厚生労働省発職高第 号

労働政策審議会

会長 菅野 和夫 殿

障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)第7条第5項において準用する同条第3項の規定に基づき、別紙「障害者雇用対策基本方針の一部改正案」について、貴会の意見を求める。

平成20年3月19日

厚生労働大臣 舛添 要一

○厚生労働省告示第 号

障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)第七条第一項の規定に基づき、障害者雇用対策基本方針(平成十五年厚生労働省告示第百三十六号)の一部を次のように改正し、同条第五項において準用する同条第四項の規定により告示する。

平成二十年 月 日

厚生労働大臣 舛添 要一

はじめにの3中「平成19年度までの5年間」を「平成20年度までの6年間」に改める。

「障害者雇用対策基本方針の一部を改正する件」の概要

1.趣旨

障害者雇用対策基本方針(平成15年厚生労働省告示第136号。以下、「基本方針」という。)の運営期間が平成19年度で終了することとなるが、現在、障害者雇用対策の見直しを検討しているため、基本方針の見直しについても、制度見直しを踏まえて行うことが適当であり、当該基本方針の運用期間を平成20年度まで延長する。

2.概要

「はじめに」において規定されている基本方針の運営期間について「平成19年度までの5年間」から「平成20年度までの6年間」に改正する。

参照条文

一.障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)

(事業主の責務)

第五条 すべて事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。

(障害者雇用対策基本方針)

第七条 厚生労働大臣は、障害者の雇用の促進及びその職業の安定に関する施策の基本となるべき方針(以下「障害者雇用対策基本方針」という。)を策定するものとする。

2.障害者雇用対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。

(1)障害者の就業の動向に関する事項

(2)職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項

(3)第五条の事業主が行うべき雇用管理に関して、障害者である労働者の障害の種類及び程度に応じ、その適正な実施を図るために必要な指針となるべき事項

(4)前三号に掲げるもののほか、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項

3.厚生労働大臣は、障害者雇用対策基本方針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。

4.厚生労働大臣は、障害者雇用対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表しなければならない。

5.前二項の規定は、障害者雇用対策基本方針の変更について準用する。

二.障害者雇用対策基本方針(平成十五年厚生労働省告示第百三十六号)

はじめに

1.方針の目的

この基本方針は、前回方針の運営期間における状況を踏まえ、今後の障害者雇用対策の展開の在り方について、事業主、労働組合、障害者その他国民一般に広く示すとともに、事業主が行うべき雇用管理に関する指針を示すことにより、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図ることを目的とするものである。

2.方針のねらい

我が国における障害者施策は、「障害者基本法」(昭和四五年法律第八四号)、同法に基づく障害者基本計画等に沿って、障害者福祉に関する施策及び障害の予防に関する施策の総合的かつ計画的な推進がなされているところであり、その基本的な考え方は、障害者が一般市民と同様に社会の一員として社会経済活動に参加し、働く喜びや生きがいを見いだしていくというノーマライゼーションの理念に沿った社会を実現するために、職業を通じての社会参加を進めることである。

このような考え方のもとに、障害者の雇用施策についても、同計画等を踏まえ、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「法」という。)及び法に基づく「障害者雇用対策基本方針」(運営期間平成一〇年度から平成一四年度まで)に基づき、その適性と能力に応じて、職業を通じての社会参加を進めていけるよう、各般の施策を推進してきたところである。

その結果、この運営期間中においては、平成一〇年七月に知的障害者を含む障害者雇用率を設定したこともあり、障害者雇用に対する関係者の理解も深まり、障害者の雇用は厳しい経済情勢下にもかかわらず、特に知的障害者において一定の改善が見られる。

しかし、障害者の社会参加が進む中、就職を希望する障害者の数も増加し、また、一方で企業の分社化による事業のスリム化や持株会社制度の発展等企業の組織再編が活発化し、企業を取り巻く経営環境が変化していることを踏まえ、さらに障害者雇用施策を進める必要が生じた。

これらを背景に、平成一四年に法の一部を改正し、除外職員制度及び除外率制度を段階的に縮小することとするとともに、特例子会社の認定要件を緩和し、特例子会社を保有する企業が企業グループで雇用率を算定することを可能とした。また、障害者就業・生活支援センター及び職場適応援助者(ジョブコーチ)を制度化するとともに精神障害者の定義規定を設ける等、精神障害者を含めた障害者に対する総合的な支援施策を充実させたところである。

