08/11/25 第3回周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会議事録 第3回 周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会 日時 平成20年11月25日(火)    18:00〜 場所 厚生労働省共用第7会議室(5階) ○指導課長 ただいまより、第3回「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談 会」を開催させていただきます。本日はご多忙のところ委員の皆様方、参考人の皆様方 にはご参集いただきましてまことにありがとうございます。本日はすべての委員にご出 席いただいています。  本日お出でいただいている参考人をご紹介させていただきます。埼玉医科大学総合医 療センター照井克生産科麻酔科診療科長です。また、渡辺副大臣もご出席ですが、多少 遅れて到着されると伺っています。  次に、お手元の資料の確認と簡単な説明をさせていただきます。「座席表」、「議事 次第」、「開催要項」、別紙の「構成員名簿」があります。そのうち、嘉山委員の肩書 きですが「山形大学医学部長」となっていますが、「医学部長」の前に「救急部長」を 入れていただきたいと存じます。  資料1は、前回のこの会における議事の要旨です。これについてご意見等がありまし たら、後ほどで結構ですのでお知らせいただければと思います。  資料2が、今回の懇談会での議論の中で出てきました「短期目標として実現可能な対 策について(骨子案)」です。前回この場でご議論いただいたことを盛り込んだもので す。それについては後ほどご議論いただくことになっております。  岡本参考人提出資料、照井参考人提出資料、木下委員提出資料、田村委員提出資料の 4つの提出資料があります。不足しているものがありましたら、お知らせいただければ と思います。  議事に入ります。岡井座長、よろしくお願いします。 ○座長 大臣がお見えですので、最初に大臣からご挨拶をいただきたいと思います。 ○厚生労働大臣 皆さん、今回もお集まりいただきましてありがとうございます。簡単 に一言申し上げておきたいと思います。  精力的にご議論いただいてありがとうございます。今日も終日厚生労働委員会があり ましたが、この問題についても質問がありました。この場で皆さんにご議論していただ いて、12月を目途に具体策を出したいと申し上げていますので、どうかよろしくお願い します。  基本的には、皆さんのご意見の集約を座長にお願いしたいと思いますが、くれぐれも 申し上げたいことは、現場の医師、看護師をはじめ、医療提供者の皆さん方のご負担が 増すような形ではよろしくないと思っています。それでなくても医師不足で大変なとこ ろで、私は先般総理発言に対して、「悲鳴をあげている現場のお医者さん」という表現 を使いましたが、そういう方がさらに悲鳴があがるようではよろしくないので、例えば 医療コーディネーターを入れるのなら、そのことによって負担が軽減する方向でないと この改革が実現しないと思います。  どうしても必要なこの人的ないし物的手当てが必要ならば、それは政治の力で今後の 予算編成過程においてやっていく。もう一つは、国だけが頑張ってやっても困るわけで すから、各自治体にも頑張ってもらわなくてはいけない。東京都は、猪瀬さんがいま副 知事でその下にPTを立ち上げたということなので、こういう動きを各自治体でもやっ ていただきたい。ここでの議論が各自治体のやる気を起こさせて、各地域、地域でその 優れた取組みが行われるような方向づけでお願いできればということを、大臣としての お願いとして申し上げておきます。ありがとうございました。 ○座長 ありがとうございました。  早速議事に入りたいと思います。本日は最初に、先ほどご紹介いただきました埼玉医 大総合医療センターの照井先生から、麻酔科の現状、問題点等をお話しいただきたいと 思います。救急患者さんの搬送を受け入れますと、直ちに手術が必要だという症例はし ばしばありますので、麻酔科に協力していただかなければ患者さんを受け入れられない という実状があります。どうぞ、よろしくお願いします。 ○照井参考人 埼玉医科大学総合医療センターの周産期センターで産科麻酔科として、 妊婦の麻酔と新生児の麻酔、胎児治療の麻酔を担当しています照井と申します。本日は 「麻酔科の立場から見た周産期医療の課題」についてご報告させていただきます。  皆様よくご存じだと思いますが、厚生省の研究班による1990年代初頭の母体死亡例調 査によりますと、救命可能と判断した事例のうち49例、68%で1人の医師が麻酔担当者 と産科医を兼務してという問題が浮び上がりました。出血を不意に来たした場合、ある いは麻酔合併症を起こした場合に、麻酔科医が不在のために母体が亡くなっていった。 これは麻酔科医がいれば防げたであろうという問題です。  それ以降、麻酔学会の会員数とか麻酔科専門医は着実に増えてきたのですが、それで も、昨今の周産期医療の崩壊と呼んでもいい現状の背景の一つとして麻酔科医不足があ ることで、山形県でも国立病院でも、麻酔科医がいないから産科は引き上げるというこ とが新聞報道で報道されています。  そういったことが起きまして、日本産科婦人科学会は昨年12月に、産婦人科、新生児 科のみならず、麻酔科に対しても救急対応の適正な報酬を確保していただきたいという ことで、周産期医療の担い手の一つとして麻酔科の重要性を強調していただきました。  そういった大状況の中、現場ではどういうことが起こっているかと申しますと、私の 近くの地域周産期母子医療センターの例ですが、大学病院の麻酔科が撤退し、麻酔科は 昼だけになった。そこで、夜間オンコールをずっとカバーしていた先生が大学から禁止 されて、夜間に麻酔科がいない状況となりました。  そういった時に夜間に常位胎盤早期剥離という母児の救急状態が生じて、全身麻酔で 麻酔を行わなければいけないから、麻酔科を待とう、待っているうちに児の状態が悪化 して、低酸素性脳障害が結果的に起きて生まれたという相談を受けました。  もともとこういった地域周産期あるいは総合周産期母子医療センターは、帝王切開の 頻度が高いわけですので、そういった緊急に対応できるように、例えば総合周産期セン ターの設置基準ですが、「麻酔科を有するもの」とされています。ところが地域周産期 センターになりますと、「麻酔科を有することが望ましい」という設置基準になってい ますが、一方で、「帝王切開が必要な場合には、30分以内に児の娩出が可能となるよう な医師及び職員を配置するように」と書いています。  こういった30分以内に緊急帝王切開ができなければならない周産期センターですが、 先ほど申しましたように、現状はそうなってはいないのではないかという危惧がありま して、厚生労働科学研究費の補助金をいただいて、池田智明先生が本日もいらっしゃい ますが、その先生の下で周産期センターにおける麻酔科の診療実態についてアンケート 調査を今年3月に行いました。その結果の要点を報告したいと思います。  総合周産期センターから63%の回答率で、地域周産期センターの半数の回答をいただ きました。注目すべきなのは、回答をいただいた地域周産期母子医療センターの103施 設のうち、11施設が産科医不足あるいは新生児科医の不足によって、周産期センターを 都道府県に返上もしくは辞退する予定だということが明らかになりました。  30分以内に緊急帝王切開ができるかどうかに絞ってご報告したいと思います。先ほ ど、地域周産期センターではそれを行わなければならないという設置基準になっていま すが、日勤帯なら30分以内に帝王切開ができると答えている施設は、総合周産期センタ ーの47%、地域周産期センターの47%、昼でも夜でもほぼ不可能と答えた施設が総合周 産期センターでもありましたし、地域周産期センターでは20%に上りました。30分以内 の緊急帝王切開は、総合周産期センターの52%が、いつもはできないと。地域周産期セ ンターになりますと、69%で常にはできないという現状です。  どうしてそれができないのかを、律速段階として複数回答で問いましたところ、手術 室が空いてないとか麻酔科医が足りないということで、緊急帝王切開ができていない現 状が明らかになりました。  こういった施設でも、こちらに示しますように、麻酔関連の遇発症例として、誤嚥、 心停止、局所麻酔薬中毒による心停止、あるいは全脊椎麻酔呼吸停止など、重大な麻酔 遇発症例が生じていますので、やはりリスクの高い妊婦を取り扱う施設での麻酔科の重 要性が明らかになっています。  次に、今回の大きな問題の「脳血管障害を合併した妊婦の場合に、麻酔科が何ができ るか」をお話します。  開頭術を妊婦の帝王切開と同時に行う場合もあります。その場合には、脳外科の脳疾 患に対して行うさまざまな脳保護の治療が、胎児にどういう影響を及ぼすのかを脳外科 の先生が即答するのは難しいかと思います。また、帝王切開の時に必要なさまざまな母 体に対する治療が、脳血管障害にどのような影響を及ぼすのか産科の先生にはパッとお 答えしにくいところかもしれません。  ところが、私たち麻酔科医は脳血管障害の緊急手術の麻酔も担当しますし、緊急帝王 切開の麻酔も担当していますので、こういった治療が母児に及ぼす影響やどう行ったら 安全なのかを評価しやすい立場にあります。麻酔科による集中治療管理とか術後集中治 療で母子の転帰をよくできる可能性があるかと思います。これはまとめのスライドにな ります。  麻酔科医が不足していて帝王切開ができない現状が明らかになりましたので、周産期 センターの設置基準も、麻酔科医を一定数確保するよう明記していただきたいという要 望を、昨年麻酔科学会から厚生労働省宛てに出させていただきました。  脳血管障害などの母体の救急においては、脳外科手術や帝王切開術の麻酔や集中治療 管理を要することが多いために、麻酔科医の必要性がさらに高くなることをご理解いた だきたいと思いまして、ご報告させていただきました。どうもありがとうございました。 ○座長 照井先生ありがとうございました。照井先生にご質問等がありましたら、いま、 この時間にお受けしたいと思います。 ○厚生労働大臣 まとめのところにありましたが、先ほど、まとめで先生は、周産期セ ンターに麻酔科医の常駐ということをおっしゃられましたが、それだけの数の麻酔科医 はいるのですか。 ○照井参考人 麻酔科医の数は着実に増えています。麻酔科学会の会員数は年間400人 ずつ増えています。専門医も200人ずつ増えています。現状では、すぐには難しいかも しれませんので、地域化、集約化も含めながら解決していかなければならないと思いま す。  私が強調したいのは、麻酔科医不足はもともとあるのですが、周産期医療の麻酔が必 要だという認識を産科の先生、あるいは周産期センターのセンター長や麻酔科の教授等 々が共有することをもって状況改善できるのではないかと考えている次第です。 ○座長 ありがとうございました。ただいまの点ですが、周産期センターがその地域で いちばんたくさんの新生児を診ているし、産科の医療が充実している。しかし、常勤の 麻酔科医がいないという状況が現実にあるのです。理想的な姿ではもちろんないのです が、仕方なくそういう状況になっている。ではセンターの指定を取りやめるかというと、 取りやめるとほかにどこもない。むしろ地域の住民の皆さんに迷惑がかかる。そういう のが現状であると思います。 ○海野委員 周産期センターの設置基準を考える際に、この条件に確実に合ってなけれ ばということを前提にして考えると、やはり、できる所が限られてしまうのです。そう すると、全国のそれぞれの地域で確実にそういうシステムを作っていくことは現実には 全くできないことです。  それで考え方として、いままでもそういう形でやってきているのですが、まずは、こ の最低限のところを確実に確保したうえで、それをそれぞれの地域で育てていって、だ んだん充実させていくという考え方です。この間、私は、最初の会議の時でしたか、総 合周産期の基準が新生児に偏っていると申し上げたのも、やはり、それはいちばん弱い 赤ちゃんたちを助けるためには、その基準だけはどうしても作っておかなければならな い。ただ、それからさらにそれを充実させていくプロセスを、私たちはやっていくのだ ということだと思います。  