08/10/24 第53回労働政策審議会職業安定分科会議事録 第53回労働政策審議会 職業安定分科会 1 日 時 平成20年10月24日(金)11:00〜12:00 2 場 所 厚生労働省職業安定局第1会議室 3 出席者 委 員(公益代表)            大橋分科会長、清家委員、征矢委員 (労働者代表)            徳茂委員、野田委員、長谷川委員、古市委員、成瀬委員代理(冨高氏) (使用者代表)            荒委員、石井委員、市川委員、高橋委員、尾崎委員代理(久保氏)       事務局 太田職業安定局長、大槻職業安定局次長、及川審議官、            岡崎高齢・障害者雇用対策部長、宮川職業安定局総務課長、            鈴木需給調整事業課長、田中需給調整事業課派遣・請負労働企画官 4 議 題   (1)労働者派遣制度等の見直しについて 5 議事内容 ○大橋分科会長 ただいまから第53回労働政策審議会職業安定分科会を開催いたします。 (出欠状況報告)  議事に入ります。本日の議題は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働 者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案要綱について」です。本 法律案要綱については、9月24日付で、労働政策審議会から厚生労働大臣宛に行われた 建議に沿って作成され、本日付で厚生労働大臣からの諮問を受けておりますので、本日 はこれについてご審議いただきます。初めに事務局からご説明をお願いします。 ○需給調整事業課派遣・請負労働企画官 資料No.1と参考資料と2種類ございます。参考 資料ですが、分科会長からご説明のありましたとおり、今月24日に労働政策審議会から 労働者派遣法の改正について建議をいただいていまして、それに沿いまして改正法案の 要綱を作成し、本日の資料1のとおりに諮問をさせていただいています。  資料1に沿って説明します。1枚めくっていただいて、法律案要綱第1「労働者派遣事 業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の一部改正」の 内容です。1として、「一般労働者派遣事業の許可及び特定労働者派遣事業の開始の欠 格事由の追加」で、(1)許可を取り消された者、特定労働者派遣事業の廃止を命じられた 者、こうした者が法人である場合において、これらの取消しの原因となった事項があっ た当時、その法人の役員であった者についても、欠格事由に追加をするというものです。 (2)(3)については、取消し等の処分に着手してから、処分があるまでの間に、廃止の届 出を出した者についても、欠格事由に追加をするものです。(3)として、そうした者が法 人である場合に、聴聞の通知前60日以内にその法人の役員であった者についても、欠格 事由に追加するものです。(4)から(6)ですが、いわゆる暴力団排除条項で、暴力団員等 が事業活動を支配する者等々についても、欠格事由に追加するものです。  次に、2「労働者派遣事業の業務の内容に係る情報提供義務の創設」です。派遣元事業 主が、事業所ごとの派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者 派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除しまして、そ の控除した額を労働者派遣の料金の平均額で割ったものの割合、それから教育訓練に関 する事項その他あらかじめ関係者に対して知らせることが適当であるものについて、情 報の提供を行わなければならないものとするという内容です。  3「紹介予定派遣」です。紹介予定派遣について、職業紹介により従事すべき業務の内 容、労働条件その他の紹介予定派遣に関する事項を、労働者派遣契約の締結に際して定 めなければならないものとするものです。  4が「期間を定めないで雇用される労働者に係る特定を目的とする行為」です。(1)で すが、派遣労働者を特定することを目的とする行為については、これをしないように努 めなければならないと変更されていますが、これについて、労働者派遣の役務の提供を 受けようとする者が、労働者派遣に関しての派遣労働者を期間を定めないで雇用される 労働者の中から特定することについて、労働者派遣契約の当事者が合意をしたときにつ いては、適用しないものとするものです。(2)です。