また、現行の障害者基本計画が平成一五年三月に終期を迎えることから、平成一五年度から一〇年間の新しい「障害者基本計画」及びその前期(平成一五年度からの五年間)において、政府が重点的に取り組む具体施策を定める「重点施策実施五か年計画」を策定した。新しい「障害者基本計画」においては施設から地域生活への移行促進等がされるほか、雇用・就業分野の基本的方向として、「障害者の雇用の場の拡大」、「総合的な支援施策の推進」を掲げている。さらに、「重点施策実施五か年計画」において、平成一九年度までに公共職業安定所の年間障害者就職件数を三万人に、平成二〇年度の障害者雇用実態調査において雇用障害者数を六〇万人にすることを目指すこととしており、その目標の達成に努めることとする。

一方、企業の実雇用率について見ると、平成一一年度以来横ばいを続けていたが、平成一四年度には〇・〇二ポイント低下し、法定雇用率を依然下回った状態にある等、障害者を取り巻く雇用環境は依然として厳しいものとなっている。

また、保健福祉の分野では、入所(院)者の地域生活への移行促進等障害者の地域における自立を進めるための施策をさらに進めることとしており、特に精神障害者については、七万二千人のいわゆる「社会的入院」患者について退院・社会復帰を目指すこととされている。今後は、こうした施策の進展に伴い、障害者の就業ニーズは一層高まることが予想される。

このような状況を踏まえ、障害者の雇用の促進のため、雇用率制度による指導を推進していくとともに、除外職員制度及び除外率制度の段階的縮小(平成一六年四月一日施行)、特例子会社の活用等により、障害者の職場を拡大するとともに、精神障害者について就業環境を整え、雇用率制度の対象とするための検討を行うこととする。

また、厳しい経済情勢にかんがみ、障害者の雇用に積極的な企業に対して配慮し、職業能力開発機会の確保・就業環境の整備を通じてその雇用の促進や雇用の継続を図る等、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を、総合的かつ計画的・段階的に推進していくことが必要である。

特に、障害の重度化や障害者の高齢化の進展等を踏まえると、雇用部門と福祉部門等各関係機関が密接に連携して障害者が雇用の分野と福祉の分野を円滑に移行できるようにするとともに、多様な雇用・就労形態を含めた施策の充実を図っていく必要がある。

さらに、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには事業主を始めとする国民一般の障害者雇用への理解が不可欠であることを念頭に置きつつ、引き続き人権の擁護の観点を含めた障害の特性等に関する正しい理解を促進することが重要である。

3.方針の運営期間

この方針の運営期間は、平成一五年度から平成一九年度までの五年間とする。

第一.障害者の就業の動向に関する事項

1障害者人口の動向

(1) 身体障害者人口の動向

我が国の一八歳以上の身体障害者数は、平成一三年において、在宅の者三二四万五千人(厚生労働省「身体障害児・者実態調査」)、施設入所者一八万一千人(厚生労働省調べ)となっており、平成八年時(それぞれ二九三万三千人(平成八年厚生省「身体障害児・者実態調査」)、一五万四千人(厚生省調べ))と比べて増加している。
在宅の者について程度別の状況(平成一三年)をみると、一級及び二級の重度身体障害者一四六万四千人となっており、重度の身体障害者は身体障害者総数の四五・一%を占め、平成八年の四三・二%と比べ、一・九ポイントの増加となり、重度身体障害者が増加している。また、年齢別の状況(平成一三年)をみると、六五歳以上の者が二〇〇万人とその六一・八%(平成八年と比べて七・七ポイント上昇)を占めており、一段と高齢化が進んでいる。

(2) 知的障害者人口の動向

知的障害者数(一八歳以上)は、平成一二年において、在宅の者二二万一千人(平成一二年厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」)、施設入所者一二万一千人(厚生労働省調べ)となっており、平成七年時(それぞれ一九万五千人(平成七年厚生省「精神薄弱児(者)基礎調査」)、一〇万五千人(厚生省調べ))と比べて増加している。
在宅の者について程度別の状況をみると、最重度の者二万七千人、重度の者六万人、中度の者五万七千人、軽度の者五万二千人となっている(平成一二年厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」)。

