08/03/04 第11回研修・技能実習制度研究会議事録 第11回 研修・技能実習制度研究会 日時 平成20年3月4日(火) 10:00〜 場所 経済産業省別館1028会議室 ○今野座長 ただいまから、第11回「研修・技能実習制度研究会」を開催いたします。 本日は、樋口委員と森永委員が欠席です。本日は、ブローカー対策等について、有識者 からヒアリングを行いますので、お越しいただいている方をご紹介いたします。中央大 学総合政策学部兼任講師のソン・ウォンソク(宣元錫)さんと、ノンフィクション作家 の森田靖郎さんです。ソン先生には、韓国におけるブローカー対策等についてお伺いい たします。森田先生には、中国の送出し機関、ブローカー等の実態についてお伺いしま す。  本日の進め方ですが、まず韓国等の制度の概要について事務局から説明をしていただ きます。その後に、ソン先生と森田先生の順で、それぞれ20分程度説明をしていただき、 質疑を30分程度したいと考えております。まず、事務局から説明をお願いいたします。 ○外国人研修推進室長 資料No.1-1、資料No.1-2に基づき、アジア諸国の状況を説明させ ていただきます。アジア諸国の外国人労働者受け入れ、特にマッチングとかブローカー 対策を中心に制度概要をまとめております。  資料No.1-1は韓国です。後ほどソン先生からお話を伺います。韓国については、1991 年に「産業研修制度」、いわゆる研修生制度を導入しております。若干制度の変遷があり、 2002年には「研修1年+就労2年」ということで日本の研修・技能実習制度のような形 に改正されております。制度の運営は、「中小企業共同組合中央会」等の使用者団体が運 営するということで、中国をはじめとするアジア諸国から、製造業、建設業等について の受け入れを行ってきました。しかしながらブローカーの問題、人権侵害の問題等があ り、この制度については2006年12月で廃止されております。  これに代わる新しい枠組みとして、雇用許可制度が2004年8月から導入されました。 雇用許可制度の概要は、二国間協定に基づき、諸外国(送出し国)と締結した上で、製 造業等について受け入れを行っております。2007年の受入れ枠としては4万9,600人で す。雇用許可制度については、一般の雇用許可のほかに、もう1つ特例雇用許可制度が あります。特例雇用許可制度というのは、韓国系中国人、海外同胞の方を対象とした制 度ですが、こちらはサービス業についても対象になっていて、受入れ枠は6万人という ことです。  具体的な受入れ労働者のマッチングについては、公的機関が行い、民間機関の参加を 排除する形になっております。窓口は、日本で言えば雇用能力開発機構やJITCOを併せ たような機関として、韓国産業人力公団というのがあり、そこで求職者名簿の管理、受 入れ業務の代行、入国時の導入教育の運営をしております。具体的な事業主と求職者の マッチング部分については、雇用支援センター、これは日本のハローワークに相当しま すが、ここが実施しています。  受け入れの流れとしては、事業主は雇用支援センターに求人登録を行い、一定の内国 人の採用努力、いわゆる労働市場テストを実施した後に求職者リストが提示されます。 事業主のほうは、求職者リストから誰を受け入れるかを決定すると、雇用支援センター が雇用許可証を発行します。事業主は、入国時の導入研修等の費用を負担するという流 れです。在留期間は、1年更新で3年間です。ただし、6カ月が経過すれば再入国が可能 となります。また、同一事業所であれば、帰国後1カ月の経過によって再入国、再雇用 が可能です。  労働者は、原則その企業が活動場所として限定されますけれども、倒産等があった場 合については、3年間で3回までの移動が可能です。当然、労働者としての権利保障が されています。  資料No.1-2は台湾です。台湾についても二国間協定で労働力を受け入れておりますけ れども、お国柄の事情として、中国からの受け入れは行っていません。韓国と違って、 マッチングは民間の人材仲介会社が行います。民間の人材仲介会社が、労働者本人から の仲介費用や管理費を徴収します。その内容が高額な場合がある等の問題が生じている ようです。  この人材仲介会社の質の維持の観点から、国は評価制度を実施しています。評価結果 をインターネットで公開しています。ただ、業務停止等の強制的な措置の仕組みはない ということです。  流れとしては、事業主はそのセンターに求人登録を行い、民間の仲介会社を通じてあ っせんを受け、その上で雇用許可を申請し、雇用許可証の発給を受けます。受入れ期間 は原則2年ですが、1年間の延長が可能で3年です。さらに、最長で6年間の継続雇用 が可能という仕組みになっています。労働基準法等は当然適用されます。  簡単ですが、概要のご報告でした。 ○今野座長 ご質問もあるかとは思いますが、ソン先生のお話を伺ってから議論したい と思います。ソン先生からお願いいたします。 ○ソン氏 ソンです、よろしくお願いいたします。韓国の制度についてですが、本日は マッチングとブローカー対策がメインテーマだと聞いております。基本的にこれは制度 の仕組みに組み込まれているものですので、事務局の説明に少し補足する形で制度につ いて説明しながら、併せてお話させていただきます。  いちばん最後に資料No.2として私が付けた「雇用許可制による一般外国人雇用の流れ」 があります。事務局から紹介があったように、韓国の雇用許可制というのは、一般と特 例に分かれています。一般というのは、いわゆる普通の外国人で、特例というのは韓国 系や朝鮮系の在外同胞を対象にしているものです。メインは中国系ですけれども、ここ に出してあるのは一般外国人の流れです。  この表で特徴的なものをいくつかご紹介いたします。韓国の雇用許可制の流れで、い ちばん上に外国人力政策委員会があります。これは、受入れ業種や規模、送出し国を決 定するところです。国が、送出し国や業種、あるいはクオーターを決めるということで す。総量規制を行うことが最初の特徴です。人力政策委員会の委員長は国務調整室室長 で、日本でいえば官房長官に当たる人が委員長を務めています。国による総量規制があ ることが1つの特徴です。  次は02のところで、二国間協定、メモランダム(MOU)を結ぶということです。現在 は15カ国を対象にしています。東ティモールはまだMOUが締結されていませんが、残り の国は締結されています。二国間協定を結んで、その国から労働者を受け入れるという ことです。そのメモランダムの内容は、送出し国に、労働者の募集やあっせんに当たっ ての一定の責任を負わせることです。当然ここにブローカー対策も組まれています。協 定の内容で、当然韓国側にもそういう責任があるのですけれども、送出し側にも一定の 責任を負ってくださいという内容です。  このメモランダムは2年間有効で、2004年からスタートしたので既に更新が次々とな されています。最初、送出し諸国は、これは自動更新だろうという感じだったのですが、 実際にインドネシアとモンゴルで不正が発覚したことで、何カ月間か受入れ停止された こともありました。ですから、ある程度実効力のあるものだ、というふうに諸国からは 認識されています。もちろん、韓国政府もそのように運用したいと考えているようです。 この2つの特徴があります。  次は雇用支援センターで、これは日本でいえばハローワークです。この雇用支援セン ターは、この絵を見ればわかるとおり、いちばん真ん中で重要な役割を果たしています。 雇用支援センターが、海外と国内の求人者、求職者をマッチングする役割を果たしてい ます。  もう1つ大事なのは、国内における事業所の変更があるのですが、その変更の際のマ ッチングもここで行っています。このマッチングについては、雇用支援センターの独占 業務になっていて、行政がその業務を担う仕組みになっています。  マッチングにおいて、雇用支援センターが大事な役割を果たします。韓国の産業研修 制度が日本の研修生・実習生制度に当たる制度だったのですが、その制度の問題として、 使用者団体が一方的に配分する形で、基本的に移動も認めないことで不正がたくさんあ ったことを反省し、その反省から出たものが、公的機関によるマッチングということだ ったと思います。雇用支援センターのマッチング機能についてはいろいろ課題が多いと 思われます。人手も問題ですし、韓国の雇用支援センターにおけるマッチングが、求職 者・求人者の要望に沿ったものになっているか、ということについては私自身ちょっと 疑問があります。  マッチングについては、送出し国の公共機関が求職者名簿を作り、雇用支援センター が求人者名簿を作って、インターネットを通して電子化されたシステムの上でマッチン グを行います。必要に応じて、つまり求人者が面接をしたいという場合には、インター ネット電話やWebカメラを通して面接ができるのですけれども、実質はドキュメントに よるマッチングです。  それが、実際に入国した後に、ちょっと違うということが度々ある、ということは私 の調査でも出ています。そのマッチングについては、かなりシステマティックにやって はいますが、それがどれほど効果があるかというところでは問題があると思います。  雇用の流れから見ますと、受入れ業務代行機関があります。これは、労働部傘下の外 郭団体になります。制度当初は、産業人力公団が独占的な業務として行っていたのです が、あまりにも業務が多いので、業種ごとの中央団体、これは民間団体で、日本でいえ ば中小企業中央会、農協中央会、水産業中央会みたいな所が受け入れと管理業務を代行 することになっています。ここは支援業務に当たっていて、マッチングなどの業務は一 切行っておりません。