そうした派遣労働者の特定について、 「年齢又は性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない」というような規定を新 たに追加するものです。  5「有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等」です。期間を定めて雇用する派遣労働者又 は派遣労働者として期間を定めて雇用しようとする労働者、こうしたもののうち、相当 期間にわたり期間を定めて雇用する派遣労働者であった者その他期間を定めないで雇用 される労働者への転換を推進することが適当である者として、省令が定める者。こうし た者の希望に応じて、次のいずれかの措置を講ずるように努めなければならないものと して、次のいずれかの措置として、(1)期間を定めないで雇用する派遣労働者として就業 させることができるように就業の機会を確保し又は派遣労働者以外の労働者として期間 を定めないで雇用することができるように雇用の機会を確保するとともに、これらの機 会を提供すること。(2)として、こうしたものを紹介予定派遣の対象とする又は紹介予定 派遣に係る派遣労働者として雇い入れるとするものです。(3)として、こうした(1)(2)の ほかに、期間を定めないで雇用される労働者への転換を推進するための教育訓練その他 の措置を講ずるという内容です。  続いて6です。「派遣労働者の職務の内容等を勘案した賃金の決定」です。派遣元事 業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に係る一般の賃金水準そ の他の事情を考慮しつつ、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、 その賃金を決定するように努めなければならないものとするという内容です。  7として、「その他派遣労働者等の福祉の増進」として、派遣労働者の希望、能力及 び経験に応じた就業、教育訓練の機会の確保等必要な措置を講じることにより、福祉の 増進を図るように努めなければならないとするものです。  続いて8「待遇に関する事項等の説明」です。派遣元事業主が、派遣労働者として雇 用しようとする労働者に対して、派遣労働者として雇用した場合の賃金の額の見込みそ の他待遇に関する事項について、説明をしなければならないとするものです。  9として、「期間を定めないで雇用される労働者に係る派遣先の労働契約申込義務」 です。現行法制では40条の5と言われているものです。期間制限のない業務について、 派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣労働者を受け入れている場合に ついての、労働契約の申込義務について、当該派遣労働者が期間を定めないで雇用する 労働者である旨の通知を受けている場合については、適用しないものとするというもの です。  10が「派遣先に対する措置」で、(1)が「法違反の是正に係る勧告」です。法に違反 した場合の是正の勧告について、指導又は助言の前置を撤廃するという内容です。(2) は「派遣先に対する労働契約の申込み勧告」を新たに設けるものです。派遣の役務の提 供を受ける者が、次のいずれかということで、イとして、第4条3項の規定に違反して、 派遣労働者を従事させている場合、24条の2に違反している場合、40条の2第1項の規 定に違反している場合。それからロとして、契約の内容、業務の処理の実情、この法律 の規定の遵守の状況その他の事情を勘案して第40条の2第1項の規定に違反するおそれが あると認めるとき。基本的にここで、いわゆる偽装請負といったような場合を規定して います。  こうした場合に該当する場合で、派遣労働者から雇用されることの希望を有する旨の 申出があった場合について、役務の提供先が派遣労働者を雇用することが適当であると 認められる場合として厚生労働省令に定める場合については、厚生労働大臣が派遣労働 者に対しての労働契約の申込み、それから労働契約に定める賃金その他の厚生労働省令 で定める労働条件が派遣就業時に比べて低下しないように適切な措置をとるべきこと、 それを併せて勧告することができるものとしているものです。  8頁です。まず12で、「関係派遣先への労働者派遣の制限」です。いわゆる関係派遣 先、特殊の関係にあるものですが、(1)は、ここについて、派遣割合を厚生労働大臣に 報告しなければならないものとすること。