地域における「新たな支え合い」を求めて
−住民と行政の協働による新しい福祉−

I.はじめに

1.検討の経緯

○ 本研究会は、「地域社会で支援を求めている者に住民が気づき、住民相互で支援活動を行う等の地域住民のつながりを再構築し、支え合う体制を実現するための方策」について検討するため、厚生労働省社会・援護局の求めに応じ2007年(平成19年)10月に設置され、以来11回にわたって議論を重ねてきた。

○ はじめに、地域の要支援者、地域の問題とは何かについて議論を行い、続いて、求められる支援のあり方、住民参加の必要性、地域福祉を進めるために必要とされる条件などについて議論を行ってきた。あわせて、地域福祉に関する既存施策についてもレビューを行った。

○ 議論に当たっては、各地で地域福祉活動を実践している方々や既存施策の実施に携わっている方々からのヒアリングを行うとともに、地域福祉の現場の視察も行った。

2.いま、地域福祉を議論することの意味

○ 歴史的にみると、かつて我が国が農業を中心とした社会であった当時は、「相身互い」、「おたがいさま」といった地域の相互扶助により人々の暮らしは支えられてきたが、戦後高度成長期の中で、工業化、都市化が進み、地域社会に代わって、行政が福祉サービスとして高齢者や障害者、児童や子育て世帯に対する支援を行うようになり、行政が担う領域は次第に広がってきた。

○ 公的な福祉サービスは、戦後の貧困者対策、戦争障害者対策や戦争孤児対策から始まって、次第に高齢者福祉施策、身体障害者や知的障害者福祉施策など、その時々に高まったニーズに応じ、分野ごとに整備されてきた。特に、1990年代以降、高齢者や障害者福祉サービス基盤の計画的な整備が進められ、介護保険法に基づく介護サービスや障害者自立支援法に基づく障害福祉サービスなどの分野では、公的な福祉サービスは、質、量とも飛躍的に充実した。

○ このように、公的な福祉サービスは分野ごとに発展してきたが、制度の谷間にあって対応できない問題があるほか、住民の多様なニーズについて、全て公的な福祉サービスで対応することは不可能であり、また、適切でないことも明らかになってきている。

○ また、例えば、一つの世帯で要介護の親と障害をもつ子がいるなどの複合的な事例や、ホームレスなど社会的排除の対象になりやすい者の存在もあり、従来の公的な福祉サービスが十分に対応できていない問題もある。

○ さらに、専門的な対応を必要とする問題が近隣住民によって発見されても、それが行政や専門機関につなげられず、結果として対応が遅れてしまうという、制度へのアクセスの問題もある。

○ 地域社会の変容や住民意識の変化が進む一方で、終戦後のベビーブームに生まれた世代(いわゆる「団塊の世代」)が退職年齢に達し、職域を生活の中心としていた多くの人々が新たに地域の一員として入ってくる。こうした人々を始めとして、住民が地域での活動を通じて自己実現をしたいというニーズは高まってきている。住民が主体的に福祉に参加することで、住み慣れた地域でこれまでの社会的関係を維持しながら、生きがいや社会的役割をもつことができ、より豊かな生活につながることが期待される。

○ 地域は、隣人たちとの社会的な関係の中で、それぞれの住民が自分らしい生き方を実現していく場であり、歳をとっても、障害があっても、住み慣れた地域で自分らしい生き方を全うできることが、その人の尊厳を支えることになる。その意味で、地域の生活課題に取り組むことは、取り組む側にとって自己実現につながるだけでなく、支援される者にとっても地域で自己を実現し、尊厳ある生活が可能となるものでもある。

○ こうした中で、今後の我が国における福祉のあり方を考える際、公的な福祉サービスの充実整備を図るとともに、地域における身近な生活課題に対応する、新しい地域での支え合いを進めるための地域福祉のあり方を検討することが緊要な課題となっている。そこで、これからの新しい地域福祉の意義や役割、そうした地域福祉を推進するために求められる条件は何か、について考え方を整理し、住民と行政の協働による新しい福祉のあり方を提示することが必要となった。

II.現状認識と課題設定

1.社会の変化

 (少子高齢化の進行と従来の安心のシステムの変容)

○ 我が国の少子高齢化は他の先進諸国に例をみないスピードで進行しており、2005年(平成17年)から2030年(平成42年)にかけて65歳以上高齢者人口は1000万人以上、率にして40%以上増える一方、それを支える15〜64歳人口は約1700万人、20%以上減るものと推計されている。

○ 出生率が仮に今後上昇したとしても、新たに生まれる人口は2030年までは制度の支え手としては期待できず、担い手の大幅な減少の中で、大幅に増える高齢者に対する福祉を支えていかなければならない。

○ 同時に、高齢者の一人暮らし世帯の数は、2005年(平成17年)の387万世帯から2030年(平成42年)には717万世帯と、2倍近くに増加すると推計されており、生活リスクに対して脆弱な世帯の増加を示している。

○ 現在の高齢者・障害者・児童を対象とする給付の中核である介護保険給付費・支援費・措置費の合計額の中で、7割以上が介護保険給付費となっていることをみても、公的な福祉サービスだけで要援護者への支援をカバーすることは困難であるといわざるを得ない。

○ これまで安心のシステムとして機能してきた、家族内の助け合いと企業の支えについても、少子高齢化の進行、核家族化や単身世帯の増加、引きこもりなど家族内の紐帯の弱まり、終身雇用慣行の変化や非正規雇用の増加、若年層の雇用情勢の悪化、企業の経費削減などが進む中で、これまでのような支えは期待できなくなってきている。

(地域社会の変化)

○ 高度成長期における工業化・都市化の中で地域の連帯感が希薄化し、さらに成熟社会を迎える中で、これまでのような地域の活力を期待することも難しい。人々の移動性や流動性が高まり、個人主義的傾向も強まる中で、「ご近所」の人間関係が形成されず、地域の求心力の低下を招いている。特に大都市においては、オートロックのマンションに民生委員が入れないという状況もあるように、地域社会の支え合う関係の脆弱化が著しい。

○ しかし、地域社会における支え合いの脆弱化は都市部だけの現象ではない。中山間地においては、若年層を中心とした人口流出により地域社会の構成員が減少し、特に限界集落(過疎化などで人口の50%が65歳以上の高齢者になり、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になった集落)のようなところでは、地域社会の維持さえ難しい状況となっている。

2.福祉・医療政策の施策の動向

(1)近年の福祉制度改革

○ まず、近年の福祉制度改革について、高齢者や障害者といった分野別に概観してみる。

(高齢者福祉)

○ 1990年代初めから、在宅福祉に力を入れたゴールドプラン、新ゴールドプランが策定され、数値目標を掲げ総合的かつ計画的に基盤を整備するという形で、高齢者福祉施策は進められてきた。

○ こうした流れは、1997年(平成9年)に介護保険法が制定され、2000年(平成12年)から実施されたことにより加速され、高齢者介護のサービス量は1990年頃に比べて飛躍的に増加するとともに、多様なサービス供給主体が参入することとなった。また、介護保険制度では、市町村が保険者となって運営や財政責任を担うことになり、福祉における市町村の役割の重要性を一層高めるものとなった。

○ さらに、2005年(平成17年)に行われた介護保険法の改正により、小規模で多様かつ柔軟なサービスを展開し、一人一人ができる限り住み慣れた地域での生活を継続できるよう、小規模多機能型介護、夜間対応型訪問介護などの「地域密着型サービス」が創設されるとともに、地域包括ケア体制を支える地域の中核機関として、新たに、(1)総合相談支援、(2)虐待の早期発見・防止など権利擁護、(3)包括的・継続的ケアマネジメント支援、(4)介護予防ケアマネジメント、の4つの機能を担う「地域包括支援センター」の設置を進めることとされた。

(障害者福祉)

○ 高齢者福祉に比べると立ち遅れているといわれていた障害者福祉の分野についても、2000年(平成12年)に入ってから様々な改革が行われ、利用者が自らサービスを選択することを可能とする支援費制度を経て、2005年(平成17年)には障害者自立支援法が制定された。

○ これにより、身体障害、知的障害、精神障害といった障害の種別にかかわらず、一元的に福祉サービスを利用できる仕組みが構築され、市町村が主体性を発揮して、地域のニーズに応じて総合的かつ計画的にサービスを提供する体制が整えられた。

○ また、同法では、「障害があっても普通に暮らせる地域づくり」を目指し、入所施設からグループホーム等地域生活への移行や一般就労への移行を進めていくとともに、都道府県や市町村において、福祉、保健・医療、教育、労働など地域の関係者から構成される「自立支援協議会」を設置するなど、障害者の相談支援の体制整備も図られることとなった。

(児童福祉)

○ 児童福祉制度は、1998年(平成10年)からは、保育所の利用手続きが、市町村の措置から、保護者が希望する保育所を選択する仕組みに改められた。また、2005年(平成17年)には、子育てに関する情報提供や助言を行う子育て支援事業が児童福祉法上位置付けられ、市町村の実施努力義務が規定された。

○ また、現在、市町村において、地域における子育て支援のため、子育て親子が交流する常設のつどいの場を設けたり、子育てに関する専門的な支援を行う地域子育て支援拠点事業などが実施されている。

○ 児童虐待防止対策については、2004年(平成16年)の児童福祉法及び児童虐待の防止等に関する法律の改正により、児童虐待の通告先等としての市町村の役割が明確化されたほか、地方公共団体において、児童虐待を受けた児童等の状況の把握や情報交換を行うため、児童虐待防止の関係機関を構成員とする要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)が設置できることとされた(2005年(平成17年)の法改正により、協議会設置について努力義務。)。

(在宅医療の推進)

○ 2006年(平成18年)には医療制度改革が行われ、我が国の医療の問題とされている平均在院日数の短縮が強く叫ばれ、療養病床の再編が行われるとともに、その受け皿としての在宅医療の推進が基本的な方向となっている。

(2)近年の福祉施策の方向性

○ 我が国の福祉は、このように多様な広がりと変化を示してきたところであるが、特に近年の福祉サービスのあり方をみると、次のような方向性を志向してきたといえる。

(1) 利用者本位の仕組み

サービスの利用方法が、行政機関がサービス内容等を決定して提供する仕組み(措置制度)から、利用者がサービスを選択して自らの意思に基づき利用する利用者本位の仕組み(契約制度)へと変化してきた。

