08/05/27 第1回肝炎治療戦略会議議事録 第1回肝炎治療戦略会議 厚生労働省健康局肝炎対策推進室 日時:平成20年5月27日(火) 場所:厚生労働省 省議室 1、開会 2、議事  (1)肝炎に関するこれまでの研究状況について  (2)肝炎研究7カ年戦略骨子について  (3)その他 3、閉会 ○岩田肝炎医療専門官 ただいまより第1回「肝炎治療戦略会議」を開催いたします。  委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございま した。  まず初めに、舛添厚生労働大臣からごあいさつを申し上げます。よろしくお願いいたします。 ○舛添厚生労働大臣 今日はこの会議に皆さん御多忙中のところお集まりいただいて本当にあ りがとうございました。  ウイルス性の肝炎につきましては、今年の4月から、B型肝炎、C型肝炎に対するインター フェロン治療への医療費助成を新たに開始し、これを柱とした検査・治療体制の整備や普及啓 発など総合的な対策として予算総額として207億円確保しておりまして、先般決めました「肝炎 治療7カ年計画」の新たな一歩を踏み出したところでございます。  引き続き、患者の方々の御意見、御要望をお伺いしながらよりよい肝炎対策の推進に努めて いるところですが、特にインターフェロン治療について、副作用が強い、従ってその治療を中 断せざるを得ない、それから、このインターフェロン治療医療の適用がされない、そういう方 も多いということでありますので、肝硬変とか肝がんという方々についても治療効果について どうだという話もあります。したがって、日々進行していく病気であることから、医学的な課 題について、是非皆さんの力で研究を進めて、やはり新たな治療法、治療薬、こういうものの 開発を行うことが肝炎対策の中で非常に急務だと考えております。  それで、皆さん方の御協力を得まして「肝炎治療戦略会議」というものをここに立ち上げま したわけでございますけれども、やはり肝疾患の専門家である皆さん方の英知を結集していた だいて、どういった研究をすればいいのか、そして、7年後には肝炎を根治可能な病気とする、 こういう目標を掲げて、この7年計画の戦略を構築したいと思っております。  是非、この肝炎研究7カ年戦略で皆さん方の英知を結集していただいて、患者の皆さんが、 これで治療できるんだ、根治できるんだ、こういう光を見出せるように、我々も全力を挙げて、 一緒になってこの対策を立てたいと思いますので、どうか御協力を賜りますとともに、忌憚の ない御意見を賜りまして、この戦略会議を成功に導きたいと思っておりますので、ひとつよろ しくお願いいたします。  今日は本当にありがとうございます。 ○岩田肝炎医療専門官 ありがとうございました。  大臣は、これにて、公務のため途中退席させていただきますので、御了承ください。  また、ここでカメラの方々にも退室願います。 (厚生労働大臣・報道関係者退室) ○岩田肝炎医療専門官 それでは、本日の出席者の方々を御紹介いたします。  正面に向かいまして中央、林先生。大阪大学大学院消化器内科教授でございます。  松浪政務官でございます。  岡上武先生。済生会吹田病院院長でございます。  金子周一先生。金沢大学大学院医学系研究科恒常制御学教授でございます。  熊田博光先生。国家公務員共済組合連合会虎の門病院分院長でございます。  坪内博仁教授。鹿児島大学大学院医歯薬総合研究科消化器疾患・生活習慣病学教授でござい ます。  豊田成司先生。札幌厚生病院副院長でございます。  脇田隆宇先生。国立感染症研究所ウイルス第二部部長でございます。  なお、飯沼日本医師会常任理事に関しましては、本日、御欠席でございます。  では、ここからの議事の進行は、座長である林委員にお願いいたします。よろしくお願いし ます。 ○林教授 それでは、座長を務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。  それでは、議事に入ります前に、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。 ○岩田肝炎医療専門官 お手元の資料を手に取っていただいて、最初のページでございますけ れども、資料1から4まで、参考資料1、2とつけてございます。  資料1に関しましては、めくっていただいて、ページがついている1のところから、両面に なっておりますけれども4ページまで、それから、資料2に関しましては5ページ目から、ず っとめくっていただいて11ページまで、資料3は12ページ、1枚でございます。資料4に関し ましては、13ページから25ページまでとなっております。  それから、参考資料に関しましては、参考資料1がその後についておりまして2枚、参考資 料2が1枚ついております。  資料に関しましては、以上でございます。不足などございましたら、お申し出いただきたい と存じます。 ○林教授 よろしゅうございますでしょうか。  それでは、議事に入りたいと思います。  まず、資料として配付しております「肝炎に関するこれまでの研究状況」及び「肝炎研究7 カ年戦略骨子案」につきまして、事務局よりご説明をお願いいたします。 ○正林肝炎対策推進室長 事務局の紹介をするのを忘れましたが、西山健康局長でございます。  それから、私、肝炎対策推進室長の正林でございます。  それから、岩田でございます。  それでは、資料に沿って御説明したいと思います。  まず、資料の1ページ目をごらんください。「新しい肝炎総合対策の推進について」。縦書 きで、これは、与党でおまとめになられた肝炎総合対策の推進についての取りまとめペーパー でございます。  そもそもこの治療戦略会議を立ち上げるきっかけでありますけれども、この取りまとめペー パーのページをおめくりいただいて、3ページ目、そこに線を引いてございますが、そこに 「研究の促進」という項目があります。そこでは、「無症候性キャリアを含む肝疾患の新たな 治療方法の研究開発を促進、支援するとともに、治療薬等についての速やかな薬事承認、保険 適用を行う」と記されておりまして、与党の方から、こうした研究をしっかりやれというサジ ェスチョンをいただいております。今回の戦略会議は、これが一つのきっかけになってござい ます。  それから、資料2、5ページ目でございます。ここからはしばらく、これまでどんな研究が 行われてきたかという御説明をしたいと思います。  5ページ目は、非常に大雑把なこれまでの厚生労働省における、旧厚生省における肝炎に関 する研究費、研究事業についてまとめてあります。それが5ページですけれども、古くは昭和 30年代、38年に血清肝炎調査研究班というものが立ち上がり、その後、形を変えながら研究事 業は引き継がれてきました。平成元年には、当時の厚生省非A非B肝炎研究班というものがご ざいました。これが平成10年には新興・再興感染症研究事業に引き継がれ、更に、平成14年度 には肝炎等克服緊急対策研究事業という新たな研究事業としてスタートし、現在に至っており ます。  ページをおめくりいただきまして、6ページ以降ですけれども、これは、今申し上げました 肝炎等克服緊急対策研究事業、平成14年度からスタートしておりますが、それを大きく5つの テーマに沿って分類を試みてみました。  まず、1つ目、「肝炎治療の現状と治療薬開発の方向性に関するテーマ」ということで、平 成14年度から今までどんな研究が行われてきたかです。  例えば、真ん中辺にC型肝炎ウイルス感染者に対する治療の標準化に関する臨床的研究、こ うした研究は平成14年度から、16年度にまた若干テーマ名を変えて、更に19年度も肝硬変を含 めたと加えて、治療の標準化に関する研究が行われております。  それから、少し右下の方に降りていただいて、19年度から始まっている研究を申し上げます が、例えば肝炎ウイルス感染防御を目指したワクチン接種の基盤構築とか、ジェノミクス技術 を用いたウイルス性肝炎に対する新規診断・治療法の開発とか、テーラーメイド治療を目指し た肝炎ウイルスデータベース構築に関する研究とか、あと、その下、肝炎・肝硬変に対する抗 ウイルス剤以外の治療法に関する研究とか、こうしたさまざまな研究が14年度から形を変えな がら行われてきたところです。  7ページ目、2つ目のテーマの「肝硬変治療の現状と治療薬開発の方向性に関するテーマ」 ということでまとめてみました。  肝硬変についても、平成14年度から、末期の肝硬変とか、あるいは肝硬変における治療方法 に関する研究というようなテーマで行われてきて、20年度には、インターフェロンの抗肝線維 化分子機構の解明とその応用とか、肝硬変の栄養療法のガイドライン作成を目指した総合的研 究といったようなテーマで行われています。  次に、8ページ目、3つ目のテーマ「肝がん治療の現状と治療薬開発の方向性に関するテー マ」ということで、平成14年度から、進行肝がんに対する集学的治療とか、QOL向上とか、 健診とか、あるいは肝がん発症予防法とか、そうしたテーマで肝がんについての研究が行われ てまいりました。平成20年度からは、下の方ですけれども、肝がんの早期発見を目的とした分 子マーカーおよび画像診断システムの開発とか、癌胎児性抗原を利用した肝がんの超早期診断 法と発症予防ワクチンの開発とか、そうした研究も行われています。  次に、9ページ目でありますが、4つ目のテーマで、「新しいウイルス肝炎治療薬の開発に 向けた基礎研究の方向性に関するテーマ」と、基礎研究でちょっとまとめてみました。  平成14年度からは、例えばトランスジェニック・マウスを用いた肝発がんメカニズムの解析 とか、17年度の真ん中辺ですけれども、ヒト肝細胞キメラマウスHCV感染モデルを用いた実 証系の開発に関する研究とか、あるいは、この辺からワクチン開発について17年度、それから 20年度にもワクチン関係の研究が行われています。また、下から2番目に、20年度ですけれど も、C型肝炎ウイルスキャリア成立の分子基盤と新規治療薬開発のための基礎的研究といった 研究も行われております。  それから、最後、10ページ目でありますが、「肝炎等疫学」等でちょっとまとめてみました。  上から2つ目、平成14年度であれば、C型肝炎の自然経過および介入による影響等の評価を 含む疫学的研究、これは、16年度から健診に変わったり、それから19年度からは長期予後等に 関する疫学研究が行われています。  それから、そのほか予防関係で、歯科診療、それから血液透析、そうしたテーマで、いかに 予防するかといったような研究も行われております。  更に、母子感染防止とか、E型肝炎なども下の方にありますが、その感染経路とか、宿主 域・遺伝的多様性等々についての研究が行われてまいりました。  以上のような歴史的経過を経てさまざまな研究が行われてきたわけでございますが、11ペー ジ目、非常に数多くの研究成果が得られてまいりましたけれども、そこにはちょっとトピック ス的なことだけ上げてみました。  例えば基礎研究分野。従来、チンパンジーでしか行えなかったHCVの感染実験モデルであ りますけれども、遺伝子組み換え技術を駆使して、ヒトの肝細胞キメラマウスというものが作 成されて、安定性が確認されました。このモデルを用いて、ワクチン開発のヒントが得られる とか、実用化に向けた研究が今なされているところです。