09/02/12 平成20年度第4回化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会議事録                                             平成20年度第4回         化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会 日時 平成21年2月12日(木) 14:00〜 場所 厚生労働省18階共用第9会議室 ○大淵化学物質評価室長補佐 定刻になりましたので、平成20年度第4回「化学物質による労働者 の健康障害防止に係るリスク評価検討会」を開催いたします。議事の進行につきましては、座長 の櫻井先生にお願いいたします。 ○櫻井座長 早速、議事進行を務めますので、よろしくお願いいたします。今回から新しくメン バーに加わっていただきました池田委員から一言ご挨拶をお願いします。 ○池田委員 横浜薬科大学の池田敏彦と申します。簡単に自己紹介させていただきます。私はこ こ30数年ばかり、製薬会社の、いまは第一三共と言いますが、前の三共という会社におりまして、 薬物動態、実際には薬物の代謝をやっておりました。昨年、会社を定年で辞めまして、そのあと 横浜薬科大学にお世話になり、同時に東京大学の特任教授も務めさせていただいております。  先生方のご議論にどのぐらい寄与できるかどうか自信がないところですが、化学構造、代謝を 見て、毒性が類似しているものがあれば、少しは私も議論に参加できるかなということで参加い たしましたので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○櫻井座長 それでは、まず議事に先立ちまして、事務局から資料の確認をお願いいたします。 ○大淵化学物質評価室長補佐 それでは、確認をさせていただきます。本日は資料が多くなって いますが、順にご確認をお願いします。「議事次第」ですが、本日は平成20年度のリスク評価対象 物質の評価値について検討をする予定にしています。大きく2グループに分けて、ACGIHや日本産 業衛生学会等の評価値が設定されていないものが6物質、これらの値が設定されているものが13 物質の議論で、今年度第3回までにいろいろ議論をいただいておりますが、まだ結論が出ていない ものがこれらの物質ということでご議論いただく予定としています。  検討に用いる資料については「配布資料一覧」です。4-1は、第3回リスク評価検討会の議事概 要。4-2は、リスク評価手法の改訂版。4-3は、平成20年度リスク評価対象物質の評価値等。4-4 は、4-3に関連する資料で、二次評価値に関する別紙で、産衛学会等の許容濃度のないものについ て別紙を作っています。4-5は、代謝と毒性に関する資料で、本日から加わっていただいた池田先 生に作成していただいた資料です。  4-6は資料が多いということでクリアファイルに入れていますが、全部で12物質についての有害 性総合評価表、有害性評価書です。4-7は、リスク評価検討会の今後の検討予定です。  参考は、各物質の提案理由書ということで、ACGIHや産業衛生学会の提案理由書を物質ごとに整 理したものです。資料は以上です。 ○櫻井座長 お手元、過不足はいかがでしょうか。皆様揃っておられるようですので、先へ進み たいと思います。今日の議題に入る前に、事務局から前回の議事概要の説明をお願いします。 ○大淵化学物質評価室長補佐 資料4-1です。前回はちょっと間があいて、10月27日に開催してお ります。2は飛ばして、3の「議事概要」です。(1)前回議事概要の確認、(2)「少量製造・取扱い の規制等に係る小検討会」の中間報告についてということで、このリスク評価検討会の下に7月か ら小検討会を設けており、それの検討状況について報告をしました。  (1)医療現場におけるホルムアルデヒド規制に係る報告についてということで、小検討会での報 告書(案)の説明をして、内容について了解が得られました。報告書を最終的に公表する際には、 小検討会の開催日・名簿だけではなく、リスク評価検討会の開催日・名簿も掲載することとなり ました。  (2)少量製造・取扱い作業の把握が可能なばく露調査手法の検討についてということで、事務局 から検討状況について報告を行っています。  (3)は、「リスク評価手法」の改訂についてということで、平成18年度に作成した「リスク評価 手法」を平成20年度も改訂するということで、それの議論をしていただきました。  (4)は、平成20年度リスク評価対象物質の評価値についてということで、検討をいただいており ます。前回は、個別にこの物質について、この濃度に決めようというところまでは行かず、前回 中心となったのはACGIH、日本産衛学会等の許容濃度の設定されていない物質が6物質あって、こ れについて構造類似物質の許容濃度から二次評価値が類推できないかということで、事務局で資 料を作成して、それについて説明をしました。  検討会においては、こういった検討を行うに当たっては化学物質の構造活性相関であるとか、 代謝の専門家をメンバーに加えて検討する必要があるというご意見をいただき、それを踏まえて 本日から池田先生に加わっていただきました。以上が前回の議事概要です。 ○櫻井座長 何かご質問、追加等はございますか。ないようですので、今日の議題に入ります。1 「平成20年度リスク評価対象物質の評価値について」ですが、これまで検討してきた物質の評価 値について、事務局から説明をお願いします。 ○大淵化学物質評価室町補佐 資料4-3ですが、これは本年度評価する予定の44物質についての評 価値を決めるための基本的な資料ということで作成しています。前回と重複しますが、1頁からが 各物質の一次評価値、二次評価値、これまでの議論の経緯等が書いてあります。表で網掛けをし ている物質については、今後、実態調査の対象事業場がないということで評価値を決める必要が ないものです。それ以外の白の所について評価値を決める必要があるわけですが、数字そのもの に網掛けをしているものについては、既にこの検討会で数字が確定しているものです。案はある が、まだ確定していないものについては、数字の所にアンダーラインが二重線になっています。 例えば、2頁の8の2-クロロ1,3-ブタジエンで、10ppmを二重線にしているのは、まだ案で、確定 値ではないという趣旨です。  これまでいろいろご議論いただいたところですが、そのうちACGIHあるいは日本産衛学会等の基 準値のないものについて、本日はまず優先的にご議論いただきたいと思っておりまして、物質の 番号でいきますと、9番、14番、6番、16番、32番、42番が評価値が設定されていないということ で、本日優先的にご議論いただくものです。  これについて、委託事業のほうで有害性評価書を作成しておりますが、6物質中、2物質につい ては、既に案がまとまっていますが、4物質についてはまだ作成中ということで、本日は有害性の 評価書がまとまっている2物質について、まず事務局からご説明をして、そのあとで池田先生から 資料4-5についてご説明をいただき、そのあとで先生方にご議論いただくという流れを考えていま す。それでは、まずNo.9の物質について、ご説明をしたいと思います。  資料4-6の(1)です。この資料は、まず最初に3頁ほど表の形式になっているものがあって、有害 性総合評価表となっています。いちばん左側に毒性の種類があって、右側に毒性の有無、無毒性 量等があるような場合にはその数値と、その根拠になった情報をとりまとめている資料です。そ のあとに続くのが文書形式で書いてあるもので有害性評価書です。この表形式の原案に当ります。 情報を幅広く集めているものです。  本日の説明ですが、表形式を中心に説明しますが、この表形式に入っていない情報で物質の物 性、用途、製造量などについては、文書形式の有害性評価書を参考にしていただきたいと思いま す。  まず9番の4-クロロ-2-メチルアニリンその塩です。物性、用途等を先にご覧いただきたいと思 います。表のあとの1頁です。2.で物理化学情報ですが、外観としては無色から茶色のさまざまな 形状の固体あるいは液体で、このような複雑な書き方になっているのは融点が29〜30℃と常温に 近いので、形状も少し幅があります。  3.の生産・輸入量あるいは用途ですが、2004年のデータでは、100〜1000トンのオーダーという 量です。用途としてはアゾ染料の原料、ピグメントレッド7、ピグメントイエロー49製造の中間体 といった染料関係の原料になっています。  表紙に戻って、有害性総合評価表でそれぞれの毒性について簡単にご説明をしたいと思います。 アの急性毒性ですが、経口毒性、経皮毒性それぞれLD50の値が示されています。数字的には急性毒 性が著しく高いという数字にはなっていないかと思います。  イの刺激性/腐食性ですが、こちらでは皮膚の刺激、眼に対する損傷性/刺激性について整理 していますが、両方とも刺激性ありということです。  ウの感作性です。皮膚感作性、呼吸器の感作性については、報告なしという状況です。  エの反復投与毒性ですが、このうち生殖・発生毒性あるいは発がん性を除いた形の反復投与毒 性の情報を示しています。いくつかの報告がされていますが、試験によっては特に有害性が出な かったという吸入ばく露の試験等もありますが、ほかの所ではメトヘモグロビン血症等の所見が 見られております。  オの生殖・発生毒性ですが、ヒトにおける生殖・発生毒性の報告は認められておりません。動 物実験については特段の影響は見られておりません。  カの遺伝毒性ですが、こちらは遺伝毒性ありで、ヒトリンパ細胞でのin vitroの染色体異常試 験の陽性という情報があります。  キの発がん性ですが、人で発がん性があるという状況です。IARCにおいてもグループ2Aという 分類がされています。  発がんに関して、閾値の状況ですが、閾値の有無については、先ほどのところで遺伝毒性あり と判断しておりますので、閾値はなしということです。こちらの評価表では、閾値がない場合に ついては、ユニットリスク関係の情報も集めており、ユニットリスクとして7.7×10-5(μg/m^3)^-1 というデータがあって、これを基にして労働現場での労働の時間数、年数を勘案して数字として 出したのがRL(10^-4)という値にしたのがこちらの数字で、これを計算しますと、1.3×10-4μg/m^3 です。  コの許容濃度等の設定については、数字として示されているものは、いまのところはありませ ん。ただし、ドイツのMAKについては経皮吸収に注意するようにという勧告がなされています。以 上です。  引き続いてNo.14もご説明いたします。No.14は、4,4'-ジアミノジフェニルエーテルです。これに ついても物性、生産量等からご覧にいただきたいと思います。表のあとの1頁です。物性は白色の 粉末で、融点は先ほどのものとは違って186〜187℃です。生産量等は2006年の値で推定で約3,000 トンです。用途は、ポリマーに関係するようなもので、ポリイミド、ポリアミイミド、ポリアミ ド用の原料、その他エポキシ樹脂、ウレタン樹脂など高分子化合物などの原料ならびに架橋剤と いうところです。  表紙に戻り、有害性ですが、まず、アの急性毒性については、経口毒性のみについてデータが 得られております。  イの刺激性/腐食性は、皮膚、眼に対する刺激性はないという報告になっています。  ウの感作性については、皮膚の感作性はあり、呼吸器の感作性はなしという報告です。  エの反復投与毒性は、吸入のばく露の実験は情報が不十分ということで、経口投与の実験につ いて記しています。こちらはラットの90日間の経口投与で、餌の中に混ぜての投与ですが、その 場合の無毒性量(NOAEL)が餌1kgに対して300mgです。動物の体重に換算しますと、1日当たり体重1 kg当たり15mgです。  オの生殖・発生毒性については、報告がありません。  カの遺伝毒性については、遺伝毒性がありで、ネズミチフス菌、あるいは哺乳類の培養細胞等 でも染色体異常試験などで変異原性が見られております。  キの発がん性ですが、発がん性のみについては、ヒトに対する発がん性が疑われるという状況 で、IARCにおいてもグループの2Bという評価がされています。  