(2) 市町村中心の仕組み

住民に最も身近な地域において、必要なサービスをきめ細かく提供できるように、市町村を中心にした仕組みへと変化してきた。1990年(平成2年)の福祉制度の改正により、高齢者福祉及び身体障害者福祉を中心に市町村が権限を持って住民福祉の向上に努める仕組みが確立し、市町村が主体となって、それぞれの地域の特性に応じた福祉の充実に取り組むことが重要となった。

(3) 在宅福祉の充実

可能な限り住み慣れた地域や自宅で生活をしたいという人々の要望や、障害のある人もない人も地域でともに生活している状態こそが普通であり、障害のある人もまた家庭や地域において普通の生活をすることができるようにすべきであるというノーマライゼーションの考え方が普及し、在宅生活を支援する在宅サービスの充実が図られてきた。

(4) 自立支援の強化

介護保険法に基づく介護サービス、障害者自立支援法に基づく障害福祉サービスともに、高齢者や障害者の自立を支援するという基本的な考え方の下、提供されている。また、生活保護制度においても、被保護世帯に対し自立支援プログラムを策定し、それに沿った支援を行うという取組みが進められている。

(5) サービス供給体制の多様化

行政機関や社会福祉法人、社会福祉協議会が中心であった供給体制から、民間企業や非営利団体、住民団体等の様々な供給主体が併存する体制へと変化してきた。

また、介護保険制度の創設によりケアマネジメントが導入され、多職種が協働して高齢者を支える仕組みが定着しつつある。

  (全体的な方向性)

○ 以上のように、近年の福祉施策は、個人の尊厳を尊重する視点から、個々人の生活全体に着目し、たとえ障害があっても、要介護状態になっても、できる限り地域の中でその人らしい暮らしができるような基盤を整備していく、というのが基本的な考え方であり、それに基づき、地域での自立支援、生活の確保、施設や病院から地域への移行が進められている。

3.地域における多様な福祉課題

○ このように、特に高齢者・障害者の分野においては、公的な福祉サービスは飛躍的な発展をとげてきたといえる。しかし同時に、地域においては、公的な福祉サービスだけでは対応できない生活課題や、公的な福祉サービスでの総合的な対応が不十分であることなどから生まれる問題、社会的排除や地域の無理解から生まれる問題がある。

(公的な福祉サービスだけでは対応できない生活課題)

○ 公的な福祉サービスだけでは対応できない生活課題としては、

(1) 一人暮らし高齢者や障害者等のゴミ出し、電球の交換といった軽易な手助けのように、事業者による公的な福祉サービスで対応するには費用等の点で効率的ではないもの、あるいは、映画鑑賞や墓参りの付き添いなど、公的な福祉サービスで対応すべきかどうか人によって判断が分かれる要請といった、制度では拾いきれないニーズ

(2) 様々な問題を抱えていながら、従来の公的な福祉サービスで定められているサービス給付要件に該当しない、「制度の谷間にある者」への対応

(3) 引きこもりから孤立死に至る単身男性、消費者被害に遭っても自覚がない認知症の一人暮らし高齢者など、自力で問題解決に向かわず、または問題解決能力が不十分で、公的な福祉サービスに関する情報があっても理解や活用が難しく、かつ、家族や友人など身近な人々の手助けが期待できない状態にある人々への対応

がある。これらは、地域で生活している人にしかみえない地域の生活課題であったり、身近でなければ早期発見が難しい場合が多い。

(公的な福祉サービスによる総合的な対応が不十分であることから生じる問題)

○ 公的な福祉サービスによる総合的な対応が不十分であることから生じる問題としては、例えば、一つの世帯で、要介護の親と障害の子がいたり、ドメスティックバイオレンスの被害に遭っている母親と非行を行う子どもがいる、といった複合的な問題のある家庭に対し、必要なサービスを的確に組み合わせて提供できておらず、一つの家庭を支えきれていない、という問題である。

(社会的排除の対象となりやすい者や少数者、低所得の問題)

○ また、社会的排除の対象となりやすい者への対処、少数者への地域の無理解からくる問題や、場合によっては偏見・差別に至るという問題もある(外国人、刑務所から出所した者など)。また、ニート、ホームレスといった新たな貧困を含む低所得の問題も、地域にある問題としてもとらえることができる。

(「地域移行」という要請)

○ 障害者自立支援法の下、2011年度(平成23年度)末までに1.9万人の障害者が福祉施設から地域生活に移行し、3.7万人の精神障害者が病院から地域に移行することが見込まれるなど、施設・病院から地域への移行が進められており、これら地域生活に移行する人たちを支える仕組みが求められている。

4.地域で求められていること

(安心、安全の確立)

○ 地域社会の弱体化が進む中、大規模地震など自然災害にどのように対処し、犯罪や事故をどのように防ぐかは住民の最大の関心事である。地域社会における安心、安全の確立が住民の地域での暮らしの大前提であり、地域社会の活性化のためにも喫緊の課題となっている。

(次世代を育む場としての地域社会の再生)

○ 地域社会は、子供が生まれ、育つ場でもある。ところが、働き盛りの世代が男女ともに働きに出かけ、日中地域にいないという状況の中で、子育てのために地域がまとまったり、子どもに地域の一員としての意識をもたせたり、地域の人々が参加し、ともに行う行事を継承したりすることすら難しくなっている。また、子育て中の親には、地域で相談できる人がおらず、子育て不安をもっている者も多く、子供が生まれ、育つ場としての地域がその機能を果たしていない状況にある。若年層が地域に受け入れられず、居場所がないという状況もあり、次世代を育む場として地域社会を再生することが強く求められている。

5.住民の自己実現意欲の高まり

(住民の自己実現意欲の高まりと地域参加)

○ 高齢化、長寿化の進展等から、住まいのある地域社会に目が向いたり、労働時間の短縮による自由時間の増大や現役引退後の時間の増大等から、地域社会をより住みやすいものにしていこうという意識が高まっている。そうした意識の高まりを背景に、地域における活動に参加することを通じて、自己実現や自己啓発を果たしたいという住民の意欲が高まっている。

○ また、仕事のやりがいや充実と、家庭や地域での多様な生き方を両立させる社会をめざし、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)の必要性が強調されている。地域社会は、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が実現できる場であることが求められている。

○ 今後、団塊の世代が退職し、職域を中心とした生活から地域を中心とした生活を送る者が急増してくる。今まで仕事を通じて充実感や達成感を得てきた住民の自己実現意欲が、今後は地域活動に向けられるケースも増えてこよう。

○ また、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災以来、ボランティア活動の重要性が認識され、ボランティア活動を通じて社会に参加し、自己を実現したいと考える人が増えてきた。全国の社会福祉協議会が把握しているボランティア数はこの10年間で約1.5倍になり、内閣府の調査によれば、今後NPOやボランティアに参加したいと考えている人は5割を超えている。

○ 地域社会における様々な生活課題に対応することは、支援を要する者が地域でその人らしい生き方を全うすることで自己実現を可能にすると同時に、支援する者も地域における活動を通じて自己を実現することでもある。住民が、時と場合に応じて、支え、支えられるという支え合いの関係を構築する、いわば相互の自己実現を地域で可能にしていくことが求められている。

6.これからの福祉施策における地域福祉の位置付け

○ 以上に述べたように、地域には、現行の仕組みでは対応しきれていない多様な生活課題があり、これらに対応する考え方として、地域福祉をこれからの福祉施策に位置づける必要がある。これらの生活課題は、誰もがいつかは遭遇する課題であり、その意味では、これらの課題を自らの問題であると認識し、住民間でそれを共有して解決に向かうような仕組みを作っていくことは、我々皆のこれからの安心のための準備として必要なことである。そして、このような仕組みをつくっていくことは、住民の自己実現意欲を生かすことにもなる。

○ そこで、次章以降において、あるべき地域福祉の意義と役割、推進するために必要な条件や整備方策を論じていくこととしたい。

III.地域福祉の意義と役割

1.地域における「新たな支え合い」(共助)を確立する

○ かつて、多様な生活課題に対しては、家族や地域共同体による助け合いによって対処してきたが、工業化、都市化といった社会の変化、核家族化などの家族の変容の中で、これらの助け合いの機能の多くが、市場から購入するサービスや行政が提供する公的な福祉サービスとして、次第に外部化されていった。そして、特に都市部において、地域の助け合いの機能は次第に縮小し、農村部においても、高齢化や人口流出によって、そのような機能が停滞しているところも多い。

○ しかし、これまで述べたように、地域における全ての生活課題に対し、公的な福祉サービスだけでは対応することができないことが明らかになってきている。基本的な福祉ニーズは公的な福祉サービスで対応する、という原則を踏まえつつ、地域における多様な生活ニーズへの的確な対応を図る上で、成熟した社会における自立した個人が主体的に関わり、支え合う、地域における「新たな支え合い」(共助)の領域を拡大、強化することが求められている。

○ このような動きの中で現れたのが、ボランティアやNPO、住民団体による活動である。これは、地域を、高齢になっても障害があっても、尊厳をもって自分らしい生き方ができ、また、安心して次世代を育むことのできる場にするという、住民共通の利益のために、行政だけでなく多様な民間主体が担い手となり、これらと行政とが協働しながら、従来行政が担ってきた活動に加え、きめ細かな活動により地域の生活課題を解決する、という意味で、地域に「新たな公」を創出するものといえる。

○ さらに、住民団体、ボランティア、NPOなどがより主体的に地域の生活課題に取り組むためには、地域福祉計画策定に参画するなど、住民参加を進めていく必要がある。このように、多様な主体が、地域福祉活動の担い手になるだけでなく、地域の公共的決定に関わることも、「新たな公」としての性格を強めるものである。

○ もちろん、ボランティア、NPO、住民団体などの非営利セクターには、資源や専門的知識、運営のノウハウが十分ではない、などの弱点があり、市場、行政、非営利セクターがそれぞれの弱点を補い合って、住民の生活課題に対応する必要がある。