ですから、マッチングについては雇用支援センターが独占的に行 うことになっています。実際に現場の話を聞くと、雇用支援センターは、求職者・求人 者にとってはかなり距離があるようで、こちらの代行機関も大きな役割を果たしている と聞いております。  以上が、流れについての簡単な補足説明です。話の中でいくつか出したように、韓国 でのマッチングは基本的に電子化されたもので行うことと、雇用支援センターが独占的 に行うことの2つが特徴だと思います。ブローカー対策については、基本的に労働市場 を国側がコントロールするということで、ブローカーを制度的に排除する。その仕組み としては、二国間協定でブローカー対策を行っています。これは制度的な仕組みで、も ちろん警察だとか入管局で取り締まったりコントロールすることもありますけれども、 制度的にはそういう仕組みになっています。  韓国では、去年で3年経ったのですけれども、3年経っての評価を聞くと、ブローカ ー対策はかなり効果があったと政府内では評価されているようです。  そのほか詳しいことは、皆さんのご質問に答える形で話を続けたいと思います。私か らは以上です。 ○今野座長 ありがとうございました。ご質問がありましたらお願いいたします。 ○丹野委員 いまの話の基本的なことをお聞きします。ブローカー対策の3つの柱みた いなものがあって、1つ目には外国人力政策委員会という、そのトップにおける総量規 制。2つ目には、二国間協定を結ぶことにより、送出し国の中での責任の分担と、二国 間協定による外側でのブローカーの規制。3つ目は、雇用支援センターを用いることで、 民間セクターではない所がマッチングに責任を持つ。この3つで基本的にブローカーを 排除したと考えてよろしいのでしょうか。 ○ソン氏 そうです。国内におけるブローカー対策はどうだという話もあるのですけれ ども、この仕組みは基本的にすべてを公的機関が行うことになっています。研修生制度 の時代には、民間に管理業務を代行する管理業者がいたのですけれども、その管理業務 を一切やらないことになっています。その管理業務の一部を、業種ごとの公的な中央会 みたいな所で行います。  労働法が適用されますので、労働関係の機関、例えば労基署のような所で行うという ことで、国内で民間業者が中に入る余地をほとんどなくしました。 ○北浦委員 コントロールのところを、もう少し内容的に教えていただきたいのです。1 点は、外国人力政策委員会で「業種・規模、送り出し国決定」とあるのですが、国のほ うは外国向けになると思うのです。業種とか総量はどういう考え方で決めているのかと いうこと。  2点目は、内的に雇用支援センターのところで、フローチャートの中の05番に「人力 不足確認」というのが出ています。つまり個別認定はどういう形で行われているのか。 コントロールのマクロとミクロのところを教えてください。 ○ソン氏 総クオーターを決めたり、業種ごとのクオーターを決めたりというのは、雇 用政策委員会で最終決定されます。実際の労働市場の状況を見て、どれぐらい受け入れ るかを決めるその下の委員会がありまして、それは労働部に設置されています。外国人 雇用政策委員会があって、これは労働部次官が委員長で、関係省庁の局長クラスがメン バーです。それと、労働組合、使用者団体、学会、市民団体の代表も入って審議するこ とになっています。  業種ごとにどう決めるかということですが、これについては明確に製造業は何人とい うことを決める、いわゆる経済学的・数学的なモデルは私が知っている限りではありま せん。ですけれども、基本的に参考にするのは、労働力不足率というのは日本でも調査 されていると思いますが、その不足率を基本的なベースにしています。  韓国では、2月に2008年度計画のクオーターが発表されました。その資料を見ますと、 300人未満の中小企業の労働力不足率が4.16%と出ています。業種ごとに若干差があり ます。中小企業の労働力不足率を下回る業種についてはクオーターを若干上乗せすると いう形で、業種ごとのクオーターを決めることになっています。基本的に韓国の製造業 で、外国人受け入れというのは300人未満に限られています。中小企業が対象になって いて、300人以上の企業は受け入れることができません。  建設業では、工事の契約額を基準にして、事業所別に雇用可能な人を決めることにな っています。2007年度までは1,000億ウォン、日本円では120億円ぐらいの規模までが 許可されたのですが、それ以上も受け入れられるようになってはいます。建設業という のは、特例で朝鮮族の方がほとんどを占めていますので、工事の規模別にクオーターを 決める仕組みになっています。  ただし、クオーターを決めるところにおいて、労働力不足率を参考にするということ ではあるのですが、韓国全体の外国人労働者をどのぐらいの規模で運用するか、という ことも非常に大事な政策的課題であります。政府の中では2%程度という話が多いよう です。ただし、公式発表を見ますと2〜5%というようにちょっと大きくは見ているので すけれども、内部では大体2%程度と考えているようです。  いま、韓国の全人口が4,800万人ぐらいで、経済活動人口が約2,300万人ぐらいで、 その2%に当たる数は約50万人程度です。いま現在韓国で滞在している外国人労働者は 50万人にはなっておらず、約46〜47万人ぐらいになっていますが、それは専門職も非 専門職も全部含めての数字になります。いまのところ、それを超えてはいないというこ とです。  政府の中での議論や出ている資料を総合してみますと、もうちょっと上まで考えてい るような気がします。ですから、それを上限として制限しようということよりは、需要 があればもうちょっと受け入れたいということではないかと思います。それが総量規制 に関するものです。  人力不足を個別に確認するということは、いわゆる労働市場テストなのです。外国人 労働者を雇用したい事業主は、雇用支援センターに求人登録をする。日本でいえばハロ ーワークに求人登録するようなものです。それで、求人努力期間が7日間あります。最 初はもう少し長かったのですけれども、雇用主側からもうちょっと短くしてくれという 要望が強かったので短縮しました。それにプラス新聞など公共のメディアに求人広告を 出す場合は3日までになっています。ですから、3〜7日間の求人努力をすることになっ ています。  実際に外国人を雇用しようと思っている事業主の場合は、求人努力の際の求人票に最 低賃金を書きます。最低賃金額では、韓国人の求人はかなり難しいのが現状ですので、 この努力義務というのは形骸化されているのではないかとも言われています。ただ、私 が行ったヒアリングで話を聞くと、求人努力期間中に韓国人の求職者があってマッチン グが行われた、ということもないわけではありません。形骸化という批判はあるのです けれどもこれは外せないでしょう。制度上、韓国の外国人労働者受入れ政策においては、 国内労働力の代替性を排除して補完性を保つところにおいては、核心部分に当たる制度 の仕組みですので、いくら形骸化しているという批判があっても、これは外せないとい うことだと思います。 ○今野座長 いまの点に関連してですが、2%程度については、先ほど言われた同胞の方 も入っているのですか。 ○ソン氏 そうです。同胞に関しては、それを見込んでの2〜5%ということだと思うの です。皆さんご存じのように、特に中国には朝鮮族の方がたくさんおられ、韓国の潜在 的な労働力プールというのは60〜70万人、あるいは場合によっては100万人とも言われ ていますが、実際にどれぐらいが来られるかということでは、もちろんそこまで来られ るわけではないです。  いま現在韓国に滞在している在外同胞は約22万人から23万人ぐらいで、そのほとん どが労働市場に参入しているとは見ています。今後、在外同胞の労働市場がどれぐらい 膨らむか、ということはまだ予想ができないところです。去年から、雇用特例の仕組み の中に、訪問就業というのを設けました。これは、在外同胞に与える在留資格です。こ の訪問就業で、韓国とのつながりが公的に確認できる人に対してはクオーターがありま せん。ですから、それが確認できれば自由に入れます。日本でいえば日系人にクオータ ーがないのと同じようなことです。  ただ、これは一応コントロールしたいという政策的意図があり、5年間のビザの有効 期間と、一度入国して3年滞在でそれを更新していくということと、もう1つは在外同 胞であっても、労働市場への参入は必ず雇用支援センターを通して登録することになっ ています。 ○今野座長 それは、労働市場テストを受けるという意味ですか。 ○ソン氏 そうです。市場テストを受けて入ることになります。そういう意味では、日 系人とは制度的に違う枠組みに入ると理解していいかと思います。 ○渡邊委員 細かい点で申し訳ないのですが、事業主は入国時導入研修の費用を負担す るということなのですけれども、これは大体どのぐらいのコストなのかということが1 つです。もう1つは、企業の倒産とか賃金の未払いがあった場合、3回まで移動が可能 だということですが、この3回というのはどこから出てきたのですか。 ○ソン氏 教育費用に関しては正確には覚えていないのですが、簡単に言うと高くない です。高くないというのはどういう意味かというと、日本の研修・技能実習生の場合は、 送出し国の事前研修費用を全部負担することになっています。しかし、この雇用許可制 では、事前研修に関しては雇用主は負担しません。それは、外国人が自分で負担します。 韓国語を勉強したりというのは自分で勉強することになっています。国内に入っての研 修、いわゆる職場に配置される前の入国初期教育の費用は、雇用主が負担することにな ります。  