08/11/10 第16回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録   第16回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会   議事次第   ○ 日時  平成20年11月10日(月)16:00〜18:00   ○ 場所   厚生労働省 省議室(9階)   ○ 出席者    【委員】   前田座長           鮎澤委員 加藤委員 木下委員 児玉委員 堺委員 辻本委員           豊田委員 永池委員 樋口委員 南委員 山口委員    【参考人】 徳田 禎久 参考人(全日本病院協会常任理事)          嘉山 孝正 参考人(全国医学部長病院長会議 大学病院の医療事故対策                   に関する委員会委員長、山形大学医学部長)          宮脇 正和 参考人(医療過誤原告の会会長)   【議題】     1.第三次試案及び大綱案に関するヒアリングについて     2.その他   【配布資料】     資 料 1  全日本病院協会 徳田参考人提出資料     資料 2-1  全国医学部長病院長会議 嘉山参考人提出資料 (I)     資料 2-2   〃 (II)     資料 2-3   〃 (III)     資料 2-4   〃 (IV)     資料 2-5   〃 (V)     資料 2-6   〃 (VI)     資 料 3  医療過誤原告の会 宮脇参考人提出資料     資 料 4  「第三次試案」及び「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱           案」の地域説明会の開催予定     参考資料1 医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案     参考資料1(別添)医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・              再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−     参考資料2 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・           再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」及び「医           療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に寄せられた主な           御意見と現時点における厚生労働省の考え ○医療安全推進室長(佐原)  定刻になりましたので、「第16回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り 方に関する検討会」を開催します。委員の皆様方におかれましてはご多用の折、ご出 席をいただき、誠にありがとうございます。  初めに、本日の委員の出欠状況等についてご報告をします。本日は高本委員、山本 委員よりご欠席との連絡をいただいています。また、南委員は17時30分ごろに退席 されるとお伺いしています。  次に、お手元の配付資料の確認をお願いします。議事次第、座席表、委員名簿のほ かに、資料1「全日本病院協会徳田参考人提出資料」、資料2-1から資料2-6「全国医 学部長病院長会議嘉山参考人提出資料」、資料3「医療過誤原告の会宮脇参考人提出資 料」、それと宮脇参考人の追加資料として、「第三次試案についての具体的意見」と題 された1枚紙を配付しています。資料4「第三次試案及び大綱案の地域説明会の開催 予定」、参考資料1大綱案、参考資料1の別添として第三次試案、参考資料2として 厚労省における現時点の考え方をお配りしています。以上ですが、資料の欠落等があ りましたらご指摘いただきますようお願いします。それでは以降の議事進行について は前田座長、よろしくお願いします。 ○前田座長  本日も大変お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。それでは 議事に入ります。  前回のこの検討会において、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会、日本救急医学 会の3学会からご意見を頂戴しまして、委員の皆様と議論をしました。今回は全日本 病院協会、全国医学部長病院長会議、医療過誤原告の会の3団体からご意見を頂戴し たいと思っています。本日は参考人として、全日本病院協会の常任理事の徳田禎久先 生、全国医学部長病院長会議の大学病院の医療事故対策に関する委員会委員長の嘉山 孝正先生、医療過誤原告の会会長の宮脇正和先生にお越しいただいています。  早速ヒアリングに入ります。進行の仕方ですが、最初に3人の参考人から順に意見 表明をいただきまして、そのあと委員の皆様からご質問、ご意見をいただき、議論を してまいりたいと思います。まずは、全日本病院協会の徳田先生よろしくお願いしま す。 ○徳田参考人(全日本病院協会)  全日本病院協会の徳田と申します。私どもの協会のこの試案に関する見解をお話し ます。  まず、私どもはこの検討会ができましたことに関して、またその中でご議論をたく さんいただいたことに関して感謝を申し上げたいと存じます。非常に高く評価してい ます。多くの医療関係者が、医療事故に関する被害者の方々の生の声を知るチャンス が生まれましたし、ご要望も知ることができました。法律家の方々の物の捉え方も知 ることができました。賛否は別としましても、関係者の方々がいろいろな観点から議 論をする機会になったということは、今後の医療安全という取組みにも大いに寄与し たものと考えています。以下、私どもの協会の見解を資料に従ってお話を申し上げた いと存じます。  基本的に私どもの協会では、この試案に関してはいろいろな問題点があると考えて います。第1に、委員会の名称ですが、この検討会の議事録を見せていただくと、あ まり議論はされていなかったように思います。そのうち、いつの間にか自民党案の記 載であります「医療安全調査委員会」という名称に変えられていまして、基本的にこ の委員会の設置目的あるいは試案の内容との間に、微妙にずれがあると考えている次 第です。実際に、第8回の検討会の中で、加藤委員から医療安全中央委員会という名 称が出ました。山口委員が賛成の意見を述べられていますが、座長はこの際に、大き な問題ということを取り上げるとなると、なかなか大変なことになるというお話がな されていまして、その後この名称そのものに関する議論はなかったように思われます。 私どもは「医療安全」という名前が付く以上は、医療安全に関してたくさんの議論を していただきたかったというところが率直な考え方です。また、自民党案が急に出て きてしまって、そのあとその名称が引き続いたことに関しても、大変遺憾というか、 もう少し検討していただきたかったと思うわけです。  次に、委員会の設置の意義についてです。私どもは「医療事故調査委員会」という か、最初に言われた名称がかなり適当ではないかと考えていますが、この検討会の議 事録をまとめて読んでみますと、こういうことが必要とされた大きな理由として、医 療提供者の不満としては、医師法第21条の異状死を、診療における予期しない死亡 にまで拡大をしたという解釈に対して問題点があろうかということと、これに関連す る刑事訴追の問題があるのだと思います。また患者あるいはご家族の疑問、不信、不 満としては、医療事故の事例に対しての説明責任や情報の開示というものを怠ってい る医療機関があること、また、その後の医療機関の対応に重大な問題があると考えて いるからだろうと思います。ですから、これらの信頼回復のためにも医療事故死をど う調査し、結果をどう扱うべきかを考えることにあったと理解をしています。  医療安全に必要なことは、委員の方々は当然お知りのことだと思いますが、私ども は当事者及び医療機関というものは、ヒヤリ・ハットから死亡事故まで包み隠さず報 告をすることが第一で、ものすごく大事だと感じています。次に、収集された情報を 基に分析をし、その全容を速やかに明らかにする。再発防止に役立てるのだというこ とです。また、この情報を医療機関内外で共有する。共有をした上で、再発防止に役 立てるとともに、日頃の職員等の教育にも利用することだろうと思っています。こう いう原則に基づきまして関係者それぞれが努力をして、その内容を国民の方々に周知 していただいていたなら、医療関係者と患者あるいはご家族との信頼関係が、ここま で損なわれることはなかったと思っています。  しかしながら、現状の医療機関における状況は、残念ながらすべての医療機関の医 療安全に関する取組みが同じレベルにあるとは思っていませんし、患者やご家族の不 満の解消に至っていないこともあるだろうと感じています。その主な原因というのは、 各施設の意識の相違であったり、医療提供者が患者やご家族に診療内容や医療安全に 関する種々の情報をわかりやすく説明し、信頼関係を構築するような努力を十分に行 ってこなかったことにあろうかと思います。もう1つは、医療行政として医療安全に 関する問題ですが、これまでは実効性に乏しい形式的な取組みに終わってきたのでは ないかと思うわけです。  このような状況の中で全日病は、医療安全について、どんなことを考えてきたかと いうことに若干触れたいと思います。皆様方のお手元に私どもの「病院のあり方に関 する報告書2007年版」というものをお配りしていますが、その8〜11頁の「病院の 基本的あり方」という章の中に、医療安全の確保を記しています。少しその内容に触 れます。世界の潮流である中立的第三者機関への報告義務制度の確立、収集事例に対 する専門家による分析と、事故再発防止策などの成果の還元が必要であること。それ からADR、裁判外医療紛争処理制度と無過失補償を含む、被害者の方々への救済のた めの制度が必要であること。さらには、医療事故の当事者への精神的な責任、その他 に対する支援が必要である。これらの3つが大変不可欠であると主張してまいりまし た。同時に、私どもは協会として、可能な取組みとして医療安全に関する管理者の養 成講習とか、医療の質の向上へ向けた講演会、シンポジウムなどをこの数年行ってい ます。  今日の混乱あるいは責任の一端というのは、先ほど来説明していますように、説明 責任あるいは情報開示を十分にはしてこなかった私ども医療提供者側にあって、国民 の立場に立った医療提供を推進する立場にある私ども全日病をはじめとする医療団 体の取組みが不徹底であったということも認めざるを得ないと思います。  しかしながら最大のポイントは、医療安全に関する国の姿勢にあるのではないかと 思うわけです。国は、医療安全を医療提供に関わる最重要課題と捉えるとすれば、医 療従事者が安心をして良質な医療を提供できるような医療制度の構築、すなわち個人 や個々の医療機関の過重な負担や努力に期待するだけではなくて、制度としてそれを 作り上げる必要があるだろうと考えるわけです。医師や看護師のみならず、医療関係 の専門職の養成においても十分な時間が確保されて、医療安全に関する講習が実施さ れなければならないでしょう。また、各疾患の標準的な診療の確立と実施、診療行為 が十分把握できるような診療記録の作成。私どもは、これは電子化が最適だと考えて いますが、診療結果を評価する仕組みを構築することが必要であります。また、すべ ての医療機関で起こった医療事故に関わる事象を収集・検討し、還元する仕組みを確 立することです。また、医療安全に関する情報の徹底した共有を図るための情報提供 と、各施設での対応を確認する仕組みを構築することなどの強力な施策というものを 推し進めるべきであろうと考えます。しかしながら、現在のところ国は法律に医療安 全の義務を盛り込み、ガイドラインなどの提示を行っているものの、安全確保のため の資源確保は担保していません。日常的に行われるべきその実践は、ほとんど各施設 あるいは関係団体の取組みに依存していると言わざるを得ません。そのような観点に 立って、私どもが試案に対してどういう考えを持っているかをお話申し上げます。  「医療安全」に関してこのような見解を持っている全日病としては、今回あえて言 わせていただく「医療事故調査委員会」の真の目的というのが、試案や大綱に示され ている原因究明と再発防止ならば、新しい組織の設立は無用で、現存する日本医療機 能評価機構の中の医療事故情報収集等事業の組織強化で、十分行われるはずと考えて います。しかしながら、この検討会の議事録を見る限り、この点について十分な議論 が行われていないと思われます。断片的に日本医療機能評価機構の事業との関連が出 ていましたが、医療安全全体からみた、あるいは事故死の視点から十分語られたとは 思われないと判断しています。いちばん問題視されている事故死を取り上げるために、 第三者機関を作り上げたいとするような国の意向を陰に感ずるわけです。それは、検 討会設置の真意というのが、座長が何度か検討会やマスコミで発言をされていますよ うに、「法的責任追求」に活用することを目的にしているように感じざるを得ないか らです。  医療事故の多くは、ご存じのように複雑な医療システムの中で生じ、個人の責任追 求では事故を減らすことはできません。システム的なアプローチが必要でありますし、 医療安全の第一歩は免責・守秘等の条件下で、すべての事象が詳細に報告されること に始まるという世界の潮流に原則的に立っていると考えます。しかし、この点につい ても議論の内容を見せていただきましたが、十分議論をされているとは思われません ので、患者やご家族の立場に立ってということで、どちらかというと刑罰という手段 により、医療事故事例の報告制度確立を図ろうとも見受けられます。したがって、こ のような委員会が取りまとめられた試案に対しては、反対せざるを得ないということ です。もちろん、刑事には謙抑的にとか、処分では教育指導を行うなどと、刑罰その ものを弱めようとする議論が行われていました。