○ 地域において新しい支え合いが広がっていくことは重要なことであるが、市町村の役割はいささかも減るものではない。まず、市町村は、住民の福祉を最終的に担保する主体として、公的な福祉サービスを適切に運営し、必要なサービスを住民に提供する必要がある。

○ また、地域における新たな支え合いは、住民と行政との協働の下に行われるものであり、行政は協働の相手方として重要な役割を果たす。具体的には、まず、市町村は、住民が地域福祉活動を積極的、安定的に続けられるよう、その基盤を整備する必要がある。また、専門的な支援を必要とする困難な事例に対応するのも市町村の役割であり、そのような事例が適切に公的な福祉サービスにつながるよう、住民等と市町村との間で生活課題や公的サービスの内容等について情報を共有する仕組みを整備する必要がある。その際、地域における多様な生活課題に応えるために、公的サービスの運用弾力化等を通じて、住民の地域福祉活動と公的な福祉サービスとのつながりを良くしていくことが重要である。

2.地域で求められる支え合いの姿

○ 歳をとっても、障害をもっても、誰しもが住み慣れた地域の中で、自分らしい生き方を全うしたいものである。同じ地域に住む、困難を抱えた隣人を支えるとき、その人がもっているその人らしさを最大限発揮できるようにすることが、その人の尊厳を支えることになる。

○ しかしながら、これまでの福祉は、支援を必要とする人を「○○ができない人」として捉え、できない部分を補うという考え方が強かったといえる。それに対し、これからの福祉に求められる支援は、支援を必要とする人を「○○ができない人」と一面的に捉えるのではなく、生きる力を備えた存在として捉え、その人自らの内にある生きる力が引き出されるような、エンパワメントとしての支援である。

○ 住民により実際に行われている地域福祉活動をみてみると、例えば、高齢者のサロンが子育て家庭の拠りどころとなったり、精神障害のある青年が認知症高齢者のミニデイサービスにボランティアとして参加するというように、担い手と受け手の境界線があいまいで、時には入れ替わることもある。片方が一方的に支援する側に回るものではなく、それぞれが自分の持ち味を生かして支え合うことが可能であり、エンパワメントとしての支援が実践されている。

3.地域の生活課題に対応する

(幅の広い福祉概念)

○ 先に述べたように、公的な福祉サービスでは対応が難しい地域の生活課題として、電球の交換やゴミ出しを頼める人がいない、買物に行けても買った物を持って歩けない、一人暮らしが寂しいという心の問題、被害の自覚なく不要なものを購入させられ続ける悪質商法の被害といったことから、孤立死などの深刻な問題、災害時に身体が不自由な人や幼児のいる家庭の避難に対応できるかなど、多様な課題がある。

○ 住民にとっては、地域での普通の暮らしを妨げるものが生活課題であり、暮らしの周辺のあらゆる場面で起こりうるものである。そのように考えると、地域福祉の福祉概念は、公的な福祉サービスにおける福祉からイメージされるものよりも自ずと幅の広いものになる。

(方法や対象をあらかじめ決めず生活課題に対応する)

○ 住民による地域福祉活動をみると、声かけや家事の手助け等の日常生活における簡易な個別支援活動やサロン、会食会などグループでの支援活動などが実施されている。

○ 幅の広い生活課題に対応することは、方法や課題をあらかじめ限定することなく、生活課題に対して柔軟に対応していくことになり、方法や対象にこだわりの少ない多様なメニューを実施することになる。

(予防、早期発見、早期対応)

○ 日常的に住民が活動している地域においては、最初に住民が近隣住民のちょっとした変化に気づき、それを解決すべき課題として共有し解決していく、あるいは、専門的対応が必要な場合には、住民が専門家や行政に通報し、公的な福祉サービスにつなげる、ということが行われている。また、地域の生活課題に応じるためには、住民による地域福祉活動と公的な福祉サービスがうまくつながるようにする必要があり、例えば、公的な福祉サービスを総合的に提供できるよう運用を改善したり、適切なメニューがない場合には新たな事業の開発につなげていくのも、地域福祉の意義である。

○ なお、問題が深刻であればあるほど、当事者が周りからの関わりを拒絶する場合が往々にしてみられるが、少なくとも、日頃から地域内に、ちょっとした変化に気づくような関係があれば、そうした情報が近隣住民に共有され、必要な場合には専門的な支援につなげることが可能であり、日常からの関係が、問題の深刻化のリスクを軽減することになる。

4.住民が主体となり参加する場

○ 住民の地域福祉活動が活発な地域をみてみると、サロンの参加者の食事の偏りに気づくことから配食サービスを始めるというように、活動の深まりとともに事業が拡大し、地域の住民の主体的な活動が展開されている。これらの活動は、地域の生活課題に敏感に反応した住民たちが、自分たちで発案し、主体的に取り組んでいるからこそ、ニーズに対し、柔軟かつ迅速に応えることができ、しかも長続きしているものと思われる。

○ これらの地域においては、住民たちが自分たちの発想で、主体的に活動に取り組んでいることそのものが活動の原動力になっている。住民による地域福祉活動は、活動を通じて社会貢献ができ、自己実現ができる場でもある。

5.ネットワークで受けとめる

○ 地域での生活は、親族や友人、近隣などの様々な人々や多様な社会サービスとの関係で成り立っており、地域の生活課題に対処するためには様々な関係者が対応することが必要である。その意味で、地域福祉の目標は、地域においてあるべきネットワークが形成されている、互いに助け合えるような状態にあることであるといえる。

○ 地域の生活課題に対処するための関係者は、住民、自治会・町内会、ボランティア、民生委員やNPO、PTA、事業者や社会福祉協議会、企業や商店、行政など多岐にわたるが、それぞれの関係を整理すると次のとおりとなる。

(近隣の関係)

○ 地域における最も身近な関係は、隣近所のような近隣である。近隣には、日常的な近所づきあいの中で、それとなく、支援が必要な人の見守りをしたり、話し相手になったり、ちょっとした手助けをしたりしている場合も多い。

○ こうした活動をしている者の多くは、自らの活動をボランティア活動や福祉活動とは意識していないが、このような日常的な関係が、生活課題の発見やいざというときの手助けにつながる基本であり、重要な役割をもっている。そして、このような日常的な近所づきあいの中で発見された問題が、専門的な対応を必要とするものである場合には、問題を近隣にとどめることなく、専門機関や行政の必要なサービスにつなぐことが重要である。

○ また、近隣での日常的な助け合いにおいては、支援を必要とする人が自ら適切な支援者を見つけ出していることも多い。さらに、同じ問題をもった者がグループをつくって助け合っている例もみられる。支援が必要な者の側に、このようないわば「当事者力」があることも、近隣の助け合いがうまくいく鍵であり、「当事者力」の強化が求められる。

(地縁団体と機能的団体の関係)

○ 自治会・町内会は地縁に基づいた組織であり、住民の生活を多くの側面で支えている。近年組織率が落ちたといわれるものの、今なお地域において重要な役割を担う団体である。一方、NPO・ボランティアは、ある特定の目的をもって組織された機能的な団体として、近年意欲的な活動が増えてきており、これからの地域福祉の担い手としても期待されている。

○ 自治会・町内会は、区域内を網羅した活動を安定して担い、市町村との関係も密接である。しかし、様々な活動が自治会・町内会を単位として行われている地域も多いが、都市部においては役員が1年〜2年交代の持ち回りであることも多く、定型的な活動が主になっている例も多い。一方、NPO・ボランティアは、目的に賛同する自発的なメンバーによって開拓的で即応的な活動ができるが、一般的に地域との関係は弱く、両者が十分に連携していない地域が多いといわれている。

○ しかしながら、両者は地域における支え合いの担い手という点では共通しており、活動の目的や運営、担い手が異なる性格であるからこそ、情報や企画の交流や、後継者の確保の面からも、両者の協働のメリットは大きい。

(行政や事業者・専門家と住民との関係)

○ 住民は、地域で生活している人にしかみえない地域の生活課題、身近でなければ早期発見が難しい問題をみつけ、迅速に対応することができるが、資源や専門的知識が十分ではないといった限界がある。行政や事業者・専門家は、地域で発見された生活課題で、困難な事例や専門的な対応を要する課題について、公的な福祉サービスによって対応することができる。行政や事業者・専門家と住民とは、互いに相手の特性を生かしながら、地域の生活課題の発見、解決という共通の目的のために協働する相手である。

○ 社会的排除の対象となりやすい者の問題は、住民による対処が困難であることも多く、その場合にも行政が専門的な対応をする必要がある。地域に受け入れられず、少数者の問題(外国人、刑務所出所者など)でも、住民の無理解など意識の問題が関わってくることから、行政の積極的な関与が求められることも多い。

○ 生活課題を発見した住民が行政や事業者・専門家の対応を必要とする場合、住民の側で地域での多様な生活課題に対処しようとしていることに合わせ、行政の側でも、住民の福祉活動と公的な福祉サービスとがうまくつながるよう、地域の生活課題や公的な福祉サービスに関する情報を住民と行政とで共有できる仕組みや、多様な問題に行政が一元的に対処できる仕組みが求められる。例えば、地域内で公的な福祉サービスの一元的な窓口などがあれば、住民が何カ所もの窓口を回ることなく必要な福祉サービスにアクセスすることができる。

6.地域社会の再生の軸としての福祉

○ 我が国が急速な高度成長を遂げる中で、世代間の価値観の差の拡大、核家族化、人々の移動性・流動性の高まりを背景として、地縁や血縁といった伝統的な紐帯が弱くなってきた。さらに、我が国が成熟社会に入り、人々が個人の自由を求める中で、家族の中でも一人一人が孤立し、少子高齢化の中で世帯のさらなる少人数化が進む、など地域社会を構成する基本である家族の紐帯も弱まってきている。このような中で、地域での人と人とのつながり、地域への帰属意識が低下し、地域社会の脆弱化が進んできた。このことは、自治会・町内会の組織率の低下、それ以外の地域でも自治会・町内会の役員や民生委員の確保が困難であるといったことにも現れている。

