08/12/01 第17回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録   第17回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会   議 事 次 第   ○ 日  時 平成20年12月1日(月)16:00〜18:00   ○ 場  所 厚生労働省 省議室(9階)   ○ 出 席 者    【委 員】  前田座長           鮎澤委員 加藤委員 木下委員 児玉委員 堺委員 高本委員           辻本委員 豊田委員 永池委員 樋口委員 南委員 山口委員    【参考人】(診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業関係者)          松本 博志 参考人(札幌地域代表、札幌医科大学法医学教授)          奥村明之進 参考人(臨床評価医、大阪大学大学院医学系研究科呼                    吸器外科教授)          田浦和歌子 参考人(東京地域事務局調整看護師)   【議 題】     1.診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業について     2.その他   【配布資料】     資 料 1  診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業概要 資 料 2  診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業のこれまでの取組           と今後の課題     資 料 3  田浦参考人提出資料     資 料 4  「第三次試案」及び「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱           案」の地域説明会の開催予定 ○医療安全推進室長(佐原)  定刻となりましたので、ただいまから第17回「診療行為に関連した死亡に係る死因 究明等の在り方に関する検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれ ましては、ご多用の折、当検討会にご出席をいただきまして誠にありがとうございま す。委員の出欠状況についてご報告いたします。本日は堺委員、山本委員より欠席の ご連絡をいただいております。また、医政局の榮畑審議官と総務課長にあっては国会 用務のため少し遅れてまいります。  配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿。資料1「診 療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業概要」、資料2「診療行為に関連した死亡 の調査分析モデル事業のこれまでの取組と今後の課題」、資料3「田浦参考人提出資料」、 資料4「『第三次試案』及び『医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案』の地域説 明会の開催予定」。委員の皆様の机上のみ配布しておりますが、大綱案と、大綱案別 添としての第三次試案、大綱案及び三次試案に寄せられた主なご意見と現時点におけ る厚労省の考えです。以降の議事進行は前田座長にお願いいたします。 ○前田座長  委員の皆様には、本日も非常にお忙しい中をお集まりいただきまして、どうもあり がとうございます。早速議事に入らせていただきます。前回、前々回と合計6つの団 体からご意見をいただきました。それを踏まえて議論を行ったわけですが、その中で 現在日本内科学会が中心となって実施しております「診療行為に関連した死亡の調査 分析モデル事業」について、その実施状況を検証してはというご意見をいただいたと ころです。今回は、日本内科学会のモデル事業の中央事務局長である山口委員と、実 際にモデル事業を担当している皆様により、モデル事業のこれまでの取組と課題など についてご説明をいただく予定になっております。  本日の参考人として、モデル事業札幌地域の地域代表でいらっしゃいます、札幌医 科大学の松本博志先生、モデル事業大阪地域の臨床評価医でいらっしゃいます大阪大 学大学院医学系研究科呼吸器外科教授の奥村明之進先生、モデル事業の東京地域事務 局をしていただいております調整看護師の田浦和歌子先生のお三方にお越しいただ いております。  お三方にご説明をいただく前に、まず日本内科学会のモデル事業の中央事務局長で いらっしゃいます山口委員より、モデル事業についての全体の概要、これまでの成果、 今後の課題についてご説明をいただきます。 ○山口委員  モデル事業からは、昨年の第4回検討会でもご報告させていただきましたけれども、 その後の進展も含めて説明させていただきます。2005年9月から始まって3年ちょっ と経っております。非常に多くの皆様方のご支援を得まして、だんだん死因究明の調 査・分析がスムーズに進行できるようになったと思っています。  ある意味でモデル事業の内容についての宣伝が足りなかったのかもしれませんけれ ども、これまでの参考人等からモデル事業に対していろいろ意見をいただきましたが、 いくつかの課題はあるにせよ、それが1つの制度として十分実現性を持って現在行わ れていると考えています。その内容について説明させていただきます。  モデル事業は、当初の3年ぐらいは、死因究明するような組織が既にある所、全く ない所、大きな都会で大学がたくさんある所、あるいは1県1大学の所といろいろな 事情がありますので、それぞれの事情・特性を活かして取り組んでいただくことを目 標にやってまいりました。  しかし制度化をにらみますと、全国同じような統一したやり方でやれるかどうか、 ということも非常に大きなテーマですので、3年経ったことを踏まえて、実際の評価 方法、解剖方法、調整看護師の業務のマニュアル等を整備し、今年度からはそのマニ ュアルに沿って、全国ができるだけ統一的な対応をすることが可能か、ということを 大きなテーマに掲げてモデル事業に取り組んでおります。  資料1にモデル事業の概要があります。内科学会が主体となり、38学会の支援を得 て行っております。38学会と申しますのは、2004年9月に19学会の共同声明をいた だいた基本領域の学会、及び内科・外科のサブスペシャリティ、及び日本歯科医学会 の38学会で、死因究明と臨床評価、それらから得られたことに基づき再発防止に対 する提言を行うということを基本的な目的としております。  現在10地域で行われていて、資料1の1頁にあるように北は札幌から南は福岡まで あります。最近始まった宮城及び岡山の2地域ではまだ事例が出ておりません。  2頁に、これまで受け付けた事例の総数があります。全部で82事例あり、既に結果 が出て、結果報告書を遺族並びに依頼病院に交付した事例が62あります。このうち の53事例については、その報告書の概要が内科学会のモデル事業のホームページ上 に公開されておりますのでご覧いただきたいと思います。受付に至らなかった150事 例の内容等についてはそこに示してあるとおり、約3分の1は遺族の、特に解剖の同 意が得られなくて、このモデル事業の受け付けるに至っていません。  先ほど言い忘れましたが、医師法21条に基づく明らかな過誤のある事例は、現在も 司法解剖で行われておりますので、このモデル事業で受け付けている事例は医師法21 条に該当しない事例です。多くは遺族に診療経過等に何らかの疑義があって、中立的 な第三者で評価をしていただきたいという事例が中心になっております。  3頁、4頁、5頁はこれまでのやり方です。実際に受け付けてからは、法医、病理医、 関連する臨床の立会医、三者の立会いで解剖が行われて、解剖結果報告書が作られま す。この解剖結果報告書を踏まえて、学会から推薦していただいたその領域に関する 専門医、少なくともお二人の評価医に、まず臨床評価も含めた評価(案)を作ってい ただき、さらに総合調整医、解剖医、法律家として多くは弁護士に加わっていただい て「地域評価委員会」が開かれております。その評価委員会で解剖結果も踏まえ、最 終的な評価結果報告書をまとめるという作業をしております。東京地域では、さらに 臨床系の内科及び外科から、学会の評議員等にお願いし、臨床の第三者的な評価医と してこの評価に参加いただいております。  通常は2回か3回の地域評価委員会が開催され、そこで報告書がまとめられること になっています。最終的にまとまった報告書については、総合調整医とこの評価の中 心となった先生が、遺族及び依頼のあった医療機関へ同じ席で説明するというのが大 きなアウトラインです。  これまでの取組について資料2で説明させていただきます。典型的な評価結果報告 書の具体例は、別添10に1事例の報告書がありますので参考にしていただければと 思います。最初に評価結果の概要がありますが、これはホームページ上に公開されて いるものです。報告書の全文は、個人情報を除いた形で後ろにあります。それに添付 された解剖の結果報告書、そこで問題になった出血に対する対応について、この事例 が発生した後に出た、輸血学会の「危機的出血への対応ガイドライン」も遺族と病院 に渡しておりますのでそれも付けております。  評価結果報告書の言葉をできるだけわかりやすく評価医が書くのですけれども、な かなか難しいので、調整看護師のほうで、それに対する言葉の注釈を書いていただき、 できるだけこの報告書の理解を深めていただくために、これも遺族と病院に渡してお ります。  資料2の、これまでの取組と今後の課題について説明させていただきます。実施地 域は、最初に東京、愛知、大阪、兵庫から始まり、現在まで10地域で実施されてお ります。38学会からご協力をいただき、2,600人弱の臨床医に登録をいただいており ます。これまで75事例の段階で、680人近くの先生方にこの評価に参加していただい ております。そういう多くの先生方のご協力を得て、このモデル事業がここまで来た ことに感謝申し上げます。  評価の中心になります関連領域の専門医は、少なくとも2名の先生方に参加してい ただき、必要があればそれに関連する他の領域の専門医にも評価に加わっていただい ております。  「解剖の実施体制」は、基本的には日本病理学会、日本法医学会のご協力を得て、 これまで31施設を登録していただいておりますが、実際に解剖が行われたのはその うちの20施設です。その解剖の際には、関連する臨床医の立会いを求めています。 当初このモデル事業が始まったときには、例えばそれが外科の事例であれば、手術を した術者に立ち会ってもらって、その説明を聞きながら解剖することを考えておりま したけれども、依頼病院の関係者が立ち会うことはどうかということで、公正性を期 す立場から直接の当事者には立会いをいただかないで、別の専門医に直接の当事者の、 例えば術者からそれまでの経緯を聞いて、その専門医に立ち会っていただきいろいろ とサゼスチョンをいただくことで、法医・病理の先生に解剖を進めていただくという 形で現在解剖を進めております。法医・病理の先生方からは高い評価を得ています。  その場合にもう1つ問題になりましたのは、臨床立会医として各学会から5名推薦 をいただいておりますが、実際問題としてその領域の先生に、例えば「明日の3時か ら解剖がありますが来られますか」という話への対応はなかなか難しいということで す。