08/05/02 第3回ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会、第3回ナノマテリアルの安全対策に関する検討会 (第3回合同会合)議事録 第3回ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の 予防的対策に関する検討会、第3回ナノマテリアルの安全対策に関する検討 会(第3回合同会合) 議事録 日時 平成20年5月2日(金) 15:00〜 場所 中央合同庁舎第5号館18階    専用第22会議室     ○化学物質対策課企画官   定刻になりましたので、ただいまから「第3回ヒトに対する有害性が明ら かでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」及び 「第3回ナノマテリアルの安全対策に関する検討会」の合同会合を開催いた します。本日の検討会は公開で行いたいと考えておりますので、よろしくお 願いいたします。  また、本日の議題に関係する専門家といたしまして、国立医薬品食品衛生 研究所の広瀬様、名古屋市立大学大学院医学研究科の津田様にご出席いただ いております。  まず、配付資料の確認をさせていただきます。いちばん上にあります座席 表ですが、席の配置の関係から90度ずれておりますので、お含みおきいただ きたいと思います。  次に資料のほうにまいりまして、議事次第がまずあります。配付資料が資 料1から資料4まで、参考資料が1から4まであります。資料1が「ナノマ テリアルのヒト健康影響の評価手法の開発のための有害性評価および体内動 態評価に関する基盤研究」。資料の2が「ナノ粒子の発がん性評価の現状」。 資料3が「NEDOプロジェクト『ナノ粒子特性評価手法の研究開発』の概容 紹介」。資料4が「ナノマテリアルの健康影響に関する文献調査について」で す。  参考資料のほうにまいりまして、参考資料の1が「第2回合同会合の概要」。 参考資料2が「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者 ばく露の予防的対策に関する検討会開催要綱」。参考資料の3が「ナノマテリ アルの安全対策に関する検討会開催要綱。参考資料4が「合同会合委員名簿」 です。参考資料の3と4ですが、板倉先生の所属が「国民生活センター総務 企画部調査役」となっておりますが、「消費生活アナリスト」と変更になって おりまして、訂正していただきたいと思います。資料の説明は以上です。  なお、本会合の開催案内にも記載させていただいているとおり、会議中に 写真撮影、ビデオ撮影及び録音することは禁止させていただいておりますの で、ご協力のほどよろしくお願いいたします。では以降の議事の進行につき ましては、座長にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。 ○福島座長  それではこれから私が進行を務めさせていただきます。まず初めに議題(1) の「ナノマテリアルの健康影響について」、審議していただきます。事務局か ら説明をお願いします。 ○医薬食品局  この議題におきましては、3名の方から順番にナノマテリアルの健康影響 に関する研究について、プレゼンテーションを行っていただきたいと考えて おります。まず、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター総 合評価室室長の広瀬様。次に名古屋市立大学大学院医学研究科教授の津田様。 産業技術総合研究所の本検討会の委員の蒲生委員の順に研究内容を紹介して いただきたいと思います。なお、広瀬室長と津田教授は厚生労働科学研究費 補助金化学物質リスク研究事業において採択された、研究課題の主任研究者 でいらっしゃいます。  皆様に発表をいただく前に、昨年度厚生労働省が実施した事業の一環とし まして、ナノマテリアルの健康影響に関する文献調査を行っておりますので、 その結果を参考として紹介させていただきたいと思います。  資料4をご覧ください。こちらが「ナノマテリアルの健康影響に関する文 献調査について」の資料です。この調査結果は、平成19年度厚生労働省「ナ ノマテリアル安全対策調査業務」といたしまして、東レリサーチセンターが 行った調査結果より作成した資料です。  文献調査の方法ですが、文献はそこに示している4つの商用データを用い て検索を行っております。検索をした範囲、時期ですが、他省庁などで実施 をしている文献レビューとの重複を少なくすることも考えて、2004年1月〜 2007年11月までの間の文献を調査しております。  検索の方法ですが、2、3、4頁の表1に示しておりますキーワード概念に 相当する、各データベースの辞書に登録されているキーワードを用いて検索 を行っております。表1の1〜18からなる固まりを仮にL1といたしまして、 19〜44のものをL2、45〜70のものをL3と分けて構成をしております。L1 はナノマテリアル関係のキーワード、L2は毒性という健康影響という観点か らのキーワード、この最後の45番以降のものがいわゆるADME、即ち吸収、 分布、代謝、排泄に関係するようなキーワードとなっておりまして、L1かつ L2という検索、あるいはL1かつL3という検索方法で文献調査をいたしま した。  その後、検索した文献の中から単なるレビューであるとか、会議録、討論 の結果、ドラッグデリバリーシステムなどの医薬品の開発、大気汚染物質に 関する文献、ミジンコや魚類など生態影響試験に関するものなどを除去して、 できるだけこの健康影響とナノマテリアルの健康影響に関する元文献に絞り 込むことをいたしました。その結果検索された103件の文献について、概要 一覧を作成していただいております。5頁に検索された文献の書誌事項一覧 が記載されております。この文献のナンバーは3番目の文献概要に記載され ている文献ナンバーとリンクをしております。  次に16頁から文献の概要を示しております。まとめ方といたしましては、 ナノマテリアルごとに分けております。例えばいちばん最初17頁ではカーボ ンブラック・カーボンファイバーといった関係の論文をまとめておりまして、 その次にフラーレンでまとめさせていただいている状況です。項目立てとい たしましては、試験物質、試料の詳細、試料調製方法、ばく露前における試 料の観察方法、in vitroなのかin vivoなのか。in vivoについては投与経路に ついて分かりやすくまとめております。その後に実験方法、結果と並んでお りまして、選ばれた文献の結果の中でADMEに関係するような記載があった 場合には、抜き出すという形で取りまとめております。  こちらは、本日ひとつひとつ議論するということで配付しているというよ りは、このサマリー等参考にしていただきながら、必要な場合には元文献を 見ていただくという形になろうかと思いますので、適宜参考にしていただけ ればと考えております。以上でございます。 ○福島座長  はい、ありがとうございました。文献調査をまとめたものを冊子として作 っていただきました。それをさらにサマリーとして書いてあります。これに ついて何かご質問ございますか。これは皆様方のいろいろな参考になると思 います。是非参考にしていただきたいと思います。よろしいでしょうか。当 然のことながら、有害事象の検証としてさっと見ていただきましてもin vitro のデータに比べるとin vivoのデータは少ない。特にADMEになると、もう ほとんどないという現在の状況だということです。よろしいでしょうか。  今日は有害事象のことで3人の先生方に発表をしていただきます。お一人 方約15分発表をしていただいて、そのあと10分から15分ぐらいディスカ ッション、合計長くても30分という予定をしております。そのようなことで お願いしたいと思います。前回まではナノマテリアルとか、ナノマテリアル の開発状況その他、こんな言い方をしてはおかしいですけれども、基礎的な ことについてこの検討会で討議してもらいました。今回はそれをベースにし て有害事象、いわゆるリスク評価にかかわるところを検討してもらいます。 それの初めとしまして、現在有害事象としてはどこまで分かっているのかに ついて、3人の先生の持っておられる資料等から発表してもらうことにして おります。  そういう意味からすると、このナノマテリアルの有害事象というのをいま までの一般の化学物質、物性いわゆるファイバー等そういうものと同じよう な考え方でいいのか、またもしそうでないとしたら、どこをきちんと押さえ てから有害事象について検証すべきか、そういうことを頭に入れながら、こ れから先生方の内容をお聞きし議論していきたいと思います。  もう1つはお願いですが、先ほど事務局の方からカメラなど撮影は禁止と ありましたけれども、私も年よりですので、くどいですからもう一度申し上 げますけれども、今日3人の先生方から発表される内容の中に、まだ論文に していないとかそういうものがおそらくあると思います。従いまして撮影は 絶対にしないでいただきたい。