また、これで感染から発がんまでの メカニズムが解明できれば、肝疾患の進展の予防とか、新規治療法への道筋ができるのではな いかと言われています。  それから、臨床研究分野については、新規創薬開発のためにジェノミクス解析といったもの が行われて、結果も得られています。新規創薬開発の糸口が得られ、実用化につながる可能性 もあるのではないかと言われています。  それから、疫学研究の関係では、日赤の献血データなどを解析して、例えばキャリアの数が どのぐらいいるのかといった基礎データの確立とか、それから、疫学研究で、最近、性行為に よって感染するB型肝炎、いわゆるGenotype Aについての疫学データの集積なども行われつつ あります。  ページをおめくりいただいて、12ページでありますが、以上、さまざまな研究が行われてま いりました。先ほど、大臣のごあいさつにもありましたが、この肝炎治療戦略会議において私 どもが期待するのは、「肝炎研究7カ年戦略」と、今後どういった方向で研究を進めていった らいいのか、そうしたことを今日御議論いただいて、この研究戦略をおまとめいただけたらと 思っています。事務局の方で一応、骨子というか、骨格の骨格、目次みたいなものだけ御用意 させていただきました。項立てとして1番から7番まで上げています。  まず1つ目、「これまでの肝炎研究の成果」として、先ほど申し上げましたようなこととか、 あと、最近一番話題になっているのはペグインターフェロンとリバビリン。従来、インターフ ェロンの効果についてそれほど高くなかったのが、このペグ+リバ療法によって飛躍的に治療 効果を上げてきたとか、それから、ヒト肝細胞キメラマウスとか、あと、キャリア推計の基礎 データとか、基礎、臨床、疫学、さまざまな分野でいろいろな結果が得られています。  ほかにもたくさん成果があると思いますので、後ほど多数御意見をいただけたらと思ってい ます。  また、「現状と課題」ですけれども、大臣のごあいさつにもありましたが、インターフェロ ン治療、確かに効果は上がってきましたが、まだまだ副作用が非常に強い。離脱者とか、ある いは適用にならない方がいらっしゃるというのも一つの課題ではないか。それから、インター フェロンも難治症例、まだまだ効果が100%ではないと考えられています。それも一つの課題か なと。それから、肝硬変とか肝がんの根治治療はまだまだ困難でありますので、これについて もまだまだ研究する余地はあるかなと。それから、基礎、臨床、疫学の各分野において、人材 の不足が時々先生方の間で指摘されております。特に基礎研究分野とか疫学分野については、 人材の不足がよく言われております。こうしたことも一つの課題かと思われます。  ここが事務局で考えた課題でありますけれども、後ほど、各先生にいろいろ御意見をいただ けたらと思います。  更に、一応この手の戦略ペーパーは、「戦略の目標」とか「今後の研究における方向性」と か「今後期待される新たな研究課題」、あと「方向性実現のための具体策」、それから「戦略 の評価と見直し」、こういったテーマを一応事務局として用意させていただきました。これら についても、後ほど御意見を賜れればと考えております。  あとは、後ろの方に参考資料はつけておりますけれども、参考資料1は、先ほどの年度別の 研究テーマについて、研究者名もつけてまとめたものであります。参考までにごらんになって いただけたらと思います。  それから、参考資料2は、研究費について、特に肝炎等克服緊急対策研究事業になってから、 特に平成17年、18年あたりから研究費が毎年増額されているということをお示しする棒グラフ であります。  一応、私の方からの説明は以上でございます。 ○林教授 ありがとうございました。  それでは、固めて資料の御説明をしたいと思いますので、私の方から、資料4でございます が。 ○正林肝炎対策推進室長 先生、ちょっと部屋が暑いので、上着を取っていただいて。 (PP) ○林教授 それでは、今、研究の方向性の御説明がございましたけれども、肝炎の現状と治療 の今後の方向性、それから、今、国際的にどのような動きがあるかということを簡単に御説明 させていただきます。 (PP)  これは、まず、最初がC型肝炎でございますけれども、C型肝炎は、C型の慢性肝炎から肝 硬変、肝がんに病変が進展しますので、肝がんを防ぐために、C型慢性肝炎の段階で、できれ ばウイルスの排除を起こしたいということでございます。 (PP)  ただ、現在、日本ではやはりまだ肝がんが多うございまして、これは大阪のデータでござい ますが、これは肝がんの発症率でございますけれども、上のブルーが男性で、2000年を超えて 少し低下傾向にございますが、これはインターフェロン治療等によってウイルスの排除が行わ れたためなのか、それ以外のファクターかというのは、今のところよくわかっていません。  一方、女性は、以前は、女性は男性に比べますと肝がんになりにくいと言われていましたけ れども、女性の肝がんの症例が非常に増えてきているというのが、日本の大きな問題だと最近 は言われています。 (PP)  C型慢性肝炎の治療は、先ほども少しお話がございましたけれども、1992年からインターフ ェロン治療が導入されましたが、初期のころはウイルスの排除率は余り高くなかったわけであ ります。ただ、2005年にリバビリンという薬を併用することとインターフェロン製剤をペグ化 することによって治療期間を1年間にしたことによって、治療効果というのが非常に高くなっ てきたということでございます。 (PP)  これは、日本の肝炎治療を行っている主な施設の成績をまとめたものでございますが、こち らが日本に多い1型のウイルスに感染して、ウイルスの量の多い型でありますけれども、初期 のころの14%というウイルス排除量率が、先ほど申しましたペグインターフェロン、リバビリ ンで、50%を超えるウイルスの排除率になっています。  1型以外の高ウイルス量以外、インターフェロンに反応性の高い症例では、初期のインター フェロン単独でも59%とかなり高い治療効果を示しておりましたけれども、ペグインターフェ ロン、リバビリンを併用しますと、24週間治療することによって80%を超える治療効果を表す ようになってきております。 (PP)  実際にインターフェロン治療でウイルスの排除を起こすと肝がんになることを防ぐことがで きるかということでございますが、これは、左の方が累積の肝がんの発症率です。ラインが2 本ございますが、上のラインがインターフェロン治療を行ってもウイルスの排除が起こらなか った方は、やはり肝がんが発症してまいりますけれども、インターフェロン治療でウイルスの 排除を起こしますと、肝がんの発症率は有意に下がってまいります。10年後ですと、上の方が 21.4%、下が5.9%の肝がんの発症率ですから、かなり大きな差になってまいります。  右は生存率を見たものでありますが、肝疾患関連死で亡くなる方は、著効になった方はほと んどおられませんが、ウイルスの排除が行われない方では、やはり肝疾患関連死で亡くなる方 が多いということで、やはりウイルスの排除を起こすと肝疾患の患者さんの予後は確実によく なるということを表しています。 (PP)  このように治療効果が高くなってきたのでありますけれども、現在の一番大きな問題は、こ こに女性が出てきておりますが、男性と女性と65歳未満と65歳以上で治療効果を見てみますと、 女性で65歳以上のところの治療効果が少し悪くなっています。だから、高齢の女性の方にどう いう治療を行うかというのが、今後の大きな課題だと思われています。 (PP)  現在、ペグインターフェロン、リバビリンは、標準治療は48週間治療でございますけれども、 少し治療効果が悪いと思われる方は72週間の投与が行われています。その72週間の投与を行う のは、治療を開始してからウイルスの陰性化時期によって基本的には決めています。12週目ま でにウイルスが陰性化した方は標準的な治療を行いますが、それ以後、16週目まで、20週目ま で、24週目までにウイルスが陰性化した方は、治療期間を長くするという治療方法を行ってい ます。  これは、我々の関連施設の成績でありますけれども、デートレスポンダーと言っております が、こういう方に72週間の治療を行いますと、48週間の治療の28%に対して、72週間は57%と かなり治療効果は上がってまいります。治療期間を長くして副作用の問題等を危惧されるかも わかりませんが、副作用は最初の投与の6週間目までに出てまいりますので、この48週投与と 72週投与というのは、副作用で脱落する方はほとんど差がございません。そういう意味では、 今のところ、治療期間を長くすることによって難治例には対策が取れているということになり ます。 (PP)  ただ、そうは申しましても、ペグインターフェロン、リバビリンとも副作用の強いお薬でご ざいますし、両剤で併用療法を行ってもウイルスの排除が起こらない方々が多数おられますの で、国際的にはいろいろな新しいタイプの抗ウイルス剤の開発が行われています。新しいイン ターフェロン製剤の開発、それからリバビリンは副作用が強いので、肝臓に行ってリバビリン になるようなプロドラッグのタイプにして副作用を下げるようなタイプの薬剤の開発も行われ ています。  ただ、世界中が今一番注目しているのは、ここに書いてございますが、C型肝炎ウイルス選 択的な抗ウイルス剤というものでございまして、色が消えておりますが、ウイルスの遺伝子の 中にプロテアーゼという部分がございますけれども、それを特異的に阻害する薬剤、それから、 ボリメラーゼというウイルスが増殖を行うときに使う酵素を阻害する薬の開発が行われていま す。私が現在知っているもので、国際的に現在フェーズスタディ、人に投与されているのが、 プロテアーゼ阻害剤は現在10剤、それからポリメラーゼ阻害剤が現在10剤開発の途中でござい ます。  ここに、上の方に4剤書いてございますが、これは、日本でも既にフェーズスタディに入っ ているものと入る予定のあるものでございます。日本で一番進んでいますのは、ここに書いて ございますTelaprevir、これは日本でも熊田先生を中心に臨床試験が進んでいますけれども、 これは、臨床試験では国際的に一番進んでいます。それから、その後ろに書いてございます Boceprevir、これも国際的にかなり臨床試験が進んでいます。  その下に2剤書いてございますが、これが割と最近、国際的に注目されている薬で、プロテ アーゼ阻害剤で、従来の薬剤に比べると抗ウイルス活性が圧倒的に強くて、上の薬剤は1日3 回投与でございますけれども、これは1日1回投与で十分抗ウイルス活性を果たせる薬剤だと いうことです。もう1個、Mk−7009というのも、新しいタイプのプロテアーゼ阻害剤という ことになります。  それから、ポリメラーゼ阻害剤についてはここに4剤書いてございますが、上の2剤はある 程度臨床データが出ましたが、副作用で、現在、臨床試験が中断しています。国際的に下の2 剤が今注目されています。R1626とR7128でございまして、R1626は、6カ月間投与しても今 のところ、インターフェロンとリバビリンを併用しますと、プロテアーゼ阻害剤というのはウ イルスがんの変異が行ってまいりますけれども、今のところ、6カ月間では変異が起こってい ないということで注目されています。  