解剖は法医の先生の参加がありますので、多くは大学病院で行われております。 したがって、臨床立会医の多くは、その大学の臨床科から専門医を派遣していただく という形で行われているのが実情です。そういう形で解剖を行い、その三者の意見を まとめる形で解剖結果報告書が作成されております。  現在までの受付件数は82件ですが、年度ごとにこのようになっていて、実際に当初 予定したよりかなり少ない数字です。もともとモデル事業ではいろいろな可能性を試 してみて、その問題点を洗い出していき、それに対する対応策を実施してみることが 主目的と考えています。モデル事業が行われているということの周知活動が足りなか った、という点は否めないと思いますが、なんとか進めてきてここまで来ています。  死因の究明と再発防止を目的としておりますが、「評価の手法」については、なかな か難しい点があります。評価の立場の1つは、事件の発生時点において、その時点で その診療行為が標準的な診療からみて適切であったかどうか、外れていたのかどうか を評価するものです。その評価の立場と、レトロスペクティブといいますか、後から 振り返ってみて、再発を防止するという観点でどうすればよかったかという評価とで は、自ずと違うところがあります。その点は、その領域の専門家が集まっても、必ず しも容易に明確にできるわけではありませんので、新しいマニュアルではその2つを ちゃんと書き分けて、明確に書いていただくようにお願いしています。しかし実際は なかなか難しいです。それにはトレーニング、経験が必要ですし、マニュアルが必要 であると思っています。  これまで評価委員として参加していただいております先生方は、学会から推薦をい ただいた先生方ですけれども、同じ先生方に続けてずっとということではなくて、そ の事例ごとにお願いする先生が替わっているのが実情です。ほとんどの評価医の先生 は初めてこの評価委員会に出席することになります。評価法がいつも同じにならない 最大の理由ですし、また初めてなので評価に時間がかかるのが実情です。今年度から は、マニュアルを整備してできるだけ統一し、全国統一的な視点で行うにはどうすれ ばよいかという点を大きな課題として、新しくモデル事業に取り組んでいます。  「遺族への対応」については、当初はできるだけ中立的な立場で死因を究明するこ とを1番に掲げておりましたので、どちらかというと必ずしも遺族の疑問点に直接答 えていない報告書もありました。その点について、遺族から不満等が伝えられる場合 もありましたので、現在ではできるだけ遺族からいろいろな疑問を聞き、それに対す る答を入れる形で報告書をまとめる方向で行っています。当初、3ヶ月で報告書をま とめて提出するという目標でやっていましたけれども、実際にはなかなか3ヶ月では まとまりませんでした。そういう連絡等が遺族にちゃんと伝わらなかったりして、か えって遺族の不信感を募らせた場合もありました。現在では、定期的に経過を報告し、 また遺族からの疑問点等も出していただいて、できるだけそれに答えることも、この モデル事業の1つの目標として行うように努力しております。  その結果、現在までのところ既に報告書をちゃんと渡した事例がその後どうなった かという点について、11月の時点で医療機関に問合せをし、回答があった37事例の 結果を3頁にまとめてあります。遺族との間で民事裁判になった例が37事例のうち1 事例、今後民事裁判になる可能性があるのが1事例。そして、この結果報告書の説明 会以前に示談あるいは和解等が成り立ったのが2事例。評価結果報告の説明を聞いた 後に示談・和解となったのが8事例あります。全く特段トラブルはなかったのが25 事例です。刑事事件となった事例はありません。  「院内調査委員会との関係」は、モデル事業が始まった当初より、院内で必ず調査 委員会を作っていただいて、院内の事故調査委員会と並行してモデル事業を進めてい くのを原則としていました。院内の調査委員会の調査結果を報告していただき、モデ ル事業の評価委員会で疑問点があれば病院とやり取りをしております。院内からの報 告書もできるだけ標準化した報告書を送っていただくように、別添7にありますよう な「院内調査委員会報告書のひな形」を作成してお渡しし、このような報告書をいた だきたいということでお願いしております。  それらも踏まえて、最終的な評価結果報告書を作成しているわけです。そこで死因 究明、臨床評価と同時に、再発防止に向けてこの評価委員会から対応策の提案を行っ ているわけですが、残念ながらその提案が各病院でどのように対応されて、実際にど ういう効果があったかということについては、まだ十分なフォローアップがなされて おりません。それは、今後の課題だと認識しております。  各地域の評価委員会の上に、中央に「運営委員会」があります。現在は、広く医療 関係者、法律関係者からなる16名の運営委員により組織されていて、ここでモデル 事業全体の進行あるいは運営、公表の手続き等について検討されています。同時に、 そこには各地域の代表、及び厚労省、法務省、警察庁からもオブザーバーの参加をい ただいております。個人情報に関する部分はクローズになっておりますが、他は公開 の形で行われております。ここで全国の事例を集めて、全国に向けた再発防止策の提 言を行うのが本来の筋だろうと思っておりますが、全国に向けた統一的な再発予防策 の提言等については、いまのところまだ十分できるところまではいっておりません。 これも今後の課題の1つかと思っております。  遺族あるいは依頼医療機関におけるこのモデル事業に対する評価については、昨年 及び一昨年にアンケート調査を行い、別添8に班会議での報告書をまとめております。 遺族は病院の診療に対して何らかの疑念があり、このモデル事業に参加していただい ているわけですが、全体的に申しますと、このモデル事業に参加したことについての 満足度は高いようですが、このモデル事業で結果を知らされて、病院に対する不信感 が消えたかというと、それはなかなか消えてはいないということがこのアンケート調 査でも述べられております。一方、医療従事者側はその点に関して、このモデル事業 に依頼し、そこで評価を得たことで遺族の理解は深まったと理解している医療機関が 多いので、その点で見方に少し差があるということです。  しかし、モデル事業に参加できたことに関しての満足度は、両者共非常に高いと認 識しております。ただ、遺族の理解の仕方については、このモデル事業からの評価結 果報告書等で示される結果やその内容の理解が十分でない点もあると思われますの で、モデル事業の中でやるかどうかは別として、メディエーションやADR等のもう少 し遺族の理解を深めるような活動が必要であろうと思います。  戻りまして5頁に「1件あたりコスト」は平均約94万円という数字を示しておりま す。  このモデル事業から第三次試案を前提として、これが実際に制度化される場合に向 けて、いくつかのモデル事業から見て考えた課題について、最後にまとめさせていた だきます。1つは、実際に3分の1ぐらいの遺族からは、このモデル事業での解剖に 同意が得られておりません。第三次試案での事例が解剖事例が中心になりますと、や はり、解剖に対して何らかの啓蒙活動が必要だと感じています。  モデル事業では、医師法21条の対象となるような事例は今回は対象としておりませ ん。新しい制度が出来ましたら医師法21条の事例も対象になると考えますと、この モデル事業ではそういう事例の経験がないことを踏まえますと、新しい制度ができる 前の移行期には、医師法21条に係る事例もモデル事業で取り扱い、その結果を早い 段階で公表し、それに対応するという経験を積んでいかなければ、新しい制度への移 行は難しいかと思います。  現在の「受付体制」では、ウィークデーのみの受け付けとなっていますので、日曜 日や祝祭日に受け付けることはできません。これを24時間受け付ける制度になると、 かなりの充分なマンパワーと組織が必要になるだろうと思います。  現在、遺族が希望される場合は、その病院から資料を提出していただいて、それに 応じて調査をすることになっています。新制度で遺族だけから依頼をいただいた場合 にはどのように対応するか、そのすべての事例についてこの委員会で対応するか、と いうことも含めて今後検討する必要があるかと思います。  モデル事業では、評価を行っていただいております臨床医・解剖医を含め、皆さん にボランティア的な参加をいただいておりますので、こういう評価に経験の豊かな人 はほとんどいない状況で進めております。実際に制度化された場合には、全国統一的 な判断をする意味でも、やはり専属の医師を確保した形で対応していくことがどうし ても必要だろうと思っております。そういう医師のトレーニング、あるいは調整看護 師等の業務分担とかいろいろな問題で、もう少し検討する必要があります。  現在、結果がまとまるまでに約10ヶ月かかっていますが、評価にかかっている時間 を短縮したり、多く臨床の専門家と打合せをする作業をもう少し簡便化したり、調整 看護師との業務分担を見直すことで、時間短縮は可能だろうと思っております。この 評価に関する時間を短縮する、あるいは視点を統一するという意味で評価のマニュア ル、調整看護師の業務マニュアル等を作成しました。今年度は全国統一的な取組を進 め、そこでの課題をまとめて行きたいと考えています。  「再発防止への提言」については、先ほどフォローアップ及び全国的な提言という 点では不十分だと申し上げましたけれども、その点に関しては同じような作業をされ ております日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」とどういう役割分担 をするか、これも今後の大きな課題だと思っております。  一部端折りましたけれども、現在まで行われているモデル事業を中心に資料を交え て説明させていただきました。非常に多くの先生方、あるいは調整看護師の方々のご 支援を得て、ここまで82の事例を受けてやってこられたことに感謝申し上げます。 以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。モデル事業全体について大変わかりやすくご説明いただ きました。ご質問その他については、3名の参考人のお話を伺った後でお受けしたい と思います。3名の参考人から順に追加的な説明をお願いしたいのですが、特にこれ までご苦労と感じておられる点、モデル事業があってよかったと思われる点、今後第 三次試案で提案しているような制度を全国に広げていくためにはどのようなことが 必要であるか、ということについてお触れいただきながらご説明いただければと思い ます。まず、札幌地域代表の松本参考人からお願いいたします。 ○松本参考人(札幌地域代表、札幌医科大学法医学教授)  札幌地域を代表しております、札幌医大の松本です。本日はお呼びいただきまして ありがとうございます。いま具体的にお話がありましたように、実際に現場で苦労し ている点からお話させていただきます。  山口先生がお話になられましたように、不幸にして医療機関で医療に関連して亡く なられた方がいて、その受付をした段階で最も苦労するのは、臨床の立会医の先生方 を確保することです。モデル事業というのは、ボランティア精神というか、医療従事 者、特に私たちが本業を持っている中でこれをやっていくところがあります。臨床の 専門医の先生方は通常の勤務に就いていますし、特に外科系の先生の場合はオペに入 っていることが多いということがあります。そうすると、どうしても律速段階になり、 夕方あるいは場合によっては翌日になってしまいます。