発がん性に関する閾値の有無ですが、閾値については、先ほど遺伝性毒性ありと評価しており ますので、閾値はなしです。この場合のユニットリスクですが、カリフォルニアEPAの情報では4.0 ×10-5(μg/m^3)^-1ということで、これに労働補正をしたRL(10-4)を見ますと、2.5×10-3mg/m^3で す。  コの許容濃度の設定ですが、ACGIH、日本産衛学会、ドイツのこういった所では設定がされてお りません。有害性評価書は、既に作成してある2物質については以上です。私の説明はここまでで、 このあと6物質については、事務局で作った資料が資料4-4、池田先生に作っていただいたのが資 料4-5で、資料4-4については前回お配りしたものとあまり変わっておりませんので、説明は省略 させていただきまして、資料4-5を池田先生に説明いただければと存じます。 ○池田委員 私は化学構造を見て、全体の化学構造ではなく、部分構造、またそれの代謝経路か ら考えて毒性が類似しているか、あるいはそうではないかという考え方でご説明したいと思いま す。  資料4-5の1頁です。2枚のスライドがあって、上のほうですが、私が最初にいただいた化合物の 構造がすべて並んでいます。大きく分けますと、1つは芳香族のニトロ化合物でo-ニトロアニソ ール、いちばん左側の上に書いた化合物になります。ほかの化合物は芳香族のアミノ化合物とい うように分類することができるかと思います。芳香族のニトロ化合物と芳香族のアミン化合物は、 ニトロ基ということを中心にしますと、ほとんど同じ代謝経路で、なおかつ、ほとんど同じ毒性 を示すと考えることができます。それが1頁目の下のスライドになります。  2番目のスライドには、o-ニトロアニソールの化学構造が書いてあり、それが最終的にアミン に変わる代謝経路が書いてあります。o-ニトロアニソールのニトロ基が還元を受けます。これは 容易に還元を受けて、ニトロソ体に変わります。ニトロソ体は、さらに還元を受けてヒドロキシ ルアミン体に変わり、またさらに還元を受けてアミン体に変わります。芳香族のアミン体という のは、逆に酸化を受けますと、ちょうどこのルートの逆方向に行き、ヒドロキシルアミン、ニト ロソ、それからニトロというように変わってまいります。  そこで途中の代謝物であるニトロソ体(NO)という代謝物ですが、これが酸化作用があって、ヘ モグロビンの鉄、普通、鉄は2価ですと酸素に結合できるわけですが、これが酸化してしまってヘ モグロビンの3価の鉄のヘモグロビンを生成します。これはメトヘモグロビン症という現象で、ほ とんどのニトロ基を持った化合物の直接的な毒性と言われています。  同時に、少し代謝は離れてはいますが、芳香族のアミン体も酸化を受けますと、途中でニトロ ソ体に変わりますので、アミン体も同様にしてメトヘモグロビン症を起こすと考えることができ ます。これは代謝の受けやすさによりますので、化学構造が少し変わりますと、程度が変わって くるわけですが、基本的にニトロ化合物とアミン化合物の代謝に関しては、少なくともメトヘモ グロビン症に関してはニトロソ体が原因だろうと考えられております。  それから、ほとんどの芳香族アミン体、芳香族のニトロ体で長期投与をしますと、変異原性あ るいは癌原性があると言われておりますが、それも教科書的にはなりますが、ヒドロキシルアミ ン体が原因ではないかと言われています。ヒドロキシルアミン体になりますと、NHOHがあって、 NHOHのOHにいろいろな抱合反応が起きます。例えば、硫酸抱合、あるいはグルクロン酸抱合が起 きるわけで、通常の場合ですと、これで尿中に排泄されやすい代謝物に変わるわけです。ところ が、残念なことにリービンググループと化学的には言いますが、飛びやすい、脱離しやすい構造 になってしまって、特にグルクロン酸抱合がそうだと言われていますが、折角グルクロン酸抱合 をした形の所から、グルクロン酸が飛んで、できてくるニトレニウムイオンという非常に反応性 の高い代謝物、本当は中間代謝物ですが、できてまいります。そんなに長くあるものではありま せんが、できてきますと、DNAあるいはタンパク質に共有結合して、特にDNAに結合すると、癌原 性あるいは変異原性の基になると言われています。これは教科書的な話ですので、個々の化合物 質でどの程度行くかというのは、もちろんわからないわけですが、抱合毒のニトロ化合物、芳香 族のアミン化合物に共通して言われていることです。  芳香族のニトロではなくて、アミンの化合物ですが、もう1つ肝毒性を考えることが可能になり ます。これは代謝の中でアミノ基のちょうど反対側のパラ位になりますが、ここが薬物代謝では 非常に高発する酸化部位で、パラ位の水酸化体というのが出てきます。パラ位が塞がっていると、 オルト位が水酸化されるのが通常で、少なくとも水酸化を受けることができます。  細かい説明は下に書いてありますが、こうなりますと肝毒性を示す可能性が強くなってきます。 その理由は、2頁の下に書いたスライドですが、アセトアミノフェンという風邪薬を大量に飲みま すと肝毒性を起こします。動物でもヒトでも起こします。この構造を見ますと、ちょうどアミノ 基の反対側にOHの入った構造になっています。アミノ基はアセトアミノフェンの場合にはアセチ ル化されておりますが、これはフリーのアミノ基でも構わないわけです。  これが代謝を受けますと、真下のほうにキノンイミンというような構造があります。ベンゼン 環に二重結合が縦に入って、なおかつカルボニル基とイミノ基が付いたような構造で、キノンイ ミンというのは非常に反応性の高い代謝物で、通常はグルタチオンで抱合を受けて反応性を失う わけですが、グルタチオンがなくなってきますと、肝臓のタンパク質、あるいは腎臓のタンパク 質に結合して肝毒性あるいは腎毒性を起こすと言われています。  これと同じような構造が上の芳香族アミノ化合物ではできてくると考えることが可能で、代謝 が進むと肝毒性を示す可能性があります。  それを3頁の上のスライドにまとめてあります。p-キノンイミン体あるいはo-キノンイミン体 というのが反応性のある代謝物で、グルタチオンが枯渇すると、肝毒性を示す可能性があること を示しています。  これは離れてしまうのかもしれませんが、3頁の下に、同じアミン化合物でもジフェニルメタン ジアミンという構造の化合物があります。これは単純なアミン化合物のように見えますが、真ん 中の炭素があるがゆえに、酸化的な代謝を受けると、3つあった構造の真ん中のような構造ができ てきます。これは水素が飛びますと、全体的に大きな反応性のあるイオンに変わります。これは 化学構造としては、真ん中に炭素があるということが重要で、グルタチオンが枯渇すると、肝毒 性、この場合はDNAに結合して発がん性も出てくる可能性があるという構造になります。  真ん中の炭素が、例えば酸素に変わると、こういった構造をとることができませんので、反応 性がなくなって、もちろんアミンという構造はありますが、こういった妙な化学構造はできてこ ないことになります。  4頁です。同じような構造で、今度はフェノール性の代謝物、構造を持ったものと捉えることも できます。例えば、4頁の上のほうの化学構造で、左側にニトロベンゼンで、なおかつOCH3の付い た構造があります。これも代謝的にはOCH3のメチル基というのは飛んで、脱メチル反応というの は高発で起きてきます。先ほど申し上げたニトロ基の還元ももちろん起きますが、これは無視し てOHに着目しますと、OHというのは一連の酸化が起こると、O-ラジカル、これをフェノールラジ カルと言っていますが、できてきます。フェノールラジカルは皮膚の感作性というか、皮膚毒性 があると言われています。その典型的な例が4頁のいちばん下のほうに書いてあるウルシオールで すが、ウルシオールはカテコールといったOHが2つ並んだ構造で、フェノールではあるのですが、 少し性質が違っているウルシオールのOHがフェノールラジカルに変わって、それが皮膚に結合し て漆の皮膚毒性を示すと言われています。現実にOHを全部潰してしまいますと、ウルシオールと しての皮膚毒性はなくなってきますので、OHがラジカルになることが皮膚毒性の原因であろうと 言われています。ですから、ニトロベンゼンという観点と、フェノールという観点からも毒性が 共通してあるのではないかと考えることができます。  5頁です。これは全く変わった化学構造のもので、5頁の上のほうにはβ-プロピオラクトンと 1,3-プロパンスルトンが書いてあります。これに共通する反応性の場所ですが、例えばβ-プロピ オラクトンでいきますと、四角の構造があって、左側にO二重結合という形で出ていますが、この 構造でいきますと、四角のいちばん上のCOの隣の炭素の部分が、非常に反応性が高くなっていま す。これはカルボニルによって遺伝子が引っ張られることが原因です。このことによってDNAをア ルキル化するという力があります。  実際にはグルタチオンでそこが反応して、反応差がなくなりますが、グルタチオンがなくなっ てきますと、DNAあるいはタンパク質に結合して、発がん性、あるいは変異原性を示すことが考え られています。  同じような理由で右側の1,3-プロパンスルトンですが、これは5員環の構造で、S二重結合Oとい うのは2つ出ているような構造がありますが、Sの隣の真上の炭素が同様に反応性が高くなって、 アルキル化作用があります。同様の理由でDNAあるいはタンパク質に結合するということで、変異 原性あるいは発がん性を示すことが考えられています。  以上で、いただいた資料の中の化学構造で共通して考えられる毒性で、代謝の面からの考察し た内容をお示ししました。以上です。 ○櫻井座長 ご質問ありますでしょうか。それでは、事務局に資料4-6の2物質の有害性評価表に ついて説明していただいて。 ○大淵化学物質評価室長補佐 もう1つの資料は、ご参考という趣旨で、今日の議論の中心として は、事務局で作った4-4の資料と、いま池田先生にご説明いただいた4-5の資料を組み合わせた形 でのご議論をしていただければと思います。  事務局で前回、詳しくはわからなかったのですが、見た目の構造が似ているものについて、評 価値があればそれを持ってきて、その値から推測することはできないかということで資料でご説 明しましたが、十分な情報ではないので、もう少し踏み込んだ議論を、ただいまの池田先生のコ メントを踏まえた形で、1物質ずつご議論をいただいて、類似の構造物の許容濃度を参考に、それ ぞれ6物質について決めることが可能かどうかということで、本日ご議論いただければと思いま す。 ○櫻井座長 まずNo.9の4-クロロ-2-メチルアニリンを取り上げてご議論いただくのが、最初の仕 事だと思います。そうしますと、資料4-4の2頁を見ますと、前回にもお話いただいた資料で、構 造類似物質の許容濃度が2-メチルアニリン、ACGIHがTLVとして2ppmを勧告している。またアニリ ンについても2ppmを勧告している。いずれも血中のメトヘモグロビン増加は共通しているわけで す。  事務局案として、二次評価値については、類似物質であり、不確実性を考えて、その1/10をと り、0.2ppmではどうだろうかというご提案だったわけですが、直ちにそれだけで構造類似と言え るかどうかという点について、前回、議論が十分できない、自信が持てないということで、今日 池田先生のご説明を伺った上でどうだろうかということになるわけですが。 ○大前委員 いまのご説明を伺いまして、ニトロ化合物、もしくは芳香族、ニトロ化合物もしく はアミノ化合物は、ニトロソ体を通じてメトヘモグロビン血症を起こすのだろうというお話だっ たと思います。今回、4-クロロ-2-メチルアニリンの場合に、クロロが4の位置に付いているわけ ですが、これが付くことによって、その下にある2-メチルアニリンと比べて、脂溶性を作る速度 というか、それは速くなるのですか。その辺に関してはいかがですか。 ○池田委員 ニトロソを作る還元でもいいですし、酸化でもよろしいのですが、すべて薬物代謝 酵素がやっておりまして、薬物代謝酵素の一般的な特徴は、油に溶けやすいものを基質にしやす いというところがあります。  