08/02/25 「安心と希望の医療確保ビジョン」第4回議事録 「安心と希望の医療確保ビジョン」第4回会議 議事要旨 1.日時、場所 平成20年2月25日(月)18:00〜19 :45 厚生労働省 17階 専用第18・19・20会議室   2.出席者 ・西川副大臣、松浪大臣政務官、辻本好子委員、野中博委員、矢崎義雄委員  (ヒアリング者) ・ 桑江千鶴子(都立府中病院産婦人科部長) ・ 中川恵一(東大病院緩和ケア診療部長、放射線科准教授) ・ 花田直樹(花田子どもクリニック院長)  ・ 山本保博(日本医科大学救急医学主任教授)  (事務局) ・外口医政局長、木倉医政局審議官、二川医政局総務課長、小野看護職員対策官、薄井政策統括官ほか 3.議事概要 【中川先生からの説明】 ・ 日本のがん死亡の減少を目指してということで、(1)がん教育、(2)がん検診、がん登録、(3)コメディ   カルスタッフの導入という、医師が関わるような医療そのものではない部分を強調したいと思う。 ・ 「THE WALL STREET JOURNAL」で日本のがん難民という記事が出た。人口10万人当たりのがん死   亡数の推移を見ると、95年を境に、日本では伸びているが、欧米では減っている。死亡診断書によ   り把握している数では、日本では3人に1人ががんで死亡しており、粗く見ても2人に1人はがんにな   る。日本はがん大国であり、その原因として高齢化が挙げられる。 ・ 年齢調整死亡率は減っているというが、これは今の48歳を50年前の48歳と同じと考えるものであり   難がある。がん死亡数そのものを目標に置くことも考えるべきではないか。 ・ 日本はがん大国であるが、がんの先進国とは呼べない。毎日新聞の世論調査では「緩和ケア」を知   らない者が72%もいる。 ・ 感染症については精密なデータがあるにもかかわらず、がん登録がないため、がんについては昨年   肺ガンになった者の数というのもわからない。国民もがん登録に否定的であり、毎日新聞の調査に   よると、「同意した時のみ登録する」と考える者が62%、「法制化すべき」と考える者は18%に留   まった。このような状況では科学的対策がたてられない。 ・ 日本人は死ぬつもりがなく、死生観を喪失しているため、がんについて耳をふさいでしまっている。   小学生372名に「死んだ人が生き返ることがあると思いますか。」と聞いたところ、「ない」と答え   た者は約3割に過ぎなかった。現在では約8割が病院で死亡しており、家で子どもたちが死を見る機   会がない。このような中でTVゲームやTV、映画等により死がバーチャル化されてしまったことが原   因ではないか。 ・ 日本人の宗教心は国際的には稀にみるほど希薄。この他にも都市化と自然の喪失、核家族化と病院   死、急激な長寿等で死が生活や意識がなくなったのではないか。 ・ 2人に1人ががんになるがん大国においては、学校教育の中でがんについて教えるべき。これにより   いじめや自殺を減らすこともできるのではないか。また、医療の限界を知り、医療を客体的に見る   視点が育てられると思う。 ・ 婦人科がん死亡率の推移を見ると下がっているように見えるが、子宮頸がんの進行期別5年生存率   を見ると、30年程前と変わっていない。死亡率を下げた原因は早期発見であり、治療法については   劇的な変化はない。 ・ がん検診受診率は、日本は欧米に比べ圧倒的に低い。欧米で死亡率が下がっているのは、がん検診、   がん登録、がん教育の影響が大きい。 ・ がんの完治には手術か放射線治療が必要であり、子宮頸がんには世界的に放射線治療が主に行われ   るが、日本では放射線治療が2割、手術が8割である。 ・ 現在、日本ではがん患者の25%が放射線治療を受けている(欧米では60%)が、10年後には50%に   なると予想される。つまり、日本人の4人に1人は放射線治療を受けることになるが、これを支える   専門医はたった542名。がん治療でも医療崩壊が起こりうる。 ・ 放射線治療には、医師と看護師の他にコメディカル・技術系の専門家が必要。