08/10/31 第15回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録   第15回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会   議 事 次 第   ○ 日  時 平成20年10月31日(金)16:00〜18:00   ○ 場  所 弘済会館(4階)   ○ 出 席 者    【委 員】 前田座長          鮎澤委員 加藤委員 木下委員 児玉委員 堺委員 高本委員          辻本委員 豊田委員 永池委員 樋口委員 南委員 山口委員          山本委員    【参考人】 並木 昭義 参考人(日本麻酔科学会理事長、札幌医科大学教授)          岡井 崇 参考人(日本産科婦人科学会常任理事、昭和大学医学部教授)          堤 晴彦 参考人(日本救急医学会理事、埼玉医科大学総合医療センター                  教授)   【議 題】     1.第三次試案及び大綱案に関するヒアリングについて     2.その他   【配布資料】     資 料 1 日本麻酔科学会 並木参考人提出資料     資 料 2 日本産科婦人科学会 岡井参考人提出資料     資 料 3 日本救急医学会 堤参考人提出資料     参考資料1 医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案     参考資料1(別添)医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・              再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−     参考資料2 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・           再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」及び「医           療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に寄せられた主な           御意見と現時点における厚生労働省の考え ○医療安全推進室長(佐原)  それでは、定刻になりましたので「第15回診療行為に関連した死亡に係る死因究明 等の在り方に関する検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれまし ては、ご多用の折、本検討会にご出席をいただきまして誠にありがとうございます。 はじめに、委員のご紹介をいたします。前回より楠本委員の後任としてご就任された 永池委員ですが、前回はご欠席でしたので今回が初めてのご出席になります。 ○永池委員   日本看護協会常任理事の永池京子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長  南委員におかれましては本日遅れて出席される旨、連絡をいただいております。ま た、堤参考人も若干遅れておられます。  次にお手元の配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿 のほか、資料1として日本麻酔科学会の並木参考人提出資料、資料2として日本産科 婦人科学会の岡井参考人提出資料、資料3として日本救急医学会の堤参考人提出資料 です。参考資料1として大綱案、参考資料1の別添として第三次試案。参考資料2と して、前回お示しをした現時点における厚生労働省の考え方でございます。それから、 本検討会に関連して、加藤委員からお知らせということで、日本弁護士連合会の「安 全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言」に関する資料というものも机上 に配付させていただいております。以上でございますが、資料の欠落等ございました ら申し出ていただきたいと思います。  なお、高いマイクと低いマイクの2つありますけが、ご発言の際は高いほうのマイ クを使用し、必ずオンにしてご発言いただきたいと思います。それでは、以降の議事 進行について前田座長よろしくお願いいたします。 ○前田座長  本日も誠にお忙しい中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。先 ほどもご紹介がありました加藤委員からご案内があったもの、これについて何かご質 問があれば。加藤委員のほうからよろしくお願いします。 ○加藤委員  お手元に「安全で質の高い医療を実現するために」という日弁連の基調報告書が配 付されていると思います。これは日弁連が毎年「人権擁護大会」というものをしてお りまして、今年で51回目なのですけれども、10月2日、3日と人権擁護大会が富山 で開かれました。その第2分科会で「医療事故の防止と被害の救済のあり方を考える」 というサブタイトルで「安全で質の高い医療を実現するために」というシンポジウム が開かれ、そのときの基調報告書が分厚い資料でございます。  その中で特にこの検討会と関係の強い部分としては、281頁に、院内の医療事故調 査をする場合のガイドラインというものをお示しさせていただいております。これは 日弁連のシンポジウム実行委員会の中で、医療側の弁護士さん、患者側で日頃やって いる弁護士さん、いずれでもない弁護士さん、それぞれがディスカッションをしなが らこしらえたガイドラインです。参考にしていただければと思っております。  もう1つ「安全で質の高い医療を受ける権利の実現に関する宣言」というものが配 付されております。これは、今年10月3日の日弁連の人権大会において宣言された ものです。特に国にいくつか要望をしているわけです。  その中の第2のところ、1枚めくっていただきますと、「医療事故を調査し、当該事 故に至った経緯や原因を明らかにして、当事者に説明するとともに、再発防止や医療 の安全に活かすため、医療機関の内外に次のような医療事故調査制度を整備するこ と」として、1つは院内できちんと自律的かつ公正で客観的な調査を行う制度が設置 されるように促すための施策をとること。もう1つは、国が医師などの医療従事者の ほか、患者の立場を代表する者や法律家などで構成される公正で中立的な第三者調査 機関を設置すること、ということが日弁連の意思として大会で宣言されました。  この大会宣言に関しては、本日午後1時10分ぐらいから厚労省の舛添大臣にお会い して、日弁連の会長以下、私も参加しましたけれども、ご説明し要望したところであ ります。大臣は、この第三者機関が非常に大事であるということの認識を持っておら れるように思いました。そして、その方向で物事を今後進めていかれるのだろうなと 私なりに受け止めた次第であります。以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。何かご質問はありますでしょうか。それでは、議事に入 らせていただきたいと思います。前回の検討会において事務局より、第三次試案及び 大綱案に寄せられた主なご意見等、それから現時点における厚労省の考えを示してい ただきました。医療界の中でも、本制度についての懸念が完全には払拭しきれていな いということも分かったわけであります。その中で複数の委員の方々から、パブリッ クコメントとして書面やメールでいただいた内容について、直接この場でご意見を伺 いたいという声がありましたので、事務局と相談の結果、予定として2回程度ヒアリ ングの場を設けることにしました。  まず今回は日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会、それから日本救急医学会の3学 会からご意見を頂戴したいと考えております。具体的に本日の参考人として、日本麻 酔科学会理事長の並木昭義先生、日本産科婦人科学会常務理事の岡井崇先生、それか ら、まだお見えではございませんけれども、日本救急医学会の理事である堤晴彦先生 にお話をいただきたいと考えております。  それでは、時間の関係もありますので早速ヒアリングを始めたいと思います。進行 の仕方ですけれども、最初に3つの学会からいま申し上げた順に意見表明をしていた だき、その後に各委員の皆様からご質問、この場での討論、ご意見をいただきたいと 思います。それでは、まず日本麻酔科学会の並木参考人からご意見をお願いいたしま す。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○並木参考人(日本麻酔科学会)  日本麻酔科学会の理事をしております並木でございます。まず厚生労働省が、多く のパブリックコメントの主な意見に対して、問題点を扱い、それぞれ回答された点に 敬意を表します。  麻酔科学会としては第三次試案に対する麻酔科学会の意見でも述べましたように、 第三次試案の趣旨が、「原因究明と再発防止にある」という点や、「その目的達成のた めに中立的な第三者機関を設ける」という点につきましては、賛同の意を表しており ます。そして、その趣旨に沿った「医療安全調査委員会」の設立は、患者遺族側だけ ではなく、医療者側にとっても望ましく、異論のないところです。ただ、何点か検討 すべき点があり、その点を意見として述べさせていただきました。  すなわち、医療法21条に関する点、医療関係者の責任追及に関する点、届出に関す る点、重大な過失に関する点、それから、医療安全調査委員会の設置場所に関する点、 以上の点を指摘させていただきました。そして、今回の厚労省の見解でもその点に踏 み込んでいる箇所がかなりあると思われます。  まず、「医師法21条に関する点」でございますけれども、麻酔科学会としては医療 関連死は安全調査委員会に届け出ることを明記することを提案いたしました。大綱案 では、厚労省の見解の別添2に医師法21条の改正についてという見解で、麻酔科学 会が提案した内容が検討されております。この点は評価いたしたいと思います。  しかし、医療事故等については、医師は医療機関の管理者に報告すれば、警察への 届出の必要はないとされており、管理者の届出義務が生じ、その結果、今度は管理者 の届出義務違反が浮上してきます。例えば、届出する必要はないと判断をし届出をし なかったら、届出をすべき事案だったと委員会が判断をした場合、届出義務違反に問 われる可能性があります。さらに明確にするべき点も残存します。何を、どのような 基準で、どの場所に届け出るのか等、その点に関してはさらに議論を要すると考えて おります。  次に「医療関係者の責任追及に関する点」であります。第三次試案では、「委員会は、 医療関係者の責任追及を目的としたものではない」とあります。しかし、第三次試案 でも大綱案でも、やはり委員会の調査結果が責任追及に使用される仕組みになってい ると思われます。あえて申し上げれば、WHOの医療安全に関するガイドラインにもあ りますように、犯罪ではない医療事故は、重大な過失があったとしても刑事罰の対象 とされる事項ではないと考えます。委員会の報告は、証拠として刑事手続に用いられ る可能性のある以上、原因究明のための調査に対する当事者の協力が円滑になされる、 システムエラーの改善や、個人に対する再教育などの有効な再発防止策を立てること が困難になると考えられます。  厚労省の見解では、故意や重大な過失があったにもかかわらず、医療者についての み刑事責任を問われないとすることについて、現段階では国民の理解を得ることは困 難であると判断されております。確かに、我が国ではまだ国民の理解を得ることは困 難な状態にあることは、医療者として反省すべき点もあると思いますが、調査委員会 は原因究明・再発防止を行うことが第一義であり、その結果を公表することで、その 任務を終了すべきであると考えております。  第3番目の「届出に関する点」と、第4番目の「重大な過失に関する点」でありま す。第三次試案では「重大な過失」は、大綱案では「標準的な医療から著しく逸脱し た医療」と表現が代わっています。「重大な過失」という定義も不明瞭でしたが、「標 準的な医療」という定義もやはり不明瞭と思われます。この「標準的な医療」に関し て、我が国における臨床医学の実践における現時点での医療水準といった考え方が、 一般的であると考えております。ただ、この標準的医療から著しく逸脱した医療に関 して、いわゆる、ここの事件の判決で裁判所が1つのルールを示してくれたと思われ ますが、この届出をする内容については、今後も検討する必要があると考えておりま す。  「医療安全調査委員会の設置場所に関する点」でございます。第三次試案に対する 麻酔科学会の意見として、1省庁を超えた独立性・中立性・透明性のあるものにする べきであり、行政内に設けるとすれば、内閣府に設置するのがよいとしましたが、大 綱案では、委員会を設置する府省を特定せず、さらに検討を進めるとされており、今 後検討するという厚労省の意見に賛成であります。  次に今回の厚労省の見解に対して少し意見を述べさせていただきます。