地域における「新たな支え合い」を求めて
ー住民と行政の協働による新しい福祉ー(概要)
I はじめに
検討の経緯
○ 本研究会は、「地域社会で支援を求めている者に住民が気づき、住民相互で支援活動を行う等地域住民のつながりを再構築し、支え合う体制を実現するための方策」について検討するため設置。
いま、地域福祉を議論することの意義
○ 公的な福祉サービスは、分野ごとに整備され、高齢者福祉や障害者福祉の分野では、質、量とも飛躍的に充実。
○ 地域には、
・ 「制度の谷間」にある問題
・ 多様なニーズについて、全てを公的な福祉サービスでは対応できない
・ 複合的な問題に対し公的サービスが総合的に提供されていない
・ 社会的排除
などの問題がある。
○ 「団塊の世代」が退職年齢に達し、新たに地域の一員として入ってくる。住民が地域での活動を通じて自己実現をしたいというニーズは高まってきている。
○ 地域の生活課題に取り組むことは、取り組む者の自己実現につながるだけでなく、支援される者にとっても地域で自己を実現し、尊厳ある生活が可能となるもの。
○ 地域における身近な生活課題に対応する、新しい地域福祉のあり方を検討することが、緊要な課題。
II 現状認識と課題設定
社会の変化
(少子高齢化の進行と従来の安心のシステムの変容)
○ 少子高齢化が進む中、公的な福祉サービスだけで要支援者への支援をカバーすることは困難。
(地域社会の変化)
○ 地域の連帯感が希薄化し、特に大都市での地域社会の脆弱化は顕著。中山間部では限界集落等の問題。
福祉・医療施策の動向
(近年の福祉施策の方向性)
○ 近年の福祉制度改革の方向性は、
・ 利用者本位
・ 市町村中心
・ 在宅福祉の充実
・ 自立支援の強化
・ サービス供給体制の多様化。
(医療制度改革の動向)
○ 近年の医療制度改革の動向は、
・ 平均在院日数の短縮
・ 療養病床の再編
・ 在宅医療の推進。
地域における多様な福祉課題
(公的な福祉サービスだけでは対応できない生活課題)
○ 軽易な手助けなど制度では拾いきれないニーズ、「制度の谷間」にある者、問題解決能力が不十分で公的サービスをうまく利用できない人、孤立死等身近でなければ早期発見が困難な問題など。
(公的な福祉サービスによる総合的な対応が不十分であることから生じる問題)
○ 複合的な問題のある事例など。
(社会的排除の対象となりやすい者や少数者、低所得の問題)
○ ホームレス、外国人、刑務所出所者など
(「地域移行」という要請)
○ 地域生活に移行する障害者を支える仕組みが必要。
地域で求められていること
(安心、安全の確立)
○ 安心、安全の確立が住民の地域での暮らしの大前提であり、地域社会活性化のためにも喫緊の課題。
(次世代を育む場としての地域)
○ 子どもが生まれ、育つ場としての地域がその機能を十分には果たしていない状況。次世代を育む場として地域社会の再生が必要。
住民の自己実現意欲の高まり
○ 自己実現や自己啓発を果たしたいという住民の意欲が高まっている。
○ 地域社会は「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)を実現する場でもある。
○ 団塊の世代が退職年齢を迎え、地域を中心とした生活を送る者が急増してくる。
○ ボランティア活動を通じて社会に参加し、自己実現したいと考える人も増えてきた。
これからの福祉施策における地域福祉の位置付け
○ 現行の仕組みでは対応しきれていない多様な生活課題に対応するため、地域福祉をこれからの福祉施策に位置付けることが必要。これは、住民の自己実現意欲にも応えるもの。
III 地域福祉の意義と役割
地域における「新たな支え合い」(共助)を確立
○ 基本的な福祉ニーズは公的な福祉サービスで対応する、という原則を踏まえつつ、地域における多様なニーズへの的確な対応を図る上で、成熟した社会における自立した個人が主体的に関わり、支え合う、「新たな支え合い」(共助)の拡大、強化が求められている。
○ ボランティアやNPO、住民団体など多様な民間主体が担い手となり、地域の生活課題を解決したり、地域福祉計画策定に参加したりすることは、地域に「新たな公」を創出するもの。
○ 市場、行政、非営利セクターがそれぞれの弱点を補い合い、住民の生活課題に対応することが必要。
○ 市町村は、住民の福祉を最終的に担保する主体として、公的な福祉サービスを適切に運営。
○ また、市町村は、住民との協働の相手方として、以下の役割。
・ 住民の地域福祉活動のための基盤を整備
・ 専門的な支援を必要とする困難な事例に対応
・ 住民の地域福祉活動と公的な福祉サービスとのつながりを改善
地域で求められる支え合いの姿
○ 支援を必要とする人を「○○ができない人」としてとらえる、これまでの福祉の考え方を転換する。