外国人が韓国に入ってくるということは、既に使用者と労働者間で雇用契約が結ばれ ている状態ですので、それで入ってくる労働者の初期教育費用は支払う仕組みです。そ の費用は日本円で5万円を超えない程度です。初期教育は大体2泊3日の教育です。 ○外国人研修推進室長 事務局で調べた限りでは、2泊3日で、1人当たり16万8,000 円ウォンですから約2万円ぐらいです。 ○ソン氏 3回移動できる根拠は何かと聞かれると、入管局がどう答えるかわかりませ んが、基本的に1年契約の更新で3年ということになっています。ですから、最大滞在 期間が3年で、1回の契約では1年を超えられないということです。そういう仕組みで いうと、3年滞在で3回契約することなのです。途中で事業所が倒産したり、事業主が 違法な何かをやったというようなことがあった場合は、労働者側が事業所移動を申請す ることができ、それが3回ということなのです。  これについて疑問を持たれたように、いろいろな意見があります。労働者の権利を制 約するというところで、労働者の移動の自由を制約する、ということで非常に問題にな っている部分ではあります。これは、日本でもそういう調査結果があると思うのですけ れども、労働者の移動の自由は、時間が経つにつれて特定の場所に集中する結果を生み ます。労働力が必要で受け入れたのに、そういう所から抜けて、そうでない所に集中し てしまう。本当に必要な所に労働力を配置するという意味では、移動制限は、政策意図 としては必ず必要なことだということです。  だけれども、労働者の移動を完全に規制する、移動できないことにしてしまうと、労 働者の移動の権利を過度に制約することで、その妥協点のところで3回ということでは ないかと思います。実はプラス1回がありまして、3回が全部使用者側の責任で移動に なった場合は、プラス1回があるので、最大4回になっています。  これで1つ問題になっているのは、移動の間の、例えば次の職場がまだ見つかってい ないのに契約が終了、あるいは契約を破棄したといった場合の空白期間です。入管法で はそれが2カ月間で、2カ月を超えると帰国しないといけないので、2カ月間の間に次の 移動先を見つけなければいけないことになっています。これが、場合によって労働者側 から見ると移動を制約する、できたら我慢してしまうみたいなことにつながることもあ る。政策的にコントロールする側から言うと、2カ月超えても帰国しない、つまり非正 規に流れる危険性もあるということで非常に難しいところではあります。  これは、前の産業研修制度からの反省で、労働者の権利を守る、労働市場をコントロ ールしたい、といろいろな意図が絡んでの妥協点みたいなところではないかと思います。 ○今野座長 その空白期間は、当然のことながら失業保険の給付は受けられるのですか。 ○ソン氏 外国人労働者が入ってくるときに失業保険、いわゆる雇用保険に加入する義 務があったのですが、使用者側から反対が起きて廃止されました。 ○今野座長 所得がなくなってしまうということですか。 ○ソン氏 所得はなくなります。その2カ月というのは、労働者側から見れば給料が貰 えないことを覚悟の上での移動ということになりますから、かなり厳しいです。韓国の 外国人労働者支援団体では、労働者の移動の間の住居の確保ということでシェルターを 運営する所が結構あります。 ○今野座長 お話を聞いていての誤解だと思うのですが、外国人労働者は自らの意思で 移動は可能ではないのでしょうか。 ○ソン氏 自らの意思でも可能です。それは、雇用主が同意すればです。 ○今野座長 事務局の資料では、会社の倒産や賃金の未払いや虐待の場合の移動と書い てありますけれども、もう少し広いのですね。 ○ソン氏 そうです。そういう違法行為があった場合は、労働者側から申請できるとい うことです。それにプラスして、お互いに同意した場合、お互いに契約を破棄した場合 は移動が可能です。 ○今野座長 受け入れたのだけれども、もう君は要らないよと使用者が言った場合はど うですか。 ○ソン氏 そこが実際には結構問題になっているところです。それはお互いさまという ことになります。 ○今野座長 一方的に使用者側が要らないと言った場合はどうですか。 ○ソン氏 そういうこともあります。 ○今野座長 それも可能だということですか。 ○ソン氏 可能です。 ○今野座長 通常の解雇が可能だということですね。 ○ソン氏 そうです。しかし、法務部では、基本的に1年ということを守ってください というふうに行政指導をしていると聞いております。あまりにも短く、繰り返して労働 者を解雇したり、また新しく雇用したり、労働者の側も1年間に複数回移動したりする 人に対しては滞在管理の所で厳しく対応していると聞いています。 ○丹野委員 わからないところがあるのですが、日本の制度がいいとは思っていないの ですけれども、移れないということの代わりに、日本の場合は受け入れた事業者に全責 任を半ば負わせているような形を通して、これはある種のローテーション政策ですから、 入ってきた人については帰ってもらうということがあって初めて可能になるわけです。 途中で移るとか、企業側も追い出すことができるという仕組みがあったときに、最後の 帰国の担保はどうやって取るのですか。  要するに、3年目で労働者も逃げたい、使用者側も最後の帰国の責任まで負いたくな いというときに、どちら側も追い出してしまえというか、国内に滞留するような形で出 してしまえという選択が起こるような気がするのですが、それはどうやって回避するよ うにしているのですか。 ○ソン氏 私が理解するところでは、その問題は、日本の研修・技能実習制度をベース に置いて考えると必ず出てくる疑問なのです。なぜかというと、日本の制度は、受入れ 団体にある意味で全責任を負わせる、帰国担保もそれに負わせる仕組みです。帰国担保 はどうするのだということなのですけれども、基本的にこの雇用許可制は、労働者を労 働者として受け入れることなのです。つまり、それは何が付いてくるかというと、労働 者は労働者としての自己責任もあるということです。雇用主は雇用主としての、事業者 としての自己責任、プラス労働者は労働者としての自己責任があるということです。  それは、制度の隅々までそういうのが入っていると思うのです。送出し国における事 前研修に、使用者側が費用負担しない、労働者が韓国語を勉強しなさいという仕組みと 同じなのです。労働者責任でやることで、入ってきて、移動も使用者と労働者の判断で やる。ただし、いまおっしゃったように、帰国担保は弱いところなのです。なぜかとい うと、韓国に残る所以があるわけです。仕事があって、給料がある。実際いま韓国の非 正規滞在者は22万人程度おります。その中で、経済活動人口に当たる16歳から60歳ま での非正規滞在者は約20万人と言われています。  そういう人たちは、既に労働市場に参入していることですので仕事がありますから、 残るインセンティブがあるわけです。その辺はもちろんあるのですけれども、そこまで 政策的に全て対応するのは難しい。ただし、ほかの政策をもって、それでなんとか補っ ていく。例えば、帰国推進プログラムをやったり、日本ではやらないことなのですが、 ときどきアムネスティを実施し、優遇措置を付けて帰国してもらいます。帰国したら、 優先的に入ることができるみたいなインセンティブを付けて自主帰国を促すということ。  もちろん取締りはやっています。入管法で国家の仕事になっていますので取締りもや っています。非正規滞在者を使用した場合の罰金もあります。実際に罰金刑を受ける例 もたくさん出ています。それでも、そういう方々を雇用するインセンティブもあるよう です。 ○上林委員 ディスカッションペーパーに、非正規のほうが正規よりも賃金が高いとい うことが書いてあるのですが、これは研修制度のときでなくて、いまでも非正規のほう が正規に入ってきた人より賃金が高いのですか。 ○ソン氏 そうです。実際の調査によると、非正規のほうが、正規ルートの労働者より 賃金が高い。これは市場価格です。そういうインセンティブがあります。ですから、非 正規に流れるインセンティブは十分にあるわけです。 ○上林委員 普通、非正規だとそれを理由に当局に訴えられると困るので、低賃金で甘 んじて働くという図式があるのですけれども、どうして韓国の場合には非正規のほうが 高いのですか。 ○ソン氏 それは、理論的にはいろいろ説明があると思うのです。私が思うには、労働 力としての価値がかなり高いと市場では見ていると思います。非正規滞在者のほうが滞 在期間が長くて、仕事経験が長くて、技能レベルが上がっているということで、市場価 格が高いということです。  労働者側から見ても、安い賃金で非正規に残るインセンティブはないわけです。結果 論かもしれませんけれども、そういう労働市場を見て残っていることもあるでしょう。 実際に非正規を雇用している事業主の調査をしてみますと、正規ルートの外国人労働者 というのは、制度の枠組みの中で運用されているのでいろいろな規制もかかっていて、 雇用する側の負担が重いということがあります。 ○上林委員 社会保険料とかそういうことですか。 ○ソン氏 社会保険などの費用もそうですし、責任も重いです。自由に使いたいという ことで非正規を使う、というインセンティブも一方ではあるわけです。 ○山川委員 帰国担保との関連で、家族帯同で家族も一緒に連れてくるということが、 入管法上認められるかということが1つです。もう1つは全然別の話なのですが、マッ チングは雇用支援センターが独占して、管理とか支援は産業人力公団が独占するという ことは、民間企業が関与することは法律で禁止されているという理解でよろしいのです か。 ○ソン氏 家族帯同は雇用許可制ではできません。これは、定住化防止ということで明 言しています。マッチングは公的機関、それにプラスして国が指定した民間公共機関で ないとできないことになっています。それから、民間のほかの所が介入することはでき ません。もちろんNGOやNPOが支援活動を行うことを制限するわけではありませんが、 その管理業務を行うことでお金を貰って代行することはできません。 ○山川委員 禁止されているのですか。 ○ソン氏 禁止されています。家族帯同についてはもう1つあります。3年に1回、1 度帰ったら6カ月後に再入国可能ですが、同じ事業所に再雇用の場合は1カ月で再入国 が可能な仕組みになっています。それにプラス、今年からは韓国で滞在が長い人、熟練 して、給料も上がっている人に対しては、定住・永住できる道を作りました。もちろん、 永住・定住というところに乗れる方は家族帯同は可能になります。しかし、雇用許可制 の3年のローテーションの仕組みでは、家族帯同はできません。 ○今野座長 いまおっしゃったことでわかりにくかったのは、雇用許可制度で3年です ね。 ○ソン氏 はい。 ○今野座長 半年いてまた3年、半年いてまた3年とやると、長く滞在する人になりま す。そうすると、永住とか定住の許可は取れると考えればいいのですか。 ○ソン氏 3年を繰り返して長くなれば自動的に取れることではありません。韓国の入 管法や国籍法では期間の定めがあります。雇用許可制からの永住・定住というのは違う 仕組みを入れて、韓国で仕事をした滞在の総期間が、間が切れても5年以上を条件とし て、それプラス技能資格だとか、企業の中でも賃金水準のような制限を設けて、それを クリアできれば永住・定住の道があることになっています。 ○今野座長 それとの関連で、3年いて半年帰って、また3年がずっと繰り返せるとい うことと、かつ外国人が韓国で働くインセンティブは非常に高いとすると、その繰り返 しをやっていく人がかなり登場する可能性がある。そうすると、韓国政府としてはそう いう形で、韓国にずうっと長くいる外国人労働者が増えてもそれはしようがないではな いかと考えているということですか。 ○ソン氏 制度の仕組みからはそう理解されても仕方ないかと思います。これは非専門 職という、いわゆる単純労働者なのですけれども、中には技能労働者が欲しいという所 もあります。その技能労働者をどう確保するかということでは、入国してすぐ技能労働 者になれるわけがないですから、仕事の経験も必要で、言葉の上達も必要になります。 ですから3年、もう一回で6年というふうになると、言葉もできるし、同じ業種で仕事 をしていれば技能も上がることで、そういう人に対する企業側の雇用意欲というか、そ ういう需要は伸びるだろうということです。それと、外国人労働者側からも、繰り返し て韓国に来て仕事をしていると、生活基盤が韓国に移ることになります。 ○上林委員 そのときに、最初は非専門職のビザで入ってきて、資格が変わって永住許 可が出るのですか。 ○ソン氏 資格は、居住に関する資格に変わります。 ○上林委員 それとはまた別枠でということですか。 ○ソン氏 活動目的が教授だとか、英会話教師というような活動目的の資格ではなくて、 居住目的の資格に変わります。居住目的になると、仕事に制限がありませんから自由に なります。 ○今野座長 現実はどうですか。入ってきて3年で繰り返す人は多いですか。 ○ソン氏 去年の8月でちょうど3年になりました。初年度はあまり入っていなかった ので、今年から3年目が出てくると見ていいと思うのです。それで、いま韓国の政府当 局では、簡単に言うといかに帰すか、非正規に流れることをいかに防げるかを考えてい ます。  例えば同じ職場で雇用ができる方の場合は、1カ月後の再雇用、再入国は可能なので、 それをできるだけ推進するということでかなりサポートしているようです。送出し国に 対しても、この人が帰国したら、1カ月後に入れるように配慮してくれみたいな形で、 その辺のサポートをいま一生懸命やっていると聞いています。 ○今野座長 事業主としては、3年終わったら1カ月間家に帰ってのんびりしてこいよ、 と言えば。そのようにするということですね。 ○ソン氏 そうです。 ○上林委員 永住資格付与については、雇用許可制度を入れたときに一緒にこの基準も 作ったのですか。 ○ソン氏 違います。最初はありませんでした。私が政府関係者にヒアリングしたとき に、雇用許可制を作った当時から問題意識はあったけれども、制度的な仕組みはまだあ りませんでした。繰り返して再入国できることになると、長く滞在して生活基盤が移り、 それプラス技能も上がることになった場合どうするかということは当然出てくる話なの です。そういう道を作らないと、やかんに火をつけて蓋を閉めてしまう状況になるので、 それは当然問題意識としてはあったと思います。  それが決定されたのは去年で、今年から実施されます。その資格条件は、私が見る限 りかなり厳しい条件です。現実問題として、どれぐらい定住・永住が可能かというとこ ろでは、まだ疑問が残っています。場合によってそちらの要望・需要が増えると、その ハードルを下げることもあるかと思います。 ○今野座長 いまおっしゃられたいろいろな条件については、いわゆる同胞の方も一緒 と考えていいのですか。 ○ソン氏 同胞の方は、定住・永住の道はもっと広いです。ですから、こういう仕組み に乗らなくても定住・永住は十分可能になっています。 ○丹野委員 先ほど言われた技能とか賃金の水準があまり勘案されないということです か。外国人力政策委員会の中の雇用許可制度で入ってくる人だと、先ほどの話では5年 以上で、技能があって、賃金もそこそこないと永住・定住に結び付かないと言ったのは、 同胞の場合だと技能とか賃金とかそういう事柄はあまり関係ないということですか。 ○ソン氏 関係ないです。5年間繰り返してビザがずっと貰えるということだと、実質 定住・永住とは関係ないです。希望すれば国籍も取れるし、それにはあまり制限があり ません。 ○今野座長 そろそろ時間なのですが、最後に司会者特権でお尋ねします。前の韓国の 産業研修制度で、50%ぐらいの人が失踪したという話がありましたが、この人たちはど うしたのですか。みんなアムネスティにしてOKにしてしまったのですか。 ○ソン氏 ピーク時は2002年だったか、韓国に滞在している外国人労働者の約8割近く が、非正規に滞在していたのです。 ○今野座長 要するに、ほとんど非正規。 ○ソン氏 ですから、その当時調査に行くと、当然のごとく不法だよみたいな。 ○今野座長 「君は珍しいね、合法」ということですか。 ○ソン氏 という感じだったのですが、そういった面で非正規滞在者が増えて8割にも 達したというところで見ると、韓国の産業研修制度はかなり問題が多かったと言ってい いと思います。  そういう人たちをどうするかというところで、2003年に雇用許可制の法律ができたと きに、1年後の法律施行の間の1年間、条件つきのアムネスティを行ったのです。その 当時約18万人、対象が23万人ぐらいなのですが、8割ぐらいの人がアムネスティに名 乗り出たのですが、それは条件つきのアムネスティであって、韓国滞在歴4年以下です。 そういう人たちをアムネスティにして、最大2年間滞在許可を与えて、帰国してまた戻 ってきてくださいと、政策的な措置をとったということです。いまも約20万人いるのは、 その間増えた分もありますし、アムネスティを行った人たちで出ていない方もかなりい るのです。実際どれぐらいいるかというと、当時18万人のうち5万人程度が出ていない ので、アムネスティについては政策的にかなり厳しい選択ではあるのですが、研修就業 から雇用許可制という正規の労働者として受け入れるものに制度を完全に入れ換える時 点で、これはどうしても必要だという政策的な判断があったと思います。 ○今野座長 それでは、時間ですので、ソン先生についてはこれで終わらせていただき ます。ありがとうございました。  次に、森田先生にお話をいただいて、同じように議論をしていきたいと思います。よ ろしくお願いします。 ○森田氏 作家の森田靖郎と申します。よろしくお願いします。ほとんど皆様方がご存 じの話ばかりだと思いますが、私自身が現場で見てきたことを若干お話させていただき ます。  現在、日本には毎年9万人ぐらいの研修生の方が来られて、そのうちの8割ぐらいが 中国人だと聞いています。中国も、いま労働力を海外に輸出して外貨を稼ごうという、 労務輸出というものがあります。労務輸出が日本の外国人研修制度に当たるかどうかは わかりませんが、中国は1990年代半ばから、海外派遣に関して民間企業にも開放してい るのです。また、日本の研修制度に対する中国の熱の入れ方が高まって、いま多くの派 遣会社でそのような業務に携わる人たちが増えているのです。ほとんどが国や地方で認 可制度を持っているのですが、中には認可されない業者あるいは会社があって、それを 総称して「ブローカー」と言っているのだと思います。ブローカーは中国側にもいます が、日本側にもいます。中国側では、主に日本に研修に行きたい人をリクルートする。 日本側では、そういう研修生を日本の企業にあっせんしていく。ただし、中国側のブロ ーカーと日本側のブローカーが一本化していることは、ほとんどありません。連携プレ イとしてパイプラインを形成することはありますが、基本的には組織的に一本というこ とはないのです。今日はブローカーの実態や、ブローカーが及ぼすさまざまなトラブル についてお話をします。  いま中国から来る研修生のほとんどが、「民工」あるいは「農民工」と言われる人です。 かつては「盲流」という言い方をされたと思います。