(3) 精神障害者人口の動向

精神障害者数は平成一一年において、精神科病院入院三四万人、在宅一七〇万人(平成一一年厚生労働省患者調査)となっているが、このうちには、統合失調症、気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む)、神経症、てんかん等種々の精神疾患を有する者が含まれている。
また、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づき、平成七年度に交付が開始された精神障害者保健福祉手帳は、平成一四年三月末現在で二一万九千人に対して交付されており、その内訳を障害等級別にみると、一級(精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの)の者五万三千人、二級(精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの)の者一二万八千人、三級(精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの)の者は三万八千人となっている。

2障害者の就業の動向

(1) 障害者の就業状況

身体障害者の就業者数(厚生労働省「身体障害児・者実態調査」)は、平成一三年において七三万八千人と、平成八年における八四万五千人と比べて減少しており、就業率も二三・三%と平成八年と比べて六・八ポイント低下している。
知的障害者の就業者数は、平成一二年において、一三万八千人(平成一二年厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」)となっており、平成七年における一三万人(平成七年厚生省「精神薄弱児(者)基礎調査」)と比べて増加している。

(2) 障害者の雇用状況

平成一〇年に五人以上の常用労働者を雇用している事業所を対象に行われた「障害者雇用実態調査」(平成一〇年労働省)によれば、常用雇用されている障害者は五一万六千人と、前回調査(平成五年労働省)における四二万七千人と比べ増加している。内訳は、身体障害者三九万六千人、知的障害者六万九千人、精神障害者五万一千人となっており、それぞれ前回調査に比べ、身体障害者五万二千人、知的障害者九千人、精神障害者二万八千人増加している。
五六人以上の常用労働者を雇用している事業所の平成一四年六月一日時点における障害者の雇用状況を見ると、実雇用率は前年の一・四九%から一・四七%に低下し、法定雇用率未達成の企業割合は前年の五六・三%から五七・五%に上昇している。企業規模別の状況を見ると、五六〜九九人規模の企業の実雇用率は一・五二%、一〇〇〜二九九人規模では一・三一%、三〇〇〜四九九人規模は一・四六%、五〇〇〜九九九人規模では一・四三%、一〇〇〇人以上規模では一・五六%と、法定雇用率(一・八%)を下回っている。従来から規模の小さい企業で実雇用率が高く、規模の大きい企業で実雇用率が低いという傾向にあったが、近年は規模の小さい企業の実雇用率の低下が顕著であり、実雇用率が上昇する傾向にあった規模の大きい企業と規模の小さい企業で実雇用率の逆転が見られる。
一方、公共職業安定所における障害者である有効求職者は一五万三千人(平成一四年一二月現在)であるが、そのうち身体障害者は一一万人、知的障害者は三万人、精神障害者は一万二千人となっており、知的障害者及び精神障害者の占める割合が年々増加している。また、身体障害者のうち重度身体障害者数は約四万六千人となっており、身体障害者全体に占める重度身体障害者の割合も増加の傾向が見られる。
さらに、厳しい経済状況の中で、障害者の解雇者が急増しており、平成一三年度における公共職業安定所に届けられた障害者解雇者数は四、〇一七人となり、前年度比約六〇%増加している。

第二.職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項

障害の重度化や、障害者の高齢化が進展するとともに、難病等の慢性疾患や高次脳機能障害等障害が多様化してきている。この動きに対応して、障害者や事業主の職業リハビリテーションに対する需要は多様化、複雑化し、職業リハビリテーションに対する期待も高まっている。このような中で障害の種類及び程度に応じた職業リハビリテーションの措置を総合的かつ効果的に実施し、障害者の職業的自立を進めていくことが重要となっており、今後は、こうした観点から、以下に重点を置いた施策の展開を図っていくものとする。

1 障害の種類及び程度に応じたきめ細やかな措置の開発、推進

職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るためには、その措置の開発を進めるとともに、職業指導、職業訓練、職業紹介、就職後の助言指導等各段階ごとにきめ細かく各種の措置を実施していくことが重要である。また、技術革新、企業形態の変化、高齢化等企業を取り巻く環境が変化する中で、障害者の職業生活における諸問題に適切に対応していく必要もある。このため、障害者職業総合センターにおいて、難病や高次脳機能障害等障害の多様化への対応を含め、障害の種類及び程度に応じた職業リハビリテーションの措置の開発に努めるとともに、広域障害者職業センターとも連携を図り、地域障害者職業センターが中核となって関係行政機関、企業との密接な連携の下に職業リハビリテーションの措置を推進する。