○ 地域で求められるのは、支援を必要とする人自らの内にある生きる力が引き出されるような、エンパワメントとしての支援。
○ 地域における福祉活動では、ある人が常に支援する側になるのではなく、支援者と被支援者が入れ替わることもある。
地域の生活課題に対応する
(幅の広い福祉概念)
○ 地域福祉の福祉概念は、暮らしのあらゆる場面で起こりうる生活課題に対応する、幅の広いもの。
(方法や対象をあらかじめ限定せず生活課題に対応する)
○ 方法や対象をあらかじめ限定することなく、生活課題に対して柔軟に対応。
(予防、早期発見、早期対応)
○ 最初に住民が近隣のちょっとした変化に気づき、課題として共有し解決したり、専門家や行政に通報し公的な福祉サービスにつなげる。
住民が主体となり参加する場
○ 住民たちが自分たちの発想で、主体的に活動に取り組んでいることそのものが活動の原動力。
○ 住民による地域福祉活動は、社会貢献、自己実現の場でもある。
ネットワークで受け止める
(近隣の関係)
○ 近隣の日常的な関係は、生活問題の発見やいざというときの手助けにつながる基本。
○ 支援を必要とする者の側にも「当事者力」の強化が求められる。
(地縁団体と機能的団体の関係)
○ 自治会・町内会などの地縁団体とNPO、ボランティアなどの機能的団体とは、目的や組織、運営は異なるが、地域における支え合いの担い手という点で共通。
○ 両者の協働のメリットは大きい。
(行政や事業者・専門家と住民との関係)
○ 互いに相手の特性を生かしながら、協働する相手。
○ 生活課題の情報を共有し、困難な事例や専門的な対応を要する課題、公的な福祉サービスで対応することが適当な課題は、行政・事業者や専門家が対応。
地域社会再生の軸としての福祉
○ 住民が地域の生活課題に対する問題意識を共有し、解決のため協働することは、人々のつながりの強化、地域の活性化につながる。
○ 地域福祉は、地域社会の再生の軸になりうる。
IV 地域福祉を推進するために必要な条件とその整備方策
住民主体を確保する条件があること
○ 住民が地域活動を担うと同時に、地域の生活課題を住民が集約し、福祉に関する決定に反映させることが、成功している地域での実例。
○ 市町村も、施策の形成や地域福祉計画の策定に当たり、住民の意思を反映させる仕組みを整備することが必要。
地域の生活課題発見のための方策があること
○ 地域の生活課題には見えにくいものも多く、どのように見つけるかが重要。
○ 地域の住民が、生活の中で近隣の様子の変化に気づいたり、サロンやサークル活動などの多様な活動を展開することを通じて、地域の生活課題を発見。
適切な圏域を単位としていること
○ 地域の生活課題を発見するためには、お互いに顔のみえる環境づくりが必要。
○ 住民の地域福祉活動が活発に行われている地域をみると、市町村の中で重層的に圏域を設定。
○ 身近な圏域で発見された地域の生活課題が、より広い圏域で共有、対応の検討を通して新たな活動の開発につながる。
地域福祉を推進するための環境
(情報の共有)
○ 地域で発見された生活課題を解決につなげるためには、関係者間での情報共有が重要。
○ 地域福祉に圏域各レベルで、関係者のネットワークを形成し、地域の生活課題を共有。
(活動の拠点)
○ 住民が積極的に地域福祉活動を続けるためには、拠点となる場所が不可欠。
(地域福祉のコーディネーター)
○ 住民の地域福祉活動を支援するため、市町村が、一定の圏域に地域福祉のコーディネーターを整備。コーディネーターの役割は、次の通り。
・ 専門的な対応が必要な事例への対応
・ ネットワークづくり
・ 地域に必要な資源の開発
(活動資金)
○ 現在の地域福祉活動は、共同募金の配分金や、社会福祉協議会の会費からの交付金・補助金等によっている。
○ 住民の地域福祉活動の資金は住民自ら負担するか、自ら集めることが原則。
○ 必要な資金を継続的に確保するためには、資金を地域で集めることができる仕組みが必要。
核となる人材
○ 安定的かつ継続的な地域福祉活動には、活動の核となる人材が必要。
○ PTAや青少年団体など、福祉に限らず他の様々な分野に見いだしていくことも必要。
○ 子育て家庭などの若い世代への働きかけも重要。
市町村の役割
(総合的なコミュニティ施策の必要性)
○ 防災・防犯、教育・文化・スポーツ、就労、公共交通・まちづくり・建築など、幅広い視点から、従来の福祉の枠にとらわれない、総合的なコミュニティ施策が必要。
(公的な福祉サービス提供と地域福祉活動の基盤整備)
○ 公的な福祉サービスを適切に提供するとともに、住民の地域福祉活動の基盤を整備するため、
・ 地域福祉計画への住民の新たな支え合いの位置付け
・ 計画策定に当たっての住民参加の仕組みづくり
・ 圏域の設定
・ コーディネーターや拠点の整備等
が求められる。
○ 財源も確保すべき。国も市町村への支援が求められる。