○ しかし、これまで述べたように、地域は人々が暮らす場であり、子育てや青少年の育成、防災や防犯、高齢者や障害者の支援、健康づくり、そして人々の社会貢献や自己実現など、様々な活動の基本となる場である。特に、少子高齢化の中で世帯の少人数化や家族の機能のさらなる低下が進み、住民が地域の交流や支え合いに期待するところは大きい。また、人々のつながりができ、地域のまとまりが高まると、自殺や非行などいわゆる逸脱行動が減るといわれており、地域社会を再生することは、現代社会が抱えている様々な問題を解決する有効な方法の一つでもある。

○ 住民が地域の生活課題に対する問題意識を共有し、解決のために協働することは、地域での人々のつながりの強化、地域の活性化につながることが期待され、その意味で、地域福祉は、地域社会を再生する軸となりうるといえる。

IV.地域福祉を推進するために必要な条件とその整備方策

○ それでは、以上のような意義と役割をもつ地域福祉を実現するためには、どのような条件が必要だろうか。また、そのような条件を整備するためにどのような方策があるのだろうか。

1.住民主体を確保する条件があること

○ 住民の地域福祉活動が活発に行われている地域をみると、住民自ら地域の活動計画を策定し、それを市町村地域福祉計画に反映する取り組みが進められている。住民は地域活動を担うと同時に、地域の生活課題をよく知る者としてそれらを集約し、活動の中で得た自分たちの考えを市町村の福祉に関する決定に反映させることによって、活動をさらに発展させている。

○ 市町村は、地域福祉を進めるためには、市町村行政の施策の形成や地域福祉計画の策定に当たって、地域における福祉活動に主体的に参加する住民の意思を反映させるような仕組みを整備する必要がある。

○ 住民が参画し、適切な判断をするためには、社会サービスについての情報や、市町村行政についての情報を得ていることが必要である。地域福祉活動を行う住民に対し、市町村などから福祉に関する必要な情報を提供するための仕組みの整備も必要である。

2.地域の生活課題発見のための方策があること

○ 地域福祉で取り組む課題には、自力で問題解決に向かえない状態にある人の問題など、そもそも地域であっても見えにくいものも多く、これらの課題をどのように見つけるかが重要である。さらに、発見したニーズを再び潜在化させないため、解決すべき課題としてとらえ、共有し、解決に向かう仕組みがあることも重要である。

○ 地域の住民活動をみると、生活の中で近隣の様子の変化に気づくといったことのほかにも、サロンや趣味のサークルなどの活動を通して、それまでみえていなかったニーズを見つけ出している。これらは、できるだけ多くの様々な人々を呼び込めるよう、囲碁・将棋や合唱など、福祉に限らない多様な活動が実施されており、参加者の生活課題を発見する仕組みとなっているとともに、参加者を通じて他の生活課題のある人の情報を得る仕組みとしても働いている。このような住民の活動がさらに進めば、住民と行政・専門家とが情報交換ができる場にもつながっていく。

○ 生活課題を抱えたときに、自ら問題解決に向かえない状態にある人々は、地域からも孤立しやすく、地域であってもみえにくい。それらは、住民による地域福祉活動のほか、民生委員等による幅広な訪問活動、市町村による調査などで発見される場合もある。

3.適切な圏域を単位としていること

○ 地域福祉活動では、地域に生活する住民にしかみえない生活課題や、身近でなければ早期発見しにくい課題に取り組むことになる。したがって、地域福祉の活動は自ずとそのような課題がみえるような、小さな圏域を単位として行われることになる。地域の生活課題を発見するためには、いわばお互いに顔のみえる環境づくりが必要であり、それができるような圏域が自ずと地域福祉活動の圏域となる。

○ 住民の地域福祉活動が活発に行われている地域をみると、市町村の中で重層的に圏域が設定され、例えば、

(1) 班、組といわれるような近隣の単位で見守り等の活動

(2) それよりも大きな圏域である自治会・町内会の単位でサロン活動や防犯・防災活動

(3) さらに大きな圏域である校区で、地域福祉に関わる者の情報交換や連携の場(プラットフォーム)の設定、住民の地域福祉活動に対する専門家による支援、地域福祉計画の作成や市町村地域福祉計画作成への参画

(4) さらに市町村の支所の圏域、そして市町村全域と圏域が広がるにつれて、より専門的な支援や公的な福祉サービスの提供、広域的な企画、調整

といった活動が行われている例がみられる。そして、最も身近な圏域で発見された地域の生活課題が、より広い圏域で共有化され、対応の検討を通して新たな活動の開発につながっている。

○ なお、ここに挙げた考え方は単に一つの例であって、圏域設定の考え方は一つではなく、都市部であるか、農村部であるかによっても異なり、また、自治会・町内会の単位がより具体的な活動を行う圏域となる場合もある。

○ 以上、住民の地域福祉活動の圏域として市町村内の圏域について論じてきたが、問題領域によっては市町村レベルで対応できない事例も考えられる。例えば、難病の例などのように、市町村レベルでは対象者の数が少なく、また、高い専門性が求められることから、いわゆる二次医療圏や都道府県単位での対応が必要な場合である。

4.地域福祉を推進するための環境

(情報の共有)

○ 地域で発見された生活課題を解決につなげていくためには、関係者間で情報が共有されることが重要である。

○ 地域福祉活動が活発に行われている地域をみると、地域福祉の圏域の各段階で、地域福祉に関わる者のネットワークが形成され、地域の生活課題の情報が共有されている。身近なレベルの圏域においては、地域の要支援者を支えるため、隣人・友人やボランティア、民生委員などによる情報共有が行われ、専門的対応が必要な事例については、より広域的な圏域でのネットワークで共有され、公的な福祉サービスにつなぐことが行われている。

○ このような情報共有を行うネットワークは、後ほど述べる地域福祉のコーディネーターによって形成が促進されることが期待される。

(活動の拠点)

○ 住民による地域福祉活動が積極的にその活動を続けていくためには、拠点となる場所が不可欠である。これにより、

・ 住民が気軽に集まることができるようになり情報共有や協議が進む

・ サロンや会食会などの具体的な活動に着手しやすい

・ 連絡先をPRできることにより相談が受けやすくなり、住民と関係機関などの関係者間の連携が進む

ことになる。

○ すでに活動している事例をみると、公民館、自治会館、空き店舗、空き家、廃校となった建物や余裕教室等の学校施設、あるいは個人宅など様々な形態があるが、拠点の要件として重要なことは、いつでも立ち寄れて連絡がとれることであり、電話や机などの物品が整備された常設の場所であること、いつでも誰かがいるということである。

○ また、福祉施設には空間があり、職員がおり専門性もある。福祉施設が地域の拠点として住民に活用されていくことは、開かれた施設づくりの点からも積極的に取り組まれるべきである。

(地域福祉のコーディネーター)

○ 住民の地域福祉活動は住民同士の支え合いであるが、時には困難にぶつかることや、住民では対応できない困難で複雑な事例にぶつかることもある。また、住民の地域福祉活動がうまく進むよう、住民間や住民と様々な関係者とのネットワークづくり、地域の福祉課題を解決するための資源の開発を進める必要もある。

○ したがって、住民の地域福祉活動を支援するため、一定の圏域に、専門的なコーディネーターが必要である。このコーディネーターは、

(1) 専門的な対応が必要な問題を抱えた者に対し、問題解決のため関係する様々な専門家や事業者、ボランティア等との連携を図り、総合的かつ包括的に支援する。また、自ら解決することのできない問題については適切な専門家等につなぐ

(2) 住民の地域福祉活動で発見された生活課題の共有化、社会資源の調整や新たな活動の開発、地域福祉活動に関わる者によるネットワーク形成を図るなど、地域福祉活動を促進する

などの活動を実施することが求められる。

○ コーディネーターは、住民の地域福祉活動を推進するための基盤の一つであることから、市町村がその確保を支援することが期待される。

(活動資金)

○ 住民が地域福祉活動を行うに当たっては活動資金が必要である。現在、行われている地域福祉活動をみてみると、共同募金の配分金や社会福祉協議会の会費からの交付金・補助金(共同募金と社協会費の一中学校区あたりの収入は合わせて約340万円)、個人や企業からの寄付金などが当てられている。

○ 住民の地域福祉活動は、住民同士の支え合いであることから、その資金は住民自ら負担するか、自ら集めることが原則である。そこで、必要な資金を継続的に確保するために、資金を地域で集めることができる仕組みが必要である。

○ また、活動を維持するために不可欠な、拠点や事務局を維持するための運営費への寄付は、寄付する側の理解が得にくいとの指摘がある。活動財源として、事業費だけでなく運営費への寄付についても積極的に募り、人々の理解を進めることが必要である。

5.核となる人材

○ 住民による地域福祉活動が安定し、継続的であるためには、活動の核となる人材が必要である。

○ 活動の核となる人材は、PTAや青少年団体など、福祉に限らず他の様々な活動を通してノウハウを身に付け、社会貢献に意欲をもつ人々の中にみいだしていくことが必要である。特に、将来的に活動を担う人材として、子育て家庭等の若い世代に積極的に働きかけ、早い時期から地域福祉活動との関わりをつくるなど人材の育成に取り組むことも重要である。さらには、将来地域を支えることになる子どもたちや中・高校生、大学生などに対しては、学校や地域におけるボランティア体験などを通じて、地域福祉への関心を高めることも考えられる。

○ 市町村においては住民を福祉委員として委嘱し、地域の見守り活動への参加を求めるなどの取り組みがあるが、担い手を発掘する上では、地域のために何かしたいと考えて自ら参加する住民のほかに、このような、依頼されて一定期間役員として活動する人々の中から、資質のある人を見つけ出していく方法もある。

○ また、働き盛り世代や団塊の世代の参加を進めるためには、働きながら、地域でも活動できるような仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が実現できるような環境整備が求められる。また、住民活動は、上司・部下の縦の関係を基本とする会社組織と異なり、水平な関係が基本であり、それを理解して活動に入れるようオリエンテーションを実施するなど、団塊の世代が地域で活動できるようになるための支援も望まれる。

○ 近年広がってきているコミュニティビジネス(地域の人材やノウハウ、施設、資金などの資源をいかしながら、地域課題の解決に「ビジネス」の手法で取り組むこと)も、これまで企業で働いてきた人々の地域活動への入り口として有効であり、支援が望まれる。