2 一般雇用に就くために特に支援が必要な障害者に対する職業リハビリテーションの推進

知的障害者や精神障害者等一般雇用に就くために特に支援が必要な障害者の円滑な雇用の促進を図るためには、実際の職場環境の中での基本的な労働習慣の習得等が重要である。このため、実際の作業現場を活用した職業リハビリテーションを一層拡充する。また、これらの障害者を雇用に結びつけ、職場に定着させるためには、その障害特性及び職場の状況を踏まえた専門的できめ細やかな人的支援を行う必要がある。このため、障害者が就職を目指して実習を行っている現場や、雇用されて働いている職場に職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣することによって専門的な支援を行う事業を実施することにより、障害者の就職及び職場定着の促進を図る。

さらに、基本的労働習慣の習得のための訓練から就職、職場定着に至るまでの継続的な相談、援助を地域レベルにおいて実施する障害者雇用支援センターを活用する。

加えて、公共職業安定所や障害者職業センター、職業能力開発施設、社会福祉施設、医療施設、特別支援学校その他関係機関との連携を図りつつ、就職や職場適応等の就業面と生活習慣の形成や日常生活の管理等の生活面の双方の支援を一体的かつ総合的に提供する障害者就業・生活支援センター事業を推進することにより、職業生活における自立を図るために継続的な支援を必要とする障害者の就職及び職場定着の推進を図る。

3 職業能力開発の推進

障害者が職業に就くために必要な能力を習得する機会を確保するため、一般の公共職業能力開発施設における施設・設備面でのバリアフリー化を推進するとともに、障害者に配慮した訓練内容の訓練科の設置等を進め、障害者の受入れを一層促進する。

一般の公共職業能力開発施設において受講することが困難な重度障害者等に対しては、障害者職業能力開発校において、障害の重度化・重複化等障害の特性や程度に配慮した訓練を実施するとともに、サービス経済化や情報化の進展に対応した訓練科目の設定、見直し等を進める。また、より効果的な訓練を推進するため、障害の特性や程度に応じそのハンディキャップを補うための訓練支援機器等を整備するとともに、重度身体障害者、知的障害者、精神障害者に対応した訓練手法の充実・向上、民間外部講師の活用等に努める。

技術革新に伴う職務内容の多様化等に対応し、在職する障害者の職業能力の向上を図るための在職者訓練を実施するほか、事業所においても在職障害者に対する効果的な職業能力開発が行われるよう、関係機関との密接な連携の下に、事業主や障害者に対する相談、援助等の支援を行う。

また、ITに係る教育訓練ソフトにより在宅でも随時能力開発ができるようにするための遠隔訓練システムを開発し、障害者の職業能力開発への活用を図る。

さらに、それぞれの地域において障害者に可能な限り多くの訓練機会を提供できるよう、民間の教育訓練機関や社会福祉法人、NPO、事業主等、多様な職業能力開発資源を活用した委託訓練を幅広く実施する。

4 実施体制の整備

障害者の職業的自立を進めるためには、障害者が生活している地域社会において、教育、福祉及び医療部門との緊密な連携の下に、きめ細かな職業リハビリテーションの措置を提供していくことが重要である。このため、公共職業安定所、障害者職業センターを始めとする職業リハビリテーション実施機関において従来よりも専門的な相談、援助を行う等職業リハビリテーションの措置を充実する。また、障害者が、雇用の分野と福祉の分野との間を円滑に移行できるようにするためにも障害者の雇用を支援するネットワークの形成等を進め、教育、福祉及び医療機関との連携を強化する。

特に、地域レベルにおける教育、福祉及び医療部門との緊密な連携については、障害者雇用支援センター、障害者就業・生活支援センター事業の推進を図る。

さらに、特別支援学校卒業生の企業への雇用を進めるため、生徒一人一人の将来の就業に向けた個別の支援計画を策定・活用する際に、雇用部門、福祉部門等各関係機関は教育機関と十分な連携・協力を図り、在学中から卒業後を通じた支援体制を構築する。

また、職業リハビリテーションの措置の開発を推進するため、障害者職業総合センター等の機能強化を図り、職場における人的支援を強化するため職場適応援助者(ジョブコーチ)の積極的な活用を図る。

