思います。それでは、いまもあり ましたが、次回は、「電離放射線業務による多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫」、「塩化ビ ニル障害による肝細胞がん」、「石綿関連疾患」、この3点について検討を行うこととい たします。ありがとうございました。今日は大変お忙しい中、御出席いただきまして、 お礼を申し上げます。これで終わります。                                            照会先                      厚生労働省労働基準局労災補償部補償課                      職業病認定対策室職業病認定業務第一係                      〒100-8916東京都千代田区霞が関1-2-2                      電話   03-5253-1111(内線5570)                      FAX  03-3502-6488