6.市町村の役割

(総合的なコミュニティ施策の必要性)

○ これまで述べたように、地域福祉活動を進めるに当たっては、従来の福祉の枠にとらわれず、地域の多様な生活課題に取り組むことになる。したがって、このような課題に対応するためには、防災や防犯、教育や文化、スポーツ、就労、公共交通やまちづくり、建築など、幅広い視点で取り組む必要がある。住民の地域福祉活動を促進するためには、市町村の側でも、地域で発見された生活課題全般を受け止める総合的なコミュニティ施策が必要である。

(公的な福祉サービス提供と地域福祉活動の基盤整備)

○ 狭義の福祉分野においても、近年の福祉制度の改革により、住民への福祉サービスの提供については市町村中心主義が確立し、また、介護保険制度では保険者として運営に責任を負うようになるなど、市町村の役割は一層高まっている。

○ 住民が地域で尊厳をもって生活を営めるようにするためには、公的な福祉サービスが必要とする住民にあまねく提供されるとともに、「地域における新たな支え合い(共助)」としての地域福祉活動、市場により提供されるサービスがあいまって、全体として住民の生活課題に応えていくことが必要である。

○ したがって、市町村は、制度的に位置づけられた、公的な福祉サービスが適切に提供されるよう責任を有すると同時に、住民の福祉に責任を負っている主体として、市町村全体をみて、地域福祉活動、市場による福祉サービスがあいまって、住民が地域で普通に暮らし続けることを可能にする責任も負っている。

○ 住民の地域福祉活動に対しては、活動自体は住民の自発的な行為であるとしても、これらの活動が疲弊することなく、継続できるよう、活動の基盤を整備することは市町村の仕事である。

○ このような観点から市町村の役割を具体的に列挙すると、地域福祉計画に住民の新たな支え合いを位置づける、地域福祉計画の作成に当たって住民が参画する仕組みを作る、地域福祉活動の内容にふさわしい圏域を設定する、また、コーディネーターや拠点など住民の地域福祉活動に必要な環境を整備する、といったことなどが挙げられよう。市町村はそのための財源を確保すべきであり、また、国においても、市町村が財源を確保できるよう支援が求められる。

○ すでに述べたように、地域における新たな支え合いは、あらかじめ対象や方法を限定せず、地域の多様な生活課題に対応するものである。したがって、公的な福祉サービスと住民により地域で発見された問題がつながるためには、市町村の側でも分野をあらかじめ限定せず、一元的に対応できるような仕組みが必要である。

○ そのため、市町村は、地域内に一本化した窓口を設置したり、複数のサービスを組み合わせて一体的に提供するなど、「地域」の視点に基づく公的な福祉サービスの見直しや運用の弾力化を行うことが求められる。例えば、本研究会でヒアリングした地域の中にも、地域包括支援センターを地域福祉活動の拠点として活用し、住民が市町村に困難な事例を円滑につないでいる例がある。

○ 国においても、市町村で柔軟な対応が可能となるよう、施策の設計や実施に当たっての配慮が求められる。

○ さらに、社会的排除の対象となりやすい者の問題や地域の少数者への対処についても、住民の意識の問題でもあることから、住民だけで対処することは困難であることも多く、そのような場合には行政による専門的な対応が必要とされる。また、低所得の者に対する必要な支援は、行政の基本的な役割である。

V.留意すべき事項

○ これからの地域福祉を進めていく上では、特に以下の視点に留意すべきである。

1.多様性を認め、画一化しない

○ 地域の状況をみると、都道府県、市町村ごとに人口規模、地形、歴史、社会資源の量や質、人々の意識などには大きな違いがあり、市町村内でも区域ごとの多様性が存在することから、全国一律の画一的な基準や方法はなじまない。

○ 本報告書において、圏域設定などいくつかの提案を示しているが、これらはあくまでも基本的な考え方を示したものである。それぞれの地域においての多様な展開が望まれるものである。

2.地域がもっている負の側面

○ 地域には、地域社会とのつきあいが煩わしく感じられたり、時として個人の生活に抑圧的に働いたりする負の側面もある。見守りと監視が紙一重といわれる所以である。

○ 特に、ホームレスなどが社会的排除の対象となりやすいという問題、外国人、刑務所出所者など少数者への無理解の問題などは、このような負の側面の現れの一つであり、地域は社会的排除を生み出している場という指摘もある。だからこそ、これらの問題の解決のためには地域の意識が変わることが不可欠である。住民の人権意識を高めるとともに、新たな住民や外国人、若年層から働き盛り世代、子育て世代、いわゆる団塊の世代や高齢者に至るまで、様々な構成員を活動に呼び込み、また、NPOやボランティアなどの機能的団体、地域の外の専門家など、地域にとらわれない主体もともに活動することによって、地域が常に開かれた場とすることが重要である。

3.情報の共有と個人情報の取扱い

○ すでに述べたとおり、地域における生活課題を発見し、解決につなげていくには、関係者の情報共有が重要である。専門的な対応を要する事例を公的な福祉サービスにつなぐために情報共有が必要であることはもちろんであるが、災害時の対応においても、地域の要支援者情報の共有が進んでいるかどうかは大きな違いを生む。共有が進んでいない場合には、災害時の安否確認や、避難支援といった災害発生後の要支援者に対する支援が迅速かつ適切に行われなかったとの指摘もある。

○ 一方で、平成17年4月に施行された個人情報保護法をめぐって、名簿の作成中止、関係機関に対する必要な情報提供の抑制など、「過剰反応」といわれる状況が一部にみられている。

○ 個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しつつ個人の権利利益の保護を目的としたものであり、住民本人の同意を得て個人情報を関係機関と行政機関が情報収集する場合や、個人情報保護条例において第三者提供できる場合を明確化して収集する場合については、関係機関と行政機関が個人情報を共有することは問題ない。

○ 市町村は、個人情報保護法のルールに則って冷静に判断し、地域福祉の推進に必要な個人情報を、積極的に関係機関と共有する必要がある。

VI.既存施策の見直しについて

1.検証と見直しの観点

○ 社会・援護局からは、本研究会において、あらかじめ決められた個別の既存施策のレビューを行うよう求められた。しかし、これまでの検討によって、地域福祉は従来のいわゆる地域福祉施策の対象を大きく越える、幅の広い問題に対処する必要があることが明らかになった。これまでのような狭い福祉概念にとらわれず、防災や防犯、教育や文化、スポーツ、まちづくりや建築といった分野との連携や調整に努めるべきである。

○ 地域福祉を進めるに当たっても、公的な福祉サービスと、住民による新たな支え合いとは、役割を分担し、連携しながら進めていく必要がある。しかしながら、従来の公的な福祉サービスは主に対象者の分野ごとに発展してきたことから、例えば、相談支援であっても、高齢者に対しては地域包括支援センター、障害者に対しては障害者相談支援事業、子育て世帯に対しては地域子育て支援拠点事業と、分野ごとに対応している状況である。

○ しかし、地域の多様な生活課題に対応するという地域福祉の視点に立つと、既存の公的な福祉サービスにおいても、地域の多様なニーズに幅広く対応できるようにしていくことが必要である。

○ 本研究会としては、地域福祉を進めるに当たって検討すべき施策の範囲は上に述べたとおりであると考えるが、社会・援護局から、地域福祉に関連する社会・援護局の既存施策として、レビューを求められた個別施策については、次のとおりである。

○ 検証、見直しに当たっての視点は下の三点である。

・ 住民主体を進める。

・ 「新しい支援」の概念に立つ。

・ これからの地域福祉を進める条件に適合する。

2.個別の既存施策の検証、見直し

○ ここでレビューする既存施策は、これまで述べてきた、これからの地域福祉を進めるために必要な施策の全てをカバーするものではなく、その一部を構成するものに過ぎないが、これらをあえて全体像の中で位置付けると以下のとおりとなる。

・ 「地域福祉計画」は、地域福祉全体に関わるもの

・ 「民生委員」及び「ボランティア活動」は、地域福祉の担い手に関わるもの

・ 「社会福祉協議会」は、地域福祉関係団体

・ 「福祉サービス利用援助事業」及び「生活福祉資金貸付制度」は、地域福祉のメニューやツールに関するもの

・ 「共同募金」は、地域福祉活動の自主財源に関わるもの

○ それぞれの既存施策について、以下、現状と課題について整理するとともに、これからの見直しの方向を「今後の論点」として掲げた。

(1)地域福祉計画

(現状)

○ 地域福祉計画は、2000年(平成12年)の社会福祉事業法等改正により、社会福祉法上位置づけられた(施行は2003年(平成15年))。市町村地域福祉計画に定めるべき事項としては、

(1) 地域における福祉サービスの適切な利用の推進に関する事項

(2) 地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項

(3) 地域福祉に関する活動への住民参加の促進に関する事項

とされている。

また、都道府県地域福祉支援計画は、市町村の地域福祉の支援に関する事項を定めるものとされている。

○ 市町村地域福祉計画、都道府県地域福祉支援計画ともに、策定や変更の際には、市町村又は都道府県は、住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずることとされている。

○ 2007年(平成19年)8月には、社会・援護局より、災害時等にも対応する要援護者対策として、地域における要援護者に係る情報の把握・共有及び安否確認方法等を市町村地域福祉計画に盛り込むよう通知がなされた。

(課題)

○ 本研究会で明らかになった地域福祉の要素、条件は、

(1) 住民主体を確保する条件があること

(2) 地域の生活課題発見のための方策があること

(3) 適切な圏域を単位としていること

(4) 地域福祉を実施するための環境として、情報共有がなされ、活動の拠点があり、コーディネーターがおり、活動資金があること

(5) 活動の核となる人材がおり、後継者が確保できること

(6) 市町村は住民の地域福祉活動に必要な基盤を整備するとともに、公的福祉サービスも地域の生活課題に対応できるよう、一元的に対応すること

であった。

○ しかしながら、現在、社会福祉法において、市町村地域福祉計画の記載事項として、上に述べたような要素、条件は明確には規定されておらず、現在の地域福祉計画は、地域における新たな支え合いとしての地域福祉を進めるための計画としては、不十分といわざるをえない。