5 専門的知識を有する人材の育成等

障害の重度化、難病等の慢性疾患や高次脳機能障害等障害の多様化、障害者の高齢化が進展し、必要とされる障害者の職業リハビリテーションも多様化、複雑化している中で、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな職業リハビリテーションの措置を講ずるためには、これらの障害の特性や措置に関する専門的知識を有する人材の育成が重要である。このため、公共職業安定所職員、障害者職業相談員、障害者職業カウンセラー、職場適応援助者(ジョブコーチ)等に対して必要な知識の付与、専門的技法の指導等を行い、職業リハビリテーションに従事する人材の養成と資質向上をより一層積極的かつ着実に推進する。また、これと併せて、法に基づき企業が選任する障害者職業生活相談員等の資質の向上にも努め、産業医の活用を図る。

なお、これらの専門的知識を有する人材の育成に当たっては、障害者自身の有する経験や実際に障害者が雇用されている事業所において経験的に獲得された知識、技法等の活用を図る。

6 進展するITの積極的活用

近年急速に進展するITの利用・活用が障害者の働く能力を引き出し職業的自立を促す効果は大きいことから、その積極的な活用を図る。

第三.事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項

事業主は、関係行政機関や事業主団体の援助と協力の下に、以下の点に配慮しつつ適正な雇用管理を行うことにより、障害者が男女ともにその適性と能力に応じて、健常者とともに生きがいを持って働けるような職場作りを進めるとともに、その職業生活が質的に向上されるよう努めるものとする。

1基本的な留意事項

(1) 採用及び配置

 障害者個々人の能力が十分発揮できるよう、障害の種類及び程度を勘案した職域を開発することにより積極的な採用を図る。また、必要に応じ職場環境の改善を図りつつ、障害者個々人の適性と能力を考慮した配置を行う。

(2) 教育訓練の実施

 障害者は職場環境や職務内容に慣れるまでより多くの日時を必要とする場合があることに配慮し、十分な教育訓練の期間を設ける。

 また、技術革新等により職務内容が変化することに対応して障害者の雇用の継続が可能となるよう能力向上のための教育訓練の実施を図る。

 これらの教育訓練の実施に当たっては、障害者職業能力開発校等関係機関で実施される在職者訓練等の活用も考慮する。

(3) 処遇

 障害者個々人の能力の向上や職務遂行の状況を適切に把握し、適性や希望等も勘案した上で、その能力に応じ、キャリア形成にも配慮した適正な処遇に努める。

(4) 安全・健康の確保

 障害の種類及び程度に応じた安全管理を実施するとともに、職場内における安全を図るために随時点検を行う。また、非常時においても安全が確保されるよう施設等の整備を図る。

さらに、法律上定められた健康診断の実施はもとより、障害の特性に配慮した労働時間の管理等、障害の種類及び程度に応じた健康管理の実施を図る。

(5) 職場定着の推進

 法に基づき企業が選任することとされている、障害者の雇用の促進及びその雇用の継続のための諸条件の整備を図る等の業務を行う障害者雇用推進者や、障害者の職業生活に関する相談及び指導を行う障害者職業生活相談員について、雇用する労働者の中からその業務に適した者を選任する。

また、職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用や障害者が働いている職場内において関係者によるチームを設置すること等により、障害者の職場定着の推進を図る。

(6) 障害及び障害者についての理解の促進

 障害者が職場に適応し、その有する能力を最大限に発揮することができるよう、職場内の意識啓発を通じ、事業主自身はもとより職場全体の、障害及び障害者についての理解や認識を深める。

(7) 障害者の人権の擁護

 障害者に対する虐待、雇用管理や解雇、労働条件等で問題が生じている場合、その問題解決及び再発防止のために、公共職業安定所と関係機関が連携する障害者雇用連絡会議、各都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会や地方労働委員会によるあっせん等を活用する。

2障害の種類別の配慮事項

1の基本的な留意事項に加え、障害の種類及び程度に応じて、例えば次に示すような事項に配慮する。

(1) 身体障害者

 身体障害者については、障害の種類及び程度が多岐にわたることを踏まえ、職場環境の改善を中心として以下の事項に配慮する。

イ 視覚障害者については、通勤や職場内における移動ができるだけ容易になるよう配慮する。また、視覚障害者の約60%を重度障害者が占めることを踏まえ、個々の視覚障害者に応じて職務の設計、職域の開発を行うとともに、必要に応じて、照明や就労支援機器等施設・設備の整備や、援助者の配置等職場における援助体制の整備を図る。