これはくれぐれもお願いしておきます。よろ しいでしょうか。最初に国立医薬品食品衛生研究所の広瀬先生にプレゼンテ ーションをお願いします。 ○広瀬参考人(国立医薬品食品衛生研究所)  ただいまご紹介にあずかりました国立医薬品食品衛生研究所総合評価研究 室の広瀬です。本日は最初に会の冒頭で説明がありましたように、厚生労働 科学研究費の補助金を受けまして、私が取りまとめを行っているナノマテリ アルの評価手法開発のための基礎的、あるいは体内動態のための基礎的な研 究というものの成果に関して、どういった経緯でこの研究を行ったかという 目的と、どういうことをやっているか、また、いくらかの結果についてお話 をさせていただきたいと思っております。  これはたぶん前回、前々回の検討会で出てきていると思いますが、我々が 対象としている物質はどんな物質か。私は物質の専門家ではないので、これ が必ずしも当たっているかどうかは分かりませんけれども、少なくとも3次 元のうち1つは100nm以下の粒子というものを、ナノ物質と捉えていると考 えております。そういった物質の、下の枠に書いてあるものは、こういった 方向へのアプリケーションがいま考えられていると聞いております。  そこで我々がその生体影響を考える上で、まず最初に考えることといたし ましては、100nm以下になると物質性が変わって新たな応用が期待されてい ると聞いておりますけれども、新たな物質性があるということは、すなわち 生体に入った場合には新たな物理反応を起こすということでもあります。そ うすると推量、推測的には新たな生物活性があるかも知れないといったこと で、リスクをほかに考えなければいけないと考えました。  ただ一方で、そういうナノ物質の測定は従来の方法ではなかなかできない。 そうすると、このあとで説明をいたしますけれども、定量的な評価をする上 においては、そういった定量法というものも同時にやっていかなければいけ ないこともあります。そういった二重の意味があることを理解してやらなけ ればいけない、そういう意味で新しいリスク評価法の確立が必要ではないか と思い、研究を始めていっております。  もう1つは、化学物質に限らないわけですけれども、いろいろな安全性の 管理は、現在多くの場合は化学物質の組成で規制されていると考えておりま す。そういった意味で、今回のナノマテリアルに関しては同じ組成でも新た な性質ができていることは、従来の化学物質の名前だけでの管理でいいのか ということも、1つとして考えられるのではないかと考えているところであ ります。  こういったナノマテリアルに関してはどういったことに注意をしなければ いけないかを説明をするために、従来の化学物質はどういったリスクアセス メントが行われているかについて、いくつかスライドを作りました。  化学物質はもう皆さんご存じかも知れませんけれども、有害性の確認。ど ういった影響がどういった用量で起きるか、それがどのくらいまでヒトに安 全か。一方で、ばく露評価でどのくらいばく露をしているか。この両方のデ ータを合わせて、実際にいまリスクがあるか、どこまでの基準値を作れば安 全なものとして使用することができるか、といったことをするのが大きな流 れになっております。  ただそういった有害性評価をすることにおきましては、実は先ほど福島座 長も言われましたけれども、多くは生体を用いたin vivoの試験、基本的には 疫学のヒトの試験もありますけれども、化学物質の多くの場合は直接ヒトに 投与する実験はできませんので、基本的には動物の試験を基本としたもので 評価を行っていくことになります。  資料の7ページ目に出ているように一般毒性の投与試験とか、発がん性試 験、生殖試験等々の試験で行います。ただ1つ遺伝毒性という試験評価では ありますけれども、これはある意味では実はスクリーニング試験の1つと位 置づけられると考えております。基本的にはエンドポイントとしては発がん 性ですけれども、それを効率よくメカニズムを追って簡単な細胞の系で評価 できるといった系として変異原性の、もちろん変異原性でも動物実験で使う 試験はあるのですが、この中の細胞系を使うような試験はそういった経緯で 出てきております。  今回の化学物質の評価、その延長上と考えるかは別といたしまして、ナノ マテリアルのそういった有害性の情報がない中でいきなり動物実験はという 考え方もあります。あるとは思いますけれども、やはり動物実験でどういっ た影響が出るかということを、あらかじめおさえた上でマーカーを見ておか ないと、何がマーカーになるかという問題があると思います。そういった意 味で動物実験ができないうちからもしマーカーを探すとすれば、この真ん中 にありますけれど、ADME情報とか物性情報をある程度参考にすれば、そう いったところで系を作れるかもしれないと考えているところであります。  そういったことを考えますと、まずいちばん最初に評価をする上で重要な のは、我々のほうではADME情報が重要ではないかと考えました。ADME 情報というのは吸収、分布、代謝、排泄、体内に入った物質が体内でどうい った移動をするか。どこで代謝されてどこに蓄積するかを、まずあらかじめ 押さえておく必要があるのではないかと。  我々が想定をしたナノマテリアルのばく露を資料の10ページ目では模式 図で示しております。よく影響で問題になるものは、ナノマテリアルは凝集 しやすくて、その凝集の中で、凝集すれば分子が大きくなりますので当然体 には吸収されないで局所的なところで炎症が起きるかも知れませんけれども、 そういったことを除けば、長期的にはこういったものがどうなるかがいちば ん重要ではないかと。  我々がいくつかのナノマテリアルでその生体の反応を見ている中では、生 体の成分タンパクとかそういったものに少しずつ溶けているような知見が得 られています。そうするとやはり、ローカルで吸収しないで溜まったもので も、少しずつ体の中で取り込まれていってどこかで吸収するのではないか。 そうするとこういった蓄積というものの影響を見ることが重要ではないかと。 そういった意味で次の観点としては、もしそういったADMEの研究でどこか で溜まったことがわかれば、それに対しての長期の実験というものをやって いくことも重要であると考えて、研究を行ってきています。  あと1つはこういった実験を行うときにやはりin vitroの実験に特になん ですけれども、培地とかそういった溶解・分散がナノマテリアルの場合は、 凝集しやすいという性質のために試験が難しい。凝集すると、細胞に与えて も分散しないので、何の影響も出ないというネガティブな結果を出す可能性 があります。それではよくないだろうと。長期的な影響を考慮すると、体内 に分散した状態でどういったことが起きるかをスクリーニング系として考え るとすれば、現実的に近い状態で分散したin vitroの系の開発というものが 必要であると。資料の11ページ目の下にも書いてありますけれど、ある程度 蓄積する可能性があるとすれば、それはin vivoの慢性試験が必要であるとい ったことで考えております。  そういう意味でもばく露というのが実はナノの場合は特殊ですので、ばく 露量と影響量との比較でリスク評価を行わなければ、いろいろ知見が溜まっ たら、資料の15ページ目に記載されているようなことをしなければいけない、 といったこともあります。測定法も難しいということもありましたけれども、 やはりばく露評価でもどういった濃度でばく露をしているかどうかというこ とが、経口ばく露と吸入ばく露でいわゆる影響が違うといったことが、後々 のリスク評価では重要なポイントになると考えます。この件に関しましては まだこの研究班では扱っていないので、将来的な問題と考えております。  少し前置きが長くなりましたけれども、こういった観点から我々の研究班 は実は4つの大きな柱を立てて研究を行ってきています。まずADMEの必要 性はあるのですが、実際に生体内でのナノマテリアルを測定しないと、どの くらい吸収しているか、どこに蓄積する可能生があるかを調べられないので、 そういった測定法をまず開発する。2番目は先ほど言いましたようにin vitro で上手く分散する方法を中心に研究をする。3番目はナノマテリアルでもっ とも懸念が高いと思われている吸入経路の研究法です。凝集しやすいという 性質から、肺の奥まで入るかどぅかということもありますけれども、実際に その健康影響を評価する上では、ばく露実験をできるシステムを作っていか なくてはいけないだろうとのことで、そういった研究。4番目はin vivoで何 が起きるか。特に最初に考えておかなくてはならないのは、低用量の慢性ば く露でどういったことが起きるかということだと思いますし、これはやはり 時間がかかるので、少し前倒しになりますけれども早くからやっておいたほ うがいいだろうと考えて研究を始めました。  ただ、どういった物質を使うかはやはり難しいところです。当研究班は厚 生労働科学研究費補助金化学物質リスク研究事業で行っているわけですけれ ども、本検討会の事務局である厚生労働省化学物質安全対策室で主に所管し ているのは化審法で、その中では化学物質の高生産量の物質の点検も行って おります。