中国は農村戸籍と都市戸籍という 二重戸籍制度を取っているのです。農村戸籍の人は、農業を離れたとしても農村を出て はいけないという厳しい制度があるのですが、その中で、農業だけでは生計が立てられ ない人たちがかなり多いのです。このような人たちが都市部に出稼ぎに行く、これを「民 工」と言うのです。中国における農村戸籍と都市戸籍という二重戸籍制度は、農業と工 業、農村と都市、頭脳労働と肉体労働、と差別化を生み出し中国の3大格差といわれる 格差の大きな要因なのです。  いまの中国の農家は、ほとんどが集団農場を形成しています。日本の農協のような形 なのですが、中身はかなり違います。農家は、大抵集団農場に属するのです。集団農場 から、酪農する人はウシ、ブタを借りて、牛乳や食肉を生産すると、それを集団農場が 買い上げていきます。野菜農家の場合は、同じように野菜の種や肥料、農器具を集団農 場から買い、収穫した野菜をすべて集団農場が買い上げていきます。集団農場と農家は 金銭的なつながりが強いため、集団農場は本来の農業主導というよりも、現在はどちら かというと金融業に近いのです。ほとんどの農家は、集団農場に借金する形になってい ます。自分たちが借りた金以上の生産高を買い上げてもらえることは少ないので、借金 がたまっていきます。  こういった農家が一気に借金を返済する方法の1つとして、研修制度があるわけです。 日本では、研修生を受け入れるときに、日本で受け入れる業種と同じ業種を中国で経験 した者に限られてはいるわけです。そうすると、日本に研修に行こうと思うと、職歴を 証明するための推薦が要るのです。多くの農家出身の研修生希望者は集団農場から推薦 されるわけです。集団農場というのは、農業だけではないのです。建築もやっているし、 食品加工、あらゆる業種の製造業もやっていて、集団農場から推薦をもらえば問題なく 研修生資格に適合するわけです。このために、研修に行きたい人たちは集団農場から推 薦状をもらいます。推薦状をもらって、公的機関である送出し機関に登録します。送出 し機関である人材派遣機関は、その中から書類審査を何度も積み重ねて、日本の第一次 受入れといわれる組合、あるいは第二次受入れの企業の面接などを経て、合格した人た ちが研修生として送り出されるのです。  私が行ったある省では、約4,000人ぐらいの研修生・実習生を送り出しているのです が、そこで日本に研修に行きたいと願っている人は、1,000万〜2,000万人以上います。 潜在的に日本に研修に行って稼ぎたいと願っているわけです。本来の技術移転という大 義名分ではなく、彼らは生活のレベルアップ、借金返済など、日本側が考えている技術 移転というより金を稼ぐという目的を持っているものですから、希望者は求人数をはる かに上回っています。  ごく僅かな選ばれた人しか来られない現状の中で、それ以外に行きたい人はどうする のかというところで出てくるのが、ブローカーなのです。ブローカーは、日本に行きた いけれど、集団農場からの推薦、あるいは派遣会社へ登録ができない人たちをリクルー トしていくわけです。ブローカーといわれる民間の派遣会社に登録するには、日本のお 金で約50万円〜100万円ぐらいを一時金として、登録料を納めます。登録することで日 本に行く機会を待つということです。  一方、日本におけるブローカーも活動するわけです。ブローカーというと、表現的に いかがわしい感じがするのですが、日本におけるブローカーは、私の知る限りでは立派 な方が多いです。日本国籍を有している人、つまり帰化した中国人、日本企業で長く働 いている中国人、あるいは日本で経営者ビザを持って日本人を雇用している中国人など、 社会的に肩書きがきちんとした人でなければ、日本の企業も信用して研修生の仲介を託 すことはなかなかできないのです。ブローカーは研修制度をあまり理解していない日本 の企業の人や、いまの研修制度にやや不満を持っている人、もっとたくさん入れたいと 思っている人を集中的に営業していくわけです。日本の企業側から50人、100人という 研修生を受け入れる要望が出てきます。それを中国の派遣会社に要望します。中国の派 遣会社には、すでに中国国内のブローカーから託された人たちの名簿があるので、日本 の企業の希望にそって研修生を選び出し日本に送り込まれることになるわけです。中国 の派遣会社としても、外部のブローカーから推薦された者についても、手数料や管理費 が入るので、推薦することに抵抗はありません。日本側の受け入れ要望が高い現状では、 ブローカーがかなりの所で仕事をしています。  では、ブローカーがどのようなメリットがあるのか。最終的にはお金の問題になって くるのですが、研修生と金銭の関係はかなり密接なのです。研修生として日本に行くこ とが決まると、基本的には送出し機関との間に承諾書という一種の契約書みたいなもの を交わします。これにはかなり厳しいことが書かれています。日本では労働基準法があ って、最低賃金が保証されていますが、日本の最低賃金以下でも文句を言わず働かなけ ればならないとか、仕事中あるいは仕事以外でも、日本の工場などで作業中に商品や機 械を壊したり破損させたりしたときは、自分の責任で修理して時間外にやらなければい けないとか、同じ研修生同士でも、違う事業場にいる研修生と頻繁に連絡を取ってはい けないとか、異性間の交際はしてはいけないとか、いろいろな条件がつきます。  これが彼らにとって、のちに非人間的扱いを受けているという不満にもなるのですが、 承諾書を交わすいちばん大きな原因は、研修生及び実習生の失踪という問題です。要す るに職場から研修生や実習生が逃げ出すことを防ぐためです。詳しくは数字で見ていた だければと思いますが、失踪者は年間大体1,000人以上はいると言われます。失踪とい うのは、日本の受入れの組合にとっての汚点でもありますし、中国の送出し機関にとっ ても最大の汚点なのです。基本的には、1人の失踪が出ても連帯責任のような形になっ ていますから、場合によっては組合が受け入れている研修制度すべてが打切りになって、 研修生全員が送り返されてしまうこともあり得るわけです。現状では、組合が受け入れ ている研修生の20%以上に失踪者が出た場合は、入管では最悪のケースとして罰則を加 えているのです。どちらにしても組合にとっても汚点になる。送出し機関にとっても汚 点になる。そういう失踪を防ぐために、研修生と派遣会社が相互に承諾書を交わします。  また、金銭面で研修生の失踪を防ぐために縛り付けておくことが必要だと考えられて います。いわゆる担保です。保証金というものです。一時、高いときは一人の研修生に ついて日本円で300万ぐらいというケースもありました。現状ではそこまで取ってはい ませんが、どちらにしても研修生に保証金を積み立てるか、あるいはそれに代わる担保 みたいなものがなければ、なかなか推薦してもらえません。  もう1つ、一時預り金というものがあります。これは強制預金のようなもので、研修 生では手当、実習生では給料の一部を月に1万円前後積み立てて、それを中国の送出し 機関が預かっておく。保証金にしても一時預り金にしても、3年間無事に研修・実習を 終えて帰ってくれば返しますという名目のものなのです。だから、特にそれを取り上げ ることはありません。失踪したり職場でいろいろな不法行為があった場合には、そこか ら引かれるぞという、担保のようなものなのです。  中国政府は、もちろんこのような保証金や一時預り金を認めていません。だから、い ま中国の送出し機関では保証金という名を使ってはいません。手数料とか登録料という 名目にして、現在は3万元(日本円にして45万円ぐらい)が一律だと聞いています。こ ういったものに対しては、3年間無事に終えて帰国したら褒賞金の形で彼らに返すと。 返すというより、手数料ですから、取ったものを返すことはないわけですが、かと言っ てそれを取り上げるのは問題だということで、よく3年間頑張りましたねと、褒賞金と して返すわけです。結局同じことなのですが、そこはそのような考え方でやっているの です。  ブローカーにとっては、最初の登録料だけでは、とてもではないけれどやっていけま せん。いちばん大きな問題は、研修生、実習生の管理費の問題です。いま、研修生・実 習生には、日本の組合では管理費を取っています。管理費は、異論はいろいろあるかも しれませんが、私は現場を見ましたが、非常に重要なものです。規模によって月に1人 につき1万〜5万、農家当たりなら1万ぐらいですが、大きな企業では5万ぐらい取り ます。これによって、日本の組合の人たちは、定期的に巡回をしながら研修生や実習生 の悩みを聞いたり、トラブルを解消したりして、彼らとの間で潤滑油になる形で運営し ているのです。同じように、管理費は中国の送出し機関にも相場で一人、月に1万2,000 円送られています。中国の送出し機関としても、自分たちが送り出した研修生・実習生 にトラブルがあったり病気をしたり悩みがあったりしたときは、すぐに駆けつける費用 であり、研修生を500人以上送り出している送出し機関は日本に駐在所を置いている所 もあります。そういう駐在機関のための費用として管理費は使われています。中国政府 は、1万2,000円では足りない、2万ぐらい取って、むしろ巡回を頻繁にするなり、もっ とコミュニケーションを取ったほうがいいのではないかと言っているのですが、研修制 度においては、日本が圧倒的な買手市場なのです。ですから、中国側としては、どんど ん日本側に受け入れてもらいたいということがあって、そういう派遣会社ではどんどん 管理費の値引き合戦が行われています。