それから、それ以外に免疫の作用を活性化する薬剤の開発も行われています。一番進んでい るのはこのトール・ライク・レセプター・アゴニストという自然免疫を活性化する薬剤、これ はかなり臨床試験が進んでいます。それから、最近、日本に少し入ってくるかもわかりません が、先ほどワクチンの話がございましたけれども、DNAワクチンの臨床試験を日本でやりた いという話が来ています。そのような治療用のワクチンでございますけれども、免疫を賦活す るという作用を持っています。  それから、それ以外の薬剤で、現在私が知っているだけで9剤の開発が行われていますが、 その中で、今、国際的に一番注目されているのが、ここに書いてございますNitazoxanideとい う薬でございまして、これはもともとエジプトの寄生虫の薬だそうでございますが、これが、 ペグインターフェロン、リバビリンと併用すると非常に有効率が上がるという成績が出ていま して、最近国際的に注目されています。 (PP)  プロテアーゼインヒビターを併用するとどのぐらい治療効果が上がるかということでござい まして、これは先月出た成績でありますけれども、TelaprevirとBoceprevir、これは一番臨床 試験が進んでいるプロテアーゼ阻害剤でありますが、棒グラフが2つございますが、右の方が 従来のペグインターフェロン、リバビリンの1年投与です。こちらは、ペグインターフェロン、 リバビリンに、このプロテアーゼ阻害剤を併用して半年間、だから治療期間は2分の1であり ますけれども、著効率が約20%上がっています。  それから、同じ薬剤の、こちらはアメリカ、こちらは欧州でございますけれども、同じよう なスタディでも、こちらはやはり20%著効率が上乗せになっていますので、今まで治療してい ない方にこういう薬剤を使っていくと、治療期間を2分の1にしても、確実に治療効果を更に 上げることができるということになります。  これはもう1剤のプロテアーゼ阻害剤でございますが、これも、最終的にこのコントロール の成績は出ておりませんが、恐らく20%弱程度の治療効果の上乗せがあるのではないかと現在 言われています。  ただ、問題は副作用でございまして、副作用があるというのが、やはり少し問題になってま いります。 (PP)  それから、もう一つ、患者さんが一番望んでおられるのは、ペグインターフェロン、リバビ リンでもうまくウイルスの排除が起こらなかった方に、こういうプロテアーゼ阻害剤を使うと 実際どのぐらいの有効率があるか、現在まだ成績が出ていません。先月出る予定だったんです が、結局、出ませんでした。そのかわりに出たのがこの成績でございまして、これは、先ほど のプロテアーゼ阻害剤をナイーブ患者さんに投与したときのコントロール症例、ペグインター フェロン、リバビリンを投与した方でウイルスの排除が起こらなかった方に、プロテアーゼ阻 害剤とペグインターフェロンとリバビリンを併用したときのウイルスの陰性化率を見ています。  これは、横軸に書いているのが前治療の効果でございまして、4週のnull respondersから再 燃例まで、これは治療効果を書いています。それに、治療効果別に患者さんを分けて、いつウ イルスが陰性化したかを見たものでありますが、再燃例ですと、プロテアーゼインヒビターを 併用すると、もう4週目に80%の方がウイルスが陰性化している。ただ、4週目のnull respondersでも、4週目で33%、12週目だと89%の方はウイルスの陰性化に持ち込めるという ことで、ウイルスを陰性化させるというところまでは、恐らくプロテアーゼインヒビターで十 分対応が取れると思いますが、問題は、最終的に著効になるかどうかというところが、もう少 したたないと成績が出てこないのではないかと思います。 (PP)  これが、先ほど申し上げましたエジプトから出て、今、国際的に注目されている Nitazoxanideというものでございます。こちらがインターフェロン治療ナイーブ患者、いわゆ る治療していなかった方、こちらはインターフェロンの既治療の患者さんにこの薬を1カ間前 投与した後に、ペグインターフェロンとリバビリンを併用したのがこの一番左のラインです。 その次のラインが、ペグインターフェロンにこの薬を併用したもの、一番右のラインが、ペグ +リバにこの薬を併用したものです。ペグ+リバにこの薬を併用すると、著効率ですけれども、 インターフェロンで今まで治療していない方だと79%のウイルスの排除率、いわゆる治療を行 ってもウイルスの排除が起こらなかった方でも25%のウイルスの排除率ということで、今、少 し国際的に注目されている薬剤でございます。 (PP)  C型肝炎の今後の課題がここに書いてございますけれども、これはもう皆さんよく御存じの ことでございまして、インターフェロン治療でうまくウイルスの排除が行われなかった方、そ れから、副作用で治療が行えなかった方の治療をどう行うか。それから、肝硬変の患者さんを 今後どのように治療していくか。それから、肝がん治療というのは、がんができたときの、そ の局所のがんはうまくコントロールできますけれども、肝がんの再発が起こるために生命予後 を余り長くすることができませんので、再発をどのようにしたら抑制していけるか。それから、 肝機能が正常の患者さんの治療を具体的にどうやっていくかということが重要な課題だと思い ます。  ただ、それ以外に、大阪でも問題になっておりますけれども、実は、今のウイルスの陽性率 の頻度から計算しますと、まだ実際に肝炎の検査を受けていない方が非常に多くおられるとい うことで、これをどのように検査をするか。それから、検査をして陽性になったけれども、ま だ適切な治療が行われていない方にどういうふうに治療を誘導していくかというのが大きな課 題だと思います。 (PP)  B型肝炎はC型肝炎と少し違っていまして、今のところ、B型肝炎の方はC型肝炎のように 完全にウイルスの排除を行うことができませんので、今のところ肝炎のウイルスの増殖を抑制 することによって肝炎を鎮静化させて病気の進展を止めるということしかできません。 (PP)  そのために、現在、インターフェロンとB型肝炎ウイルスの逆転写酵素阻害剤が治療に使わ れていますけれども、インターフェロンも今のところ治療は不十分でございますし、逆転写酵 素阻害剤というのは、確実にウイルスの増殖は抑制できますが、今のところウイルスの排除は なかなか起こりませんので、治療期間が非常に長くなる、それからウイルス側に変異が起こる というような問題がございますので、B型肝炎の治療を今後どのように行うかというのは、国 際的にも多くの問題が残されております。 (PP)  今、新しい抗ウイルス剤がどんどんできておりますけれども、更に新しい抗ウイルス剤を開 発する必要がございますし、日本の一番大きな問題は、既に外国で臨床試験が終わっているも のでも、日本国内で使えないという薬剤が多くございますので、それをどのように日本国内で も使えるようにできるかということです。  それから、治療のガイドラインというのは日本もアメリカも既に一応できておりますけれど も、C型に比べるとかなり複雑でございますので、専門家でない方にどのようにそのガイドラ インを御理解いただくかという問題も残っておりますし、やはりB型の場合は、専門医の方に 一度治療していただかないと、なかなか治療方針が決まらない。それから、ウイルスに感染し ていても、そのことを御存じない方が、日本にまだかなりおられるという大きな問題があると 思います。 (PP)  ここに、「今後期待される新たな研究課題」と書いてございますけれども、B型肝炎では、 先ほども申し上げましたが、新しい核酸アナログ製剤とかインターフェロン製剤、あるいは少 し発想を変えて、DNAウイルスをもう少し、排除はなかなか難しいかもわかりませんが、単 に抑制するだけではないという薬剤の開発を恐らく目指さなければならないのだろうと思いま す。  C型肝炎では、現在、C型肝炎特異的な薬剤の開発が国際的に盛んに行われておりますけれ ども、やはり副作用がなく、短期間でウイルスの排除を起こすような薬剤の開発が望まれます。 それから、宿主側の因子というのがC型肝炎の場合、非常に重要でございまして、ウイルスが 排除されないものに宿主側のファクターというのが多く関与しておりますので、そういうもの を補正する薬剤の開発。先ほどワクチンのことを少し申し上げましたが、そういうものも今後 出てくるだろうと思います。  それから、肝硬変等については、iPS細胞などを利用した再生医療を行う必要もございま すし、線維化の進展を抑制する薬剤、そこに肝星細胞の抑制、それからAngiotensin-renin- blockerを使う、それから骨髄細胞の移植等が書いてございますが、それ以外に、やはりもう少 し特異的な線維化抑制剤の開発が必要だと思います。  それから、肝がんについては早期発見が非常に重要でございますが、それ以外に、先ほども 申し上げましたけれども、肝硬変の患者さんに肝がんを起こさない予防法の確立、それから、 一度肝がんが起こった方に、肝がんの再発を起こさせない対策が非常に重要だと思います。  それから、そこに基礎研究として、薬剤耐性機序の解明、それからワクチンの開発等も非常 に重要でございますし、疫学データを確実に集めるというのは、基本的なデータとして非常に 重要だと思っております。 (PP)  それから、こういうことを実現するための具体策として、やはり研究費というのは非常に重 要でございまして、アメリカに比べても、アメリカは肝炎にかなり膨大な資金を投入しており ますので、それに比べると日本はまだ少ないだろうと思います。  それから、国立感染症研究所等、国内のそういう研究機関の充実、それから大学等の研究機 関の充実も非常に重要でございますし、国内の研究者の養成、特に基礎系のこういうウイルス の研究者が日本では最近少し減っておりますので、そういう方を養成するのも非常に重要でご ざいますし、当然のことながら、海外から早期に情報を取りながら、日本独自の研究を行う必 要が今後ともあるのではないかと思っております。  以上でございます。  それでは、あと討論に入らせていただきますが、あとはもう自由な討論で、先ほどお話がご ざいましたように、今後、肝炎をどのようにやっていくかという方向性を御議論いただければ と思います。  慢性肝炎と肝硬変と少し対策が違うかもわかりませんので、まず、慢性肝炎を中心に御議論 いただければと思います。まず、C型の慢性肝炎の今後の治療の方向性とどういう問題がある かについて、熊田先生いかがでしょうか。 ○熊田院長 C型肝炎も、林先生が言われたように、2004年から特に難治例が50%を超えるよ うになったんですが、やはり新しい薬剤の治験を早く進めなければいけない。日本は、残念な がら、日本を通り越して東南アジアの方に治験が行ったりして、それから戻ってくるような治 験もありますから、やはり治験体制の充実を早く図らなければいけないのと、もう一つは、審 査を、外国みたいな大規模なことをやっている余裕が実はない。それはなぜかというと、日本 は、戦後の輸血を中心にして、高齢化していますから、海外よりもむしろ早く認可していかな ければいけない。しかし、そこを大規模ねと言っていると、なかなか承認が遅れてしまう。