08/11/07 第6回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応に関する研究会議事録 労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会(第6回)議事録 1 日時  平成20年11月7日(金)13:30〜15:30 2 場所  厚生労働省職業安定局第1会議室(合同庁舎5号館14階) 3 議題   (1)障害者関係団体からのヒアリング      ・日本障害者協議会常務理事 藤井克徳氏      ・特定非営利活動法人DPI日本会議条約担当常任委員 東俊裕氏      ・全国社会就労センター協議会会長 星野泰啓氏 4 資料    1−1 障害者の労働・雇用における合理的配慮・差別禁止の実質化に向けて        (藤井常務理事提出資料)    1−2 障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)        (藤井常務理事提出資料)    1−3 職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する勧告(第168号)        (藤井常務理事提出資料)    1−4 保護雇用資料(藤井常務理事提出資料)    2−1 「わが国における『合理的配慮』のあり方について(論点整理)」に対する意見        (東条約担当常任委員提出資料)    2−2 韓国差別禁止法並びに同施行令(抜粋)(東条約担当常任委員提出資料)    3  「障害のある人びとの働く場の確保のために」(星野会長提出資料) ○座長  それでは定刻になりましたので、第6回の労働・雇用分野における障害者権利条約へ の対応の在り方に関する研究会を開催いたします。本日は、前回に続きまして、障害者 関係団体からのヒアリングを行います。今回は3人の方にご出席いただいておりますの で、ご紹介申し上げます。  まず、日本障害者協議会常務理事の藤井克徳さんです。次は、障害者インターナショ ナル日本会議条約担当の常任委員、弁護士の東俊裕さんです。最後が、全国社会就労セ ンター協議会会長の星野泰啓さんです。 ○星野  よろしくお願いします。実は今日、セルプ協設立当初から障害のある方々の権利につ いてずっと追求し続けてこられた、制度・政策担当副会長の鈴木さんに都合をつけてい ただけたものですから、セルプ協からの意見を一緒に出していただきます。よろしくお 願いいたします。 ○座長  それでは、本日の議事に入ります。今日は今ご紹介いたしました3つの団体からご意 見を伺います。順番ですが、最初、日本障害者協議会の藤井さんからお話しをいただい て、その次は障害者インターナショナル日本会議の東さんから、最後に全国社会就労セ ンター協議会の星野さんからお話しを伺いたいと思います。それぞれ10分から20分ぐら いでお話しをいただいて、最後に一括して質疑・意見交換をしたいと思いますので、よ ろしくお願いいたします。それでは、まず日本障害者協議会の藤井さんからご説明をお 願いいたします。 ○藤井氏  日本障害者協議会の藤井でございます。私の方からは、資料が3つあります。ILO159 号、それから168号、それから保護雇用研究会の資料集の目次だけ抜粋したものです。 まずは、権利条約が採択されまして、来月で丸2年です。この間の省庁の動きを見てみ ますと、このような形で権利条約に関して検討会をもっていますのは、雇用対策を中心 とした厚労省だけのような感じがします。大変敬意を表します。と同時に、権利条約の 中でこの労働分野というのは非常に大事な部分でありまして、この部分の行方というこ とは、障害者の社会参加にとって本当に大きな影響を持ちますので、ここでの検討会で の成り行きを注目しております。私は、このテーマにありますように、特にこの合理的 配慮、それから差別の撤廃ということが、実質化に向けてどうあるべきかということを お話しようと思います。私は日本障害者協議会と同時に、障害をもった人々の作業所問 題にも関与してきたものですから、今日は就労全体という視点から少し意見を述べよう と思っております。  まず、この合理的配慮及び差別をなくしていくという観点で考えた場合、しかも、こ れに労働という分野を重ねた場合、少なくともこの権利条約の、以下8つの点は熟知を して、あるいはベースにして議論をすべきだろうと考えます。即ち、第1条の障害のこ とを概念規定した目的条項、そして、合理的配慮あるいは差別の定義を書いてある、あ るいは言語と手話の関係を明記した定義です。そして、大変大事なのは、第3条、第4条 の一般原則及び一般的義務です。ここにこの条約の神髄も書かれております。そして、 第19条のこの自立生活、さらにこの本検討会でのポイントであります労働及び雇用とい う第27条ということになります。さらに第28条の相当な生活水準ですが、これもやはり 労働と不可分であります。そして、最後に33条の実施及び監視、モニタリングというこ とです。これらを関係づけながら見ていくところに本当の意味での合理的配慮、あるい は差別の撤廃ということが多分浮かび上がってくるのであろうと考えています。この場 は、おそらく合理的配慮がメインらしいんですが、全部これらは相互不可分であります ので、この観点から是非とも今後の議論も展開していただきたいと思っております。時 間がありませんので、詳しくは述べませんが、次に入っていきたいと思います。  まず、現状の認識です。この現状認識を誤ってしまいますと、やはり問題意識も変わ ってしまいますので、現状がどうかということ、そこでの問題意識を極凝縮的にここに 書いておきました。障害者の就労に関する現状につきましては、いわゆる二元政策体系 になっているということです。つまり、雇用という政策と、それから、括弧付きでござ いますけれども、福祉的就労という施策であります。これらに関しましては、これまで の様々な発展の経過はあるにしましても、やはり大きくは法定雇用率そのものの設定の 低さと同時に、こういう低い雇用率についても法制定以来1回も達していないという問 題、しかも企業規模が大きいほど未達成企業が多いという問題等、これらは枚挙にいと まがありません。一方で、福祉的就労に関しては、大変低い低工賃で、そして非流動的 な状況に置かれているという問題があるように、こちらもやはり様々な問題点が内在し ているということであります。  この問題点の中身を見ていきますと、ここに3つ挙げておきました。1つは、繰り返 しになりますが、やはり雇用施策と福祉施策といわれてきた二元政策体系の固定化とい うことになっているということであります。2つ目は、やはり雇用の問題でありますが、 この全体の雇用政策のポイントが、どうも個に着目していない。個というのは障害当事 者あるいは障害労働者ですが、この個に着目しているのではなくて、どうしても雇用促 進法の限界から、事業主あるいは企業の観点から講じられているという点があると思い ます。それから、福祉的就労は、これは労働法規の全く対象外で、労働法令からの除外 になっているという問題です。こういう点が問題点として凝縮していえば、あるのだろ うと思います。これは関係しております。  問題の背景ですが、これはここにいる方々の多くが、官公庁の方も、また民間のNGO も含めて、やはり縦割り行政の問題点はやはり挙げざるを得ません。2001年1月6日に中 央省庁の再編で統廃合がありました。私たちが特に注目したのは、旧厚生省と旧労働省 の統合ということでした。ここで如何に統合効果が現れるのかということ。つまり、施 策の連携ができていくのだろうかということについては、大変注目していました。しか し、結果的には、その縦割り行政の弊害というのは今なおやはり強く残っています。様 々なことで工夫はされていますけれども、本質はどうも変わっていません。2つ目は、 この間、様々な国際的なこの分野での潮流、実践面、あるいは研究面、政策面での発展 の経過があるにも拘わらず、ややこの流れということを軽視していたのではないかとい うことであります。さらには、障害観の不十分さです。特に職業障害・労働障害という ものと、身体障害者福祉法や知的障害者福祉法、精神保健福祉法の、ここでいう障害と は、これがある面ではきちんと峻別されていないという問題です。例えば、よくありま すように、ポリオという障害、あるいは二分脊椎という障害なんかで、上肢障害はない けれども、しかしそれが下肢障害で、これが1種1級イコール労働政策上もそういう視点 で対応される。一方で、全く手の巧緻性がない脳性マヒで、歩行できるだけで3級。そ ういう点で、労働障害はありながら、身体障害者福祉法での呼称の程度に立脚している。 こういう点で、障害観も旧態依然として変わっていないという問題があります。さらに は、先ほど私は個に着目しないということを言いましたけれども、どうもその辺では、 やはり経済界のそういうふうなプレッシャーもあるのではなかろうか。この法定雇用率 問題は、日本は低いとか、守られていないとかという中で、やはりよく出てくるのは、 国際競争力という中で、そこまで障害をもった人たちのことはなかなかカバーしにくい んだということがあって、この辺での社会的責任は、企業を含めてどうなのかというこ とがあります。それから、こういう障害者雇用政策、障害者の就労政策の生成過程にお ける致命的な欠陥がやはりなくはないのではないか。つまり、当事者の意見の反映がど うなっているのかということも含めて、こういうことがあるのではないかと思います。 雑駁ですが、こんなことがあるだろうと考えています。  問題は、やはりこの先どうしていくのかというのがポイントであります。私どもは基 本的にはこの二元政策体系の解消ということを声高に言いたいわけです。現行では、こ こに略図を書いておきましたけれども、福祉か雇用か、福祉的就労か雇用施策かという 二分法的なモデルでこの間やってきました。お分かりのように、昭和26年のあの通知以 来、授産施設は労働法規対象外ということで、この流れから、一貫してこれが交叉する こと、あるいは連結することはありませんでした。あるべき方向は、ここにありますよ うに、対角線モデルというふうに仮に命名してみました。つまり、重い障害であっても、 労働へのニーズがあった場合には、ぎりぎりまで雇用行政が、雇用施策が、雇用領域が 介入するということです。当然、重ければ重いほど、福祉、場合によったら、定期通院 だとか、人工透析とか、こういう医療も一部関与していきながら、重くなればなるほど 福祉の部分が厚くなってくる。さらにもっと寝たきりの状況とか、遷延性の意識障害だ とか、あるいは本当に強度・高度障害等で、どう考えてもご本人の状態から見て、全部 福祉でということもあり得ると思うのです。一方で、福祉的なものは何も要らない。雇 用だけでという方もいるでしょう。それはそれで確かにいるでしょうけれども、しかし、 基本的にはこうして雇用ということが重い障害者にも関与していくということがポイン トではないかと思います。今日私が主張したかったことは、この対角線モデルにどうい くのかということに尽きると思うのです。  さて、そのためにはまさに合理的配慮をどういうふうに考えていくのかということに なっていくと思います。