しかし、捜査当局や医道審に報告書 を利用しながら通知をするということは、その責任追求を判断したというふうに考え るしか言い様がありません。  失礼があればお詫びをしたいと存じますが、医療安全を大きな眼目として検討した と言われますが、この検討会には、鮎澤委員を除き、医療安全を主たるお仕事として いる最高レベルの専門家や研究者が入っていないと感じています。法律専門家が多い 検討会の委員構成に問題があったのではないかと思うわけです。医療安全の専門家が 複数入っていれば、原則的な議論は必ず行われたと確信をしています。医療事故の発 生後に責任の所在、賠償を議論する法の論理と、加齢・疾病など、しばしば抗し難い 制約条件の下において不十分な情報の下で治療を試みる医療では、論理が異なるとい うことは以前から指摘されています。重ねて申し上げたいことですが、医療安全に精 通しているはずの委員もいらっしゃる中で、医療安全の原則との関係で事故死の位置 づけがほとんど議論されてこなかったように思われるのは、大変残念だと思っている 次第です。法的責任追求の目的であるならば、それは「医療事故死処罰委員会」とで も名称を変えられて、現行の法律、刑事訴訟法で定められた人権保護の条項を逸脱し ない範囲で、どのような事故を処罰すべきかを純粋に検討する会を別途立ち上げるべ きだと考えます。すなわち、原因究明と再発防止、それと責任追求という内容は明確 に分離をし、それぞれ独立した組織として活動しなければならないと思っています。  今後、私どもは患者やご家族に対して、医療機関が行うべき安全管理上の義務があ るだろうと思っていることがありまして、それについて少し説明をします。医療安全 の観点からは、死亡事故の究明はどのように位置づけられるべきでありましょうか。 死亡事故は重大事象に位置づけられているものでありますし、重大事象は死亡だけで はなくて、大きな後遺症を残した症例も含まれると思います。また、1つの重大な事 象の背後には、多くの軽微な事象やヒヤリ・ハットがあります。事故死のみを取り上 げても氷山の一角でしかなく、医療安全全体の底上げには全く不十分であると考えま す。  先ほど述べましたように、医療安全への国の取組みが不十分な中で、事故死のみを 取り上げて、あたかもこれが医療安全の切り札とでも言いそうな気配のこの状況は、 大局を見誤っていないかと思います。前回検討会のヒアリングのやり取りを見てみま すと、反対意見があった際に検討会の議論は後戻りできないというニュアンスの返答 もあったように思われます。本来は、もっと早い段階で多くの医療安全の専門家、あ るいは私どものような反対の意見を持つ者の意見を聞いていただきたかったと思い ます。もう一度繰り返しますが、そもそも医療安全を考えるという点で、事故死の位 置づけを最初に議論すべきだったと思っています。また、パブコメ以降の状況を見ま しても、検討会全体の議論の流れを変えるものとはなっておらず、一部修正で終わる ことが続いているように思われますし、今回も原則論を指摘することがあったにもか かわらず、残念ながらその原則論に沿った議論はなされなかったようにも思います。  患者あるいはご家族の疑問、不信、不満に対しまして、全日病は冒頭に述べていま すように、私どもの説明の責任や情報開示の問題があったことは認めていますし、当 然改善すべきことはあると考えています。息子さんを医療事故で亡くされましたご遺 族の立場、医療機関のリスク管理をされている立場で参加をされていると思われます 豊田委員が、第1回検討会で述べられています。「遺族が再発防止を願うのは、だい ぶ時間が経ってからである。最初は最愛の家族が亡くなられているのだから、その家 族の死を医療事故であろうが何であろうが受け止めることはできない。次に、これは 誰かの手によってそういうことが起こったのではないかという疑問や不信感が起き てくる。そうなると、それがいったい誰と、どういう形になって、こういうことが起 きたのかということを知りたいと思うのは当然のことである。そういった疑問や不信 感を持つのは当然だと理解することから始めないと、議論は難しい。患者側が望むの は、関わった当事者から本当のことを伝えてほしいという気持がいちばん強い」とい うご発言がありました。最初の会合での発言だけに、私は大変重大な指摘であると考 えています。すなわち、まず何が起こったのかの記録を開示し、説明をすることの重 要性を言われたのだろうと思います。しかし、疑問、不信を解消させる手段がこのよ うな委員会の設置でしかないと考えていただいたら困ると思っています。基本的な医 療安全の取組みの徹底によってこそ、このような問題に対処できるものと私どもは考 えています。事故死のみに的を絞るような仕組みではなくて、背景にある多くの事象 まで検討する組織の充実こそ必要と確信をしています。  それでは、私どもは患者やご家族の信頼を得るために、どのようなことをすべきと 考えているかといいますと、まず患者やご家族の方々に診療の内容を十分に説明し、 納得を得るということです。次に、リスク回避も考慮した診療システムを構築すると いうことです。第3に、診療記録を電子化し、修正された場合の記録、それは時刻も そうですし、修正理由等の記載もそうですが、そういうものが残るような仕組みとす るということです。このことによって、ご心配の改ざんは全く不可能となると考えて います。診療の経過を必要に応じて説明をし、予定どおりに進まない場合は必ず説明 をするということです。特に医療行為の中で、患者に不利益をもたらす結果となった 場合には、その説明は診療記録を提示して行うこととし、患者やご家族の疑問も記録 することを日常の診療の中で義務づけるということです。十分な説明の上でも患者や ご家族が納得されない場合には、必要に応じ外部委員の入った紛争処理委員会、ある いは医療安全委員会にて協議をすること。第三者機関での検討結果も踏まえて対応す ること。安全管理上の問題に関しては、どのような改善を行う予定なのか。また一定 期間後、その改善状況を患者やご家族にどう知らせるかということです。たぶん、こ のような手順を踏んだ場合には、患者やご家族の懸念のかなりの部分が払拭されるの ではないかと考えています。  私ども医療機関が本当にやるのかという不信があるとすれば、定期的な第三者評価 を行って義務を果たしている施設を認証する、公表する仕組みをつくるということで、 それを受けない施設あるいは不十分で認定をされない施設には必然的に受診抑制が かかり、大きなペナルティになると考えています。以上のような考え方から、私ども 全日病は改めて申し上げますが、医療安全の原則と事故死の関係を十分に議論される ことなく作成され、結局、原因究明・再発防止と責任追求が同じ組織で行われること となる第三次試案には反対の立場を取ります。すなわち、文字どおり「医療安全調査 委員会」とするのであれば、医療安全に関する専門家を中心に医療現場の委員や有識 者、あるいは国民の代表を入れた委員構成として、国を挙げての医療安全の実践に関 する徹底した仕組みづくりを検討すべきです。「医療事故」を処罰するというのであ れば、法律専門家を中心とした現在の委員会を「事故死処罰委員会」と改称し、明確 な事例を示して処分内容を決定すればよいと思っています。  全日病は最後にお話申し上げますが、故意あるいは証拠の隠滅、改ざんなどの明ら かな犯罪性のあることが、刑事告発から免れるとは思っていません。医療に関わる行 為すべてを免責とすべきとは考えていません。どうぞ原点に立ち返ったご議論が再度 なされることを希望して、私の発言を終了します。ご清聴ありがとうございます。 ○前田座長  どうもありがとうございました。先ほど申し上げたように、初めに3人の参考人か らご意見を頂戴するということで、続きまして嘉山参考人からご意見をいただきたい と思います。よろしくお願いします。 ○嘉山参考人(全国医学部長病院長会議)  全国医学部長病院長会議の大学病院の医療事故対策に関する委員会委員長の嘉山で す。よろしくお願いします。  いま、徳田先生からこの検討会の意義とかはお話になられたので、全国医学部長病 院長会議としてもこのような検討会が立ち上がったことは、現在日本の中で起きてい る医療と患者との間の不信感を、1つのインターメディエイトするような場になった のではないかということで、非常にありがたく思っています。  全国医学部長病院長会議としては、大学病院が最もハイリスクの症例を扱っていま すので、そういう意味では日本の医療のレベルを勤務医とともに支えているという自 負と責任があります。そういう中で、どういうことを考えるかといいますと、基本的 には国民の目線から見た事故調査委員会、あるいは患者の目線から見た事故調査委員 会のあり方を検討してまいりました。というのは、大学病院は、私の「医学の歩み」 の別冊に参考資料として今回出しましたが、1999年(平成11年)1月11日の横浜市 立大学の患者取り違い事件以来、国立大学は医療安全協議会というのをつくりまして、 かなり厳しくやってまいりました。そういう中にありまして、この検討会が立ち上が ったことによって、最もハイリスクの症例を扱っている大学病院としては、前田座長 に結論から申し上げますと、かえって現在の事故調査委員会が機能しなくなることを 申し上げます。この大綱を実施したら、かえって事故調査がきちんとできなくなると いうのが大きな理由です。それは、いま徳田先生がおっしゃったように、医療事故を 調査するというのが目的であるならば、全くカテゴリーが違う患者の救済と事故調査 をするというのは、2つのカテゴリーを1つのものにしているということでして、整 合性が合いません。もしもするのであれば、米国のように医療事故調査と患者救済は 分けるべきであると考えています。  現在、大学病院がやっているやり方を資料に沿ってお話します。この大綱案に反対 する根拠を示します。サイエンティフィックな根拠としては資料2-1からずっと見て いただければいいのであとに回しますが、現在大学が何をやっているかをご説明しま す。  資料2-4から見てください。まずは、大学全体がどうやっているかということです が、資料2-4-1に書いてあるように、大学病院はいま徳田先生がおっしゃったように、 厚生労働省が主導してやっている仕事です。大学病院等で医療の事故が起きた場合に 何をするかということを、残念ながら朝日新聞しか報道してくれなかったのですが、 昨年の8月に、あるレベル以上は国民の前にすべて公表することを全国80の大学病 院で決定しました。資料2-4-1のいちばん後ろのカラーの赤は、ホームページか、国 立大学であれば、東大のネットワークのUMINに公表することになっています。ある いは、大学によっては記者会見をすることになっていまして、大学病院がこの数年で 大幅に変わったことがわかると思います。これが全体でやっていることで、ここには 医療事故の規定もしています。  大学病院が実際に何をやっているかは、資料2-4-4からご覧ください。これは私ど もの山形大学の例ですが、医療事故の可能性がある事例は、24時間以内に報告する。 あとで見ていただければ結構ですが、非常にギッチリと決まっていまして、報告体制 も例えば手術室で何かが起きた場合には看護部からも上がりますし、麻酔科からも上 がりますし、当該科からも上がるというシステムになっています。これが現在、大学 でやっている事故かどうかがわからない事例を下から上げていく。それを病院長が24 時間以内に把握する。原子力発電所から放射能が漏れていた場合に、所長が知ってい て報告しない場合には隠蔽となっていますので、大学でも隠蔽だと扱っています。イ ンフォームドコンセントの内容から、術後の合併症の説明内容までが含まれた医療経 過書を出させています。ずっと見ていただければ、これだけのことを全80大学がい まやっていることをまずご理解願いたいと思います。  具体的に事故が起きたときにどうなるのかということですが、資料2-4-5をご覧く ださい。これはマスメディアに出ていますし、患者も同意しているので社会に出しま すが、黒く消してあるのでマスコミの方で何だという方がいらっしゃるかもしれませ んが、この調査書のコンセプトは患者の原疾患は隠す。なぜかというと、例えば誰か が大腸がんを持っていたとかそういうことは隠さなければいけないということです。 医療事故から後のことは全部明記するということで、消してあるのはそういう原則で す。あとは大学では、以前に厚生労働省からの諮問に対する内閣府の答申書が出てお りますが、講師以上の名前を出す。看護師は看護部長の名前だけを出すということが ありますので、個人を責めるのではなくて事故の内容をいかにきちんと報告するかと いう制度にしています。  これは平成13年ですから私が病院長になる少し前ですが、最後の結論を見ていただ ければわかりますが、医療事故をどうやって判定しているかというと、某新聞の論説 委員が大学病院はとんでもない悪いことばかりをやっているということを常に言っ ていますが、この調査書の真ん中辺りに「医療事故調査専門委員会の結論」というの があります。頁を振っていないので申し訳ないですが、真ん中より少し後ろの調査報 告書の6です。ここに、家族に事実が説明されなかったことについては、教授及び講 師(現教授)の責任、病院長の管理責任は明白であるということが書いてあります。 前の頁の5の「医療事故の全容究明」の最後の結論に、当時の病院長は報告を受けて、 病院管理者としての責任は免れないとか、教授が隠蔽したことを断定するとか、嘘を ついているわけではなくて、これはマスメディアにも出ていますので、情報開示法で も出しています。こういうことをきちんと大学病院ではやっています。こういうこと に則って、先ほどの公表基準に則り公表をしていますので、患者がいちばん知りたい と言っている事故究明の真実が出ているということをご理解願いたいと思います。  事故調査をするときのいちばんの眼目は、資料2-2-1は航空機の事故ことです。要 するに医療事故を究明するときに、いちばんの問題点は現場の当事者がエビデンスを、 我々を信用して言ってくれるかどうかです。それが、もしも今回の大綱案でやれば、 先ほど前田座長には迷惑だと失礼なことを申し上げましたが、これが通ると事故の全 容が出てこなくなる。なぜかというと、ブレームフリーではなくなるからです。米国 の事故調査に関しては、ブレームフリーでやっています。