米国では専門医5000   名、医学物理士は同数の5000名であるが、日本では専門医が542名、医学物理士が20人程度であり、  決定的に違う。これでは過剰照射事故の起こる危険性がある。 ・ 放射線治療学講座があるのは12大学(15%)であり、放射線治療の教授が不在の大学は6割以上。   文部科学省は大学の自治と言うが、医療の供給システムとして大学教育をきちんと考えるべきであ   る。 ・ 現在、医師が最も安価な労働力として夜中に薬やカルテの運搬係もこなしている。こういった状況   を変えないと高度な医療は支えられない。 【質疑応答】 ○ 野中委員 (1) 専門医が少ないということだが、専門医をどうやって育てるべきか。 (2) 東大で治療を行う中で、患者の地域での生活のサポートのためにどういった取り組みをされている   か。現在は、在宅ケアが充実していないために患者が病院にとどまることになっていると思うがど   うか。 ○ 中川先生 (1) 非常に難しいが、講座、教授がいないといった制度上の問題に加え、どういうインセンティブを若   い医師に与えるかということが非常に重要。 (2) 緩和ケアにおいて在宅ケアは非常に重要。開業医にもっとがんを診て欲しい。がん医療は急性期医   療であるとともに慢性期医療でもある。慢性期医療の部分を開業医には支えて欲しい。 ○ 矢崎委員 (1) 医療を政策的に進める際に、基礎となる医療データが非常に少ない。がんに関する登録は最近進ん   でいるにせよ、まだまだ乏しい。 (2) 中曽根内閣の際、がん撲滅10カ年計画を立て、現在は3期目だが、今日取り上げられたような問題が   視点に入れられていなかったのは政策の問題なのか。それとも先生方の情報発信が少なかったのか。 ○ 中川先生 (1) 登録は避けて通れない。日本人はがん登録に心理的抵抗があるようだが、世界一のがん大国におい   て、がんに対しどう立ち向かうかというのは日本人の資質が問われていると思う。死を見ようとし   ないことにより、日本人はがんに対する知識がないが、学校教育等により知識を増やすべき。 (2) 私を含め医療側にも反省すべき点があるが、死生観の喪失というのが、行政、医療者、患者に共通   して言える原因ではないか。 ○ 辻本委員 (1) 開業医にがんを診てほしいとのことだが、放射線治療というのは精密な機械、しっかりとした設備   が必要であり、扱える医療機関は限られるのではないか。 (2) インセンティブについては、給料が上がれば良いというわけではない。やりがいのある仕事の環境   作りが重要ではないか。 (3) 教育については、教える人材がいない中、中高生にどうやって教えていくべきだと思うか。 ○ 中川先生 (1) 放射線治療を行う施設は全国で700カ所であり、専門医が542名と言うことを考えると、既に足りて   いない。フリーアクセスとの関係で議論になると思うが、限られたリソースの中で考えると、セン   ター化して集中させることが必要。世界的にもそれが標準的である。開業医に診てほしいというの   は、慢性期のことであり、最初の治療には高度医療が必要。 (2) インセンティブについては、医師が医療に集中できるように、医師を支えるスタッフ、システムを   整備するべき。 (3) 教育については、別に東大教授が授業しなくても良い。学校の先生の教育の中に死生観の教育を取   り入れ、学校の先生に教えてもらえればよい。 ○ 辻本委員 ・ 地域の中の、がん患者の方に体験談を語ってもらうというような方法はどうか。 ○ 中川先生 ・ それは最高の方法だと思う。 ○ 西川副大臣 ・ 先日、墨田区のホームケアクリニック川越に視察に行き、患者や遺族の方にも来て頂いた。その際、   川越先生があっけらかんと「死ぬ」という言葉を出していて驚いたが、本来死とはそういう存在な   のだと思う。また、看護師の方も非常に大きな力を持っていた。緩和ケアでは医師が抱え込むと良   くない。看護師の活躍がポイントになる。 ・ 若い医師は楽な科に行ってしまう。これは、本当に選ぶチャンス、やりがいに目覚めさせるような   チャンスが研修制度にないからではないか。それさえあれば、楽に偏ることはないと思う。 ○ 中川先生 ・ 緩和ケアはナースが中心であり、医師は最後の責任を負うという形で良い。世界的にもおそらくそ   れが標準的である。 ・ 真の意味でのインセンティブについては研修制度の中でどのようにそういったきっかけを作るかと   いうことだと思うが、放射線科についてはチャンスが少ない。また、医師の足りない部分について   は、強制力をどう働かせるかということも問題である。今までは計画的に手当をするということを   してこなかった。医師の職業選択の自由と絡む問題ではあるが非常に重要である。 【桑江先生からの説明】 ・ お産は人類が2足歩行となり、大きな頭から生まれるようになったことから危険なものとなった。   妊産婦死亡率は、アフガニスタンのようなところでは2%、世界平均では10万人中400人という割   合である。これに対し日本は10万人中5人という割合であり、お産については世界で最も安全な国   である。 ・ 妊産婦死亡率は1960年に激減し、現在では交通事故の死亡率と同程度である。これは施設内分娩が   進んだことの影響が大きい。現在日本では52%が病院、47%が診療所、1%が助産所で出産する。 ・ 50年間の間に日本の分娩数は半減したが、母胎死亡は約1/80、新生児死亡は1/40に減少。人工妊娠   中絶は減少したが、いまだ年間約30万件ある。これに対し、早産や超早産、低出生体重児が増加し、   超低出生体重児は約30倍に激増、高齢妊婦は約2倍に増加している。分娩は安全にはなったが、ハ   イリスク妊娠は増加している。 ・ 日本の妊産婦死亡死因の1位は出血であり、常に出血との戦いである。250人に1人はお産の時に超   ハイリスク分娩の危険性があり、これを国の政策で助けていくべき。 ・ 分娩体制については、その国の文化が現れ、スウェーデンのように病院で100%出産するところも   あればオランダのように自宅が主流のところもある。日本は先にも述べたとおり独自の体制をとっ   ている。分娩費用については、アメリカはかなり高額であるが日本は低額。実際にかかる費用は約   51万円であるが都立病院での平均費用は約29万円であり、22万円が病院側の持ち出しという厳しい   状況である。 ・ 産婦人科における医師の男女比を見ると、20代は4人中3人、30台は半分が女性医師であり非常に女   性が多い。しかし、男性は8割以上が分娩を実施するのに対し、女性医師では、11年目になると約   45%ととなり、およそ半分程度に落ち込む。 ・ 産婦人科専門医に対するアンケートでは、現在の就労状況を見ると、大学病院及び病院で勤務する   者が約8割、病院又は診療所でのパート勤務は1割だが、5年後に希望する就労状況を見ると、パート   勤務は2割に増え、大学病院での勤務が大幅に少なくなっており、将来に不安を感じる。 ・ 継続するために一番重要と思われる項目は「多様性のある就労条件」が一番多く、配偶者や、上級   医師の理解と協力というのも多い。 ・ 産婦人科臨床現場の3つの問題として(1)劣悪な労働環境と待遇(2)医療事故と訴訟への恐怖   (3)医療者への暴言、暴力(モンスターペイシェント)の存在がある。   (1) 連続36時間勤務は当たり前だが、その割に賃金は低い。ただ、お金があれば良いというので   はなく、やはり休みたいという声が大きい。   (2) 全力を尽くしても刑事に発展。萎縮医療、立ち去り方サボタージュにつながる。   (3) モンスターぺイシェントが1人いると、説明に長時間を要し、若いドクターが誇りを保てな   くなり疲弊してしまう。 ・ 待遇改善のための取り組みが都立病院でも行われ、最低レベルにあった待遇が、全国で中程度まで   改善した。臨床現場と行政がタイアップして実現したこと、行政が応えてくれたことが非常に嬉し   かった。秋田県では妊婦検診の無料化の試みがなされ、飛び込みの分娩がほとんどなくなった。産   婦人科医師確保に成功した病院としては、(1)研修内容・待遇等を改善した亀田総合病院や都立府中   病院、(2)女性医師対策を進めた厚生年金病院、(3)オープン病院の試みを行った愛育病院等がある。 ・ 私が仕事を続けられた条件としては、家族の健康や、両親が近くに住んでいたこと等があるが、近   くの家族に変わる社会的資源が絶対的に必要であると考え、日本産婦人科学会内に「女性医師の継   続的就労支援のための委員会」の設置を提唱した。 ・ 男女とも長時間労働を前提とする条件で考えると、家事もアウトソーシング、育児も2重保育、3重   保育ということになるが、これでは費用がかかり、殺伐とした家庭になってしまう。男女とも長時   間労働を前提としない場合を考えると、家事は一部をアウトソーシングし、育児は昼間に保育施設   を利用し、稀に24時間保育を利用する程度ですむ。 ・ 男女ともに働きやすい体制を考えると、第1に長時間労働の改善、すなわち交替勤務制の導入が必   要である。そしてそれを可能とするだけの医師の定数を確保する必要がある。また、完全主治医制   を見直しチーム医療を行い、患者情報を共有することが重要である。プロ意識の熟成し、病院にい   る時間は真剣に勤務するが、後は休みという意識をもち、ワークライフバランスを推進する必要も   ある。 ・ 意識改革として、女性医師に支持される病院は患者増、分娩増で発展するという視点を持つことや、   妊娠出産による一時的な撤退はたかだか4ヶ月程度であり、研修による投資時期と考えること、女性   医師と一緒に働くことに慣れること等を提案したい。我々は甘やかされたいわけではなく、普通に   働きたいだけである。 ・ 助産師、看護師との連携も非常に重要である。医師と看護側は車の両輪でありチーム医療の一員で   あるという意識でいるべき。将来は医療行為であれば結果が悪くても司法に裁かれなくなることを   前提として、助産師との協力も進めていくべき。産婦人科医師や助産師不足の解消には時間がかか   るが、周産期専門の認定看護師制度などもつくってほしい。 ・ 産婦人科女性医師の願いは、仕事の上で誰の犠牲の上にたつことなく、自分の人生を生きる時間を   持ち、子どもの成育を損なうことなく、医療の質を落とすことなく、母性の発現を妨げることなく、   経済的自立をするに十分な報酬を得て、継続して仕事に打ち込め、医学の進歩や社会への貢献がで   きるような労働環境を整備することである。 【花田先生からの説明】 ・ 岡崎市民病院は人口34万の医療圏に3次救急を受け持つ唯一の医療機関であるが、小児軽症患者の   夜間の受診が増え、市民病院救急外来の3次医療に支障が出てきていたため、小児の一次救急の受   け入れ体制の検討を行うこととなり、平成15年7月に小児救急医療体制整備に係る意見交換会を開   催した。 ・ 開始当時の参加開業医は14名であり、40〜60代が中心であったため、開業医で一次救急を担う体制   をつくっても、10年後維持していけるのかという不安があった。現在はさらに高齢化が進み、2名   が高齢を理由に抜けた。しかし大学からの医師の派遣が可能となったため夜間急病診療所に小児科   医を交替で配置し、午後8時から11時に診療を行うことができた。 ・ 夜間急病診療所の小児科受診者数の推移を見ると3000人程度増加しているが、市民病院の午後8時か   ら11時の救急外来小児科受診者数の推移を見ると500名程度しか減っておらず、結果的に患者の掘り   起こしになってしまっていた。平成16年には岡崎市小児救急医療対策協議会を設置し、その点を話   し合い、患者教育、啓蒙・啓発活動を行うこととなった。 ・ 夜間の小児患者のうち、風邪のような症状の者が6割であるといった状況からも、休日や夜間など   に子どもが急に具合が悪くなった場合の対応について、熱、嘔吐、下痢などの場合ごとにフローチ   ャートを用いて説明するガイドラインを作成した。さらに啓発のためのフォーラムの開催や、広報   番組の放映、各保育園、幼稚園や子育てサークルなど保護者が集まる機会などに出張して啓発を行   う出前講座の実施等様々な取り組みを行った。 ・ しかし19年度の出前講座のアンケートでは、「夜の方が混んでいないので、夜に受診しようと思っ   た」「夜間働いている保護者の場合、救急医療機関を利用するのはしかたがないと思った」「やは   り心配   なのでまず救急医療機関を受診すると思った」と答えたものも200名程度おり、多いと見るか、少な   いと見るかは考えようではあるが、昼も夜も境目のない医療が強いられている。 ・ 兵庫県の柏原病院では、母親たちが小児科を守る会を立ち上げ、夜間の受診が半分に減った。母親   たち自らが活動を始めたというのが非常に素晴らしい。こういった取り組みが全国に広がって欲し   い。 ・ 現在の小児医療の問題点は(1)不当な診療報酬の低さとフリーアクセスによる患者数の多さ、(2)病院   小児科勤務医の減少、(3)乳幼児医療無料化と救急外来のコンビニ化、(4)訴訟リスクとクレーマーで   ある。 (1) 診断・手術等の技術に対する診療報酬が少なく、数で採算をとる体系になっている。 (2) 検査、投薬が少なく不採算な分野であるため、診療科等の閉鎖に追い込まれる場合もある。 (3) 労働基準法を無視した体制がとられ、立ち去りや鬱が発生し、残った医師の負担が更に増えている。 (4) 救急医療でも司法においては最高の医療レベルが求められており、手薄な体制で対応をしてミスを   すると訴訟となるため、受け入れを避けることになってしまう。報道の影響から、最初から医療不   信に満ちた言動を浴びせられ、やる気を失う者もいる。 ・ これを解決するためには、(1)診療報酬を上げ、人員の確保を行う、(2)市町村での乳幼児や小学生、   中学生等の医療費の無料化のため不必要な受診が生まれているため、助成をなくして相応の負担を   させる、(3)3次救急を圧迫するフリーアクセスを原則禁止にする、救急車を有料化する、(4)患者や司   法の理解を促す、といったことが必要だと思われる。 ・ 限られた財源・人員の中でどこまで求められるのかということについてコンセンサスが必要。警察   や裁判所の判断が食い違う場合には問題にならないのに、なぜ医療だと誤診として罪にとわれるの   かという現場の声もある。 【山本先生からの説明】 ・ 救急出場件数が約570万であるのに対し、搬送人員数は470万〜480万であり、9%が現場に行っても   患者がいない状態である。(理由は辞退、いたずら、酩酊していた等) ・ H7〜8年から搬送件数が非常に増えている。救急車の現場到着所要時間も15年間に5分半から6分半に   のびている。心停止状態では1分で10%生存率が下がるためこれは大きい。救急車の収容時間数も30   分以上になっている。 ・ 高齢者の救急搬送が多くなっている。高齢者の独居化等により救急需要はさらに増大すると考えら   れる。 ・ 救急告示医療機関の年次変化を見ると、救急診療所は非常に減っており、病院も減ってきている。   このため、活動している2次、3次救急医療機関に患者が集まり、より医師が不足することになる。 ・ 医師の勤務時間は、病院で70.6時間、診療所で55.2時間。これに対し、ヨーロッパでは皆平均50   時間以下であり、平均40時間を割っているところもある。 ・ 都道府県別に見た二次輪番救急医療施設における当番日毎の患者の受け入れについては、都道府県   間で大きな差が出ており、受け入れが1台未満のところもある。 ・ 救命救急センターの医師の当直回数は1ヶ月当たり6回以上7回未満が最も多いが、当直の次の日も   通常勤務といったところが非常に多く問題である。 ・ 救急専従医師の必要数は約5000名であるが、現在は認定医を含めても約2500名しかいない。仕事に   追われ、論文数なども明らかに減っている。 ・ 救急医療の標準化を推し進めることも非常に重要。心疾患については一般市民によるBLSとAED、救   急室でのICLS、ACLS、外傷については救急隊員によるJPTEC(Japan Prehospital Trauma evaluat-   ion & care)、救急室でのJATEC(Japan Advanced Trauma evaluation&care)、脳卒中については   救急隊員によるPSLS(Prehospital Stroke Life Support)、救急室でのIPLS(Immidiate Stroke  Life Suppo-   rt)という形で標準化している。 ・ AEDについては当然の心停止での生存率が3.8%であるのに対し、一般市民がAEDを使用した場合の   生存率は31.1%であり、これほど効果が大きなものはない。 ・ 救急医療の現状の問題として、救急医療患者の増大、高齢化による慢性疾患医療、終末期医療の需   要の増大により、初期2次救急の地盤沈下が起きていること、また、訴訟の増大により救急医の士   気が低下し、勤務時間の短い診療科への頭脳流出が起きていることがあげられる。 ・ 必要な対策としては、かかりつけ医の機能を発揮させること、適切な救急車、救急診療の使用につ   いて啓蒙活動を行うこと、医療機関の連携を進め、高度専門医療を実施できる体制を適切な労働環   境で構築することがあげられる。 ・ 2次救急病院は医師不足であり、萎縮医療等で救急患者受け入れを制限する傾向がある。その結果、   救急救命センター勤務の医師はより過重労働を強いられる結果となっている。医療は医師と患者の   共同作業であるという観点から住民への啓発が必要であり、救命救急センターに人的、財的資源を   集約し、高度な医療を常時、適切な労働環境下で提供できるような体制の構築が必要である。 【ディスカッション】 ○ 野中委員 (1) 府中病院のある地域ではお産の頻度はどれくらいあり、病院の産科医でどれぐらいのお産を担える   かということをある程度考えているのか。 (2) 小児救急患者の発症時間はいつ頃なのか。 (3) 救急告示医療機関と高度の救急医療機関とでは役割が違う。役割分担を明示することが必要だが、   日本医大、地域の医療機関の連携はどうなっているのか。トリアージをどうしているのか。 ○ 桑江先生   日本では年間110万の分娩があるが、産科医は8000人弱であり、最近では7500人にダウンしている。   安全に分娩を取り扱えるのは1人当たり120分娩までであるが、現在は1人で300〜400分娩頑張って   取り上げている医師がいるということ。日本全体でそもそも産科医が足りない。多摩では人口10万   人あたり分娩は3万何千くらいある。高齢で辞める診療所もあり、都会でもお産難民がある。ベッド   数にも限りがあり、待ち時間が長くなる。診療所の跡を継ぐ者も少なく5年後が想像できない状況で   ある。 ○ 花田先生 ・ 詳細なデータがないので印象で話すが、その日の夕方から熱が出たというのが多い。中には午前中   に医師に診てもらったが、不安だったのでもう一度来たという方もいる。稀に、3日前から熱があっ   たとか、昼間仕事に行っているから夜来たという人もいる。 ○ 山本先生 ・ 救急告示医療機関と救急救命センターの連携については色々な形があると思うが、ER的に一度皆を   集め、そこから地域の先生方のところに回すという仕組みがあっても良い。地域でトリアージを行   って、3次へあげるという流れもある。このように地域によってERから下へ向かう搬送形態と、地   域の医師から上に向かう搬送形態があると良い。 ・ トリアージの概念には以下の3つがある。 (1) コールトリアージ(指令室でのトリアージ) (2) 現場での救急救命士、救急隊員によるトリアージ (3) 病院の中でのトリアージ     (1)について、都では救急相談センターに24時間医師を配置して対応している。 ・ 問題はアンダートリアージをどう考えるかということ。胸が痛いという患者で、家に帰した者の中   に実は心筋梗塞だった者をゼロに近づける努力はしてもなくなりはしない。何人に1人なら許される   のかというのも非常に難しい。しかしこれにコンセンサスがないといけない。 ○ 矢崎委員 ・ 今、無過失補償制度が検討されているが、現場の感覚として、本当にこれで訴訟が減ると感じるか。 ・ 病院における産科、小児科、救急の位置づけを見ると、個室料や他の診療科の黒字でまかなってい   る状態。このような不合理な体制を変えていかないといけない。インフラ整備が整わないうちに、   少子化対策の名の下に小児医療の無料化といった対策が打たれ、救急外来のコンビニ化が生じてい   る。