まず、この合理的配慮ということをどんな人たちを対象にする かということになってきます。おそらく第5回までのここでの議論というのは、雇用施 策のみ考えているというふうなことが多分支配的だったと思います。もし、個々に着目 するとすれば、私は対象者は働きたいという希望をもっている、ニーズをもっている人 々に対して、やはり合理的配慮が探求されて然るべきです。個に着目といったのは、少 し分かりやすくいいますと、AさんならAさんという方が、昨日までは一般労働市場で働 いていたが、たまたま調子を崩したり、企業の事情で福祉的就労のところに帰ってくる。 昨日までは最低賃金をクリアしていたが、しかし、これが福祉工場あるいは就労継続の B型とかを含めた時、2万とか3万という給料になってしまう。これは個人の労働力では ありません。どこに身を置くかによって変わってくる。つまり、福祉的就労イコール合 理的配慮除外というのはおかしいのであって、個に着目という視点が貫かれるのだとす れば、当然ここにも合理的配慮があっても然りです。  さて、この合理的配慮という中身なんですが、この場でも多くの検討がされましたよ うに、ヨーロッパの国々では既に様々な試みが展開されています。先ほどの対角線モデ ルに注目していただいて、要するに重い障害者に対して先ほど福祉や医療と言ったんで すが、この部分こそが合理的配慮の1つのヒントだろうと思います。そのポイントは、 賃金補填ということがまず1つ出てくるのではないかということであります。さらに、 2つ目には、人的な支援ということです。もちろん、人的な支援といった場合、通勤の 時間帯も当然入りますし、さらにはジョブコーチとかジョブサポーターということも入 るでしょう。平たく言うと、生産活動における介助ということも入ってくるでしょう。 こういう様々な視点から人的な支援ということがなくてはいけない。まさに労働の補助 具です。  今日、私の目の前にパソコンがあります。私は全く目が見えません。そうしますと、 お手元のレジュメと同じものがこの中に入っているわけです。そして、こういう労働補 助具があったら、できるわけです。目が見えないというのは、情報障害と移動障害なわ けです。少なくとも移動障害に関しては相当クリアするということです。こういったも のがどれぐらい手当されているかという問題があります。  そして、この合理的配慮の中には一部医療も入ります。さらには、特に医療というの はお分かりのように、私もずっと作業所をやってきましたので、特に精神障害者の方は どうしても定期通院は欠かせません。これは命綱です。そういうふうに考えると、人工 透析もそうです。そういう点では、やはりギリギリの生きてゆくための医療ということ は、有給休暇でされるべきです。それから、当然、施設や建物なんかの配慮ということ もあります。(※提出レジュメにミスプリントあり。用件→要検討)  そして、やはり国際的な視点ということについては、皆さん方のこの研究会では重視 して欲しいと思うのです。特にILOでは大変優れた方向性を半世紀以上前から出しており ます。日本も批准した159号条約、これはお分かりですね。1992年です。ILO159号条約の 批准に関して、この時の国会論議は確か25、6回しています。当時の国会議事録を見ます と、2回にわたって賃金補填に関しては、検討ということを2回おっしゃっています。こ んなことを考えてみた場合、こういう批准時での国会論議も含めて、もちろんILO159号 条約を後で見ていただきたいと思います。それから、159号条約を補填する168号勧告、 それからその前の99号ですね。昨今では、リーセントワークですね。ここと障害者の働 く権利保障ということで、日本語版も出ています。これは去年の12月3日、国際障害者デ ーにILOがわざわざこうした論文を作成したということで、リーセントという、本当に生 き甲斐だとか、品格ある労働とでもいうんでしょうかね。ILOが結成以来ずっと探求して きたこのことを障害分野にも考えていこうということで出したものです。あるいは、EU 指令なんかも参考になります。  こういったことを踏まえていけば、自ずと1つの答え、進むべき道というのは見えて くるのではないかと思います。  最後に、では当面どうするかという問題になってきます。4つ挙げておきました。1つ は、批准が既に各国で行われています。日本もこの批准ということを近い将来考えてい く必要があります。ただ、私たちは、批准はあくまでも手段であって、目的はこの国の 障害分野の国内法制をやはり高い位置に持ち上げていくことです。その批准を目的とし なければならないですね。従って、形式批准はもうたくさんです。やはり、実質批准と いう点でいうと、これは相当にここは考えていただきたい。お分かりのように、条約と いうのは、まずは訳語をどうするかという問題がありますが、まだ仮約段階です。では、 正訳でどうするのか。2つ目は解釈です。3つ目は現行法とこの国際条約との比較、そし て、改善、課題ということです。こういう点からもう1度労働・雇用の状況をやはり把 握をすべきです。 それから、障害者基本法の定時改正が来年6月に迫っています。議 員立法とはいっても、年内にも政府から案を出してきます。この時に、第2条の障害者 の定義をどうするのか。それから、第3条等を含めて合理的配慮をどう位置づけるのか。 あるいは差別禁止という条項ですが、これを条項なのか単独立法の方向を示すのかとい うこと。これは、お分かりのように、即、基本法というのは全部被ってきます。ここの 行方には相当意識もし、また注文もつけるべきだろうと思っています。つまり、ここで 方向がロックされますと、今後制約を受けます。こういう点で、本当に障害概念規定の 中に、障害というのは環境との相互作用ということをちゃんと入れられるんだろうかと いうことを含めて規定するのか。もう二重定義はたくさんです。基本法はこういってい る。でも、実定法はこうだなんてことでは、どうも格好がつかない。そして、これは研 究、検討ですが、こういった体制についてもやはり本当に、もちろんこうした場も立派 だと思うんですけれども、合理的配慮をこういった幅広い視点から考えていく必要があ ります。さっきも言いましたように、本当に重い障害者に雇用行政も関与するとなりま すと、当然この厚労省の5階フロアとの関係をどうしていくのかということも含めて、あ るいはNGOにあっても、今までは雇用分野とは違ったけれども労働に関与した分野、今日 もセルプ協が来ていますけれども、そういうところ等も含めて、やはり研究あるいは政 策の検討体制自体について、やはり検討が必要だろうと思います。  最後に、そもそも統合効果をなかなか発揮できていないですね。行政組織機構自体も やはりどうしていくのか。例えば、障害者支援局などという局が可能かどうかというこ とも含めて、これは労働問題だけではありませんけれども、やはり労働・雇用と福祉と いう観点からも、やはりその在り方については検討に着手してもいいのかなと考えてい ます。以上、時間も参りましたので、この辺で私の提言を終わります。 ○座長  ありがとうございました。それでは、はいどうぞ。 ○藤井氏  実はこの資料集の中で、ILO159号は皆さん方も多分よく読まれていると思います。 168号勧告がここにありますけれども、もう1つ、保護雇用研究ですが、実は今日ここに 松井委員がいらっしゃいますけれども、日本では長い間、保護というとネガティブイメ ージなんですが、これでいっているのは、もう大変旧い話でもあるし、競争原理から守 るということも含めてなんですが、要するに社会福祉とか一部医療も含めた雇用政策の 有り様ということで、これは1980年、何と28年前に既にこうした資料が収集されて、か つ研究も行われていたと思いますので、過去のこうした研究の系譜をもう1回想起してい ただくということです。これは現物は約350から360ページです。こういったものがいく つかありますので、こんなことも紐解いて、これまでの過去の研究の到達点も是非踏ま えて欲しいということで、あえて目次を掲載しておきました。どうもありがとうござい ました。 ○座長  ありがとうございました。それでは、続きまして障害者インターナショナル日本会議 の東さんからご説明をお願いします。 ○東氏  こんにちは。弁護士の東と申します。今年の5月3日に権利条約が発効しましたが、2002 年から始まりました障害者の権利条約の条約審議に当たっては、第2回から8回まで、JDF の推薦を受けて、政府代表団顧問という形で、当事者の意見を日本政府の方に伝えると いう仕事でずっと関わってまいりました。この合理的配慮というのは、非常に条約の基 調になっている部分です。今日は、労働に関する合理的配慮というのがこの研究会の大 きなテーマだろうと思うのですが、第1回の研究会の時に配布された資料の4-1という、 我が国における合理的配慮の在り方についての論点整理というものがありまして、それ をいただきましたので、それに対応する形で、こちらの方から資料2-1と2-2という形で 出させていただいております。今日はこれに沿った形でお話しをさせていただきたいと 思っております。ただ、各論的にいく前に、少し合理的配慮の総論みたいなことを少し お話しさせていただければと思っております。  それでは、まず総論としては、合理的配慮がなぜ差別禁止の1つの類型として位置づ けされたかというところが問題ですけれども、機会均等という従来の平等の概念の中に、 やはり実質的なというところを入れて考えると、これまで作為類型として、別異性、そ ういう取り扱いをしてはならないというだけでは、機会均等が実質的に保障されないと いう考え方の中で、合理的配慮をしないことは差別だというように規定されるようにな ってきたということです。日本では、こういう合理的配慮については、耳慣れない言葉、 新しい概念だというふうによく言われます。確かに、言葉としてはそのとおりなんです が、実はそういう考え方が日本には全くなかったかというと、そうではないんですね。 例えば、労働関係法規自体は、要するに使用者側と働く人たちの実質的な力の格差をな くして、均等にするという形で、労働する側にいろんな配慮を制度的にしていくという 考え方もありますし、また、年少者とか女性の保護では、男性労働者と比べて、そこの 格差を直していって、実質的に年少者も女性も労働の機会均等を図るという観点からな されているというふうに考えれば、類似の考え方はそもそもあったということも言えま す。そして、一般的には、例えば、何か困っている時に、「すみません。ちょっとお助 けしてください。」という形でお頼み申すと、皆さんは大体してくれるわけですね。だ から、社会の実態の中でも、合理的配慮というのは、みんながしていることなんです。 ただ、これが何が新しいかというと、これまではモラルの世界でしかなかったわけです ね。このモラルの世界からルールの世界へ変えた。最低限これはやっぱりしないといか んよという社会のルールにしたというところが新しいというだけで、そんなに突飛な考 え方で、日本には全く実態もないものをよそから持ってくるというようなものでは決し てないというふうに、まずご理解願いたいと思っています。  次に、合理的配慮の規定の差別禁止法制における位置づけみたいなものなんですが、 権利条約は3つの差別類型があることを明らかにしております。