ブレームフリーというのは どういうことかというと、「誰が」ではなくて、徳田先生も先ほどおっしゃいました が、「何が」原因なのか。先ほど私は国民の目線とか患者の目線という話をしました が、患者とか国民の目線は2つあると思います。1つは、情報がきちんと本当に開示 されているかどうか。もう1つは、それに則って我々が次に二度と起こさないという ことをやっているのかどうか。この2つが国民と患者が求めていることだと考えます。 そういうことから考えると、医療事故を調査するときには資料2-2-1の航空機の問題 もありますし、資料2-2-2は日本学術会議の事故調査に関する提言ですが、独立性、 制限されない権限、第5章に航空機のことが書いてあります。それから、日本学術会 議の資料2-2-2は、4頁に、専門家が扱うということ。事故責任等刑事裁判のことに 関しては、明文化してきちんと話しなさいということが書いてあります。  今日は高本先生がいらっしゃらないので非常に残念ですが、高本先生がWHOのドラ フトに関しての反論をこの会議で何回かいろいろなことをおっしゃっていますが、全 く引用論文が違うということはこの会で証明されたと思います。刑事訴追に使うとい うのは、“The New England Journal of Medicine”の最初の論文でしたが、全く別の ところにその論文は使われています。  もう1つは、なぜドラフトに刑事訴追が入ってこなかったかというと、簡単に言え ばその論文の内容は採用されなかったからです。それは却下されたからドラフトには 出てきていないだけで、現物が刑事訴訟に関係するかというところは論理的に破綻で す。もしもそれが正しいことであれば、事故調査をするときにWHOがそうすべきだと、 刑事訴訟に資料を使いなさいということであるならば採用したはずです。採用してい ません。従って、高本先生がいままで何度か言ったことは、全くの科学的にも根拠が ないことです。従いまして、患者のために本当に真実を明らかにするためには、医療 事故だけをきちんとやれるような、航空機の制度とか日本学術会議とか、WHOのドラ フトというのは計画書ですよね。まだ決定ではないと佐原さんがよくおっしゃいます が、ドラフトがあってこそ最後の決定があるわけで、ドラフトがなくてそれを全く無 視した決定書は出ませんから、出していないというだけで、これは参考にすべきだと 思います。そうでなければ、これはハムラビ法典と同じように結果からレトロスペク ティブに後出しじゃんけんになりますので、そういうことをやれば、ある社会がある 理念でもって何かを作ったときに、その社会が崩壊あるいは萎縮していくのはギリシ ャ、ローマの時代から多くの事例がありますから、私は先ほどの徳田先生と同じよう に、根本的にこの法案はコンスティチューションが全く間違っていると考えます。  前々回でしたか、前田先生は刑法の専門家で権威ですが、患者の応報の感情という ことをおっしゃいました。資料2-5-1をご覧ください。確かに私も自分の身内がいろ いろなことに遭った場合には、エモーションが起きます。そこには悲しみも起きます し、恨みも当然出ます。それを応報の感情と言うわけですが、それと医療事故調査と はサイエンティフィックに切り離さなければならないというのは、いままで言ってき たいろいろな国際的な基準で明らかだと思います。最近の日本国民のいちばんの風は、 山本七平が言った風。戦前でいうと、戦争に突っ込んでいった風・空気というものが 思考停止にさせて患者の応報の感情を全面に出そうとしています。  2008年度の日本法社会学会の学術大会に行ってまいりましたが、「死別の悲しみ」 を伴う紛争事例の解決と法の応答可能性というのが書いてあります。これは何かと言 いますと、結論から言うと最後に表があります。これは愛媛大学の小佐井良太先生が この学会でご発表になったことで、小佐井先生には今回のこの委員会に提出するご許 可を得ています。これはどういうことかといいますと、交通事故と医療事故は全然違 いますが、東名で後ろから突っ込んで子供たちが亡くなってしまった事例があります。 そのときに、患者の悲しみを汲んで、命日にお金を払えということを平成15年7月 24日に東京地裁が判決を出しています。このときにマスメディアは何と言ったかとい うと、応報の感情を汲んだ名判決であると言ったわけですが、よく調べてみますとそ れと同じ事例3例までは一括払いではなくて、命日に払って毎年詫びなさいというこ とをやったわけです。ところが、横浜地裁からは一括払いになったわけです。これは、 どういうことを意味するかといいますと、近代法では復讐はやってはいけない。別の 問題にしなさい。そんなの当たり前ですよという判決が出ています。それ以降、応報 の復讐性は全部否定されまして、現在に至っています。  これは一時の風でもって起こした事例だと思っていますが、確かに患者あるいは被 害者の気持は非常によくわかります。事実、私の所の山形大学では医療事故を隠蔽し た教授を懲戒にまでしています。私はいま裁判で訴えられていますが、そのぐらいま で厳しくやっている所もあるところに、今度の大綱のようなものが出てまいりますと、 まず基本的にきちんとした、患者のためになる医療事故調査ができない。それが事実 です。現場からの声です。私は週2回、動脈瘤等の手術をしていますし、脳腫瘍の手 術もしています。その中でこれを読めば、これを東京大学の国語の問題に出して、こ れが医療事故調査を目的にしただけの文章か、異なるかということに○をさせれば、 前田先生、これは×です。それだけではない。徳田先生も一度おっしゃっていますが、 応報の感情を含ませている法文であることは誰が見ても明らかなことで、これが我々 の全国医学部長病院長会議の結論です。ですから、応報というのは一時の風・空気で あって、それをやってしまったらハムラビ法典と全く同じような社会が、近代文明社 会でできてしまうことを我々は非常に危惧していることをお話しておきたいと思い ます。  もう1つは、このような国家的なものを決めるに当たって、資料2-3をご覧くださ い。私は、民主党でも自民党でも共産党でも公明党でもないですが、民主党の足立議 員と鈴木寛先生が中心になって作られた民主党案が資料2-3にあります。一緒にこの 統計を取ったデータもあります。この眼目は、前田先生のこの大綱案は世間にたくさ ん出ていますが、民主党案はほとんど宣伝をしていません。ただし、みんなが見たの でしょう。これはm3の橋本編集長が取った統計ですが、圧倒的にこの大綱よりは民 主党案の賛成を得ています。したがいまして、私の提案として、前田座長にはお願い ですが、ガス抜きの参考人であれば、私は今日手術を休んできましたから、真面目に やっていただきたいと思います。これはお願いです。というのは、5年前に厚生労働 省の木村副大臣に呼ばれまして、卒後研修制度をやったらどうか。そのときにいたの が、医政局の中島医事課長でしたが、「あなた、これをやったら地域医療は崩壊する し、診療科の遍在が起きますよ。パンドラの箱を開けることになりますよ」、そのと おりになりました。そのときに私が言ったのは、責任を誰が取るのだと。誰も取って いません。徳田先生は北海道からいらして、私も今日は手術をやらないで来ました。 こういう意見を論破してくれるならばいいですが、論破できないでただ聞き及ぶでは、 国民が納得しません。  いろいろな法案が、ここに出した資料2-1-2の国民年金法も、これも私がいつも使 うのですが、福祉施設で1兆円前後のグリーンピアというのが、たった1行の法案で できてしまったわけです。先生は法律学者ですから、私は先生のことも尊敬申し上げ ていますが、慎重にこういう法案は作るべきだと思います。民主主義国家であるなら ば民主党案がこれだけ賛成を得ていますから、これは提案ですが、この検討会で議論 をしていただきたい。なぜかというと、現在、政府は自民党がもちろん預かってはい ますが、この検討会は国民のための検討会だと思います。したがいまして、民主党案 もたとえ野党とはいっても、取り上げて議論をすべきだと思います。というのは、こ れだけの賛成を得ている法案を議論しないというのは理不尽です。あとで、この検討 会が不作為の罪にならないようにしていただきたい。あのとき、こうやっておけばよ かったということは歴史上もたくさんあります。  法案を作るときの政策過程が、民主主義になっているのかというのをいままで思っ てきました。例えば、先ほどの卒後研修制度はあれだけ反対があったのに、一気に行 ってしまった。日本の医療が完全に、もちろん医師の絶対数が少ないわけですから崩 壊するのは当たり前だったかもしれませんが、それに加速度を付けてしまった。卒後 研修制度がなければ、診療科の遍在は少なくとも起きなかったのではないかと考えて います。  私自身は神奈川県の生まれですが、子供のころに京浜工業地帯の、京浜急行あるい は横須賀線、東海道線に乗っていて、モクモクとした煙を見なから「これで日本はい いのだろうか」と思っていました。たぶん大人は、国家はちゃんとやってくれている のではないかと思いました。ところが、そのあと川崎喘息が起きて光化学スモッグが 起きて、日本は大変な代償を払うことになりました。熊本の公害もそうです。厚生労 働省の中には、あのときは本当にきちんとした人もいたのですが、思惑で動いた人も いた。そのために、チッソの廃液の公害は認定せずに、5年間患者が増えてしまった。 その間は、患者も住民も非常にアンハッピーだったし、企業も結局5年間の大きなつ けを払わなければならなかった。今度の法案も現場の声をきちんと入れて、もしこの 法案ができた場合には、ある理念からやれば、一部は正しいです。けれども、その裏 には、この法案が通ったときには社会が思わぬ方向に動いてしまうよという社会学の ことも考慮しなければ、きちんとした法案はできません。  例えば、これは良いか悪いかの賛否があるでしょうけれども、大規模店を入れまし た。大規模店を入れたときに、東京と大阪と名古屋だったらよかったかもしれません。 地方の県庁所在地はいま全部崩壊しています。確かに、経済からだけを見ればいいで す。ある理念からやるから。けれども、そこに社会学が入っていない。社会のために 経済もあるし、法律もあるはずです。これを通せば、医療の萎縮と、きちんとした事 故調査ができなくなる。私としては性善説であろうとも性悪説であろうとも、きちん と機能するような法案を作っていただきたいと考えています。  厚生労働省がいままでやってきた政策立案は、薬害も未だに止められていません。 これもシステムの問題だと思っています。年金も全然駄目になってきた。これもシス テムの問題だと思います。現場からの声を一切聞いてこなかったからだと思います。 この前ドイツ人の私の友達から、「日本は、日本人は本当に大丈夫かね」と。この前 のお米の問題からいえば、少し離れるかもしれませんが、でも政策立案の問題ですか ら一言言わせてもらうと、江戸時代でいえば浪花のいちばんの米問屋が、役人と手を 組んで毒を売った。日本は、そんな国ではなかったはずです。ある理念だけで物事を 考えてはいけないというのもどういうことかというと、農業政策も勉強させてもらい ましたが、ある理念だけで日本は農業政策を作ってしまったのです。ある理念からは、 常に表から見れば正しい。裏から見れば、全く別のものが見えてくる。ですから前田 座長にお願いは、ある法案を作るときにはそれによって社会がどう動くかまで含めて 考えなければ、国民は右往左往するだけです。そこを最後にお願いして、私のヒアリ ングのお話とします。どうもありがとうございました。 ○前田座長  どうもありがとうございました。引き続きまして、宮脇参考人にお願いします。よ ろしくお願いします。 ○宮脇参考人(医療過誤原告の会)  医療過誤原告の会会長の宮脇と申します。徳田先生と嘉山先生のお話を伺っていて、 徳田先生と嘉山先生の病院であれば、こういう検討委員会は必要ないだろうなと非常 に心強く思いました。私は、医療被害者として実態等について是非聞いていただきた いのと、私たち医療過誤原告の会としてはこの第三次試案を基に、医療事故の原因究 明と再発防止の仕組みを早急につくっていただきたいことを強く思っているという ことを、まず最初に述べさせていただきます。  私は、1983年に次女を医療事故で亡くしまして、10年間ほど医療過誤裁判で闘って、 最終的には病院の全面謝罪ということで和解することができました。そのことを通し て、医療被害に遭った場合に、そのことが本当に再発防止に生かされていくのは並大 抵のことではないなということを骨の髄まで染みたのと、それから私はかけがえのな い娘を亡くしたということで、このことについては一生私の課題として医療の改善に 役立てるために、何らかの形で行動していきたいということで、25年間やってきてい ます。  医療過誤原告の会は、いまから18年前の1991年に、医療被害者家族の長野県在住 の近藤郁男さんが、全国の医療被害者に呼び掛けて会をつくりました。近藤さんは、 中学生の息子さんが虫垂炎の手術で植物状態になり、そのことを病院が非を認めない ということで14年間医療過誤裁判を闘って、最終的には病院と和解することになり ました。裁判を通じて、このままではあまりに医療被害者に医療過誤裁判は過酷すぎ る、医療被害が闇に葬られないように願って、もっともっと医療被害者は声を出そう と全国に呼びかけました。近藤さんは10年間会長をやられたあと急に亡くなられた のですが、息子さんは今年で29年間ずっと、植物状態です。いま41歳になりました が、お母様が自宅で手厚い介護をやっています。医療事故によって引き起こされるご 家族の負担というのは、悲しみも含めて、家族やそれを取り巻く人たちの人生を本当 に一変させるなとつくづく感じています。  医療事故について、医療機関では「裁判に掛けられるぞ」とか「訴えられるぞ」と かとよく言われます。実際に一般の人が医療被害を受けた場合、証拠については一切 病院が持っているわけです。いちばん重要な証拠であるカルテも病院が持っていて、 改ざんについても私たちは裁判の中で非常にいろいろなケースで扱っていますが、最 終的には病院がカルテの改ざんを認めるということが起こっています。そういう証拠 を持っていること。過失について、医療の全く素人が民事裁判においては、過失の立 証責任を負わされている。