第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

1.初動体制並びに家族への脳死判定等の説明および承諾

平成18年3月11日1:20頃に、本人(30代の男性)がバイク運転中に転倒、倒れているところを通行人が発見し、救急車を要請した。2:06に、当該施設に搬送された。意識レベルはJCS300で、血圧は70mm/-Hg、瞳孔は散大し、対光反射は認めなかった。自発呼吸はみられたが、人工呼吸器による補助呼吸を開始した。その後、頭部CT撮影にて、急性硬膜下血腫を認め、極小開頭血腫除去術、頭蓋内圧センサー留置術が施行された。

3月14日、主治医が医学的には脳死直前の状態であることを説明したところ、家族から臓器提供意思表示カードが提示されたが、当該時点では治療継続中であったため、臓器提供意思表示カードを家族にお返しした。

3月17日20:11に、臨床的に脳死と診断された。20:41に、家族がコーディネーターの話を聞くことを希望されたため、病院はネットワーク東日本支部に連絡した。22:35に、ネットワークのコーディネーター1名と都道府県コーディネーター1名が病院に到着し、院内体制等を確認するとともに、医学的情報を収集し一次評価(ドナーになることができるかどうかの観点からコーディネーターが行うドナーの入院後の検査結果等に基づく評価)等を行った。23:00に、ネットワークのコーディネーター1名と都道府県コーディネーター1名が家族(患者の妻)に約1時間面談を行い、脳死判定および臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等につき文書を用いて説明し、家族構成等を確認した。

家族は、意思表示カードは家族がもらって来て本人と一緒に書いたことや、亡くなってしまうのならば役に立ちたいと話され、臓器提供を承諾された。

同日23:55に、患者の妻が家族を代表して脳死判定承諾書、および臓器摘出承諾書に署名捺印された。その際、他の家族にも電話で臓器提供の意思を確認された。コーディネーターは承諾が家族の総意であることを確認し、両文書を受理した。

その後、第2回法的脳死判定の準備中に、脳波に筋電図が混入したため、臨床的脳死診断から手続をやり直すこととなり、3月20日8:40、改めて臨床的に脳死と診断された。10:05に、コーディネーターは再度、家族に臓器提供の意思を確認し、提供意思に変わりはないです、との回答を受けて、改めて承諾書を作成した。

【評価】

○ コーディネーターは、家族への臓器提供に関する説明依頼を病院から受けた後、院内体制等の確認や一次評価等を適切に行ったと判断できる。

○ 家族への説明等について、コーディネーターは、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等を記載した文書を手渡してその内容を十分に説明したと判断できる。

○ 本事例は、第2回法的脳死判定の準備中に脳波に筋電図が混入したことから一旦法的脳死判定を中止し、約1日後に、再度臨床的脳死診断から手続をやり直した事例であるが、コーディネーターは適時適切に家族の意思確認を行ったと判断できる。

2.ドナーの医学的検査およびレシピエントの選択等

3月20日12:08に、心臓、肺、肝臓及び小腸のレシピエント候補者の選定を、12:11に膵臓及び腎臓のレシピエント候補者の選定を開始した。

法的脳死判定が終了した後、同日21:47より心臓、肺、肝臓、膵臓及び腎臓のレシピエント候補者の意思確認を開始した。

心臓については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が心臓の移植を受諾し、第1候補者に心臓の移植が実施された。

肺については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が両肺の移植を受諾し、第1候補者に両肺の移植が実施された。

肝臓については、第1候補者は、ドナーの医学的理由により、移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、肝臓の移植が見送られることとなった。

膵臓については、第1候補者の移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を受諾するも、最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、膵臓の移植が見送られることとなった。

左右の腎臓については、第1候補者は、ドナーの医学的理由により、移植実施施設側が腎臓の移植を辞退。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、腎臓の移植が見送られた。

小腸については、登録患者不在のため、移植が見送られた。

また、感染症検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認された。

【評価】

○  ドナーの提供臓器や全身状態の医学的検査等及びレシピエントの選択手続は適正に行われたと評価できる。

3.脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

3月20日21:13に脳死判定を終了し、主治医は脳死判定の結果を家族に説明した。その後、コーディネーターは、情報公開の内容等について説明し、家族の同意を得た。

また、コーディネーターから家族に対して、肝臓、膵臓および腎臓については医学的理由にて、小腸については登録患者不在のため移植が見送られることとなった旨を報告した。

【評価】

○  法的脳死判定終了後の家族への説明等は妥当であったと評価できる。

4.臓器の搬送

3月20日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。

【評価】

○  臓器の搬送は適正に行われたと評価できる。

5.臓器摘出後の家族への支援

臓器摘出手術終了後、コーディネーターは手術が終了した旨を家族に報告し、病院関係者等とともにご遺体をお見送りした。

3月22日(臓器提供の翌日)、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの移植手術がすべて終了したことを報告した。

その後も数回にわたり、電話にて移植後の経過報告を行っている。

5月1日、コーディネーター2名がご自宅を訪問し、厚生労働大臣からの感謝状を手渡すとともに、レシピエントの経過報告を行った。家族は、故人の思い出等を話された。

5月23日、コーディネーターが家族へ電話し、心臓移植を受けられたレシピエントが退院されることを報告した。家族は、良い報告をありがとうと話された。

7月8日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの経過報告を行った。

9月2日、コーディネーターが家族へ、心臓移植を受けられたレシピエント、及びレシピエントコーディネーターからのサンクスレターを、お花とともに送付した。

11月2日、コーディネーター2名がご自宅を訪問し、肺移植を受けられたレシピエントが亡くなられたことを伝えた。

コーディネーターは、上記の連絡、報告以外に、その後もレシピエントの近況報告をするなど、適宜報告や対応を行っている。

【評価】

○  コーディネーターによるご遺体のお見送り、家族への報告、サンクスレターの送付等は適切に行われたと認められる。


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