今、 プロテアーゼインヒビターを私やっておりますけれども、これに関しては、もう昨今の急がな ければいけないということで今までになく早いんですが、その治験を進めていって承認まで行 かないと使えないわけで、それを相当短縮していただきたいと思います。  それから、もう一つは、治療効果が、どうしても患者さんは治るということに期待が大きい んですが、全部が治るというのは、いずれ来るかもしれませんが、それ前に、やはり高齢化し てしまって、治るころには平均寿命を超えてしまったということもあり得るので、やはり発が ん予防の治療を確立するというか推進していかなければいけないということで、治療を大きく 2つに分けて、治していく方の研究にどんどん行くのと、それから発がん予防に行く方の2方 向性をある程度定めて治療を患者さんに推進していかなければいけない。どうしても今、患者 さんの気持ちはわかるんですが、「治したい」と言って、片方で「いや、こんな副作用があっ ては」ということがあるから、その点を一番大きくやっていかなければいけないと思います。 そうなると、やはり投与期間とか、あるいは便宜性のいいインターフェロンを打つとか、そう いうことをどんどん承認していって、今の日本の高齢化に向かう肝臓の患者さんのために、規 制をなるべく緩めていくということをしてほしいと思います。 ○林教授 岡上先生いかがでしょうか。 ○岡上院長 熊田先生がおっしゃったとおりだと思うんですけれども、非常に問題なのは、熊 田さんがおっしゃったように高齢化していることですが、それ以上に、やはり患者さんが、イ ンターフェロンとか抗ウイルス剤は非常に副作用が強いということで、実際、それほどシリア スな副作用で治療ができないということではないわけですので、副作用の素因等をきちんと評 価して正しい治療をすれば、もう少し安全に確実に治療ができるということを思います。そう いう面では、肝臓学会を中心にして、きちんとした事前の評価を広める、これも非常に重要で はなかろうかと。すなわち、5年先、10年先の薬剤を待てない患者さんが圧倒的に多いわけで すので、そういう面で、現在の薬剤でいかに安全に確実に治療するか。それは勿論、ウイルス 排除と、先ほどお話があった発がん抑制という面ではなかろうかと思っています。 ○林教授 豊田先生、先に、いかがでしょうか。 ○豊田副院長 今、熊田先生、岡上先生がおっしゃったとおりなんですけれども、先ほど、林 先生が御指摘になられたように、今ある最強の治療はペグインターフェロン、リバビリンです が、高齢女性で効きが悪いというようなことがあります。最近、リアルタイムPCR法という 方法が開発されたわけですけれども、それで見てみますと、やはり高齢女性の方が、どうして も今までのアンプリコア法よりも陰性化時期が遅れるといった傾向がございます。ですから、 ウイルス減衰の傾きが、高齢、特に女性では緩やかなのではないかと思いますので、先ほど先 生がおっしゃったように、そういった方には、またリセットして一からやり直すのではなくて、 投与期間をある程度弾力的にお認めいただければ、そういった方も救われる方が多くなってく るのではないかと思っております。 ○林教授 あと、金子先生と脇田先生、新しいC型肝炎の治療薬の開発等を含めて、御意見い かがですか。 ○金子教授 まず、無効例がまだかなり多いということで、無効例の人に対して、どういう人 が無効例になっていて、どういう治療法をやっていくかというのをまずはっきりさせることと、 先ほどちょっと気にかかりましたのは、やはり本来は治るべき人がいっぱいいるのに、まだ治 されていない人がいる。それから、副作用とか高齢化、いろいろあるんですが、解決するのは なかなか難しいんですが、プロフェッショナルな人が上手にやると結構うまくいきますので、 そこら辺をもう少し皆さんに知っていただいて、進めていくというような方針も必要だろうと 思います。 ○林教授 今の薬剤でも、C型肝炎では怖いし、なかなか難しいですけれども、ある程度の対 策は取れるのではないかというのが、先ほどの先生の御意見だと思います。それでも、残りの ところは、かなり根本的な薬剤、考え方を変えないとウイルス排除が行われない方も、当然の ことながらおられるのではないかと思います。  脇田先生、C型肝炎ウイルスの抗ウイルス剤とか、そういう新しい薬剤の開発とか、病態の 解明とか、C型肝炎の基礎的な研究の面でいかがでしょうか。 ○脇田部長 勿論、基礎研究を推進するということがC型肝炎研究では非常に重要ということ は言うまでもないことで、そもそもHCVの発見というものは、基礎研究の進行によって行わ れたということです。ですから、我々も新しい薬剤の開発ということと同時に、今までのイン ターフェロン、リバビリン、そして、最近のプロテアーゼインヒビター、ポリメラーゼインヒ ビターがどういった薬剤耐性を生むのかということと、それから、どういったウイルスあるい は患者さんがそういう治療法に効きやすいのか、効きにくいのかといった宿主情報に関しても 重点的に考えていかなければいけないということで、我々基礎の研究所なんですけれども、こ れから大学病院あるいは基幹病院の先生方と連携して、そういった情報をもっと疫学的に集め ていくということをやっていきたいと考えております。 ○林教授 あと、先生方、恐らくプロテアーゼインヒビター等、新しい薬剤は、外国のメーカ ーの方が開発力が強いですから、どうしても外国から日本に入ってくるということで、できる だけ日米、日欧同時臨床開発をやろうと我々も努力をしておりますが、それで、取りあえずは 新しい薬剤は日本でも使用可能になると思います。それから、患者さんの掘り起こしは専門医 に一任していただきたいということと、もう少しガイドラインをきちんとして、岡上先生がお っしゃいましたけれども、ある程度、もう少し治療効果の高い治療方法を日本で普及させるこ とができるのではないかということ等は、今後もうすぐに対応を取らざるを得ないと思ってお りますが、それ以外に何か先生方、C型肝炎でこういうことをやればいいということがござい ましたらお聞かせいただきたいと思います。 ○脇田部長 もう一つ言い忘れましたけれども、やはり今我々が取り組んでおりますのは、C 型肝炎ウイルスのライフサイクルがどうなっているかというところで、新しい治療のターゲッ トになるようなものを早く見つけて、そういった薬剤の開発につなげたいと考えております。 ○熊田院長 慢性肝炎だけですか。 ○林教授 いや、もう広げて結構です。 ○熊田院長 慢性肝炎の治療は、確かに相当よくなったんですけれども、本当は、筋から言え ば、肝がんに最も近いのは肝硬変なんですよね。それから、インターフェロンが認可はされた んですが、後でB型の話題になりますけれども、この間、最初6カ月の承認、それから治験を やって、やっと1年後に承認と。そういって延びていく余裕はなくて、半年で2割だったのが 1年だったら5割になった、そうしたら、1年半になったらもう、今日、林先生の資料でも 70%になっていますけれども、うちもやはり68〜70%なんですよね。だから、治験をやらなけ れば、なかなか新たな治療法を承認しないという形でなくて、やはり、エビデンスベースであ ることは勿論なんですけれども、ある程度のところで緩和していかざるを得ないと思うんです ね。  そうなると、肝硬変がまだインターフェロンが、一応、β−インターフェロンが、1b高ウ イルス血症、一番治りやすいところは治っているんだけれども、認可されているんですが、1 b高ウイルス血症はまだ認可されていない。そうすると、肝硬変の人が今どんどん肝がんにな っていってしまう。だから、やはり治験が終わったらすぐに承認ということも勿論進めなけれ ばいけないし、ある程度の弾力性を持たなければいけないし、海外では、慢性肝炎から肝硬変 まで一連の病気ですから区別をしていないので、その辺の弾力的な解釈をしないと、肝炎はこ こ10年がもう勝負だと思うんです。日本の肝がんは。ですから、その辺の弾力性の対応をこう いうところで決めて、しかもそれを普及しなければいけないし、やはりそれは、最終的には保 険で認可されるかどうかということが大きいと思うんですね。  ですから、やはり課長通達とかなんとかでオーソライズしていくということをしていただか ないと、例えば、今でもBは24週間しか使えないと言うんですが、もう1年投与すればいいに 決まっているんだけれども、24週間。そうすると24週間でやめて、またスイッチして、しばら くたってまた24週間というよりも、最初から1年やればいい。そういうことが、国の対策とし てやる以上は、早く弾力的にやった方がいいだろうと思います。 ○林教授 御指摘のように、肝硬変の患者さんはどんどん増えてきていますので、慢性肝炎に 比べると肝硬変に対する対策が日本でも非常に遅れていると思うんですが、坪内先生いかがで すか。 ○坪内教授 今、熊田先生がおっしゃったことは大変大事で、臨床的に我々が、こういう方法 は治療効果を改善するというようなことがあっても、それが保険で適用になっていないとなか なかそれを実施できない。それは、トラディショナルリサーチという大げさなものでなくても、 鶏と卵の関係で、本当にきちんとやるとすれば、それは治験でやらないといけないということ になると、なかなか現実的でないと思います。だから、それはやはりそういう、簡単なレベル ではさっさと、特にそのために幾つかの班があるわけですから、班会議のメンバーがやるよう なところは、そういうことをきちんと研究できて、しかもそれがオーソライズされた形でやれ るという、それがいい成績だったら保険で認可されるようなベースになっていくということが、 一つは大事だと思います。  もう1点は、林先生のスライドにもありましたし、幾つか先生の御意見もあったように、今 の治療でかなりのレベルまで、治療効果がある一定はあるわけですから、それを受けていない 人たちがたくさんいるという、これは非常に重要な問題で、やはりこれには、専門家だけでな くて、各都道府県なんかのような行政と、あるいは医師会とか、そういったものも一体化した ような対策を取らなければ、もう長い間、我々専門家は病診連携、病診連携とずっと言ってき たんですけれども、一向にそれが解決していない。だから、この際、一般の方々も肝炎対策事 業が始まったということで関心を持っている非常にいい機会ですので、もっとそういうところ を一体化してアピールすることが必要ではないか。そして、そういう人たちを治療にインバイ トするということが非常に大事ではないかと思います。 ○林教授 理解したのは、慢性肝炎と肝硬変は連続性の病因で、熊田先生がおっしゃるように、 もう慢性肝炎で認められているものは、ある程度、肝硬変まで認めないと、実際、病理的には おかしいと我々は思っているわけですが、なかなかそこはうまくいきませんが、肝硬変の患者 さんに、一部のインターフェロンは保険で認められていますが、やはりこれだけ患者さんが増 えてくると、その対策をどうするのが一番いいとお考えですか。 ○岡上院長 その前に、我々肝臓学会の責任があると思うんですけれども、先ほど熊田先生が おっしゃったように、もう慢性肝炎の線維化は、F1・2・3・4と分けて、F4が肝硬変で、 肝硬変を我々もこういうふうに図表のように慢性肝炎、肝硬変で分けてきたというのも少し問 題があって、現実に、これは厚生労働省にしかられるかもわからないですが、私も含めて、恐 らく多くのドクターが、肝硬変の患者さんで、血小板の非常に少ないような患者さんは脾臓を 摘出する、あるいは脾動脈塞栓療法をやって血小板を上げれば、もう慢性肝炎と同じような治 療ができるわけですし、現実に、私どもも十数例それをやって、4例著効になっているわけで すね。  