1つは直接差別、2つ目は 間接差別、3つ目は合理的配慮をしないことという、この3つです。間接差別については 明文の規定では入っておりません。ただ、これは審議の中で当然間接差別もあらゆる形 態の差別ということとか、効果という文字の中に入っているんだということについては、 全体として全く異論がないところです。ですから、3つの類型があるということなんです が、この3つの類型の整理というのがまだ若干できていないのかなというふうに思いまし て、私の方で簡単にこれを類型化してみました。  それで、直接差別、間接差別は、何が差別になるのかという判断対象としては、ここ で作為と書いてあります。要するに、一定の行為をすることが差別になるのかという話 です。ところが、合理的配慮というのは、しないこと自体が差別になるかどうかという 問題になります。それで、では、その対象となるものが差別に当たるかどうかという、 その判断のメルクマールとしては、直接差別においては取り扱い行為自体が同じなのか、 違うのかという、別異性の、そういうのが1つのポイントになります。間接差別におい ては、取り扱いそのものではよく分からないけれども、その適用の結果として、効果と して、違うものがある。結果とか効果における別異性というものが判断のメルクマール になるかなと思っています。それに対して、合理的配慮の場合は、その便宜提供がない ことによる違う効果と結果がメルクマールになると思っています。  そして、それぞれの行為が差別に当たると判断された場合には、法的評価として、直 接差別と間接差別はその作為自体が違法という評価を受けるわけです。それに対して、 合理的配慮の場合には、しなかったこと、不作為自体が違法ということになります。そ れに基づいて、一般的に、司法的な効果としては、直接差別や間接差別は損害賠償であ ったり、無効確認ができたり、場合によっては、例えば地位保全とか地位確認の請求な んかができるようになります。それに対して、不作為違法の場合には、損害賠償もでき ます。あと1つは、この不作為が違法だということは、前提として作為義務があるとい うことが前提になります。作為義務があるにも拘わらず、それをしないということが違 法ということですから、司法的効果としては作為義務に基づく作為請求ということが出 てくるかなと思っています。これは、今の一般の民法ないしは民事訴訟法の体系の中で いえる部分だと思っていますが、その横に書いている行政救済手段というのは、日本に はありません。それで検討課題ということなんですが、いろんな形があり得るかとは思 いますが、最終的に、やはりその機関による差別是正の勧告ないしは命令という権限が 付与されるべきかなと思っております。  これが簡単な3つの類型の説明ですが、事案によって突き詰めて考えてみると、どの 類型が問題になるのか、なかなか簡単には分からない事例も多いんですね。よく考えて みると、実はこの3つの類型が重なり合っているという問題があるんです。これについ ては、学説でもあまり整理されていない分野です。それで、定説というものがあるわけ ではありませんが、私の見解としては、事実の持つ多面性によって評価規範が競合して いるという問題、民法では請求権競合、例えば、不法行為と契約責任が競合するという ような問題がありますが、それと同じような問題だろうと思っています。  例えば、直接差別と合理的配慮をしないということの重なり合いの事例を挙げてみま した。例えば、点字による入社試験を行っていないのに、視覚に障害があるということ で、試験自体を断る。こういう場合は、障害があるから試験させないという直接差別と、 点字による入社試験をしないという、つまり合理的配慮をしないという、この2つが重 なっているわけです。間接差別でいうと、初級試験の要綱の中に、職種とあまり関係が ない、例えば英語のヒアリングの試験科目が書いてあるということがあります。これを そのまま適用すると、聴覚障害のある人はこの科目は零点です。だから、なかなか昇格 できないわけです。これは聴覚障害のある人だけに対して不利益に働くような基準とい うことで、間接差別の問題になります。では、それが違法とされても、その科目をどう するんだというところで、例えば、平均点を認めるとか、そういう形での合理的配慮が なされないと、差別は根本的に解決しないというような形で、いろんな重なり合いがあ ります。こういうふうに重なっているということは、1つの事案に対して、直接差別な いしは間接差別だけ禁止しても、やはり合理的配慮というものをきちんと位置づけない と、差別はなくならないということなんです。だから、この3つの類型は相互に、独自 の守備範囲をもっていますが、実態としては関係しているということがありますので、 この3つの類型のどれか1つだけ抜き出して議論するというのは、やはりバランスを欠く と思っております。  次に、合理的配慮の有用性ということで書いております。特にADAの制定後のアメリカ の経験の中で、一番成功していないのは労働分野だという話をよく聞きます。これは何 故なのかという問題がありますが、1つは、今、ADAの定義の改正が行われたというふう に聞いております。これは合理的配慮に問題があって、あまり芳しくないということで はなくて、むしろ障害の定義、特に、Substantialと書いてあるんですが、実質的なと いう中の判例の解釈として、緩和手段があれば、障害者ではないんだという形で、入り 口でそもそも切ってしまう。それがために、あまり有効でないというふうに言われてい るわけで、決して合理的配慮の責任ではないというふうに考えております。アメリカで は、裁判所に訴える前に雇用機会均等委員会にまず申し込まないといけないというシス テムになっていますが、実は、そこで大体事案の80%ぐらいは解決しているわけです。 その残りの20%ぐらいが訴訟になって、そこではほとんど負けているという状況です。 ですから、行政救済規範としてはADAは十分役に立っているわけです。合理的配慮の基 準なんかもちゃんと作って、そこで話し合いで大体落ちています。ですから、ADAがあ まり成功していないからという単純な理由で合理的配慮はどうなんだろうとならないよ うにお願いしたいと思っています。  次に、そういう合理的配慮を含む差別禁止法の必要性ということを書いています。こ れは一般的な話ですが、日本では差別してもいいと思う人は誰もいません。憲法は内心 の自由を保障していますけれども、そんなふうに表向きで言う人はいません。しかし、 では差別は何なのかと聞いた時、誰も答えられないというのもまた現実なんです。これ は何故かというと、一人ひとりの考え方が足りないということではなくて、物差しがな いからです。法律的な基準がないからです。だから、みんな分からないという状況に置 かれているわけです。でも、これではやはり市民社会における行動規範というものが欠 けるわけですから、障害をもっている人からみれば、差別だといっても、問題となって いる人からみれば、そんな意識でやったのではないというような、すれ違いみたいなも のが生じるわけです。そういう意味で、やはり合理的配慮を含めて、生活分野に分けて、 分かりやすく、何が差別なのか、何が合理的配慮なのか、そういう基準を示すことがや はり一番の必要性の根拠だろうと思っています。何も処罰するということが目的ではな いということを理解していただきたいと思います。  それが前提で、あとは行政ないし司法の救済の裁判規範となるということです。実は 障害者基本法は理念法であって、具体的な裁判の規範にはならないよというのが、いく つかの判例であります。ですので、やはり障害者基本法だけではどうしようもないとい うのが現状だというふうに認識しております。  それと、やはりその差別禁止法の中で、独立した救済機関とかモニタリング機関、そ ういうものがやはりなければ、差別をなくしていくということは非常に困難だと思って います。  そして、総論の最後としては、今回の研究会は障害者の権利条約にどう対応するのか ということで開かれていると思うのです。ただ、実際の話としては、比較法的に、アメ リカ、ドイツ、フランスではこうだということがベースになっているようですけれども、 あくまで権利条約以後にできた法律というのは韓国の差別禁止法ぐらいです。ですから、 外国の法律が権利条約に整合しているかどうかという検証抜きに、それが前提での議論 というのは少しまずいのではないかと思っています。それが大体総論として言いたい部 分です。  次に、個別論点という形で進んでいきたいと思います。まず、合理的配慮の位置づけ です。論点整理の2ページ目だったと思うのですが、下の方に、合理的配慮を行うこと を一般的な使用者の義務もしくは労働者の請求権とするか否か、または、差別禁止の判 断要素とするか。合理的配慮の拒否そのものを差別として違法とするか、またはその拒 否により差別が生じていることを違法とするか。といった点が検討課題として考えられ ると書いてあるんですけれども、ちょっと私はこの違いというのがよく分からないので、 的外れな意見になってしまうかも知れませんが、英文では、否定もしくは拒否、もしく はしないことということに当たる言葉は、denialという言葉です。これは、辞書的にい えば否定みたいな形になるわけですけれども、アメリカのADAも、しないこと、not makingとdenialというのは、そんなに区別して書かれているのかなという感じもするん です。通常は不作為状態があって、それに対して改善要望があって、するかしないかと いうことで、しないと判断した場合は、拒否という形になるわけです。だから、単なる 不作為を差別の対象と考えるのか、拒否を差別の対象と考えるのかというのは、単にど こから差別になるのかという、そのぐらいの違いなのかなと思うのです。しかも、不作 為の場合も、何時から不作為になるかというと、民法的な話をすると、作為を求められ た時、催告をした時に、具体的な履行遅滞になるわけです。そこからが違法なんです。 だから、何も要求もされていない時点で、何もしていないからといって、それが違法に なるということはありません。そういう関係からいくと、あまりそんなに実質的には変 わらない議論ではないかなと私は思います。基本的にはやはり不作為が中心的な概念な わけです。その不作為が違法だと評価されるということは、当然そこの前提として作為 義務が発生しているということです。そういう義務があるにも拘わらず、しないという ことが違法なんだという論理になるわけです。だから、民法的にいうと、労働者側に請 求権があるし、使用者側には履行義務があるという形になるのかなと思っております。  それを前提に、民事訴訟法という形で司法救済が起こった場合に、日本は基本的には 損害賠償は金銭賠償で、現状回復という主義を採っておりませんので、この不作為の場 合の作為請求が認められても、特に、例えば、スロープ設置命令なんかもアメリカでは 出せるようですけれども、なかなか特定性に困難があって、適切な移動手段をつけろみ たいなことは、できると思うんですけれども、それを担保するには、やはり懲罰的賠償 とかというのが検討されるべきかなとは思っています。しかし、なかなか立法全体に関 わる問題なわけで、ここだけの議論では済みません。