そうすると、遺族の方々の思 いに、時間的なところで少し応えられないところがあったりします。札幌のケースで いくと、そんなにかかるのだったら解剖は結構です、という遺族がいたこともありま した。  先ほど、10ヶ月ぐらいかかるというお話がありました。真摯に医療の状況、不幸に して亡くなられた方を今後とも出さないという一念で参加していただいているので すが、どうしても時間的になかなか厳しいところがあります。札幌の場合には土・日 にもメールをやり取りしてやっています。それでも時間がかかってしまいます。地域 評価委員会を開くわけですが、その場合も全員の日程を合わせるのがなかなか難しい です。早く評価をして、一定の結論を得たいという気持は山々なのですが、どうして も合う時間がない。中ではメールでやり取りしているのですけれども、やはり会って ディスカッションしないとなかなか決まらない点があります。そういうところでどう しても時間がかかってしまう、ということで苦労しております。  評価のところで、こちらとしてはできるだけ中立的な立場で評価をいただくという ことがあるのですが、診療関連死の内容によっては、評価に当たる先生方がかなり厳 しい意見をおっしゃるケースがあります。モデル事業は、あくまで医療行為について の評価をする所ですし、個人的にどうのこうのとか、ジャッジはしないことになって いますので、そういうところで別の評価委員の先生を加えさせていただいて、再びデ ィスカッションをするということもありました。そういうときでも、なかなか落とし どころが見えないところがあったりいたします。  札幌地域では、周辺地域まで少し広げさせていただいていますが、そういうケース の場合に最先端の病院で起こってしまったケースもあります。また第一線の地域医療 をされている病院で起こってしまったケースがあります。そうしたときに、何が標準 的な医療なのかというところで、どうしてもこのモデル事業は学会主体となっている 評価システムをいまは採っているものですから、第一線の先生方から、本当の第一線 の標準的な医療を評価できるのかというご意見をいただいたこともありました。今後、 第三次試案を実施していく上では、そういう地域の現状に応じた評価システムを考え なければいけないのかと思っております。  モデル事業をして本当によかったと思いますのは、札幌地域では、いままでに7事 例を受け付けさせていただきました。遺族と医療機関に説明が終わったのは2事例で す。その2事例のときに、本当にやってよかったと思って救われた気持がしたのは、 遺族の家族の方々から、「本当にありがとうございました」という一言をいただいた ときです。そのときにはかなり涙も流されていたのですが、私と臨床評価の委員長と で説明させていただいたのですが、いろいろ苦労はしましたけれどもやってよかった と思いました。  今後ともこういうモデル事業を続けていく上で、先ほど山口先生がお話になりまし たように、遺族からのいろいろな思いにもなんとか応えていけるようにしていければ と思っております。いま評価している中には、実際に客観的資料に基づけないケース、 例えば遺族の思いが臨床録・診療録といった客観的な資料に基づかないケースという こともあります。  いまのモデル事業では、例えば調査権などはありませんので、あくまで善意で医療 機関から提出していただく資料に基づいて評価をする。ヒアリングしたりするのです が、込み入ったところまで確認ができない。先ほど司法解剖という話がありましたが、 司法解剖の場合には司法機関が入ってきますので、供述調書という形であったり、客 観的な資料がいっぱい出てくるわけですが、モデル事業の場合はそういうことはあり ませんので、そういう思いに応えられない、そういうことを調べることができないと ころもありました。それは、第三次試案を実施していく上では、そういう調査権とい いますか、そういう調査に入って調べることも必要と感じております。  説明会が終ったときに、今後どうなっていくのか。例えば先ほど山口先生がおっし ゃった再発防止という点があります。これもみんなで必死になって考えて再発防止策 を出してくるわけですけれども、それを当該医療機関が今後に活かしていただいてい るのかどうかということも、いまのところ報告書を出して説明をして、それで終わり ということになっていますので、これは今後とも検証していかなければならない。ど ういう方向にすれば再発防止に向かっていくのか、というところも考えなければなら ないと思っております。  先ほど山口先生がおっしゃった、都会と地方といったことがあります。北海道の場 合は非常に広い地域ですので、今回のモデル事業のモデル地域としてスタートすると きには札幌市と。札幌市だけでも東京都の半分ぐらいありますので、かなり広い地域 です。今後広げていく上では、人的なものと物理的な時間のところが問題になってく るかという気がしております。これは後ほどお話をさせていただきます。とりあえず 私からは以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。続きましてモデル事業大阪地域の奥村参考人より、臨床 評価医の立場から、先ほどの3つの観点を入れてご説明をお願いいたします。 ○奥村参考人(臨床評価医、大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科教授)  大阪大学呼吸器外科の奥村です。本日はこのような機会を与えていただきまして、 ありがとうございます。私は臨床評価医の立場から総合調整医、大阪では的場教授か ら連絡がありますと、解剖立会人及び臨床評価に適切であると考えられる臨床医を選 ぶところから始まります。これはタイムリミットがありまして、山口先生、松本先生 もおっしゃいましたように、解剖の時間を決めるのにかなりの障害になっていること は事実です。  特に、大学以外の一般関連施設から見つけるのは非常に難しい状態ですので、大学 の中からどなたかを見つけることになります。大阪には5つの医学部がありますので、 そこからいろいろな診療科を順番に選ばせていただいて推薦していただいていると いう状況です。  しかしながら、選定にはかなり難しいところがあります。最も適切な人をうまく探 せているかというところが問題になって、それが後の委員会での審議に多少影響する ことがあり得ると考えます。  人選の問題はありますけれども、特にその後に報告書を作成することに関しては、 臨床医の解剖立会人が臨床経過に関してかなり細かい報告書を作成するわけです。例 えば、これが非常に経過の長い人であると、段ボール箱2つ分のカルテを全部読まな いといけないという事例がありました。これを、通常業務をやりながらそういう方々 がやるというのは、かなり無理があります。その報告書を作るというところで非常に 時間がかかります。そのために6ヶ月以内で全部の作業を終えるというのは、最初の 段階からうまく運ばないということもあります。  松本先生がおっしゃいましたように、6人か7人の評価委員で評価委員会をするわ けですけれども、少なくともそのコアな人たちを同じ時間に集めて会議を開く日程を 見つけること自身なかなか難しくて、本来であれば今月評価委員会を開きたいと思っ ても、それが翌月になったり、さらにその翌月になったりするというのが、どんどん その作業が遅れていっている理由の1つでもあります。  これまで大阪では19例の経験があります。既に14例においては報告からすべてが 終わっております。前半の7例においては、平均で1年4ヶ月かかっています。最近 は少し手馴れてきた関係もあるのかと思いますが、それでも最近の7例では平均1年 ちょうどということです。現在進行中のものにおいても、目標である6ヶ月が達成で きるかというと、残念ながらそれは難しい状況であります。遺族から、そういう状況 に対して受ける言葉は、一周忌までに結果を報告していただいていないという不満の 言葉もあります。  評価委員会での議論の問題もあるわけですが、特に難しいケースになると、その時 点での標準治療に非常に精通されている先生が必要になるわけですが、不幸にしてそ ういう方がおられない場合には、議論が確信を得たところへなかなかいかないおそれ があり、実際にそれに近いようなこともありました。  例えば、ある法医の先生などは、死因をここで断定しなければならないということ にあまりにもこだわりますと、十分な議論が煮えきらないままに、ある病名を無理矢 理出そうとするわけです。そういうときに、中立的な立場での意見で、なんとかいい 方向に議論を進められればいいのですが、そういうことが非常に難しい場合には問題 になる可能性があると思います。実際にあるケースにおいて、該当病院における調査 結果とだいぶ懸け離れた結果が出てしまったことがあります。その該当する病院のほ うはかなりの不満を持ったというようなものも稀にはあり得ます。そういうことで、 モデル事業と該当する病院独自の調査委員会での情報の共有であるとか、そういうこ とは十分になされる必要があるだろうと思われます。あまりにインディペンデントに すぎるのはよくないのではないかと考えます。  遺族への報告会もいままでに14回行ってきております。そのうち13回について遺 族はその死因に対して了解・納得されております。ほとんどがそういう状況になって いて、さらにその中の半数ぐらい、14例中の5例か6例だったと思いますが、非常に 感謝するというお言葉をいただきました。その内容もさることながら、調整看護師た ちがいろいろな疑問に答えてくれているということと、当該病院に対しては非常にも のが言いにくいけれども、中立的な第三者ということで話を持っていきやすいという ことで、話を聞いてもらいやすいということが役立っていると思われます。  ただし、14例のうち1例だけは報告書を受け取ることを拒否されました。これは10 年以上の経過を持っている、慢性疾患のエンドステージのような状況での手術で、術 後死がモデル事業の対象になった患者です。この症例に関して遺族は解剖に何を求め ていたかというと、手術のことではなくて、10年間の長きにわたる診療全般において、 何が問題であったかを明らかにしてほしかったということです。モデル事業としては、 そこまでのことは言及できなかったということに対して、遺族は非常に不満を持って、 最終的には報告書を受け取ることを拒否されたという事例を経験しております。  いろいろなことがありますが、よかったこととしては、松本先生もおっしゃいまし たように、患者の遺族が感謝してくれることが多いということです。特に3分の1の 方が非常に感謝してくれて、それまでの医療機関への誤解も解けたという形で理解し ていただいたということは、それなりの意義があると感じております。調査結果報告 の委員会のときに、委員長からの報告の方法も非常に重要だと思います。評価委員長 から、家族への事務的な説明というわけではなくて、一字一句きっちりとテクニカル タームを説明しながら、そしてお悔やみの気持を持って説明することができれば、家 族はそういう気持をわかってくれるということはなんとなく経験から感じます。  今後、こういう制度を恒久化していくために必要であると思われることは、山口先 生や松本先生がおっしゃったことと全く同じなのですけれども、評価委員の人材確保 とその質の確保です。もしいまの現状で何とかしていくことになると、できるだけ事 務作業を軽減していただければと思います。例えば、調査報告書を作成する場合には、 セクレタリー的な仕事をしていただけるような人が恒常的におられればと思います。  