さらに、実態として、あん摩・はり・きゅうといったいわゆるあはき業における就労に大きく依存せざるを得ない状況にあることから、ヘルスキーパー(企業内理療師)や特別養護老人ホームにおける機能訓練指導員としての雇用等、職場の拡大に努める。

ロ 聴覚・言語障害者については、個々の聴覚・言語障害者に応じて職務の設計を行うとともに、設備の整備等により職場内における情報の伝達や意思の疎通を容易にする手段の整備を図る。また、比較的転職者が多く見られることからも、必要に応じて、手話や要約筆記のできる者を配置する等職場における援助体制の整備を図る。

ハ 肢体不自由者については、通勤や職場内における移動ができるだけ容易になるよう配慮するとともに、職務内容、勤務条件等が過重なものとならないよう留意する。また、障害による影響を補完する設備等の整備を図る。

ニ 心臓機能障害者、腎臓機能障害者等のいわゆる内部障害者については、職務内容、勤務条件等が身体的に過重なものとならないよう配慮するとともに、必要に応じて、医療機関とも連携しつつ職場における健康管理のための体制の整備を図る。

ホ 重度身体障害者については、職務遂行能力に配慮した職務の設計を行うとともに、就労支援機器の導入等作業を容易にする設備・工具等の整備を図る。また、必要に応じて、援助者の配置等職場における援助体制を整備する。

さらに、勤務形態、勤務場所等にも配慮する。

ヘ 中途障害者については、円滑な職場復帰を図るため、パソコンやOA機器等の技能習得を図るとともに、必要に応じて医療・福祉機関とも連携しつつ、地域障害者職業センター等を活用した雇用継続のための職業リハビリテーションの実施、援助者の配置等の条件整備を計画的に進める。

(2) 知的障害者

 知的障害者については、複雑な作業内容や抽象的・婉曲な表現を理解することが困難な場合があること、言葉により意思表示をすることが困難な場合があること等と同時に、十分な訓練・指導を受けることにより、障害のない人と同様に働くことができることを踏まえ、障害者本人への指導・援助を中心として以下の事項に配慮する。

イ 作業工程の単純化、単純作業の抽出等による職域開発を行う。また、施設・設備の表示を平易なものに改善するとともに、作業設備の操作方法を容易にする。

ロ 必要事項の伝達に当たっては、分かりやすい言葉づかい、表現を用いるよう心がける。

ハ 日常的な相談の実施により心身の状態を把握するとともに、雇用の継続のためには家族等の生活支援に関わる者の協力が重要であることから、連絡体制を確立する。

ニ 重度知的障害者については、生活面での配慮も必要とされることを考慮しつつ、職場への適応や職務の遂行が円滑にできるよう、必要な指導及び援助を行う者を配置する。

ホ 十分な指導と訓練を重ねることにより、障害のない者と同様に働くことができることを考慮し、知的障害者の職業能力の向上に配慮する。

(3) 精神障害者

 精神障害者については、臨機応変な判断や新しい環境への適応が苦手である、疲れやすい、緊張しやすい、精神症状の変動により作業効率に波がみられることがある等の特徴が指摘されていることに加え、障害の程度、職業能力等の個人差が大きいことを踏まえ、労働条件の配慮や障害者本人への指導・援助を中心として以下の事項に配慮する。

イ 本人の状況を踏まえた根気強く分かりやすい指導を行うとともに、ある程度時間をかけて職務内容や配置を決定する。

ロ 職務の難度を段階的に引き上げる、短時間労働から始めて勤務時間を段階的に延長する、本人の状況に応じ職務内容を軽減する等必要に応じ勤務の弾力化を図る。

ハ 日常的に心身の状態を確認するとともに、職場での円満な人間関係が保てるよう配慮する。また、通院時間、服薬管理等の便宜を図る。

ニ 職場への適応、職務の遂行が円滑にできるよう、必要な指導及び援助を行う者を配置するとともに、必要に応じて職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用も図る。

ホ 企業に採用された後に精神疾患を有するに至った者については、地域障害者職業センターや精神保健福祉センター等の活用により、医療機関や職業リハビリテーション機関との連携を図りながら、円滑な職場復帰に努める。