やはり行政救済の辺りで、そうい うものを担保していくことが必要なのではないかなと思っています。  それと、障害を理由とする差別という中で、「障害を理由とする」という訳があるん ですが、これはここだけの問題ではないのですが、「障害を理由とする」という訳し方 をすると、意識していない差別とか、何かそれが本当に理由となったというところを出 さないと、差別にならないのかというような形で、非常に狭く限定されるおそれがあり ます。だから、これは「基づく」という方がいいのではないかとは思っています。  それと、差別の内容で、論点整理のところで書かれてあるのは、障害の有無だけでは なくて、種別とか軽重なんかも入るのではということなんですが、それは当然障害者の 権利条約の第5条の2項を見てもらっても、障害に基づくあらゆる差別ということを書い てありますし、これは後の部分でも触れますが、例えば、軽度だけを除外するというこ とになれば、その除外自体が法的に違う取り扱いになりますから、まさしく差別的なも のになるわけです。ですから、ここでは当然あらゆるものを含むということが必要だと 思います。  次に、間接差別と書いてありますけれども、これは先ほど言いましたので省きます。  それと、ここで問題にされている論点整理としては、次の論点としては、差別と労働能 力の関係が問題になっているわけです。もちろん合理的配慮を提供した上での話なんだ と思うのですが、労働能力と賃金の評価が真に釣り合うものであれば、そこに格差があ っても、それはしようがないとか、当たり前の話ではないかと思います。しかし、問題 は労働能力をどう評価するか。そこなんです。僕の友だちは養護学校の高等部を出て、 一般就労したんですが、中学卒と同じ賃金体系を適用されていたわけです。何故かとい うと、高等部であっても、養護学校では中学並だとか言われたというのです。こういう 賃金体系だとやはり差別的なわけです。それから、労働能力といっても、例えば、僕が 道路工事の会社に就職して、スコップで穴を掘れと言われたら、僕の労働能力はほとん どゼロです。でも、ユンボを使って穴を掘れと言われたら、ほとんど他の人と変わらな いわけですね。あれは手だけで、全然足が要りませんから。だから、同じ人間の労働能 力を計るにしても、一般的に一律に、この人は何%ないとか、そんな話には決してなり ません。だから、やっぱり個人の問題ではなくて、その職場の中身、する仕事の関係と か、そういうものを総合してからでないと、労働能力というのは判定できないわけです。 だから、ドイツでは何か重度障害者とか、いろいろ分けてあるみたいですけれども、本 当にできるのかなと思います。単に手帳が何級だから重いとか、軽いとかとは、全然そ れは関係ありません。僕はちなみにダブルカウントされているのではないかと思うんで すね。今、学園大というところで働いているんですが、ちょっとそこのところはきちん と確認してきませんでしたけど。でも、教室の壇上にスロープがあれば、別にほとんど 問題はないわけです。それは何故ダブルカウントされるかというと、やはり手帳が重い からなるわけです。だから、本当に労働能力はどう評価するか。どういう要素をもって 評価するか。非常に微妙なところがありますので、障害をもつからといって、労働能力 が一般的にないとか、逆に、軽いから、労働能力が高いとか、そういうことでは決して ないという感じをもっております。  それが評価との関係ですが、問題は、その能力に関していろんな制度があるわけです。 1つは、最低賃金除外制度です。これは昔から僕は裁判の中でというか、相談の中で、 いろいろ調べてみましたが、労基署がきちんとした基準をそもそも持っていない。例え ば、相談を受けた事例の中では、一般就労で10年ぐらい14、5万もらっていた人が、リ ストラに遭って、職安に行ったら、手帳を取りなさいと言われて、取りました。そして、 福祉工場に入った途端、最賃除外です。そして、56万しかもらえなかった。そういう最 賃除外の基準みたいなものは、非常に不合理だと思うこともあります。  そして、実は、そういう一般就労できるような人たちは、手帳的には軽いんです。そ うすると、片方では、障害年金が出ないんです。そうなると、最賃は除外されるし、年 金はもらえない。どうやって生きていくのかという、そういう問題が発生します。これ は、労働行政からいうと、一般の人よりも労働能力が落ちるから、最賃除外するんだと いうことなんです。一方、厚生行政からいくと、あなたたちは障害者の中で能力が高い から、年金は渡しませんよということなんです。しかし、これは実際の場面では、全く 困ってしまう自体になります。こういう整合性のない施策は、やはり障害の程度によっ て、他の障害者と違う扱いをしている。能力に関する差別というような問題が、制度的 なものとして、浮き上がってくるのではないかと思っています。  それと、次に福祉的就労、あらゆる形態の雇用の問題ですが、実は障害者の権利条約 では雇用の定義自体は設けておりません。設けず、あらゆる雇用という形で、あえて「 あらゆる」ということを最後の方で付けたんですね。これは、保護雇用ないし福祉的就 労みたいな言葉を条約の中に入れてしまえば、それが固定化するということになるとし て、それを恐れたために、結果として「あらゆる雇用」という形で、そういう言葉を使 おうということになりました。それで、条約としては、やはり一般雇用と福祉的就労の 垣根をなくすというのが方向性だと思っています。しかし、日本はさきほど藤井さんが 言われたとおりなんですね。これは、労働の本質から考えると、労働法の本を開くと、 定義があるわけです。賃労働とは何かということですね。これを見たら、福祉的就労で あれ、一般就労であれ、区別ができないわけですよ。にも拘わらず、分けられているわ けです。それは、やはりおかしいわけで、この枠をなくしていくということが必要だろ うと思っています。仮にこの枠があることを前提にしても、この合理的配慮というのは、 差別禁止に位置づけられているわけです。この差別禁止というのは、何も労働の分野だ けではなくて、全分野をカバーするわけです。ということは、合理的配慮も全分野をカ バーするわけです。だから、枠が分かれていて、福祉的就労だから合理的配慮がないか というと、そうでは決してありません。福祉的就労であれ、労働とは全然関係ない生活 の場面 であれ、合理的配慮というのは、当然全分野に及ぶわけです。だから、その枠が分かれ ているとはいっても、要するに権利条約の5条でいうところの合理的配慮は及びます。 しかも、中身としては、やはり労働ではないと限定しても、状況は同じような状況があ るわけですから、当然この27条にいうところの禁止規定、合理的配慮の趣旨が、合理的 配慮の中身として当然及んでくる。そういう関係になります。だから、福祉的就労の部 分はこの合理的配慮から外すとかという議論は成り立たないと私は思っております。  次に、ちょっと飛ばしまして、6番目で、差別が禁止される障害者の範囲で、この一 般的な定義の問題があります。でも、これを話し出すと長くなるので、この一般的な定 義の問題はちょっと置いておきまして、次に、障害の定義に入る人の中で、一部の人だ けを対象とすることができるのかということです。これは先ほども言いましたように、 合理的配慮は、あくまでも差別禁止の範疇なわけです。ですので、間口は全ての人でな ければならないわけです。だから、条文的にいうと、全ての人は障害に基づいて差別さ れない。障害者は障害に基づいて差別されないではないんです。「全ての人」が主語に なるんです。その全ての人の中には、あらゆる重たい人も軽い人も、どういう障害であ れ、全て入るというのが基本だと思っています。これとちょっと違うのが、積極的な差 別是正措置、アファーマティブ・アクションとか言われています。これは差別禁止とは 違う考え方です。だから、ここの部分においては、特定の人たちに対してという形がで きるわけです。だから、雇用促進法はどちらかというと、アファーマティブ・アクショ ン的なものですから、そこにおいて対象を絞るということは当然理論的に可能です。し かし、差別禁止という観点からいけば、合理的配慮の対象を特定の障害者とか、重度と か、そういうように限るということは、理論的にできないと思っております。  そして、全ての人を間口にしますけれども、具体的に適用があるかどうかは、その判 断基準によって個別的に必要かどうか、どういうものが要るのかどうかという判断にな るわけです。それが筋だろうと思っています。  ということで、次に事業所の範囲ということですけれども、ADAは一定何人以上と決 めています。韓国の差別禁止法も段階的に下限を下げていくようですけれども、全てと いうわけではないようです。しかし、権利条約はそういうようなことは全く触れており ません。ですから、原則として、要するに、例えば10人未満の企業で働く障害をもつ人 であれ、1,000人の工場で働く人であれ、同じ権利ですから、これは全てのところに適 用されるというのが原則です。ただ、費用の面をどうするかということが問題だろうと 思います。ADAと違うところは、ADAは、国は金なんかを出さないというのが基本です。 ところが、今度の権利条約は、国の合理的配慮を確保する義務というものが一般的義務 の中にも入っているし、27条の中にも入っているわけです。ですから、国が合理的配慮 ができるように支援する義務というものがあるから、何も事業所の範囲を限定する必要 はないのではないかと思っています。  それから、差別が禁止される事項の中で、特に採用差別というものが論点として挙が っておりますけれども、実際の判例においては、この採用にまつわる訴訟というのは結 構起こっております。ここでもちょっと引用しておりますけれども、確かに立証の問題 とか、その後のどういう手当をするかという問題は、確かに他のところと比べて、ちょ っと大変な面はあるかも知れません。しかし、だからといって、立証できるものまで排 除してしまうようなこと自体まずいと思います。特に権利条約では明文として書いて有 るわけですから、それを省くということは、やはり条約違反というそしりを免れないの ではないかと思っています。  それと、合理的配慮の具体的な内容なんですが、これは非常に個別性が強いわけです。 女性とか人種とか、そういうマイノリティーグループと違うところは、個別性が非常に 強いということです。だから、必要とされる合理的配慮も、やはりその人のニーズに合 うようなものでなければならないし、その人のニーズも置かれた環境によって全然違う わけです。だから、双方の個別的な事情を比較考慮した上で、決まってくるという関係 にあります。具体的なものというものを一律に、バリアフリーの基準みたいな形で設け るということは難しいと思います。ただ、分かりやすくするためには、例示を多く設け るということですが、ただ、それが制限列挙であってはならない。例示列挙という形で やるということが大事だと思います。ADAもそういう形を採っております。  次に、人的支援との関係です。ここで非常にまだきちんとした形で議論されている問 題ではありません。ですので、これは私の私見だと思ってください。実は、本来であれ ば、自立支援法も一般就労している人に対する自立支援というものがあって然るべきだ と思っています。