(2)として、こうした者に労働者派遣をする ときは、1の事業年度において、派遣元事業主が雇用する関係の派遣先に関しての派遣 就業に係る総労働時間を、すべての派遣就業に係る総労働時間で割ったものが100分の 80以下となるようにしなければならないとするものです。(3)において、こういったよ うな報告をし、それから100分の80以下となるようにしなければならないという規定に 違反した場合に指導、助言をした場合で、なお違反をする場合については、必要な措置 を取るべきことを勧告することができるとしています。  戻りまして11です。そうしたような勧告があった場合であって、なお違反をしたとき については、取消し、廃止の命令に係る事由に追加をするというものです。  9頁です。13の「日雇労働者についての労働者派遣の禁止」です。(1)労働者派遣によ り日雇労働者、日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者ですが、これを従事さ せても当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務 として政令で定める業務、これ以外の業務については、労働者派遣を行ってはならない ものとするものです。また、(2)として、この政令を改正する際には、労働政策審議会 の意見を聴かなければならないとするものです。  14の「離職した労働者についての労働者派遣の禁止」です。まず、(2)ですが、派遣 先は、派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、離職の日から起算して1年 間は、括弧の中ですが、当該派遣労働者が雇用の機会の確保が困難であり、その雇用の 継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除いて労働者 派遣の役務の提供を受けてはならないものとするとともに、(1)で、派遣元事業主につき まして、派遣先が労働者派遣の役務の提供を受けたならば、こうしたような規定に違反 することとなるときは、労働者派遣を行ってはならないとするものです。  10頁ですが、このほか所要の規定の整備を行うものです。  続いて第2の「労働者災害補償保険法の一部改正」です。今回の改正の中で、労働者 派遣の災害補償保険法の一部改正として、派遣先への立入検査等の規定を整備すること としていますが、この部分については、当分科会ではなくて、労働条件分科会の所掌に なっていますので、そちらの分科会で審議がされる予定になっています。  11頁です。第3の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部改正」です。シル バー人材センターについて、届出により、有料の職業紹介を行うことができるものとす る等の所要の規定の整備を行うものです。  第4で「その他」として、施行期日です。この法律は平成21年10月1日から施行すると いうことで、第1でご説明した項目の10番までについては、平成21年10月1日から施行で す。そのあと11から14まで、15の規定の整備の一部、いま申し上げた高年齢者等の雇用 の安定等に関する法律の一部改正の一部については、平成22年4月1日から施行するもの としています。そのあとの雇用保険法等の一部を改正する法律の件は、労災保険の改正 のほうに係るものです。  12頁で、2「経過措置等」として、必要な経過措置、関係法律の所要の規定の整備を行 うこととしています。3として、政府は、第1の13、日雇いの派遣の禁止ですが、この施 行前に日雇労働者として就業していた労働者、その他の雇用の安定を図るために、公共 職業安定所又は職業紹介事業者の行う職業紹介の充実等必要な措置を講ずるように努め なければならないものとすることとしています。4として、この法律の施行後5年を目途 とした所要の見直し規定を創設することとしています。説明は以上です。 ○大橋分科会長 本件について、ご質問等がありましたらご発言をお願いします。 ○長谷川委員 内容については、報告書に基づいてきちんと法案要綱に書かれているか どうかは部会でやっていただくということで、3つあります。1つは施行日です。法律を 作るときに、最初から施行日を書く方法と、「法が施行した以降」という書き方とある のですが、今回は平成21年10月1日と、平成22年4月1日と明確に法施行日を記載した理 由は何なのでしょうか。  もう1つは、経過措置が5年なのですが、こういう話題になる法律というか、重要な法 律は、経過措置は大体3年ぐらいなのですが、なぜ5年なのでしょうか。  