うちではそんなにたくさん管理費は要りません、 だからうちの派遣人材を受け入れてくださいという形でやっているのだと思いますが、 実はブローカーが介在するのはこの管理費の部分なのです。  日本の組合でも、日本ではブローカーがかなり現場に介在してきていることはよく知 られています。そのこと自体をどう防ぐかという問題よりも、管理という名目で管理費 にブローカーが立ち入ることをいちばん嫌っているのです。というのは、日本のブロー カーは日本の企業側を営業相手としているので、研修生や実習生と企業内でトラブルが あったら、必ずと言っていいほど日本の企業側につくわけです。極端に言えば、研修生・ 実習生に、「お前ら、文句を言うなら、すぐ強制的に送り返すぞ」と恫喝をするという問 題が現場ではかなり多いのです。  もう1つは、先ほど韓国の場合では職場移動ということがありましたが、ブローカー によって転職させることもあるのです。要するに、もっと稼ぎのいい所を紹介してやる よ、といった形でブローカーが介在することがあります。もちろん、そこには手数料と いう金銭的なメリットがあります。ブローカーが管理に携わってくると、管理費が発生 すると同時に、職場移動や他の職場情報など研修生・実習生をかなり動揺させることに なるということで、あまりブローカーの介在を組合では望んでいないわけです。ただ、 いま私が言ったブローカーというのは、ごく一部の人の話で、実際には非常に真剣にこ の制度に取り組みながら、日本の企業と中国の研修生の間に入って献身的にやっている ブローカーもたくさんいらっしゃいます。むしろ、数としてはそういう方のほうが多い と思うのですが、そういう方の話をこの席でしてもしょうがないと思いますので、トラ ブルのあるブローカーのことばかりを言っているのですが、誤解のないように、ブロー カーと言ったらみんな悪いやつだとは思わないでください。  こうした悪質のブローカーをどうしたら排除できるのだろうというのが、今日のメイ ンテーマだと伺っていたので、私なりに考えてみたのですが、現制度において、ブロー カーを完全に排除することはあり得ないと思うのです。というのも、ブローカーの存在 は現制度の弱みと言っては変ですが、現制度の中でかゆい所に手が届かない所をブロー カーがカバーしているように思えてならないのです。中国国内には、どうしても日本に 研修に行きたいという高い理想を持っている人たちがいるわけです。現実には、日本で 同じ職種の経験がなければならないとか、集団農場で推薦してもらえないなど…大きな 壁がたちはだかります。そういう人たちに、中国国内のブローカーは書類の偽装工作を したりするのです。職歴を変える、学歴を変える、あるいは家族の資産内容。あまり借 金の多い家族の所には日本の研修は向かないので、銀行の預金残高とか、そういう偽装 工作をブローカーが請け負ったりします。  日本国内で活動するブローカーは、日本の企業の中でどうしてもこうしてほしいと、 こうありたいと願っている所にうまく食い込んでいくわけです。私が知っているある水 産加工の会社では、1つの職場にパートタイムを含めて日本人が50人ぐらい働いていて、 10数人の研修生・実習生がいます。仕事は単純労働ですから、別に日本人でも研修生で も実習生でもほとんど変わりません。日本人の労働者と研修・実習生の比率を逆転させ れば、この工場では年間1,000万〜2,000万の経費が浮くと言っていました。また、あ る食品加工会社では、研修1年、実習2年の3年間で折角覚えてくれた技術者が3年す れば帰国する。また新しい人が来る。同じことの繰返しであると。経験のある実習生を 再入国させることはできないのだろうかと。彼らが1人でも2人でも入ってくれれば、 職場の新しい人、つまり研修生を指導してくれる。技術の移転もスムーズにいくと真剣 に考えています。実際のところ、先ほど言った中国のブローカーや日本のブローカーが やっていることは、現制度では不可能な状況です。でも、現実には制限以上に研修生を 受け入れたいとか、実習生の再入国を要望しているのです。現制度に不満のある現場の 中にブローカーが入り込んでいっているということで、言葉は悪いですが、必要悪のよ うな形で存在しているのではないかと思います。  もう1つ、ブローカーというものを考えるときに、出稼ぎに来る人たちを含めて、い まの中国人の考え方は、私は非常に重要だと思うのです。このような議論をするときに こういう話が必要かどうかわかりませんが、私が実態として受けた感じで、中国人のい まの若い人たちは、ハイリスク・ハイリターンという考え方が非常に強いのです。高い 収入を得る、高い理想を得るには、リスクが多くても当然なのだという考え方が非常に 強いのです。これは、数年前に日本では「蛇頭(Snake Head)」が暗躍して、たくさんの 出稼ぎの密航者が日本に流れ込んだという社会現象がありました。この蛇頭が、最近ほ とんど影を潜めています。これは、日本の捜査当局や中国の捜査当局の取締りが非常に 厳しいことの成果が、もちろんそれが1番に挙げられるのですが、その成果によって何 が起こったかというと、中国でハイリスク・ハイリターンという考え方が根本的に崩壊 し始めているのです。高い手数料を蛇頭に払って日本に行ったけれど、不法就労、不法 滞在、不法入国で強制送還されて、結局残ったのは借金だけだと。それによって、蛇頭 は信用できないという風潮が広まって、いまでは蛇頭がいくら出稼ぎ密航を誘っても乗 ってこなくなる。  現在のブローカーと蛇頭は一緒ではありませんが、やや共通している所はそこだと思 うのです。当初に100万円なりのお金がかかったとしても、いまの研修生たちの希望は 日本に行って3年で200万円、あるいは300万円貯めたいということです。それを稼げ るなら、そんなもの安いものではないかというハイリスク・ハイリターンの考え方は、 この制度においてはまだまだ生きているわけです。ただ、最近になって途中帰国した研 修生・実習生と送出し機関との間で、中国国内でトラブルになり、裁判沙汰が多いので す。1つは、途中帰国してきた研修生・実習生に対して、中国の派遣会社は、お前たち は契約違反しているから、最初に預かった手数料や保証金、一時預り金は没収する、あ るいは一部カットする、などと通達してくるわけです。それに対して、途中帰国した研 修生・実習生は、契約違反は派遣会社の方だと、事前に聞いた説明ではこんなに過酷な 労働だとは思わなかったし、こんなに非人間的な扱いを受けるとは思わなかったと逆に 訴え返す。安易にブローカーの話には乗ってはいけないのではないか、信用してはなら ないのではないかという風潮が、最近かなり増えてきています。  これは、1つには制度そのものや時代というより、いま研修生として中国からやって くる人たちの世代は、ほとんどが1980年代前後に生まれた人たちという世代の問題があ ると思われます。中国で言ういわゆる「一人っ子世代」の人たちなのです。研修だけで はなく、いろいろな場面でいまの中国の人たちを見ていると、1980年前後ぐらいに生ま れた人とその前の人とは、かなり考え方が違います。中国の中でも全然違うと言われて います。中国の中でも、新生中国人、新時代の中国人、宇宙人と言われるぐらい意識が 違うのです。何の意識が違うかというと、彼らは典型的に自己主張、自分の権利を主張 するのです。エゴではなく、セルフなのです。自分自身のためになるならどんなことだ ってやる。ですから、多少の苦労は耐えて、自分自身のためになるならやるということ でやってくる人たちです。ただし、1つ間違うと、かつてのように黙って我慢するので はなく自己主張する世代です。納得できない、黙ってられない新生中国人が中国に帰っ てからも裁判を起こしたりすることにつながっているのだと思うのです。  いま日本に来ている研修生・実習生たちは、自分たちと日本人の労働者の間には格差 があることは認めているのです。日本に行って、日本人並みの賃金をもらって、日本人 と同様の扱いを受けるなんて、頭から思ってはいないのです。当然、自分たちは日本人 より劣るわけだから、日本人の賃金より低くてもいいのだという意識はあります。例え ば、ある所で実習生たちが日本の賃金並みになったらどうなるかと話をしたら、賃金、 待遇がよくなり喜ぶだろうと思っていたら、「それは困る。私たちが時給800円になって、 残業させてくれる企業はない、ゼロになってしまうと。500円でも600円でも400円で も、むしろ残業させてくれたほうがいいのだ。」と言う実習生がかなり多くいました。す べてではありませんが、そのようなことを言って現実的に考える人もいるのです。いま の彼らの考え方からいくと、格差に対しての不満はないのです。ただ、落差に対しての 不満は非常に大きいと思うのです。これは、中国の研修生に限らず誰でもそうだと思う のです。約束されたこと、思っていたことが守られないこと…。日本に行けば過酷であ ることはわかっています。彼らが言う新3K、「きつい」「給料安い」「休日ない」という のは当たり前だと、これは当たり前でいいと。でも、それ以上に非人間的な扱いを受け たり、セクハラを受けたり、もっと過酷ないろいろなことがある。そういう落差には耐 えられない。そのようなところに微に入り細に入り、入り込んでいくのがブローカーで す。もちろん日本の組合の巡回の人も同じようにやっています。ブローカーはより緻密 に心情的にやっていくのです。ブローカーが、この制度の中で自分たちが合法的な活動 ではないと知りつつ、研修生らを要請する、研修・実習生らを待っている日本の企業、 あるいは中国の研修生たちがいるという現状があると思うのです。これといった解決策、 はっきりとしたこういう解決策があるということは、私は提示する立場でもないし、で きません。