ですから、その麻酔科に関してもいままでは書いたら、途端に全然できないというこ とが起こるので、それで書けなかったのですが、今後、それを充実させるという方向に そのシステムと言いますか、周産期医療の整備を進めていく方向で考えていくというこ とではいかがかと思います。この間、少し提案させていただきましたM型とかN型と かと申しますのは、そのM型の部分の所はより安全に帝王切開ができるとか、母子を安 全性の高い形でのケアができるということを含めて、そういう部分を育てていくことに よって、全体をさらに充実させることができるのではないかという考えです。 ○座長 ありがとうございました。私も海野委員と同感ですが、育てていくのにやはり 行政の力が絶対に必要で、何らかの形で支援してもらわなければなりません。もちろん、 医療提供者サイドで話し合って、この病院は育てるのだ、この病院を中核にして立派に するのだという意識も必要ですが、行政的な支援がないとできない点があると思います。 これは今回の懇談会の大きなテーマになると思いますので、是非よろしくお願いしたい と思います。 ○座長代理(杉本) 麻酔科医は確かに増えているのですが、病院で常勤している麻酔 科医の数はどうなのですか。私は大阪なのですが、少なくとも大阪大学関係の病院で、 常勤麻酔科医を一人でも確保するのは非常に難しくなっています。要するに、日中だけ の麻酔科医をされている人たちで、日中の決まった時間だけだったらすぐに来るけれど も、夜はできないという人たちで、常勤の麻酔科医がものすごく減っているという現状 もあります。日本全体を見た場合はどうなのですか。麻酔科医は増えているけれども、 常勤麻酔科医は増えていないと、むしろ減少しているふうに私には思えるのですが、や はり明記した場合、どういう形で常勤に麻酔科医の先生たちは対応されていますか。開 業されている麻酔科の先生は女性の比率が非常に高く夜働きにくいという事情がありま す。常勤麻酔科医を確保するような何かアイディアがあるのでしたら、教えていただき たいと思います。 ○照井参考人 おっしゃられるとおり、麻酔科の中では女性の比率がもともと多くて、 産科も共通する部分もあるかと思います。そこで、さまざまな施設で麻酔科医が常勤と して働きやすいような考え方が出て、例ば2人でフルタイムできれば、1人分とカウン トして、ワークシェアするとかいったさまざまな手当てを検討しています。  あいにく、麻酔科学会としては、非常勤の麻酔科医がどれだけいるかまでは把握でき ていません。現在、諸外国の情勢とも比較しながら調べています。  ただ、麻酔科医の個々人の気持からすると、望んで非常勤になっているというよりは、 常勤で疲れはてて出て行くほうが多いと思いますので、常勤で働きやすい環境を、経済 的にも労働時間的にもそういうことができれば、周術期管理としての麻酔科医に戻って これると思います。 ○有賀委員 麻酔科の先生方のキャリアアップの観点でちょっと教えていただきたいの ですが、あまりリスクの高くない患者さんから、麻酔科は多分出発すると思うのです、 私たちの経験から見ても。産科の麻酔は、おそらくかなり難しい部類に属すると思うの ですが、麻酔の先生方にとって、発展プロセスからいきますと、どのあたりで先生から 見ると使いものになって、それが、例えばえらい年を取ってからようやく到達するとい う話だと、おそらく若い人はとてもではないですが、もう周産期センターなんかに行っ て働くもんか、という話が起こり得るのだと思います。そこら辺のキャリアアップの中 で若い先生と部長クラスがどんなふうになって仕事をしていれば、皆ハッピーになるの でしょうか。いま、勤務医の先生が少なくなっている話はよく分かるので、そこら辺の 具体的な若手と年寄りの混り方なども含めて、周産期センターの組織を教えていただき たいのです。 ○照井参考人 周産期センターとして、麻酔科は一定数いて帝王切開の麻酔、母体救急 の麻酔を、そのチームだけで提供していることはほとんどありません。大部分は、その 周産期センターのある施設の麻酔科として対応する形をとっています。そうしますと、 普通の一般病院の50歳代の部長、40歳代の医長、若手スタッフ、研修医という構成は ほとんど変わらないと思います。  産科麻酔をどのぐらいの年数でできるようになるかと申しますと、やはり、専門研修 の1年目では、1人で当直をさせることはしていません。専門研修の1年目で一通り心 臓手術の麻酔も含めてやって、産科麻酔のトレーニングを行って、次の年からある程度 自分が主体となって麻酔をしていいよというようにしています。  ですから、若干難度としては確かに高いほうに入っていると思いますが、やはり、そ のぐらいの年になりますと、大部分の帝王切開症例、先ほどそういった意味の全身麻酔 も含めてできるようになるかと思います。  ただ、経験年齢を積んだ麻酔科医でも、1人だけで当直していますと、例えば妊娠中 に顔がむくんで、気管挿管しようとしたら挿管できないとか、こういった事例は麻酔科 医1人では対応できない状態ですので、やはり複数の麻酔科医で対応するという形をと るべきで、そうすれば後期研修の2年目から当直に入ってもらうことはできるかと思い ます。 ○有賀委員 卒業してから4、5年目ぐらいには兵隊としてきっちりいけそうですか。 ○照井委員 そうですね。トレーニングのやり方によりますが、戦力になると言えると 思います。 ○嘉山委員 照井委員、この麻酔の開業が始まったのは仙台なので、我々は非常に苦労 したわけです。つまり、麻酔の先生方は、こう言っては申し訳ないのですが、自分の主 治医がいないので、できたのかなと。我々は主治医がいるので、開業しないで。 ○座長 患者さんですね。 ○照井参考人 患者さんをもってないということですか。 ○嘉山委員 受持ち医ではないということです。先生の今日のご発表は、大臣もおっし ゃいましたが、少ない医者の数の中で何をすればいちばんいいとお考えですか。つまり、 先生のこの資料の7頁に、学会が麻酔科医の定員を増やせば、先生は先ほど400人ずつ 増えて、専門医も200人ずつ増えている人たちがここへ行くとお考えですか。座長の岡 井先生が、行政の力を借りて何とかこれを打開したいということであれば、一つは定員 を増やすことを先生方はご要望されていますね。そのほかに、それだけで産科周産期の センターに麻酔の先生が回りますか。 ○照井参考人 麻酔科での当直の仕事の中でいちばん緊急を争う状況で手術室に飛び込 んで来て、非常に怖い思いをするのは緊急帝王切開だというのも事実です。ですから、 麻酔科医の中にも、産科の麻酔はどうも苦手意識を持っている、帝王切開にも苦手意識 を持っている麻酔科医が少なくないことを先生もご指摘されているのだと思います。  そういった中で大事なのは、やはり、地道ではありますが、教育だと思うのですね。 いままで実は、日本の中でも小児麻酔とか心臓麻酔とか結構欧米なみに進んできたので すが、産科麻酔だけがポカッと遅れまして、それ以来、帝王切開の麻酔もほとんど全部 がカバーできない状況が残っています。  そういった中で、麻酔科のトレーニングの中に産科麻酔をきちんとカリキュラムに入 れて、産科麻酔はこういうふうに魅力があるのだよと、こういうふうに母子に役立って いるのだよとやっていくと、回り道でもありながら産科麻酔に入って来る麻酔科医、周 産期センターで働く麻酔科医を増やすことにつながるのではないかと思います。 ○嘉山委員 そうなると、それは座長がおっしゃったように、自浄作用なのです。ご自 分たちが麻酔科の学会でやることであって、先生たちがおやりになればいいのです。こ の委員会では、国がどういうふうなことを医政局長の外口さんが、大臣のご命令を受け て、何をやってもらえるかというのを我々が何か提案をする会なので、定員をひとつ増 やしてほしいというのは具体的なことですね。ほかに、その教育は先生方が自浄作用と してやると。麻酔科の先生方は、例えば仙台の東北大学の場合は、開業してしまった麻 酔科の先生方は年収が少な過ぎると、リクスがあるのに。開業して5時なら5時でさよ ならと、あとはあなた方麻酔科でやれという生活がしたいということで、スタートして しまったわけです。  委員の先生方は、この定員のほかに何か、何もきれい事言わないでちゃんと言ってし まったほうがいいと思うのですが、インセンティブがなければやっていられないとかい うことは必要ないのですか。 ○照井参考人 そういった部分は必要だと思います。産科の先生がお産を1件取ったら 手当を出すというふうに、産科の方では始まったと聞きますし、そういった緊急に対し ての分、報われるような給与体系は、私個人としては、学会として考えるかどうかはま た別として、求めていきたいところではあります。 ○嘉山委員 要するに、医師がすごく少ないのです、ソフトがね。医者の数は絶対的に 少ないし、麻酔科はもっと少ないのです。大阪の事情をお話しになっても少ないようで す。その中で、少ないのをいかに有効に使っていくか、いかざるを得ないのです、数年 は。それをこの委員会で提言するわけですから、そういうことをきちっと先生にもっと 言ったほうがいいです。 ○照井参考人 ありがとうございます。 ○座長 嘉山委員が言われたことはよく分かります。とにかく処遇、対遇をよくしない と、機能を果たさなければいけないそのセンター病院に人が集まらないということだと 思います。また、戻って議論させていただくことがあると思います。 ○大野委員 いまお話が出ましたように、周産期の妊婦さんの麻酔も決して簡単ではな いです。脳血管障害、脳出血を疑う症例、脳出血と診断が付いている症例、診断が付け られない症例、我々の愛知県の症例でもありますが、他県から運ばれて来た時にはもう 意識がおかしくけいれんの症例。それらの症例に対してCTを撮るか撮らないか非常に 迷うのですが、撮る余裕もなく帝王切開に入る場合があります。同時に、脳外科医がス タンバイし、同時開頭術が必要となる状態もあります。そういう時に対応する麻酔科は、 先ほどの緊急帝王切開よりも群を抜いたレベルの高い麻酔をかけなければいけないとい うことになります。そのような高いレベルに達した麻酔科医が総合周産期センターある いは地域周産期センターに、いま充足しているのか不足しているのか、どうなのでしょ うか。 ○照井参考人 先ほど申しましたように、総合周産期センターの麻酔科は、産科麻酔科 専門医はまずほとんど日本におりませんので、一般の麻酔科医が妊婦の生理・薬理を学 んで対応する形になると思います。いまいる麻酔科医の力量からすれば、産科麻酔特有 の部分知識を増やすことでもって可能だと思います。  現状では、いるとは言いませんが、近い将来に、例えば周産期センターを回って講義 してもいいのでしょうが、そういう形で力量アップを図ることは可能だと思います。 ○座長 いまの点はよろしいですか。ありがとうございました。まだ、これから話が発 展して拡がっていく可能性がありますが、一旦ここで麻酔の話は終わらせていただきま す。  この懇談会の委員は医療提供者サイドのメンバーが多いものですから、そのサイドか らどういうシステムにして、どういう体制を構築すれば、患者さんを早く搬送して、ま た、いい診療ができるかを中心にお話が進んできたのですが、委員のメンバーで唯一患 者さんの側を代表して参加していただいています阿真委員から、少し時間をかけて、患 者さんの立場から、救急医療体制に対する要望等がありましたら、お願いしたいと思い ます。 ○阿真委員 すみません。「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会の代表の阿真と 申します。前回の懇談会で配布させていただいた資料で、皆さんのお手元にはないので すけれども、委員の皆様のお手元には48頁の資料がございます。今回の問題について、 搬送システムのことや、その他複合的に問題が絡み合っているとは思いますが、委員方 から出ている議題と、私が本日お話したいと思っている議題は随分と違うもので、私の 提案について随分とずれているというふうにお感じになる委員もいらっしゃるかもしれ ませんけれども、私はこの会議がいちばんは誰のためかというと、やっぱりこの会議の 向こうにいる一般の方、いま現在、大変不安な思いを抱えていらっしゃる妊婦さんやお 母さん方に、「こうやってみんなで努力するので、安心して産み育てることができます よ」ということを提示するためなのではないかというふうに私は思っています。