3つ目は、10頁の第2で、「労働者災害補償保険法の一部改正」があります。この中身 は昨日の労災保険部会で議論されているので、そちらで議論しているのだと思うのです が、こういう法律は、大体審議会の分科会が違うときはそれぞれの分科会でやって、あ とで「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する 法律の一部を改正する法律案要綱」と出てきて、第1、第2という書き方は経験があるの ですが、全然分科会が違うところで、昨日部会が終わったばかりで法案要綱がこういう 形で出されてくるというのは、私は初めての経験なのですが、だったら第2で「労災補 償保険法の一部改正」だけにして、中身は出してこなくてもよかったと思うのですが、 なぜこのようなことになったのか、理由をお聞かせ願います。 ○需給調整事業課長 まず施行日ですが、施行日は特記できるものはする。ただし、そ れが法案の審議やその準備状況によって左右する場合は政令で定めるというルールにな っていて、今回の場合は平成21年10月、平成22年4月ということで、そこを特定して定 めることができるということで、書いています。  見直し条項については、規定の強化をする場合は、必ず付けるというのが政府部内の ルールになっていて、大体3年のパターンと5年のパターンがありますが、派遣法につい ては、施行されてから影響が出るまで、雇用の話ですから、いろいろな影響が出てきま す。例えばグループ派遣についても、指導から取消し等となると、最終的なところにい きつくまでに数年間はかかります。こういった状況を全部踏まえた上で、問題があれば 見直すことになるかと思うので、そうなると3年では若干短いので、5年ぐらい取った上 で、法施行の状況をしっかりと見極めた上で、見直すことが適当ということで5年にし ています。  労災の関係ですが、これは長谷川委員もおっしゃられましたが、昨日の労災部会で内 容についてはご審議いただいているとお聞きしています。ただ、法律案要綱の諮問につ いては、今回派遣法等の一部を改正する法律ということで、派遣法と、労災法と、高齢 法の改正を一括して、束ねて改正する法律ですから、その要綱自体も一本という形にな ります。かつ、いま労働政策審議会の中で、分科会なり部会に分かれているということ ですので、審議会に対する諮問は一本でということですので、これについて一本で諮問 させていただいて、本日その中身も書いた上で、安定分科会の分については本日からご 審議いただき、労働条件分科会担当の分については、労災部会が29日に開催予定と聞い ていますので、その段階で、ご審議いただくという段取りでやらせていただこうかとい うことで、本日お示ししております。以上です。 ○長谷川委員 私は10頁の第2の扱いについて納得していません。だったら、この場所 に来て労災部会の報告をしてもらわないと。だって、こういうペーパーが出されたので すから。どうしていいかわからないですよ。そういうのはしないでほしいのです。いま までも、別々にやってきたときは別々にしているわけですから、そういう手続きはちゃ んとしてほしいです。全然部会の報告もなくて、違う部会でやったのなら、ここに来て ちゃんと部会報告をしてもらわなければできないではないですか。こういういい加減な 運営だけはしないでください。以上です。 ○総務課長 ただいま需給調整課長から説明しましたように、かつてですと、それぞれ の分野別に審議会ができていましたので、それぞれの審議会宛に、それぞれ別々に諮問 していたところですが、すでに労働政策審議会と一本化されているわけで、審議をお願 いする内容については一本化せざるを得ないというのはご理解いただきたいと思ってお ります。  ただ、内容の点については、それぞれの審議会の分科会で議論したものが、それぞれ の分科会の内容の範囲のものであれば、その内容について審議会の結論となるというル ールになっています。ですから、今回この分科会として内容的に議論できるところは、 労災保険部会あるいは労働条件分科会の分野については、そういう意味でいえば議論し ていただく内容ではないとご理解いただきたいと思っています。それは、あくまでも労 働条件分科会の議論の結論が出ないと、最終的に労働政策審議会の意見とならないとご 理解いただきたいと思います。手続的な点で遺漏の点があったとすれば、それはお詫び します。 ○大橋分科会長 そのほかいかがでしょうか。 ○高橋委員 ただいまご説明いただいた要綱ですが、おおむね労政審の意に則ったもの と認めることができるかと思いますが、いくつか建議の趣旨が十分に反映されていない 点もあるのではないかとも思われますので、それらの点について、ご質問、ご意見を申 し上げます。  まず7頁の10の(2)の「派遣先に対する労働契約の申込み勧告」に係るロの記述振りで す。7頁最後のロについては、偽装請負を対象にしたとのことですが、これが偽装請負 を端的に表した表現であると理解することは難しいと思います。  特に、「第40条の2第1項の規定に違反するおそれがあると認めるとき」となっていま す。これは、まだ違反が生じていない段階も含む表現と読めますが、これは明らかにイ の「第24条の2若しくは第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受 けたとき」とする記述と、次元の違うものではないかと考えます。  ロにあるように、違反するおそれがある状態であるのならば、まずその状態を是正す ることが求められるべきではないかと思っていまして、違反するおそれがあるというだ けで、本項の適用をする形が、本当にいいかどうかと思います。  この条項については、労働者派遣同様の実態でありながら、明らかに脱法の意図をも って契約形態を偽装するという、いわゆる偽装請負を示しているのであると、端的に理 解できるような記述振りに、是非していただきたいと思うので、再度ご検討をお願いで きればと思います。  2点目は、8頁の12の「関係派遣先への労働者派遣の制限」にかかわるところです。関 係派遣先への派遣割合の算定に当たって、「総労働時間」を用いて行うとなっています が、ご承知のとおり、総労働時間は時間外労働を含みますので、これは派遣先の職場の 繁閑によって変動する指標です。労働時間管理は派遣先の責任による部分も多いわけで、 総労働時間という指標が、派遣元事業主に対する許可の取消しや事業廃止命令につなが る本項の趣旨に、本当に適当かどうか疑問があります。もちろん派遣元事業主は雇用主 ですので、一定の管理は可能で、責任もあるのも当然ですが、派遣元事業主の責任だけ とは言えない事由で、本項の基準が達成できないことも想定されるのではないかと思わ れます。  この労政審における建議の取りまとめに至る議論の過程においては、グループ企業派 遣の8割の規制の根拠となる統計も提出いただいたと思っていますが、そこでは労働時 間×人員実績といった、人日のような統計指標が示されていたと思っています。したが って、算定要素として総労働時間とした過程と、理由をもう少し詳しくご説明いただき たいと思います。  その説明に当たって、是非お示ししていただきたいのは、人日も含めて、総労働時間 のほかにどのような算定要素の案を検討したのか、具体的な案をいくつ検討したのか、 その比較衡量した候補はそれぞれ問題点があったから落とされたのだと思いますが、そ れは何だったのか。総労働時間が最も優れている点はどこだったのかも含めて、お示し いただきたいと思います。それと、検討に当たって、派遣元事業主が具体的なコンプラ イアンス対策を立てやすいかどうかといった点も、比較衡量の際に考えられたかどうか も含めて、お答えをいただきたいと思います。  あと9頁の14の「離職した労働者についての労働者派遣の禁止」です。この要綱によ りますと、派遣労働者が当該企業を離職した労働者であるか否かを確認する責務が、派 遣元、派遣先事業主のいずれにも課されていると考えられます。しかしながら、現実問 題は、複数の事業所を抱えて、事業所ごとに採用とか人事管理を行っている企業もあり まして、他の事業所で採用又は就労していた従業員まで、完全に把握できていない実態 もあることは事実です。そうしますと、派遣先となる企業に勤めていたか否かを完全に 把握できるのは、労働者ご本人がいちばんではないかとも考えるわけです。  また、他の例として、これはレアケースかもしれませんが、勤めていた企業が分社化 した場合に、どのように考えるのか。あるいは、特定の事業所とか、特定の部門が他の 企業に買収されてしまったケースも、その際に新旧どちらの企業に勤務していたと考え るのか。さまざまなケースも考えられるのではないかと思います。派遣先、派遣元両方 の事業主に確認責任を負わせるのなら、双方の事業主が取るべき一定の手続きについて、 何らかの形で定めていくことが肝要なのではないかと考えています。本件については、 法案が成立した際の議論ですが、離職した労働者であるか否かの確認手続きについて、 何らかの対応を是非お図りいただきたいと考えます。 ○需給調整事業課長 3点のご質問をいただきました。まず、偽装請負の条文の書き振 りについての経緯をご説明します。まず、「偽装請負」と単純に言っていますが、これ を派遣法で考えると、派遣契約を結ばずに派遣をしている、基本的には26条違反に該当 します。今回、禁止業務派遣、無許可派遣、期間制限違反と同じように、26条違反を端 的にやればいいかというと、そうではなくて、26条の派遣契約の規定に定める必要な事 項が書いていない場合だけでも、26条違反ということなので、そこと区別をしなければ いけません。  そうなったときに、偽装請負とは通常は、偽装の意図をもって請負契約で契約して、 派遣して、指揮命令をするということなのですが、それを法条文に直すと、うまく表現 ができないということで、ここは内閣法制局と私どもでかなり議論をしまして、このよ うな形の内容にしたものです。  その内容ですが、まず派遣に係る契約の内容です。例えば、業務の種類の実情が派遣 先で指揮命令を受けているかどうか。こういった通常偽装請負を見るときの実態的な勘 案要素、それからこの法律の規定の遵守の状況で、これが先ほど申し上げた26条違反が あるか否か。偽装請負の場合では、例えば派遣先の責任者が置かれていないとか、必要 な書類が整備されていないなど、通常偽装請負の調査のポイントがありますが、こうい った法律の遵守状況を勘案して判断すべきと考えております。  最後の40条の2の第1項の規定に違反するおそれがあるということですが、通常の場合、 いま禁止業務以外は派遣で可能ですが、なぜ偽装請負にするかというと、1年ないし3年 の期間制限を超えて使おうという意図が中心的なものです。請負契約などを定めて、そ れで脱法行為をしようという意図があってやるのが偽装請負であるということで、契約 の内容、業務処理の実情、法律の規定の遵守状況と併せて、期間制限の違反のおそれが ある、この4つの勘案要素で押さえるのが、法律的にいちばん妥当なのではないかとい う議論から、このような形で書いているものです。  これが通常の偽装請負とイメージしにくいというのはあるかもしれませんが、このよ うな過程で偽装請負を条文化したものですので、この運用に当たっては、少なくとも偽 装請負以上のものでもなく、それ以下のものでもなく、これまで我々が「偽装請負」と 呼んでいたものを、この条文でチェックするとしたいと思っていますし、それについて は条文の解説やさまざまなところで明らかにしていきたいと思っています。  先ほど「違反するおそれがある」ということで、「まだ違反になっていないのでイの 部分と並ばないのではないか」というご質問がありましたが、この部分だけを見るとそ うなのですが、その前の「この法律の遵守の状況、その他事情を勘案して」の中で、例 えば26条違反が生じているとか、その他の違反が生じていることを勘案しているので、 少なくとも違反がない場合にこれをかけることは考えていないので、基本は26条違反が あった上で、その他の補強要素として、40条の2違反のおそれがあるかどうかを勘案し ていく。こういうことでやっているので、このような経緯のある条文ですので、ご理解 いただきまして、これを偽装請負ということでご審議いただきたいと思っています。  2つ目のご質問の、グループ企業派遣について、総労働時間で8割を計算することにつ いてですが、これについては人日でやるパターンと、人時でやるパターンを検討しまし た。通常であれば人日でやるのが素直かもしれないのですが、派遣労働の特徴として、 臨時的、一時的な業務ですから、所定労働時間が8時間とは限らず、短時間の派遣もあ るという状況に鑑みますと、例えば8時間の業務で派遣契約を結びます。そのときに、1 人を8時間1日派遣する。これは人日で数えれば1人日ですが、時間で考えれば8人時です。 これを1人ではなくて、1時間の業務を8つに分解して8人派遣したとなると、同じ8人時 ではありますが、人日計算でやると、8人が1日1時間ずつ就労していることになります ので、8人日になってしまいます。こうなると、同じ8時間なのに1人日と8人日の評価が、 派遣の仕方によって変わってしまいます。これはそもそもグループ派遣の8割を計算す るときに、このような違いが出てもいいものか。これを鑑みますと、人日でやってしま うと、グループ外に対して、短時間の細切れで派遣をすると、グループ外の人日が稼げ てしまいます。これは妥当ではないということで、人時の形で、時間帯で考えるほうが 公平なのではないかということです。  