しかし、私自身から言うと、ブローカーの存在そのものはもちろん排除しな ければいけないことはあったにしても、いまの制度を見直していくためには、ブローカ ーの存在を逆にきちんととらえていくことで制度の欠点を見つけ出すことにつながると 思います。研修制度の背景となる中国の社会、中国人の考え方を日本人が理解しようと しない限り、ブローカーの存在が必要悪となって生み出されるのではないかと思います。 ○今野座長 ありがとうございました。いまおっしゃった中で、資料のいちばん最後に 「こんな研修生は採用しないほうがいい」とあって、これが気になっていたのですが、 これについてはお話になっていないのではないかと思うのですが。 ○森田氏 資料に何となく書いたのですが、先ほどからお話を伺っていて、かなり専門 的なお話をされていたので、あまりリアルな話は避けたほうがいいと思って避けたので す。  これは先ほどの話の裏返しになるのですが、どういう人が失踪するのかとか、どうい う人が不満を持つのかとか、どういう人が格差を感じるのかという中で、私自身も組合 の人や中国の送出し機関の面接に立ち会ったことがあるのですが、最終的に誰をどう選 ぶかはものすごく重要なのです。例えば、面接で5人しか選べない中で、1日で100人 ぐらいの人が来るわけですから、20人のうち1人です。その中で、いろいろな人が自分 の主張をするのです。中国側の送出し機関の人と日本の組合の人、この人は中国人です が、そういう人たちが最終的にそういう人たちの意見を聞いて、非常に重要な意見がた くさん出ています。その中で、3高は駄目だというのがあるのです。  3高というのは、中国における高学歴、高収入、高い理想の人です。これは、日本に 行くと全部夢が砕けます。高学歴というのは、中国では大学を卒業しているとか、高卒 とか専門学校を出ているとかですが、日本に行くとそれは通用しないのです。中卒であ ろうが大卒であろうが、同じように単純労働をさせられます。そういうことで夢が砕け やすいのです。高収入も当然そうです。日本に来るより中国で稼いだほうが、よほどい い結果になります。高い理想を持つ、要するに技術移転で日本でこれを学ぶのだと思っ て来たところが、結局は魚を毎日すり下ろしただけだと。そんなものは僕の将来には全 く関係ないんです、ということで、早々と挫折するだろうと。  3高の人たちは、最初面接のときにはいちばん注目されます。言うことも立派だし、 人格的にも立派だし、こういう人が日本に来てくれたらいいなと、大抵の日本の企業の 人はあこがれるのです。すべてが悪いわけではないのですが、相対的にそのような人は そうなりがちだということです。もちろん、日本に来て、それによって非常に高い技術 を持って同じ仕事で頑張っている、酪農などでやっている人はいますが、総じてそうい う人たちは、自分の夢と現実の落差に陥りやすいということで、そのような指摘がされ ているのです。それはそれぞれの経営者の考え方ですから、それでも自分たちがその人 の夢をかなえてあげようという人であれば、もちろん問題はないのです。 ○今野座長 ありがとうございました。それでは、お話を伺いましたので、ご質問があ ればどうぞ。  私から1つお伺いします。先ほど、途中帰国者と中国側の送出し機関とのトラブルが いろいろ発生しているとおっしゃいましたが、そのときに、いわゆるブローカーの場合 と公式ルートの場合とありますね。いまおっしゃったのは、ブローカーの場合ですか。 ○森田氏 ブローカーの場合もありますが、ほとんどの送出し機関が研修生と契約書を 交わします。トラブルがあるのは送出し機関、派遣会社ですね。送出し機関とは日本で 言うハローワークです。ただし、研修生たちは送出し機関から送り出されている形にな ってはいますが、その人たちがリクルートされたのは町のブローカーの問題もあります。 トラブルになるのはブローカーというか派遣会社です。結局そこになるのですが、最終 的に裁判沙汰になった場合は、民間派遣会社、つまりブローカーが相手になることが多 いです。 ○今野座長 全体的にそういう問題が非常に大きくなっているということは、日本へ研 修生が行くことについては、評判が落ちていると考えていいですか。 ○森田氏 評判というよりも、お金になるかどうかという問題については、彼らの中で は3年で200万を1つの基準にしていますから、これはクリアしている実習生は多いの です。ただ、日本に来てからブローカーの言った内容と、日本に行ってからの内容の落 差が大きすぎるのです。中国側のブローカーといわれる人たちは100万円前後の登録料 を取りますから、当然いいことを散々並べます。金銭、待遇にも期待をしているのです。 ところが、日本に行くと現実にはそういう扱いが受けられない。  また、場所によってはミスマッチがあるのです。内蒙古の人は、内蒙古といえばみん な酪農ができると思われているケースが多いのです。ところが、都市にいる人は、別に 酪農などやったことがないのに酪農に放り込まれてしまうケースもあるのです。集団農 場などで推薦を受けると、すべての項目が入っていますから、どこの研修現場に送られ るかわからない。日本の組合でも、異業種をやっている所がありますから、農業をやっ たことのない人が農家に行くこともありますし、逆に農家を希望していたのにアパレル 工場に派遣されたとか、こういうミスマッチが結構多いです。 ○上林委員 そうすると、研修生の落差に対する不満というのは、職種のミスマッチが 主なのですか。 ○森田氏 職種のミスマッチが1つです。もう1つは、日本の受入れ現場での待遇、金 銭的だけでなく扱いを含めた待遇です。具体的に言うと、農家や酪農関係に行くと、ほ とんど2人か3人の研修生で24時間やらなければならなくて、寝る暇がない。ある酪農 の所に行くと、牛小屋の隅っこに布団が敷いてあって、そこで寝起きさせられていると。 そこで2人くらいの研修生が入れ替わり起きて、ほとんど休みがないということがあり ます。  また、派遣先で経営者や指導者に暴言を吐かれたり。先ほど言った一人っ子世代で親 にも殴られたことがない新世代の中国人の若者たちは、日本でもそうだと思いますが、 いきなり「何やってるんだ」と殴られたとか、場合によっては、零細企業の工場長や経 営者の家の掃除や洗濯まで手伝わされるとか、またセクハラ行為を受けるといったケー スも不満の一つです。  ほとんどのトラブルは研修生時代に起きるのです。研修生は日本の社会では権利を持 ってはいません。実習生になると、労働者という1つの権利がありますが、労働者にな ると賃金の問題があります。他の派遣先の賃金をわざわざ教える、ブローカーではなく 親切なNGOみたいなものがあって、あなた方が働いているのは、日本人の何分の1だよ と、場合によっては訴訟を起こせば日本で差額がもらえるかもしれないから、代わりに 私たちが訴えてあげてもいいよと。中国の送出し機関では、ほかの事業場の研修生や実 習生と連絡を取らないようにと言っているのです。知れば知るほど、自分たちが置かれ ている立場、待遇が劣悪で賃金が搾取されているのではないかと思いがちです。研修生 たちの不満が爆発していくいちばん大きな原因は、彼らのホームシックです。ホームシ ックがすべての出発点です。これは、言葉が通じないということもありますし、特に農 家など小さな所に行くと、1人か2人しか入らないので、言葉の通じる人がいない。農 家や酪農関係は、孤独な仕事です。ですから、いちばん先にかかるのはホームシックで す。ホームシックから引きこもり、そこに問題が発生したとして、受け入れ側から組合 やブローカーに連絡が来るわけです。そういう人たちは言葉ができますから、そのとき に悩みを聞いてあげると。その対応次第によっては立ち直れるし、場合によっては立ち 直れない。組合の巡回の人たちは、研修生から実習生に引き上げていかなければいけな いという役割を持っているので、指導していく。  ところが、ブローカーの一部には、こいつはこの現場には合わないと、すぐに送り返 して違う者を入れようとするとか、もっといい所に紹介してやると言って、自分が知っ ているほかの企業に紹介するといった形になりがちなので、最初のきっかけはほとんど がホームシックです。その辺は、日本の受け入れている企業の方も非常に重く見て、い まはかなり自由に行動させます。現在は、かつてのようにパスポートを取り上げるとか、 一時強制預金はありません。日本の労働者と同じように、自由に日々の活動をさせては いるのです。  逆に、そこで別の不満が出てくるのです。先ほど韓国の場合でもおっしゃっていまし たが、日本の労働者は自由に仕事場を選べるではないかと、なぜ私たち外国の研修生や 実習生は選べないのだと、これはおかしいのではないかと。もう1つは、厚生年金の問 題です。彼らは労働者だから厚生年金を納めています。自分たちは老後日本で暮らすこ とはあり得ないのに、なぜ厚生年金が取られるのか、と。また、ある工場では実習生に 労災保険を掛けていない労災飛ばしをやったりする。厚生年金も、本来は実習後帰国時 に脱退金を戻せるはずなのですが、その制度のあり方も彼らは知らない。それを指導す るところまでもいっていないと。それを彼らがどこかで知ったときに、不満の種になる のです。だから、日本の制度から日本の社会のあり方、日本人の考え方、すべてを研修 期間に包み隠さず話すべきだと思います。話すべきというより、話すのが当然であって、 日本人が日本の国をどう考えているかを、中国人が中国をどう考えているかと同じよう に、そこはしっかり互いに自分の国の農業なら農業のあり方を話したほうが相互理解に 結びついていいと思います。  というのは、農家の場合比較的多いのは、研修生として派遣された未婚の女性の場合、 農家のお嫁さんになるケースがありますから、そういうことを願っている農家がないと は言えません。