脂溶性ということですが、クロロが付きますと、むしろ脂溶性が高まりますので、4-クロロ-2- メチルアニリンと、クロロのない2-メチルアニリンと比べますと、若干クロロがあるほうが基質 としてはなりやすいと考えていいかと思います。  ただ、実際に測ってみないとわからないという、ちょっと曖昧なところがありますが、一般論 でいきますと、クロロが入るか入らないかで、クロロが入ったほうが代謝は行きやすいのではな いかと考えられます。  先ほど申し上げましたように、少なくとも基本構造芳香族はアミンという構造で、代謝はほぼ 同様に行くと考えていいと思います。プラス、クロロがない化合物ですと、アミノ基の反対側の パラ位があいていますので、ここが水酸化されてOHに変わって、キノン体というか、風邪薬で見 られた反応性代謝ができてくる可能性はありますが、代謝のメインはアミノ基のところで、若干 クロロがあったほうが代謝が速いと私は思います。 ○櫻井座長 先ほどのNo.9についての評価書でも、メトヘモグロビン血症、貧血は高濃度ばく露で すが、経口投与で認められておりますし、これが代謝されて、メトヘモグロビン血症を起こす方 向、ニトロソ体を経て、そうなっていたのだろうなという納得がいっているわけですが、生体内 で還元したり酸化したりするのは、状況に応じてどちらの可能性もあるということですか。 ○池田委員 これは非常に面白い現象で、不思議ですが、同じ酵素でチトクロームP450という酵 素がありますが、これが酸化をしたり還元をしたりしています。その理由は、肝臓の構造を見ま すと、小葉の構造をしており、中心静脈に向かって血液が流れているという状況です。そうしま すと、小葉の周辺部はまだ酸素があって酸化が行きやすいのですが、中心部に行きますと、還元 反応が進むということがあって、両方に行くという状況になっています。 ○大前委員 中心に還元反応が進むということは、静脈に出てくるほうは還元反応物が多い。 ○池田委員 出てくるということになると思います。もちろん酸化を受けたものも、いずれは出 てまいりますので両方出てくるわけです。 ○大前委員 そうすると、アミン体がたくさん出るだろうと。例えば、この物質ですと、ニトロ 体でもアミン体がたくさん出るだろうということでよろしいのですか。 ○池田委員 正直言いますと、両方混合物で出てくると思います。おっしゃるように静脈の出口 の所は還元が進んでいるということですので。 ○櫻井座長 ニトロとアミノの両方、どちらを投与したとしても、静脈血のほうには両方混在し た形で出てくると考えるべきだと。 ○池田委員 そうですね、原料を投与していますので、もちろん原料が多いということになりま す。 ○大前委員 もう1つは、評価書を見ていますと、ラット、マウスでは血管系の肉腫ですが、ヒト ですと、どちらかというと、膀胱のほうにたくさんいろいろな障害が出ている。ということは、 たぶん抱合されたあとに尿中に出てきて、膀胱の中かどこかで、先ほどの抱合体が化学的に脱離 反応を起こしてニトレニウムイオンになって、そこでDNAを。 ○池田委員 ベンジジンなどもそんなことが言われていますので。 ○清水委員 それに関してですが、ニトレニウムイオンになる割合はどのぐらいですか。 ○池田委員 大変難しいところだと思います。要するに、結果的に発がん性があって、それを説 明すると、こういうことであろうということで、量的にそれが説明できているわけではなくて、 少量でもあるかどうかという判断だと思います。 ○大前委員 離脱反応自体はヒトとかイヌではよく起こるが、ラット、マウスではなかなか起き ないということですか。 ○池田委員 これは現実には酵素反応ではなくて、その化合物の持っている自然の反応でいくと 思います。そうすると、例えば、グルクロン酸抱合体ができて、それが尿中にどのぐらい高濃度 に出てくるかということがポイントだと思います。尿中に濃縮する力というのはトランスポータ ーの活性なのですが、これに相当大きな種差がありますので、たまたま人間の場合、なおかつ化 合物によるわけですが、尿中に出やすいもので、濃縮的に出るものですと膀胱がんを起こします。 そうではなくて、胆汁を介して単純に出ていってしまうものもありますので、ここが動物で種差 があるということだと思います。 ○大前委員 動物で肉腫が出るのは、膀胱に出るより、胆汁のほうから出る量がヒトより多いの だろうと。 ○池田委員 そうだと思います。ここは少なくとも推察の範囲を出ないのですが、とにかく胆汁 に出るか尿中に出るかは相当種差があります。 ○大前委員 そうしますと、動物のデータの場合、発がん、肉腫が出ていますが、これを使って ヒトに当てはめるのはあまり筋のいい話ではないだろうということですか。 ○池田委員 はい。高濃度に出れば可能性はありますが、やってみないとわからないという、ち ょっと辛いところがあります。 ○櫻井座長 これの一次評価値は動物実験のを使って出ていますが、現在決めようとしているの は二次評価値で、これはNOAELに相当する数値は得られていない。全部大量ばく露で、したがって やむを得ず、構造類似物質から二次評価値を決めるとしたら、2-メチルアニリン2ppm、あるいは 2ppmに1/10の不確実性定数を掛けて0.2ppmにするという案は妥当性があるように思われますが、 いかがでしょうか。 ○大前委員 メトヘモグロビン血症がターゲットということで、先ほどのお話だと、クロロが付 いていたほうが代謝が速いだろうということは、この絵でいきますと、この場合は酸化ですから、 そちらに行くほうが多いだろうということで、そういう意味では2よりも小さいというのは方向と しては妥当ではないかと思います。 ○櫻井座長 1/2にするか、1/5にするか、1/10にするかといったところは、なかなか決めがたい 領域ですが、1/10にするのが妥当な安全サイドかなと感じております。池田先生、いかがでしょ うか。 ○池田委員 それで結構だと思います。 ○櫻井座長 それでは、0.2を二次評価値とするということに意見が一致いたしました。  次はNo.14です。これのエッセンスはどういうことだったかと言いますと、これもNOAELは15mg/ kg/dayを使うと、随分高い数字になってしまうかと思われる一方、構造的に類似する化学物質の 許容濃度としては、ジフェニルエーテルが1ppm、4,4’-ジフェニルメタンジアミンについてのACGIH で0.1ppmを勧告しています。  事務局で提示していただいた二次評価値(案)は、現在までの知られているACGIHのTLVがいち ばん低い0.1ppmですが、それの1/10の0.01ppmということです。類似性について先ほどのご説明で すと、CHが入っているので3頁の下の図ですね。 ○池田委員 エーテル型の化合物と、真ん中にメチルが入っていたのとでは、少し様相が違うで あろうというのが私の感じです。アミンという意味では、ほぼ同じ作用を示すだろうと思います。 特に連続投与で長い期間投与した場合に、3頁のスライドの下に書いてあるような反応性の構造 が、例えば変異原性とか、発癌性にかかわってくる可能性があるかなということで、そういう構 造を書いてあります。アミンという意味では、ほぼ考え方は同じと考えていいと思います。 ○大前委員 先ほどのお話ですと、エーテル体ですと、ジフェニルメタンよりも肝障害が起きな いだろうと。 ○池田 私はそのように思っています。 ○大前委員 そうすると、ジフェニルメタンの基本濃度が、肝毒性をもし基準にしているとした ら、そんなに厳くしなくてもいいだろうと。 ○池田委員 少し低い濃度のほうがいいと思います。要するに、ジアミノジフェニルエーテルが ありますが、このエーテル化合物よりも少し低い許容濃度を下げたほうがよろしいのではないか という感じです。 ○大前委員 ジフェニルメタンのほうがですね。 ○池田委員 はい。 ○櫻井座長 ジフェニルエーテルが1ppmなので、それよりも少し低い数字であるほうがいいだろ うと。 ○池田委員 私はそう思いました。 ○櫻井座長 4,4'-ジフェニルメタンジアミンはどうですか。これは0.1ppm肝障害で出ています が。4,4'-ジフェニルメタンジアミンは、ACGIHとTLVが0.1ppmで出ているのは5頁に書いてある。 ○池田委員 これはたぶん3頁目の下の構造だと思います。 ○大淵化学物質評価室長補佐 4-4の資料の3頁の下の図が4,4'-ジフェニルメタンジアミンの構 造です。 ○櫻井座長 いま私が見ているのは資料4-4の3頁の「構造的に類似した化学物質の許容濃度など」 という所ですが。ジフェニルエーテルの下に(2)として4,4'-ジフェニルメタンジアミンと書いてあ って、ACGIHのTLVが0.1と書いてありますが、これは下に書いてあるものですね。 ○大淵化学物質評価室長補佐 下に書いてあるものが0.1ppmで、それに1/10を掛けたのが事務局 案ということです。 ○大前委員 いまのお話ですと、ジフェニルエーテルが1で、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル はアミノ基がありますから、これよりは低いだろう。しかし、肝障害を考えたら4,4'-ジフェニル メタンジアミンよりも甘くていいだろうと。肝障害が起きないわけですから。 ○池田委員 4,4'-ジフェニルメタンジアミンというのは、3頁の下の構造と同じものですので、 肝障害が起きると考えていいと思います。 ○大前委員 いま問題にしているのは4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、上のエーテルのものを 問題にしているわけです。 ○池田委員 エーテルですと、肝障害は起きにくいと思います。 ○大前委員 そうしますと、0.1と1の間にあればいいのではないかというのが先生のご見解とい うことですね。 ○池田委員 はい、そう思います。 ○大前委員 事務局案は0.01と1/10と言っていますが、そうではなくて、先生のご見解は0.1と1 の間ではないかということですね。 ○池田委員 エーテルのほうがより毒性は低いのではないかという予想になります。 ○櫻井座長 0.5ぐらいですから、その中間ですね。 ○大前委員 0.2か0.3。 ○櫻井座長 0.2ぐらいですか。 ○池田委員 これは厳しいところです。 ○櫻井座長 事務局案があまりにも0.01で。 ○大前委員 いまのお話だと違うなという気がするのですが。 ○櫻井座長 安全サイドをとったとして、0.2ですね。それでうなづいている方が多いようですが、 0.2で。 ○島田化学物質評価室長 場合によってはジフェニルエーテルよりも低いということで、それに 1/10を掛けていただいて、4,4'-ジフェニルメタンジアミンのレベルにしておいていただいても結 構だと思います。ただ、もちろん先生方のご判断で結構です。 ○大前委員 いまの4,4'-ジアミノジフェニルエーテルの有害性評価書を見ていますと、結構肝が んとか、肝臓の腫瘍性の結節が出ることもありますよね。 ○池田委員 はい、芳香族アミンの特徴的な現象だと思います。 ○櫻井座長 発がん性という視点を考慮しますと0.1ですね。事務局からも0.2か、0.1かお考えく ださいというご示唆もありましたが、いま持っている情報からいきますと、0.1でよろしいですか。 ○清水委員 真ん中のエーテル結合とか、CH2のこれは切れることはあるのですか。 ○池田委員 エーテルが外れるのは結構難しいと思います。もう1つ、真ん中のメチルが切れるの も難しいと思うのですが。 ○清水委員 この形でいくわけですね。 ○櫻井座長 内山先生、どうでしょうか。 ○内山委員 がん性も考慮して0.1で、少し安全に見ておいてもいいかなという気がします。 ○櫻井座長 では、0.1という点で、名古屋先生もご了解いただきましたので、0.1ppmを採用する という結論になりました。  それでは、その次は事務局のほうで、まず最初の2つについて整理してくださいましたが、どう いうことになりますか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 それ以降の4物質については、今年度の委託事業で、いま有害性評 価書を作成している途中でして、こちらの検討会には委託の評価書ができましたら、後日お示し てと思っております。本日の段階でどこまで決められるかというところで、可能な範囲でご議論 いただければと思っております。 ○櫻井座長 そうしますと、No.6のオルト-ニトロアニソールですか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 そこからお願いしたいと思います。 ○櫻井座長 そこから考えるわけですね。 ○大淵化学物質評価室長補佐 はい。 ○櫻井座長 オルト-アニシジンの1/10ではどうかという案になっておりまして、オルト-アニシ ジンはACGIHが0.1ppmを勧告しています。池田先生が先ほどご提示くださった情報の中から考える と、1頁目の左側にオルト-ニトロアニソールと。 ○池田委員 オルト-ニトロアニソールとニトロ基がアミノ基に変わったものですが、先ほどの代 謝経路から考えますと、ほぼ同じ毒性を示すであろうと思います。途中のニトロソ(NO)がメト ヘモグロビンの原因になると思うわけです。  ニトロソのできやすさですが、経路からいきますと、ニトロ基が1つ還元されますと、即、ニト ロソに変わります。アミンの場合はそれからいくつか反応を受けてニトロソに変わりますので、 アニソールとアミンの化合物と比べると、ニトロソとしての毒性は、どちらかというとニトロの ほうがより出やすいと考えていいかなと思います。 ○櫻井座長 ありがとうございます。そうすると、オルト-アニシジンのACGIHのTLVは0.1ppmその ものではなくて、やはりそれより低い数値が妥当ではないかと。 ○池田委員 少し低いほうがいいような感じがします。ですから、この提案はオルト-アニシジン の1/10という数字が出ているわけですね。 ○櫻井座長 そうです。そうすると、有害性評価書の内容によって、それを修正する必要があっ た場合は改めて考慮するとして、当面オルト-アニシジンの1/10の0.01ppmというのは妥当性が高 いように思われますが、どうでしょうか。 ○榎本化学物質対策課長 池田委員の資料4-5の1頁を拝見しているのですが、ニトロとアミンと いうのは、要するに酸化還元では同じレベルにあるが、発がん性などを考えた場合、やはりアミ ンのほうが発がん性がより出やすいということですか。 ○池田委員 はい。教科書的な話になってしまうのですが、芳香族のニトロあるいは芳香族のア ミンで、なおかつ芳香族の構造が大きい場合が発がん性が大きいというのですが、結局NH2がNHOH に変わって、アミンから1回酸化を受けた構造のヒドロキシルアミンが抱合を受けて、なおかつ化 学的に離脱反応が起きることが原因だろうと言われておりますので、代謝経路の近さからいくと アミンのほうがヒドロキシルアミンに近いのです。ただ、当然ニトロも最終的にはそちらにいき ますので同様にいくのですが、近さからいくとアミンのほうが発がん性が強くて。 ○榎本化学物質対策課長 そうすると、ニトロ体のほうの毒性を考えたときに、アミンと比べる と、それより少し毒性が弱いと考えていいのですか。 ○池田委員 そう考えていいと思うのです。ただ、ニトロアルマティックスと言われてまして、 これもすべて発がん性がありと言われておりますので、最終的には、あるいは長いばく露を考え ますと、発がん性を無視することは絶対できないという構造になっております。 ○榎本化学物質対策課長 そうすると同等。 ○池田委員 危険性ということを考えれば、発がん性に関しては同等と言ってもしようがないか なと。 ○櫻井座長 発がん性についてはほぼ同等と考えるべきだろうと。オルト-アニシジンではメトヘ モグロビン増加を予防する立場で0.1ppmになっているわけですね。その点からいくと、むしろオ ルト-ニトロアニソールのほうが近い。したがって、0.1ppmよりも低い数値をとるのが妥当ではな いか。その他、皮膚の感作性等もありそうですが、0.1ppmの1/10の0.01ppmというのを当面、特段 それを覆すような根拠が評価書でない場合は0.01ppmというのを採用することにしてよろしいで すか。                   (了承) ○櫻井座長 次はNo.16の4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジフェニルメタン、この物質については構 造的に類似した化学物質の許容濃度として4,4'-ジフェニルメタンのACGIHのTLVが0.1ppmの1/10 というのが当初の事務局案です。メチル基がアミンの隣にそれぞれ入るとどうなるかということ になるわけです。池田委員、これについてはどうなるのですか。 ○池田委員 これはかなり複雑な読みをしないといけないのですが、いわゆるトキシコフォアと 言いますか、本来の毒性を示す構造というのは両端にNH2があって、芳香環があって、真ん中にO ではなくてCH2があることが毒性の原因になりますので、これは基本的に毒性は変わらない。要す るに、メチル基があってもなくても、基本的なトキシコフォア構造はなくなっておりませんので、 定性的にもほぼ同じ毒性を示すであろうと思います。  今度は定量的な話で、メチル基があったらどうなのかということですが、ちょっと変わった2 つの考え方をせざるを得ないのは、先ほどから述べているように、すべて薬物代謝酵素がこの活 性化を行っておりますので、油に溶けやすい構造はより代謝を受けて毒性を持つものに変わりや すいと考えていいわけですが、メチル基が2つ入っていますので、少し油に溶けやすくなって毒性 を示しやすいという考え方があります。ところが、もう一方でこのようにベンゼン環にメチル基 が付くと、何が何でもまずはここに代謝がきやすいということがありまして、先にここに代謝が いってしまうと、水溶性が上がってきてトキシコフォア構造は残ってはおりますが、良い基質に なりにくいといったことが起きてくるわけで、どちらが進むかというのはちょっとわかりにくい のです。安全を見ると、ほぼ同じと見るのが妥当ではないかと私は思います。 ○櫻井座長 この物質についての発がん性のデータ等は、有害性の評価書がまだないからはっき りしないですね。 ○池田委員 私の予想では、メチル基のないものとほぼ同じような定性的なデータになると思い ます。 ○櫻井座長 そうですか。一次評価値が0.00021ppmとしているわけでして、閾値なしということ で、動物実験のデータからそれを示している点を考えると、発がん性もあるだろうと。先ほどの 説明のとおり、グルタチオンが外れ。 ○池田委員 枯渇してきますと、毒性のほうに回るということです。 ○大前委員 いまのは一次評価値が0.00021ppmですが、この下の4,4'-ジフェニルメタンジアミン はNo.41の4,4'-メチレンジアニリンという物質と同じだと思うのですが、どうですか。 ○櫻井座長 同じですね。 ○大前委員 これも一次評価値が0.00013ppmだからほとんど変わらないのです。 ○櫻井座長 0.00013ppmですね。 ○大前委員 先ほどのが0.00021ppmですから、一次評価値でどちらかにすっきりすればと思った のですが、それはどうもできそうにないので。 ○櫻井座長 そうですね。 ○大前委員 そのような意味では、先ほど池田委員が言われたように、同じぐらいの数値でもい いのかなという気がするのです。 ○櫻井座長 0.1ppmと同じぐらいでいいのではないかというご意見も出ております。どちらに進 むかわからないが、池田委員のご判断はおおよそ同じと考えていいだろうということですね。 ○池田委員 私はそう思います。 ○櫻井座長 そのご意見によって0.1ppmという数値にしておきたいと思いますが、よろしいです か。                   (了承) ○櫻井座長 この場での結論は「0.1ppm」といたします。  次のNo.32は先ほどきちんとご指示いただいた部分ですが、1,3-プロパンスルトンについて決め たい。一方、β-プロピオラクトンについては0.5ppmがACGIHから勧告されているので、その1/10 の0.05ppmではどうかという二次評価値案になっておりますが、この点についてはどちらが毒性が より強いかという点から、池田委員にもう少しご説明いただきたいと思います。 ○池田委員 これも化学構造から言うのはなかなか難しいところですが、両方ともアルキル化作 用があるということでは差はないと思うのです。1,3-プロパンスルトンですと、Sの隣の炭素のと ころにDNAあるいはタンパク質、グルタチオンも結合しますがここの反応性があります。β-プロ ピオラクトンの場合ですと、C=Oと書いた隣の炭素が同じように反応性とアルキル化作用があり、 DNAあるいはタンパク質、グルタチオンに結合しますので、ここの反応性はほとんど変わらないだ ろうと思います。全体的には化学構造としても、確かに若干1,3-プロパンスルトンのほうが大き いのですが、この程度の大きさは立体障害といったことで反応性に妨げがあるとは思えませんか ら、そういった意味ではほぼ同じではないかと思います。 ○櫻井座長 そうですか。 ○池田委員 ただ、Sの隣のカーボンとカルボニルの隣のカーボンが、例えば何倍なのか、0.8倍 なのか、1倍なのか、1.2倍なのかと言われると、私にもちょっと読めないところでありまして、 そこは安全を見積って同じと考えざるを得ないかなと思います。 ○櫻井座長 なるほど。 ○大前委員 先ほどグルタチオンが枯渇すると発がん性等がより強まるというお話を伺いました が、通常のこのぐらいの濃度のレベルですと、グルタチオンの枯渇というのはまず考えなくても よろしいですか。 ○池田委員 そうですね。肝臓などですと相当な濃度がありますので、例えば最初に示したアセ トアミノフェンといったものですとグラムオーダーでもないと何も出ないのです。ただ、例えば これが皮膚ですと、皮膚のグルタチオン、これも当然多いのですが、肝臓と比べると供給能力が 低いので少し低い濃度でも出てしまう可能性はあるわけです。ですから、細胞によっては肝臓と 同じというわけにはいかないと思います。ただ、おっしゃるようにグルタチオンの濃度は確かに 大体高いものですから、すぐに枯渇するということはないと思います。 ○櫻井座長 ただ、枯渇というのは、他の原因で枯渇しているところにこの物質がいったとした ら違いますね。 ○池田委員 それはだいぶ違います。動物実験では、わざとグルタチオンをデプリート(枯渇) するような化合物を投与して毒性を見るということがありますので、おっしゃるように何らかの 条件でそのようになると毒性は出やすくなると思います。 ○櫻井座長 グルタチオンを枯渇の方向へ誘導するような日常生活における問題点というのは何 かありますか。 ○池田委員 やはり同時にグルタチオン抱合を受けるような、例えばアセトアミノフェンのよう な風邪薬でも飲むと当然その分は下がりますので、それと同時にこの化合物にばく露すると同じ ような現象になると思います。 ○櫻井座長 これらの物質の生体内での。 ○池田委員 主たる反応経路ですか。 ○櫻井座長 というよりも到達、吸収や分布の問題ですが。 ○池田委員 この化学構造から見ると、細胞膜は非常に通りやすいと思います。分子量が大きい となかなか通らないのですが、これぐらいの分子量ですと問題なくすぐ通り抜けてしまうと思い ます。ですから、経口投与しても皮膚からでも入ってくると思います。 ○櫻井座長 到達速度に差はないだろうということですか。 ○池田委員 そうですね。全体的に見て、β-プロピオラクトンのほうがプロパンスルトンよりも より小さいですが、ほとんど差がないと見たほうがいいと思います。 ○櫻井座長 そうですか。そこまで推測できるとするならば、ほぼ同じ数値でいいのではないか とお考えでしょうか。 ○池田委員 私はそう思います。 ○櫻井座長 池田委員のご意見を何よりも重要視したいと思いますので、この場では0.5ppmとい う数値を採らせていただきたいと思います。皆様ご異存がないように思いますので、そのように 決めさせていただきます。  次にNo.42、2-メトキシ-5-メチルアニリン、これはオルト-アニシジンのTLVが0.1ppmであるのに 対して、一応原案としてはその1/10の0.01ppmをとることになっていますが、これについて判断の 参考になるような池田委員のご意見はどこかにありましたでしょうか。 ○池田委員 特にはなく、基本的に同じと思うのですが、脂溶性のことを考えるとメチルの付い たほうが全体的には脂溶性が上がる。