そのた めの会議であり、そのための資料だというふうに思っています。私は全くの非医療従事 者ですが、小児医療を守ろうと、お母さんたち、先生方と協力しながら、日々取り組ん でおります。本当はこの活動について少しお話させていただきたいのですが、会議を時 間ぎりぎりで進めていることは承知しておりますので、よろしければこちらの前回お配 りさせていただいた資料をご覧いただければと思います。  私たちの会に協力してくださっている先生方は、全国に20名ほどいらっしゃいます が、その先生方を「協力医」というふうに呼んでいます。その協力医の先生から、資料 や情報を日々たくさんいただいています。病気を含めた医療というものがもっと身近に なるようにと先生方からいただいた情報をお母さん方に流しております。その中の1つ は小児医療の活動のほうなのですが、その中の1つ、私たちの会の協力医である神奈川 県立国際医療センターの豊島先生の取組について少しお話させていただきます。  このデータは、早産児がこんなにも増えているにもかかわらず、新生児死亡率は下が っている。安心して妊娠出産するために、NICUの整備は不可欠であるのだと、1人の母 親として痛感いたします。全国の主要NICU126施設の9割以上が患者の受け入れを断っ た経験がある。搬送を断らないためには、増床しないことにはどうにもならないと8割 以上の施設長が感じている。でも、増床できない理由は、建設費の確保よりも、NICU で働ける専門性を有する新生児科医、NICUナースの不足。専門性の高い新生児科医を 増やすために、行政に確保できる枠を作ってもらおうという提案です。これは神奈川県 議会の承認を受ければ4月から全国に先駆けてスタートする予定だそうです。地域や大 学の枠などは超えて、未来の子ども達のために現場も行政も諦めずに手を取り合って立 ち上がりつつある。これはとても大きな提案であると私は思います。  そして、私たちはあまりにも知らなすぎると思います。知らないということは、こん なはずじゃなかったという大きな溝のもとになるものと思います。まず私たちにできる こと、それは知ることだと思います。この会を始めて、医療について知るようになる以 前の自分自身を含め、まだまだ「現在医療が絶対的なものである」「お産は100%元気 に生まれて当たり前」と思っている人が非常に多いと思います。そうではないというこ とをまずはみんなが知らないといけない。NICUに入る子どもはいまや120人に1人。 そして、病気を持って生まれる子は100人に4人。さらに250人に1人のお母さんがお 産に際して命の危機にさらされる。元気に生まれてきて当たり前ではなく、NICUなど 対岸の火事ではないということをまずは知らないといけないと思います。もちろん赤ち ゃんの死亡率もお母さんの死亡率も世界トップレベルで低いということも同時に知って いる必要があります。お母さんをもっと社会が温かく育てていく必要があると感じます。  では、どうすべきか。どこで先ほどのようなことを伝えていくか。まず産前に行われ る自治体主催の母親学級では、おむつの換え方やお風呂の入り方などを習います。それ らも大事ではあるけれども、お産はいまも命がけであるということや、周産期やNICU について、早産を予防するにはどうすればいいか。また、乳児死亡の症例で、妊娠前の 喫煙率、同居人の喫煙率は8割という大きな数字が出ている県もあると聞きます。また、 いかに未受診の妊婦さんがNICUに混乱を来すのかといったこと。医療資源は限られて いる中で皆が上手に利用するにはどうしたらいいか。整備することも大切ですけれども、 必要な知恵をきちんと丁寧に伝えていくことはとても大事なのではないでしょうか。こ れは既存プログラムの修正ですので、それほどお金もかからないでできることだと思い ます。  また、産後こそ、母親学級が必要であると感じます。現在は自治体によって開催には 差がありますが、全国で受けられるようにしていく。内容は地域によって、医療はさま ざまなので、その地域に合ったプログラムがあっていいと思いますが、押さえるべきこ とは、子どもの病気、ホームケアの仕方。♯7119や♯8000のこと。折角始まった厚生労 働省の「こんにちは赤ちゃん事業」による全戸訪問。こちらにもそういった医療に関す る要素も取り入れて伝えていくことができれば、医療の改善につながっていくのではな いでしょうか。そのためには、まず赤ちゃん事業で一人ひとりお母さんに接する機会の ある助産師さんなど、専門職の方々には、内容をしっかりと把握していただき、そして、 それらをかみ砕いて丁寧にお母さんたちに伝えていくことが重要であると思います。  先ほど申しました会の別な協力医である鹿児島の小児科医南先生から教えていただい たことですが、スウェーデンでは、1人の看護師さんが500人くらいの子どもを生まれ たときから小学校入学までの成長をずっと見ていく。予防接種のスケジュールや事故防 止なども行われますが、最もされていることは家庭でできるホームケアの徹底と聞きま す。コンビニ受診をしない背景には、きちんと社会がお母さんを育てているということ があるのだと思います。  私たちはいままで小児科の先生による病気の対処法の講座を開催してきており、ママ サークルからの依頼もそういったものでしたが、墨東病院のことがあってから、先生で はなく、私に医療の現状を話してほしい。そして、自分たち母親にできることを話して ほしいという依頼に変わってきています。医療資源は大変に限られたものであるという こと。現在、24時間、36時間も働き続ける医師が患者を診るという、このあまりにも異 常な事態を一刻も早くくい止めなければいけない。そのために、それぞれがどうすべき なのか。日々たくさんのお母さんたちと接していて、その不安の増大とともに、それで はこの現状を踏まえ、私たちはどうしたらいいのかという発想に変わってきていること をうれしくも思います。  時間が限られているのも議題が多いこともとても分かりますが、一つ一つの懸案事項 に十分審議できないままで結論を出す、足早に進めることが国民の望んでいることだと は決して思いません。早急に結論を出すことを望んでいるのではなく、きちんと一つ一 つの問題について議論して、時間はかかっても、一つ一つの課題に解決策を出すこと、 それがご遺族も国民も望んでいることだと思います。ありがとうございます。 ○座長 ありがとうございました。では、阿真さん、お席の方で質疑に加わっていただ きたいと思います。  最初にご指摘いただきました点ですが、地域の住民の方々が大変不安を抱いておられ るという点にも、私たちはきちっと応えていかなければいけないと思います。いままで の議論は、医療提供者側から、どうすれば早く搬送できるか、いい医療提供ができるか ということですが、この点ですね、一般の方々に安心してもらえるということも、議論 の中に入れていかなければいけないと私はいま感じたところです。患者さんの側、お母 さんの側からいろいろと活動していただけることは本当にありがたいことで、その辺の ところで、何か委員の皆さんから阿真さんにご質問とかございますか。 ○厚生労働大臣 宣伝を含めて1つ申し上げておきますと、妊婦検診、5回まで無料だ ったのを、14回全部無料にいたしました。少しは役に立てると思います。 ○有賀委員 私はいま、昭和大学というところにいますが、前は普通の市町村病院にい たのですね。そのときは嘉山先生と同じで脳外科の部長でいって、それでしばらく経っ てから救急部長でということでやってきたのですが、私は何がびっくりしたかといいま すと、小児科の先生方の働きぶりです。それまでは私は私自身で、私がいちばんよく働 いていると思っていたのですね。嘉山委員はお笑いになるかもしれませんけれども、そ うでしょう、みんなそう思っていたのですよ。ところがですね、その病院に行きました ら、小児科の先生たちがべらぼうに働く。特に新生児の病床がありましたので。ですか ら、私は大学から行った仲間たちに、とにかく小児科の医師に負けないぐらい働こうで はないかと言ったぐらいです。それで、小児科の先生と患者さんを共有することがある のですね。小さな子で手術したなんていうことがあれば。そのときにもものすごく働い ているのがよくわかるのですね。いま阿真さんが話されたように小児科の先生方とのお 付き合いが多々おありだと思うのですが、あの先生たちの例えばお給料とかに関して、 どうしてそんなに少なくてあんなによく働いているのだろうかというようなわかりやす い話題って出ないのでしょうか。 ○阿真委員 出ます。よく出ます。本当に、何でそんなに働いてお給料が安くて。この 間も、「年齢でこのぐらいなのですよ」という話をほかの小児科の先生がされていて、 本当にお母さんたち皆さんは、まず知る前はすごくたくさんもらっていると思っている のですよね。すごくたくさんもらっていると思ったところが、一般の企業で働いている 人と、時間でしたら全然安いということを知ってすごく驚かれています。 ○有賀委員 驚いたその先に、やはり給料を高くするには、それなりの医療費を皆で払 おうじゃないかとか、そういうふうな草の根的な話は出ないのですか。 ○阿真委員 これは医療費の無料化の功罪ということで、私が、実は前回の私たちの会 の会合のときに、休日夜間の無料というのはどうだろうかということを言ったのですね。 昼間はともかくとしても、休日夜間はどう思うかというお話をお母さんとしたときに、 あまりにもみんなそれぞれ考えが違うので、これは会として1つの意見にまとめられな いというふうに思ったのですけれども、やっぱりそれは問題です。休日夜間を無料にし ているからこうなってしまうのだという意見もあれば、やっぱりそれは必要なことだと いうこともあったので、お金に関することはお母さんたちで1つになるというのは難し いことです。 ○有賀委員 でも、小児科の先生方のお給料はとてつもなく思ったよりも低いと。何で こんな給料で働いているのだろうぐらいには皆思っておられるのですね。 ○阿真委員 そうですね。私たちの会で開催した講座については、皆さんそういうふう におっしゃいます。 ○有賀委員 私もマンションに住んでいて、この手の話になると、「えっ」とか言われ るのですね。これ、日本医師会の先生方が、かなりたくさんお給料をもらっておられる ということで、勤務医もそうだと思われている可能性があるのです。 ○阿真委員 はい。 ○座長 ありがとうございました。はい、どうぞ。池田委員お願いします。 ○池田委員 阿真委員が産婦人科の医師に対して思っておられることをお聞きしたいの です。私自身は、産婦人科医療というのは、ものすごく地域に根ざした医療だと思いま す。正常な方でもお産のために行くわけですから、その地域の方、特に一次の先生、開 業されている先生というのは、その地域にすごく根ざして地域の文化センターであり、 また、女性が困ったときの尼寺の駆け込み寺みたいな機能があると思うのです。実際そ ういった意味では、アメリカやヨーロッパなんかは集約化しすぎてしまっているところ もあります。そういう意味では、日本独自の、その一次の「開業医さん」と言われるも のを大事にしていかなければいけないと私は思っているのです。阿真委員が思っておら れる、その産婦人科医院とか産婦人科医とか、大きな病院とか、そのイメージを教えて いただきたいのです。 ○阿真委員 はい、先生のおっしゃるとおりで、大きい病院に行って産みたいという人 も割合としてはもちろんいます、ほとんどのお母さんが、小児科のかかりつけ医はなく ても、産婦人科については、やっぱり地域の所で産みたいというふうに思っていると思 うのですけれども。駆け込み寺というような、それは、先生おっしゃるとおりで、みん なそういうふうに思っているのです。前回質問した、ファーストコンタクトが救急隊の ほうがいいのかというのを聞いたのは、皆さん、妊婦さんは絶対に産婦人科の先生にか かると思うので、それ以外の選択肢を考えたほうがいいのかという意味で前回聞いたの ですけれども、小児科のかかりつけ医よりもずっと密接というか、必ずかかりますよね。 妊娠期間中で期間を決めてかかっていることなので、困ったときは産婦人科の先生に電 話するなど生まれるまではそういうところはあると思います。 ○座長 ありがとうございました。私のほうから1つお伺いしたいのですが、さっきス ウェーデンの話を例に取られましたが、スウェーデンでは500の家庭を1人の看護師さ んが何年かずっとフォローして見ていくということですね。日本では、保健師さんがそ ういうような役割を与えられている職種だと思うのですが、そういう代わりはできてい ないという現状があるのですか。 ○阿真委員 はい。保健師さんが関わってくださるのは母親学級で、生まれる前のとこ ろで関わってくださると思うのです。生まれた後、乳児検診という3、4カ月検診と、そ れから、最近2カ月で講座を開催するところで、4カ月で赤ちゃん事業を開催する自治 体があったりですとか、そういうときに保健師さんが来てくださることもありますけれ ども、どのお母さんをどの保健師さんが見ているという関係ではないのです。20人、30 人のお母さんに対して、1人の保健師さんが、しかも毎回その保健師さんが同じではな くて入れ替わりだったりするので、1人のお母さんを1人の保健師さんがずっと追って いくということとは随分違うと思います。 ○座長 なるほど。その体制が、1対1という感じになると、相当安心できるというこ とですね。 ○阿真委員 そうですね。 ○座長 日本だと、団体で講義するみたいな感じになってしまう。 ○阿真委員 ええ。それと、その講義自体も生まれた後というのは、具体的にきちんと 行われているところと、全く行われていないところですごく分かれていると思います。 生まれる前は、どこでも必ず保健師さんが母親学級というのをやってくださいます。 ○座長 ありがとうございます。もう1つだけ。患者さんの側から見てどういう情報を、 細かいことではなくて種類でいいです。どういう情報が伝わればより安心してもらえる のかということです。どの辺に私たちの側としては注意すればいいのかということなの です。 ○阿真委員 そうですね、小児医療について言えば、やっぱり子どもの病気のことをよ く知ることで判断のところがわかる。 ○座長 病気の中身とか、病態のこととか、そういうことですね。 ○阿真委員 ええ、そういうことですね。「こういうときはこういうふうにしたほうが いいですよ」ということが分かると、例えば♯7119とか♯8000があるということを伝え るだけで、「そんな相談窓口があったんだって、これは利用しよう」とおっしゃる方が 多いのです。「そういうところがある」ことと、あと、「こういう状態のときはこうい うふうにしたほうがいいですよ」ということも知ると安心する材料になると思います。 ○座長 ちょっとすみません。もう1つだけ。今回問題になったような救急患者さんを 搬送する体制は、それぞれの地方、地域でつくってはいるのですね。その機能がうまく いっているところもあれば、ちょっとうまくいかないような部分もあるにしても、その 辺のところは、どの程度一般の住民の方々に伝わっているのでしょうか。あなたの地域 でこういうことが起こったら、こういう体制になってますよというようなことが、いま あまり伝わってないのですね。 ○阿真委員 はい、全く伝わってないと思います。ですから、いろいろなところで伝え てほしいという依頼が私のところに来るのですけど、それはやっぱり伝わってないから だと思います。 ○座長 はい、ありがとうございました。どうぞお願いします。 ○大野委員 いまの点は、非常に重要な点だと思うのですね。お産が安全ではないとい うことは、皆さんテレビ報道その他でしていただいていますから、だんだんわかってき ている。そうなのだけれども、漠然として、「私はいいだろう」とみんな思っているの ですね。それをいかに伝えていくかというのは、私もやっぱり一次医療施設の医師も考 えています。私は大学病院が長かったのですけど、そのときには分からなかったのです。 大学病院とか、大きな受け皿がバックにあるということで、当然、一次医療施設よりも そっちがみんな安心感ということで来るだろうと私は思っていたのです。いま5年開業 をやってみて、必ずしもそうではない。我々のクリニックに来たいのだという人もいる のです。それは別に料理がうまいからとかそんなのではないんだということが私は分か ってきました。大学病院にいたときには、確かに重症患者は診たけれども、1人の患者 さんに10カ月私は付き合ったわけではないのですね。いま私は1人で診てますから、い ろいろなことを私に言ってきます。箇条書きでどんどん。  例えば、お産が危ないとか、そういうことも言い出したら確かにきりがない。死ぬか もしれないとか。そういうことを、例えば母親学級、あるいは自治体の母親学級とかで、 知らない人からバンと言われるのは、受け入れられるのかな、怖くなるだけのように思 う。例えば医師と患者が10カ月外来で付き合って、かなり信頼関係ができた時点で、患 者が信頼している医師から言われたらうなずけるのだなということが分かるのですね。 やっぱりもっと伝えなければいけないと思うのです。  大臣はじめ、行政の方にお願いしたいのは、分娩は安全神話というあまいものではな く、本当に命がけなんだということを是非、経験者は分かりますけど、本当にそうだと いうことを是非、国としても伝えていただきたいし、それをただ直線的一方的に伝えれ ばいいというわけではない、そのケアをしていただきたいと思うのです。そこはどうや っていけばいいかは議論してほしいのですが、どうでしょうか。 ○阿真委員 はい。先ほども言いましたように、こういうところで話していることがそ のまますんなり、例えばマスコミとかそういうバッと言ったことがお母さんたちにちゃ んと伝わるかというと、うまく伝わっていないというか、うまく伝わらないと思います。 そこを伝えるために、クッションとなる助産師さんの方とか、保健師さんの方とか、そ ういった方に状況をよく理解していただいた上で、お母さんたちの不安もよく理解して いただいた上で、どういう切り口で話すかということだと思います。  私たちは小児医療のことをやっていて、私たちは絶対にコンビニ受診を控えようとい うことは言いません。私たちの活動というのは、柏原のお母さんたちのように、地域限 定で、その地域に閉鎖してしまう病院があって、そういうところでコンビニ受診を控え ようという活動は実を結ぶと思うのですが、私たちのように東京とかいろいろな地域で、 漠然と何となく小児医療ってどうなんだろうと思っているところに、受診を控えましょ うと言ったら、お母さんたちは全然付いてきません。そうじゃなくて、自分たち、お母 さんの不安をまずは減らしましょうと。病気のことを知ることで安心しましょうという ことをメッセージで伝えます。  それは結果的には受診を控えることになるということで、小児医療については、いま こういうふうにやっています。周産期、いまお話いただいたことについても段階を踏ん で、例えば4回コースだったら、4回コースの最後のところで、お産のお母さんの死亡 率は下がっています、赤ちゃんの死亡率も下がっています、けれども、というところで 伝えることが大事なのではないかなと思います。 ○座長 はい、よろしいですか。どうぞお願いします。 ○嘉山委員 このことは阿真委員に聞くことではないと思うのですが、早産が増えてい るっていうのを私も有賀委員もいま初めて知ったので申し訳ないのですけど、これは何 か原因があるのですか。つまりリスクが高いお産が増えているっていうふうに言えるの ですか。 ○座長 ええ、それもあります。それから多胎、双胎とかですね、不妊症の診療が進ん できましたので、これまでなかなか妊娠されなかった方が妊娠されるようになって、そ の不妊症治療をやりますと多胎になる率が高くなります。双胎とか品胎とか多胎が増え ていると早産になります。それから、ハイリスク妊娠が増えているのがあります。その 中で重要なのは、妊娠されるお母さんの年齢が高くなっていますので、そういう方はや はり早産になりやすい、早産率が高くなる。 ○嘉山委員 そうすると、ほかの国よりも日本のお産はリスクが高い。 ○座長 ハイリスクケースが増えているというのはあります。ですから、早産も増えて いる。それから、早産が増えているもう1つの要因は感染があるのですね。腟から頚管 に行って、それから子宮内に入って絨毛膜に感染が波及すると子宮収縮が起こって、早 い時期に生まれてくる。そういう環境が、いま悪くなっているというか、そういう感染 を起こす人の率が増えている。それも早産の原因の1つです。 ○阿真委員 いまちょっと大野委員のことで足りなかったのですけど、かかりつけ医の 先生がその役割をすべて大野委員のようにやってくだされば、特に必要ないかもしれな いです。というのは、小児医療についても、小児科のかかりつけの先生がそういうホー ムケアのこともやってくださる先生もいらっしゃるので、そういう場合には、私たちの 活動は特に必要ないと思います。大野委員のように、かかりつけの産婦人科の先生が、 何回も何回も診察の中でその後で言うのがベストだと思います。 ○座長代理 阿真委員にお聞きするのですけど、出産が必ずしも安全ではないと。それ は確かにそうだと思うのです。100%安全ではないのですけど、まあこの間からみている ように、今日委員のお話を聞いていると、まあ99.995ぐらいの安全性があるわけですね。 NASAでやっているのを見ても、大体99.999と言えば、ほぼ安全であるというふうに普 通は考えると思うのです。あまり出産が危ない危ないと言うとむしろ不安にかられるだ け。基本的には99.995%というのは私自身は世界的に見ると医療行為の中でも非常に安 全なものであろうと。ただ100%ではないですよというところを阿真委員自身がやはり 危険なものだというふうに感じられるのかと。  といいますのはね、日本で出生は100万ぐらいですね。ということは、年間で大体50 人ぐらいの、この間は10万出生で3点何ぼとおっしゃったけど、それはちょっと多めに 言って、50人ぐらいのお母さんがそういう出産に伴って亡くなられるわけですね。この 50人をさらに減らしていくのはかなり難しいと思うのです。これ、半分に減らすとして も、25人減らすのはかなり難しい。医療的には難しいと思うのですけど、そういう意味 合いでは、安全性の限界に近いところまできているのではないかと。ただ、むしろ問題 なのは、今回のように不安であると。何か起こったときに、これを受け入れてくれると ころがないという不安の問題と安全性の問題をちょっと切り離して私は議論しておいた ほうが実質的なものができるのではないかと。体制にしても考えていけるのではないか と。その目標をどっちにするか。阿真委員にこの間お話を聞いたのですが、まだ小さい お子さんがいらっしゃるとお聞きしましたけど、その辺を含めて、やっぱり出産は危険 だと思われるのか、あるいは一般のお母さん方の立場から見て、出産は危険だと思って こうなのか。あるいは、そのとき何か起こったときに、すぐ確実に早急に受け入れてく れる体制がないというのが大きな不安なのか。どちらの問題が大きいかなということを 少しお聞きしたいのですけれども。 ○阿真委員 後者です。100万人のうち50人が亡くなって、それをさらに半分にと私た ちが思っているわけではなくて、最近やっとお産が100%安全ではないということが少 し浸透してきました。ほんの少し前、その墨東病院のことが起こる前までは、100%元気 に生まれて当たり前とみんな思っていました。私も長男のときは思っていましたし、何 かあるという不安なんてこれっぽっちも思っていませんでした。そういったときに何か あると、やっぱりお医者さんのミスというふうに私は考えると思うのですね。だから100 %、別に不安を煽るのではなくて、100%は安全なことではないということは前提として あって、委員のおっしゃるように搬送の問題とか。 ○座長代理 何かあったときにすぐ対応できるというシステムがないということが、確 実にできていないという不安を解消することのほうが、ということですか。 ○阿真委員 はい、そうです。 ○座長代理 ありがとうございました。  ○岡本参考人 阿真委員がおっしゃったように、緊急の課題ではないのですが、お母さ んたちのお産に対するリスクへの理解についての啓発が必要だと考えています。それは 妊娠してから行うのではなくて、現在も少しは行われていますが、学校時代から、出産 や育児、タバコの害などの命の教育とか思春期の教育は、学校教育の中で、しっかり行 うことが重要です。