ですから、今、林先生、熊田さんがおっしゃったように、この薬剤は慢性肝炎には認めるけ れども、肝硬変には認めないということでなくて、慢性肝炎で認めている薬は、基本的に肝硬 変でも認める。ただし、その肝硬変の病状をきちんと評価する必要がありますので、それには ある程度の、これまた医師会に問題があるかもわからないんですけれども、それを診療する医 者を肝炎の拠点病院なりに限定してやれば、私自身は、それほど副作用等を気にしながら治療 する必要はないと思っていますし、肝硬変も、現実にそれで救える患者さんがかなり増えてく るのではないか。ただし、勿論、非代償性の肝硬変は全く論外ですので、その辺をきちんと、 これは熊田先生の標準化の範囲等で、ガイドラインをもう少し肝臓の非専門家にもわかりやす いような形にすれば、5年先、10年先の新しい薬剤を待つまでもなくて、肝硬変の患者さんも かなり救える患者さんが増えてくるのではないかと思います。 ○林教授 今から即臨床試験をやって5年先とか、そういうのではなかなか、先生がおっしゃ るように、時間的にそこまで待つ余裕が恐らく患者サイドとしてはないだろうということで、 基本的に、慢性肝炎と肝硬変は連続性の病変なので、それを認める何らかの方策を考えていた だきたいというのが、我々ドクター側の非常に強い要望かもわかりません。 ○熊田院長 もう一つ、副作用の恐怖感、それをやはりどうしても、マスコミも含めて、その 恐怖感よりも、何もしなくて肝がんになる方がもっと大きいんだ、そういうキャンペーンがな いと、何人かに何かが起こると、そちらだけわっと強調されてしまって、3人は大変だった、 だけど100人は治ったんだというと、3人は大変だったという方が表へ出るんですね。それで、 100人が治ったという方は余り報道されない。だから、今日はマスコミの方もいらっしゃってい るんだけれども、そこをやはり考えていただきたいと思うんです。  かつて、92年にインターフェロンが発売になったときに、1面トップで「インターフェロン 7割無効」とぼーんとマスコミへ出てしまったんですね、あれで一遍にみんな、インターフェ ロンは副作用が多くて7割無効だと言われて、あれで一遍に2000年までに落っこってしまった んですね。だから、そういうことも含めてやらなければいけないのと同時に、専門家と非専門 家の方が、ちょっとある副作用を見たときに、肝臓専門医がいる病院で起こった副作用の比率、 厚生労働省に報告のある副作用の比率と非専門家のある比率を見てみると、非専門家の先生が 副作用で報告しているのが全体の7割なんですね。専門家から起こった副作用が3割なんです。 でも、インターフェロンを使っているのはまるきり逆で、専門家が8割を使って、非専門家が 2割ぐらい使っているんです。そうなると、それを足したらどうなるかというと、非専門家に 起こっている副作用は、専門家が使っている副作用の約10倍起こっているんですね。だから、 岡上先生が言われるとおりなんです。  だから、その辺のことを、新しいことをどんどんやっていくという中に、専門家と非専門家、 このために肝臓学会の専門医制度があるんですから、それをある程度使っていくということを しないと、東京都は専門医に限っていますけれども、それを県で推進する。ただ、推進できな い県もありますから、やはりその辺をうまく整合性を合わせてやっていくということをしてい く必要があるのではないかと思います。  それから、副作用がある人に対しても、ある程度、インターフェロンの種類によっても、先 ほど、慢性肝炎でも肝硬変でも同じだという、インターフェロンにもαとβがありますから、 それぞれ副作用が違うわけで、この人にはαを使った方いい、この人はβを使った方がいいん ですが、αは認可されたけどβはだめだとか、そういう点もやはりもっと弾力性を帯びた方が いいだろうと思います。 ○林教授 恐らく、先ほどインターフェロンのことで、肝硬変の人も治療の拡大のことを言う ようになりましたけれども、今後入ってくる新しいC型肝炎特異的な抗ウイルス剤というのは、 経口剤ですので、副作用が余りないものについては勿論肝硬変も対象になるわけですが、従来 の方針を踏襲すると、慢性肝炎の臨床試験を組んで、また肝硬変に使えないという事態が起こ ってくるのが、日本にとっては非常に不利益を受けることだと我々も思っています。外国では、 治験が通れば慢性肝炎にも肝硬変にも使えるわけで、特に新しい抗ウイルス剤で、経口剤で、 肝硬変を対象に使う可能性の多い薬剤については、臨床試験の段階からそれを考慮していただ きたいというのが、我々の大きな要望事項になるのではないかと思います。  それから先ほど、実際にそれでウイルスの排除が行えればいいですが、ウイルスの排除が行 われない方に、線維化の進展を止める、先ほど、現在日本で行われている3つのことを私、紹 介させていただきましたけれども、そのあたり、金子先生、脇田先生いかがですか。線維化を 進展するのを止めるお薬とか、そういうものを今後日本でもやっていく必要がございますか。 ○金子教授 線維化を止めるお薬の話で、インターフェロンが線維化を止め得るのではないか という話もありますし、それを見たら、さっきも研究でスタートしているようですけれども、 線維化を止める薬というだけの方向性ではなくて、ちょっと7年ではきついかもしれませんが、 例えば細胞療法とか、全く新しい再生医療も含めた新規の治療法を進めていくというのも一つ の方向性だろうと思います。 ○林教授 坪内先生いかがですか。肝硬変の患者さんに細胞療法とか、先生はもう増殖因子の 大家でございますが、そういう方法を使って肝硬変自身をもとに戻すという治療法はいかがで すか。 ○坪内教授 肝硬変の抗線維化というのは肝臓の我々にとっては昔からあるテーマなんですけ れども、金子先生が言われたように、再生という観点を入れた抗線維化、そういう研究は、こ の現在の班研究なんかでもほとんど行われていませんし、今、iPS細胞が大話題になってい ますが、例えばマウスのiPS細胞なんかは理研の方で配っているわけですから、どこででも それを使った研究ができるわけです。したがって、残念ながら、現状では肝臓でそういった方 面の研究をしている研究者が非常に少ないという点はありますけれども、やはり肝硬変に対す る肝再生医療法、それは抗線維化医療も含めてですが、増殖因子あるいはiPS細胞だけでな くて、肝臓の前駆細胞、そういった細胞を使った細胞移植療法なり、あるいは、将来的には、 本当に器官形成みたいな、あるいはその前段階として、今キメラマウスがあるんですが、ヒト の肝細胞を持った肝臓を構築するとか、そういったことも基礎研究では是非やっていかないと いけないテーマではないかと思います。 ○林教授 脇田先生どうぞ。 ○脇田部長 議論のとおりなんですが、やはり新規治療法、当然、抗ウイルス薬もそうなんで すけれども、目的は、患者さんの生存率を向上させてQOLを上げるということが目標ですの で、当然、線維化を予防することで生命予後をよくするといった治療法が大事になってくるわ けですが、今も御紹介があったとおりに、なかなかその分野の研究者がそれほど多いわけでは ないですので、そういった意味で、例えば厚生労働科研費の若手研究者の枠とかを活用してい ただいて、そういった研究をプロモートしていくことが必要なのではないかと思います。です から、iPS細胞は非常に魅力のある分野ですので、我々、基礎研究者も是非取り組んでいか なければいけないと考えています。 ○林教授 先ほど、ウイルスの基礎研究者の数が減って日本は大変だと申し上げましたが、実 は、肝臓自身の研究者も、こういう医師不足の時代でございますので、なかなか研究する時間 が取れなくて、実際の臨床に追われているということで、日本全体としても研究者の数が減っ てきているのを我々も非常に危惧していますので、そういうところを是非配慮していかないと、 今後、新しい治療方法というのが、なかなか開発できないのではないかという気がしてござい ます。  あと、肝硬変で先生方、何かほかに御意見ございますか。よろしゅうございますか。  次はC型の肝がんで、これはもう先生方も今、非常に対策に緊急を要するもので、どこの施 設でも肝がん患者さんが増えて、どの治療をどのように行うかというのは、非常にお困りだと 思います。実際、確かに局所療法というのは、肝切除とか、ラジウム波による治療とか、TA Eによる治療で、日本は恐らくそこの治療方法では世界のトップだと思いますが、非常に治療 効率がよくなってきていますし、がん局所の制御というのは簡単に行われるようになりました が、実際、生存率を上げようと思うと、やはり再発率をどのように下げていくかというのが非 常に大きな問題です。一部は、インターフェロン治療等によってウイルスの排除をすれば、勿 論、発がん率が下がっていきますので、肝がん患者さんでも、残存肝で余り病気の進んでいな い人が、今後どんどん新しい抗ウイルス剤が入ってくると、抗ウイルス療法をやろうというこ とになろうと思うんですが、それ以外に、金子先生、肝がんの患者さんの再発率を抑制する治 療法とか、私のところもやっていますが、先生のところもいろいろやっておられますが、いか がでしょうか。 ○金子教授 肝がんに関しては、来年から抗がん剤の新しいものがいっぱい出てきますし、恐 らく診療のレベルで、どういう抗がん剤をどう使ったらいいのかというのは相当問題になると 思いますので、これは是非やっていただきたいですし、それから、動脈を使った放射線科の先 生がするようなTAEというものがあるんです。その治療法は日本で広くやられているんです が、それといわゆる抗がん剤との比較というようなところも問題になってくるでしょうし、新 しい抗がん剤がいっぱい出てくる中で、その位置づけをどうするかというのが、まず大きなテ ーマだろうと思います。  それをしても、なおかつやはり残ってくるのは、再発率を下げなければならないと。再発率 を下げるのは、恐らくインターフェロンがかなり強力だろうとは思うんですが、アメリカが大 規模でやった試験で、NIHがやった試験で、実は、インターフェロンを投与しても発がん率 が余り抑えられなかったみたいな報告があるんですが、ああいうものにすぐさま飛びつかれる と、実は、全然向こうは発がん率が高くない集団に対してやった試験なので、日本のようなと ころとはちょっと実情が違うと思うので、僕は、先ほどからの議論と同じように、やはり肝硬 変というような、もうがんにすごく近くなってきたところの患者には、インターフェロンを認 めていただきたいというのがあります。  それから、そのほかに新しい治療法というと、是非ともやりたいところは免疫療法ですね。 これもまた、今ちょうど世界中で話題になっていますけれども、肝がんというのは最高のモデ ルなので、再発を抑えるところの免疫細胞療法の研究を是非進めていっていただきたいと思っ ています。 ○林教授 肝がんの場合、すべての細胞にがんが起こる可能性があるという、どれが起こるか わからないわけで、それを抑制するために、免疫療法のかなり強力な方法が取られると思って います。