(4) その他障害者

 難病等の慢性疾患、高次脳機能障害等により長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者については、個々の障害の状況を十分に把握し、必要に応じて障害に関する職場の同僚等の理解を促進するための措置を講じるとともに、障害状況に応じた職務設計、勤務条件の配慮を行う。

第四.障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項

障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るに当たっては、今後とも社会全体の理解と協力を得るよう啓発に努め、ノーマライゼーションの理念を一層浸透させるとともに、この理念に沿って、障害者が可能な限り一般雇用に就くことができるようにすることが基本となる。この点を踏まえ、特に雇用施策に立ち後れのみられる精神障害者に重点を置きつつ、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を総合的に講ずることとする。また、厳しい雇用失業情勢の結果、障害者の解雇者数が急増していることにかんがみ、障害者にしわ寄せがいかないよう障害者の雇用の維持、解雇の防止及び再就職対策を強化し、以下に重点を置いた施策の展開を図っていくものとする。

1障害者雇用率制度の達成指導の強化

法定雇用率の達成に向けて民間部門、公的部門に対する指導を強力に実施するとともに、指導にもかかわらず一定の基準を満たさない企業については、企業名の公表を実施する。

この場合、必要に応じて、企業グループでの算定等新たな特例子会社制度の積極的な周知を図り、その活用を促す。

また、除外率制度については、職場環境の整備等をさらに進めつつ、今後、周知・啓発を行いながら、障害者基本計画の計画期間を目安の期間として廃止を目指すべく取り組むこととし、平成一六年度より段階的に縮小を進める。また、国及び地方公共団体の除外職員制度についても、除外率への転換を図るとともに、企業との均衡を配慮して、同様の方向で進める。

さらに、除外率設定業種における障害者の雇用状況を把握するとともに、除外率設定業種における雇用事例の収集・提供、職域拡大を図るための措置等を推進することにより、縮小していく場合の障害者の雇用促進につき、支援を行う。

2事業主に対する援助・指導の充実等

障害者雇用に関する好事例を積極的に周知するとともに、難病や高次脳機能障害等障害が多様化してきていることも踏まえ、障害者の雇用管理に関する先進的な知識、情報を提供すること等により事業主の取組を促進する。

また、平成一一年一月より障害者緊急雇用安定プロジェクト、平成一三年度からは障害者雇用機会創出事業として展開してきた試行(トライアル)雇用制度を活用し、障害者雇用の経験のない事業主に対しても、障害者雇用に対する理解を深め、障害者雇用に取り組むきっかけ作りを行う。

さらに、障害者の職業の安定を図るためには、雇入れの促進のみならず、雇用の継続が重要であることから、障害者や事業主に対する職場適応指導、きめ細かな相談・援助を行うとともに、各種助成措置を充実すること等により、障害の種類及び程度に応じた適正な雇用管理を促進する。

なお、障害者雇用納付金制度を適正に運営することにより、障害者雇用に伴う事業主間の経済的負担を調整するとともに、助成金制度を活用することにより障害者の雇用の促進及び継続を図る。

障害者雇用納付金の申告・納付並びに調整金、報奨金及び助成金の支給申請手続については、IT化を踏まえた申請方法等により、簡素化に努めることとする。

3障害者の雇用の維持、解雇の防止と再就職対策の強化

公共職業安定所において、在職中からの障害者に対する相談援助の実施、再就職に向けた相談援助の実施等の雇用支援の強化を行う。

また、官公需における障害者を多数雇用する企業及び障害者雇用率達成状況への効果的な配慮の方法について検討する。

4重度障害者の雇用・就労の場の確保

重度障害者の雇用の場を確保するため、助成金制度も活用しつつ重度障害者多数雇用事業所及び特例子会社の設置を促進するとともに、第3セクター方式による重度障害者雇用企業による雇用・就労の場の確保を図る。

また、授産施設等や特別支援学校から一般雇用への移行といった一般雇用に就くために特に支援が必要な場合については、移行前の段階から障害者のキャリア形成に配慮した処遇がなされることも念頭に置いて、職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用等福祉機関等との連携による雇用支援体制の整備に努めるとともに、職務の見直し、職域の拡大、施設・設備の改善の促進、障害者及び事業主に対する相談等の施策の充実を図る。