ですから、現在はないわけですけれども、一般就労する人に対する自 立支援法的な支援と、合理的配慮として提供される支援と、これをある程度切り分けて おく必要があるのではないかと思っています。例えば、会社の入り口まで行く移動支援 ですね。これは基本的に公共交通機関の問題なんかもありますが、それが整備されたと しても、なかなか行けない人たちもいる。その場合、移動支援を今は労働行政の方から 事業所に対するいろいろな補助という形で、送り迎えの費用とかを出していただいてい ると思います。しかし、本来であれば、これは自立支援法上の移動支援でカバーすべき ものではないかと私は思っています。その他、ジョブコーチも、これはいろいろ考え方 があるところなんですが、やはり就労中のその人の側についた支援ということで、僕は あくまでも自立支援法上の支援、個別給付であるべきだと考えているわけです。  この切り分けのポイントは、1つは支援の内容が職務に関連しているものかどうか。 そうではなくて、職務関連性があまりなくて、属人的な個人に対する介護というものか どうか。そこが1つのポイントだと思っています。2番目は、介助者との人間的な信頼関 係の中に、会社の意向というものが入ってもいいものなのかどうかです。例えば、身体 介助です。作業中におしっこがしたくなって、介助してもらう。これは同僚にというわ けにはなかなかいかない。専門性もありますし。そういうのは、やはり自立支援法の介 助として入る。ジョブコーチについても、会社に雇われた人がジョブコーチで入った場 合、これがジョブコーチになるのか。本人のサイドに立って会社の環境を変えていくと いう仕事なわけです。そうすると、要するに、会社の指示で動くということでなくて、 やはりその個人の立場に立って、個人を支援するというものでなければなりません。そ ういう意味では、やはり会社の合理的配慮義務というよりも、むしろ自立支援法上のも のにしていくべきだろうと思っています。今あるジョブコーチは自立支援法上ではなく て、労働行政の中の1つのメニューとしてなされていると思うのです。そこら辺の整理 をしていくことが、1つの課題になるのではないかと思っています。  それと、不釣り合いな、または加重な負担ということなんですが、ここは抽象的な話 なので、読んでいただければ有り難いのですが、アメリカの雇用機会均等委員会の作成 したガイドラインです。これは文献引用を忘れていましたので、ペーパーを出しており ますが、負担があるのは基本的に当然のことなんです。だから、それが加重かどうかと いうことは、低いレベルでこれを認定されたら、ほとんど合理的配慮は役立ちません。 このガイドラインにもあるように、極めて困難な場合というふうな形で、やはり具体的 な指針を作成していただければと思っているところです。その関係で、あと1つ問題な のは助成制度です。助成制度を設ける場合に、どういう財源を持ってくるかというのは 大きな問題でしょうけれども、障害者の権利条約は国家のそういう義務を定めておりま すので、やはりこれは導入しなければならないだろうと思っています。  最後に、権利保護の在り方ということで、権利条約の33条は、締約国は、自国の法律 上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠 組みを作れといっていますが、日本ではこれがあまりないわけです。ですから、救済と しては、この中の保護ということのための、独立機関をやはりつくる必要があるんです が、問題は労働分野だけに限ったものでいいのか、包括的にやるのか、という辺りが大 きな論点としてあると思います。  最後に、雇用促進法と障害者の権利条約の関係ですが、雇用促進法を丸ごと権利条約 は認めているわけでは決してないわけです。条文の5条の4項です。障害者の事実上の平 等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解し てはならない。あと、27条でもありますけれども、そういう用件をクリアする必要があ ります。このような観点から見ると、特例子会社とかダブルカウントというのは、やは り見直しが必要だと思っています。言いたいことはまだ他にもありますが、大体この辺 で終わりたいと思います。ただ、最後に韓国の障害者差別禁止法と同施行令の関係部分 を資料の2-2ということで添付させていただいております。これを説明する時間がない ので、見ていただければ有り難いと思っています。以上です。どうも長い間有り難うご ざいました。 ○座長  ありがとうございました。それでは、最後ですけれども、全国社会就労センター協議 会の星野さんからお願いします。 ○鈴木氏  それでは、先ほど星野会長の方からお話しがありましたように、私が代わって提案を させていただきますので、よろしくお願いいたします。  それでは、ペーパーの最後に資料3で表裏の短いものを入れてあります。まず、私ど もの組織はここで主に検討されている一般的な雇用関係にあるところではなくて、なか なかそういう一般就労というか、競争的市場の中で働くことが難しい障害の重い人々を 対象としています。主に授産施設とか、新しい自立支援法の事業体系でいえば、就労継 続支援あるいは移行支援の事業体系で、あるいはさらに重い人の場合、生活介護事業と いうのがありますが、そういう人々の働く場としてやってまいりました。今、いろんな 法律を根拠にしておりますが、およそ法定のこういう諸施設が4,000近くありますが、 そのうちの私どもの協議会には1,000数百の福祉工場から始まって、障害の重い小規模 まで含めて組織されております。全体として、法定施設に働く障害者の皆さんが12、3 万いますし、小規模を含めますと、20万近くの障害のある人々が毎日働くことを願い、 それを受けとめながら、支えているという実態にあります。この問題については、冒頭 に藤井さんの方からいろんな問題提起がされましたので、かなり重複している部分があ りますが、私どもの協議会で願っていることについて、是非この場でも検討いただけれ ばと思います。  まず、私どもは組織がつくられておよそ30年が経ちましたが、元々はお話しにありま したヨーロッパで広く展開されていた保護雇用で、保護された下での障害者の働く権利 を保障している、こういうシステムを日本の中でも実現したいというような出発の理念 というか、考え方が土台にあります。そういう意味では、30年間、いろんな角度でこの 問題を展開してきましたが、残念ながら、まだ我が国では、就労継続支援A型事業とか 福祉工場とか、部分的に類似したものはありますが、本格的なそういう制度のものは未 確立だというふうに認識しています。  最初に、日本版保護雇用(社会支援雇用)制度創設の必要性という柱を立ててありま すが、これは今から3年前、私どもは就労関係5団体といっていますが、授産施設や小規 模作業所の諸団体が集まって、厚労科学研究でこの検討をさせていただきました。就労 体系全体でいうと、そこに書いてあるように、主に3つの類型が障害者の働く問題を解 決していく上では必要だということです。これは言ってみれば、当たり前のことであり ますが、一般雇用や自営業の領域での支援と、そこで働く人々への支援と、なかなかそ ういう働くことを願っても難しい保護雇用といいましょうか、社会的支援を受けながら 働く場、そして、なかなか働くことが中心に座らない重度重複障害者の皆さんの日中活 動の場、こういう領域があるであろうと考えます。そして、決定的に、自立支援法でも 問題点は指摘させていただいているんですが、一般就労のみではなくて、こういう保護 的な、福祉的な、支援を受けながら働くというところの整理や、重視していただくこと も必要なのではないかということは、私どもが一貫して訴えている中身であります。  ただ、この制度は、問題点としては、現行は、授産施設等は先ほども指摘がありまし たように、1つは大変月々の給料というもの、この領域では工賃といっていますが、低い ということであります。我々の調査では、厚労省も調査をしていますが、月額平均して 1万数千円という、小規模に至っては1万円以下という実態にあります。多くの社会的評 価として、これが労働なのかという問題があります。我々としても、この問題を制度や 仕組みとしてどう解決していくのかということを考えてきました。もちろん内的な努力 もありますが、その1つの方法は、広くヨーロッパでは賃金補填で支えて、そして最賃 をクリアしていくという所得保障を含めて、仕組みがつくられています。これを日本的 にどうしていくのかという問題は、年金制度等々を含めて、いろんな整合性や制度の組 み合わせがあるかと思いますが、私どもがずっと大事にしたいと思っているのは、今度 の権利条約もそうですが、働く権利を充実、強化、発展させていくという視点でありま す。そういう点では、率直に言いますと、今の授産施設等就労支援施設は、働く権利と いう点でいいますと、率直にいって無権利状態という現実にあります。そういう点で、 こういう機会に労働行政の関与も含めて、権利の向上や実質化を実現するというのが一 番大きな願いであります。  もう1つ、2番めに提案させていただいているのは、現行制度をどう充実していくのか ということです。制度の充実の我々の方向にとっては、大きく2つあると思います。1つ は、支援するスタッフや、その専門性や、量的な強化という点があります。もう1つは、 何といっても、仕事を確保していく。良質で安定した仕事を確保していく。こういう両 面からのアプローチがないと、この改善は進まないと思っています。残念なことに、職 員配置は自立支援法によって後退させられたと、我々は思っております。長い間、職員 配置は、知的分野でいうと、7.5対1という配置が、今度は10対1という全ての基準にな りました。さらに、就労支援の強化策として、営業職員ですね。作業開拓職員といって いましたが、配置があったものが、この新しい法律では根拠をなくしているという実態 もあります。そういう点での改善ということが1つありますし、もう1つ、私どもが30年 間言い続けてきたことは、安定した仕事をどう確保していくかということです。その制 度的なバックボーンといいますか、仕組みをつくっていただきたいということです。  そういう点では、ようやくこの間、1つは優先発注、つまり授産施設等に仕事を発注 した場合の優遇税制制度をつくっていただきました。まだまだ不完全ではありますが、 大きな一歩は踏み出されたと思っています。そういう点では、民間企業等による民需と、 政府を含めた官公需の仕事を確保していく仕組みづくり、法制度づくりが大きな課題だ と思っています。民需についていいますと、ドイツ、フランスなどではやられているん ですが、民間の企業が一定の法定雇用率を定められているわけですが、授産施設等に仕 事を出すことによって、雇用カウントにみなすという、みなし雇用制度があります。そ ういう制度を日本の中に何とか実現できないかということをずっと提案してきています。 それが1つと、現在国会で提案をされて、継続審議中になっていますが、ハート購入法 といって、公の政府を始め地方公共団体等に仕事の確保を確保していく、優先的に障害 者の働く場に仕事を出していく仕組みを制度的につくっていただきたいと思っておりま す。  