○ 公的な福祉サービスと地域で発見された問題とがうまくつながるよう、公的な福祉サービスの見直しや運用の弾力化が必要。
○ 国も、施策の設計や実施に当たって、市町村への配慮が求められる。
V 留意すべき事項
多様性を認め、画一化しない
○ 本報告書で示している圏域設定などの提案は、あくまでも基本的な考え方を示したもの。
○ それぞれの地域での多様な展開が望まれる。
地域がもっている負の側面
○ 地域社会とのつきあいが煩わしく感じられたり、時として個人の生活に抑圧的にはたらいたりする側面もある。
○ 解決のためには、住民の意識が変わることが不可欠であり、人権意識を高めるとともに、機能的団体や地域の外の専門家なども活動に呼び込み、地域を常に開かれた場とすることが重要。
個人情報の取扱い
○ 地域における生活課題を発見し、解決につなげていくには、関係者の情報の共有が不可欠。
○ 現在、個人情報保護を巡って「過剰反応」といわれる状況が一部にみられる。
○ 個人情報保護法は一定のルールの下での個人情報の適切な利用は否定しておらず、行政機関は冷静に判断し、地域福祉の推進に必要な個人情報を積極的に関係機関と共有することが必要。
VI 既存施策の見直しについて
検証と見直しの観点
○ 地域福祉は、従来の福祉の枠を大きく超えるものであり、防犯・防災、教育・文化、住宅・まちづくり等幅広い分野との連携が必要。
○ 公的な福祉サービスについても、地域福祉の視点に立ち、制度や運用の弾力化、改善が必要。
○ 社会福祉法や民生委員法などで規定されている現行の地域福祉に関する施策についても、新しい地域福祉の推進のため、整合性がとれるよう見直すべき。
○ 見直しの視点は以下の3つ。
・ 住民主体を進める。
・ 「新しい支援」の概念に立つ。
・ これからの地域福祉を進める条件に適合する。
地域福祉計画
○ 住民主体の地域福祉活動を推進するものとなるよう、次の事項を盛り込むべきではないか。
・ 地域の生活課題の発見方策
・ 圏域の設定
・ 情報の共有
・ 地域福祉活動の担い手や拠点
・ 資金の確保
・ 災害時要援護者への支援 など
○ 市町村内に圏域を設定した場合、圏域ごとに「地区福祉計画」を策定し、市町村地域福祉計画に位置づけるべきではないか。
○ 住民参加を一層徹底すべきではないか。
民生委員
○ 福祉委員等との役割分担の明確化、住民とともに活動しやすい環境の整備をすべきではないか。
○ 選任の基盤を拡大し、より幅広い住民に担い手を求めるべきではないか。
○ 名称については、役割や時代にマッチした名称の検討も必要との意見があった一方、堅持すべきとの意見もあった。
○ 委嘱方式も見直すべきという指摘がある一方、大臣からの委嘱が民生委員自身のやる気につながっているとの意見もあった。
ボランティア活動
○ 自己実現意欲を充足し、社会に新たな支え合いを実現するというボランティアの意義を再確認することが必要ではないか。
○ 住民たちが日頃の近所づきあいの中で行っている活動もボランティア活動であることを、明確にすべきではないか。
○ ボランティアセンターのマッチング機能強化、コーディネーター配置推進も必要ではないか。
○ 住民による地域福祉活動を支援する団体として位置付けるべきではないか。
社会福祉協議会
○ 新しい地域福祉推進に役立つ組織として、住民主体となる方向で、機能、組織を見直すべきではないか。
○ 名称も検討する必要があるという意見があった一方、名称の検討は組織、機能の見直しの結果必要があれば行うものという意見もあった。
福祉サービス利用援助事業
○ 判断能力が不十分でサービス利用の能力に欠ける者を支援する事業であり、身近な住民によって発見されたニーズがつながることが重要ではないか。
○ 住民の地域福祉活動を支援する事業として、より積極的に活用されるよう見直すべきではないか。
生活福祉資金貸付制度
○ 低所得者への経済的支援策であり、地域福祉のツールとして明確に位置付ける必要があるのではないか。
○ 活用状況について、地域差や制度のPR不足、手続きの煩雑さなどの問題があるのではないか。
○ 国民へのPR、名称の検討、総合的相談機能の付加、手続の迅速化・簡素化、新たな生活課題に即応した資金種類の新設も重要ではないか。
共同募金
○ 民間福祉活動の財源として、大きな役割を果たしてきたが、平成7年度をピークに募金額は減少傾向。
○ 地域福祉の観点からは、地域福祉活動の自主財源であることを明確にし、寄付金は、集めた住民が自らの地域福祉活動のために使用することを基本とすべきではないか。
○ この観点から、募金集約や配分の仕組み、組織、募金の実施方法も見直すべきではないか。
○ より広い年齢層から募金を集めるため、「赤い羽根」を付けるやり方や「共同募金」という名称についても検討すべきとの指摘もあった。