そういった観点もありまして、なるべく生産量が多いナノマテリ アルから順番にやって行こうと考えました。そういった意味でその時点でそ んなに深く調査を行ったわけではありませんけれども、酸化チタン、フラー レン、多層ナノチューブが比較的大量に作られているだろうということを考 慮しまして、こういった物質を中心に研究をスタートさせました。  資料の17ページ目は、もう少し細かいレベルで実際にどういったことをや っているかを説明したものです。ばく露方法については、酸化チタンとかマ ルチウォールの電顕での分析法、リポソームによるC60、フラーレンの経口 投与による吸収実験を(1)のプロジェクトでやっています。(2)のプロジェクト は、こういった研究をする初期の段階において、神経系の影響とか、変異原 性の影響が懸念されておりましたので、その辺の細胞系の影響からまず始め た研究を行ってきています。  (3)としては、まだ分散方法がなかなか分からない手探りの状況で2、3年前 から始めているわけですけれども、そういった分散しにくい、特にあとで申 し上げますけれども、その形状がアスベストに似ていると言われているマル チウォールのカーボンナノチューブについてまず分散方法の検討、それの実 験法の初期的な開発実験を始めました。(4)としては、慢性的な影響として最 後にお話をしますけれども、ヘテロのP53のノックアウトマウスを用いた腹 腔内投与試験というものを1つ行っています。それ以外にもこのあと共同研 究をしております津田先生のほうからお話があると思いますけれども、そう いった発がん影響の実験というものを行ってきております。  細かい話をたくさんしても、込み入った話になりますので、簡単にやって いる内容をお話しします。フラーレンについては分散剤としていろいろ検討 をしたのですが、実際にはリボソーム系を用いるとマクロファージは取り込 められやすくて、そういった用いた経路を作っていくのではないかと検討を しています。  酸化チタンについては、その使用形体等を考慮して皮膚での吸収があるか どうか。まずはin vitroでの研究というものを、最初に3次元培養ヒト皮膚 モデルでの検討というものを行ってみました。これは立体的に細胞を組み上 げたところで、上に物質を乗せてその浸透を見るといった系です。酸化チタ ンについては、いくつかの細胞毒性の研究をしまして、この中からは大きな 酸化チタンよりも小さなほうが、細胞毒性といったエンドポイントだけから 見ると、少し感受性が高いといった結果が出てきております。これはこのあ との津田先生の研究グループのほうで説明をされますけれども、酸化チタン 等を気管内に投与した発がんプロモーション研究をやっております。  もう1つは分析法といたしまして、マルチウォールのナノチューブがアス ベストに近いと言われていましたけれど、実際どのくらいに近いのかを確認 する必要があるということで、我々がやったサンプルについてちょっと解析 をしてみる。そうすると径の太さは10nm前後で長さとしては1〜10数μm までということが分かっています。  吸入実験についても、最初はそのまま固体として発生をさせていたのです が、凝集して反応の濃度がなかなか一定にならないので、現在はミストとし て溶媒で分散してそのあと熱を掛けて溶媒を飛ばしてばく露するという系を 検討しております。  17年度には小さな研究班から始めまして、18年度からは本格的に始めたわ けですけれども、やはりかなり多方面にわたって研究をしておりますので、 なかなか1つの研究班で行うのは大変だとのことで、いろいろな研究者の 方々と協力関係をつくりまして、19年度からは皮膚を中心とした研究班とい うもの、あるいは今年度からは吸入ばく露を中心とした研究班というものと 相互に連絡を取りながら、これからは進めて行こうと。こういった研究の分 担を行いながらやっていこうと今は考えているところです。  こちらの皮膚の研究班のほうはすでに1年スタートをしているわけですけ れども、こちらのほうは先ほどの想定されるばく露経路と同じですけれども、 やはり皮膚から入ったものがこちらの場合はリンパ球等にのって、右側に示 しますけれども、そういった免疫系への影響があるかも知れないということ を基本的なターゲットの1つとしています。  もう1つは吸収するかどうかで、先ほどはin vitroの系がありましたけれ ども、やはり本格的な皮膚の研究をするためには、動物への吸収実験という ものをやらなければいけないことを考えまして、ラットの4週間の反復投与 試験、経皮反復投与試験を行いまして現在はその蓄積性を解析している途中 です。まだ確定した結果はいまのところ実は出ていませんけれども、これを いま解析中です。もう1つは、こういったものが免疫系に与える影響、局所 のリンパ節にもし吸収されれば取り込まれることも想定されますので、そこ での免疫反応を見る研究を行っています。  最後になりますけれども、ナノマテリアルの中でも実は先ほどから言いま したけれども、マルチウォールナノチューブというものの中にアスベストと 似ている形状がある。これが古くから懸念はされてきたわけですけれども、 その懸念が本当にそうかどうかという検証をやっていこうということで研究 を始めました。あとで理由は説明をしますけれども、P53のノックアウトマ ウスを使いまして、投与量は実はかなり多いのですけれども3mgを1匹当り に投与して研究をスタートさせました。  この研究をなぜしたかということについては、腹腔内膜に対してアスベス トが発がんのポテンシャルがある、しかもそれが長さとか体内残溜性に依存 するということが知られています。実は胸膜に対しても、前に説明した直接 投与実験でも再現できること。それもそういった長さとか直径が大きな寄与 を示していることが従来から知られています。資料28ページ目の右側の図は よく知られている図ですけれども、だいたい径が200nm、つまりサブミクロ ンから数百μmの径で、長さが10μm以上ぐらいのもので、その発がんの感 受性、発がん活性が高いことが知られております。この感受性そのものは胸 膜に直接投与した実験で得られたもので、必ずしも吸入実験で得られた結果 ではありませんけれども。  同じような結果が腹膜でも得られることが知られています。それはなぜか というと、資料の29ページ目の左側が解剖の模式図ですけれども、肺胞の表 面とか肺の内側、肺の表面、横隔膜の表面とか、この下に臓器は書いてあり ませんけれども、肝臓とか腸の表面には1層の薄い、発生学的には中皮由来 の細胞が1枚のシート状でずっと覆っているわけです。これを中皮といいま して、実はこの1枚の薄い中皮由来の細胞というものが、アスベストで起き る特異的な中皮腫を起こす細胞の元なわけです。  資料29ページ目の右側の図は、これはまだ仮説ではありますけれども、肺 胞に入ったアスベストが何十年という時間を通しておそらく中皮側に出てい って、そこで反応が起きて中皮腫が起きる。肺がんが起きるメカニズムとは また別のメカニズムで、おそらく中皮腫が起きると考えられておりますけれ ども、そういったことを直接中皮と反応させるという意味で、腹腔内に投与 すると、こういった系を再現できることが昔から知られているわけです。  もちろんこの結果が本当に吸入ばく露の結果を反映しているかどうかは、 実は学会の中でも意見が別れているのですけれども、資料の30ページ目は 2005年12月に行われた、アスベストの代替物のメカニズムを考えるワーク ショップでのサマリーレポートになります。その中でも疫学データが重要に なりますけれども、実験データとして実はラットよりヒトのほうが肺がんの 感受性が高い。つまりヒトよりも感受性がラットのほうが低いこともありま すが、それでも腹腔内試験は感受性が高い系であることは、出席者の統一の 認識として示されております。こういった経緯の中で我々は実験を行ってき ています。  ただ一番下にも示してありますけれども、この生体内への残留性、残留性 はその形と大きさで決まると考えられておりますけれども、そういったもの と、発がん性の強さの相関性は実はガラス繊維でしか確認されていないので、 これ以外の繊維についてはまだ証明されているわけではない。形と大きさだ けではなく粒子繊維の化学組成にも依存しますけれども、ナノチューブがも し同じ大きさであればどういったことが起きるかは、もっと調べなければい けない問題として認識されていると考えております。  実際に先ほど示しましたけれども、我々が入手して使ってみたそのナノチ ューブの大きさというのは、先ほどの胸腔内での発がんポテンシャルではど のくらいの位置に示されているかというのを、これは簡単に模式図に示して おりますけれども、いくらかの部分はおおよそその懸念されている大きさに オーバーラップをしていると考えられます。  もう1つはP53のノックアウトマウスを使ったわけですけれども、右側に なぜ使ったかという元の文献のデータがあります。資料31ページ目の右側の 図は、アスベストを投与して中皮腫が何週目で起きるかを示した図です。