本来この事業としては、当該病院とモデル事業との間で多少の情報共有をしたりし ながら議論を進めてもいいということになっているようなのでありますが、不幸にし て大阪ではあまりしておりません。むしろ、あまりしないという方針なのかもしれな いのですが、そのために全くインディペンデントに行いますと、実は全く噛み合わな い議論や結果になってしまうことがあります。今後は、当該病院の調査報告、結果で あるとか、そこで得られた資料も参考にするようなチャンスが必要ではないかと思い ます。以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。続いて東京地域の調整看護師の立場から、田浦参考人か らご説明をお願いいたします。 ○田浦参考人(東京地域事務局調整看護師)  モデル事業東京地域事務局の調整看護師の田浦です。私は、事例の申請から説明会 までを通して苦労話を述べます。もう1つは、医療安全調査委員会の制度化に当たっ てお願いしたいことが2つあります。  まず資料3です。「地域評価委員会の構成と役割」という表があります。なぜこうい う表を作ったかといいますと、事例ごとに医師が変わり、モデル事業を理解してもら うのに本当に苦労しています。それで、こういう表を作って、1つの事例ごとにこの 表を渡し、また評価委員会でもこの表を手元に置いて、自分の役割を理解していただ くようにしております。  ただ、「解剖執刀医」と「解剖担当医」は、東京地域では解剖施設が輪番制ですので、 モデル事業に対して大変理解し、協力してくださり感謝しております。解剖するとき は、解剖執刀医と解剖担当医、臨床立会医の三者が解剖をし、報告書を書きます。こ の臨床立会医は、先ほど山口先生がおっしゃったとおり、当該事例の専門の医師です ので見つけるのが非常に大変です。  次の項目に「第1評価医」とあります。当該事例の専門の医師で、評価結果報告書 (案)を作成してもらう先生です。この先生がいちばん苦労することになります。も う少し負担をなくす工夫はないものかと思っております。「第2評価医」は、第1評 価医が書いた報告書を修正・加筆する役割です。「外科系委員」「内科系委員」は、委 員会に参加していろいろ意見を述べていただくのですが、医学的評価のみならず医療 全体の問題として捉えた見地から意見を述べてもらいたい、ということをお願いして おります。「病院側弁護士」「患者側弁護士」が評価委員会に参加し、役割を果たして もらうのですけれども、この先生方には遺族・国民の目線で意見を述べてもらいたい ということをお願いしております。  あと「委員長」がいて、この委員長はその委員会、説明会に至るまでうまく引っ張 っていく役割ですので大変な役割です。内科系委員か外科系委員のどちらかから出て いただいております。「総合調整医」は、地域代表と総合調整医の2名に参加しても らいます。「調整看護師」も参加いたします。調整看護師の役割はここに書かれてい ますが、総合調整医とともに、モデル事業全体の流れを把握し、その過程で生じるさ まざまな業務が円滑に進められるよう、関係機関や関係職種及び遺族との調整を行う 役割を果たしております。  資料3の裏側です。受付から説明会終了までどのように行われるかを、簡単に話し ながら苦労を述べていきます。受付は電話で第一報を受けます。そうすると、私たち 事務局にはこんないっぱいのマニュアルがあります。依頼元機関、担当者、所属、連 絡先、事例の発生日時、発生診療科、病名、死亡者名、年齢、感染症の有無、遺体は どこに保存されているか、警察への届出はどうなっているのか、モデル事業の資料を 読んでいるか、ホームページを開いて、申請書、依頼書、同意書、特に取扱規定を確 認したかどうかその辺からチェックし、そして事例概要を書いてくれということを依 頼します。  この事例概要は暫定版でいいのですけれども、この事例概要暫定版を私どものほう へ送っていただき、それを地域代表が見て、この事例を受諾するかしないかを決めま すので、早く送ってもらいたいということを依頼します。事例概要もそのままにして おくと、なかなか理解できないような概要が最初のころは送られてきます。それで私 たちは、概要の記入の見本を作り、それをファクスで送ります。そのときに、一緒に いろいろこちらで必要とすること、受諾した後必要とすることをメモしていただく、 チェックしていただくものを、事例概要とともにファクスで依頼元機関に送ります。 そのやり取りには大変時間がかかります。  口頭だけですと、この前の墨東病院のようなこともありますから、必ず文字で表す。 最初は言葉でやり取りして、最後には文字で出していただくというやり取りをいたし ますので、依頼元機関と地域代表と事務局とのやり取りは結構大変です。依頼元機関 も、こういう事例が発生するとパニックのようになっていると思うのです。そういう 中で地域事務局が、これもやれ、あれもやれ、これを送ってくれというのは本当に大 変なのではないかと思います。つい数年前までは現場にいましたので、依頼元機関の 大変さが手に取るようにわかります。その辺はもうちょっと何か工夫ができないもの かと思います。  そして、地域代表から受諾するということが私どもに連絡がありましたら、私たち はすぐに依頼元機関に連絡し、そして第二便のファクスを送ります。そのファクスの 中には事細かに準備してもらいたいもの、書いてもらいたいもの、手持ちしてもらい たいものが書かれています。それとともに、解剖施設に連絡いたしますが、解剖施設 は輪番制ですので、第一報が入ったらすぐに私どもから連絡し、事例概要が入るとフ ァックスで送っておりますので、すぐ対応してくれるようになります。そして、解剖 施設が受諾するという返事が来たならば、先ほどの臨床立会医を、地域代表と協力し ながら見つけるわけです。  臨床立会医が見つかりましたならば、何時に解剖できるかということを調整します。 この調整がまた大変で、いちばんは、臨床立会医がその解剖施設へ何時に来られて解 剖に参加できるかということ、それから解剖施設の都合と病院の都合、そして遺族の 都合、もう1つは、遺体を運ぶ寝台車が必要なのです。その寝台車は葬儀社に依頼し ておりますので、5者の都合に合わせて解剖執刀時間を決めてもらいます。  そうすると依頼元機関が解剖施設に、何時間かかるか分からないのですけれども、 来ていただく時間を調整しながら決めます。遺体を乗せてちゃんと解剖施設まで来て くれるかどうか、私たちはすごく不安なのです。遺体を乗せたまま道順が分からない。 病院に到着しても解剖室が何処だか分からないで迷ってしまうと、遺族がどんな思い をするかなと思いますので、葬儀社と地域事務局では、直接お話をしたり、ファック スでやり取りしたりして、必ず所定の時間に来ていただけるように調整いたします。  解剖施設に集まりましたならば、依頼元機関がちゃんと物品を持ってきているかど うか確認したり、主治医が来ているかどうかを確認したりします。主治医はすぐに解 剖施設の医師に、事例概要に基づいてカルテとかXPとかCDとかの資料を用いて説明 してもらいます。そして私たちは、遺族に聞取調査をするわけなのです。そのときに 遺族が依頼元に不満や不信を持っていないか、遺族はどんな疑問を持っているのか、 (モデル事業において)何を重点的に調べてもらいたいのかということを聞取調査し、 メモをしながら感じ取っていきます。そのとき私たちは初めて遺族とお目にかかりま すので、それこそ五感でチェックをして、遺族に添うようにしていきます。  解剖が始まる前に、解剖執刀医は遺族と面談をしますので、その準備も遺族にお伝 えし、ちゃんと解剖医とお話ができるようにセッティングします。依頼元機関の主治 医の説明が終わると、解剖執刀医は遺族と面談いたしますので、そのときにちゃんと お話できるように声かけをしております。  それから解剖が始まり、解剖は大抵2〜3時間で終わるのですが、その前後を入れま すと5〜6時間ぐらいかかりますので、遺族がリラックスできるようにします。もち ろん遺族と依頼元機関は同じ待合室で待たせないように調整し、その待ち時間が不満 や不安にならないようにしております。特に、死亡するまで大変疲れており、睡眠も とっていないという方がほとんどですので、少し眠れるように、次に私どもが来ると きは何時ごろですよとかとお知らせして、突然にその待合室に入らないようにしたり とか、そんな配慮をしながら数時間待っていただいております。  解剖が終わりましたら、解剖執刀医から遺族と依頼元機関に、いま解剖して分かっ たことを説明していただきます。そのときに遺族がその説明を理解できるように、ま た、遺族が質問したいことが医師に分かるように、調整看護師が司会をしながら、そ の場を取り繕うようにしております。  それが終わりますと、遺族と遺体は自宅に帰ってもらうので、葬儀社の車にきても らって、一旦お帰りになっていただくのです、何しろ5〜6時間かかりますので。そ して、もうそろそろ解剖が終わります、と解剖医から私たちが情報をキャッチしたな らば葬儀社に電話をして、あと何分後ぐらいに終了しますので来てくださいというこ とを依頼し、ちょうど終わったころにうまく来てもらって、車に遺体を乗せてお帰り いただくわけです。そのときに、葬儀社には衣類を着けていただき、少しきれいにし ていただいて、自宅にお帰りいただくようにお願いしております。それが第1の山で す。この山さえ通り越すと、当日は「やれやれ」と。本当に、夏でも「やれやれ」と いう、冷汗が出るような状況で、山が1つ終えます。  その後、依頼元機関に対しては、評価結果報告書、解剖結果報告書を書くためにカ ルテやXPやCD、その他いろいろなものが必要になりますので、できるだけ早くコピ ーして送っていただきたいと依頼します。院内調査報告書も、できるだけ早く送って いただきたいということを依頼し、お帰りいただくわけです。解剖執刀医に対しては、 解剖結果報告書を3〜4週後ぐらいで書いてくださいということを依頼し、その日は 終わります。  「解剖実施」から次の「解剖結果報告書(案)」が出るまでの間私たちは何をするか といいますと、地域代表や私たちは、学会に評価委員の推薦を依頼し、学会から医師 の推薦があり、その医師の内諾が得られたら、評価委員の依頼をするため、その医師 に正式な依頼文書とともに、モデル事業の資料、事例の概要、役割など、その他いろ いろな資料を送ります。ただ、第1評価医と評価委員長、この二方に関しては、大変 重要な役割ですので、いまでは私どもがその勤務する職場に出向いて、モデル事業の こと、事例のこと、その先生の役割について説明をしています。  委員は全員がメール上ですべてのことを共有するようにしておりますので、メール をできるだけ小まめに見ていただきたいということも依頼しています。メールで配信 しても梨の礫の先生方もおりますので、そういう方は賛成だと思って対処しているわ けなのですけれども、メールで共有するということも了承してもらっております。  解剖結果報告書(案)が出来ましたならば、第1評価医に「出来上がりました、評 価結果報告書を書いてください」と依頼します。そのときにも、カルテやXPなど段 ボール箱1〜2杯分の書類をその第1評価医の所に送るわけです。そうすると第1評 価医は、段ボール箱1〜2つ分の書類を丹念に全部見て、そして評価結果報告書を、 モデル事業の枠組みの中で書き始めていくわけです。私どもは3〜4週間で書くよう に依頼しますが、実際は、2ヶ月ぐらいかかります。