国際的にもそういう方向で進んでいますけれども、最近、がんのステムセルの問題が ありますけれども、こういう免疫療法も、ステムセルを対象にした治療法というのが、今後恐 らくメインになるだろうと我々も思っていますが、先生、肝がんでステムセルの研究というの は、国際的にどのぐらいのレベルに行っているんですか。 ○金子教授 僕も余り存じ上げないので、先生が言われたとおり、ステムセルに対する化学療 法みたいなものも今考えられていますし、ステムセルに対する免疫細胞療法みたいなものも考 えられていますので、先ほどの再生とちょっとかぶるところがあるかもしれませんが、いわゆ る肝がん幹細胞、肝がんステムセルに対する研究というのは恐らく相当重要で、治療とかに絡 める、あるいは周辺環境と発がんに絡めるといった研究も重要だろうと思います。 ○林教授 あと、岡上先生に聞いた方がいいか、熊田先生に聞いた方がいいかわかりませんが、 先ほどの肝がんの抗がん剤が出てくる場合がありますよね。それをどのように使おうか、なか なか難しい問題ですね。実際に少し生命予後は延ばしますけれども、根本的に治すわけではな いので、ああいう抗がん剤を今後どのように使っていくかというのは、外国は単純にやるでし ょうけれども、日本で実際にやるとき、どういう使い方になりますでしょうか。 ○熊田院長 直近で、もし日本で結果がよく出るとしたら、ソラフェニブという腎がんに承認 されたばかりの薬なわけですけれども、それだけでの生命予後は、実はデータでは3カ月なん ですよね。3カ月というのが患者さんにとって、それは勿論、延びるのはいいことはいいんで すが、3カ月って、我々肝がんの治療をやっているグループに言わせると、物すごく丁寧に患 者さんの協力を得れば、今の治療でも3カ月ぐらい延びてしまう。そうなると、飲み薬で3カ 月間延びるか、従来のものを丁寧にやっていくかということで、3カ月という期間は余りにも 短いんです。  そうなると、いろいろな治療を集めてというか、やはり集学的な治療を目指さざるを得ない だろうと思うんですね。例えば、発がん予防にしても、経験からはもうインターフェロンに再 発予防、あるいは肝硬変にインターフェロンを使った方が発がんが減るというデータは、個々 にはいっぱい学会で発表があるんですが、では肝がんの再発予防にどうだろうかというと、そ れも使いたい、それから、血管抑制・新生阻害剤も使いたい、あるいはアミノ酸製剤でも使い たいとか、いろいろなことをある程度、先ほど坪内先生が言われたように、せっかく厚生労働 省がやっているわけで、班でオーソライズされているような形になれば、やはりそこは専門病 院と一般とはちょっと分けたという形のことができるようになれば、多分もっとエビデンスは 出てくるだろう。でも、保険の制約があって、例えばインターフェロンはまだほんの一部しか ない、片方では、アミノ酸製剤は非代償性にしか使えない。両方使おうと思ったら、傷病名は、 片方で非代償性になって、片方で代償性、そうすると使えない、そういうことがありますから、 用途が違うというか、目的が違う薬剤をうまく合体するということをしなければいけないんで すが、これも保険の関係でできないという、余りにも日本の保険の縛りが強過ぎるので、ここ 10年の間は、やはり専門医、非専門医の中をよく見ながらやれるようにすれば、それだけでも 相当違うのではないかと思います。 ○林教授 あと、金子先生、肝がんの発症機序というのは、ほかのがんに比べると研究対象と しては非常に、恐らくそこの機序を見つけるのはいい対象だと思うんですが、やはり今後、そ こについてはかなり力を入れないと、なかなか肝がん対策の生命予後を延ばせないと私は思っ ているんですが、その辺いかがですか。 ○金子教授 これはもう是非ともやりたいんですが、7年と言われるときついんですが、おか しな言い方ですけれども、肝がんは最高のモデルなんですよね。これほどがんが高率にわたっ てくる集団というのはわかっていないわけで、そういった患者さんに対して、きっちりしたス タディが今ようやくできる面がいっぱいありますので、いつまでも発がん機序、発がん機序と 言っていて何も出てこない科ではなくて、新たな局面が出てきているので、ここへ来て、もう 一度発がん機序を徹底的にやらせていただきたいという思いはあります。 ○林教授 そこから恐らく予防法の推測ができる可能性があるだろうと。 ○金子教授 まさに先ほどのキャンサーステムセル、がん幹細胞の話とか、免疫関係の話とか、 あるいは個々の遺伝子とかを包括的に見る話がようやく出てきているので、それらの見直しを すると、結構、予防に直接行けるとか、治療法に直接行けるようなものが出てくるかもしれな いと思います。 ○林教授 坪内先生いかがですか、その辺。肝がんとかを基礎的に日本で責めるとしたら、ど こを責めるのが一番いいんでしょうかね。 ○坪内教授 確かに、DNAチップなんかに始まって、最近はクリプトーム解析とか、新しい 研究手法もそういうものに導入できるようになりましたし、そういった観点からまた研究に取 り組めば、新規の、実際にそういったことで新規の分子も少しずつ見つかっているようですの で、今後の非常に重要な課題ではないかと思います。 ○林教授 あと、全体のC型の治療で、先生方、何か言い残していることがございましたら是 非お聞きしたいと思います。 ○熊田院長 これは混合診療との兼ね合いになるんですが、後でB型でも出てくると思うんで すが、ジェノタイプが保険に通っていないと。そうなると、これが自費になると全部自費診療 にしなければいけない。混合診療も、全体で賛成、反対というよりも、やはり体外診断薬、特 に患者さんの血液を調べて検査をするという診断薬に関しては、患者さんと、それから医者側 が同意すれば、それは混合診療ができるというような体制にしないと、無駄な医療が進んでし まう。  C型肝炎に関しても、今、遺伝子でコアン70とか、ISDRとか、ほかにもある人はあると 思うんですが、それは保険で通さなくても、少なくとも混合診療ができるようにして、事前に チェックを医者が話をして、患者さんが納得すれば、そこの部分の費用だけは患者さんが出し ていただければいいというようなことをやらないと、後でBの問題がありますけれども、ジェ ノタイプはやはりBでは絶対必要で、Cでもジェノタイプが実は通っていないんですよね。セ ロタイプしか通っていない。そうすると、学会で今話題になっているように、1は、日本はほ とんど1Bですから、1Aは少ないからいいというんですが、2の方は2のAと2のBと違い ますし、治療法も治療効果も違いますから、そういう体外診断薬とは全く別の面で、新しいも のに対しては混合診療から外してやってもいいというような、一部もう混合診療も認められて いますけれども、その枠を肝炎に関してはもっと広げるべきだろうと思います。 ○金子教授 治療に対してちょっと一言だけ言いたいと思っていたことがあるんですけれども、 今、治療の標準化とか均てん化ということを受けて、ガイドラインをつくってというような方 向がありますよね。ところが、特にマスコミの方に知っていただきたいのは、ガイドラインと いうのも、専門医に対するガイドラインと、多くの医者に対するガイドラインと、患者さんに 対するガイドラインとかいろいろあって、先ほどからのお話のように、副作用はある、高齢化 はある、それから肝硬変があった場合には使いにくい、新しい薬はどんどん出てくるとなると、 実は、今のC型肝炎の治療というのは、専門医自体も毎日勉強していないと標準的な最もいい 治療法についていけない。ちょっとぼうっとしていると、もう正しい治療を患者さんにできな いというような状況に落ち込んでいるので、それくらい難しい治療法になってきているんです。  なおかつ、専門医がやると、副作用の問題も、高齢化の問題も、いろいろな問題もクリアし て成績がいいということなので、実は、マスコミの方に、こういうことを言うと、もしかする と今日、医師会理事の方が来ておられないからあれですけれども、これだけ治療法が難しくな ってくると、専門の方に診てもらわないと治療成績がよくないんだというところをもうちょっ と知っていただく必要があろうと思いますし、単純にかかりつけ医と専門医療機関との連携と 一言で言いますが、実は、連携の本来の姿は、専門医が相当コントロールしないともうだめな ところまで来ているという、何かうまい啓発といったものが必要だろうと強く感じています。 ○岡上院長 先ほど、C型の発がんのことが出ていましたけれども、もうここへいらっしゃる 皆さん方は御存じだと思うんですが、当然のことながらウイルスを排除して、炎症を抑えて線 維化を抑えれば発がんを抑制できるんですが、ただ、C型のがんというのは、1に線維化、2 に炎症、その次に肥満とか、糖尿病の合併であるとか、酸化ストレスとか、飲酒とか、それか ら鉄の過剰蓄積とか、いろいろな要素があるわけですので、そういうものをすべてトータルに 治療すれば、かなりの率で発がんを抑制できるわけです。  それともう一つは、やはりC型の患者さんで、将来、肝硬変とか肝がんで命を落とさない人 というのが約3分の1はいるわけですから、本当の意味でトータルの治療するというのは、先 ほどからありますように、そういうことをすべて理解して治療できるというのは、やはり肝臓 の専門医が重要です。ただ、肝臓の専門医にかかれというだけでなくて、我々肝臓学会も、市 民公開講座なり、あるいは地域での肝炎の最新の治療情報を提供する、そういう機会を積極的 に展開する必要もありますので、そういう面の補助も国からもある程度考えていただきたい。 そういうことをすれば、当面新しい薬が出るまでに、まだ患者さんを救える手だてというのは かなりあると私は思っています。 ○林教授 それでは、後でまた時間がございましたらC型肝炎の方をお聞きしますが、次に、 B型肝炎の問題です。これは、恐らくC型肝炎よりもかなり難しいと私は個人的には思ってお りますけれども、まず、岡上先生に口火を切っていただいて、B型肝炎の治療、今後日本でだ れが一番、先ほど、外国の新しい薬剤が日本に入ってこないということは少し申し上げました が、C型のように完全にウイルスの排除を起こすわけではなくて、ウイルスの増殖の抑制を行 うことによって、我々は現在治療を進めておりますが、近い未来としてこういうことが問題だ ということ、もし長い過程でこういうことが問題だということがございましたら、お教えいた だければと思います。 ○岡上院長 先ほどから議論がありますように、B型肝炎は非常に複雑ですよね。いわゆる肝 臓学会の専門医の資格を取っている先生方の中で、きちんとB型肝炎の治療ができる人って、 僕はそれほど多くないと思う。それが実は一番の問題ではないかと思っていますけれども、一 つ、日本が欧米と異なることは、ほとんど今の日本のキャリアは母子感染であるということと、 遺伝子の型が、先ほど熊田先生がおっしゃっていましたが、B型にも8つの遺伝子の型があり ますが、日本では遺伝子の型のCが圧倒的に多くて、西ヨーロッパもAとBがフィフティ・フ ィフティですが、Cはインターフェロンにかなりレジテントである。そうすると、日本のよう に母子感染で、遺伝子の型がCで、30年、40年と感染している患者さんは、インターフェロン だけ補助するというのは非常に片手間であって、実際そういう患者さんには、むしろ核酸アナ ログをたくさん使っているわけですよね。