普通ではあり得ないことですが、そういう仕組みになって いるわけです。  医療過誤を扱う弁護士については専門的知識が要求されますが、要望に対して人数 が圧倒的に少ない。一生懸命にやっていただく弁護士には依頼が殺到して、なかなか 十分な動きができない状況です。もっと大変なのは、そのことについて医療的な見地 から科学的に判定していただく医師が、弁護士以上に本当に少ない状況です。したが って、医療過誤を受けて、そのことで訴訟を起こしたいと思っても、二重、三重の非 常に高い壁を乗り越えないとできない。訴訟できたとしても、実際に裁判で、一般の 民事では約8割は原告が勝訴と云われていますが、医療過誤裁判では3割ちょっとし か勝っていない。だから、そういう点では犠牲は自分の家族、ご自身の犠牲もありな がら、なおかつ裁判そのものが日本の裁判制度の中では、残念ながら被害者がそう簡 単に裁判に訴えられるものではないという壁があるものですから、圧倒的多数が泣き 寝入りの状況です。そういう現状ですが、私たちとしては、なんとか医療過誤、医療 事故の問題が、一人ひとりの命の犠牲が、次の医療改善の教訓となるにもかかわらず、 闇に葬られないようにやってきています。現在でも、医療過誤裁判を起こそうとして いるたくさんの方が私の所に、医療過誤原告の会役員の所によく相談に来ますが、ほ とんどの方が裁判に行く前に力尽きてしまう状況です。私の娘の件もそうですが、医 療事故を教訓化し、次の被害を出さないために是非役立ててほしい。交通事故も、あ れほど減ったではないかという思いを強くしています。そういうことで、このことを 提起するのは医療被害者の力ではないかなと思っていますし、そのことをずっと運動 としてやってきた状況です。  ちょうど5年前に、二代目会長を小児科医師の久能恒子さんが務められました。医 師でありながら医療過誤裁判の原告になるとは何事だ、あなただって、医療過誤をや ったことがあるだろうなどと、医師仲間からも心無い言葉で相当手厳しく誹謗された ということで、徹底的に地獄を味わったとおっしゃられていましたが、娘さんの医療 過誤死を母親として曖昧にできないということで裁判を闘われ、最終的に99.9%勝訴 しました。その彼女が、カルテの改ざんがあまりにも明らかだということで、勝訴し たあと、2003年に厚生労働省に、「カルテ改ざんの問題について曖昧にしないでほし い。そのことについての対応を政府としても、しっかり何らかの形でやってほしい」 と申入れをしました。そのときも、厚生労働省の対応としては、たぶん係長さんだっ たと思いますが、下の小さい会議室で受け取って、それで終わりでした。それぐらい 医療被害者の声は、これほど多くの被害を背負って運動してきましたが、なかなか表 面に出ない。医療事故を国として、医療改善に役立てていこうと、この2、3年厚生 労働省が大きく動き出したということで、私たち医療被害者としても、やっと光が当 たってきた思いです。  国の制度化というのはタイミングというものがあると思います。私も25年間ずっと 運動をやってきて、医療過誤原告の会代表としてこういう場で話させていただくのは、 隔世の感があります。これは、医療被害を放置できないと、国民的な大きな要望にな っていることだと思います。私どもからすると、今回の第三次試案を基に、十分議論 されてきたと思いますし、種々議論はありますが、これ以上医療被害を闇に葬らせる なということが多くの国民の声だと思いますので、是非よろしくお願いしたいと思い ます。  その上で、資料3の追加資料で、第三次試案についての具体的な意見を出させてい ただきます。5点ほどありまして、委員会の設置ですけれども、中央・地方委員会の 調査チームの構成ですが、主に遺体の解剖を中心に今回やられるということですけれ ども、医療者側から出される資料とともに、医療被害者側からも十分な意見聴取が行 われたか。改ざんされたカルテだけを基に審議されているのではないかということも、 医療被害者にとっては非常に大きい心配というか、そのことについての疑念は当然あ りますし、これまでの経過もあります。  そういうことで、医療安全委員会のメンバーとして、第二次試案のところでは医療 被害者を代表する立場の者ということになっていたのですけれども、第三次試案のと ころでは、患者の立場を代表する者という形でかなりトーンダウンしています。医療 裁判の中でもかなり熾烈な争いをしてきているものですから、この点については明確 に医療被害者の立場に立つ弁護士、ないしは医療被害者団体の代表ということで、医 療被害者が納得できることが、審議の公平性や透明性が確保され、国民・被害者の信 頼と期待に応えたものになるのではないかと思います。  2番目は、医療死亡事故の届出についてです。届出範囲に該当する医療機関の管理 者が判断したにもかかわらず、故意に届出を怠った場合とあります。故意に届出を怠 った、ないしは虚偽の届出は直接刑事罰が適用される仕組みではないという、第三次 試案のところでは行政処分にとどまるという姿勢で本当にいいのだろうか。その点に ついては、故意もしくは虚偽で届け出ないことについては、亡くなった方や社会に対 する明確な犯罪行為ではないかと思います。そういう点では厳しく対応すべきではな いかと思います。  23番の、医療機関の管理者が医師の専門的な知見に基づき、届出不要と判断した場 合というのは往々にしてあると思います。しかし、地方委員会の調査で、明らかにこ れは届け出るべき事案であるというのを届け出なかったことについては、やはりペナ ルティを科していくべきではないか。  先ほど嘉山先生がおっしゃられたような大学病院がみんなそうであればいいのです が、残念ながらいろいろな大学病院の中には正直な報告をされていない体質が残って いる所があると思います。私たちも医療過誤裁判においてこういう事態に直面してお ります。何年かかけて、初めてカルテの改ざんであったということがだんだん明らか になっていくわけですが、そういう苦い思いをさせられている面もありますので、是 非ご検討いただきたいと思います。  27番の、地方委員会による調査ですが、地方委員会で調査委員会の質問に対して答 えることは強制されないということで、このこと自体はよくわかるのですが、しかし、 これまでのさまざまな医療過誤事件の中では、病院の医療関係者、ないし病院の管理 者、ないし医師が現場のコメディカルに対して事実・真実を話さないようにという圧 力をかけるケースがいろいろありました。そういうことで、意図的な真相究明の妨害 についてはペナルティを科していく。何らペナルティがなく、答えなくてもいいとい うことであれば、これは管理者が圧力をかけてきたら、非常にかけやすいということ で、いままでの経過からしたら非常に危惧するところです。  それと同時に、内部告発していく方についても、当事者の救済をしていくというこ とをどこかで明確にしていただきたい。第三次試案で読み取れる面もなきにしもあら ずですけれども、明確にしていただきたいと思います。  30番の、地方委員会の事務局には、調査開始後調査の進捗状況等を遺族に伝えると ともにということで、これは非常にありがたいことです。経過がわかることが、納得 していくことの非常に大きな要素だと思います。しかし、実際に遺族が判断する場合 において、医療機関から提出された資料が手元にない場合については、本当にカルテ の改ざんはなかったのかということについて、何ら遺族の立場としても検証できない し、自分たちが直面した医療行為の事実、亡くなっていく上に、病室でも遺族はいろ いろな面で体験しています。そのことがカルテに反映されて調査されているのかとい うことについて確認するため、遺族が欲しいと要求すれば、医療機関からの提出資料 を開示していただきたい。そのことが、調査の透明性や公平性につながっていくと思 います。  私たちとしては、第三次試案は全体に医療機関に対する配慮が大きいと思います。 しかし、これまで1年以上にわたる検討委員会の先生方の議論は、私たち被害者や国 民の声、要望、これまでの経過については非常に細かく丁寧に検討されてきている点 も考え、この第三次試案を基に、再発防止の法案化と具体化をお願いしたいと思いま す。  最後に、私たち医療被害運動をやっている人たちに対し、著名な医師等から、医療 事故被害者の多くはクレーマーだとの断定的発言なされて、非常に大きな打撃を受け ました。医療事故の犠牲になった子供に、親として一生かけた償いと言ったら大げさ ですけれども、そういう思いで本当に粘り強く運動をやってきているつもりです。乱 暴に断定しないで、共に日本の医療をどうやって良くしていくのか。残念ながら私た ちは被害を受けたわけですけれども、しかし、それは非常に貴重な財産ですし、その ことについて力を尽くしていきたいと努力しているところです。  インターネット上では、一部の医師から非常に口汚ない中傷が続いていまして、そ のことで多くの医療被害者が心を痛めているのが実情です。私は、この10年間で多 くの医療関係者が厳しい労働条件の下で、医療の安全性について本当に大きな努力を してきて、現場では医療の信頼回復のための改善とシステムづくりに努力されてきた と感じています。であるからこそ、この第三次試案では不十分だという一部医師の見 解は重々承知ですけれども、その見方について関係者が完全に一致というのはなかな か難しいかもしれないのですが、医療の安全性、公平性、透明性を進めるためには過 ちから学ぶということの今度の制度化を、是非早期に実現していただきたいというこ とを願って発言を終わらせていただきます。 ○前田座長  プレゼンテーションをしていただきましたので、まずご質問がありましたらお願い いたします。嘉山先生にもお詫びしなければいけないのは、ご指摘のように反対のご 意見を聞くのがちょっと遅かった、というご指摘は反論の余地なく甘受し、それを踏 まえてちゃんとした案を作っていく。先生のお言葉にあった、ガス抜き云々というこ とはありませんので、それはそういうつもりで何とかとおっしゃられると困るので、 きちんと議論していくということで質疑をしていきたいと思います。 ○嘉山参考人  宮脇さんのお話はもっともだと思います。医療サイドと患者サイド、つまりノンメ ディカル、先生で言えば法学のレジームと我々自然科学のレジームが合わないのと同 じようにまだ理解がきちんといっていないです。それはなぜかというと、宮脇さんが 受けたことは犯罪です。カルテを隠蔽したとか書き直したというのは公文書偽造です。 それと医療の結果が悪いこととは全く別です。これを間違えてしまうと議論が噛み合 わないです。  資料2-6に対案を出させていただきました。いろいろなことを考えて、現時点で医 師の数が絶対的に足りない、あるいは外口医政局長に予算はいくらかということを言 っていただいてもいない。何か事業をやる場合、民間であれば、こういう事業をやる のだから、これだけのお金を用意しますというのが当たり前です。それがない所で概 念だけが走れば、それは全く別のものができる可能性があるので、フィージビリティ、 つまり実現性を加味した提案をさせていただきます。  資料2-6のいちばん最後の頁の上の表です。大学病院医療事故公表システムのとこ ろに書いてありますように、犯罪であれば警察庁、検察庁が云々というつもりは私た ちにはありません。法律はそうなっていますから、刑事訴訟法に則って警察の方も検 察の方もされているのだと思いますので、その点は十分理解しているつもりです。犯 罪であれば警察に行くのは当然です。  ただし、医療事故の原因、過誤でもシステムエラーでも構いませんが、システムエ ラーを患者が知りたいと思ったときに、それをハムラビ法典のようにしてしまうと、 先ほど言ったように全然コンセプトが違うものが入ってしまうので、現時点で我々と しては、先ほど徳田先生もおっしゃいましたように、東京、名古屋、博多、大阪は1 県に大学が1つだけではないのでなかなか難しいと思います。北海道には3つの大学 がありますけれども、たぶんその3つがきちんとまとまれるでしょうから。普通は全 国で1つの県に1大学と法律で1973年に決まりました。大学の事故調査委員会をき ちんとつくって、そこが現在は医療事故調査委員会を使って機能しています。宮脇先 生がおっしゃったように、機能していない所には厳重なペナルティを科せばいいと思 うのです。医療事故を隠蔽したり、カルテを改ざんしたら犯罪ですから、そういう犯 罪に関しては病院長、学部長、学長まできちんとしたペナルティを科すようなシステ ムにすれば、いまある事故調査委員会を使って十分にできると思っています。  カルテの隠蔽というのも、いま徳田先生と話をしたのですけれども、我々の身近に も10年前にはあったでしょうけれども、この数年間であったという証拠を見せてい ただきたいのです。私は見たことがありません。朝日の大熊さんもよく言いますけれ ども、事故が隠蔽されているとか、いまは各部署からオカレンスといって事例報告が どんどん上がっています。それでないと病院長が逮捕されてしまうということで、病 院長がきちんとやらなければいけないという自浄作用を働かせていますから、カルテ の隠蔽だとか改ざんとか、犯罪に当たるようなことがされているのであれば事例を見 せていただきたいと思います。風聞で、それが全国の大学病院でやられているような 印象がありますが、それは確かに10年ほど前はあったかもしれません。ただし、最 近は本当にあったのかどうかを見せていただきたいと思います。  さらに、大学病院が悪の巣窟のように言われていますが、今度から岡山大学へ事務 局が移りますが、少なくとも国立大学付属病院医療安全管理協議会では、いろいろな 対案を出して、二度と医療事故を起こさないための努力もしています。宮脇さんがお 遭いになったのは犯罪であって、医療の過誤とかそういうものではないので、その辺 は分けていただきたいと考えます。もし犯罪であれば警察が出ていってしょっ引けば いいことでありますし、それは刑法学者の前田先生はよくご存じだと思いますが、公 文書偽造になります。そこを分けて議論しないと、この法案は混乱した風の中で行っ てしまいますので、思考停止をやめて、恨み辛みではなくて、事故調査をきちんとや るための制度をどうするかということで話を戻していただきたいと思います。 ○前田座長  いや、別に恨み辛みでとか、思考停止になるような話でもなくて、もちろんここで カルテ改ざんがどれだけあるかみたいなことを究明しなければということになると 停止してしまいます。立場として患者団体でああいうご指摘があって、少なくともそ ういう声があることも事実です。 ○嘉山参考人  もう1つは医療の質といいますか、医療過誤と患者が言う場合に、私は常に患者の 立場に立っている1人として、お話しますので、誤解のないようにしていただきたい のです。最近のうちの医療事故調査書を見ていただいても、誰の責任かということが きちんと書いてあります。それは誤解のないようにしていただきたいのです。医療事 故だと患者が思っている中で、どれだけ医療事故があるかというのはまだ不明です。  医療の質ですが、皆さんは本当に医療の質はわかっているのですか。医療の質とい うのは、患者本人だって自分の病気が、いまの医療レベルの中でどのぐらい困難性が あって、さらにそれに加えた医療の質が高いか低いかなどというのは誰がわかるので すか。例えば、私がとんでもなく難しい手術をやっても、患者は難しい手術をやって くれたなどと全然話しません。非常にリスクが高いということは話しますが、それが 難しい手術だったということは患者にはわかりません。もっと言えば、非常に簡単な 手術をやって、非常に感謝されることもあります。  実際マスメディアも含めて、医療の質を真剣に考えたことがありますか。そうでは なくて、ホテルの接遇的なものだけはわかるのです。本日は看護師が何回回ってきた とか、医者から何回語りかけられたとか、3分診療ではなくて私には30分診てくれた、 ということで患者は評価してしまっているのです。私はそれが全部いいか悪いとかは 思いませんが、絶対数が少ないソフトの中で、それはシステムとしてやっているわけ です。  欧米のように医師がいっぱいいればアクセスは非常に制限されますけれども、アク セスフリーの中で、それを医療の質というふうに皆さんは勘違いしていませんか。で すからサイエンティフィックにやることが大事で、前田先生がいくら医療の質を定義 しようとしてもなかなか難しいと思うのです。 ○前田座長  本日は質の問題は置いておいて、せっかく発表をいただいたので、それに対する委 員のご質問をいただいて議論をしたいと思います。嘉山先生がおっしゃられたことに 対して私もちょっと申し上げたいことがあるのですが、私はなるべくしゃべらないよ うにします。 ○豊田委員  嘉山先生に質問します。以前から先生のこうした発表は直接講演を伺ったことはあ まりないのですけれども、資料を見ますとすごくいろいろなことをされていて、それ は宮脇さんと同じように私たちはすごく心強いと思っていますし、それをやっていな いなどと疑っているわけではありません。  ただ、病院は大学病院だけではないので、多くの病院が取り組みたくても取り組め なくて困っている病院が実際にあります。それに対して、先生方がそういう病院に対 してどのように支援していかれると思っていますか。私たちはそれが難しいと思うの で、第三者機関をつくったほうがいいと思っています。 ○嘉山参考人  それでもってこの対案を出したのです。つまり、大学には多種多様な人間がいます。 看護部もかなり大きな勢力を持っています。大学の看護部はほとんどが独立していま す。学部長、病院長からも独立していますのでそういう立場もあります。一般の病院 ですと、医師がパラメディカルの検査技師に命令をして、しゃべるなという権限もあ りますけれども、大学ではなかなかそういうことはできません。  現在の医療崩壊の中で、具体的にお金も全然明示されていない所でやるというのは 実際無理なので、もしこれをきちんとやるのであれば、先ほどお話したように病院長、 学部長、大学長にきちんとやるように、もし犯罪行為を見逃すようなことをやった場 合には、警察の方が出ていってペナルティを付けるような制度にして、各大学病院が その地域の医療事故を預かるようにしていく。うちの大学病院では医師が約350人所 属していますから、この事故調査委員会ができると思うのです。  山形の人口は123万人いますから日本の人口の1%です。第三者調査機関を各都道 府県に置くということが書いてありますけれども、そこでやったら崩壊です。誰もや らなくなります。いま、大学ではいつでも事故調査委員会は立ち上げられます。最近 の事例では、ほかの大学の委員も入れて、弁護士も入れてその調査委員会をやってい ます。医療側の弁護士だとか患者側の弁護士ということこそ間違いで、本当はフェア に見られる弁護士がいちばん大事だと思っています。医療側、患者側などといったら、 医療のことをちゃんと語れませんから、そうではなくて公平中立な弁護士が入ってい る委員会をうちでは持っています。  そのような事故調査委員会は、厚生労働省主導のやり方ですから、これを全国にや りなさいと言えばお金もほとんどかからないし、実現性も高い。ただ1つ大学病院に 対して不信感があるので、それに対しては犯罪をやったらペナルティを科すよという ことをこの委員会でつくれば、可能です。  それではどうするのだということになれば、東京、大阪、名古屋、博多はちょっと わかりませんけれども、そのほかは大学にきちんとした、いま言った条件下につくれ ば実現性は高いと思います。明日からでも動くと思います。 ○豊田委員  そういう意識の先生方、医療安全の文化がまだ根付いていないと思うのです。そこ を、本当にそれだけ協力していただけるかどうかというのは、モデル事業などをいま テスト的に。 ○嘉山参考人   我々としては、あれはほぼ失敗だと評価しています。 ○豊田委員  テスト的にそういうことをやろうとしている中でも協力医がいなかったりしますよ ね。 ○嘉山参考人  いや、そんなことはないです。大阪にも国立大学はありますけれども、あそこで医 療安全のことを育てた医師が、突然大学内を平等に行って抜き打ち検査をしたりして います。大阪大学もそうですしうちもそうですけれども、カルテのチェックをしたり、 医薬品のチェックをしたり、医療安全部の人たちが、看護師が中心ですけれどもきち んとやっています。そのやっているということはエビデンスです。それは、日本医療 機能評価機構に報告も全部しています。その事実を厚生労働省はなぜ情報として出さ ないのか私にはわかりません。そういう努力に対して厚生労働省からは一円もお金は 貰っていませんが、大学病院では医療安全のための日常研修会参加や学習会等に年間 大体5,000〜6,000万円持ち出しでかかっています。それでも、それは患者の為に医 療安全が大切だと思うからやっています。  日本医療機能評価機構に出す努力から、労力をかけてやっているのに、その情報を 出していただかないから宮脇さんや豊田さんのほうに誤解が出るのです。日本医療機 能評価機構は全国から上がってきている事例を分析し、二度と起きないような方策を 各大学に出しているではないですか。その努力も何も報道していない、情報を出して いないからこのような誤解が生まれるのではないかと私は思っています。  宮脇さんはお子さんを亡くされて大変な目に遭われたわけで、私だって本当に怒っ てしまうと思います。その怒りと事故調査を分けてやらないと、日本という国は何を やっているのだと、後世10年後に言われかねないということを再度強調したいと思 います。   ○堺委員  前置きを2つ申し上げて、それから質問をさせていただきます。意見の第1は、医 療事故が発生したときに、医療機関は何をすべきかということです。これは反対の方 は少ないと思うのですけれども、最大限の誠意とスピードを持って、どういうことが 起こったかということを患者、家族、そして院内の者に伝えるということに尽きると 思っています。しかし、これができるのは、大学病院には多くの使命がありますので、 そのことが起こった医療機関でないとやはりわからない部分も多々あると思います。 前回の会議の要望で申し上げたのですけれども、日本全国の院内の医療事故の調査体 制を整備することについては、行政にさらなる検討をお願いしたいと思います。  意見の第2点は、医療安全の推進を我々は願っている、あるいは実現しようと思っ ていることが骨子だと思っています。第三次試案では、医療安全調査委員会の中央委 員会がその対策も作ることになっておりますが、ここから先は私の個人的な意見です が、これを変えることのできない確定とは感じておりません。例えば既存の組織、日 本医療機能評価機構もその1つだと思いますが、そういう所で行うという変更はあり かなと感じております。  質問は嘉山参考人にお尋ねしますが、もしほかの参考人からもご意見があれば伺い たいと思います。刑事捜査、刑事裁判に係るところは、現在の第三次試案の中で、刑 事捜査、刑事訴訟に関するご意見が非常にたくさん各方面から出たと思いますので、 それについて伺います。  嘉山参考人がお示しくださった資料に基づいてお尋ねします。資料2-4-4です。山 形大学医学部附属病院の医療事故防止対策マニュアルの小さい数字の30頁、大きな 文字ではP32と書いてあるところで、頁のいちばん上に3.事故発生時の対応とありま す。この事故発生時の対応の真ん中よりちょっと下に、(2)警察署への届け出の(2)の ところに山形大学のマニュアルとして「医療行為について刑事責任を問われる可能性 があるような場合=患者が死亡するなど結果が重大であって医療水準から見て著し い誤診や初歩的ミスが存在する場合」とあります。これは、現時点での山形大学医学 部附属病院の方針だと思います。  一方で嘉山参考人から提出していただきました、資料2-4-2の医療事故調問題に関 する提言(嘉山私案)のP8の下のほうに、3.医師法第21条のところがあり、「医療 関連死を異状死から除外する」とあります。私がこの資料を拝読して感じましたのは、 現時点での山形大学医学部附属病院のマニュアルと、嘉山参考人の私案の間には若干 の違いがあると感じられますので、そこのところの説明をお願いいたします。 ○嘉山参考人  ありがとうございます、ここが眼目なのです。山形大学のマニュアルは、拡大され た、従来の明治時代に作られた医師法第21条ではなくて、1994年に日本法医学会が 拡大解釈した「異状死」のガイドラインに則っています。つまり、現実の警察が考え ているものをクエスチョンするために載せているのであって、これがいいと思ってい るわけではないのです。ただし法律を破るわけにはいかないので、現在の医師法第21 条に則ってこのマニュアルは作ってあります。  ただ私の考え方としては、あれは法医学会が勝手に拡大解釈しただけだと考えてい ますので、全国医学部長病院長会議でも、日本法医学会の代表をお呼びして経緯をい ろいろお聞きしたところ、このようになるとは思っていなかったとおっしゃっていま した。これは、私の私案に書いてあるようなことで進めればよかったのだと思ってい ます。  昭和23年に外口先生のすごい先輩の医政局長が、医療に関しては刑事訴訟を免れて しかるべきものであるという通達を出しています。これは事実です。それ以降そうい うことはなかったのですが、富士見台の子宮全摘事件とか、あまりにも目に余る一部 の医師がいました。今でも明治時代にできた刑法を日本では使っているわけですが、 その刑法に則って捜査を始めました。それ以降はとんでもない医師がいたのか、いな かったのかわかりませんが、今度の横浜市大の平成11年の事件以来また刑事訴訟法 に則ってやってきました。  したがって、私の私案としては、昭和23年の医政局長の通達のようにしていただけ れば健全な医療はできるのではないか。ただし、犯罪は駄目です。先ほどから何度も 言っていますが、カルテの改ざんや事故の隠蔽は犯罪ですから、医療の過誤とは切り 離して考えていただきたいと考えています。私案としてはそういうことです。ただし、 マニュアルがそうなっているのは、いまの医師法第21条に則って作らざるを得ない ということで作りました。  医療事故が起きたら何をすべきかというのは3つあります。1番は現場の保存です。 2番は起きたときには全力でその患者の救命をする、ということをリスクマネージャ ーはやらなければいけない。3番は患者の家族に、精神的なケアをする。これが、起 きたときの三原則です。そう思って、全国の医学部長病院長会議では、それを医療安 全部を通じて、医療安全の教授ができているぐらいですから、いま啓蒙・普及をして います。したがって、数年前とは全然違うことをご理解いただきたいと思います。 ○堺委員  もし、ほかの参考人から何かご意見があれば承りたいと思いますが、ないようでし たらこれで結構です。 ○徳田参考人  刑事の問題について私は答える立場にはありません。全日病でもいろいろ検討して おりますけれども、それは別な考え方といいますか、私どもは何度も申し上げていま すように、まず医療安全という観点できちんとやっていただきたいのです。第三次試 案は、原因の究明と、もう1つ責任追及が入っていると感じていますから、責任追及 の話は別枠でさせていただきたいということです。 ○宮脇参考人  刑事という点ですけれども、私ども医療被害者が、カルテの改ざんであるとか隠蔽 であるとかを実体験し、また裁判等でもかなり明らかになっています。実際に警察と か検察庁へ行っても現実としてはほとんど相手にされない状況です。私たち被害者が 裁判の中でいろいろ明らかになっているものについて、実態としてはカルテ改善・隠 ぺいについてチェックが機能していません。  したがって、そういう点ではカルテの改ざん等について我々は医療裁判を通してア ピールしてきています。歯止めがかかっているとは思えませんので、今回第三次試案 の中で明確にしていただいたということはかなり大きな前進だと思います。 ○永池委員  3人の参考人にお尋ねいたします。全日本病院協会の徳田参考人から出された資料 の5頁に、全日本病院協会としてどのようなことをなすべきなのかの1点目に、患者・ 家族に診療の内容を十分に説明し、納得を得るとあります。これに対して異論はなく、 そうあるべきであろうと思います。一生懸命医療従事者が説明したとしても、患者側 が納得を得られるかは別のことです。  例えば、医療従事者が死亡のことに関し、その時点でわかる限り最大限十分説明し たと思っていても、受け取る家族、遺族側が知りたいと思うところに対して十分な説 明がなされないと、やはり納得いく説明を受けられたとは思わないと思います。 ○徳田参考人  私が挙げた5点のうちの1番目は、死亡事故が起きたことを想定しているわけでは ありません。いちばん最初に診療を始めるに当たってということですので、何か問題 が起こったからということではありませんので、そこだけ誤解のないようにお願いい たします。 ○永池委員  そこから少し離れて、死亡が発生した、医療事故が発生したときのことをお考えい ただきたいのですけれども、現在の医学をもっても解剖しない限り明確な死因はわか らないのだという死亡が発生した状態を想定した場合に、自分たちは最大限の説明を いたしました。しかし、まだ納得を得る遺族がいない場合には、こういう状況という のはあり得るのではないかと思います。  なぜ私がそう申し上げるかというと、私どもの日本看護協会の中に看護倫理委員会 があります。そちらにも、医療者側は一生懸命説明したのだけれども、家族、遺族の 方は納得できませんという対立が常に起きている状況がいくつか報告されています。 そういうことは、医師側としては全くあり得ないと思われるでしょうか。そのことに ついて徳田参考人にお尋ねいたします。  それから、嘉山参考人がここに示されました、大学病院が医療安全調査委員会と同 じような機能を持った場合に、例えば解剖したといたします。解剖してもなかなかわ からない、あるいはこういう結果でしたということを報告することで遺族は納得する と思いますか。  3点目は宮脇参考人にお尋ねいたします。もし、このように大学病院の中に事故調 査委員会がありました。そして、同じ病院の中で調査した結果がこれですと言われた ときに、もし納得がいかないような内容であれば、それは納得しないことになります か、それともその結果として受け入れられますか。大学病院の中に、いま医療安全調 査委員会と同じような機能を持った場合に、何か問題はありませんか。 ○徳田参考人  私は、看護協会でやられた原本を見ていませんので、結果としてそういうことがあ ったということですが、どこまで、どういう形で説明したのかがわからない限りお答 えできません。私がお話を申し上げているのは、少なくとも医療の現場で行われてい る、通常多く医療機関が行っている医療では、納得の下に診療は行われている。だか らこそ、診療計画書をお渡しし、説明をし、その説明の内容を書いて、それで診療が 始まるということです。  いま事故の問題が出ましたが、5頁の5つの項目を見ていただければわかるように、 今後に向けての私の話のいちばんのキーポイントは、診療記録の電子化です。このこ とが、改ざんには全くつながらないということをまずわかっていただきたい。すべて 何時何分に誰が何を書いたか、修正をするときには必ず線が引かれて、修正の理由も 書かれないと電子カルテは成立しないような仕組みです。ですから、少なくとも途中 経過で嘘を書くことはあり得ない、改ざんは起こらないことを前提にお話をさせてい ただいています。  それを、当然説明のときにはお話を申し上げます。このように書かれているカルテ をお示ししながら、こういう診療経過であったということをお話します。そういうこ とが行われていても、なおかついまの、看護協会でやられているような結果になった のかどうかということでなければ、私はそれについてお答えはできないというか、わ からないという言葉でしかお返しできません。 ○嘉山参考人  それは、永池先生が自然科学をやっている人とは思えない質問だと思います。なぜ かというと、我々は日々研究をしているわけです。わからないことがいっぱいあるか らです。自然科学というのは演繹法ではなくて帰納法でやっていますから、わからな いところへ進んでいるわけです。  だから、患者が理解できないというのは当然起きることです。私も法学のことはわ からないです。蛇足判決文が出て、その結論を理解できないと同じように、あるいは 宇宙船の事故があったときに、そこに私の娘が乗っていていくら説明を受けてもでき ないようにそれはあり得ると思います。なぜかというと、レジームが全く違うからで す。ですから、それをわかれというほうがまず無理なことで、それは養老孟司さんが 『バカの壁』でいっぱい書いています。人間は全部わかることができると思ったら、 それは不可能に近いと思っています。  ただ、両者の間に信頼関係があるときには理解度が増します。理解度というか、自 分で理解したということだと思います。だって知識もないし、我々医学部の学生は6 年間勉強してきて、その知識の上にいろいろな理解をするわけです。一般の人が、突 然家族が病気になっても、医学を毎日勉強しているわけではないですから、その理解 度は当然違ってしかるべきです。それは当たり前の話です。それを理解しろというほ うが無理な話なのです。  そうではなくて、いま日本の医療界が不幸なのは、不信感のある所でいろいろな話 をしたってそれは絶対に通じないです。その不信感を取るために、いま早稲田の和田 先生がおやりになっているようなメディカルメディエーターが必要になってしまっ た社会なのではないかと思います。昔はパターナリズムで医者に任せておけばいいの だ、医療に任せておけばいいのだということでしたけれども、いまは情報が過多にな っていますのでそれでは成り立たないです。ですから、我々が一つひとつ順番に、い ま徳田先生がおっしゃったようにカルテに沿ってでもいいのですけれども情報を出 していって、信頼関係を築けば理解したような感じはするかもしれないけれども、本 当に自分の頭の中で、例えば宇宙工学とは全く別の人が宇宙船の事故のことが理解で きるかというとそんなものはできません。  そういうことを乗り越えるためには信頼、トラストを築くことがいちばん大切だと 思っています。実際に養老さんが言っているように、別の分野のレジームのことは、 判決文を我々がわからないように、本当に理解しているかといえば、それはできてい ないと思います。ただし、信頼関係を築けば理解が進むとは考えています。 ○宮脇参考人  大学病院の内部調査委員会の信頼性の問題についてですが、10月2日に日弁連から 調査結果が発表されています。この3年間で内部調査委員会をやった実態について、 300床以上の病院の25%から返事があったということです。内容は、1,900件以上の 中で調査委員が大病院だけの関係者だけでやったのか6割。さらに、4割は、患者か らの聞取り調査をやっていないということです。現在においてもこういう状況である という点では、これで調査結果について、患者や被害者の納得を得ろと言われても、 到底納得できない水準ではないかと思います。 ○嘉山参考人  いまのお話にすべてが出ています。要するに、サイエンティフィックに医療事故を 分析するのではなくて、患者や家族の気持をサティスファイすることが眼目になって しまっていて、医療事故とは関係のないことになっているということは非常に問題だ と思います。患者を理解させるのは、また別の方法論でないと、患者の気持はつかめ ないだろうと思います。 ○木下委員  嘉山先生にお伺いします。特に、全国医学部長病院長会議という、全国の大学を代 表しているということですが、すべての大学が先生のお考えに同意しているとは思え ません。嘉山先生には、誤解があると思いました。先生は最初に、前田座長にこの検 討会は迷惑であるというお話をされましたけれども、これは適切な言葉ではありませ ん。私たちにも言われたと同じ思いで受け止めました。  我々医療界の代表は、みんな大学におりましたし、大学病院の状況を知っています。 大学病院で医療安全のための取り組みを進めることは、当然だと思いますし、先生の 取組みはもっともだと思います。しかし、今回我々が取り組んできたことというのは、 医療事故死が起きたときに、過失があるのならば責任を問われるわけです。しかも、 刑事訴追が突出して多いのです。  わたし達医療界のものは、刑法があり、刑事訴訟法があり、医事法があるという枠 の中で仕事をしています。どんなに我々医療界が医療事故死は特別だから、刑事罰を 免除してほしい等と主張した、ところで、司法界からは、なぜ医療事故死だけを特別 扱いをしなければいけないのかと指摘され、希望通りにはなりません。  そういうことを変えられない中で、現在の我が国では、先ず刑事責任を問われる事 情を、どのようにしたら改善できるかを、目標にして議論してきました。明確な目標 はそこです。その取組みとして、捜査機関との関係も含めて医療の質を上げて、医療 安全に資する死因究明の在り方について議論をしてまいりました。  そういたしますと、先生がお考えになった仕組みでは、医療事故死が発生し、過失 があったときにどのような流れで刑事のほうに伝えていくでしょうか。もし、大学病 院が全てを自分たちで、やるとしても、院内事故調査委員会での事故調査報告書とい うのは、警察・検察などが認めていませんから、その報告書はもっともだから、それ でよろしいというふうに受け止めてはくれず、捜査機関は独自に捜査を開始します。  今回の新しい仕組みというのは、我々医療界の代表が中心となった、医療安全調査 委員会が、第三者機関として、医療事故死の原因究明を真剣に、公平におこない、標 準的医療から著しく逸脱した医療行為等のような、医師の仲間がみても、ひどい、ど うしようもないと判断した事例のみを、捜査機関へ通知する仕組みです。それは刑事 罰の対象として、自分たちで捜査機関で捜査するけれども、それ以外の事例は、医療 機関が自分たちでやっていただいて結構ですというところまで、法務省、警察庁は公 に認めてくれたのです。これは、医療界にとっては決してマイナスな話ではないと思 うのです。しかし、それが迷惑だというのは極めて不穏当な話でありまして、むしろ それはよかったというべきではないかと思うのです。その辺のところについてはどの ようにお考えですか。 ○嘉山参考人  先生は、ものの見事におっしゃいましたね。先生が私に言ったのは、いまから3カ 月前に、これは刑法とは関係ないと。 ○木下委員   どういうことですか。 ○嘉山参考人  刑法にしない。徳田先生がおっしゃったように、要するに原因追及とペナルティを 科すこととは分けているのだと。それは警察との話合いがちゃんとされている、とい うことを先生はおっしゃいましたよね。 ○木下委員   はい。 ○嘉山参考人   いま先生がおっしゃったのは、まさに刑法であると思います。 ○木下委員   違います。 ○嘉山参考人   いや、そうおっしゃった。 ○木下委員   全然違います。どういう意味かというと刑法がある中ではですね。 ○嘉山参考人  私がいましゃべっているんです。大綱の第三次試案の最初のところに、これは罰す るためのものではないと書いていて、先生は、いまや刑法に準じなければいけないと ものの見事に。 ○木下委員  そんなことは一言も言っておりません。もうちょっと正確に聞いていただきたい。 まず私の話していることの前提としてご理解いただいた上でご判断いただきたい。 ○嘉山参考人   もう1つです、私は医療事故調査を自分でやってきたんです。 ○木下委員   いや、どんなにしても。 ○嘉山参考人  いやっ、静かにしなさい。いいですか、私は委員長として、病院長として、あるい は学部長として医療事故調査をやってきた現場からの声で、こういうふうに刑法と結 び付けば情報が出てこない事実を言っているのです。性善説でやっていればいいけれ ども、これはしゃべれなくなるかもしれない。いま、うちはブレームフリーでやって いるから、情報がこうやって出てきて、患者から非常に感謝されて、そして事故調査 をきちんとサイエンティフィックに解明できた。だけど、この大綱をやればちゃんと した調査ができなくなる可能性があるから、徳田先生もおっしゃったように、刑事罰 のことと、犯罪と医療事故の内容とは離してほしいと申し上げたのです。  先生は、医師会と全国医学部長病院長会議では、これは刑法のほうには回さないで、 それは警察とも話が付いているよとおっしゃったけれども、本日は全く別のことをお っしゃっているじゃないですか。矛盾したことを言わないでくださいよ。 ○木下委員   それは全くの誤解でございます。 ○嘉山参考人   議事録もちゃんとありますから。 ○木下委員   勝手な解釈はしないでいただきたい。ちゃんと冷静に聞いていただきたい。 ○前田座長   ちょっと誤解があると思うのです。 ○木下委員   私がお話申し上げたことは、我が国では刑法があります。 ○嘉山参考人   当たり前です。 ○木下委員  刑事訴訟法があります。そういう枠の中で、先生が医療事故の原因を究明しており ます。それは結構でございます。しかし、どんなにそうしたところで、警察はいまの 新しい仕組みができない限りは、これは問題だと思ったら警察が捜査するのですよ、 それでいいんですか。それをなくそうとしているんです。 ○嘉山参考人  日本の刑事訴訟法では、それは明治の訴訟法でそうなっているんです。ただし、医 療事故を患者のためとか、国民のためにちゃんと医療事故解明をやるのであれば、連 結してはいけないということは国際的に全部常識なんですよ、それは。 ○木下委員  そんな常識があろうと、我が国の刑法の下でやっていくわけですから、先生がどん なに自分たちだけで死因究明をやったところで、警察が入ることをふせげないのです。 ○嘉山参考人   先生ね、日本の社会は法社会なんです。 ○木下委員  それに対してどうやって守りますか、我々は。1つもあなた守ってくれないじゃな いですか。 ○嘉山参考人   健全な医療を受ける人の権利を奪うんですか、あなたは。 ○木下委員  ですから、我々医療界はもうちょっと冷静になってですね、謙虚にならなくちゃい けませんよ。我々医療界の主張がすべてじゃないですよ。現行の法律のもとでは、医 療界が、どんなに勝手なことを言おうとも、警察がそれは違いますと言ってきたらど うしますか。法律が上ですからどうしようもないんです。そんな勝手なことを言った って通らないんですよ。 ○嘉山参考人   いや、そうじゃなくて、そうではなくて。 ○木下委員   その辺はですね、是非刑法の先生に聞いてください。 ○嘉山参考人  日本の社会がいま、法社会学会にあるような応報のことはやってはいけませんよと いうことがちゃんと出ています。 ○木下委員   いけません。いけませんとかということは、我々もそう思います。 ○嘉山参考人   だから。 ○木下委員   そう思ったところで、刑法がある限りはできないじゃないですか。 ○嘉山参考人  だから連結しちゃいけないよというのは、当然小学生でも考える論理じゃないです か。 ○木下委員   全然わかりません、先生のおっしゃることは。 ○嘉山参考人   僕は普通のことを言っているだけですから。 ○木下委員   だって、先生現実的に考えてください、我々どんなに。 ○嘉山参考人   当たり前のことを言っているだけです。 ○木下委員  先生がこうしたいことはわかります、我々もそうしたいと思います。しかしその主 張が、社会では通らなきゃどうしますか。 ○嘉山参考人  でも、それをやっちゃったら、卒後研修制度と同じように、もう1つ見えない社会 現象が起きるんですよ。 ○木下委員   もう一度先生に伺いたい。 ○嘉山参考人   もう1つは予算もできていないのに、フィージビリティがあるのか。 ○木下委員  ちょっと話をずらさないでください、いま大事なことを伺いたい。そうすると、い まこれを作らないということは、いまの医師法第21条が続きます、そのほうがいい わけですね。 ○嘉山参考人   刑法第211条のことは何も書いてないじゃないですか。 ○木下委員   違います、先生、医療法21乗は、これを直さなきゃいけないんですよ。 ○嘉山参考人   書いてないじゃないですか。 ○木下委員   直さなくてはならないのですよ。 ○嘉山参考人  じゃあ、警察に聞いてください。刑法第211条を変えていないのなら、全然いまま でと変わらないじゃないですか。 ○木下委員   そうですか、そのままでいいわけですね、そうすると。 ○嘉山参考人   いやいや、先生、この法律を通したって変わらないっていうことですよ。 ○木下委員  よく読んでください、医師法第21条を変えるんですよ。 ○嘉山参考人   どこに書いてありますか。 ○木下委員   よく読んでください。 ○嘉山参考人  よくじゃない、普通に読めなきゃ駄目ですよ。素人が読んでもわかるように書いて くださいよ。 ○木下委員   医師法第21条を変えましょうという話です。 ○嘉山参考人  素人が読んでもわかるように、患者がわかるようにとおっしゃっているんだから、 素人が読んでもわかるように明文化してください、明文化。 ○木下委員   大綱に、明文化しています。 ○前田座長  ちょっとすれ違いがあるのです。私は、嘉山先生のおっしゃることもそんなに違わ ないと思うし、この図を見ていても、大学病院でも犯罪は切り分け警察に行く、ここ を通して。 ○嘉山参考人   犯罪ですよ。 ○前田座長   犯罪はね。 ○嘉山参考人   犯罪です。 ○前田座長  だけど過失犯も犯罪ですから、はっきり言っておきますけど。医療過誤は犯罪です から。それは、いま犯罪なのですから、国民がそれを犯罪だと言っているのですから。 医師が犯罪でないと言っても犯罪なのです。それは変えられませんよ。 ○嘉山参考人  そうだとしたら、犯罪の規定を自動車事故のように、自動車事故を起こしたときに は、これは犯罪だよということを言っているのです。例えば左右を見なさいとか、赤 で行ってはいけないよとか規定されているわけです。  ところが、医療的自然現象をこういう刑法の上に持ってくるということは非常に馴 染まないということは警察の方もよくご存じだし、検察庁の方もよくご存じだと思う のです。それを無理に、なぜこんなことをするのか。私は現場の声を言っているので す。 ○前田座長  嘉山先生、ちょっとだけ聞いていただきたいのですが、いまは犯罪であるものを、 医師から見たら非常に不透明な形で、医師法21条で全部届けなければいけないとか、 産婦人科で不幸なことがあったけれども、警察がもう少し医師側の基準で選り分けて やってくれればという声が、現実にはあるわけです。  その不安感を取り除くために、医師が主体となるところで、まず警察が入る前に医 師の側で選り分けましょうと。ただ、それは非常に一部なのです。今度の医療安全の 中で事故が起こったもののごく一部だけれども、国民として非常にひどい事件があっ たら、それは刑罰の対象にしてもらわないと納得しないです。それが応報です。患者 もそうだし、国民全体も納得しないです。何で医師だけが、刑事の過失から一切免責 されなければいけないのか、どんなひどい過失をしても免責されなければいけないの か。それは無理です。 ○嘉山参考人  いわゆる運転免許だとかは規定があるからいいのですが、どうやって医療の質の内 容に法律を課すかというのは、全く別問題です。  なぜかというと、大体が、指導医がついていたとか、標準的医療だと言いますが、 私がやった最近の例で、外来で頭を開けて助けたことがあるのです。脳ヘルニアです。 そんなことは教科書に書いていないのです。あれが結果として亡くなってしまった場 合には、私は逮捕されます。 ○前田座長   それは逮捕されません。 ○嘉山参考人  いや、そうではないです。先ほど社会保険の法律を出しましたが、運用だとおっし ゃる方がいるのですが、運用だと言った人たちは、作った人だからその精神はわかっ ていますが、本当に運用されるときには、その作った方々は世の中からいないのです。  そうすると、無責任に作って、運用でちゃんとやると言いながら、法文だけが一人 歩きするのです。そのときに保障がほしいわけです。そうでないと、これから日本の 医療を背負っていく正義感のある若い医師が、自然科学の中で何もチャレンジできな い。だから社会学的な面からもこの法案を見てほしいと言ったのです。ある理念から 言えば、木下先生のおっしゃることは本当に正しいのです。ただし、もっと教養をも って物事を見てほしいのです。 ○前田座長   教養をもっていると思っているのですが。 ○徳田参考人  確認ですが、この委員会で作られたものは責任追及ではないということでよろしい ですか。いまの座長のお話も、木下先生の話も、特に木下先生の話で、先生がおやり になっていることはよく存じ上げていて、我々も賛成しています。それは医師法第21 条の関係だからです。  でも、話を聞きますと、医師法第21条はあまりにも我々にとって理不尽である。し たがって、違う組織で調査をし、その中で決めたことで通知をしたり、しなかったり するとのこと。これは責任追及ではないのですか。 ○木下委員  医療安全調査委員会の目的について、あれを医療界の代表として理解して、これで いいと申しました。この委員会は、責任追及を目的とはしませんと、しかしながら、 新しい委員会で、我々医療界が中心となって原因を追及していきますが、そのときに、 これは明らかに通知しなければならない項目に当てはまるとするなら、そういう判断 を我々はいたしますから、医師の仲間の委員の判断を尊重する仕組みであるという理 解でいます。  もしも委員会が、捜査機関へ通知する判断をしないとするなら、どういうことが起 こるかといえば、いままでどおり警察の方が警察の判断で全部しますし、検察の判断 で責任追及をすることになります。しかし、我々医療界というのは、単に事故の結果 だけではなくて、事故が起こった医療の背景も全部わかるわけですから、そのような 視点で、我々医師が状況を勘案したところで、それでも標準医療から著しく逸脱した ものであると判断するならば、これは問題だから警察に通知する仕組みです。結果と して、非常に狭められた範囲のみを通知することになりますし、それ以外のことは医 療界の判断で、例えば行政処分などで対応すればよくなります。この医療安全調査委 員会は、原因究明と再発防止を目的として、責任追及とは関係なく、捜査機関は医師 を中心とした委員会の判断を尊重する仕組みであると、理解しています。 ○徳田参考人  一般的にこの文書を見せていただくと、調査をしたことによって通知をするという ことは、判断を下しているわけです。そのことは責任追及の一端を担っていると考え ざるを得ないのです。  私は何度も医療安全の話を申し上げました。医療安全の原則が何かというと、包み 隠さず報告をするということで、その原則は皆様よく知っていらっしゃると思うので す。そのことをどう担保するのか。このままいくと、我々が一般的に見ると、追及さ れていると感じざるを得ないので、本当のことが言われなくなったらどうしようとい う率直な感想なのです。  ですから、何度も申し上げているのは、是非ここでやっていただきたかったのは、 医療安全という観点で、事故死をどう捉えるべきなのかです。その議論を是非一度や っていただきたいのです。その結論をいただいた上で、もう一度ここに来させていた だけるのであれば、私どもはお話をさせていただきたいと思う次第です。是非皆様方 一人ひとりの委員から、私が今日提案させていただいた内容も含めてご意見を賜れば、 もう一度時間をいただきたいと存じます。 ○豊田委員  また嘉山先生にご質問なのですが、私も、そんなにたくさんではないのですが、事 故調査の外部評価委員になったり、いまの所属でないところの事例や、実際に医療事 故の調査にかかわった医療従事者の方々から話をたくさん聞いている中で、その方々 が誠実に事故調査をして、対応した結果、遺族の方が、刑事で問わないでほしいとい うことで、働き掛けられたケースをいくつも聞いています。嘉山先生もそのような経 験をされているのではないかと思うのですが、なぜそこまで全部警察に回ってしまう という思いになっているのですか。私は、きちんと先生のように対応されている医療 従事者の方々は、少なくとも私が知っている医療者はそういう考え方ではなくて、こ のように誠実にやっていると自然と刑事に流れる方向にいかないと思うという意見 が多いので、私はそういう方向を信じているのですが、どうして先生はそういうお考 えなのですか。 ○嘉山参考人  うちはHPに全部出していますから、うちの科の医療過誤がありました。私は国際学 会に出ていたのですが、24時間以内に戻ってきて、自分で判断して、病院長に報告し て、患者に謝罪しました。頭の中ですから、過誤がなくても出血するような場所だっ たのですが、それが明らかに計算を間違えたことがあったので謝罪したのです。  いまおっしゃられたように、患者には泣かれて、よく言ってくれたということで何 もありません。ただ、日本の刑事訴訟法は、言わなくても犯罪だと思えば自律的に捜 査します。誰が悪いというわけではないのですが、そのように刑法はなっていますか ら、患者が訴えるというのは、民事とは違いがあるので、なぜそう考えるかというの は、法律がそうなっているからです。  その法律を連結するとなると、いちばん困ると思うのが、私はこれが通れば医療事 故調査委員会を辞めます。なぜかというと、調査が適切に出来ないからです。うちは、 全部情報を出しなさいということで全部出してくるので、予防策の対応が、これはヒ ューマンエラーだ、これはシステムエラーだとできるのですが、このようなことにな ったら、うちの若い医師たちあるいは若い連中が、これでは難しくて手術ができなく なってしまう。これは現場からの声ですよ。 ○前田座長  ちょっとだけご質問したいのですが、絶対に何も言わないから全部しゃべりなさい と。ただ、先生の立場から見ても、これは犯罪ではないか、こんなひどいことをした 者を放っておいていいのかというのが出てきたときは、どうするのですか。 ○嘉山参考人  それは医学のサイエンティフィックな問題で、いま過失か過誤かというのは、我々 でも難しいのです。 ○前田座長  難しいのですが、医師の水準からいってあまりにもひどすぎる、これは医師にある まじき行為であるという場合には。 ○嘉山参考人  その場合には、この委員会とは別ですが、弁護士会が弁護士に懲罰を与えるように、 日本の医学会にガバナンスがないのです。日本看護協会はありますが、医師の場合に はガバナンスがないので、我々は自律的に、きちんとした組織をつくって、そこで懲 罰をしていくのが、社会集団の中でのプロとしての義務だと思うのです。そうやらな い限り、刑法でやるというのは、その社会が萎縮していくのではないかと思います。 ○前田座長   ただ、社会の中で医療界が治外法権というか。 ○嘉山参考人  そういうことではないです。弁護士も逮捕されたりしていますから、その場合の弁 護士の逮捕というのは刑事が入ってくるのは犯罪です。ですから、医療の場合は自然 科学なので、そこを規定するのはなかなか難しい、それを直結して刑法でやるという のは問題だと思っています。  もう1つは、木下先生はいいことを言っていただいたのですが、加藤弁護士も明文 化するということを言っていただいたのですが、全然明文化されたものが出てきてい ません。これは国会でも橋本岳さんが質問していて、文書がないことは明らかになっ ています。責任追及ではない、ピュニティブではない、ノンピュニティブだというこ とを言いながら、徳田先生がおっしゃるように、普通の人間があの文書を読めば、ペ ナルティだなと。これだけの賛成案が民主党案にいっているのは、ここから出てきて いる大綱が否定されているのです。民主主義とは一体何ですか、これだけの意見があ るのに、何で進めようとしているのか、私としてはアンビリーバブルです。 ○前田座長   法案というのは国民の代表で多数決で決めていくものですから、最後は民主的に。 ○嘉山参考人  最後にお話をしたいのですが、民主党案を出しているのですから、取り上げていた だいて、議論をお願いしたいと。 ○前田座長   その問題はあれですが、他の委員から発言はありますか。 ○加藤委員  私がいままで院内医療事故調査委員会の外部委員としてかかわった限りのことで言 うと、刑事罰が仮にあっても、包み隠さず真実を院内事故調査委員会に出られた執刀 医、ナースが、ありのままを話されたという経験をしてきています。  2002年8月に名古屋大学で起きた、トロッカーで腹部大動脈を突き刺した事件は、 患者が亡くなって、業務上過失致死ということで、警察も動き始めたケースでした。  そのケースでも事故調査委員会の際には、弁護人依頼権、黙秘権の告知を事故調査 委員会の委員長からしていただいた上で、弁護士がちゃんとついて、黙秘権の告知も 受けた上で、正直に真実を述べてくださいました。  その執刀医の気持は、二度とそういうことが起きないようにするための教訓を引き 出すという作業に、真相究明のために、自分の行った行為を正直に述べるという気持 を持っている医療者というのは、私は少なからずいると思うのです。