右 側が通常マウスですと60週以上、1年間以上たたないと腹腔に投与しても発 生しないわけですけれども、P53のヘテロのマウスを使うとそれが30週すぎ たところで検出できる。この結果から1年、2年かかる実験を半年で見るこ とができるのではないかと考えて、この系を作りました。  その系で実際半年ぐらいやった結果が資料の32ページ目です。この結果は 2月に論文を発表させていただきましたけれども、そのとき、アスベストと 同様の病理組織像、あるいは解剖学的にも同様の所見を得ることができたと 発表しました。これは我々の論文発表のときと同じ時期に東京都のほうでも、 厚労省内への要望を行うという主旨の下に、東京都で行ってきた実験結果を 発表されました。そこでのデータは実はP53のマウスではなく通常のラット で、体重1kg当り1mg投与して1年間観察していると中皮腫の形成を確認 することができたといった結果を示しています。  ただ腹腔にできたからそのまま中皮腫ができるかどうかということは、も う1つ別のことを考えなければいけません。資料の34ページ目はIARCの MonographV.81から少し抜き出してきました表ですけれども、アスベストの 代替繊維というものが国際がん研究機関のほうでグループ分けされているわ けです。Group1というのは発がん性あり。2Bでは可能性あり、3は特定で きないと分類されています。その中で1番上と2番目はアスベストですけれ ども、2、3、4番目につきましては少し懸念がある。その下は一応Group3 と分類をされています。  ここにあるいちばん下の物質を除きまして腹腔投与では中皮腫を発生させ ることは知られているわけですけれども、吸入試験ではいくつか、特に下の 物質は発がん性を確認できておりません。その違いといいますのは、先ほど も言いましたけれども、肺での残存期間がどのくらいあるかに対してよく相 関していることが知られています。左側にいくつかの指標が示してあります が、20μm以上の長さの繊維が肺にどのくらいの期間残存しているかについ て、肺からの排出半減期を示しています。アスベストはすごく長くて1000 日から、400日以上の半減期を示すわけですけれども、その他発がん性を示 さない物質は数十日で肺から出ていってしまう。  こういった体内での残存期間がかなり重要なファクターだということが分 かっています。そういった意味でこれは繊維粒子の肺への影響研究の権威で ありますKen Donaldson博士が提唱しているパラダイムですけれども、急性 においては表面活性とか大きさとかコンポジション、つまり化学組成がその 有害性事象のポテンシャルに影響をしているだろう。ただ慢性的については、 これにプラスbiopersistency(生体内残存性)というものが重要な因子であ ると考えております。  今回の我々の結果は、基本的には炭素を主成分とする繊維についても、こ れまでの繊維粒子で得られた発がん性を考慮しなければいけないことを示し ています。我々の実験は高用量だったので、現在は1000分の1から10分の 1の用量実験を追加実験で行っております。もう1つはこれらの結果は2年 間あるいは半年の間に検出できた結果ですけれども、基本的にはヒトにどの くらい残存するかが重要なわけです。つまり長期間の生体内運命の研究が必 要であろうと。  もう1つ、今回は少ししかお話をしておりませんけれども、実際に投与し た病理像を見ますと、少し分かりにくいかも知れませんけれども、この白く 抜けているところは実はフラーレンなりの粒子が残っていたところです。右 側の図ですが、それがスライド標本を作る過程で溶けて白く抜けることにな るわけですけれども、一部細胞側のほうに少し茶色で残っている。要するに 大きな固まりで組織の中に入っていますけれども、その端のほうから少しず つ浸食して細胞が食べている。その結果として、マクロファージであると思 われる細胞が肝臓の中のほうにももっていって再分布することになることを 示しています。こういったこともナノマテリアルの場合は繊維の影響とは別 に考慮しなければいけないと今は考えております。  少し長くなりましたけれども、こういったことを行って、今後はまた長期 の影響、あるいは吸入の影響を中心に展開していくと考えております。以上 です。ありがとうございました。 ○福島座長  はい、ありがとうございました。少し時間が押しておりますが、5分ぐら い質問をお受けしたいと思います。  広瀬先生、私から最初に中皮腫の実験についてお聞きします。腹腔中に入 れたということですが、先生は、最初のほうでキャラクタリゼーションの問 題を言われていましたが、その溶液のキャラクタリゼーションというのは、 どの程度までやって実験に入られたのか。特に分散状態ですが。 ○広瀬参考人  正直言いまして、研究初期に実験を開始したので、完全な分散というとこ ろまではできておりません。ただ、部分的にはこのような、それでも端が分 散しておりますので、そういったところと、あとはお見せしましたが、体内 で部分的に少しずつ細胞が侵食して分散しているということはあります。た だ、実験開始当時にできる範囲で分散を行いました。 ○福島座長  もう一点ですが、先生、「我々が行ったのは高用量であるが」と言われまし たが、一般にトキシコロジストはそうだと思うのですが実験的には、高用量 の実験を行い、その高用量のデータを低用量のほうに外挿するのが一般的な のです。そういう面で、別に「高用量の実験ですが」というような、むしろ へりくだる必要はないのではないかと思います。もう一点お聞きしたいのは、 先生のほうはたしか3mgですね。スライドを見ましたら、都衛研のほうは1 mgですね。 ○広瀬参考人  都衛研のデータは、1mg/kgですが、しかもラットですので体重当たりに比 較すると、我々の100分の1ぐらいの量に、体重当たりにするとなります。 ただ、最初に高用量で影響が出るか出ないかということをやった理由は、自 分たちにとっては最初の実験であったことによるものです。もちろん高いと 言っている用量でも、それまでに行われたアスベストとかの実験の繊維数の いちばん上限を使っています。ただ、何回も実験をできませんので、とりあ えずそこからスタートしました。しかし、結果を確認したあとですぐに、用 量の低いところの実験を始めました。 ○福島座長  はい、ありがとうございました。 ○庄野委員  いま広瀬先生からプレゼンテーションがありましたように、我々も、この ナノ全般の毒性プロファイルを把握するうえで、ADMEは非常に重要な要素 であると考えます。特にADMEの場合でもDermal(経皮ルート)などは特 に重要で、いろいろな意味でナノマテリアルのADMEに関する知見集約にご 努力をいただきたいと思っています。  私は、今日伺っていてちょっと気になりましたのは、先ほどの東京都でや られた試験ですが、これは投与方法が陰嚢腔でやられていると思いますが、 このアッセー系はノックアウトのマウスではないラットの試験系ですね。こ れは、ある意味では、オーソライズされた試験系として考えてよろしいので しょうか。これを見ていますと、かなりラットとマウスの差が実はあるので はないかなという気がしないでもないデータなのですが。その辺、お考えが 何かありましたら教えていただければと思います。 ○広瀬参考人  確かにおっしゃったように、陰嚢腔に投与するのは一般的な方法ではない と思います。ただ、中皮としては陰嚢腔まで全部つながっていますので、同 じ所と言えます。この系を行った理由は、使ったラットの系がやはり感受性 が高いし、投与しない状態でもある程度出るような系統を選んではいます。 この実験系では、陰嚢腔に投与したのですが、結果的にはそれは結局、身体 の中で広がってしまって、一部胸腔まで達していることが示されています。 ○庄野委員  ということは、結局、気中へ入ったことをある程度シュミレーションでき るような試験系統と考えられるのでしょうか。 ○広瀬参考人  それは肺胞から中皮腫まで壁があるので、そこはこの系では出ません。あ くまで中皮に到達したとしたら。 ○庄野委員  という仮定がそこに入るのですか。 ○広瀬参考人  もちろんです。だから、次にやらなければならないのは残留性と、中皮ま でいくかどうかの可能性を検証する必要があると考えます。 ○福島座長  庄野先生、私の全くの想像ですが、ラットの陰嚢腔と、腹腔はつながって いますね。ラットに中皮腫、特にフィッシャー系は自然発生でよくできるの です。そのできる部位が陰嚢。ですから、おそらく、その自然発生を狙って やられたのではないかと、発生しやすい標的性を考えてやられたのではない かなと、私の想像ですが。 ○庄野委員  やはり、それは検出することを念頭に置かれたアプローチですか。 ○福島座長  そうだと思いますね。 ○庄野委員  そうですね。 ○福島座長  有害性をあくまで見ようということだと思います。 ○庄野委員  ただ、ヒトへのその外挿という観点から考えていった場合に、また別の議 論があると思います。 ○塩原委員  私は杏林大学の皮膚科の塩原と申します。経皮吸収のことでちょっとお伺 いしたいのです。皮膚に投与した場合、「リンパ球に乗って」と先ほど先生は おっしゃいましたが、リンパ球にはそういう機能はないと思いますが。 ○広瀬参考人  まだ、それは確認しておりません。想定です。皮膚ではないですが。 ○塩原委員  どうしてそう想定されるのでしょうか。 ○菅野委員  一緒にやっている菅野と申します。ある大きさより小さくなると、ランゲ ルハンス細胞が抗原として認識して取り込み、所属リンパ節までもっていく 可能性があるのではないかということを考えています。 ○塩原委員  表皮にあるランゲルハンス細胞が抗原を捕捉してリンパ節に運ぶというこ とですね。 ○菅野委員  皮膚のランゲルハンスです。 ○塩原委員  どういうふうに皮膚に塗られているのでしょうか。どういう性状のものを、 単回投与しているのか、それとも繰り返し投与しているのか、お聞きしたい のですが。 ○菅野委員  おそらく津田先生から詳しいお話があると思いますが、化粧品に使われる 普通の油性の溶媒に溶いて塗付すると。 ○塩原委員  どの部位に塗布されているのでしょうか。 ○菅野委員  動物の場合ですと、自分でなめたりするのをコントロールするので、おそ らく毛を刈って、背中のどこかいちばん手足の届かない所とか、それは実験 的に工夫する場面だと思います。 ○高田委員  貴重なご発表ありがとうございました。1つお伺いしたいのです。今回の 腹腔内投与の系ですが、ディスカッションを聞いていますと、凝集している 形状のファイバー数で見ていますけれども、今後議論していくときに、凝集 体のほうがいけないのか、それともナノ粒子の方なのかというところは、や はり最後議論になると思うのですが、その点は、先生は現時点でどのように お考えなのでしょうか。 ○広瀬参考人  それは、用量を低くして分散した状態で再現の実験を行っています。それ は腹腔の実験だけでは済まない問題なので、吸入の実験も分散した形で投与 するといったことも考えています。 ○菅野委員  凝集というのには2種類あるようでして、光学顕微鏡で見て、大きな糸く ずの玉のものは、うまく分散するとどんどんほつれていくのです。我々がや ったような大量投与をしますと、大きな糸玉はそのまま繊維性の肉芽組織内 に被包化されるので、細かい単体の繊維として、中皮腫の発がんの方にあま りかかわってない可能性があります。投与した懸濁液の中には、ほぼばらば らになった繊維が多数浮遊しておりますので、そちらがメインで発癌に働い ただろうと想定されます。  もう1つは、一度かなり小さくしたのが水溶液中で10μm程度の大きさに 棒状に再度集まるという現象もどうもあるらしいのです。小さいものが寄り 集まって顕微鏡で見える大きさまで成長してくる過程と、高濃度のものを攪 拌して分散しようとしたときに、毛玉のようになったのが生体内でそのまま 沈んでしまう場合と、その様なものの表面からほつれる場合と、最初から分 散しているものと3通りのものがどうも起こっているようなのです。そこは、 低濃度にしていくと、分散したものが増えるということで、いま追試してい ます。 ○福島座長  まだまだあると思いますが、時間が押していますので、この広瀬先生の報 告については終わりたいと思います。どうもありがとうございました。  次に、名古屋市立大学大学院医学研究科の津田先生に発表をお願いします。 ○津田参考人(名古市立大学大学院医学研究科)  私は、いま広瀬先生からプロジェクトについてご紹介いただきましたが、 当初スタートしたときは広瀬班の班員として気管内注入試験を実施し、2年 目からは皮膚に対する影響の研究における主任研究者として、始めてちょう ど1年経ったところです。まだすべてのデータが出揃っているわけではあり ませんし、進行中の研究です。したがって、皆さんにお配りのした中にはな いスライドも出てくることをご容赦願います。  毒性学教室としては医学部で初めてです。ナノ粒子は以前よりちょっと気 になっており、異物発がんという立場からお話をします。  一般的に化学物質の生活環境における安全三原則についてご紹介し、それ から考えてナノ粒子がどういう条件になるか、実際の実験結果、今後につい てどう考え、メカニズムをどうするかについて簡単にご説明いたします。  まず、化学物質の管理はリスクアセスメント、毒性学のサイエンスとして 我々のやるべきことです。リスクマネジメントは行政です。リスクコミュニ ケーションは、アカデミックと行政との両方がきちんとした科学的な情報の やり取りをして消費者、国民にそれを正しく知らせる。この3つがバランス よく行われて初めてうまくいくというふうに考えております。  ナノ粒子の発がん性のデータを論文から探すと、先ほど福島座長が日本で はデータが少ないということを紹介されましたが、この青いのはR&Dでヨ ーロッパ、日本、アメリカ、北アメリカですが、で日、米、欧がそれぞれ大 体数千億円から1兆円ぐらいの金が毎年使われているという統計があります。 それに対して、この円がそのまま当てはまりませんが、アメリカ、EU等では 1割程度が安全性試験、あるいは多くのin vivo試験、動物における先ほど見 たADMEなどに使われているということです。残念ながら、日本では見たと おりまだ小さくて、特に発がん性試験は日本の場合はまだインビジブルな状 態です。お金に換算してそのぐらい少ない。ある意味では、開発は非常に進 んでおりますが、安全性についてはまだまだとてもビハインドのところがあ るということです。  実際には、長期発がん試験を、PubMedデータより掲載で探してみました。 そうしますと、ここに書いてあるように、二酸化チタニウムについては4つ ほど、2年物のきちんとしたデータがあります。CNTに関して1というのは、 実は、国立医薬品食品衛生試験所からの論文です。最近刊行されましたので 慌てて1ということに入れました。フラーレンについては、あまり長い試験 はない。カーボンブラックについてはよく知られておりまして、それらより 多くあります。しかし、合計して10ぐらいしかないというのが現状です。  それで、IARC、先ほど広瀬先生が紹介されましたが、国際がん研究機構と いう、WHOの研究機関がリヨンにあります。そこでオレンジブックと称す るモノグラフでありまして、いろいろな発がん物質、例えばいちばん右にあ るのがシリカ、コールダスト、パラアラミド・ファイバースという異物です が、発がんについて評価をしています。  実は、2年前になりますが、モノグラフの、今年中には出ると思いますが、 Volume93におけるカーボンブラック、チタニウム、タルクについての発が ん性の評価会議がありまして、出席しました。集めた論文から10日かかって 評価していくわけですが、ナノも含まれていますが、カーボンブラック、二 酸化チタニウム、タルクの3つの物質について病理部門を受け持ってレポー トを書きました。そのレポートはそれぐらいの厚さになります。それと比較 すると、ナノ物質のデータはわずかです。いかに少ないかということです。 総合管理三原則といいますと、まだ色が薄い。即ちデータが少ないというこ とです。  それから、現在研究費をいただいて実施している仕事について報告をまと めさせていただきます。まずは、二酸化チタニウムですが、皮膚と肺で試験 をしておりますが、皮膚発がんについてお話します。使ったのはルチル型の 非コーティング、径が20nmです。それをPentalanというオイルで分散さ せてラットの背中に塗ったわけです。期間を短くするために発がん物質をあ らかじめ皮膚に塗っておきまして、その後、発がんをプロモーションするか ということを見ました。弱いポテンシャルの発がん物質をスクリーニングす るには非常にいい方法で、すでに化学発がんでは一般によく知られているこ とです。  方法でHras128という、ヒトがん遺伝子を入れた皮膚発がんが少し亢進し たラットで、発がん性をプロモートした可能性があると考えておりまして、 現在、再現実険を同じ方法でやっています。  もう1つは肺のほうですが、肺を標的とした発がん物質をラットに投与し ました。同じHras遺伝子が入った雌のラットを使いました。 肺内ではAggregatesをつくり、肺胞内のマクロファージにきれいに取り込ま れています。お掃除された状態です。実際にそれは何をしているかというメ カニズムを見る必要があるので、解析中です。  臓器分布ですが、これは国立衛研の徳永先生のグループに測っていただき ました。肺ですから当然ありますが、意外に脳にも見つかる。リンパ節、乳 腺、肝臓等に見えるようになります。個体差があるので有意差は出にくいの ですが、肺以外でも少し高いという印象があります。  IARCの分類ではカーボンブラック、二酸化チタニウムは、ナノ物質も含 めてGroup2Bという評価です。私が申し上げたいのは、ナノでやらないとわ からないといういろいろな意見があります。私自身としてはありすがたでま ずやって、ハザードを見つけるということです。