上記に述べ た点以外に意見8の「医療事故死等の届出がされた後、医療安全調査委員会において 調査を行うかどうか判断すべき」に対する厚労省の見解に対しまして、現時点では調 査を行うかどうかを判断する判断基準が明確ではありません。また、調査を行わない ことが第三次試案ないし大綱案のどこに示されているのか不明であります。  「遺族からの調査依頼を受けた後、疾病自体の経過としての死亡であることが明ら かな事例については、原則として医療機関と遺族の当事者間の対応に委ねる」と書い ておりますが、医療機関と遺族の関係が良好に保たれ、遺族と病院の間で和解解決が できた場合、委員会が調査を行わないと判断してよいのでしょうか。また、逆に和解 解決ができていた場合も委員会が調査を行い、その結果次第で紛争が再燃するという 可能性はないでしょうか。意見9にもありますように、まず医療機関内の事故調査委 員会が調査する仕組みも、もう一度検討すべきであると考えます。  意見15の「地方委員会から警察への通知に関する御意見について」です。通知を行 う仕組みは削除すべきである。通知は故意による死亡等及び医療事故等に係る事実を 隠ぺいする目的で関係物件を隠滅するなどの場合にのみ行うべきであり、「標準的な 医療から著しく逸脱した」場合や「類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた」 場合については、通知は行わないこととすべき。  「通知がなされれば警察は捜査に着手しない仕組みとすべき」に対して、厚労省の 見解では「謙抑的な対応が行われることとなるものであり、このような対応を行って いくことについては、第三次試案の表紙にも記載しているとおり、厚労省、法務省及 び警察庁の間で合意したものです」とありますが、どのような合意なのか不明であり、 その点を明確に文書として明示すべきであると考えております。  意見17の「地方委員会の報告書は、刑事裁判が民事裁判の証拠として利用されない こととすべき」に対する厚労省の見解に対して、公表される調査報告については、刑 事・民事で使うなといっても不可能であると考えます。公表される内容を匿名のもの にするなど、個人名が特定されないような表現をするとしても、具体的な状況と照合 すれば、ほとんどの場合に特定されると思います。問題は公表されている調査報告書 以外の資料です。「調査報告書の作成の過程で得られた資料については、刑事訴訟法 に基づく裁判所の令状によるような場合を除き、捜査機関に対して提出しない方針と しています」とされておりますが、この点に疑問が出てきます。例えば、その事件の 民事裁判で、文書提出命令などによって裁判所への提出が求められることが想定され ます。その場合は提出しなくてもよろしいのでしょうか。この点はもう少し検討が必 要だと思います。  以上のように今回厚労省が出した見解は、第三次試案に対して麻酔科学会で提唱し た意見に関しても、かなり踏み込んだ議論がされておりますが、まだ検討すべき点も 残されております。日本麻酔科学会として、最初に述べましたように調査委員会を原 因究明・再発防止を目的として設置することには多いに賛同するところです。拙速な 成立を避けて、是非今回述べました問題点や、他の学会・有識者から出された問題点 を検討し、解決の方向を明示していただければ、日本麻酔科学会としても協力はおし みません。  今回の議論である、医療安全調査委員会設置法案の検討のきっかけとなった一因は、 やはり医療者側の専門価値の自律性の欠如にもあるのではないかと反省しておりま す。麻酔科学会は自浄能力と自律性を持った専門家集団として、ここにお集まりの有 識者と国民のご協力を仰ぎながら、他学会と協力して医療の安全と質の確保に努力し ていく所存でございます。以上、日本麻酔科学会の意見を述べさせていただきました。 ○前田座長  どうもありがとうございました。堤先生、3人お話いただいたあと質疑ということ になりますので、よろしくお願いいたします。それでは、続きまして資料2です。日 本産科婦人科学会のご意見について、岡井先生お願いいたします。 ○岡井参考人(日本産科婦人科学会)  産科婦人科学会の岡井です。学会のほうで医療事故にかかわる諸問題を検討する委 員会の委員長をしておりますので、今日ここで私たちの学会の意見を述べさせていた だきたいと思います。  大綱案に対する意見をお話する前に、ただいま麻酔科学会からもお話がありました 刑事訴追の問題、この点が今回の医療安全調査委員会設置案の中で、医療を提供する 側にとって一番重要視しているところですので、そのことを少し先にお話させていた だきたいと思います。資料があると思いますけれども大綱に対する意見の前に「“医 療事故に対する刑事訴追”に関しての日本産科婦人科学会の見解」というのがござい ます。  最初の段、これは書いてあるとおり読み上げさせてもらいます。「日本産科婦人科学 会は、資格を有する医療提供者が正当な業務として遂行した医療行為に対して、結果 の如何を問わず、“業務上過失致死傷罪”を適用することに反対する。ここで言う“正 当な業務の遂行”とは、当該疾病に関わる患者の利益を第一義の目的とした疾病の診 断・治療・予防等またはそれに関連する行為を指し、医療的行為であっても、悪意や 故意により患者の利益に反する結果をもたらした場合や、上記以外の目的で施行した 医療行為は含まない」と、書いてあります。  これはおそらく、医療提供者側では多くの人が賛成してくれる意見でありますが、 医療を受ける一般の国民の方々からは、「どうして医療だけが業務上過失致死傷罪の 適用から外されるのだ」と、このことに対する反論も多く聞かれます。それに対して、 どうして医療に対してはこういう考え方をするのがいいと私どもが考えているかを、 くどいようでありますが、理由を書き上げておりますので、かい摘んで説明させてい ただければと思います。  (1)業務内容の持つ本来的リスクです。これは一般の方々もかなりお分かりかと思 うのですが、よく交通事故と比較されます。交通事故も別に故意にやったわけではな い、しかし相手側の運転者が亡くなられた、それに対して過失があるかどうかという ことになるわけです。しかし、医療事故は交通事故とは本質的に違っています。  パラグラフの2つ目にありますが、人が死亡するような交通事故は、一般には酒酔 い運転とか速度違反とか明らかな交通違反によるものが多く、普通、運転をする場合 には安全のために取るべき行動というのははっきり示されています。精神の緊張を保 って注意義務を守っていれば、大きな事故が発生する確率はそれほど高くありません。 しかし、医療のほうは神経をとがらせ万全の注意を払っていても、ある頻度で発生す るものであります。そういうことで、安全のために取るべき行動というものが非常に 難しいわけで、実際事故になってから明確になるというような事例も多いのです。交 通事故と比べた場合ですが確率が違うし、注意義務が極めて複雑であると言えます。 そういう点があるので、交通事故ではこういう法律が適用されるのだから医療もとい う考え方は、おかしいのではないかということです。  (2)には「適正診療の非普遍性と過失認定の困難性」というタイトルを付けました。 医療事故が起こった場合、刑事訴追云々ということは、過失があったかどうかという ことが問われることになります。しかし、そういうことが問題になる多くの事例は、 担当した医師の診療能力の問題であると私たちは考えています。3行目に「例えば」 と書いてありますが、例えば悪性腫瘍の診断が遅れ、そのために患者さんが亡くなっ た場合や、外科手術で他臓器の損傷が起こって、そのために患者さんが亡くなった場 合、こういうものは過失かどうかということではなくて、むしろこれは診療能力の問 題であります。ですから、どこかに“過失”の基準を引くこと自体が、本来の医療行 為の中では無理があると考えています。そういうことで刑事罰を与えるというのはお かしいのではないか、という理屈であります。  (2)の次の頁になりますが一番最後に書いてある点について述べます。もちろん能 力が低い人は、当然専門職に就く身として何らかの教育的処遇を受けるべきであって、 何も放置していいという意味ではありません。刑事罰を与えるのがいいのかどうかと いうことを、私たちは疑問視しているわけですね。  (3)応召義務と善意の行為。ここで言いたいことは、基本的に医師も、看護師もそ うですが、使命感を持って、患者さんを治してあげたいという善意の行為として医療 をやっている、そこが他の事故とは違うことです。ですから、2つ目のパラグラフの 3行目ぐらいに書いてありますが「たとえ一連の診療の過程に至らない箇所があった としても、結果が不幸な事態となったことで刑事責任を問われるのは許容し難い心情 的苦痛を産み出す」ことになります。これは普通の日常の行為の中で、誰かを傷つけ て罰せられるのとは著しく違う点であります。その人を助けようと思ってやっている 行為であるということです。ですからそういう処罰が行われますと、「患者のために と思って行った行為を犯罪行為として追及され、他の犯罪者と類似の取り扱いを受け る。この様な処遇は、病を治し人の命を救うことを志し、また病人への献身的な看護 を志し、その職業を天職として選択した者達の心根を踏みにじるだけで、医療の向上 に益するところは何もない」と、そう書かせていただきました。  医療行為に安易に刑事罰を与えるのは、医療提供者の使命感を喪失させ、また患者 さんあるいは被害者との信頼関係も崩壊させるという結果につながるだけで、何も医 療の向上にはつながらない、そのことを記させていただいています。  (4)刑法の目的との齟齬。最初の文章を読み上げます。「刑法の最終目的は『犯罪 を防止することによって社会秩序の安定を図る』ことである。刑法の聖書には、『刑 罰は本質的に悪に対する応報であり、受刑者にとっては多大な苦痛及び屈辱であるこ とに間違いはない。それ故、刑罰を与えるには苦痛を受けても仕方がないというだけ の根拠が必要であり、刑法が犯罪として取り上げるべきものは、反社会的行為のうち 社会秩序の維持のために放置できない程度の有害な行為で、しかも、刑罰によらなけ れば防止できない性質のものでなければならない』」と、そう書かれています。  実際に、医療事故というものが刑罰を与えなければ防止できないのか、逆に刑罰を 与えれば防止できるのかということが問題になるわけです。その件に関してパラグラ フの3つ目ですけども「一方、人は誰もミスを犯すもの」であります。先ほど一般的 な診療の中で、どこからが過失かを決めるのは難しい、みんな診療能力の問題だとお 話申し上げましたが、はっきりしたミスというのは当然あるわけですね。Aという薬 を投与しなければいけないところに間違えてBを投与してしまう、これはミスとしか 言いようがありません。  しかしながら大事なことは、そういうミスはみんな誰でも犯すということです。こ こにいらっしゃるそれぞれ大事な職業に就いておられる方でも、職業的なことでミス を犯すことは当然あるわけです。裁判官のミスジャッジもあるわけです。ところが、 医療にはそれがすぐその場で人の死につながるという特殊性があるわけで、ほかの職 業に就いている人はその恐怖、そういうことで刑罰を問われるということは、自らの 身としてあまり考えないだろうと思います。しかし医療提供者にとっては、それはと ても大きな負荷になっているわけで、そこのところに、今回の医療安全調査委員会の 設立の動きに対しても危惧を抱き、提供者側から反対意見が出る元があるのです。  それからもう1つ、単純ミスとはいっても医療を行っている現場では、ミスが起こ りうる背景因子というのが存在するわけです。過重労働による疲労、勤務体制の不備、 ミスを防止あるいはカバーするシステムの欠如、これまでの分析から、そういうもの がほとんどの例で存在することが分かっています。そして、そういうミスに対して刑 罰を科してもミスは減らないという報告もあるのです。  ですから、いわゆる診療行為の中でその人の能力不足で起こった結果に加えて、は っきりした単純ミスであっても、最初に申しましたように、その患者の疾病の治療あ るいは診断ということを第一義の目的としてやった行為に対しては、刑事訴追をする べきではないと考えているわけです。  この日本産科婦人科学会の見解は、最初に「第二次試案」が出されたときに、それ に対する意見を書かせていただいて、その文書に付記させていただいています。この 考えは、話が大綱案まで進んでおります現在も変わりませんし、将来もこの考えは、 持ち続けるつもりであります。しかしながら刑法第211条ですか、“業務上過失致死 傷罪”、この法律そのものに何らかの修正を加えるとか、あるいは変更して改定する ということは大変難しいことだろうというのは、先ほど麻酔科学会の先生が言われた のと同じように考えております。  私たちはこの点について、根本的に主張が通らなければ大綱案に反対するというの ではありません。そこまで議論を進めていただくことは望ましいことだとは思ってお りますが、現在の事態を私どもは、医師法第21条拡大解釈、これが引き金となった 医療現場の混乱と捉えています。それは一日も早く解決しなければならないことであ り、医療事故の原因分析を行い再発防止のための対策を練るという作業もそう待って いられない、早くそういう制度をつくって進めていかなくてはならない。