大きな2つ目として、就労継続支援A型事業の福祉契約と利用者負担と書いてあります が、率直にいって、この制度設計そのものは障害者から大変不評であります。具体的に 言いますと、就労継続支援A型事業という新規事業は、雇用契約を一方で結びながら、 もう一方でサービス契約を結ぶという、二重契約の下に置かれています。そして、障害 者の声で言えば、働きに行っているのに利用料を取られる。こんなことはとっても本人 たちからすれば、納得できないというのです。こういう根本的な、基本的な矛盾があり ます。やはり、これを是正していく必要があるのではないかと思っております。  3点目に、今度の制度とも関連して、今までも指摘がありましたけれども、日本のこ の雇用率制度の見直しを図っていただきたいというふうに思っております。先ほどみな し雇用の話もしましたが、日本がモデルにしました欧米のドイツやフランスの雇用率制 度に比べて、日本はとても低い雇用率制度です。韓国の例をちょっと入れておきました が、韓国についてはもうご存知だと思いますが、日本をモデルにして、この制度はスタ ートしました。当初1%だったと思いますが、現在は3%です。この3%というのは、公的機 関でありまして、一般雇用は2%です。そういう点では、日本を追い越していって、制度 改善・拡充が進められています。是非、そういう点でも根本的な率の引き上げをお願い したいと思います。これはもう指摘されていますので、繰り返しませんが、ダブルカウ ントの問題です。これは障害者の雇用実態や促進になかなか結びつかないと思っていま すので、是正を求めています。  本研究会のメインテーマであります合理的配慮につきましては、それぞれ東先生、藤 井さんから、検討の維持や働き続けていくための環境、等々の手立ての問題がたくさん 提案されました。特に付け加えることはありませんが、私どもが日頃感じていることで いえば、制度の期限が労働サイドの補助金だとかサポートにはいつも付きまといまして、 そういう点で、この補助金制度が切れたら、なかなか雇用が安定しないという障害者の 実態があります。そういう点で、切れ目のない、期限を付けない制度の確立というのを 是非配慮の前提の仕組みの上で考えていただきたいと思っています。  もう1つは、これももう指摘されていますのでいいかと思いますが、特に実質的に雇 用契約にある就労継続支援A型事業などを想定しましても、障害をもつ人々が働き続け たり、ディーセントワークという話もありましたが、働き甲斐や生き甲斐や尊厳をもっ て働く、働き続けるという意味でも、それに向かった努力を我々もしていかなければい けないと思っていますが、過度な負担がそのことを実現させないということも現実的に は起こるわけで、そういう点では、公的なサポートというか、そういうことが実現でき るシステムをつくっておいていただきたいと思います。  最後ですが、これはもうたくさん指摘をされていますので、ご存知かと思いますが、 働く障害者の側からいえば、一般就労に向けて努力をしていく場合に、労働サイドでや っておられる訓練校等々に行けば手当が出る。しかし、福祉サイドのサービスを使えば、 利用料が発生する。同じ目的や同じ願いをもっていて、場によって全く違った差別的な 扱いが、我が国の制度の中に存在している。これは、この機会にしっかり是正をしてい ただきたいというのが我々の願いであります。以上であります。よろしくお願いいたし ます。 ○座長  有り難うございました。3団体からご説明いただきましたので、あとは議論をしてい きたいと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。どうぞ。 ○笹川委員  発言者への質問でもよろしいでしょうか。まず、藤井さんと東さんにお尋ねします。 先ほどの労働問題の話の中で、雇用と福祉的就労を2本の柱ということでお話しがあり ました。しかし、それだけではなくて、いわゆる自営というものがあるはずなんですが、 この自営業に対する考え方をお示しいただきたいと思います。単なる福祉的就労ではな くて、自営業で立派に自立している方は大勢おられます。特に重度障害者の中には、む しろ自営業で自立している方の方が多いぐらいですが、その辺に対するお考えをお願い します。  それから、東さんにもう1つお尋ねします。ある自治体で、障害者を別枠採用してお ります。その採用の条件として、活字が読める程度の視力のある者という規定がありま して、重度視覚障害者はシャットアウトされていますが、これをいわゆる差別とみるか、 それとも雇用側からみて、当然のことと見るか。我々からすれば、当然差別に当たると 思うんですが、その辺のご見解をお願いします。 ○座長  それでは、藤井さんからお願いします。 ○藤井氏  先ほどは少し飛ばしてしまったので失礼いたしましたけれども、おっしゃるとおり、 自営というのは障害のある人の就労にとって大変大事な働く形態だと思います。先ほど 鈴木さんもおっしゃっていましたけれども、私たちも障害をもった人たちが広義の働く ということ、あるいはデイタイム、日中、9時から5時とか、大体3類型あると思います。 一般労働市場及び自営というのが1つのカテゴリーです。それから、様々な支援を受け て働くという形態の、今でいうところの福祉工場とか授産施設、就労継続支援事業とい うタイプです。それから、どう考えても、ご本人のニーズも含めて、健康増進やら、あ るいは生活のリズムやらということで、精神障害者の統合失調のかなり重い方々、ある いは重複障害の重い方たちを含めて、デイアクティビティセンターという、3つのカテ ゴリーがあります。先ほども言いましたように、デイアクティビテイという分野は、こ れはやはり労働法規からは実際問題として難しいだろう。ただ、活動としては、生産活 動はあってもいい。おっしゃるように、自営に関しては、確かに大変大事な部分です。 例えば、知的障害でも身体障害でも、考えてみてください。自営業の場合、おそらく人 的な支援がやっぱり要ると思います。または、労働補助具も多分要るでしょう。もちろ ん出入口、トイレ等も要るでしょう。あるいは、はり・きゅう・マッサージなんかに関 しましても、例えば、人的支援というのは、出張治療なんかでも多分要るでしょう。従 って、この部分ではやはり様々な支援や、社会との関係での合理的配慮ということが、 これはかなり労働から生活との接合点、境界線等もあるけれども、これはこれでやはり 考えていく必要があると思っていますので、この分野の合理的配慮に関しましては、あ るいは差別禁止に関しましては、かなりこれはこれできちんと詰めておく必要がある。 これも含めて、当然考えていく必要があると思っております。 ○東氏  東です。先ほど私の方から用意しました資料の中の、2頁の間接差別と合理的配慮の 不提供が重なり合うという事例の中を全部読みませんでしたけれども、例えば、市役所 とか公的機関で、実は自力通勤とか自力執行能力というのがよくあります。この自力執 行能力というのは、中には自分でいろいろな文章を読めるという、要するに、他人に迷 惑をかけないという、そういう条項自体が実はあるわけです。この条項が一般的な条項 として適用されるという限度において、これは間接差別だと思います。ではなくて、障 害者だけに適用されるのであれば、これは直接差別です。何故かというと、要するに、 こういう条件を定めるということは、うちは合理的配慮は一切しませんよということで すから。しかもこれは公務所がやっているんですよ。これは絶対許されないことです。 どんなに小さいところでも、いろんな職種はあるわけです。ですから、文字が読めなけ れば仕事ができないということはあり得ないと思います。それはちゃんと情報提供すれ ばいいわけですから。僕は典型的な差別だと考えております。 ○座長  他にございますでしょうか。どうぞ。 ○花井委員  東さんにお伺いします。障害者の定義について、どのように考えたらいいのかという 課題があると思います。今、日本での障害者の認定基準や、雇用促進法に基づく法定雇 用率のカウント基準は、「障害者手帳」の保有者となっているかと思います。例えば、 国際疾病分類を基準としている諸外国もありますが、障害者の労働能力を評価する場合、 その基準をどうしたらよいのか。 ○東氏  僕はそもそも無理だと思いますよ。だって、さっきも言ったように、僕個人にしても、 どういうところで何をするかによって、僕のもっているポテンシャルというのは全然発 揮できないところと、全く問題なく発揮できるところと、様々あるわけです。軽度の知 的障害の人が重度の人よりも労働能力が高いかというと、むしろ多動の人なんかであれ ば、やはり周りの援助はいっぱい要るわけです。だから、手帳のランクでやるというの は、本当に無謀なやり方だと思います。やはり、それは本当に個別性が高いから、会社 でいろいろ人事評価されていると思うのですけれども、一般化には非常に馴染みにくい ものだと思うんですね。だから、そもそもそれを制度化して、一定の制度の枠に入れる ということ自体が、そもそもできない話なのではないかと私は思っております。ただ、 何らかの一定の目的で、何か合理的な要因があれば、それもできないわけではないでし ょうけど、少なくともこの差別禁止法という観点からいくと、やはり、社会モデル的に 広く捉えなければならないです。ただ、サービス給付をという目的からいうと、やはり そのサービスを必要とする形で限定するということは、理論的には可能です。だから、 障害の定義といっても、その法律の目的とかによって、相対的なものであるということ はいえるんですね。ただ、その目的と実際の判断基準がきちっと合理的に結びついてい るかというと、そこが一番難しい話になるわけです。その絡みで言うと、合理的配慮と いうのは、差別禁止の類型ではありますけれども、他社が何かをするというサービス提 供するという類型に似ているわけです。だから、合理的配慮は一定の人だけにするとか という発想も、サービス給付法という発想からいくと馴染みやすいんですけれども、あ くまでも合理的配慮は差別類型ですから、これは限定できないと私は思っているんです。 最も広くあるべきだと思っています。 ○花井委員  そうです。そうすると、例えば、職場で障害者が働く場面を考えた時に、その障害者 にどういう配慮が必要かというのは一人ひとり異なってくると思いますが、その人が障 害者であるということを、誰が何をもって判断するのかということです。 ○東氏  これは本当に原理的な話ですけれども、これは権利法なんですよ。だから、本人が主 張しない限り対応する必要がないというのが、ドラスティックな考え方です。ただ、権 利主張ができない人たちがいます。その人たちをどうサポートするかというのはまた別 な話です。そういうサポートも十分にやった上で、別に私は要らないよと言えば、おせ っかいな話なんです。だから、何か公的機関が、この人はこんな合理的配慮が必要だか らしなさいと、上の方から提供していくものではない。あくまでも権利ですから、権利 として要求した上で、事業所が提供することについて不満であれば、行政救済委員会と か、最終的には裁判とか、そういう形にはなりますけど、あくまでも、その個人が要求 したものが合うかどうかというネゴシエーションの過程の中で大体決まっていくという のが、一般的なパターンではないでしょうか。