これはナノよりも大きい粒 子のカーボンブラック、チタニウムを見ていただければ、すでに2年間の吸 入試験でラットの雌に肺腫瘍をつくっているがん原物質です。すなわち、ナ ノであってもナノでなくても結果は一緒なのです。  もう1つ、なぜこういう異物発がんが大事かということを述べます。WHO の国際がん研究機構がすでに1973年、1977年、1987年にアスベストについ てがん原物質であるということを出しているのです。3回出しているのです。 そして、1973年、1977年、1987年に、ヒトに対する発がん物質でいちばん 低い、いわゆる安全量は見つけられないということまで言っております。た だし、Group1には喫煙とかアルコール摂取がありますので、何ともないとい うことが現れるかもしれませんが、喫煙やアルコールは自分で好きに取るも のであるが、アスベストを好きに取る人はいないので、ここが違うわけです。 これで見ると確実にリスク評価はあったということです。  それで、私、観察者の立場から言うと、クロシドライトというのはいちば ん強力な発がん物質ですが、鉄の含量が多いということがよく知られており ます。それを顧みると、多層ナノチューブは鉄が3,000ppmぐらい入ってい る。今、それを飛ばすようにいろいろ技術を凝らしていますが、完全に無に することは難しいということです。この結晶を作るときはどうしても金属が 要る。  それで見ると、向こう側がアスベストで、こちら側がCNTですが、あまり 変わらない。Ken Donaldsonという、先ほど紹介されましたイギリスの学者 ですが、その人の図を借りました。要するにCNTには発がん性がある可能性 を示してきているわけです。  ということで、まとめますと、普通のいろいろな市場に入るときはまずリ スク評価をして、その後でリスク伝達、リスク管理ということが行われるの が普通ですが、ナノについてはこれらが同時進行の状態です。というのは、 開発競争が激しいためにこういうことが起こっているわけですが、リスク評 価はまだ追い付いていない。当然、社会受容も同時にいろいろなプログラム が動いていますが、実際にリスク評価に使うデータはあまり多くないという のが現状です。したがって、リスク管理はその後追いになっている。仕方が ないから、既存のいろいろな管理法令で今のところ縛りをかけていくという ことになっているのではないかと考えております。  研究をまとめますと、カーボンブラックはナノ粒子でも雌ラットに明らか に発がん性があるということで、Group2Bです。生体内では、やるときにい ろいろな形がありますが、人が吸うときに本当にナノであるかどうかという 確証はないわけでして、同じようなことで、ありすがたとしてやっていけば ハザード評価できる。沈着すれば、マクロファージを介する異物反応が必ず 起こる。ROS産生や鉄が入っていればFenton反応が起こって、DNAの障害 を起こすということになります。フラーレンについては、現在は非常に情報 が乏しいと考えています。以上をまとめると、動物実験をきちんと粛々と進 めていく必要があるというふうに考えております。  実は、これは、タバコですが、ここに何か関係あるのかと思われる方があ ると思いますが、タバコを吸うと、火が燃えるときにはナノ粒子がいっぱい 出るわけでして、発がん性ニトロサミンとナノ粒子を同時に吸って、先ほど 広瀬先生は人ではやることができないと言われましたが、自らお金を出して ボランティアとしてやっている方が世の中にたくさんいるということです。 どうもありがとうございました。 ○福島座長  時間が押しておりますので、質問を1、2お受けしたいと思います。 ○蒲生委員  発表ありがとうございました。確認というか、教えていただきたいところ があります。チタニアとカーボンブラックに関しては、そのサイズにかかわ らず発がん性の疑いが強いというようなことをおっしゃられたと思うのです が、この場合の「サイズにかかわらず」というのは、「もともとの粒子が大き くても小さくても」という意味でおっしゃられているのか、それとも、「小さ いものが分散していても凝集していても」という意味でおっしゃられている のでしょうか。  もう1つは、2Bとか2Aとか、そういう評価は、ある種、情報の確かさと いうような観点の評価であって、必ずしも発がん性の強さというものを表わ しているわけではないというふうに私は理解しているのですが、サイズにか かわりなくというご説明は、情報の確からしさとしては同じぐらいとしても、 強さとしてもほぼ同等というように理解されているのか、というあたりをお 願いしたいです。 ○津田参考人  IARCの評価ですね。リスク評価ではありませんので、発がん性有り無し ということです。それについて、それを受けて各国はリスク評価をする、あ るいは行政に持っていくということでありまして、要するに有りか無しかだ けです。強さについては言いません。ですから、アルコール・ドリンキング・ ハビットというのはGroup1です。アスベストも同じくGroup1ということ です。  それから、この評価の基になったカーボンブラックのナノの二酸化チタニ ウムはドイツの吸入センターのデータが基になっておりまして、一応、デー タではナノの状態で吸入しているという。ただ、肺の中に入ったら、あくま でもナノかどうかについてまでは分かっていません。吸う空気の中にナノの 状態であるということが示唆されています。  おそらく、私は、肺の中に入ってもナノかどうかというのは調べようがな いし、見えないわけですから、全臓器を切って電子顕微鏡で見るといっても、 1つの肺を見るだけで5年ぐらいかかってしまいますから、おそらく、見る 者はないと思います。そういう意味で、果たしてナノかどうかについてはな かなか難しい問題である、いわゆる化学的に難しい問題だと思います。 ○菅野委員  発がんメカニズムの件なのですが、チラッとおっしゃったと思うのですが、 確認なのですが、アスベストは閾値がないかもしれないというところまで踏 み込んだドキュメントが出ているのでしょうか。 ○津田参考人  出ています。 ○菅野委員   ということは、ちょうどよい大きさのものが1本入れば確率論的には出る という考え方。 ○津田参考人  IARCはそういうところまで見てなくて、発がん報告があったところまで 調べて、かなり低容量ばく露のところまで発がん性の報告があるということ です。IARCではハザード評価だけなのです。 ○福島座長  まだまだあると思いますが、時間が押しておりますので次に移りたいと思 います。津田先生、どうもありがとうございました。それでは、蒲生委員に プレゼンテーションをお願いします。 ○蒲生委員  産業技術研究所安全課科学研究部門の蒲生と申します。今日はこのような 機会をいただきましてありがとうございます。私どもの研究所が中心になっ て進めているNEDOプロジェクト、「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」に ついて概要紹介をさせていただきます。ここにいらっしゃる方々の結構な数 の方がご参加されたと思うのですが、先月の23日にニッショーホールで行っ た国際シンポジウムの発表のスライドの寄せ集めというか、ダイジェストと いう形で、主に有害性評価、その中でも特に調整とキャラクタライズのとこ ろに重きを置いて紹介いたします。  まず、我々のプロジェクトの全体像のところから入りたいと思いますが、 2006年から2011年までの5カ年、トータルで約20億円という予算で走っ ております。これはNEDOさんからいただいている研究ファンドです。その 先行研究としましては、我々のプロジェクトに入っていただいている広島大 学の奥山先生の所で行われたナノ粒子の吸入ばく露の予備調査研究、あるい は産総研内部のファンドで行われた研究などがあり、そういったものを先行 研究として、このNEDOプロジェクトが始まっているところです。  本日は、試料調整のところから有害性のこの辺りのところを主にお話する わけですが、このプロジェクト自体はリスク評価、さらにはリスクマネジメ ントというところまで視野に置いて、ばく露評価、あるいは社会的影響とい ったところまで議論しています。アウトプットとしましては、リスク評価、 マネジメントというところまで含むということで、こういう新しい技術の規 制の枠組みに関するガイダンスのようなものの策定とか、フラーレン、カー ボンナノチューブ、二酸化チタンについてのリスク評価書。あと、ナノ特有 の有害性試験、試料調整のマニュアル、計測法のマニュアル策定というよう なことをアウトプットとして考えているところです。  我々のところが中心になってという言い方をしましたが、参加している組 織としましては、産総研の中でもいくつものセクションがありまして、ナノ 材料の研究開発自体をやっているところ、計測を主にやっているところ、リ スク評価をやっているところが相互に連携しながら、さらには外部に産業医 科大学、広島大学、鳥取大学、金沢大学、信州大学といったところのそれぞ れの強味を生かしながら連携して実施しているという状況にあります。  