そのために は刑法第211条の改定を待っているわけにはいかないので、それが存在する中で、そ の下で、どれだけ医療事故と刑事訴追の問題を、今回の医療安全調査委員会設立の動 きの中で解決していけるか、そういうことを考えているわけです。  それで、大綱案に対する意見になりますが、大綱案は第三次試案と基本的には変わ っていないと思います。届出違反と改善命令違反等に対しての法律的な罰則等が細か く書かれているので、2つ比べてさっと読むと大綱案のほうが厳しいというような印 象を受けますが、本質的には変わっていないだろうというのが私たちの判断です。第 三次試案に対しても意見を出しているのですが、それを短くして大綱案に対する意見 も提出しています。  その1番目ですが“警察への通知”の事例。この件は刑事訴追と大きく関連すると ころで、当然、他学会からもいくつか意見が上がっているところです。私たちは、現 時点ではここを完全にブロックするというのはかえってよくないと考えております。 調査委員会の報告を、刑事訴追と警察の捜査というものから完全に切り離したほうが いいという意見も聞いておりますが、“業務上過失致死傷罪”というものが現存のま まあるという前提の下では、そこを切り離してしまいますと、事故があったときに警 察が独自に動くということがあるわけです。またご遺族の方からそういうお話があっ たときに、動かざるを得ないということもあるわけです。  そうしますと、一方では専門家がきちんと本当の原因を分析している間にも捜査が 行われかねません。そうなると、医療提供者は自分の使命感で患者のためにやったと 思っている行為に対して、犯罪者という扱いあるいは被疑者という扱いで警察の厳し い取り調べを受けることになります。そういうことが現在も現実に起こっております し、私の後輩も何人かそういうことで警察の調べを受けて、もう医師を辞めたいと言 っている者がおりますが、そういうことが続くことになります。ですから、そこのパ イプは通じておいたほうがいいと思います。  そのときに大事なことは、こういう事例を通知しますという規定ですね。先ほども 意見がありましたけれども、私たちは単純ミスでも刑事訴追するのは間違いである、 別の意味のペナルティーを課すべきであると考えていますので、警察への通知事例を 今回の大綱案のように「標準的な医療から著しく逸脱した医療」と定義されてしまい ますと、薬を間違えて投与したような事例は全部著しく逸脱した医療として警察に通 知されることになります。これを「著しく逸脱してないよ」ということは言えないの で、いかにそれを地方委員会が判断するとか専門家が判断するとかいっても、これを 通知しないわけにはいかなくなります。ですからこれに関しては、例えばですけども、 もう少し警察に通知する事例を絞るという意味で「標準的な医療から著しく逸脱し、 種々の背景因子を考慮しても許容できない悪質な医療に起因する死亡又は死産の疑 いがある場合」など、このような形で“標準から逸脱した”に加えて、悪質だという ニュアンスが入るような文面に変えてほしいというのが、最初の意見になります。  それから2つ目の「調査委員会」の管轄について。これは麻酔科学会からお話があ ったこととほとんど同じ意見ですので省略します。  届出対象を明確にすることは当然なのですが、今回の案では、過失の有無を判断す るという視点で入っているのですね。この医療事故は医療を提供した側のどこかに問 題があるのではないか、そういうことが疑わしい、そういう可能性があるものを検討 するという対象の設定になっています。そうではなくて、事故そのものを減らすとい う観点からみると、たとえば明らかな合併症であっても、その合併症をさらに減らさ なければいけないとなると、今回の症例がそういう意味で検討に値する重要な症例で あれば、これは報告させる方が良いと思います。  ですから、あくまでも医療事故が医師の責任で起こったということを判断するよう な観点から届出の事例を決めるのではなくて、そこに書かせていただきましたけれど も、事故原因の究明の必要性が高い、それから再発防止策を考える意義が高い、そう いう事例を対象とした届出、そういう方向で決めてもらいたい、これがIIIです。  それから「IV.捜査機関の対応について」。これは麻酔科学会の先生から話があった とおりです。全く同じなのですが、先ほど申しましたようにパイプは作っておいたほ うがいいと私達は考えています。しかし、そこでせっかく作ったパイプがあっても、 調査委員会の調査を優先させることが明文化されていないと、「パイプがありますよ」 と言っても警察は独自に動くかもしれないわけですね。「お互いに話合いしてます」 ではいけないと思いますので、その点はきちんとどこかの条文の中に書いていただき たい、それが私たちの意見です。以上です。どうもありがとうございました。 ○前田座長  どうもありがとうございました。それでは、続きまして堤参考人のほうからお願い したいと思います。よろしくお願いいたします。 ○堤参考人(日本救急医学会)  遅刻しまして、すみませんでした。会議の場所を霞ヶ関だと思って間違えてしまい ました。会議の場所を確認しなかったという注意義務違反です。重大な過失というこ とですよね。  本日は、この会にお招きいただきありがとうございます。一言言わせていただけれ ば、もっと早い時期に呼んでいただきたかったなというのが本音です。  本日は救急医学会を代表してまいりました。救急医学会の見解は別紙に記載したと おりでありますので、既にお読みいただいているという前提で意見を述べさせていた だきます。  最初にお断りしておきますけれども、大綱案に関して日本医師会や外科学会が賛成 派で救急医学会が反対派などというように、医学界が2つに割れて対立構造にあるか のように言われておりますけれども、決してそんなことはありません。私は高本委員、 木下委員と話をしておりますけれども、本質的に意見の違いはありません。さらに、 この検討会の議事録、ものすごい分量があり、じっくり読ませていただきましたけれ ども、高本委員、木下委員、山口委員が医療側の意見をきちんと述べておられ、代弁 されておられることは、私は十分承知しております。この場をお借りして御礼申し上 げます。  ではなぜ最終的な見解が別れるのかということです。私もよく分からなかった。だ けど最近になって賛成派の先生方・医師は性善説に立っていて、反対側の医者は性悪 説に立っている、そういう感じであるわけです。つまり賛成派の人は、この大綱案が この検討会で議論された「基本的な精神どおり」に運用されればうまくいくはずだ、 そのように期待しているのだと思います。けれども反対派の人たちは、法律というの は一旦できてしまえばどのように運用されるか全くわからない、悪意を持つ人がいれ ば何とでも変えられる、あるいは解釈できると疑っているわけです。私どももそのよ うな立場にございます。反対派ということではなくて慎重派と呼んでいただければと 思います。  私に与えられました時間はわずか15分。1年以上やっていて15分というのは寂し いですけれども、あまり多くのことを述べることはできませんので、5点に絞って意 見を述べさせていただきます。  1.死因究明と責任追及の分離、2.医療事故における業務上過失致死罪の明確化、3. 医療事故調査報告書の在り方、4.刑事事件と民事事件の明確な分離、5.今後の要望。 資料はございません。基本的な意見は資料どおりですが、資料を読んでも面白くも何 ともないので、自由に発言させていただきます。  まず「1.死因究明と責任追及の分離」ですけど、救急医学会としてはこれが譲れ ない一線です。医療安全を構築することと、紛争を解決することの違いと言っていい かもしれません。皆さんご存じのとおり、このことはこの検討会の第1回目からずっ と議論されていることです。この点を曖昧にしたまま明確にしなかったがゆえに、本 検討会が延々と迷走を続けているというのが私の印象です。  医療事故についてはこれまで十分議論されておりますので、ここでは警察の捜査を 例にして説明したいと思います。警察内部でも、ある犯罪事件が起きて犯人が逮捕で きなかったとき、警察署内でさまざまな検討、反省がなされているのではないでしょ うか。事件が起きたときの初動が悪かった、捜査の範囲を最初から絞り込みすぎたの では、など、当然多くの意見が出されていることと推察します。では、これらの場合、 その検討内容を文章化して、被害者のご遺族に公開し説明されているでしょうか。あ るいは警察の会議に第三者の委員を入れて、客観的に中立的な立場で事件の捜査が適 正に行われたか否かの検討が行われているでしょうか。医療事故における死因究明に よる医療安全構築と責任追及、警察における捜査の反省、すなわち捜査をより良きも のにする立場と責任の追及というのは、全く異なるプロセスで行われるべきというこ とについては、警察・検察側も十分理解していることではないでしょうか。  それなら、なぜ医療という分野だけ原因究明と責任追及を同時に行う委員会をつく らなければいけないのでしょうか。もし、その考えが正しいということであれば、私 たち医療側は一般国民として、警察の捜査が適正に行われていたのか、第三者による 評価を行うべきであると主張せざるを得ません。すなわち「犯罪捜査適正検討委員会」 の設置を求めることになります。そして、そこで検討された報告書を犯罪被害者及び 家族に渡して説明することを求める、そういう論理だろうと思っています。もちろん 本気で考えているわけではありません。というのは、捜査というものをより良くする 立場と、捜査の責任を追及するというのは、全く別のものであるということを我々医 療側の経験から十分理解しているからです。  大綱案に反対する医師の中には、医療事故は全て免責にしろという意見が多くみら れます。しかしながら、救急医学会はこのような立場に立って反対しているわけでは ありません。悪いものは悪いという立場です。自民党のある議員が、救命救急医療に 関連した医療事故は全て免責にするというような見解を出されましたけれども、救急 医学会はそんな意見は全く持っておりません。救急医学会の中でそんなことを話し合 ったことは1度もありません。もちろんその国会議員は、救急医療を何とかしなけれ ばという思いからそのような発言をされたということは理解しております。その気持 ちは嬉しく受け止めますけれども、救急医学会の真意、総意ではありません。このこ とは明言しておきます。  日本救急医学会が問題にしていることは、医療の場合、何が業務上過失になるのか がよく分からないということです。それ故、医療側は不安、不満、そして人によって は怒りともいえる気持になっているわけです。その結果、救急患者を診ないほうが安 全である、あるいは大きな難しい手術は避けたほうが安全という防衛医療、萎縮医療 が浸透しているのです。  重大な過失あるいは標準的医療から著しく逸脱したもの、先程来ずっと言われてお りますけども、全く曖昧です。標準的医療について述べますと、本邦の救急医療はほ とんどが救急科専門医ではなく一般診療科の医師が担当しています。そして、いつ、 どのような患者が来るか全く予測できない中で行われており、自らの専門領域の患者 だけでなく専門外の疾患にも対応しなければいけないという状況です。むしろ救急の 現場では、自分の専門外の患者ということのほうが多いと私は思っております。現状 は、このような医師によって救急医療は辛うじて支えられているというような状況で あります。  各科の専門医から見れば、その科の標準的な医療から逸脱しているということは、 しばしば起こっていると思います。もし標準的な医療というレベルが、各専門領域の 診療を基準にするということであれば、救急医療は間違いなく崩壊します。誤解のな いように繰り返しますけれども、日本救急医学会は救急科専門医としての自己責任の 軽減、回避を求めているわけではございません。救急医療の大部分が非救急科専門医 の手に委ねられていることから、これらの一般診療科の医師が今後も救急医療に関与 し続けられる環境を整備することが、救急医療を確保するうえで必須であるという立 場からの発言です。  私ども救急医学会は、先ほども申しましたように、医療の場合に何が業務上過失致 死になるのかという、最も基本的な問題に真正面から取り組むべきであるということ を切望しております。この点を曖昧にしたままでは、いかなる調査委員会をつくって もうまく機能するとは全く思えません。先ほども交通事故の話が出ましたけども、同 じ業務上過失致死に問われる交通事故の場合、明確な基準が設けられていて非常に明 瞭で紛れがありません。しかしながら、医療事故を刑事訴追する場合の明瞭な基準は 示されておりません。  これは前田座長にお伺いしたいのですけれど、罪刑法定主義に反するのではないか とさえ思っております。おそらく検察庁のほうでもこの問題、すなわち医療の場合、 何が業務上過失致死になるのかということについて、既にプロジェクトチームを作っ て検討されていることと思います。もし、検討してないようであれば非常に問題だろ うと思っております。この点を明確にしない限り、医療側そして国民の納得は得られ ないでありましょう。医療事故調設置の前に、この問題について真剣に取り組むこと を厚生労働省並びに法曹界に強く要望いたします。  ちなみに、救急医学会ではIIの(3)、別紙のような「医療における明白な過失」と いう概念を検討しております。