要するに薬物代謝酵素というのはどこでも認識するのです が、メチル基というのは高発の代謝部位なのです。それで代謝がいきやすいということがあるの です。同時にメチル基があるが故に、他の所もいきやすいということもありますので、アミノ基 からニトロソにいく、あるいはヒドキシルアミンでもいいのですが、いきやすさとしてはメチル 基がないほうがいきやすいかもしれないですから、何とも言いにくいところです。代謝速度も上 がるのですが、同じようなスピードでニトロソにもいきやすいかもしれないので、安全を見込む ならメチルがあったほうが毒性が少しあるかもしれないとしたほうが安全ではないかと思いま す。 ○櫻井座長 そうすると、オルト-アニシジンのTLVが0.1ppmに対して、安全サイドで1/10の 0.01ppmという原案を採用するのがよろしいでしょうか。 ○池田委員 やはり安全性を考えると、そのほうがいいように私は思います。 ○櫻井座長 それではそのような結論にしてよろしいですか。                   (了承) ○櫻井座長 これも他の物質と同じように評価書の内容によって修正すべき点がない以上、今日 決めた数値を採用することにしたいと思います。以上で今日の重要課題は一応クリアいたしまし た。 ○大淵化学物質評価室長補佐 次は、ACGIH、産衛学会等の評価値があるものについてのグループ です。 ○櫻井座長 ACGIH等の許容濃度が設定されている13物質の検討に進みます。これについては大淵 補佐から逐次ご説明いただきながらということでお願いいたします。 ○大淵化学物質評価室長補佐 1物質ずつ順に説明いたします。13物質のうち、10物質については 既に有害性評価表がありますので、そちらについて1物質ずつ説明させていただき、1物質ごとに ご議論をしていただければと思います。  まず、No.8の2-クロロ-1,3-ブタジエンです。資料4-6の(3)ですが、参考として資料4-3の表もご 覧ください。資料4-3の11頁のところで許容濃度に関係してACGIHあるいは産衛学会等について、 濃度、提案年、どのような根拠で数値を設定しているかを整理しております。  まず、資料4-6の(3)、No.8の2-クロロ-1,3-ブタジエンについて説明いたします。2枚めくって表 のあとの有害性評価書をご覧いただきまして、物性と生産量等の確認からいたします。物性は刺 激臭のある無色の液体、沸点が約60℃近いというものです。1頁の下にある生産量等ですが、量の 情報はありませんが、用途としてはポリクロロプレンゴム、ネオプレン、合成ゴムの原料です。 表紙のほうの1頁の毒性ですが、アの急性毒性としては吸入、経口、経皮の毒性がそれぞれ書いて ありますが、特に吸入の毒性については比較的低い数値のLC50が出ております。  2頁のイの刺激性/腐食性については、皮膚への刺激性、眼に対する刺激性については両方とも 「あり」というデータが出ております。  ウの感作性については、皮膚感作性、呼吸器感作性とも「報告なし」という状況です。  エの反復投与毒性は「あり」としており、こちらに書いてあるのはラットへの吸入ばく露の実 験ですが、摂食量、体重の低下、肝臓・腎臓の相対重量の増加といった症状がありまして、LOAEL として40ppmという値が出ております。下のほうの同じくラットへの吸入ばく露の実験ですが、こ ちらはNOAELで12ppmという値が出ております。  オの生殖・発生毒性ですが、ラットの実験で10ppmばく露群で肺の吸収が認められるというデー タが出ており、LOAELとしては10ppmという数字が出ております。  3頁のカの遺伝毒性は「遺伝毒性あり」としており、in vitro、in vivoの試験で「陽性」とい う結果が出ております。発がん性の有無としては「人に対する発がん性が疑われる」という判断 で、IARCにおいては「グループ2B」と分類されております。閾値としては、遺伝毒性があるので 「閾値なし」ということです。ユニットリスク関係としては関係情報がないということで、ここ では労働補正の計算もしておりません。  コの許容濃度の設定ですが、ACGIHのほうでは10ppmという値が示されており、経皮吸収のSkin notationのほうも付いております。こちらの10ppmについては、前回までの議論で少し高過ぎるの ではないかというお話をいただいておりまして、今回その辺をもう少し議論していただく必要が あると思っております。その他、ドイツのMAKにおいても経皮吸収への注意というのが付いており ます。 ○櫻井座長 この10ppmについては、前回高過ぎるということだったわけです。そのときは評価書 がなかったのですが、今回のこの評価書をご覧になっていかがですか。 ○大前委員 前回、私が高過ぎると言ったのですが、一応、二次評価書を使ってやっていますの で……に当たらないというスタイルでこの評価書はできておりまして、2007年のレポートとして 文献9、14を入れてはどうかということで入れていただきました。20頁の「発がんの定量リスク評 価」の上のところにある「コホート研究」が該当する中身です。ここにあるように、1万2,430人 のコホートで、SMRは上がっていなかったということですので、このレポートではいいのではない かというか、ACGIHの10ppmを採用してもいいのではないかと思います。ただし、前回も言ったよ うな記憶があるのですが、どの集団を標準集団として持ってくるかによってSMRが若干変わってい るのです。たぶん、これは労働者集団、同じ会社の被ばく露者の集団を持ってくると差がないと いう結果だったと思います。有意差があったかどうかまでは記憶がないのですが、米国の一般人 口を母集団にすると少し紛れているということだったので、前回ちょっと事情があって10ppmとい う話をしましたが、とはいえ、同じ集団で差がなければいいのかなということでよろしいのでは ないかと思います。 ○櫻井座長 その他何かあればお願いいたします。この評価書の表にまとめたものの2頁のところ の反復投与毒性試験ですが、ラット等の実験ではLOAELが40ppmに出ていたり、NOAELが12ppm等が あります。これだけを採用するとしたら種差等不確実性係数を入れて、より低い数値が計算され て出ておりますが、ヒトのデータ、疫学情報等を優先して10ppmでいいだろうという評価になるの かなと思います。それでよろしいですか。 ○大前委員 池田委員に1つ伺いたいのですが、1,3-ブタジエンに対して1個のクロロが付いてい る物質というのは、発がんという観点からいくと、クロロが付いてもあまり変わらないものと考 えていいのか、あるいはどちらかに傾くものか、いかがでしょうか。 ○池田委員 難しいところがあるのですが、まずカーボンに直接ハロゲンが付いていると、そこ はそう簡単には抜けないのですが、隣に酸素が入るというようなことがあり、これは二重結合も あるので酸素が入ってきます。そうすると、そのことによってクロロが抜けるようなことになり、 例えばエポキサイドができたりします。エポキサイドはクロロがないよりはあったほうができや すいと思います。それは脂溶性が上がるためです。クロロが抜けた後に今度はグルタチオンが結 合するような構造ができてきて、これも反応性代謝物ができてくると思います。やはりクロロは ひとえに脂溶性を上げるという方向に働いていると思いますので、代謝がいきやすく、それが反 応性代謝物を作るであろうと予想できます。 ○大前委員 いまはネガティブな情報しかないのですが、そうすると1,3-ブタジエンよりも発が ん力が強くてもおかしくはないと。 ○池田委員 そうですね。ハロゲンの付く位置によっても違うとは思うのですが、いずれにして も二重結合の近くにあるので毒性が上がる方向ではないかと思うのです。 ○大前委員 とは言いましても、情報はネガティブなものしかないわけですし、10ppmをとらざる を得ないのではないかと思います。 ○櫻井座長 その他ご意見がなければ、10ppmということにいたします。次に進めたいと思います。 ○大淵化学物質評価室長補佐 次の物質はNo.18の1,4-ジクロロ-2-ブテンです。資料4-6の(4)です が、物性、生産量、用途等からご覧ください。物性としては無色ないし褐色の液体、沸点は156℃ です。生産量等はヘキサメチレンジアミン、クロロブテン製造の中間体という位置づけで、製造 量等の情報はありません。  前のほうに戻り、毒性情報ですが、アの急性毒性は吸入毒性の試験、経口毒性、一部は経皮毒 性の試験もあります。急性毒性の症状としては中枢神経系の抑制、頭痛、呼吸器刺激といったも のが起きるということです。  イの刺激性/腐食性としては皮膚への刺激性、眼に対する刺激性はいずれも「あり」という結 果が出ております。  ウの感作性ですが、皮膚、呼吸器とも「特に報告なし」ということです。  エの反復投与毒性としては人についてのデータはありませんが、ラットに対する4週間の吸入ば く露試験の結果がありまして、これを基にNOAELで2ppmという数値が示されております。  2頁目のオは生殖・発生毒性ですが、ラットでの試験が行われており、試験では母のラットに体 重増加率の減少があるぐらいで特に目立った状況はなく、この結果を基にNOAELは親が0.5ppm、子 は5ppmという値が示されています。  カの遺伝毒性は「あり」という報告です。in vitro、in vivoの試験はいずれも「陽性」という 結果です。  キの発がん性ですが、おそらくヒトに対して発がん性があるという評価でして、ACGIHでA2に分 類されております。閾値は遺伝毒性がありますので「閾値なし」ということです。ユニットリス クに関係する情報としてはカリフォルニアEPA、WHOといった所ではユニットリスク情報はないと のことですが、アメリカのEPAのリスク分析による情報によると、8時間の40年間ばく露の労働者 の生涯発がん性リスクは4×10-2という数字が出ております。この数字を補正したRL(10-4)のほ うが6.3×10-5ppmとなっております。  3頁のコは関係する許容濃度の設定です。ACGIHでは0.005ppmという値が示されております。こ ちらの根拠としては、毒性的には強度の刺激性、変異原性、動物発がん性物質といったところで す。ウサギの経皮投与でのものがありますので、経皮吸収のSkin notationというものも付いてお ります。ラットの発がん試験のほうから求めていますが、人の生涯発がんリスクは8×10-3等々と いったところがありまして、これらから0.005ppmという値を導いております。日本産衛学会につ いては許容濃度は設定されておりません。 ○櫻井座長 ACGIHの0.005ppmですが、参考資料を見ると、ACGIHのレコメンデーションが53頁に 出ております。一応キャンサーリスクも考慮して、やや安全サイドの数値としてこれを出してい るわけです。動物実験のデータも考え、非常に刺激性が強いということもありますが、刺激性だ けで決めた数字ではないようです。ACGIHでこのような数値を示しているものであるならば、それ を採用するのが妥当かと思いますが、いかがでしょうか。それでよろしいでしょうか。                   (了承) ○櫻井座長 それでは、これはACGIHの数値をそのまま採用することにいたします。  次の物質はNo.19です。 ○大淵化学物質評価室長補佐 No.19は資料4-6の(5)です。2,4-ジニトロトルエン、ニトロ基が2つ 付いた構造の物質です。物性関係ですが、有害性評価書の2.に出ております。特徴的な臭気のあ る黄色の結晶で、融点は71℃です。3.の生産量等は、2005年のデータで推定1,000トンです。用途 としては有機合成及び染料です。  表紙に戻りまして、各毒性ですが、アの急性毒性では、経口毒性のデータがあり、特に強いと いうものではないと思います。急性ではヒトへの情報も若干ありまして、工場労働者が2,4-ある いは2,6-ジニトロトルエンにばく露した場合というものです。呼吸器あるいは皮膚から体内に入 るとのことで、症状としてはチアノーゼ、貧血、白血球増加、頭痛、動悸、不眠症等々が見られ たということです。  イの刺激性/腐食性ですが、皮膚への刺激性としては軽度のものがあり、眼に対しては特にな しとのことです。  