刑事免責がなか ったら、私は一切しゃべらないという人が、医療界の人の大半なのでしょうか。私は そういうふうに認識していないです。  もう1つは、資料1の4頁で、徳田参考人が、「すなわち、原因究明・再発防止と責 任追及とは明確に分離し、それぞれ独立した組織として活動しなければならない」と いうことを書いています。  責任追及の中には、民事上の責任、刑事上の責任、いろいろあると思います。例え ば刑事上の責任でいうと、責任追及の犯罪捜査の観点からいうと警察です。そうする と、警察は独自に独立した組織として活動しなければならないというふうにも読めて しまうのです。たぶんそれは真意ではないのかもしれませんが、今回の第三次試案と いうのは、専門家が医療事故についてきちんと調査する、そういう中で、ごく例外の ケースについて、これは問題だという悪質なものに限って、警察に通知をする道が残 っていることが、医療安全調査委員会の再発防止や医療の質の向上への目的としてあ ることと、部分的に例外的に、そういう道が少しあることと、その評価を、その道が あるが故に全面的に否定ということのほうが、この時点での選択としては、全日本病 院協会としてはいいとお考えになるということでしょうか。 ○徳田参考人  何度も申し上げますように、私どもは医療安全という立場でどう捉えるのかとずっ と追い続けてきました。医療安全では、きちんと報告がなされることが大前提ですの で、そういう点でどうなのかということを考えたときには、当然医療安全の仕組みの 中での報告時の免責があることが、非常に大事な大前提だと思っているわけです。そ ういうことがすべてあからさまにされる仕組みこそ大事であるということが、私ども の大前提です。  それから、今回の話のように、いま加藤委員が話されたような、いろいろな問題の ある事例に関して、それをどのように裁くのかという話は、また別枠でやっていただ きたいと述べているわけです。  ですから、いまの、警察がどうのこうのということも含めて、そういう形で別枠で 考えたらどうかと。それが是非必要なのかどうかは別な議論ですが、そのようにしな ければならないだろうということです。  私どもが最後に提案をさせていただいた中にあったと思いますが、いろいろなこと を申し上げて、最終的に十分な説明をさせていただいて、その説明はもちろん第三者 機関の説明も含めてですが、そういうことが行われたにもかかわらず、ご家族が納得 をされなければ、当然訴訟になるのだろうと思います。現在、この試案のとおりに進 んで、その結果がもし不満だとすれば、やはり訴訟の道は残るのだと思います。  私どもは、この試案よりも、先ほど原則として申し上げた医療安全のための仕組み づくりをきちんと行って、そこですべて免責で報告をしていただくことのほうが、医 療安全全体のためにはいいと考えているので、このように分けていただきたいという ことを申し上げています。現状でも、少なくとも機構にある仕組みの強化をすること、 しかも、その原則を忘れないということであれば、いろいろなことが進展したのだろ うと思います。  もっと言わせていただくと、国の問題を申し上げさせていただきましたが、医療安 全の仕組みづくりはものすごく遅れています。それは皆様方ご存じだと思います。そ れをどうするかのほうがもっと大切なわけです。今回の議論の中身でも、死亡事故だ けではなくてもっと広げてはどうかというご議論があったはずです。それはどうされ たのでしょうか。  それは数としてできないからやめてしまったとなったではないですか。そうではな いはずなのです。ヒヤリ・ハットはどうされるのですか。結果として亡くなったかも しれないけれども、その前にヒヤリ・ハットがあるのです。それはどうするのですか。 そういうことをきちんとやっていただくシステムこそが、亡くなられたご家族の思い をきちんと対峙するような仕組みづくりにつながるのだと我々は思っているのです。  ですから、何度も繰り返して、医療安全という観点から、事故死について十分に議 論はされましたかとお尋ねしているのです。皆様方にお尋ねしたいです。それは、私 どもはなかったと思っているからです。確かに、いまのご質問に直接はお答えしてい ないかもしれませんが、前者のことが非常に重要であると。それが、少し時間がかか るかもしれないですが、最終的に、ご家族なりあるいは国民の信頼を取り戻すのに重 要だと思うからです。安全なシステムができなければ、一部の事故死だけを取り上げ ても、絶対にそれは配慮が一方に偏っています。私どもはそう確信しています。 ○嘉山参考人  私が答えます。加藤先生は先ほどから性悪説で我々を見ていて、今度は性善説を使 うのですね。我々医療人が隠し事をすると言っていながら、今度は、この法案が通っ ても、性善説で、ちゃんと答えてくれる人がいましたと。ただ、私も特別なのかもし れませんが、「私に言えば警察には黙っているから」というやり方を名古屋ではして いるわけですから、みんな言ってくれます。それはすごく一部のことだと思います。  ただ、先生の論理の展開だと、刑事に回してもちゃんと言ってくれるということは、 先ほど徳田先生も質問したように、これは事故調査をするものだと言いながら、ペナ ルティを下すものだということを裏で言ったと同じことですよ。  ですから、前田先生にお願いしたいのは、ここまで揉めている法案を無理に通さな ければいけない。というのは、性善説、性悪説のどちらでもきちんと対応できるよう な制度になっていないから、こうなっているのだと思います。ですから、誰が悪いと いうことではないのですが、もう一度患者、国民のための事故調査の在り方を考えて みるべきだと提案します。あと民主党のことも取り上げていただきたいと思います。 ○前田座長   ほかの委員の方でご発言はありますか。 ○児玉委員  嘉山先生に質問なのですが、資料2-4で、「山形大学医学部附属病院医療事故(誤投 与)調査報告書」とありまして、これを私どもにお見せいただいた趣旨というか、大 学付属病院に任せてくれればというご発言もありましたので、この調査報告書は民事 責任にも使えないし、刑事責任にも使えないし、責任追及型でもないし、先生が強く ご主張になるノンピュニティブ、コンフィデンシャル、インディペンデント、エキス パート・アナリシスのすべての要件を満たしたものだという趣旨でお出しになられた のか、現行法上ではこのようなことしかできないのだという趣旨で出されたのか。大 切な努力をされてきたと思うのですが、先生のご評価は。 ○嘉山参考人  これは調査報告書が何枚かありますが、その中の一部です。大学附属病院の調査委 員会がどのようなことをやっているかの例示として出しただけで、風聞で大学病院は 医療事故を隠蔽しているのではないかとか、そうではなくて、事故調査をしてやって いますと。  最後に対策まで書いてありますが、そこの対応までやって、あと検証をしています。 ですから、いま厚生労働省がやっている日本医療機能評価機構と同じことを、大学病 院で平成13年にはやっていますということを、お示ししたかっただけで、そのほか の法律上のことは、私は法律家ではないので、この話がどういう意味を持つかわかり ませんが、要するに趣旨は、調査をきちんとやっていますということで出しました。 ○児玉委員   51頁をご覧いただきたいのですが。 ○嘉山参考人   趣旨はそれだけなのですが。 ○児玉委員  医療事故調査専門委員会の結論で、「本件における医療事故原因は、主治医である○ ○医師が、注射伝票に誤った記載を行い云々」、「主治医のプロトコールの読み違いが 本件医療事故の最大の原因と認定した。家族に事実が説明されなかったことについて は、○○教授及び○○講師(現教授)の責任、○○病院長の管理責任が明白である」。 こういうものの言い方は責任追及型と誤解される部分もあると思いませんか。 ○嘉山参考人  大学では、医療事故に関しては大学の名誉を傷つけたということがあって、懲戒と いうのがあって、刑事とは違います。大学の名誉を傷つけたということで、懲戒に関 することについて議論をしただけで、これが法律的にどうなるかは私は法律家でない のでわかりませんが、そういう趣旨で書き加えられました。 ○児玉委員  民事にも刑事にも使われる可能性があるという認識で、書き加えられたのですね。 それとも絶対にあり得ないと。 ○嘉山参考人  学内の懲戒ということで書いただけで、民事に使うのか刑事に使うのかという意識 はありませんでした。それは事実です。 ○鮎澤委員  せっかく3人の委員に同席いただいているので、お伺いします。まず1点は嘉山参 考人に。大学に預けてくれれば、いまのやり方で結構いけるのだという趣旨でお話を いただいていると思うのですが、いま全国の大学が、「わかりました、いざとなれば これでいきましょう」という形で、すでにご了解いただけている案として伺っていい のでしょうか。  それから、先ほどそういった形について、宮脇参考人からご意見をいただいたので すが、徳田参考人に、嘉山参考人が出しておられる案について、つまり大学病院とい うのは日本全国の病院の中でも、ごく一部の医療機関ですが、日本全国の制度を考え ていかなければいけない中で、そのお立場から、ご意見があったらお聞かせいただき たいのです。 ○嘉山参考人  まず、フィージビリティの問題だと思いますが、この委員会で出している大綱と同 じように、この大綱にしても予算がわかっているわけではないし、人員がわかってい るわけでもないし、「○○大臣所管」と書いてある大綱では、どこでやるかわからな い。海のものとも山のものともわからないで、この大綱案は具体的ではありません。  同じように、大学病院のすべてがこれを受け取るかということは、まだ確認はして いません。ただ、案としては、大学を使ったらいいのではないかという、大学病院の 医療事故に対応する委員会では、確認しています。  ただ、先生はそうおっしゃるけれども、これはデータは出ているのですが、大学付 属病院は一部だとおっしゃいますが、ハイリスクは大学病院でやっているのです。今 度の診療困難でお産を拒否されたのがありましたが、あれは全部大学病院に連絡して います。難しいものはほとんど大学にきているので、一部だと言いながら、ハイリス クのものが占める率は、どの大学も多いのです。ただ、医療の中でも自然治癒する医 療から、医療がなければ亡くなってしまう医療もあって、医療のレベルには差があり ますから、そういう意味では、ハイリスクは大学病院というのは、患者の生死に関係 するのが多いので、いちばんいいのではないかと考えて、提案をしたわけです。  それは大綱案と同じように、何も大学でも了解を得ていないではないかというもの ではなくて、これはこの委員会がそうしなさいとか、法案を作れば、我々としては準 備をします。国立だったら、医療安全管理協議会、私立も協議会がありますし、公立 は別々なので、各市町村によって違っていて、県立もあれば府立大学もあるのですが、 私立と国立はいまでも対応できます。ですから、この委員会がどのような結論を出す かです。 ○徳田参考人  ご質問は大学病院のそういうシステムに、我々周りの者が参加をするかどうかとい う話でいいですか。私は、基本的には各病院が医療安全に対する取組みはしなければ ならないと考えます。ですから、大学病院のように、そこまで大きな人数でやれるか は別ですが、それは基本的にそうあるべきだろうと思っています。  その中で、私は個人的にも、いまある日本医療機能評価機構のシステムをちゃんと 利用して、そこの中にすべての情報が入るというシステムが必要だと考えています。 しかし現実論として、それを仕切ったり、調査をして検討したりするのが、大所帯に なって難しい。今回のご議論の中でも、現実論としては地方にお任せするという話が ありました。その1つとして大学病院が使われるのだと。大きなシステムの中のその 部分を、大きな核として担われるのが大学病院のシステムであり、そこに我々がそう いうものを届けるのがいいという判断になれば、それは大賛成です。  しかし、何度も申し上げているように、情報は1カ所に集めてきちんとやらないと、 医療の安全は最終的に議論し尽せないと思っています。いまも残念ながら日本医療機 能評価機構の報告例は、大変少ないです。私個人のことを言わせていただくと、私ど もの病院は120床ぐらいで運用していますが、1床当たり10の報告があるということ でいうと、確実に1,000以上のヒヤリ・ハット報告が出ています。ですから、そうい うことも含めて、医療安全の仕組みを考える中に、こういうシステムを組み込むこと は大賛成です。 ○前田座長  だいぶ時間を超過してしまいました。これで議論が尽きるまでというのは無理です ので、今日のところはここで打ち切ります。これで6団体からご意見を伺って、もち ろん聞きっ放しということではなくて、重く受け止めて、次の議論につなげていきた いと思います。次回はモデル事業の関係者から、現状とか課題、現場の声を聞くとい う意味では重要だと思いますので、そのご報告を承って、議論を進めたいと思います。 事務局で準備が大変かと思いますが、よろしくお願いいたします。最後に事務局から、 資料4について何かありますか。 ○医療安全推進室長  事務局より資料4についてご説明します。資料4は第三次試案及び大綱案の地域説 明会の開催予定です。本日いろいろとご議論をいただきましたが、これらの議論につ いて国民の皆さんに、現時点の検討状況をお知らせし、また理解を深めていただくこ とを目的として、下記の日程により説明会の開催を予定しています。いずれも一般公 開として、詳細は決まり次第順次公表します。  まず、今月19日になりますが、九州地区として、福岡国際会議場で開催します。厚 生労働省からは大臣官房参事官の岡本から説明するとともに、いろいろな方からのご 意見をお伺いします。  その後の予定については、詳細は未定ですが、各地域で開催します。また、資料4 に記載のある4地域以外でも、日程が決まり次第お知らせします。以上です。 ○前田座長   次回はいかがでしょうか。 ○医療安全推進室長   次回は現在調整中ですので、調整が出来次第ご連絡いたします。 ○前田座長   長時間ありがとうございました。以上で終わります。   (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579)