もちろん私どもは医者で法律の素人ですから、この考 えが正しいなどとは全く思っておりません。法曹界の人間からみれば、多くの誤りが 指摘されることでしょう。しかしながら逆に法曹界の人間だけでこれが定義できると は思っておりません。なぜなら、法曹界の人たちは医学というものは理解できても、 医療の現状を知り得ないからです。むしろ警察庁・検察庁の方々と私ども医療側の人 間が同じテーブル、同じ席に着いて議論すべき内容と考えております。私ども救急医 学会は、「法と医の対立」から「法と医の対話」を求めるものです。厚生労働省の方 には、是非そのような会議を作るべく組織間の調整役として動いていただきたくお願 い申し上げます。  この問題を解決しないと、事故調を作っても事故調から警察・検察に通報すること はできません。医師法第21条と同じことを繰り返すことは明らかです。従来は警察・ 検察が業務上過失に問えるかどうかは、まず法的に判断します。この際、医学的な判 断というのはどうしても甘くなります。では逆に、事故調をつくって医学的な判断を 先にすれば解決するでしょうか。今度は医学的判断を先にするがゆえに、法的判断が 甘くなると思います。つまり事故調において医学的判断を先にして、その中の一部を 警察・検察に通知するというのが大綱案でありますけれども、警察・検察に通知しな い中に、法的に問題がある事例が埋もれてしまうという可能性があります。論理的に 考えてもそうです。ということで、このような矛盾を回避するためには全例を警察・ 検察に通知するしかないのではないでしょうか、そういう結論になります。  逆説的な表現になりますけれども、事故調の目的を責任追及ということにすれば、 論点がもっと明らかになるのではないかとさえ思っています。刑法学者の前田先生が 座長をされておられますから、そのほうが議論は早いかもしれません。ただし、この 場合厚生労働省の枠の中では議論できないと思います。  それから、捜査という観点からみて、私ども医師は警察官と異なり捜査の手法につ いて全く教育されておりません。そのような医師が警察と同様の捜査、この場合は調 査になりますけれども、それができるとは到底思えません。事故調における調査の方 法についても十分な検討が必要でありましょう。  私自身は法的判断や医学的判断、どちらを先にするかということではなくて両方同 時に、要するに並行して行えるようなシステムのほうが公平性が保たれるだろうと考 えております。法的には無茶苦茶かもしれませんけれども、警察・検察の中に医学的 な検討を行う組織を作ったほうが、よっぽどすっきりするのではないでしょうか。こ れは私個人の考えです。  次に報告書自体の問題になります。これを言うかどうかちょっと迷ったのですけど も、来た以上しゃべらせていただきます。医療側は福島県立大野病院事件で警察・検 察を非難します。しかしながら、それが本当に正しい批判なのでしょうか。この事件 は、元はといえば医師が作成した福島県の事故調査報告書から始まっております。今 回作ろうとしている事故調と同じ流れ、同じストーリーで進んでいるわけです。医療 側の判断が先に出されているわけです。警察・検察はそれを用いて立件しているわけ です。さらに、ある医師が書いた鑑定書に沿って検察側は裁判を行っているわけです。 警察・検察は、今多くを語っておりませんが、本音としては医療側に言いたいことが 山ほどあるのではないでしょうか。でも、そこを言わないのが大人の対応というとこ ろで、私は評価しておりますけれども。  医療側は警察・検察を非難しますけれども、私どもはその意見に乗りません。世間 では医師と警察・検察の対立構造という見方がありますけども、そうではなくて、本 質的な問題は医療事故の報告書の在り方の問題であり、さらにはその報告書や鑑定書 を作った医師の資質の問題といえるのではないでしょうか。事故調を作って、本当に 公正で中立な報告書を書けるでしょうか。さらには、それらが書ける資質を持った医 者がいったいどれくらいいるのでしょうか。いくら言葉で公正中立と言っても、本当 に中立の立場の人がいるのでしょうか。医療側は医療という色の中でやっていますし、 患者さん側は患者という色の中で動いている。中立ということは、そもそも幻想なの ではないでしょうか。いずれにせよ、中立的な立場に立った報告書の作成がいかに難 しいかを物語っていることは、当然お分かりいただけると思います。つまり、報告書 の在り方について、もっと多くの議論が必要であろうと思っています。  厚生労働省は、せっかく死因究明のモデル事業を行ったのですから、あと2年ぐら い残っているという話ですが、このモデル事業についての検証を先に行うべきであろ うと思っています。問題点はいくらでも出てくると思います。前田座長ですか、「事 故調はモデル事業を発展させるためのもの」という位置づけと考えておられるようで すから、モデル事業の検証なくして新しい組織をつくるということは、私は非常にお かしいだろうと思っています。このモデル事業の遂行に当たりましては、委員の方々 はものすごく努力されたと聞いております。報告書の在り方、医師の能力、委員の能 力についても検討が必要でしょう。それから取り扱える件数についても、この検討会 の中でも「数が増えた場合には対応できないかもしれない」と山口委員が発言されて います。  ここが大事なのですが、事故調の地方委員会、調査委員会の委員の選任の方法につ いては、大綱案では明記されていません。おそらく大綱案に賛成する医療側は自分た ちの都合のいい委員を推薦してくるでしょう。一方、患者側は患者側で自分たちの意 見を代弁してくれる委員を推薦してくるでしょう。つまり両者とも賛成という立場で はありますが、これ同床異夢です。分かりますよね。つまり、委員を選ぶ手続のとこ ろ、私は中立というものが何なのかいまだによくわからないのですが、委員を選ぶ手 続のところを十分検討をしておかないと、委員会の立ち上げのところで混乱が起きる ことは明らかであろうと思っています。  今回の事故調においては、警察・検察の方々がオブザーバーとして参加されていま す。現状で見るかぎり、警察は医療事故以外の犯罪捜査で手一杯で、とても医療事故 の捜査まで手が回らないというのが本音であって、事故調ができるのを静かに待って いることでしょう。検察側にしても無罪判決が続いていて、事故調ができて報告書が できることは基本的に歓迎していることと思います。文字どおり、オブザーバーの立 場で高みの見物をしているのだろうと思います。ただし、検察側は「使えるものは使 う。それに縛られるつもりは全くない。」と考えていると思います。事故調の調査報 告書は所詮鑑定書の1つに過ぎず、検察の判断はそれに拘束されるものではないとい うことは、明らかです。さらには患者側の弁護士にとっては、これ非常においしい話 なので、反対する理由はありません。むしろ歓迎しています。  結局、事故調の設置に関して、反対派が、私は実際には少数派ではないと思ってい ますが、もし少数派に見えるとしたら、こういう理由だと思っています。警察はもの を言わない、検察もものを言わない、患者側の弁護士もものを言わない、そういう意 味での反対が少ないということではないでしょうか。  さらには杏林大学の「割箸事件」が立件されています。その是非を私は今日は述べ ませんが、あの事件では、その患者の受入れを断った病院が複数あります。救急医療 を専門とする私どもの立場では、断った病院よりも受け入れた病院の方を評価します。 しかしながら現状は、受け入れた病院だけが叩かれている。「法は善意を考慮しない」、 これはそのとおりですが、事故調を作っても、これらの問題は解決しません。その結 果、残念ながら患者を診ないほうが安全であるという医療側の認識は、救急医療の現 場でもう蔓延しています。本当にこれで国民は納得するのでしょうか。  一方、これまで行われた医療事故の刑事裁判においては、医療側も警察・検察側も、 さらには被害者のご遺族もみんな傷ついています。誰一人満足していません。私自身、 医療事故被害者の会の主催するシンポジウムに参加させていただき、広尾病院事件の ご遺族の永井さんの話も伺いました。非常に胸を打たれる思いがあります。医療側の みならず、警察・検察を含めて、自らの組織の立場だけを考えずに、もっともっと踏 み込んだ議論、そして本音を語って真摯に議論をして歩み寄って、より良き医療事故 調査委員会ができることを私は望んでいます。  あるシンポジウムで、ある国会議員が事故調について、医療側の8割、患者側の8 割の人が賛成してくれる案でないとうまく機能しないであろうと言われています。私 は正論だと思います。  最後に、刑事事件と民事事件の分離についてです。本検討会においてはあまり語ら れていないことですが、民事事件との関係については議論が不十分です。大綱案によ れば、この事故調の報告書が民事訴訟に使われることは明らかです。国の原則的な立 場は民事不介入であるべきではないでしょうか。私は根本的に考え直すべきと考えて います。  例えば、同じ業務上過失が問われる交通事故の場合を考えます。警察は捜査結果を 被害者あるいはその家族に文書で知らせることはありません。事故の加害者がたとえ 飲酒運転であったとしても、それを被害者側に文書で伝えるなんていうことは原則的 にありません。それは、交通事故の場合、被害者の弁護士から弁護士法第23条で、 医療機関に飲酒の有無を問い合わせてくるからです。警察は民事不介入の原則を貫い ています。それに対して医療事故の場合は、事故調は国あるいは行政の組織でありな がら、最初から民事訴訟に使われる構造になっています。これは合理的な整合性があ りません。  この検討会においては、「被害者のために」という名目で、被害者のご遺族に報告を することが当然のように思われており、民事訴訟に使われることについて検討がされ ないままですが、「被害者のために」というのであれば、警察も交通事故や犯罪の被 害者やそのご遺族に捜査報告書を渡すべきなのではないでしょうか。警察の捜査では 捜査報告書を出さずに、医療事故では報告書を出せというのでは、これは論理一貫し ていないと言わざるを得ません。民事に利用される構造については、根本的に見直す ことを要望いたします。  「5.今後の要望」、まとめですが、1.死因究明と責任追及の分離、2.医療におけ る業務上過失致死罪の明確化、3.医療事故調査報告書の在り方、4.刑事事件と民事 事件の分離。これらの解決のために、救急医学会は「法と医の対話の場」を設けてい ただきたいと思っています。それ以外にも調査報告書の委員の選任の方法、モデル事 業の検証、監察医制度・法医学など死因究明のためのインフラの整備など、多くの課 題があります。それ以外にも平成20年度厚生労働科学研究で検討されているという ことですから、その研究結果を見て私は再考されるべきだろうと思っています。  さらには、もう1年以上この会をやっていますが、この検討会1回2時間で、とて も対応できているとは思えません。医学会であれば普通必要な項目ごとに分科会、作 業部会、ワーキンググループをつくって、そこで徹底的に議論しています。そういう 組織を作らなかったというのは非常に残念です。いまやらなくてはならないことは、 国家的な問題になるわけですから、そのためには我が国における行政、司法、立法と いった大所高所の英知を集めて検討をして、さらにその上でより良き事故調がつくら れることを願っております。  日本救急医学会としても、医療側に課された医療安全の構築、これは非常に重いテ ーマですが、逃げてはおりません。そういうものに対して、私ども自らの責任におい て、これらの課題に積極的に取り組む立場であることは明言しておきます。  以上、長くなりましたがお許しください。 ○前田座長  どうもありがとうございました。問題点を明確化するという意見で鋭いご指摘をた くさんいただいたと思うのです。まずは参考人の先生方にご質問があればそれを出し ていただいて、そのあとご議論をしていきたいと思います。何か確認しておきたいと ころとか、ご質問はいかがでしょうか。 ○加藤委員  3人の参考人の方、ご意見を聞かせていただきましてありがとうございました。並 木参考人のお話の最後のところに、自浄作用を高めてというお話があったと思います が、どういう意味合いでお話になったのか、具体的にお話いただければ幸いです。  ○並木参考人  我々の現場でも、いろいろな業務の中で反省すべきところがたくさんあるわけです。 そういうことを学会としても謙虚に話し合う。安全な医療を提供するのが我々の目的 にありますので、医師だからと甘えないで、それに応えるような形で、我々自身お互 いに厳しい対応をしていかなければ、一般市民からの信頼感がなくなるということを 強調するわけです。 ○加藤委員  ありがとうございました。いま堤参考人から医療安全調査委員会ができたときに、 誰がその調査のチームに係わるのか。ドクターの資質という問題も指摘されました。 公正中立の鑑定書、この場合だと評価報告書なり、調査報告書なりを書くことができ るのか。その点では同僚評価といいましょうか、ピュアレビューがきちんとなされる という文化的な土壌が十分育っているのか、という問題提起とも受け取れたわけなの です。その点については、並木参考人はどのように現状を見ておられますか。 ○並木参考人  我々の学会においても医療事故の鑑定を裁判所から依頼されますが、その鑑定人を 見つけるのが非常に大変なのです。それはその件に関して適切な知識、技術そして経 験をもっている人でないと、正しい鑑定書を作成できないからです。これから医療安 全調査委員会の活動は重要ですので当学会においてもそのメンバーに加わり積極的 に活動する会員の選出および育成をすることが必要であると思います。現在、当学会 の医療紛争委員会の活動で問題になっているのは、個人情報保護法があって、保険会 社から必要な情報が入ってこないことです。原因究明、実態調査において必要なデー タを特別な場合は見せてもらえるような形にさせていただければと思っています。 ○前田座長   ほかにどなたかご質問、いかがですか。 ○岡井参考人  いまの件ですが、本当にピュアレビューができるかという問題は、それだけをやる のであれば簡単にできるのですよ。そこに責任追及とかという問題が加わるから、同 じ仲間だから少し緩めるのではないかという話が出てくるのです。けれども、診療に 問題があるときは、その問題点は直さなければいけない。そうなると職業人として自 分が本来のやるべき業務の中で、自分が至らなかった点をきちんと直していけるよう なペナルティーでなければいけないのですよ。それなら受け入れられる。  そうではなくて、それが刑事事件だというから、これが刑事訴追ではかわいそうだ と考え、「この治療は本来ならばこちらのほうが正しかった。しかしこの医療も絶対 に悪いわけではない。ではこれもいいことにしようや」になるわけです。ですから刑 事事件と切り離さないといけない。けれども、先ほど申しましたように、その大前提 の211条があるかぎり、100パーセント切り離しては、逆にそちらから問題が出てく る。  私たちの主張はパイプはつないでおいてください。ただし、警察のほうに話をもっ ていくのは、本当に絞った事例にしてくださいということを言っているわけです。普 通の事例で、一生懸命にやったが自分の力が至らなかった、あるいは場合によったら ミスもある。それに対して、あなたは職業人として反省しなさいというのは、当然や るべきなのです。ただし、そこをきちんとやるためには、刑事とは全然関係ないです よということを言っておかないと、やれないということになるのです。 ○辻本委員  それぞれの立場の方からの難しいお話に追いていくだけでも必死の状況の貴重なご 意見をいただきました。医療を守らなければならない側の立場としては、当然のご意 見と拝聴いたしました。ただここで1つお尋ねしたいのは、いま一定のピーク時より も国民感情の医療不信感が確実に少しずつトーンダウンしている萌芽が見られると いう印象を、私ども日々電話相談をお受けしている中からも感じております。そうい った意味でまさにピンチがチャンス、いまこそ医療に「信頼関係」を取り戻すときだ という気持も強く持っています。  その中で、もし皆様もそれぞれ患者の立場、あるいは患者のご家族の立場になるこ ともおありだと思います。そうした場合に、患者の被害感情に対して何が必要なのか。 総論としてのお話は伺えたように思うのですが、もう少し具体的に、私どもでもわか るようなお話で、その辺りを少しそれぞれご意見をお持ちであれば、お聞かせいただ きたいと思います。 ○前田座長   もし可能であれば参考人、短くお願いいたします。 ○並木参考人  先ほど院内事故調査委員会のガイドラインを示されましたが、その通りなのです。 現場はいかに真剣に患者、家族の声を聞くことにするかなのです。我々もいくつか経 験があるのですが、はじめは患者・家族から怒られるのをただ聞いているだけですが、 こちらが聞いていることが少しずつ相手にわかりますと、今度は言っていることを聞 いてくれるのです。ですから、まず現場での対応が大切なのです。そういう意味では 先ほどのことは非常に参考になると思います。 ○岡井参考人  医療事故の被害者のご家族に対して、私たちはそのご家族の方の気持を理解して、 共感を持って対応する。真摯に、起こった事実を正しく伝える。それから自分の反省 の気持とか、そういう意志も伝える。これが大事なことで、当たりまえと言えば当た りまえのことです。問題は、被害者の方は本当に気の毒だ、だからミスをした医師は 刑罰か?ということなのです。これは切り離して考えてほしい。そうでないと医療そ のものもよくならないし、結局原因究明も曖昧になってしまう。だからこそ、自分に 問題があれば正直に、ここはこうすればよかった、勉強が足りませんでしたというこ とを言える環境をつくらないといけません。それがないから対立が生じてしてしまう のです。  いま民事のことを言われましたが、民事と刑事は全然意味が違うと思うのです。民 事は適当にやってくれと言ったらいい加減になりますが、それはそれで適正にやるべ きです。ただし、刑事訴追は犯罪者と言われることですから、私達にとっては絶対に 受け入れられないということです。 ○堤参考人  被害に遭われた患者さん、家族に対して我々何が必要かということですが、このパ ターンということは私はないと思います。患者さん、家族はそれぞれさまざまなので す。我々は繰り返し対話を続けますが、その患者さんが何を求めているかをしっかり 見定めないと解決するものも解決しない。本当に謝ってほしいということであれば、 それで済むならば、それで終わりという人もいれば、完全に最初からお金という人も 家族もいる。医者もさまざまであるとともに患者側もさまざまなので、いま時代はマ ニュアルとかという流れになっていますが、そんなマニュアルどおりに動かないのが 私は紛争の解決だろうと思っています。  一言で言うならば、事故調を作って届出たら、その当事者たちはもう丸投げですよ。 それは決してよくないと思います。私も10年間ある医療ミスが疑われる子どもを診 ていましたが、家族に10年間怒鳴られ続けましたよ。それでも受けて立って対応す ることが大事で、それを事故調に丸投げしてさようならというので、私はかえって患 者家族と医者の人間関係を崩すことになりかねないという危惧を抱いています。 ○並木参考人  当事者同士だったらかなり感情的なことになるものですから、その場合、医療コー ディネーターなどが間に入り、事実を客観的に見てもらう、判断してもらうと、雰囲 気が非常に違ってくるのです。相手はどういうことを望んでいるのか、我々もどうい うことを言おうとしているのかお互いに通じやすくなる。どうも当事者同士だったら 感情的になって、それが治まるまでに時間がかかるのです。これから医療コーディネ ーターの役割が、非常に重要になるものと思います。 ○加藤委員  いまのお話の中で堤参考人から、この制度ができてそこに届出たら「当事者は丸投 げ」という言葉があったのですが、私たちのプランの中で、各医療機関はきちんと独 自に自律的に客観的公正な事故調査を遂げるだとか。被害に遭われた方ときちんと向 き合うだとか、そういうことはものすごく大事なことだという認識をして、医療事故 の問題、医療安全調査委員会の構想を議論してきたつもりなのです。丸投げになって しまうというふうになりますよというのは、何を根拠にいまそうおっしゃったのでし ょうか。 ○堤参考人  加藤委員は正善説なのだと思うのですよ。こういう制度を作ってやればみんなきっ ちりこれでやってくれるだろうと。私はそうではない現場を数々見ています。例えば ある所で、院内での医療事故調査委員会を開いても、協力しない人は協力しないので すよ。それが現実です。もちろんこの検討会で議論された事故調の精神に関しては、 私はそのとおりに理解していますよ。けれども現場の人は、必ずしもそう動かない人 も少なからずいるということです。ですからうまくいかない根拠よりも、うまくいく という根拠のほうをむしろ聞きたいぐらいです。 ○加藤委員  堤参考人は例えば院内で事故調をやろうとしたときに、院内で協力しない人がいた りすると、そういう現実も見てきたと、きっと苦労されているのでしょうね。そうい うときには、どうしていったら院内できちんとしたピュアレビューなり何なりを、育 てていくことができるとお感じになっておられるのでしょうか。 ○堤参考人  それはどこの組織でも同じで、例えば本人が何もしゃべらない、協力をしないとい うことであれば、周りの人間から情報を集めて、何が行われたかを公正な目で確認し ていく以外はありません。その上で院内的にはペナルティーでしょうね。それは医療 の中でやっていることであると思いますが。 ○前田座長  この辺りから先ほどのご意見の中には、この案に対しての疑問といいますか危惧も 含めてあるし、それについてのお答とかいうこともあろうかと思いますので、これは まとめて厚生労働省の側の意見だからそれに答えるというよりは、まず委員の方から ご発言を通して、また質問の延長でもよろしいのですが議論をする。できれば特に麻 酔学会などは論点をかなり書かれたものとして整理されていますので、それに対して の疑問に答えられる形で、なるべくは進めたいと思うのです。まずいま強く感じられ ているところから切口としてはご議論をいただければと思うので、どなたでも結構で すので、ご質問に対しての答でも、賛同するということでもよろしいのですが、いか がでしょうか。 ○堺委員  私は前回の検討会に出席することができなかったのですが、そのときに申し上げよ うと思ったことも含めて申し上げたいと思います。法律に係わっておられる方々、そ れから行政の方々、そして医療に係わっている方々、それぞれにお願いしたいことが ございます。  まず最初の法律のところですが、これはいみじくも堤参考人がおっしゃったことと ほとんど同じです。法と医の対話を是非さらに深めていきたいと思っています。私も ささやかですが、いくつかこの検討会に関連して経験をしまして、医療者側にとって 常識と思われることが、法律の方々から見ると必ずしも常識ではないとか、あるいは 法律的に極めて自明のことを医療者側は「それは知らない」ということを繰り返し経 験してまいりました。これはこれから非常に大事な制度、最終的には国民のため、医 療安全推進のため、医療の質向上のための制度をどうやって作ろうかということなの で、是非これは行政にもお願いしなければいけないと思いますが、これまで以上に医 と法の対話の場を設けていただきたい、これが第1点です。  第2点は行政に、いまも一部お話が出ましたが、院内の事故調査体制の整備を是非 推進していただきたいということがございます。事故調査委員会が仮にできましても、 院内の調査委員会はやはり非常に大事です。あらゆる意味で大事です。これは皆様方 よくご存じのように特定機能病院で一応以前にできまして、いまは多くの医療機関で もできていますが、まだまだすべての医療機関というわけにいきません。小さい医療 機関では単独ではできないという状況もあります。院内の事故調査体制の整備は、や はり行政に考えていただくべきことだと思いますので、これをご検討いただきたいと 思います。  第3点は、3人の委員の方々への質問という形をとらせていただきます。事故調査 委員会、これはもしかすると、賛成が得られなくてできないかもしれませんが、私は 是非できてほしいと思っています。たまたま今日は医療界の中でも格別お忙しい領域 の団体の代表の方々がいらしておられますが、この調査委員会がもしできたときには、 協力なさるのでしょうか。つまり団体として協力するのではないのです。医療に携わ る者、医師だけではなくて、看護も、歯科医師も薬剤もその他、医療にかかわるすべ ての者ですが、我々全員がこれに本当に参加して協力するのか。それができなければ、 この制度は絵に書いた餅になると思います。だから我々でやるのだというお答がいた だけるのでしょうか。よろしくお願いします。 ○並木参考人  日本麻酔科学会は公益法人という立場になりますので、学会としてはこういう制度 ができましたら、それに積極的に参加するのは学会として義務だと思います。そのた めには会員に本制度のあり方および問題点を明確に理解させ、納得、同意の得られる ように広報、指導をしていく必要があると思います。 ○岡井参考人  同じです。私達もこの制度が設立されたら全面的に協力したいと思います。ただし、 医師の中にもいろいろいます。産科婦人科学会に1万5,000人の会員がいると、先ほ どお示した見解をまとめるのにもさまざまな意見が出ますので、中にはそういうもの には協力したくないという人が出てくるでしょう。これはあり得ることで、100パー セント賛成でなければ無理だと言ったら、どんな制度でもなかなか成り立たないので すが、学会としては当然協力しますし、多くの会員は協力する姿勢をとってくれると 思います。ただし、まだ私たちの意見を残していますので、そこを汲み取ってもらっ ていいものを作ってもらいたいと思います。 ○堤参考人  順番に私から逆に質問するということでお答したいと思います。まず「法と医の対 話」を深めてほしい、行政側へのお願いです。これはずっと言ってきていることです。 本当に厚生労働省でできるのですか。あるいは座長、本当にその場を作るのでしょう か。私、議事録をずっと読んでいますが、(この検討会では)警察・検察はオブザー バーですよ。この場では無理なのではないかと思っております。本当に対応をすると いうことであれば、しっかりとした組織を厚生労働省できっちりと作ってほしいと思 います。