でも、それはその先生が悪いと いうより、そういう流れになっているので、もしかして私たちのほうが悪いのかもし れませんが、1〜2ヶ月かって当たり前です。  そろそろ評価結果報告書が出来上がるころになると、私たちは何回もメールしたり、 電話したり、手紙を書いたりして、いろいろなことをお願いします。そして、あと1 週間ぐらいで書き上がるという情報をキャッチしたならば、すぐに次の第2評価医に、 あと1週間ぐらいで評価結果報告書が出来上がるのでスタンバイしてくださいと連絡 します。そして第1評価医には、次の人に送るので資料を送り返してもらいたいと言 って次の準備をします。  次の準備をする中で、もう1つの準備があるのです。評価結果報告書を第1評価医 が書き上がりそうになった段階で、第1回目の評価委員会開催の準備をします。この 開催の準備が大変なのですが、何が大変かといいますと、日程調整です。例えば今か ら次の委員会の日程調整をする場合には、12月はもちろん駄目、1月の中旬から2月 にかけての日程調整となります。そうしないと、1ヶ月半が宙に浮いてしまうという ことになりますので、第1評価医がそろそろ出来上がるということになりましたら、 評価委員会までの準備をするようにしております。  また元に戻りまして、第2評価医は、大体は加筆・修正ですので、大抵1〜2週間で 出してくださいます。報告書が出ましたら、解剖報告書や評価結果報告書あるいは第 2評価医の意見書、そういうものをすべてまとめて、第1回の評価委員会に参加する 準備をしてもらうために、委員全員にメールで配信し、事前に読んでいただきます。  評価委員会開催の準備は日程調整が大変である。もう1つは、審議がうまくスピー ディーに進むように、意見がたくさん出るように、委員長と地域代表で密に打合せを して、また、委員長には論点を書いて委員会に提出していただくなど、このように委 員会がうまく進められる様に準備もいたします。そして、当日の委員会で病院に対す る質問があった場合には、事務局が整理して委員長に見てもらい、承諾を得ましたな らば委員全員に承諾をしてもらい、そして依頼元機関の病院に文書を送付し、文書で 回答していただく、こんなふうに全てのことをやっております。  そして、いろいろ審議をするわけなのですが、委員会での審議あるいはメール上の 審議、すべての審議を踏まえて、第1評価医が評価結果報告書を手直しします。そし て、手直ししたものを委員全員にお配りし、読んでいただきますが、それで了承して いただければ、要するに承認をしていただくわけなのですけれども、その承認は評価 結果報告書だけではなく、解剖結果報告書、それと、私どもでは委員長が書いている のですけれども、公表用の評価結果報告書(概要)の3点を評価委員全員が承認をし ていただけるように依頼します。この依頼も「はい、承認しました、了解しました」 というメールがなかなか来ないので、期限が来たら、その先生は賛成ということで、 全員の評価委員に承認をしていただいて、そして説明会を開くという流れになります。  説明会は1週間前に3つの資料を郵送で、依頼元機関と遺族に送ります。要するに、 読んでいただきたい。そして、質問があれば文書で前もっていただければ、ちゃんと 文書でお返ししますよとか、そういうふうにいたします。  この説明会に参加する方は、地域代表と評価委員会の委員長と第1評価医です。そ して、第1評価医が説明をいたします。この説明会では、遺族を中心とした説明会が 行われるよう、私どもは大変気を配ります。例えば並ぶ順番でも、遺族と依頼元機関 が対面しないよう遺族と依頼元機関は横並びにする、その前に評価委員会の委員が到 着するというふうにいろいろ工夫をして、また、評価委員に質問しやすいように、遺 族が直接病院に(質問を)しないようにとか、そんな配慮をしながら、遺族を中心と した説明会を行います。  この中で第1評価医が説明するのですが、先生方が折角素晴らしい報告書を作成い ただいても、それをゆっくりと分かりやすい言葉で説明していただかないと、元の木 阿弥になってしまうので、第1評価医の先生には委員会の前によくお話して、ゆっく りと分かりやすくということをお願いしております。質問も、遺族を中心とした質問 をしてもらうように、依頼元機関にお願いしたりしております。  こんなふうにして説明会が終わりましたならば、2週間の期限で、もう一度質問を 受けるわけです。そして、その質問に回答したら、それで一応終わります。終わりま したら、評価委員の先生全員にお礼のメールをし、委員会は解散することを連絡いた します。これが申請から説明会までを通しての苦労話のようなものです。  それともう1つ、医療安全調査委員会の制度化に向けてのお願いです。これは私の お願いが強いのですが、まず第1に、評価委員会の委員にシステムエラーを研究して いる人の参加を希望します。なぜかといいますと、再発防止策を議論する場面でシス テムエラーの視点から意見を出してくださるのではないかと思っております。2番目 として、医療安全調査委員会(仮称)の仕組みにはPDCAサイクル、すなわち計画、 実施、検証、改善、このサイクルが機能するような仕組みを取り入れてもらいたいと 思います。  以上です。ちょっと長くなって申し訳ございませんでした。失礼しました。 ○前田座長  どうもありがとうございました。いまの4人の先生のご説明に対してのご質問をお 受けし、それを踏まえての議論をしてまいりたいと思うのです。基本的には、第一次 試案で提案させていただいておりますような制度を、全国に広げるためにはどういう 点が重要かという観点から議論をしてまいりたいと思います。どの委員からでもよろ しいのですが、ご自由にご質問をお願いいたします。 ○加藤委員  3人の参考人の方、ありがとうございました。松本参考人にちょっとお尋ねさせて いただきます。込み入った確認ができないとか、調査権が必要だというお話があった かと思います。診療上作成された資料に基づいて事実経過を確認していくわけですが、 その際に必要な検査伝票だとか、検体だとか、動画だとか、いろいろ作られた資料が あるはずなのだけれども、無いというようなことだったりすることもあり得るのかと 思うのです。そういう意味で、調査の前提として、証拠保全の必要性というのはある と私は思っているのです。それについて何かお感じになったことがあれば、できれば 松本参考人以外の方からも聞きたいのですけれども、ご紹介いただきたいのです。  ついでに、もう1つだけ。田浦参考人から丁寧に、実際の実務のところをご紹介い ただきました。その中で、評価結果の報告書をお渡しする、最後のところなのですが、 その前にご遺族からもヒアリングをする必要性を感じられるようなことはありませ んでしたか、ということをお尋ねしたいのです。要するに、評価結果報告書を作成す る前の時点で少しお話を聞いていると、もう少しスムーズだったのではないかとか、 そういうこともあるのかなと思うのでお尋ねするのです。以上2点です。 ○前田座長   松本参考人からお願いいたします。 ○松本参考人  最初のほうのお話なのですが、実は医療機関からは、一応お持ちになっているすべ ての医療行為に関する資料はお出しいただいています。ただ、先ほど山口先生がお話 になったように、このモデル事業の評価とともに院内の調査委員会を作っていただい て連動して動いていくのですが、院内の調査委員会のときに結構、例えば診療行為に 関連した場合、主治医の方、あるいはそれ以外のコメディカルの方のヒアリングをし た結果が出てくるわけです。ところが、それは実は診療録に載っていなかったりする わけなのです。しかし、私どもモデル事業としては、調査委員会に出てきた資料を基 にそこを評価するというわけにはいきませんので、そこのところはちょっとつらいか なと。  それに関しては、評価委員の先生から「ちょっと聞いてくれないか」ということで、 こちらからも聞くのですけれども、それは診療録にないのでお答えする義務はないと いうようなことを、医療機関側から言われたケースもございました。  中には私どもが自主的に聞いたケースもあるのです。調査権とかということではな くて、事実経過をはっきりさせたいということで、別に強制力を持ったわけではない のですが、聞かせてくださいということでお伺いできたケースもございました。ただ、 すべての事実関係をはっきりさせようとしたときに、調査権という言い方が正しいの かどうか分かりませんが、関係者の方にヒアリングをして、少なくとも時系列を確認 できたりする、ということは必要ではないかと申し上げさせていただきました。 ○前田座長   田浦参考人、お願いします。 ○田浦参考人  報告書を書く前の遺族に対するヒアリングですが、実は、解剖施設で調整看護師が 遺族より聞取調査をします。そのときに、事細かく聞いて文章として起こします。そ の文章として起こしたものを四十九日が過ぎたころに遺族に送りまして、遺族の同意 を得るようにしております。同意が得られましたならば、それを評価委員全員にメー ルで送るようにし、レポートの参考にしていただくようにしております。 ○前田座長   よろしいでしょうか。では、ほかの委員、お願いいたします。 ○辻本委員  最初に山口委員から、標準化、短縮化、いわゆる簡便化の必要性、あるいは統一的 対応の必要性というお話がございました。私も大阪の委員ということで議論に参加さ せていただいて、スタート当初は本当に模索、模索ということで。しかし、初めての ことをみんなが一生懸命やっていこうという、素晴らしいエネルギーを感じながら参 加させていただいた覚えがございます。それが簡便化していくことで何がマイナスと して働いていくかという懸念、そういったことを4人の方にお尋ねしたいというのが 1つです。  田浦参考人にお尋ねしたいのは、調整ナースの役割が非常に重要であるということ は関わる中でも感じていることですし、いまのご報告を伺いさぞやご苦労されている ことと痛感させていただきました。今後こうした事業が始まるときにも、この調整ナ ースの役割が今以上に大きくなっていくであろうときに、調整ナースの養成というこ とが急がれると思うのですけれども、そこにどういったことが必要とお感じになって いるかということを教えていただきたいと思います。 ○前田座長   初めの質問について、山口先生から順にお願いいたします。 ○山口委員  今いちばん大きく問題になっているのは、報告書が出来るのに約10ヶ月かかること です。その中のプロセスは、田浦参考人からいま話がございましたけれども、例えば 1人の評価医が段ボール二箱の資料をもらって、全部読んで報告書を書くということ をやっているわけです。専任ではなくて、何か本職の仕事をする片手間でやっている ということに原因があるわけです。  いま院内の事故調査委員会等でも、起こった事例の事実経過をまとめるのは担当の 医師がしているかというと、そうではなくて、安全管理者の看護師レベルでまとめる ことができているのです。そういう意味で言いますと、調整看護師の業務の中にそう いうことも入れていただくと、たぶん、そういう作業は素早く全部終えることができ る。また専任の医師がいれば、専門領域のディスカッションは専門医の参加を得てや るとしても、臨床経過等のまとめは、医師であれば、ほとんどのことは十分まとめる ことができる。そういうことを専任のスタッフが全部やって、本当のコアのディスカ ッションだけに時間を集中すれば、おそらく、いまの時間は3分の1ぐらいに短縮す ることは十分可能だろうと思うのです。  