その中で、時間でやると計算が難しいのではないかとか、高橋委員が言われたように 時間外労働というのがありますので、それは派遣先が指揮命令するものですから、そう いったものも勘案しましたが、まず、現在の業務報告でも総労働時間を用いて計算する ものはありますから、各事業所、派遣元においても、時間単位の管理はやっているので、 そこのデメリットは少なかろうということです。それから、時間外労働は、確かに派遣 元で36協定を結んで、その範囲内で派遣先でやるということですが、36協定の範囲内で 全部やっていいかというと、そこは派遣契約というものがかかってきまして、派遣契約 で36協定の範囲内で、ここまでやっていいということを定めることになるので、そうい う意味からすると、ある程度は派遣元のコントロールは利くだろうということから、こ の人時で、総労働時間でやるのがいいのではないかという結論に達したものです。  例えば、8割ぎりぎりでやってきて、所定労働時間だけ働いていれば、8割で収まった けれども、たまたま派遣先が時間外をやったことによって足が出てしまう。このような ケースはレアですが、あろうかと思います。これについては、建議の際の議論でありま したが、私どもは、実情を見ながら、派遣元の責任によらないような違反が、たまたま 起こってしまったケースにまで厳しく指導するとは考えておりませんので、そういった こともご理解いただきまして、ご議論いただけたらと思います。  3番目で、1年以内の派遣の禁止についてですが、派遣先が確認できないケースもある のではないかということで、その確認方法等ということです。これはさまざまなケース があると思います。この条文自体は、やめたかどうかは基本的に雇っていた企業がわか っているだろうということで、本来的には派遣先が把握しているだろうということで、 派遣先に義務を課した上で、違反になるようなケースについての派遣元の派遣の禁止の 義務を併せてかけています。これは期間制限なども同じ構造を取っています。  確かに、北海道の事業所をやめた人が、沖縄の同じ企業の事業所に派遣されるような ケースで、わからないケースもあろうかと思います。そこについては、例えば派遣元で 採用するときに、履歴書を取ったりしますので、そこで確認できたら、派遣先に伝えて、 そういうものは受け入れない、もしくは派遣元では派遣しないという形とか、派遣先に おいても、派遣就労する直前に確認したりとか、いろいろなやり方があるかと思うので、 先ほどいただいた分社化とか、合併というケースもあろうかと思いますので、その場合 にどうすればいいのかについては、施行の段階において、通達等も含めて明らかにして いこうと思っていますし、先ほども申し上げたように、それで派遣元、派遣先が努力を 尽くしたにもかかわらず、たまたま派遣されてしまったケースについてまで指導すると いうことではなくて、その方でない方を派遣し直してくださいという指導になろうかと 思います。 ○徳茂委員 3頁の4の(1)で「期間を定めないで雇用される労働者に係る特定を目的と する行為の解禁」のところですが、聞くところによれば、派遣法については裏マニュア ル的な、脱法的な運用のマニュアルがあることを耳にしておりまして、特定を目的とす る行為の瞬間だけ、期間を定めない雇用ということが書類上整っていて、後日それが、 何らかの事情で派遣元と労働者との間で期間の定めのある雇用に変更になるようなこと が起きた場合には、どのような扱いになるのかについて、ご説明をお願いできればと思 います。  同じようなことで、9ですが、期間の定めのある労働者の労働契約申込義務について も、今回緩和されますが、似たような問題が起きた場合に、労働者保護ができるのかど うかについて、教えていただけたらと思います。  次に施行日のことです。日雇派遣の禁止は、平成22年4月1日から入ると思いますが、 これについては社会的な批判も高いですし、なるべく早く施行すべきなのではないか、 ゆっくりすぎないかという気がしますので、再検討をお願いできないでしょうか。 ○需給調整事業課長 まず、期間の定めのない派遣に関して、法適用の瞬間だけ無期に しておいて、あとで有期に変える。これは明らかに脱法行為ですので、形式上その瞬間 だけ無期といっても、実質上その前後が有期で、そこが無期となっていても、有期と評 価できるものでしたら、そこは脱法ですといって違法で指導しますし、仮にそれが強制 されて、有期なのにその瞬間だけ無期と言わされているとなれば、そのあと半強制的に 無期から有期に労働条件が変更になることになり、これは労働条件の不利益変更ですか ら、そこについてはあらゆる手段を使って、脱法行為は防止したいと考えています。  