ですから、日本の組合の人は、農家の場合は、夫婦は夫婦単位で入れた ほうがいいのではないかと言っている人もいますし、数字はわかりませんが、私の知る 限り何人かの人たちは農家でお嫁さんになっています。そういうことも含めて、人手不 足という問題だけではなく、日本の社会のあり方、農業のあり方や自給率などをすべて、 研修生たちにしっかり話すほうがいいのではないかと、組合の人には言っています。組 合によっては、定期的に研修生、実習生らと会合をやっている所もあります。お互いに 不平、不満を話し合い、自分たちで解決する方法を見つけ出している組合や受入れ現場 ではいい研修生・実習生が育っていっていると思います。 ○北浦委員 大変実態に即したいい話を伺ったのですが、最後に3高の話が出て、理想 というところで、技能移転とかそういう目的を持った人間は駄目だと言われてしまうと。 ○森田氏 いいえ、そういう意味ではないのですが。 ○北浦委員 そういうわけではないですが、挫折しやすいと。つまり、本音や建前の乖 離は大なり小なりどこでもあり得ることだと思うのですが、この出発点を見ると、集団 農場のところで、借金の返済とか、あるいはそのあとも手数料や管理料を含めて相当の 金額がかかって、これも用意できているかというと、それも借金を重ねる。少なくとも 金銭的動機という意味において、日本で研修をして帰ってきたときに、それが返済可能 な状態になっているのか、さらに借金が残っていて、困った状態でそこにいられなくな ってしまうのか。この辺の実態が1つです。  また、集団農場は非常に間口が広い。日本の農協もそうですが、そういった中で彼ら が帰ってきて違う仕事を見出すことができるのかどうか。この辺りを、帰ってからの話 として教えていただきたいと思います。 ○森田氏 1つは、借金等の問題を抱えた研修・実習生が日本での研修・実習後に金銭 問題などが解決しているのか、あるいはまだ引きずっているのかという問題ですが…。 きちんと集団農場から推薦されて、認可された送出し機関で面接を受けるという手順を 取った研修生たちは、ほとんどその問題は研修・実習期間内にクリアします。それまで の書類審査の中で、この人は日本に行っても、いくら稼いでも借金を返せない深刻な問 題を抱えている人たちは、派遣会社の書類審査では受からないからです。  それがブローカーを通してくると、そういう審査機関を通さない場合が多いので、応 募者のなかには申告している以上の借金があったり、いろいろ他にも学歴や職歴に問題 があって、このような人たちは日本の受入れ現場ではなかなかうまくいかないのです。 またこういう借金漬けの人ほど日本に行きたがるのです。借金返済で手当も賃金も必ず 使い果たします。こういう人たちは、名前を変えるなど偽装してでも日本の研修制度に 応募してきます。こういうケースを請け負っていくとブローカーも悪質化していくので す。ブローカー自体は偽装行為を考えなくても、研修を要望する側が悪質化して行き、 それにともなってブローカーも悪質化へ引きずり込まれていくのです。その意味でも、 ブローカーが介在してくると、いまおっしゃったように違法行為などマイナス面が非常 に多くなっていく可能性は高いです。  研修・実習生らが日本で得た技術が中国に帰って活かせるかどうかは、非常に難しい 問題があります。それはかなり技術的な問題があって、例えば、酪農に関しては、日本 は大規模な酪農をやっています。例えば、ウシの搾乳は、わずか10分ぐらいの間に数 100頭の分を機械でやらなければなりません。そうしないと、ウシの乳が張って病気の 原因になるということで、機械で素早くやるのです。ところが、中国の農家に行くと、 兼業農家が多いので、そういう所で飼っているウシは5〜10頭です。ほとんど手で搾乳 をやります。そうすると、日本で得た酪農技術は、中国に帰ってもほとんど活用できま せん。  農家もそうです。農家で使っている道具も違うし、栽培の仕方も違うし、ほとんど活 用されることはありません。最近餃子の問題などでもあるように、日本の食品を中国で 生産を行っていますが、研修・実習生たちが帰っていちばん先に求めるのは、中国で日 本企業と契約している工場、あるいは契約している農家です。そういう所に行くと、日 本と同じことをやるし、同じ肥料も使います。そのような形で、そういう所に再就職す るケースがかなりあります。  それは、3年間日本の研修・実習現場で無事にきちんとやってきて、非常に質の高い 人なのです。質の低い人と言うのは変ですが、日本でやってきた技術をそのまま中国に 持ち込んでやれる仕事は、いまの中国の生産現場では少ないのです。ですから、日本で 得た技術を帰国後移転出来ない場合が多いために結局は技術移転という目的を大義名分 として、ホンネでは借金返済あるいは子どもの養育費のためとか、割り切って研修、実 習に日本にやって来る。ホンネとタテマエが乖離している現場で、そこに関わる人たち はかなり努力をされていることは間違いありません。 ○丹野委員 私は森田さんと同じように、基本的にはこういう制度はブローカーを完全 否定してしまうことはできないと思いますし、人を集める仕組みがどこかで必要なので、 どこかに必ずブローカーが生まれてしまうことは避けられないと思います。問題は、そ のときにいいブローカーと悪いブローカー、要するにブローカーをコントロールできな くなるのが困るだけです。コントロールする手段、現地で優良ブローカーと悪質ブロー カーを区別する、とりわけ悪質ブローカーを区別するポイントがもしあるとしたら何で すか。これだけは、どうしても聞きたかったのです。 ○森田氏 簡単には言えませんが、いちばん簡単なのは、ブローカーの中で長くやって いるブローカーと、違う仕事からブローカーを始めた人たちの違いです。長くやってい るブローカーはそれだけ経験がありますから、悪いことといいことはよく知っているの です。だから、悪いこともしますが、いいこともします。悪いことをするかしないかは、 ブローカーに研修の仲介を要望する人次第なのです。日本の企業なり中国の行きたい人 たちです。そういう人たちの要望に合わせていくのがブローカーですから、最初から悪 いことをするブローカーはいないのです。密入国あっせんブローカーの蛇頭もそうです が、正規ルートで実施したいというのがホンネです。  でも、正規ルートで行けない要素が1つ、2つあると、そこは偽装工作しなければい けない。認可された派遣会社や、公的な派遣会社は書類で不備があれば一発ではねてし まうわけですが、ブローカーはその人に応じて不足しているところを偽装するなどして、 合わせていくわけです。そのことをよく知っているブローカー、3年も4年もやってい る派遣会社の人たちは、いいも悪いも全部知っているのです。彼らは、決して最初から 悪いことをしたいと思っているわけではなく、合法的にやりたいと思っています。ここ 数年、外国人研修制度ブームに乗ってこの業務にたずさわったブローカーは、派遣会社 にはねられた人を受け入れるなど、すき間を狙ってくる可能性があるわけです。これは、 日本で言う消費者金融と同じようなものです。銀行で融資を受けられない人が不法な高 利と知りつつ闇の金融機関に手を出す。派遣会社や送出し機関の書類審査などで落ちた 人、面接で日本での研修に向かないと判断された人、あるいは外国人の研修を受け入れ られない企業の相談に乗っているうちに、ブローカーは悪質な行為に手を染めざるを得 なくなるのです。要望に応じて悪質化してくるわけですが、そういうブローカーの実態 を見分けることが重要です。  日本でブローカーの悪質化を見分けるには、日本には中国からの駐在所があります。 駐在事務所は、基本的には1つの省で2、3の派遣会社が同居しているケースがあります が、非常に多くの駐在事務所が同居している所があるのです。10も20も同じ事務所に いると。これは全部ブローカーです。この場合は、悪質にならざるを得ないのです。競 争が激しいので、正規の仕事だけでは運営できない。不正なやり方でも仕事を取る形に なりますから。駐在事務所を設けているとしたら、普通の駐在事務所はそんなに多くの 派遣会社の事務所がないのです。1つのオフィスの中に3つぐらいがせいぜいです。で も、5〜10軒ぐらいになってくると、これは中国の派遣会社の駐在事務所というより、 日本のブローカーの事務所に間違いありません。  もう1つは、先ほど日本と中国国内のブローカーは一本化されていないと言いました が、中国からブローカーが直接日本に営業に来ることもかなりあります。こういうブロ ーカーを日本の組合でもつかみきれません。また、巡回をやっている人がブローカーに 変質することもあります。巡回時に研修生らの不満を聞いているうちに、自分がブロー カーをやれば儲かるかなと思ってしまうケースもあるわけです。だから、ブローカーと いうのは形があって形がないし、ケースによって形態が自在に変わります。ブローカー 経験を積めば積むほど制度の壁や取締機関にたたかれますから、インフルエンザの新型 のようにどんどんブローカー側も強くなっていくのです。 ○今野座長 よろしいでしょうか。今日は、ソン先生と森田先生にお話を伺って議論を しました。最後に、一言これだけは言いたいということはありますか。よろしいですか。 それでは、今日お二人のご意見をお聞きして議論をしたということで終わりたいと思い ます。両先生、どうもありがとうございました。それでは、終了いたします。 (紹介先)職業能力開発局海外協力課外国人研修推進室 TEL:03-5253-1111(内線5952)    03-3502-6804(夜間直通) FAX:03-3502-8932