だから、むしろ簡便化というのは、いま1人の評価医に負担がかかっているような ことを改めて、本当のディスカッションをする時間をつくり出すという意味です。評 価医が毎回替わるというようなところを、専任の医師、慣れた医師が基本的なところ をやる、そういう医師は研修を受け、全国統一的な視点を確保する。そういう意味で、 簡便化が必ずしも不利益とは考えていなくて、「簡便化」というよりは「効率化」と 言ったほうがいいのかなと思っております。 ○松本参考人  いま山口先生がおっしゃったように、問題となるところというのはある程度、亡く なったケースにおいて集約されると思うのです。だからそれ以外の、例えば事実経過 のところは、できるだけ別の方がまとめられたほうが時間的なロスはなくなるのです。  ご懸念になっているのは、簡便化した部分に、もしかしたら何かが潜んでいるかも 分からないというところがあるかも分かりませんので、そこはトレーニングを積んだ 方、できれば医師が見ていくというような形をとることによって、100%とは言えな いとは思いますけれども、それをレビューする医師がいてという形をとっていけばあ る程度スピーディーさも出来、それから評価委員の先生方も十分なディスカッション ができるのではないかと思っております。 ○前田座長   奥村参考人、お願いいたします。 ○奥村参考人  まず、委員会のメンバーを固定するというふうなことをすれば、それなりの質を保 つ議論ができるということで、それが省力化になっていくと思いますし、質も十分保 たれると思うのです。今のように事例ごとに、臨床評価医とか解剖医がどんどん替わ ってしまいますと、ある程度のレベルに到達するまでに、議論に随分時間がかかって しまうということで、そこに随分エネルギーを費やしてしまっていると思うので、そ ういうところの省力化というのが重要ではないか。そうすれば、別にクォリティーを 落とすということもないのではないかと個人的には考えています。  また、非常に大きなセンター病院や大学の附属病院では、かなり手馴れた、こうい う事故の調査委員会がありますので、そういったところを、むしろそちらでしっかり やってもらって、モデル事業がそこに入っていくという方式を採るというのも1つの やり方ではないかと、個人的には思っています。 ○前田座長   田浦参考人には、調整ナースの養成のことも含めてお願いします。 ○田浦参考人  3人の先生方の意見と同じような意見ですが。突拍子もない意見なのですけれども、 作家の先生方は、1つの小説を書くのに、旅館に四六時中泊まり込んで書く、という ことをよく聞きますが、そんな工夫なんて、できないものなのでしょうか。評価委員 の先生方を5日間なら5日間どこかに集合してもらって、集中的にその事例について の文章その他を全部終わらせる。そうすると、説明会というのは全然別個でできるの ではないかと思うのです。  次は養成の件です。すぐに回答はできないのですが、資料2の47頁に調整看護師の 標準業務マニュアルというものがありますが、こういう対応をするとなると、基本的 に、もっと土台から枠組みを作って教育していかないと、切羽詰まってくるのではな いのかなと、私自身がやっていて思います。例えばコミュニケーション能力、これが すごく調整看護師としては必要なのではないかと思います。あとは、グリーフケアと いま盛んに言われていますけれども、本格的に勉強したわけでもないし、すごく不安 を持ちながらの仕事です。  モデル事業ではいままで3回、全国の調整看護師に対する研修を行っていますが、 これも是非またその延長線上として続けてもらいたいし、いままでは枠組みの勉強だ ったのですけれども、今度は中に入って、例えばコミュニケーションをどういうふう にやる、それからグリーフケアのどうとかこうとかということを、モデル事業の研修 の中でやっていただけると、調整看護師は助かるのではないかと思います。  もう1つは、看護協会の作ったもので、調整看護師としてどういう人がいいかなど を書いたものがありますが、卒業して、臨床経験何年目以上とか、事故対応、医療安 全、そういうことをやった人、そんなことが書かれておりました。確かに、医療安全 のことを知っているほうが、こういうモデル事業をやるにはベターです。ちゃんとし たお答えができなくて、すみません。以上です。 ○前田座長   樋口委員、お願いします。 ○樋口委員  私もモデル事業に少し関与している者です。私からは、質問というよりは、今日伺 っていていくつかのことを感じましたので、今日の参考人の方々や山口先生から、そ れに対して更にコメントをいただければと思っているのです。  第1に、私自身も大学で医事法という授業を行っていて、例えば、医療安全の問題 について、日本ではいまモデル事業と呼ばれる実験的な試みをしている人がいるんだ よというようなことを言いますが、誰も知らないのです。それはモデル事業側の問題 点も、もちろんあったのかもしれないのですが、こういう地道な努力を陰に隠れてい ろいろな人がやっているということは表にはなかなか出にくくて、これも本当にその 1つなのかもしれないと思ったりもしていました。今日のような機会に、実際に、ま さに解剖から何からずっと立ち会ってこられた人の話を聞いていただく機会がある というのは、非常にいいことだったのではないかと、まず思っております。その上で、 私から見てもいくつかの点でなかなか難しいということが今日も浮き彫りになって いて、聞くだに本当に困難で面倒なことをやっている、大変なことをやっているわけ です。  例えば今日の資料2。これは特別に付けていただいたのでしょうけれども、60頁以 下に実際の結果報告書というのが出ています。いちばん基本のところは60〜72頁ま で合計で12〜13頁なのでしょうけれども、そのほかに資料、最後には、説明を聞い ていただくときには注釈まで付けてあって、相当なものです。これを読んでいただく と、これがそう簡単に出来るものではないということだけは分かる。もう、本当に分 かる。その上で申し上げますが、それでもこの文書は私のように医者ではない人が読 むには難しいのです。遺族の人の所へこれが説明されたのだと思いますけれども、73 頁で、地域評価委員会の委員12名の人がいろいろな形で、解剖をするだけでは簡単 に分からないことを、こうやって1つの報告書で結論をまとめるまでにはどれだけの 苦労をされたかということが分かるわけです。  こういう事業に現場で立ち会ってこられた方が、先ほど来やっぱりよかったと思う 点もいくつもあるのだというお話をしてくださった。それもありがたいことなのです が、その中心は、私の聞き間違いでなければ、また、それは当然だと思っているので すが、何人かの遺族の方が、よくやってくださった、いろいろな形でちょっと疑問も あったのだけれども、少なくとも、こういうことは分かった。場合によっては、現在 の医学では十分解明できないということも分かったのかもしれないのですが、何らか の形で感謝をしていただいたというのはすごく良いことです。  私は医療をやっているのではなくて私自身患者なのですけれども、医療では感謝、 人のためにというのが基本としてなくてはいけないので、まさに医療の基本の一部を ここでも実践しているのだということが分かった。それから、そういうことがずっと 続いてもらいたいとも思います。  しかし、あえて言います。それにプラスして、これだけの人的なリソースというの ですか、資源と時間をかけているわけですから、さらにそれにプラスするものもほし い。もちろん遺族に感謝してもらうということがいちばんだと私は思いますし、でき れば病院関係者からも感謝していただきたいと思いますが、それにプラスして何かと いうことです。ここに出ている12名の方がこういうことをやり、ここに名前は出て いないけれど事務的なことをやっている人もいます。そういう人たちが合わさって、 これだけのことをやっているということ。日本の医療を良くするために、この経験に は本当に良い意味があるのだという話が、たぶんあると思うし、あってほしいと思う のです。  そのプラスアルファの部分があるから、まさに医療界としてこういうことをやって みようとしたのだという話なのかどうかということをもう少し補足してくださいま せんでしょうか。医学の進歩あるいは日本の医療の最低限を守るとか、どういうこと でもいいのですが、何かプラスアルファがないといけないのではないかという感じが して聞いていました。それがもっと強調されると医療安全調査委員会を立ち上げる意 義が感じられると思います。これが第1点です。  2つ目はそれに関連して、フィージビリティーの問題がある。つまり、これを拡大 したときに、どこまでやれるのだろうかという問題が大きいと思うのです。それは同 じ資料の5頁に「第三次試案を前提とした場合の課題」として、いままでは低い解剖 の同意率があったからこの程度の件数でしたというのがあります。これで国民の理解 が進んで、もっとどんどん協力してくださるということになった場合、それから(2) の部分で記述されている、対象となる事例の範囲は、もしこの大綱案が実現すれば、 すぐさま起きます。いままで警察に任せていたのを、警察には任せないで医療者がや りますよという話なのですから、この分だけは絶対に増えることは分かる。それから、 受付体制も24時間やりましょうという話になれば、もっとです。次の頁にいって、 遺族からの調査依頼だけで、医療機関は嫌だと言っても、これはやっぱりやらなけれ ばいけないということになれば、件数はどうしても増えます。  だから、これまでモデル事業でやってきた経験を踏まえて、これらをどの程度引き 受けてやっていけるということなのかどうか。これがいちばん重要な問題だと思って いるので、まさに現場でずっと苦労されてきた方々はどんな感じを持っているのかを、 もう少し補足していただければというのが第2点です。  3つ目は、こういうことが始まったのは、結局、大きな言葉でいう医療不信という のがあって、それを何とか解消したい、医療に対する信頼を回復させたいと思ったの が医療者なのだろうと思うのです。患者のほうも、医療不信のままでいたくはないの です。そのときに、このモデル事業あるいは医療安全調査委員会がうまく立ち上がっ て、きちっとやれたとします。しかし、医療不信ということが何を意味するかという ことなのです。  国民あるいは患者のほうは、医療の全体としての体制の中では自分が非常に疑問に 思っても、こういう第三者機関を作ってくれて、とにかく医療全体としては一つひと つの不満、不信、不安に応えるような体制を作りましたからねということはいいので す。しかし、患者は、直接ある病院、ある医師との関わり合いの中で何からの問題を 発生させているのに、そこは一部例外で、この人のことは、この病院のことは信用で きないというままで終わってしまうのではやはり問題です。こちら(第三者機関側) だけ良い子になるということはないと思うのですが、とにかく、こういう体制は出来 ているので救われている、というだけでは済まないような気がするのです。  本来患者というのは、直接かかっている病院やお医者さんを信頼したい。そこに何 らかの疑問があったときに、こういうシステムが出来て、全体の医療体制としてはそ れに応えるということもあるのだけれども、さらに欲を言えば、こういう活動が元の 病院、元の医者に対して、よく分からなくて不信だったものが、最低限は仕方がなか ったことなのかなと感じられることが大事です。しかし、そこに何らかの問題があれ ば、それについて明らかになって、そこで新たな関係が出来て、その病院とも、その 医者とも、もう一回別種の新たな信頼が構築できるように、そういう話につながらな いといけないような気もするのですが、それはどうなのだろうかと思います。