日雇派遣の施行日については、日雇派遣禁止ということで、事業を禁止していくとい う、派遣法の中でもかなり強い規制をかけることになりまして、いまある事業を将来的 に禁止するということですから、そこで日雇いで働いている労働者の方、日雇いだから 他へ行けばいいではないかということもあろうかと思いますが、いま日雇派遣をやって いる会社で登録している方が、そこで日雇派遣ができなくなるという影響もありますの で、ここは日雇いの紹介事業へ移行していただくということで考えていますが、それを あまりに急にやってしまいますと、労働者の日雇紹介の移行がうまくいかなくて、結果 として労働者に不利益になるおそれもありますので、労働者に不利益にならないように ということで、ある程度時間をかけて施行して、労働者にも不利益のない形で平成22年 4月としていますので、その部分についてはご理解いただきたいと思います。 ○大橋分科会長 その他いかがでしょうか。本件については、本日の議論を踏まえて具 体的な内容を当分科会の労働力需給制度部会でご審議いただくのが適当かと思います。 そのように取り計らうということでよろしいでしょうか。 (異議なし) ○大橋分科会長 そのようにさせていただきます。そのほか何かご意見はございますか。 ○長谷川委員 マスコミ等を通じてしか聞いていないのですが、最近、雇用保険の料率 の問題が新聞報道されております。雇用保険の料率を下げるという話なのですが、例え ば1年前のこの時期でしたら失業率が改善している時期ですので、雇用保険の料率を下 げるというのは非常によかったと思うのです。しかし、この間失業率が4.2で、ずっと 上がってきていますし、有効求人倍率も0.86です。経営者の方々に聞いても、エコノミ ストに聞いても、景気がよくなるというメッセージはどこからも出ていなくて、悪くな ると。企業においては、雇用調整に入っているという企業も聞いています。倒産も増加 しています。  そういうときは、前回の改正のときの経験を活かして保険料率を上げたわけですから、 それに備えることが重要なのと、なるたけ雇用保険を有効的に使って、安定的な雇用を 確保することが、我が国にとって非常に重要な課題だと思っています。  見方によっては、この景気の動向は2年とか3年と言われていますので、私は安易に保 険料率を下げる方向に向かうべきではないと思います。いろいろなことが言われていま すが、厚生労働省はいろいろなところで対応していると思いますが、安易に保険料率を 下げるということではなくて、しっかりとした雇用対策をやっていく、どういう雇用対 策が有効的なのかについて、私は審議会が議論すべきだと思います。よろしくお計らい 申し上げます。 ○職業安定局長 いまのお話の点ですが、確かに新聞報道等で、追加経済対策の中で政 府与党でさまざまな議論があるところですが、この雇用保険料率を下げることについて、 現時点で厚生労働省として方針を固めたわけではありませんし、政府で固めたわけでも ありません。  この雇用保険料率の問題は、いままさに長谷川委員からお話がありましたように、雇 用情勢は急速に悪化しつつあって、今後もさらに悪くなるだろうということが想定され る中で、本当に将来にわたって雇用保険制度の安定的な運営が行えるかどうか。以前に 雇用保険財政が厳しくなって、料率の引上げなど、いろいろとお願いした経緯もありま すから、そういうことも踏まえて、また、こういった雇用情勢が悪くなっている中で、 雇用保険のセーフティネット機能のあり方をどうするのかということを併せて、給付と 負担の両面から、十分に議論し、検討する必要があるわけですし、何よりも保険料負担 者である労使の皆様と、十分に議論をして決めていくことが必要だと考えています。  いずれにしてもご指摘の問題も含めて、雇用保険制度をめぐってはさまざまな議論や 動きがありますので、当審議会、具体的には雇用保険部会において、今後改めて具体的 にご議論いただきたいと考えているところです。よろしくお願いします。 ○大橋分科会長 その他ございますか、よろしいですか。本日の分科会はこれで終了し ます。 (署名委員指名) どうもありがとうございました。 (照会窓口)                       厚生労働省職業安定局総務課総務係 TEL:03-5253-1111(内線 5711)