我々そういう場ができれば参加します。だけれども、いくらお願いしてもも う無理ですよ。やる気があるのかないのか、ここです。  それから行政側として院内の事故調査体制の整備が重要である。私も同感です。で は厚生労働省は、一体医療安全にいくらお金を付けているか。1患者1入院当たり500 円ですよ。平均在院日数14日とすると1日37円。これで外部の委員を呼んで膨大な 時間を使って事故調査をしろと。やりますけど、もうちょっと考えていただいたほう が良いのではないかというのが私の意見です。  3番目、協力できるのかできないのかという点です。例えば民事裁判と同じ数と仮 定すると年間1,000件、1件に5人の調査委員ですから、医師側は毎年5,000人必要 です。医者の数は一応25万人と言われていますが、診療所を除くと12〜3万。でき ると思っていません。そのことはモデル事業の検証から私は答が出るだろうと思って います。それから日本救急医学会が協力をするかしないか、これは事故調がいかなる ものかによって変わってきます。日本救急医学会が納得するものであれば、それはも う必死でやります。その労を厭うものではありません。しかしながら、自分たちの納 得しない形になったときに、さあ、協力しろと言っても力は入らないでしょうね。だ からどのような事故調になるかで決まると思っています。  ただ、現実的にはたぶん数年経たたないうちにパンクすると思います。そしてたぶ ん皆さん言われるのは、「医療側が『やれやれ』、『自分たちでやるから』と言ってい ながら何でできないのか」って攻められますよ。きっとこの辺の人たちを攻めますよ。 別に、予防線を張るつもりはありません。できることとできないことがあり、協力す るといっても先生方も間もなく停年ですから、あまり気安くできるなんて言わないほ うがよろしいかと思いますが。  以上です。 ○前田座長  いまのご議論の中で、やや誇張した側面を見て発言されている面もあるかもしれま せんが、私は救急が協力しないで動かないのだと思いますし、お話を伺っていて大き な溝があるように見えて、ほとんど溝はないように伺うのです。感情の問題といいま すか、気持のどちら側から見るか、まさにいみじくもおっしゃった正善説か正悪説か、 同じ制度をどう評価するか、どちら側から見るかで全く色が違って見える面があろう かと思うのです。  議論としてここでいくつか出されているのは、やはり基準が不明確であるというこ とと、警察・検察がこちらの事故調を中心にやって、捜査を控えめにするというのは 明示されていないのではないかと。いくつか具体的なご指摘もあったと思うのですね。 それについて私も少し申し上げたいことがあるのですが、話しだすと長くなってしま いますので、ほかの方のお話をいただいてから、私も少し時間をいただいて意見を言 わせていただきたいと思います。どなたでもどうぞ。  ○堤参考人  参考人がこういう所で意見を言うのは如何なものかということがあるでしょうけれ ども、私どもが呼ばれるのは最後でしょうから。これまでの議事録を読ませていただ きました。前田座長の仕切りとして、溝はだんだん縮まったということで、それを毎 回やられているのです。それが13回続いた原因だと私は思っています。座長は刑法 学者なのですから、医療事故の刑事責任はどうなのかと、自分の本職できっちりやら れることが座長の仕事だと思います。もしこの検討会、事故調が将来に向けた医療安 全をやるのだったら、座長を降りて医療側が座長に座るべきです。先生が座長を受け られたというところに、私は最初から疑問を感じております。遠慮せずに座長が思う ようにやられればいいのですよ。毎回そうやって溝が縮まった縮まったということで やるから、みんな駄目になっているのですよ。 ○前田座長  それはやはりさっきと同じで見方があって、私は縮まっていると思っていますし、 事実、世の中の新聞業界なども縮まっていると評価されていると思いますので、それ はあれなのですが。ただ、やはり座長として刑法の側だけに仕切っているということ ではなくて、私の不徳のいたすところで公平ではないというか、医療の側の意見を汲 まないところが多すぎるという面があれば、ご意見としてもちろん甘受しなければい けないと思うのです。私ではなくて医療側でないと座長がまずいということは、必ず しもないのではないかという気がします。ただ、今日のところではその辺の議論をし ている時間がないので、中身に関してご発言があればお願いいたします。  お考えいただく間に私から1つだけ、堤参考人、それから麻酔科学会からのご疑問 もそうなのですが、過失の限界が不明確であるというのは、非常に大きなポイントだ と思うのです。医療の過誤みたいなものは刑罰の対象にすべきではないのではないか、 という議論も非常によくわかるし、歴史的には強くあります。それから堤参考人がお っしゃる211条の罪刑法定主義違反ではないか。これも昔から強くある議論ですし、 刑法学者の中にもある議論です。やはり過失違反というのは構成要件が不明確である と、そして、開かれた構成要件とかについて何本も論文があるのです。  ただ、はっきりしているのは、世の中だんだん危険なことが増える中で、過失行為 の処罰をせざるを得ない、国民から見て、やはり過失の処罰をせざるを得ない領域み たいなものが固まっていくのです。医療もそうなのですが、岡井参考人などにご理解 をいただきたいのです。下手だからとか、ちょっとしたミスだからだけ、それも全く ないとは言えないのですが、国民から見たら、これは処罰しないとおかしい。  これはややフィクションに近い例ですが、わかりやすいために申し上げますと、薬 を取り違えた、下手だから、若いときにとか、看護師がそういうミスをするのは仕方 ないというのはあるのですが。次の日に手術があるのだけれども、前の日にその医者 が飲み過ぎていて、その場でということがあったりすれば、国民としてはですね。も ちろんやったときは故意ではなく過失ですよね。そういうものであって、全体として 我々の専門から言いますと、ほかの交通事故や何かに比べると、刑事責任の追及の仕 方が非常にモデレートなのだと思うのです。罰金というのは非常に軽い。その意味で は医師を刑罰、刑務所に入れてはおかしいというのがあるもので、罰金の割合が非常 に高いのです。それから有罪になってもほとんど全部執行猶予です。  それは法律家も考えているのですが、ただ、それでも有罪になる医師の側から見れ ば、不満があるのもよくわかるのです。片一方で先ほどご指摘があったように、被害 者の側の気持もある。そのバランスの中でできていく。その中で重大な過失というか、 注意義務からの逸脱というのか、岡井参考人がご提示されたものも、それほど我々の 考えと違わないのです。  救急の方に強く申し上げたいのは、救急の方に内科学会の基準、外科学会の基準で 当てはめて、一般の基準から逸脱しているから過失があるということはあり得ないと 思うのです。緊急状況に置かれてその場でやらざるを得ない人にとって、しかもスタ ンダードの医師よりかなり低い水準でどうか。その中で大野病院はどうか。これは警 察の側、検察側からお答しにくいところがあるのですが、微妙なところだと思います。 あの事件は法律的には無罪の結論が出ているわけです。そういうものが基準となって 積み重なって、過失の基準を作っていく。それを作るためにこの会をつくって、法律 家と医師が共同で案を作っていくということなのです。  堤参考人にいちばん強く申し上げたいのは、先ほど産科の岡井参考人が「パイプは つなげておきたい」と、あそこが今回の話の肝なのだと思うのです。勝手に警察にや られては困るという気持は非常によくわかるのです。ただ、警察の側では医師の協力 なしでは立件できないです。大野病院だって医師の鑑定がなければ動かなかったです よ。だから医師の鑑定は当てにならないと言うけれども、それを医師の側から見てよ り良いものを作るための一歩として、この事故調をつくろう。医療が主導して法律家 の意見も入れる。その意味で、法と医の現場を踏まえた対話の場をつくっていこうと いうのが、本当に偽らざる気持なのです。 ○岡井参考人  それを受けて、あとのほうの話が先になりますが、大野病院事件で医療側が鑑定書 なり意見を述べたことが捜査の理由というか、刑事訴追に動いた端緒であるというご 意見です。けれども、あのときは実は私のところにも警察から電話がかかってきてい ます。私はそうひどい過失ではないという判断を言ったのですが、そういうのは無視 されるのです。警察はなんとか動きたいから、自分達の意図に合うような意見を取り 上げているわけです。1つの疾患の取り扱いに関しても、いろいろなことを言う人が いるわけです。それでも、警察は自分たちがこうしたいなと思うことに合致しる意見 しか聞かないというところがあります。  そのときに、こういう調査委員会なりで学会としての見解、いくつか意見があって も、学会ではこれが一般の考えではないかという意見を聞いて動くのであれば、起訴 にはならなかったけれども、警察の方が自分の思っているのと同じような意見を言っ てくれる医者探しをしていたら、1人や2人そういう人が出てくるかもしれない。だ からそういう意味で、私はそのパイプがあって、こちらの意見を大事にしてもらうこ とが重要ではないかと思っているのです。  もう1つ、最初の大事なところで、「若いから失敗したとかいうのを刑罰から外すと いうのは理解できるが、中には酔っぱらって手術をしたようなのがある。それは国民 感情からして許せない」という話がありましたが、酔っぱらって手術をするのは正当 な業務の遂行にはならないのです。酔っぱらって手術をやるということは、その業務 に誠実に取り組んでいるわけではなく、酔っぱらい運転が規制されるのと同じです。 そういうものは当然刑罰を受けても仕方がないと、私たちも思っています。  ですから、今度の「標準的な医療から逸脱した」という表現に加えて、本当にみん なが見ておかしいと考える事例と規定する、それをどう表現していいか私にはわかり ませんが、法律上の条文にして頂きたいのです。あれだけだと、単純ミスは標準的医 療から逸脱しているとしか言いようがないでしょう。逆に聞くとあれが標準医療です かになってしまう。標準医療ではありませんよ、AではなくてBという薬を使うのは、 逆の作用があるのだから。でも、そこには似たような薬が隣にあるとか、全く作用が 逆の薬に似たような名前が付いているというミスを起こし易い背景が存在するので す。  私達のところでもありましたが、ゴロが似ていて作用の異なる薬があるのですよ。 ゴロが似ていると、前の日に当直をしていてとても眠い、目をこすりながら次の日ま た仕事をして、そのゴロの似ている薬をひょっと書いてしまうことがあるわけです。 そういうものも刑罰にしてしまうと、そのゴロを変えたほうがいいのではないかとか、 そちらのほうに話がいかなくて、おまえが悪い、おまえがバカだという話で終わって しまうのです。こういうものは刑罰に処するというのならそれでもいいですが、それ は医療の向上には役立ちません。マイナスであると思います。結局そういう事故が減 らないわけです。  大事なことは事故を減らしていくほうに力が働かなくてはいけないということです。 そういうものに刑罰を与えても、事故が減るほうに力は働かないのです。手錠を持っ て、おまえ手術に失敗したらこうだぞと脅すとか、あるいは外来で処方している人に 間違いをしたらと、手錠を見せても逆効果でしかなくて、ミスは絶対に減らないので す。そうではなくて、思いきってやりなさい、しかし、あなたの力が足りないときは、 別の形で職業人としてのペナルティーを与えますよという方が良い結果が出るので す。  それと、何が問題だったのか、本当のことを言ってくもらうことです。そうしたら きちんと原因がわかってくるし、どういうことが原因でこのような事故が起こってい るのかという統計も取って、学会としてみんなでその防止に努めましょうという話に 進むのです。そのためにも刑事罰を切り離すことが重要です。 ○前田座長  そこははじめからずうっと、堤参考人もおっしゃった、そこを完全に分けるべきで あるということなのです。それと先ほど申し上げたパイプをつないでおかなければい けないということが、裏腹の関係です。やはり刑罰制度がなくならないし、先ほどお っしゃったように、211条を直してというのは、国民、おそらく国会は通らないと思 うのです。医療は一切刑事過失から排除するというのはあり得ない。そうだとすると、 その中でいちばん合理的なつなぎ合わせ方というと、岡井参考人が先ほどおっしゃっ たように、211条が残るのならパイプをつないでおかなければいけない。そのパイプ をつなぐ中で医と法が合理的な対話ができるようにしなければいけないし、その信頼 関係があれば、正善説に立てとまでは言わないですが、もう一歩信頼して前に進める のではないかなという感じもするのです。 ○堤参考人  事故調を作って、1例1例これは過失があるのかないのかを検討して、その積み重 ねで良いものを作っていこうということに関しては、分からないわけではないのです が、では事故調査委員会に検察、裁判官が出てくるのですか。素人が、医療側を中心 に、弁護士は出てくるかもしれませんが、その集団でこれは過失があったなかったと 判断をしても、なんのあれにもならないと私は思っています。  