ちょっ と欲張りな3点だと思いますが、山口先生を初めとして、どれについてでもいいので、 少しコメントしていただければありがたいと思います。 ○前田座長   では山口委員から順にお願いいたします。 ○山口委員  広い範囲でいろいろお話いただきましたので難しいのですけれども、このモデル事 業でご遺族から非常に感謝されているということは、間違いのないところではないか と思うのです。もともと、このモデル事業の目的の1つは再発防止にあったわけです から、医療への貢献という点から言えば、重要な再発防止策の提言ができれば、普遍 化した1つのルールが再発防止につながる。個々の事例を個々の病院にフィードバッ クして、その病院でどう生かされたかというだけにとどまらないで、それがもっと広 い範囲で全国的に役立てばよい。その点では、医療機能評価機構が行っている事業と 相通ずるものがありますので、そこはうまくコラボレーションしていかなければいけ ないと思っております。  そういうことが、当然、信頼回復につながって欲しいという話ですが、このモデル 事業を始めたときは、ともかく死因を究明して、その結果をご遺族と病院に返すとい う点にポイントがあったのです。しかしその過程で、死因究明という点ではちゃんと できているのに、その説明や内容がご遺族にちゃんと伝わらない。死因究明がちゃん とできていることと、その結果として医療への信頼が回復するということは別のこと なわけです。先ほど田浦参考人とから話がありましたように、事前に話を聞き、その 疑問点に答えるような報告書にする。そういう答えも報告書に必ず織り込む。あるい は、報告書の分かりにくい言葉には注釈を付ける。さらに、ご遺族から、報告書のあ とに2週間、特別何か疑問のところはありませんかというフォローアップもする。そ れは本来の死因究明というところから更に一歩も二歩も踏み込んでいます。  そういう意味で言うと、メディエーションとか説明役とか、ただ単に死因究明とい うだけでなく、医療者とご遺族との間のやり取りを仲介するような働きがなければい けないということを痛切に感じているわけです。ただ、それがモデル事業の中に含ま れるべき仕事なのか、それとも、病院にそういう仕事をするセクションがあるべきな のか。これは今後の検討課題で、それら全部をこのモデル事業が手を広げて答えを出 そうとすると、現在の死因究明という点だけでも相当苦労しているので、別の方法が よいのではないかと個人的には思います。そういう意味では、本来の医学的な判断だ けではなくて、その周辺の新しい患者とのコミュニケーションを深めるような仕組み が、新しい制度と同時に出来ることを期待したいと思っています。  また、必ずしもすべての事例をこの委員会がこなさなければいけないということで はないだろうと思います。大きな病院では、こういう事故調査委員会の活動はかなり 軌道に乗っていると思います。そういう活動とコラボレーションして、病院に任せら れるところは任せて、その結果をレビューするという形も十分あり得ると思います。 病院での事故調査委員会の活動がどうやって公正性を保つか、それがどう担保される かということに対してある程度仕組みを整えれば、全てが全てこの委員会でやらなけ ればいけないということではない。そうしますと、かなりの症例数を受け付けること が出来、また、先ほど言ったように実務をもう少し効率化することによって、十分対 応できるのではないかと私は思っています。 ○前田座長   参考人の先生方、ご意見をお願いします。 ○松本参考人  いまの樋口先生のご質問ですが、ご遺族に感謝されたということはございます。私 たちとしては、医学生の教育、医学教育、卒前教育や卒後教育といったところに、で きれば活かしていきたいのですが、いまのところ、この報告書をオープンにするとい うことはなかなかできず、あるのは概要だけ。しかも、どの地域でどういう評価をし ているのかというのは申し上げることができないのです。具体的にどこまで今のとこ ろ使えているかと言うと、あくまでも、こういうモデル事業をやっているということ をご紹介する、ということにとどまっているのが事実です。  ただ、評価医として参加していただいた先生方は、是非これを学会で若い人に対し てもお話したいと。同僚をレビューしていく。それも、例えば私どもの地域であれば、 お互いに知っている中でも専門医として評価しないといけない。その中で、いわゆる 私情は置いておいて、客観的、科学的に医療行為としてどうであったかということを レビューしていくということは、医師としては非常に重要なことなのです。それは例 えば、いま来られた患者の方に医療をする、それから次に新しく来られた患者の方に 医療をしていく場合に、常に同じ方が来られるわけではない。それぞれの方が訴える いろいろな症状があり、それに対して対応していくという上でも非常に重要だという ことで、是非ともそういうことは発表して啓蒙したい、あるいは教育したいというこ とも先生方はお話してくださいますが、それがうまくできていないというのがジレン マではあるかなというところはございます。  先生がおっしゃった、いま異状死として届け出られているものを受け付けて、果た してそれが可能かどうかということなのですが、いま医療界で、なぜこういうモデル 事業にいろいろな学会が賛同して立ち上がっているかというと、この医療不信をこの まま続けていいのかということ。実は、みんな真摯にやっている中で不幸にして起こ り得たことで、それをどうしたらと。どんな医師もみんな治そうと思って頑張ってい るわけです。その中で、本当に不幸にして起こらしめたことを、どうしたら、みんな が自信を持って回復をして、目の前にいる病気の方をお治しできるのかということを 考えて、何とかということでこのモデル事業が立ち上がっているのです。  モデル事業自体は、先生がおっしゃったように、全部周知できていないという事実 がございます。ただ、こういう医療が今後進んでいって第三次試案が実現に向かった とすると、それは結局一種の医療側の安心感につながるのではないか。私はこれに携 わっていて、そう思っています。そういう意味では、医療側としては実現しなければ ならないものだと。先生がおっしゃったように、忘れてはならない観点は、あくまで も医療というのは、来られた方の痛み、訴えたことを治していくということが基本で す。このモデル事業の場合は、不幸にして亡くなられた方なので、悲しむご遺族がい て、しかも、医療行為に対して不信を持っている方もいらっしゃる。ですから、それ をお治しするということがこの役割だと思うのです。  その中で感謝されたことがあった場合に、いまモデル事業として具体的にしている わけではございませんが、例えば、本当に主治医の先生は真摯にやられた医療行為の 中で、ご不幸にしてこういうことが起こってしまったのだというようなことも、ご遺 族の方にお話するといったこともあってもいいのかなと考えています。  最後のご質問ですけれども、このモデル事業が知られていないという事実はござい ますので、もう少し広報していく中で、どういう点が問題であって、どういう点が問 題でなかったのか、これはモデル事業全体として携わっていることです。あるいは地 域モデルのところで検証しなければならないところだと思っておりますが、これもま た広報して、どういう点が本当に助かるのかと。基本的には国民が医療を享受するわ けですけれども、どういった点が安心を持てるのかということを出すことも必要では ないかと思います。例えば、食品のことについては食品安全委員会がございますし、 医療にもそういった安全委員会のようなものがあって然るべきです。医療の場合は、 先生がおっしゃったように、目の前にいる医師と患者との元々の関係がございます。 信頼して「この先生だから私は預ける」というようなこともございますので、その信 頼をもっと安心できるようなことにできればと思って、いま携わっている次第です。 ○奥村参考人  まずプラスアルファのことですけれども、今のサンプルサイズ的な事業の中で、ま た十分な広報もされていない中では、個々の事例における当事者同士のことを除いて、 さらに社会的なプラスアルファというのは、正直に言って、いまのところ、あまりイ ンパクトはないと言わざるを得ないと思います。今後この方式といいますか、こうい った事業のやり方で拡大してやっていけるかどうか、そのフィージビリティーに関し ても、人的パワーや時間的な問題があって、全部できますということは、とても言え るような状況ではないと思います。  それであれば、どういったところがこういう事業の対象になるのかというところを きっちりと絞って、例えば、本当に大病院であれば、独自の調査システムというもの がきっちりとあるでしょうし、そういうものを持つことができない、立ち上げること ができない規模の病院に絞ってやっていくということも、1つの考えかなと個人的に は思います。  医療不信に関しては、このモデル事業がもちろんそれなりの役割を果たしていただ けるだろうと期待はするわけですけれども、これだけの問題ではないと思うわけです。 といいますのは、私は、14例中13例の事例では満足いただいたというふうにお話し ましたが、それはあくまで、その評価結果に対して了解できたというものでありまし て、半分ぐらいは感謝もしていただいていますが、残りは、やはり治療中の医師から 患者への言葉であるとか誤解も随分あるのです。だから、こういったことは、患者を 診療する医者個々の資質というか、そういったところまで遡っていくと思います。  当然、これは医学部の卒前教育から卒後の臨床研修とか、そういったところまで、 医学教育ということで対処することも必要な問題であります。もっと掘り下げて言う と、どういった人を医学部に入学させるかという選抜の問題にも関わってきて、非常 に根の深い問題があると思いますので、モデル事業だけで医療不信を解消するのは難 しいと考えます。 ○田浦参考人  1番と3番についてはちょっと回答できないので、2番目に対してお答えしたいと思 います。拡大したときにできるのかということに関してなのですけれども、現場でも、 やはりそのように思っております。例えば、先生もおっしゃったように、24時間受付 すると言ったときに、では誰が受付するのか。それと、必要なのか。この世の中、な るべく夜の業務は少なくしていこうという時代なのに、失礼なのですけれども、死ん でしまった人はそれ以上悪化するわけでもなく、良くなるわけではない、継続するわ けです。そういう人を目の前にして、夜中に対応しなければいけないのかということ もすごく疑問です。  それと、医療従事者がいま少なくなってきている。働いている人が少なくなってき ているのか、卒業している人が少ないのかよく分かりませんけれども、大きな病院で も(医療従事者が)少ないということを聞きますし、小さい病院でも、そういう話を よく聞いております。そういう狭間をぬってこういうモデル事業で、今と同じように 看護師が調整看護師として働いてくれるだろうか、そういう看護師がいるのだろうか という疑問もあります。ですから、このままやっていけるのでしょうか、という辺り の心配だけはいつも持っております。  もう1つは全然別のことなのですけれども、良かったことが1つあったのですが、 ある事例の遺族の方が説明会において、「これで誰も恨まずに済んだ。ありがとうご ざいます」と言ってくださったのです。そして、評価結果報告書を大切に抱えてお帰 りになった。