公共財という面を持つ、限りある医療資源をどう効率的に使うかということには、国民的なコ   ンセンサスが必要であるが、政策的な検討もしてほしい。 ○ 桑江先生 ・訴訟が減るかというと中々難しいと思う。補償額が2500万から3000万であるが、訴訟で求められる額   を見ると1億6700万というものもあり、これと比べるとあまりに少ない。また、周産期の処置がらみ   で脳性麻痺が生じることはかなり少なく、周産事故なくして脳性麻痺のお子さんが生まれる方も多   い。この方たちが救済の対象にならないのではないかという疑問もある。また、超低体重児が蚊帳の   外に置かれてしまい、助かる子がいても、一部なのではないかと思う。出産一時金が35万円に増えた   が、自治体病院はこれを超えるお金を取りにくく、分娩費用を上げられない。訴訟かつ赤字となれ   ば、特に男性医師は入りにくいと思う。 ○ 松浪政務官 (1) 中絶がまだ多いというが、避妊の教育だけで減るものでもない。以前お世話になったホストファミリ   ーは養子を2人とっていて、誰も血のつながっていない家族だったが、素晴らしい家庭だった。どう   すればアメリカのように宗教的にならずに中絶を防げるか。 (2) 救急車による搬送が増えているが、不適切な利用に対する罰則や、お金を取るといったアイデアをど   う考えるか。 ○ 桑江先生 ・ 中絶は年間30万件あり、医師としてもやりたくない仕事である。今の若い人は自分の健康、特に婦人   的な知識がびっくりするほど少ない。生理が止まると妊娠ということを知らない人さえいる。日本は   実子主義であり、養子のハードルが非常に高い。ハードルを下げれば救われる子どもが多くいるので   はと思う。性教育についても中々広がらず、ピルについても手に入りにくいため、女性の持つ避妊の   手段が少ない。 ○ 山本先生 ・ いい対策がないというのが現状。リピーターも多く、50回以上救急車を呼ぶ者も10%程度いるのでは   ないか。独居老人が寂しさを紛らわせるために救急車を呼ぶことも多い。民生委員や消防が、何もな   いときに独居老人の自宅に行って、啓蒙を行うことで救急車の出動回数が減ったという事例もある。   有料化をすると、義務、責任等色々な問題が出てくる。どのように金額を設定するかということも難   しい。啓蒙は大切だが、これはドクターがやることではなく、消防庁がやることなのではないか。 ○ 西川副大臣 ・ インフラが整っていない中で、少子化対策としてどんどん政策を推し進め現場に混乱を招いていると   いうのは痛い指摘であるが、本当にそうだと思う。食の安全については、消費者と提供者側が向き合   う意識が少しできてきたと思うが。医療に関しては、患者側の意識が育っていない。救急搬送につい   ても3回以内で病院に運べるケースが97%であり、残りの3%が国民に告げられてしまっている。医療   側と患者側が一緒に向き合って考えないと不毛な議論になってしまうと思う。 ○ 辻本委員 東大の医学部生に小児科、産科の希望について聞いたら、絶対に嫌だと力んで言った。これが現状である。 (1) 岡崎市で小児救急の組織を作ったときに何が最も困難だったか。 (2) 啓発活動により、患者の受診行動が変わったか。 (3) 依然として該当者のいた、コンビニ化の原因となる3つの行動パターンについては今後の取り組みの   予定はあるか。 ○ 花田先生 (1) 開業医の年齢が高く、10年先にどれだけできるかが不安だったため反対意見も出て大変だった。大学   の協力が得られてなんとか活動が実現した。 (2) 取り組み開始から4年弱であることを考えると、アンケート結果についてはそれを多いと見るか、少な   いと見るかは考え方による。患者を見ていると、熱が出てというのが一番多く、たちが悪いケースは   あまりない。患者教育というのもこういったことを踏まえて行うべき。(先ほどのフローチャートな   ど。)出前講座やフォーラムで少しはわかってもらえたと思う。 (3) 医療資源が有限であることや医療費の問題を考えると、小児医療の無料化は考え直すべきではないか   と思う。