我々のところの有害性評価は、最終的にはリスク評価につなげていくため のものなのですが、我々のところで二軸アプローチと呼んでいるアプローチ をとっております。リスク評価のためには、理想的には吸入試験などの非常 に詳細な試験をやった上で、用量、反応関係や無影響量といったものを定め ていく必要があるわけなのですが、必ずしも多くの物質についてそういう試 験を行う時間的、予算的余裕がないということもありまして、詳細な試験の ラインにつきましてはカーボンナノチューブ、フラーレン、ニッケルオキサ イドといったところを、ニッケルオキサイドについてはややポジティブコン トロールという側面もありますが、実施していく。それが1つ目の横軸とな るin vivoの試験系の軸です。  もう一方の縦軸にin vitro系があります。実は、ここに書かれている気管 内投与試験というのは、肺にナノ材料の分散液を注入するin vivo試験なので すが、やや縦軸の広がりが持てる簡易な方法という位置づけになっています。 こういったもので物質の数を稼ぎながら物質間の相対比較をしていく。この ようにしてトータルで50物質ほどについて試験の網をかけていく。そういう ようなアプローチであります。  今日お話する内容は、我々の所での試験の流れに沿って言うと、まずは液 中の分散試料を作る。それを用いてin vitroや気管内注入といった試験を行 う。また、液中の分散試料というのは、さらに気中分散させて、それを吸入 ばく露試験に使う。そういうような流れになっておりまして、この順番にお 話していくことになります。  まず、液中分散として、プロジェクトが始まって2年ちょっとですが、こ れは、現時点までで達成された分散試料一覧です。その前に申し上げておく 必要があると思うのは、我々はこの分散試料の調整、それのキャラクタライ ズに非常に重きを置いて実施しているということです。あるナノ材料製品の 試験ということであれば、そのもの自身の評価ということで、そのまま試験 をすることもあり得ると思うのですが、我々が当初このプロジェクトを始め たときの文献サーベイでは、多くの文献にその材料がどういう状態にあるか ということの記述がないということに気づき、危機感を覚えました。  というのは、要はナノであるからして有害性があるのではないかという問 題意識に答えられていない。先ほどの津田先生の話では、必ずしもサイズに よらないという知見もあるようではありますが、社会の懸念としてはサイズ による何かがあるのではないかというときに、そのサイズがそもそも計測さ れていない、サイズが揃えられていないというような試験では、結果をどう 解釈していいのかわからないのです。そのようなところがそもそもの問題意 識であったために、非常に丁寧に分散試料を作り、特に粒子サイズというも のについては緻密な計測を行うということにしております。  ここに挙がっておりますのは、酸化ニッケル、二酸化チタンというような もので、その一次粒子径がいろいろ違えるとか、二次粒子径をいろいろ変え てみるとか、そういうコントロールをして、気管内注入試験や吸入試験に使 っております。  これは酸化金属の例ですが、炭素系についても今実施中でありまして、こ れは粒子という言い方がいいのかわからないのですが、直径が32μmのマル チウォール、あるいは3nmのシングルウォールのCNTを、多少の分散剤を 用いて、超音波、その他のいろいろな方法を適用した上で、安定した分散容 液を作っています。それらを用いた気管内投与や吸入試験ということで、フ ラーレンについてはすでに投与自体は済んでおりまして、現在経過を観察中 ということになっております。  一次粒子径、二次粒子径をいろいろに作り分ける技術を開発してきたわけ ですが、これはその例です。そもそも、この試験には、一次粒子径が異なる ナノ材料は有害性が異なるだろうか、という問題意識がありまして、5nm、 23nm、154nmという市販の二酸化チタンの粒子を購入しまして、それを最 大限分散したわけです。この図は、粒径分布で大きいものから小さいものま でこういう幅があるというグラフですが、それを電子顕微鏡で見た像はこう いうものです。  これはちょっと似ているのですが、一次粒径は5nmという非常に細かいも のです。その凝集の程度をコントロールすることによって、18nm、65nm、 約300nmというような二次粒子径の粒子をつくり分けて、それを気管内に注 入しまして、現在結果を観察しつつあるところです。  それで、少し先取りして話してしまったので戻りますと、in vitro試験につ いては、先ほど二酸化チタンで例示しましたように、いろいろな金属酸化物 のナノ材料について、粒子サイズがナノサイズになっているような安定した 分散液を作成しまして試験を行いました。一方、先ほど実施しましたと言っ た気管内注入試験につきましては、ここに示しましたようなプロトコールで して、使った試料は、先ほど述べました5nmの一次粒径のもの、凝集状態が 異なるもの、また、陽性対象としてシリカを加えて、投与直後から3カ月ま での観察を行っています。  その観察項目としては、1つには肺での炎症ということでいろいろなバイ オマーカーを見ることと、各種臓器の組織病理学的検査をやっています。す でに結果が出ている部分もあるのですが、この限られた時間で断片的な結果 をお見せするのもちょっとミスリーディングかなということもあって、こう いうことをやっているという紹介に止どめさせていただいております。  一方、そういう液中分散がうまくできるようになりつつあるところをベー スに、気中分散試料を作ることも進んでいます。加圧式噴霧装置というもの を用います。ナノ材料粒子の分散液の霧を出して、その液体の部分は蒸発さ せてしまいます。先ほどの広瀬先生が言われていたのと基本的には同じ原理 ではないかと思うのですが、このような発生装置は、広島大学のほうですで に相当経験があるものをさらに発展させたものと言えます。  こういうふうにして、ナノ材料の分散液を加圧式噴霧装置で噴霧します。 そうすると、試験の期間としてはおよそ4週間を考えているわけですが、そ の試験期間にわたって平均粒径、個数濃度を質量濃度という観点から安定的 に供給できるということを確認しています。ここでの日数が4週間に足りな いのは、実際の試験では、週5日与えるという計算で19日になっているので はないかと思います。これはフラーレンの粒子の例ですが、平均粒径がおよ そ100nmという辺りで安定的に供給できているということが分かります。  そういう気中分散試料を用いまして、実際に吸入ばく露試験を行うための 装置、これは産業医科大学のほうの装置ですが、は、このようなものです。 動物をばく露するチャンバーには、実際にどんな粒子が供給されているかを モニターする装置が組み合わせられています。すでに、いくつかの材料をや っているのですが、いちばん最近のところで言えば、フラーレンについて吸 入ばく露試験を行いました。先ほど安定的に供給できているという話をしま したその粒子のエアロゾルを導入して、ポジティブコントロールとして酸化 ニッケルを用いまして、このような各群40匹という形でやっております。  現状では、3日時点での解剖の結果および炎症のバイオマーカーの観察結 果から、フラーレンに関しては特に影響が見られてないという暫定的な結果 が得られているように聞いております。今後3カ月という比較的長期の観察 で、より確定的な判断をしていくということになります。  観察項目としては、肺に関するものを中心として、肺湿重量、炎症を見る ための気管支肺胞洗浄液、血液、酸化ストレス関連遺伝子、肺病理、さらに その他の臓器の所見も組み合わせております。  最後になりますが、生物試料中のカーボン系ナノ材料の電子顕微鏡による 観察についてです。ばく露したナノ材料が体内で一体どうなっているのかと いう話というのは非常に気になるところであるのですが、もともと、体内に は、カーボンというのは体を構成する非常に重要な原素の1つなので、体内 には豊富に存在するわけです。その中に埋もれているカーボン系ナノ材料を 高解像度で観察するのは、電子顕微鏡の専門家にとっても非常にチャレンジ ングな課題だそうです。プロジェクトに参加している山本さんという方が、 電顕のスペシャリストなのですが、マクロファージの中に取り込まれたマル チウォールカーボンナノチューブを観察しました。ここはマルチウォールの 筋が見えているところです。あと、肺胞マクロファージに取り込まれたC60、 フラーレンの様子ですが、これも見る人が見ればという感じもするのですが、 この縞々がフラーレンの結晶の格子に相当するということだそうです。生体 試料の中のカーボン系のナノ粒子を観察する、そういったような技術開発も やっているという紹介です。  まとめになりますが、有害性試験については二軸アプローチをとっている ということで、少数の代表的材料について吸入試験を行い、多くの材料につ いてin vitro試験、あるいは一部気管内注入試験といったものを組み合わせ て、面的に評価していく。それから、調整とキャラクタライズということに ついて非常に重きを置いてやっている。