また、救急車の使い方とか、そういったことももう少し落ちついた 状態で聞ける時に指導することが重要かと思います。 ○座長 ありがとうございます。それでは阿真委員のお話にもありましたが、いまの周 産期医療でいちばん困っている点が、NICUのベッド不足と、それを担う医師の不足な のですが、その点について田村委員に時間を取っていただいて、ご発言いただきたいと 思います。 ○田村委員 お手元の参考資料を基にちょっとお話させていただきたいと思います。今 日は阿真委員と有賀委員からいろいろエールを送っていただきまして、小児科として頑 張ってきた甲斐があったなと思います。前回この委員会で、ある程度意思一致を見たか と思うのですが、緊急の場合には、総合周産期センターが、母体救急に関しては引受け 手がなければ責任を持って断らずに受け入れる。そうした患者さんに対して産科の側が 窓口になって受け入れてしかるべき処置を行うということが、ここで提案されて、あま り大きな反対はなかったと思います。私も、基本的には今回の墨東病院の事例みたいな ことを避けるためには、それが必要だろうということを認めます。ただ、それがそれだ けで走り出した場合には、新生児の側から見たときには、いろいろな問題が起こり得る ということを、皆さんに提起しておきたいのです。  1つは、例えば墨東のような事例ですが、今回は35週という週数ですから、生まれた 赤ちゃんはあまり大きな問題はなかったと思いますが、これがもし22週の赤ちゃんだと すると、この場合は、生まれた赤ちゃんの体重は400gぐらいです。400gといいますと、 片手どころか、この3本の指に乗るぐらいの小さな赤ちゃんです。その赤ちゃんが生ま れたら、そういう赤ちゃんは肺も非常に未熟なので、コヨリぐらいの管で気道に挿管を して、人工呼吸しなければなりません。自分で呼吸もできません。そこで人工呼吸しな がら、サーファクタントという、これは日本人の藤原先生が開発した世界に誇るべき薬 ですけど、それを肺に入れて何とか人工呼吸を続けて、更に髪の毛ぐらいしかないよう な細い血管に針を刺して、そこから薬物を投与しながら、その赤ちゃんを搬送用の保育 器に入れて、NICUまで運んでいくわけです。  在胎22週とか23週ぐらいの赤ちゃんとなりますと、総合周産期センターレベルでは ないとなかなか診療出来ませんから、そういったところに1時間か2時間かけて搬送す るということになります。そうすると、搬送の為に救急車でゆられている間に、今度は 赤ちゃんのほうが頭の中に出血するというようなことが決して珍しくないわけです。そ れでその赤ちゃんは、そういう頭蓋内出血を起こしてしまえば、寝たきりになったり、 脳性麻痺になったりしてしまうわけです。  それともう1つは、忘れてはいけません。(産科医が逮捕されるという)大野事件が 福島で起きた後に、総合周産期センターで起きたことを、それまでは帝王切開ぐらいは 自分のところでやっていた一次施設の産科の先生たちが、「これは危険だ、おっかない」 ということで、二次とか、総合周産期センターに帝王切開の必要な母体を全部送ってこ られるようになって、それで、比較的軽い患者さんでNICUのほうもいっぱいになって しまうということが起きたわけです。今回、お母さんが緊急事態であれば、総合周産期 センターはNICUが満床であっても絶対に断らないと提言しようとしています。私もそ れは基本的には正しいと思うのですが、一般の産科のクリニックの先生方が、果たして どこまで母体の救命の緊急性を認識していただけるかどうかということになると心配に なります。今回みたいなことがマスコミでいろいろ騒がれますと、クリニックの産科の 先生方が非常に過敏に反応されて、妊婦さんが「激しく頭を痛がっている」、「お腹を 痛がっている」と、もうそれだけで緊急性があるからということで、総合周産期センタ ーに紹介するようになると思います。紹介された総合周産期センターの方は、基本的に は、他に受け入れるところがなければ受け入れるということを宣言するわけですから、 そういう患者さんをどんどん受け入れますと、在胎34週とか35週とか、総合周産期セ ンターでなくても診れるような赤ちゃんが総合周産期センターで生まれ、その赤ちゃん を、NICUが満床であれば他の施設にどんどん運ぶという事態が予想されます。  そうすると、先ほどの22週の赤ちゃんでも、お母さんのお腹の中にいたままならば、 NICUのある施設に安全に運ばれて、赤ちゃんの負担も最低限で済むということで周産 期医療ネットワークができたにもかかわらず、また昔のように、生まれた後に赤ちゃん をNICUのある施設へ送るという、母体搬送から新生児搬送の時代に逆戻りしかねない ことになります。  お手元の今日の参考資料の4頁を開いていただきたいのですが、先ほど阿真委員もお っしゃっていましたし、厚生労働省から最初の資料で配られたように、母体搬送受け入 れが困難であるということの理由として圧倒的に多いのは、NICU不足です。  なぜNICUが不足しているかということですが、5頁を開いていただきますと、1,000g 未満の超低出生体重児(こういう赤ちゃんは原則的にはほとんどが総合周産期センター に入ります。)は、1990〜2005年の間に2,000から3,000人以上へと、1.5倍以上も増え ています。  その下を見ていただきますと、1,000g未満の超低出生体重児の救命率が体重別に書い てありますが、15年前に比べるとこういう赤ちゃんの生存率は3倍、4倍と改善してい ます。以前は亡くなっていたこういう赤ちゃんが、ちゃんと助かるようになってきて長 期間NICUに入院するようになっています。  6頁に、一方で、赤ちゃんが助かったのはいいけれども、人工呼吸器を1年以上も必 要とするという長期の入院患者がどんどん増えてきています。6頁の上で、2003年と2006 年のたった3年間の調査だけで、NICUの中で人工呼吸器の使う病床に1年以上入院し ている赤ちゃんの割合が、4.15%から6.60%に増えています。これは我々が母子保健課 から委託されている『重症新生児の療育環境を拡充するための研究班』の調査でも、毎 年200〜300人のペースでこういう赤ちゃんがNICUの中にたまり続けていることが明ら かになっています。そういったことがNICU不足の背景にあります。  今度は8頁をご覧ください。そういったことを踏まえて、藤村委員の班会議で調査さ れた結果では、日本でいま必要なNICUの数は、周産期医療ネットワークシステムが始 まったころの1,000人の赤ちゃんの出生に対して2床ではなくて3床、つまり1.5倍が 必要だ、ということがはっきり数字として出てきています。  12頁にまいります。これは、新生児医療連絡会という産科医会に相当するNICUに加 盟している施設の新生児部門責任者がほとんど入っている連絡会での調査の結果です。 NICUの責任者に対するアンケート調査では、「NICUの病床を増やしたいか」に関して は、76%の施設長が「増やしたい」と回答しています。しかし、「NICU増床が出来な い」ことの理由として挙げられているのが、「看護師の確保」と「医師の確保」が困難 となっています。これはまさに舛添大臣が墨東病院で見てこられたことを示しています。  日本は世界でも最も新生児・未熟児の治療設備がいい国ですが、NICUの医師が足り ないためにNICUのベッドを増やせないことがどういう影響を及ぼしているかについ て、14頁の下に示されています。これは総務省が各都道府県の周産期医療レベルを評価 するのに、過去10年間のうちで、そこの県の新生児医療の死亡率が全国平均に比べてど のぐらいの年数低かったかを調査しています。ここで右側に書いてあるのが、長野県を はじめとして新生児死亡率が非常に低い状態がコンスタントに続いている良い県、左側 に書いてあるのがコンスタントに悪い県になります。16頁の上の棒グラフを見ていただ きますと、都道府県別の新生児死亡率が非常に高い県は、NICUの専任の医師数が人口 100万人当たりに有意に少ないという結果が出てきています。つまり、新生児科医の不 足は、いませっかく世界で一番良い赤ちゃんの死亡率そのものを悪化させてしまうこと につながりかねないということがわかります。  19頁をご覧ください。これも新生児医療連絡会の資料ですが、なぜ新生児科医の成り 手がないかという調査結果ですが、そのいちばんの理由は新生児科医の勤務が非常に苛 酷だからです。新生児科医の当直回数は、部長、周産期センター長みたいな人も全部含 めても、平均で毎月6回です。しかも6回の当直は、平均睡眠時間が3.9時間ですから、 これは当直というよりもほとんど24時間労働です。さらに、普通は当直明けは、24時 間労働している人はちゃんと家に帰してあげなくてはいけないのですが、8割の施設で は翌日も全く普段と同じように全日働いています。こういう苛酷な勤務状態があって、 結局、新生児科医の成り手がなかなかいないということになっているわけです。  それを実際に示しているのが、21頁の下のほうの棒グラフです。これは新生児科医を 各世代別に「これから先も新生児医を続けますか」ということを聞いていますが、結局、 専門医以上のベテランのスタッフですら、一生、新生児科医を続けようという人は3、4 割にしか過ぎず、3分の2以上のスタッフはやめたいと思っているわけです。しかも、 もっと危惧すべきことには、研修医レベルの若手医師は、こういう苛酷な勤務状態を見 ていて、新生児科医を続けたいと思う人は1割に満たないという結果になっています。 これは、前回、藤村委員の報告にあった、全国の総合周産期センターの欠員が常勤医で 約15%、研修医で30%近いということをまさに反映している数字です。  そういう状況ですから、NICUのベッドを増やしたくても増やせないという状況をそ のままにしておいて、前回の懇談会の提言のように『総合周産期センターは母体緊急の 可能性があれば、ただ母体緊急の「恐れがある」というだけでも絶対にどんどん引き受 ける』ことは、実質的には難しいと思われます。NICU不足を解消することとNICUの 医師を確保することの政策を同時に進めないと、絵に描いた餅に終わってしまうことを 申し上げたいのです。  前回の資料の330頁から以上のことについて詳しく解説し、新生児科医を増やしたり NICUを増やすためにはこういう政策が必要だ、ということを具体的に提言してありま す。それをまとめたものが341頁に、A周産期医療に係る医療従事者を確保するための 超短期的・短期的・中長期的方策の提言として「医師の負担を軽減させる政策」、「医 療従事者の処遇改善による労働意欲の向上をするための政策」、「医師・医学生を周産 期医療に引っ張ってくる方策」「女性医師の継続的な就労ができるための支援」という ことでまとめてあります。  Bとしては、NICU病床の有効活用と増床のための方策として、「NICUの施設・設備 の促進策」、これも短期的・長期的に分けています。「NICUの役割分担の整備」、の 中ではとりあえず比較的短期間にできる方策として、いまのNICUのようにNICUに小 児科が常駐しなくても、病院全体に小児科医が1人いて、NICUの3床に対して1人と いう看護師を確保すれば、準NICU並みの医療加算を付けることを提言しています。い ま多くの病院が小児科医不足の中で小児救急を続けていこうかNICUを続けていこう か、非常に悩んでいる状況があります。そういったところが、NICUの中に必ず24時間 医師がいないといけないといういまの縛りのままですと、結局どちらかを捨てるしかあ りませんが、病院の中に小児科医が24時間いれば、NICUの中で看護師が3対1という 割合を24時間きちんと維持できれば、それを準NICUとしてそれなりの加算を付けるこ とをやっていただければ、小児救急を選ぼうかNICUを選ぼうかということで、岐路に 立たされている施設が両方を何とかやっていける体制が保障されると思います。新生児 医療が崩壊すれば、前回のような母体緊急を総合周産期センターが必ず365日、24時間 受けることが担保できませんので、よろしくご検討のほどお願いしたいと思います。 ○座長 NICUが不足している問題、新生児を担当される先生が足りないこと、これは ここにいらっしゃる委員はみんな知っておられることだし、患者の側も阿真委員のよう な方はみんなご存じのことですが、その解決策となると、難しいといいますか短期的に は解決しないところがあると思います。