ウの感作性ですが、皮膚への感作性としてはヒトへの感作性について報告があるようですが、 ばく露量との関係が明らかでないということで判断できないとのことです。表のいちばん下にあ る呼吸器の感作性については、報告なしという状況です。  2頁のエの反復投与毒性ですが、ラットの試験結果からNOAELを導いており、0.5mg/kg/dayです。 症状としては貧血が見られたという結果です。  オの生殖・発生毒性についてはラットの試験結果がありまして、F0世代に体重低値、F1、F2世代 に体重低値、新生児の生存率の低下等が見られたということで、NOAELは0.01%、ミリグラム等に 直して34.5mg/kg/日ということです。  カの遺伝毒性は「あり」としており、多くの試験が行われております。  キの発がん性はヒトに対する発がん性の可能性があるという評価で、IARCではグループ2Bに分 類されております。こちらには動物実験等の情報も書いてあります。閾値については遺伝毒性が あるので「閾値なし」という判断です。  3頁のユニットリスクの関係ですが、カリフォルニアEPAの示しているユニットリスクの値は8.9 ×10-5(μg/m3)-1ということです。これを労働補正した値についてはRL(10-4)で、1.1μg/m3と いう値です。  コの許容濃度の設定ですが、ACGIHがすべてのジニトロトルエンの異性体としてということで 0.2mg/m^3という値を示しており、経皮吸収性があるという注意書きもあります。その判断の根拠 としては、ニトロベンゼンやジニトロベンゼンの許容濃度との類似性といったことも考慮に入れ られております。その後、ばく露作業者の心疾患、生殖影響のリスクを考えて、数字は1.5mg/m3 から0.15に下げられております。1996年には0.15も0.2も実質的には差がないということで、現在 の0.2という数字に至っているということです。日本産業衛生学会については、現在のところ値は 設定されておりません。 ○櫻井座長 ACGIHはすべての異性体ということですから、2,4-に限らずジニトロトルエンすべて ということのようです。何かご意見があればお願いいたします。 ○大前委員 池田委員に伺いたいのですが、これはジニトロ体ですが、モノニトロ体と比べると ジニトロ体のほうがニトロソ化合物を作りにくいのですか。あるいは、逆にニトロがたくさんあ れば当然たくさんできるのですか。 ○池田委員 ここも難しいところですが、私も今そのことをちょっと考えていまして、ジニトロ ベンゼン1mol投与すると、おそらくニトロベンゼンを2mol投与したぐらいになるのかなと思いま す。要するに、ニトロ基があることによって、もう1つのニトロ基の代謝が変わるということはあ まり考えなくていいと思います。ここに書かれている内容を見ると、チアノーゼと言っても結局 メトヘモグロビン症だと思いますので、芳香族ニトロ化合物の典型的な症状が出ているのではな いかと思います。発がん性、mutagenicityのことは書いてなかったですが、有機アミン化合物と 同じように共通した反応だと思いますので、典型的なニトロアロマティックスと考えていいと思 います。 ○櫻井座長 ACGIHは経緯がいろいろあるようですが、現在のところは0.2mg/m3で落ち着いてい るようですが、それでよろしいでしょうか。                   (了承) ○櫻井座長 それでは0.2mg/m3を採用したいと思います。なお、これを見ていてちょっと気が付 いたのは、先ほど6物質について決めましたが、全部ppmとなっております。類似した対比したも のはppmで妥当だったかもしれませんが、決定したものは固体や液体のものも入っていますので、 mg/m3に修正する必要があると思います。 ○大淵化学物質評価室長補佐 わかりました。 ○櫻井座長 対応した数値に換算したほうがいいです。なお、肺の吸収とかは若干違ってくると 思いますが、気体と粉体は一応同等とみなしてよろしいでしょうね。変えることはないですよね、 同じですね。それでは単純にmg/m3で計算しておいていただきたいと思います。次の物質に移りま す。 ○島田化学物質評価室長 私からはヒドラジン関係を説明いたします。まず、資料6、No.24のジメ チルヒドラジンです。物性等のデータについては2枚めくると有害性評価書が付いております。物 理化学情報については刺激臭のある無色の発煙性、吸湿性のある液体です。沸点は63℃ですので、 通常は液体です。生産、輸入量、使用量、用途ですが、生産量は2003年のデータで200トン程度で す。用途は合成繊維・樹脂安定剤、医薬・農薬の原料、ミサイルの推進剤、界面活性剤の反応溶 剤、精製溶剤等々です。その他ジェット燃料及びロケット燃料の成分、植物成長調節剤といった 用途もあります。  前に戻り、有害性評価表のほうです。急性毒性については吸入毒性、経皮毒性とそれぞれあり ますが、ご覧のように「中程度」です。  皮膚腐食性については報告等はありませんが、GHS等の分類において刺激性あるいは腐食性があ るということです。  眼に対する重篤な損傷性/刺激性ですが、これについてもGHSの中で区分がありますが、「あり」 となっております。  皮膚感作性または呼吸器感作性については、MAKのほうでShという区分になっており、皮膚感作 性のおそれのある物質ということで「あり」としております。  生殖細胞変異原性については、ラットのデータとサルモネラの復帰変異試験等々において陽性 が出ていますので、「やや疑われる」という区分にしております。  発がん性については情報がないということです。閾値の有無の判断については、閾値なしの場 合、そこに出ているように、いくつかのAmes試験では陽性が出ていますが、肝細胞の不定期のDNA 合成等々においての試験で陰性となっております。参考データですが、閾値がない場合のユニッ トリスクの情報としては、試験データとして0.05ppmというラットのデータがあります。ただ、2 頁の参考情報のところに注釈があって、この試験の際にN,N'-ジメチルヒドラジンについては不純 物として発がん性物質であるジメチルニトロソアミンの混入が報告されており、場合によっては 混入物質の発がん性を拾っているのではないかといった注釈です。  生殖毒性ですが、経口投与のデータ等はありません。試験等で得られたLOAELは10mg/kg/dayで すが、これは腹内腔投与において胚毒性が見られたと記されております。  特定標的臓器/全身毒性については、GHS上、分類できないということで有効なデータが得られ ておりません。特定標的臓器の全身毒性、反復ばく露については、GHS上は血液及び神経における 毒性ということで区分は1となっております。  次頁の許容濃度については、ACGIHのほうでは特に鼻の腫瘍発生率の増加、ラット・マウスなど において鼻刺激などの毒性徴候を誘発する事実が入っておりますので、このようなものを根拠と して0.01ppm、経皮吸収性となっております。日本産衛学会においても設定されていないとありま すが、評価書には同じく0.01ppmという表記があります。 ○櫻井座長 ACGIHは1989年に今の0.01ppmを採用して、その後も変更せず現在に至っております。 ご異存がなければ0.01ppmということでよろしいですか。ACGIHのこの数値を変更する理由は今の ところ見当たりませんので、0.01ppmということにします。次はヒドラジンですね。 ○島田化学物質評価室長 7の資料、No.30です。ヒドラジン及びヒドラジン水和物のご説明です。 2枚ほどめくっていただいて、有害性評価書原案については、これもジメチルヒドラジンと似たよ うな形になりますが、物理化学情報については、刺激臭のある、無色、発煙性かつ吸湿性の液体 です。沸点が114℃で、常温では液体となります。  生産量、輸入量、使用量、用途について、汎用されている物質で、2002年のデータで、生産量 が1万5,373トンです。輸入量は把握されていません。用途は、無水ヒドラジンについてはロケッ ト燃料、エアーバッグ用の起爆剤、水加物はプラスチックの発泡剤製造の過程で使われます。そ れから清缶剤として使われます。併せて、水処理剤、還元剤、重合触媒、各種誘導体、試薬、農 薬に使われています。  いちばん前に戻っていただきます。有害性総合評価表については、急性毒性については、吸入 毒性、経口毒性のデータがあります。吸入については中程度、経口は半数致死量、用量が厳しく なっています。  刺激性/腐食性については「あり」で、ウサギの眼に適用した実験で、重篤な角膜への障害が ありまして、ウサギの皮膚への刺激性/腐食性も確認されています。  感作性については、皮膚感作性が「あり」で、特にヒドラジンとその塩は、ヒトに接触アレル ギーを発症するということです。呼吸器感作性については報告がありません。ただ、日本産衛学 会は、気道感作性について2群に分類しています。  反復投与毒性については、生殖・発生、遺伝毒性を除いたものですが、雌雄のラットのデータ でして、気管の粘膜上皮の炎症と扁平上皮化生、それから肺胞上皮過形成といったものが根拠と なりまして、LOAELが0.05ppmとなっています。これについては、下に併せてユニットリスク等が 示されていますが、LOAELですので、種差で10となっていますが、私どもの計算からするとLOAEL からNOAELの不確実係数が加わるべきかなと思うので、ここについては再度検討させていただきま す。  それから、生殖・発生毒性ですが、ラットの妊娠11日から20日の10日間において、経口投与し た試験において体重減少、死亡率を含む母動物に対する毒性、それから胎児の体重減少、死亡率 の増加が見られたことを根拠にして、8mg/kg/dayのレベルにしています。この根拠については次 の頁で、評価レベルとして、3.6×10-1ppmとなっています。  遺伝毒性については「あり」で、vitroの試験、チャイニーズハムスターの試験など、いくつか のデータで陽性が確認されています。  発がん性については、IARCの2Bという分類で、ヒトに対する発がん性が疑われるということで す。動物については、吸入ばく露発がん性試験が行われていて、鼻腔、甲状腺にがんを誘発され たことが確認されています。ラットにおいて、肝臓、子宮にがんを誘発したことも確認されてい ます。ヒトでの発がん性を示すデータについては、いまのところは得られていません。遺伝毒性 があるということで、閾値がない場合は、発がん性については、ユニットリスク4.9×10-3/μg/m3 ということで、これから計算されたものについては、0.1μg/m3ということで、0.000076ppmとい うレベルが設定されています。  それから、3頁にACGIH、日本産衛学会のデータが示されていますが、ACGIHのほうは0.01ppmと いうことで、これはラットに吸入ばく露させた場合の鼻腔の良性腫瘍の増加が見られたことを根 拠にして、0.01ppmがセットされています。  それから、日本産衛学会のTWAについては「0.01」と表記がありますが、「0.1ppm」でして、感 作性、経皮吸収性ということで、この0.1がセットされています。以上です。 ○櫻井座長 日本産業衛生学会は1998年に勧告していますから、比較的新しい勧告です。ACGIH は1989年に0.01ppmを採用して、その後は変更がないようですが、いかがでしょうか。 ○大前委員 いまの点ですが、先ほど言われたように、ACGIHは動物実験の結果は根拠として0.01 としています。産業衛生学会はヒトのデータを根拠にして0.1としていますので、根拠が違うので、 数字が違うのは仕方がないと思います。  それから、ヒドラジンに関しては疫学のデータはほとんどなくて、これしかないのです。した がって、産業衛生学会はそれを重視して0.1としたのですが、だから私は0.1でいいのではないか と思います。 ○櫻井座長 疫学情報がある場合は、それを重視するというのが基本的な方向で採用しています ので、日本産業衛生学会の科学的な根拠のレベルはACGIHよりもこれに関する限り高いところにあ りますので。 ○大前委員 追加ですが、これは断面研究という意味での弱さはあるのです。もう1つは、この研 究は当時日本のヒドラジンを作っている製造会社は全部やりましたので、そういう意味では、製 造会社の全数調査になるのです。