○ 2006年度(平成18年度)末までに約3割の市町村で策定が済んでいるが、すでに策定された計画をみてみても、地域でしかみえない課題、身近でなければ早期発見しにくい課題に関し、その把握の方法や支援のあり方について、明確に位置づけられていないものが多い。

(今後の論点)

○ まず、地域福祉計画が住民主体の地域福祉活動を推進するものとなるよう、地域の生活課題の発見方策、圏域の設定、地域福祉活動の情報共有の仕組み、担い手や拠点、資金の確保、災害時要援護者への支援などの事項を盛り込むようにすべきではないか。

○ また、市町村内全体の福祉の確保のための、公的な福祉サービスや市場サービスと地域福祉活動の連携、多様な生活課題に応えるための公的な福祉サービスの一元的な対応等、市町村の役割についても規定すべきではないか。

○ さらに、市町村内で圏域を設定した場合、圏域ごとに「地区福祉計画」を策定し、市町村地域福祉計画に位置づけるべきではないか。なお、前にも述べたように、圏域の具体的な範囲については、考え方は一つではなく、地域の実情に応じて設定されるべきであり、また、圏域は重層的なものであることに留意すべきではないか。

○ 計画の策定及び実施に当たっては、住民参加を一層徹底する必要があるのではないか。例えば、

(1) 圏域内の地域福祉活動に関わる者自らが、上に述べた「地区福祉計画」を策定する、

(2) 策定に当たっては、引きこもりから孤立死につながるような人々や、悪質商法の被害に遭っている人など自ら問題解決に向かえない人々、少数者の人々の声を反映させる仕組みをつくる

(3) 住民が計画の進行を管理する仕組みをつくる

等を検討する必要があるのではないか。

○ 上に述べた新たな地域福祉計画の考え方に沿って、地域福祉計画に係る社会福祉法の規定も見直すべきではないか。

(2)民生委員

(現状)

○ 民生委員制度は、今から約90年前、1917年(大正6年)に岡山県に設置された「済世顧問制度」や、その翌年に創設された大阪府の「方面委員制度」などの先駆的な取り組みが源である。

○ 岡山県で始まった済世顧問制度は、県下に悲惨な生活状態にある者が多かったことから、ドイツの救貧委員制度を参考に創設された。また、大阪府の方面委員制度も、小学校区程度を一区域とし、知事から嘱託された方面委員が地域ごとに置かれ、人々の生活状況の調査や救貧の実務などの活動を行ったものであり、いずれも救貧や防貧を目的としていた。

○ これらの活動実績等を踏まえ、1929年(昭和4年)の救護法において「救護事務に関して市町村長を補助する委員」として位置付けられ、さらに1936年(昭和11年)には方面委員令公布により全国統一的な運用が始まり、1948年(昭和23年)には民生委員法が制定され、現在に至っている。

○ 制度の起源である救貧・防貧的な機能は、1950年(昭和25年)、生活保護法において、保護事務の執行に協力するものとして明確に位置付けられ、現在も民生委員の重要な役割の一つになっている。

○ その後、2000年(平成12年)には、社会福祉法の改正に伴い、民生委員の地域福祉の担い手としての性格を明確にするため、基本理念(「保護指導」から「相談、援助」へ)、性格(「名誉職」から「給与を支給しない」へ)、職務内容等についての改正が行われた。

○ 民生委員は、援助を必要とする者に対し生活相談、助言を行ったり、福祉サービスを適切に利用するために必要な情報の提供を行うとともに、関係行政機関の業務に協力することとされており、生活保護法をはじめ、老人福祉法、身体障害者福祉法や知的障害者福祉法等により、市町村長、福祉事務所長の事務の執行に協力することが求められている。

○ 委嘱の方法についても、法律上、市町村の民生委員推薦会が推薦した者について、都道府県知事が推薦し、厚生労働大臣が委嘱することとされており、守秘義務、政治的中立も法定され、身分的には特別職の地方公務員とされている。

○ 同時に、法律上、社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行うこととされるとともに、給与を支給しないものとされていることから、無償で地域福祉活動を行うボランティアとしての性格も有しており、上に述べた行政協力機関的な性格とともに、二面的な性格を有しているといえる。

○ 定数については、厚生労働大臣の定める基準に従い、都道府県知事が市町村長の意見を聴いて定めることとされている。2007年(平成19年)12月1日現在の定数は232,103人であるが、委嘱されたのは227,284人であり、全国ベースの定数充足率は97.9%で、大都市部で低い傾向がみられる。

○ 地域での具体的な活動内容は、

・ 福祉事務所等の行政機関と協力しながら行う、生活保護受給者などの生活困窮者の相談・援助活動等、行政協力機関的な活動と、

・ 子育てサロン、新生児訪問活動、安全・安心パトロール、ふれあいサロンなどの活動を通じ、児童虐待防止、家庭内暴力への対応、ひとり暮らし世帯の見守り、高齢者への悪徳商法被害の防止、引きこもりがちの人々への支援を行うボランティア的な活動

が一体的に行われている。

○ 現在、全体で年間約800万件の相談支援活動を行い、高齢者、障害者や児童、子育て中の家庭を福祉サービス利用に結びつける上で重要な役割を果たしているとともに、狭い意味の福祉にとらわれず、災害時要援護者マップづくり、災害時の安否確認などを通じて地域の防災力を高めている。

(課題)

○ 民生委員は、行政の協力機関として位置づけられていることから、行政側からの作業依頼等を行いやすい、という側面がある。そのため、警察・消防・学校などからの広報、各種お知らせの配布などの行政からの連絡事項の伝達、また、地域住民の調査など行政の下請的な業務が多く、要支援者の相談支援以外の業務に忙殺されているとの指摘がある。

○ 一方、地域において福祉活動を行う住民やボランティアなどと協力する際には、守秘義務が課されていることから、情報共有が難しいとの問題も指摘されている。

○ さらに、法律上守秘義務等が定められているにもかかわらず、近年個人情報保護法への過剰反応ともいうべき現象により、必要な情報が自治体から提供されないことも多く、活動しにくくなっているとの指摘がある。

○ 2007年(平成19年)の改選では全国で5千名近い欠員が生じる(平成19年12月1日現在)など、民生委員の確保が困難になっており、その背景には、上で述べたような状況があるものと思われる。

○ また、民生委員活動が地域住民に理解されていないのは、民生委員自身の問題として、まだ名誉職的なものが残っている者も一部にみられることも要因ではないかとの指摘があった。

(今後の論点)

○ 民生委員については、住民主体の地域福祉活動を進めるに当たり、相談支援体制の一翼を担うよう、以下のような見直しを検討する必要があるのではないか。

○ 住民とともに活動しやすい環境を整備する。例えば、

(1) 民生委員の職務を見直し、地域の要支援者の発見、相談及び見守り、必要な福祉サービスへの紹介を主な業務として明確化する、

(2) 市町村において福祉委員等が委嘱されている場合、それらの者との役割分担を明確化する、

(3) 地域福祉活動を行う住民と協働する際、活動組織の代表者数名が守秘義務遵守を確認した上で、支援に必要な情報を共有する、

(4) 行政や関係機関が民生委員に協力を求める際、民生委員が住民への相談支援に重点を置いて活動できるよう、できるだけ配慮する、

(5) 民生委員に必要な情報が提供されるよう、国は個人情報保護ガイドライン等を作成する、

(6) 活動上の悩みや負担感の解消につながるようなきめ細やかな研修会の機会をつくる

等の取組みを検討してはどうか。

○ 民生委員の活動を理解してもらうには、行政による民生委員に対する理解を高める広報を進めるとともに、民生委員自身も積極的に町内活動の一翼を担うことが必要ではないかとの指摘もあった。

○ 名称についても、ヒアリングにおいて、地域福祉の担い手としての役割を反映した名称の検討も必要ではないか、との意見があった一方、「民生委員」の名称は国民に親しまれ、定着しており、民生委員自身にとってもこの名称を誇りとし、気力の源としていることから、堅持すべきとの意見もあった。

○ また、現在の委嘱の方式についても、身近な生活課題に対応する地域福祉の担い手としての性格と、大臣が委嘱するという方式が必ずしもそぐわないのではないかとの指摘もある一方、大臣から委嘱を受けていることが、民生委員自身のやる気につながっているとの意見もあった。

○ 担い手の確保については、選任の基盤の拡大に向けて、自治会・町内会だけでなく、PTAといった子育て世代など、より幅広い住民を基盤として民生委員を選任するため、地域の実情に応じた地域福祉の圏域から市町村への推薦を行う、といった推薦方式に改めることを検討すべきではないか。推薦の基盤を拡大することは、後継者の確保にもつながる。また、行政は、より幅広い住民に関心をもってもらうため、民生委員についての広報に力を入れるべきではないか。

(3)ボランティア活動

(現状)

○ 1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災をきっかけとして、改めてボランティアの重要性が再認識され、近年ボランティア活動は広く定着してきた。国民の意識が心の豊かさを求めるようになる中で、国民が、自己実現や社会貢献としてボランティア活動に取り組むとともに、企業などの社会貢献活動としても関心が高まっている。

○ ボランティアの語源が、「自由意思」を意味するラテン語のボランタス(Voluntas)という言葉である、といわれていることからもわかるように、ボランティア活動は、自発的な意思に基づいて他人や社会に貢献する行為とされている。

○ ボランティア活動は、活動を行う者にとっては自己実現や社会貢献への意欲を満たすものであり、受ける側にとっては、公的サービスによっては満たすことができない多様な生活課題を充足してくれるものとなる。また、社会全体にとっても、人々の新たな支え合い(共助)の理念に支えられた、厚みのある福祉を実現することにつながる。

○ 福祉分野においてボランティアを促進する法的な枠組みとしては、社会福祉法第9章で、国は「国民の社会福祉に関する活動への参加の促進を図るための措置に関する基本的な指針」を策定するとともに、国及び地方公共団体がそのために必要な措置を講ずることが規定されている。

○ また、ボランティア活動のための基盤に関しては、1998年(平成10年)に成立した特定非営利活動促進法により、ボランティア活動を行う主体に法人格を取得する途が開かれたところである。