いまの田村委員のお話に対して、ご質問等があ りましたらどうぞ。 ○川上委員 田村委員に何点かお聞きします。いまある総合周産期母子医療センターの NICUのベッド数で、もし1,000g以下の子どもだけをそこに収容する体制ができたら、 そこそこ充足する状態ですか。 ○田村委員 先ほどの資料の中にも書いていますが、2005年の時点で1,000g未満の赤 ちゃんが約3,000人生まれ、しかもこれは右肩上がりに増え続けています。全国のNICU の総数が約2,000強です。いまの1,000g未満の子どもたちですら総合周産期センターに 収容しきれてないのがいまの現状です。 ○川上委員 2回目の会議に資料を出したのですが、当院は周産期医療センターではな いですが、分娩数が年間1,000ぐらいあると、その20〜25%のお子さんは小児科医が新 生児室で何らかの医療行為を行わなくてはいけない状況です。1,000g以下は難しくてな かなか対応できないのですが、幸いにして1,000g以上であればそこそこ対応している。 そういう病院が全国にもたくさんあると思うのです。そうだとすると、総合周産期医療 センターの機能を少し収束させ、1,000g以下の小さい子だけを扱い、1,000g以上であれ ば、我々の所のような総合周産期母子医療センターでない所でも対応できる病院を増や して維持すれば、今回のようなベッド不足は、緊急的ですが、解決する問題ではないか という気もしたのですが、いかがですか。 ○田村委員 全くおっしゃるとおりです。それが先ほど最後に述べたNICUの2と我々 はこれから称することにしていますが、いまのNICUの基準より少し緩いけれども、少 なくとも看護に関しては3対1をきちんと担保する形で、新生児科医、小児科医が病院 全体に24時間いれば、必ずしもNICUに24時間いなくてもいいということを保険上、 認めると。ただし、そこで3対1の看護師を確保するためには運営費は相当大変ですか ら、最低限6,000点ぐらいの管理料を頂かないと、そういう病床を運営しようという施 設はなかなか現れないと思います。そういうことをしていただければ、川上委員のおっ しゃるとおり総合周産期センターがいちばん最重症の患者を受け、そうでないお子さん についてはそういった施設にお願いすることが可能になると思います。 ○川上委員 いま田村委員がおっしゃられたことは非常に大切で、第2回に当院の資料 を出しましたが、新生児室で治療すれば、いまのDPCでは出来高と比べると必ずマイナ スになります。やればやるほどマイナスになるようになっています。田村委員が言われ るように準NICUみたいな加算があると、我々も非常に助かります。  もう1つ別の視点でお伺いします。勤務が苛酷だということで、それをどう改善する かです。おそらくいちばん進んでいるのは救急で、救急部門では、場所によっては2交 替制、3交替制を導入しているところがすでにあります。我々の所も2交替をしていま す。例えば、5人いて2交替すると、単純計算で勤務時間は月144時間しかないのです。 かなり少ない。少なくて済むということです。NICUは入院なので、救急みたいに外来 だけやるというわけにはいきませんので少し違ってきますが、例えばNICUを10床を運 営するのに、医師が2交替したとしたら、医師はどのぐらい必要ですか。それでもかな りNICUのドクター数を減らすこともできるし、ちゃんとオン・オフができるのであれ ば負担もかなり減るのではないかと思うのですが。 ○田村委員 基本的に交替制は、「長期的提言」の中にも入れています。医師の負担を 軽減するための最終的な方策としては、少なくとも総合周産期センターのような所にお いては医師は交替勤務にすべきであると。  ただ、いつまで経ってもいまのままでは、経営者側がそういった方向には動きません。 動かすためには、労働基準法に従った給与の支払い方をすべきであると思います。それ はどういうことかというと、医師が3.9時間の平均睡眠時間で36時間仕事をしているわ けです。それに関しては、ちゃんと勤務外手当として割り増した残業手当の支払いをさ せるべきです。これは本来は労働基準法からいうと当たり前のことですが、それが医療 の現場では守られていません。これは救急、周産期、産科、小児科でも同じことです。 それを守らなければ、施設長が逮捕されるという状況をつくっていただければ、「残業 手当をそれだけ出すぐらいであれば、むしろ人を増やして交替制にしたほうがまだ負担 が少ない」ということで、経営者もそれなりに真剣に交替制を考えてくれると思います。 ただ、先ほど川上委員がおっしゃったように、NICUが10床ぐらいの規模では交替制は 無理ではないかと思います。 ○座長代理 いまのNICUの充実が必要であって、そこの経費を上げるのも、これは私 も全面的に賛成です。この母体の救急を考えるときに、墨東のこともそうでしょうが35 週とか、いま何週ぐらいだというのはわかってきます。だから、NICUがなければこう できないと縛ってしまうと、この動きが非常に取りにくくなってしまうところがあると 思うのです。その辺を少し整理。例えば、我々がやっている救急で妊婦も外傷を受けま す。外傷を受けたときに、NICUがなかったら、そこに運んだら、救命センターへ運ん だらいけないなどと言い出すと、これは全然動けなくなる。外傷といっても少し指を切 った外傷、大きな外傷、交通事故も含めて色々あります。そのときに我々は基本的には、 もちろん小児も胎児というか赤ちゃんも是非とも救命したいわけですが、いままで医学 そのものは、医学医療は一般にまず母体救命が第一であると。その次に胎児。両方助か るといちばんいいのですが、それができないとき、母体をどうしても救命できないとき には、子どもを助けるという原則で動いてきたと思うのです。それはある程度分けて考 えておかないと、いまの妊産婦の救急を考えるときに、もちろんNICUを重視しないと いけないというのは、そのとおりだと思います。しかし、そのことをあまりリジットに すると動きが取りにくいことになる。  もう1点、委員はおっしゃっていましたが、この間私も資料を出しましたが、頭が痛 いお母さんが結構多いのです。痛いだけではなく、意識を失うお母さんもたくさんいら っしゃいます。この間も言いましたように、来てみたら、昔で言えば、ヒステリー的な 発作を起こされる方もいらっしゃる。そういうもの、後でそれがわかって、そうでない ものだけ分けて来いといっても、それは現実には救急医療的なものの見方からすれば無 理です。そういうものも受け入れると決めてしまった以上は、必ずしも重篤ではない、 結果として重篤でない患者も受け入れられないとなりません。先ほど阿真委員とお話し たとき、不安がどうかと私が聞いたのはそこです。不安を解消するという意味合いだっ たら、受け入れざるを得ないと思うのです。受け入れた中で、一方、そういう軽い患者 は早く退院できる、退院というのはほかの病院に移せるというシステムを少し考えたほ うがいいのではないか。その入口を絞ってしまうと、また同じことが起こってしまう気 がするのですが、その辺はいかがですか。 ○田村委員 いまの周産期の搬送システムの中では、赤ちゃんに関しては先ほどのよう に在胎週数とか体重でだいたい重症度を、これだったらすぐうちに入院させなければい けないとか、これだったらあそこでも大丈夫だという評価ができるのです。ところが、 お母さんに関しては、妊娠に伴う母体救急と妊娠と関係のない母体救急について、いま まであまりきちんと分けて評価することを産科の先生方もしてこなかったと思います。 小児科も搬送依頼があったときに、赤ちゃんのことについてはいろいろ評価できたけれ ども、お母さんがどこまで切迫しているかというあたりについては、きちんとした評価 ができないまま、NICUがいっぱいだから受けられませんなどということを産科の先生 に申し上げていたのが現状かと思います。  せっかく今回の懇談会には、救急の先生方が委員の中に入っておられるので、救急の 先生方が得意とするトリアージ、「これは絶対にここに運ばなくてはいけない」とか、 「これはとりあえずまだここまで運ばなくてもこの施設あたりでとどめておいて、そこ でまた必要ならば転送してもらってもいいのではないか」などという考え方を、母体救 急に関してもきちんと入れ、それを産科の関係者にもトレーニングするし、特にコント ロールセンターみたいな所の責任者にはきちんとそういうトリアージができる人を配置 する方法等を、ご教示いただければ、先ほどのような事例もうまく整理ができながら、 子どもにとってもお母さんにとってもベターな方法をを選んでいけるのではないかと思 います。 ○座長 その件に関しては、この間からその状態を整理し、本当に必要な人をそういう 所に送るのだと、そのためのガイドライン的なものをつくろうではないかという話にな っています。委員がご懸念されることはよく分かるのですが、いまの時点で本当に重症 の人は、NICUは満床であっても受ける体制を取らざるを得ないのではないかと思いま す。そこに軽症の人が来て、またNICUが満床になってということのご懸念は分かるの です。そこでその懸念が起こらないようにいいガイドラインをつくらないといけない。 これは相当練らないといけないところだと思います。 ○戸井田大臣政務官 いま委員のお話を聞いていたら、少子化にもかかわらず低出生体 重児、超低出生体重児が増加していると。この原因は何ですか。 ○田村委員 これは先ほど岡井座長がおっしゃいましたが、多々の理由があります。1 つはお母さんの出産年齢が上がってきていますし。 ○戸井田大臣政務官 結局そうなってくると、高齢出産などが原因だとしたら、一般の 人にもう少し早く結婚をして早く子どもを産むと。根本原因はそういうところにあるの ではないですか。それが伝わっていかないと、高齢出産が増えていけば、当然こういう 危険なことが増えるのは当たり前のことではないですか。 ○田村委員 高齢出産の危険性については、もちろん産科の先生方からいろいろ啓発し ていただくことは大事だと思います。先ほど岡井座長がおっしゃいました、不妊治療の 結果として双児、三つ児、いわゆる多胎が増えているのです。双児、三つ児の場合、周 産期死亡率、つまり赤ちゃんが死産したり新生児期に亡くなる率が5倍にはね上がりま す。そういう赤ちゃんがNICUに入る率は10〜20倍にはね上がります。少なくとも不妊 治療で受精卵を戻すときには必ず1つしか戻さないようにしていただきたい。これは日 本産婦人科学会ではっきり提言しているのです。それにもかかわらず、三つ児、四つ児 でやって来る人がNICUに入院するケースがあとをたちません。ということは、現実に は学会の提言が守られてない可能性があるわけです。 ○座長 体外受精ではなくて排卵誘発剤では多胎ができてしまうことがあるのです。 ○田村委員 政務官がおっしゃるいろいろな啓発活動は、意味があると思います。ただ、 高齢出産をやめなさいということは、それは我々の口からは言えないです、行政から言 っていただかないと。 ○岡井座長 行政も言えないでしょう。 ○田村委員 やめなさいということではなくて。 ○__ リスクを伝えることですよね。 ○戸井田大臣政務官 そのリスクを伝えることが大事で、みんな高齢出産でも簡単に産 めるのだみたいな意識で来て、結果的にそういうことになって、話が違うではないかと いうのは、一般の素人考えです。そこらをきちんと啓蒙していくことは、私は非常に大 事なことだと思います。 ○横田委員 田村委員のご発表について、少し関連して質問を兼ねてお話をします。私 どもの病院も例に違わず小児科医の不足のために、小児救急を取るかNICUを取るかで、 現在、NICUを一時閉鎖している病院の典型的な例の施設です。そういう意味において 聞きたいのは、1つは、いわゆるNICUを専従にする新生児科医、小児科の先生の専門 性と、通常の小児の診療をなさる先生との仕事の持ち分といいますか、あるいはお1人 でもNも診られるし小児もやるということか、その辺をお聞きしたいのですが。 ○田村委員 いま日本周産期新生児医学会では、専門医制度を始めています。全国で必 要な新生児の専門医を最低でも1,500人を見積もり、最終的には2,000人ぐらいはつく り出さなくてはいけないのではないかと思っています。