積み重ねというなら、いままでのモデル事業が何十例かあるわけです。さらには、 過去何十年にわたって、医療事故で業務上過失致死になっているのが何百例とあるわ けで、それを分析すればある程度の類型化が出来るわけです。そのような作業はもう 検察はやっていますよ。ただ、それを表に出すか出さないかということです。「法と 医の対話」という観点で言いますと、我々はそれを求めています。けれども警察・検 察は組織で動きますから、1人で事故調に出て行って何かを言うということはありま せん。そこの構造をなんとか変えないかぎり、私は難しいと思っています。 ○高本委員  いろいろ議論がありましたが、ほとんどのことはいままでの14回の検討会の中で語 られているのです。ずいぶん誤解があると思うのです。1つは医療安全調査委員会で は医学的な判断だけですから、過失があるかどうかは判定しないわけです。本来はこ うあるべきだ、こうするのが当然だけれども、少しそこからは離れているという判断 はするかもわかりませんが、それは過失かどうかという判断ではないわけです。そう いう法的な判断と、医学的な判断と両方一緒にしなくてはいけないという役割ではな いわけです。医学的な判断をする場所がこの医療安全調査委員会で、再発防止のため の策を提示し、より良い、より安全な医療への道を国民に向かって、あるいは医療者 に向かって提示するものです。  その検察や警察に関する心配はずっとしていました。裁判でも間違うわけです。誤 審もあるわけです。警察も誤認逮捕があるわけです。そういうことをずっと言ってき まして、刑事事件で処理するものを極めて限ろうということなのです。岡井参考人が 言うのと、我々の考えはほとんど同じです。医療安全調査委員会が刑事で振り回され ているような感じを持たれているのは、誤解だろうと思います。極めてこれを限局し ようとしています。唯一いま問題になっているのは、重い過失、あるいは標準的な医 療から離れているということをどう解釈するかということです。先生が言われたよう に「悪質」という言葉をつけたいと。そういう気持ちはわかります。ニュアンスとし ては同じです。ただどのように表現するかという問題で、みんなで考えなければなり ません。これは本当にひどいと思うのを刑事事件にすることについて、岡井参考人も 並木参考人も賛成ですから。  私は、医学界は医療安全調査委員会に関しては、8割どころか9割以上の人が賛成 しているだろうと思います。ただ誤解があると、ここで反対とかになるものですから、 是非ともいままでの14回の議論を、今日は15回目ですから、もう一度読み直してい ただきたい。我々は責任追及をするために医療安全調査委員会をするのではないとい うことを、もう一遍ご理解いただきたいと思います。 ○山口委員  せっかく参考人に3学会から来ていただいて、時間もなくなってしまうのですが、 やはり、常に触れられている話は、この医療行為は刑事訴追を云々されてもしょうが ないというところをどこで線を引くかという問題だと思います。どこから業務上過失 傷害、過失致死とされるかという問題です。この3学会のご発言お聞いても、故意と 悪意のあるものが刑事訴追を受けることに関しては、皆さんそんなに大きな異論はな いように思います。  それ以外の医療行為について、善意で行っていれば、それはもう刑事訴追を受ける 対象にはならないと考えられているのか。善意ということもなかなか難しいと思うの です。本人は善意と思っているけれども、ということもいろいろありますので。しか し明らかに悪意を持ってやろうとしているわけではない、故意でもない、このような もの以外の医療行為で、どういうものは刑事訴追を受ける、警察のマターだというよ うに線引きをお考えになっているのか。もし具体的な話がありましたら、是非それぞ れの領域なり、それぞれのお立場から教えていただけるとありがたいのですが。 ○岡井参考人  法律の文章というのはちょっと難しいですが、例を上げれば、例えば、この患者さ んの治療にこういう手術がいいと本人も思っていない、あるいはそういうことは教科 書にも書かれていないけれども、その手術の保険点数が高く設定がされていれば収益 が上がると、そういう目的で不必要な手術をしたととすれば、これを私たちは正当な 業務の遂行とは呼ばない、というのも1つの例です。  また別な例を上げれば、自分の研究のために新しい術式を行った場合とかです。そ れを開発するのも必要ですが、きちんと患者さんの了承を得て、同意書を取って説明 して、リスクも説明をして、正当な手順をとってやったのならいいけれども、そうい うことをやらないで行って、結果として患者さんが不幸な目に遭った場合、こういう ものも私達は正当な業務の遂行とは言えないと考えています。いくつかそういうもの が出てくると思います。どう表現するかは難しいですが、頭の中で想定されるのはあ ります。  ただし、一所懸命にやって、患者さんのためを思ってやったが、力が足らなかった 例、いま民事で裁判になっているような事例とかは別です。大野病院事件でも、本当 にもっと手術のうまいブラック・ジャックみたいな人がいたら助かったかもしれない し、そういうことも当然あるわけですが、これは刑事罰の対象にはならないのです。 相当レベルの低い場合も当然ありますが、しかしそれにも刑罰ではなくて、低いレベ ルを上げてもらうようにするためには、別のペナルティー、教育とかそういうものが 必要だろうと思います。でないと医療事故は減りません。同じような症例を、また同 じレベルの医師が診療する機会があるわけで、そういう人たちの力を上げていく方向 にいかなければいけないのです。そこが刑罰だと、たぶんそうはならないと思います。  論文を読んで、ちゃんと調査したわけではなく、人から聞いたパーソナルコミュニ ケーションですが、アメリカも明らかなミス、注射を間違えたり、量を10倍やって しまったとかというものに対して刑罰を科していたのですが、似たようなミスはいく ら刑罰を科しても減らない。だからそういうことは一切やめて、その代わりなぜそう いうミスをしたのかを分析して、システムの改良を行ったのです。人間はミスを犯す ものです。先ほどの話ではないですが、薬に逆の作用を持つ薬と似たような名前をつ けるなとか、危ない薬は現場に置くなとか、そういうことを徹底的にやって、私の聞 いた話では半分ぐらいまで事故を減らすことができたということです。  人がなぜ間違えたかということを徹底的に分析するためには、手錠をぶら下げて脅 すより刑罰と切り離すほうがいいという、そういう結論ではないかと私は思っていま す。 ○堤参考人  山口委員の質問に対してですが、資料の中に救急医学会の見解として出したつもり です。つまり、「重大な過失」とか「標準的な医療を著しく逸脱した事例」というの ではなくて、「明白な過失」の具体例を一応検討しております。  そもそも、国が医療において、業務上過失致死に問える医療水準とは何か。私は法 律の素人なのですけれども、厚生労働省が医師免許を与える水準というのは医師国家 試験と規定されているわけです。ですから国家試験レベルというのが業務上過失致死 の水準になるのではないかと思っています。そうしなければ他の国家試験との整合性 がとれなくなります。  例えば法曹界。司法試験をやって合格した、研修制度のような司法修習制度があり ますけれども、それを終えたら何をやってもいいわけですよ。運転免許も試験に合格 したらそのレベルなのです。では何で専門医のレベルが、大野事件もそうですが、そ れが業務上過失致死に問えるのかというのが、素朴な疑問なのです。それは刑事的に 本当に成り立っているのですか。法曹界は自分たちで一所懸命自浄作用をもってやっ ているというけれども、医療界は各専門学会を作って、自分たちの技術を上げるため に、認定制度を作ってやっているわけです。弁護士よりもよっぽど努力してますよ。  弁護士は司法試験を取ったらもう終わりです。では医療事故の専門弁護士資格を弁 護士会で自ら作っているか、やっていませんよ。我々は、自ら医者としての誇りとプ ライドにかけて、専門試験を作って試験を課して、経験させて専門医という資格を与 えているわけですよ。それはプロとしてのプライドでやっているもので、それを国が 業務上過失致死にするというのは、本当に法律的に合っているのかと素朴に思います。 つまり医療の進歩と向上のために、医療界が自ら努力していることを、それを刑事訴 追の水準にするというのは、他の国家試験との整合性を考えたときに根拠がないと。 法曹界の人たちがどう思っているのかお聞きしたいですね。 ○前田座長  私が代表して答えるつもりもないのですが、誤解があるのは、一定の水準というの はかなり高く設定されているのですが、刑事罰というのは、先ほど山口先生の話にも 出てきましたけれども、本当に問題のあるレベルを言っているのです。もう1つは、 重要なポイントは、刑罰制度というのは医療過誤をなくすためだけにあるのではなく て、先ほどどなたかの中に出てきましたが、国民の応報感情みたいなものが入ってい るわけです。現に被害があって苦しんでいる方もいて、その人たちに対してどう対応 するかということも当然入ってくるわけです。  211条で、誤って人を殺した人を処罰する中で、それと横並びで、同じようにお医 者さんの中でも処罰しなければいけない部分はどこまでかと。そのときに、医療はま さに人の命を守るために一所懸命やっていらっしゃる方であると、特別なものである ということは、当然入っていると思うのです。その中でも現実に有罪判決を受けてい く事件というのは、ごくごく一部なのですが、非常に過失の程度の強いものに限られ ているということなのだと思うのです。だからほとんど議論に幅はないし、それをど ちらから見るかという感じなのだと思うのですが。  先に児玉先生、お願いします。 ○児玉委員  せっかくお出でいただいたので、1つ微妙な点でご意見がお三方異なっていると思 った点があります。それは岡井参考人がパイプという表現をされたことにかかわるこ とです。参考資料1(別添)の9頁を開けていただきまして、いわゆる第三次試案の (39)で、「捜査機関への通知」という項目があります。このいちばん最後の部分が、「地 方委員会が届出を受けた事例の中にこのような事例を認めた場合については」、前の 故意や重大な過失を原因とするものであり、刑事責任を問われるべき事例が含まれる 云々を受けて、「場合については」で、最後のところです。「捜査機関に適時適切に通 知を行うこととするが、医療事故の特性にかんがみ、故意や重大な過失のある事例そ の他悪質な事例に限定する」と、こういう表現があります。  前回の議事録をお読みいただいたということで、「重大な過失」という言葉について、 例えば前田先生の教科書はどのようにお書きになっているかということは、繰り返し ません。ただ、結果が重大だというだけで、重大な過失になるという考え方をする法 律家はおりません。その上で麻酔科学会の並木参考人は、この文章について、重大な 過失をもう少し具体的に説明がほしいというようなご意見のように私は承りました。 岡井参考人もパイプはある。ここの表現をどうするかということで、いろいろとお考 えになっておられる。そして堤参考人は、死因究明と責任追及の切断ということをは っきりおっしゃられたので、そういうふうに私はお聞きをしたのですが、ひょっとし たら、私の聞き違いで、大筋でこの部分については、それほど異論がないのではない かとも聞き取れるのです。その辺についていかがでしょうか。堤参考人からご発言が ありそうだったのでお聞かせいただけますか。 ○堤参考人  大綱案でいきますと、警察・検察に届け出ない・通知しない事例の中に、法的な過 失のある例が埋もれる可能性があると。そうですよね。事故調で判断して、その一部 を警察・検察に届け出るならば、届け出ない中に、警察・検察が見たらこれは問題だ という事例が含まれる可能性は残るわけです。それは本当にそれで国民が納得するか ということです。警察から検察への書類送検みたいなもので、全例送致主議というも ので、全例を送らないと透明性は確保できない。これが論理というものだと思います。 違いますか。だって論理的にそうじゃないですか。先ほど高本委員が事故調で過失の あるなしは判断しないと言われましたが、事故調の中で判断した場合、警察・検察に 届けなかったその残りに過失があるものが含まれるというのは、論理的に考えてもそ うでしょう。 ○児玉委員  岡井参考人、並木参考人からも、この部分について。堤参考人のご意見は、論理的 にそれは成り立たないから、全例、警察に通知する委員会にすべきだというご意見と お聞きしていいのですか。 ○堤参考人  いやいや、医療安全を、将来に向けたプロスペクタスなものでいくか、責任追及と いうレトロスペクティブなものでいくか、という議論をいまずっとしているのですか ら。それだったら、責任追及を行う組織を作ったほうが論点がはっきりするだろうと。 そこから出発しても良いのではないかというのが、逆説的な表現ですよ。それが正し いとは、私は思っていませんよ。 ○児玉委員  ですから逆説的ではなく真っ直に言っていただけると。先ほど堤参考人はたくさん 逆説的な表現をされて、若干戸惑っている部分がありますので、正面から言っていた だいたら、調査委員会で調査したものの範囲の中で、第三次試案はこういう表現をし ている。