○ さらに、働いている人がボランティア活動に参加しやすい環境を整備するため、休暇期間中の給与の減額を行わないというボランティア休暇の導入も進んできており、例えば、国家公務員に関しては、1997年(平成9年)に人事院規則が改正され、ボランティア休暇が認められるようになった。

○ 厚生労働省は、社会福祉法に基づき、ボランティア活動に関する指針を示すとともに、全国ボランティア活動振興センターへの助成などを通じ、ボランティア活動の推進を図ってきており、都道府県社協や市区町村社協でもボランティアセンターを置き、広報、啓発やボランティア活動のコーディネートを行っている。

○ 現在、ボランティア活動は、住民互助や生協・農協、NPO法人、企業・労働組合の社会貢献活動等の多様な形態で行われている。その活動内容も、交流、話し相手や配食・会食サービス、外出・移送サ−ビスといった生活支援全般にわたっており、要支援者の普通の暮らしを支える重要な役割を果たしている。

(課題)

○ 社会福祉法において、ボランティア活動の促進は、「社会福祉事業に従事する者の確保の促進」として位置付けられており、自己実現、社会貢献の意欲を満たすものとしては位置付けられていない。

○ また、実際にボランティア活動をしたいと考えていても、自分がボランティアとして何ができるのかわからない、どのように参加し、行動したらよいのかわからない、という人も多く、ボランティアをしたい人が活動を始めやすい環境が整っているとはいえない。特に、ボランティアのうち男性は3割以下との調査結果もあり、男性の参加を促す取組みが不十分であるといえる。

○ 住民たちが日頃の近所づきあいの中で、支援が必要な人の話し相手になったり、日常のちょっとしたことを手伝ったりするのもボランティア活動ととらえることもできるが、多くの人々は、ボランティア活動について、日常的な活動とは異なる特別な活動と考える傾向にあり、活動に参加する上での敷居が高くなっているという指摘もある。

○ さらに、ボランティア活動を推進する仕組みとして、社会福祉協議会におけるボランティアセンターがあるが、その活動内容は、ボランティアの募集や研修等活動支援に重点が置かれており、本研究会で明らかになったニーズと、ボランティア活動とを結びつける仕組みも重要ではないか、という指摘がある。

(今後の論点)

○ ボランティア活動は、社会福祉の担い手を確保するという意味をもつだけではなく、活動の担い手の自己実現意欲を満たし、社会に新たな支え合いを実現するものであることから、ボランティアのそのような意義を再確認し、活動の場の提供を進める必要があるのではないか。

○ また、住民たちが日頃の近所づきあいの中で行っている活動もボランティア活動のひとつであり、このようなボランティア活動の意義について、明確にする必要があるのではないか。

○ ボランティアセンターについても、このような観点から、ボランティアに関心のある人の参加を促すとともに、要支援者の生活課題と、ボランティア活動に参加したい人の意欲や技能を結びつける、マッチング機能を強化する必要があるのではないか。そのためのコーディネーターの配置の推進も必要ではないか。

○ また、ボランティア活動の資金として、長寿社会福祉基金、地域福祉基金、ボランティア基金等がより活用されるよう、国はより積極的にPRすべきではないか。

○ 企業や企業社員のボランティア活動も重要であり、国はそれらの情報を収集し、事例の公表、表彰等により積極的に評価すべきではないか。

(4)社会福祉協議会

(現状)

○ 社会福祉協議会は、以下のような経緯を経て、地域福祉の推進を図ることを目的に様々な活動を行っている民間組織であり、市町村、都道府県を単位に一つに限り設置されている。

○ 社会福祉協議会の源流は、1908年(明治41年)に慈善事業家や団体の全国的な連絡研究機関として設立された、中央慈善協会(初代会長渋沢栄一)である。

○ 戦後の1949年(昭和24年)、GHQ による「社会福祉に関する協議会の設置」の指示、参議院厚生委員会による勧告において、「中央−都道府県−市町村にわたって一貫し、しかも社会事業の各分野を包括するような、新しい理念にもとづく合理的な社会事業振興連絡機関の創設が不可欠」との指摘があったことを受け、戦後の混乱とGHQ の公私分離の原則により活動が弱体化していた日本社会事業協会(中央慈善協会が前身。社会事業団体・施設経営者が主な会員)と日本民生委員連盟、軍人援護会を母体とする同胞援護会が統合し、1951年(昭和26年)1月、中央社会福祉協議会(現在は全国社会福祉協議会)が結成された。

○ 都道府県社会福祉協議会とその連合会としての全国社会福祉協議会は、1951年(昭和26年)の社会福祉事業法に規定され、都道府県社会福祉協議会が全国に設立された。その後、順次、市町村社会福祉協議会が設立され、現在では、全ての市町村に置かれている。1983年(昭和58年)には、市町村社会福祉協議会が法定化され、これにより市町村社会福祉協議会の法人化が進み、現在では、ほぼ全てが社会福祉法人格を取得している。

○ 2000年(平成12年)には、社会福祉法において、市町村社会福祉協議会が社会福祉協議会の基礎単位として位置づけられるとともに、社会福祉協議会の目的が「地域福祉の推進」にあることが明記された。

○ 市町村社会福祉協議会は、区域内の社会福祉を目的とする事業を経営する者(社会福祉施設等)、社会福祉に関する活動を行う者(ボランティア団体等)が参加し、かつ、社会福祉事業又は更生保護事業を経営する者の過半数が参加するものとされている。

○ 役員及び評議員の構成をみてみると、社会福祉事業者のほか、自治会・町内会や地区社会福祉協議会、当事者グループ、ボランティアグループなどの代表によって構成され、また、活動においても、事業者間の連絡調整だけでなく、地域福祉活動への住民参加を進めるための様々な取組みが実施されている。

○ 具体的には、ふれあいサロンや見守りネットワーク活動、地区社会福祉協議会の組織づくりといった住民による地域福祉活動の支援、災害時の要援護者支援活動を行うなど、地域福祉を進める上で重要な役割を担っている。

○ また、従来市町村社会福祉協議会は、公的な福祉サービスが措置であった時代に、ホームヘルプ事業の委託先として事業を行っていた経緯があり、1990年代に高齢者の在宅福祉事業が拡大し、さらに、2000年(平成12年)に介護保険が発足する中で、地域における介護保険事業者となり、業務の大きな部分が介護保険事業に向けられている実態にある。

(課題)

○ 市町村社会福祉協議会は、事務局長の6割強が行政職員や行政退職者である等、役職員の人材や事業展開において行政との関係が強く、行政との区別がつきにくい地域もあるなど、民間の立場で地域福祉を進める団体として住民に意識されるまでに至っていないという指摘がある。

○ 市町村社会福祉協議会の一般事業職員(事務局長、事務職員、地域福祉活動担当者等)のうち、社会福祉士資格保有者は7.3%であり、専門性の確保も課題である。

○ また、市町村社会福祉協議会は、介護保険事業、自治体からの受託事業の割合が高くなっており、地域福祉活動支援の取組を強化する必要があるのではないかという指摘もある。

○ 住民主体、住民参加という観点から社会福祉協議会をみてみると、

(1) 地域で社会福祉事業を経営する者の過半数が参加することとされているなど、法律上は社会福祉事業者の団体という色彩が強く、

(2) 住民は会費を支払ったり、役員として参画したりしているものの、事業の形成や実施に当たっての住民参加が必ずしも十分とはいえない状況にある

という問題がある。

(今後の論点)

○ 「新しい地域福祉」の推進に役立つ組織として、住民の福祉活動を発掘、育成し、地域住民が支え合う環境づくりを進めるために、社会福祉協議会が積極的な役割を果たすことができるよう、以下のとおり見直す必要があるのではないか。

○ 市町村社会福祉協議会について、地区の住民による地域福祉活動を支援する団体として、助言、情報提供、援助を行うものと位置づけるとともに、住民の地域福祉活動を支援することができる職員の養成、社会福祉士資格をもつ職員の配置を支援する、等の検討を行う必要があるのではないか。

○ また、社会福祉協議会における住民主体を進めるため、市町村社会福祉協議会の役員及び評議員として、地域代表を位置付けることを明確にする等の見直しを検討すべきではないか。あわせて、行政との関係についても、行政と社会福祉協議会との新たな連携、協働のあり方を探る必要があるのではないか。

○ さらに、社会福祉協議会の役職員の人材は、住民の立場に立って会の運営に専念することができる者を地域の中に求めるべきではないか。

○ 名称については、新しい地域福祉推進に役立つ組織であることを明確にするため、検討する必要があるという意見があった一方、名称の検討は、組織、機能の見直しの結果、必要があれば行うものであるという意見もあった。

(5)福祉サービス利用援助事業

(現状)

○ 福祉サービス利用援助事業は、2000年(平成12年)の介護保険制度の導入や、社会福祉事業法等の改正により、福祉サービスが措置から利用へと移行する中で、利用者の利益の保護を図る仕組みの一環として、第二種社会福祉事業に規定された。

○ あわせて、全国どこでも対応できる仕組みが必要であること、適正に実施するための一定の組織管理・財務体制を確保している必要があること、等の理由から、都道府県社会福祉協議会に、

(1) 都道府県の区域内においてあまねく実施されるために必要な事業

(2) 当該事業に従事する者の資質の向上のための事業

(3) 当該事業に関する普及及び啓発の実施

を義務づけた。

○ この事業の実施を全国的に確保するため、1999年(平成11年)10月から、「地域福祉権利擁護事業」(2007年度(平成19年度)から「日常生活自立支援事業」)の名称で、都道府県社会福祉協議会を実施主体とした国庫補助事業を開始し、現在に至っている。

○ 本事業は、判断能力の不十分な人であっても福祉サービスの利用が適切に利用できるよう支援し、これに伴う日常的金銭管理を行う仕組みである。したがって、利用者は、判断能力が不十分なため制度があってもそれを活用できず、自ら問題解決に向かうことが難しい人々であり、その人たちの福祉サービス利用支援のため、相談の受付−アセスメント−関係機関との調整−支援計画の作成、等の一連の相談支援を行う常勤の専門員(原則として社会福祉士)が置かれることになっている。