この専門医に関しては、1,000g 未満の赤ちゃんもきちんと診られることが専門性の大事な要件になると思います。一般 小児科の先生でも、1,500g以上の赤ちゃんではあれば、ほかの合併症がなくて、小さい だけということであれば、十分対応できるのではないかと思います。 ○横田委員 なぜこういう質問をしたかといいますと、我々の所は総合周産期医療では なくて、地域周産期医療程度、二次程度のものということで、小児科の先生が掛け持ち でやっていた現状がありましたが、勤務が苛酷、人が少ない、どちらを選ぶかというこ とで周産期を閉じたわけです。そうすると、今度は産科の問題が出てきます。以下連動 していきます。先ほど麻酔科医の話もありましたが、非常に平均的な病院で何が起こっ ているかというと、一つ一つのコマが少しずつ全部欠けてしまって、なかなかうまく対 応できないのが実態になっています。  実は母体緊急の話を前回お話したときに、救命救急センターのような所に入ってくる のは、それこそ生死の危ぶまれる患者がごそっと来るのでわかりやすいのですが、一般 病院で非常によく見かけるのが、わりに軽症から発症する、例えば肺塞栓症であったり、 マイナーな形の脳血管障害です。最初は各診療科の先生が診ていられるのですが、結果 として重症化しなければ自分たちの病院の中でこなすことができるのですが、そのとき に「いま、うちは周産期のベッドは閉じているよ」ということになってくると、今度は 探さなくてはいけない。そうしたときに先ほど来の話ですが、どの時点で、どのぐらい のレベルになれば、総合周産期医療センターに声をかければいけるのかという問題が、 医療界の中で進めておかないといけないのかがあります。 ○座長 今後したいと思います。 ○池田委員 田村委員、高次のNICUといま阿真委員が言われた地域の小児科の先生、 この関係について教えていただきたいのですが。といいますのは、委員が冒頭に言われ た2007年、非常に妊産婦死亡が半減したわけですが、それは産科の先生がハイリスク妊 娠を高次の施設に移したことが大きな原因だと思っています。しかし、阿真委員も言わ れたように、日本の場合は近くの先生、開業医の所へ行きたいのがありますので、統計 から見ると開業医の所でお産される率が毎年のようにどんどん増えています。そういっ た所で高次と一次、開業医、一次を大事にしながら高次に行くところを、動的に患者も 動く、医師も動く、そういったところの行政の垣根を取っていただきたいというのが産 科の立場です。一方、私たちがNICUで子どもを退院させ、フォローアップをしていた だいたときに、地域の小児科の開業医は、これは未熟児というか「超低出生体重児なの で診られない」とおっしゃることがあるのです。そうなってくると、フォローアップと いう業務がどんどんNICU、高次の施設でたまってきて、ただでさえNICUで忙しいの にフォローアップも見なければいけない。現在、どれぐらいの率で高次と開業医との関 係が結ばれているのかを教えていただきたいと思います。 ○田村委員 フォローアップは、これは逆に一次ということではなくてむしろ高次の医 療行為の1つだと私は思います。つまり、超低出生体重児の場合は、外見から明らかな 脳性麻痺や知恵遅れだけではなく、注意欠陥多動症や自閉傾向、そういう微細な行動の 異常が、学齢期に成績がなかなか上がらないなどのことにつながったりすることがあり ます。それを見逃さずにフォローアップする為には、1,000g未満の超低出生体重児に限 っては、必ずしも新生児科医とは限らなくて、小児科の中でも小児神経の専門の先生な らいいと思うのですが、それを専門とする方が診るべきだと思います。超低出生体重児 であるからといって、退院してから夜中に熱が出た、急に下痢を起こしたというときに、 総合周産期センターに全部来なくてはいけないかというと、そのようなことは決してな くて、一次救急に関しては基本的に一次施設で診ていただくので十分です。何か特殊な 病気があるのではないかというときだけまたセンター病院の方へ逆紹介していただくと いう形で役割分担をすればいいのではないかと思います。 ○池田委員 そこのところは、まだインプルーブメントする余地が小児科サイドにはあ るように思うのです。特にこの会議のポイントは、短期的にどのようなインプルーブメ ントができるかというところだと思います。産科の場合は自発的といったら何ですが、 一次という所、開業医は産科の場合は非常に大事にし、そして二次、三次という所。患 者の動き、動的な集約化といいますか、そこにポイントがあるように思い、コメントし ました。 ○座長 司会の不手際でまた時間をオーバーしていますが、10分ほど延長します。よろ しくお願いします。藤村委員から新生児医療に関して追加発言をお願いします。 ○藤村委員 田村委員の述べられたことに尽きるのですが、それをまとめたいと思うの です。結局、NICUに受け入れる能力をいかに増やすかは、喫緊の課題だと思うのです。 医師がいないことがはっきりしています。私が前回提出した資料の263頁に図が2つあ りますが、下の棒グラフを見ていただくと、横軸が「新生児専任医師数」となっていま す。我が国の実態は、1つのNICUで新生児専任医師が1人、2人、3人、4人というと ころでほとんど7割ぐらい占めているわけです。この人たちに「1週間、夜中も勤務を しなさい」と言っているわけです。この分布を変えない限り、構造的に医師の勤務環境 は改善しないのです。日本小児科学会でも提案しているのは、こういうセンターは二次 医療圏に1カ所程度にしかできない。ですから、人口30万ないし50万人に1カ所の地 域周産期母子医療センターとなります。「総合周産期母子医療センターが100万人に1 カ所」と書いてありますが、それは完全に高望みです。総合周産期母子の内容をやろう とすれば、300万人に1カ所ぐらいしかできないです。このグラフの分布を、少なくと も施設あたり7人程度にピークが来るようなNICUにつくり替えていかないといけない。 それで私は前回提案したのですが、都道府県知事から提案を求めるしかない。いまは地 域周産期母子として各県が、「うちはこれだけある」と数で誇るように指定しているの が実態で、それが厚労省へ報告として上がっていく。内訳を見ると、医師は1人、2人 などです。こういうのをいくら指定しても、また勤務環境が悪くなって医師が離れてい くわけです。いま、もっと問題の本質を見つめ、知事が本当の最低限の核になるNICU をつくろうと努めるべきです。それが動き出すと、いまの麻酔科、産科の方々と一緒に 拠点ができると思います。それがいま申し上げた医師の勤務環境と集約化です。医療機 関の集約化は、外来機能があるからいろいろ議論があるのですが、幸いNICUは外来が ありません。どこに入院するかを医療機関で采配したらいいわけです。是非その点を検 討いただけたらと思います。 ○座長 前回からご出席いただいている木下委員は大学教授も務められましたし、日本 医師会の立場でもご発言いただけると思いますので、よろしくお願いします。 ○木下委員 本来、これは母体救急のことが中心かなということで資料を持ってまいり ましたが、それに関して、埼玉医大の総合周産期母子医療センターと地域周産期センタ ーとしての順天堂大学の表をベースにして、本来こうあってほしいということをお話し たいと思います。  ここに書いてあるとおり平成10年に創設したわけです。実はそのときに田村委員の先 代の小川雄之助さんは新生児部門の専門でありましたから、どうしても総合周産期をつ くろうと。そのときの背景は何だったかというと、とにかく埼玉に赴任して5、6年経ち 非常に気になったことは、母体死亡が多いと。実はその前に経験したことはなかったの ですが、数例の経験をしました。大体、肺塞栓や出血が主だったのですが、これは何と か母体救急を中心に、通常、総合周産期センターとするといままでは新生児・未熟児中 心のセンターでありましたが、どうしても母体救急をしたいということから、非常に膨 大なMFICUは15床、後方ベッド31床、新生児も入れると90床のセンターにしようと いうことで認可を受けたわけです。  創立の理念としては、とにかく「母体救急は絶対に断るな」という姿勢で、ニーズは 少なかったのですが、とにかく断るなということでやってまいりました。大体、救急部 門は、妊産婦の場合にはまず受けてくれないのです。必ず産科へ行きなさいということ でまず受けてくれない。そうなると、産科で受けざるを得ないということから、こうす るためにどうしても産科救急部門を充実させなくてはいけない。そのためには産科麻酔 科医がどうしても欲しいのだと。そこで、日本に1人しかおられなかったのですが、実 はあえて照井先生に「産科麻酔科医にどうしても来てほしい」と、三顧の礼を尽くして 来ていただいたという経緯があり、今日に至ったわけです。  彼に言ったことは、「産科麻酔科教室をつくってくれ」と。大体、欧米の周産期セン ターでは、ほとんどが産科麻酔専門医を持っています。そういったことに対して関心を 持たないのは、我が国だけです。これはまたおかしな話で、将来のことを考えますと、 当然、産科のこういったセンターには産科麻酔専門医がいるのが当たり前になってもら いたいということ。今回、とにかく私たちは照井先生に来ていただいて今日に至ったわ けです。  新生児部門は、田村先生の前の小川先生以来ずっとやってまいりまして、今日、問題 点をいろいろご指摘いただいたとおりです。そういった場所は単に受けるだけではなく、 そもそも大学病院は最近では周産期はできない環境できていますので、「大学の教育の ために2、3人でもいいから周産期を専門にする人たちを派遣してほしい」ということで 大学と交渉し、2、3大学から喜んで出していただいた経緯があります。現在は1,000近 くの分娩をやっており、麻酔の帝王切開術が何と60%、正常分娩が約40%しかいないの だという状況です。  問題点は何かというと、先ほど来ずっとお話で重複しますが、とにかく埼玉県内で救 急を受け取るのは40%しかない。60%は東京に持っていかざるを得ない状況ですので、 県をまたいだ連携体制をどうしても構築してほしいのが現状です。  もう1つは空ベッドがない。その背景としては、どうしても正常分娩を取らなくては いけない。総合周産期センターで正常妊娠・正常分娩をどのような位置づけにするかは 非常に大事であります。ところが、背景としては、実は病院の経営的な立場からすると、 正常分娩は取らざるを得ないのです。したがって、非常に重症な患者を取るよりは、正 常分娩を取るほうがずっといいわけですから、「ベッドは絶対に空けるな」というのは 大学病院・大病院の基本的な姿勢です。そういうことも、このようなベッドがないこと の背景にあります。  再三言われている産婦人科医・小児科医・麻酔科医の不足はどうしようもないことで すが、何としても産婦人科だけで言うならば、入局はとにかく女性が60〜70%です。そ うすると、実は妊娠・分娩を済ませたあとはまず使いものにならないのが失礼な言い方 ですが、本当に常勤できない、当直できないのが実態です。そうすると、どういうこと になるかと言うと、5年、10年先にはもっと減るわけであり、ここでどうするのかと。 いまでもこのような議論をしていますが、5年、10年先はもっとひどくなることは目に 見えているわけです。  そうすると、これは大変問題が大きなことだと思いますが、小児科・麻酔科・産科な ど非常に少ない科は、全体としてある診療科には最低何人必要だということが必ず出て くると思うのです。いまそれに手を付けてない。本当はその辺もどうしても考えざるを 得ない。これをしない限りは絶対に産科医は増えない。これは目に見えている話です。 背景のみ、それを縛ることは、いまの日本の医師の間ではなかなか難しい問題ですが、 本当に解決させるならそこまで考えて政策として出していかないと、これはなかなかう まく行かないのではないかという感じがします。これがいまは総合周産期の問題です。  移りまして順天堂大学に参りましたところが、そこはスペースが狭いために総合が取 れない。そこで、地域の周産期センターとしての位置づけですが、産科ベッドはわずか 24床しかありません。4頁に24床の中で平成19年度は818件、平成20年度は11月19 日までで776件、つまり大学病院で正常分娩は57%やっている。