先生だったらどう表現をされますか。 ○堤参考人   それをやるために資料を出したわけですよ。 ○児玉委員  明白な過失という概念で置き替えられるということでお聞きしてもよろしいですね。 まずイエスかノーかで。 ○堤参考人   違います。イエスかノーではありません。 ○児玉委員   イエスかノーでもない。 ○堤参考人  つまり、我々はこういう具体的な案を検討して出していると。それは正しいと思っ ていない。だけれども、まず初めに、明確な基準を法曹界側が医療界側と一緒に作っ て提示すべきだということを言っているわけです。それが出来れば、この部分はもっ とすっきりすると。分かりますか。分かりやすく言っているつもりなのですけれども。 ○児玉委員  岡井参考人、並木参考人にも同じ質問で、この部分についてのコメントを一言ずつ いただいて、どういう検討をしていったらよいかということを示唆していただければ と思います。 ○岡井参考人  それはいままで主張してきたとおりなのですが、重大な過失ということの定義は結 果だけではない。注意義務の程度の問題にかかわる。それも認識しております。ただ し、そういうものも含めて刑事にすべきでないというのが私たちの考えですから。そ ういうものというのは、本当に重大な過失であってもです。これは医療にかかわって いない人に分かってもらわなければいけないことですが、皆エラーをするわけですよ。 重大な過失を犯すのです。例えば医療は野球とは違いますけれども、イチローは世界 一守備がうまいでしょう。それでも1,000例の捕球機会のうち、何回かポロっとやる わけですよ。でも人が死なないから、試合に負けても怒られるだけで済むのです。  我々の業界でも、別に若い医師ではなく、ベテランの先生、腕のいい先生でもしま ったということをやるのです。それが、僕らの領域では人が死ぬというようなことに 直結してしまうのです。重大な過失、業務上過失であっても、死に至るということは、 普通の業務ではあまりない。だけれども、医療は死に至るということが目の前で起こ るのです。だからそのことに対してすごく敏感になっていて、いつ自分がそういうこ とになるのかということを、みんな考えているのです。  それと、さっきも言ったように、重大だという判定される例で注意義務が著しく劣 っているとしても、背景にも問題があって、それを解決しないで警察に通知しても駄 目だと。そういうことなのです。  ここの表現を、実は参事官の岡本さんと夜中に散々議論をしたのですが、「その他悪 質な事例」とありますよね。「その他悪質な事例」というのは、それを除いた悪質な 事例ですから、この“悪質な”をその前に全部にかかるように、何とか文章を変えて くれないかということをお願いしたのです。そうすれば、何であんなバカなことをや ったというミスをしていても、それが悪質でなければ警察に通知されないことになり ます。先ほど話になったような酔っ払って手術したとか、そういう悪質な例は別です。 ○前田座長   木下先生何か発言はありますか。 ○木下委員  お三方の参考人の方々からお話を伺って、心配なことがあっても、最終的には、各 学会が、同じ方向性で動いていただきたいというのは、医療界としましては、皆共通 の願いです。我々4人が医療界から代表して出て来ましたが、そもそもこの検討会を 発足した趣旨は、医療事故死が起こったときに、警察に届けるということから始まる 刑事訴追の流れというのは、医師法21条が存続する限り、もう避けて通れない。現 状では250例近い警察への届出が行われておりますし、其のうち、100件近い立件件 数、警察から検察への立件件数が事実あります。そういう流れが、もしもこの医療安 全調査委員会を新たにつくらない限りは、いつまでも続くのです。この現状を何とか 改善したいということから、この委員会が始まりました。  したがって、議論をしていく上で、法務省、警察庁やご遺族の方たち皆さんいらっ しゃる中で、あえて刑法学者である前田先生が座長をしていただいたことは、医療界 は実は司法のことは、よく分からないだけに、大変ありがたいことでした。委員会の 委員として、当然、弁護士の先生方も入っていただいて、こういった刑事司法に対し てどうあるべきかを討論してきましたが、現実を踏まえた上でしか新しい法律は作っ ていけないのです。  そういう中で、いちばん大事なことは、警察に届ける代りに、届出機関として、別 の委員会をつくるのであれば、第三者委員会としてどうあるべきかについて、いろい ろ議論してきたわけです。そのときに、もしもその委員会が原因究明と再発予防だけ しかやらず、責任追及に関することは一切しないのだということになれば、医療事故 死に責任問題を問われる事例は、あり得ることですから、当然、検察の方、警察の方 が、いままでどおり致しますということになります。そうではない仕組みを新たに考 えましょうということで議論をしてきたのです。  大綱の3頁。大きなIIIの第12ですが、非常に大事なことが書いてあります。もしも 堤参考人が、大綱を読んでいただけているとすれば、是非、その、本当の意味を考え ていただきたいと思います。それは、第12の1のところです。原因究明と同時に、「委 員会は、医療関係者の責任追及が目的ではなく、医療関係者の責任については、委員 会の専門的判断を尊重する仕組みとする」と記載されています。堤参考人がお話にな りましたように、我々医療界の代表である委員が真剣に調査し、検討して、この事例 は本当に警察に通知すべきであるかどうかを判断します。その事例の内容は、標準的 な医療から著しく逸脱した医療行為であり、しかも、医療の環境、医療現場の状況を 知っている我々が考えるときに、これは本当にひどいものであるとか、これは医の倫 理に劣るものであるというものであるならば、それは通知するべきであると判断する わけですが、その医療界の委員の判断を尊重しますよということを意味しています。  逆に言えば、通知しないでよいケースについては、それは医療安全調査委員会の方々 がそう判断したのだったら、捜査当局はそれで結構ですから、出て行きませんという ことを意味します。いままでのように警察へ届ければ、すべての事例が刑事司法の流 れに乗るというのではなくて、委員会へ届出られた事例のうち、本当に限られた、悪 質なもののみを、捜査機関へ通知していこうという仕組みを作ってきたという経緯が あります。  したがって、堤参考人の意見は、誤解だろうと思います。いろいろなご意見があり ましたけれども、性悪説だとか性善説だとかの話ではなく、社会の現実を踏まえた上 での建設的な議論をしていかなければ、ただの議論に終わってしまい、全く意味がな い。これは医療界が本当に求めていることではないと思います。医療界は少なくとも 専門家集団でありますので、職業的規律と、専門的な知見に基づいて、医療事故に対 して我々自らが判断するということです。この判断をあえていままでどおり、司法に お願いする、医療界以外の第三者にお願いするというのはおかしな話であります。こ ういう新しい仕組みを作るという以上は真剣に、できないではなくて、医療界のすべ てのものが、やるという覚悟がないかぎり、成功しません。やろうという視点でいか ない限りは、細かいことがあるかもしれませんけれども、そういったことをクリアし ていくというようなことで。  あえて前田先生が座長を引き受けてくださったことは、願ってもないことで、大変 ありがたいことでした。先ほども述べましたが、医療界は実は刑事司法のことにかん しては素人です。こういう中で、ご専門の立場から、こういった問題はこういうふう に考えるべきだというご指導や、サゼスチョンをいただいてきたわけであります。し かも法務省、警察庁の方も、ここまで医療界がやると明言されたのであれば、其の通 りやってください。それだったら私どもは先生方の判断を尊重いたしますということ できたのです。このことに関して、堤参考人は、救急医学会でもいまのような考え方 を会員の皆様に浸透させて、みんなでやっていこうという方向でご意見を集約してい ただきたいと思います。是非お願いします。 ○豊田委員  すみません。今日は刑事責任の話ばかりになってしまったので、遺族の私にはとて も入れないという、少し残念な気持ちです。時間がないので一言だけ言わせていただ ければ、被害者のいちばんの願いは真相究明です。今日は詳細な説明ができませんけ れども、私には医療界を信じられなくなるような出来事が息子の事故の後にありまし た。ある学会が事故を起こした直後の医師を専門医に認定していて、どこが自浄作用 なのかと思う、ショックな経験をしております。それらを考えても、これまで医療界 は、そういうことについて答えてくれたとは言えないと私たちは思っています。  さまざまな立場の方が、これから一緒になってこういった仕組みを作っていきまし ょうと、初めて一緒に声が上がったのだと思います。原因究明を第三者機関ではなく 院内で事故調査を実行していくのに、私もいま医療安全の部屋で勤務をしております し、先生方がいちばんよくご存じだと思いますけれども、院内の事故調査がどれだけ 難しいかという問題に、みなさん直面していると思います。  ですから丸投げということではなくて、全ての医療機関でいますぐできないのであ れば、いまから実現できることを考えたときには、やはり第三者機関をつくって、そ こから院内を支援していく形を作ったほうがいいのではないかと思います。決して病 院が丸投げするということではなくて、調査した結果を踏まえて、それから遺族なり 病院なりがその結果を踏まえてどう考えていくか。その結果が違うのではないかとい う声が上がってもいいと思うのです。これまで真相究明をしてもらえていないという 現実を、一緒になって考えていただきたいと多くの遺族が願っていることだけは、知 っていただきたいと思います。 ○鮎澤委員  時間も過ぎているのですが、すみません。2点ほど。まず3人の先生方、どうもあ りがとうございました。1点目なのですが、この検討会は議事録も含めて大変多くの 方が注目しておられます。先ほどの児玉委員のお言葉を借りれば、逆説的なご発言と いうか、表現のされ方も多かったように思います。私は仕事がら、自分の病院、それ から他の病院、モデル事業と、いろいろなところの調査委員会にご一緒させていただ くことがあります。そこにいらっしゃる先生方は、公正であろうとして、中立であろ うとし、医学者、科学者、そして医療者の観点で本当に真摯に議論されておられます。 その結果を本当に真摯に患者さん、ご家族、時にご遺族に伝えようとしておられます。 そこのところは、この議事録を読まれる方たちにも、しっかりとわかっていただかな ければいけないことだと思っています。それを是非ともきちんとこの席で申し上げさ せていただきたいと思いました。  2点目。これは違うお願いなのですが、モデル事業の話が出てきています。モデル 事業では、双方が同席して説明会が開かれていますし、報告書は双方に渡されていま す。モデル事業でどういうことが起きているのか、どういうことが問題になっている のかということは、この検討会で議論されていることを、もっと具体的に議論してい くための重要な材料になると思いますので、その辺りをわかりやすい形で、かかわっ ている人間はわかるのですが、どうも外からはなかなか見えていないところがありま すので、示していただければと思います。 ○山口委員  モデル事業のお話が出ましたので、先ほどの話もありましたけれども、いま鮎澤委 員がおっしゃっていただきましたように、現場では公正・中立であろうという立場に 立とうとしています。実際になかなかそれは難しいことだということも、ご理解いた だかなければいけないと思います。これに参加されている先生方は、病理の先生も臨 床の先生も、弁護士の先生も公正でやろうというふうに取り組まれているので、私は、 ああいう人たちがいる限りは、医療安全調査委員会のような取組が公正に行われるこ とが難しいとは思っていません。  このことを表に現すものとして、ホームページにすべての報告書ではありませんが、 ご了解の得られた報告書については概要が公表されております。是非ご覧いただきた いと思います。その概要の内容も当初に比べれば、報告書のより広い範囲が公表され るようになっておりますので、それが将来の調査委員会での結果が公表される1つの 原型になればと願っています。ご覧いただければ、各委員がいかに公正を目指して取 り組んでいるかということは、ご理解いただけると思いますので、是非ご覧いただき たいと思います。  モデル事業はもう少し宣伝が足りないと言われますと、確かに多少そういうところ があるかもしれませんが、今後も努力したいと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。私の不手際で、会場の関係がありまして、本当に申し訳 ございませんが、本当は堤参考人からご発言をいただかなければいけないのだと思い ますが、今日はこれで閉じさせていただきたいと思います。次回は11月10日に、全 日本病院協会、全国医学部長病院長会議、医療過誤原告の会の代表からご意見を伺う 予定になっております。何とぞよろしくお願いします。今後ともよろしくお願いしま す。 (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579)