5精神障害者の雇用対策の推進

精神障害者については、福祉及び医療部門との緊密な連携の下に、障害者就業・生活支援センターによる就業面と生活面の一体的な支援、職場適応援助者(ジョブコーチ)によるきめ細やかな人的支援を含め、職業リハビリテーションの措置の的確な実施に努めるとともに、各種助成措置の活用も図りつつ、雇用の促進及び継続を図る。

さらに、障害者団体とも連携しつつ、精神障害者に関する好事例の収集・提供等により、積極的に啓発・広報を行い、事業主の理解の促進を図るとともに、医療、福祉関係者等に対しても、精神障害者の雇用に関する取組を促すための啓発を行う。

また、精神障害者を障害者雇用率制度の対象とするための検討を行う。そのため、当事者を含む関係者の理解を十分得るとともに、対象とする精神障害者の把握・確認方法の確立や採用後精神障害者の実態把握等、必要な準備を的確に講じる。加えて、採用後精神障害者については、職場復帰支援策等の支援施策の推進を図る。

6多様な雇用・就労形態の促進

短時間労働、在宅就労等の普及は障害者がその能力や特性に応じて働くための機会の増大につながるものであり、必要な支援、環境づくりに取り組むこととする。特に通勤が困難な重度障害者等を念頭に在宅就業においてITを活用するとともに、仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育成等支援策の充実等を図る。

7障害者雇用に関する啓発、広報

障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには、国民一人一人の障害者雇用や障害者の職業能力開発、技能の向上の重要性に対する理解を高めることが不可欠であることから、事業主団体、労働組合、障害者団体の協力も得ながら、事業主、労働者、障害者本人及びその家族や教育、医療、福祉に携わる者等を含め広く国民一般を対象とした啓発、広報を推進する。

8研究開発等の推進

障害者雇用の実態把握のための基礎的な調査研究を計画的に推進する。また、職業リハビリテーションの質的向上、職業リハビリテーションに関する知識及び技術の体系化、障害者の職域拡大及び職業生活の向上を図るため、障害の種類及び程度ごとの障害特性、職業能力の評価、職域拡大、雇用開発等の障害者雇用に係る専門的な研究を事業主団体等の協力も得て計画的に推進する。さらに、雇用の分野と福祉の分野との間の円滑な移行を確保する上での問題等障害者の雇用に関する今後の課題に関する研究を積極的に推進するとともに、障害者がIT機器を利用するためのソフト等の開発に努める。

また、難病等慢性疾患を含めた障害・疾患等について雇用管理に関する情報の収集、蓄積等に努める。

併せて、これらの研究成果については、十分に施策に反映させるとともに関係者に積極的に提供する等、その活用に努める。

9関係機関との連携

障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには、関係行政機関が密接に連携して、一般雇用に就くことを希望している障害者を把握するとともに、障害者が職業生活を送る上で抱える問題点について情報を交換し、人権擁護の問題も含め個別の問題について的確かつ迅速に対応できるようにすることが重要である。このため、都道府県労働局及び都道府県関係部局を中心に事業主団体、労働組合等の関係機関からなる都道府県障害者雇用連絡協議会及び公共職業安定所を中心に、地域における教育、福祉、医療機関等からなる障害者雇用連絡会議の開催や個別の事案への対応を通じて、障害者を支援する機関相互間の連携の強化を図る。

特に、知的障害者、精神障害者は、職場環境を始めとする環境の変化による影響を受けやすいこと、地域における社会生活面での配慮が不可欠であること等から、地域レベルにおいて、障害者就業・生活支援センターや地方公共団体、社会福祉法人、NPO等の民間部門との連携も図りつつ、生活全般に関わる支援を行うこととする。

さらに、重度障害者多数雇用事業所、特例子会社等において集積された障害者雇用のノウハウが広く活かされるような施策を進める。

このような点を踏まえ、障害者の職業生活に関わる社会環境を地域に根ざした形で、住宅、交通手段等も含め総合的に整備していくことが重要であり、これに対する援助措置の充実に努める。

10国際交流、国際協力の推進

アジア太平洋障害者の十年最終年会議で採択されたびわこミレニアムフレームワークに基づき、開発途上国に対する職業リハビリテーション分野の技術協力、先進諸国との間で障害者雇用に係る情報交換や関係者間の相互交流を進める等我が国の国際的地位にふさわしい国際交流、国際協力を一層推進する。


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