○ 本事業の現状をみると、

(1) 直接の目的である福祉サービス等の利用援助だけでなく、生活上の相談支援や見守りの機能も果たしており、幅広い生活課題に対応している。

(2) 専門員が、公的な福祉サービスの利用を調整することで、公的な福祉サービスが一体的に提供される

(3) 利用者の状態変化に対応して、成年後見制度につなぐことにより、公的な福祉サービスを切れ目なく提供する

といった点で、自力では問題解決に向かうことが困難な人に対し、その生活を見守るとともに、専門的な支援に適切につなぐ上で一定の役割を果たしている。

(課題)

○ このように本事業は、地域の要援護者に対し、幅広く相談支援を行う事業としての意義をもっているが、

(1) 相談件数、利用契約者は年々増加してきたものの、2006年度(平成18年度)末の実利用者数は、2.2万人に過ぎず、想定される対象者の6.5%に過ぎない、

(2) 社会福祉協議会ごとの取組みの差が大きく、最も利用人員が多い社会福祉協議会と最も少ない社会福祉協議会とは、14倍の開きがある。

といった問題点があり、本事業が地域で十分に活用されているとはいえない。

○ また、ニーズの発掘の点からは、現在都道府県社会福祉協議会の事業として行われているため、市町村レベルで発掘されたニーズがこの事業につながりにくい、という問題点がある。

(今後の論点)

○ 本事業は、判断能力が不十分でサービス利用の能力に欠ける者への支援であり、そのような者の多くは自分から問題解決に向かえるような状態にはないため、身近な住民によって発見されたニーズが本事業につながることが重要であり、本事業の対象や意義を改めて明確にすることが必要ではないか。

○ また、本事業が住民の地域福祉活動を支援する事業としてより積極的に活用されるよう、

(1) 福祉サービスの利用や行政手続にとどまらず、判断能力の不十分な者の相談支援ニーズに応じることを重視することにより、要支援者の生活を継続的に支援する仕組みとすること、

(2) 現在、都道府県社会福祉協議会の事業として行われているが、本事業の利用者が特に今後地域福祉において支援が必要な人々であることを踏まえると、市町村のレベルできめ細かく実施すること

等を検討する必要があるのではないか。

(6)生活福祉資金貸付制度

(現状)

○ 生活福祉資金制度は、戦後激増した低所得階層に対して、その生活基盤を確保し、生活保護世帯に至らないようにするため、民生委員が適切な生活指導と必要な援助を行う「世帯更生運動」に、事業の端を発している。

○ 世帯更生運動は、昭和20年代後半、着実な成果を生みつつあったが、運動が実を挙げるためには資金を必要とする場合が多く、その調達方法に苦慮していた。国民金融公庫等の融資制度も、この運動の対象世帯階層には利用することが困難であったため、低所得階層のための貸付資金の制度の創設の要望が各地で高まった。これにより、1955年(昭和30年)、都道府県社会福祉協議会を実施主体とし、民生委員が指導・援助の一環として資金貸付を行う、世帯更生資金貸付として制度が創設された。

○ この制度は、低所得者や障害者の生活上の需要を勘案し、生業資金、支度資金、技能習得資金等を基本としてきたが、これまで、

・ カネミ油症患者等被害患者に対する特例措置、

・ 阪神・淡路大震災等大震災による被災世帯に対する特例措置、

等や、近年は昨今の経済状況に起因する資金ニーズに即時に対応し、

・ 失業者のための離職者支援資金、

・ 高齢者のためのリバースモーゲージ資金、

・ 多重債務対策としての緊急小口資金の貸付上限額の引き上げ、

等の制度改正を行うことにより、その時々の社会・経済問題に対して機動的に対応してきており、世帯の生活基盤の確保や生活保護対象世帯となることの未然防止、あるいは生活保護からの脱却に一定の役割を果たしてきたといえる。

○ こうした意味で、生活保護受給に至らない者や生活保護から脱却しようとする者に対して、自立のための資金を提供してきたのがこの制度であり、この制度が機能することが、生活保護制度がよりよく機能することにもつながるといえる。

○ また、2006年度(平成18年度)末の貸付状況は、貸付原資額2,100億円、貸付中件数171,650件、貸付中金額978億円、貸付可能額1,122億円である。

(課題)

○ しかしながら、近年の貸付件数は、昭和55年をピークに減少傾向にあり、2006年度(平成18年度)は1万1千件、前年度比1,600件の減少となっている。

○ 都道府県における貸付件数は、人口規模を考慮する必要があるものの、東京都の1,547件に対し、佐賀県は僅か7件と、221倍の格差があるなど、都道府県間で貸付件数に大きな差がある。地域によっては、制度が想定している世帯の資金需要に十分応えていないことにより、この制度の機能が十分に発揮されていないのではないか、と考えられる。

○ また、貸付件数減少の要因としては、民間の金融機関に比べ手続きが煩瑣であるとともに、申請から貸し付け決定までの審査時間を要することや、制度がPR不足で、国民にこの制度の存在が知られていないこと等により、対象者である低所得者が消費者金融等を利用し、当該資金の貸付けに至らず、結果的に多重債務者発生の抑止機能も発揮できていないのではないか、と指摘できる。

○ さらに、資金ニーズへの対応が効果的に行われているか、この資金がどの程度経済的な自立等に効果があるのかについて、必ずしも明確ではない。

(今後の論点)

○ この制度は、低所得者への経済的支援策であり、地域福祉のツールとして明確に位置づける必要があるのではないか。

○ そのためには、民生委員以外にも、地域福祉活動の中で自立支援のツールとして活用されるよう、広く国民に積極的に制度活用のPRを行う必要がある。あわせて、誰にでもわかりやすい今日的な名称に変更することも検討すべきではないか。

○ また、利用の促進の観点から、貸付申請から貸付けまでの手続きを迅速にするとともに、より利用しやすい手続きに簡素化することや、新たな生活課題が出てきた場合には、資金貸付による自立促進効果を推計し、即時に資金種類を新設することが重要ではないか。

○ さらに、生活保護に結びつかない生活困窮者に対し、適時に必要な資金が提供できるよう、福祉事務所等と連携を強化することなど、総合的支援機能を付加した貸付事業への転換を図る必要があるのではないか。

(7)共同募金

(現状)

○ 共同募金は、戦後間もない頃の1947年(昭和22年)、戦災孤児を預かる民間福祉施設などの資金不足を補うためにスタートした民間の募金活動を制度化したものであり、寄付金は、社会福祉事業等を経営する者の過半数に配分され、民間社会福祉事業の主要な財源となっていた。

○ しかし、現在では、2000年(平成12年)の法律改正により、社会福祉を目的とする事業活動を幅広く支援することを通じ、地域福祉の推進を図る募金活動と位置づけられている。年間の募金額は200億円を超えており、民間福祉活動の主要な財源として大きな役割を果たしている。

○ 実施体制としては、各都道府県に都道府県共同募金会が置かれ、募金の実施、目標額や配分計画等の策定、配分先や額の決定を行っている。また、各都道府県共同募金会の内部組織として、市町村レベルに支会が置かれ、自治会・町内会等の協力の下、地域における共同募金の実施を担っている。

○ 募金の具体的な実施方法としては、「戸別募金」(自治会・町内会等の協力による世帯ごとの募金)が募金額全体の70%以上を占めており、そのほかに「法人募金」(企業が行う募金:約10%)、「職域募金」(職場ごとに従業員が行う募金:約4%)、「街頭募金」(駅前等で呼びかける募金:約2%)などがある。

○ 集められた寄付金は、支会を通じて都道府県共同募金会に集められ、災害等のための準備金に充てる場合を除き、各都道府県内の「社会福祉を目的とする事業を経営する者」(社会福祉協議会、NPO法人などの団体・グループ、福祉施設等)に配分される。配分先は、都道府県共同募金会にあらかじめ申請のあった者の中から、同会において決定される。

○ 配分額全体の約60%が社会福祉協議会及びそれを通じた住民活動やボランティア活動への支援、約20%が団体・グループ、約10%が福祉施設に配分されている。共同募金の主な使いみちとしては、地域の住民全般を対象にした事業(福祉サービスに関する相談援助等)が約30%、高齢者を対象とした事業(見守り、配食サービス等)が約25%、などとなっている。

(課題)

○ 現在は、自治会・町内会等により地域で集められた寄付金は、市町村レベルの共同募金会支会を通して都道府県共同募金会に送られ、原則として都道府県共同募金会に申請のあった者に対し配分される仕組みとなっており、地域で募金を集めた住民が自らの活動の資金とするような仕組みにはなっていない。

○ 実績額については、平成7年度の約266億円をピークに年々減少しており、平成18年度は約217億円にまで落ち込んでいる。

○ これは、

・ 他の募金活動と比べて、寄付したお金がどのように使われているのか分かりにくいこと

・ 身近な地域の活動に寄付をしたいというニーズにも、全国的な活動に寄付をしたいというニーズにも、現行制度が合っていないこと

等の要因があるものと考えられる。

(今後の論点)

○ 共同募金が地域福祉活動のための自主財源であることを明確にし、集まった寄付金は、集めた住民が自らの地域福祉活動のために使用することを基本とすべきではないか。その他の部分を広域の活動のために県内の他の市町村あるいは県外へ拠出する仕組みとすべきではないか。

○ この観点から、(1)都道府県共同募金会に寄付金が集められるという募金集約の仕組み、(2)都道府県共同募金会に申請があった者に対し、同会で配分を決定するという配分の仕組み、(3)都道府県共同募金会や支会の組織のあり方、(4)戸別募金を中心とした募金の実施方法、などについて、見直すべきではないか。

○ また、寄付額を伸ばしていくためには、今後は、寄付意識はあるものの実際の寄付行動に結びついていない人に働きかけられるよう、寄付されたお金が具体的にどのように使われているのか、もっと分かりやすく示す必要があるのではないか。

○ 現在の「赤い羽根」を付けるやり方や「共同募金」という名称についても検討すべきとの指摘もあった。これらも含め共同募金を広く国民にPRし、より多くの募金をより広い年齢層から集めるための工夫を行っていく必要があるのではないか。


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