その意味では利点はあります。 ○櫻井座長 いかがでしょうか。 ○内山委員 原則は疫学調査があればということでいいと思いますが、この方向には矛盾してい ないのでしょうか。資料4-2を見ていたのですが、どちらかがあったら低いほうとなっていたか、 両方あったら低いほうとなっていたか、あるいは科学的根拠が新しければ高いほうでもいいとい うのは、どうでしたでしょうか。 ○櫻井座長 より低いほうをとるというのは、科学的根拠のレベルがほぼ同等であるならと。 ○内山委員 「最新の知見を考慮していずれかの値とする」というのがありますから、産衛学会 の新しいデータを採用しているということでよろしいかと思います。 ○櫻井座長 そういった原則に基づきまして、0.1ppmを採用するということでよろしゅうござい ますか。 ○島田化学物質評価室長 併せて伺えればと思ったのですが、いま3つヒドラジンのご説明をする ような状況になりますが、構造上、ジメチル、無水、水和物、フェニルヒドラジン、この3つのも のについて、毒性の構造学的な観点から見ますと、どのようなことになるのでしょうか。 ○櫻井座長 池田先生、いかがでしょうか。 ○池田委員 ヒドラジンの典型的な毒性を示すものというのは結構ありまして、薬の構造の中に はヒドラジン構造を入れるなというのが、最近の常識になっています。  どこが悪いかというと、ヒドラジンはNH2NH2という構造になっていますが、NH2という構造がそ のまま残っていると、みんな同じような毒性を示すらしいということなのです。そうしますと、 ジメチルヒドラジンも、同じところにメチル基が2つ入っているので、NH2が残った構造でヒドラ ジンが残っていますので、おそらくヒドラジンとジメチルヒドラジンは同じ反応性代謝物をつく るだろうと。これはおそらくラジカルをつくると言われています。  フェニルヒドラジンも構造上NH2が残った構造になっていますので、ラジカルをつくって毒性を 示すのではないかと思います。これが体の中に入りますと、特にアセチル化を受けてNH2の構造が なくなって、たちまち毒性を失うのですが、少なくともNH2が残っている限りは、ほぼ同じ毒性を 示すと考えていいと思うのです。  そうしますと、特にヒドラジンとジメチルヒドラジンの構造を見ますと、毒性上と構造上、あ まり差があるとは思えませんので、先ほどの数値が0.01で両方とも一緒になるのは、合理的かな と思います。そのあとのフェニルヒドラジンをどうするかというのは、フェニル基がどう変わっ ていくかもありますので、実際のデータの中の疫学のデータがあるかどうかで考えなくてはいけ ないと思いますが、化学構造上はNH2が残った構造であれば、すべて定性的には同じ毒性を示すだ ろうと予想されると思います。 ○櫻井座長 そうしますと、ジメチルヒドラジンは0.01を採用しています。ヒドラジンは0.1にし ようと決定しかけていますが。 ○池田委員 より安全性をいうなら、同じほうがいいかなと思うのですが。例えば反応性の1つに、 どれぐらい酸化されやすいかというのがあるわけですが、両方とも爆発性があって、非常に酸化 されやすい構造なのです。薬物代謝酵素を使っても、より同じように反応があって、おそらくラ ジカルがすぐに出てくると思いますので、そういった意味では、代謝的には反応性の高い代謝物 をつくるであろうと感じられるのです。同じ濃度であれば同じ毒性を示すのではないかと思いま す。 ○櫻井座長 ジメチルヒドラジンをヒドラジンに合わせる。 ○池田委員 ジメチルヒドラジンが0.01という数字があるなら、そちらということでしょうか。 どちらか低いほうに合わせたほうがいいと思うのです。ただ、具体的にヒトでの毒性のデータが あるならその限りではないわけですが。 ○櫻井座長 ジメチルヒドラジンの根拠はどのように考えましょうか。 ○池田委員 両方とも出てくる毒性は定性的には同じような毒性と見たのですが。 ○清水委員 ジメチルヒドラジンには1,1ですから、アンシンメトリカルです。1,2-ジメチルヒド ラジンというシンメトリカルのがあります。ああいう場合は。 ○池田委員 それは少し代謝が遅くなると思われます。NH2が残っていることがラジカルが発生し やすい原因のようなのです。 ○櫻井座長 やや安全サイドを採るという方向もありますが、どうしますか。 ○大前委員 いまのジメチルヒドラジンは鼻腔のがんが0.05で見られたから0.01と、5くらいの仮 説値を取っているのですが、この場合の鼻腔のがんというのは、刺激の繰り返しで起きたと考え るのが妥当ですか、あるいはDNAに作用してということですか。 ○池田委員 ヒドラジン系統の代謝というのは、肝臓に多い薬物代謝酵素でなくても、白血球の 持っているピロキシターゼでも簡単に反応がいくのです。そうしますと、鼻腔ですと、肝臓にあ る酵素ではなくて、白血球あるいはそのような細胞が持っている酵素で活性化されているように 思うのです。ですので、刺激ではなくて、反応性代謝物ができてDNAと結合するのが、がんの原因 ではないかと思うのです。 ○大前委員 そうすると、5という不確実係数は小さすぎますよね。0.05で見られて0.01というの はですね。 ○池田委員 ヒドラジン系統のものの痕跡が残らないと言いますか、反応性の代謝物ができると、 あとは窒素ガスとか、マスで検出できないようなものに変わってしまうので、どういったものが できたのかよくわからないところがあるりのです。そういった面では、このヒドラジンもジメチ ルヒドラジンも、何が途中で出来たのかがわかりにくいという、つらいところがあります。 ○名古屋委員 フェニルヒドラジンが0.1で、産衛学会の疫学も0.1です。先生がいうように3つを 揃えたほうがいいのでしたら、ここを議論して、0.1にするのか、0.01にするのかを揃えたほうが いいような気がするのです。先に31をやって、ここで合わせて総合的に判断するのはどうでしょ うか。 ○池田委員 フェニル基が付くことがちょっと変わるような気がするものですから、そこがつら いところなのです。体内動態からいきますと、フェニル基というのは結構大きいので、それが付 いたことによって、分布の仕方や吸収のされ具合は少し変わると思うのです。ヒドラジンとジメ チルヒドルジンはかなり近いと感じるのですが。 ○名古屋委員 これだとフェニル基が付くと弱いほうにシフトしていますね。 ○池田委員 そんな気がします。そのままヒドラジンを持った薬物がありまして、それは毒性は あるのですが、特異体質性の毒性を示すだけで、万人に毒性が出ているわけではないのです。そ うしますと、構造が少し大きくなったヒドラジンはやや安全なような感じがするのですが、何も 付いていないヒドラジンあるいはメチルが付いたぐらいのものは、ちょっと気を付けたほうがい いのかなという感じがします。それは体内動態の違いかなと思います。 ○名古屋委員 そうすると、ヒドラジンは0.01がよくなってしまいますね。 ○池田委員 ですから、ヒドラジンですが、フェニルヒドラジンは別もので、定性的には同じな のですが、少し違った感じがするということなのです。 ○大前委員 ヒドラジンのような構造を持っているものは、体内に入ると非常に早く分解するも のでしょうか。例えば肺から吸収されて、肝臓に達する前に血液の中でどんどんと。 ○池田委員 薬の場合ですと、ほとんどアセチル化を受けるのがメインなのです。アセチル化を 免れてフリーのままのものが、ラジカルが発生したりするものですから、それは非常にマイナー な代謝経路になるのです。メインはほとんどアセチル化されて尿中に出ると考えたらいいと思い ます。生物での毒性というと、マイナーなものがどのくらい出てくるかということで、難しいと ころがあるのです。主代謝経路は全部アセチル化だと思います。 ○大前委員 疫学をやった立場で申しますと、あのときのレポートはアセチル化代謝のNAT2のレ ポートで、遺伝子系別に分けて、弱い方でもなかったという根拠で、少なくともあの集団では出 なかったということです。 ○池田委員 日本人はアセチル化の能力の高い人が多いですから、98%以上はアセチル化できま す。心配なのは残りの2%になります。 ○大前委員 2%を分けて考えても影響はなかったというレポートです。 ○池田委員 そういうことなのですか。 ○大前委員 はい。ラピッドアセチレータに関しても何もなかったということです。 ○櫻井座長 たぶん種差を見てその時点で判断したと思うのですね。ラットで0.05ppmで鼻腔の良 性腫瘍があったという動物実験のデータから、ACGIHはそれよりも低い数値を採っているけれど も、疫学データから考えると0.1ppmになるということだと思います。 ○池田委員 もちろん疫学データのほうが重要だと思いますので、私は代謝の面から申し上げて いるだけです。 ○大前委員 あと疫学データの場合は鼻腔を見ていませんので、全くパラレルに比較できるかと いうと、そこは疫学データとはいえ、わかりません。 ○櫻井座長 フェニルヒドラジンは0.1ppmで、それの説明をしていただけますか。 ○島田化学物質評価室長 (8)の資料です。No.31のフェニルヒドラジンです。2枚めくっていただい て、有害性評価書原案のフェニルヒドラジンの物理化学情報について申し上げます。  2.の(1)「外観」です。無色から黄色の油状の液体または結晶です。これについては、沸点が243℃、 融点が19.5℃で、常温では場合によっては液体か固体となりますので、黄色の油状となります。  3.の「生産・輸入量/使用量/用途」ですが、生産量と輸入量の情報は把握できていません。 用途については、医薬、農薬の出発原料です。  有害性総合評価表に戻っていただいて、急性毒性については、吸入毒性のデータが2.745μg/L で、結構強いものとなっています。経口で180mg/kgです。経皮でウサギのデータがありますが、 90mg/kgです。  刺激性/腐食性については、特に皮膚刺激性についてはデータは限られているということで、 少し古いのですが、1987年のDerelankoの情報で、皮膚刺激性のあることが確認されています。眼 に対する重篤な損傷性、刺激性については、刺激性があるということで、これについてはウサギ を用いた実験で、重篤な角膜炎が報告されています。  感作性については、感作性は「あり」で、10%アルコール溶液を用いてモルモットで実験した もので、感作性の所見が出ています。呼吸器感作性については報告がありません。  反復投与毒性は、生殖・発がん等を除くものですが、無毒性量はNOEALのほうがとられていて、 0.12mg/m3で、これについてはラットに対する溶液の吸入ばく露で、6カ月間の吸入ばく露のデー タで0.12mg/m3の数字が出ているので、こを根拠にしています。次の頁で、これを基に評価レベル を計算したものについては、1.2×10-2mg/m3となっています。  生殖・発生毒性については、特段の資料はありません。  遺伝毒性は「あり」で、サルモネラの各種細胞で陽性、ラットの肝細胞の初代培養を共存させ たチャイニーズハムスターの肺線維芽細胞の由来で、変異原性が示されています。小核試験でも 染色体異常の誘発作用が示されています。  発がん性ですが、ACGIHの区分においてはA3で、動物に対して発がん性があるが、ヒトとの関連 性は不明です。閾値の有無については、遺伝毒性があるということですので、閾値がないという 位置づけになりますが、これについてはS9Mix存在・非存在条件下のサルモネラに対して変異原性 を示したということですが、特段それに関する数値的な処理はされていません。閾値なしの場合 ということで参考になると思いますが、カリフォルニアEPAで、経口ばく露によるNSRL(10-5)のデ ータがあります。後ろのほうには、1μg/dayというのが出ていますが、いずれにしてもユニット リスクを計算するような情報は得られていません。  許容濃度の設定については、ACGIHがTWAとして0.1ppm、0.44mg/m3ということで、これについて は鼻腔及び皮膚刺激、皮膚炎といったものを根拠として、いまの数字が設定されています。ドイ ツのMAKにおいては、濃度設定等はありませんが、同じように皮膚吸収性、皮膚感作性が指摘され ています。