簡単ですが、以上です。 ○福島座長  それでは、ご質問を受けたいと思います。 ○土屋委員  私は臨床のほうなので、実験の装置のことを伺いたいのです。ナノ粒子の 分散と計測システムというところで、フラーレンその他のナノ粒子の懸濁液 を用いて、それを加圧式の噴霧装置でやるということですね。そうすると、 これは水の表面張力などがかなり影響してくるということですか。 ○蒲生委員  おそらく、おっしゃるとおりだと思います。 ○土屋委員  私は詳しいことはわからないのですが、エアロゾルではなくて、実際の粉 状というか、粉末状のものをそのまま使うということはできないのですか。 ○蒲生委員  乾式で飛ばすということもありえなくありません。いくつかのアプローチ があって、1つはそのナノ粒子を合成しながら直接吸入試験に供するという アプローチです。ただ、それだと不純物や性状のコントロールが難しいよう なことがあって、それは却下ということです。ナノ材料を乾燥した状態で機 械的に切る方法もあるでしょうけれど、ナノサイズに揃ったものをうまく飛 ばせるかというと、それも物によっては相当難しいのではないかと思われま す。結果的に、液中に丁寧に均一に分散したものを飛ばすほうが、むしろ、 安定して狙ったものが行くのではないかと。あと、これを担当している広島 大学に非常にノウハウがあるということもあって、選んでいるということに なります。  それで、表面張力のようなことに関しましては、噴霧機のいろいろなコン ディションの調整とかを、実際に飛んでいる粒子のサイズとか、個数濃度と か、そういうものを見ながら調整しているというふうに聞いております。表 面張力がいちばん支配的なファクターかどうかは私にはよくわからないので すが、総合的に我々がいちばん狙っているものが得られるような条件を探し ながら決めているというふうに伺っております。 ○土屋委員  臨床のほうのアスベストでいろいろ観察した立場からすると、むしろ、粒 子は大から小までいろいろ混ざっていても、同じ条件で噴霧されると小さい 粒子ほど奥のほうまで到達して、到達部位によってかなり発がん性が変わっ てくるのではないかという気がするのです。先ほど津田先生は、アデノーマ までできたけれどもがんはまだできていないと。だから、その辺の到達部位 によって影響がかなりあるのかなと思ったものですから、お聞きしたのです。 ○蒲生委員  そういう意味では、いろいろなサイズが混ざった広い分布のものを与える ことで得られる情報もあるのかなとは思うのですが、我々のところでは、ま ずはナノの影響だというところで、極力そのナノスケールの粒子に揃ったも のを送るということにフォーカスしてやっているという状況です。 ○福島座長  細かいことをお聞きしますが、全身ばく露で、フラーレンだったですかね、 濃度を数字上では18日間という、要するにこれは1日に何回測定するのです か。何回測定した値が出ているのか、そこら辺はわかりませんか。 ○蒲生委員  申し訳ないです。これは確かに1日の平均濃度になっていますが、1日中 測っての平均濃度なのか、何回か測っての平均濃度なのかはちょっと把握し ていないのでわからないです。この粒子計測をやっている装置自体は、リア ルタイムで数字が出てくるような装置ではないにしても、1日何回かは十分 測れると思います。ただ、長期で安定しているということからは、日内変動 もそんなにはないのではないかと思うのですが、そこはちょっとわからない です。 ○福島座長  わかりました。 ○明星委員  測った人間としてお答えしますが、質量濃度は各日ごとの平均になります。 毎日1回ずつ測っていますから、図の各点が1日の平均ということです。粒 度分布は、いま蒲生先生が言われたとおりで1日数回は測るのでその平均と いうことです。 ○塩原委員  これはこの種の実験をやられている方の常識なのかもしれないのですが、 先生が吸入ばく露試験で使われているのは雄のラットですね。先ほどの資料 では、雌のラットが腫瘍を生じやすいという話だったのですが、雌雄差とい うのは我々がマウスで実験をやっていてかなり大きいのです。吸入実験は雄 でやり、腫瘍の発生は雌でやるというのは、何かのデータに基づいて意図さ れてやられたことなのでしょうか。 ○蒲生委員  私自身は、この毒性学のところは全く素人でして、その辺りの問題意識は このプロジェクト内で共有してみたいと思います。すみません、いまお答え は持ち合わせておりません。 ○津田参考人  文献で見る限りは、吸入試験はほとんど雌が使われています。 ○塩原委員  いまやられているのは雄ですね。普通は雌がやられているということです か。 ○津田参考人  文献で見る限りはほとんど雌です。というのは、先ほど申し上げましたカ ーボンブラックとチタニウムについては雌にしか発がんしないという。メカ ニズムは全くわかりませんが、同じことをやっても雄には発がんしないとい うデータがあります。それから、その2つの物質についてハムスターやマウ スでやっても発がんしない。雌のラットにしか出ないのです。ただ、その理 由はよくわかっていません。 ○塩原委員  それは例えばホルモンとは関係ないのですか。 ○津田参考人  そこまではまだきちんとしたデータがありません。 ○塩原委員  そうすると、蒲生先生が雄でやられたというのは。 ○蒲生委員  私自身がやっているわけではないということで、持ち帰ってまた今後検討 したいと思います。 ○福島座長  確かに雌には出ますが、津田先生は雌にしか行われていないと言われまし たが、私の記憶だと雄も使われていると思います。ただ、出るのは雌によく 出るということで理解しているのですが、違うのですか。 ○津田参考人  きちんとやったのは雄もありますが、ドイツの吸入センターの論文を見る と、雌のほうのみが記載してあります。雌のほうがセンシティブだから、雌 で出なければ雄でも出ないという過去のデータに基づいてやらなくなってい るのではないかと思います。 ○塩原委員  化学物質を皮膚に塗ってかぶれの実験をやると、雄のほうがはるかに出や すいのです。ですから、何かその辺がわかっていることがあればと思ったの です。 ○津田参考人  アメリカのある研究者で、この吸入実験の結果について雌だけに出るので、 特殊な例であるから一般には当てはまらない、という説を展開しているグル ープもあります。 ○福島座長  いまはかぶれのことを言われましたが、例えば肝臓発がんを見ると、肝臓 発がんは雄のほうがセンシティビティが高いのです。だから、オーガン・デ ィペンデンシー(臓器依存性)があるのではないかなと私は思っています。 ただ、その理由というか、肺のほうもなぜ雌なのかというのは私は知りませ ん。 ○蒲生委員  産業医科大学のこのグループは、アスベスト代替物の評価を研究してきて いますので、これは単なる私の考えなのですが、そういう文脈で使われてき たものという理由で選んでいるのではないかと思うのですが、これもちょっ と確認いたします。 ○福島座長  それでは、どうもありがとうございました。今日は3人の先生方について 発表していただきました。予定ではフリートーキングでもう一度おさらいの 意味も含めて質問を受け、先生方に答えていただくことを予定していました が、時間がまいりましたのでそのことについては割愛をします。また、先生 方、何か疑問点がありましたら、それぞれの先生と個々に連絡を取りあって、 その点を解決していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。事 務局から何かありましたら、どうぞ。 ○化学物質対策課企画官  本日はどうもありがとうございました。本日の会議の議事録ですが、後ほ どまた委員の先生方にご確認していただいた上、公開させていただきますの でよろしくお願いいたします。  それから、合同会合ですが、合同会合は本日で終わりということでござい まして、次回からは2つの検討会を別々に開催させていただくことになりま す。次回の開催日ですが、「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対 する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」につきましては5月30日金 曜日の10時から12時に、本日と同じこの会議室で開催を予定しております ので、よろしくお願いいたします。「ナノマテリアルの安全対策に関する検討 会」の開催日及び場所につきましては追って調整させていただきたいと思い ますので、よろしくお願いいたします。事務局からは以上でございます。 ○福島座長  本日の検討会はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 照会先 厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課 電話03-5253-1111(内線5510) 厚生労働省医薬食品局審査管理課化学物質安全対策室 電話03-5253-1111(内線2423)