だから、前もって、この人にはこんなも のが必要だ。そのためには、何か判断基準が要る。やはり、あくまでもその人がその職 場で何が必要なのかということに重点を置かれた方が僕はいいと思います。それしかな いと思いますけど。 ○座長  他にいかがでしょうか。どうぞ。 ○花井委員  先ほど、鈴木さんから、みなし規定という話があったと思うのですが、「みなし規定」 は諸外国においても、それは一般的な制度として採用されているんでしょうか。 ○鈴木氏  専門家の松井先生がいますので、もし補足があればお願いしたいと思いますが、我々 が実際に現地に行って、調べて体験してきたところは、ドイツとフランスです。それは、 日本でいうところの授産施設ですが、ワークショップに仕事を出すと、そのカウントの 仕方がいろいろあると思うんですが、例えば、その国の平均賃金が、例えば日本でいう 500万ぐらいだとすれば、年間に500万の仕事を提供すれば、1人雇うというような計算 をしながら、その企業に与えられている雇用率の全部ではありませんが、半分ぐらいま ではカウントできるという仕組みをもっているわけです。そういうのは、割当雇用は全 ての国でやっているわけではありませんので、割当雇用のあるところがどれだけやって いるかといのは私たちは全部調べているわけではありませんが、今言ったような、日本 がモデルにしたドイツやフランスは現実にそれをやっているという姿があります。 ○座長  松井委員、何か追加されることはありますか。 ○松井委員  先ほどドイツ、フランスという例を挙げられましたけれども、両国でも少しシステム が違っていて、例えばドイツの場合は、納付金の減額をするという形で、雇用率にはカ ウントされていませんが、フランスの場合は、さっきおっしゃったように、6%の雇用率 のうち、3%までは、そういうみなし雇用という形でカウントしてもいいということにな っています。 ○座長  そういうのは、雇うのが面倒だから、仕事を出してしまうというふうに、企業がそう いう方向に行動するのではないかという批判はないんですか。 ○松井委員  ありますね。ですから、日本のように、民間の場合は1.8%といった(ドイツなどと比 べ)低い雇用率ですから、、そこでやれば、本来雇用されるべき企業であまり雇用され ないということになってしまいますけれども、6%や5%という雇用率で考えれば、半分ぐ らいはそういう形で認めてもいいのではないかというところで妥協しているんだと思い ます。 ○座長  どうぞ。 ○今井委員 東さんに聞きたいんですが、権利を有する対象者をどう考えるかということです。最初 に障害をもつ本人、次に過去障害があったということで現在差別されている人、それか ら、最後に本人には障害がないが、家族に障害者がいるために通常勤務がなかなか難し い人。これも広い意味で言えば、障害に基づく何らかの配慮してもらわなければならな いような人だと思うのですが、その辺は、これまでの議論の中で、あるいは国連の中で どのように議論されてきたんでしょうか。 ○東氏  家族の話でいうと、考え方としては全ての人は障害に基づいて差別されないというこ とであると、その全ての人は自分の障害とは書いていないですね。だから、家族に障害 者がいるということで、自分には障害はないんだけれど、いろんな不利益を受ける。こ れはやはり禁止されるというような解釈はできるのだろうと思います。それと、精神障 害者の場合で、もう治っている場合ですが、その場合も、要するに直接差別、間接差別 というのは十分にあるというように思います。特に直接差別の場合はですね。ただ、ADA の改正論議の中でも出ていますけれども、みなされている障害者、要するに機能障害と か能力障害はないにも拘わらず、あるものというふうにみなされて、過去の場合もそれ と同じようなものです。そういう場合差別されるというのは、要するに、機能障害、能 力障害は純粋にないという前提にすれば、合理的配慮はほとんど要らないというか、そ のセンシティブな意識の問題だけの合理的配慮は必要かも知れませんけれども、要する にちゃんとした人権教育をするとか、そういう職場の意識改革という合理的配慮は必要 でしょうけれど、実際に例えば、スロープが必要だというような話にはならないわけで す。だから、ADAのこの改革の論議の中では、みなされている障害者には合理的配慮は 要らないみたいな議論がなされていたんだと思います。ただ、ドラスティックにそれを 割り切っていいかというと、そういう意識の問題なんかもありますから、全く要らない というわけではないんだろうと思います。 ○今井委員  合理的配慮の方はそうなんだけれども、差別という考え方にはどうなのか。 ○東氏  例えば、ハンセンの人にしても、あの人たちは障害の定義の中に入るわけです。しか し、目が見えない、足が動かない、こういうことで差別されるわけではなくて、要は、 ハンセンというそのものに対する偏見で差別されるわけですね。だから、やっぱり過去 にもっていたとか、ほとんど回復している人たちが多いんですけれども、そういう意味 で、差別禁止自体の対象には、特に直接差別の対象にはしなければいけないと思います。 ○座長  他にございますか。どうぞ。 ○川崎委員  行政の方にお聞きしたいことがございます。実は今お話しを聞きまして、私も障害者 の団体の者なんですけれども、全くそのとおりだという思いです。それで、実は現在、 自立支援法に関します見直しがすごい急ピッチで動いておりまして、社保審の障害者部 会の中でもいわれておりますが、この権利条約との関連をどのようにしていくか。例え ば、ここで挙がっております、就労に関する問題点を自立支援法との関連性で、どのよ うに生かされていくのか。今のお話しですと、合理的配慮は福祉就労においても全てあ らゆるものに適用されるべきもので、現在の自立支援法の中でも私はこういうことは生 かされていかなくてはいけないのではないかと思うのですが、厚労省の方では、これを どのように関連付けていくかお聞きしたいと思います。 ○障害者雇用対策課長  ご指摘のとおり、自立支援法の見直しも障害保健福祉部の方で作業が進んでいるとい う状況でございます。一方、今回の研究会は、研究会のタイトルにもありますように、 労働・雇用分野における障害者権利条約への対応という形をメインテーマにしています。 この労働・雇用分野の範囲をどこまで考えるかという議論はもちろんこちらでする必要 はある部分ですが、全体としての自立支援法の見直しとの関係であれば、障害保健福祉 部の方からも担当の者がこの研究会に出席しておりますし、そういった様々なご意見と いうものについては十分私どもから伝えるべきものは伝えるということだろうと思って おります。ただ、一方で、自立支援法の見直し自体はまさに自立支援法の中での議論に なりますので、それが必ずしも権利条約の議論に繋がるかどうかということは、必ずし もリンクしないかも知れませんけれども、それは担当部局がそういう問題意識があると いうことについては十分認識している問題だろうと思っております。 ○障害保健福祉部  障害保健福祉部の障害福祉課で就労を担当しております関口と申します。今、障害者 雇用対策課長からお話しがありましたように、障害福祉の側からも一応出席させていた だいております。この間の会議も、我々は我々サイドとして、ここの委員会で出た意見 というものは、内部で報告をして、共有する形にしています。それを踏まえて、自立支 援法の改正について、どういうふうに反映していくべきかというのは、我々サイドでも 考えていく必要があるとは思っています。 ○座長  では、今井委員どうぞ。 ○今井委員  藤井さんと東さんのご意見をお聞きしたいのですが、特例子会社というのは、雇用率 を達成する1つのアイディアで、利用者が全くそれで不満かというと、100%そうとは言 い切れませんけれども、障害者は特例子会社という障害者職場で働けばよいんだという ふうになれば、これはやはり差別的な扱いで、共に暮らすという概念からは外れます。 その辺はどのようにお考えでしょうか。 ○藤井氏  現在242カ所、グループ特例子会社90あるわけですが、おっしゃるように、私はやは り発展途上における過渡的な存在であってもよかったのかなと思います。しかし、ある べき方向をもってこれをやっているのか。それとも、これ自体がベターだと思ってやっ ているのかという問題、ここがポイントだろうと思います。おっしゃるとおり、やはり 基本的には一般労働市場という方向を目指すべきではなかろうかと思います。先ほど、 私も個に着目した合理的配慮、差別禁止を申しました。東さんも属人的視点とおっしゃ いました。先ほど言いましたように、この反対はやはり企業的視点で、この視点に立っ ているのが今の政策の立て方です。やはり特例子会社もダブルカウントも、これは個に 着目したという視点からはほど遠くて、やはり企業の側の視点ではなかろうかなと思い ます。従って、改めて今度の権利条約の思想と合わせて、やはりあるべき方向をどうす るのかという観点から、もう一度、特例子会社の今日までの総括と是非論、方向性につ いては1度、是非この研究会でも検討して欲しいと思います。 ○東氏  大体同じ意見です。やはり実態としては両極端あると思うんですね。そういう形で一 生懸命雇用の機会を増やそうとされているところもありますけれども、何か一般の従業 員の中に持ち込むのはどうかなということで、こういう閉鎖された空間の中に結局は押 し留めてしまうという性格が強いところもあると思うんですね。特例子会社という形で できる会社は、そういう形で達成できますけれども、小さい会社になると、そういうこ とはなかなかできないわけです。だから、大企業が社会的責任を果たす、社会の模範を 示していくという観点からいっても、こういうやり方は、中小企業に対して模範を示す ということには決してならないわけで、やはりこれは方向としてはなくしていく方向が 正解ではないかと思っています。 ○藤井氏  補足ですけれども、今の福祉的就労、名称は就労継続支援事業ですが、障害者だけの 場というのは必要ないかというと、私はそうは思っていないんです。ただ、今の特例子 会社は大企業にして今おっしゃったとおり、どうかということです。今までの実績はあ るにしても、方向性はやはり解消すべきです。しかし、私自身は、この対角線モデルの 中で書いておいたんですが、ここには書いていないんですが、労働形態としては、全部 オープンレーバーマーケット、労働市場に行くとは私は思っていません。それは今日、 川崎さんがいらっしゃいますけれども、多くの精神障害者は一般労働市場で傷ついて帰 って来るのが実際たくさんあります。現実に私もたくさん知っています。そうすると、 やはり雇用の視点からぎりぎりまで探求してもらうんだけれども、労働形態としては、 それは主とは思いませんけれども、やはり障害をもった人が中心となって働く場も現段 階ではあってもいいのではないかと思います。うんと将来のことは、それは分かりませ ん。だから、特例子会社はやはり今いった視点から、これは問題は多い。ただ、労働形 態としては雇用に関与していきながら、しかし障害をもった人が多数いるということは、 これはあってもいいのではないかと思います。 ○座長  どうぞ。 ○星野氏  障害者部会でも少し発言をしたんですが、藤井さんがおっしゃった雇用の視点の探求 は、これは絶対に大事なことだと思います。それは前提として、この特例子会社の話を 含めて、そのことに絡んでちょっと発言させていただきたいと思います。この間の労働 行政のいろいろな進め方は、数と形の問題に焦点が行き過ぎているというふうに僕は思 います。雇用の数を増やす。雇用の形を広げる。それは確かに大事なことの一つではあ るんですが、一方で一つ忘れているというか、見落としているというか、何かそこまで 手が届いていないという話は、質の問題です。どんな働き方がそこに用意されていて、 どんな実態があるのか。そこをもう少しきちんと、特例子会社も含めて追求していただ ける方向性を是非もっていただきたいと思っております。以上です。 ○座長  どうぞ。 ○森委員  日身連の森でございますが、社会保障審議会の障害者部会で話をすることかも知れま せんが、1つは、先ほど通勤の問題が東さんから出まして、これは自立支援法でやるの が筋ではないかというお話しだったと思います。ちょっとこれはどうかなと思います。 というのは、例えば、今度、学校なんかの問題が出てきます。それも自立支援法でやる のかなというと、ちょっと疑問を感じています。昔、福祉工場があった頃は、通勤でき ない人のためにいわゆる宿舎を作ったわけです。しかし、その宿舎の問題も、車が大分 出てきたということと、都営住宅なんかにみんな入るということと、お金も出てきたと いうことで、大分要らなくなったわけですけれども、ここでやる話ではないかも知れま せんが、そこまでやるのかと、ちょっと気になったのが1点です。  それと、あとは、ダブルカウントの問題ですけれども、やはりいろいろな智恵を絞っ てダブルカウントというのをやってきているのだと思うんですね。それで、もう1つは、 その反面、短時間の労働の場合も0.5という施策もあるわけです。その辺との整合性は どう理解したらいいのかなというのがあります。  それと、一番最後に出たのは、私も全くそのとおりなんですけれども、いわゆる就労 関係の事業について、昔の労働関係の訓練校については手当まで出す。こちらは利用料 を取る。すると問題が出てきますが、これはここでやる話かどうかはちょっと分かりま せんが、もう1つは、就労継続支援A型事業の問題で、いわゆる利用契約と、それと雇用 契約というのは、これは弁護士の先生に聞いた方がいいと思うのですが、就労A事業に 行っている場合に、私も初めてこの間聞いたのですが、いわゆる雇用契約、いわゆる労 働契約ですね。それと利用契約と、1人の人に2つの契約を結んでいるということですが、 この辺を法的にはどういうふうに理解したらいいか、参考までに教えていただければと 思います。以上です。 ○座長  今、森委員から4つぐらいありましたが、主に東さんに対することだと思いますので、 通勤と、最後のA型のことですかね。それと、訓練校のこともおっしゃいましたね。つ いでに3つやっていただけると有り難いですね。 ○東氏  そうですね。通勤の問題をどうするかということですが、基本的にはやはりバリアフ リー法というんですか、ああいうもので基盤を整備していくということが求められてい るわけですが、残念ながら田舎に住めば住むほど、何の移動手段もありません。5,000 人以下の駅なんか、熊本には幾つ有ると思いますか。数えるほどしかありません。ほと んど放置されています。ですから、現状としては、バリアフリー新法は田舎と都会の格 差を増大する法なんです。都会は本当に便利になりました。でも、田舎はそのままです。 こういう中で移動しろと言われても、非常に困難です。だから、この移動ができない部 分をどうするか。やはり移動する手段をもたない人に職業選択の自由とかありません。 入り口まで行けないわけですから。やはり、この実質的な機会均等を担保するために合 理的配慮というのはあるわけなんですけれども、移動する手段まで事業者に求めていい のか。やはりそれは困難だから、一般的な自立支援法の対象として、今、支援事業の対 象ですけれども、その中で、今は市町村の裁量ですから、やろうと思えばできるんです。 ほとんどやっていませんけれども。昔は駄目だったんです。だから、通勤、通学ですね。 自立支援法でやろうと思えば、できないわけではないんです。実際、通学についてはや っているところもあると思いますけれども、通勤はあまりないと思います。だから、ど ちらの側でやるか。事業者の合理的配慮として通勤の手段を提供してもらって、それに 対して国の方から支援するという、そういう仕組みにするのか。それとも、自立支援法 で個別給付でやるか。そこら辺の、雇用促進法上のいろいろな助成手段と、自立支援法 上の支援と、少し融合してから切り分けるみたいなところが求められているのではない かと思います。だから、どちらがいいかということは、私も実際まだ迷っているところ で、はっきりしたことは言えない状況であります。 ○森委員  ちょっといいですか。これは今どうなっているか分かりませんが、福祉の分野にいま すと、通園というのがあったんですよ。通園施設ですね。通所です。これはバスが出て いるんです。おそらく養護学校も出ているんではないかと思うのですが、そういうこと からして、実を言いますと、やはり会社というのも考えられるのかなという気がしてお るんです。というのは、保育所なんかの問題も大分公につくるのもあったし、会社もそ れもセットするというのもあったような気もするので、ここでやる話ではないかも知れ ませんが、ちょっとそんなことを思っています。 ○東氏  そうですね。どちらもあり得ると思うのですけど、ただ、やはり合理的配慮は過度な 負担の場合どうするかという問題があるんです。だから、小さい事業所の場合、通勤ま でどうやってするんだということになります。これは国の補助があればできるのかも知 れませんが、個別給付という形にすれば、そして、ニーズに応じた支給という形がきち っとできれば、事業所の規模に関係なくできるというメリットもあるんですね。だから、 通勤については、いろんな要素で、相乗的にやってもいいのかも知れません。  あと、訓練システムの問題ですね。それは、実は27条だけではなくて、24条の教育の 中の職業訓練という部分でも問題になっています。これは、一般の職業訓練にアクセス することができることを国は確保する。その際、障害のある人に対して、合理的配慮が 行われることを確保するとあるんです。失業した場合には、通勤手当も日当も出て、授 業料は免除です。こういうシステムに行けるようにしろと書いてあるわけです。ところ が、別の選択しかなくて、就労支援のいろんな形に行くと、お金を払わないといけない。 これはもう、まさしく一般のサービスと、障害者に対するサービスに格差があって、制 度的な差別の問題として捉えられるわけです。だから、そういう面からいっても、利用 者負担の問題だけではないんですが、大きな問題があると思います。それに行けないの は何故かというと、障害者は失業しても、失業者にもなれないということです。雇用保 険の対象にもならない。だから、そもそもそこの入り口のところで閉められている。だ から、そういう職業訓練校に行こうとしても、一般のところには行けないということ自 体、大きな問題だと思います。  それと、利用契約の問題ですね。契約は中身が違えば、当事者間でいろんな契約が当 然できるわけですけど、実態としては1つしかないわけです。そこでやっていることは、 ほとんど同じことなんですね。AだってBだって、昔の多数雇用事業所だって、特例子会 社だって、実態として、一定のサービスはやはりやっているわけですね。それが今から いう合理的配慮という形の支援かどうかは別にして、実態はそんなに変わらないのに、 サービスだということを持ってくるというのは、やはり利用者負担との関係で、そうい う性質があるんだという解釈をしないとできないから持ってきたんだろうと思います。 その解釈ができないとまでは言えないし、そういう二面的に解釈をしていいかというと、 何だかそれもちょっとどうなのか。実態に反するのではないかなという感じもします。 ○森委員  労働三法の適用は受けないわけですね。 ○東氏  そうですね。だから、労働三法の適用を受けた場合に、労働者に不利益な規定として、 平面的に無効になるという条項がありますよね。労働基準法になかったですか。ありま すよね。それに、そういうサービス契約に基づく利用負担というのが当たるのかどうか。 どうなんですかね。森さんが言われたそこまで、ちょっと法的にぎりぎりまで研究した ことはないので、課題にさせてください。 ○藤井氏  少しいいですか。通勤の問題は、実は私自身も目が悪くて、何も制度がないわけです。 そうすると、家族に負担をかける。うちの娘がたまたま通勤する方向だったので、お願 いしました。これが結婚したら、困ってしまうのです。そこで、途中で、ある駅で今度 はうちの事務局員が応援に来るんです。そうやって、何とかやっているんですね。まさ にこれは制度の谷間であって、やっぱり労災というのは通勤から入ってきます。労災の 適用というのは通勤時間で、まさに労働法規の対象になります。そういう点でいくと、 私はユニバーサル政策という観点にいったとしても、やはり今後は通勤も含めて、職務 と連動するわけですから、やはり労働政策で考えるべきであろうというのが1つですね。  それから、ダブルカウントや0.5というのは、これは今日、自分がそういう立場に立 ってみてください。これはやはり気分が悪いですよ。やはり自分が2人分の枠をくって みたり、おれは半人前とかですね。これはさっき言った属人的視点でなくて、企業の立 場なんです。森さんがおっしゃるとおり、これはものすごく智恵を使ったと思うんです。 でも、これは残念ながら、障害当事者からしますと、気分が良くない。僕は、差別とい うのは、感じる方にあると思うんです。感じる方にですね。ですから、この辺はやはり、 本当に今度の中で検討して欲しいと思います。 ○座長  有り難うございました。それでは、そろそろ時間がまいりました。まだまだご議論が あるかと思いますが、この辺りで終了したいと思います。次回の議事と日程について、 事務局から説明をお願いします。 ○事務局  次回の第7回ですが、本日に続いて障害者関係団体からのヒアリングを予定しており ます。おそらく、これが最後のヒアリングになりますが、全国脊髄損傷者連合会、全国 心臓病友の会、日本脳外傷友の会、日本難病疾病団体協議会の4団体からのヒアリング を行うべく調整をしているところでございます。次回の日程でございますが、11月の下 旬、28日辺りをイメージをしておったのですが、下旬で調整をしているところでありま して、従って、場所も未定ということでございます。速やかに確定の上、後日改めてご 連絡いたします。 ○座長  それでは、終わりに当たって、毎回のことですが、議事録は公開してよろしいでしょ うか。では、公開とさせていただきます。本日の研究会はこれで終了といたします。有 り難うございました。 【照会先】   厚生労働省職業安定局   高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課   電話 03−5253−1111(内線5855)