それが実態です。それ はどういうことかと言うと、この前順天堂大学は墨東から搬送依頼が来ました。でも断 ったのです。「なぜ断ったのだ」と言いましたら、「とにかく新生児ベッド・救急ベッ ドすべてが駄目だ。どうにも断らざるを得なかったので断った」と言っていました。姿 勢としては、とにかく取れということを言っていたのですが、現状では無理だと。  なぜ、そういったことをなくすことができるかと相談したところ、少なくとも現状で は病院の姿勢として正常分娩は取らざるを得ない環境にある、ベッドは絶対に空けてお くわけにはいかない。そういうことから最低1つ、2つの空床ベッド補償でもしていた だくのなら、これは何とかできるかもしれない。それが1大学だけではありません。そ れだけのことができる総合のすべての診療科を持っている所で周産期をやっている所で は、必ずしも総合周産期センターではなくてもいいわけです。おそらくこういった、こ の前の事例などは大学病院でなくてはおそらく取れないと思います。というところでは、 いまのことの背景として、空床ベッドは必ず確保するという何か体制でもつくっていた だきたいということが、現場の教授たちと話したことです。  4頁の下ですが、母体搬送は実はずっと断ってきている。上のほうの黒い所が断って いるリストですが、大体、受け入れ率が何と20%しかないのです。実際、今年以前、2007 年でも20%しか受け取ってない。なぜかと言うとその理由は、NICUが満床であったこ とが大体60%、産科病床が40%です。何と言っても新生児が問題です。ただ、あちこち 探しまくり、どうしようもないときは取ることを原則にしていますが、実態はこういう ことです。その背景は、現実的な解決策は何かというと、これは空床ベッドも確保する のだ、何施設かで空床ベッドを確保することになれば、ここが駄目だったら次の所へ行 くということで、とにかく取るのだということがない限りは絶対無理であり、取る限り においては、いままでも話があったように、どこかの科と相談する体制さえできていれ ばやるのです。そのようなことは決して難しいことではない。取るか取らないかがすべ てであります。  もう1つはドクターの件です。通常、大学では2名の産科当直医がおり、病棟責任者 必ずオンコールですから、重症例は必ず来るのだと。それは我々もしょっちゅう呼ばれ ましたが、そのぐらいの姿勢でいかない限りは絶対無理です。ここに書いてあるとおり、 空床補償を盛んに言っていました。  まとめとしてはいろいろなことを言っていましたが、各地域によって状況は違います。 6頁は、各地域に応じたこういった体制の検討が必要であるということ。7頁の(2)です が、いままで救急部はとにかく妊婦は取りませんでした。しかしながら、そこでとにか く受けたら産科医が行っていいから診るということで、あまり毛嫌いせずにやっていた だきたいということがあります、いまは違うかもしれませんが。 ○有賀委員 もともと産科の先生がものすごくパワフルだったのです。だから、「電話 が来たらすぐ俺の所へ回せ。救急部は素通りしろ」と。 ○木下委員 命に係ることはそのぐらい先生方にお願いせざるを得ないところはありま すからね。 ○有賀委員 でも産科の先生方がそうだったのです。日本の救急医療から産科がそうい う意味で少し抜けたのです。 ○木下委員 これからもその辺は是非よろしくお願いします。あと、総合周産期センタ ーはたしか大臣がおっしゃっていたとおり、総合の科が持っている所のほうが望ましい のですが、すでに起こっている所ではどこかの病院と提携する必要があるし、これから とすればそういう所に付くのは望ましいことは当然です。それは産科に特化した医療だ けではなくて、他科との関係において救急手段で起こるわけですから、それはそのほう が望ましいということです。  もう1つ、先ほど来お話がありましたように重症になりますと、例えば新生児の所も そうですが、ずっと何箇月も何年もいなくてはいけないということが起こり、ベッドは それで埋まってしまう。したがって、それはどうしても救急の後方ベッドをきちんとし ていただきたい、ということが大きな課題です。  情報システムとして、いま実態としてはどこか病院にドクター、例えば我々の所に話 が来て、どこかに行くといっぱいだから紹介しようといったときに、若いドクターは大 体1時間、2時間かけまくらなくてはいけないのが実状で、これは非常に無駄ですから、 何かそういったことになったときには、ちゃんと係りがいる形のことも必要かと考えて います。  女性医師のことは先ほども申し上げたとおりです。あと、最初、どなたかがおっしゃ ったか、大野委員でしたか、いま総合周産期のことばかり言っていますが、正常分娩を 受けるほうの診療所は実は大事にしていただきたい。そのための配慮は是非していただ きたい。それは、よく診療所には助産師などは行かないというのではなく、助産師協会 もそうですが、どうやったら診療所に行けるようにする、させられるか。みんな助産師 を待っていますので、診療所でも正常分娩を安心して受けられるのだという体制のため の協力は、是非してもらいたいという気はします。  表現のことはいいとして、ポイントは、現実的にどうするかといったときに、我々は 絶対に受けるのだということと、ベッドを確保するためにどうするかと。医師が足りな いのだったら、1人だったら無理かもしれませんが、オンコール体制をつくって、何か あったらすぐ飛んでいくのだという体制を敷くのだという心意気もある程度。システム も大事ですが、現状ではそういったところまで求めざるを得ないという気がしますので、 少し言い過ぎた部分はありますが以上です。 ○座長 いまの木下委員のご発言に特にこの点は確認したいとかいうことがありました ら、お願いします。 ○有賀委員 途中で不規則発言をして申し訳ありませんでした。産科の先生方が歴史的 にものすごくパワフルにお産またはお産に関係する急性期の部分で面倒を見てくださっ たことは、全く事実だと思います。前の病院の話をしましたが、私はとにかく救急部長 をやっても、「産科については電話は全部聞かなくていい。産科だったら俺の泊ってい る部屋にすぐ電話を回せ」という感じです。そういう意味では、ものすごく産科の先生 方のモラールが高いというか士気が高い。そういう部分に支えられてきたことは全く間 違いないと思うのです。それでもって私ら救命救急センターでずっと頑張っている人も 「そんなものかな」と。いまこれから質問したいのは、もし救命救急センターにお腹の 大きな患者が運ばれてくるという状況になったときに、全国の産科の先生方は「そんな ものだな」と思ってくださるのですよね。 ○木下委員 その趣旨は、救急に運ばれるということは、それなりの症状がバイタルの 点でも非常に問題があるケースだと思うのです。そういう方が産科に来れば、安心して 先生方がご覧になるようなこととして見えるかというと、見えないのです。照井先生が いてくれたお陰で、産科の救急は積極的にやるのだという所では、ヘルツが止まっても 助けてくださいました。そういったことはおそらく普通の所はできないと思います。そ の意味では、第一に救急に行っていただいて一般的な救命措置をしていただいた段階で、 産科の問題であるならば我々医師も喜んで参りますし、一緒になってやらなくてはいけ ないと思いますので、まず喜んで受け取っていただきたいのが第一です。妊産婦ですと、 当然、産科のほうが得意だと思いますので行って、一緒になって診させていただきたい。 窓口としては、それが可能であるならばお願いしたいと思います。 ○有賀委員 分かりました。私と岡井座長の関係でいけば、おそらく明日からでも行け るのではないかという気がします。ただ、全国的にどうかと思った。もう1つは、先ほ ど2時間もかけて一生懸命探しておられるという話があったではないですか。情報のネ ットワークのルーツが随分違いますので、そこら辺も上手にコラボレートさせていけば、 木下委員がおっしゃるように、産科の先生方がその気になってさえくだされば行けるの ではないかと。 ○木下委員 それは非常にありがたい言葉です。我々は、岡井座長を中心に考えていた だけると思いますが、周産期のいまの視点で救急の場面、救急の先生方とどううまくコ ラボレーションするか、これは是非お願いしたいと思います。 ○座長 まだまだ議論はあると思うのですが、回はあと2回ぐらい予定を考えていいと 思います。今日、議論し尽くせなかった点も含めて、次回は少し長期的な視野に立って、 集中化の問題、勤務環境の改善の問題等を中心にディスカッションしたいと思います。 どうしても今日のこの会でもう一言言っておきたいという委員の方は、いらっしゃいま すか。大臣に最後、締めの言葉をいただき、事務から事務連絡をいただき、この会を終 わりたいと思います。 ○厚生労働大臣 時間も経過していますので、私もいろいろ質問したいのですが、問題 提起だけをしておきたいと思います。麻酔科についてですが、例えば照井先生が1週間 に1日時間を取っていただいて、そういう麻酔科医が20〜30人いて、遊撃隊みたいな、 派遣隊みたいなものをつくって、緊急車に乗って、その方は患者がいないわけですから、 どこへ行けと言ったら30分以内に行ける所に全部飛んでいくというシステムは考えら れないか。素人考えかもしれないですが、例えばそういうことはどうか。そうしたら常 駐してなくても30分以内で助かるのだったら、そういう派遣部隊みたいなものをみんな で分担し、宿直代わりに派遣部隊で、昭和大にいないから閉鎖するから来いと言ったら、 パーッと30分以内にサイレンを鳴らしながら来れば助かるのではないか、というのが1 つ。  今日例えば空きベッドを補償しろとか、いろいろな提案がありましたが、全部基本的 に診療報酬体系で片づけるしかない。すると、中医協を開き、そこで話をし、悠長な話 になりかねない。悠長にといったら悪いのですが、慎重さはあるかもしれないけれども。 そうすると、例えばこの前直接的、財政的な措置で救急医に対して1件いくらと出しま したが、いまの形の診療報酬体系を通じてしか変えられないという政策システムでいい のかという感じを前からしています。また、これは大議論になると思いますが新生児が 少ないと前から思っていました。しかし、普通の小児科医も大変だけれども、処遇に差 を付けるとすると、それは診療報酬で病院に対してかかるのを分けるしかないでしょう。 そうでなくて、ホスピタル・フィーとともにドクター・フィーという概念を入れること はいいのか悪いのか。アメリカなどは当然ですが、そうしないで診療科の偏在はホスピ タル・フィーを通じてしか変えられないのならば、なかなか小児科医にならないのでは ないかというのを、私は全く厚生労働族でも何でもないので、予備的な知識もないから 素人考えで言っているかもしれないのですが、そういう疑問を常に思っています。これ は直接この会の話題ではないですが、長期的な課題としてそういうことも考えないとい けない時期に来ています。12月を目途にまとめて、いつ実現するのですとなると、直接 予算を分捕ってくることは可能です。だけど、必ず中医協で議論するとなれば、そこで 答が出ないときはどうするのかという疑問があるということを、大臣として呈しておき たいと思います。 ○木下委員 先ほどの空きベッドの件は結構です。千葉などは千葉の県のレベルで、地 域レベルでやっており、東京は特殊かもしれませんが、あれだけオリンピックの誘致に 必要な額を出しているということはありますから、東京都とかある地域によっては、中 医協レベルではない話としてできないかということが現実的な考えです。 ○厚生労働大臣 最近、双方の時間がなくてできていませんが、私は知事会と大臣との 直接の協議の場を設けていますので、この前開く予定だったのが政局でうまくいかなか ったのですが、次回開かれるときにはこのことは必ずお話をしておきたいと思います。 ○座長 事務から連絡がありましたらお願いします。 ○指導課長 次回のこの会の予定は、12月8日(月)18時から専用第21会議室を予定 していますので、ご承知おきいただければと思います。どうもありがとうございました。 ○座長 どうもありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省医政局指導課 課長補佐  中谷 (代)03-5253-1111(内線2554)