もう、本当に印象的でした。「やって良かったなあ」という思いです。 先ほどこれを述べられなくて失礼しました。 ○前田座長   ほかにどなたかご意見はございますか。 ○鮎澤委員  参考人の先生方、どうもありがとうございました。モデル事業については既に一度 お話は伺っているのですが、大綱案が出て、パブリックコメントが出て、ヒアリング でのご意見を伺ったりした後の実務をされていらっしゃる皆さんのお話というのは、 本当にいろいろな観点で具体的に参考にさせていただくことができました。  加えて、いま山口委員からのお話もあったように、標準化に向けて、いろいろなこ とが動いているのだということが分かりました。いま医療の現場にはこうした死因・ 原因究明の方法論がまだ確立していません。モデル事業を通してそういうものが確立 していく、それが現場に広がっていくことが、医療の現場が自らの手で事故調査をき ちんとやっていくことができるようになることにつながっていくだろうと思いまし た。また、先ほど、再発防止策が医学教育に落とし込まれることの大事さも議論され ていましたが、死因を究明する、原因を究明する方法論を医学教育の中に落とし込ん でいくことも大事な課題になっていくのではないかと思いながらお話を伺っていま した。  改めてなのですが、松本参考人と奥村参考人に3点ほど伺わせていただきたいと思 います。まず1点目。松本参考人が、評価の基準ということをおっしゃっておられま した。先端医療をやっている病院と第一線の市中の病院との差について、いろいろな 議論があるというお話がありました。これはおそらく、どう議論しても、どこかに線 引きができる話ではない。その差のようなことこそ、事故調査委員会が、医療従事者 が中心となって、システムエラーの専門家も入れながら、議論をしていかなければい けない核のようなところなのだと思うのです。こここそが、私たち医療界が取り組ん でいかなければいけない大事なところだと思うのですが、その辺りについてお二人方 のご意見を聞かせていただければと思います。  それからもう1点。関連することではあるのですが、この検討会の中でも、調査委 員会から出てくる報告書の取り扱い、そのことについて大変熱心に議論が交わされて います。今、モデル事業から出てくる報告書も、一旦患者さんの側に渡されれば、ま た医療従事者側に渡されれば、その報告書はいろいろな使われ方をされることになる。 モデル事業の中でもご議論されていると思いますが、報告書の使われ方について、何 か参考にさせていただけるご意見があればお聞かせいただきたいと思います。私自身 は、その報告書が医療従事者が中心となって真摯に議論したものであるからこそ、そ れが出ていっても、いろいろな使われ方に耐え得るものであること、そのことが大事 なポイントではないかと思っているのですが、ご意見をお聞かせください。  最後になりますが、この事故調査委員会で議論されたということは、ご遺族のため になるとともに、医療従事者のためにもならなければいけない。先ほど、感謝の声を 聞くことができたという大変心強いお話を伺いました。また先ほど、医療従事者の安 心感につながっていくものであるというお話も伺いました。今回私はこの議論に参加 していて、事故調査委員会をいろいろな角度から考えていくときに、この調査委員会 が出来ることによって、これまで起きているさまざまな不幸な出来事を防ぐことがで きるのかということを、1つひとつの案件に照らして考えているのです。大変つらい 目に遭われたご遺族の数を少しでも減らすことができるのか。それから、同じように つらい思いをしている医療従事者を少しでも減らすことができるのか。そういう観点 から、この事故調査委員会、モデル事業でも結構ですが、その事業の意義のようなこ とについて、お二人の先生方のご意見を聞かせていただければと思います。 ○前田座長  時間の関係で手短にお答えいただきたいのですが、先生方、コメントをお願いいた します。 ○松本参考人  まず最初の標準化の問題ですけれども、おっしゃるとおり、地域医療の現場での標 準化といいますか、標準的なスタイルといいますか、それをこういったところで評価 しなければならない。ただ、モデル事業そのものは、基本的に自身で事故調査委員会 を作れるような医療機関を対象にするということになっていたものですから、そこの ところが今後の検討課題だろうと思っております。  2番目の報告書については、今後第三次試案、それから医療安全委員会になったと きに、それはおっしゃるとおり真摯なもので、医療的なところで評価するものです。 中では、今までこの検討会のいろいろな資料を参考にさせていただいておりますけれ ども、この委員会でジャッジしてしまうということは、難しいのではないかと思って います。やはり医療従事者として医療行為を評価する。あとは今の法的なシステムの 中で使われるということになっても構わないのではないかと思っております。モデル 事業の報告書のまとめ方というところも、そういうふうに考えております。  最後のご質問ですが、私は法医学をしているものですから、いわゆる異状死の届出 を受けて司法解剖になったケースをやっています。そういったケースにいきますと、 どうしても刑事的な問題、当該医療者を刑事的な、例えば業務上過失致死とかという ことになっていくわけですが、果たしてそれで何かつながっているかといいますと、 個人的な何かを、日本の法システムの中で罰を与えるということにはなっているとし ても、同じことが別の病院あるいは別の地域で起こり得てもおかしくないわけで、そ れが何につながるというわけではないわけです。そういう意味では、モデル事業、そ れから医療安全委員会に発展していって、まだ今不十分なところですけれども、再発 防止について当該医療機関あるいは全国のいろいろな医療従事者の方にそれを周知 して、なおかつそれを実践していただければと思っております。 ○前田座長   奥村委員、お願いいたします。 ○奥村参考人  評価基準の標準化のことなのですが、これは現実的には非常に難しいと思うのです。 個々の例で事故の内容等も随分違います。それから、事故の起こりやすいものという のは、先進的な外科治療であるとか、まだ経験したことがないというものに起こって くる可能性が高いわけです。それを標準化ということは、あまり馴染まないことでは ないかと感じます。重要なことは、それを正しく公平に評価してくれる、先進医療を 非常によく理解している現場の第一人者のような人を、いかにして評価委員に見つけ てきて協力していただくかということに尽きるのではないかと思います。  報告書の使われ方に関しては、松本先生が言われたように、医学的に非常に正しい 結果を出すということがいちばんの使命であります。しかし、医師の中には当然それ を裁判とかそういうものに使われたくないという意識のある人も多いでしょうし、実 際それが目的になるような形での使われ方というのは、私自身外科医ですので、個人 的には、そういうもののためにというふうな使われ方はしていただきたくないと思い ます。こういう制度があるために医療従事者が安心できるかどうかですが、確かにそ ういう面ももちろんあると思います。  こういったところで出てきた結果がどう使われるかですが、いま現在医学の論文に おきましては、例えば合併症を起こしたことに関しての論文報告が極めて少なくなっ てきているという現実があります。これは合併症、こういう場合に、こうしたら、こ うなったというのを、裁判の事例に使われてしまうということがあると聞いているの ですが、実際に、コンプリケーションの発表は非常に減ってきています。そうなって きますと、失敗があって、失敗の報告を基にして医学が進んでいくわけですから、失 敗の報告の場が必ず必要になるわけです。こういうケースで、こういう問題が起こっ た、その原因解明はこうであったということがパブリックにしっかりと、誰のという ことはなしに共通の財産として共有できるような場が必要になるということで、こう いう事業は非常に意味があったと考えます。 ○前田座長   ほかにご質問はございますか。 ○南委員  私が申し上げたいこと、質問させていただきたいことは今鮎澤委員が幅広くおっし ゃってくださって、かなり網羅されたのですが、1点だけ追加して伺います。主に田 浦参考人に、ということになります。現実に遺族の方とやり取りをされていらっしゃ るご苦労がご説明でよく分かりました。最終的に患者さんの遺族の方に理解していた だく、納得していただくというのが一つの目的になっていると思うのですけれども、 果たしてこの評価報告書というものが遺族の方にどれほど理解されたか、感触として、 かなりよく理解されたと思われているか。あるいは、先ほど1例、誰も恨むことがな く、よかったと思いましたと言われた方がある、というお話で、それは納得なのかな とも思えたのですが、「納得」と「理解」とはちょっと違うのではないかとも思うの です。その辺りのご感想があれば伺わせてください。田浦参考人、あるいはほかの先 生方にもちょっと伺いたいと思います。 ○前田座長   田浦参考人、お願いいたします。 ○田浦参考人  大変難しいのです、調査結果というものもありませんし。ただ、説明会を開いた後 の私どもの感触だけなのですけれども、やはり納得なさってない、あるいは理解して いないという方も多々おります。ただ、もう仕方がないと思っていらっしゃるのかも しれません、これでモデル事業との関わりは終わりですというふうになりますので。  私がこれからのモデル事業に対してPDCAサイクルを取り入れてもらいたいという のは、そこら辺がいつもあるのです。自分がやってきたことを遺族はどう思ったのか、 病院はどう思ったのかということを知る機会が本当に少ないのです。これから同じよ うな仕事を医療安全調査委員会でやるようになると思いますので、検証して改善する 仕組みにしてもらいたいと思います。 ○前田座長  お約束の時間をだいぶ過ぎてしまって申し訳なかったのですが、モデル事業で大変 な蓄積がある。それから、もちろん問題もいろいろ含んでいるわけでご質問、ご議論 は尽きないと思うのですが、本日のところはこのくらいで閉じさせていただいて、ま たこれを活かして更に前に進んでまいりたいと考えております。  次回の開催につきましては、事務局と調整の上改めてご連絡を申し上げたいと思う のですが、ほかに何か事務局のほうからお話があるでしょうか。 ○医療安全推進室長  お手元の資料4をご覧いただきたいと思います。これは「『第三次試案』及び『医療 安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案』の地域説明会の開催予定」です。今後の地 域での説明会の状況ですが、東海北陸地区につきましては、名古屋で12月18日に、 2時間のシンポジウム形式で予定をしております。また、近畿地区では12月24日に、 これは1時間のプログラムになりますが、近畿厚生局で主催する「医療安全に関する ワークショップ」のプログラムの一部として開催させていただきたいと思っています。 また、2009年1月25日に仙台におきまして、3時間のシンポジウム形式で、これも 「医療安全に関するワークショップ」のプログラムの一部として、説明会とご意見を お聞きする機会を持ちたいと考えております。 ○前田座長  本日はこれで閉会ということにさせていただきたいと思います。本当にお忙しい中、 どうもありがとうございました。 (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579)