その辺を国としても補助する場合には考える必要が ある。  ただし、そうしたら核酸をどうしていくかといいますと、御承知のとおり、最近は新しい核 酸があるからそれほどでもないんですけれども、長期に服用すると、それに対する薬剤耐性が 出てくるということで、一番の問題は、B型はC型以上に、どういう患者さんを、いつ治療を 始めて、いつ治療をやめるか、その基準が実は世界的にできていない。特に現在は、これも是 非マスコミの方にも知っていただきたいんですけれども、B型肝炎は、実は日本は、今まで問 題になっていましたE抗原陽性よりも、むしろE抗原陰性でウイルスが増殖している。すなわ ち変異ウイルスが増殖している患者さんが圧倒的に多いわけですね。それは、極めて予後が悪 くて、しかも薬剤抵抗性である。ですから、そういうものを正しく理解して、正しく治療する ということが非常に大事ですので、C型以上にB型はそういう面の知識の普及というのが重要 ではなかろうかと思っています。  実は、B型肝炎は、熊田先生を中心にして日本からもガイドラインを、ガイドラインと言う のがいいかどうか、ちょっと問題かもわからないんですが、アメリカからも出ていますけれど も、世界的にきちんとした基準がないということで、今、カナダでもヒンスコートを中心にし て世界的な基準をつくろうということで、私も参加してやっていますが、これも、感染の形態 が世界中で異なりますし、遺伝子の数の分布も違うというので、僕は、B型肝炎というのは世 界的に非常に混乱していると思っています。 ○林教授 なかなかB型のガイドラインを国際的につくるのは難しいでしょうね。だから、逆 に言うと、日本だけできちんとしたものをつくった方がはるかに適している。外国のガイドラ インをそのまま日本へ持ってきても、恐らく無理ですね。  熊田先生いかがですか、B型の問題。 ○熊田院長 そうですね、C型のときも、ウイルスのタイプがこんなに違う、治療効果が違う わけですから、Bは、まさにそれが正反対ですよね。海外はインターフェロンがすごく効く、 しかし、日本はインターフェロンが効きにくいタイプが多いんですが、結局、まだ核酸アナロ グも、たかだか2000年にラミブジンが出たんだけれども、やはり変異株が物すごく多いという ことで、これを長期にというと、8年たったら、もう今ラミブジンを最初に使うことはあり得 ないという、8年たったら変わるわけですよね。今一番、いわゆるテノホビルということなん ですけれども、これも3年目のところで既に出始めた。では、8年たったらラミブジンみたい にならないかどうか、これはだれにもわからない。  そうなると、必要な核酸アナログを海外から、具体的に言うとテノホビルを、では会社がや るかというと、今すぐにそんな変異株が出ていないときにだれもやらない。しかし、もうそろ そろ出始めたからというと、こういう症例が少ない人に対してもそういうものを認めていくと いうスキームをつくっていかないと、多分、核酸アナログは日本は大変だろう。そう言ってい るうちに、かつてのラミブジンみたいに、変異株が出るから完璧ではないという話になってし まうと思うんですね。  ですから、先ほど岡上先生がやめていく方法と、これはもう、やめていく方法はやめていく 方法で絶対やらなければいけない。だけれども、やめられないときの方法も考えていくという 2つのスキームがまず要るだろうと。  それから、もう一つは、先ほど林先生の中にも書いてあったように、若年で海外種が増えて いるという、この問題ですね。台湾が日本よりもB型肝炎が物すごく多かったんだけれども、 国民の生まれた子ども全員にワクチンを打つということで、多分台湾の方が、将来、日本より もB型肝炎の数は少ない国になることはまず間違いない。日本は母子感染だけを予防したんだ けれども、当時のスキームとしてはよかったけれども、どうも母子感染だけではなくて、もう 今や二十歳の方の若い世代に、特に東京、繁華街ではジェノタイプという外国種がどんどん増 えている。この対策も急がないと、これはもうB型肝炎が永久になくならないということです から、疫学面もB型肝炎はすごく大事だろうと思います。今回、自己注射が認可されまして少 しはいいですけれども、半年に限られている。これが、治験をやらないと1年にならないとか、 そういう問題が、やはりCと同じように制限が、1つやって次、1つやって次ということにな って、なかなかうまく行けないというのが日本の一番の問題点ではないですかね。 ○脇田部長 母子感染予防、あるいはワクチンのお話が出ましたが、我々も感染研からWHO のB型のワクチンに関する会議とかに参加しているわけですけれども、もう西太平洋地域でグ ローバルアクシネーションをやっていないのは日本だけで、いつもその説明をしているわけで すが、やはり日本の感染状況を見ても欧米化してきているわけですから、そこの政策の変更と いうのはどうしても近々にもう考えなければいけないということで、そこを新しい研究班を組 んでいただいて、本当に早急に対策を考えることが重要なことだと思います。  それから、Bの治療なんですけれども、HIVの例からも明らかなように、逆転写酵素阻害 剤だけでは、やはり難しいということはもう明らかであります。更に、エイズと違って、B型 も根治不能、ウイルス排除は不可能だと言っているんですが、しかしながら、ゲノムインテグ レーションされたウイルスのゲノムからはウイルスは出ないはずですから、残っているのはエ ピゾーマルに残っているゲノムが残っているだけですから、根治に向けた治療というのは開発 可能だと思うんです。ですから、複数の抗ウイルス薬の作用機序の違うものを組み合わせて、 インターフェロンをかぶせて、更にワクチンをやっていくということで、もう本当に根治まで 持っていけるような治療法が実際には開発可能なのではないかと考えて、実は、B型肝炎の研 究者は、先ほどC型のことでも言いましたが、我々も15年前にC型肝炎の研究を始めて、その ときに、もうB型肝炎は母子感染予防でなくなるから研究はいいだろうというような話があっ て、B型肝炎の研究者は本当に少なくなっているんですが、今、研究室で研究員のしりをたた いてB型肝炎の研究ゅ始めているところで、そういった方面の研究をやっていきたいと思って います。 ○林教授 先生、具体的に、ポリメラーゼの新しいところは、インターフェロンと今の抗ウイ ルス剤とターゲットを変えないとだめですよ。何か国際的にそういう違うターゲットを目指し た薬剤の開発が行われているんですか。 ○脇田部長 今までも幾つかは出てきていると思うんですね。それで、粒子形成のところをブ ロックするとか、あるいは、やはりレセプターを見つけてそこをブロックするといった、そう いうライフサイクル全体を考えると、HIVと比べるとゲノムが小さいですし、ターゲットに なるところが少ないということはありますけれども、そういったところをシラミつぶしにやっ ていく必要がある。具体的に、今すぐに臨床試験に乗ってくる薬は今のところないと思ってい ます。 ○林教授 将来的には完全にウイルスを除くことが、DNAは残るとしても増殖は止めてしま うというのが、恐らく基本目標になるだろうと思います。ただ、近々の問題では、やはり岡上 先生がおっしゃるように、B型の治療はかなり難しいので、肝臓学会としても専門家を増やす ように努力はいたしますけれども、やはりB型の治療をきちんと正確にできるドクターの数を 増やす。それから、日本の中でもう少しきちんとしたガイドラインをつくるのが非常に重要な 問題だと我々も思っています。それで、近い将来は、やはり完全にウイルスの増殖を止める薬 剤の開発ではないかと思っています。  豊田先生、あといかがですか、B型の治療法。 ○豊田副院長 ラミブジンからエンテカビルに今ファーストラインが変わっているわけですけ れども、それで随分耐性化の確率も低くなったわけですが、セカンドラインでアデフォビルが ありますが、その後のラインがないということが一番問題になると思います。ですから、先ほ ど熊田先生がおっしゃったように、そういった患者さんからも耐性変異が、これから長く見て いくとどのぐらい出るかということがわからないわけなので、B型肝炎の患者さんで、まずハ イケイカンから考えなければいけないと思うんです。  私ども臨床医として、非常にこのアナログで助かっていることは、B型の肝がんの患者さん の関与予後を非常によくして、肝がんと闘える期間を長くしているということが非常に大切だ と思っているんですね。ですから、肝硬変肝がんの人には、これを続けていった上で、セカン ドライン、サードラインを考えていただきたいということと、もう一方では、今までよりもも うちょっとエンテカビルが非常によく効くということからも、従来いろいろなことでアナログ とインターフェロンの併用というのはやられていますが、なかなかいいプロトコルができてい ないということがあるので、やめるということを念頭に置いたようなプロトコルの研究を進め られてやめられると、特に若い患者さんで、組織学的に余り進展していない患者さんでは、や める方向性というのも打ち出していかなければいけないのではないかと思っています。 ○林教授 あとは、岡上先生、E抗原が陰性でも、変異型ウイルスの増殖量が高い人は要注意 なんですが、逆に、ウイルスの増殖量がある程度低くなった方が日本には非常に多くおられま すが、その方が、健常時に比べると発がん率が高いということもわかっているわけで、今のと ころ、それは単に経過を見ているだけなんですが、この層に対する対策というのは何か必要な んでしょうか。どなたでも結構なんですが、私も答えがあるわけではないんですが。というの は、対象者が非常に多くて、普通の開業医の先生方にとっては非常に大きな問題だろうなと。 ほかの疾患で診ていたら、突然肝がんが起こってくるわけで、これをどうするかというのは、 非常に対象者が広い割には、それほど発がん率が高くないということで、なかなか治療ターゲ ットにしにくいという面もございますけれども、いかがでございましょうか。何かお考えがご ざいますか。 ○岡上院長 先生がおっしゃったように、通常は安定していてそのまま経過するんですけれど も、B型肝炎というのは、何かあったときにウイルスが増殖してまいりますので、そういう意 味では、一見ウイルスが10の5乗保菌未満とか10の何乗未満で安定していて、肝機能がほぼ正 常になっていても、あるときに上がってくる可能性があるので、それが一つと、もう一つは、 4〜5年前ですけれども、ガットに、いわゆるウイルスの増殖がかなり低下していて肝機能が 正常であっても、ALTが20未満と20〜40の間を比べますと20未満の方が圧倒的に発がんリス クは少ないということが言われていますので、一見ウイルスの増殖が低下していて、肝機能が いわゆるアッパーで見ると正常範囲以下にあっても、やはり先生がおっしゃったように一定の リスクでがんが出るわけです。だから、B型肝炎というのは、フォローの期間は個々の患者さ んによって異なりますけれども、決してここで安心ということではないわけですから、そうい うものを多くのドクターが認識してやらないと、B型肝炎というのは、とんでもない患者さん が、とんでもないというのは、変なという意味ではなくて、安心していいと思っている患者さ んから突然がんが出てくるということがありますので、そういう意味でも、全くCと異なる病 気と認識してフォローしないとだめだと思っています。 ○林教授 熊田先生、よろしいですか。 ○熊田院長 こういう人に薬剤を投与していくというのもなかなかちゅうちょするんですね。 患者さんはぴんぴんしている、肝機能も正常。そうなると、やはりテーマ、テーマである程度 のそういう厚生労働省が班をせっかくつくっていただいたので、そのために必要な班をつくっ てもらって、その中で、コントロールスタディではなくて、使う分、使わない分を分けていく。 今、薬剤というのは、日本ではやはり治験で、いわゆるダブルブラインド・コントロール・ス タディが勿論一番いいんですけれども、今の状況ではいかないわけですから、ある程度登録制 にして、ある施設はずっと使っていく、ある施設は使わないといったような形でもいいから、 3年、4年かかるかもしれないですが、やはりエビデンスは一応ためなければならないだろう と思います。  ただ、今の中で、では、使うか使わないかということになると、ドクターも、今は半々ぐら いではないかと思うんですよね。半々ぐらいのときにやはりエビデンスをためないと、もう明 らかにエビデンスが出て、使った群ががんが少ないということになってしまうと、もうコント ロールスタディもできませんから、やはりそういうものも、せっかく厚生労働省が班を持って いますから、Cのトランスアミナーゼの正常の人のところと、Bのトランスアミナーゼは正常 だけれども、結構がんが出るところは、今後の日本においてはきちんとしていかなければなら ないところだと思います。 ○林教授 あと、坪内先生、これに関係することで、坪内先生は厚生労働省の班で、B型のウ イルスの増殖のあった方にいろいろな薬剤を使ったときに誘導される肝炎の研究を始めておら れますが、それは今後、結局どうしていけばよろしいでしょうか。 ○坪内教授 今、岡上先生がB型というのはとんでもないという、その最たる例が、いわゆる デノボB型肝炎で、しかもリツキサン、ステロイドを使った血液悪性腫瘍患者さんが対象のこ とが多いんですが、そういう患者さんは劇症化するということで、劇症肝炎自体は患者さんが 大変少なくなってきているんですけれども、要するにB型の既感染者で、いわゆるキャリアで もないような人が、要するに健康者の中に入っているような人たちが、血液悪性腫瘍で治療後 にB型の劇症肝炎になる、あるいは劇症肝炎にならないまでも、急性B型肝炎の重症型になる というようなことがあります。それは一応、熊田先生の班と難治性の肝・胆道疾患の班で共同 ということでレコメンデーションを作成いたしましたが、今後それが、最近問題なのは、血液 悪性腫瘍だけではなくて、リウマチなんかでもリツキサンを使った治療が開始されようとして いるわけですね。したがって治療薬、リツキサンなんかが広まっていきますと、それに伴うB 型の劇症肝炎が、予測もしない劇症肝炎が起こってくるということで、そういう対策を早目に 取っていくことが、血液の先生あるいはリウマチ関係の先生にそういうことを知らせて対応を 取っていただくということは、何にしろ起こると死亡する病気ですから、非常に大事ではない かと思います。  ただ、今年からリツキサン、ステロイドの悪性リンパ腫については班ができているようです ので、だけど、リウマチなんかも含めてどうするか、そういうところがやはり問題ではないか と思います。 ○林教授 ありがとうございました。  時間も迫ってまいりましたので、最後に、具体的に先生方、こういうことをやったら、今後、 日本の肝炎対策はより促進するんだという御意見をお聞きしようと思うんですが、研究費の問 題を冒頭にも少し申し上げましたけれども、アメリカに比べると日本の研究費はまだまだとい う気がします。先ほどから何回も申し上げていますが、新しい薬剤はほとんどアメリカから出 てまいりますが、それは、アメリカの研究費が多いことと、更にアメリカに大手の製薬会社が あって、そこでまた膨大な研究費を使っているということに起因しています。ただ、日本は肝 炎といってもアメリカとはちょっと違っていまして、高齢者の方が多いとか、日本の特殊な要 因がございますので、それに対する対策を考える必要がございますので、当然のことながら研 究費はお考えいただきたいと思っておりますが、それ以外に、脇田先生は、先ほどから研究者 の数が少ない少ないと、私もそう思うんですけれども、何かこういう方策を講じれば、もっと 肝炎の研究をしていただけるという方策がございますか。 ○脇田部長 やはり今、日本が取り組むべき非常に大きな課題なわけで、それに重点的に取り 組むことによって、研究者が育って、肝炎研究があと何年で終わるかわかりませんけれども、 そこからまた新しい展開があると思うんですね。  実際にアメリカでも、ポリオが非常にはやったときに、ポリオ研究者にすごくお金がいっぱ い行って、そこからノーベル賞研究者がいっぱい出た。違う分野に行ってノーベル賞を取った ような人がいっぱい出るわけですから、是非、別にノーベル賞を取ることがどうかわかりませ んけれども、肝炎研究に重点的に今は取り組む、そこにお金を集中するということで研究者を 育てることが重要ではないかと思います。 ○林教授 ほかの先生方いかがですか。何か今後こういう対策をやればいいという。 ○岡上院長 私も大学を去年離れましたので、細かいことはわかりません。ただ、私ども、む しろ今の研修制度に大きな問題があって、なかなかリサーチマインドが育たない、そっちの方 が非常に問題ではないかと思うんです。  それと、やはり肝炎というのは、私自身は興味があって、非常に重要な分野だと思うんです けれども、今の若い人は、深みがあり過ぎて入っていきづらいというところがあって、その辺 を林先生とか脇田先生とか、基礎研究あるいは若手を指導している先生方が、魅力的な厚生労 働省のお金のサポートのもとにそういうプログラムを組めば、また新たにそういう方が増える のではないかと思っています。 ○金子教授 今日は厚生労働省の会なので、きっと国民の健康という意味では今日のお話にな るんでしょうが、実は、研究の話となりますと、今使っているインターフェロンも、いろいろ な抗ウイルス薬も外国が開発した。結局、日本人は一生懸命使って外国に富をもたらしている、 こういう構造になっているわけですね。  そういう観点からしますと、実は、人間の体もいっぱいありますけれども、すべてを日本人 が、脳の研究も、肺の研究もというのは難しいと思いますが、少なくとも肝臓は、日本人が古 くから得意としてきた領域で、なおかつ、肝臓ウイルス研究者が今少なくなってきたという議 論はありますが、それでも外国に比べれば大変な数の肝臓ウイルス研究者がいるわけです。そ ういう観点に立つと、恐らく、もしかするとB型肝炎もこれから日本で減っていくかもしれな い、C型肝炎も減っていくかもしれませんが、中国にはまだ1億人近いB型肝炎の患者もいる わけですし、C型肝炎の発症もいっぱいあるわけですし、肝臓研究はいっぱい進むわけなので、 日本は肝臓の研究者はまだいっぱいいいるし、国策として、研究費からつくった薬で外国から 金をもうけようぐらいのつもりに立って、わずかな研究費でなくて、もっと大きな視点の研究 費をどーんと肝臓研究に、全身にかけてくださいというのは無理だと思うんですが、肝臓研究 は、肝臓研究者が少なくなったと言いますけれども、実は非常にたくさんいますので、是非大 型のあれにして、国策としてやっていただきたいと思います。 ○林教授 どうぞ。 ○松浪政務官 先生方、本日は本当に突っ込んだ御議論をありがとうございました。私ども、 特に熊田先生は、我々、肝炎のプロジェクトチームでお世話になりまして、本当に肝炎に関す る年表が今でも頭の中に刻まれておるところでありますけれども、先ほどから議論いただいて いる中で、審査の件とか、また今後の、審査だけではなくて臨床の件についても、5カ年戦略 等で十分だとは我々全く思っておりませんが、今突っ込んでやっているところでございます。  先生、先ほどリサーチマインドの問題がございましたけれども、これも、今、総合医を育て るのであれば、我々、専門医というものも別のキャリアパスとしてしっかりと両方の柱でやれ るように今後変えていかなければいけないと思っているところであります。  今日は、特に肝炎について大変勉強させていただきましたけれども、先ほどからいろいろと 出ている、またいろいろあると思うんですが、その中でも優先順位をしっかりとつけて、特に 肝炎は、我々、先生にお教えいただいた言葉で「ポスト・ポリオ・シンドローム」と言われる ぐらい、日本の場合は高齢化しているところでありますから、これに対応できるようにしっか りと。最近、スーパー特区なんていうものも出ておりまして、今後、開発研究予算も随分と機 動的に使えるようにということで、今、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、内閣府の4省 で、これには会計法なども一気に改正して、皆さんにできるだけ使い勝手のいい形でというこ とで我々取り組んでいるところであります。今日は、随分一般の薬に対して、それからまた治 験に対して、それぞれ共通する問題があったと思うんですけれども、特に肝炎に特化した部分 では、優先順位をしっかりとつけていただく、それは我々しっかりとバックアップさせていた だきたいと思います。  予算については、本当に我々、国家戦略にするべきだということで、政治家も、一部の人間 は薬づけになって頑張っておられますので、またよろしくお願いいたします。 ○林教授 よろしくお願いします。  実は、今、金子先生の、減っていますけれども、日本は肝臓の研究者は多うございます。C 型肝炎ウイルスが見つかって10年間に、C型肝炎の論文が世界中で出ましたけれども、それの インパクトファクターというサイテーションを調べた成績が出ていますが、10年後のサイテー ションの研究者のトップ10人のうち3人は日本人です。そういう意味では、C型肝炎の研究と いうのは日本が世界に率先して進めてきたわけでありますので、今後、十分政府の補助が出れ ば、またそれが復活できるだろうと我々も思っておりますので、今後も加算も、対策を急ぎま すので、我々も急いでいろいろな対策を講じていきたいと思います。  それでは、時間も迫ってまいりましたので議論はここまでとさせていただきたいと思います。 それでは、本日いただきました御意見を参考に、事務局の方で肝炎研究7カ年戦略の案を作成 いただきまして次回に御提案いただきたいと思いますが、それでよろしゅうございますでしょ うか。  それでは、そのようにさせていただきたいと思います。  それでは、あと、事務局の方からよろしくお願いいたします。 ○岩田肝炎医療専門官 それでは、次回の日程の御案内をさせていただきます。  次回は、6月20日の金曜日、午前11時から13時の、お昼をまたぎますけれども、こちらの方 で予定させていただいております。場所の方はまた追ってお知らせさせていただこうと思って おります。 ○林教授 それでは、これで終わらせていただきます。  本日は、本当にお忙しいところ御参会いただきましてどうもありがとうございました。それ では、これで終わらせていただきます。 以上 (照会先) 厚生労働省健康局肝炎対策推進室 03−5253−1111