これについては、次の頁でその根拠がありまして、フェニルヒドラジンの1mg/m3を労 働現場でばく露されたということですが、逆に労働現場でこの1mg/m3以下の濃度にばく露を防御 すれば、経皮吸収の防御がされていれば血液毒性等は認められないことが報告されています。以 上です。 ○櫻井座長 これについては、ACGIHは感作性を防止することを主な目的として、0.1ppmを勧告し ています。これはそのまま採用してもいいかなと思いますが、どうでしょうか。ご異存はござい ませんか。 (異議なし) ○櫻井座長 ヒドラジンとフェニルヒドラジンについては苦慮していまして、ヒドラジンについ ての根拠は、比較的新しい疫学情報に基づいたものがありますから、それを採用すべきという原 則に従いたいと思いますが、そうしますと0.1ppmとなります。ジメチルヒドラジンについては、 ヒドラジンに合わせるのか、先ほど判断した0.01にするのかですが、全く同等であるという池田 先生のご意見を考えれば、これも0.1ppmにするのかなと思うのですが、どうでしょうか。あるい は0.01のままにしておくか。 ○池田委員 私は安全サイドに立つほうがいいような気がします。 ○櫻井座長 それでは、ジメチルヒドラジンについては0.01ppmで、先ほどの決定を変更なしとし ます。以上でヒドラジン関係は終わりました。  時間がほとんどないのですが、10分ぐらいでできることをやりたいと思います。 ○大淵化学物質評価室長補佐 ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[e]フルオラセ ン、この辺が類縁物質ですので、まとめて事務局からご説明させていただきたいと思います。内 容的には、平成19年度のリスク評価検討会では、クレオソート油について評価をいただきました が、クレオソート油はいろいろな成分の混合物でして、その成分としてこれらのものが昨年も挙 がっていたということです。  細かい資料に入る前に、資料4-3をご覧ください。8頁の36、37、38で、こちらは許容濃度があ るというグループにしてしまったのですが、実際はACGIH等では発がん性はありという評価にされ ているのですが、具体的な数字は決められていません。参考となる数字として、近い物質という ことで、コールタールピッチのベンゼン可溶成分ということで、0.2mg/m3という数字があります。  発がんのユニットリスク関係は、根拠となる数字がありますので計算されていますが、平成19 年度のクレオソート油のときにどのように評価したかと言うと、二次評価値関係の欄に※で書い ていますが、平成19年度にクレオソート油を評価した際には、職場における定量下限値を仮の二 次評価値と設定しましょうということで、委員会の中で結論をいただいています。  実際の現場を測定した際の定量下限がどのくらいだったかというのは、定量下限が2ないしは3 ×10-5ppm程度でした。実際の現場の濃度は、昨年度の場合でいくと、いずれも定量下限値以下と いう結果が出ています。今年度については、測定データはお示ししていませんが、昨年度の状況 でいくとそのような状況です。  事務局としては、昨年もこのような形でさせていただいていますので、二次評価値については、 昨年と同じような定量下限値を仮の二次評価値とさせていただいて、それを超えた場合には、ま た詳しくご議論いただく方法をとらせていただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○櫻井座長 それはよい判断だと思いますが、いかがでしょうか。よろしゅうございますか。 (異議なし) ○櫻井座長 この3つをいまおっしゃったような方法で、昨年に準じていきます。次は41、42にな りますか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 本日ご用意できた有害性評価書のある物質ということでは、残り は、りん化インジウム(インジウム及びその化合物)があります。 ○櫻井座長 これについては、まず大前委員からご意見をいただきます。 ○大前委員 りん化インジウム(インジウム及びインジウム化合物)については、ACGIHが0.1mg /m3という数字を出しています。この数字は随分古いデータに基づいていまして、最近のデータが 入っていませんので、もともと0.1というのは使えない数字だと思います。  新しいデータに基づいて、ヒトの許容濃度が作れるかというと、まだ作れておりません。作る のは相当難しいと思います。現場の測定は同時平行でやっていると思うのですが。 ○大淵化学物質評価室長補佐 平成20年度のばく露作業報告では、りん化インジウムは1事業場も 報告がなかったということで、平成21年は幅を広げて、「インジウム及びその化合物」ということ で、いま事業場から報告を提出していただいている最中です。 ○大前委員 そこから報告が出てきても、現在の濃度の報告しか出てこないと思いますので、そ れは換算されているものとずれますので、それから数字を作ることも難しい状況だと思います。 いずれにしましても、この0.1は絶対に使えない数字です。 ○櫻井座長 低い数字にならざるを得ないですね。ですから、いま決定できないし、実際に報告 があって測定した場合、それをどう評価するかは次年度の仕事になると思いますので、今日は決 定しません。 ○大淵化学物質評価室長補佐 はい。わかりました。 ○櫻井座長 あと、できることはありますか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 残り3物質が、ACGIH等の数値はあるのですが、こちらで有害性評 価書が作成中です。こちらについて、17番、20番、41番の物質ですが、まだ評価書がないので細 かい議論はできないのですが、仮のものとしてはACGIH等の数字を仮決めで使わせていただきたい と思っています。  ただし注意が必要なのが、41番の4,4'-メチレンジアニリンで、こちらは資料4-3でご覧くださ い。9頁で、ACGIHと日本産衛学会で、それぞれ数字が示されていますが、ミリグラム単位で表わ したときの数字を見ると、ACGIHのほうが厳しい値で0.4mg/m^3、日本産衛会は0.81mg/m3となって いて、2倍の開きがあります。  提案年についてですが、右側の事務局回答のところで、ACGIH「2006年」とありますが、これは 間違いで、「1996年」です。産衛学会の提案年については、似たような時期で1995年となっていま す。大きな開きではないのですが、2倍の差がある状況です。あとは1つずつしか数字がないので、 仮決めとしてはその数字を使わせていただければと思います。 ○櫻井座長 参考資料の82頁と86頁ですね。 ○大淵化学物質評価室長補佐 はい。 ○櫻井座長 ACGIHは1996年ということでしたが、1978年から変わっていないのですね。1996年に 見直していますか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 数値としては同じで、経皮吸収のマークが付いたということです。 ○櫻井座長 ACGIHの1990年代ぐらいの文献は引用されていませんね。精査する時間がないのです が、ACGIHよりも日本産業衛生学会のほうが、よりあとの情報まで使って判断しているように思え ますが、しかも安全サイドということで、0.4を当面採用しておくのがいいのではないかと思うの ですが、どうでしょうか。それ以外については、ACGIHが出している数値を使っておくということ でいきたいと思いますが、どうでしょうか。よろしゅうございますか。 (異議なし) ○櫻井座長 どうぞ。 ○棗田(中災防) 41番の物質を変えると、16番も合わせて変更しないといけないのではないか と思うのです。先ほど類似の物質で0.1と決めていますので、そこを同じ値に変更していただかな いと。 ○櫻井座長 類似物質絡みは気になっていたのですが。 ○棗田(中災防) 4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジフェニルメタンのところを。 ○櫻井座長 それをいくつにしましたか。 ○棗田(中災防) 41番の物質と同じなので、0.1としていますので、産衛学会を採用するのであ れば、この0.1も同じ産衛学会の値に変えて採用にしていただくと。 ○櫻井座長 0.1ppmと決めたのですね。ミリグラムにすると0.8としたということですね。 ○池田委員 No.14とNo.16が化学構造が似ているということですよね。No.41というのは、真ん中に 炭素があって、それが少し反応性が高くなるのですが、No.14とNo.16は真ん中にOが入っていますの で、これは別ものと考えたほうがいいと思うのです。No.14とNo.16は同じにしますが、No.41は別も のと考えたほうがいいと思います。 ○櫻井座長 それでは整合性の点では問題ないですね。 ○大前委員 問題がありまして、16番を決めたときに、41番の物質と同等で決めたのです。その ときに、先ほどの事務局の案の0.1で決めていますので、41番を0.4mg/m^3は0.05ppmだと思うので すが、41番を0.05にするのだったら、16番も0.05にしないと、先ほどの議論と平仄が合わないで す。 ○池田委員 私は勘違いしていたのかもしれませんが、No.14が0.1ppmになって、それとNo.16は同 じだろうというので0.1だったのかなと思ったのですが、そうではないのですね。 ○大前委員 Oのところの0.1は元の数字が1で、それを0.2にしようか、0.5にしようか、0.1にし ようかとやって決めて、0.1になりました。それは16番と同じ意味で安全だからということでやっ たと思います。16番と41番の比較で、41番が0.05になるのだったら、16番も0.05だろうと。その ときに、先ほどの14番の0.1を0.05にするのかというのは、議論が別になると思いますが、エーテ ルの場合は1ppmの1/10で0.1以内ということですと、そこは0.05にしなくてもいいと思うのです が。 ○池田委員 私も14番にしても、16番にしても、41番と比べれば毒性は低いと思います。 ○櫻井座長 最後に私が把握しきれなくなっているのですが。 ○大前委員 14番が0.1で、16番が0.05で、41番が0.05です。単位はppmです。それが先ほどの議 論との整合性だと思います。 ○櫻井座長 ありがとうございました。最終的に、14番が0.1ppm、16番も0.05ppm、41番が0.05ppm で、必要に応じて単位をmgに直していただきます。安全サイドと整合性等も考えて、その辺りに 落ち着かせていただきます。ほかにございますか。これを全部整理して、その他の追加情報、追 加のご意見等があれば、再度見直す時間もありますので、今日は時間もタイトな中で必死になっ てここまでたどり着きましたので、万が一修正すべき点もゼロではないかと思いますので。 ○大淵化学物質評価室長補佐 そうしますと41番については、まだ議論もできないところもあっ たので、ペンディング状態にさせていただいてもよろしいでしょうか。 ○櫻井座長 結構です。池田先生のご意見も詳細に伺ってと。ペンディングで結構です。これで 今日の予定は済みましたか。 ○大淵化学物質評価室長補佐 はい。非常に大量の物質で、先生方にはご迷惑をおかけしました。 次回以降のスケジュールについて、資料4-7でご説明させていただきます。本日で今年の物質の関 係の評価値はほぼ固まりましたので、次回から実際のばく露評価を決めていきます。いまのとこ ろ2月24日、3月4日をばく露評価に当てたいと思っています。物質が20物質ほどありますので、場 合によっては3月10日も、ばく露評価になる可能性もあると思っています。  ばく露評価については、個別の事業場の具体的な作業内容等の情報を取り扱いますので、非公 開とさせていただければと思っています。ですので、5回、6回は非公開で、場合によっては7回も ばく露を扱うとすると、そこも非公開というスケジューリングと考えています。 ○櫻井座長 これで終了とします。ご苦労さまでした。 照会先: 労働基準局安全衛生部化学物質対策課                化学物質評価室     電話03-5253-1111(内線5511)